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「Saturation」補正ソフトのプログラミング

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「画像処理プログラミング」シリーズ第18回記事。

毎度おなじみのプログラミングシリーズである。
ここで「画像処理」とは、コンピューターを用いて
画像のピクセル毎に、様々な演算(計算)を施し、
結果として、画像から自動的に、調整(Adjust)、
編集(Edit)、変換(Convert)、抽出(Extract)、
判定(Judgement)、選別(Screen)等を行う事だ。

なので、一般に言う「画像編集」(例:Photoshop
等の汎用レタッチソフト等を用い、人力で画像の
調整/編集等を行う事)と、この「画像処理」は、
全く異なるものとして定義している。
まあ、画像編集は「技能」であり、画像処理は
「技術(テクノロジー)」だ。
_c0032138_20343635.jpg
今回の記事では、画像全体の「Saturation」(≒彩度)
を、補正するソフトをプログラミングする。

まあ、勿論、「彩度の調整」は、画像編集ソフトの
多くにも備わる機能であるが、今回作るソフトでは
画像の(ピクセル毎個々の)色味に応じて、いくつかの
補正関数を用いて自動的に彩度を補正する構成とする。

まず、「色」についての基本的な説明だが・・

「色の三原色」と言えば、青(シアン)、
赤(マゼンタ)、黄(イエロー)が著名だろう。
これは子供の頃から、色鉛筆や絵の具等を用いた
場合での概念として学んで来ていると思う。

これは、「印刷」にも使われ、黒色を加えて
「CMYK」(Cyan、Magenta、Yellow、blacKの略)
として数値化された割合に応じて、プリンター等で
(画像や文字等の)カラ-印刷が行われる。

このCMY(K)色は、光を反射している状態なので
絵の具や印刷等で「色の三原色」を混ぜていくと、
光の反射が減っていき、どんどんと暗くなる。
(=減法混色)

本シリーズ第9回「点描画変換ソフト」編では、
フランス等の「印象派」や「新印象派」の画家達が、
パレット上やキャンバス上で絵の具を混ぜて行くと
その明るさが暗くなる事象を嫌い、「筆触分割」や
「点描法」の技法を用いて、絵の具を混ぜずに用い、
その絵を遠くから見ると「視覚混合」の効果により
人間の見た目では隣接した個々の色が混ざって感じ、
結果的に絵の明るさが暗くならないような措置を
行っていた事を説明してる。

対して、「光の三原色」というものがある。
これは自ら発光する装置、例えばパソコン等の
モニター、ディスプレイや、TV、プロジェクター
等においては、R(赤)、G(緑)、B(青)の光を
各々投影/表示する。すると、その三原色を混ぜて
いくと、光の強さは、より明るくなる。
デジカメや、コンピューターによる画像処理や
画像編集では、通常、こちらの「光の三原色」の
原理が用いられている。

これらの「色の三原色」と「光の三原色」のどちらを
使ったとしても、人間の目に入って来て、それを認識
する「色」においては、それを構成する要素として
「色の三要素」というものが存在する。

これは具体的には、
「色相」(Hue) →色味、色あい
「彩度」(Saturation/Chroma)→色の濃さ
「明度」(Value/Brightness)→色の明るさ(輝度とも)
となっていて、これらで固有の色を表現する事を、
例えば(先頭の文字を取って)「HSV色空間」と呼ぶ。
(注:いくつかの微妙に異なる他の定義も存在する)

まあつまり、人間の目では、「色」を見たところで、
それをCMYKやRGBの値に直接変換できる訳では無い。
だが、HSV色空間では、例えば「青っぽく、色が
濃く、やや暗い」という風に認識できる訳だ。

「光の三原色(RGB)」を「色の三要素(HSV)」に
変換するには、簡単な公式等が存在する。
(注:別の定義の場合、その変換式も異なる)
その逆にHSV等をRGB値に戻す式も勿論存在する。

