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レンズ・マニアックス(59)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介のマニアックな
レンズを主に紹介するシリーズ記事。

今回は、未紹介レンズ3本および、比較用として紹介済み
レンズ1本を取り上げる。

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まず、今回最初の(未紹介)レンズ
_c0032138_07124961.jpg
レンズは、TAMRON SP AF 90mm/f2.8 Di MACRO 1:1
(中古購入価格 8,000円)(Model 272E)
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ(APS-C機)

2004年に発売された、フルサイズ対応AF中望遠等倍
マクロレンズ。
_c0032138_07131157.jpg
これは言わずと知れた、「TAMRON 90マクロ」である。
銀塩AF時代からの等倍版(72系、F004系)のバージョン
と発売年次は以下の通り。

1996年:Model 72E:SP AF 90mm/f2.8 Macro[1:1]
1999年:Model 172E:SP AF 90mm/f2.8 Macro[1:1]
2004年:Model 272E:SP AF 90mm/f2.8 Di Macro 1:1
2012年:Model F004:SP 90mm/f2.8 Di MACRO 1:1 VC USD
2016年:Model F017:SP 90mm/f2.8 Di MACRO 1:1 VC USD

私は、これまで、72E型と172E型を異マウントで2本
使用して来たが、両者は外観デザインが異なるだけで、
内部光学系は同一である。(72系はすべて光学系は一緒)
なお、Model型番が変わった際にも、レンズ名称が踏襲
されるケースでは、それは微小な変更(マイナーチェンジ)
に留まっているという事である。また、Model型番の
下位の数値が同一の場合は、レンズ構成(光学系)も
同一である、というTAMRON社での慣例だ。

「デジタル対応」(Di型)を謳った本レンズが出た際、
それを買い足そうとしたのだが、ここでちょっと問題が・・

当初、本Di型の発表時に「光学系をデジタルに対応した」
という(誤まった)レビュー記事を目にしたのだ。

確か、「テレセントリック特性に配慮」といったような
説明があり、これはまあ、正しく解釈するのであれば、
デジタルの撮像素子においては、フィルムのように斜め
から入射する光に対して感度が低下してしまう。
よって、デジタルにおいてはレンズの後玉あたりの光学系
を見直し、できるだけ撮像素子(CCD/CMOSセンサー)に
垂直に光を投影するのが望ましい。この事を称して
「テレセントリック(特性)」と呼ぶ訳だ。

私は「その通り、ごもっともだ、よし、ではDi型を買おう」
と思っていたのだが・・ その後、良く良く調べてみると、
TAMRON側では、テレセントリック等については何も述べて
おらず、Di型は単に、撮像センサー面での反射(面間反射)
を防ぐ為に、「後玉表面にコーティングを施した」だけで、
レンズ自体の光学系は何も変わっていなかったのだ。

よって、「テレセントリック・・うんぬん」の、評価記事
だかレビュー記事だかは、「ガセ」であった事が判明した。
世の中は一眼レフがデジタルに切り替わる昏迷期である、
この件に限らず、当時は誤った情報が色々とあったのだ。
そもそも、172E→272EとModel型番下位が同じなので
光学系を変えている様相も無かった次第だ。

私は「なんだ・・ デタラメな情報だったのか!
   172と光学系が同じならば、買う必要は無いな」
と判断し、この272E型を無視する事とした。

ところが、その後、この90マクロは、8年(ないし9年)
もの間、バージョンアップが止まってしまい、後継型が
何も出て来ない状況が続いた。

後継機種が出ない理由の1つは、この2000年代、殆どの
デジタル一眼レフはAPS-C型センサーを搭載していたので、
換算画角が1.5倍で、135mm相当にもなってしまう
「90マクロ」は、自然観察・フィールド分野では、
(画角が狭すぎて)やや使いにくかったのだ。
(注;「使い難い」と世間では言われたが、個人的
にはそうは思っていない。マクロレンズの画角の差は
通常レンズほど作画に影響するものではないし、むしろ
撮影倍率が高まる、または同一撮影倍率では、WDを長く
取れる利点がある、と思っていた)

この課題はTAMRONにおいても当然認識していたと思われ、
2009年には、APS-C機で90mm相当の画角となる
SP AF60mm/f2 DiⅡ LD [IF] MACRO 1:1(Model G005)
を、発売していた。(APS-C機専用のDiⅡ型)
(特殊レンズ第8回記事TAMRON SP編、等を参照)

