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レンズ・マニアックス(69)補足編~Ai NIKKOR大口径望遠

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マニアックなレンズを紹介するシリーズ記事であるが、
今回は補足編として、「Ai NIKKOR大口径望遠編」と
銘打ち、1980年前後のAi NIKKOR(Fマウント)の
MF単焦点望遠レンズの各焦点距離(85mm~180mm)
での最大口径の物を4本取り上げる。

なお、全て過去記事で紹介済みのレンズである。
今回の記事では個々のレンズの長所短所等の説明は
過去記事と重複する為に最小限とし、また別の視点
からの紹介記事としよう。

特に、今回紹介の「Ai NIKKOR大口径望遠」の4本は、
他の一般的なAi系(時代の)NIKKORとは、描写傾向
や設計コンセプトが異なるように感じている。
それを分析していく事が、本記事での主眼となる。
(注:「Ai」は、近年のNIKONでは「AI」表記だ。
ただ、昔から「Ai」表記だったのを、それに改める
理由が良くわからない。また、多くの資料や近代の
カメラ上でのアイコン等でも「Ai」のものもあり、
本ブログでは旧来どおりの「Ai」表記にしている)

それと、今年は特に、NIKON ZfcやZ9のZマウント機
が話題であり、「今更Fマウント?」という様相も
あろうかと思うが・・ NIKON F(Ai)マウントの
(レンズ)は、マウント径が小さく、フランジバック
長も長い為、およそ殆ど全ての他社ミラーレス機や、
多くの一眼レフにも、マウントアダプターを介して
装着が容易である。すなわちマウントが選択できる
MFレンズを購入するならば、「Fマウント版を買って
おけば、他社機での使用汎用性が高まる」という
大きな利点があるので、マニア層であれば、Fマウント
のレンズは基本(としての購入対象)となる。

---
で、今回の記事では、それら大口径レンズを
焦点距離の短いものから順に取り上げる。

まず、今回最初のAi NIKKOR大口径(中)望遠。
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レンズは、NIKON Ai NIKKOR 85mm/f1.4 S
(中古購入価格 60,000円)(以下、Ai85/1.4)
カメラは、SONY α7S (フルサイズ機)

1981年頃に発売されたMF大口径中望遠レンズ。
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現代でこそ、F1.4級単焦点レンズは珍しく無い。
例えばSIGMA Art Line(2013年~ 順次発売)では、
20mmから105mmまで、各焦点距離のF1.4版
大口径レンズが、ずらりとラインナップされている。

だが、1980年頃では、そういう状況では無かった。
50mm標準レンズ以外でのF1.4級は、NIKONの場合、
35mm/F1.4(1971年~)のみに留まっていた。

本レンズで、85mmでもF1.4級レンズ(NIKON初)
が発売されたのは、多分にYASHICA/京セラCONTAX
の(RTS)Planar 85/1.4(1975年)の影響が大きい
事であろう。そのレンズは、カール・ツァイス銘と
ともに、当時の市場やユーザー層に大きなインパクト
を与え、後年には「神格化」される程になっていた。
(RTS)P85/1.4が、CONTAXの最強ウェポン(兵器)で
あった事は間違い無い事実だ。

NIKONとしては、これまで85mm級は、レンジ機の
Sマウント時代のNIKKOR-P 8.5cm/F2(1948年~
ツァイス・ゾナーのコピー品)等が存在していた。
そのレンズは、米LIFE誌(1936~2007年に刊行)の
専属フォトジャーナリスト「D.D.ダンカン氏」により
高く評価された事が「伝説」となり、その後の時代で
85mm/F2級レンズの人気が高かった歴史がある。

しかし、そこから四半世紀を過ぎた1970年代では、
レンジファインダー機も既に一眼レフに変わり、
ゾナー構成の85mmも、もう、ありふれた機材か、
あるいは一眼レフ用への転用が(バックフォーカスの
制約上で)無理であり、さらには大口径化も困難だ。
なのでCONTAXも新たなプラナー型85mmで、大口径化と
高描写力を両立させようとした訳だ。

