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価格別レンズ選手権(8)2万円級レンズ

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本シリーズでは写真用交換レンズ(稀に例外あり)を
価格帯別に数本づつ紹介し、記事の最後にBest Buy
(=最も購入に値するレンズ)を決めている。
今回は、2万円級編とする。
(ちなみに、本ブログでの購入価格等の表示は全て
税込みである。→時代により税率が異なる事が所以)

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では早速2万円級レンズ6本の対戦を開始する。
まずは、最初のエントリー(参戦)。
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レンズは、SP AF60mm/f2 DiⅡ LD [IF] MACRO 1:1
(Model G005)
(中古購入価格 20,000円)(実用価値 約20,000円)
カメラは、SONY α65(APS-C機)

2009年に発売された、APS-C機専用、中望遠画角
大口径AF等倍マクロレンズ。

開放F2級の大口径マクロレンズは、銀塩時代から
OLYMPUS等の製品で、そしてデジタル時代においても
COSINA(Zeiss)等の製品で、それぞれ数機種存在
しているが、いずれも最大撮影倍率が1/2倍であり、
開放F2で等倍マクロは、本レンズが初であり、かつ
唯一であったと記憶している。
_c0032138_20305474.jpg
さて、本記事は2万円級レンズの対戦記事であるが
レンズの中古購入で2万円の予算があれば、かなり
選択肢が広がり、中堅クラスの高性能なレンズを
色々と選ぶ事が出来る。
私が所有する多数のレンズにおいても、恐らくは
このあたりの価格帯のものが中心(平均値)に
なっている事であろう。

逆に言えば、1本の交換レンズを中古購入するのに
ざっと2万円程度の予算を持っておけば、一般的な
レンズ(単焦点、ズーム、マクロ、特殊レンズ等)
であれば金額的には足りる、という事となる。

(注:ここでの話は、概ね2010年代末頃迄での見解だ。
中古レンズ市場の縮退等を受け、2020年後半頃より、
レンズ(カメラも)の中古相場が少しづつ高騰している。
今のところ顕著では無いし、コロナ禍の影響もあるかも
知れない。だが、このままカメラ・レンズ市場の縮退
が続くならば、数年後には、新機種の中古品の相場は、
新品との価格差が殆ど無くなってしまう可能性も高い)

で、これらによるシステムの具体例を挙げれば、例えば
入門初級層において、真面目に写真をやりたいので、
一眼レフ(の実用システム)を購入したいとする。
その際に、機材購入予算が10万円あれば・・

*デジタル一眼レフ(APS-C機)本体 中古2万円
(数年前の初級機等であれば、この予算で十分だ。
 後年に上達してカメラの性能が物足りなくなれば、
 その時点で買い増せば良い。そもそもビギナー層
 の場合は、高級機での、高機能や高性能を良く
 理解できず、それを使いこなす事も出来ない)

*交換レンズ 中古2万円x 4本 =計8万円
 例:大口径単焦点 x1、マクロ x1 、
   高倍率標準ズーム x1、特殊レンズ x1
   
という風な価格配分で(中古)購入するならば、
持論としている「カメラ対レンズ 1対4の法則」
(匠の写真用語辞典第16回記事参照)を満たす事が
出来、ほぼ理想的な予算配分となる。

ところが、一般的エントリー(入門)層であると、
普通は量販店等に行き、店員の勧めるままに、
*デジタル一眼レフ普及機+ダブルズームキット
または、
*デジタル一眼レフ初級機+高倍率ズームキット
のいずれかを新品で10万円程度の予算で買って
しまう訳である。

だが、これでは完全に「消費者の負け」である。
それらのカメラもレンズも、中古市場においては、
ほんの数年で、二束三文の価値相場にまで下落する。
それは「価値が下がる」のではなく、もともと
それ位の実用価値しか持っていない機材なのだ。

まあ、一部のエントリーユーザーでは、店員の
勧める機材が、相当に安っぽい(見るからに価値や
性能が低そう)である事に気づくであろう。
で、そうなると「もう少し予算を出しても良いから、
もうちょっと高級な(本格的な)機材が欲しい」
と思うかも知れない。

だが、そうやって考えてしまうと、どんどんと上位の
機種に目移りしてしまう。自身には不要な迄の高性能
が搭載された、高付加価値型カメラの購入に誘導され
それはまあ、例えば20万円台以上の価格帯だ。

