過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介の
マニアックな所有レンズを主に紹介するシリーズ
記事。今回は、未紹介レンズ4本を取り上げる。
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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、Neewer 85mm/f1.8
(中古購入価格 6,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
詳細不明、2010年代中頃から後半頃に発売と思われる
中国(香港)製、MF単焦点中望遠レンズ。
2010年代後半の中国製「ジェネリック」レンズの
多くとは異なり、一眼レフ(フルサイズ)対応の設計
であり、本レンズはNIKON Fマウント(非Ai)版での
購入だ。
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NeewerはMeikeと同一の企業である、とか、そうでは
無い、とか言う噂が色々あるが、詳しくは知らない。
現代の「企業間」の関係は複雑で、旧来のように
「メーカーとは独立した存在である」という概念が
希薄化している事もある。
Neewer(Meike)がある「香港」は、隣接する「深セン」
(Shenzeh)とともに、経済特区のような先進的地域で
あり、近年では特に光学系(レンズ等)を扱う企業が、
「深セン」と香港に集結しつつある模様だ。
知人が以前「深セン」に海外赴任していた事もあり、
色々と話を聞くが、近代的な都市であるそうだ。
私は残念ながら未訪問であるが、興味深い様相であり
いつか技術系の仕事関連で商談や協業等の機会が
あれば訪れてみたいと考えている。
(ただ、近年ではコロナ禍で行き難い事に加え、
少し前には治安が悪そうだったが・・)
で、「深セン」や「香港」での光学系企業の集合体は、
いわゆる「学術研究都市」(テクノポリス)の様相を
持っていると聞く。
まあ、日本でもそういう地域はいくつか存在している、
例えば、筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市が
それである。
また、もっと広く解釈していくと、「工業団地」とか、
さらにもっと一般的な例えでは、秋葉原や日本橋と
いった電気街とか、あるいは「ラーメン街道」のように
同一種類の企業・工場群や店舗群が集中する地区が
日本にも色々と存在している。
まあ、電気街やラーメン街道であれば、消費者の立場
から見て、そこに行けば、あらゆる部品や製品を探す
事ができたり、好みにあった様々なラーメンを食べれる
ので便利ではあるし、そこに店舗を出店する側も、
ある程度の集客が保証されているから、あとは実力
次第で「一旗あげる」為に挑戦する事ができるだろう。
ここであげているように、それが研究開発や製造業で
あれば、近接する多数の類似技術を持つ企業群の中
での、様々な情報交換や、製品企画の立案、さらに
「オープン思想」による技術的アライアンスや協業、
汎用部品や同一製造工場の共用による生産の効率化、
「産学官」連携による資金調達のしやすさ・・等の
数え切れない程の様々なメリットが存在している。
こういう「テクノポリス」においては、急速に技術
が発展するケースが多い、なにせ効率的だからだ。
近年での中国製レンズの性能や品質が急速に向上
したのは、恐らくそのように研究開発を同一地域で
集中して効率的に行っているからだろう。
で、日本で何故そうした事ができないのか?という
点では、まず日本のテクノポリスは先端技術分野が
主体であり、光学(レンズ)やカメラといった、
ある意味「古い」技術は、そういう所に集中していない。
また、日本での旧来からの事業構造により、(カメラ)
メーカー等は、各々独立性が非常に強く、下手をすれば
(いや、まちがいなく)「他メーカーはライバルだ」と
考えている。
これでは、協業や研究開発の効率化などは出来る筈も
無いし、もし昔からそれが出来ていたのならば、
例えば「カメラのマウント」等は、とっくに統一されて
いて、ユーザーは同じレンズを、どのメーカーのカメラ
でも使えるなど、高いユーザー利便性が得られていた
事であろう。
現代のカメラユーザーは、メーカー毎にマウントが違う
事は「常識」だと思っているだろうが、実は世間一般
的には、これは、とんでもない「非常識」である。
例えば、電球、蛍光灯、乾電池、CD-ROM、USBメモリー、
SDカード、HDMIケーブル、電子楽器のMIDI、自転車や
自動車のタイヤやチューブ、燃料のガソリン・・
まだまだ、いくらでも例は挙げられるが、こういった
身近な様々なものや製品が、メーカー毎に各々仕様が
異なっていて、同じメーカー同士でないとUSBメモリー
も入らない、ともなったら、ものすごく不便であろう。
「もっと便利にしろ!」と、消費者運動(暴動)が
起こっても不思議では無い。
しかし、カメラの世界では、その「非常識」が、まかり
通ってしまうのだ。勿論、世間の一般的視点からは酷い
話であるし、それができないカメラ界は困った状況だ。
これは国内メーカーの独立性が強い故の課題だと思う。
こんなところに「深セン」や「香港」での技術共同体
のようなものが襲ってきたら、国内メーカーも防戦に
苦労する事であろう。
現に2018年頃から、一部の上級(レンズ)マニア層
も低価格な中国製新鋭レンズに注目し、それの購入と
研究を開始している。
この頃、国内メーカーのカメラやレンズの魅力的な
新製品は殆ど無く、あったとしても、新鋭フルサイズ
ミラーレス機と、その高額な交換レンズ群等で、それらは
縮退したカメラ市場を救済する為の高付加価値商品だ。
こういうと聞こえは良いが、実態は「カメラやレンズが
もう全く売れないので、高額な商品を作り、スペックに
目を引かれてお金を出してくれるビギナー層から利益を
回収する」という仕掛けである。
(そうやったとしても、年々、カメラの販売数が減少
していると言う暗いニュースばかりが飛び込んでくる)
これでは「事の本質」がわかっている中上級マニア層
においては、新鋭高額商品などに興味を持つ筈も無い。
高すぎるカメラは買う気も起こらないので、安価な次世代
商品が出てくるまで、つまり市場が、自ら需要と供給の
バランス点を求めて変遷するまでは、新鋭海外(中国)製
レンズ等で、お茶を濁して遊んでおくしか無い状況である。
なお、2021年頃から、国内の有力メーカーも、少しだが
従来よりも安価な製品(カメラ、レンズ)の発売が
開始されている。まあ、このまま高価すぎる製品を
売り続けて行っても、さらに売れずに市場が縮退する
悪循環であるからだろう。これが「マーケット(市場)は
自ら、バランス点を目指して推移する」という状態だ。
さて、余談が長くなったが、こういう「市場の状況」
の話は、個々のレンズの性能がどうのこうの、といった
狭い視点での話よりも、遥かに重要な事である。
世の中全般で何が起こっているかを知らずに、カメラ
やレンズを開発販売したり、消費者がそれを購入して
評価するなどの状態では、より重要な何かを見落として
しまう危険性もあるのだ。これはメーカーもそうだし
ユーザーもそうである、両者が良く現実を把握して
おかないとカメラ市場は縮退していく一方となる。
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では、ここから本題に入る。
本Neewer 85/1.8は、後年に発売されたMeike 85/1.8
(フルサイズ対応CANON EFマウント版、AFである。
レンズマニアックス第38回記事等、複数回紹介済み)
とは全くの別物、いや、あまりに別物すぎて、むしろ
不自然なくらいである。
本レンズは、やや昔の時代の「中国製品」の雰囲気を
色濃く持つ製品だ。「先進国の製品の雰囲気をコピー
して作ってはいるが、なんとなく作りが安っぽく、
品質、性能や製造精度も怪しい」という、そういった
昔の中国製品のイメージのレンズである。
例えば、本レンズはφ55mmのフィルター径だが、
それが装着できない。私は、製造精度が異なる、昔の
時代からの数枚のφ55mmフィルターや、ステップアップ
リングも試してみたが、レンズ側がφ55mmよりも僅かに
大きい径の模様で、どれも空回りして装着不能なのだ。
マウント径もヤバい、NIKON Fマウント品だが、ほんの
僅かに小さい模様である。NIKON製デジタル一眼レフに
直接装着するには、明らかな危険性がある為、それは
一切試さず、リスク回避の為に必ずミラーレス機用の
NIKON Fマウントアダプターで使う事とした。
それから、距離指標が実距離と合っておらず、
「オーバインフ」(無限遠以遠にまでピントが合う)
状態である。この課題は、新しいMeikeレンズの一部
にも存在し、(ミラーレス用)マウントによっては、
オーバインフとなったり、最短撮影距離まで廻らない
場合もある。
レンズの絞り値の表記もデタラメだ、F3,F6,F10等の
表記があり、古今東西、そんなレンズは見た事が無い。
絞り値は「段数系列」という暗黙のルールがあり、
1段刻みの系列の場合は、ここはF2.8、F5.6、F11
でなくてはならない。
また近年の中国製レンズの絞り環のように連続回転式
では無く、絞り値にはクリックストップがある。
全般的に素人設計感が満載であり、これでは日本市場に
販売する事は難しい。目の肥えたマニア層等から
酷評の袋叩きに合い、二度と製品が売れなくってしまう。
まあ、なのでNeewerブランドはもうやめて、日本市場
への本格参入の際には、Meikeブランドを新しく
立ち上げたのだろうか? あるいは、もうNeewer時代
とMeikeは、別企業と言える程に経営体制が一新された
のであろうか? はたまた、両ブランドが同一企業
である、という情報自体、ガセであったのだろうか?
まあ、そのあたりは不明であり、詮索はするまい。
その結果としての、新製品Meike 85/1.8(AF版)の、
性能や品質は、かなり向上していて、そちらのAF版の
私の個人評価はかなり高い。
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まあ、もしかすると、前述の「深セン」や「香港」の
テクノポリス光学共同体により、日本市場に参入する
為の、徹底的な仕様検討が行われたのかも知れない。
いや、これは想像だけでは無く、事実であろう。
だからこそ、2018年頃から、「深セン」や「香港」
から日本市場に参入した新規メーカー、すなわち
「YONGNUO」「七工匠」「LAOWA」「Meike」や
「銘匠光学」等は、どれもおしなべて、日本製レンズ
に勝るとも劣らない品質や性能を確保している。
「変なモノは日本市場には売れない」という認識で
あろう。
ただまあ、そこでは若干の差もあり、YONGNUOは
CANONレンズのクローン(完全コピー)品であって
少々異端。それからKAMLANは「深セン」で製造を
しているが、設計は台湾であり、最初期の製品の
2019年の「FS50/1.1」(本シリーズ第37回)は
実用性能にまるで満たない低描写力であった。
恐らくこの製品は、「深セン」の「光学共同体」
からも、その点を指摘を受けたのではあるまいか?」
「この製品の性能では、日本市場には通用しない」と。
その結果からか? FS50/1.1は、発売後わずか3ヶ月で、
Ⅱ型の後継機が発売され、そこでは全くの新設計と
なっている(注:Ⅱ型は未所有)
ただまあ、「3ヶ月で新製品を作れる」という事実も
ここで明らかになった訳であり「深セン、恐るべし」
という様相である。
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本レンズの総括であるが、品質的にやや不満足な
レンズである。Meikeブランドのレンズは、他に
4本を所有していて、それらは満足行く品質および
性能であるのにも係わらずだ。
やはり、Neewerブランド、およびその品質基準と
「設計基準」では日本市場に通用しないと考えて
Meikeブランドで心機一転を計ったのであろうか?
(注:ここで言う「設計基準」とは、製品の全ての
仕様に係わる要求性能全般の事である。
一部のマニア層等が言うように、単純に描写性能の
基準を「近接優先か?無限遠優先か?」の選択だけを
「設計基準」と呼ぶのは、あまりに狭すぎて無理のある
表現であろう。設計開発の業務上では、軽く百項目を
超える、決めなければならない「基準」がある)
様々な「謎」が残る結果となったが、1つだけ確か
な事としては、個人的には、もう今後Neewer銘の
レンズを積極的に収集したいとは思えない事だ。
買うならば「Meike」であろう、その差は大きい。
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さて、次のシステム、
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レンズは、TAMRON 70-210mm/f4-5.6 (Model 58A)
(ジャンク購入価格 200円)(以下、58A)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7 (μ4/3機)
1988年発売のMF望遠ズームレンズ。
購入価格200円(税込み)は、誤記では無い。
無償譲渡品を除き、お金を出して購入したレンズ
としては、本58Aが最も安価であった。
だが、ジャンクにつき、残念ながら故障品であった、
チェック時、ピントリングが固くて廻らない。しかし、
ちょっと力を入れると廻るようになったので・・
「もしかして動くか?」と思っての購入だったが
やはりダメだ、ピントリングは廻ったのたが、
内部的にヘリコイドがイカれてしまっている模様で、
ピントが約2mのところで固定されてしまっていて
フォーカシングが一切出来ない。
今回の試写は最小限に留めておこう。
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それから、本58Aはアダプトール2仕様であるが、
そのマウントが付属していなかった事も、安価な理由の
1つであろう(→このレンズは”動きそうも無い”から、
アダプトール2を外して、別売りにしたと思われる)
「アダプトール2」とは、TAMRON社が1979年より
2000年代初頭ごろまで展開した、交換型マウント
の事であり、TAMRONのMFレンズを買って、ユーザー
が自力でアダプトール2を交換でき、その種類によって
NIKON F(Ai)を始めFD、MD、PK、OM、C/Y・・等、
およそ全ての銀塩(MF)一眼レフ機で同一レンズを
使用できる、という優れた仕様である。
(なお、アダプトール2対応MFレンズの最大口径比は
開放F2.5である。そうなっている理由は不明だが、
後玉の径や構造上で、そこまでの口径比で制限して
いる仕様(設計基準)だと思われる)
で、それ以前の時代においても、TAMRONや一部の
他のレンズメーカーでも交換マウント方式を採用
していたが、AE(自動露出)にまで対応できていた
のは、TAMRONのアダプトール(2)のみだと思われる。
便利なシステムであるが、さすがに各社のAF一眼
レフにまで交換マウントで対応するのは無理だ、
単に機械的に形状を揃える構造のみならず、AF時代
では、情報のやりとり(データ・プロトコル)まで
をアダプターに入れなくてはならず、さすがにそれは
厳しい。だからAF機用のアダプトールは存在しない。
(稀にあった、α用とEOS用のアダプトール2は、
TAMRONのMF500mmミラーレンズ(絞り無し)
専用だ)
まあでも、1990年代のAF時代を通じてまで、
TAMRONは、MF一眼レフ(および一部のAF一眼レフ)
に向けて、アダプトール2仕様のMFレンズを販売して
いた、やはりこの形式は実用上の利点が大きいからだ。
で、アダプトール2は各社(各マウント)用の物が
複数必要となる。それは、アダプトール2対応レンズ
での「レンズの共用」という恩恵を受けられるのは
複数のマウントの一眼レフを持っているユーザー層
だけであるからだ。
だから、マニアであれば数種類からあるいは全種類
のアダプトール2を所有しておく事は、銀塩時代では
常識であった。(注:マイナーマウント用、例えば
ライカR等は、高価であったり入手困難な場合もある)
まあつまり、アダプトール2は価値がある商品であり
銀塩時代では、中古でも2000円~3000円程度が
相場であった。
近年において、TAMRONのジャンクレンズ等で、
アダプトール2が付属したまま販売されている時は
アダプトール2だけでも1000円程度の価値があると
認識しておいた方が良いであろう。
よって、カメラ(中古)専門店では、ジャンクレンズ
にアダプトール2を付けたまま、若干高価(2000円
以上)で販売するか、アダプトール2を外して、それは
単品販売とし、残ったレンズを、数百円程度で売るか
の二択になるであろう。
今回購入レンズは、アダプトール2無しのパターンだ。
でも、私は家に、ほぼ全種のアダプトール2を、しかも
複数個づつ保有しているので、これで何も問題無い。
なお、カメラ専門店では無い、例えばハードウェア
リサイクル店等では、アダプトール2の価値がわからず
それを付属したままジャンクレンズを数百円の価格で
販売しているケースもある、そういう「掘り出しもの」
を見つけたら迷わず「買い」であろう。
万が一、レンズ側が完全に壊れていて使えなかったと
してもアダプトール2だけで1000円程度の価値はある。
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さて、という事でアダプトール2の話を主にして
きたが、肝心の本58Aレンズの特徴であるが・・
ここは残念ながらわからない。完全故障品だからだ。
「故障を回避する技法を練習する」と考えて、
丁度、個人的にはやや苦手な2mの撮影距離感覚を
鍛える為に、2mの被写体に丁度ピントが合うように
撮影距離を調整し、後はズーミング(正常)と、
絞り値変更(正常)で、撮る練習を数百枚程度
行ったが・・ 例えばズーム故障、絞り故障であれば
