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特殊レンズ・スーパーマニアックス(76)NIKKOR 標準レンズ ヒストリー

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所有している、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー
別に紹介するシリーズ記事。

今回は「NIKKOR 標準レンズ ヒストリー」という主旨で、
1960年代~2010年代に至る、NIKON製の一眼レフ用の
標準レンズ(概ね焦点距離が50~58mm、マクロを除く
銀塩用又はフルサイズ対応レンズ)を5本と、換算画角
が標準相当となるDX(APS-C型機用)レンズを1本、
合計6本を発売年代の順番で紹介する。

なお、ここ1~2ヶ月、NIKKORレンズに関連する
記事が多いが、たまたま各レンズ関連シリーズ記事で
ランダムに執筆済みであったNIKKOR関連記事の掲載
時期が近くなってしまっただけで、他意は無い。
(NIKKOR系は、さらに、後2記事ほど続く予定だ)
NIKKORレンズ中古相場高騰の片棒を担いでいる訳では
無いし(笑)NIKKORを贔屓して褒める類の内容でも無い。

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ではまず、最初の標準(レンズ)システム
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レンズは、Nippon Kogaku NIKKOR-H Auto 50mm/f2
(中古購入価格 5,000円相当)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

1964年発売の単焦点MF小口径標準レンズ。
レンズ上の表記は、「Nippon Kogaku」銘の時代だ。

(注:本来は、EOS機にオールドレンズを装着する事は
効果的とは言えず、一種のオフサイドルールに抵触する。
ただし本記事では、フルサイズ機を複数使用したい目的
での母艦チョイスであり、かつ、このEOS 6Dは、MF用
スクリーンEg-Sに換装済みであり、オールドレンズ母艦
としても使っている。一般的なEOS上級機等では、この
措置は非推奨だ)

本レンズは単層コーティング(モノコート)仕様だ。

後年、1970年代には多層コーティング仕様となっていて、
その型番には「C」が付く(NIKKOR-H C Auto 50mm/F2)
中古市場や流通等では、「Cアリ」「Cナシ」等と明確に
区別されている。
_c0032138_18164811.jpg
「Cナシ」版は、コーティングの反射光が黄色味がかって
見える為、銀塩時代においては「黄色く写る」と不評で
あった。(注:反射光が黄色またはアンバー色に見える場合、
その色を反射しているのだから、黄色く写ると言うのは誤解)

その為、「Cナシ」版の所有者のマニア層の一部では、カラー
フィルムでは無く、あえてモノクロフィルムを入れて撮影
するなどして、この課題(誤解)を回避しようとしていた。

まあ、この時代1960年代においては、レンズ機種間の
カラーバランスの調整が完全では無かった事は確かである。
メーカー側が、それを意識し始めるのは、カラー(ネガ)
フィルムが一般層にまで普及が始まった1970年代頃から
だ、その時代において「レンズ機種間の色味を揃えた」

といった主旨の記録は各社に色々とある。

なので、Cナシバージョンの様々なNIKKORをカラーで使うと、
レンズによっては、色味が異なってしまう事はあり得る。
だから、後年における、流通あるいは中古市場においては、
ユーザーからのクレームを防ぐ為にも、「Cナシ版は、
モノクロフィルムで使う事を推奨する」という常識(安全
対策)が生じ、この事は、銀塩時代を通じて、中古市場で
の売買の際にも、合言葉のように一般的であった。

具体的には、初級マニア層等が、本レンズのような旧型を
買おうとした場合、中古販売店側では以下のように言う。
店「これは「Cナシ」ですから、カラー対応では無く
  モノクロフィルム専用ですよ、これでよろしいですか?
  あるいは「Cアリ」のバージョンも在庫しています、
  そちらではカラーでも撮れます、若干高くなりますが・・」
客「そうなのですか? では、Cアリ版を買おうかな・・」

・・といったやりとりが、日本中(あるいは世界中?)
あらゆるところで行われていた訳だ。
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さて、こんな状況ではあるが、じゃあ、単層(又は二層)コーティングのレンズは、本当にカラーでは撮れないのか?


