今回は補足編として「85mm(級)マニアックス(1)」
というテーマとする。
この定義であるが「実焦点距離が85mm前後(概ね
70mm~90mm)または、APS-C機以下専用で、
フルサイズ換算画角が85mm前後のレンズ」とする。
その条件に当てはまる所有レンズの内、比較的
マニアックな(すなわち、あまり有名では無い)物を
20本集め、前後編で各10本づつを紹介する。
紹介本数が多いので各システムでの実写掲載写真は
各々1枚程度とする。
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ではまず、今回最初の85mmレンズ。
![_c0032138_16175947.jpg]()
レンズは、Carl Zeiss Planar T* 85mm/f1.4 ZF
(新品購入価格 101,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
2006年にコシナより発売された大口径MF中望遠
レンズ。ただし、これはリバイバル版だ。
本レンズの前身は1975年にYASHICA(京セラ)CONTAX
から発売されたPlanar T* 85mm/F1.4 (AE)である。
COSINAは「Carl Zeiss」の商標権獲得後、その光学系を
コピーし、外観を大幅に変更して本レンズとして発売した。
![_c0032138_16180016.jpg]()
さて、85mmレンズというのは、いつ頃からあったので
あろうか?
戦後のレンジファインダー時代(1940年代~1950年代)
においては、基本的には85mmレンズは多くはなく、
75mmや90mmが主流であったという感じだ。
だが、ここには著名なCONTAX Sonnar 85mm/F2が
存在している。これは東西分断前、戦前の1930年代
からの製品だ、これがまあ、85mmの元祖であった
かも知れない。また、当時CONTAXとライバル関係に
あったライカ(ライツ)が73~75mmの焦点距離
を主流にしていたので、ここでも競合を避けたのかも
知れない。(他にも、CONTAXとライカは、様々な
機器仕様を全て相手側と逆にして設計された。ライバル
と言うより、一種の「戦争」でもあったのだが・・
これは、思えば当時はナチス・ドイツの軍事政権でも
あったので、軍需(光学兵器)として採用される為の
本当の「戦争」であった、という歴史背景も想像される)
で、このSonnar 85mmの設計を参考(コピー)にした
レンジ機用レンズは他社にもあったと思う。
例えば日本光学N製NIKKOR-P 85mm/F2(1948年)等が
その一例であるが、戦後にツァイス系技術が
東側に流出した際での、Jupiter-9も、その類だが、
厳密にはJupiter-9の生産は極めて長期に渡る為、
その一部では、戦前CONTAXのSonnar 85mm/F2とは
レンズ構成が異なる場合もある(注:一眼レフ用に
転用した為、という理由もある)
そしてCANONにおいても、Serenar(セレナー)シリーズ
レンズに、何本か85mmレンズが存在していて、早い物
では戦後すぐ1940年代末頃の発売となっていた。
1960年代には一眼レフの時代が到来、PENTAXの
M42マウント版のTakumarおよびAuto Takumar には
83mmや85mm(/F1.8)が存在していた。
また、この時代、MINOLTA MCやNIKKOR (Auto)、
CANON Rの一眼レフ用レンズにも同様に85mmが
存在する。
まあ、ここまではズームレンズ等は、ほとんど普及して
いない時代であったから、各社の交換レンズの焦点距離
ラインナップは非常に細かい刻み幅であった。
85mmのすぐ上には100mm級レンズを展開するメーカー
も殆どであったし、そんな15mmやそこらの焦点距離の
差で複数のレンズを揃えるというケースは、上級者層、
マニア層、職業写真家層に限られていただろうが、
実際のところ、この時代の一眼レフユーザーは、殆ど
全てがそういう上級層であったから、ユーザー毎の
目的に合わせ、細かい焦点距離差のレンズのどれかを
選んでいた事であろう。
が、1970年代になり、一眼レフの一般層への普及が
始まると、入門層や初級層が、付属の50mmレンズの
上の焦点距離として狙う(望遠)レンズは135mmが
主流となる。したがって、135mm級望遠レンズは
市場が活性化し、量産効果により価格が下がったり、
次々と改良版商品が発売されたりし、初級中級層が
買い易い状態となる。
反面、85mm級レンズは需要が減り、新製品も少ない
し、価格もそう安価では無い。よってこの時代の
85mm級レンズの流通数は基本的には少ないと思われる。
また、この時代、初期のズームレンズも一般層への
普及が始まる。そうなるとビギナー層等では、
35mm~70mmとか35mm~105mmといった
標準ズームをカメラにセットしておけば
「その間の単焦点レンズは買う必要が無い」と思って
しまうので、ますます中望遠85mm級レンズは需要が
減ってしまう。
恐らくであるが、この頃から、(多数ある)単焦点
レンズ製品の販売数減少を懸念したメーカーや流通側
において、「単焦点の焦点距離別の推奨用途」を
初級中級層に対して、強くアピールし始めたのでは
なかろうか? すなわち、
28mm=風景、35mm=スナップ、50mm=汎用、
85mm=人物、という、例の「アレ」である。
この戦略は成功した。というか、成功しすぎた感も
あり、その後何十年たっても、現代においても、
「85mmレンズといったら人物を撮るレンズだよね?」
「ポートレートを撮りたいから、85mmレンズを買おう」
とった、かなり強い固定観念が定着してしまっている。
(この「思い込み」は、あまり褒められた考えでは無い)
![_c0032138_16180020.jpg]()
そんな時代背景の中、本Planar 85mm/F1.4(の前身)
の発売だ。西独ツァイス社のカメラ事業撤退から、
それを引き継いだ国産CONTAXの誕生は、それなりに
センセーショナルな出来事であったが、その立場を
磐石とする為に投入された「最強兵器」が、Planar
T* 85mm/F1.4というレンズであったと思われる。
それまでF1.4級大口径レンズは、まあ殆ど50mm
級標準レンズでしか有り得なかったし、その頃に
「布教」が進んでいた、「85mm=人物用」という
思想とも合わせ、「Planar T* 85mm/F1.4は、
史上最強のポートレート用レンズ」という評価が
固まり、高価な、そしてビッグブランドである
「Carl Zeiss銘」と合わせ、このレンズは殆どの
ユーザー層に「神格化」されてしまった。
ただ、これはもう「常識」ではあるが、CONTAX Planar
85mm/F1.4は使いこなしが極めて困難なレンズである。
(本シリーズ第12回「使いこなしが難しいレンズ編」
ワースト第4位)
まあだから、「神格化」された程の高い評価の
レンズでありながら、その後の時代の中古市場には、
CONTAX Planar T* 85mm/F1.4が溢れかえる事と
なった訳だ、つまり買ったは良いものの、殆ど誰も
上手く使いこなせる人は居なかった、という理由だ。
どこが難しいか?という点は、上記第12回記事や、
特殊レンズ第48回「CONTAX プラナー編」を参照
されたし。
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では、次の85mmレンズ。
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レンズは、OLYMPUS OM-SYSTEM ZUIKO 85mm/f2
(中古購入価格 39,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited
(μ4/3機)
発売年不明、恐らくは1970年代であろうか(?)
さて、冒頭の85mmレンズの歴史の説明が長く
なってしまった、以下は、さらりと進めていこう。
![_c0032138_16181024.jpg]()
こちらはOM中望遠F2三兄弟(85mm/F2、90mm/F2、
100mm/F2)の末弟である、三兄弟の中では最も
平凡な描写力であり、優秀な兄貴達に比べて、
やや見劣りする要素も多いと思う。
そして、入手価格がやや高価であった事も、ちょっと
反省材料だ。これは「OMのF2級レンズは、販売数が
少なく、レアである」という理由で、高値相場で
あった物を妥協して購入したからであり、その結果、
コスパ点がかなり低く評価されるレンズとなった。
なお、このレンズが欲しかった理由の1つとして、
銀塩時代のカメラ誌だったか?のエッセイ?だかに、
「小型軽量のOMに、35mmレンズと85mmレンズの
2本だけを持って旅に出る」という主旨の記事があり、
それを「格好良い」と思ってしまったからだ。
多分にミーハーな理由だが(汗) まあでも、
その絶妙な機材チョイスには大いに賛同できた。
必ずしも超高性能の三重苦(大きく、重く、高価)な
システムだけが、常に優れた撮影機材という訳では
無いのである。
OM中望遠F2三兄弟の差異についは、特殊レンズ
第33回「OLYMPUS OM F2レンズ」編に詳しい。
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では、3本目の85mmレンズ。
![_c0032138_16181063.jpg]()
レンズは、MINOLTA (TELE) ROKKOR MC 85mm/f1.7
(中古購入価格 16,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
1970年代頃と思われるMF単焦点中望遠レンズ。
![_c0032138_16181008.jpg]()
これは現在故障中のレンズである。絞りが固化して
しまっていて絞り開放でしか撮れない。
おまけに悪い事に、本レンズはボケ質破綻が発生し、
酷い場合には、像面湾曲や非点収差等の影響か、
やや「ぐるぐるボケ」傾向すら見られる。
つまり、大口径中望遠レンズの生命線とも言える
「ボケ質」に弱点がある事のみならず、そのボケ質
の破綻を回避する為の、被写界深度等の調整技法も
絞り故障につき利用できない。
修理に出すような重要なレンズでは無いので、もう
ほったらかしである。一応、絞り羽根内蔵アダプター
等を複数組み合わせ、それで対応している(下写真)
![_c0032138_16181002.jpg]()
ただ、この救済手法は、絞りの構造が、レンズ後玉
からの光束を遮る「視野絞り」という状態となり、
本来ならば、レンズ内部に絞り機構があって、光学系
の中で有効径をコントロールする「開口絞り」とは
根本的に光学的な効能が異なる。
したがって、この「視野絞り」では、露出値(光量)
の調整には有効であるが、被写界深度の調整目的には
ほとんど効かず、ボケ質破綻の回避技法への流用は
まず不可能である。(さんざん実験し、痛感した)
よって、レンズの性能を最大限に発揮できていない
状況であるから、これ以上の詳細な説明は避けておく。
(追記:近年では、本レンズは「ぐるぐるボケ」用
レンズとして有効活用している。本記事では長くなる
ので、また別の記事で詳しく説明しよう)
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さて、4本目の(換算)85mm級レンズ。
![_c0032138_16182098.jpg]()
レンズは、TAMRON M118FM16 16mm/f1.4
(発売時定価30,000円、新品購入価格20,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)
2010年前後のマシンビジョン(FA)/CCTV兼用、
初期メガピクセル対応、1/1.8型センサー用MF単焦点
手動絞りレンズ。
「マシンビジョン用レンズ」について説明しだすと
長くなり、恐らく本記事の全てを使っても説明しきれない。
参考記事として、特殊レンズ第1回「マシンビジョン編」
を挙げておく。
![_c0032138_16182082.jpg]()
さて、実焦点距離16mmのレンズであるから、PENTAX
Q7に装着時は、およそ74mm/F1.4の換算画角となる。
「すげえ、ポートレート用レンズと同等じゃん!」
と思うのは早計だ。
「レンズの画角と開放F値が同じであれば、その写りも
用途も同じだ」というのは、勿論まるっきりの誤解だ。
まあ、その事を言いたくて、本レンズを紹介している
ようなものである。
さて、極めて使いこなしが困難なレンズである。
近年、初級中級マニア層においても、こうした
Cマウントレンズ(シネ用、FA用等がある)を入手し
使っているケースを稀に見るのだが、その殆どの場合、
まず、システム構成的に、正しく無い状態である事が
残念ながら見受けられる。
基本的に、これらのCマウントレンズのイメージ
サークルは極めて小さい、だから、デジタル機では、
PENTAX Qシリーズ(1/2.3型、1/1.7型)または
各社μ4/3機を2倍テレコンモード(換算2/3型)
で使う場合の、いずれかでしか利用できない。
これらをAPS-C機やフルサイズ機で使ってしまうと
イメージサークルの小ささによるケラれが発生し
見た目は、大きな周辺減光、あるいは広い意味での
「口径食」により、画面周辺が真っ黒に、写真は
真ん中に丸くしか写らない状態だ。
デジタルズーム機能かトリミング(機能/編集)で
その課題は回避できるとは言えるのだが、毎回毎回
1枚づつの、その措置は非効率的であり、とても
実用的なシステムとは言い難くなってしまう。
それから、正しくシステムを使用するためには
レンズの解像力(推定LP/mm)と、使用母艦センサー
のピクセルピッチの対応を計算で求めないとならず、
これは、この分野に係わる専門的知識が必要な為、
一般カメラマンでは例えマニアであってもお手上げだ。
そして、特にFA用レンズは、一般には個人向け販売も
していない為、入手自体も困難である。
だから基本的には、完全非推奨なシステムなのだが・・
まあでも、この特殊分野の研究、光学の原理を学ぶ、
非常に困難な撮影技法を練習する、といった目的での
「テクニカル・マニア」に向けては、こうした特殊な
システムの利用も悪く無いであろう。
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さて、5本目の85mm(級)レンズ。
![_c0032138_16182051.jpg]()
レンズは、SIGMA 70mm/f2.8 DG MACRO | Art
(新古品購入価格 44,000円)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2018年に発売されたAF単焦点中望遠等倍マクロレンズ。
「カミソリマクロ」というニックネームがあるが、
旧製品のSIGMA 70mm Macro(EX版)の初出の際に
レビュー記事で評論家がその名称を使った故の呼称で
あって、マニア層等に、特に、その名前が広まっていた
訳では無いと思う。
・・と言うのも「カミソリマクロ」という呼び名は
割と普遍的なものだと思われ、確か1970年代~
1980年代頃の他社の一部のMFマクロレンズにも、
同様な「通り名」がマニア層において広まっていた。
ただまあ、その呼び名は「言い得て妙」であり、
レンズの特徴、つまり「キレがある」「シャープだ」
「解像感が高い」という印象等を良く表していると思う。
![_c0032138_16182007.jpg]()
しかしながら、SIGMAのマクロレンズは、ライバルで
あるTAMRON社のマクロが、昔から定番であって磐石な
市場からの定評を勝ち得ていた為、ちょっとその影に
隠れてしまっていて、あまり評判が広まっていない
不運な状況もあると思う。
だが実は、SIGMAのマクロレンズは、およそ1990年代
後半頃からの製品では、かなり描写力に優れるものが
多い事が特徴だ。それについては、特殊レンズ第42回
「伝説のSIGMA MACRO」編で、所有しているレンズ群
を紹介しているので、その記事に詳しい。
まあつまり「知名度が低い」が故に、損をしている
立場のSIGMA製マクロであるが、近代(デジタル時代
以降)のものであれば、どれを買ったとしても殆ど
性能に不満は無いと思う。逆に言えば、マニア層で
あればSIGMA製マクロは必携であるとも言えよう。
「TAMRON製と、どっちを買ったら良いか迷う」
と言うならば、手ブレ補正や超音波モーターといった
マクロレンズでの近接撮影では本来では全く不要な
「付加価値」が入って高価なってしまっている現行品
で無ければ、旧型の個体では安価かつ、ほとんど新型と
同じ光学系であるのでコスパがとても良い。なので、
「SIGMAとTAMRON、両方買って自分の目で比べて
みれば?」という極端なアドバイスすら出来る状態だ。
マニア層であれば、知的好奇心もあるだろうから、
それ位はするだろうし、幸いな事にSIGMAとTAMRONの
マクロの焦点距離は、180mm以外では重複しないので
ユーザー自身の所有するレンズ群の焦点距離ラインナップ
上でも問題は無いであろう。
つまり具体的には、マクロレンズにおいて50mm=SIGMA、
60mm(APS-C専用)=TAMRON、70mm(EX/ART)=SIGMA、
90mm=TAMRON、105mm=SIGMA、150mm=SIGMA、
180mm=TAMRON(注:SIGMA版は重過ぎる)という、
焦点距離別マクロのラインナップが構築できる。
(また、SIGMAには、20~28mmの広角単焦点で
1/3倍程度の近接撮影が出来るEX DGシリーズもある。
TAMRONにも、近年では20~35mmで1/2倍マクロ
の広角単焦点があるが、こちらはミラーレス機用だ)
上記に挙げたマクロレンズ群は全て所有しているが、
どれも極めて描写力が高く、全てが一級品である。
これらの超優秀なマクロを購入しない、という選択肢は、
マニア的には、ちょっと有り得ない。
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さて、6本目の85mm(級)レンズ。
![_c0032138_16182678.jpg]()
レンズは、TOKINA AT-X M90 90mm/f2.5 Macro
(ジャンク購入価格 2,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)
1979年発売のMF中望遠1/2倍マクロレンズ。
こちらは、ちょっと前述したように「カミソリマクロ」
という通称も一部のマニア層であった、隠れた高性能
名マクロである。
![_c0032138_16182666.jpg]()
同時代の同等のスペックの著名なTAMRON SP 90mm/
F2.5(52B,52BB)の影に隠れてしまって、目立たない
不運のレンズとも言える。ただ、あまりにTAMRON
「90マクロ」が著名かつ定番になりすぎた為、
後年では(SIGMAやTOKINA等では)TAMRONとの
スペック被りを避けて、100mmや105mmマクロに
戦略転換した状況であるから、TAMRON 90マクロを甘く
見た(あるいは同時期発売なので、意識していなかった)
市場戦略が本レンズにおける失敗点だったかも知れない。
さて、本レンズは、ジャンクの半故障品である。
珍しく購入時点で瑕疵(欠陥)を見逃してしまって
いたのだ。それは「無限遠までピントリングが廻らない」
という故障であって、約5mより遠距離にピントが
合わない。こういう故障は、かつて見た事が無かった
ので、中古購入時にはピントリングが動く事と、
その感触(によるヘリコイド異常)までは確かめた
ものの、無限遠まで廻るかどうか?は完全に見落として
いた状況だ(汗)
「いやに安い(2000円)なあ・・」と不審に思い、
「もしかして店舗側の値付け間違いか?」と、
ドキドキしながら、逃げるように購入して帰って
きたのであったが、やはり値段相応の瑕疵が存在
していた訳だ。見落としは自業自得(自己責任)で
あるから、クレーム等はつけていない、本レンズの
仕様や程度であれば、本来は1万円弱程度の中古
相場となってもおかしく無いのだ。
で、実際に使ってみると、ちょっと(かなり)驚いた。
まあ、遠距離撮影が出来ないので、近接専用レンズと
なっているのだが、それにしても高描写力だ!
これは、当時(1979年~1980年代全般)のTAMRON
52B/52BBに勝るとも劣らない。
「なるほど、この描写性能であれば、TAMRON
90マクロとスペック被りの真っ向勝負となった
