マニアックなレンズを安価な中古ミラーレス機に組み合わ
せて楽しむというシリーズ記事、第37回目。
まず、このシステムから。

カメラは「孤高のKマウントミラーレス」PENTAX K-01
AFの精度・速度に課題を持ち、かと言ってMF操作でも
その仕様・操作系上の問題により、ピント合わせ全般に
致命的とも言える弱点を抱える。
しかし、そのエレガントなデザインや、エフェクト母艦と
しての優れた仕様や操作系等、欠点ばかりのカメラと
言う訳ではなく、なんとか欠点を相殺するレンズとの
組み合わせを模索中である。
ちなみにK-01の中古購入価格は、19000円程と
安価であった。
これまでこのカメラに組み合わせたAFレンズに関しては
KAfマウント、すなわちPENTAX旧来のFAタイプ又は
他社PANTAX対応AFレンズを使用していたのであるが、
K-01のボディ内モーターでは、限界があると見て
今回はKAf3マウントのSDM対応レンズを使用してみる。
PENTAX DA★55mm/f1.4 SDMである。

本レンズを購入したのはごく最近であるが、発売は2009年と
少々時間がたっている。これが高性能レンズである事は
知っていたが、なにせ価格が高かった。例えば私の所有して
いるFA50mm/f1.4は、スペックだけ見れば大差ないが、
その購入価格は僅かに14000円であった。
対してDA55mm/f1.4は、新品で7~8万円、中古でも
5~6万円もしていたのだ。
PENTAXは銀塩時代のFAレンズを、デジタル時代のDA
レンズにおいて焦点距離の置き換えを良くやっている、
例としては、銀塩時代の魚眼ズームレンズ F17~28mm/
f3.5~4.5は、DA10~17mm/f3.5~4.5としてリニューアル、
同様にFA28-70/4 は、DA16-45/4といった感じで、
だいたい画角を銀塩時代と同等とする為に、APS-C専用
DAレンズでは焦点距離をFAの1.5~1.7分の1としている。
1990年代の銀塩時代のPENTAXにはFA★85mm/f1.4という
名レンズが存在したが、2000年前後にFA77mm/f1.8Limited
と置き換わるように姿を消してしまった。
優秀なFA★85/1.4を何故で生産中止にしたのか?と当時は
疑問に思ったのだが、仕様も撮影目的(ポートレート用)も
似通っていて、定価も確か97000円と98000円と、同じような
ものであったので、ラインナップの整理をしたのであろう。
(まあ、FA77/1.8もFA★85/1.4に勝るとも劣らない名レンズ
であるし)
しかし、その後FA★85/1.4は中古市場で非常に人気が
出てきてプレミアム相場となり、2016年現在において
約11万円ほどで取引されている。
で、デジタルにおいて、このFA★85mm/f1.4と同等の画角を
得られるように新たに設計されたのが、DA★55mm/f1.4
という事であり、両レンズの設計者は同じ人のようだ。
まあ、それはそれで良い話なのだが、私は、FA★85/1.4は、
1990年代に43000円で中古購入してあった、それがあるのに
DA★55/1.4を、それより高い値段で買うのはどうか?とも
思ったのだ(それを言えば、FA★85/1.4の中古相場の高騰
そのものが、どうにも納得の行かない話なのだが・・)