なんとか撮る術はあるのだが、ピント故障はダメだ、
どうやっても、故障回避の術は困難で、諦めざるを
得ないであろう。
また、逆光耐性が恐ろしく低く、ちょっとした逆光で
フレアが発生し、コントラストの低下が酷い。
これは内部カビの可能性も高く、この課題がある為
「分解して修理に挑戦しようか?」という気も失せた。
万が一ヘリコイドが治ったとしても、実用性能に満たない
レンズであるからだ。
まあ、廃棄または研究の為の分解が妥当な措置であろう、
それでも数百枚程度は撮って練習したので、元は取れて
いると解釈しておこう。
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では、次のシステム。
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レンズは、CANON (New) FD 80-200mm/f4
(中古購入価格 2,500円)(以下、NFD80-200/4)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
1980年に発売された、開放F値固定型MF望遠ズーム。
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ほぼ同時期の製品で、極めて類似した数値仕様の、
(New) FD 70-210mm/f4(1979年発売)がある。
そのNFD70-210/4は、非常に高性能なレンズであり、
本ブログのランキング系記事においては、
ハイコスパレンズ名玉編において第7位の好成績だ。
しかしながらNFD70-210/4と本NFD80-200/4が
似ている点は数値スペックのみであり、「両者は
全くの別レンズだ」と言っても差し支えが無い。
まずは操作性が異なる。NFD70-210はワンハンド式
ズームであり、素晴らしくMF操作性が良いのだが、
本NFD80-200/4は、二重回転式のズームリングと
ピントリングであり、MF操作性や速写性に大幅に
劣ってしまう。
次いで、描写力が全然異なる、NFD70-210は現代に
おいても殆ど不満が無い程の高描写力のレンズであり
故に、ランキング系記事にもノミネートされる次第
であるが、本NFD80-200/4はフレアっぽく解像感
も低く、比較の対象にもならない低描写力である。
あまりに低い描写力であり「軽いカビ」の発生を
疑ったのだが、見た目ではそれはわからず、元々
こういう性能なのかも知れない。
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例えば、同時発売のNew FD100-300mm/f5.6(1980年、
本シリーズ第35回)も、本レンズと同様な低描写力
であった。(注:そちらは軽いクモリがある)
それから、本NFD80-200/4には後継レンズが存在
する。蛍石レンズに1枚差し替えて収差を補正した
L(高画質)仕様のNFD80-200/4L(1985年)だ。
実は、NFD80-200/4Lは銀塩時代に所有していた。
しかし中古でも4万円程もした高額レンズでありながら
描写力が全く個人の好みに合わず、「コスパが悪い!」
と一刀両断して短期間で手放してしまっていたのだ。
すると、やはりNFD70-210だけが特別に優れるの
だろうか? 私も様々な時代のレンズを集めて研究して
いくうちに、なんだか1980年前後のズームとしては
NFD70-210が異様に優れているような気もしていた。
それを確かめる為に、当該レンズのAF版と思われる
EF70-210mm/F4(1987年、本シリーズ第40回)
を中古購入し、比較検証をしてみる事とした。
EF70-210/4は、NFD70-210/4の8年後に発売された
AF版後継機であり、レンズ構成は、何故か1枚減って
いるが、ワンハンドズーム構造とか他の様々な数値
仕様がほぼ同一であり、描写傾向も、ほぼ類似だ。
そして、その描写力は悪く無い。
まあつまり、やはりNFD70-210/4の設計完成度が
当時としては抜群に優れていた事になる。
すると別の疑問点が出て来る、当時のCANON製の
MF開放F値固定型望遠ズーム、つまり・・
1979年:NFD70-210/4 (ワンハンド式、紹介済)
同 :NFD70-150/4.5 (後日紹介予定)
同 :NFD100-200/5.6(旧FD版を所有)
1980年:NFD80-200/4 (二重回転式、本レンズ)
同 :NFD100-300/5.6(ワンハンド式、紹介済)
1981年:NFD50-135/3.5 (未所有)
同 :NFD85-300/4.5 (未所有)
1985年:NFD80-200/4L (譲渡により現在で未所有)
・・という、類似仕様で、開放F値固定の類似設計
思想の多数の商品群は、いずれも同じ人(チーム)の
設計なのであろうか?
いや、それはあるまい、いくらなんでも、2年程の
短期間で、これだけ多数の望遠ズームは設計できない。
しかも、私が所有している約半数の範囲での、これらの
望遠ズーム群は、個々の操作性構造や、描写力傾向が
まるで異なっている。つまり、同一の「設計基準」
(注:広い意味である。=あらゆる仕様の決め事)
では無いし、すなわち個々に異なる設計者(設計チーム)
の手によるものである事が十分に想像出来る。
(=設計スキルに個人差があった、という事になる)
また、別の側面においては、これらの内の一部の
ズームは、旧FD時代(1970年代前半頃)から続く商品
である、つまりおよそ10年前の設計を、New FDとして
焼き直ししたものであるから、技術水準が低く(古く)、
結果的に描写力性能も低いという事だろうか?
・・しかし、製品毎に、ここまで性能や仕様的な差が
あると、なんともややこしい状態だ。たとえば
「1980年前後のCANON MF望遠ズームは優秀であった」
などの”十把一絡げ”な評価は一切言えなくなる。
(レンズ個別に性能が全く異なるのだから当然だ)
![_c0032138_17300317.jpg]()
さて、本レンズNFD80-200/4の総括であるが、
残念ながらあまり推奨できないレンズである。
二重回転式操作系は、MFズームとしては適切では
ないし、そもそも描写力的に見劣りしてしまう。
これであれば、NFD70-210/4を買った方が、ずっと
ましな状態だと思う。
(注:いずれ、この時代1980年頃の、CANON製の
望遠ズーム数本の比較記事を掲載予定である)
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次は、今回ラストのレンズ
![_c0032138_17301220.jpg]()
レンズは、NIKON Ai NIKKOR 105mm/f1.8S
(中古購入価格 41,000円)(以下、Ai105/1.8)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)
1981年に発売された、単焦点MF大口径中望遠レンズ。
前機種は無く、後継型も存在しない。
時代の狭間で生まれてきた独立系統のレンズである。
![_c0032138_17301226.jpg]()
5群5枚と、かなり少ないレンズ構成であり、もしか
するとテッサー型のGN Auto NIKKOR 45mm/f2.8
の4枚構成を除き、本レンズの5枚は、NIKKORでの
最少構成なのかも知れない(?)
この構成は、ガウス型とトポゴン型をハイブリッド
化した「クセノター型」の、さらなる変形、と聞く、
まあつまり、独自の構成に近いという話だ。
(注:とは言え、兄弟レンズのAi105/2.5系列も
クセノター(ビオメター)型の4群5枚であるから
こちらは大口径化での発展形かも知れない訳だ)
しかし5群5枚でも、近年(2019年)の台湾設計の
KAMLAN FS50/1.1は、異常低分散ガラスレンズを
2枚使っているにも係わらず、描写力が相当に低い。
(あまりに低いので発売後3ヶ月でⅡ型が追加された)
まあ、開放F1.1の大口径を実現するには、収差補正
の設計が非常に難しい、という事なのだろう。
本レンズも105mmでF1.8は大口径の類だから、少ない
レンズ枚数では収差が補正しきれるかが心配だった。
実際のところ、その問題は結構大きいのだが、詳細は
弱点のところで後述する。
でもまあ、そのあたりは、KAMLAN FS50/1.1程の
致命的な問題では無く、バランス良く設計されている。
これはまあ、設計技能の差であろう、コンピューター
光学設計がまだ無い時代であるからこそ、職人芸的な
手動設計の技が見て取れる。
現代のコンピューター光学設計では、収差補正結果の
評価関数(メリット関数)を、どんどんと高める為に、
とてつもなく複雑な(10数群10数枚)という構成が
自動的に提示されてしまう。そうしたコンピューター
の、ある意味「暴走」を止めるには、そのレンズの
用途や設計思想に応じ、どの収差の補正を重要視し、
他を何かを犠牲にする、といった、設計者の持つ絶妙な
バランス感覚が必要だ。それは昔の時代でも、現代で
あっても、やはりベテラン設計者のスキルに依存する。
さて、レンズの焦点距離の話であるが、NIKKORには、
100mmレンズというものは基本的には存在せず、
例外的に「シリーズE」で、100mm/F2.8のレンズが
存在していたに過ぎない(注:そのレンズは廉価版
なので、NIKKORとは呼ばれていない。詳細は、また
特殊レンズ「NIKON シリーズE」記事で特集しよう)
で、他のNIKKORは、全て105mmの焦点距離だ。
最も著名なのはAi105mm/F2.5(系列)であろう。
こちらは銀塩時代に使っていたが、現在未所有だ。
(追記:記事執筆後に研究用に入手している)
だが、本Ai105/1.8の購入により、多くのNIKKOR
105mm級レンズが揃ってきたので、いずれ機会が
あれば各時代のNIKKOR105mmの変遷の記事を書こう。
![_c0032138_17301347.jpg]()
本Ai105/1.8だが、Ai NIKKORの85mm~180mm
の中望遠~望遠レンズの大口径版は、他のNIKKOR
レンズ群とは明らかに違う描写傾向を持つ。
本レンズの入手でAi85/1.4、Ai105/1.8、Ai135/2、
Ai(ED)180/2.8の4本をコンプリートできたので、
いずれ機会があれば、この件も特集記事で紹介したい
と思っている。
まあ簡単に言えば「他のNIKKORは固い描写が多いのに
この4本は、柔らかい描写傾向がある」という話だ。
これにも、そういう設計コンセプトとなった理由が
あると思うが、冗長になる為、今回は割愛する。
Ai105/1.8の長所としては、ピント面は割合に
シャープながらも、その柔らかい描写傾向である。
ボケ質(というか、ボケ遷移が良いのであろう)に
優れたNIKKOR中望遠は大変希少だ。
ただし、ボケ遷移はともかく、背景等でのボケ質が
良いのは、本当に条件がハマった場合のみであり、
それは多くの場合、被写界深度を浅くして「大ボケ」
させた状態であり、普通は、ボケ質破綻が頻発する。
このあたりは、レンズの構成枚数の少なさが仇と
なっているのであろう・・ なんというか、かなり
「古臭い」感じのボケ質破綻だ。(=レンズ構成
枚数の少ない1970年代前後の大口径レンズや
望遠レンズで、同様な二線ボケ傾向のボケ質破綻が
発生しやすい)
下写真が、ボケ質破綻を起こしている例だ。
![_c0032138_17301301.jpg]()
今回使用機のNIKON Dfの光学ファインダーでは、
ボケ質破綻の回避は不可能と言えるし、ピントの
歩留まりもあまり良く無いレンズなので、本レンズ
に関しては、高精細EVF搭載のミラーレス機で
使った方が良いと思う。
まあでも、上手く条件が決まれば、ボケ遷移が良い
上に、ボケ質は柔らかくて、好ましい感じだ。
で、このレンズの、その描写コンセプトを継承し、
少し時代は飛ぶが、本レンズのAF版後継機とも言える
AiAF DC-NIKKOR 105mm/F2D(1993年、多数の
過去記事で紹介済み)では、ボケ質のコントロール
機構を搭載したのだろうし、さらに新しい、
AF-S 105mm/F1.4E ED(2016年、後日紹介予定)
でも「三次元的ハイファイ」思想により、さらなる
ボケ質・ボケ遷移の向上を目指したのであろう。
まあつまり、NIKKOR大口径105mmは、歴史的にも
ボケ質(やボケ遷移)に配慮したレンズが並んで
いるという状況だ。
まあ必然的に105mmレンズの用途だと、そういう
設計コンセプトになってしまうのだろうか・・?
そして、銀塩時代には「ポートレートを撮るならば、
あなたは85mm派? それとも105mm派?」という
比較が良くされていたのだが、基本的にはその話は、
「交換レンズを売る為の宣伝的要素」も多々含まれる
ものだし、かつ、「ポートレートには大口径中望遠」
という思い込み思想も、なんとなく賛同できない
(皆、同じような写真ばかりとなる)ので、
個人的には、あまり興味を持てない話でもあった。
(マニアならば、必要であれば両者を買えば良い話だ、
どっちが良いとか悪いとかを机上で議論をする位ならば、
両者を入手し、自身の目で確かめてみれば良いだけだ)
なお、SIGMAにもART LINEから105mm/F1.4の
新鋭レンズ(2018年)が出ているが、それは未所有だ、
Art Lineでは、85mm/F1.4と135mm/F1.8を愛用
してはいるが、それらは大型レンズながらも、
かろうじて手持ち撮影が可能な重量範囲に留まって
いるが、SIGMA 105/1.4は、持ち上げられない程に
重いからである。(=持てないレンズは買わない)
で、Art85/1.4,Art135/1.8は、シャープな写りを
するレンズではあるが、業務用途以外の趣味撮影
においては、重厚長大なレンズゆえに、ちょっと
特性的に合わない面もある。
まあ、そういう意味も含んでの、本Ai105/1.8の
趣味撮影用途および研究用途での購入であった。
が、実際のところは、正直言えば40年近くも前の
古いレンズを4万円も出して買う方がどうかしている、
同等な相場か、または少し余分に予算を出せば
近代のもっと良く写る中望遠レンズは、いくらでも
存在しているからだ。
NIKKORのMFレンズの中古相場が高いのは、この
「NIKON F3」(1980年)の時代の高価なカメラや
レンズに憧れたユーザー層の数が多いからであろう。
団塊の世代や、その少し下の世代層が、20代~
30代で、F3のシステムを簡単に揃えられる収入が
あった訳では無い。仮にお金があったとしても、結婚、
住居、子育て、車等の生活に廻していた世代・時代だ。
この世代層が、現代において、シニア層となって
悠々自適となった際、若い頃に憧れたNIKKORレンズを
欲しがる(まあ、それらは現代のNIKONデジタル一眼
レフの高級機やミラーレス機で使用ができる点もある)
それに加えて、2010年代からはNIKON一眼レフは
フルサイズ機の比率が増え、それらがビギナー層や
シニア層に十分に浸透してきている。
(団塊の世代のリタイア(定年退職)のタイミングに
合わせた商品企画である、という理由もあるだろう)
オールドレンズはフルサイズ機で使うと、その弱点を
助長する羽目になるが、その事を理解していない人達は
「これで昔のレンズを本来の画角で使えるようになった」
といって喜んで、昔の憧れのレンズを探す訳だ。
各社のデジタル一眼レフのマウント中、NIKON F(Ai)
だけは、(NIKON高級一眼レフであれば)銀塩MF時代
のレンズが、そのまま装着できる。まあ、NIKON機で
使わないまでも、マウントアダプターで最も汎用的に
利用できるのは、NIKON F(Ai)とM42レンズなのだ。
その結果として、NIKKORの高級MFレンズは、若干の
プレミアム相場となってしまっている。
(注:本ブログでの「プレミアム」とは、全ての
用法において「不当に高価だ」という否定的意味だ。
近年においては、マーケティング(市場戦略)的に、
「プレミアム」を「贅沢な高級品」として推奨しようと
しているが、元々の語源からして「プレミアム」には
ネガティブ(悪い)な意味が多々あるので、言葉の
使い方や、その手の商品が本当に必要なのかを判断する
価値感覚が重要だ、まあつまり「要注意」な用語である)
私は「プレミアム」な商品を買うのは「消費者の負け」
だと思っているので、まず、そういう物を買う事は
無いのだが、本レンズに関しては、研究用途としての
投資の意味が大きいので、やや例外的な措置だ。
![_c0032138_17301548.jpg]()
いずれまた続編で、研究結果を報告するが、現段階
での本Ai105/1.8の目につく弱点については・・
*解像感に欠ける、これは絞ってもあまり改善
されない。少ないレンズ構成で諸収差が補正しきれて
いないのであろう。(匠の写真用語辞典第29回記事
項目「(絞って)減る収差、減らない収差」参照)
*ボケ質破綻の頻繁な発生(回避が難しい)
*準逆光状態での内面反射によるフレア発生
*若干だが大きく重く高価な、三重苦レンズ傾向
等がある。
なお、ここで準逆光とは、完全に太陽の方を向く
のでは無く、ちょっと斜光気味で逆光になっている
状態だ。本レンズには組み込みフードが搭載されて
いるが、それを伸ばして撮っていても防ぎきれない
場合が良くある。ただし、完全逆光時には、むしろ
フレアは発生し難い。
まあ、弱点が色々とあるし、使いこなしも難しく、
かつ、オールドレンズとしては高価である。
コスパ点は、かなり厳しく減点評価せざるを得ないで
あろう。すなわち、一般層には推奨できないレンズだ、
あくまで上級マニア向け(御用達)としておこう。
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さて、今回の第62回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。
マニアックな所有レンズを主に紹介するシリーズ
記事。今回は、未紹介レンズ4本を取り上げる。
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まず、今回最初のレンズ