以下は、HSV色空間での色相(Heu)の一覧だ。
_c0032138_20343627.png
これは、普通は「色相環」という風に、円周状に
置かれて表現(図示)される場合が多い。
(例:過去の本シリーズのプログラミングでも、
「擬似紅葉」や「紅葉予測」ソフトでは、
その「色相環」をGUI(≒操作系)に採用している。
下図は「擬似紅葉」生成ソフトの画面の一部)
_c0032138_20343632.png
さて、ここまでが「色の三要素」の基本知識だ。


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・・で、先日、西洋美術の書籍を読んでいると、
「バルール」(Valeur:仏)という美術用語が
出てきた。(または「ヴァルール」とも)

「これは、どういう意味か?」と調べてみると、
なかなか難解な概念である事がわかってきた。

ごく簡単に言えば、絵画の中に置かれて(描かれて)
いる、いくつもの対象物の明暗や位置関係の事だ。

日本語では「色価(しきか)」とも呼ばれ、
英語ではValue、つまり、前述の「HSV色空間」
での、明度(輝度)のValueに相当する。

又、絵の具(等)を買う時にも、その絵の具に
VALUEの値が表示されているケースがある。
つまり、同じような色(色相)の絵の具でも、
明度の異なるものを使う事が出来る訳だ。

ただ、「色価(バルール)」は、そうした個々の
(単独の)色の話をしている訳ではなく、絵画等
の画面全体において、「どの部分に、どれだけの
明るさの色を塗って配置していくか」という話だ。

これが上手な(絵画)作品においては、
「バルール(ヴァルール)が整っている」
と評価される。
(その逆は「バルールが合っていない」等)

絵画の中に描かれる、各々の要素(写真で言えば
個々の被写体)の、明度や位置関係が上手く対比
できているのであれば、二次元(平面)である
絵画や写真は、三次元(立体)的に認識される・・
という事であろう。

ただ、ここまでは良く理解できたのだが、
1)感覚的、あるいは難解な概念だ。
2)これは明度だけでは無く、彩度(色の濃さ)
 も大いに関係があるな。
3)写真の場合、さらに、「被写界深度」も強く
 影響しそうだ。
・・という印象を持つ事となった。

例えば、巨匠「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は、
著名な「モナ・リザ」等で「空気遠近法」という
技法を用いて描いている。

「空気遠近法」では、遠くにある物(モナ・リザ
の背景等)は、「やや青みがかり、やや明るく、
ややボケて(かすんで)」見えるように描く。

勿論、通常の遠近法(遠くのものは小さく見せる、
および、視線上での「消失点」を意識する)も
用いた上で、さらに、その「空気遠近法」を加えて
より、リアリティや固有の表現を出している訳だ。

また、後期印象派のゴーガン(ゴーギャン)も、
タヒチ在住時代の作品としては、「原色」を
多用しながらも、その色の配置は、対象(被写体)
そのものの色ではなく、その距離や注目度に応じて
色を決定している。つまり、「色価」(バルール)
を、明度で整えているのではなく、色相や彩度で
それをコントロールしている訳だ。

思えば、さらに後年の野獣派(マティス、ブラック等)
(本シリーズ第8回記事、「野獣派」変換ソフトの
プログラミング、編を参照)においても、
野獣派(フォービスム)は、原色をただデタラメに
塗っているのではなく、「バルールの調整」の為に
これをコントロールしていたのだろうと思われる。

まあ、野獣派マティスの代表作の1つである、
「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」(1905年)
は、一見すると、女性の鼻の部分に緑色が描かれて
いて、衝撃的(びっくりする)な作品だ。

しかし、この絵画を、いったんグレースケール画像
(≒モノクロ)に変換すると、緑の色は目立たなく
なるどころか、むしろ「明暗(バルール)が上手く
整っている」絵画となる事が、美術学校等での
色価(バルール)の説明にも良く使われていると聞く。

他人の作品は引用したくないので、例えばだが
本シリーズ第8回で作った「野獣派変換ソフト」で
マティス風に自動加工した「猫」の写真を挙げる。
_c0032138_20343619.jpg
このままでは、「なんじゃこりゃ?」と思う
写真であろう。

