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レンズ・マニアックス(64)

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新規購入等の理由で過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回は、未紹介レンズ4本を取り上げる。

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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、TOKINA AT-X M35 PRO DX (35mm/f2.8)
(中古購入価格 18,000円)(以下、AT-X M35)
カメラは、NIKON D70 (APS-C機)

2007年発売の、APS-C機専用準広角(標準相当)AF等倍
マクロレンズ。

DX銘は、NIKON DXフォーマット機にあやかり、TOKINA
では、APS-C機(一眼レフ)専用を表す。
発売当時の雰囲気を味わう為に、今回は古いNIKON D70
(2004年)に装着してみよう。
_c0032138_19311808.jpg
発売時点では、恐らく、APS-C機専用の35mm級マクロ
製品は、他社にも殆ど(全く?)無かったと思われる。
珍しいスペックであるから、個人的には発売時点から
注目してはいたが、若干高価すぎるという印象があり、
購入は、発売後10年以上を過ぎ、「中古相場が十分に
下落した」と判断した2010年代末頃であった。

本レンズにはAFモーターが内蔵されておらず、NIKON
(F)マウント品の場合、2010年代のNIKON初級機の、
D3000系/D5000系の一眼レフに装着すると、AFが動かず、
また、それら初級機はファンダー/スクリーンの性能が
「仕様的差別化」により劣悪な為、MFでの使用も困難だ。
まあつまり、本レンズAT-X M35は、NIKON初級機では
事実上使用できない。

ただし、今回使用機のD70のような古い機体であっても
むしろ、AFモーター無しのNIKONマウントレンズのAFを
本体側から駆動できるので、使用上の問題点は無い。
_c0032138_19311811.jpg
さて、本AT-X M35の長所としては、そこそこ高い
解像感がある事だ、ただしボケ質に対する配慮は少ない
模様であり、軽いボケ質破綻が頻発する。
まあ、これは本ブログで言うところの「平面マクロ」的
特性となっている状態であろう。

銀塩MF時代のマクロを持ち出せば「平面マクロ」的な
ものは多い、ただし、そのほぼ全ては50mm以上の
焦点距離であるし、準広角~広角域のマクロ
(注:1/2倍以上のもの)は、多分存在していない。

だから、デジタルのAPS-C機に銀塩用マクロレンズを
装着した場合、それらは中望遠以上の画角となって
しまうので、APS-C機(特にNIKON機の場合)で
50mm標準画角のマクロが欲しければ、その当時と
しては、本レンズを使うしかなかった訳だ。

(なお、NIKON AF-S DX Micro NIKKOR 40mm/f2.8G
本シリーズ第35回記事参照、は、2011年の発売と、
本AT-X M35の4年後の発売となっていた。
そして、DX40/2.8の方が、本レンズよりもさらに
ボケ質の破綻の頻度が多い)

本レンズの「平面マクロ」的な特性を理解して使い
こなせるのであれば、その特徴は弱点とはならない。
_c0032138_19311883.jpg
本レンズの弱点は他にあり、具体的には以下だ、
*NIKON機用で、AFモーターを内蔵していない
*セミレア品で中古相場がやや高価すぎる事
*デザインの悪さ(アンバランス)さ
*フードらしき物が付属していたが、僅か数mm
 程度の長さしかなく、ほとんど無意味だ。

なお、TOKINAの2000年代レンズ製品は、NIKON機との
デザインマッチングを意図して開発されている場合が
多く、勿論他マウント版もあるが、CANON (EOS)機で
TOKINAレンズを使うというケースはあまり無いと思う。
中古市場に出てくる個体も、殆どがNIKON Fマウント
版である。

(参考:世に公開されている情報では一切無いのだが、
マニア層等では、サードパーティ製レンズの仕様や
性能から、カメラメーカーとの協業やOEM関係を類推
している為、自然と、使うレンズとカメラのメーカーの
組み合わせを限定する意識がある。それは銀塩時代末期
頃(2000年前後)では特に顕著であり、具体的には、
TOKINA→NIKON一眼レフ、PENTAX一眼レフに装着
SIGMA →CANON一眼レフに装着
TAMRON→(KONICA)MINOLTA一眼レフに装着
という感じであった)