(中古購入価格 6,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
詳細不明、2010年代中頃から後半頃に発売と思われる
中国(香港)製、MF単焦点中望遠レンズ。
2010年代後半の中国製「ジェネリック」レンズの
多くとは異なり、一眼レフ(フルサイズ)対応の設計
であり、本レンズはNIKON Fマウント(非Ai)版での
購入だ。

無い、とか言う噂が色々あるが、詳しくは知らない。
現代の「企業間」の関係は複雑で、旧来のように
「メーカーとは独立した存在である」という概念が
希薄化している事もある。
Neewer(Meike)がある「香港」は、隣接する「深セン」
(Shenzeh)とともに、経済特区のような先進的地域で
あり、近年では特に光学系(レンズ等)を扱う企業が、
「深セン」と香港に集結しつつある模様だ。
知人が以前「深セン」に海外赴任していた事もあり、
色々と話を聞くが、近代的な都市であるそうだ。
私は残念ながら未訪問であるが、興味深い様相であり
いつか技術系の仕事関連で商談や協業等の機会が
あれば訪れてみたいと考えている。
(ただ、近年ではコロナ禍で行き難い事に加え、
少し前には治安が悪そうだったが・・)
で、「深セン」や「香港」での光学系企業の集合体は、
いわゆる「学術研究都市」(テクノポリス)の様相を
持っていると聞く。
まあ、日本でもそういう地域はいくつか存在している、
例えば、筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市が
それである。
また、もっと広く解釈していくと、「工業団地」とか、
さらにもっと一般的な例えでは、秋葉原や日本橋と
いった電気街とか、あるいは「ラーメン街道」のように
同一種類の企業・工場群や店舗群が集中する地区が
日本にも色々と存在している。
まあ、電気街やラーメン街道であれば、消費者の立場
から見て、そこに行けば、あらゆる部品や製品を探す
事ができたり、好みにあった様々なラーメンを食べれる
ので便利ではあるし、そこに店舗を出店する側も、
ある程度の集客が保証されているから、あとは実力
次第で「一旗あげる」為に挑戦する事ができるだろう。
ここであげているように、それが研究開発や製造業で
あれば、近接する多数の類似技術を持つ企業群の中
での、様々な情報交換や、製品企画の立案、さらに
「オープン思想」による技術的アライアンスや協業、
汎用部品や同一製造工場の共用による生産の効率化、
「産学官」連携による資金調達のしやすさ・・等の
数え切れない程の様々なメリットが存在している。
こういう「テクノポリス」においては、急速に技術
が発展するケースが多い、なにせ効率的だからだ。
近年での中国製レンズの性能や品質が急速に向上
したのは、恐らくそのように研究開発を同一地域で
集中して効率的に行っているからだろう。
で、日本で何故そうした事ができないのか?という
点では、まず日本のテクノポリスは先端技術分野が
主体であり、光学(レンズ)やカメラといった、
ある意味「古い」技術は、そういう所に集中していない。
また、日本での旧来からの事業構造により、(カメラ)
メーカー等は、各々独立性が非常に強く、下手をすれば
(いや、まちがいなく)「他メーカーはライバルだ」と
考えている。
これでは、協業や研究開発の効率化などは出来る筈も
無いし、もし昔からそれが出来ていたのならば、
例えば「カメラのマウント」等は、とっくに統一されて
いて、ユーザーは同じレンズを、どのメーカーのカメラ
でも使えるなど、高いユーザー利便性が得られていた
事であろう。
現代のカメラユーザーは、メーカー毎にマウントが違う
事は「常識」だと思っているだろうが、実は世間一般
的には、これは、とんでもない「非常識」である。
例えば、電球、蛍光灯、乾電池、CD-ROM、USBメモリー、
SDカード、HDMIケーブル、電子楽器のMIDI、自転車や
自動車のタイヤやチューブ、燃料のガソリン・・
まだまだ、いくらでも例は挙げられるが、こういった
身近な様々なものや製品が、メーカー毎に各々仕様が
異なっていて、同じメーカー同士でないとUSBメモリー
も入らない、ともなったら、ものすごく不便であろう。
「もっと便利にしろ!」と、消費者運動(暴動)が
起こっても不思議では無い。
しかし、カメラの世界では、その「非常識」が、まかり
通ってしまうのだ。勿論、世間の一般的視点からは酷い
話であるし、それができないカメラ界は困った状況だ。
これは国内メーカーの独立性が強い故の課題だと思う。
こんなところに「深セン」や「香港」での技術共同体
のようなものが襲ってきたら、国内メーカーも防戦に
苦労する事であろう。
現に2018年頃から、一部の上級(レンズ)マニア層
も低価格な中国製新鋭レンズに注目し、それの購入と
研究を開始している。
この頃、国内メーカーのカメラやレンズの魅力的な
新製品は殆ど無く、あったとしても、新鋭フルサイズ
ミラーレス機と、その高額な交換レンズ群等で、それらは
縮退したカメラ市場を救済する為の高付加価値商品だ。
こういうと聞こえは良いが、実態は「カメラやレンズが
もう全く売れないので、高額な商品を作り、スペックに
目を引かれてお金を出してくれるビギナー層から利益を
回収する」という仕掛けである。
(そうやったとしても、年々、カメラの販売数が減少
していると言う暗いニュースばかりが飛び込んでくる)
これでは「事の本質」がわかっている中上級マニア層
においては、新鋭高額商品などに興味を持つ筈も無い。
高すぎるカメラは買う気も起こらないので、安価な次世代
商品が出てくるまで、つまり市場が、自ら需要と供給の
バランス点を求めて変遷するまでは、新鋭海外(中国)製
レンズ等で、お茶を濁して遊んでおくしか無い状況である。
なお、2021年頃から、国内の有力メーカーも、少しだが
従来よりも安価な製品(カメラ、レンズ)の発売が
開始されている。まあ、このまま高価すぎる製品を
売り続けて行っても、さらに売れずに市場が縮退する
悪循環であるからだろう。これが「マーケット(市場)は
自ら、バランス点を目指して推移する」という状態だ。
さて、余談が長くなったが、こういう「市場の状況」
の話は、個々のレンズの性能がどうのこうの、といった
狭い視点での話よりも、遥かに重要な事である。
世の中全般で何が起こっているかを知らずに、カメラ
やレンズを開発販売したり、消費者がそれを購入して
評価するなどの状態では、より重要な何かを見落として
しまう危険性もあるのだ。これはメーカーもそうだし
ユーザーもそうである、両者が良く現実を把握して
おかないとカメラ市場は縮退していく一方となる。