だが、これでもダメだ。まず、カメラ価格が2倍程度に
まで上がったとしても、カメラ自身の「写真を撮る
道具」としての性能比は、ほんの少し向上するだけ
である。しかもその高性能はビギナーには使いこなす
事ができないので、購入者にとってのコスパは最悪だ。
それに高級機であっても同様に中古相場の下落は大きい。

また、レンズの方もダメだ、そういう高級キットに
おいても、付属レンズの描写性能や表現力性能等の
実用価値は、低価格帯システムでのキットレンズの
2倍もは優れていない、ここもやはり、ほんの少しだけ
性能(描写表現力)が向上するだけであろう。

だから、結局、どのセットを買っても、ユーザー側
としては、コスパの悪いものを掴まされてしまう。

ここで改めて、前述の推奨セットを思い起こして
もらいたい。
初級~中級一眼レフ、高倍率ズーム、大口径単焦点、
マクロレンズ、特殊レンズ(魚眼やティルトレンズ等)
の全てが、まとめて入手できて、値段は10万円だ。

で、そこから先、どのレンズが必要なのだろうか?
このまま中級層から上級層に至るまで、機材を追加
購入する必要性は、殆ど無いのではなかろうか?

こういう実践的・実用的な賢い買い物ができるならば
余分な機材予算を投資する事は回避できる訳だ。
でも、それが出来るエントリー(入門)層が皆無と
いうのは、いったい、どういう訳なのであろうか?
周囲の人達(中級層やマニア層)は、そういう買い方
のアドバイスをしないのであろうか?

いや、もしかすると中級層くらいであっても、今時
の状況では、リーズナブルでコスパの良いレンズが
どれであるかを全く知らず、単に市場での評判に
踊らされて、大三元ズームとか、あるいは、Lだの
SPだの、ARTだのPROだの・・ と、いかにも高性能を
表すような称号のついている高額レンズを買えば良い、
と思っているのではなかろうか? 別にそれらのレンズ
が低性能だとは思わないが、高価すぎることは確かだ。
つまり中級層等であっても、依然、交換レンズの選び方
のノウハウを持っていない状態なのではなかろうか?
_c0032138_20305432.jpg
さて、余談はさておき、本SP60/2の総括であるが。
基本的には高い描写力を持つマクロレンズである。
ただし、解像感が相当に強めであり、輪郭強調した
ような雰囲気すら感じられる。

この特性は意図的なものであろう。近代のマクロでは
他社においても、同様に輪郭描写を強めた特性のもの
(=カリカリマクロ)が稀に存在する。しかし、その
特性は、どちかと言えば「ビギナー層向け」であろう。
まあつまり、被写体「だけ」が、くっきりはっきりと
写っていれば、ビギナー層においては喜ぶからだ。

上級層やマニア層からしてみれば、マクロレンズの
被写体汎用性を高めるのであれば、もっとボケ質まで
含めて配慮してもらい、シャープさは、さほど強く無い
方が望ましい。
例えば、アフターレタッチ(画像編集)を掛ける際
においても、被写体の特定部分をシャープにする事は
可能だが、逆に、背景ボケ全般を柔らかく(良質に)
する事は、まず無理であるからだ。

マクロの事、そのユーザーの事を最も良くわかっている
筈のTAMRONとしては、本レンズは珍しい特性と言える
であろう。普通、「マクロのTAMRON」というブランド力
があるならば、こうした極端な特性は「両刃の剣」だ。
(ビギナー層が喜んでも、長年のTAMRONマクロの愛好家
層からは、評判を落としてしまう危険性がある)

・・まあでも、マニア的には、たとえどんな特性で
あっても、それが明白で個性的であれば、何ら問題は
無い、その特性に合わせて被写体を選ぶからである。
つまり、レンズの特性に合わない被写体まで無理に
撮る必要は無いし、逆にその被写体をどう撮りたいか
により、レンズを選べば良いだけの話である。

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では、次のシステム。
_c0032138_20305430.jpg
レンズは、mEiKE (MK85F18EFAF) MK-85mm/f1.8
(Canon EOS AF)
(新品購入価格 23,000円)(実用価値 約17,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)