で、近年まで中古相場が5万円以上していたDA★55/1.4だが、
2015年末から、何故か相場が急落、これは、もしかすると
「PENTAX フルサイズ一眼開発中」(後のK-1)の情報が入って
きた為、APS-C専用のDAレンズを手放す人が増えたから
かも知れない。
で、DA★55/1.4は、私の拘りであった「FA★85/1.4
取得価格以下」の条件、すなわち43000円を切ったので、
ついに購入、購入価格は税込み42000円程であった。
描写力はFA★85/1.4と同等(相当)との事だが、どうだろう?
ちょっと傾向が異なるようにも思えるが、まあ、それはともかく
ボケ質、開放からのシャープネス、いずれも文句なく、さすが
高性能を謳ったレンズである。
でも、私の今回のケースでは、描写力そのものは、実はあまり
拘りはなくて、もしこのレンズがイマイチであったとしても
必要とあらばFA77やFA85を持ち出せば良いだけの話であった。
けど、思っていたよりも良いレンズなので、これはちょっと嬉しい
誤算。
今回私が一番問題としていたのは、K-01との相性だ。
KAf3タイプのレンズは、SDM対応と呼ばれているPENTAXの
新しいデジタル一眼でしか動作しない。K-01はミラーレス機では
あるが比較的新しいカメラなので、一応SDMレンズに対応している。
で、K-01の遅いAFが、嘘のように快適に動作するでは無いか!
これも嬉しい誤算だ、この分ではK-01のメインレンズはもう
このDA★55/1.4で決まりかな?

あえて課題を上げるとすれば、SDMレンズは超音波駆動方式の
モーターという意味なのだが、その動作音がうるさい事だ。
本来、超音波だから、20KHz以上の耳に聞こえない高周波の
はずなのに、K-01のシャッターを半押ししてAFを動作させると、
「チーッ」という可聴域の高周波音が耳につく。
撮影のたびに、毎回毎回「チーッ」と言うを聞かされていると
なんだかイライラしてくる(私の場合、元音響エンジニアで
病的にまで音に敏感なところがある、一種の職業病であろう)
で、うるさいからといってMFに切り替えると、今度は、K-01の
壊滅的なまでのMF性能だ・・(汗)
まあでも、それは良い、あまりに気になるのであれば、
いつも持ち歩いているポータブルオーディオで音楽でも鳴らし
耳栓代わりにすれば良い。
その1点を除き、後は特に本レンズに不満は無い、
4万円前後で中古購入できた高性能レンズとして、今後も長く
使い続ける事であろう、私はフルサイズ機には拘りは無い為、
1台も所有していないし、今後も特に安価にならない限りは
購入しないであろう。で、もしそれを購入したとしても
銀塩時代から使っているレンズがいくらでもあるので、
特に困る事は無い、むしろ、皆がフルサイズ機に走ってくれて
APS-C機専用レンズの中古相場が安くなってくれるほうが
よほど嬉しいのだ・・
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さて、次のシステムは、かなりのマニアックなレンズだ。

カメラは FUJIFILM X-E1、FUJIの初期のミラーレス機であり、
こちらもK-01同様にピント精度や、操作系全般に課題を抱える。
とは言え、後継機でも、操作系の改善は微々たるものなので
買い替えする気にはなれず、本機は、値段が安かった事を
取りえとして、使い潰すつもりである。
レンズは、ロシアンレンズである。
Телеар-Н 200mm/f3.5と書いてあるが、キリル文字
なので、これをアルファベットに直すと TELEAR-N となる。
最後のNはニコンマウントの意味、ただし、KIEV系マウント
である可能性も高く、ニコン機に直接装着するのは危険である。
(装着する機種によっては、外れなくなったり、マウント破壊の
リスクもある)
本レンズは、2000年ごろに、ロシアレンズの中古を7本まとめて
2万円で購入した「ロシアン福袋」(笑)の1本だ。
一応3000円程度の購入価格としておこう。

まあ、望遠レンズである(換算300mm相当)ので、遠くから
被写体を撮るのは一応セオリーだ。
しかし、何か様子がおかしい、レンズを外して調べてみると
絞りが動作していない(開放のまま)ではないか(汗)
まあ購入時点でも、あまり魅力的なレンズではなかったので、
ちゃんとテスト撮影をしていなかったかも知れないし、
15年以上放置していたので、その間に絞りが硬化して
しまったのかも知れない。
まあ故障していても良い、どうせジャンクレンズだ。
けど、ジャンクにしてはそこそこ写るではないか。

