本シリーズでは、主に本ブログの範囲でのみ使われたる、
あまり一般的では無い写真撮影に用語を解説している。
今回も「補足編」として、雑多なテーマを扱う
「アラカルト」のPart 7とする。
![_c0032138_10372980.jpg]()
★ジェネリック・レンズ
独自用語
既に、本シリーズ第10回記事、および第31回記事
で説明した「海外新鋭レンズ」の再補足である。
近年、2017~2018年頃から 国内市場への参入が
始まった低価格帯海外(中国等)製レンズにおいては、
約50年前程度のオールド名レンズの基本設計を元に、
そのサイズを1/2~2/3程度にスケールダウンして、
APS-C機型のミラーレス機用のイメージサークルに
合わせ、広角化を行ったものが多い。
(七工匠、Meike等では、そうした設計傾向が顕著だ)
![_c0032138_10372994.jpg]()
この場合、設計・評価コストが大幅に削減でき、
かつ部材の低価格化や量産効果が得られ、結果的に、
極めて安価なレンズ群となる。
だが、基本設計は、オールド名レンズであるから、
写りもさほど酷いものにはならない。
(注:オールドレンズを使いこなすスキルが必須だ)
これらのレンズ群を、薬品分野での「ジェネリック」
に例え、「ジェネリック・レンズ」と本ブログでは呼ぶ。
まあつまり、特許の切れた旧世代の技術を用いて、
新規薬品とかレンズの新開発のコストを大幅に削減し
安価で高品質の商品が作れる、という訳だ。
日本のメーカーにとっては、低価格帯市場にこうした
「ジェネリック・レンズ」が出回ると困った事になるの
かも知れないが、個人的には「上手い所を突いて来た
なかなか悪く無い市場戦略だ」と思っている。
(参考:ごく近年では、家電製品において、同様に、設計
コスト等を低減した格安の高性能家電製品が流行していて
それらを「ジェネリック家電」と呼ぶ場合もある模様だ)
★他人が良いと言ったから買う
独自概念。
初級中級層の機材購入行動を見ていると、
「他人が良いと言ったから買う」という人が、あまりに
多い。
勿論これは、全く褒められた話では無い。
ユーザーそれぞれには写真を撮る目的や用途、主要な被写体、
そしてそれをどう撮りたいのか? あるいは機材の好み、
購入コンセプト、志向性、そしてユーザー自身のスキル
(知識、経験、技能等)も、まちまちであるからだ。
![_c0032138_10372993.jpg]()
そして、その他人の「良い」という評価の基準も全く上記と
同じ理由から、まちまちとなる、だから、その人の言う事も
頭から信用する(参考にする)には値しない。
仮に、機材を欲しい人の意見や志向性を聞き、それを元に
アドバイスをしたとしても、これも、あまり効果は無い。
そういった事は、ビギナー層では機材を買う前には良く
わかっていないケースが大半であるからだ。
そして店員等に薦められて機材を買うのも好ましく無い。
基本的には、店員等は店側が売りたいもの(=利益が
多く出るものや、早く売りたい処分品等)を優先的に
推薦するのだ、それは購入側にとっては、必ずしも
良い話ばかりとは限らない事であろう。
ともかく、機材を購入する際は、あくまで自身の考えや
購買コンセプトを最優先にする事が大原則である。
★一番メーカーが儲かる商品
独自分析。
カメラやレンズに限らず、あらゆる商品において、
メーカー又は流通が儲かる商品は存在している。
それが具体的に、どの商品であるかは、メーカーや流通が
不利になる場合もあるので書き難いが、まあ上級マニア層
等にとっては、そういう事は「言わずもがな」の常識で
あろう。
まあ、カメラ関連に限らず、どの市場分野であっても
なんだか妙に店員等が薦めてくる商品であるとか、
値段が高いのに、それでもやたらとネット上の評判が
良いとか・・ そういう話には必ず「裏」(理由)が
あると認識しておくのが無難だ。
![_c0032138_10373089.jpg]()
基本的には、私の場合は「コスパ」を常に最優先に
考えているが、その理由は、「メーカーや流通の勝ち」
(=つまり、それらが儲かる)では無く「消費者の勝ち」
を常に目指しているからだ。
勿論、私でも「消費者の負け」となる商品を買って
しまう事はある、でもそういう「失敗」を繰り返して
行く事で、だんだんとコスパ感覚、つまり「目利き」
が出来るようになって行く訳だ。
ビギナー層等は、その経験値を持たない、だから大抵の
場合は「消費者の負け、メーカー(流通)の勝ち」
となる買い物ばかりをしてしまう。
まあでも、そこはやむを得ないであろう・・
無駄に高いものとはわかっていても、そうした商品を
買う事で、ステータスが得られる(所有満足感を得る、
周囲の人に自慢できる、経済力を誇示できる、等)
状況もあり、その事だけに強く拘る人も居るからだ。
★露出アンダー(不安定)となる機材組み合わせ
独自分析。
ある時代のあるメーカーのカメラと、別の時代の
特定のメーカーの特定のレンズとの組み合わせによっては
露出値が狂う(露出アンダーになったり、不安定になる)
場合が稀にある。
具体例としては、レンズマニアックス第10回記事での
NIKON D500(2016)とTAMRON 18-270mm/f3.5-6.3
(Model B008)の組み合わせとか、他にもいくつかある。
![_c0032138_10373993.jpg]()
この原因は不明、カメラ又はレンズの通信プロトコル
上のバグか、またはカメラ側の露出決定ルーチンの
バグか、あるいはカメラ側で意図的に他社レンズを
使い難くする為の「排他的仕様」のいずれかだろう。
ただ、今の所私が認識している、いくつかの不具合が
ある組み合わせにおいては、露出アンダーになる際は
単なるオフセットなので、露出補正を掛ければ良く、
露出不安定な組み合わせは、あまり問題になる程の
バラツキは無く、事後の輝度補正編集程度で十分に
対処できる。
また、常に特定のメーカー同士で露出が狂う訳でもなく、
あくまで、特定の時代の特定の組み合わせである。
勿論、大きな問題では無いのだが、シニア層等の間で
NIKON機を使っている人の一部が、「TAMRONのレンズは
暗く写るのでダメだ」等の「流言」を流している模様だ。
露出補正を掛けるか、機材の組み合わせを変えるだけで
簡単に解消できる問題なので、大騒ぎをする必要は無い。
(それに、正しく言えば、それはNIKON機側の課題であり、
TAMRONのレンズの問題点ではない。近年2020年にも、
NIKON D6が、全てのサードーパーティー(SIGMA、
TAMRON、TOKINA)製の既存レンズとプロトコルエラー
を起こした事実は、良く知られていると思う)
★LP/mm
技術用語(単位)
正確には「ラインペア・パー・ミリメートル」と読む。
これは「空間周波数」の単位であるが、一般的には
レンズの解像力を表す単位であり、「解像度チャート」
等に印刷された、白黒の細かい線(=ラインペア)を
所定の条件で写真用レンズで写し、どこまでの細かい
線が分離して見えるかを測り、その解像度チャートに
書かれている数字を読めば、LP/mmの値がわかる。
(注:近年のレンズ設計ソフト等では、計算でも求まる)
![_c0032138_10373905.jpg]()
ただし、レンズによっては、画面の中央部の解像力
が高く、周辺になると解像力が落ちてしまったり、
あるいは、その線の方向によって解像力が変わったり
もする。だから一般的には、最良のLP/mm値で
レンズの性能が語られる場合もあるので、要注意だ。
より公正には、この解像力の値を画面周辺部までの
距離や、その方向(放射、同心円)でグラフ化した
ものが使われる。これを「MTF特性」(図、曲線)と
呼び、高性能レンズの仕様書では、これが書かれて
いる場合もあるが、まあ銀塩時代に広まった物なので、
規定されている解像力がとても低い(例:10LP/mm
や30LP/mm等)なので、あまり真剣に、これを参考に
してレンズを選ぶ必要は無い。
LP/mmは、専門家以外の一般カメラユーザー層では
滅多に見る数字では無いと思うが、だいたいの目安だけ
挙げておこう。(注:最良の値)
100LP/mm以下=低解像力なレンズ
100LP/mm台 =一般的な解像力のレンズ
200LP/mm以上=非常に高解像力のレンズ
という感じになると思う。
なお、これは基本的には、解像力が高いレンズの方が
望ましいが、組み合わせるカメラ側のセンサー仕様や
あるいは撮影時に、どういう被写体をどう撮りたいか、
によっても状況が変わってくる為、必ずしも解像力の
高いレンズだけを追い求める必要性はあまり無い。
そして勿論だが、レンズの性能は解像力だけで決まる
訳でも無く、ボケ質や色収差、歪曲収差、周辺減光、
逆光耐性等、様々な評価要素が存在する。
★解像力、解像度、解像感
一般的には定義が曖昧な用語。以下独自定義。
解像力=上記のLP/mmや、MTF特性から得られる
純粋なレンズの数値的性能。
(例:「このレンズの(最大)解像力は、
180LP/mmである」等)
解像度=これは「解像力」と混同されて使われる場合が
とても多いが、本来であれば、画像における
「画素数」と同じような意味で使う方が良いと
思われる。
(例:「この写真の解像度は、3000x2000の
600万画素である」等)
まあつまり、これは「力」や「能力」では無く
単なる状態(結果)を表すもの、という意味だ。
解像感=厳密な数値スペック上の「解像力」では無く、
人間が、見た目で評価して、そう感じる
という”感覚値”の場合に用いる用語。
(例:「このマクロレンズは解像感が高い」等)
![_c0032138_10373952.jpg]()
★「倍率」の定義
一般的には定義が曖昧な用語。以下独自定義。
「倍率」とは、なんとも曖昧な用語だ。一応、以下に
それが用いられるシーン毎に、独自に定義しておこう。
・撮影倍率
マクロレンズ等で、35mm判のフルサイズ換算
(36mm x 24mmのフィルム又はセンサーサイズ)で
実際の被写体が、どれくらいの大きさに写るか?の値。
撮影範囲で例を挙げると、18mm x 12mmの範囲が
写るマクロレンズであれば、36mm÷18mmで「2倍」だ。
もしアスペクト(縦横比)が異なる場合は、対角線長で
この計算を行う。
ただし、近年のデジタルカメラでは、デジタルズーム
等で撮影範囲を狭める(拡大する)事が可能な為、
銀塩時代程には、撮影倍率のスペックは重要では無い。
![_c0032138_10373944.jpg]()
・露出倍率(露出倍数)→「露光倍数」を推奨
1)色の濃い光学フィルターをレンズに装着した際、
そのフィルターによって暗くなる割合を示す数。
2)マクロレンズや接写アタッチメントを用いて
近接撮影を行った際、原理的に口径比が小さくなり
暗くなる事を表す数値。上記撮影倍率と密接な
関係があり、一般的には以下の式で表せる。
露光倍数=(1+撮影倍率)x(1+撮影倍率)
この値によりカメラ設定を変える必要はあまり無いが、
AE(自動露出)で撮っている場合、露光倍数が掛ると
相応に暗くなるので、シャッター速度の低下や
(AUTO)ISO感度が上がり過ぎる事には注意が必要だ。
・表示倍率(非推奨)
カメラ界ではあまり使われないが、顕微鏡の画像を
モニターで見る際等に現物に対して表示される画像が
どれくらい大きいかを示す数値。
しかし当然ながら、モニターやディスプレイの大きさ
が変われば、この数値も変わってしまう。
定義が曖昧なので完全に非推奨としておく。
・視野の倍率(カメラでは非推奨)
これもカメラ界では使われないが、望遠鏡や双眼鏡、
そして顕微鏡でも使われる数値。人間の視野に対して
どれくらい大きく見えるかを示す。
望遠鏡や双眼鏡では「何倍」と言うので、カメラ用の
望遠レンズでも「これは何倍ですか?」と聞く人が多い。
厳密には概念が異なるので、その答えはなんとも言えない
のだが・・
まあ、だいたいであるが、レンズの焦点距離を50mmで
割った値が、双眼鏡等での視野倍率にほぼ相当する。
つまり、400mm望遠レンズは、400mm÷50mm=8倍
となって、8倍の双眼鏡(望遠鏡)と、ほぼ等しい視野
となる。だが、この考え方は基本的に概念が異なるから
非推奨であるし、それと、現代のデジタルカメラでは、
センサーサイズを変えたりやデジタル拡大機能を使えば
見た目での「視野倍率」は簡単に変化してしまう。
![_c0032138_10374697.jpg]()
・ズーム倍率(非推奨)→「ズーム比」を推奨
コンパクトカメラ等では、初級中級層向けに、
「50倍ズーム」等のスペックを記載している場合があるが
一眼レフやミラーレス用のズームレンズでは、基本的に
この表現はしてはならない。(業界内でも、そのような
暗黙の取り決めがある筈だ)
何故ならば、12mm-24mmの超広角ズームは「ズーム比」
が2(倍)であるが、100mm-200mmの望遠ズームも2倍だ、
両者は用途がまるで異なるので、同じ「2倍」と言う