本Neewer 85/1.8は、後年に発売されたMeike 85/1.8
(フルサイズ対応CANON EFマウント版、AFである。
レンズマニアックス第38回記事等、複数回紹介済み)
とは全くの別物、いや、あまりに別物すぎて、むしろ
不自然なくらいである。
本レンズは、やや昔の時代の「中国製品」の雰囲気を
色濃く持つ製品だ。「先進国の製品の雰囲気をコピー
して作ってはいるが、なんとなく作りが安っぽく、
品質、性能や製造精度も怪しい」という、そういった
昔の中国製品のイメージのレンズである。
例えば、本レンズはφ55mmのフィルター径だが、
それが装着できない。私は、製造精度が異なる、昔の
時代からの数枚のφ55mmフィルターや、ステップアップ
リングも試してみたが、レンズ側がφ55mmよりも僅かに
大きい径の模様で、どれも空回りして装着不能なのだ。
マウント径もヤバい、NIKON Fマウント品だが、ほんの
僅かに小さい模様である。NIKON製デジタル一眼レフに
直接装着するには、明らかな危険性がある為、それは
一切試さず、リスク回避の為に必ずミラーレス機用の
NIKON Fマウントアダプターで使う事とした。
それから、距離指標が実距離と合っておらず、
「オーバインフ」(無限遠以遠にまでピントが合う)
状態である。この課題は、新しいMeikeレンズの一部
にも存在し、(ミラーレス用)マウントによっては、
オーバインフとなったり、最短撮影距離まで廻らない
場合もある。
レンズの絞り値の表記もデタラメだ、F3,F6,F10等の
表記があり、古今東西、そんなレンズは見た事が無い。
絞り値は「段数系列」という暗黙のルールがあり、
1段刻みの系列の場合は、ここはF2.8、F5.6、F11
でなくてはならない。
また近年の中国製レンズの絞り環のように連続回転式
では無く、絞り値にはクリックストップがある。
全般的に素人設計感が満載であり、これでは日本市場に
販売する事は難しい。目の肥えたマニア層等から
酷評の袋叩きに合い、二度と製品が売れなくってしまう。
まあ、なのでNeewerブランドはもうやめて、日本市場
への本格参入の際には、Meikeブランドを新しく
立ち上げたのだろうか? あるいは、もうNeewer時代
とMeikeは、別企業と言える程に経営体制が一新された
のであろうか? はたまた、両ブランドが同一企業
である、という情報自体、ガセであったのだろうか?
まあ、そのあたりは不明であり、詮索はするまい。
その結果としての、新製品Meike 85/1.8(AF版)の、
性能や品質は、かなり向上していて、そちらのAF版の
私の個人評価はかなり高い。

