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レンズ・マニアックス(77)補足編~SIGMA 70-300mm級APO望遠ズーム

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今回記事は補足編として「SIGMA 70-300mm級
APO望遠ズーム編」とする。

1990年頃~2000年代前半における、SIGMA製の
70(75mm)-300mmの実焦点距離のAF望遠ズームで
APO仕様のものを3本、そしてライバルレンズとして
同時代のTAMRON製の同70-300mm級望遠ズームを
2本、それぞれを年代順に取り上げていこう。


----
ではまず、今回最初のSIGMA APO望遠ズーム
_c0032138_15455801.jpg
レンズは、SIGMA AF ZOOM 75-300mm/f4.5-5.6 APO
(中古購入価格 1,000円)(以下、APO75-300)
カメラは、NIKON D70 (APS-C機)

発売年不明。恐らくはAF時代の最初期の1980年代
末か、1990年頃にかけて発売されたAF望遠ズーム
であろう。
なお、今回紹介レンズは、全てAF、かつ銀塩時代の
製品が殆どの為、当然、フルサイズ対応である。

本レンズの正式名称(型番)も不明、以降、全ての
SIGMA製オールドレンズで同様だが、もう現代となって
は詳しい(あるいは公式的な)情報が残っていない。

例えば、「AF」という記載が正式な型番の一部である
確証すら無い。何故ならば、この時代(1980年代末頃)
では、市場の一斉のAF化において、レンズがAFであるか
否かは、とても重要であったが、型番としての「AF」は、
既にMINOLTAが採用していた。(例:AF50mm/F1.4等)

そこで、SIGMA、TAMRON、TOKINA、COSINA等と
いったレンズメーカーでは、AFレンズである事を示す為に

「AF」とレンズ上に、はっきりと記載をするのだが・・
それがメーカーとしての正式型番かどうか?は、どうも
曖昧なのだ。変にこれを正式型番と謳うとMINOLTAから
「型番被りだ」と、文句を言われるかも知れないからだ。

(参考:「AF」という、たった2文字では「識別力が無い」
という理由により、通常は「商標」を取得できない。
例外は、2文字でも十分に広く認知されているケースであり
「JT」「au」「JR」等があるが、さほど多くは無い。
--
しかし、カメラ界では悪い前例があり、1972年にOLYMPUS
が発表した「M-1」を見て、西独エルンスト・ライツ(ライカ)
社が、「Mは、ウチがM3等で使っているから、使うな!」と
クレームをつけてきた事例だ。勿論、いいがかりであるが、
OLYMPUSは揉め事を嫌い、やむなくOM-1に機種名を変更した。
あまり気持ちが良い話では無いが、事実は事実である。
--
その後、カメラ界で、型番で揉めそうな場合は、各社とも
できるだけ気を使うようにしていた模様だ。
その実例としては・・
この1980年代末のレンズメーカーの「AF」型番の曖昧な措置。
2000年頃の復刻レンジファインダー機で「ライカMマウント」
とは言わず各社の頭文字を付けVM、KM、EM、ZMと称した事。
2018年のNIKONフルサイズ・ミラーレス機Z7、Z6では、
PENTAX 1990年代のZ-1、Z-5、Z-10等との機種名被りを
避けている事、などがある)

・・と言う事で、ややこしいのだが、本記事では便宜上、
レンズ上に記載されている順不同、位置もバラバラな
断片的な名称を纏めて、型番として記載する事としよう。
_c0032138_15462625.jpg
さて、APOとは「アポクロマート」の略語だ。

だが、そこまでは確実なのだが、これ以上の「APO」に
係わる詳細の話となると、とたんに曖昧となる。

何故ならば、光学(やデジタル光学)の世界/業界では、
残念ながら、用語の定義やその統一、概念の統一などが
出来ていない。
たとえ、そうした職業に従事する専門家であったとしても、
その人毎に、企業毎に、研究機関毎に、あるいは出版された
書籍や、WEB毎等で、言っている事や用語や定義や、その
意味が、各々、微妙に違っていたりする(汗)