NIKONも、いつまでも「伝説の85mm/F2」のブランド
バリューに頼る訳もいくまい。
(前述のNIKKOR-P 85mm/F2は、一眼レフの時代の
1960年代には85mm/F1.8、4群6枚構成と変化した。
まあつまり「少しでも大口径化する事」へのニーズ
が高まっていた時代であったと思われるし、Sonnar
型での設計制約上での限界点だったのかも知れない)
_c0032138_12592489.jpg
それと、この話は「誰か有名人が”良い”と言ったから
このレンズは良いレンズなのだ」という、私が個人的
には賛同できない思想や要素が多分に含まれている。
確かにD.D.ダンカン氏は優れた実績を持った方だった
かも知れないが、本家ゾナーと比較してのNIKKORの
評価であったかどうか?は、さだかでは無い。

単に、NIKKOR-P 85/2を見て「シャープで良く写る」
という感想を述べたに過ぎなかったのではあるまいか?
(ジャーナリストや職業写真家層が、”レンズマニア”
である保証は、まるで無い、という事だ)

まあ、そのあたりの詳細は、今から70年以上も前の
1950年頃の話であるから、今となっては知るよしも
無いであろう、あくまで「言い伝え」でしか無い訳だ。

でも、第一次中古ブームであった1990年代ですら、
その「D.D.ダンカンが褒めたNIKON 85mm/F2」
という話は、何度もマニア層やNIKON党の間で、
まことしやかに囁かれていた事は確かである。

だが、「D.D.ダンカンって誰よ?」というのが、その
話を聞いた人達の最初の印象であろう。既に数十年も
前に活躍した人であったからだ。

私は前述のように、「誰かが良いと言ったから買う」
という思想に反発するタイプであるから、逆に頑固な
までに、NIKKORの85mm/F2級レンズを買う事は
無かった。その代わりに、本家ゾナーをコピーした
と思われる旧ソ連製 Jupiter-9(注:本家ゾナー
とは微妙にレンズ構成が異なる事が後日に発覚。
まあ、一眼レフ用であったから、バックフォーカスを
調整する為に、やむを得ない措置だったと思われる)
を、とても安価(新品で5000円程度)に入手して、
それを機嫌よく使っていた次第であった。

ゾナー型よりも、むしろ新しいプラナー型に興味が
あったので、CONTAX P85/1.4や、その変形構成と
思われる、同様なプラナー系の本NIKKOR Ai85/1.4
を入手し、それらと”格闘”していた。

何が「格闘」か、と言えば、プラナー85mm/F1.4
は、ピント精度、焦点移動、ボケ質破綻、という
重欠点を抱え、一眼レフの開放測光光学ファインダー
では、これらの弱点を回避するのは容易では無い。
写真の歩留まり(成功率)は、36枚フィルム中で
1枚程度あれば良い感じで、およそ3%の成功率だ。

この結果、RTS Planar 85/1.4は手放してしまい、
RTS Planar 100/2に代替する羽目となったが、
本Ai85/1.4は、RTS P85/1.4よりも、若干使い
易い(プラナー型の弱点が出にくい)要素があった
為、気にいって、長期間使い続けている次第だ。
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だけど、弱点が出にくいとは言え、RTS P85/1.4
のように、たまたま諸条件が合った場合の
「爆発的な高描写力」という(ピーキーな)特徴は
本Ai85/1.4には無い。まあ、失敗はしにくいが、
びっくりする程の写真は、まず撮れない、という
優等生的な性質である。

乗用車で例えれば、RTS P85/1.4がスポーツカー
であれば、本Ai85/1.4はGT(グランツーリスモ)
カーであろう、極限まで攻めればスポーツカー
の方が高性能であろうが、一般的な用途では、
GTカーの方が乗り易い、そういう風に「製品の
設計コンセプトが異なる」のだと解釈している。