まあ、絵画(アート)を学ぶ人達であっても、
マティスの「鼻に緑のすじのある」絵画を最初に
見たときは驚く模様である。

画学生でも、そうならば、ましてやカメラマンで
あれば「色を変換する」等の概念は、これっぽっち
も持っていないだろう。「写真とは真を写すと書く」
つまり「目で見たままに写せる」事を「是」とする
古い概念が、いつまでも抜けない世界であるからだ。

だが、上の「緑色のすじがある猫」の写真を
グレースケール(モノクロ)に変換する。
すると、驚くべきことに・・
_c0032138_20345547.jpg
全く違和感が無くなり「バルールが整っている」
事が明確に分かる。
(まあ、元々の写真でバルールが整っているものを
加工処理したので、元に戻っただけ、とも言える・汗)
前述の、画学生が学ぶマティスの実例と同様だ。

だからマティスは、デタラメに鼻に緑色を塗った
のではなく、基本的な「バルールを整える」事を
優先し、(かつ、その絵画の場合には背景を縦に
2分割する事を意図しつつ、鼻に緑色のすじを
入れている)そこからは、感性や個性の要素で
「対象物が本来持つ色相から解放される」という
概念を(野獣派で)用いた訳だ。

まあ、さすがに、巨匠「ギュスターヴ・モロー」の
愛弟子である。考える事のレベルが高いし、こうして
20世紀の近代絵画の礎が築かれた事も確かである。

(参考:20世紀近代絵画においては・・・
対象物の色から解放される、対称物の持つ形
からも解放される、さらにはそれは抽象化していく。
「写真」で、これが出来ないのは、変に、ちゃんと
被写体が写ってしまうからだ。だから、自身の持つ
表現を加える事は極めて難しく、ビギナー層等を
中心に「より、くっきり、はっきりと写っている」
等の、Hi-Fi志向の概念から抜ける事が出来ない。
だから、ずっと他力本願で「写真映え」を探して
狙うだけの作業を繰り返す事となってしまう・・)

・・結局、恐らくだが、単に色の明暗に留まらず、
このような様々な、色の選択やボカし(スフマート)
や、それぞれの配置、遠近感等の高度な技法もまた、
感覚的な「バルールが整っている」の評価にも
影響しているのであろう。

さて、ここまでを私自身が納得したところで、
今回やりたい事は、「写真の彩度を補正する事で、
色価(バルール)が感覚的に変化するのか?」
という実験(研究)であった。
_c0032138_20345572.jpg
なお、バルールは、基本的には明度(輝度)との
関連が強い。だから、本来では、明度を自動調整
してあげた方が、バルールの実験には適している。

だが、それはつまり「輝度ヒストグラムの調整」
や「トーンカーブの補正」という画像編集での
技法(技能)と、ほぼ等価になってしまう。

そうした事は、レタッチソフトを用いて、画像
編集者(カメラマン)の誰もが、やって来ている
事だと思うし、近年の高性能画像編集ソフトでは、
ヒストグラムを自動調整して「写真が綺麗に見える」
つまり、あたかも「バルールを自動的に整える」
ような機能も入っている。


そうした「自動調整機能」は、私も、編集作業が
面倒になってきたり、編集しても、なんだか上手く
行かない際等に、「え~い、面倒だ」となって(汗)
「自動調整ボタン」1発で済ませる事もある。

だからまあ、明度の自動調整は、世の中に既にある
物だし、その自動調整が、ダ・ヴィンチやゴーガンや
マティスのように、高度な絵画制作上の意図や技能を
反映してくれるようなものでもない事もわかっている。

そこで、今回実験をしてみたいのは、写真において
「色(色相)毎に、彩度(Saturation)を特定の
 割合や計算式で補正する事で、結果的に見た目の
 バルール(色価)が変化していくのだろうか?」
という内容だ。