テクノポリス光学共同体により、日本市場に参入する
為の、徹底的な仕様検討が行われたのかも知れない。
いや、これは想像だけでは無く、事実であろう。
だからこそ、2018年頃から、「深セン」や「香港」
から日本市場に参入した新規メーカー、すなわち
「YONGNUO」「七工匠」「LAOWA」「Meike」や
「銘匠光学」等は、どれもおしなべて、日本製レンズ
に勝るとも劣らない品質や性能を確保している。
「変なモノは日本市場には売れない」という認識で
あろう。
ただまあ、そこでは若干の差もあり、YONGNUOは
CANONレンズのクローン(完全コピー)品であって
少々異端。それからKAMLANは「深セン」で製造を
しているが、設計は台湾であり、最初期の製品の
2019年の「FS50/1.1」(本シリーズ第37回)は
実用性能にまるで満たない低描写力であった。
恐らくこの製品は、「深セン」の「光学共同体」
からも、その点を指摘を受けたのではあるまいか?」
「この製品の性能では、日本市場には通用しない」と。
その結果からか? FS50/1.1は、発売後わずか3ヶ月で、
Ⅱ型の後継機が発売され、そこでは全くの新設計と
なっている(注:Ⅱ型は未所有)
ただまあ、「3ヶ月で新製品を作れる」という事実も
ここで明らかになった訳であり「深セン、恐るべし」
という様相である。