しかし、前述のD.D.ダンカン氏が好評価を下した
NIKKORの「シャープな解像感」という長所は、
その後の時代において、良くも悪くも、NIKKORの
レンズの特徴となっていた。まあつまり「解像感を
重視すれば、報道分野では好まれる」という風に
NIKKORレンズは報道や学術分野に特化した特性を、
レンズ設計コンセプトとしていった状況であった。

こうしたコンセプトのレンズを、様々な撮影用途に
用いようとすると、「カリカリ描写でボケが固い」
という弱点を併せ持つから、被写体によっては
使い難い要素を持つ。そしてNIKKORの銀塩MF時代の
レンズの大半が、そうした解像感を高めた設計思想
であったから、個人的には「使い難い場合も多い」
と感じていた次第であった。

なので、今回紹介の4本は、そうした解像感重視の
NIKKORとは、全く違うもの(設計思想)として、
個人的には興味深く思っている次第だ。

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さて、次のNIKKOR大口径(中)望遠
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レンズは、NIKON Ai NIKKOR 105mm/f1.8S
(中古購入価格 41,000円)(以下、Ai105/1.8)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

1981年に発売された、単焦点MF大口径中望遠レンズ。
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本レンズAi105/1.8は、レンズ構成枚数が少ない事
(5群5枚。NIKKORレンズではテッサー型薄型レンズ
 2機種と135mm系オールドNIKKOR数機種を除き、
 5枚が最小構成(最少レンズ枚数)である)
を起因として、諸収差の補正が設計上行き届いて
おらず、現代的視点からは、解像感の不足と、
頻繁なボケ質破綻が目立つ、問題児レンズである。

よって「弱点回避の為には、NIKON一眼レフでの使用は
適さない」という判断で、従前の記事では、APS-C型
ミラーレス機SONY NEX-7で使用していた事もある。
しかし、ミラーレス機使用でも様々な弱点をカバーする
事が困難であり、またNIKONオリジナル機体に回帰だ。
現状、あれこれと試してみて、限界性能チェックとか
レンズの用途開発を進めている段階となっている。

まあ、NIKON F(Ai)マウントMFレンズの長所としては、
「およそあらゆる現代カメラで利用できる」という
高い汎用性がある事だ。

現代のシニア層が良く持っているニーズで、
「昔、憧れたNIKKOR高級レンズ(システム)だから
 NIKON(フルサイズ)機で使いたい」
という発想では、レンズの様々な弱点がモロに出て
しまい、憧れの「夢」を壊す事になりかねない。

高級(高額)レンズであればこそ、その長所をちゃんと
活かして使う必要がある。それはユーザー側の責務で
あり、非効率的な使い方をして、レンズの性能が
引き出せないまま使っているのは、残念ながらユーザー
側の責任(課題)だ。

で、もしそんな状態で、オールドレンズの昔の時代の
設計・技術水準を所以とする「低描写性能」が不幸にも
露呈(強調)されてしまった場合、概ねユーザー層の
反応は、以下の2種類のいずれかであろう。

「やはりオールドレンズだ、たいした事が無い」

「オールドレンズには”味”がある、これは現代の
 レンズでは得られない特性だ」

まあ、前者は、期待しすぎて肩透かしを食らった悲観
タイプ、後者は苦労(手間や金銭)をして手に入れた
ものだから、その行為を正当化(言い訳)するタイプだ。

だが、このどちらも、あまり好ましく無い発想だ。
本来、ユーザーは、そのレンズの(オールドであろうが、
現代レンズであろうが)特性を、ちゃんと理解し、その
弱点を回避し、長所を引き出して使わないとならない。
あるいは逆転の発想で、短所を強調し、現代レンズでは
まず得られない表現を得れる場合もあるだろう。