のは、どう見ても不自然である。
なので、写真用のズームレンズは広角端の焦点距離と
望遠端の焦点距離を必ず記載しなければならない。
で、その比率をどうしても表したい場合は、望遠端を
広角端で割って求める。
28-300mmズームの場合は300mm÷28mm=約10.7
であり、これが「ズーム比」だ。その単位は、
mmをmmで割るので、単位なし(無名数)である。
無名数は学校の算数か数学で習うと思うが、一般層
では、それを忘れてしまっている為、これを10倍ズーム
とかと呼んでしまうのだが、勿論、全然意味が通らない
し、焦点距離範囲も良くわから無いので完全非推奨だ。
カメラ界で、「倍」があえて許されているケースは
こうしたズーム比の大きいレンズを「高倍率ズーム」
と呼ぶ場合。それから、ビデオカメラに搭載の
ズームレンズでは、一般的にも「何倍ズーム」と
呼ばれているケースがある。
★35mm判(注:「35mm版」は誤用)
一般用語。誤用が多い。
フィルムのサイズ等を表す場合は「判」が正しい。
例:35mm判、ライカ判、6x6判、中判、大判カメラ、等
「35mm版」等は誤用なので注意されたし。
★用語定義が曖昧
独自解釈。
それにしても、カメラ界や学問としての「光学」では
用語がまちまち、バラバラで統一されていない。
まあ「光学」は古くからある分野だし、専門的分野
でもあるし、カメラ界は昔からメーカー同士の仲が
あまりよろしく無いようにも思えるので、それぞれ
好き勝手な用語とか、スペック記載方法をしてしまう。
学術の専門分野でも同様で、用語や定義が研究者や
技術者毎でまちまちである事が良くある。
例えば「望遠レンズ」とは、一般的には焦点距離が
長くて遠くのものが大きく写るレンズと思うだろうが
本来、この用語は「焦点距離に対してレンズ鏡筒が
短いもの」を指す用語だ。
また、さらに別の用語概念もあって、それは「焦点距離に
対するバックフォーカス(長)の比が小さいもの」である。
いずれにしても「焦点距離が長い」は誤用だ(汗)
でも、間違った概念が広まってしまい、本来の意味が
もう使われないので、どちらが正しいとは言えない。
このように、間違った意味が広まっている例は他にもある。
![_c0032138_10374659.jpg]()
こんな感じで「用語の意味の不統一」は、いくらでも
あり、市場で混乱を招く他、専門的な光学の勉強を
しようとすると、その専門用語では、不統一がさらに
甚だしく、そのせいで学習効率を著しく阻害する。
例えば「口径食」という用語も、一般カメラマンや
マニア層が良く使うが、これの意味も、少なくとも
3つ以上があり、そのどれを表しているか、言葉を
聞いただけでは良くわからない。
こんな調子では、光学を勉強するとか言う以前に、
普通にカメラやレンズの話をする際にも問題となる。
今更、業界が学術界も含めた用語の統一は難しいと
思うが、皆が困っている事は確かであろう。
なお、この問題もまた、本シリーズ記事「用語辞典」
の連載を開始した、1つのきっかけにもなっている。
(まあ、勝手に用語を創出している、という懸念もあるが、
それでも、ちゃんと「この用語はこういう意味です」と
定義している訳だから、他よりもずっとマシであろう。
例えば、レビュー記事で、「口径食が出る」と書いて
あったとしても、その定義や意味などを示しているもの
は、皆無だ)
★弱点相殺型システム
独自用語。
様々なカメラやレンズには、当然であるがどれにも
欠点がある。仮に完璧な性能や機能・仕様等であれば
それ1台(1本)あれば済んでしまうのだが、現実的には
用途等も色々ある為、それは有り得ない事だ。
また、仮に全ての収差を、良好に補正して設計された
高性能なレンズがあったとしても、それはたいていの
場合、大きく、重く、高価であるとう「三重苦レンズ」
となってしまうであろう。「三重苦」は実用上では
あまり好ましくなく、たとえ描写力が高かったとしても
あまり使いたく無いレンズとなり、これは欠点であろう。
それと、実際に技術的な未成熟であったり、あるいは
市場戦略上の都合で、性能が低いカメラやレンズも
勿論存在する。
近年における、その具体的な例としては、初期ミラーレス
機(2010年前後)では、そのAF方式は「コントラストAF」
であり、これは一眼レフでの「位相差AF」方式に比べ
AFの速度、精度ともに劣っていた。
また、市場戦略上、つまりラインナップ上の都合とは、
具体的には、上位機種に比べて下位機種は、連写性能や
高感度性能が劣っていたりするケースがある。
(=仕様的差別化。つまり意図的に、そう差別している。
そうやれば、ビギナー層が高いカメラを欲しがるからだ)
で、このように、全てのカメラやレンズには弱点が
存在するのだが、カメラとレンズの組み合わせ、つまり
「システム」を工夫すると、お互いの弱点を相殺する
(消せる)場合もある。
具体例としては、ミラーレス機で、AF性能が低い他、
MF性能も低いとなったら、ピントが合わせられず
普通ならば「使い物にならないカメラだ!」という事に
なるのだが、もしそのカメラにピント合わせが不要な
パンフォーカス型トイレンズや、ピンホール(レンズ)を
装着したらどうなるか? この場合は、カメラの弱点が
全て消えて、カメラの長所だけを活かして、とても快適に
使用する事が出来るようになる。
![_c0032138_10374685.jpg]()
こうした、お互いの弱点を消す事ができるシステムを
「弱点相殺型システム」と呼んでいる。
ここまで大きな弱点(重欠点)を消すケースのみならず
カメラやレンズの細かい弱点を消すように、と、常に
システム構成は、その事を意識しなければならない。
これを意識する為には、所有しているカメラやレンズの
長所短所は、予め、殆ど全て把握しておく必要がある。
その為、初級中級層等で、弱点相殺型どころか、むしろ
逆に、カメラとレンズの、お互いの弱点を助長してしまう
ようなシステムを組んでいるケースを見ると、それは
「自分の持っているカメラやレンズの長所短所が、何も
わかっていない様子で、とても格好悪い」と思ってしまう。
マニア層の場合であれば勿論だが、一般層であっても、
せっかく高いお金を出して買った機材だ、それについては
ちゃんと良く使い、研究し、評価し、理解しなけれれば
ならない。それをやらないならば、無駄にお金を使って
いる事と同じである。
なお、本シリーズ第16回記事で「オフサイドの法則」を
説明しているが、それは基本的には「カメラ側の価格が
レンズ価格を大きく上回わる事」を禁じるルールだが、
この法則は広義には、「カメラ側の性能が無駄に良すぎる
というケースを禁じる事」も指す。
具体的には、NIKON D500等のAF性能にとても優れた
高級機に、オールドのMFレンズを装着して使う等だ、
この場合、D500の優秀なAF性能が、全て無駄になる。
ここまで極端な例ではなくても、センサーサイズとか
付加機能の仕様とか、様々な要素で「弱点相殺型」
のシステムになり得るかどうかは決まってくる。
本ブログの多くのレンズ紹介の記事では、そのレンズ
を使用する際に「弱点相殺型システム」に出来るだけ
なるようにカメラを選んでいる、その理由や根拠は
各々のシステムで異なる為、個々の記事での解説文を
参照してもらわないとならない。
![_c0032138_10374761.jpg]()
なお、ごく稀にだが「弱点相殺型」にならないシステム
をあえて組む場合もある、それは「限界性能テスト」
という意味がある、それについては次の項目で説明する。
★限界性能テスト
独自用語。
カメラとレンズのどちらが「主」なのか? と言えば。
勿論レンズである。写真はあくまでレンズで撮るので
あり、カメラはそのレンズのパフォーマンスを最大限に
発揮できる機体を選ぶ必要がある。
この概念が上記「弱点相殺型システム」の話に繋がる他、
本シリーズ第16回記事での「1対4の法則」の解説でも
「レンズ購入予算は、カメラ予算の4倍とするのが適正」
というルール(持論)を記載している。
つまり、レンズの価値は、カメラの4倍高い、という
持論になる訳だ。
さて、レンズを使う際に、カメラを選ぶ基準としては
「弱点相殺型システム」を組む事はあくまで基本であるが、
稀に、あえてそうせず、多少無茶な組み合わせとする
ケースもある。その意味は、たいていの場合において
「限界性能テスト」である。
つまり、「無理をしている事は、わかってはいるが、
その無理がどこまで通るのか? 実用範囲を超えて
効率が低下するのか否か?」という実験を行う意味だ。
そのパターンは、色々とありすぎて具体例は挙げ難い、
まあ、そういった場合は、レンズ関連記事において、
これは「限界性能テスト」である、という記載をして
いると思う。
![_c0032138_10375348.jpg]()
ごく単純な例だけ挙げておけば、デジタル一眼レフ・
クラッシックス第21回「EOS 8000D」記事において、
小型軽量な初級機であるCANON EOS 8000Dに、
その2倍以上重く、2倍以上高価なSIGMA A135/1.8を
装着して試している。普通の感覚では、重量バランス
がとても悪く、AF性能も低い為にレンズ性能が活かせ
無い状態だし、ビギナー用カメラに業務用レンズを
装着する事自体、とても不自然な組み合わせなのだが、
「システム全体の重量を軽減する」という目的もある。
まあ、常識的に考えるだけではアンバランスな状態でも
実際に試してみて、それが撮影効率を何も妨げないので
あれば、「軽量化」の目的が達せられるので好ましい。
それを実験する為に「限界性能テスト」を行う訳だ。
★行ったり来たり
独自用語。
ビギナー層がズームレンズを使う場合、その広角端と
望遠端の焦点距離ばかりを使ってしまうケースを指す。
例えば、APS-C機において、18-55mmの標準ズームを
装着しているとする。この時、風景等を撮るならば、
広角端いっぱいの18mm(フルサイズ換算約28mm)
で撮り、遠くの被写体を見つけたら望遠端の55mm
(換算約85mm)で撮る、という事だ。
よって、ズームの中間焦点距離を殆ど(全く)使わない、
この状態を「行ったり来たり」と呼ぶ。
何故こうなるかは、「風景等は出来るだけ広く写したい、
遠距離の被写体は出来るだけ大きく写したい」という
目的(要望)があるからだが、そこには「構図」とかの
概念は殆ど無いし、ましてや「画質」という概念も無い。
![_c0032138_10375316.jpg]()
上写真のレンズは1990年前後の望遠ズームだ、古い時代の
レンズではあるが、マニア層等では「オールドレンズ」を
使う場合も良くある。こうした古い望遠ズームレンズでは
望遠にすればする程、画質がどんどん低下してしまうケース
が良くある。何故ならば、ズームレンズは単焦点に比べて
各焦点距離での収差を補正する設計が難しいからだ。
古いズームでは、たいていの場合、望遠側では色収差等を
起因とした解像感の低下が起こり、広角側では歪曲収差等
が大きくなる。中間焦点距離を用いる事で、これを低減
させる事は出来るが、収差は焦点距離だけに起因するもの
では無く、他にも撮影距離、絞り値等、様々な要素がある。
(本シリーズ第29回記事「減る収差、減らない収差」参照)
また、オールドズームだけにこの課題があるのではなく
現代のズームも同様だ、特に初級層が使うローコストな
ズームの場合には、少し前の時代の設計である事も多く、
オールドズームと同様な課題を抱える場合もある。
また、近年ではレンズ交換の手間を嫌って「高倍率ズーム」
を常用する初級中級者も多いのだが、高倍率ズームはますます
広い範囲の焦点距離毎での収差補正が、設計上困難だ。
ではどうするのか? というと、ここは難しい。
構図上の判断、画質上の判断、それらを適正にする事を
考慮しながら、ズームレンズを活用する事が基本となる。
![_c0032138_10375314.jpg]()
まあつまり、特にビギナー層の場合には、ズームの広角端と
望遠端だけを「行ったり来たり」にしないように、中間の
画角でも色々と撮ってみる必要がある、という事だ。
画質や収差に関しては、とりあえずあまり気にする必要は
無いと思う、それが気になるならば技法で回避するよりも
レンズを買い換えてしまう事が簡便な解決策だからだ。
ただし、弱点のあるレンズをあえて使う事で、その弱点を
どのようにして解消していくか? を考えながら機材を
使う事は、ものすごく勉強になる事だ。近年、私が、
オールドズーム等の性能の低いレンズを沢山購入している
のは、そうした古いレンズの弱点を回避する為の練習や
研究の為の「教材」としての意味がとても大きい。
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さて、今回の記事はこのあたりまで。次回記事に続く。
あまり一般的では無い写真撮影に用語を解説している。
今回も「補足編」として、雑多なテーマを扱う
「アラカルト」のPart 7とする。