レンズである。Meikeブランドのレンズは、他に
4本を所有していて、それらは満足行く品質および
性能であるのにも係わらずだ。
やはり、Neewerブランド、およびその品質基準と
「設計基準」では日本市場に通用しないと考えて
Meikeブランドで心機一転を計ったのであろうか?
(注:ここで言う「設計基準」とは、製品の全ての
仕様に係わる要求性能全般の事である。
一部のマニア層等が言うように、単純に描写性能の
基準を「近接優先か?無限遠優先か?」の選択だけを
「設計基準」と呼ぶのは、あまりに狭すぎて無理のある
表現であろう。設計開発の業務上では、軽く百項目を
超える、決めなければならない「基準」がある)
様々な「謎」が残る結果となったが、1つだけ確か
な事としては、個人的には、もう今後Neewer銘の
レンズを積極的に収集したいとは思えない事だ。
買うならば「Meike」であろう、その差は大きい。
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さて、次のシステム、

(ジャンク購入価格 200円)(以下、58A)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7 (μ4/3機)
1988年発売のMF望遠ズームレンズ。
購入価格200円(税込み)は、誤記では無い。
無償譲渡品を除き、お金を出して購入したレンズ
としては、本58Aが最も安価であった。
だが、ジャンクにつき、残念ながら故障品であった、
チェック時、ピントリングが固くて廻らない。しかし、
ちょっと力を入れると廻るようになったので・・
「もしかして動くか?」と思っての購入だったが
やはりダメだ、ピントリングは廻ったのたが、
内部的にヘリコイドがイカれてしまっている模様で、
ピントが約2mのところで固定されてしまっていて
フォーカシングが一切出来ない。
今回の試写は最小限に留めておこう。

そのマウントが付属していなかった事も、安価な理由の
1つであろう(→このレンズは”動きそうも無い”から、
アダプトール2を外して、別売りにしたと思われる)
「アダプトール2」とは、TAMRON社が1979年より
2000年代初頭ごろまで展開した、交換型マウント
の事であり、TAMRONのMFレンズを買って、ユーザー
が自力でアダプトール2を交換でき、その種類によって
NIKON F(Ai)を始めFD、MD、PK、OM、C/Y・・等、
およそ全ての銀塩(MF)一眼レフ機で同一レンズを
使用できる、という優れた仕様である。
(なお、アダプトール2対応MFレンズの最大口径比は
開放F2.5である。そうなっている理由は不明だが、
後玉の径や構造上で、そこまでの口径比で制限して
いる仕様(設計基準)だと思われる)
で、それ以前の時代においても、TAMRONや一部の
他のレンズメーカーでも交換マウント方式を採用
していたが、AE(自動露出)にまで対応できていた
のは、TAMRONのアダプトール(2)のみだと思われる。
便利なシステムであるが、さすがに各社のAF一眼
レフにまで交換マウントで対応するのは無理だ、
単に機械的に形状を揃える構造のみならず、AF時代
では、情報のやりとり(データ・プロトコル)まで
をアダプターに入れなくてはならず、さすがにそれは
厳しい。だからAF機用のアダプトールは存在しない。
(稀にあった、α用とEOS用のアダプトール2は、
TAMRONのMF500mmミラーレンズ(絞り無し)
専用だ)
まあでも、1990年代のAF時代を通じてまで、
TAMRONは、MF一眼レフ(および一部のAF一眼レフ)
に向けて、アダプトール2仕様のMFレンズを販売して
いた、やはりこの形式は実用上の利点が大きいからだ。
で、アダプトール2は各社(各マウント)用の物が
複数必要となる。それは、アダプトール2対応レンズ
での「レンズの共用」という恩恵を受けられるのは
複数のマウントの一眼レフを持っているユーザー層
だけであるからだ。
だから、マニアであれば数種類からあるいは全種類
のアダプトール2を所有しておく事は、銀塩時代では
常識であった。(注:マイナーマウント用、例えば
ライカR等は、高価であったり入手困難な場合もある)
まあつまり、アダプトール2は価値がある商品であり
銀塩時代では、中古でも2000円~3000円程度が
相場であった。
近年において、TAMRONのジャンクレンズ等で、
アダプトール2が付属したまま販売されている時は
アダプトール2だけでも1000円程度の価値があると
認識しておいた方が良いであろう。
よって、カメラ(中古)専門店では、ジャンクレンズ
にアダプトール2を付けたまま、若干高価(2000円
以上)で販売するか、アダプトール2を外して、それは
単品販売とし、残ったレンズを、数百円程度で売るか
の二択になるであろう。
今回購入レンズは、アダプトール2無しのパターンだ。
でも、私は家に、ほぼ全種のアダプトール2を、しかも
複数個づつ保有しているので、これで何も問題無い。
なお、カメラ専門店では無い、例えばハードウェア
リサイクル店等では、アダプトール2の価値がわからず
それを付属したままジャンクレンズを数百円の価格で
販売しているケースもある、そういう「掘り出しもの」
を見つけたら迷わず「買い」であろう。
万が一、レンズ側が完全に壊れていて使えなかったと
してもアダプトール2だけで1000円程度の価値はある。