だが、2010年代前半、フルサイズ機(一眼レフ)が
低価格機種発売等で身近になって来た事、そして同時代
のスマホやミラーレス機の台頭で、一眼レフおよび
その交換レンズ市場が縮退していくと、レンズメーカー
側では、販売数が減少した分を高付加価値化(=利益)で
補わないとならない。

高付加価値化、すなわち「値上げ」の為の方策としては、
VC(手ブレ補正)の内蔵、そしてUSD(超音波モーター)
内蔵がある。この措置の結果、F004型を8~9年ぶり
の「90マクロ」として新発売、価格も(本)272E型の
68,000円から90,000円と、3割以上もの値上げとなった。

私は「マクロ(近接)撮影では、手ブレ補正機能も
   超音波モーターも不要だ」
と思っていたし、それらの付加機能により、価格のみ
ならず重量も3割増し(405g→550g)となっていたので、
このF004型も完全に無視する事とした。
(とは言いつつ、後に研究用として購入している)

それと、本272E型はF004型発売以降も、しばらくの
間、併売されていた模様であるが、272EもF004も
2010年代末頃には、知らぬ間に生産終了となっている。

なお、F004型では、(72E型から)実に16年ぶりに、
レンズ光学系の見直しが入っている。

これはつまり、16年もの間、光学系を特に変更する
必要が無かった、と好意的に解釈する事も出来る。
つまり、72E型から既に光学系の完成度は高かった、
という意味である。(まあ、だから8~9年もの間、
新製品を出せない期間があったのであろう)
_c0032138_07131349.jpg
さて、本272E型であるが、Di(デジタル対応)を謳って
はいるが、その実際の効能は不明だ。コーティングの
比較はとても難しく、その方法論が思い付かない。

例えば、SONY α7系機体では装着するレンズによっては
画間反射による、盛大なフレアやゴーストが発生し、
回避困難となるが、もう、それは組みあわせの問題で、
レンズを変えるか母艦を変えるしかない。
だが、90マクロ(旧72系)では、これまで母艦を色々と
変えてみても画間反射などは出る事は無かった。

そもそも昔から、90マクロは近接撮影では良く写るし、
その点については定評があり、私も高く評価はしている。
コーティングの有無など、どうでも良いようにも思った。

(ただし、中距離以遠の撮影となると、細かい課題も
見えてくる、具体的には解像感の低下やボケ質破綻だ。
ただまあ、その程度は微細なものなので、そうした細かい
弱点は「90マクロ」の名を貶めるようなものでは無い)

所有している3本の等倍版90マクロ(72系)の、個人DB
での描写表現力の評価点は、いずれも4.5点(5点満点)
である。これは「完璧な写りで感動的というレベルでは
には満たないが、相当に良く写る」という評価点である。
まあつまり、実用上では何も問題は無い。
_c0032138_07125026.jpg
今回、272E型を追加入手した理由は、Di型での後玉の
反射防止コーテイングの効能(効果)を確かめたかった事。
(注:前述のように、その効能は良くわからない・汗
恐らく、ゴースト等は「出るか出ないか」であり、
母艦との組み合わせで決まるだろうし、コーティング
によるコントラストや画質の向上等は、後玉の場合は
多分、ほとんど写真には現れて来ないのだろう)


それと、CANON EFマウント版の90マクロを所有して
いなかった為、本レンズで補填する事、それと最後の
理由は、本レンズの中古相場が8,000円と、安価で
あった事である。特に瑕疵(キズやカビ等の不備)は無く、
購入がカメラ専門店では無く、ハードウェアリサイクル
店であったので、相場にあまりシビアで無いのであろう。

まあ、性能的には殆ど何も問題が無いレンズであるので、
良い買い物であったと思う。

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では次は、上記との「比較用」(再掲)レンズである。
_c0032138_07132884.jpg
レンズは、TAMRON SP 90mm/f2.5
(中古購入価格 20,000円)(Model 52BB)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

1988年に発売された、フルサイズ対応MF中望遠
ハーフ(1/2倍)マクロレンズ。
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こちらも、言わずと知れた「TAMON 90マクロ」だが、
MF版が、そのシリーズの元祖である。 
本レンズの事を「タムキュー」と呼んでいるケースを
近年見かけたが、あまりそうした呼び名は発売時には
マニア層においては、一般的では無かったと思う。
(まあ、語呂が悪いし・・)