いや、そんな事はまるで無い。後年のNIKON製レンズでも
シリーズEの一部等では、単層コーティングのレンズを
販売していたし、近年においてもコシナ・フォクトレンダー
から、あえてマニアックな単層コーティング版レンズが
数機種、新発売されているくらいである。

本ブログでも、所有している多数の単層コーティング版レンズ
で試写し、それを掲載しているが、普通に撮ったままの状態で
あっても、カラーバランスが滅茶苦茶になっているものは無い。
単に、逆光耐性等が多層版に比べて若干劣っているだけだ。

今回もまた同様、特にカメラ設定などで、特別な細工は
行っていないが、カラーバランスの乱れは感じられない。

(まあ銀塩時代であれば、同じフィルムを使う以上、写真の
色味は、レンズと、ラボのプリント・システムで決まった
のだが、デジタル時代では、そんな事はまるで無い。
デジタルで完結するならば、写真の色味のマネージメントは、
100%ユーザー側の責務だ、カメラやレンズに責任転嫁しては
ならない)

結局のところ、「Cナシ版がモノクロ専用」というのは、
完全なデマであった、という事だ。

さて、このように製品のバージョン毎の仕様差が大きかった
時代であるから、MF一眼レフ時代のニコン一眼レフユーザー
は、「必要以上に、レンズ型番(バージョン)を気にする」
という人が極めて多い。それは実際にその時代を生きてきた
シニア層(団塊の世代以上)の他、そうした先輩達の情報が
引き継がれ、続く世代の一部にも、そういうユーザーが多い。

よって、今回特集している「標準レンズ」についても、
「50mmでなく、5cm表記である」とか、「S型である」
「Ai型か、Ai改型か」「外爪(カニ爪)の有無」等、様々な
細かい差異について言及したり、見分け方の情報が出回ったり
して、必要以上に、その差異に拘ってしまう。

まあ、その当時は、標準レンズ設計や、とりまく技術の発展期
であったから、それらの差異により、実用的な描写性能に差が
出たり、カメラとレンズの組み合わせによっては、装着できない
事もあったから、これらの差に留意するのは当然であっただろう。

だが、Ai方式が一般的となり、標準レンズの設計技術も完成度
が上がっていた1970年代後半~1980年代前半においては、
もう、その時代の標準レンズと、その時代以降のニコン機を
使うのであれば、型番の細かい差異は、どうでも良くなって
きていた。
_c0032138_18164940.jpg
そして現代においては、もう、この非Ai時代の古いレンズを
使用できるデジタル一眼レフは、NIKON Dfしか存在しない。
しかし、別途、NIKON Fマウント用アダプターを使うならば、
これらの細かい差異は全く関係が無く、Fマウントであれば
殆ど全てのNIKONレンズをアダプター経由で他社機で使える。

だが、「NIKONレンズでは型番に注意」という言い伝えだけが
その後何十年も残ってしまい、後年の1990年代においても
「新しいD型の方が良く写る」(注:レンズ構成は変わらない)
とかの「正確では無い情報」が蔓延したり、あるいはそうした
型番の差異が中古相場に与える影響が大きかったり、はたまた
珍しいバージョンが「投機対象」となってしまい、投機層と
好事家の間で、プレミアム相場でやりとりされてしまう。

全てのユーザー層が、正しい技術的な知識を持ち、型番の
差異の意味を正確に理解できていれば、こうした市場での
混乱は生じないのだが、残念ながら誰でもが、こうした型番
の差異の内容を正確に把握している訳では無いのだ・・

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さて、ここで2本目の標準(レンズ)システムに交替する。
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レンズは、NIKON Ai NIKKOR 50mm/f1.8S
(中古購入価格 14,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)

1980年発売の単焦点MF小口径標準レンズ。
そこそこ良く写るレンズとして、個人的には好評価が
得られているレンズだ。ましてや発色傾向の良いFUJI
機との組み合わせにより、現代においてなお、実用的な

システムとなり得る。
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旧型(1978年発売、ラストのS無し)が存在するが、
低価格一眼レフNIKON EM(1979/1980年)や低価格帯
レンズ「SERIES E」の発売に合わせて小型化(薄型化)
改良されたのが本バージョンである。


NIKON EMは、当初、海外向けのみの機体であったのが
(=NIKONは高価格機を売りたい為)、当時の日本では
1970年代の10年間で、物価が約3倍にも上昇した世情
があり、カメラ全般についても高価になりすぎていた。
(注:近年での高価すぎる新鋭カメラと類似の状況だが、
そうなった原因は異なる。この時代ではインフレであり、
近年では、全くカメラが売れていないからだ)