2018年後半(?)~2019年初頭(?)頃に発売された、
中国製のCANON EFマウント専用のAF中望遠レンズ。

レンズに記載されているロゴマークは「mEiKE」と大文字
小文字が混じったデザインだが、以下は「Meike」と書く。
_c0032138_20310858.jpg
本レンズは、悪く無いレンズである。
過去記事、「最強85mm選手権」ではB決勝戦に進み
第6位にランクインしている。決勝進出レンズが5本
あった為、つまり本レンズは、全85mm(相当)の
所有レンズ中、総合第11位という高ポジションだ。

解像感、ボケ質、ボケ量といった描写表現力には
殆ど問題が無いレンズだが、弱点としては、AF精度、
それからAF/MFのシームレスな移行が出来ない事だ。
(注:ここは少々ややこしい、基本的にはAF/MFの
切換スイッチを操作する必要があるが、裏技で
強制MFが出来る。ただし、その際では、フォーカス
エイドが最初のAF合焦状態で停止し、MFにした際
の補助(アシスト)にはならない、という仕様だ)

AF/MFをちゃんと使える技能、およびそれが
可能な適切な機体で使うしか無い状態であろう。
(参考:本レンズは、CANON EF機専用である為、
EOS高級機で、スクリーン交換が可能な機体で、
かつ[-S]型の、MF用スクリーンに自力換装した
機体を使わないと厳しいと思う)
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なお、今回(や他の紹介記事)では、EOS 8000D
という初級機を、本MK85/1.8の母艦としているが
本来この組み合わせは、あまり効率的とは言えない
(この機体のファインダー性能ではMFがほぼ不可能)
のであるが、別の持論や検証(「オフサイドの法則」、
および「限界性能テスト」)の為の組み合わせだ。
本レンズを少しでも快適に使用しようとするならば
機体に関しては、慎重に選択しなければならない。

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では、3本目のシステム。
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ユニットは、RICOH GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO
(中古購入価格 24,000円)(実用価値 約20,000円)
カメラは、RICOH GXR (中古購入価格:14,000円相当)

2009年発売のGXR専用APS-C型標準画角、1/2倍AF
マクロユニット。

本シリーズでは、母艦となるカメラは2010年以降
すなわち「仕様老朽化寿命」が来ていない機体を
用いるルールとしているが、このケースのみ例外だ。

まあつまり、「周囲の機体に対して、物足りない性能
の母艦であれば、レンズの正当な評価は難しい」
というルール(持論)なのだが、本ユニットに関しては、
初代GXR(2009年)よりも新しい母艦が存在せず、
その時代の技術レベルで性能が凍結されてしまったので
「本ユニットの高描写力が活かせない」という不運な
システムである。

具体的には、本ユニットに関しては、AF/MFの
いずれにおいても、実用的な性能が得られていない。
この課題は「技能」による回避の手段が殆ど(全く)
存在しない為、毎回使うたびに「合わないピントに
イライラとしながら撮影する羽目になる」という
状況だ。(=「エンジョイ度」評価点が低くなる)

一般的には「我慢の限界を超える」状況であるから、
本ユニット、あるいはGXRシステムを現代において
使用する事は完全非推奨だ。

ただし、万が一(汗)、ピントが合った際での
本A12 50/2.5 MACROユニットの描写表現力は
只者ではなく、一眼レフ用のトップクラスのマクロ
レンズと同等である。
_c0032138_20310931.jpg
マニア的感覚からすれば、この特徴があるならば
多少の不便を我慢しても使う気にはなるユニットだ。

別の例えをするならば、「たまにホームランを打つ
強打者だが、普段は三振や凡退の山を築いている。
でも、そのホームランの魅力があるので、二軍に
落とさずに使い続けている」という感じであろう。

そういう野球ファン(野球監督)のような意識を
持つ層(一部のマニア層か?)においては、
本GXR+A12 50/2.5MACROは、かろうじて推奨
できるシステムとなる。


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では、4本目のシステム。
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レンズは、CONTAX Planar T* 50mm/f1.4(Y/Cマウント)
(中古購入価格 19,000円)(実用価値 約12,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1975年に(ヤシカ)CONTAX RTS(銀塩一眼第5回記事)
の登場に合わせて発売された大口径MF標準レンズ。

現代においては既にオールドレンズと言える状況
であるが、本レンズの歴史的価値は極めて高い。
_c0032138_20311715.jpg
銀塩時代のMF一眼レフは、50mm標準レンズ
(大口径版、小口径版)をセット(キット)して
販売される慣習であった。その際50mm標準の性能
が低いと「XX社のカメラは写りが悪い」という
悪評判が立って、営業的にまずい事となる。

