新規購入等の理由で過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回は未紹介レンズ3本と、再掲レンズ1本を取り上げる。
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まず、今回最初のレンズ
![_c0032138_17300855.jpg]()
レンズは、SIGMA 70-300mm(D)/f4-5.6 APO DG
(中古購入価格 5,000円)(以下、APO70-300DG)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)
正式型番不明、例によってSIGMA製の古いレンズは
正式名称等の情報が殆ど残っていない。
上記の型番は、レンズ上の様々な位置に順不同で記載
されている文字を並べたものである。
また、SIGMA製の同等のスペックのレンズは、1980年代
後半~2010年代位まで、数十年間に渡ってマイナー
チェンジが繰り返されたものであり、毎回少しづつ
名称も異なっている模様で、ますます正式型番等は不明だ。
![_c0032138_17300823.jpg]()
本レンズは、恐らくは2005年頃に発売されたバージョン
であり、NIKON Fマウント、フルサイズ対応、勿論AF
だがAF型番は無い。
D型番は、NIKON用における「距離エンコーダー内蔵」
という意味であろう。
APO型番は、アポクロマートの略であり、SLD(特殊/
異常低分散)ガラスによるレンズを数枚含んだ構成に
なっていて、色収差の低減を目指した高画質仕様だ。
MACRO銘は入っていないが、後継型(MACRO銘あり)
と同等の仕様であり、200mm以上の焦点距離で手動の
スイッチ切換でマクロモードとなり、最大1/2倍の
撮影倍率が得られる。(注:APS-C機では3/4倍だ)
なお、NIKON Fマウント版では絞り環が存在していて、
(注:後継モデルでは省略されている)他機、例えば
ミラーレス機に装着する際も、通常タイプのマウント
アダプターで問題無く使用できる。
ただし、本レンズはレンズ内モーター仕様では無い為、
2009年頃からのNIKONデジタル一眼レフ普及機
(D3000/D5000シリーズ等)では、AFが駆動しない。
(注:2000年代の機種であっても、今回使用の
D300(2007年)等の中高級機であれば、AFはボディ
内からのモーター駆動で利用可能である)
また、SIGMAにおける同クラスの望遠ズームには、
昔(1990年前後)から、APO有り版とAPO無し版が
併売されていて、APO無し版はレンズ構成等が異なる
廉価版となっている。ちなみに詳細は不明であるが、
発売時(2005年)の定価は、APO有りが65,000円強
APO無しが50,000円弱と、3割程度の値段の開きが
あったと思われる。
70-300mm級望遠ズームのAPO版は、いつの時代の
ものであっても、そこそこ高描写力であり、前機種
および前々機種もAPO版で所有していて、過去記事で
紹介済みだ。(いずれ機会があれば、SIGMA APO版
望遠ズームの比較特集記事を組んでみるとしよう)
![_c0032138_17300841.jpg]()
さて、ざっくりと長所短所を述べておこう。
長所としては、まず高い描写力がある。
この点は、さすがにAPO仕様だ。いや、正確に言えば
APOである事がイコール高画質という訳では無いのだが、
このクラスのSIGMA望遠ズームには、APO版と非APO版
が併売されていた事は前述の通りだ。
その際、非APO版は、当然低価格であるが、それでも
他社同等仕様品に比べて写りが負けていたら勝負に
ならない為、最低限の性能は持たせて設計されている。
で、APO版は、その非APO版を遥かに上回る描写力で
無くてはならない。何故ならば、ユーザーや評論家等が
両者を比較した場合、APO版が明らかに高描写力でなけ
れば値段の差を納得してもらう理由が無いからである。
つまり、そうした市場戦略/ラインナップ上の理由から、
APO版は非APO版に比べて高描写力である事が保証されて
いる状態だ。
この理由で私は、このクラスのSIGMA望遠ズームを
購入する際は、必ずAPO版を買っていたが、ある時、
非APO版との違いが気になり、非APO版ズームも購入
してみる事とした、その評価は本シリーズ第30回記事
でも記載しているが、まあその検証で分かった事は、
「どうやってコストダウンするのか?」あるいは
「どの性能を妥協する事で、品質の差を作り出すのか?」
という部分であった。
まあつまりローコスト版レンズにおいては、例えば、
望遠端や広角端の収差補正の厳密性を犠牲にして、
それによりレンズ構成を簡略化して低価格化を実現して
いる次第であった。
まあでも、どのあたりが弱点なのか?という点が
把握・理解でき、その課題を回避しながらレンズを
活用できるスキルがあれば、別にローコスト版レンズ
でも問題にはならない事も当該記事の検証で分かった
次第でもある。
しかしながら、非APO版は、例えば望遠端に近づく程
収差補正が厳しくなってきて、解像感が低下してしまう、
せっかく望遠(ズーム)レンズを使っているのに、
望遠側で画質が落ちてしまったら、あまり意味が無い、
やはり安心して使用できるのは、そうした性能上の
妥協点(トレードオフ)が殆ど無いAPO版であろう。
さて、長所のもう1つは、MACRO機構である。
本レンズは、MACRO銘を冠していないのだが、ズーム
リングを200mm以上に廻すと(手動)MACROスイッチ
を切換える事が出来るようになり、MACROモードでは、
最短撮影距離が、1.5m→0.95mと大幅に短縮される。
その最大撮影倍率は1/2倍であり、これはフルサイズ
対応レンズだから、APS-C機では3/4倍、μ4/3機や
NIKON APS-C機の1.3倍クロップ機能を用いれば、
等倍(1:1)撮影が可能となる。
まあ、殆ど望遠マクロレンズとも言える仕様であり、
遠距離撮影のみならず、中近距離の撮影、例えば花や
昆虫等の自然観察撮影にも向いているであろう。
ただし、スイッチをMACROモードに切り替えた後は、
当然近接撮影を行う。しかし、AFまたはMFでピント
リングが1.5mより短い距離となっている場合には、
MACROモードをNORMAL側に戻す事ができず、ピント
を1.5m以上にした後で無いと切換スイッチは戻せない。
(注:MACROモードのままでも無限遠撮影は可能だが、
レンズ鏡筒が伸びた状態なので、カメラバッグ等への
収納が厳しくなる)
![_c0032138_17300857.jpg]()
それから、弱点だが、まず上記MACROモードの操作性は、
やや煩雑である。まあ、これは本レンズの話に限らず
銀塩時代からのMACROモード付きズームレンズの殆ど
全てで同様なのだが、それにしても操作性は良く無い。
次いで、上記に関連しAF/MFの切換スイッチが無く
シームレスMF仕様でも無い、したがって、AFからMF
に移行するには、一々カメラ側での、AF各種/MF切換
レバー等を操作する必要があり、操作性に劣る。
特に、MACROからNORMALに切り替える為にピントリング
を1.5m以上にする際にも、MFの操作性の悪さは感じる。
「NORMALに切り替えるのは、鏡筒の収納の為もある」と
前述したが、たった、それだけの理由でピントリングを
強制的に廻す(本体とカプラー直結で重いし、ギコギコと
言って、壊れないか?と心配だ)のは少々馬鹿馬鹿しい。
さらなる弱点だが、超音波モーター等は内蔵されていない
レンズである為、AFが遅い。
ただまあ、遅く感じるのは、近距離撮影と遠距離撮影を
AFが行き来するケースであり、近いピント距離(例えば
10mと∞)であれば、さほどAFは遅くない。
しかしながら、飛ぶ鳥等をAFで捉えようとする場合、
測距点を外してしまうと、AFが迷って、ピントが近距離
まで一度戻ってしまうので、物凄く合焦時間をロスする。
そういうケースでは、最初からMFで使うか、または、
不意に現れた飛ぶ鳥等で、MFに切り替える暇が無い場合
(カメラ側の操作が必要だから)は、もうAF測距点を
絶対に外さないようにする、等の高度な撮影技法が要求
される。(動体撮影を何十万枚も実践しないと、こういう
スキルは身につきにくい。ビギナー層では困難な技法だ)
ちなみに、手ブレ補正機能は内蔵されていないが、
日中明所での撮影の際は課題にはなりにくいであろう。
例えば、ボディ内手ブレ補正機構のない、NIKON/CANON
(デジタル)一眼レフでは、多くの機種で、AUTO-ISOの
低速限界が設定できる。
APS-C機の場合、望遠端300mm x1.5(APS-C)=450mm
の換算焦点距離であるから、ビギナー層での手ブレ限界
速度を「焦点距離分の1秒」と見なせば、AUTO-ISOでの
低速限界を1/500秒としておくだけで、手ブレ補正機能の
十分な代用となる。
仮に、安易に高感度になりやすい環境(弱暗所、室内等)
であれば、腕前があるならば、1/250秒程度の低速限界
設定でも手ブレはしにくいであろう。
より暗所(例:舞台、ステージ等)に持ち出すような
レンズでは無い訳だし、そういうケースでは大口径
(開放F2未満)レンズの方が使い勝手が良い。
だから本レンズに手ブレ補正機能(SIGMAではOSと呼ぶ)
が無い事を、弱点とは見なす必然性は殆ど無い。
他の弱点は特に無い、仕様上の制限事項(内蔵モーター
無し、手ブレ補正無し)等を良く認識して使い、かつ
入手価格が安価(概ね1万円未満)であれば、なかなか
コスパが良いレンズと見なす事が出来ると思う。
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さて、次のシステム、
![_c0032138_17301958.jpg]()
レンズは、SIGMA ZOOM-δ 75-250mm/f4-5
(ジャンク購入価格 1,000円)(以下、ZOOM-δ)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)
詳細不明、恐らくは1970年代後半と思われるMF望遠
ズームレンズ。
δは「デルタ」と読む。この時代のSIGMA製ズームの
型番には、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、
δ(デルタ)・・等のギリシャ文字が付けられていた。
(注:1985年のMINOLTA αの誕生(=αショック)
以降、そのインパクトが高かった為か? 各社では
ギリシャ文字型番を使わなくなったと思われる)
マウントはOMであったが、基本的にオールドレンズ
であり、ジャンクコーナーに安価に置かれていたものを
サルベージ(=中古の群れの中から引き上げる事)した。
![_c0032138_17301921.jpg]()
最短撮影距離は2mと、やや長めであるが、発売当時は
「アクロマティックマクロレンズ」と呼ばれていた
一種の「クローズアップレンズ」を装着する事で、
最短撮影距離を66cmまで短縮できたと聞く。
ただ、そういう使い方をするならば、一般的な
フィルター型のクローズアップレンズを使えば同等な
効能を得る事は出来るであろう。それに、当然ながら
クローズアップレンズを装着すると、無限遠が出なく
なるので、現代の感覚では近接撮影の為にフィルターを
着脱する等の面倒はしたく無い。近接撮影をしたいの
であれば、ズームでは無くマクロレンズを使えば、
それで済む訳だ。
ただまあ、本レンズの時代背景はTAMRON SP90/2.5
(Macro )(52B、初期型)の発売時期と、ほぼ同時代で
あったので、まだマクロレンズは一般的に普及して
いた訳では無かった。なので、クローズアップレンズ
というアタッチメント(付属品)は、十分な存在意義や
価値があった時代でもある。
さて、最短撮影距離の長さの課題よりも問題なのは、
本レンズZOOM-δの逆光耐性が劣悪な事だ。(下写真)
![_c0032138_17301961.jpg]()
ちょっとした逆光でフレアっぽくなり、コントラストが
大きく低下する。
光線状況で大きく描写力が変化してしまうので、本ブログ
では、このような状況を「天国と地獄」と呼ぶ。
これは、カビまたはクモリの発生しているレンズの症状と
類似だが、レンズを透過して目視した感じでは、なかなか
そうした問題点は発見しずらい。
SIGMA製の1990年代以前のレンズでは、コーティング等
の経年劣化で、こうした症状になり易く、他にも
SIGMA製オールドレンズで、残念ながら同様な状況に
なったものを数本持っている。
この場合、発売当初から、こういう(低い)性能であった
のか、経年劣化により、低性能化してしまったかは不明だ。
![_c0032138_17301981.jpg]()
逆光耐性の課題を回避しながら撮れば、そこそこ良く
写るレンズではあるが、性能劣化の課題が大きいと
思われるので、詳しい評価は避けておく事にしよう。
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では、次のレンズは再掲だ。
![_c0032138_17303084.jpg]()
レンズは、NIKON ぎょぎょっと20 (Fisheye Type
20mm/f8)(中古購入価格 7,000円相当)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
1995年に初出、および再生産品が2000年に発売された
「ニコン おもしろレンズ工房」の変則レンズ3本
セットの内の1本、魚眼風固定焦点レンズである。
![_c0032138_17303090.jpg]()
本レンズは再生産品と思われ、希少価値から、やや
プレミアム相場化(セット中古価格は発売時同様の
約2万円)していたのだが、近年に「おもしろレンズ
工房」のセットを中古市場で見かけた時には、3本で
1万円以下の適正な相場となっていたので、もはや
投機的な意味合いも薄いレンズセットである。
(つまり、「投機層」は「NIKONの限定品」と聞けば、
後年の値上がりを期待して、それらを購入するのだが、
勿論、実用に使う訳でもなく、死蔵しておくだけだ)
これらはエントリーレンズでもあり、高性能という
訳でも無いので、死蔵せず、ガンガンに使ってあげる
のが良いであろう。
そういう観点で、私も稀に「おもしろレンズ工房」も
フィールド(野外)に持ち出して使う事としている、
なので、本記事で再掲した次第である。
過去記事で何度か紹介したレンズであるが、まあ、
本シリーズ記事は新規(購入)レンズの紹介に限定して
いる訳でも無いので、そのあたりは良いであろう。
近年の紹介記事では「特殊レンズ第13回おもしろレンズ