で、NIKON機(一眼レフ)で使うという前提において、
近代においては、NIKON純正DX(APS-C機専用)レンズ
の新品・中古相場が大暴落しているので、低価格と
汎用性(AFモーター)を考慮するならば、NIKONの
DX40/2.8を買った方が賢明であろう。

ただし、描写力的には、本AT-X M35の方が、時には
DX40/2.8を上回る場合(ボケ質破綻の状況次第だ)
もあるので、ユーザー側の技量や撮影目的に応じて
どちらを選ぶかを決めれば良いと思う。
概ね、平面被写体にはDX40/2.8、立体的被写体では
どっちもどっちだが、僅かに本AT-X M35が有利で
あろうか?
あるいは、もうAPS-C機専用では無く、フルサイズ機
で50mm標準マクロを買った方が選択肢範囲が広く、
かつ、本AT-X M35を上回る名レンズも存在している。

でもまあ、全般的に本レンズの購入優先度は少々低い
状況ではなかろうか?

なお、近い将来に「35mm級マクロ・マニアックス
(または選手権?)」という記事を纏める予定だ。
そこでは各社の(APS-C機以下用)35mm級マクロを
多数紹介(または対戦)する事としよう。
(本シリーズ第68回記事に予定)

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さて、次のシステム、
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レンズは、LAOWA 17mm/f1.8 MFT (LAO0049)
(新品購入価格 19,000円)(以下、LAOWA17/1.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 (μ4/3機)

2019年発売のμ4/3機専用広角(準標準相当)単焦点
MFレンズ。
「LAOWA」は中国のVinus Optinc社のブランド銘である。

型番の「MFT」とはμ4/3(Micro Four Thirds)の意味。
本レンズはμ4/3専用で、他マウントでは発売されていない。
同様に、LAOWA製には他にもμ4/3専用レンズが存在する、
いずれも小型軽量な事が特徴であり、本レンズも重量は
172gしか無い。

LAOWAでは、製品の愛称に「なんとかドリーマー」と
銘打つ場合が多いが、本レンズは、小型軽量故に
C-Dreamer(Compact Dreamer)という愛称がつく。
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何故、LAOWAがμ4/3専用のレンズを発売するのか?
そして、それらが何故小型軽量を主眼として設計
されているのか?については、これらの小型軽量
レンズは、「μ4/3カメラ搭載ドローン」による
空撮をターゲットとしているからだと思われる。

ご存知、μ4/3は、2008年末より国内で展開されて
いるミラーレス機用規格であるが・・
2012~2013年に、各社のデジタル一眼レフや
ミラーレス機が、相次いでフルサイズ化され、
その際、フルサイズ機陣営関係者等から「μ4/3は
センサーサイズが小さいから、良く写る筈が無い」
という、市場での「情報攻撃」が行われてしまった
経緯(歴史的事実)がある。

一般層(ユーザー層)は、そうした噂話とか流言に
簡単に騙されて信じてしまうのが世の常であり、
例えば、少し前の2000年代には「画素数が大きい
カメラが良く写る」という話にユーザーの誰もが
乗ってしまっていた。
_c0032138_19312487.jpg
以下は参考の為、詳細な歴史だ。
2000年代当時、ピクセルピッチを狭めて画素数を
高める事を主眼に、メーカー等はセンサー関連技術を
進化させていた為、その新型のセンサー開発・製造に
係わる莫大な経費を償却するには、高画素のセンサーを
搭載したカメラを高価に売らないとならない。

よって、メーカーや販売側等市場関係者は、誰もが、
「画素数が大きいカメラが良いカメラだ」と、
2000年代の、およそ10年間も言い続けた。
結果、ユーザー層はすっかり、それに洗脳されてしまい、
高価な高画素の新鋭カメラを喜んで買った訳である。