本レンズに似たスペックとしては、コニカAR200/3.5がある、
(第21回記事で紹介)そのレンズもそこそこ良く写ったが
大きく重い事が難点であった、本レンズはAR200/3.5より
一回り小型であり、まあ、ぎりぎり持ち歩ける程度である。
で、絞りが故障で動作しないため、例の「ボケ質破綻回避」
の為に絞りを使う事ができない、なので、できるだけボケの
関係無い平面的(等距離)被写体を中心にしてみよう。
けど、本来200mm級の望遠で金属質や建築物などを平面視点
で撮る場合、絞りを少し絞って f5.6~f8とするのが基本だ。
これは、そのあたりの絞り値でレンズの描写力(解像度)が
上がるのが理由であるが、それも出来ない。
幸いf3.5と暗いので、シャッター速度オーバーにはなりにくい、
X-E1は最低ISOが100と低めなので、その点でも大丈夫だ。
ちなみに、X-E1でAUTO ISOを使う場合は、ISOが上がる
最低シャッター速度を設定できるのが長所である。
例えば200mm望遠レンズを使用する場合、1/30秒では
手ブレ必至だ(X-E1にはボディ内手ブレ補正機能は無い)
そんな場合は、最低シャッター速度を1/125(またはそれ以上)
に設定しておけば、それを下回ると自動的にISO感度が上がる。
(これは望遠+AUTO ISOでは必須の操作系仕様だが、何故か
これを搭載しているメーカーは多くは無い)
ただし、X-E1のAUTO ISOは200~上限(例:6400)までの
範囲しか動かず、せっかくの100~25600の感度可変範囲が
AUTO ISOでは活かせていない。またISO設定は、Fn1ボタンに
のみ、割り振る(アサインする)事ができるが、モードを
色々変えると勝手に別の設定に変わってしまう事がある。
よって、いちいちメニューからISO設定を呼び出す事となるが、
そのメニュー位置が記憶されないという考えられない操作系と
なっていて大いに不満だ。まあ、もっとも、毎回メニューの
先頭に戻ってしまうのが、そこがISO感度調整なので、偶然
使えるようにはなっている。このあたりの操作系は未完成機
であるので、しかたがない。このくらいでキレていたら
このX-E1には、もっと酷い操作系が、まだいくらでもあるので、
ストレスになってしかたがない。
でも、X-E1を使い潰す必要があるし、ややこしいレンズを色々
と使って限界性能を試す意味もある。ちなみに、ピーキング
機能はあまり性能が良く無いので、ピント合わせはやや困難、
(なお、拡大操作系は、致命的なまでに劣悪なので使えない)

TELEAR 200mm/f3.5の最短撮影距離は、1.6mとそこそこ
優秀だ。(200mmレンズとしては標準の最短は2mである)
よって、撮影倍率を高めた望遠マクロ的な撮影も若干できる、
背景の絵柄によっては、ボケ質破綻が出やすいケースだし、
絞りが故障しているので、撮影距離や背景を変えない限り
ボケ質破綻が回避できないが、このケースでは、何も工夫を
しなくても、比較的良好なボケ質が得られた。
総合的には、ロシアンレンズなので、まあこんなものであろう。
MIR-24(35mm/f2)のように優秀なレンズであるとは思えないが
コスパは悪くない。
7本で2万円と安価に購入できたのは、2000年前後という
当時は第一次中古カメラブームが収まってきていたからだ。
中古ブームで、ロシアンレンズも集めた好事家が誰かおって、
その人が手離したものであったのだろう。
近年、ミラーレス機の登場で、第二次中古レンズブームと
なっていると思われるが、約20年前の第一次ブームを知らない
人達ばかりになっている。その為、ロシアンレンズを非常に
高価な価格で取引するケースもあると聞くし、新古品在庫が
恐ろしく安価に発売されている事もある。しかし、珍しいから
という理由で安易に手を出す前に、その実力や長所・短所や
適切な相場はちゃんと把握しておく必要があるだろう。
(本シリーズでも過去何本かのロシアンレンズを紹介している、
第6回、第11回、第14回、第26回、第29回、第32回記事を参照)
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さて、次のシステム