工房」編に詳しいので、興味があれば別途参照されたし。
![_c0032138_17303044.jpg]()
さて、本「ぎょぎょっと20」の仕様であるが・・
焦点距離20mm(勿論フルサイズ対応)、対角線魚眼風
の写りが得られるが、撮影画角は153度で、本格的な
魚眼レンズ(画角180度)までの仕様は満たさない。
絞りはF8で固定されていて、絞り機構(環)は持たない。
ピント位置は1.6mに固定され、ヘリコイドは持たない。
パンフォーカス(≒固定焦点)型であるから、最短
撮影距離の制限が厳しく、ピントが合うのは、概ね
1m以遠となっている。
魚眼レンズで近接撮影が出来ないと、作画意図が
著しく制限される。(例:昔に流行した「鼻デカの
ペットの写真」のような雰囲気では撮れない、等)
で、「何故そんな制限だらけのレンズが発売されたか?」
という点だが・・ これは、1990年代中頃当時での、
バブル崩壊、阪神淡路大震災等の世情を受け、ユーザー
ニーズが激変し、当時の銀塩(AF)一眼レフ市場が縮退
(=カメラが売れない)してしまっていたからだ。
そうした縮退市場においては、メーカー等でも、何か
思いきった企画を行わないと、商品が売れずに、ジリ貧と
なってしまう。
そういう意味と状況で、NIKONとしてはかなり珍しい
「エントリーレンズ戦略」を実施した訳だ。
(何故、NIKONが実施するのが珍しいのか?は、NIKONは、
基本的に高付加価値戦略のメーカーだからだ。詳細後述)
「エントリーレンズ」とは、安価で高性能、又はユニーク
な仕様の(一眼レフやミラーレス機用)交換レンズを発売
し、「お試し版」としてレンズを購入して使っていただき、
ユーザー層に「レンズ交換の楽しさ」を伝えるとともに
当該メーカーのファンになってもらい、その後の、高額な
高付加価値型機材の販売に誘導したり、あるいは何本かの
レンズシステム等を揃えた事で、他社システム等への
乗り換えを防ぐ「囲い込み」戦略である。
他(社)にもエントリーレンズの実例はいくつもあるし、
(「特殊レンズ第24回エントリーレンズ」編記事参照)
交換レンズの市場以外でも、化粧品の試供品であるとか
食品、パソコン用ソフト等で、こうした事例は沢山
あるので、理解は容易であろう。
ただし、3点注意点がある。
1)エントリーレンズは、次に繋げる(購入を喚起する)
自社高額商品が無いと市場戦略上で意味が無い。
したがって、例えば2010年代後半からの、中国製等
の海外格安レンズは、次に繋げる高額商品が無いケース
が多く、それらはエントリーレンズとは呼び難い。
2)エントリーレンズ(あるいは他市場における試供品等)
を販売するという事は、その市場は結構危機的な状況に
あるケースが多い。カメラ界で、それらが集中的に
行われたのは、1990年代前半におけるバブル崩壊後の
カメラ市場縮退と、2010年前後における、スマホや
ミラーレス機の台頭による、一眼レフ市場の縮退の
2つの時代が代表的だ。
メーカーや流通としても、できれば高額な商品を
ユーザーに買って貰いたい、だが、それが困難だから
エントリーレンズを発売する訳だ。
逆に言えば、市場が活性化していて、高額な商品が
バンバン売れる状況、あるいは、安価な試供品を出しても
もうユーザーが興味を持ってもらえないほど冷え切った
市場状況においては、エントリーレンズ等の新規発売は
され無い事が普通である。
3)カメラメーカーは、比較的レントリーレンズ戦略が
実施しやすいのだが、レンズ専業メーカーにおいては、
エントリーレンズを発売したところで、次にユーザーが
再び自社の高額レンズを買ってくれる保証は無い。
(次は、メーカー純正品に行ってしまうケースが多い)
故に、レンズ(専業)メーカーでの、こうした商品は
殆ど前例が無く、あえて言うならば、2010年代前半に
SIGMAから発売されたDC DNシリーズ・ミラーレス機専用
低価格帯レンズ(19mm/F2.8,30mm/F2.8,60mm/F2.8)
あたりに実例が留まると思う。
そして、エントリーレンズは、メーカーから見れば
「損して得取れ」の戦略であるから、いずれもユーザー
側から見れば、コスパが極めて良く、お買い得である。
私の場合は「エントリーレンズと見なせるものは全て買う」
という方針であり、実際に、ほぼ全てを購入しているが、
どれもコスパが良く、長期に渡り機嫌良く使っている。
(参考:従前の「ハイコスパレンズ名玉編」シリーズ記事
では、コスパの良いレンズBEST40をランキング形式で紹介
するものであったが、上位が、ほぼエントリーレンズで
独占されそうな様相になった為、ある程度、それらの
ノミネートを制限せざるを得なかった位だ)
![_c0032138_17303020.jpg]()
さて、エントリーレンズの余談が長くなった。
本「ぎょぎょっと20」は、エントリーと言う割りには
高性能では無く、前述のように、様々な仕様的制限が
課せられてしまっている状態だ。
何故ならば、発売元のNIKONは、高付加価値(つまり
ブランド)商品の販売を主体とするメーカーであるから
あまりに低価格で、かつ高性能なものは販売できない。
この話は、NIKONに限らず、他の市場においても、
国内外での有名ブランド商品(服飾、時計、筆記具、
車両、食品、等、なんであっても)を展開する企業に
おいては、安価な商品が1つも無い事から、同様の状況
である事が理解できるだろう。
つまり、あまりに安価な商品を出してしまうと
初級ユーザーは、それを買って「NIKONを買ったぞ」と
満足してしまうし、中級等のユーザー層に対しては、
ブランドイメージの低下が懸念されるからだ。
(つまり、ブランド品の所有層から見れば「初心者等が
簡単に買うような商品では無い!」と、ネガティブな
印象を与えてしまうからだ)
まあ、そんな訳で、「おもしろレンズ工房」には、
不条理、あるいは意地悪とも言えるくらいの様々な
仕様制限が設けられている。
それらについては、前述の「特殊レンズ第13回」記事に
詳しいし、あまりユーザーが、それを知っても、色々と
不快になるだけだと思うので、本記事では割愛しよう。
なお、魚眼レンズの紹介記事では毎回書いている事だが、
上の3枚目の写真のように、構図内での直線部分を
画面中心から出る放射線上に配置すれば、その部分は
歪まずに写る。これを「魚眼構図制御」と呼んでいて、
このコントロールを自在にするのは、とても大変だが、
練習の意味で魚眼レンズを買う事は悪い選択では無い。
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次は、今回ラストのレンズ
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レンズは、安原製作所 ANTHY 35mm/f1.8
(新品購入価格 35,000円)(以下、ANTHY35/1.8)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2019年に発売された、フルサイズ対応MF準広角レンズ。
現状では、SONY E(FE)マウント版しか発売されていない
し、2020年での同社の操業停止(→安原氏の逝去)
により、今後、他マウント版や、他のシリーズレンズが
発売される見込みも、まず無い。
![_c0032138_17303731.jpg]()
さて、「安原製作所」とは、著名なカメラメーカーの
開発部勤務を辞めて独立創業した安原伸儀氏の、ほぼ
個人からなる、小さなカメラ/レンズメーカーである。
(「世界最小のカメラメーカー」と言われていた模様だ)
設計は国内で安原氏自身が行っているが、主な製造国は
中国であり、まあ、今時で言う「ファブレス企業」だ。
銀塩末期には「安原一式」というレンジファインダー機
等の製品群で一世を風靡したのだが、デジタル時代に
入ってからでは銀塩機はもう売れない。しばらくの間は、
カメラ事業から遠ざかっていたと思われるが、2010年代
よりレンズメーカーとして復活、魚眼レンズやソフト
フォーカスレンズ等のユニークな仕様のレンズを何本か
設計して販売している(これらも製造は中国と思われる)
本ブログでは、安原製作所のMOMO 100 (28mm/F6.3)
(2016年)というソフトレンズを何度か紹介しているが、
今回入手したANTHY(シリーズ)は、そうした色物では
無く、極めて本格派のレンズである。
シリーズ名ANTHYは、安原伸儀氏の、安(アン)と、
伸(シン)からの命名であろうか? 自身の名を入れた
製品は「安原一式」(1999年頃)以来であるから、
なかなか気合の入った製品なのかも知れない。
レンズ構成を見ると、ビオゴン(対称)構成に近い。
そう、私は、近年の中国製ジェネリックレンズの
殆ど全てが、「一眼レフ用レンズの構成」をベースに
設計されている事に、大きな疑問を感じていたのだ。
匠「なぜ中国製ジェネリックは、一眼レフ用レンズの
設計を使っているのか? どうせミラーレス機専用
製品にするのならば、フランジバックも短いし、
ライカやコンタックスのレンジ機用レンズの構成を
ベースにした方が、高描写力が得られるし、遥かに
効率的では無いのか?」
そういう疑問にズバリと回答を提示してくれたのが、
ANTHYシリーズの最初の製品、本ANTHY35/1.8であった。
なにせ本家(ツァイス製)ビオゴン等は、現代では入手
するのが困難であるし、しかも希少価値でとても高額だ。
(注:近代のコシナ製でのVMマウト版は存在する)
で、仮にそれらを入手したとしても、レンジ機用レンズ
の最短撮影距離は70~90cmと、とても長い。
広角~準広角のレンズで寄れないのでは、現代的な視点
からは撮影用途が限られて、あまり使う気になれない。
本ANTHY35/1.8であれば、ビオゴン系の構成でありながら
最短撮影距離は29cmと、なかなか優秀である。
![_c0032138_17303730.jpg]()
「けど、個人のメーカーでレンズの設計が出来るのか?」
という話であるが、幸い、現代では、光学設計ソフトが
(若干高価だが)市販されていて個人のPC上でも動作する。
それを動かすには専門的な光学知識が必要であるが、
ベースとなる設計(ビオゴン構成)が既にあるならば、
カメラやレンズ全般にとても詳しい安原氏ならば、
レンズ設計が可能であろう。後は、その電子図面を
近年、光学技術の発展が目覚しい、中国(深セン)なり
香港なりの新進光学機器メーカーにメールで送って、その
設計図の通りにマシン(工作機械)で作って貰えば良い。
(注:国内光学機器メーカーで作っても同様であるが、
中国で生産した方が、若干割安であろう。
もはや製造品質など世界各国で同じようなものだし、
例えば、近年の数十万円もするNIKKOR高級レンズも、
レンズの裏を見れば「MADE IN CHINA」と書いてある)
・・まあ、だから個人でも製品が作れてしまう訳であり、
何かと凄い時代になったものだ。
(すなわち、こういう時代になったから、安原製作所は
レンズメーカーに転進したのであろうと思われる)
私も、もし資金が潤沢にあるならば、光学設計ソフト
を買って、例えばアポダイゼーションのアポクロマート
レンズなど自分の好きなレンズを設計して、中国にその
データを送って、自分専用の唯一の仕様のレンズを
作って貰いたい・・ と何度か思った事はあるが・・
たった1本のレンズしか作らないと、恐らくは数百万円
いや、1千万円を超える予算が必要となるだろう(汗)
量産効果が全く得られないから、金型代とか部品代や
加工費とかの原価が、限りなく割高になってしまう。
だから、出来上がったレンズを販売しないかぎり、とても
ユーザーのオーダーメイドのレンズ等は作れる筈も無い。
(宝くじでも当たったら、考えるとしよう・笑)
さて、本ANTHY35/1.8だが、目に見える弱点は殆ど無い。
あえて言うならば、海外(中国)製造と思われ、製造精度
が怪しいところがある。この個体は、前部にフィルターが
装着し難いし、組み込みフードは緩くて動いてしまう。
また、マウント部は、しっかり廻して固定しないと
緩いままで嵌っている場合(これは危険だ)もある。
描写力的な弱点としては、フルサイズ対応レンズだが、
フルサイズ機で使うと、僅かに周辺減光が出て、かつ
周辺収差も発生する。
だが、そうであれば母艦を(今回のように)APS-C機で
使えば、それで解決である。最大撮影倍率も上がるし
慣れた50mm相当画角で、使いやすさすら感じる。
何も、わざわざ不利になるフルサイズ機に拘る必要は
無く、カメラとレンズは、その相性が優れたものを
組み合わせて使う事が基本だ(=弱点相殺型システム)
上手くシステムを組んで使えば、コントラストが高く
くっきりとした気持ちの良い描写力が得られる。
![_c0032138_17303792.jpg]()
価格(定価)は、32,000円(+税)と、やや高めだ、
同等品質の中国製ジェネリックレンズであれば、この
半額くらいの1万円台でも購入できる。
ただ、販売本数が当初は通販専門で少ないだろうから
多少割高になっているのはやむを得ない。
安原製作所のMOMO100等は、発売当初は直販のみで
あったが、後年にはカメラ量販店でも扱うようになり
そうなると数が出るから、販売価格は下落していく。
ただ、本レンズは前述の理由(ビオゴン系構成)で
ある事に、個人的には過剰に反応してしまい、発売
直後の段階で直販で買ったので、若干高価な印象と
なったのであろう。
まあ、これでも国内レンズメーカーの新鋭AF単焦点
35mmレンズと比較すれば、だいぶ安価であるし、
総合的には、コスパは良い部類に属すると思われる。
![_c0032138_17304041.jpg]()
本ANTHY35/1.8の総括であるが、
弱点が殆ど無い優秀なレンズである、しかも価格も
さほど高価ではなく、加えてマニアック度満載だ。
欲を言えば、製造精度をもう少し高めて貰いたい事だ。
MF仕様である事で、ビギナー層には推奨できないが、
マニア層には文句無く推奨できるレンズである。
(注:本記事執筆直後、2020年3月に安原製作所
の安原伸儀氏は、56歳の若さで急逝。
本ANTHY35/1.8が、遺作となってしまった。
惜しい方を無くしたと思う、ご冥福をお祈りします。
また、本レンズの新品入手は、困難だと思われる)
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では、今回の第67回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回は未紹介レンズ3本と、再掲レンズ1本を取り上げる。
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まず、今回最初のレンズ