その為、各社は、まず50mm標準レンズの性能改良を
優先的に1960年代ごろからずっと進めている状況
であった。
1970年代頃には、小口径(F1.7~F2)50mm標準の方は、
5群6枚変形ダブルガウス構成で、各社ほぼ横並びの
性能に達した、つまり「ほぼ完成の域に近づいた」
という事である。

しかし、1970年代前半頃の大口径(F1.4級)標準は、
まだメーカー間で若干の性能(描写力)の差があった
事は確かであるし、その光学系(レンズ構成)も、
メーカー間で僅かに異なる事も多々あった

ちなみに、これらの事実は、ほとんど世の中には情報
や、そうした評価が存在していない。では何故それが
わかるか? と言えば、私はこの時代のMF標準レンズ
を各社・各時代のものを非常に多数(ほぼ網羅する位)
所有していて、それらを徹底的に撮り比べ、それを
何十年も続けているからだ。それらの「研究」により
各時代の各社の標準レンズの性能と、その変遷の歴史は、
だいたい把握が出来ている。
(参考過去記事:「最強50mm選手権」シリーズ。
全17記事、約80本の50mm(級)レンズを紹介対戦)

さて、それが1970年代前半頃までの世情であったが
本Planar 50/1.4が、1975年に非常に完成度の高い
6群7枚変形ダブルガウス型構成で登場すると、
世間は、その性能の高さを賞賛した。

まあ実際、発売時点では確かに他社の性能を、僅かに
リードしていたとは思われる(私も、そう分析している)
下世話に「カール・ツァイスだから凄い」と言う話では
なかった訳だ(注:実際には「富岡光学」製と思われる)

しかし、他社も黙ってはいない。本レンズの構成や
特徴を、他社も徹底的に解析し、本レンズと同等か
それ以上の性能を目指し、標準レンズの改良が進む。

その結果として、1980年代前半頃には、また各社の
大口径(F1.4級)標準レンズの性能は横並びとなる。
6群7枚構成は、デファクト・スタンダードとなり、
これを「プラナー型(構成)」と呼ぶようにもなった。

まあ、だから、本レンズは他社標準レンズの高性能化
への牽引となった事から、歴史的価値が高い状態と
言える訳だ。

ちなみに、「評判が良かった」という事だが、必ずしも
そのまま話を鵜呑みにするのは要注意だ。まず後年の感覚
からすると、本RTS Planar (T*) 50/1.4は、他社標準
と同等の性能で、少しだけ早く発売されたに過ぎないが、
それでも、他社標準より定価や中古相場がずっと高価だ。
(追記:ごく近年、このレンズは残念ながら「投機対象」
となってしまい、10万円を超える不条理な高額中古相場の
物も見かける→何故、そんな事になってしまったのだろう?)

また、本レンズが(西)独製造であった事も、当時の
「本質をあまり理解していない」マニア層や評論家層に
より、「本場ドイツ製の高級レンズだ」と、本レンズの
評価を高めた理由(原因)となっているのであろう。 

西独での製造は、簡単に言えば2つの要因があると思う、

1)CONTAX製品が日本国製造に変わった、という件は、
 全世界のユーザー層にとって「はい、そうですか」
 と、簡単に納得できるものでは無い。
 CONTAXは、あくまでドイツのビッグブランドなのだ。

2)CONTAXが日本に移管した直後においては、これまで
 あった西独の同社関連設備(工場等)や労働者等を
 簡単に廃止や解雇をする訳にはいかない。
 しばらくの間は、まだレンズの製造を続けていかないと
 急激な移管は、色々と社会的な影響が大きい。

まあ、そんな事で、発売当時は、様々な事情や世情に
より、本レンズが「過大に評価されてしまった」という
事も否めない。よって、後年においても(一部は現代
に至るまで)「CONTAXのプラナーは良く写る」
という「神話」や「神格化」が、初級マニア層等の
間で根付いてしまっている訳だ。
実際には、1980年前後の各社MFレンズと同等性能で
あり、「本レンズでなくてはならない」という理由は
殆ど存在しない。

・・さて、でも、ちょうどこの時代に完成度の高い
本レンズが発売され、他社標準レンズにも良い影響を
与えた事は、交換レンズの歴史上、様々な功罪がある。

まず功績であるが、本レンズの発売から丁度10年後、
各社の一眼レフ用大口径標準レンズの性能が横並び
になった頃、その時、一眼レフには「AF化」の荒波が
押し寄せた。(いわゆる「αショック」、1985年)