この問題は、この専門的な業界における「参入障壁」
(他者、他社がそう簡単には入ってこられない)に
なっているのかも知れないが、では実際に、その技術を
学ぼうとする際に、あるいは稀にそうした専門職の人と
話をする際に、個別に、言っている用語やその定義が
まちまちなので、非常に困ってしまう事もあるのだ。
(例:デジタルでの被写界深度の定義が、いまだに
ちゃんとしておらず、専門家毎に、まちまちの計算手法)
_c0032138_15462629.jpg
さて、「APO」の話だが、「アポクロマート」の前から
存在していた技術として、「アクロマート」がある。

一般的に、レンズでは「色収差」が発生する。
だが、「収差」とか言うと急に難しくなり、さらに正確に
言うと、軸上色収差と倍率色収差があるのでややこしい。
一般的カメラマンだと、この時点で、
「何を意味するのか? さっぱりわからない」となって
もう、お手上げであろう。

そう、これもまたカメラ市場の課題であり、写真を撮る
のは、まあ誰にでも出来るが、ではその原理とか理屈を
勉強しようとすると、急激にレベルが上がって、一般層は
もとより、理工系大学卒業以上の工学的知識や理解力を
持っていないと、まずお手上げとなる。

つまり、大多数のカメラ初級中級層では理解不能だ。
しかし少しでも原理に興味があれば、聞きかじりとかで、
間違った概念のままで、それを話してしまう。
だから結果的にカメラユーザー層の中で広まっている、
こうした光学原理の話は、実にその9割以上の情報が、
正しくない解釈等で、まあ、「フェイク情報」となって
しまっている状況だ。


さて、では「色収差」について、簡単に説明していく。
原理としては、「プリズム」に太陽光を入れると7色に
分光する状態である、これは小学生にでも理解できる話だ。
しかし写真用レンズで、この色収差が発生すると困る、
白い被写体を撮っているのに輪郭の周囲に色が滲んで
しまって見えたり、色が滲まないまでも、なんだかピント
(解像感)が甘く(合っていない)見えてしまう。

望遠レンズ(画角)になると色収差は顕著になるので
昔(1980年代頃まで)の望遠ズームでは、ズーミングを
望遠にすればするほど、ボケボケの写りになった事もある。

色収差を出ないようにするには、七色に分光する状態と
逆の特性を持つレンズとを組み合わせてあげれば良い。
ただし、逆の特性を得るには、単に凸レンズと凹レンズ
ならば良いか?というと、そうでもなく、レンズに用いる
ガラスの材質による特性(屈折率、色分散)をも変えて
色収差を補正するようにする。(例:クラウンガラスと
フリントガラスの組み合わせ等)

こうした2枚のレンズのセットは「アクロマート(レンズ)」
「色消しレンズ」「ダブレット」「色消しダブレット」等
と呼ばれる。(注:ここでも用語統一が全くできていない、
という困った状態だ)

で、このアクロマート型で補正する色は、通常は赤と青
のみである。いや、赤色とか青色とかは、ざっくりした
範囲を持つので、光学的には単一の波長名でそれを示す。
具体的には、C線(赤)、F線(青)の2波長で色収差の
補正を行う。
_c0032138_15455828.jpg
しかし、より高性能なレンズにしようとすると、赤と青の
間にある様々な波長(色)についても、きっちりと補正
してあげなければならない。このあたりで「3波長での
補正を行っているレンズ」を「アポクロマート」と呼んだ
のであるが、ここらへんで定義が曖昧になってしまい、
その技術考案から100年以上が経つ現在においても
「何を持ってアポクロマートとするか?」は不明(不定)
である。

私の解釈としては「C線(赤)、d線(黄)、e線(緑)、
F線(青)(注:線の波長名の大文字小文字区分は必須)
のうち、C線F線を含む、少なくとも3波長について
(軸上)色収差の補正を行っているもの」が
「アポクロマート」だと思っている。
(多分、この定義が最も一般的であろうが、そうでは
無い解釈も多数存在する)