(中古購入価格 5,000円)(以下、APO70-300DG)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)
正式型番不明、例によってSIGMA製の古いレンズは
正式名称等の情報が殆ど残っていない。
上記の型番は、レンズ上の様々な位置に順不同で記載
されている文字を並べたものである。
また、SIGMA製の同等のスペックのレンズは、1980年代
後半~2010年代位まで、数十年間に渡ってマイナー
チェンジが繰り返されたものであり、毎回少しづつ
名称も異なっている模様で、ますます正式型番等は不明だ。

であり、NIKON Fマウント、フルサイズ対応、勿論AF
だがAF型番は無い。
D型番は、NIKON用における「距離エンコーダー内蔵」
という意味であろう。
APO型番は、アポクロマートの略であり、SLD(特殊/
異常低分散)ガラスによるレンズを数枚含んだ構成に
なっていて、色収差の低減を目指した高画質仕様だ。
MACRO銘は入っていないが、後継型(MACRO銘あり)
と同等の仕様であり、200mm以上の焦点距離で手動の
スイッチ切換でマクロモードとなり、最大1/2倍の
撮影倍率が得られる。(注:APS-C機では3/4倍だ)
なお、NIKON Fマウント版では絞り環が存在していて、
(注:後継モデルでは省略されている)他機、例えば
ミラーレス機に装着する際も、通常タイプのマウント
アダプターで問題無く使用できる。
ただし、本レンズはレンズ内モーター仕様では無い為、
2009年頃からのNIKONデジタル一眼レフ普及機
(D3000/D5000シリーズ等)では、AFが駆動しない。
(注:2000年代の機種であっても、今回使用の
D300(2007年)等の中高級機であれば、AFはボディ
内からのモーター駆動で利用可能である)
また、SIGMAにおける同クラスの望遠ズームには、
昔(1990年前後)から、APO有り版とAPO無し版が
併売されていて、APO無し版はレンズ構成等が異なる
廉価版となっている。ちなみに詳細は不明であるが、
発売時(2005年)の定価は、APO有りが65,000円強
APO無しが50,000円弱と、3割程度の値段の開きが
あったと思われる。
70-300mm級望遠ズームのAPO版は、いつの時代の
ものであっても、そこそこ高描写力であり、前機種
および前々機種もAPO版で所有していて、過去記事で
紹介済みだ。(いずれ機会があれば、SIGMA APO版
望遠ズームの比較特集記事を組んでみるとしよう)