独自用語
既に、本シリーズ第10回記事、および第31回記事
で説明した「海外新鋭レンズ」の再補足である。
近年、2017~2018年頃から 国内市場への参入が
始まった低価格帯海外(中国等)製レンズにおいては、
約50年前程度のオールド名レンズの基本設計を元に、
そのサイズを1/2~2/3程度にスケールダウンして、
APS-C機型のミラーレス機用のイメージサークルに
合わせ、広角化を行ったものが多い。
(七工匠、Meike等では、そうした設計傾向が顕著だ)

かつ部材の低価格化や量産効果が得られ、結果的に、
極めて安価なレンズ群となる。
だが、基本設計は、オールド名レンズであるから、
写りもさほど酷いものにはならない。
(注:オールドレンズを使いこなすスキルが必須だ)
これらのレンズ群を、薬品分野での「ジェネリック」
に例え、「ジェネリック・レンズ」と本ブログでは呼ぶ。
まあつまり、特許の切れた旧世代の技術を用いて、
新規薬品とかレンズの新開発のコストを大幅に削減し
安価で高品質の商品が作れる、という訳だ。
日本のメーカーにとっては、低価格帯市場にこうした
「ジェネリック・レンズ」が出回ると困った事になるの
かも知れないが、個人的には「上手い所を突いて来た
なかなか悪く無い市場戦略だ」と思っている。
(参考:ごく近年では、家電製品において、同様に、設計
コスト等を低減した格安の高性能家電製品が流行していて
それらを「ジェネリック家電」と呼ぶ場合もある模様だ)
★他人が良いと言ったから買う
独自概念。
初級中級層の機材購入行動を見ていると、
「他人が良いと言ったから買う」という人が、あまりに
多い。
勿論これは、全く褒められた話では無い。
ユーザーそれぞれには写真を撮る目的や用途、主要な被写体、
そしてそれをどう撮りたいのか? あるいは機材の好み、
購入コンセプト、志向性、そしてユーザー自身のスキル
(知識、経験、技能等)も、まちまちであるからだ。

