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レンズ・マニアックス(65)補足編~NIKKOR 105mmレンズ

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マニアックなレンズを紹介するシリーズ記事であるが、
今回は補足編として「NIKKOR 105mm(級)レンズ編」と
銘打ち、1950年代~2010年代の約60年間の間に
発売された、NIKON(旧:日本光学)製の、105mmの
実焦点距離を持つ交換レンズを5本と、おまけとして、
NIKON製では、たった1本だけ発売された100mmレンズ
の計6本を、時代(発売年代)順に取り上げる。
(注:全て過去記事で紹介済みの、フルサイズ/銀塩
 35mm判対応レンズである)

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ではまず、今回最初のNIKKOR 105mmレンズ
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レンズは、日本光学 NIKKOR-P 10.5cm/f2.5
(中古購入価格 15,000円)(以下、S105/2.5)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)

1953年発売の、ニコンSシリーズ(レンジ機)用の
MF単焦点中望遠レンズ。

古い時代のものであり、およそ70年近くも前の
レンズだ。私が現在所有しているレンズとしては
本レンズは最古参の部類である。
以前は、こうした古い時代のレンズも複数所有して
いたのだが、デジタル時代に入った頃に、あまりに
古い時代のレンズは「実用価値無し」という観点で
処分してしまっていた。

では、何故本レンズが残っているかは? 比較的
近年に購入したものである事と、この時代のレンズ
としては描写力等が実用範囲内である希少なレンズ
であるからだ。
_c0032138_10362734.jpg
まあ、別の側面からは、この時代に、この描写力で
あれば、相当に優秀なレンズとして市場からは認識
されていた事であろう。で、もし気まぐれで、また
これくらい古い時代のレンズを購入する事があれば
本レンズをリファレンス(比較する対象、参照製品)
として、他の同時代のレンズと比較してみようかとも
思っている。恐らくは本レンズが圧勝するだろうが、
それもまた研究対象としては興味深い。

さて、日本光学(現:NIKON)製Sマウント用レンズと
言えば、本レンズの5年程前、第二次世界大戦直後の
1948年に発売された、
「Nippon Kogaku NIKKOR-P 8.5cm/F2」が著名であろう。
(注:この時代の日本光学製Sマウントレンズは、
Nippon Kogaku銘、NIKKOR銘は大文字、ハイフン有りで
レンズ構成記号に続く。
-Pの場合、ペンタの略なので5枚構成(レンズ群数は、
この記号からは読み取れない。このレンズは3群5枚だ)
焦点距離はcm単位の表記である。これは製造公差の面で、
mm単位までの精度を保証できなかった為だと思われる)

・・で、そのレンズは、米LIFE誌(現在廃刊)の専属
フォト・ジャーナリストであった「D.D.ダンカン
(David Douglas Duncan、故人)」氏が高く評価した
事で、世界的に「NIKKOR」の名を知らしめたレンズ
であった。

まあ、もっとも、独カールツァイス社のゾナー85mmの
光学系のコピー製品であり、素性からして既に優秀で
あった訳だ。(参考:この時代か、やや後の時代に、
旧ソビエト連邦でも敗戦国ドイツからの技術移転により、
Sonnar 85mm/F2の構成のほぼコピー品であるJupiter-9
85mm/F2が開発され、その後長期に渡って生産が続く)

で、本レンズS105/2.5は、そのS85/2のレンズ構成
を、およそ25%程度スケールアップし、焦点距離を
伸ばした(反面、口径比も25%ダウンする)設計と
思われる。基本的にはソナー構成であり、3群5枚だ。

当時のレンズ設計では、当然計算機(コンピューター等)
は存在していない為、三角関数表からの手計算や、
計算尺等のアナログ計算機を用いていた事であろう。
これは非常に大変な業務であろうから、優秀なレンズ
構成が既にあれば、それを応用して他のスペックの
レンズを作るのは当然の設計思想だと思われる。

また、S85/2が報道系写真分野に高く評価された事で
その後のNIKONでは、報道(あるいは学術)分野に向け
シャープな解像感を持つレンズ設計のコンセプトを
優先するようになっていったのであろう。

この設計思想は、この後、1960年代の一眼レフ時代
(NIKON Fの時代)あたりまで、あるいは、さらに
一部のNIKKORレンズでは、続く1970年代~1980年代
(NIKON F2/NIKON F3の時代)まで継続されていく。