で、そのいずれの場合でも、まず最初にやるべき事は、
そのレンズの長所短所を、できるだけ把握する事だ。
次いで、その長所短所を、どのようにコントールしたら、
どんな時に、どんな表現効果が得られるのか?を考察し
それを(技能で)実践していく必要がある。

その措置をやらない(出来ない)場合は、本ブログで言う
「レンズに撮らされてしまっている状態」となってしまい、
ゴースト、フレア、ボケ質破綻、低解像感、低コントラスト
歪曲収差、色収差、ボケの口径食、カラーバランスの乱れ、
といった、弱点ばかりが出てくる写真を撮る羽目になり、
「やっぱり古いレンズだ」または「味のある写真だ」
などという評価しか出来なくなってしまう訳だ。

(注:世間によくある「オールドレンズで撮った写真」
と称するものには、意図的に、悪い写りの写真を選んで
いるケースも存在する。それを「商品」と見なす場合は
「オールドレンズ」と銘打つ以上、閲覧者や消費者は、
酷い写りのものを期待する為、そういうコンセプトとなる)

でも、ある意味、そのレンズに失礼な話とも言えよう、
最も良い部分を評価できず、悪い側面ばかり気にして
いる訳だからだ。でも結局、真実が見えないのは、
初級中級層であればやむを得ないだろう・・
逆に言えば、上級レベルになりたいのであれば、
レンズの特性を自らの手の内で完全にコントロールする
必要がある。

こうした事を、故事ことわざでは「弘法、筆を選ばず」
と呼ぶ。まあつまり「使う道具の長所短所は、使う側で
見極めて、ちゃんと使いこなしなさい」という意味だ。
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さて、前置きが長くなったが、本Ai105/1.8である。
前述のように、少ないレンズ構成が原因となり、
撮影条件(絞り値、撮影距離、背景距離等)の複合
要因により、解像感やボケ質等の描写力全般の制御
が、かなり難しいレンズである。

基本的には、現代レンズに比べて、多くの撮影条件
で描写力が劣ってしまうだろう。
ただまあ、上手くピンポイントで、本レンズの特性
に合致すれば、他の一般的なAi時代のNIKKORや
現代レンズでは得られ難い、独特の柔らかい描写・
表現が得られる。

ここもまた、今回紹介の4本の大口径望遠の共通の
特徴である。

しかし、着目点としては、この時代の光学技術全般
では、大口径化を優先すると、どうしても諸収差を
完璧に補正する事は困難だっただろうと思われる事だ。

なので、大口径化した事で、必然的にこうした
柔らかい(つまり、残存収差により「甘い」)描写
が得られたのか? あえて、こうした柔らかい描写に
なるような設計コンセプトだったのか? はたまた
両者の要因が複合してそうなったのか? そのあたり
「鶏と卵と、どちらが先だったのか?」は、不明だ。
まあ、そのあたりは当時の設計者でなければ、わから
ない、細かい様々な事情があったのだろう。
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総括だが、本Ai105/1.8に関しては、弟分の名玉
Ai105/2.5系レンズが、各(MF)時代において存在
しているので、それとの選択が難しいところだ。

私は、そのAi105/2.5は銀塩時代に愛用していたが、
事情により譲渡。後年に買いなおそうとしたが、
私が想定している中古相場より高額に感じたので、
再購入を見送り、本レンズを入手した次第だが・・
後日、そのAi105/2.5系レンズも入手した事で、
両者が、まったく別物の特性であった事が理解できた
以上、両者の選択は、あくまで利用者毎の用途次第
という状況であろう。

「大口径版の方が常に良く写る」という事実は全く
無いし、むしろこの組み合わせに関しては小口径版
のAi105/2.5の方が、総合的な描写力は高い。
本レンズを選ぶ理由は、あくまで同時代のNIKKOR
レンズの中では、かなり特異な特性を活用したい、
という、その1点である。