銀塩MF時代での、1/2倍版のバージョンと発売年次は
以下の通り。

1979年:Model 52B :SP 90mm/f2.5
1988年:Model 52BB:SP 90mm/f2.5
1990年:Model 52E :SP AF 90mm/f2.5
1996年:Model 72B :SP 90mm/f2.8 Macro 1:1

ここは、ちょっと型番体系がややこしい。
まず「52系」は、全て開放F値がF2.5で1/2倍マクロだ。
MF版の52B,52BBは、アダプトール2交換マウント仕様
である。アダプトール2は、規格上、最大口径比が
F2.5までに制限されていた模様であり(注:その
理由は不明であるが、マウント交換を行う際の後玉の
限界値に応じた「決め事」であったのだろうと思う)
その為、これらの1/2倍(ハーフ)マクロの開放F値は
後の等倍版のF2.8よりも少し明るい。

本レンズ(52BB)の発売時点では、既に各社一眼レフ
はAF化がスタートしていた為、本レンズも2年後に
AF化した52E型となる。ただ、それまでのMFマウント
(アダプトール2)では、アダプターを購入すれば、
どのメーカーの(MF)一眼レフにも装着できたのが、
AFマウントとなると、その1つのメーカーの機体に
しか使えなくなってしまう。この頃のユーザー層は
これを嫌ったのか? AF版の52E型は、中古市場でも
殆ど流通していなかった。

1979年の52B型(そして、SP銘も、この時代に
付けられた称号だ)が市場において好評価であった
為、既に「ポートレートマクロ」と「TAMRON」の
名前は多くのユーザー層に有名になっていた。
_c0032138_07132889.jpg
まあ、他記事でも良く書いているが、1980年代の
ユーザー層は、MF一眼レフと50mm標準レンズを
セットにして購入、そして次に「望遠レンズが欲しい」
となった場合、その候補は135mm単焦点MF望遠で
あったから、その間の中望遠域は、すっぽり抜けて
しまっているユーザーが殆どだった。

また、この時代には、交換レンズの普及と販促の為、
「85mmは人物撮影用」という概念を、メーカーや
流通市場では、ユーザーに刷り込もうとしていた。

その「常識(?)」が広まった頃に52B型の発売だ、
「これ1本で、人物撮影にも近接撮影にも使え、
 かつ多くのユーザーが持っていない中望遠レンズだ」
となれば、メーカー側の企画意図通り、当時のユーザー
層のニーズにもピタリと嵌る。
結局、この「製品企画コンセプトの上手さ」が、
52B型や52BB型のヒットと好評価に繋がったのだろう
と分析している。

でも1990年代ともなると、各社は85mm/F1.2やF1.4
級の大口径(AF)中望遠を、人物撮影専用高性能レンズ
としてラインナップを始める。これらは価格が高価で
あった事もあいまって、初級中級層の「憧れのレンズ」
となり、そこにTAMRONが、52Bから52E型までで
「ポートレートもマクロも出来ます」と、17年間も
言い続けてきた戦略は、そろそろ通用しなくなった。

F2.5という開放F値は、F1.2やF1.4の大口径と比べて
しまうと、初級中級層に対しては訴求力が無い。
また、ポートレートもマクロも・・・といった、少々
みみっちい兼用戦略も、贅沢三昧のバブル期を経験
した当時のユーザー層には通用しにくい。
もっと「凄いモノ」で無いと、目を引かない訳だ。

そこでTAMRONは、ポートレート兼用の方針を潔く捨て、
近接(マクロ)撮影に特化した72系の等倍マクロの
開発をスタートしたのであろう。
72B(MF版)と、72E(AF版)の両者の発売は、
いずれも1996年である。

開放F値は、F2.5→F2.8と僅かに低下したが、
その分、1/2倍→等倍と、最大撮影倍率はアップ。
これは、ユーザー層に対し「近接撮影専用の本格的
レンズ」としての訴求力がある。

また、恐らくだが、52系では、中遠距離で最良の
描写力となるように光学系を設計していたのだろうが、
72系では、最短撮影距離付近で描写力を高めるという
設計コンセプトに移行している。
よって、72系の近接等倍付近での描写表現力は、
これ迄の52系よりも格段に向上した。