としても、負ける気はしなかっただろうな・・」
と、一瞬は納得しかけたのだが、それでも結局、
市場戦略において、そのレンズの知名度や評価を
高める為の、ありとあらゆる方策・・(例えば、
現代であれば、ネットを上手に活用する事により、
本来の、そのレンズの性能以上の好評価を得れる
「情報戦略」が様々に存在する。近年、私は、その
情報戦略が「過剰だ」と感じていて、その評判に
振り回されたり、乗せられたりしないようにする為、
レンズ関連のネット情報は、一切参考にしないように
している。それは販売側が新商品を売りたいが為の、
あるいはユーザー側での思い込みの内容である事が、
ほぼ100%である為、信用に値しないからだ)
・・その、「あらゆる市場情報戦略」を駆使して、
TAMRON 90マクロが著名になったのであれば・・
TOKINA 90マクロの場合は、その市場戦略が有効に
働かなかった為、結果的に知名度が無く、不人気で、
販売本数も少なくなってしまっていた訳だろう。
まあ、現代のネット時代の感覚からすれば
有効な販売戦略を実施できなかったのは自業自得だ、
とも思えてしまうのであるのだが、当時の感覚では
もっと純粋に「性能や品質の良いもの作って、それを
安価に販売すれば市場は必ず評価してくれる」という
考え方が主流であったと思われる。
つまり、この時代の直前、1970年代までの高度
成長期では、日本製品は、そういう風に、安価で
良いものを作ってきて、世界的にそれを多数販売し、
その結果として「Japan As Number One」(1979年の
ヒット書籍のタイトル)の世界的評価を得た訳だから、
「良いものを安く売る」は当時としては当たり前の
市場戦略であり、それ以上でも、それ以下でも無い。
ユーザーに様々な過剰な情報をインプットして、それで
売り上げを伸ばす、等という発想は、当時では無かった
とも言えるし、仮に気づいていたとしても、その方法も
難しいし(せいぜいがTV CMを打つとか、あるいは
有名人や有名なプロに良い評価をしてもらう程度)
あるいは「情報戦略で売り上げを伸ばす」という手法
自体「邪道である」という認識だったかも知れない。
「ユーザーは高品質に気づいてくれるだろう」という
要素は、確かに高度成長期ではあったと思う。でも
モノが溢れ、誰もが必要なものを揃え始めていて
さらには、一眼レフカメラがビギナー層を中心に
普及しはじめた1980年前後(普及機RICOH XR500や、
MINOLTA X-7が大ヒットしている)では、そういう
世情では無くなってきている状況であったのだ・・
まあ、様々な意味で不運なレンズだ。
しかし、発売後40年以上もの時が過ぎた状態で、
本TOKINA 90/2.5が再評価される事は、それなりに
まだ幸運な方であったかも知れない。世の中には
全く知られていない、隠れた名レンズも、まだまだ
沢山あるだろうからだ・・
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では、7本目の(換算)85mm(級)レンズ。
![_c0032138_16182625.jpg]()
レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 60mm/f2.4 R Macro
(中古購入価格 39,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)
2012年に発売されたAF中望遠1/2倍マクロレンズ。
Xマウント機は現状全てAPS-C機であるので、換算画角は
90mm相当となる。
![_c0032138_16182676.jpg]()
さて、購入したが「失敗したレンズ」である。
その理由は、AF精度に課題があり、ほとんどピント
を上手く合わせる事ができない。その原因は、
レンズ側距離エンコーダーが近接域と遠距離域の
二重構造であり、まあ多くのマクロレンズでも同様
ではあるが、他社ではその(自動)切換をあまり問題
無く行っている事に対し、FUJIFILMはミラーレス機
(というか、AFカメラ自体)最後発の状況であるし、
2012年~2015年位までは、その距離エンコード
テーブル(表)の切換をユーザー側の手動に委ねた
状態であった。2015年頃からオートマクロになった
とは言え、本機X-T10(2015年)や前機種X-T1
(2014年)のファームアップ版でのオートマクロ
(距離エンコードテーブルの自動切換え)は、技術的な
ノウハウ不足で正しく動作していないのだ。
で、本来、マクロレンズであれば、近接撮影が主体
となる為、その領域においては、どんなに優秀なAF
であっても精度は期待できないから、MFでの利用を
メインとするので、AFの課題は問題ではなくなるの
だが・・
このシステムの場合は、まず、レンズ側のピント
リングが無限回転式である為、最短撮影距離での
停止感触が無いので、MF操作性上での重欠点となる。
また、母艦となるXマウント機でのMFアシスト性能が
貧弱だ、これも一応はピーキング機能とかは入っては
いるものの、技術的未成熟でピーキングアルゴリズムの
精度が足らず、おまけにシャッター半押しやエフェクト
使用時に、ピーキングが停止してしまう、という操作系
上の矛盾が存在している。さらに言えば、他のMFアシスト
機能(例えば画面拡大)も操作系に劣り、実用的では無い。
まあつまり、FUJIFILMのカメラ開発における未成熟
(レンズ交換型の本格的機種の発売は、2012年から
と、まだ歴史が浅い)による課題が「てんこ盛り」
であり、特にマクロレンズのような精密ピント合わせ
型のレンズにおいては、それらの弱点が重欠点として
重くのしかかる為、実用レベルに満たない状態だ。
おまけにレンズ価格が高価すぎる、これは性能や仕様
が優れているから高価なのではなく、あきらかに販売
本数が少ない事を起因とした、研究開発費や製造経費の
償却(少ない販売数で割って、それらを上乗せする)
によるものであるから、あまりユーザーにとっては
嬉しい話では無い。
ただ、この点については「製品が沢山売れるから安価に
なる」という訳でも無い。それこそ1970年代の高度
成長期であれば、そういうビジネスモデル、つまり
大量生産は日本のお家芸であったが、その後のバブル期
等を経て、製造原価そのものが高額になってしまった
現代においては、モノ(商品、製品)の価格は、
製造原価からは決まらず、「いくらならば売れるか?」
というマーケット・イン型の視点で企画・決定される。
よって、高く売りたいのであれば、それに見合うだけの
超絶性能を付加価値とする為に、新機能や高性能を
せっせと研究開発する。その結果、価格が高くとも、
多くのユーザー層が、その超絶性能製品を魅力と感じて、
買ってくれるのであれば、絶対的に少ない製品販売数
であってもメーカーや流通は事業を維持できる訳だ。
そして、そもそもそういうビジネスモデルに各社が
転換しているのは、ぶっちゃけ言えば「もうカメラが
売れない」からである。
銀塩時代の1960年代~1990年代のように、ビギナー
層等がコンパクト機や一眼レフを沢山買ってくれて、
それらの販売台数の累計が、たった1つの機種(シリーズ)
でも、300万台(PENTAX SP等)や800万台(OLYMPUS
PENやμシリーズ等)にも到達するのであれば、量産
効果で価格も落ちてくるだろう。
でも、現代においては、例えば2010年代末頃では
日本国内において、一眼レフとミラーレス機を、
全社の全機種を合わせても100万台程度しかない。
しかもそれは「出荷台数」という、ちょっと微妙な
数字である、出荷しても売れていなければ、それらの
多くは、各販売店等で、在庫品として残ってしまって
いる訳だ。(なお、2020年のコロナ禍においては
月間のカメラ国内販売数が、数千台しか無いという
状況もあった模様だ)
そういう世情であれば、どんな売り方(企画方針や
販売戦略)を取ったとしても、カメラやレンズの価格
は高額になってしまう。
ただまあ、そういう状況であったとしても、私が思うに
機材における「コスパ」は、依然存在している。
だから、本レンズのような実用性能に満たないレンズが
たとえ中古でも4万円近くもしている状態は、
私でなくとも、誰がどう見ても「コスパが悪い」事は
明白だ。まあ、性能からした本レンズの適性相場は
2万円が良いところであり、事実、他社ミラーレス機
用の同等(か、それ以上)の性能のマクロレンズは
その2万円台程度の中古相場で十分買えるし、さらに
言えば、一眼レフ用の型遅れ(しかし高性能)の
マクロレンズであれば1万円台以下という中古相場
も普通である。
本レンズは、FUJI Xマウント機を使用している上で、
「マクロレンズを持っていない」という課題を埋める
為の購入であったが、繰り返すが「失敗」であった。
「システム的に最大のパフォーマンスが発揮できそうも
無い」という予想が、事前についていたのであれば、
無理をしてまで弱点のあるシステムを組むべきでは
無かった。まあ、その予感はあったのだが「もしかして、
多少問題点があっても、なんとか使いこなせるかも?」
という、甘い見通しがあった事は確かだ、まあつまり
このケースも自業自得である。それを指して「失敗」と
称している訳であり、商品そのものに大きな責任は無い。
それを、甘い見通しや情報(検討)不足で買ってしまう
ユーザー側に責任の大半がある訳だ。
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さて、8本目の85mmレンズ。
![_c0032138_16183368.jpg]()
レンズは、smc PENTAX-FA ★ 85mm/f1.4 (ED IF)
(中古購入価格 43,000円)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)
1992年頃に発売のAF大口径中望遠レンズ。
簡単な本レンズの歴史ではあるが、まず前機種として
MF版のsmc PENTAX-A ★85mm/f1.4(1984年)が
存在していたが、こちらはすぐにAF時代に突入して
しまった為、極めて販売本数が少なく、希少品だ。
その後、AF性能が実用的に安定したPENTAX Zシリーズ
(1991年~)の発売に合わせて、AF化されたのが
本レンズだと思われるが、AF化に際して光学系も
変更している。旧MF版はレア品で所有していない為、
その比較は不能であるが、後継機である本レンズの
描写力は改善されているだろう、とは推察できる。
![_c0032138_16183360.jpg]()
まあ、その点は、本FA★85/1.4での描写力上の不満は
殆ど感じられず、その結果、過去のランキング記事
「ミラーレス・マニアックス名玉編」では、
当時所有の約300本のレンズの中から、第18位の
上位にランクインしている。高額(高級)レンズでは
コスパの減点が大きい為、普通、こうしたランキング
に入る事は無いのだが、本レンズの入手価格は
4万円台と、さほど高価では無く、性能に比較して
妥当なコストではあったので、コスパ点の減点が
最小限で済んだ事もランクインの理由であった。
本レンズは、2000年頃に傑作レンズFA77/1.8と
置き換わるように生産中止となってしまった。
その後、PENTAXからは85mm/F1.4級レンズが
発売されなかった為、後年には本レンズは収集又は
投機対象となってしまい、酷いプレミアム価格となり
十数万円という相場が普通となった。
(注:2020年に、およそ30年ぶりの85mmレンズ
「HD PENTAX-D FA★85mm/F1.4ED SDM AW」
が発売された。ただし約30万円と非常に高額な
レンズである為、入手できていない)
その後、プレミアム価格は落ち着いてきた、まあ、
誰も、その高額相場では買わなかったので相場も
やむなく下落したのであろう。
さて、悪いレンズでは無い、しかし、こういう
レンズは所有者も少ない為、ほんの僅かなSNSの
評価記事等を起因として中古相場に大きく影響を
与えたり、またあるいは、投機の傾向が再燃して
しまう危険性すらある。よって、ここではあまり
良い所ばかりを褒める事は避けておこう。
あえて弱点を1点挙げるならば、とてつもなく外観
デザインが悪い事である。デザイン等は個人の好み
とは言えるかも知れないが、誰が見てもダメなものは
ダメだ、そして本レンズのデザインは、そういう類だ。
まあ、PENTAX側も、その点は強く認識したのであろう
本レンズ以降、1990年代後半頃からは、FA Limited
シリーズを初め、PENTAX交換レンズの外観デザイン
は大幅に向上した。恐らくは「デザインを変えろ!」
という厳命が下されたのであろう、逆に言えば、
そこまで、誰が見ても明らかな弱点があるならば、
メーカー側としても、その対策・対応に移行しやすい。
むしろ、あまり問題点と見なされていない弱点が
ある機材の場合の方が、何十年間も、その課題への
改善がほったらかしになるケースも多い訳だ。
(例:一部のメーカーの一眼レフにおける、シャッター
音の異常なまでのうるささ(大音量、音質が悪い)等)
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では、9本目の85mmレンズ。
![_c0032138_16183496.jpg]()
レンズは、CONTAX T* Sonnar 85mm/f2.8 (AE)
(中古購入価格 25,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
1975年発売のMF単焦点小口径中望遠レンズ。
国産CONTAX開始時点、CONTAX RTS(銀塩一眼第5回)
の時代から、ラインナップされていたレンズだが、
まったくの不人気レンズであり、後年にはセミレア品
となってしまっていた。
まあ、冒頭紹介の(前身の)RTS版Planar T* 85/1.4
が「神格化」される程の人気レンズであった事が、
本レンズが、その影に隠れて全く売れなかった事の
最大の理由であろう。
とても不運なレンズだ、と言えるかも知れない。
![_c0032138_16183419.jpg]()
前述のように、(RTS) Planar(系)85/1.4には
使いこなし上の弱点が存在し、経験的には、その
歩留まり(成功率)は3%程度しか無い。
すなわち、36枚撮りフィルムの中で、1枚くらい
しか気にいったカットが無い、という状況だ。
だからその、 Planar(系)85/1.4に対しては、
本Sonnar85/2.8の使いこなしは、遥かに容易だ、
とは言えるのだが・・
残念ながら、使いこなしが容易であっても、気にいった
カットが沢山ある、という状況には成り得なかった。
Planar(系)85/1.4は、条件が決まった際の爆発的な
高描写力は、あまりブランド銘の幻想には左右されない
私であっても「さすがツァイス、これは凄い!」と
思ってしまう事は良くあったのだが、勿論その確率は
極めて低い。
本レンズは、「さすがゾナー」という感想を持った
事は無い、ただしこれは、この時代(1970年代)の
85mm(級)レンズであれば、どれも似たり寄ったりの
状況だ、別に本レンズだけが良いとか悪いとかでは無い。
また、Sonnarと称してはいるが、本来のゾナー系構成の
特徴である「貼り合せ面の多い光学系」になっている
訳でもないと思う。
まあ、あまりちゃんと使う気にはならないレンズでは
あるのだが、現代のデジタル時代の環境においては
ミラーレス機等を用いて、厳密な弱点回避技法を
用いれば、そこそこ良く写るレンズにはなりうるだろう。
ただまあ、かなり高度な撮影技能を要求される事も
確かだろうから、あくまで本レンズは上級マニア向けだ。
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では、今回ラストの85mmレンズ。
![_c0032138_16183776.jpg]()
レンズは、mEiKE (MK85F18EFAF) MK-85mm/f1.8
(Canon EOS AF)
(新品購入価格 23,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)
2018年後半(?)~2019年初頭(?)頃に発売された、
中国製のCANON EFマウント専用のフルサイズ対応
AF中望遠レンズ。
「mEiKE」と大文字小文字が混じったロゴデザイン
ではあるが、一般には「Meike」と記載される。
中国製としては、(国産レンズの完全コピー品を
手がける「YONGNUO(ヨンヌオ)」を除いては)
AFレンズは極めて珍しい、また、Meikeあるいは
旧ブランドのNeewerにおいては、本レンズが唯一の
AFレンズかも知れないが、中国製レンズが日本市場に
入ってくるのは、その全機種では無い模様であり、
実際のところは良くわからない。
(注:2021年頃から、中国製レンズでもAFの
機種が少しづつ増えてきている)
![_c0032138_16183809.jpg]()
さて、中国製と言うと「安かろう、悪かろう」と
解釈あるいは思い込んでしまう初級中級層は多い
かも知れない。しかし価格を決める要素は本記事で
説明してきたように、製造原価やその部品品質では無い
という世情である為、これらの中国製レンズが安価で
ある最大の理由は・・
「日本製品が全て高価に成り過ぎてしまった為に
ガラ空きとなった低価格帯交換レンズ市場を攻める為」
である。
日本のビギナー層が考える事は、結果と経緯が逆で
あって、つまり「安い部品を使ったから安価になる」
という順番なのではなく「安価に売りたいと企画する」
が最初にある訳だ。
よって、低価格を実現すれば売れる訳であるから、
製品を低価格にする為の様々な努力を行う。大量生産も
勿論そうであるし、昔の名レンズの設計をコピーして
研究開発費を削減する「ジェネリック・レンズ」も
方策の1つである。
また、安かろう、悪かろうとは思わせないようにする為、
品質も手を抜いていない、殆どの新鋭海外(中国等)製
レンズは、金属鏡筒仕上げで感触性能も高い。
描写力も悪くは無い、本レンズも同様であり、
元々、85mm小口径(F1.7~F2級)は、描写力の高い
ものも多い、何故ならば大口径(F1.2~F1.4級)
に比べ、球面収差を初めとする諸収差の補正の為の
設計が、小口径の方がずっと楽だし、諸収差も上手く
抑えられれば描写力も高まり、おまけに被写界深度
も浅くなりすぎないのであれば、ピント歩留まりも
向上する。
良い事づくめでは無いか・・ と思うかも知れないが、
本レンズには微妙な弱点も存在している。
本レンズには、AFとMFをシームレスに切り替える機構
が存在しておらず、必ずAF/MF切換スイッチで、
その選択を行う必要がある。また、母艦となるCANON
EOS 一眼レフでは、フルサイズの高級機(5D系、6D系)
でMF用スクリーンに換装したもので無いと、MF性能
(精度)は期待できない為、すなわちMFがやりにくい。
じゃあ、今回は何故、MF性能に劣る、初級機の
EOS 8000Dを使用しているのか? という疑問点が
あるかと思うが、これはもう、どうせMF性能が期待
できないレンズであれば、AFオンリーの使用に特化
する為、MF性能があえて低い機体を選択している訳だ。
これもある意味「弱点相殺型システム」(匠の写真
用語辞典第1回記事参照)の一種である。
まあ、この為、本レンズの母艦は、殆ど、この
EOS 8000Dだ。
悪い描写力のレンズでは無い。ユーザー側の選択肢と
しては、YONGNUO YN85/1.8 (注:CANON EF85/1.8
のコピー品、本シリーズ第59回(前記事)参照)
との選択になるかも知れない。
まあ、どちらを買っても、大きな不満は無いと
思うので、中古等でたまたま巡り合える事を待っても
良いとは思う、しかしながら、積極的に新品を指名買い
する類のレンズでも無いかも知れないが・・
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では、本記事はこのあたりまでで、次回記事では
残りの10本のマニアックな85mm級レンズを紹介する。
というテーマとする。
この定義であるが「実焦点距離が85mm前後(概ね
70mm~90mm)または、APS-C機以下専用で、
フルサイズ換算画角が85mm前後のレンズ」とする。
その条件に当てはまる所有レンズの内、比較的
マニアックな(すなわち、あまり有名では無い)物を
20本集め、前後編で各10本づつを紹介する。
紹介本数が多いので各システムでの実写掲載写真は
各々1枚程度とする。
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ではまず、今回最初の85mmレンズ。