ただまあ、解像感を優先した場合、この時代での
レンズ数枚程度の単純な構成では、ボケ質等までに
配慮した総合的な設計は困難になる。
これは、どちらかを取れば、どちらかが犠牲になる
「トレードオフ関係」であり、この葛藤は、その後、
半世紀以上も、レンズ設計者を悩ませる原因の1つと
なっていただろう。

この状況が打開されるのは概ね2010年代になってから
であり、この近代での、コンピューター光学設計技術の
普及と、レンズ市場の縮退による、高付加価値型商品
(つまり、高額で利益率が高いレンズであり、販売数が
少なくてもレンズ関連事業を継続する事を目指す商品)
の企業側ニーズから、やっと解像感とボケ質を両立させた
高性能単焦点レンズが、チラホラと出現している。

ただ、高付加価値型商品であるから、それら新鋭高性能
レンズは、いずれも大きく重く高価な「三重苦」レンズ
となってしまい、銀塩時代のような数枚構成でシンプル
で小型軽量、そこそこ高描写力というバランスの取れた
コンセプトのレンズ商品は少なくなってしまっていた。

よって、2010年代後半からは中国等の海外メーカーが
銀塩時代でのシンプルなレンズ構成をベースとして、
ミラーレス機用などに設計修正を施した、いわゆる
「ジェネリック・レンズ」が、低価格で多数市場参入
する事となる。日本では、もうそういうレンズを作る
事ができないから、価格面で市場競争力がある訳だ。

色々と歴史的な話が長くなったが、本記事においては
個々のレンズの特徴等では無く、様々な市場背景等の
説明を主眼にしていく。
_c0032138_10362729.jpg
本S105/2.5の総括であるが、独カール・ツァイスの
名玉Sonnar 85mm/F2のスケールアップ版ジェネリック
である。よって、この時代のレンズとしては解像感や
コントラスト特性に優れるという特徴を持ち、
撮影距離や絞りの条件においては、諸収差もバランス
良く補正されている、ただし、ボケ質破綻については、
注意深くコントロールする必要があるだろう。

銀塩レンジ機では、レンズを通った映像が見えている
訳ではなかったので、ボケ質破綻回避は原理的に不可能
な技法であったが、幸いにして現代のミラーレス機では、
若干ながら、その回避が可能だ。

また、コーティング技術が未成熟な時代のレンズで
あるから、逆光等には十分に注意して使用するのが
良いであろう。(注:元々「Sonnar」の設計思想は
そこにあり、コーティング技術が無いから、レンズの
貼り合せ面を多くして内面反射を削減し、光線透過率
やコントラスト特性の向上を意図したものである)

それらに配慮して撮影すれば、本レンズは70年前の
オールドレンズながら、そこそこ良く写る。

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さて、次のシステム、
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レンズは、NIKON Ai Micro-NIKKOR 105mm/f4
(中古購入価格 8,000円)(以下、Ai(Micro)105/4)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

1977年発売のMF小口径中望遠1/2倍マクロレンズ。

一眼レフ用のマクロレンズがラインナップされるのは
概ね1960年代以降であったと思われる。
この時代は、まだコピー機が企業や研究機関等に
普及していなかった為(参考:Xelox(ゼロックス)
914型、813型等、1960年代から発売開始。・・が、
オフィス用コピー機の草分け的な製品であろう)
重要な、文書、資料、検体などの複写保存、いわゆる
「アーカイブ」は、写真を用いて行われていた。

よって、小さい被写体、あるいは近接した被写体を
撮影する為のレンズ、いわゆるマクロレンズのニーズ
が高まったのだと思われる。
_c0032138_10363426.jpg
NIKONにおいては、MacroではなくMicro(マイクロ)と
呼ぶ、まあ、これについては、小さいものを見るのだから
本来の意味としては「マイクロ」が正しいと思う。

しかし、世間一般では、何故か反対の意味と思われる
マクロ(巨視的)の用語が広まってしまった。
まあ、大きく見えるのだから巨視的(MACRO)と言ったの
かもしれないが、小さいものを見るならば、本来、
微視的の「MICRO」の方が正しいようにも思える。
(上写真の、三日月とかが「巨視的」かも知れない(?)
 ちなみに、思い切りデジタルズーム機能で拡大した
 手持ち撮影である。勿論手ブレ補正機能は無し)