この結果、CANON A-1、NIKON EL2/FE、MINOLTA XD
等(いずれも1970年代後半の発売)の、最高シャッター
速度が1/1000秒の中級機でさえも、市場では高級機扱い
されて価格が上昇、10万円以上した機体すらある。
当然、高価すぎるこれらの機体は、市場で話題になった
程には売れていた訳では無く、後年の中古市場でも、
なかなか見かける事は無かった。

なので、国内市場では低価格帯機のニーズが高まった。
既にRICOH XR500やMINOLTA X-7等の、上記中級機群
の半額以下の、4万円程度の低価格機が大ヒットしていた

世情である。

その為に、低価格機(4万円)のNIKON EMは、急遽、
国内市場にも投入されたので、その標準(キット)レンズ
としての(Ai/E)50m/F1.8は、国内外市場向けの複数の
バージョンが派生し並存する事となった。


それら複数の小口径標準は、恐らくだが内部の光学系は
全て同一である。しかし、前述のように、NIKONは戦略上
低価格帯機種の発売に消極的であった為、「仕様的差別化」
で最短撮影距離が60cmのレンズもある(他は最短45cm)

他の記事でも良く書く事だが、1970年代~1980年代の
各社50mm級標準レンズは、F1.4版とF1.8(前後)版が
併売されている事が普通で、これらは勿論、定価に差が
あって、F1.4版の方が高価だ。

でも、当時の標準レンズ設計技術においては、小口径
(F1.7~F2)版の方が性能(描写力)が高い。
しかし、安価な小口径版の方が、高価な大口径版よりも
描写力が高い事実が、消費者側に認識されてしまうと、
製品ラインナップの整合性に矛盾が出てしまい、まずい。

だから、たいていの場合、各社においては、小口径版の
最短撮影距離に仕様的差別化を施し、大口径版(F1.4級)
が各社横並びで最短45cmであった事に対し、小口径版
では50~60cmに、それが制限(低性能化)された。

こうしておくと、F1.4版は、寄れて、かつ口径比が明るい
為に、被写界深度を浅く取れる。
これは、消費者層に対して「こちらの方が良くボケる
良いレンズ、だから高価なのだ」と認識させる為である。

・・まあ、どうと言う事の無い子供騙しのトリックなので、
個人的には、そうした「仕様的差別化」を、あまり行って
いなかったメーカーの方がフェアに思え、好印象を感じる。
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そして「開放F値の明るいレンズの方が優れたレンズだ」と
単純に思い込んでしまう初級中級ユーザー層側にも大きな
問題があるのだろう・・(当時でも、現代でも)

ちなみに、例えば、球面収差は有効径の3乗に比例して
大きくなる。すなわち、(F1.8/F1.4)^3 =約2.1で
あるので、大口径版標準レンズは、小口径版標準の
2倍以上も球面収差(≒解像力)が悪化する計算となるし、
球面収差以外でも、他の収差もF値が明るい方が大きい。

(注:現代レンズではこの問題を防ぐ為に、非球面レンズ
や異常低分散レンズ等を多用した設計としている。
(しかし、この措置は、大きく重く高価なレンズとなる)
だが、本Ai50/1.8Sの時代では、まだ、そうした新技術や
新硝材は普及していない)

まあ、色々といきさつはあるのだが、これは本レンズの
問題点という訳では無い。あれこれと、売る為の仕掛けを
したいメーカーや市場側と、それを簡単に信じて高額な
商品を買わされてしまう消費者側との関係性の問題だ。

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では、3本目の標準システム。
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レンズは、NIKON AiAF NIKKOR 50mm/f1.4(S)
(中古購入価格 16,000円)
カメラは、NIKON D500(APS-C機)

1986年、NIKON機のAF化(F-501)に合わせて発売された
NIKON最初期のAF標準レンズ(注:F1.8版の方が少し
早く発売されているか?) 発売時定価は33,000円と
MF時代より少し下がっている、まあ、AF一眼レフの
普及化を狙った戦略の一環であろう。