(新品購入価格 101,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
2006年にコシナより発売された大口径MF中望遠
レンズ。ただし、これはリバイバル版だ。
本レンズの前身は1975年にYASHICA(京セラ)CONTAX
から発売されたPlanar T* 85mm/F1.4 (AE)である。
COSINAは「Carl Zeiss」の商標権獲得後、その光学系を
コピーし、外観を大幅に変更して本レンズとして発売した。

あろうか?
戦後のレンジファインダー時代(1940年代~1950年代)
においては、基本的には85mmレンズは多くはなく、
75mmや90mmが主流であったという感じだ。
だが、ここには著名なCONTAX Sonnar 85mm/F2が
存在している。これは東西分断前、戦前の1930年代
からの製品だ、これがまあ、85mmの元祖であった
かも知れない。また、当時CONTAXとライバル関係に
あったライカ(ライツ)が73~75mmの焦点距離
を主流にしていたので、ここでも競合を避けたのかも
知れない。(他にも、CONTAXとライカは、様々な
機器仕様を全て相手側と逆にして設計された。ライバル
と言うより、一種の「戦争」でもあったのだが・・
これは、思えば当時はナチス・ドイツの軍事政権でも
あったので、軍需(光学兵器)として採用される為の
本当の「戦争」であった、という歴史背景も想像される)
で、このSonnar 85mmの設計を参考(コピー)にした
レンジ機用レンズは他社にもあったと思う。
例えば日本光学N製NIKKOR-P 85mm/F2(1948年)等が
その一例であるが、戦後にツァイス系技術が
東側に流出した際での、Jupiter-9も、その類だが、
厳密にはJupiter-9の生産は極めて長期に渡る為、
その一部では、戦前CONTAXのSonnar 85mm/F2とは
レンズ構成が異なる場合もある(注:一眼レフ用に
転用した為、という理由もある)
そしてCANONにおいても、Serenar(セレナー)シリーズ
レンズに、何本か85mmレンズが存在していて、早い物
では戦後すぐ1940年代末頃の発売となっていた。
1960年代には一眼レフの時代が到来、PENTAXの
M42マウント版のTakumarおよびAuto Takumar には
83mmや85mm(/F1.8)が存在していた。
また、この時代、MINOLTA MCやNIKKOR (Auto)、
CANON Rの一眼レフ用レンズにも同様に85mmが
存在する。
まあ、ここまではズームレンズ等は、ほとんど普及して
いない時代であったから、各社の交換レンズの焦点距離
ラインナップは非常に細かい刻み幅であった。
85mmのすぐ上には100mm級レンズを展開するメーカー
も殆どであったし、そんな15mmやそこらの焦点距離の
差で複数のレンズを揃えるというケースは、上級者層、
マニア層、職業写真家層に限られていただろうが、
実際のところ、この時代の一眼レフユーザーは、殆ど
全てがそういう上級層であったから、ユーザー毎の
目的に合わせ、細かい焦点距離差のレンズのどれかを
選んでいた事であろう。
が、1970年代になり、一眼レフの一般層への普及が
始まると、入門層や初級層が、付属の50mmレンズの
上の焦点距離として狙う(望遠)レンズは135mmが
主流となる。したがって、135mm級望遠レンズは
市場が活性化し、量産効果により価格が下がったり、
次々と改良版商品が発売されたりし、初級中級層が
買い易い状態となる。
反面、85mm級レンズは需要が減り、新製品も少ない
し、価格もそう安価では無い。よってこの時代の
85mm級レンズの流通数は基本的には少ないと思われる。
また、この時代、初期のズームレンズも一般層への
普及が始まる。そうなるとビギナー層等では、
35mm~70mmとか35mm~105mmといった
標準ズームをカメラにセットしておけば
「その間の単焦点レンズは買う必要が無い」と思って
しまうので、ますます中望遠85mm級レンズは需要が
減ってしまう。
恐らくであるが、この頃から、(多数ある)単焦点
レンズ製品の販売数減少を懸念したメーカーや流通側
において、「単焦点の焦点距離別の推奨用途」を
初級中級層に対して、強くアピールし始めたのでは
なかろうか? すなわち、
28mm=風景、35mm=スナップ、50mm=汎用、
85mm=人物、という、例の「アレ」である。
この戦略は成功した。というか、成功しすぎた感も
あり、その後何十年たっても、現代においても、
「85mmレンズといったら人物を撮るレンズだよね?」
「ポートレートを撮りたいから、85mmレンズを買おう」
とった、かなり強い固定観念が定着してしまっている。
(この「思い込み」は、あまり褒められた考えでは無い)