きたが、肝心の本58Aレンズの特徴であるが・・
ここは残念ながらわからない。完全故障品だからだ。
「故障を回避する技法を練習する」と考えて、
丁度、個人的にはやや苦手な2mの撮影距離感覚を
鍛える為に、2mの被写体に丁度ピントが合うように
撮影距離を調整し、後はズーミング(正常)と、
絞り値変更(正常)で、撮る練習を数百枚程度
行ったが・・ 例えばズーム故障、絞り故障であれば
なんとか撮る術はあるのだが、ピント故障はダメだ、
どうやっても、故障回避の術は困難で、諦めざるを
得ないであろう。
また、逆光耐性が恐ろしく低く、ちょっとした逆光で
フレアが発生し、コントラストの低下が酷い。
これは内部カビの可能性も高く、この課題がある為
「分解して修理に挑戦しようか?」という気も失せた。
万が一ヘリコイドが治ったとしても、実用性能に満たない
レンズであるからだ。
まあ、廃棄または研究の為の分解が妥当な措置であろう、
それでも数百枚程度は撮って練習したので、元は取れて
いると解釈しておこう。
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では、次のシステム。

(中古購入価格 2,500円)(以下、NFD80-200/4)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
1980年に発売された、開放F値固定型MF望遠ズーム。

(New) FD 70-210mm/f4(1979年発売)がある。
そのNFD70-210/4は、非常に高性能なレンズであり、
本ブログのランキング系記事においては、
ハイコスパレンズ名玉編において第7位の好成績だ。
しかしながらNFD70-210/4と本NFD80-200/4が
似ている点は数値スペックのみであり、「両者は
全くの別レンズだ」と言っても差し支えが無い。
まずは操作性が異なる。NFD70-210はワンハンド式
ズームであり、素晴らしくMF操作性が良いのだが、
本NFD80-200/4は、二重回転式のズームリングと
ピントリングであり、MF操作性や速写性に大幅に
劣ってしまう。
次いで、描写力が全然異なる、NFD70-210は現代に
おいても殆ど不満が無い程の高描写力のレンズであり
故に、ランキング系記事にもノミネートされる次第
であるが、本NFD80-200/4はフレアっぽく解像感
も低く、比較の対象にもならない低描写力である。
あまりに低い描写力であり「軽いカビ」の発生を
疑ったのだが、見た目ではそれはわからず、元々
こういう性能なのかも知れない。

本シリーズ第35回)も、本レンズと同様な低描写力
であった。(注:そちらは軽いクモリがある)
それから、本NFD80-200/4には後継レンズが存在
する。蛍石レンズに1枚差し替えて収差を補正した
L(高画質)仕様のNFD80-200/4L(1985年)だ。
実は、NFD80-200/4Lは銀塩時代に所有していた。
しかし中古でも4万円程もした高額レンズでありながら
描写力が全く個人の好みに合わず、「コスパが悪い!」
と一刀両断して短期間で手放してしまっていたのだ。
すると、やはりNFD70-210だけが特別に優れるの
だろうか? 私も様々な時代のレンズを集めて研究して
いくうちに、なんだか1980年前後のズームとしては
NFD70-210が異様に優れているような気もしていた。
それを確かめる為に、当該レンズのAF版と思われる
EF70-210mm/F4(1987年、本シリーズ第40回)
を中古購入し、比較検証をしてみる事とした。
EF70-210/4は、NFD70-210/4の8年後に発売された
AF版後継機であり、レンズ構成は、何故か1枚減って
いるが、ワンハンドズーム構造とか他の様々な数値
仕様がほぼ同一であり、描写傾向も、ほぼ類似だ。
そして、その描写力は悪く無い。
まあつまり、やはりNFD70-210/4の設計完成度が
当時としては抜群に優れていた事になる。
すると別の疑問点が出て来る、当時のCANON製の
MF開放F値固定型望遠ズーム、つまり・・
1979年:NFD70-210/4 (ワンハンド式、紹介済)
同 :NFD70-150/4.5 (後日紹介予定)
同 :NFD100-200/5.6(旧FD版を所有)
1980年:NFD80-200/4 (二重回転式、本レンズ)
同 :NFD100-300/5.6(ワンハンド式、紹介済)
1981年:NFD50-135/3.5 (未所有)
同 :NFD85-300/4.5 (未所有)
1985年:NFD80-200/4L (譲渡により現在で未所有)
・・という、類似仕様で、開放F値固定の類似設計
思想の多数の商品群は、いずれも同じ人(チーム)の
設計なのであろうか?
いや、それはあるまい、いくらなんでも、2年程の
短期間で、これだけ多数の望遠ズームは設計できない。
しかも、私が所有している約半数の範囲での、これらの
望遠ズーム群は、個々の操作性構造や、描写力傾向が
まるで異なっている。つまり、同一の「設計基準」
(注:広い意味である。=あらゆる仕様の決め事)
では無いし、すなわち個々に異なる設計者(設計チーム)
の手によるものである事が十分に想像出来る。
(=設計スキルに個人差があった、という事になる)
また、別の側面においては、これらの内の一部の
ズームは、旧FD時代(1970年代前半頃)から続く商品
である、つまりおよそ10年前の設計を、New FDとして
焼き直ししたものであるから、技術水準が低く(古く)、
結果的に描写力性能も低いという事だろうか?
・・しかし、製品毎に、ここまで性能や仕様的な差が
あると、なんともややこしい状態だ。たとえば
「1980年前後のCANON MF望遠ズームは優秀であった」
などの”十把一絡げ”な評価は一切言えなくなる。
(レンズ個別に性能が全く異なるのだから当然だ)

残念ながらあまり推奨できないレンズである。
二重回転式操作系は、MFズームとしては適切では
ないし、そもそも描写力的に見劣りしてしまう。
これであれば、NFD70-210/4を買った方が、ずっと
ましな状態だと思う。
(注:いずれ、この時代1980年頃の、CANON製の
望遠ズーム数本の比較記事を掲載予定である)
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次は、今回ラストのレンズ

(中古購入価格 41,000円)(以下、Ai105/1.8)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)
1981年に発売された、単焦点MF大口径中望遠レンズ。
前機種は無く、後継型も存在しない。
時代の狭間で生まれてきた独立系統のレンズである。

するとテッサー型のGN Auto NIKKOR 45mm/f2.8
の4枚構成を除き、本レンズの5枚は、NIKKORでの
最少構成なのかも知れない(?)
この構成は、ガウス型とトポゴン型をハイブリッド
化した「クセノター型」の、さらなる変形、と聞く、
まあつまり、独自の構成に近いという話だ。
(注:とは言え、兄弟レンズのAi105/2.5系列も
クセノター(ビオメター)型の4群5枚であるから
こちらは大口径化での発展形かも知れない訳だ)
しかし5群5枚でも、近年(2019年)の台湾設計の
KAMLAN FS50/1.1は、異常低分散ガラスレンズを
2枚使っているにも係わらず、描写力が相当に低い。
(あまりに低いので発売後3ヶ月でⅡ型が追加された)
まあ、開放F1.1の大口径を実現するには、収差補正
の設計が非常に難しい、という事なのだろう。
本レンズも105mmでF1.8は大口径の類だから、少ない
レンズ枚数では収差が補正しきれるかが心配だった。
実際のところ、その問題は結構大きいのだが、詳細は
弱点のところで後述する。
でもまあ、そのあたりは、KAMLAN FS50/1.1程の
致命的な問題では無く、バランス良く設計されている。
これはまあ、設計技能の差であろう、コンピューター
光学設計がまだ無い時代であるからこそ、職人芸的な
手動設計の技が見て取れる。
現代のコンピューター光学設計では、収差補正結果の
評価関数(メリット関数)を、どんどんと高める為に、
とてつもなく複雑な(10数群10数枚)という構成が
自動的に提示されてしまう。そうしたコンピューター
の、ある意味「暴走」を止めるには、そのレンズの
用途や設計思想に応じ、どの収差の補正を重要視し、
他を何かを犠牲にする、といった、設計者の持つ絶妙な
バランス感覚が必要だ。それは昔の時代でも、現代で
あっても、やはりベテラン設計者のスキルに依存する。
さて、レンズの焦点距離の話であるが、NIKKORには、
100mmレンズというものは基本的には存在せず、
例外的に「シリーズE」で、100mm/F2.8のレンズが
存在していたに過ぎない(注:そのレンズは廉価版
なので、NIKKORとは呼ばれていない。詳細は、また
特殊レンズ「NIKON シリーズE」記事で特集しよう)
で、他のNIKKORは、全て105mmの焦点距離だ。
最も著名なのはAi105mm/F2.5(系列)であろう。
こちらは銀塩時代に使っていたが、現在未所有だ。
(追記:記事執筆後に研究用に入手している)
だが、本Ai105/1.8の購入により、多くのNIKKOR
105mm級レンズが揃ってきたので、いずれ機会が
あれば各時代のNIKKOR105mmの変遷の記事を書こう。