長所としては、まず高い描写力がある。
この点は、さすがにAPO仕様だ。いや、正確に言えば
APOである事がイコール高画質という訳では無いのだが、
このクラスのSIGMA望遠ズームには、APO版と非APO版
が併売されていた事は前述の通りだ。
その際、非APO版は、当然低価格であるが、それでも
他社同等仕様品に比べて写りが負けていたら勝負に
ならない為、最低限の性能は持たせて設計されている。
で、APO版は、その非APO版を遥かに上回る描写力で
無くてはならない。何故ならば、ユーザーや評論家等が
両者を比較した場合、APO版が明らかに高描写力でなけ
れば値段の差を納得してもらう理由が無いからである。
つまり、そうした市場戦略/ラインナップ上の理由から、
APO版は非APO版に比べて高描写力である事が保証されて
いる状態だ。
この理由で私は、このクラスのSIGMA望遠ズームを
購入する際は、必ずAPO版を買っていたが、ある時、
非APO版との違いが気になり、非APO版ズームも購入
してみる事とした、その評価は本シリーズ第30回記事
でも記載しているが、まあその検証で分かった事は、
「どうやってコストダウンするのか?」あるいは
「どの性能を妥協する事で、品質の差を作り出すのか?」
という部分であった。
まあつまりローコスト版レンズにおいては、例えば、
望遠端や広角端の収差補正の厳密性を犠牲にして、
それによりレンズ構成を簡略化して低価格化を実現して
いる次第であった。
まあでも、どのあたりが弱点なのか?という点が
把握・理解でき、その課題を回避しながらレンズを
活用できるスキルがあれば、別にローコスト版レンズ
でも問題にはならない事も当該記事の検証で分かった
次第でもある。
しかしながら、非APO版は、例えば望遠端に近づく程
収差補正が厳しくなってきて、解像感が低下してしまう、
せっかく望遠(ズーム)レンズを使っているのに、
望遠側で画質が落ちてしまったら、あまり意味が無い、
やはり安心して使用できるのは、そうした性能上の
妥協点(トレードオフ)が殆ど無いAPO版であろう。
さて、長所のもう1つは、MACRO機構である。
本レンズは、MACRO銘を冠していないのだが、ズーム
リングを200mm以上に廻すと(手動)MACROスイッチ
を切換える事が出来るようになり、MACROモードでは、
最短撮影距離が、1.5m→0.95mと大幅に短縮される。
その最大撮影倍率は1/2倍であり、これはフルサイズ
対応レンズだから、APS-C機では3/4倍、μ4/3機や
NIKON APS-C機の1.3倍クロップ機能を用いれば、
等倍(1:1)撮影が可能となる。
まあ、殆ど望遠マクロレンズとも言える仕様であり、
遠距離撮影のみならず、中近距離の撮影、例えば花や
昆虫等の自然観察撮影にも向いているであろう。
ただし、スイッチをMACROモードに切り替えた後は、
当然近接撮影を行う。しかし、AFまたはMFでピント
リングが1.5mより短い距離となっている場合には、
MACROモードをNORMAL側に戻す事ができず、ピント
を1.5m以上にした後で無いと切換スイッチは戻せない。
(注:MACROモードのままでも無限遠撮影は可能だが、
レンズ鏡筒が伸びた状態なので、カメラバッグ等への
収納が厳しくなる)