の発売だ。西独ツァイス社のカメラ事業撤退から、
それを引き継いだ国産CONTAXの誕生は、それなりに
センセーショナルな出来事であったが、その立場を
磐石とする為に投入された「最強兵器」が、Planar
T* 85mm/F1.4というレンズであったと思われる。
それまでF1.4級大口径レンズは、まあ殆ど50mm
級標準レンズでしか有り得なかったし、その頃に
「布教」が進んでいた、「85mm=人物用」という
思想とも合わせ、「Planar T* 85mm/F1.4は、
史上最強のポートレート用レンズ」という評価が
固まり、高価な、そしてビッグブランドである
「Carl Zeiss銘」と合わせ、このレンズは殆どの
ユーザー層に「神格化」されてしまった。
ただ、これはもう「常識」ではあるが、CONTAX Planar
85mm/F1.4は使いこなしが極めて困難なレンズである。
(本シリーズ第12回「使いこなしが難しいレンズ編」
ワースト第4位)
まあだから、「神格化」された程の高い評価の
レンズでありながら、その後の時代の中古市場には、
CONTAX Planar T* 85mm/F1.4が溢れかえる事と
なった訳だ、つまり買ったは良いものの、殆ど誰も
上手く使いこなせる人は居なかった、という理由だ。
どこが難しいか?という点は、上記第12回記事や、
特殊レンズ第48回「CONTAX プラナー編」を参照
されたし。
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では、次の85mmレンズ。