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では、3本目のNIKKOR望遠システム。
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レンズは、NIKON Ai NIKKOR 135mm/f2
(中古購入価格 47,000円)(以下、Ai135/2)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1977年発売の単焦点MF大口径望遠レンズ。
_c0032138_12595637.jpg
重量級のレンズであり、使用する事がとても困難な
「修行レンズ」に近い状態の難関レンズだ。

「重量級レンズには重量級カメラをあてがう」と
よく言われているが、それは銀塩時代での常識であり
現代には当てはまらない。現代においては、銀塩
時代のように三脚を立てて撮る撮影技法は一般的では
無いし、「ピントリング位置=システムの重心位置」
という公式も、AFシステムが一般的である現代では
適用されない。

今回、SONY NEX-7という、Ai135/2の1/3近くも
軽量な母艦を使用しているのは、そういった検証
の意味もある。まあ、確かに、このシステムでは、
トータルの重量は相当に軽減され、ハンドリング
性能は向上する。さらには、ほとんどレンズだけを
支えてホールディングしている事となり、システム
全体の重心位置も、上手くピントリング位置に来る。

ただ・・ 課題は、この状態からピントリングが
廻し難いのだ。やや老朽化していて重く、かつ回転角
の大きいピントリングを廻す為には、左手が一瞬離れ、
瞬間的に右手だけでシステム(カメラ+レンズ)全体
をホールド(保持)しなければならない。

これを繰り返す事においては、相当に疲労するので、
やはり「修行レンズ」だ。

そして、もし重量級システムだと、この課題はさらに
右手にかかる負担が大きい、これはもう「修行」と
いうよりも「肉体トレーニング」の領域である為、
写真を撮っていても、あまり楽しめないかも知れない。
仮に、腱鞘炎にでもなったら、何の為の写真撮影の
趣味なのか?もわからなくなってしまう。

結局、いずれにしても、本レンズAi135/2の
使い勝手は、決して優れたものでは無い事となる。
_c0032138_13001419.jpg
ただまあ、嬉しい事に「修行レンズ」ではあるが、
修行の甲斐は得られるレンズであり、本レンズの
描写表現力は、この時代のレンズ全般の中では、
かなり高い部類に属する。

4群6枚というシンプルなレンズ構成であるが、
本レンズに関しては、レンズ枚数の少なさに起因
する収差の発生は、ほとんど気にならないレベル
である。解像感はあまり高く無いが、ボケ質や
その破綻頻度等において優れるレンズだ。
コントラスト特性も高く、望遠域での被写体状況
(例えば、中遠距離撮影となり、天候や光線状態に
応じてコントラストが低下しやすい)・・において
適正な設計コンセプトと性能である。

この結果、私のレンズ評価データベース上では
本Ai135/2の描写表現力は4.5点(5点満点中)と
高得点であり(オールドレンズ中、最上位か?)
トータルでの総合評価点は3.8点と、名玉の条件
の総合4.0点以上に迫る、準名玉と評価している。

別シリーズ記事「ハイコスパレンズBEST40」では
本Ai135/2はオールドレンズながら、現代レンズ
に混じって、第38位にランクインしている。
”それでは順位が低い”と思うかもしれないが、
このランキングの対象となっていた三百数十本
のレンズの中では上位1割相当のポジションだし、
そもそも高価(入手価格47,000円)なレンズで、
ハイコスパのランキングに入るのは相当な快挙だ。
_c0032138_13001407.jpg
弱点としては、前述のように特にピント操作が難しい
事である、重量級(約860g)のレンズであるから、
ピント操作に大きな疲労を誘発する「修行レンズ」
である事は覚悟して使う必要があるだろう。

そして、現代においては、やや入手性が低く、
中古相場も若干プレミアム化していて高額だ。

チラリと前述したように、NIKONのAi系の大口径
レンズは、現代のシニア層の、若い時での
「憧れの高級レンズ」であった為、現代において
それらを欲しがるニーズが多く、結果的に中古
相場の高騰を引き起こしてしまっている。