カメラはお馴染みアダプター母艦 LUMIX DMC-G1である。
他のカメラを使っていて、本機を使うと、その優秀なMF操作系
にほっとする、これでピーキング機能がついていれば申し分
無いが、それがついているG6以降、GX7以降では、操作系が
若干改悪されてしまっているのが難点だ(それでも優秀だが)
レンズは、PENTAX M40mm/f2.8である。
本レンズは、PENAX MX(1976年)と同時期に発売された
レンズであり、私は1990年代に中古購入し、同じく中古で
購入したMXと組み合わせて楽しんでいた。小型軽量のこの
システムは非常に格好が良かった。銀塩末期においては、
感触性能に優れたLXがお気に入りのカメラとなり、もっぱら
高性能レンズ(前述のFA77/1.8等)との組み合わせが多くなり、
あまり出番は無くなってしまったのだったが・・

本来、このレンズは、冒頭のK-01と組み合わせて紹介する
予定であったのだが、K-01とMタイプレンズの組み合わせは
絞りが動作しないという問題を持っていた。勿論設定メニュー
で「絞りリングの使用可」にしているにもかかわらずである。
確かPENTAXの初期のデジタル一眼、例えば 私が持っていた
*istDsやK10Dでは、Mレンズでも絞りを動作させる事が出来たと
記憶している。ちなみに、K-01だけの問題かと思って、同時期の
K-5に装着してみたが、やはり絞りを動作させる事が出来ない。
まあ、なので、K-01を含む新しいPENTAXデジタル機では、
MFレンズはAタイプを使うか、いっそ絞り連動が無いM42しか
使えないという事だと認識している。
でも、他にMを使えるボディがあるので、あえてK-01で使う
必要は(デザインの点以外は)無いであろう。

本レンズは、いわゆるパンケーキ型ではあるのだが、
この手のパンケーキで良く使われるテッサー型(3群4枚)
ではなく4群5枚というレンズ構成だ。
テッサー型では無いパンケーキも少なくはなく、例えば、
コニカ ヘキサノン AR40/1.8(5群6枚)(未紹介)
ニコン シリーズE/Ai 50/1.8(5群6枚)(第21回記事)
オリンパス OMズイコー 50/1.8 (4群6枚)(第26回記事)
等がある。
でも、最短撮影距離は、それら非テッサー型の45cm程度
ではなく60cmとやや長いのが弱点だ(テッサーと同等)
広角だけにとどまらず、標準レンズであっても寄れない事は
不満となる、f2.8というのはズームや他の焦点距離では大口径
かも知れないが、標準レンズでは小口径もいいところで、
ボケを作画表現に使おうと思えば、近接するしか方法が無い。
寄れないので、テッサー型では無いにもかかわらず、テッサー
と同等の撮影技法(f8前後に絞って中遠距離撮影)という
スタイルとなる。

テッサーであれば、f8まで絞るとキリキリと解像感が増し、
かつ発色が良くなる(注:テッサーの焦点移動の問題は、
アダプター使用時は気にしなくて良い)という特徴があるが、
本レンズの場合は、絞りによるテッサーのような描写力の変化は
あまり出にくいように思う。ある意味、それは性能が良いという
事かも知れないし、逆に言えば、個性や特徴が無いという
事にもなる。
もっとも、銀塩一眼MXの最高シャッター速度は僅かに
1/1000秒であったし、ISO100のフィルムを使った場合は、
日中は必然的にf5.6~f8程度まで絞った撮影となったであろう。
小型軽量のMXであるので、その状態で、速写、すなわち
スナップ撮影のようなスタイルが主流であったと思われる。