しかし、ピクセルピッチが、およそ4μm程度に達した
2010年頃には、もう製造技術上の限界で、それ以上
ピクセルピッチを狭める事が出来なくなってしまった。


よって、もう、それ以上の高画素化が困難になった為、
同じピクセルピッチでも、センサーサイズを広める、
つまりフルサイズ化による、高画素化と高Dレンジ化に
センサー関連技術開発の方向性を転換したと思われる。
(注:μ4/3機のピクセルピッチは、発売当初から
4μmよりも小さく、高解像力のレンズ性能が要求
される状態であった)

同時期、2010年頃には「センサーサイズの大きい
カメラは良いカメラ」と、まず市場関係者が言い出し、
今度は、ユーザー層に、その概念を植え付ける方策を
取り出した。そこから数年後の2012年~2013年には
製造技術の進歩により、歩留まりが向上した(つまり、
コストダウンが実現した)フルサイズ型センサーを
各社が一斉に搭載し、それらを「高付加価値製品」
(つまり、高価に売れる=儲けが大きい商品)と
して販売を開始した次第だ。

なお、ユーザー側に「付加価値が高い」と思って
もらう為には、「それは良いものだ」という常識を
事前に「刷り込んで」おかなくてはならない。
だから、各社のフルサイズ化実施の前の段階から
「フルサイズ機は良く写る良いカメラだ、だから
 高価なのだ、高価でも買うべき価値があるのだ」
と、ずっと言い続けた訳である。

私は、個人的には、上記のような「市場のシナリオ」
が、あまりに「意図的」である事が明白で、ほとんど
賛同できなかった為、当初、フルサイズ機の購入を
完全に保留(無視)していた。
まあ、他のマニア層でも同様に、押しつけがましい
市場の「情報操作」は、反発した人も多かったであろう。

私が、フルサイズ機を画質以外の目的(具体的には、
魚眼レンズ、シフトレンズ、ぐるぐるボケレンズ等の
特殊効果レンズを、画角を広めて本来の効果を、より
顕著にする為)・・の目的により購入するのは、
フルサイズ元年(2012年)から、数年が経過して、
中古市場で、そこそこフルサイズ機の相場がこなれて
来た後の話である。

でも「特殊効果レンズの利用」という目的以外では
個人的にフルサイズ機のメリットは、コスパ面から
の比較では、相当に厳しい(=つまり、無駄に高価)
という判断は変わらず、数台のフルサイズ機を購入
した後は、またAPS-C(以下)機を主力とする状態が
ずっと現在まで続いている。

・・さて、で、2010年代中頃では、前述のμ4/3陣営
に対する「情報攻撃」があった事で、μ4/3陣営は、
戦略をシフトせざるを得なくなった。
OLYMPUSでは、業務用途を主眼とした超絶性能機
(E-M1/MarkⅡ/X、2013~2019年)や、PRO銘の
高付加価値(開放F1.2級)レンズの販売を開始した。
PANASONICでも同様に、超絶性能機(DMC/DC-GH
シリーズ)を、業務用動画撮影用途にシフトさせ、
静止画撮影機も同様に超絶性能化(DC-G9PRO等)
さらには、並行して、フルサイズLマウント機の
発売を開始(LUMIX Sシリーズ、2019年~)した
という状況だ。

しかしながら、同時期には、スマホ等の一般層への
普及により、デジタルカメラ市場は大きく縮退した。
これにより、カメラ全般の新製品価格は大きく値上げ
され、フルサイズ機であろうがなかろうが、カメラの
入手可能価格は、一気に、それまでの時代の数倍の
単価に跳ね上がってしまっている。
(2010年代前半には、3万円程度も出せば、結構
まともなカメラが中古等で入手できたが、2010年代
後半には、最低10万円か、それ以上もの高額予算を
投資しないと、まともなカメラは買えなくなった)

まあでも、こんな高価格化された市場では、ビギナー
やエントリー層はともかく、これまでのベテラン
ユーザー層は、高すぎて新鋭カメラには興味が持てない。
つまり、全体的にカメラの販売数を、より減らす方向に
市場がさらに縮退してしまっているのではなかろうか?