現代では、正しいと思われる「MICRO」をレンズ名に
採用しているのは、NIKONだけになってしまい、他社は
全て「MACRO」表記となっている。
これでは、たった一人だけ「それでも地球は廻っている」
と、正論を貫いたガリレオ・ガリレイのような感じだが、
まあ、もうなかなかこの状況は変えようが無いかも知れない。

ちなみに、本件に限らず、写真用語、あるいは光学技術
用語は、かなり古い時代からある学問や市場分野である為、
「用語統一」がまったく出来ていない。

この為、本格的に写真を学ぼうとする際に若干の混乱が
出る事と、光学の勉強をする場合には、さらに顕著に
用語不統一(個々の書籍や発言者、研究者毎に、用語の
意味や解釈がまちまち)である事が、重大な弊害となる。

勿論「用語の制定・統一」を行えば良かったのだろうが、
残念ながら、それは実現されていない。光学技術は
デジタル化も含めて日進月歩で、次々と新用語が出来て
くる状況だし、独自性の強い企業系光学技術部門等では、
他メーカー等と技術内容の開示や調整を行うなどと言う
事も出来ないのであろう。

また、例えばNIKONの「三次元的ハイファイ」のように、
あまりその技術の詳細を(ノウハウ、企業秘密だから)
公に公開する事もはばかれる場合、あえて曖昧な新用語
で市場やユーザー層に伝える場合もあるだろう。

で、本ブログでも、独自の写真関連用語を創造する
ケースもある、これまでに無い新規の概念等の場合は、
新しい用語を作らないと説明が難しいからだ。
そうした用語が多くなってきたので、近年においては
別シリーズ「匠の写真用語辞典」記事で、本ブログでの
独自用語群を、ちゃんと定義および解説を行っている。

(注:カメラメーカーの製品WEB等では、用語の定義を
行っているケースも多いが、光学専門書とか一般WEB等
では、それは皆無であり、用語混乱/不統一で、さっぱり
意味が通じていないケースが、あまりに多い。特に技術
研究者等では、自身の研究内容については勿論精通して
いるのだが、他者への説明手法が弱い場合が多い)

さて、MACROとMICROの用語については、そんな感じであり
まあ、本ブログでは多数派の「MACRO」を主に使用するが
NIKON製レンズの紹介記事では、MICROと称する場合もある。

なお、近年のNIKKORレンズでは、MICROと大文字表記と
なるケースが多いが、この時代では「Micro-NIKKOR」と
先頭のみ大文字、ハイフン有り、NIKKORは全て大文字だ。
(注:公式資料に近い立場のWebサイトや、各メーカー
の公式サイト等でも、この辺りの表記は、いい加減だ。
まあ、本ブログでは、実際の現物のレンズに記載されて
いる表記を元に、機種名等を記載している。
現物のレンズを見た事が無い場合、表記が曖昧又は誤記
となる事は、まあやむを得ないだろうが、Web情報全般で
信憑性に欠ける状態である事は確かであろう)
_c0032138_10363571.jpg
さて、本Ai(Micro)105/4であるが、コピー機が未普及
の時代のマクロ(マイクロ)レンズ故に、「平面複写」
の用途を主眼として設計されたレンズだと思われる。
(本ブログで言う「平面マクロ」の特徴が強い)

この特性の為、ピント面の解像感(シャープネス)は
かなり強い。このシャープ感は、本レンズが40年以上も
前の(セミ)オールドレンズである事を、忘れさせて
しまう程である。
(注:元々の設計は、1900年の旧フォクトレンダー社
による3群5枚「ヘリアー」型である。
ヘリアー型だからうんぬん・・ という説明は非常に
長くなる為、いずれまた特集記事で詳細説明をしよう)

ただし、この特性を得る為に、立体的な、ボケを活かした
描写を得る事は、やや難しい。いわゆる「ボケ質破綻」が
発生する場合が多々ある事からだ。

この課題を消すには「ボケ質破綻回避技法」(匠の写真
用語辞典第13回記事参照)を用いる必要がある。
この技法では、適正な母艦(カメラ)を選んだり、繁雑な
対応を行う必要があるが、中級マニア層以上では、覚えて
おいて実践する事が望ましいであろう。
この技法を用いれば、本レンズのような「平面マクロ」
であっても、現代の視点で実用範囲のレンズとなる。