それでも無理やり近接して背景ボケを出すとこんな感じ。
やはり総合的にボケ量が少ないので表現範囲に制限が出る。
本レンズでは、ボケ質破綻も出るので、絞り込むばかりではなく
絞りを開ける(いわゆるバカボケにする)という回避方法も
考えられるが、f2.8では、それもしずらい。
総合的に、現代において必要なレンズでは無いだろうと思う、
パンケーキ・デザインは魅力であるが、PENTAXであれば、
近年のDA40mm/f2.8mm Limited や、K-01と同時発売された
DA40mm/f2.8 XSが究極のパンケーキとして存在するし
他の現代PENTAX レンズも同様に薄型や小型のものは多い。
また、DA40/2.8であれば最短撮影距離も40cmとMタイプ
よりも20cmも改善されているので、不満も少ないであろう。
どうしても本レンズが欲しい理由は歴史的な価値であると
思われる。本レンズの購入価格は、12000円程であったのだが、
これは程度が悪いためであり、第一次パンケーキブームの時
には2万円以上が相場であったと記憶している。
現在の相場は1万円~2万円台後半と幅が広い、これは
マニア受けするレンズであるから、相場は時価に近い状態に
なっているのだろう。本レンズの性能面からの適正な相場は、
やはり1万円台前半までと思われる。
ちなみにDA40/2.8Limitedの中古相場は1万円台後半なので、
APS-C機で使う前提であれば、新型の方が勿論良い。
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さて、次は今回ラストのシステム

カメラは、Eマウントのアダプター母艦としているNEX-7
レンズは、PCニッコール35mm/f2.8である。
1968年発売と古いレンズであり、PCとは、パースペクティブ
コントロールの略、すなわち「シフト型レンズ」である。
シフトレンズとは、レンズを光軸ごとずらす事により、
遠近感(パース)を調整する事が可能なレンズであり、例えば
建築写真で建物の上(遠い方)がすぼまって行くのを直すこと
ができる。とは言え、シフト量をゼロで使えば、ごく普通の
レンズとして使用できる。

で、シフトの操作はちょっと面倒である。
レンズ側面についている、ネジのようなツマミをグルグルと
廻す事で、レンズが任意の方向にシフトする(ずれる)
ちなみに、任意の方向というのは、シフトする位置(方向)は
一定なので、レンズ全体をカチャカチャと廻して必要なシフト
方向を決めるという操作が必要になる(これが少々面倒だ)
シフトした状態が以下の写真である。

これは横方向にシフトしているが、シフトした方向への遠近感が
無くなる(緩和される) ただし、カメラを横位置のみならず
縦位置にしたり、縦位置でも、右手を上にするか下にするかで
方向が変わるので、シフト方向の変化はややこしく、注意する
必要があるし、前述のように操作性はかなり面倒だ。
ちなみに廻せる方向は30度刻みの12段階である。
さらに操作性を言えば、本レンズは、その構造上、絞りが
ロシアンレンズのようなプリセット型絞りとなっている。
ただし、プリセット型絞り操作は、個人的には面倒とは思わず、
むしろ絞り込んだ状態と開放とを瞬時に切り替えるという裏ワザ
も使えるので良い点もある。
だが、本レンズの問題は操作性ではなく、最大の問題点としては、
フィルムまたはフルサイズ一眼では、画角が本来のレンズ画角で
あり、遠近感も広い画角で大きくなるのだが、NEX-7のような
APS-C機では、画角が狭くなってしまい、本来の十分なシフト
効果が得られない事だ。
これを試すために、大阪の都心部に行って高層ビルを下から
見上げて撮ってみたのだが、銀塩時代に比べて殆どシフト効果が
出なかったので、がっかりした。