なお、原語「Saturation」には、「彩度」という
意味の他にも、「飽和」や「浸透」等の複数の
意味が存在する。(例:音響における「アンプが
サチった」等が、Saturationの飽和という意味だ)
が、ここでは、あくまで画像(色)の処理における、
色の濃さ(彩度)を示すものとする。
_c0032138_20345527.jpg
で、この処理を写真に施しても、写真に写っている
複数の被写体毎に、その遠近感等に応じて自動で
(彩度)補正処理が行われる訳では無い。
つまり、ダ・ヴィンチの「空気遠近法」の再現は
(このアルゴリズムでは)不可能だ。

じゃあどうするのか?と言えば、まずこの時点では
「このソフトで補正するのに適切な写真を選ぶ」
である。 

通常のカメラマンであれば、写真を、まず自身が
撮りたいように撮って、そこから画像編集をする
のが一般的な手順なのだが・・

ここでは、発想を逆転し、「作ったソフトの為に、
その処理に向く写真を撮ってくる(または選ぶ)」
である。
まあ、本シリーズでの通称は「靴に足を合わせろ」
方式だ(笑)

つまり、あくまで写真構図上の遠近感や被写体の
配置は、最初から整っていないとならない次第だ。
それが整っていない写真を入力して、そこから
「バルールを自動的(強制的)に整える」などの
処理は、後10年くらいして、AI系の技術が発達
しない限り、現代の技術では不可能であろう。

なお、今回の処理が、もし効果的である事が
わかったら、写真における被写界深度を解析して、
(例:本シリーズ第5回「ボケ質解析」ソフト)
遠くにあると思われる被写体部分に対して自動的に
「空気遠近法」を掛ける処理もできるようになる
かも知れない。

いずれにしても、1歩1歩だ。本シリーズ記事で
やっている事は「(プログラミングの)習い事」
ではなく、「研究」に近いものがあるから、普通、
それは実際に試してみるまで、成否はわからないし、
さらには、元々「正解」すらも存在しない状態だ。

いつも言うように、コンピューターに仕事をさせる、
あるいは、その為に「プログラミングをする」
という事は、何か、やりたい事(目的)がある事が
第一であり、コンピューターを使う事や、プログラム
を書く事は、単に目的を達成する為の手段でしかない。

ここを勘違いしてしまうと、「プログラミングする
事が目的」等になってしまい、プログラムの文法や
書き方を勉強するだけの、単なる「習い事」と
なってしまう訳だ。
_c0032138_20345587.jpg
さて、プログラミングに着手しよう。
いつものように開発環境がMicrosoft Visual Studio
であり、プログラミング言語は、C#(.NET)である。


また、例によって、C#(.NET)上にあらかじめ存在
する関数・機能の他は、一切使用しない、
つまり、外部にあるライブラリ等は一切用いないし
他人の書いたソースコードを引用する事もしない。
完全に、1文字1文字、自分自身で入力したものだ。
_c0032138_20350338.jpg
そして、本シリーズを続けているうちに、C#での自作
ソースコード(プログラム)も、かなり溜まってきて
いる。従前は、C#はGUI部分だけで、画像処理部は
別途C++言語で記述して合体させた事が多かったが、
最近では、C#言語だけで、かなり高度な画像処理も
出来るようになってきている。また、過去に打ち込んだ
コードを組み合わせる事で、プログラミング効率も
上がってきていて、今回のソフトも、2時間半程で
一応の完成を見た次第だ。

一応、出来上がった状態で、テスト(デバッグ)を行う。
_c0032138_20350379.jpg
上は、色相画像を入れて、個々の色相毎の彩度の
自動補正が出来ているかどうか?のチェックだ。

この時点で小さいバグがあったが、原因を探して修正。
これで暫定完成(Ver. 0.90)だ。

では、色々な画像を入力して試してみる。
_c0032138_20350408.jpg
紅葉の写真での赤色の強調は、このソフトの得意
とするところだ。

ただ、これは、比較的単純な「因果関係」だと
思われ、従前から様々な色相変換・強調ソフトを
自作して研究しているので、ある意味、予定調和だ。
(参考:本シリーズ第2回「擬似紅葉」生成、
および、本シリーズ第7回「紅葉予測」ソフト)