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では、3本目のレンズ、これは100mmだ。
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レンズは、NIKON LENS SERIES E 100mm/f2.8
(中古購入価格 14,000円)(以下、E100/2.8)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

1980年に発売された、廉価版単焦点MF中望遠レンズ。

本レンズは、NIKON Fマウント交換レンズ中、
唯一の100mmレンズであり、他のレンズは(本記事で
紹介しているように)、全て105mmの焦点距離と
なっている。

また、本レンズは廉価版のシリーズEに属している為、
ブランドイメージ維持の観点から、NIKKOR銘は
用いられず、単に「NIKON LENS」となっている。
_c0032138_10363565.jpg
さて、廉価版の「SERIES(シリーズ)E」と言っても、
写りがNIKKORに比べて、さほど劣る訳では無い。
様々なSERIES Eレンズについては、特殊レンズ第79回
記事で紹介予定である。

では、何が廉価版なのか? というと、例えば外観の
仕上げがプラスチッキーで安っぽいとか、ある特定の
性能の向上に配慮していないとか、まあ、そんな感じだ。

後者については、本レンズは単層コーティング仕様で
あって、「逆光耐性が低い」とか言われる場合もあるが、
そのあたりは実際に使ってみると、撮影(光線)条件を
整えれば、ほとんど問題になるレベルでは無い。
他にも、少ないレンズ構成によりボケ質破綻が出易い
という点もあるが、それも回避して使えば良い。

弱点は、本レンズ(並びに、SERIES Eレンズ全般)が、
現代ではセミレア品で入手が難しい事であろうか・・
まあ、既に40年も前の古い時代のレンズでもあるし、
当時としても、「高付加価値型商品」が主軸である
NIKON製レンズを買う際、わざわざ廉価版のものを
選んで買う人は少なかったのではあるまいか・・?

現代においては、特に推奨できるレンズでは無いが、
NIKON製銀塩用レンズで、唯一の「100mm」の焦点
距離を持つレンズ、という意味で歴史的価値は高い。

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では、4本目のNIKKOR 105mm。
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レンズは、NIKON Ai NIKKOR 105mm/f1.8S
(中古購入価格 41,000円)(以下、Ai105/1.8)
カメラは、SONY NEX-7(APS-C機)

1981年発売の単焦点MF大口径中望遠レンズ。

この時代のNIKKOR 105mmは、Ai105/2.5系列が
著名であり、販売もそれが主力であっただろう。
(注:Ai系105/2.5レンズは、1970年代頃(NIKKOR
Autoの時代)より、それまでのゾナー型3群5枚から、
クセノター型4群5枚に設計変更されている)

Ai105/2.5は銀塩時代に愛用していたが、訳あって
デジタル時代に入った頃に譲渡してしまった。
後年2010年代に、買いなおそうとしたが、意外な
までに中古相場が高い(汗) 
恐らくは、NIKON機(一眼レフ)の多くがフルサイズ
化された事で、シニア層や中級マニア層において
「オールド・ニッコール」のブームが来ていたと思われ、
それを欲しがる人が多かった故の、高値相場であった
事であろう。

プレミアム価格化した(=不条理に高額となった物)
レンズでは、あまりにコスパが悪い為、Ai105/2.5の
購入を見送り、冒頭のSマウント105/2.5レンズを購入、
引き次いで、Ai105/2.5の購入を避け、本Ai105/1.8
の購入に至った次第である。
つまり「ケチがついた」ので、意地でもAi105/2.5
を買いたく無かった訳である。
(追記:記事執筆後に105mmレンズの変遷の研究目的
により、適価なモノを見つけて購入している)
_c0032138_10364313.jpg
さて、本Ai105/1.8であるが、Ai105/2.5系列から
派生して1981年に登場したレンズである。
一応当時の世情を受け、「マルチモードAE」対応の
「Ai~S型」となっているが、前機種は存在しないし、
後継機種も存在しない。