それに、写真だけ見ても、シフト効果はわかりにくい。
上写真は、神社の鳥居が比較的真っ直ぐに立っているが、
実際には、少しだけ上が遠く、上すぼまりになっているのを
シフトで補正した状態である。
けど、これでは、最初からそういう正対した角度(アングル)で
撮った場合との区別がつかない。(ノーマルに撮った写真の
掲載は、あえて割愛する。大きな差が無いので、たったそれだけか?
と、がっかりするだけであろうと思ったからだ)
APS-Cであまり効果が出ない上に、撮った写真も効果がわかりにくい
のであれば、せっかくのシフト機能も、ちょっと紹介する面白みに
欠けてしまう。
それに、そもそもシフト機能だけでは地味なのだ、本来は、
シフト・ティルト、すなわち光軸の平行移動と、傾きを同時に
コントロールできる「アオリレンズ」であれば効果はてきめんに
わかる、ただ、そういうレンズは非常に高価であり、十数万円
~数十万円もしてしまう専門的特殊用途レンズだ。
まあ、第11回記事、第14回記事で紹介した、LENS BABY 3Gは、
中古で約1万円と安価にアオリ機能が実現出来るレンズであったが、
建築や商品撮影など厳密なレベルで使えるものではなく、あくまで
トイレンズの一種と見なすのが良いものであった。
さて、シフト機能の使用は、すっぱりと諦めよう。手間がかかる
上に効果が少ないならば、それで撮る意味は無い。

ちなみに、通常撮影したものをシフトレンズのような効果に
したい場合は、高性能なレタッチソフトで「遠近補正」を
行えば、はるかに容易かつ、任意の調整量で処理を
行う事ができるので便利だ。
そういう意味では、シフト・ディルトではなくて、単なる
シフトだけのレンズは、現代においては存在の意味が無いの
かも知れない、そういえば、、シフト機能のみのレンズは、
現代では数える程しか残っていなかったかも・・
まあ、そんな感じだと、PCニッコールは使い物にならない
レンズという事になりそうなのだが・・(汗)
以下は、一般にあまり知られていない事かも知れないのだが、
実はこのレンズには、非常に大きな長所がある。

これは本レンズで近接撮影した写真。
シフト機能は使っていない。
最短撮影距離は30cmと、35mmのレンズとしては寄れる方
であり、マクロ的に使える、そして、ここが大事な点だが、
近接撮影した時のボケ質がかなり良好なのだ。
シフトレンズは、シフト操作をする為、イメージサークルが
大きい。3つ前の写真のように、あれだけレンズをずらしても
ちゃんと光がフィルムやセンサーに届くのだ。
で、その事と直接関係あるかどうかわからないのだが、余裕
のある設計、あるいは特殊な設計が理由なのか、本レンズは
ボケ質がとても良い。しかも近接撮影した状態においては、
なおさら良いように感じる。
この事実は本レンズを購入した1990年代の銀塩時代から
気がついていた。しかし、シフト機能をなんとか使いこなそうと
そちらにばかり気をとられ、貴重なフィルム枚数を、シフト機能
とは無関係なマクロ的撮影にばかり使うわけにはいかなかった。
デジタル時代、撮影コストは限りなくゼロに近づいたので、
これはもう、シフト機能をすっぱりと諦め、ボケの綺麗な
ニッコール(注:ニコンの銀塩用オールドレンズは、解像度を
優先する設計が殆どであり、ボケ質の良い物は極めて少ない)
として使うのも、本レンズの特徴を活かせて良いかと思う。
本レンズの購入価格だが、1990年代に、40000円とかなり
高額であった、まあ、希少なレンズであったので高価なのは
やむを得ないとは思っていたが、実はずっと高すぎたのを
後悔していた(汗)例えば、冒頭のDA★55/1.4や銀塩時代の
FA★85/1.4が、同じく4万円強と思えば、このレンズに4万円も
出す価値は無いと思ってしまう事であろう。
だが、今にして思う。これをシフトレンズだとは思わず、ボケの
綺麗な高性能レンズだと思うのであれば、これはこれでアリでは
なかろうか?と。
という事で、銀塩ニッコールとしては極めて貴重なボケ質に
優れる準近接撮影レンズ、これがこの PCニッコール35mm/f2.8
の最終評価だ、とても1960年代後半、今から50年近くも前の
古いレンズとは思えない描写力が、このレンズの「味」かも
知れない。まあ「味」と言う言葉で、古臭さや、性能の不足を
オブラートで包んでしまうような風潮も世の中にはあるが、
このレンズの「味」は本物だと思う。
今回はこのあたりまで、次回シリーズ記事に続く。