では、μ4/3陣営はどうするべきか?
1つは、カメラ以外の光学機器に着目する事である。
カメラ以外の光学機器分野は、2010年頃から、光学
機器関連企業では非常に注目していた市場である。
つまり、スマホの登場により、遅かれ早かれカメラの
売り上げは落ちる事が明白だから、当時から代替市場を
探していた訳だ。
当時から言われていた市場は4分野ある。すなわち
「ドライブレコーダー」「アクションカメラ」
「ドローン」「医療・健康分野用光学機器」である。

内、「ドローン」については、2010年代に大きく
成長した市場分野である。これは勿論空を飛ぶ機器で
あるから、そこには、あまり重厚長大な光学機器を
搭載する事はできない。
そこで、ドローン開発企業、およびμ4/3陣営は、
その両者が「小型軽量で高画質なμ4/3システム」
に着目し、2010年代後半より、μ4/3カメラ搭載型
ドローンや、ドローンに後付けできる、単体μ4/3
カメラの発売を開始した。

歴史の説明が長くなったが、これがつまりLAOWAが、
軽量のμ4/3専用レンズを発売する理由の1つである。
つまり、本レンズや他のLAOWA製小型軽量レンズは、
ドローンへの搭載も利用形態の1つとして意図されて
いる訳だ。
_c0032138_19312498.jpg
さて、ここからやっと本LAOWA 17/1.8の固有の話に
進もう。

小型軽量ながら、レンズ構成は、7群8枚、うち1枚が
異常低分散ガラスレンズ、と本格的だ。
LAOWAは、個人的な印象では「技術力の高い企業」
である、まだ数本程度しかLAOWA製レンズを所有して
いないのだが、特殊な仕様(例:アポダイゼーション
光学エレメント搭載や、超広角等倍マクロ等)の
レンズも難なく実現している。まあ、コンピューター
光学設計を、最も使いこなしている中国メーカーで
あろう、というのが私の認識だ。

なお、本レンズの公開仕様は、一部のWeb情報では、
レンズ構成のところに「7群21枚」という誤記がある。
勿論、そんなレンズ構成は有り得ないし、仮にあった
としても、172gの本体内に21枚のレンズなどは入る
筈も無い。上記「7群8枚」は、製品そのものの外箱に
書いてある情報であり、製品を所有しておらず見た事も
無い人が誤って記載したか、情報まとめサイトでの
転記ミスであろう。

まあ、レンズの設計そのものは優秀で、光学にも精通
しているだろうに、販売代理店とか流通市場とか、
評論家とか情報まとめサイトとか、そのあたりが
レンズや光学の関連知識が不足していると、平気で
凡ミスをしてしまう訳だ。

だから、私個人的には、もうネット上の情報は、
それが、たとえどんなに公式的な立場の物であっても、
完全にあてにする事は無く、必ず自分自身で直接的に
確認した情報しか信用しない事にしている。

まあつまり、巷に良くある「二次情報」(自分自身が
発する情報では無く、他者発信の情報を転記(コピペ)
しただけの物は、一切信用できないし、その多くは、
アフィリエイト(収益)目的でもあるので、そういう類の
情報は、できるだけ参照しないようにもしている状況だ。
_c0032138_19313260.jpg
本レンズLAOWA17/1.8の長所だが、小型軽量の割りに
そこそこ良く写る、描写力等においての実用上の不満は
殆ど無いであろう。
最短撮影距離は15cmと、焦点距離10倍則を下回り、
これも優秀。寄れない、という不満はあまり無い。
製造品質もそこそこ高い、ただし付属レンズフードは
プラスチック製のチャチなものなので、これはあまり
ちゃんと装着する必要も無いかも知れない。

なお、初回購入特典として、添付のハガキを返送すると、
LAOWA銘の入った保護フィルターを送って来てくれた。
より高価なLAOWA製レンズでは、最初から保護フィルター
が付属している場合もあり、こういったサービスは
好印象である。