(中古購入価格 39,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited
(μ4/3機)
発売年不明、恐らくは1970年代であろうか(?)
さて、冒頭の85mmレンズの歴史の説明が長く
なってしまった、以下は、さらりと進めていこう。

100mm/F2)の末弟である、三兄弟の中では最も
平凡な描写力であり、優秀な兄貴達に比べて、
やや見劣りする要素も多いと思う。
そして、入手価格がやや高価であった事も、ちょっと
反省材料だ。これは「OMのF2級レンズは、販売数が
少なく、レアである」という理由で、高値相場で
あった物を妥協して購入したからであり、その結果、
コスパ点がかなり低く評価されるレンズとなった。
なお、このレンズが欲しかった理由の1つとして、
銀塩時代のカメラ誌だったか?のエッセイ?だかに、
「小型軽量のOMに、35mmレンズと85mmレンズの
2本だけを持って旅に出る」という主旨の記事があり、
それを「格好良い」と思ってしまったからだ。
多分にミーハーな理由だが(汗) まあでも、
その絶妙な機材チョイスには大いに賛同できた。
必ずしも超高性能の三重苦(大きく、重く、高価)な
システムだけが、常に優れた撮影機材という訳では
無いのである。
OM中望遠F2三兄弟の差異についは、特殊レンズ
第33回「OLYMPUS OM F2レンズ」編に詳しい。
----
では、3本目の85mmレンズ。