ここで、団塊の世代(1940年代末生まれ)の
年齢とNIKON機の歴史を比較してみよう。

1960年代=(団塊の世代は)10歳代。
 NIKON FやNIKKOR AUTO等の製品があるが、
 この年代層では、カメラに興味を持つ事は
 まず無かったであろう。

1970年代=20歳代。
 NIKON F2やAi NIKKORの時代。
 そろそろ家庭や趣味を持つ年代ではあるが、
 まだ収入も潤沢では無いだろうし、当時は
 高度成長期の終焉、およびオイルショック等に
 よる、物価の大きな上昇の時代でもあるから、
 これらのNIKON製品に憧れていたとしても、
 なかなか購入する事は困難であっただろう。
 (→だから後年において購入ニーズに繋がる)

1980年代=30歳代。
 NIKON F3やAi~S NIKKORの時代。
 高度成長期も終わったが、生活の多様化や
 充実化が現れた時代である。例えば海外旅行等も
 一般的になりつつあり、家庭での電化製品等も
 ほぼ全てのアイテムが普及した時代だ。

 収入レベルも高まってはいるだろうが、家庭や
 生活を優先にするならば、住居、車両、子供の
 養育費等、色々と、お金がかかる世代でもある。
 カメラに興味があったとしても、依然高額な
 これらのF3や高級NIKKORを買うのは難しい。 
 (低価格な一眼レフも色々発売されていた時代だ)

 で、この1980年代末より、世情は空前のバブル期
 に突入、消費のフィーバーが続いていたとしても、
 あまりカメラを購入したいという話にはならない。
 (だから後年において購入ニーズに繋がる)

1990年代=40歳代。
 NIKON F4/F5、AiAF NIKKORの時代。
 バブル経済が弾け、消費は大きく低迷した。
 カメラは、AF化が完了したが、それらは、どうも
 量産工業製品のようなイメージであり、購入意欲
 や所有満足感を煽るようなものでも無い。

 1990年代後半(団塊の世代が50歳前後)より、
 これまでの時代のF2やF3に憧れたニーズが爆発、
 ブームの火付け役は団塊の世代(のマニア層)が
 中心だったのかも知れないが、多くの団塊世代や
 他の世代層にも広く伝播し、この後の空前の
 「第一次中古カメラブーム」に繋がる。

2000年代=50歳代。
 デジタル化の時代だ。この時代にフィルム市場は
 ほぼ終息し、同時に(銀塩)中古カメラブームも
 終了した。カメラブームの末期には投機的観点から
 レアな機材に高額すぎる相場がついていた事も
 急速にブームが終焉する原因となっていただろう。
 で、その後、銀塩カメラや銀塩用レンズのブーム
 の再ブレイクは無かった。(=フィルムは無く、
 銀塩用レンズはデジタル機では使い難かった為)

2010年代=60歳代。
 カメラは、フルサイズ化等で高付加価値化された。
 まあ、カメラ市場が(スマホ等の普及で)縮退して
 しまった為、高価な商品を売らないと儲けが出ない。
 
 団塊の世代は、リタイアして悠々自適だ。
 時間を持て余して、趣味で写真を撮りたいと思う
 人達は大変多い。そうなれば現代の高級NIKON機も、
 既に退職金等で入手しているケースも多い。
 後はレンズだが、若い頃、F2やF3の時代に憧れた
 NIKKORの高性能レンズを、今にして欲しいという
 ニーズは非常に大きいであろう。
「それらであれば、フルサイズのNIKON機に付くし
 若い時に買えなかった憧れのシステムが実現できる」

かくして、2010年代後半、すなわちNIKONデジタル
一眼レフの高級機が殆どフルサイズ化された時代
となると、NIKKOR Ai系レンズのうち、高級仕様
(例:大口径レンズ等)や、レアなレンズ
(例:超望遠、超広角、パンケーキ等)そして
果ては一般的なAi系レンズ(例:Ai105/2.5)に
至る迄、中古市場では一斉に高騰してしまった。