やや煩雑である。まあ、これは本レンズの話に限らず
銀塩時代からのMACROモード付きズームレンズの殆ど
全てで同様なのだが、それにしても操作性は良く無い。
次いで、上記に関連しAF/MFの切換スイッチが無く
シームレスMF仕様でも無い、したがって、AFからMF
に移行するには、一々カメラ側での、AF各種/MF切換
レバー等を操作する必要があり、操作性に劣る。
特に、MACROからNORMALに切り替える為にピントリング
を1.5m以上にする際にも、MFの操作性の悪さは感じる。
「NORMALに切り替えるのは、鏡筒の収納の為もある」と
前述したが、たった、それだけの理由でピントリングを
強制的に廻す(本体とカプラー直結で重いし、ギコギコと
言って、壊れないか?と心配だ)のは少々馬鹿馬鹿しい。
さらなる弱点だが、超音波モーター等は内蔵されていない
レンズである為、AFが遅い。
ただまあ、遅く感じるのは、近距離撮影と遠距離撮影を
AFが行き来するケースであり、近いピント距離(例えば
10mと∞)であれば、さほどAFは遅くない。
しかしながら、飛ぶ鳥等をAFで捉えようとする場合、
測距点を外してしまうと、AFが迷って、ピントが近距離
まで一度戻ってしまうので、物凄く合焦時間をロスする。
そういうケースでは、最初からMFで使うか、または、
不意に現れた飛ぶ鳥等で、MFに切り替える暇が無い場合
(カメラ側の操作が必要だから)は、もうAF測距点を
絶対に外さないようにする、等の高度な撮影技法が要求
される。(動体撮影を何十万枚も実践しないと、こういう
スキルは身につきにくい。ビギナー層では困難な技法だ)
ちなみに、手ブレ補正機能は内蔵されていないが、
日中明所での撮影の際は課題にはなりにくいであろう。
例えば、ボディ内手ブレ補正機構のない、NIKON/CANON
(デジタル)一眼レフでは、多くの機種で、AUTO-ISOの
低速限界が設定できる。
APS-C機の場合、望遠端300mm x1.5(APS-C)=450mm
の換算焦点距離であるから、ビギナー層での手ブレ限界
速度を「焦点距離分の1秒」と見なせば、AUTO-ISOでの
低速限界を1/500秒としておくだけで、手ブレ補正機能の
十分な代用となる。
仮に、安易に高感度になりやすい環境(弱暗所、室内等)
であれば、腕前があるならば、1/250秒程度の低速限界
設定でも手ブレはしにくいであろう。
より暗所(例:舞台、ステージ等)に持ち出すような
レンズでは無い訳だし、そういうケースでは大口径
(開放F2未満)レンズの方が使い勝手が良い。
だから本レンズに手ブレ補正機能(SIGMAではOSと呼ぶ)
が無い事を、弱点とは見なす必然性は殆ど無い。
他の弱点は特に無い、仕様上の制限事項(内蔵モーター
無し、手ブレ補正無し)等を良く認識して使い、かつ
入手価格が安価(概ね1万円未満)であれば、なかなか
コスパが良いレンズと見なす事が出来ると思う。
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さて、次のシステム、