(中古購入価格 16,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
1970年代頃と思われるMF単焦点中望遠レンズ。

しまっていて絞り開放でしか撮れない。
おまけに悪い事に、本レンズはボケ質破綻が発生し、
酷い場合には、像面湾曲や非点収差等の影響か、
やや「ぐるぐるボケ」傾向すら見られる。
つまり、大口径中望遠レンズの生命線とも言える
「ボケ質」に弱点がある事のみならず、そのボケ質
の破綻を回避する為の、被写界深度等の調整技法も
絞り故障につき利用できない。
修理に出すような重要なレンズでは無いので、もう
ほったらかしである。一応、絞り羽根内蔵アダプター
等を複数組み合わせ、それで対応している(下写真)

からの光束を遮る「視野絞り」という状態となり、
本来ならば、レンズ内部に絞り機構があって、光学系
の中で有効径をコントロールする「開口絞り」とは
根本的に光学的な効能が異なる。
したがって、この「視野絞り」では、露出値(光量)
の調整には有効であるが、被写界深度の調整目的には
ほとんど効かず、ボケ質破綻の回避技法への流用は
まず不可能である。(さんざん実験し、痛感した)
よって、レンズの性能を最大限に発揮できていない
状況であるから、これ以上の詳細な説明は避けておく。
(追記:近年では、本レンズは「ぐるぐるボケ」用
レンズとして有効活用している。本記事では長くなる
ので、また別の記事で詳しく説明しよう)
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さて、4本目の(換算)85mm級レンズ。

(発売時定価30,000円、新品購入価格20,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)
2010年前後のマシンビジョン(FA)/CCTV兼用、
初期メガピクセル対応、1/1.8型センサー用MF単焦点
手動絞りレンズ。
「マシンビジョン用レンズ」について説明しだすと
長くなり、恐らく本記事の全てを使っても説明しきれない。
参考記事として、特殊レンズ第1回「マシンビジョン編」
を挙げておく。

Q7に装着時は、およそ74mm/F1.4の換算画角となる。
「すげえ、ポートレート用レンズと同等じゃん!」
と思うのは早計だ。
「レンズの画角と開放F値が同じであれば、その写りも
用途も同じだ」というのは、勿論まるっきりの誤解だ。
まあ、その事を言いたくて、本レンズを紹介している
ようなものである。
さて、極めて使いこなしが困難なレンズである。
近年、初級中級マニア層においても、こうした
Cマウントレンズ(シネ用、FA用等がある)を入手し
使っているケースを稀に見るのだが、その殆どの場合、
まず、システム構成的に、正しく無い状態である事が
残念ながら見受けられる。
基本的に、これらのCマウントレンズのイメージ
サークルは極めて小さい、だから、デジタル機では、
PENTAX Qシリーズ(1/2.3型、1/1.7型)または
各社μ4/3機を2倍テレコンモード(換算2/3型)
で使う場合の、いずれかでしか利用できない。
これらをAPS-C機やフルサイズ機で使ってしまうと
イメージサークルの小ささによるケラれが発生し
見た目は、大きな周辺減光、あるいは広い意味での
「口径食」により、画面周辺が真っ黒に、写真は
真ん中に丸くしか写らない状態だ。
デジタルズーム機能かトリミング(機能/編集)で
その課題は回避できるとは言えるのだが、毎回毎回
1枚づつの、その措置は非効率的であり、とても
実用的なシステムとは言い難くなってしまう。
それから、正しくシステムを使用するためには
レンズの解像力(推定LP/mm)と、使用母艦センサー
のピクセルピッチの対応を計算で求めないとならず、
これは、この分野に係わる専門的知識が必要な為、
一般カメラマンでは例えマニアであってもお手上げだ。
そして、特にFA用レンズは、一般には個人向け販売も
していない為、入手自体も困難である。
だから基本的には、完全非推奨なシステムなのだが・・
まあでも、この特殊分野の研究、光学の原理を学ぶ、
非常に困難な撮影技法を練習する、といった目的での
「テクニカル・マニア」に向けては、こうした特殊な
システムの利用も悪く無いであろう。
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さて、5本目の85mm(級)レンズ。

(新古品購入価格 44,000円)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2018年に発売されたAF単焦点中望遠等倍マクロレンズ。
「カミソリマクロ」というニックネームがあるが、
旧製品のSIGMA 70mm Macro(EX版)の初出の際に
レビュー記事で評論家がその名称を使った故の呼称で
あって、マニア層等に、特に、その名前が広まっていた
訳では無いと思う。
・・と言うのも「カミソリマクロ」という呼び名は
割と普遍的なものだと思われ、確か1970年代~
1980年代頃の他社の一部のMFマクロレンズにも、
同様な「通り名」がマニア層において広まっていた。
ただまあ、その呼び名は「言い得て妙」であり、
レンズの特徴、つまり「キレがある」「シャープだ」
「解像感が高い」という印象等を良く表していると思う。

あるTAMRON社のマクロが、昔から定番であって磐石な
市場からの定評を勝ち得ていた為、ちょっとその影に
隠れてしまっていて、あまり評判が広まっていない
不運な状況もあると思う。
だが実は、SIGMAのマクロレンズは、およそ1990年代
後半頃からの製品では、かなり描写力に優れるものが
多い事が特徴だ。それについては、特殊レンズ第42回
「伝説のSIGMA MACRO」編で、所有しているレンズ群
を紹介しているので、その記事に詳しい。
まあつまり「知名度が低い」が故に、損をしている
立場のSIGMA製マクロであるが、近代(デジタル時代
以降)のものであれば、どれを買ったとしても殆ど
性能に不満は無いと思う。逆に言えば、マニア層で
あればSIGMA製マクロは必携であるとも言えよう。
「TAMRON製と、どっちを買ったら良いか迷う」
と言うならば、手ブレ補正や超音波モーターといった
マクロレンズでの近接撮影では本来では全く不要な
「付加価値」が入って高価なってしまっている現行品
で無ければ、旧型の個体では安価かつ、ほとんど新型と
同じ光学系であるのでコスパがとても良い。なので、
「SIGMAとTAMRON、両方買って自分の目で比べて
みれば?」という極端なアドバイスすら出来る状態だ。
マニア層であれば、知的好奇心もあるだろうから、
それ位はするだろうし、幸いな事にSIGMAとTAMRONの
マクロの焦点距離は、180mm以外では重複しないので
ユーザー自身の所有するレンズ群の焦点距離ラインナップ
上でも問題は無いであろう。
つまり具体的には、マクロレンズにおいて50mm=SIGMA、
60mm(APS-C専用)=TAMRON、70mm(EX/ART)=SIGMA、
90mm=TAMRON、105mm=SIGMA、150mm=SIGMA、
180mm=TAMRON(注:SIGMA版は重過ぎる)という、
焦点距離別マクロのラインナップが構築できる。
(また、SIGMAには、20~28mmの広角単焦点で
1/3倍程度の近接撮影が出来るEX DGシリーズもある。
TAMRONにも、近年では20~35mmで1/2倍マクロ
の広角単焦点があるが、こちらはミラーレス機用だ)
上記に挙げたマクロレンズ群は全て所有しているが、
どれも極めて描写力が高く、全てが一級品である。
これらの超優秀なマクロを購入しない、という選択肢は、
マニア的には、ちょっと有り得ない。
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さて、6本目の85mm(級)レンズ。

(ジャンク購入価格 2,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)
1979年発売のMF中望遠1/2倍マクロレンズ。
こちらは、ちょっと前述したように「カミソリマクロ」
という通称も一部のマニア層であった、隠れた高性能
名マクロである。