写真用レンズと、他の光学分野(例:天体望遠鏡とか
顕微鏡)では、優先して補正するべき波長が異なる
という話も聞いた事があるが、ここでは写真用の
レンズに限っての話だ。
また、特定の波長において、軸上色収差を補正するのか?
あるいは、球面収差やコマ収差を補正するのか?
そのあたりの定義(というか方法論)も、まちまちであり
各社において、同じ「APO」(レンズ)といっても、同じ
技術内容が使われてる保証は無い。

----
さて、まだAPOの話は続くが、長くなってきたので、
ここでレンズを交換して、さらに説明を続けよう。

では、次のSIGMA APO望遠ズーム
_c0032138_15463653.jpg
レンズは、SIGMA AF 70-300mm/f4-5.6 APO Macro
(中古購入価格 500円)(以下、APO70-300)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

発売年不明、恐らくは1990年代のレンズと思われる。
冒頭のレンズの後継機種ではあろうが、広角端の
焦点距離と開放F値が微妙に異なっている。
_c0032138_15463688.jpg
さて、「APO」の話の続きだが、結局のところは
「アポクロマート」が何を意味しているかは、詳しい
定義が定まっていない。
(注:恐らくだが、APOの名前が付いているレンズには
異常低分散ガラス等を用いたレンズが含まれているという
ケースが大半だ、と思うが、その定義は定かでは無い)

しかし「色収差等を高度に補正し、高描写力を目指した
レンズ」である事は間違いは無いだろうから、各社は
この名称を「高性能レンズを示す称号」として使い出した。

その筆頭格は、今回取り上げているSIGMA社であり、
SIGMAは銀塩(AF)時代から、望遠系レンズに良くこの
「APO」銘を用い、それは近代まで続いている(いた)。
SIGMAでは、例えば同じ70-300mm望遠ズームでも
APO無し、APO付きが並行してラインナップされていて
「APO付きは高級品で高価」という感じであった。

また、銀塩AF時代では、MINOTLAも、望遠系高性能
レンズにAPOの名称を良く使っていた。

それと、旧フォクトレンダー社では、1951年に(注:
カール・ツァイス傘下の直前の時代)「アポランター」
(APO-LANTHER)が発売されていた事で、フォクトレンダー
銘を引き継いだ日本のコシナ社でも、現代のレンズ名称に
アポランターやマクロ・アポランター銘を良く用いており、
特に2010年代後半からの、その「APO-LANTHER」銘は
高性能を示す称号として、高価な高級レンズに付けられ
ている。(注:2021年、コシナより「APO-SKOPAR」の
レンズ名称が新設されている)

また、旧フォクトレンダー社を一時期吸収していた
カール・ツァイス社や、その商標使用権を(1970年代に)
獲得したヤシカ/京セラCONTAX製品でも、その歴史の
流れで稀に「APO銘」を冠したレンズが発売されている。
(例:アポゾナー)
また、ライツ社(ライカ)でも、アポ・ズミクロン等の
名称が使われている。

ところが、これら以外の他社では「APO」を称する
例は、殆ど(全く?)見当たらない。

前述のように「アポクロマート」の光学的な定義が
あいまいである事が理由なのだろうか? NIKONや
CANON等ではAPO名称は使われてはない。(ただし、
それら他社でも、それぞれ、高性能を謳う名称を
持っている。例:CANON Lレンズ)
_c0032138_15463685.jpg
結局のところ、「APO」(アポクロマート)とは、
定義が曖昧な技術であり、その名前が付いているから
と言って、他製品を圧倒するような高画質が得られる
保証は無い。

技術分野に詳しく無い人(ユーザー)ほど、どこかの
メーカーから「なんとか」という新技術が出来たと聞くと
「それは凄い!」と、その新技術を盲信してしまう。
まあそれはそうだろう、技術に詳しい人であれば、あるいは
実際に開発や研究という職務に従事している人であれば、
その内情は良くわかっているだろうが、そうでなければ
本質については、さっぱり理解できないだろうからだ。