レンズ構成は、MF時代のバージョンと同一。
その当時(1980年代後半)は、MINOLTAによる「αショック」
(1985年)を受け、各社ともAF化開発を最優先にした為、
すでに完成の域に近づいていた(MF版)大口径(F1.4)標準
の設計を、わざわざ変えるような事はしておらず、殆どの
標準レンズは旧来と中身が同じままでAF化されている。

で、NIKONの銀塩時代の50mm/F1.4レンズは個人的には
好きなレンズでは無い。解像力を重視した設計コンセプト
であり、ボケ質が固い、まあ、それはそういう設計方針で
あるので、やむを得ないが、他社同等品よりも新品・中古
とも割高な価格な事で、コスパが悪く感じたからだ。
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銀塩時代での各社の標準レンズの描写力は、大口径、小口径
ともに、いずれも完成の域に近づいている、というのは
確かではあるが、「表現力」という視点では、各社には
レンズ設計コンセプト上での微妙な差異がある。

NIKONにおいては、MF末期のNIKKORレンズは、学術や
報道分野に向けての設計コンセプトであり、これはつまり
被写体がはっきり、くっきり写っている事が最優先であって
ボケ質等に関する配慮は少なかった訳だ。

だから、現代において、複数の銀塩時代の標準レンズが、
比較的容易に中古入手できる環境においては、それらの
個別の差異を良く認識した上で、それに向く被写体状況を
作り出し、適正な撮影技法を用いるのが望ましい。

そう、各社の銀塩時代の標準レンズは、「性能は同等」とは
言っても、個別に、その用途は異なる訳だ。
もし現代において、その個々のレンズ特性が現代的では無い
あるいは、ユーザーの通常の利用法や志向性と異なるならば
そのレンズに向く「用途開発」を意識していく必要がある。
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非常に難しい話ではあるが、複数の銀塩時代のレンズを所有
したい、と考えるマニア層であれば、こうした事は「研究」
の為のテーマとしては、ずいぶんと興味深い事であろう。

個々のレンズのスペックとか、細かい仕様の差異に
ばかり気を取られてしまうと、なかなか見えて来ない事で
あるし、そういうスタティックな(静的な、つまり、固定
されていて変容しようが無い)内容や情報を調べる事より、
ダイナミックな(動的な、つまり、撮影環境や撮影目的に
よって変化する)描写特性や用途開発を突き詰めていく方が
ずっと広がりがあって、楽しいマニア道となるだろうからだ。

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では、次のNIKKOR標準(レンズ)システム。
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レンズは、NIKON AiAF NIKKOR 50mm/f1.8(S/New)
(中古購入価格 5,000円)
カメラは、NIKON D300(APS-C機)

1990年発売と思われる、単焦点AF小口径標準レンズ。

通常、他社であれば50mm標準の大口径版と小口径版での
(価格差はともかく)描写特性上の住み分けとしては、
大口径版が、物理的に甘くなる収差性能をあえて残した、
柔らかい描写特性やボケ質を生かせる被写体に向くように
なっていて、小口径版は、少ない収差の性能を活かした
シャープな描写特性を持たせる事が一般的だ。

しかし、NIKONの場合は、それが逆であり、大口径版に
可能な限りシャープさを求め、小口径版は柔らかいボケ質
等の描写特性となっている。
その理由は1970年代~1980年代にかけ、NIKKOR標準が
市場で、どのように評価されて、どのようなニーズがあった
か、という事に影響されているし、前述のような、1980年
前後の低価格化戦略での混乱とか、1980年代後半での、
急激なAF化への転換とか、いくつかの市場の要因での
理由はあるのだろうが、結果として、こうした描写特性の
差に落ち着いている。
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私は、銀塩MF時代においてはNIKON大口径標準の描写特性は
好みでは無く、それらを入手しても手放し、もっぱら小口径
版を愛用していたので、本記事においても手元に残存して
いるNIKKOR標準レンズ群は、そのような感じとなっている。

本レンズは「MF版のAi50/1.8と同じだ」と、ずっと解釈
していて、入手したのはデジタル時代に入ってからの
2000年代だ。それでも、あまり買う気は無かったのだが、
いきつけの中古店で値切ると、5000円と安価であったので、
「まあ安ければ良いかぁ」という理由で購入した次第である。