F2.5(52B,52BB)の影に隠れてしまって、目立たない
不運のレンズとも言える。ただ、あまりにTAMRON
「90マクロ」が著名かつ定番になりすぎた為、
後年では(SIGMAやTOKINA等では)TAMRONとの
スペック被りを避けて、100mmや105mmマクロに
戦略転換した状況であるから、TAMRON 90マクロを甘く
見た(あるいは同時期発売なので、意識していなかった)
市場戦略が本レンズにおける失敗点だったかも知れない。
さて、本レンズは、ジャンクの半故障品である。
珍しく購入時点で瑕疵(欠陥)を見逃してしまって
いたのだ。それは「無限遠までピントリングが廻らない」
という故障であって、約5mより遠距離にピントが
合わない。こういう故障は、かつて見た事が無かった
ので、中古購入時にはピントリングが動く事と、
その感触(によるヘリコイド異常)までは確かめた
ものの、無限遠まで廻るかどうか?は完全に見落として
いた状況だ(汗)
「いやに安い(2000円)なあ・・」と不審に思い、
「もしかして店舗側の値付け間違いか?」と、
ドキドキしながら、逃げるように購入して帰って
きたのであったが、やはり値段相応の瑕疵が存在
していた訳だ。見落としは自業自得(自己責任)で
あるから、クレーム等はつけていない、本レンズの
仕様や程度であれば、本来は1万円弱程度の中古
相場となってもおかしく無いのだ。
で、実際に使ってみると、ちょっと(かなり)驚いた。
まあ、遠距離撮影が出来ないので、近接専用レンズと
なっているのだが、それにしても高描写力だ!
これは、当時(1979年~1980年代全般)のTAMRON
52B/52BBに勝るとも劣らない。
「なるほど、この描写性能であれば、TAMRON
90マクロとスペック被りの真っ向勝負となった
としても、負ける気はしなかっただろうな・・」
と、一瞬は納得しかけたのだが、それでも結局、
市場戦略において、そのレンズの知名度や評価を
高める為の、ありとあらゆる方策・・(例えば、
現代であれば、ネットを上手に活用する事により、
本来の、そのレンズの性能以上の好評価を得れる
「情報戦略」が様々に存在する。近年、私は、その
情報戦略が「過剰だ」と感じていて、その評判に
振り回されたり、乗せられたりしないようにする為、
レンズ関連のネット情報は、一切参考にしないように
している。それは販売側が新商品を売りたいが為の、
あるいはユーザー側での思い込みの内容である事が、
ほぼ100%である為、信用に値しないからだ)
・・その、「あらゆる市場情報戦略」を駆使して、
TAMRON 90マクロが著名になったのであれば・・
TOKINA 90マクロの場合は、その市場戦略が有効に
働かなかった為、結果的に知名度が無く、不人気で、
販売本数も少なくなってしまっていた訳だろう。
まあ、現代のネット時代の感覚からすれば
有効な販売戦略を実施できなかったのは自業自得だ、
とも思えてしまうのであるのだが、当時の感覚では
もっと純粋に「性能や品質の良いもの作って、それを
安価に販売すれば市場は必ず評価してくれる」という
考え方が主流であったと思われる。
つまり、この時代の直前、1970年代までの高度
成長期では、日本製品は、そういう風に、安価で
良いものを作ってきて、世界的にそれを多数販売し、
その結果として「Japan As Number One」(1979年の
ヒット書籍のタイトル)の世界的評価を得た訳だから、
「良いものを安く売る」は当時としては当たり前の
市場戦略であり、それ以上でも、それ以下でも無い。
ユーザーに様々な過剰な情報をインプットして、それで
売り上げを伸ばす、等という発想は、当時では無かった
とも言えるし、仮に気づいていたとしても、その方法も
難しいし(せいぜいがTV CMを打つとか、あるいは
有名人や有名なプロに良い評価をしてもらう程度)
あるいは「情報戦略で売り上げを伸ばす」という手法
自体「邪道である」という認識だったかも知れない。
「ユーザーは高品質に気づいてくれるだろう」という
要素は、確かに高度成長期ではあったと思う。でも
モノが溢れ、誰もが必要なものを揃え始めていて
さらには、一眼レフカメラがビギナー層を中心に
普及しはじめた1980年前後(普及機RICOH XR500や、
MINOLTA X-7が大ヒットしている)では、そういう
世情では無くなってきている状況であったのだ・・
まあ、様々な意味で不運なレンズだ。
しかし、発売後40年以上もの時が過ぎた状態で、
本TOKINA 90/2.5が再評価される事は、それなりに
まだ幸運な方であったかも知れない。世の中には
全く知られていない、隠れた名レンズも、まだまだ
沢山あるだろうからだ・・
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では、7本目の(換算)85mm(級)レンズ。

(中古購入価格 39,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)
2012年に発売されたAF中望遠1/2倍マクロレンズ。
Xマウント機は現状全てAPS-C機であるので、換算画角は
90mm相当となる。

その理由は、AF精度に課題があり、ほとんどピント
を上手く合わせる事ができない。その原因は、
レンズ側距離エンコーダーが近接域と遠距離域の
二重構造であり、まあ多くのマクロレンズでも同様
ではあるが、他社ではその(自動)切換をあまり問題
無く行っている事に対し、FUJIFILMはミラーレス機
(というか、AFカメラ自体)最後発の状況であるし、
2012年~2015年位までは、その距離エンコード
テーブル(表)の切換をユーザー側の手動に委ねた
状態であった。2015年頃からオートマクロになった
とは言え、本機X-T10(2015年)や前機種X-T1
(2014年)のファームアップ版でのオートマクロ
(距離エンコードテーブルの自動切換え)は、技術的な
ノウハウ不足で正しく動作していないのだ。
で、本来、マクロレンズであれば、近接撮影が主体
となる為、その領域においては、どんなに優秀なAF
であっても精度は期待できないから、MFでの利用を
メインとするので、AFの課題は問題ではなくなるの
だが・・
このシステムの場合は、まず、レンズ側のピント
リングが無限回転式である為、最短撮影距離での
停止感触が無いので、MF操作性上での重欠点となる。
また、母艦となるXマウント機でのMFアシスト性能が
貧弱だ、これも一応はピーキング機能とかは入っては
いるものの、技術的未成熟でピーキングアルゴリズムの
精度が足らず、おまけにシャッター半押しやエフェクト
使用時に、ピーキングが停止してしまう、という操作系
上の矛盾が存在している。さらに言えば、他のMFアシスト
機能(例えば画面拡大)も操作系に劣り、実用的では無い。
まあつまり、FUJIFILMのカメラ開発における未成熟
(レンズ交換型の本格的機種の発売は、2012年から
と、まだ歴史が浅い)による課題が「てんこ盛り」
であり、特にマクロレンズのような精密ピント合わせ
型のレンズにおいては、それらの弱点が重欠点として
重くのしかかる為、実用レベルに満たない状態だ。
おまけにレンズ価格が高価すぎる、これは性能や仕様
が優れているから高価なのではなく、あきらかに販売
本数が少ない事を起因とした、研究開発費や製造経費の
償却(少ない販売数で割って、それらを上乗せする)
によるものであるから、あまりユーザーにとっては
嬉しい話では無い。
ただ、この点については「製品が沢山売れるから安価に
なる」という訳でも無い。それこそ1970年代の高度
成長期であれば、そういうビジネスモデル、つまり
大量生産は日本のお家芸であったが、その後のバブル期
等を経て、製造原価そのものが高額になってしまった
現代においては、モノ(商品、製品)の価格は、
製造原価からは決まらず、「いくらならば売れるか?」
というマーケット・イン型の視点で企画・決定される。
よって、高く売りたいのであれば、それに見合うだけの
超絶性能を付加価値とする為に、新機能や高性能を
せっせと研究開発する。その結果、価格が高くとも、
多くのユーザー層が、その超絶性能製品を魅力と感じて、
買ってくれるのであれば、絶対的に少ない製品販売数
であってもメーカーや流通は事業を維持できる訳だ。
そして、そもそもそういうビジネスモデルに各社が
転換しているのは、ぶっちゃけ言えば「もうカメラが
売れない」からである。
銀塩時代の1960年代~1990年代のように、ビギナー
層等がコンパクト機や一眼レフを沢山買ってくれて、
それらの販売台数の累計が、たった1つの機種(シリーズ)
でも、300万台(PENTAX SP等)や800万台(OLYMPUS
PENやμシリーズ等)にも到達するのであれば、量産
効果で価格も落ちてくるだろう。
でも、現代においては、例えば2010年代末頃では
日本国内において、一眼レフとミラーレス機を、
全社の全機種を合わせても100万台程度しかない。
しかもそれは「出荷台数」という、ちょっと微妙な
数字である、出荷しても売れていなければ、それらの
多くは、各販売店等で、在庫品として残ってしまって
いる訳だ。(なお、2020年のコロナ禍においては
月間のカメラ国内販売数が、数千台しか無いという
状況もあった模様だ)
そういう世情であれば、どんな売り方(企画方針や
販売戦略)を取ったとしても、カメラやレンズの価格
は高額になってしまう。
ただまあ、そういう状況であったとしても、私が思うに
機材における「コスパ」は、依然存在している。
だから、本レンズのような実用性能に満たないレンズが
たとえ中古でも4万円近くもしている状態は、
私でなくとも、誰がどう見ても「コスパが悪い」事は
明白だ。まあ、性能からした本レンズの適性相場は
2万円が良いところであり、事実、他社ミラーレス機
用の同等(か、それ以上)の性能のマクロレンズは
その2万円台程度の中古相場で十分買えるし、さらに
言えば、一眼レフ用の型遅れ(しかし高性能)の
マクロレンズであれば1万円台以下という中古相場
も普通である。
本レンズは、FUJI Xマウント機を使用している上で、
「マクロレンズを持っていない」という課題を埋める
為の購入であったが、繰り返すが「失敗」であった。
「システム的に最大のパフォーマンスが発揮できそうも
無い」という予想が、事前についていたのであれば、
無理をしてまで弱点のあるシステムを組むべきでは
無かった。まあ、その予感はあったのだが「もしかして、
多少問題点があっても、なんとか使いこなせるかも?」
という、甘い見通しがあった事は確かだ、まあつまり
このケースも自業自得である。それを指して「失敗」と
称している訳であり、商品そのものに大きな責任は無い。
それを、甘い見通しや情報(検討)不足で買ってしまう
ユーザー側に責任の大半がある訳だ。
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さて、8本目の85mmレンズ。