赤味を強調する事のみならず、強すぎる赤味を
抑制する場合にも、当然有効であろう。
_c0032138_20350436.jpg
また、当然の事ながら、色相(Hue)の範囲を選択し
それを調整する事で、赤色以外の任意の色、および
複数の色の調整が出来る。

ただし、全ての選択色は、いずれも同様の計算式で
一律に強調または減衰させる事しかできない。
つまり、色相(色味)毎に、それらを個別に、増加
したり減少させたりする事はできない。

ただ、裏技ではあるが、一度画像処理を行ない、
いったんその処理済みの画像を保存し、再び
その画像を読み込み、異なるパラメーターで
別の処理を加える、さらにはそれを繰り返す事は
出来る。
が、いかんせん面倒な手順となるので、場合により、
このソフトをさらに改変(バージョンアップ)して、
連続処理や色相個別増減処理が出来るようにする
のも良いかも知れない。
_c0032138_20350836.jpg
上写真は、カメラ側でエフェクト処理を掛けて
被写体のテクスチャー(質感)を変えた写真に
さらに、本ソフトで彩度の調整を行ったものだ。

ここまでの事例では、いずれもパンフォーカス
(近景から遠景までピントが合っている)写真
である。
これらに対しては、本ソフトは有効に動作するが
ちょっと前述した、「空気遠近法」のように、
被写体の距離感に応じて「バルールを調整する」
という訳にはいかないであろう。

まあ、絵画ではそうなのだろうが、写真では、
「被写界深度を調整する」という必殺技がある。

特に、大口径レンズ(F値が小さい)、マクロ
レンズ(近接して撮れる)、望遠レンズ(焦点距離
が長い)といったレンズを使えば、主要被写体以外
の部分を全てボカしてしまう事は容易である。
_c0032138_20351107.jpg
これは、マクロレンズで撮影した、被写界深度が
比較的浅い写真である。すなわち、主要被写体で
ある蝶や花の他は、ピンボケしている部分が多い。

さて、この写真に対して、どのような処理を
加えるべきであろうか? ここが難しいところだ。

元写真は、ややコントラストが低いが、これは
あまり、「パキッパキに、ハッキリ、クッキリ」
とはさせたくなかった意図がある。

バルールを意識するのであれば、主要被写体を
より鮮やかにし、背景を明るくボカせば良いの
かも知れないが、これは絵画では無く、写真なので
既に背景をボカした意図で撮影をしているし、
このソフトは、明度(輝度)は調整できないので、
あまりそうした綿密なコントロールは出来ない。

ならば、たとえば、背景全般に広がる緑色系の
色味に対し、それを減衰(減少)させる処理を
掛けてみよう。
_c0032138_20351475.jpg
全体的に、少し色が薄い印象となった。

普通のカメラ設定による、一般的な写真では、
このような写真は、まず撮れない。
・・ただ、それは昔の話であり、近代においては、
例えば、OLYMPUS μ4/3機等に備わる「アート
フィルター」や、FUJIFILM X機の「フィルム・
シミュレーション」あるいは、それらに類する
高度な画質調整機能を用いれば、こうした雰囲気
の写真を撮ることもできる。

しかし、ちょっとそれらは、写真を撮る時点で
あれこれとカメラを調整して撮るのは難しい。
例えば、この蝶も、ほんの数秒後には、何処かに
飛んで逃げてしまうだろうからだ。

まあ、この例では、「こういう処理もあり」な
感じではあるが、どう調整するか?は難しい
という課題は、そのまま残る。

なお、こういう処理をしてしまうと、いわゆる
「明度」としての「バルール」は整っていない
状態となると思われる。ただ、バルールとは、そう
いった風に、明度の分布といった単純な物ではなく、
きっと、もっと感覚的かつ、構図的や距離感等の
要素もからんで、とても複雑なのだろうと思う。

あ~、もしかして、モノクロ変換モードも入れて
おけば良かったかも知れない、その方がバルールの
確認には役立つだろう。
まあでも、次のバージョンアップの機会があれば
モノクロ変換モードを追加してやれば良いだけだ。