まあ、お気に入りのMF版50/1.8(S)との差異を見たかった、
という理由もあったし、それと、NIKKORでは、小口径版
(F1.8版)に、他社のような最短撮影距離の仕様的差別化
(制限)は、かけておらず、最短45cmであった事は好意的に
受け止めていた。その真意はわからないが、もしかすると
大口径(F1.4)版が、シャープな特性を狙って設計されて
いるならば、NIKONユーザーであれば、「シャープに写る
レンズは良いレンズ」という認識やニーズがとても強いで
あろうから、柔らかいボケ質を狙った特性のレンズは、
「あまりくっきり写らない、安物のダメなレンズだ」という
認識(誤解)が自然に発生するだろうから、価格ラインナップ
戦略に矛盾が出ず、細かい性能制限をかける必要が無かった
のかも知れない。

・・しかし、そうした市場論理であれば、むしろ私としては
物凄く助かる。自分の好みのNIKOR小口径標準が安価な相場で
入手でき、個人的には好まないNIKKOR大口径標準が高価な
相場で取引されるからだ。コスパの面からも、心情的にも、
これは痛快な話である。
すなわち、「皆、高価な大口径版を”良いレンズだ”と
ありがたがって買えば良い、でも使いこなしが難しいぞ・・」
といった、捻くれた見方が出来てしまうから痛快な訳だ。

まあ、大口径(F1.4)版を少し絞って風景写真等に使うので
あれば、最良の描写表現力を発揮できるかも知れないが、
それでは、大口径F1.4を活用している状態とは言えない。

そして、銀塩時代であれば、最高1/1000秒シャッター機に
おいては、晴天(快晴)時、ISO100のフィルムを使用した
場合でも、絞りをF5.6迄しか開ける事は出来なかったので、
これらの大口径・小口径標準の開放近くでの描写表現力の
差異を見分ける事は、一般層ではとても困難な事であった
だろう。結局、開放F値の差など、暗所で撮らないかぎり、
当時のユーザー層にとっては、どうでも良い話だったのだ。
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しかし現代、デジタル時代においては、最高1/8000秒
シャッター機も珍しくは無く、NDフィルターの使用も
普遍的な機材となっている。こういう時代であるからこそ
やっと、絞り開放近くでの描写表現力の差異が重要に
なってきている訳だ。

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さて、5本目のレンズは、APS-C機専用である。
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レンズは、NIKON AF-S DX NIKKOR 35mm/f1.8G
(中古購入価格 18,000円)
カメラは、NIKON D5300(APS-C機)

2009年発売のDXフォーマット(APS-C)専用AF準広角
(標準画角)レンズ。

この時代における「エントリーレンズ」のコンセプトで
発売されたものである。発売時定価は35,000円+税
であった。
(注:「エントリーレンズ」とは、「囲い込み」の
市場戦略を実施する為の、お試し版のレンズの事。
近年では「シンデレラレンズ」とも呼ばれる事が
あるが、由来が良くわからない造語の為、本ブログ
では「エントリーレンズ」と呼んでいる)
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(カメラ)市場や世情といった状況の変化により、稀に
低価格化された商品が必要になる時期(時代)がある。
具体的には、以下のような例がある。

1)1960年代前半の高度成長期における、カメラの一般層
 への普及を狙った低価格機(例:OLYMPUS-PENシリーズ等)

2)1970年代の物価インフレーションを受けての
1980年前後の低価格化戦略(例:RICOH XR500等)

3)1980年代後半の一眼レフAF化時代における、AF一眼
 普及戦略上での各社低価格AF機(例:NIKON F-401等)
 および低価格帯レンズ(例:CANON EF50/1.8Ⅱ等)

4)1990年代中頃での、バブル崩壊による消費者ニーズの
 減退と激変を受けての、低価格帯商品や新コンセプトの
 商品群(例:NIKONおもしろレンズ工房、APSカメラ等)

5)2000年前後での、近い将来の一眼レフのデジタル化を
 見据えての、各社の「囲い込み戦略」(注:高性能で
 低価格な銀塩一眼レフを売り、デジタル化の際にも
 同じメーカーの製品を買ってもらう)(例:NIKON u
シリーズ、MINOLTA α-Sweetシリーズ、CANON EOS
 Kissシリーズ等の、2000年前後の商品群)

6)2010年前後の、スマホとミラーレス機の登場と普及
 により、一眼レフ市場が縮退する危険性への対応の
 為の、一眼レフ用エントリーレンズ群。
(例:本DX35/1.8、他、SONY製品等、各社にある)

