Quantcast
Channel: 【匠のデジタル工房・玄人専科】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

価格別レンズ選手権(1)4万円級レンズ

$
0
0
さて、新シリーズの開始である。
本シリーズでは写真用(稀に例外あり)の交換レンズを
価格帯別に数本づつ紹介し、記事の最後に、その価格別
カテゴリーにおける「Best Buy」(=最も購入に値する
レンズ)を決定する主旨である。
_c0032138_15235120.jpg
このシリーズにおけるルールは以下の通り。


1)「価格帯」(カテゴリー)は、基本的に、そのレンズ
 の購入価格(新品/中古購入を問わない、税込み)を
 元にするが、中古相場は年々低下する場合が多い為、
 2020年代初頭での相場を基準とする。
 希少レンズ等で、プレミアム価格化している場合では、
 本来の、そのレンズの絶対的実用価値および発売時の
 価格から判断して実情に見合う価格帯を決め、それを
「実用価値」としてレンズ購入価格に併せて記載する。
 なお、個人的なルール(持論)により、15万円を
 超える金額のレンズは購入していない(一部例外あり)
 そこまでの高額レンズは、趣味・実用撮影のいずれに
 おいても過剰投資である、と見なしているからだ。

2)選出対象となるレンズの母集団は記事執筆時点での
 所有レンズ約400本から選ぶ。レンズの描写性能に
 ついては、(主に)比較的良好なものを選出する。
 その際、レンズの発売開始時期を1970年~2019年
 までの約50年間に限定する。
(それよりも、古い/新しいレンズは対象外)

3)選出対象となるレンズの種類は、一眼レフおよび
 ミラーレス機用の交換レンズが、ほぼ全てである。
 単焦点、ズーム、対応センサーサイズ等は問わない。
 なお、基本的にコスパの優れたレンズしか購入しない為、
 初級中級層が欲しがるような高価格な(コスパが悪い)
 レンズは一切登場しない。結果、殆どがマニアックな
 レンズばかりとなるだろうが、「無駄に高価すぎる
 レンズを買わない」という持論や啓蒙もある。

4)各価格帯は範囲を持つ。例えば今回の4万円級編では
 概ね3.5万円~5万円位迄の相場(価値)範囲とする。 
 シリーズで想定している価格帯は、2千円級、7千円級、
 1万円級、2万円級、3万円級・・・12万円級である。

5)各価格帯でのBest Buyは、私の個人評価データベース
 の平均点を元に決定する。評価項目は「描写表現力」
「マニアック度」「コスパ」「エンジョイ度」「必要度」
 の5項目で、各0.5点刻みの5点満点、3点が標準だ。
 総合評価が4点を超える場合、「名玉」と称する事がある。

6)各価格帯で、5~7本程度のレンズを選出する。
 合計記事は数12程度、トータルで70本強のレンズ数
 となる予定である。

7)試写時点で、必ず所有(保有)しているレンズを選出
 する、過去所有であったり、未購入レンズは対象外だ。
 言うまでも無いが、所有していないレンズの評価や
 情報提供を行ってはいけない、これは強い持論である。
(世の中のレビュー記事では、購入もしていないレンズ
 について色々と語っているケースを良く見かける。
 その状態では、レンズの性能や長所短所など、何も
 わからない事であろう)

8)各レンズ毎に数枚程度の参考実写例を掲載する。
 その際の母艦(カメラ)は、システム上の組み合わせが
 適正となるものを選択し、同一記事内では同一の母艦を
 重複使用しない(「同一のカメラばかりで撮らない」
 または「システム効率を最適化する」という持論、
 および啓蒙がある)し、また、同一の被写体ばかりを
 撮る事も無い、これは各レンズには、それぞれ得意と
 する被写体分野や撮影技法があるから当然だ。

9)母艦カメラは、全て2010年代に発売された物とする。
 ただし、例外的にRICOH GXR(2009年)を使用する。
 当然、全てがデジタル機であり、銀塩機での実写は
 一切行わない。
 なお、母艦カメラ側に搭載された各種内蔵機能(例:
 エフェクトやデジタル拡大機能等)は、自由に使う事
 とするが、撮影後のPC等での画像編集は最小限の範囲
(若干の輝度調整、若干の構図調整と、縮小)とする。

ここまでが、本シリーズ記事でのルールだ。

----
では、ここから4万円級レンズの対戦を開始する。
まずは、最初のエントリー。
_c0032138_15235189.jpg
レンズは、Carl Zeiss Touit 32mm/f1.8
(中古購入価格 55,000円)(実用価値 約37,000円)
カメラは、FUJIFILM X-E1 (APS-C機)