(ジャンク購入価格 1,000円)(以下、ZOOM-δ)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)
詳細不明、恐らくは1970年代後半と思われるMF望遠
ズームレンズ。
δは「デルタ」と読む。この時代のSIGMA製ズームの
型番には、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、
δ(デルタ)・・等のギリシャ文字が付けられていた。
(注:1985年のMINOLTA αの誕生(=αショック)
以降、そのインパクトが高かった為か? 各社では
ギリシャ文字型番を使わなくなったと思われる)
マウントはOMであったが、基本的にオールドレンズ
であり、ジャンクコーナーに安価に置かれていたものを
サルベージ(=中古の群れの中から引き上げる事)した。

「アクロマティックマクロレンズ」と呼ばれていた
一種の「クローズアップレンズ」を装着する事で、
最短撮影距離を66cmまで短縮できたと聞く。
ただ、そういう使い方をするならば、一般的な
フィルター型のクローズアップレンズを使えば同等な
効能を得る事は出来るであろう。それに、当然ながら
クローズアップレンズを装着すると、無限遠が出なく
なるので、現代の感覚では近接撮影の為にフィルターを
着脱する等の面倒はしたく無い。近接撮影をしたいの
であれば、ズームでは無くマクロレンズを使えば、
それで済む訳だ。
ただまあ、本レンズの時代背景はTAMRON SP90/2.5
(Macro )(52B、初期型)の発売時期と、ほぼ同時代で
あったので、まだマクロレンズは一般的に普及して
いた訳では無かった。なので、クローズアップレンズ
というアタッチメント(付属品)は、十分な存在意義や
価値があった時代でもある。
さて、最短撮影距離の長さの課題よりも問題なのは、
本レンズZOOM-δの逆光耐性が劣悪な事だ。(下写真)

大きく低下する。
光線状況で大きく描写力が変化してしまうので、本ブログ
では、このような状況を「天国と地獄」と呼ぶ。
これは、カビまたはクモリの発生しているレンズの症状と
類似だが、レンズを透過して目視した感じでは、なかなか
そうした問題点は発見しずらい。
SIGMA製の1990年代以前のレンズでは、コーティング等
の経年劣化で、こうした症状になり易く、他にも
SIGMA製オールドレンズで、残念ながら同様な状況に
なったものを数本持っている。
この場合、発売当初から、こういう(低い)性能であった
のか、経年劣化により、低性能化してしまったかは不明だ。

写るレンズではあるが、性能劣化の課題が大きいと
思われるので、詳しい評価は避けておく事にしよう。
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では、次のレンズは再掲だ。

20mm/f8)(中古購入価格 7,000円相当)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
1995年に初出、および再生産品が2000年に発売された
「ニコン おもしろレンズ工房」の変則レンズ3本
セットの内の1本、魚眼風固定焦点レンズである。

プレミアム相場化(セット中古価格は発売時同様の
約2万円)していたのだが、近年に「おもしろレンズ
工房」のセットを中古市場で見かけた時には、3本で
1万円以下の適正な相場となっていたので、もはや
投機的な意味合いも薄いレンズセットである。
(つまり、「投機層」は「NIKONの限定品」と聞けば、
後年の値上がりを期待して、それらを購入するのだが、
勿論、実用に使う訳でもなく、死蔵しておくだけだ)
これらはエントリーレンズでもあり、高性能という
訳でも無いので、死蔵せず、ガンガンに使ってあげる
のが良いであろう。
そういう観点で、私も稀に「おもしろレンズ工房」も
フィールド(野外)に持ち出して使う事としている、
なので、本記事で再掲した次第である。
過去記事で何度か紹介したレンズであるが、まあ、
本シリーズ記事は新規(購入)レンズの紹介に限定して
いる訳でも無いので、そのあたりは良いであろう。
近年の紹介記事では「特殊レンズ第13回おもしろレンズ
工房」編に詳しいので、興味があれば別途参照されたし。