同じ理由から、まちまちとなる、だから、その人の言う事も
頭から信用する(参考にする)には値しない。
仮に、機材を欲しい人の意見や志向性を聞き、それを元に
アドバイスをしたとしても、これも、あまり効果は無い。
そういった事は、ビギナー層では機材を買う前には良く
わかっていないケースが大半であるからだ。
そして店員等に薦められて機材を買うのも好ましく無い。
基本的には、店員等は店側が売りたいもの(=利益が
多く出るものや、早く売りたい処分品等)を優先的に
推薦するのだ、それは購入側にとっては、必ずしも
良い話ばかりとは限らない事であろう。
ともかく、機材を購入する際は、あくまで自身の考えや
購買コンセプトを最優先にする事が大原則である。
★一番メーカーが儲かる商品
独自分析。
カメラやレンズに限らず、あらゆる商品において、
メーカー又は流通が儲かる商品は存在している。
それが具体的に、どの商品であるかは、メーカーや流通が
不利になる場合もあるので書き難いが、まあ上級マニア層
等にとっては、そういう事は「言わずもがな」の常識で
あろう。
まあ、カメラ関連に限らず、どの市場分野であっても
なんだか妙に店員等が薦めてくる商品であるとか、
値段が高いのに、それでもやたらとネット上の評判が
良いとか・・ そういう話には必ず「裏」(理由)が
あると認識しておくのが無難だ。