では、もう一つ、被写界深度が浅い写真を準備する。
_c0032138_20351651.jpg
和装の女性の写真であるが、これは開放F0.95
という超大口径レンズを使って撮影している。
ごく普通の風景の中に居る人物の、前景も背景も
同時にボカしてしまい、立体感を持たせる意図だ。

もう、この写真でも十分ではあろうが、さらに
ここから何を改善すべきか? そこは難しい。

ここでは、後期印象派のゴーガン(ゴーギャン)が
タヒチ時代に用いた手法のように、主要な被写体
(人物)に集中して、その色味(彩度)を高める
措置を行ってみよう。
つまり、女性の着物(のみ)に存在する、黄色や
赤色の色相に着目し、その部分だけの彩度を
強調する。すると、以下のような写真となる。
_c0032138_20352071.jpg
写真としては、ちょっと色が濃すぎる印象も
あるのだが、これはこれで「アリ」だろう。

本ソフトは、ある意味、全体的に「地味な効果だ」
とは言えるかも知れない。例えば、以前に作った
「野獣派」(フォービスム)の生成ソフトのように
元写真(画像)の原型を留めないほどに改変して
しまうようなものでは無い。

ただ、控えめな加工処理を行った場合でも、それが
写真(画像)の印象に与える影響は結構大きい模様
である。


そして、上記のような処理を「画像編集ソフト」で
手動で行なうのは非常に大変であろう。

例えば、人物の部分(領域)だけをマウスで正確
に囲んで、その選択領域だけに彩度の強調処理を
行わないとならないし、しかもその処理では
その領域内全ての彩度が上がってしまうから、
人物の肌等は、あまり彩度を高めてしまうと
赤味成分が増えて、赤ら顔になってしまう危険性
もある。(参考:銀塩時代に、FUJIFILM社の
高彩度型フィルムVelviaでは、その種類によっては
「人物が赤ら顔となり、ポートレートには向かない」
と言われていたことがある)

本ソフトであれば、色相に応じて彩度の強調減退
処理が自在なので、これはこれで意味があると
思うし・・ なにぜ、全自動での画像処理なので、
例えば、マウスを持つ手をピクピクと震わせながら、
1ピクセル単位での繊細な画像編集作業等を行なう
必要が全く無い事は、非常に大きなメリットだ。

----
では最後に、また別のイメージでの処理の例を
挙げておく。
_c0032138_20352560.jpg
こちらは、初春の田舎道のローカルな風景だ。
左に見える赤い花は、恐らく梅であろう。

ただ、この梅の色味が結構強いので、主役と
なるべき自転車通学の存在感が弱まってしまって
いるように感じる。また、本来は遠近感をもっと
持たせないと、作画における意図が出てこない。
(たとえば、もっと大口径のレンズを用いて
遠景を少しボカしてしまう、等の撮影技法が考え
られるが、今更同じシーンに戻って撮影は出来ない)

まあつまり、これも一種のバルールが整っていない
状態なのであろう。

さて、では、どうしたら良いか?

まず考えられることは、梅の赤の色味を薄めて
しまえば良い。他にも色々考えられるが、この
ソフトでは、あれもこれもの編集作業はできない。

で、この調整作業を行っている最中に、「梅」の
花の彩度を下げていくと、「桜」のような色味と
なる事が発見できた。

桜であれば、これもまた主役級の花ではあろうが、
季節のイメージとして、あまり自身の存在を
主張できないようになるのではなかろうか?

ちなみに余談だが、近年では芸能人が俳句を詠む
番組が人気であるが、長年続いている番組だけに
芸能人達の俳句の実力も相当に上がっている模様だ。

そこでは、俳句をただ単に状況を説明的に詠む事
はなく、文字からの印象を「映像化」するような
高度な技法が推奨されている。

また、俳句には「季語」というものがあり、
「季語」と、その他の語句の内容とのバランスや
主従、因果関係等についても良く言及されている。

・・で、俳句の世界では「花」と言えば、それは
ズバリ「桜」を示すそうだ。
そこまで主役級である「桜」だけに、その扱いは
むしろ難しいのであろう。あまり単純に「桜」を
詠んでも、平凡な句になってしまうのかも知れない。