7)2010年代後半における、国産カメラや国産レンズが
 市場縮退で非常に高価格化してしまった事へ対応する
 海外製低価格レンズ群の新規市場参入(例:七工匠、
 Meike、KAMLAN、銘匠光学等)

まあつまり、これらは、価格の上昇等で売れなくなった
カメラ機材に対して市場活性化の為に、一時的に投入
される低価格帯製品だ、という事になる。

だが、低価格帯製品だからと言って、手を抜く訳には
いかない、それらを購入したユーザーが「やはり安物だ、
たいした事が無い。安かろう、悪かろう・・」と思って
しまったら、メーカーのブランドイメージに傷がつくし、
あるいは、そのユーザーは、もう二度と当該メーカーの
製品を買ってくれなくなるかも知れない訳だ。

だから、上記に挙げたような低価格帯製品群は、価格を
超越した性能や品質を与えられている事が殆どである。
つまりコスパが極めて良く、こうした「時代の狭間」に
存在した製品群は、「全て買う価値のある機材だ」と
私は認識している。
_c0032138_18171076.jpg
本DX35/1.8も同様である、性能や品質等に一切手を
抜いていないエントリーレンズだ、これはもう絶対に
買いのレンズであろう。
(注:上写真は、小型カメラに小型レンズを装着した場合
のみ可能な、特殊技法の「回転撮り」を行っている)



おまけに、2010年代後半からは、NIKON一眼レフは
フルサイズ機が主力となった為、DX(APS-C機)専用の
本レンズは不人気となった、だから中古相場もどんどん
と下がり、1万円台前半で入手できる。
(注:NIKKORレンズで定価の半額以下の中古相場と
なったレンズは、市場で不人気である、と解釈できる)

フルサイズ機だから良く写る、などは大誤解も甚だしいが
まあ2010年代では、市場が「フルサイズ機は良い」という
概念を初級中級消費者層に「植え付けた」という理由が
強いだろう。縮退したカメラ市場を支えるには、そういう
高価格機(高付加価値機)で販売台数の減少を「利益」で
カバーせざるを得ない、さもないとメーカーや流通は
カメラ事業を継続できなくなってしまう。

そういう状況であれば、個人的には別に問題は無い。
フルサイズ機人気で、中古市場に安価に溢れかえっている
APS-C以下のカメラや、APS-C以下対応交換レンズ群を
中古や新古品で安価に買えば良いからである。

勿論、誰もがそういう措置をする訳では無いだろう。
高価なカメラやレンズが良いものだ、と信じて疑わない
ビギナー層は、そういう機材を買えば良いだけの話であり、
それはあくまで自己責任だし、それを買ったビギナー層が
満足するならば、市場全体を含め、誰も損する人は居ない。

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では、今回ラストの標準システム
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レンズは、NIKON AF-S NIKKOR 58mm/f1.4G
(中古購入価格 110,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

2013年に発売された高付加価値型標準レンズ。

「高付加価値」というと聞こえが良いが、要は、この時代
(2010年代前半)に、スマホやミラーレス機の台頭により、
縮退が始まった一眼レフおよび同交換レンズ群での市場
利益確保の為に、大きく「値上げ」をした標準レンズである。

発売時価格は21万円+税と、例えば銀塩時代の50mm/F1.4
の、実に6倍以上の高額価格(定価)となっている。
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NIKONに限らず、この時代以降、SIGMAを筆頭に各社
とも同様の高付加価値戦略を行い、2010年代を通じて、

旧来の50mm級標準レンズは、約30年強ぶりに大幅に
リニューアル。従来の数倍から十数倍もの価格アップに
見舞われる事となってしまった。

しかし、値段が高いから良いレンズだ、というのは大きな
誤解である。単焦点標準レンズなどは、今時の消費者層は
欲しがらないので販売数が少ない。膨大なレンズの開発費や
製造関連費用を、少ない販売本数で振り分けるから、必然的
に高額になってしまうだけの市場原理である。