この時代、各社の大口径標準レンズは、一応完成の域
の性能に達していた為、各社は、カメラボディのAF化
に集中でき、標準レンズは(面倒な光学系設計変更を
施す事を無く)同一光学系のままで、AF機構を追加
するだけの変更で済んだ。これは同時期に様々な
同時開発作業で負荷が掛りすぎずに、良い結果で
あった事であろう。

完成度の高いAF大口径標準レンズは、そのまま
1990年代のAF一眼レフ時代を、ほぼ無改良で乗り切り、
さらに、2000年代のデジタル一眼レフ時代に至る迄、
1980年頃の光学系設計のまま、何十年も発売が
継続されていた。・・だって、ほとんど完成の域に
達していたレンズだから、それ以上は改良する必要も
無かった訳だし、おまけにAF化やデジタル化という
忙しい時期に、標準レンズの改良などやっていられない。

開発余力のある一部のメーカーでは、AF化と同時に
レンズの「ズーム化」も始めた。
勿論、1980年代以前もMFズームレンズは存在したが、
単焦点レンズに比べて基本性能が低く、上級層や
職業写真家層には、とても不評であったのだ。
単焦点にも匹敵するAF高性能ズームを開発すれば、
新しい商品分野なので、高価に売れる。

こうして1990年代には、CANONやNIKONにおいては
高性能ズームレンズの開発競争が始まる。
単焦点はなんだか「時代遅れ」という風潮も出てきた
為、ますます各社は、標準レンズなどの単焦点の
改善は無頓着(開発優先度がとても低い)となった。

カメラメーカーは新規高性能ズームレンズを開発費の
償却の為に高価に販売する。すると低価格帯商品が
「空洞化」するから、そこを狙ってレンズメーカーが
低価格化ズームの開発販売を始める、こうして
1990年代は「ズーム全盛期」となった訳だ。
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これらの歴史を作ったのが(引き金となったのが)、
本Planar50/1.4であった、とも言えよう。
ただ、それは良い事(歴史)だったのだろうか?
「完成度の高い標準レンズ」を良い事に、実に
標準レンズの改良は、1980年頃~2010年頃まで、
約35年~40年間も「凍結」されてしまっていた。

これを破ったのは、例えば、2014年発売の
「SIGMA 50mm/F1.4 DG HSM ART」であろうか?
(特殊レンズ第12回SIGMA ARTLINE編等参照)
あるいは、NIKON AF-S 58mm/F1.4G (2013年)も
そういうブレークスルー的商品だったかも知れない。

これまでの「変形ダブルガウス、いわゆるプラナー型」
という呪縛から逃れ、10数群10数枚という複雑で
近代的設計の「新世代標準」は、「高価に売れる」
という事で、縮退した(売れない)レンズ市場に投入
する「カンフル剤」として、同様のコンセプトの
新標準レンズが、その後各社から発売される事となる。

これは良い事かも知れないが、旧来の標準レンズの
価格帯の約3~5万円は、新型標準では15万円~25万円
程度と、5倍から8倍もの高価格に値上げされた。
(注:高く売りたかったから、そういう商品を開発した)

それから、40年間という期間は、あまりに長かった。
ユーザー側から見ると「新しい設計の標準レンズが
いつまでも発売されず、待ちくたびれてしまった」という
状況でもあったが、「よくもまあ、RTS Planar 50/1.4
の性能で、そこまで長期間持ち堪えたものだ」とも
言えるであろう。まあ、それが本レンズの功罪である。

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では、次のシステム。
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レンズは、HD PENTAX-DA 35mm/f2.8 Macro Limited
(中古購入価格 26,000円)(実用価値 約18,000円)
カメラは、PENTAX K-30 (APS-C機)

2013年に発売された、HDコーテイング採用のDA型
(APS-C専用)標準画角AF等倍マクロレンズ。
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過去記事での何度かの紹介時と同じ内容になりそう
なので、本レンズは、さらりと紹介しておこう。

<長所>
*高描写表現力、バランスの取れた描写傾向。
*高品質なLimited仕上げ。
*小型軽量の等倍マクロ。
*MF性能にも手を抜いていない。
*さほど高価ではなく、コスパが良い。