の中望遠~望遠レンズの大口径版は、他のNIKKOR
レンズ群とは明らかに違う描写傾向を持つ。
本レンズの入手でAi85/1.4、Ai105/1.8、Ai135/2、
Ai(ED)180/2.8の4本をコンプリートできたので、
いずれ機会があれば、この件も特集記事で紹介したい
と思っている。
まあ簡単に言えば「他のNIKKORは固い描写が多いのに
この4本は、柔らかい描写傾向がある」という話だ。
これにも、そういう設計コンセプトとなった理由が
あると思うが、冗長になる為、今回は割愛する。
Ai105/1.8の長所としては、ピント面は割合に
シャープながらも、その柔らかい描写傾向である。
ボケ質(というか、ボケ遷移が良いのであろう)に
優れたNIKKOR中望遠は大変希少だ。
ただし、ボケ遷移はともかく、背景等でのボケ質が
良いのは、本当に条件がハマった場合のみであり、
それは多くの場合、被写界深度を浅くして「大ボケ」
させた状態であり、普通は、ボケ質破綻が頻発する。
このあたりは、レンズの構成枚数の少なさが仇と
なっているのであろう・・ なんというか、かなり
「古臭い」感じのボケ質破綻だ。(=レンズ構成
枚数の少ない1970年代前後の大口径レンズや
望遠レンズで、同様な二線ボケ傾向のボケ質破綻が
発生しやすい)
下写真が、ボケ質破綻を起こしている例だ。

ボケ質破綻の回避は不可能と言えるし、ピントの
歩留まりもあまり良く無いレンズなので、本レンズ
に関しては、高精細EVF搭載のミラーレス機で
使った方が良いと思う。
まあでも、上手く条件が決まれば、ボケ遷移が良い
上に、ボケ質は柔らかくて、好ましい感じだ。
で、このレンズの、その描写コンセプトを継承し、
少し時代は飛ぶが、本レンズのAF版後継機とも言える
AiAF DC-NIKKOR 105mm/F2D(1993年、多数の
過去記事で紹介済み)では、ボケ質のコントロール
機構を搭載したのだろうし、さらに新しい、
AF-S 105mm/F1.4E ED(2016年、後日紹介予定)
でも「三次元的ハイファイ」思想により、さらなる
ボケ質・ボケ遷移の向上を目指したのであろう。
まあつまり、NIKKOR大口径105mmは、歴史的にも
ボケ質(やボケ遷移)に配慮したレンズが並んで
いるという状況だ。
まあ必然的に105mmレンズの用途だと、そういう
設計コンセプトになってしまうのだろうか・・?
そして、銀塩時代には「ポートレートを撮るならば、
あなたは85mm派? それとも105mm派?」という
比較が良くされていたのだが、基本的にはその話は、
「交換レンズを売る為の宣伝的要素」も多々含まれる
ものだし、かつ、「ポートレートには大口径中望遠」
という思い込み思想も、なんとなく賛同できない
(皆、同じような写真ばかりとなる)ので、
個人的には、あまり興味を持てない話でもあった。
(マニアならば、必要であれば両者を買えば良い話だ、
どっちが良いとか悪いとかを机上で議論をする位ならば、
両者を入手し、自身の目で確かめてみれば良いだけだ)
なお、SIGMAにもART LINEから105mm/F1.4の
新鋭レンズ(2018年)が出ているが、それは未所有だ、
Art Lineでは、85mm/F1.4と135mm/F1.8を愛用
してはいるが、それらは大型レンズながらも、
かろうじて手持ち撮影が可能な重量範囲に留まって
いるが、SIGMA 105/1.4は、持ち上げられない程に
重いからである。(=持てないレンズは買わない)
で、Art85/1.4,Art135/1.8は、シャープな写りを
するレンズではあるが、業務用途以外の趣味撮影
においては、重厚長大なレンズゆえに、ちょっと
特性的に合わない面もある。
まあ、そういう意味も含んでの、本Ai105/1.8の
趣味撮影用途および研究用途での購入であった。
が、実際のところは、正直言えば40年近くも前の
古いレンズを4万円も出して買う方がどうかしている、
同等な相場か、または少し余分に予算を出せば
近代のもっと良く写る中望遠レンズは、いくらでも
存在しているからだ。
NIKKORのMFレンズの中古相場が高いのは、この
「NIKON F3」(1980年)の時代の高価なカメラや
レンズに憧れたユーザー層の数が多いからであろう。
団塊の世代や、その少し下の世代層が、20代~
30代で、F3のシステムを簡単に揃えられる収入が
あった訳では無い。仮にお金があったとしても、結婚、
住居、子育て、車等の生活に廻していた世代・時代だ。
この世代層が、現代において、シニア層となって
悠々自適となった際、若い頃に憧れたNIKKORレンズを
欲しがる(まあ、それらは現代のNIKONデジタル一眼
レフの高級機やミラーレス機で使用ができる点もある)
それに加えて、2010年代からはNIKON一眼レフは
フルサイズ機の比率が増え、それらがビギナー層や
シニア層に十分に浸透してきている。
(団塊の世代のリタイア(定年退職)のタイミングに
合わせた商品企画である、という理由もあるだろう)
オールドレンズはフルサイズ機で使うと、その弱点を
助長する羽目になるが、その事を理解していない人達は
「これで昔のレンズを本来の画角で使えるようになった」
といって喜んで、昔の憧れのレンズを探す訳だ。
各社のデジタル一眼レフのマウント中、NIKON F(Ai)
だけは、(NIKON高級一眼レフであれば)銀塩MF時代
のレンズが、そのまま装着できる。まあ、NIKON機で
使わないまでも、マウントアダプターで最も汎用的に
利用できるのは、NIKON F(Ai)とM42レンズなのだ。
その結果として、NIKKORの高級MFレンズは、若干の
プレミアム相場となってしまっている。
(注:本ブログでの「プレミアム」とは、全ての
用法において「不当に高価だ」という否定的意味だ。
近年においては、マーケティング(市場戦略)的に、
「プレミアム」を「贅沢な高級品」として推奨しようと
しているが、元々の語源からして「プレミアム」には
ネガティブ(悪い)な意味が多々あるので、言葉の
使い方や、その手の商品が本当に必要なのかを判断する
価値感覚が重要だ、まあつまり「要注意」な用語である)
私は「プレミアム」な商品を買うのは「消費者の負け」
だと思っているので、まず、そういう物を買う事は
無いのだが、本レンズに関しては、研究用途としての
投資の意味が大きいので、やや例外的な措置だ。

での本Ai105/1.8の目につく弱点については・・
*解像感に欠ける、これは絞ってもあまり改善
されない。少ないレンズ構成で諸収差が補正しきれて
いないのであろう。(匠の写真用語辞典第29回記事
項目「(絞って)減る収差、減らない収差」参照)
*ボケ質破綻の頻繁な発生(回避が難しい)
*準逆光状態での内面反射によるフレア発生
*若干だが大きく重く高価な、三重苦レンズ傾向
等がある。
なお、ここで準逆光とは、完全に太陽の方を向く
のでは無く、ちょっと斜光気味で逆光になっている
状態だ。本レンズには組み込みフードが搭載されて
いるが、それを伸ばして撮っていても防ぎきれない
場合が良くある。ただし、完全逆光時には、むしろ
フレアは発生し難い。
まあ、弱点が色々とあるし、使いこなしも難しく、
かつ、オールドレンズとしては高価である。
コスパ点は、かなり厳しく減点評価せざるを得ないで
あろう。すなわち、一般層には推奨できないレンズだ、
あくまで上級マニア向け(御用達)としておこう。
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さて、今回の第62回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。