まあ、後継機が無い理由の1つとしては、本レンズの
発売の数年後には、歴史的な「αショック」があり、
各社一斉にAF化を推進した事が大きいであろう。

よって、注目された期間が1980年代前半の数年間だけ
であり、販売数もさほど多く無いのではなかろうか?
中古市場では、ややレア品であり、ややプレミアム相場
化しているので、若干買い難いレンズである。

そして、描写力もたいした事が無い。
少ないレンズ構成(5群5枚しか無い)で、大口径化を
狙った為か? 解像感はあまり高く無く、撮影条件に
よっては、明らかに甘い描写となる。
収差補正が良く行き届いておらず、ボケ質破綻が頻繁に
発生する。

ただ、これらは常に酷い写りになる訳では無く、絞り値、
撮影距離、背景距離、背景の絵柄、などの条件を整える
と、解像感もボケ質も許容範囲となる。
まあつまり、「厳密なコントロールが必要なレンズ」
という状況である。

本レンズの前回紹介記事(本シリーズ第62回)では、
NIKON一眼レフ機を使ったのであるが、そのシステムでは
本レンズの弱点を回避する技法を用いるのは困難であった。
(=偶然でしか、良い写りを得られない状態)
今回は、高精細EVF搭載ミラーレス機を用い、絞り値等の
制御を厳密に行い、弱点回避の為のシステムとしている。
_c0032138_10364306.jpg
なお、本Ai105/1.8は大型で重量級のレンズである為、
小型ミラーレス機のSONY NEX-7との組み合わせは、
見るからにアンバランスであるが、実際の使用上では、
重心バランス点も、丁度ピントリング上に来るので、
さほど使い難い要素は無い。

・・いやむしろ、近年では、小型ボディ+重量級レンズ
という組み合わせは、「限界性能テスト」の為に積極的に
システム化して使うようにしている。全ての組み合わせが
良好という訳では無いが、たまたま重量・重心バランスが
適正なシステムを見つければ、全体の機材重量の軽減の
効果が非常に大きいからである。

また、銀塩時代からずっと言われていた「大型レンズには
大型レンズをあてがうのが良い」という一種の「風評」に
反発する要素も極めて大きい。手持ち撮影において同等の
性能であれば、機材重量は、軽ければ軽い程良いのは
当たり前の話であろう。何故わざわざ、重たいカメラを
使わなければならないのか? 「慣性質量」だとかの
物理用語を持ち出して、一見原理的に合っていそうだが、
実際には、どこからどこに向かって働く力の話をしている
のか? 根拠が全く不明であり、中学生高校生レベルの
物理学を最低限学んでいる人達の考えとも思えない。

場合により、そういう「デマ」のような情報を流して
「重量級機材(=すなわち高価である)の販売を促進
したい」といった、宣伝目的での話であったのでは
なかろうか? という疑いすらある。

なにせ銀塩時代では、超軽量カメラ(一眼レフ)という
機体は、あまり無かったし、そういうものは初心者向けの
機体でもあったから、重量級レンズを所有する上級者層
では、軽量カメラを所有している筈も無かった。
(つまり、組み合わせを試せる環境が殆ど無かった)
だが勿論、現代では、ミラーレス機等で、軽量カメラは、
いくらでも存在している。

で、軽量カメラに重量レンズを装着し、実際にそのバランス
や重心、ハンドリング性、使い勝手、ピントリング操作性、
手ブレ限界速度の向上や低下、等について厳密に評価した
人等は、銀塩時代には、ただの1人も居なかったのかも
知れない訳だ。

自分で試してもみないのに、聞きかじりで「重量級レンズ
には、重量級カメラを・・」等と神妙に語っている状態は、
どう考えても、おかしいのではなかろうか?

ちなみに現代においては、SONY α7/9系やOLYMPUS
OM-D E-M1系等の小型機体に、重量級レンズを装着して、
「業務撮影等にも利用する」という製品コンセプトや
用法も、ごく普通となっている。

なお、現代においても、本件、あるいは、他にも多数の
こうした「思い込み」による真偽不確かな様々な情報が
ユーザー層の間で流れ続けている。
こうした課題への対応は簡単であり、何か疑問に思うならば
自分自身で確かめてみれば良い、ただそれだけである。
それをやらずして、思い込みだけで語っている状態はNGだ。

本Ai105/1.8の総括であるが、描写力のコントロールが
シビアであるので、使いこなしが困難なレンズとなる。
中古相場もやや高価であり、基本的には非推奨か、又は
上級マニア層向けだ。