焦点距離20mm(勿論フルサイズ対応)、対角線魚眼風
の写りが得られるが、撮影画角は153度で、本格的な
魚眼レンズ(画角180度)までの仕様は満たさない。
絞りはF8で固定されていて、絞り機構(環)は持たない。
ピント位置は1.6mに固定され、ヘリコイドは持たない。
パンフォーカス(≒固定焦点)型であるから、最短
撮影距離の制限が厳しく、ピントが合うのは、概ね
1m以遠となっている。
魚眼レンズで近接撮影が出来ないと、作画意図が
著しく制限される。(例:昔に流行した「鼻デカの
ペットの写真」のような雰囲気では撮れない、等)
で、「何故そんな制限だらけのレンズが発売されたか?」
という点だが・・ これは、1990年代中頃当時での、
バブル崩壊、阪神淡路大震災等の世情を受け、ユーザー
ニーズが激変し、当時の銀塩(AF)一眼レフ市場が縮退
(=カメラが売れない)してしまっていたからだ。
そうした縮退市場においては、メーカー等でも、何か
思いきった企画を行わないと、商品が売れずに、ジリ貧と
なってしまう。
そういう意味と状況で、NIKONとしてはかなり珍しい
「エントリーレンズ戦略」を実施した訳だ。
(何故、NIKONが実施するのが珍しいのか?は、NIKONは、
基本的に高付加価値戦略のメーカーだからだ。詳細後述)
「エントリーレンズ」とは、安価で高性能、又はユニーク
な仕様の(一眼レフやミラーレス機用)交換レンズを発売
し、「お試し版」としてレンズを購入して使っていただき、
ユーザー層に「レンズ交換の楽しさ」を伝えるとともに
当該メーカーのファンになってもらい、その後の、高額な
高付加価値型機材の販売に誘導したり、あるいは何本かの
レンズシステム等を揃えた事で、他社システム等への
乗り換えを防ぐ「囲い込み」戦略である。
他(社)にもエントリーレンズの実例はいくつもあるし、
(「特殊レンズ第24回エントリーレンズ」編記事参照)
交換レンズの市場以外でも、化粧品の試供品であるとか
食品、パソコン用ソフト等で、こうした事例は沢山
あるので、理解は容易であろう。
ただし、3点注意点がある。
1)エントリーレンズは、次に繋げる(購入を喚起する)
自社高額商品が無いと市場戦略上で意味が無い。
したがって、例えば2010年代後半からの、中国製等
の海外格安レンズは、次に繋げる高額商品が無いケース
が多く、それらはエントリーレンズとは呼び難い。
2)エントリーレンズ(あるいは他市場における試供品等)
を販売するという事は、その市場は結構危機的な状況に
あるケースが多い。カメラ界で、それらが集中的に
行われたのは、1990年代前半におけるバブル崩壊後の
カメラ市場縮退と、2010年前後における、スマホや
ミラーレス機の台頭による、一眼レフ市場の縮退の
2つの時代が代表的だ。
メーカーや流通としても、できれば高額な商品を
ユーザーに買って貰いたい、だが、それが困難だから
エントリーレンズを発売する訳だ。
逆に言えば、市場が活性化していて、高額な商品が
バンバン売れる状況、あるいは、安価な試供品を出しても
もうユーザーが興味を持ってもらえないほど冷え切った
市場状況においては、エントリーレンズ等の新規発売は
され無い事が普通である。
3)カメラメーカーは、比較的レントリーレンズ戦略が
実施しやすいのだが、レンズ専業メーカーにおいては、
エントリーレンズを発売したところで、次にユーザーが
再び自社の高額レンズを買ってくれる保証は無い。
(次は、メーカー純正品に行ってしまうケースが多い)
故に、レンズ(専業)メーカーでの、こうした商品は
殆ど前例が無く、あえて言うならば、2010年代前半に
SIGMAから発売されたDC DNシリーズ・ミラーレス機専用
低価格帯レンズ(19mm/F2.8,30mm/F2.8,60mm/F2.8)
あたりに実例が留まると思う。
そして、エントリーレンズは、メーカーから見れば
「損して得取れ」の戦略であるから、いずれもユーザー
側から見れば、コスパが極めて良く、お買い得である。
私の場合は「エントリーレンズと見なせるものは全て買う」
という方針であり、実際に、ほぼ全てを購入しているが、
どれもコスパが良く、長期に渡り機嫌良く使っている。
(参考:従前の「ハイコスパレンズ名玉編」シリーズ記事
では、コスパの良いレンズBEST40をランキング形式で紹介
するものであったが、上位が、ほぼエントリーレンズで
独占されそうな様相になった為、ある程度、それらの
ノミネートを制限せざるを得なかった位だ)

本「ぎょぎょっと20」は、エントリーと言う割りには
高性能では無く、前述のように、様々な仕様的制限が
課せられてしまっている状態だ。
何故ならば、発売元のNIKONは、高付加価値(つまり
ブランド)商品の販売を主体とするメーカーであるから
あまりに低価格で、かつ高性能なものは販売できない。
この話は、NIKONに限らず、他の市場においても、
国内外での有名ブランド商品(服飾、時計、筆記具、
車両、食品、等、なんであっても)を展開する企業に
おいては、安価な商品が1つも無い事から、同様の状況
である事が理解できるだろう。
つまり、あまりに安価な商品を出してしまうと
初級ユーザーは、それを買って「NIKONを買ったぞ」と
満足してしまうし、中級等のユーザー層に対しては、
ブランドイメージの低下が懸念されるからだ。
(つまり、ブランド品の所有層から見れば「初心者等が
簡単に買うような商品では無い!」と、ネガティブな
印象を与えてしまうからだ)
まあ、そんな訳で、「おもしろレンズ工房」には、
不条理、あるいは意地悪とも言えるくらいの様々な
仕様制限が設けられている。
それらについては、前述の「特殊レンズ第13回」記事に
詳しいし、あまりユーザーが、それを知っても、色々と
不快になるだけだと思うので、本記事では割愛しよう。
なお、魚眼レンズの紹介記事では毎回書いている事だが、
上の3枚目の写真のように、構図内での直線部分を
画面中心から出る放射線上に配置すれば、その部分は
歪まずに写る。これを「魚眼構図制御」と呼んでいて、
このコントロールを自在にするのは、とても大変だが、
練習の意味で魚眼レンズを買う事は悪い選択では無い。
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次は、今回ラストのレンズ

(新品購入価格 35,000円)(以下、ANTHY35/1.8)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2019年に発売された、フルサイズ対応MF準広角レンズ。
現状では、SONY E(FE)マウント版しか発売されていない
し、2020年での同社の操業停止(→安原氏の逝去)
により、今後、他マウント版や、他のシリーズレンズが
発売される見込みも、まず無い。