ただ、72系では、逆に中遠距離撮影が52系よりも不利
な状況となるが、この近接撮影での圧倒的描写力を
見てしまったら、もう誰も72系で中遠距離撮影
(特に人物撮影等)は、行わなくなる。
だから、72系の中遠距離撮影の弱点は、誰も気づかず
また気づいたとしても軽微な弱点だから、もう不問だ。

このあたりは、やはり「企画コンセプトの上手さ」を
感じる、戦略的シナリオの上手さも、さる事ながら、
1996年での72B、72Eの同時発売も洒落ている。
つまり、AF機全盛のこの時代、あえてMFレンズを
発売する理由は、「マクロ撮影だから、MFの方が
有利でしょう?」という核心を、ちゃんとメーカー
側が把握していた(理解していた)という意味だ。

この頃のメーカーは、現代よりも「実用撮影シーン」の
認識が高かったのではなかろうか?とも思ってしまう。
現代の一部の機種(カメラやレンズ)では、実際に
撮影に持ち出すと、ものの30分で気づく、重大な課題を
持つものが多々あり、「なんだこりゃ~!! 誰も
この機材を実際に使わないまま、売っているのか?!」
と怒りに近い感情を覚える機材が多く存在する状況だ。

まあ、場合により、それは事実であろう。
カメラやレンズのスペックばかり気にして新製品を
作っていれば、とても忙しいデジタルでの開発業務の
合間に、実用撮影を何万枚もこなす、など、まず
不可能であろう・・ 残念だが、そう思わざるを得ない
ような撮影機材の課題の実例を、山ほど見てきている。

また、ユーザー側にも問題がある。カメラやレンズが
家電製品化してしまい、ちゃんと用途上での事前検討
を行わないまま、量販店等で店員の薦めるままに購入
してしまい、購入後も実用的視点でそれの用法を修練
する事もなく、イベントや旅行の際に持ち出して1日
撮って終わりだ。実用上での機材の良し悪しなど全く
理解する事もできないユーザー層が大半という状況だ。
_c0032138_07132912.jpg
さて、本52BB型だが、優秀なポートレートマクロ
という評価は、もう既に30年以上も前の昔話だ。
現代においては、本レンズの描写力では満足できない
ユーザーも多いと思う。

ちなみに個人DBでの本52BB型の描写表現力の評価点は
4点(5点満点)である。
これは、「悪くは無いが、上にはもっと上がある」
という感じの評価点だ。まあそれでも当時の技術水準を
加味して、多少は「ゲタ」をはかせている状況であり、
実際のところは3.5点、という感じであろう。

現代になって必死に探す類のレンズでは無いが、
もし中古があれば、現代では1万円を切る程の格安相場
になっていると思うので、52系、72系の、各TAMRONの
90マクロの時代による変遷や描写傾向の差異を研究する
目的であれば、購入は十分にアリだと思う。

なお、272E後継のF004型も入手済みなので、いずれ、
90マクロの全光学系(52系、72系、F004系)の
変遷についての記事を、本シリーズで掲載する予定だ。

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では、3本目のレンズ、以下は未紹介レンズとなる。
_c0032138_18401474.jpg
レンズは、TOKINA AF100-300mm/f5.6-6.7(EMZ130)
(ジャンク購入価格 500円)
カメラは、SONY α65(APS-C機)

詳細不明、恐らくは1990年代前半頃の発売と思われる
AF望遠ズーム。勿論フルサイズ対応である。
_c0032138_07134110.jpg
後継型のⅡ型(EMZ130AFⅡ)が存在する模様だが、
何処がどう違うかは不明。また、本レンズが初期型か
Ⅱ型かも不明。レンズ上の表記にはⅡの文字は無いので、
恐らくは初期型だと思われる。


そして、レンズ上には「MACRO 1:4」の表記がある。
最短撮影距離1.5m(?)の距離指標あたりに、その表記が
あるので、恐らく300mm端での(フルサイズ時)撮影
倍率が、1/4倍(0.25倍)となるという意味であろう。

ただ、この時代(1990年代)の300mm級望遠ズームは
一部が同様に「最短1.5mで1/4倍」の近接性能を持つ。
本シリーズ第59回記事で紹介のTAMRON 100-300/5-6.3
(Model 186D)も、まったく同じ性能仕様だ。
まあ、本レンズは「寄れる方である」という評価にして
おこう。