考えているが、その理由は、「メーカーや流通の勝ち」
(=つまり、それらが儲かる)では無く「消費者の勝ち」
を常に目指しているからだ。
勿論、私でも「消費者の負け」となる商品を買って
しまう事はある、でもそういう「失敗」を繰り返して
行く事で、だんだんとコスパ感覚、つまり「目利き」
が出来るようになって行く訳だ。
ビギナー層等は、その経験値を持たない、だから大抵の
場合は「消費者の負け、メーカー(流通)の勝ち」
となる買い物ばかりをしてしまう。
まあでも、そこはやむを得ないであろう・・
無駄に高いものとはわかっていても、そうした商品を
買う事で、ステータスが得られる(所有満足感を得る、
周囲の人に自慢できる、経済力を誇示できる、等)
状況もあり、その事だけに強く拘る人も居るからだ。
★露出アンダー(不安定)となる機材組み合わせ
独自分析。
ある時代のあるメーカーのカメラと、別の時代の
特定のメーカーの特定のレンズとの組み合わせによっては
露出値が狂う(露出アンダーになったり、不安定になる)
場合が稀にある。
具体例としては、レンズマニアックス第10回記事での
NIKON D500(2016)とTAMRON 18-270mm/f3.5-6.3
(Model B008)の組み合わせとか、他にもいくつかある。