<短所>
*近接撮影時、AF精度が足りない(MFで回避可能)
*APS-C機専用な為、ビギナー層に不評。
(これは勿論無意味な理由であるから、中上級層は
 そんな事は気にせず、不人気で安価となった
 本レンズを買えばコスパに優れる)

という感じだ。
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APS-C機専用という点を弱点と思わないのであれば、
誰にでも推奨できる優秀なマクロレンズである。


まあ、PENTAX一眼レフ機はK-1系列を除き、全てが
APS-C機であるから(注:特殊なQシリーズを除く)
APS-C機専用というスペックを気にするユーザーは
まず居ないとは思うが・・
(注:いや、むしろ他社が「フルサイズ機でないと
ダメなのです!」という、過剰なアピールを行うから
そうした「情報戦」「心理戦」に反発する、敏感で
良くわかっているユーザー層が、PENTAX機や
μ4/3機を好む世情なのかも知れない)


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では、今回ラストのシステム。
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レンズは、SIGMA 24mm/f1.8 EX DG ASPHERICAL MACRO
(新品購入価格 38,000円)(実用価値 約18,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

2001年に発売された、銀塩35mm判・デジタル兼用の
AF大口径広角単焦点、準マクロレンズ。

発売当時は、私は「SIGMA 広角3兄弟」と呼んでいた
シリーズの内の1本で、中核的な役割を担っている。
当該シリーズ全3本については、別記事
「特殊レンズ第52回SIGMA 広角3兄弟編」を参照
されたし。
_c0032138_20312447.jpg
元々の開発コンセプトは、当時、デジタル一眼レフ
の普及が始まりかけた世情であったのだが、
各社デジタル一眼レフは(AF化の時のように)
マウントの変更は愚策と見て、銀塩AF時代のマウント
(NIKON AiAF、CANON EF、MINOLTA α、PENTAX Kaf)
を、そのまま踏襲しようとしていた。

だが、最初期のデジタル一眼レフは業務用途機の
CANON EOS-1Dsシリーズを除き、全てAPS-C型機だ。
(注:勿論、4/3機やCONTAX N Digitalは例外とする。
ここでは銀塩マウントとの互換性があるという視点だ)

よって、銀塩時代に用いていた広角レンズは、
28mm→42mm相当、24mm→36mm相当、となって、
広角画角が足りない(不満となる)、なおこれは
単焦点でもズームレンズでも同様だ。

しかし、2001年当時では、まだ「APS-C機専用」の
レンズを発売する訳にはいかない。デジタル一眼レフが
一般ユーザー層に行き渡るのは、後年2004年からだ。
(過去シリーズ:デジタル一眼レフ・クラッシックス参照)

なので、SIGMAでは「銀塩機では超広角、デジタル機
では準広角となる単焦点レンズ群」の企画開発販売を
この時代に行った。
しかし、単なる単焦点では、ズーム全盛のこの時代に
インパクトは無い。だから、これらのレンズには、
「開放F1.8という、これまでの広角には無い大口径」
「最短撮影距離が20cm以下と広角では前例の無い近接性能」
を与えた。

私は、これらの「付加価値」にハマってしまった。
大口径広角で近接が出来るならば、この銀塩時代の末期
において、過去のシステムでは絶対に実現できなかった
「背景を広く取り込みながらボカす」という、
「広角マクロ」技法が実現できるでは無いか・・

私は、即時、20mm/F1.8と、24mm/F1.8の2本を新品
購入した。残る28mm/F1.8は、デジタルでは42mmの
準標準画角となる為、あまり興味が持てず、それを
入手したのは、15年以上も過ぎた2010年代後半の
事である(→単なる、シリーズ製品のコンプリートと
歴史的価値の研究用の為の購入だ。実用的意味は無い)

で、銀塩での「超広角マクロ撮影」は、それまで見た
事も無かった映像を生み出し、その頃には夢中になった。

ただ・・ 逆光耐性の低いレンズ群であったので、
広い情景を入れると、たいてい、太陽光の影響で
ゴーストやフレアが発生する。なかなか使い難い
レンズであったし、肝心のボケ質も、ちょっと変わって
いて(プラナー系中望遠とかSTFのようには綺麗に
ボケてくれない)だんだんと不満が溜まっていく。