それから、TOKINAにおいても、前時代のMF望遠ズーム
で類似仕様のものが存在する。
「RMC TOKINA 100-300mm/f5.6」
(本シリーズ第49回記事参照)が、それであるが、
1980年代から1990年代にかけ、TOKINAには類似仕様
の望遠ズームレンズが極めて多く、また、それら個々に
関する情報も、現代となっては殆ど存在していない。

ただ、RMC版100-300は開放F値固定型ズームであっても
描写力がイマイチである。また、同時代1980年代の
MF望遠ズームは、TOKINAに限らず、他のメーカー製で
あっても同様であり・・
200mm級MF望遠ズーム(80-200mmや70-210mm等)
よりも、300mm級MF望遠ズーム(例:100-300mm、
90-300mm、60-300mm等)が、明らかに劣っている
例が多数ある。
これはつまり、200mmズームより300mmズームの方が、
当時の技術水準においては、設計が困難(収差が補正
しきれていない)からであろう。

しかし、TOKINA 60-300mm/f4.5-5.6 (ハイコスパ
第9回記事MFズーム編参照)は、そこそこ良く写る
望遠ズームである。

これはつまり、同じTOKINAの同じ300mm級ズームで
あっても、機種毎に性能がまちまちである、という
事実を意味する。
また、不思議な事に、新しい時代のレンズ方が常に
性能が高い訳でもなく、ここも個々にまちまちだ。

その理由だが、第一に、レンズの企画コンセプトの
違いがあり、高性能を目指した高級レンズなのか?
それとも市場への普及を狙ったローコストレンズなのか?
それによっても、設計や結果としての性能は異なるだろう。

ただ、発売時点から20~30年も経った現在においては
どの時代のどのTOKINA製ズームであっても、ジャンク品で
あれば500円~2000円という相場で、どれも安価だし
そもそも値段が高い方が常に高描写力である保証も無い
ので、詳細は個別に買って試してみるしかない。

結局私も、TOKINAのジャンク(望遠)ズームは、都合
10本(機種)程購入しているのだが、やはり「個々の
機種で性能のバラツキが多い」という印象だ。

これについても上記の商品企画(設計)コンセプトの
差異の他、1980年代商品については、どうも設計者の
設計技能(技術、経験等のスキル)の差異があるように
感じてしまう。

恐らくは、当時はコンピューター光路設計技法は未発達
の時代であったから、設計者は、極めて多数の光路を
レンズ入射角と波長毎に、三角関数を用いて「スネルの
法則」を元に屈折率を計算して求めて、その線を引く、
そしてレンズを1枚追加するたびに、その計算と試行錯誤
を延々と繰り返す必要がある(汗)

こんな非常に面倒な仕事であれば、設計技術者毎での
設計技能の差異、つまり性能差が出ても、やむを得ないと
思われる。
_c0032138_07134207.jpg
まあ、そのあたりの設計の事情はどうでも良い・・
肝心な事は、本EMZ130AFが、どのような特性を持ち、
長所はそれを生かし、弱点があれば、それを認識して
回避手法を考察し、その回避を実践する事だ。

それらの措置が容易であれば「使い易いレンズ」となり
難しければ「使いこなしが困難なレンズ」となる。

なお、このあたりの「弱点の分析とその回避」は、
相当な高難易度の措置となり、まずは上級者以上で無いと
不可能だと思うし、現代の高性能な機材ばかり使っている、
上級者層や、職業写真家層、専門評論家層でも、まず、
それは無理だ。
実践派上級マニア層のみができる措置であるとも言える。

本レンズの弱点であるが、
第一に開放F値の暗さであろう、開放F5.6-6.7は、
やはり相当に暗いと思う。
今回母艦としているα65は、一応手ブレ補正内蔵では
あるが、1/3段露出設定はF6.7の値が無く、ズームを
望遠側にすると、少し上のF7.1が表示される。
「え? F7.1かよ、暗いなあ~」と、その表示を見て
シャッター速度やISO感度の確認や調整が毎回のように
発生する。
あらゆるケースで、手持ちほぼ100%の撮影スタイルが
信条で、それを続けていると、F値表示に7や8の数値が
出てくると、「手ブレがヤバい」という警戒心が働いて
しまう訳だ。

よって、銀塩時代の望遠ズームの殆どにある課題の
「望遠側にズーミングすると解像感が低下する」と
あいまって、本能的にズームを広角端に若干引いて、
F値表示が、F6.3やF5.6に低下する状況を見ると
「ほっ」と一安心する次第である、これの繰り返しだ。