上のバグか、またはカメラ側の露出決定ルーチンの
バグか、あるいはカメラ側で意図的に他社レンズを
使い難くする為の「排他的仕様」のいずれかだろう。
ただ、今の所私が認識している、いくつかの不具合が
ある組み合わせにおいては、露出アンダーになる際は
単なるオフセットなので、露出補正を掛ければ良く、
露出不安定な組み合わせは、あまり問題になる程の
バラツキは無く、事後の輝度補正編集程度で十分に
対処できる。
また、常に特定のメーカー同士で露出が狂う訳でもなく、
あくまで、特定の時代の特定の組み合わせである。
勿論、大きな問題では無いのだが、シニア層等の間で
NIKON機を使っている人の一部が、「TAMRONのレンズは
暗く写るのでダメだ」等の「流言」を流している模様だ。
露出補正を掛けるか、機材の組み合わせを変えるだけで
簡単に解消できる問題なので、大騒ぎをする必要は無い。
(それに、正しく言えば、それはNIKON機側の課題であり、
TAMRONのレンズの問題点ではない。近年2020年にも、
NIKON D6が、全てのサードーパーティー(SIGMA、
TAMRON、TOKINA)製の既存レンズとプロトコルエラー
を起こした事実は、良く知られていると思う)
★LP/mm
技術用語(単位)
正確には「ラインペア・パー・ミリメートル」と読む。
これは「空間周波数」の単位であるが、一般的には
レンズの解像力を表す単位であり、「解像度チャート」
等に印刷された、白黒の細かい線(=ラインペア)を
所定の条件で写真用レンズで写し、どこまでの細かい
線が分離して見えるかを測り、その解像度チャートに
書かれている数字を読めば、LP/mmの値がわかる。
(注:近年のレンズ設計ソフト等では、計算でも求まる)

が高く、周辺になると解像力が落ちてしまったり、
あるいは、その線の方向によって解像力が変わったり
もする。だから一般的には、最良のLP/mm値で
レンズの性能が語られる場合もあるので、要注意だ。
より公正には、この解像力の値を画面周辺部までの
距離や、その方向(放射、同心円)でグラフ化した
ものが使われる。これを「MTF特性」(図、曲線)と
呼び、高性能レンズの仕様書では、これが書かれて
いる場合もあるが、まあ銀塩時代に広まった物なので、
規定されている解像力がとても低い(例:10LP/mm
や30LP/mm等)なので、あまり真剣に、これを参考に
してレンズを選ぶ必要は無い。
LP/mmは、専門家以外の一般カメラユーザー層では
滅多に見る数字では無いと思うが、だいたいの目安だけ
挙げておこう。(注:最良の値)
100LP/mm以下=低解像力なレンズ
100LP/mm台 =一般的な解像力のレンズ
200LP/mm以上=非常に高解像力のレンズ
という感じになると思う。
なお、これは基本的には、解像力が高いレンズの方が
望ましいが、組み合わせるカメラ側のセンサー仕様や
あるいは撮影時に、どういう被写体をどう撮りたいか、
によっても状況が変わってくる為、必ずしも解像力の
高いレンズだけを追い求める必要性はあまり無い。
そして勿論だが、レンズの性能は解像力だけで決まる
訳でも無く、ボケ質や色収差、歪曲収差、周辺減光、
逆光耐性等、様々な評価要素が存在する。
★解像力、解像度、解像感
一般的には定義が曖昧な用語。以下独自定義。
解像力=上記のLP/mmや、MTF特性から得られる
純粋なレンズの数値的性能。
(例:「このレンズの(最大)解像力は、
180LP/mmである」等)
解像度=これは「解像力」と混同されて使われる場合が
とても多いが、本来であれば、画像における
「画素数」と同じような意味で使う方が良いと
思われる。
(例:「この写真の解像度は、3000x2000の
600万画素である」等)
まあつまり、これは「力」や「能力」では無く
単なる状態(結果)を表すもの、という意味だ。
解像感=厳密な数値スペック上の「解像力」では無く、
人間が、見た目で評価して、そう感じる
という”感覚値”の場合に用いる用語。
(例:「このマクロレンズは解像感が高い」等)

一般的には定義が曖昧な用語。以下独自定義。
「倍率」とは、なんとも曖昧な用語だ。一応、以下に
それが用いられるシーン毎に、独自に定義しておこう。
・撮影倍率
マクロレンズ等で、35mm判のフルサイズ換算
(36mm x 24mmのフィルム又はセンサーサイズ)で
実際の被写体が、どれくらいの大きさに写るか?の値。
撮影範囲で例を挙げると、18mm x 12mmの範囲が
写るマクロレンズであれば、36mm÷18mmで「2倍」だ。
もしアスペクト(縦横比)が異なる場合は、対角線長で
この計算を行う。
ただし、近年のデジタルカメラでは、デジタルズーム
等で撮影範囲を狭める(拡大する)事が可能な為、
銀塩時代程には、撮影倍率のスペックは重要では無い。

1)色の濃い光学フィルターをレンズに装着した際、
そのフィルターによって暗くなる割合を示す数。
2)マクロレンズや接写アタッチメントを用いて
近接撮影を行った際、原理的に口径比が小さくなり
暗くなる事を表す数値。上記撮影倍率と密接な
関係があり、一般的には以下の式で表せる。
露光倍数=(1+撮影倍率)x(1+撮影倍率)
この値によりカメラ設定を変える必要はあまり無いが、
AE(自動露出)で撮っている場合、露光倍数が掛ると
相応に暗くなるので、シャッター速度の低下や
(AUTO)ISO感度が上がり過ぎる事には注意が必要だ。
・表示倍率(非推奨)
カメラ界ではあまり使われないが、顕微鏡の画像を
モニターで見る際等に現物に対して表示される画像が
どれくらい大きいかを示す数値。
しかし当然ながら、モニターやディスプレイの大きさ
が変われば、この数値も変わってしまう。
定義が曖昧なので完全に非推奨としておく。
・視野の倍率(カメラでは非推奨)
これもカメラ界では使われないが、望遠鏡や双眼鏡、
そして顕微鏡でも使われる数値。人間の視野に対して
どれくらい大きく見えるかを示す。
望遠鏡や双眼鏡では「何倍」と言うので、カメラ用の
望遠レンズでも「これは何倍ですか?」と聞く人が多い。
厳密には概念が異なるので、その答えはなんとも言えない
のだが・・
まあ、だいたいであるが、レンズの焦点距離を50mmで
割った値が、双眼鏡等での視野倍率にほぼ相当する。
つまり、400mm望遠レンズは、400mm÷50mm=8倍
となって、8倍の双眼鏡(望遠鏡)と、ほぼ等しい視野
となる。だが、この考え方は基本的に概念が異なるから
非推奨であるし、それと、現代のデジタルカメラでは、
センサーサイズを変えたりやデジタル拡大機能を使えば
見た目での「視野倍率」は簡単に変化してしまう。