すなわち、「高くても買いたい」という消費者
(主に団塊の世代だ)が、とても多いのであれば、
そこに高く売る事は、当たり前の市場原理だからだ。

勿論、そこには「投機的」要因も絡む。
「より高価に転売できるかも知れない?」と思う
投機層や流通市場の意図があれば、希少レンズは
ますます高額相場での取引が加速されてしまう訳だ。
(→個人的には、実用製品であるカメラやレンズ
での、こうした投機的措置は、まったく好まない)
_c0032138_13002033.jpg
歴史の説明が長くなったが、こういう理由から
現代(2020年代)において、NIKKOR Ai系レンズの
中古相場は、やや不条理なまでに高額である。

私が毎回レンズ紹介記事で書いている「入手価格」
は、適切な時代に適切な価格で入手している為に
比較的安価ではあるが、現代において、各レンズの
「その相場を検討するの為の参考」とするべき目的
で記載しているのだが、もはや、ここに書かれている
ような価格での入手は困難であるかも知れない。

しかし、高価すぎる中古相場では、今度はレンズも
売れなくなるので、相場下落を招くケースも
過去、多々あった歴史である。
ただまあ、10年とか、そういうタイムスパンで
しか、相場は変化していかないので、今すぐにでも
欲しいという場合は、よくよく検討して、本当に
そこまでの高値相場を納得できるか否かは、
ユーザー(消費者)側で慎重に判断する必要がある。

----
では次は、今回ラストのシステム
_c0032138_13002016.jpg
レンズは、NIKON Ai NIKKOR ED 180mm/f2.8 S
(中古購入価格 28,000円)(以下、ED180/2.8)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

1981年発売の、MF単焦点望遠レンズ。
_c0032138_13002008.jpg
この180mm/F2.8の系譜は古くから続いている。
最初期のバージョンは、恐らくは1970年の
NIKKOR-P AUTOであり、これは報道機関向け専用
(後に一般向け発売)であったと聞く。オリンピック
や万博等のイベント撮影向け、という要素もあった
事だろう。

戦後のNIKONにおいては、独CONTAX(ツァイス)
の製品仕様や市場戦略を踏襲する事が大変多かった。

具体例としては、NIKON Sシリーズのレンジファインダー
機は、旧CONTAXレンジ機のほぼコピー品であるし、
レンズもゾナーのコピー品等(前述の、D.D.ダンカン
が褒めたNIKKOR-P 85/2等)であった。

「オリンピックに向けて180mm/F2.8をリリースする」
という市場戦略も、そっくりCarl Zeiss に前例が
あり、それは、1936年のベルリンオリンピックの
際に、Carl Zeiss Jenaが「国家の威信をかけて」
(注:当時のドイツは、ヒトラー政権であった)
開発した、通称「オリンピアゾナー」180mm/F2.8
が、それである。

(参考:1982年に、京セラCONTAXが(RTS)Sonnar
180mm/F2.8を発売する際、当初、そのレンズには
「オリンピアゾナー」の愛称が与えられる予定で
あったと聞くが、実際の発売時にはその名称は
消えている。恐らくだが「戦時下でのプロパガンダ」
の出自がわかったので、好ましくないと見なされた
のであろう→「最強200mm選手権」記事等を参照)

で、NIKON(NIKKOR)の180mmは、発売後何度かの
マイナーチェンジを繰り返し、本レンズのバージョン
からは、ED(特殊低分散ガラス)を用いたレンズ
を搭載している。

レンズには色収差がある。これは光の波長毎に
屈折率が異なる為であり、特に望遠レンズ等では
各色(波長)が一点に集まらずに、ボケた描写に
なってしまう。

そこで、色ごとの屈折率の差(これを「分散」と
呼ぶ」を、色分散の異なる2枚のレンズを使用して
差を打ち消し合って色収差を消そうとする。
(参考:色収差には2種類があり、軸上色収差は
絞り込む事で低減するが、倍率色収差は、絞って
も解消されない。硝材を工夫する等しか無い訳だ)