開発部勤務を辞めて独立創業した安原伸儀氏の、ほぼ
個人からなる、小さなカメラ/レンズメーカーである。
(「世界最小のカメラメーカー」と言われていた模様だ)
設計は国内で安原氏自身が行っているが、主な製造国は
中国であり、まあ、今時で言う「ファブレス企業」だ。
銀塩末期には「安原一式」というレンジファインダー機
等の製品群で一世を風靡したのだが、デジタル時代に
入ってからでは銀塩機はもう売れない。しばらくの間は、
カメラ事業から遠ざかっていたと思われるが、2010年代
よりレンズメーカーとして復活、魚眼レンズやソフト
フォーカスレンズ等のユニークな仕様のレンズを何本か
設計して販売している(これらも製造は中国と思われる)
本ブログでは、安原製作所のMOMO 100 (28mm/F6.3)
(2016年)というソフトレンズを何度か紹介しているが、
今回入手したANTHY(シリーズ)は、そうした色物では
無く、極めて本格派のレンズである。
シリーズ名ANTHYは、安原伸儀氏の、安(アン)と、
伸(シン)からの命名であろうか? 自身の名を入れた
製品は「安原一式」(1999年頃)以来であるから、
なかなか気合の入った製品なのかも知れない。
レンズ構成を見ると、ビオゴン(対称)構成に近い。
そう、私は、近年の中国製ジェネリックレンズの
殆ど全てが、「一眼レフ用レンズの構成」をベースに
設計されている事に、大きな疑問を感じていたのだ。
匠「なぜ中国製ジェネリックは、一眼レフ用レンズの
設計を使っているのか? どうせミラーレス機専用
製品にするのならば、フランジバックも短いし、
ライカやコンタックスのレンジ機用レンズの構成を
ベースにした方が、高描写力が得られるし、遥かに
効率的では無いのか?」
そういう疑問にズバリと回答を提示してくれたのが、
ANTHYシリーズの最初の製品、本ANTHY35/1.8であった。
なにせ本家(ツァイス製)ビオゴン等は、現代では入手
するのが困難であるし、しかも希少価値でとても高額だ。
(注:近代のコシナ製でのVMマウト版は存在する)
で、仮にそれらを入手したとしても、レンジ機用レンズ
の最短撮影距離は70~90cmと、とても長い。
広角~準広角のレンズで寄れないのでは、現代的な視点
からは撮影用途が限られて、あまり使う気になれない。
本ANTHY35/1.8であれば、ビオゴン系の構成でありながら
最短撮影距離は29cmと、なかなか優秀である。

という話であるが、幸い、現代では、光学設計ソフトが
(若干高価だが)市販されていて個人のPC上でも動作する。
それを動かすには専門的な光学知識が必要であるが、
ベースとなる設計(ビオゴン構成)が既にあるならば、
カメラやレンズ全般にとても詳しい安原氏ならば、
レンズ設計が可能であろう。後は、その電子図面を
近年、光学技術の発展が目覚しい、中国(深セン)なり
香港なりの新進光学機器メーカーにメールで送って、その
設計図の通りにマシン(工作機械)で作って貰えば良い。
(注:国内光学機器メーカーで作っても同様であるが、
中国で生産した方が、若干割安であろう。
もはや製造品質など世界各国で同じようなものだし、
例えば、近年の数十万円もするNIKKOR高級レンズも、
レンズの裏を見れば「MADE IN CHINA」と書いてある)
・・まあ、だから個人でも製品が作れてしまう訳であり、
何かと凄い時代になったものだ。
(すなわち、こういう時代になったから、安原製作所は
レンズメーカーに転進したのであろうと思われる)
私も、もし資金が潤沢にあるならば、光学設計ソフト
を買って、例えばアポダイゼーションのアポクロマート
レンズなど自分の好きなレンズを設計して、中国にその
データを送って、自分専用の唯一の仕様のレンズを
作って貰いたい・・ と何度か思った事はあるが・・
たった1本のレンズしか作らないと、恐らくは数百万円
いや、1千万円を超える予算が必要となるだろう(汗)
量産効果が全く得られないから、金型代とか部品代や
加工費とかの原価が、限りなく割高になってしまう。
だから、出来上がったレンズを販売しないかぎり、とても
ユーザーのオーダーメイドのレンズ等は作れる筈も無い。
(宝くじでも当たったら、考えるとしよう・笑)
さて、本ANTHY35/1.8だが、目に見える弱点は殆ど無い。
あえて言うならば、海外(中国)製造と思われ、製造精度
が怪しいところがある。この個体は、前部にフィルターが
装着し難いし、組み込みフードは緩くて動いてしまう。
また、マウント部は、しっかり廻して固定しないと
緩いままで嵌っている場合(これは危険だ)もある。
描写力的な弱点としては、フルサイズ対応レンズだが、
フルサイズ機で使うと、僅かに周辺減光が出て、かつ
周辺収差も発生する。
だが、そうであれば母艦を(今回のように)APS-C機で
使えば、それで解決である。最大撮影倍率も上がるし
慣れた50mm相当画角で、使いやすさすら感じる。
何も、わざわざ不利になるフルサイズ機に拘る必要は
無く、カメラとレンズは、その相性が優れたものを
組み合わせて使う事が基本だ(=弱点相殺型システム)
上手くシステムを組んで使えば、コントラストが高く
くっきりとした気持ちの良い描写力が得られる。

同等品質の中国製ジェネリックレンズであれば、この
半額くらいの1万円台でも購入できる。
ただ、販売本数が当初は通販専門で少ないだろうから
多少割高になっているのはやむを得ない。
安原製作所のMOMO100等は、発売当初は直販のみで
あったが、後年にはカメラ量販店でも扱うようになり
そうなると数が出るから、販売価格は下落していく。
ただ、本レンズは前述の理由(ビオゴン系構成)で
ある事に、個人的には過剰に反応してしまい、発売
直後の段階で直販で買ったので、若干高価な印象と
なったのであろう。
まあ、これでも国内レンズメーカーの新鋭AF単焦点
35mmレンズと比較すれば、だいぶ安価であるし、
総合的には、コスパは良い部類に属すると思われる。

弱点が殆ど無い優秀なレンズである、しかも価格も
さほど高価ではなく、加えてマニアック度満載だ。
欲を言えば、製造精度をもう少し高めて貰いたい事だ。
MF仕様である事で、ビギナー層には推奨できないが、
マニア層には文句無く推奨できるレンズである。
(注:本記事執筆直後、2020年3月に安原製作所
の安原伸儀氏は、56歳の若さで急逝。
本ANTHY35/1.8が、遺作となってしまった。
惜しい方を無くしたと思う、ご冥福をお祈りします。
また、本レンズの新品入手は、困難だと思われる)
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では、今回の第67回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。