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では、5本目のNIKKOR 105mmレンズ。
_c0032138_10364335.jpg
レンズは、NIKON AiAF DC-NIKKOR 105mm/f2D
(中古購入価格 70,000円)(以下、DC105/2)
カメラは、NIKON D500(APS-C機)

1993年発売のDC機構搭載型AF大口径中望遠レンズ。
_c0032138_10364813.jpg
本記事冒頭からのNIKKOR 105mmレンズの歴史を
見ていくと、NIKKORがシャープな描写力を主眼として
報道や学術分野での評価が高かった状況が理解できる
であろう。
ただし、そうした状況において、銀塩MF時代のNIKKOR
レンズ群は、ボケ質に配慮した設計のものが、とても
少なかった。

そんな中、時代はAFに変わり、バブル期の1980年代
末~1990年代初頭においては、銀塩AF一眼レフも、
そこそこ一般層にまで普及したと思われる。
まあつまり、カメラのユーザー層の裾野が広がり、
それらのニーズが多様化した時代だ。

この頃、交換レンズの主力もズームレンズに変わり、
それまで(1980年代まで)中上級ユーザー層での
主力であった単焦点レンズは、逆にマイナーなものと
なっていく。

ただまあ、そうであれば単焦点にはズームレンズには
無い特徴的スペックや特性を与える必要があるだろう。
さもなければ、一般初級中級ユーザー層においては
「何? 105mmレンズ? それは(望遠)ズームを
 持っているから、焦点距離が被るので不要だよ!」
という風に、単に焦点距離スペックだけを見てしまい
単焦点の魅力や用途を伝え難い。

この時代から、他社の中望遠単焦点レンズでも、
ズームレンズの思想とは異なる、ボケ質等についても
配慮したレンズがポツポツと出始める。
具体例としては、例えば smc PENTAX-FA★85mm/F1.4
(1992年、ミラーレス・マニアックス名玉編第18位)
あたりがそれであろうか。

NIKONでも、中望遠大口径単焦点クラスのレンズは、
人物撮影等も意識して、ボケ質等の、解像力以外の
特性に着目したレンズをラインナップする必要が
あった事であろう、さも無いと、いつまでも
「NIKKORはボケが固い」等の市場の評判が抜けきれない。
NIKON製品が報道や学術分野に広まっているだけならば
それでも良いが、一般ユーザー層の用途まで考えると、
シャープネスだけを重視した設計は一般ウケはしない。

さて、本DC105/2は、そんな状況下において
「ユーザー側に明確にボケ質の優位性をアピールした」
NIKKORとしては希少なコンセプトのレンズである。
_c0032138_10364997.jpg
DC(デ・フォーカス・コントロール)機構は、
そのDC環を、設定したレンズ絞り値と同じ値にセット
する事で、前ボケ(F目盛り)、後ろボケ(R目盛り)の
いずれかのボケ質を良好にするように設定できる。

ただし、この効果は一眼レフの光学ファインダーでは
確認できない(開放測光である事と、スクリーンでは、
そこまで精密にボケ質を再現できないから)
また、このDC機構を持つレンズは、1990年代の
DC105/2、DC135/2の、2系統3機種だけにしか
搭載されておらず(他社には無い)、いずれも、やや
高価なレンズ故に、所有者の数は少ないと思われる。

よって、このDC機構の効能は多くのユーザー層には
理解され難く、所有者であっても「効果がわからないから」
と言って、DC環を絞り値を超えて最大に設定し、球面収差
の過剰補正となって、描写が軟焦点化してしまう事が、
良くあったと聞く(下写真が一例:母艦はSONY α7)
_c0032138_10364957.jpg
この為、「DCレンズはソフトフォーカスレンズである」
という話が、未所有者はもとより、オーナー層ですらも
長らく誤解として広まっていた。

「ボケ質」というアピール点は、(アポダイゼーション
レンズも未発売であった)当時のユーザー層には、
理解され難い概念であった、という事であろう。

なお、DCレンズは近年でもまだ新品販売が継続されて
いる模様であるが、長年の販売でも、後継機種は発売
されておらず、また、他社でも同様な機構で追従する
事も無かった。(追記:2020年末に生産完了)
中古市場での玉数は、やや少なめで、やや高価な相場
でもある事から、現代では話題に上る事も少ない
レンズとなっている。