結局、カメラやレンズには、星の数ほどの大量の問題点が
あるから、技術者というのは、そのどの課題を、どのように
解決するか?を、毎日毎日考えて実践していくものだ。
それが何年、あるいは技術者の世代を超えて何十年も
かかって、だんだんとカメラやレンズは進歩していくのだ。

ある時代の、たった1つの技術的革新(例:APO)で、
その製品が、これまでのものを全て陳腐化させてしまう
ような「凄い技術」というのは、なかなか出来て来ない。
カメラ界で言えば、AE化、AF化、デジタル化、まあその
あたりの「大きな出来事」しか無いだろう。

そして、たとえば「APO」により「色収差を消した」という
のであれば、それは、今までの「アクロマート」では何が
不満なのか? 程度の差はあれど「色消し」は、どのレンズ
でも、ちゃんと考慮している。
また、近年のコンピューター設計で、異常低分散ガラスや
非球面レンズを多用すれば、さらに色収差等は多数の波長や
(ズームならば)広い焦点域において低減するであろう。
では、それを「APO」と呼ぶのか? そこはどうも微妙だ。

まあつまり、技術とは、ある問題を解決しようとする為に
無数に考えられる手段の内の1つでしか無い。そしてその
手段が有効であったとしても、それが実用的かどうかは、
また別の問題だ。例えば、滅茶苦茶コストがかかる新技術
なのに得られる効能が少なければ、効率が悪い事であろう。

また、ユーザーが必要と思うかどうか?も、ポイントだ。
例えば、超音波モーター搭載により、ピントリングが無限
回転式になるならば、私個人的にはそうしたレンズは不要だ。
MFでしっかり合わせられる仕様の方が、多くの撮影シーンで
効率的だからだ。AFに頼るのは楽をしたい場合とかであり、
例えば10時間とかの長い撮影が必須で、長時間の集中力が
得られない場合は、AFでサポートする、等の考え方だ。
短時間だけの撮影では、MFとする方がずっと正確で確実だ。

弱点が殆ど無い技術であれば、やがて他社も同等な原理を
採用して、それは「デファクト(スタンダード)」となる、
例えば「AE化」「手ブレ補正搭載」などがそれであろう。
つまり全部の機材にそれが搭載されて、メーカー間の差異は
無くなる、さもないと出遅れて製品が売れなくなるからだ。

この話のまとめだが、ユーザーレビュー等で、
「なんとかと言う新技術が入っているから凄いのだ!」
という一面的な評価が見られた場合、その評価者は、その
技術の本質をまるで理解していないケースが濃厚だ。
つまり、その評価内容も信用に値しない。

ちゃんと評価を行うならば、その技術の内容をしっかり理解
した上で、それが優位になる点と、不利になる点を切り分けて
分析し、それを評価・説明しなくてはならないだろう。
それが正当な評価スタンスである。ユーザーの単なる思い込み
で「APOレンズだからスゲェー」等と言っていたら、プリズム
の原理がわかる小学生レベルでしか無いであろう。
_c0032138_15463652.jpg
さて、レンズ個々の話がちっとも出来ないのだが(汗)
いずれも過去記事で紹介済みのレンズであるし・・
実際には、個々のレンズの差異などは枝葉末節な話であり、
ここでは、SIGMAが何故「APO」という技術を採用し、何故
それを前面に打ち出しているのか? という、その根幹を
理解する方がずっと重要だ。
その分析では、レンズサードパーティがカメラメーカーの
ブランド力に対抗する為に、色々とやってきた事の本質が
見えてくるだろうからだ。

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さて、3本目はTAMRON製の望遠ズームだ
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レンズは、TAMRON AF70-300mm/f4-5.6 LD MACRO

(Model 572D)(ジャンク購入価格 500円)

カメラは、CANON EOS 30D (APS-C機)

2000年発売の普及版AF望遠ズーム。
ここまであげてきたSIGMA 望遠ズームの完全なライバルだ。
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TAMRONでは、公式資料として旧レンズの名称や仕様も
公開しているので、少しそれを参照してみよう。