ただまあ、本レンズに関して言えば、望遠端での解像感
の低下はあまり感じられない。そういえば1990年代の
AF望遠ズームの一部では(それが普及版であっても)
望遠端画質が改善さえている例も、いくつか知っている。
本レンズもその類であろう、つまり、この時代において
「望遠ズームの望遠端の解像力は改善されつつある」
という技術水準の変遷が良く見てとれる結果となった。
_c0032138_07134228.jpg
しかしながら、解像感はともかく、ボケ質破綻が
結構出るレンズである、これは単焦点よりもズーム
の方が状況の把握やその回避措置が困難であり、現状
では、本レンズでは、その回避にまでは至っていない。
(複雑な発生条件を分析しきれていない)

単純な回避策として、本記事での掲載写真では、
「出来るだけ平面被写体に特化する」という方策を
用いている。 
このレンズの特性であれば、この撮影技法が適正で
あるようにも予想している、事実、こうした撮り方では
本レンズの弱点は、あまり気にならず、むしろ「シャープ
で良く写る」ようにも感じる次第だ。

なお、こういう設計コンセプトや特性のレンズの場合、
像面湾曲収差、非点収差、歪曲収差等の補正への配慮が
少ないという可能性を抱えているのだが、それらについて
簡単な回避手段として「フルサイズ機では無く、APS-C機
を用いる」という方法がある。これは画角を狭めて、周辺
収差を消す(画角の広さに依存する収差を目立たなくする)
という方法論であり、当然、今回もそうしている。

「いつでもフルサイズ機の方が良く写る」というのは、
主に初級中級者層の持つ大きな誤解であり、レンズの特性に
よっては、正反対で、APS-C機やμ4/3機の方が画面全体
の平均画質に優れる、というケースが多々ある訳だ。

----
では、今回ラストのシステム
_c0032138_07134851.jpg
レンズは、YONGNUO YN 85mm/f1.8
(中古購入価格 14,000円)(以下、YN85/1.8)
カメラは、CANON EOS 8000D(APS-C機)

2017~2018年頃(?)に、発売された、中国製の
単焦点AF小口径中望遠レンズ。
_c0032138_07134843.jpg
これでYONGNUO(ヨンヌオ)のレンズは、4本目の購入
であり、紹介順にYN50/1.8(EOS)、YN35/2N(NIKON)、
YN100/2N(NIKON)、YN85/1.8(EOS)となっている。

まだYONGNUO製のレンズは、1~2本未購入品が
残っているとは思われるのだが、研究用としては、
そろそろ十分だ、とも思っている。

何を研究しているのか? と言えば、これらの
レンズの「出自」である。

これらはCANON製の1990年代AFレンズ(EFマウント)
と同じスペック、同じ外観、同じ光学系である。

「何故、そのように全く同じ製品が作れるのか?」
それを研究(分析)している訳だ。

で、CANON製の銀塩AFレンズとの差異は以下の通りだ。

1)絞り羽根の枚数が異なる場合がある。
2)銀塩時代のCANONではUSM(超音波モーター)仕様
 であったレンズでも、YONGNUO製ではDCモーター
 仕様である。
3)このDCモーター搭載により、NIKON(F)マウント版の
 レンズも作れる模様だ、その場合、NIKON低価格帯機
(例:D3000系/D5000系)であっても、AFが動作する。
 ただしこの場合、MF時のピントリング回転方向きと
 距離指標の回転方向きが逆になり、気持ち悪い。

いずれもレンズ構成(光学系)はCANON版と同様である。
(多分、全く同じであろう)
また、電子部品(CPUおよびROM等)を内蔵しているので
電子接点を介してレンズ情報を、CANONおよびNIKONの
プロトコルに応じて交換でき、絞り制御や、EXIFへの
反映が可能だ。(注:電子アダプター使用時等では
プロトコルの僅かな差異により、正しく動作しない
ケースが存在する)

で、偽札や偽美術品を作るのとは異なり、光学系設計
や電子部品とその通信プロトコル等は、製品を外から
見ただけでは、決してコピーする事が出来ない。
だから、これらのYONGNUO製レンズはCANONレンズの、
仕様書、設計図等の詳細、およびレンズ部品そのもの、
電子部品そのもの、製造設備、評価設備等が存在して
いないと、コピーは無理である。