短所だが、近接撮影に持ち込んで背景ボケを意図した
場合、ボケ質破綻が発生しやすい。恐らく、そうした
撮影技法は、想定外な設計であろう。
ただまあ、全ての収差を補正するのはレンズ設計上で
困難であるし、小型軽量レンズであれば、なおさらだ。
LAOWAの設計者は優秀である、と前述したが、そうで
あれば、ボケ質の悪さは「確信犯」であろう。
つまり、ボケ質まで欲張ってしまって設計すると、
小型軽量化が出来ないから、そこはあえて優先度を下げ
むしろ、解像感の向上や歪曲収差の低減を目指した設計
コンセプトである事が見て取れる。

まあ、であれば利用法もおのずと決まってきて、
中遠距離の被写体を中間絞り以上で平面的に撮れば
良い訳だ。近接して絞りを開ける技法は本レンズの
特性にはそぐわない。

でも、それだとちょっと撮影技法(テクニカル)的
には退屈しそうだったので、本記事においては作例
写真の全てに、エフェクト(アートフィルター)を
掛けている次第だ。

本レンズが、どのユーザー層に推奨できるか?
については、少々微妙なように思える。
ドローン向けで無く実用撮影に使うならば、マニア
層向け、という感じであろうか・・

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では、次のシステム。
_c0032138_19313349.jpg
レンズは、TOKINA AF745 (70-210mm/f4.5)
(ジャンク購入価格 500円)(以下、AF745)
カメラは、PENTAX KP(APS-C機)

詳細不明、恐らくは、1980年代末頃の短期間だけ
発売されていた、開放F値固定型AF望遠ズーム。

本レンズはPENTAX(KAF)マウント版であったので、
PENTAXの初期AF銀塩一眼レフ(SFシリーズ、1987~
1990年頃)のユーザー層に向けての製品であろう。

同時代のPENTAX純正AF望遠ズームとしては、
smc PENTAX-F (ZOOM)70-210/f4-5.6(未所有)が
存在するが、本AF745は、同じ焦点距離域ながら、
開放F値固定型であり、恐らくPENTAX純正レンズ
よりも安価であっただろうから、競争優位性は
あったと思われる。
_c0032138_19313378.jpg
本AF745は、開放F値固定型である事が最大の特徴であり
TOKINAの、あるいは他社や他のレンズメーカーの同時代
の初期AF望遠ズームは勿論色々あるが、開放F値固定型
よりも、開放F値変動型の機種数の方が多いと思う。

開放F値固定型は、ズーミングによるシャッター速度
の変化が殆ど無く、被写界深度と手ブレ限界速度は、
ズーミングの焦点距離にほぼ比例するようにリニア
(直線的)に変動する為、作画意図、撮影技法的に
使い易い。
・・というか、開放F値変動型のズームは、それ自体
が欠点であると思っていて、私は銀塩時代には基本的に
ズーム嫌いであったが、たまに必要として購入する
ズームは、その全てが開放F値固定型であった程だ。


メーカー側としても、その点は常識であり、銀塩時代
に、ちゃんとした撮影に使える企画意図の、まともな
ズームは、殆ど全てが開放F値固定型であったと思う。

しかし、開放F値固定型は開放F値変動型ズームより
大きく重く高価な三重苦レンズになりがちだ。
だから、1980年代以降、ズームレンズが一般撮影に
まで普及していくと、より軽量で安価な開放F値変動型
ズームがだんだんと増えていく事になる。

本AF745も、重量は645gもあり、同等の焦点域の
ズームとしては、やや大きく重い。
描写力も、本来の設計上では、手を抜いている訳では
無いとは思うのだが、残念ながら本レンズはジャンク
品であり、軽い内部クモリ(+カビ)があり、
コントラストが全般的にかなり低くなってしまう描写だ。
これでは実用撮影に使えないが、まあやむを得ない。
_c0032138_19313334.jpg
また、他にも様々な弱点が存在する。
具体的には、まず、最短撮影距離が1.5mと、他の
同時代の同等焦点域の(MF/AF)望遠ズームよりも
長めである。よって寄れない事と、最大撮影倍率の
不満が出る。今回のようにデジタルのAPS-C機で
使用する事で、最大撮影倍率上の不満は減少するが、
物理的に近寄れない点では変わりが無い。