1993年 172D AF 70-300/4-5.6 43,800円
1996年 372D AF 70-300/4-5.6 LD 47,000円
2000年 572D AF 70-300/4-5.6 LD MACRO 47,000円
2006年 A17 AF 70-300/4-5.6 Di LD MACRO 47,000円

Model x72D系では、抜けている型番(472D、772D等)
は、外観変更版とか塗装色違い版等、となっているが、

この系統の基本は、上記の4系統(機種群)である。

SIGMAの同スペック(70-300mm/F4-5.6)の「APO」に
対抗する為、372D型ではLD(低分散)ガラスを用いて
収差の補正とともに、全体構造の小型軽量化を狙った。
そして価格メリットか? 恐らくこの価格帯(定価)は
同時代のSIGMA 「APO」版より安価であっただろう。
(注:詳細不明)

また、1996年発売の等倍マクロ「SP90/2.8」が非常に
人気を博した為、望遠ズームにもマクロモードを追加
し、最短95cmで撮影時、1/2倍の撮影倍率が得られる
事が、本レンズ572D型の特徴である。

まあつまり、これまで述べてきたSIGMAの2世代の
「APO」望遠ズームに対抗するには、
「こちらの方がマクロモードが付いていて、安価ですよ」
という販売戦略であった事だろう。
(注:SIGMA第二世代APOでもMacroモードがある)

(当時の)消費者層としては迷い所であろう、
まずメーカー純正(NIKON、CANON等)では同等仕様
(70-300mm)のレンズは高価すぎる(情報が残って
いないので推測だが、定価でTAMRONの5割増し以上、
新品実勢価格で2倍程度の差があったと思われる)

そこでSIGMAとTAMRONの二択となった場合、SIGMAは
(高級版には)「APO」と書いてあるが、それの意味も
効能も消費者層には良くわからない。TAMRON版には
わかりやすいMACROモードがあり、かつ安価だ。
「APO」が無いSIGMA望遠ズームは安価だが、MACRO
ではなさそうだし、高い方との差も気になる。

「APO」の効能がわかっていれば、そちらを買うユーザー
(消費者)も居るかも知れない。

・・・まあ結局、こうして消費者は大いに悩む訳だ。
でも、それも当然。悩まないようだったら、その製品
には競争力が無いから、既に負けてしまっている訳だ。
_c0032138_15464565.jpg
それと、この時代(1990年代後半頃~2000年代初頭)
では、TAMRONやSIGMAのダブルズームキット、つまり
メーカー製カメラ(CANONやNIKON等)に、その
メーカーの純正レンズでは無く、SIGMAやTAMRON製の
28-70mm、70-200mm等の2本を、大手販売店側で
見繕ってセット販売するケースが大変多かった。

数年で、このセット売りが無くなったのは、推測だが
やはりこの売り方はちょっと市場倫理的におかしいので
カメラメーカーは、ダブルズームキット専用レンズを
レンズメーカーにOEM生産を委託したのではなかろうか?
と想像している、それで一応、どこも丸く収まるからだ。

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では、4本目は、SIGMA APO望遠ズームだ。
_c0032138_15464527.jpg
レンズは、SIGMA 70-300mm(D)/f4-5.6 APO DG
(中古購入価格 5,000円)(以下、APO70-300DG)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)

2005年に発売されたバージョン。例によって正式型番
は不明だが、さすがにこの時代では「AF」は当たり前
すぎるから、そのAF型番記載は省略されている。
その代わりにDG(フルサイズ対応・デジタル対応)の
型番が追加された。

だが、DGとついていようが、いまいが、実際には普通に
様々な(デジタル)一眼レフで使える。
でも、そう書いておけば技術にあまり詳しく無いユーザー
が「フルサイズ/デジタル対応のレンズでなくちゃ!」
とか言って、あわよくば買い換えてくれる事も期待できる。
(近年において、普通のイヤホンを「ハイレゾ対応」と
謳って、より高価に売った事例と同様であろう。
まあつまり、本質がわかっていないユーザーは損をする)