_c0032138_18171626.jpg
では何故、コスパが極めて悪い、と容易に推察される
本レンズを買ってしまったのか? と言えば、このレンズの
設計コンセプトが自分の好みに合う事が予想できたからだ。
仮にコスト(価格)が高くても、唯一無二のパフォーマンス
を持つレンズであれば、結果としてのコスパの悪さは、
ある程度寛容できる。一番良く無いレンズは、コストだけ
異常に高価であって、パフォーマンスが伴わないレンズだ。
そうしたレンズは個人的な機材購入コンセプトには合致せず、
そのようなレンズは1本も購入していないし、今後も絶対に
購入する事は無い。

本ブログでは、世間的に著名な、または人気がある類の、
一部のメーカーあるいはカテゴリ-のレンズが登場しないが、
自身の「コスパ重視」という価値感覚には、全くそぐわない
からである。私の視点からすれば、「無駄に高価すぎる
機材を買ってしまっている」状態にしか見えないし、あまけに
そういう著名・人気機材を志向する消費者層は、殆どの
場合がビギナー層や金満家だ。だから、ますますそうした
世情に流される事は好まない。

さて、本レンズであるが、用途開発が難しいレンズである。
そもそも標準レンズと言うものは、汎用性が極めて高い
レンズである。人物、風景、スナップ、夜景や暗所、室内、
草花、小動物、メカ、建物・・ ありとあらゆる被写体への
適合性や、その表現バリエーションがある事が、標準レンズ
の特色であり、それは、短期間だけ使った程度では、全く
評価のしようが無いレンズであるとも言える。
10年、あるいは数十年の長期に渡り、ありとあらゆる
シチュエーションで何万枚、何十万枚も撮影しない限り、
標準レンズの実用性能等は、簡単に見えてくるものでは無い。

なお、本レンズにおいては、中古市場に多数の玉数が溢れて
いる状況が見られた。これの理由は「使いこなしが難しい」
レンズである事が大きい。つまり、高価だから高性能だ、
と誤解して買った初級中級層が、うまく使いこなせずに
手放してしまったケースが多いと思われる。
これは本レンズに限らず、銀塩時代から現代に至るまで
何本か、人気が高い(評判が良い)レンズで、その使い
こなしが難しい場合にあったケースだ。

本レンズの短所は色々とある。AF精度が低く被写界深度
が浅い事とあいまっての、ピント歩留まりの悪さ。
最短撮影距離が58cmと長く、近接撮影が困難な事。
絞り開放近くでの、これまでのNIKKORとは反対の傾向とも
言える解像感の低さ。高性能大口径レンズを上手く使う為の
機材環境マッチングの難しさ・・ 等、いずれも初級中級層
では理解や対応が困難な、高難易度の使いこなしとなる。

だが、どのレンズにも長所も短所もある。重要な事は、
長所を理解し、それを活用する手法を考察していく事だ。
長所としての、像面湾曲や非点収差、コマ収差等が良く
抑えられた設計による背景ボケ質の良さや、ボケ遷移の
スムースさ、そして絞り値制御による描写傾向の変化の
コントローラビリティ、さらには高性能レンズとしては
極めて軽量な事。(注:ただし、高級感は皆無だ)
こうした点を上手く活用する事で、本レンズの真の設計
コンセプトが見えてくるであろう。
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現時点での、単純な表面的評価はあえて避けておく、今後
何十年も愛用できそうな、奥の深いレンズであるからだ。

ある意味、趣味性の高いレンズとも言えよう。これまでの
NIKKOR標準レンズは、実用一辺倒のものが殆どであり、
あまり趣味的な興味を持つ対象には成り得なかったのだが、
やっと時代が変わり、単焦点標準レンズを、実用品として
使う必然性が無くなった為(=皆、標準ズームを使うから)
その状況変化により自然発生した遊び心のある標準レンズだ。

そして、そうしたコンセプトを新規展開する事は、いままで、
ある意味優等生的で面白味が無かったNIKON製レンズ(だから、
個人的にも、あまり近代のNIKON製レンズを買っていない)の
中においては、極めてユニークであり、これは好ましい状況で
あると思っている。

あとは保守的なNIKON製品ユーザー側が、この変化について
こられるかどうか? という点であろう。でもまあ個人的には
皆がついてこれず、中古品等が相場的にも玉数的にも買い易い
状況になってくれた方が助かる、それで誰も損はしない訳だ・・

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では、今回の「NIKKOR 標準レンズ ヒストリー」は、
このあたり迄で。次回記事に続く。


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