次いで、MF操作性の課題がある。
本レンズには、ちゃんとしたピントリングが存在せず、
MFで使いたい場合は、レンズ鏡筒の先端部を無理やり
廻すしかない。これは少々わかりにくいので、本レンズ
の初級者レビューでは「AF専用、MF不可」という誤った
情報も見た事がある位だ。

何故、こんなMFを軽視した仕様となっているかは、
この当時、つまりMINOLTA「αショック」(1985年)
から数年後の世情では、「AFは最先端、AFは万能、
AFにあらずんば、カメラにあらず」といった風潮が
あった為、TOKINAに限らず、他社においても、多くの
レンズ製品が、極めてMFを軽視して、ほとんどまともに
操作できないように、あえてしてしまっていた。
まあつまり「MFで撮るのはダサい(現代的では無い)」
という時代であった訳だ。

だが、実際にユーザー層が初期AF機(一眼レフ)を
使ってみると、AFなど、まともに合わないでは無いか。
だから数年で、レンズ側の「MF軽視」という風潮は
急速に影を潜め(反省して)1990年頃には、各社の
AFレンズは、ちゃんとMFが出来るような操作性仕様
に改良された。
本AF745も、恐らくは1990年位には生産中止となって
いて、故に、ごく短期間だけの発売になった訳だ。

他の性能的にも、クモリ(カビ)問題を除いたとしても
現代において使える性能のレンズでは無い。
よって、本レンズに係わる性能的評価は省略する。
_c0032138_19314310.jpg
ただまあ、そのあたりの「性能の低さ」は覚悟の上の
購入である。他の記事でもジャンクレンズの紹介時に
毎回のように書いているが、この類のレンズを購入
する意味として、私の場合「弱点回避の為の練習」が
大きいからだ。

試写により、まずレンズの長所短所を把握する。
次いで、短所(弱点)がある場合、それをどうやったら
回避できるか?を考察し、それを実践練習する。
こうした事は、非常に高難易度の練習メニューであり、
そうした内容の濃いレッスンが、500円から1000円
程度のジャンクレンズへの投資により実現できる。

この事を、本ブログでは「ワンコイン・レッスン」と
呼び、個人的にはその為に、ジャンクの低性能なレンズ
を意図的・定期的に購入している、つまり地道な練習
メニューとなっている訳だ。現代のレンズは皆、高性能
なので、弱点を殆ど持たず、こうした弱点回避の練習
そのものが、まず出来ない。

ただまあ、レンズによっては、弱点回避が困難または
不可能な程に低性能(または劣化等も原因だ)な場合も
存在する、そういう場合では、あまり練習にならないが、
まあ、元々極めて安価に買っているので、諦めもつくで
あろう。

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次は、今回ラストのレンズ
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レンズは、LENSBABY Velvet 56mm/f1.6
(中古購入価格 30,000円)(以下、Velvet56/1.6)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)

2015年に発売された、米国製単焦点MF中望遠レンズ。

色々な特殊仕様を併せ持つユニークなレンズであり、
「ソフトフォーカス描写」「1/2倍ハーフマクロ仕様」
「(僅かな)グルグルぼけ傾向」という特徴を持つ。
_c0032138_19314398.jpg
姉妹レンズとして、Velvet 85/1.8が存在するが、
そちらは未所有である。
(追記:Velvet 28/2.5も発売された→未所有)

本レンズの発売時、近代のレンズでは珍しい、軟焦点
(ソフトフォーカス)レンズである事が気になったが、
価格が高価であり(発売時点では新品6万円台以上)
また、ソフトフォーカスレンズは多数所有している事
(特殊レンズ第7回ソフトフォーカスレンズ編参照)
もあり、本レンズを買う気は全く起こらなかった。

しかし、発売後数年を経過した頃に、珍しく中古市場
に本レンズが流出し、価格も手頃(発売時価格の
半額以下程度)となっていたので購入する事とした。

ただ、実際に使ってみると、本レンズが単なる軟焦点
レンズでは無かった事に、すぐに気づいた。

本レンズは、ややアンコントローラブルな特徴を持つ
特殊レンズである。あまり一言で表現できるような
レンズでは無かった。
幸か不幸か、そういう変り種レンズは個人的には大好物
である、さて、どんな変わった特徴を持つのか・・?