だから、ダークな裏事情としては、CANONにおける、
それらの設計仕様関連資料と、一部の使用部品が
なんらかの事情等により、そのままYONGUOに流れて
これらのコピーレンズが製造されたと推測できる。

最も簡単な推測は、CANONの「元」海外工場であった、
というケースだ。
何故「元」なのかは不明だが、恐らくは1990年代の
ように沢山レンズが売れる世情では無くなっているので
海外での大量生産のメリットが、もう無いのであろう。

2015年には、それまで25年間も製造を続けた
CANON EF50/1.8Ⅱ(YONGNUO YN50/1.8と同一製品)
を生産完了として、CANON EF50/1.8STMにリニューアル
されている、STM(ステッピングモーター)を付加価値
とした訳だ。STM部品は国内生産の可能性も考えられるが
近年では小型STM本体は中国製がとても多い世情もあり、
ここはなんとも言えない。

で、USM(超音波モーター)、STM駆動機構、絞り部品、
等は何らかの事情で中国では調達が出来ず(つまり、
それらの高度技術部品は、国内生産として、中国等の
海外では容易に追従やコピーができないようにした)
よって、中国製のDC(直流)モーターで代用、また
絞り部品も中国(深セン地区)で製造したのであろう。

現代の”深セン”には、光学機器メーカーが多数集結
していて、2010年代後半頃から日本に多数輸入されて
いる安価なレンズ群は、殆どが”深セン”地区で製造
されたものである。そして、それらの品質は悪く無く、
むしろ、一部の国産レンズよりも品質や高級感は
上回る程である。
_c0032138_07134821.jpg
さて、ここまでが研究成果であり、これらから
わかる事と注意点であるが。
A)YONGNUOとCANON EFレンズは、光学的には同一の
 ものであり、よって写りも基本的に同じである。
B)ただし、機種によっては、絞り羽根枚数の違いにより、
 ボケ形状が異なるケースがある。
C)YONGNUO製品には、超音波モーター等は搭載されて
 おらず、機種によってはEF版レンズよりも、AFの
 速度と精度に劣る場合がある。
D)機種および、母艦となるカメラ、あるいは電子
 マウントアダプターとの組み合わせによっては、
 カメラ・レンズ間通信プロトコルでのID/ヘッダー
 部分(?)の差異により、他社製レンズと認識され、
 カメラ側の排他的仕様が強い場合では、露出値等
 での安定性が損なわれたり、収差補正等の付加機能
 が効かないケースがある。(一部は実験済み)
E)いずれにしてもYONGNUOとCANON EFレンズの
 仕様・性能的な差異は微小なレベルに留まっていて、
 実用的な差は殆ど感じられない。

F)機種によっては、EF純正版の中古価格よりも
 YONGNUO製の新品の方が安価なケースもあり、
 さらにはYONGNUOレンズの中古が流通している場合
 には、EF純正レンズ(の中古)よりも圧倒的に安価
 であるので、極めてコスパに優れるレンズとなる。

以上である。
_c0032138_07134837.jpg
まあつまり、YONGNUOレンズの中古が入手できるので
あれば、EF純正レンズと比較して、写りは同等で、
コスパは圧倒的に良い。

ただし、EFレンズとは言え、1990年代ではレガシー
(オーソドックス)な設計技法で作られているので、
収差補正等が完璧には行き届いておらず、弱点を
持つ場合が多々ある。
(つまり、これらは、古い時代のセミオールドレンズ
であるからだ)
また、オリジナルレンズがどうだったかは知らないが
本レンズに関しては、逆光耐性が低い。
(注:コーティングの差異か??)

よって、その弱点を良く分析・理解し、それを回避
する措置を行わなければ、これらのレンズはYONGNUO
であろうが、CANON EF純正であろうが、良く写らない。

初級中級層では、その弱点回避措置が出来ない為、
「中華レンズだ、良く写る筈が無い」という思い込み
またはスキル不足による評価しか出来なくなってしまう。
まあ逆に、そういう評価が見られたら「ビギナー層だ」
という事になり、その評価内容は信用に値しない。

どんなレンズであっても、その弱点を回避して使うのは
ユーザーの責務である。

参考関連記事:
レンズマニアックスプラス「海外レンズマニアックス」編
第2回「YONGNUOマニアックス」

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さて、今回の第59回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。

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