本DC105/2は、過去紹介記事で、たいてい同じ事を
書いているので、重複する内容になってしまうが、
総括としては、とても優秀なレンズである。

個人DB総合評価点は4.1点と、4点を超えるので
「名玉」と呼ぶ事ができ、ミラーレス・マニアックス
名玉編で第15位、最強100mm選手権ではB決勝第1位と、
過去ランキング記事でも上位ランクインの実績を持つ。
(注:価格がやや高いので、ハイコスパ系のシリーズ/
ランキング記事ではノミネートされる事は無かった)
中級層、中級マニア層以上には十分に推奨できる
レンズである。

----
では次は、今回ラストのNIKKOR 105mmシステム
_c0032138_10364959.jpg
レンズは、NIKON AF-S NIKKOR 105mm/f1.4 E ED
(中古購入価格 148,000円)(以下、AF-S105/1.4)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

2016年発売の、「三次元的ハイファイ」設計思想
第二弾、AF大口径中望遠レンズ。
_c0032138_10365526.jpg
さて、前出の1993年発売のDC105mm/F2以降、
NIKKORの105mmレンズは、マクロを除く通常レンズ
においては、ずっと新製品が出ていなかった。

本レンズは、実に23年ぶりに新発売された、通常
タイプの105mmレンズである。同時に105mmでF1.4
の開放F値を持つ大口径レンズとしても、恐らくは初と

なるであろう。(注:NIKONでは「AFレンズとしては
世界初」と言っている。もしかすると海外製の特注
レンズ等で、MFの105mm/F1.4級レンズがあったの
かも知れないが、少なくとも私は知らない)

「三次元的ハイファイ」については、本シリーズ
第63回記事で説明したばかりのタイミングだ。

ただ、その記事を読んでも「三次元ハイファイ」
が何であるかを理解するのは困難な事であろう。
まあ、その説明も悪い事はわかっている、だけど
「三次元ハイファイ」は、「技術」では無く設計思想
であるから、それを決めた人でないと、その「味付け」
については知るよしも無い。

当然、本レンズについて正しく評価しているレビュー
や情報等は皆無である。
たいていが、「105mmでF1.4の大口径だから凄い」と
スペックを見ただけで書いてあるが、そんな記事は
元々、そのレンズを所有すらしていない人からの
情報であろう。仮に所有して、実写していても
高価なレンズだから「良く写る」という思い込みの
評価か、または職業モデルを雇ってのポートレート
であり、それでは「三次元的ハイファイ」の特徴を
説明している写真や記事には、まず成り得ない。

結局、この「三次元的ハイファイ」の二機種
(AF-S58/1.4G、AF-S105/1.4E ED)は、失敗作で
あろう、いくら描写表現力が高くても、あるいは
そう簡単には他社は追従できない高度な新技術や
新発想を持って設計されたレンズでも、はたまた
他に類を見ないユニークな特徴を持っていたとしても、
それらが、一般ユーザー層の誰にも理解できないので
あれば、これは間違いなく「商業的」には失敗作だ。

ただまあ、個人的には、そのように誰も理解出来ない
または誰も評価しない、という機材は、結構好みだ。
_c0032138_10365509.jpg
総括であるが、現在、本AF-S105/1.4は、個人的な
研究/評価段階である。(本レンズは2019年購入)
本ブログでは、本格レンズの紹介は、購入後少なくとも
1万枚の撮影又は1年間の使用、場合により、3年程度の
評価期間を経てから記事として掲載する事としている。

単なるファースト・インプレッションでの「思い込み
評価」を避ける事と、そこまで長期かつ大量の試写を
行わないと見えて来ない事実も多々あるからだ。

ただ、本AF-S105/1.4については、2年や3年間の使用
では、まだわからない点が多い、と判断している。
非常に「手ごわいレンズ」である、というのが本音だ。

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追記:本記事執筆後、NIKKORの105mmレンズ全般に
興味が出てきた為、全10系統ある光学系のレンズの
全てを入手した。また別途、それらの詳細を比較する
記事を別シリーズ等で掲載したいと考えている。

では、今回の「NIKKOR 105mmレンズ編」記事は、
このあたり迄で・・ 次回記事に続く。

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