(中古購入価格 43,000円)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)
1992年頃に発売のAF大口径中望遠レンズ。
簡単な本レンズの歴史ではあるが、まず前機種として
MF版のsmc PENTAX-A ★85mm/f1.4(1984年)が
存在していたが、こちらはすぐにAF時代に突入して
しまった為、極めて販売本数が少なく、希少品だ。
その後、AF性能が実用的に安定したPENTAX Zシリーズ
(1991年~)の発売に合わせて、AF化されたのが
本レンズだと思われるが、AF化に際して光学系も
変更している。旧MF版はレア品で所有していない為、
その比較は不能であるが、後継機である本レンズの
描写力は改善されているだろう、とは推察できる。

殆ど感じられず、その結果、過去のランキング記事
「ミラーレス・マニアックス名玉編」では、
当時所有の約300本のレンズの中から、第18位の
上位にランクインしている。高額(高級)レンズでは
コスパの減点が大きい為、普通、こうしたランキング
に入る事は無いのだが、本レンズの入手価格は
4万円台と、さほど高価では無く、性能に比較して
妥当なコストではあったので、コスパ点の減点が
最小限で済んだ事もランクインの理由であった。
本レンズは、2000年頃に傑作レンズFA77/1.8と
置き換わるように生産中止となってしまった。
その後、PENTAXからは85mm/F1.4級レンズが
発売されなかった為、後年には本レンズは収集又は
投機対象となってしまい、酷いプレミアム価格となり
十数万円という相場が普通となった。
(注:2020年に、およそ30年ぶりの85mmレンズ
「HD PENTAX-D FA★85mm/F1.4ED SDM AW」
が発売された。ただし約30万円と非常に高額な
レンズである為、入手できていない)
その後、プレミアム価格は落ち着いてきた、まあ、
誰も、その高額相場では買わなかったので相場も
やむなく下落したのであろう。
さて、悪いレンズでは無い、しかし、こういう
レンズは所有者も少ない為、ほんの僅かなSNSの
評価記事等を起因として中古相場に大きく影響を
与えたり、またあるいは、投機の傾向が再燃して
しまう危険性すらある。よって、ここではあまり
良い所ばかりを褒める事は避けておこう。
あえて弱点を1点挙げるならば、とてつもなく外観
デザインが悪い事である。デザイン等は個人の好み
とは言えるかも知れないが、誰が見てもダメなものは
ダメだ、そして本レンズのデザインは、そういう類だ。
まあ、PENTAX側も、その点は強く認識したのであろう
本レンズ以降、1990年代後半頃からは、FA Limited
シリーズを初め、PENTAX交換レンズの外観デザイン
は大幅に向上した。恐らくは「デザインを変えろ!」
という厳命が下されたのであろう、逆に言えば、
そこまで、誰が見ても明らかな弱点があるならば、
メーカー側としても、その対策・対応に移行しやすい。
むしろ、あまり問題点と見なされていない弱点が
ある機材の場合の方が、何十年間も、その課題への
改善がほったらかしになるケースも多い訳だ。
(例:一部のメーカーの一眼レフにおける、シャッター
音の異常なまでのうるささ(大音量、音質が悪い)等)
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では、9本目の85mmレンズ。

(中古購入価格 25,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
1975年発売のMF単焦点小口径中望遠レンズ。
国産CONTAX開始時点、CONTAX RTS(銀塩一眼第5回)
の時代から、ラインナップされていたレンズだが、
まったくの不人気レンズであり、後年にはセミレア品
となってしまっていた。
まあ、冒頭紹介の(前身の)RTS版Planar T* 85/1.4
が「神格化」される程の人気レンズであった事が、
本レンズが、その影に隠れて全く売れなかった事の
最大の理由であろう。
とても不運なレンズだ、と言えるかも知れない。

使いこなし上の弱点が存在し、経験的には、その
歩留まり(成功率)は3%程度しか無い。
すなわち、36枚撮りフィルムの中で、1枚くらい
しか気にいったカットが無い、という状況だ。
だからその、 Planar(系)85/1.4に対しては、
本Sonnar85/2.8の使いこなしは、遥かに容易だ、
とは言えるのだが・・
残念ながら、使いこなしが容易であっても、気にいった
カットが沢山ある、という状況には成り得なかった。
Planar(系)85/1.4は、条件が決まった際の爆発的な
高描写力は、あまりブランド銘の幻想には左右されない
私であっても「さすがツァイス、これは凄い!」と
思ってしまう事は良くあったのだが、勿論その確率は
極めて低い。
本レンズは、「さすがゾナー」という感想を持った
事は無い、ただしこれは、この時代(1970年代)の
85mm(級)レンズであれば、どれも似たり寄ったりの
状況だ、別に本レンズだけが良いとか悪いとかでは無い。
また、Sonnarと称してはいるが、本来のゾナー系構成の
特徴である「貼り合せ面の多い光学系」になっている
訳でもないと思う。
まあ、あまりちゃんと使う気にはならないレンズでは
あるのだが、現代のデジタル時代の環境においては
ミラーレス機等を用いて、厳密な弱点回避技法を
用いれば、そこそこ良く写るレンズにはなりうるだろう。
ただまあ、かなり高度な撮影技能を要求される事も
確かだろうから、あくまで本レンズは上級マニア向けだ。
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では、今回ラストの85mmレンズ。

(Canon EOS AF)
(新品購入価格 23,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)
2018年後半(?)~2019年初頭(?)頃に発売された、
中国製のCANON EFマウント専用のフルサイズ対応
AF中望遠レンズ。
「mEiKE」と大文字小文字が混じったロゴデザイン
ではあるが、一般には「Meike」と記載される。
中国製としては、(国産レンズの完全コピー品を
手がける「YONGNUO(ヨンヌオ)」を除いては)
AFレンズは極めて珍しい、また、Meikeあるいは
旧ブランドのNeewerにおいては、本レンズが唯一の
AFレンズかも知れないが、中国製レンズが日本市場に
入ってくるのは、その全機種では無い模様であり、
実際のところは良くわからない。
(注:2021年頃から、中国製レンズでもAFの
機種が少しづつ増えてきている)

解釈あるいは思い込んでしまう初級中級層は多い
かも知れない。しかし価格を決める要素は本記事で
説明してきたように、製造原価やその部品品質では無い
という世情である為、これらの中国製レンズが安価で
ある最大の理由は・・
「日本製品が全て高価に成り過ぎてしまった為に
ガラ空きとなった低価格帯交換レンズ市場を攻める為」
である。
日本のビギナー層が考える事は、結果と経緯が逆で
あって、つまり「安い部品を使ったから安価になる」
という順番なのではなく「安価に売りたいと企画する」
が最初にある訳だ。
よって、低価格を実現すれば売れる訳であるから、
製品を低価格にする為の様々な努力を行う。大量生産も
勿論そうであるし、昔の名レンズの設計をコピーして
研究開発費を削減する「ジェネリック・レンズ」も
方策の1つである。
また、安かろう、悪かろうとは思わせないようにする為、
品質も手を抜いていない、殆どの新鋭海外(中国等)製
レンズは、金属鏡筒仕上げで感触性能も高い。
描写力も悪くは無い、本レンズも同様であり、
元々、85mm小口径(F1.7~F2級)は、描写力の高い
ものも多い、何故ならば大口径(F1.2~F1.4級)
に比べ、球面収差を初めとする諸収差の補正の為の
設計が、小口径の方がずっと楽だし、諸収差も上手く
抑えられれば描写力も高まり、おまけに被写界深度
も浅くなりすぎないのであれば、ピント歩留まりも
向上する。
良い事づくめでは無いか・・ と思うかも知れないが、
本レンズには微妙な弱点も存在している。
本レンズには、AFとMFをシームレスに切り替える機構
が存在しておらず、必ずAF/MF切換スイッチで、
その選択を行う必要がある。また、母艦となるCANON
EOS 一眼レフでは、フルサイズの高級機(5D系、6D系)
でMF用スクリーンに換装したもので無いと、MF性能
(精度)は期待できない為、すなわちMFがやりにくい。
じゃあ、今回は何故、MF性能に劣る、初級機の
EOS 8000Dを使用しているのか? という疑問点が
あるかと思うが、これはもう、どうせMF性能が期待
できないレンズであれば、AFオンリーの使用に特化
する為、MF性能があえて低い機体を選択している訳だ。
これもある意味「弱点相殺型システム」(匠の写真
用語辞典第1回記事参照)の一種である。
まあ、この為、本レンズの母艦は、殆ど、この
EOS 8000Dだ。
悪い描写力のレンズでは無い。ユーザー側の選択肢と
しては、YONGNUO YN85/1.8 (注:CANON EF85/1.8
のコピー品、本シリーズ第59回(前記事)参照)
との選択になるかも知れない。
まあ、どちらを買っても、大きな不満は無いと
思うので、中古等でたまたま巡り合える事を待っても
良いとは思う、しかしながら、積極的に新品を指名買い
する類のレンズでも無いかも知れないが・・
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では、本記事はこのあたりまでで、次回記事では
残りの10本のマニアックな85mm級レンズを紹介する。