型番「D」は、NIKONにおける距離エンコーダー対応。
もう冗長になるから説明は省略するが、こういう細かい
点の技術の内容と、その効能がわかっていないようだと
ここでもまた「D型だから良く写る」とかの、間違った
思い込みに繋がってしまう。
_c0032138_15465397.jpg
そんな細かい型番の話よりも、遥かに重要な変革がある。
前機種の時代から、本レンズの時代の間に、
カメラ(一眼レフ)は、全てフィルムからデジタルに
変わってしまったのだ。(注:2004年を、「デジタル
一眼レフ元年」と、本ブログでは称している。
別シリーズ「デジタル一眼レフ・クラッシックス」参照)

デジタル時代で70-300mm/F4-5.6というスペックの
レンズが必要か?それに関しては、あまり必要性が無い
かも知れない。何故ならば2000年代のデジタル一眼レフ
は、一般的に購入できるものは全てAPS-C型機であるから、
そのスペックのレンズは、望遠端の換算画角が450mmと、
かなりの(過剰な)超望遠ズームとなってしまうからだ。
(300mmを使うならば、銀塩用200mm端ズームで十分)

被写体を選ぶ(汎用性が無い)事はもちろん、手ブレ
限界等の理屈が良くわかっていない初級中級者層で、
かつ当時の低ISO(最大1600程度)のデジタル一眼レフ
では、手ブレ必至である。

したがって、70-300mm/F4-5.6は、それまでの
銀塩時代(~2000年頃)における「ビギナー用の
入門望遠レンズ」という位置づけから、この時代の
デジタル時代においては「中上級者向けの実用派
超望遠ズーム」という位置づけに大きく用途が変化した。
(だが、その事に気づいている人達は少ない)
_c0032138_15465380.jpg
だから、メーカー側としても、これまでよりもユーザー
のレベル(スキル)が高いところを見据えて、新製品
を企画しなければならない。つまり、このスペックの
レンズは、もうビギナー向けでは無い、という意味だ。

その為、本レンズ(の系統)は本格派に転向しなければ
ならない、例えば手ブレ補正や超音波モーター搭載だ。
だが、そう簡単にハンドルは切れない、実際に「OS」
機能(手ブレ補正)が搭載されるのは、本レンズの
さらに後継機の2010年版であるし、しかもそこでは
「APO」系列は廃止されてしまっている。
(つまり、本レンズが、この系統の最後の「APO」だ。
ただ、これも、「APOは当たり前な技術となった」、
とも言い換えられる)

これには、ユーザー層の意識の変革も影響していたで
あろう。2010年頃にはミラーレス機とスマホの台頭に
より、それまでの時代のように、誰もが一眼レフや
その交換レンズを欲しがる時代では無くなっていた。

ユーザーニーズの変化と、製品のコンセプトの乖離
(大きな差が出ている)を見たSIGMAは、2013年には、
レンズ・ラインナップの整理(大変革)を行い、
コンテンポラリー、スポーツ、アートとしたのだが、
どのLINEにも、この系統(70-300mm)のレンズは
属さず、在庫品の販売継続後、ひっそりと生産完了と
なってしまった。


冷静に見れば本レンズAPO70-300DGは、現代において
入手可能なSIGMA製の望遠ズームとして、最もコスパ
に優れている。
20年近くも改良を続けて熟成された「APO」仕様の
高描写力レンズであるが、「上級者向け」とは見なされず
それまでの銀塩時代での「ビギナー向け」という印象の
ままで、市場のデジタル化のどさくさに紛れて、目立たなく
なってしまった。
_c0032138_15465336.jpg
本レンズの2010年代における中古相場は安価で、僅かに
5000円であった。
おまけに写りは一級品だ。手ブレ補正や超音波モーターが
搭載されていないが、そういうのを欲しがるのは初級中級層
だけであり、上級者層であれば不要な機能である。