その際、一般的なガラス素材では、そこまで都合の
良い「色分散」特性を持つものは少なかった為、
新素材の「特殊(異常)低分散ガラス」の開発が
進んだ訳だ。

NIKONでのこの技術の採用は、他社に比べて早い方
である。ただ、この後の時代、この技術は各社で
一般的となり、ED、LD、UDなど、各社様々な名称で
呼ばれていた。(注:「APO」銘もこれに準じる)
2000年代頃までは、各レンズ名に、EDやLD等の
型番が付与され、「特殊(異常)低分散ガラスを
使っていますよ(色収差が少なく、高画質ですよ)」
という点をユーザー層にアピールしていたのだが・・

同じ2000年代頃には、殆ど全ての新鋭レンズに
こうした技術を用いたガラスレンズが普及した為、
2010年代以降のレンズでは、そうしたEDやLD等の
型番を付与するケースは大幅に減った。
(→さらに新しい技術(例:異常分散+非球面)
も出てきている為、ED銘等のままでは「古い技術」
というネガティブな印象も出てきた事もある。
また、これらの新硝材の進歩は、カメラメーカー側
というよりも「ガラスメーカー」側の技術に起因
する部分もあり、多くのカメラ・レンズメーカーが
少数のガラスメーカーから類似の新硝材を仕入れて
使っている状況からは、最終レンズ製品における
他社との差別化要因には成り難いという理由もある)
_c0032138_13002007.jpg
さて、という事で、本レンズED180/2.8は、その
発売時には技術的、性能的優位点は、他社製品に
比べて確かにあったと思う。
ただし、ライバルレンズが1本存在している、それは
チラリと前述した本レンズの翌年1982年に発売された、
京セラCONTAX (RTS) Sonnar T* 180mm/F2.8 (AE)
である。

本レンズED180/2.8が、本記事で紹介している他の
同時代のNIKKOR大口径望遠と同様に、やや柔らかい
描写コンセプトを持つ事に比較し、京セラCONTAXの
ゾナー180/2.8は、少し絞るとキリキリとした
解像感を持つ描写力を備え、おまけに最短撮影距離も、
本レンズの1.8m(焦点距離10倍則通り)に比較し、
ゾナーの方は、1.4mと、近接撮影にも強い。

ただまあ、両者は全くの別物の設計コンセプトとも
言えるだろうから、どちらが優れているか?という
判断はしにくい(出来ない)

どちらか目的に合うものを買えば良いし、どちらも
気になるのであれば両方買ってしまっても悪くは無い。
ちなみに、両レンズとも、銀塩時代には、5~8万円
もの、かなり高額な中古相場であったのだが、
近年においては180mm/F2.8級MF単焦点望遠は、
不人気なカテゴリーとなっていて、2万円前後位
から購入できる場合もある。両レンズは、特性は
異なるものの、総合的な描写表現力はどちらも優れて
いるので、中古相場と比較すると、コスパが、かなり
良い状況だ。
_c0032138_13002530.jpg
ED180/2.8の総括だが、なかなか優れた望遠レンズだ。
現代においては、180~200mm級単焦点は、望遠系の
ズームに含まれる焦点距離であるから、一般層では
購入する事はまず無いだろう。(ましてやMFレンズだ)

ただ、もし中古相場が安価(1万円台等)なものを
見かけたら試しに買ってみる、という選択肢は十分に
ある。NIKONやCONTAXのF2.8級MF望遠のみならず、
CANON(AF/MF)やMINOLTAの200mm/F2.8(AF)も、
非常に良く写るレンズであるので、現代のズーム
レンズ派にも十分に推奨できる。

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さて、今回の「Ai NIKKOR大口径望遠編」記事は、
このあたり迄で・・ 次回記事に続く。

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