しかし、俳句の番組でも、そこまで高度な内容の作品
が期待されるのに、写真の世界では、「桜の季節」とも
なればアマチュアカメラマン達が群がり、ありきたりの
写真を撮ろうとする。中には人と違う写真を撮りたいが
あまり、社会的なルールやマナーを破って、例えば
禁止区域に勝手に入り込んだり、三脚を立てて往来を
妨害したり、酷いケースでは夜の公園に勝手に照明機材
を持ち込んで自主ライトアップ撮影(勿論、禁止だ)を
していた事等が、問題になったりしている。


そして、そうして撮った写真は、何の創意工夫や芸術的な
価値があるのだろうか?
俳句番組ならば「才能ナシ」で一刀両断されるだろう。

さて、余談はさておき、画像処理の結果だ。
_c0032138_20352567.jpg
梅の赤味が綺麗に消えて、桜のような色味となった。
良く良く見れば、さすがに桜では無い事がわかって
しまうが、パッと見、ではわからないだろう。

で、写真全体のバランスとしても、脇役が悪目立ち
せず、適正となっている。
また、「通学」というイメージは、梅の季節よりも
桜の季節の方が、ストーリー的にも適切だと思う。
(こちらの方が、俳句も詠み易くなるだろう・笑)

それと、この措置(画像処理)により、花の彩度
が落ちた事で、副次的に明度が上がっている。
よって、この前後の写真をグレースケール化した
際、後者の桜(風)の写真の方が、脇役の明度
が高まっていて、バルールが整っているように
感じる。


さらには、遠景おける梅の赤の色は目立つが、
桜の色味の場合、遠景ではほとんど目立たない。
だから、これも偶然ではあろうが、遠近感が
自然となり、自転車通学での距離感や進行方向
のイメージが適正となっている。

・・・まあしかし、色々と勉強となるソフトだ。
つまり、写真を撮る際には、気付いていなかった
事、あるいは意識すらしていなかった事でも、
後で、本ソフトで画像処理を掛ける際に、色々と
考えさせられる事となる。

本ソフトの成否(上手くいったか否か?)は、
「成功」という事にしておこう。

----
最後に、本シリーズ記事での研究の成否を挙げておく。
○=成功、△=不明、X=失敗

第01回:○:横浜写真の自動生成
第02回:△:擬似紅葉
第03回:○:高精度ピーキング処理
第04回:X:「ロココ調」変換
第05回:○:ボケ質解析
第06回:X:ぐるぐるボケ写真の自動生成
第07回:△:紅葉予測ソフト
第08回:○:「野獣派」変換
第09回:X:「点描画」変換
第10回:△:良質なボケの生成
第11回:X:良質なボケに補正
第12回:○:オリンパスブルーの生成
第13回:X:シャボン玉ボケの生成
第14回:△:鳥を数えるソフト
第15回:△:トーンジャンプの検出
第16回:○:画像リングモジュレーター
第17回:X:モノサシトンボを測る物差し
第18回:○:Saturationの補正

総合成績=7勝6敗5分、勝率=3割8分8厘

まあ、目標とする勝率(研究の成功率)は
5割で、最低値が3割の成功率という感じだ。

簡単な画像処理を行なうならば、ソフト開発の
成功率は上がるだろうが、それでは面白くない。
これは「研究」ではあるが、あくまで「趣味」でも
あるから、常に何か新しい事にチャレンジして
いかないと、興味が半減してしまうであろう。

----
では、今回のプログラミング記事は、このあたりまで。
今回のプログラミングは、2021年、2度目の
「緊急事態宣言」での外出自粛時に作ったものだ。
1回目の緊急事態(2020年)の際には、ステイホーム
率も高かったので、10件弱のプログラミングを
行ったのだが、2度目は、そこまでの「巣籠り」の
状況でもなかったので、あまり多数のプログラミング
を行っていない。
まあなので、次回記事掲載は、不定期としておく。


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