2013年発売のAPS-C型ミラーレス機(FUJI X,SONY E)
専用、AF準広角(標準画角)レンズ。

ツァイス・ブランドでは珍しいAFレンズ。
・・とは言うものの、現代のツァイス銘レンズは、
全て日本製であり、AF対応は不思議では無い。
ただし、このレンズについては製造メーカー名は
非公開となっている。(=だいたい予想はつくが
証拠が無いので、メーカー名は記載しない)
_c0032138_15235187.jpg
描写力は悪くは無いが、ツァイスブランドのレンズ
であれば、より高い描写力を期待してしまう。
まあ、低価格帯レンズに高級ブランド銘を付けても
ライセンス(ブランド)使用料等を考えると、どうも
「アンバランスだ」という事なのだろう。

弱点としては逆光耐性が低い事だ。この為、フードの
装着は必須であるし、被写体への光線状況にも十分に
留意する必要がある。

また、ボケ質破綻が稀に発生する為、背景をボカした
撮影では要注意だ。まあ、あまり近接できる性能では
無いし(最短撮影距離=30cm、焦点距離10倍則どおり)
ボケを活用した撮影技法よりも、少し絞って平面被写体
を中心とした技法の方が無難かも知れない。

なお、APS-C機専用レンズにつき標準(48mm相当)
画角になる事から、銀塩時代の50mm単焦点標準レンズ
の撮影技法に慣れたベテラン層であれば、50mm標準の

汎用的な使用法を知っていると思うので、そのイメージ
を踏襲すればよい。

ちなみに、1970年代ごろに言われていた、その、
標準レンズに関する技法的な話は、以下の通りだ、
「標準レンズは、絞って撮れば広角レンズ的に使え、
 絞りを開けて撮れば望遠レンズ的に使える、
 という汎用性の高いレンズである」

・・ただまあ、この話は「焦点距離が長いレンズ程、
同じ絞り値でも被写界深度が浅くなる」という特性を
1つの単焦点レンズに適用した概念説明であり、すなわち
「絞り値により、被写界深度が変化する」という
ごく当たり前の写真の原理を啓蒙しているに過ぎない。

よって、現代においては、ユーザーの写真関連知識は
1970年代よりは向上していると思うので、「標準レンズ
を広角的、望遠的に使う」という話は、そのままの意味
では的外れであるし、ピンと来ない事であろう。

しかし、その「広角的に用いる」というのがミソであり、
「少し絞って、中遠距離の被写体に特化して撮りなさい」
という技法が、標準レンズの汎用性の一部を活用した
撮り方であり、本Touit 32/1.8においても、そういう
感覚で撮れば良い、という意味である。
_c0032138_15235191.jpg
総括だが、コスパが悪いので、あまり推奨できるレンズ
とは言えないが、まあ、ツァイスというブランドに
興味があれば、そのジャンルへの入門用に・・

----
では、次のシステム。
_c0032138_15242959.jpg
レンズは、LENSBABY BURNSIDE 35 (35mm/f2.8)
(中古購入価格 34,000円)(実用価値 約38,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2018年に発売された米国製のフルサイズ対応MF単焦点
準広角「ぐるぐるボケ」レンズ。
_c0032138_15243661.jpg
ただし、全ての写真で「ぐるぐるボケ」が得られる訳
では無い。ぐるぐるボケの制御をするのは、超高難易度
であり、初級者から上級層、職業写真家層に至るまで
まず、これのコントロールは困難だと思う。

「コツ」だけ書いておけば、絞りを開け気味で細かく
変更する、近接する、背景を中距離とする、背景の絵柄
を選ぶ、アングルを細かく変えて背景の絵柄を変える、
センサーサイズの大きいカメラを使う、である。

また、ぐるぐるボケレンズ自体の仕様差によっても、
その効果が出易いものがある。私は4本のぐるぐるボケ
レンズを所有しているが、以下、出易いものからの
順位を挙げておく。

1)LENSBABY Twist 60mm/F2.5
2)LOMOGRAPHY Petzval Lens 85mm/F2.2
3)LENSBABY BURNSIDE 35mm/F2.8
4)LENSBABY Velvet 56mm/F1.6

(追記:本記事執筆時点では評価が間に合わなかった
が、2019年に発売されたLOMOGRAPHY Petzval
55mm/f1.7Ⅱは、可変ボケ機構を備えていて、
最も「ぐるぐるボケ」が出易いレンズであった。
→後日別記事で紹介予定)

それぞれ別記事で紹介済みだ。レンズマニアックス
第37回記事では、1) 2)のレンズを徹底比較している。

それと本BURNSIDE 35は、周辺減光をコントロールする
特殊なフード形状の絞りが搭載されている(世界初か?)
この機能は面白いが、「何故周辺減光を出すのか?」と、
写真における意図を十分に考察した上で使うべき機能で
あるから、アート派の上級層向け機能だとも言える。
_c0032138_15243680.jpg
いずれにしても本レンズは利用方法/利用目的が恐ろしく
難解である為、上級マニア層、上級アート層御用達という
感じであろうか。