コンパクトカメラ等では、初級中級層向けに、
「50倍ズーム」等のスペックを記載している場合があるが
一眼レフやミラーレス用のズームレンズでは、基本的に
この表現はしてはならない。(業界内でも、そのような
暗黙の取り決めがある筈だ)
何故ならば、12mm-24mmの超広角ズームは「ズーム比」
が2(倍)であるが、100mm-200mmの望遠ズームも2倍だ、
両者は用途がまるで異なるので、同じ「2倍」と言う
のは、どう見ても不自然である。
なので、写真用のズームレンズは広角端の焦点距離と
望遠端の焦点距離を必ず記載しなければならない。
で、その比率をどうしても表したい場合は、望遠端を
広角端で割って求める。
28-300mmズームの場合は300mm÷28mm=約10.7
であり、これが「ズーム比」だ。その単位は、
mmをmmで割るので、単位なし(無名数)である。
無名数は学校の算数か数学で習うと思うが、一般層
では、それを忘れてしまっている為、これを10倍ズーム
とかと呼んでしまうのだが、勿論、全然意味が通らない
し、焦点距離範囲も良くわから無いので完全非推奨だ。
カメラ界で、「倍」があえて許されているケースは
こうしたズーム比の大きいレンズを「高倍率ズーム」
と呼ぶ場合。それから、ビデオカメラに搭載の
ズームレンズでは、一般的にも「何倍ズーム」と
呼ばれているケースがある。
★35mm判(注:「35mm版」は誤用)
一般用語。誤用が多い。
フィルムのサイズ等を表す場合は「判」が正しい。
例:35mm判、ライカ判、6x6判、中判、大判カメラ、等
「35mm版」等は誤用なので注意されたし。
★用語定義が曖昧
独自解釈。
それにしても、カメラ界や学問としての「光学」では
用語がまちまち、バラバラで統一されていない。
まあ「光学」は古くからある分野だし、専門的分野
でもあるし、カメラ界は昔からメーカー同士の仲が
あまりよろしく無いようにも思えるので、それぞれ
好き勝手な用語とか、スペック記載方法をしてしまう。
学術の専門分野でも同様で、用語や定義が研究者や
技術者毎でまちまちである事が良くある。
例えば「望遠レンズ」とは、一般的には焦点距離が
長くて遠くのものが大きく写るレンズと思うだろうが
本来、この用語は「焦点距離に対してレンズ鏡筒が
短いもの」を指す用語だ。
また、さらに別の用語概念もあって、それは「焦点距離に
対するバックフォーカス(長)の比が小さいもの」である。
いずれにしても「焦点距離が長い」は誤用だ(汗)
でも、間違った概念が広まってしまい、本来の意味が
もう使われないので、どちらが正しいとは言えない。
このように、間違った意味が広まっている例は他にもある。

あり、市場で混乱を招く他、専門的な光学の勉強を
しようとすると、その専門用語では、不統一がさらに
甚だしく、そのせいで学習効率を著しく阻害する。
例えば「口径食」という用語も、一般カメラマンや
マニア層が良く使うが、これの意味も、少なくとも
3つ以上があり、そのどれを表しているか、言葉を
聞いただけでは良くわからない。
こんな調子では、光学を勉強するとか言う以前に、
普通にカメラやレンズの話をする際にも問題となる。
今更、業界が学術界も含めた用語の統一は難しいと
思うが、皆が困っている事は確かであろう。
なお、この問題もまた、本シリーズ記事「用語辞典」
の連載を開始した、1つのきっかけにもなっている。
(まあ、勝手に用語を創出している、という懸念もあるが、
それでも、ちゃんと「この用語はこういう意味です」と
定義している訳だから、他よりもずっとマシであろう。
例えば、レビュー記事で、「口径食が出る」と書いて
あったとしても、その定義や意味などを示しているもの
は、皆無だ)
★弱点相殺型システム
独自用語。
様々なカメラやレンズには、当然であるがどれにも
欠点がある。仮に完璧な性能や機能・仕様等であれば
それ1台(1本)あれば済んでしまうのだが、現実的には
用途等も色々ある為、それは有り得ない事だ。
また、仮に全ての収差を、良好に補正して設計された
高性能なレンズがあったとしても、それはたいていの
場合、大きく、重く、高価であるとう「三重苦レンズ」
となってしまうであろう。「三重苦」は実用上では
あまり好ましくなく、たとえ描写力が高かったとしても
あまり使いたく無いレンズとなり、これは欠点であろう。
それと、実際に技術的な未成熟であったり、あるいは
市場戦略上の都合で、性能が低いカメラやレンズも
勿論存在する。
近年における、その具体的な例としては、初期ミラーレス
機(2010年前後)では、そのAF方式は「コントラストAF」
であり、これは一眼レフでの「位相差AF」方式に比べ
AFの速度、精度ともに劣っていた。
また、市場戦略上、つまりラインナップ上の都合とは、
具体的には、上位機種に比べて下位機種は、連写性能や
高感度性能が劣っていたりするケースがある。
(=仕様的差別化。つまり意図的に、そう差別している。
そうやれば、ビギナー層が高いカメラを欲しがるからだ)
で、このように、全てのカメラやレンズには弱点が
存在するのだが、カメラとレンズの組み合わせ、つまり
「システム」を工夫すると、お互いの弱点を相殺する
(消せる)場合もある。
具体例としては、ミラーレス機で、AF性能が低い他、
MF性能も低いとなったら、ピントが合わせられず
普通ならば「使い物にならないカメラだ!」という事に
なるのだが、もしそのカメラにピント合わせが不要な
パンフォーカス型トイレンズや、ピンホール(レンズ)を
装着したらどうなるか? この場合は、カメラの弱点が
全て消えて、カメラの長所だけを活かして、とても快適に
使用する事が出来るようになる。