まず、本レンズの最短WD(ワーキング・ディスタンス、
レンズ先端から被写体までの距離、物像間距離)は
13cmであり、最大撮影倍率はフルサイズ時1/2倍である。
なお、LENSBABY社の仕様では、最短撮影距離では無く
最短WDである場合がほぼ全てである。
他に、RICOHのGR系やGXR系でも最短撮影距離では無く
最短WDなのだが、業界内で、こうした仕様表記等が
いつまでも標準化(共通化)出来ないことは、とても
残念な事だと思う。
_c0032138_19314489.jpg
で、本レンズは、軟焦点(ソフト)描写である。
軟焦点描写は球面収差を起因とするものであるから、
絞りを絞る事で、口径比の3乗に反比例して急速に
その収差は減少し、軟焦点から普通の描写に変化して
いく。ただし本レンズの場合は、軟焦点効果の減り方は
一般的な専用ソフトフォーカスレンズに比べて、とても
顕著であり、F2.8を超える(大きいF値)あたりから、
殆ど見られなくなる。

そして、ごく一部の専用ソフトレンズ(銀塩時代の
1990年頃のMINOLTA製、およびCANON製)では、
ソフト量と絞り値を別々に制御できたのだが、本レンズ
を含む他の(殆ど)全てのソフトレンズでは、絞り値
とソフト効果量調整は兼用だ、つまり絞り込むに従い、
ソフト量が減りつつ、被写界深度が深くなる。

本レンズの場合、さらに開放F値近くでは、被写体
条件に応じて、僅かな「グルグルぼけ」が発生する。
(下写真がその実例)
_c0032138_19315021.jpg
この「グルグルぼけ」も、元はと言えば非点収差や
像面湾曲(収差)を起因とするものであるから、
これも絞り込むと減少していく。

すなわち、本レンズの実使用状況においては、
「軟焦点(ソフトフォーカス)効果」「グルグルぼけ」
「被写界深度」の3つの要素を、絞り値開放(F1.6)
~F4程度の狭い範囲で、被写体状況と作画意図に応じて、
極めて微妙にコントロールしてあげる必要性がある。
(さらに言えば、撮影距離や背景距離も大きく影響する)

これは、かなりの高難易度な撮影技法である。
少なくとも上級者以上で無いと、いや、多くの上級者や
たとえ職業写真家層であっても、現代の撮影機材における
高性能に頼る事に慣れてしまっているならば、このような
微妙なコントロールは、まず出来ないと思われる。

そう、本レンズの最大の課題が、この「使いこなしの
困難さ」であろう。 
本シリーズ記事第11回、第12回での「使いこなしの
難しいレンズ特集(ワーストランキング)」に
今から追加したいほどの、高難易度なレンズだ。

ただまあ、ソフトフォーカスと、(1/2倍)マクロの
両者の効能を同時に得られるレンズは、本Velvet系
(28mm/56mm/85mm)の他には存在しないのでは
なかろうか?
1990年代のMNOLTA AF100/2.8Softは、80cmまで
寄れるが、マクロと言う程の撮影倍率は得られ無い。
また、1995年のNIKONおもしろレンズ工房の中に、
1本のレンズで(ぐぐっと)マクロと(ふわっと)ソフト
を兼用できるものがあるのだが、これは「組み換え式」
なので、両者の効能を同時には得られない。

まあつまり、本Velvet56/1.6(同85/1.8も、さらに
同28/2.5も)非常に希少な仕様のレンズではある。
しかし、希少な故に、「何をどう撮るレンズか?」
という経験則を持たないので、この点でも、やはり
使いこなしの困難さを助長する事になるだろう。
_c0032138_19315024.jpg
本レンズは、そう簡単に使いこなせる類のレンズ
では無いので、一般ユーザー層全般に非推奨である。
かろうじて推奨可能なのは実践派上級マニア層のみ
であろうか? まあ、それでも相当に難儀する可能性
も高い。つまり「テクニカル・マニア」御用達だ。

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さて、今回の第64回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。

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