「最後のSIGMA高コスパ望遠ズーム」として、歴史的価値も
高く、個人的には今後も長く愛用していく事になるだろう。

----
では、今回のラストはライバルのTAMRON製望遠ズームだ。
_c0032138_15465371.jpg
レンズは、TAMRON SP 70-300mm/f4-5.6 Di USD
(Model A005) (中古購入価格 19,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)

2010年発売の高画質仕様AF望遠ズームレンズ。

これの前機種は、前述の572D型(2000年)や、その
デジタル対応(コーティング強化)版の「Model A17」
(2006年、未所有)であるが・・
やはり、ここでも「デジタル化」の大変革が押し寄せて
いて、銀塩時代と同様の企画コンセプトでは厳しい事は、
SIGMAに限らずTAMRONでも同様であった。

よって、TAMRONもまた「本格派望遠ズーム」として
70-300mmを捉える事としたのであろう。
手ブレ補正(VC)(注:本レンズはSONY Aマウント品
なので手ブレ補正は本体側にある為、レンズ側には
搭載されていない)、超音波モーター(USD)
さらには高画質仕様の「SP」であり、これらの中級者
向け機能で武装し、それを付加価値(値上げ)とした。
(発売時定価:A17が47,000円。本A005は60,000円)
_c0032138_15470152.jpg
本レンズはTAMRONの開発陣と対談する機会があった際
「自信作です」と開発者自ら語っていたのを聞いている。
私は「必ず買います」とは答えたが、実際の購入は
中古品で、相場が安価となった後年になった(汗)

開発者が自信作だと語るのは、まあ、それまでの
572D型やA17型とは全くの別設計である事や
(旧型が9群13枚、本A005は12群17枚)
実際に撮影しても、ヌケの良い高画質が得られる事が
特徴である。

ただまあ、弱点もある、
旧型にあった最短撮影距離95cmでのマクロモードは
本レンズでは廃されてしまい、この優秀な特性が
自然観察用途(=望遠マクロレンズの代用)には
ならない。(注:最大撮影倍率は十分なのだが、
「寄れない」為に、撮影条件が制限されてしまう)

また、重量の大幅なアップ(435g→765g)
MF操作性の悪化(フルタイムMF機能を搭載した事で
逆説的に、旧来の上級MF技法が使いにくくなった)
さらには、本レンズの優秀な描写力も、望遠端+
遠距離撮影において若干解像感が低下する点がある。

しかし、弱点はいずれも軽微なレベルであり、本A005
レンズも、前述のSIGMA製APO70-300DGとともに、
最後に残った「銀塩時代の残り香を持つ名望遠ズーム」
である事は間違いの無い話である。

TAMRONではその後、この焦点域に対応する望遠ズームは
APS-C機向けには高倍率ズーム(16-300mm、18-400mm)
とし、フルサイズ向けには高画質超望遠(100-400mm)
とコンセプトを分離していく、しばらくは本レンズの
系統(A005→A030、2017年)も、併売されるだろうが、
もはや主力では無いし、中古相場も下落が激しい。 

2010年代からのカメラ(レンズ)市場の縮退により、
消費者層も、そのニーズも大きく変わってしまった。
現代のユーザーの主力であるビギナー層では、とても
安価な機材か、あるいは逆に思い切り高価な機材しか
興味を持っていない。
まあつまり、交換レンズに関しての知識やスキルが低い
から、そういった「極端な製品」にしか目がいかず、
本レンズのような「絶妙なところを付いてくる」仕様の
レンズ等は、全く知らないか、あるいは見つけても興味が
無い状態なのだ。(注:近年での中古相場は2万円を
切っていて、恐ろしくコスパが良い状態となっている)
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本レンズの総括であるが、こちらもSIGMA APO版と
並んで、恐らくラストの高描写力版70-300mmになる
かも知れない。こういう焦点域で高性能レンズを出しても、

殆ど誰も興味を持たないように、市場のニーズが変化して
しまっているからだ。
まあ、だとしたら、本レンズも、これから長期に渡って
大事に使っていかなければならないレンズとなるだろう。
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さて、今回の補足編「SIGMA 70-300mm級APO望遠
ズーム編」記事は、このあたり迄で。次回記事に続く。


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