「弱点相殺型システム」と呼んでいる。
ここまで大きな弱点(重欠点)を消すケースのみならず
カメラやレンズの細かい弱点を消すように、と、常に
システム構成は、その事を意識しなければならない。
これを意識する為には、所有しているカメラやレンズの
長所短所は、予め、殆ど全て把握しておく必要がある。
その為、初級中級層等で、弱点相殺型どころか、むしろ
逆に、カメラとレンズの、お互いの弱点を助長してしまう
ようなシステムを組んでいるケースを見ると、それは
「自分の持っているカメラやレンズの長所短所が、何も
わかっていない様子で、とても格好悪い」と思ってしまう。
マニア層の場合であれば勿論だが、一般層であっても、
せっかく高いお金を出して買った機材だ、それについては
ちゃんと良く使い、研究し、評価し、理解しなけれれば
ならない。それをやらないならば、無駄にお金を使って
いる事と同じである。
なお、本シリーズ第16回記事で「オフサイドの法則」を
説明しているが、それは基本的には「カメラ側の価格が
レンズ価格を大きく上回わる事」を禁じるルールだが、
この法則は広義には、「カメラ側の性能が無駄に良すぎる
というケースを禁じる事」も指す。
具体的には、NIKON D500等のAF性能にとても優れた
高級機に、オールドのMFレンズを装着して使う等だ、
この場合、D500の優秀なAF性能が、全て無駄になる。
ここまで極端な例ではなくても、センサーサイズとか
付加機能の仕様とか、様々な要素で「弱点相殺型」
のシステムになり得るかどうかは決まってくる。
本ブログの多くのレンズ紹介の記事では、そのレンズ
を使用する際に「弱点相殺型システム」に出来るだけ
なるようにカメラを選んでいる、その理由や根拠は
各々のシステムで異なる為、個々の記事での解説文を
参照してもらわないとならない。

をあえて組む場合もある、それは「限界性能テスト」
という意味がある、それについては次の項目で説明する。
★限界性能テスト
独自用語。
カメラとレンズのどちらが「主」なのか? と言えば。
勿論レンズである。写真はあくまでレンズで撮るので
あり、カメラはそのレンズのパフォーマンスを最大限に
発揮できる機体を選ぶ必要がある。
この概念が上記「弱点相殺型システム」の話に繋がる他、
本シリーズ第16回記事での「1対4の法則」の解説でも
「レンズ購入予算は、カメラ予算の4倍とするのが適正」
というルール(持論)を記載している。
つまり、レンズの価値は、カメラの4倍高い、という
持論になる訳だ。
さて、レンズを使う際に、カメラを選ぶ基準としては
「弱点相殺型システム」を組む事はあくまで基本であるが、
稀に、あえてそうせず、多少無茶な組み合わせとする
ケースもある。その意味は、たいていの場合において
「限界性能テスト」である。
つまり、「無理をしている事は、わかってはいるが、
その無理がどこまで通るのか? 実用範囲を超えて
効率が低下するのか否か?」という実験を行う意味だ。
そのパターンは、色々とありすぎて具体例は挙げ難い、
まあ、そういった場合は、レンズ関連記事において、
これは「限界性能テスト」である、という記載をして
いると思う。

クラッシックス第21回「EOS 8000D」記事において、
小型軽量な初級機であるCANON EOS 8000Dに、
その2倍以上重く、2倍以上高価なSIGMA A135/1.8を
装着して試している。普通の感覚では、重量バランス
がとても悪く、AF性能も低い為にレンズ性能が活かせ
無い状態だし、ビギナー用カメラに業務用レンズを
装着する事自体、とても不自然な組み合わせなのだが、
「システム全体の重量を軽減する」という目的もある。
まあ、常識的に考えるだけではアンバランスな状態でも
実際に試してみて、それが撮影効率を何も妨げないので
あれば、「軽量化」の目的が達せられるので好ましい。
それを実験する為に「限界性能テスト」を行う訳だ。
★行ったり来たり
独自用語。
ビギナー層がズームレンズを使う場合、その広角端と
望遠端の焦点距離ばかりを使ってしまうケースを指す。
例えば、APS-C機において、18-55mmの標準ズームを
装着しているとする。この時、風景等を撮るならば、
広角端いっぱいの18mm(フルサイズ換算約28mm)
で撮り、遠くの被写体を見つけたら望遠端の55mm
(換算約85mm)で撮る、という事だ。
よって、ズームの中間焦点距離を殆ど(全く)使わない、
この状態を「行ったり来たり」と呼ぶ。
何故こうなるかは、「風景等は出来るだけ広く写したい、
遠距離の被写体は出来るだけ大きく写したい」という
目的(要望)があるからだが、そこには「構図」とかの
概念は殆ど無いし、ましてや「画質」という概念も無い。

レンズではあるが、マニア層等では「オールドレンズ」を
使う場合も良くある。こうした古い望遠ズームレンズでは
望遠にすればする程、画質がどんどん低下してしまうケース
が良くある。何故ならば、ズームレンズは単焦点に比べて
各焦点距離での収差を補正する設計が難しいからだ。
古いズームでは、たいていの場合、望遠側では色収差等を
起因とした解像感の低下が起こり、広角側では歪曲収差等
が大きくなる。中間焦点距離を用いる事で、これを低減
させる事は出来るが、収差は焦点距離だけに起因するもの
では無く、他にも撮影距離、絞り値等、様々な要素がある。
(本シリーズ第29回記事「減る収差、減らない収差」参照)
また、オールドズームだけにこの課題があるのではなく
現代のズームも同様だ、特に初級層が使うローコストな
ズームの場合には、少し前の時代の設計である事も多く、
オールドズームと同様な課題を抱える場合もある。
また、近年ではレンズ交換の手間を嫌って「高倍率ズーム」
を常用する初級中級者も多いのだが、高倍率ズームはますます
広い範囲の焦点距離毎での収差補正が、設計上困難だ。
ではどうするのか? というと、ここは難しい。
構図上の判断、画質上の判断、それらを適正にする事を
考慮しながら、ズームレンズを活用する事が基本となる。

望遠端だけを「行ったり来たり」にしないように、中間の
画角でも色々と撮ってみる必要がある、という事だ。
画質や収差に関しては、とりあえずあまり気にする必要は
無いと思う、それが気になるならば技法で回避するよりも
レンズを買い換えてしまう事が簡便な解決策だからだ。
ただし、弱点のあるレンズをあえて使う事で、その弱点を
どのようにして解消していくか? を考えながら機材を
使う事は、ものすごく勉強になる事だ。近年、私が、
オールドズーム等の性能の低いレンズを沢山購入している
のは、そうした古いレンズの弱点を回避する為の練習や
研究の為の「教材」としての意味がとても大きい。
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さて、今回の記事はこのあたりまで。次回記事に続く。