2005年頃には、私も各社の銀塩一眼レフをデジタル
一眼レフに置き換え、デジタル化が完了した。
すると、これらの「SIGMA広角3兄弟」は、撮影倍率
こそAPS-C機で向上したが、画角が30~38mmと
狭くなって、「広角マクロ」としての目的に向かなく
なってしまった。

おりしも2005年にはRICOHよりGR Digital(初期型)
が登場、これは28mm相当の広角画角であり、かつ
レンズ前1.5cm程度まで寄る事が出来る驚異の近接
性能であった。最短20cm弱というSIGMA広角3兄弟
では太刀打ちする事が出来ず、私は広角マクロ機
としては、その後、GRDの方を主力とする事になる。
わずかに4年間だけが「SIGMA広角3兄弟」の天下で
あった訳だ。

まあ、そんな状況なのだが、それでも現代に至る
まで、SIGMA広角3兄弟の「大口径+近接性能」という
特徴は他にあまり類を見ない。
よって、冷静に考えると、このシリーズは悪く無い
性能だ。銀塩時代に気になった「逆光耐性の低さ」は、
デジタル時代に入って撮影コストが下がった事から、
「他のレンズとか、他人では創れない独自表現」
(つまり「差別化」)を得る為に、意図的にゴーストを
発生させる、などの特殊撮影技法・撮影表現を、ずっと
練習を続けていた。まあつまり「デジタルでは何でも
あり」な訳だから、「ゴーストが出るからダメレンズだ」
という銀塩時代の感覚は、まるで正反対になってしまった
訳であり、つまり「欠点が逆に特徴になった」という
次第なのだ。

近年、また、この「SIGMA広角3兄弟」は、個人的に
お気に入りのレンズになりつつある。
まあ、2010年代後半からは、SIGMA のART LINEに
おいて、20mm、24mm、28mmのF1.4大口径レンズ
群が発売されている。でも、個人的にはART LINEは

嫌いでは無いものの、40mm以上の標準~中望遠
のレンズの購入を優先し、広角のART LINEはまだ
購入していない。何故ならば、ART LINEの広角は
開放F値が半段明るいが、近接性能が犠牲に
なっていて「SIGMA広角3兄弟」ほどには寄れない
からである。勿論描写力は15年以上の時を隔て、
ART LINEの圧勝であろうが、例えば「ゴーストが出る」
からと言って悪いレンズとは思えなくなっている事は
前述の通りである。
_c0032138_20313421.jpg
まあ、いずれART LINE広角を追加購入するとしても、
「SIGMA広角3兄弟」の代替にはならず、ずっと併用
する事になるだろう。
「SIGMA広角3兄弟」はそういう類の、特異なレンズ群
であり、その中でも本EX24/1.8は、そのコンセプトを
代表するレンズと言えよう。
このレンズの「立ち位置」が、ちゃんと理解できる
マニア層に対しては推奨できるレンズだ。

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では、最後に各選出レンズの評価点を記載する。
(レンズ名は省略表記とする)


1)SP60/2 =4.0点
2)MK85/1.8=3.7点
3)A50/2.5 =3.7点→非推奨
4)P50/1.4 =3.5点
5)HD35/2.8=3.7点
6)EX24/1.8=3.6点

今回の2万円級対戦においては、「Best Buy」は
「TAMRON SP 60mm/f2(Model G005)」を暫定優勝
としておく。
高描写力で低価格なので、コスパはとても良い。
ただまあ、現代においてはAPS-C機専用レンズという
事から、ビギナー層へのウケは悪いかも知れない。
でも、不人気だからこそ、低廉な中古相場となって
いる訳だから、レンズの本質がわかっているマニア層
や中上級層には、十分に推奨できるレンズである。

次点として、評価3.7点クラスが3本ある。

*Meike 85mm/f1.8は、悪い描写力では無く、フルサイズ
 対応で価格も安価だが、AF性能には、やや問題有りだ。
 MFで使える機材環境と利用者にMF技能があれば問題無し。

*GXR A12 50mm/f2.5は、高描写力だが、AF/MF性能
 が壊滅的に悪い。現代においては仕様老朽化寿命が
 甚だしいので、その点を理解できる上級マニア層向け。
 一般的には完全非推奨である。

*PENTAX HD35/2.8 Macroは、殆ど弱点を持たないが
 これもAPS-C機専用レンズであるので念のため。

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さて、今回の「2万円級レンズ編」記事は、
このあたり迄で、次回記事に続く。


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