----
では、3本目のシステム。
_c0032138_15244398.jpg
レンズは、NIKON Ai NIKKOR 135mm/f2
(中古購入価格 47,000円)(実用価値 約38,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

1970年代~1980年代頃のMF単焦点大口径望遠レンズ。
_c0032138_15244355.jpg
当時のNIKKORレンズの大半は、解像感を重視した設計で
ボケ質が固い/破綻する、というものが多かった。
何故ならば、当時のNIKONシステムは報道や学術等での
用途を主要なターゲットとしていたからだ。それらの
分野では、まず被写体がくっきり、はっきり写っている
必要があり、ボケ質等は設計上の優先度が低くなる。

現代のコンピューター設計+非球面レンズ+新硝材
というレンズであれば、解像力とボケ質を両立した
設計が可能(例:SIGMA ART 135/1.8)であるが、
この時代の手動設計で、通常の球面ガラスのみだと、
そうした設計(や、性能を得る事)は困難だ。

で、本Ai135/2を含む、当時のいくつかのNIKKORの
中望遠~望遠レンズでは、解像感優先の設計では無く、
ボケ質にも配慮したバランスの取れたコンセプトと
なっている。

この理由は不明であるが、まあ本レンズの仕様では
報道や学術向けでは無く、アート系、ファッション系
という柔らかい分野に向けてもユーザー層を広げる
意図があったのであろう。

他のNIKKORのようにキリキリとした解像感は無いが、
これはまあ、被写体の種類や、それをどのように撮りたい
か、というユーザー側の用途に依存する話である。

個人的には本レンズの描写傾向は好みであり、それ故
発売後40年を過ぎてまで、依然、こうした対決記事に
ノミネートされる訳だ。(恐らくこの後の本シリーズでは
この時代の他のNIKKORは1本も登場しない事であろう)
_c0032138_15244362.jpg
良い点ばかりでは無く、弱点もある。本レンズを使用時
に非常に重く感じる事だ。重量自体も800gオーバーと
重いが、重心バランスを整えて撮るのが難しく、結果、
ハンドリング性能全般に劣るし、撮影が辛いので、
「エンジョイ度」評価点も下がってしまう。
また、現代の中古相場も、依然、高値安定傾向なので、
あまり誰にでも推奨できるレンズでは無い。

----
では、4本目のシステム。
_c0032138_15244959.jpg
レンズは、TAMRON SP AF200-500mm/f5-6.3 Di LD [IF]
(Model A08)
(中古購入価格 49,800円)(実用価値 約36,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)

2004年発売のフルサイズ対応AF超望遠ズーム。

最大の特徴としては、望遠端500mm級ズームとしては
最軽量(1100g台)である事だ。
この為、APS-C型センサーの高速連写機(例NIKON D300
/D500、CANON EOS 7D/MarkⅡ、SONY α77/Ⅱ等)
との組み合わせで、手持ち撮影が十分に可能であり、
APS-C型で、より望遠画角となる事とあいまって、
最大のパフォーマンスを発揮できる。
_c0032138_15244937.jpg
弱点は、まず内蔵手ブレ補正と超音波モーターを持たない
事であるが、SONY Aマウント用であればボディ内手ブレ
補正機能が有効であり、あるいは、本レンズの主用途は
昼間の屋外スポーツ/屋外イベントの遠距離撮影で
あるから、手ブレの心配は少なく、「換算焦点距離分の
1秒」、すなわち1/800秒以上の高速シャッターが常時
得られるのであれば、手ブレ補正機能の有無は関係無い。
超音波モーター無しは、ほぼ無限遠距離の撮影となる
のであれば、AF置きピンやMF併用で十分に回避可能だ。

本レンズは異マウントで2本所有しているが、SONY A
用を使用する事が多い。前述の内蔵手ブレ補正有り、は
夕方や雨天等の弱暗所においても、ISO感度をあまり
高めずに撮影が可能というメリットがあるからだ。
しかもSONY αフタケタ機では、デジタル(スマート)
テレコン機能により、最大で1500mmの超々望遠画角が
得られる。

しかしながら、1000mmを超える画角では、カメラを
構える際に狙った被写体をピンポイントでファインダーに
捉える事は非常に困難であり、大きく揺れるファインダー
映像は、動体被写体を追い続ける事も困難。もう、この
状態では、内蔵手ブレ補正もまともには動作していないし、
AF測距点(の位置や配置)とかも無意味となってしまう。

手持ち焦点距離限界は、私の場合では1500mm、これを
超える超々望遠画角では、何をどうしても、もはや偶然
でしか撮れない。
超々望遠撮影の経験値を持たないビギナー層では、その
限界値は、もっと低いであろう。そもそも本レンズを
素(す)のままの焦点距離で使った場合でも、撮影者
毎の実用手ブレ限界値を理解していなければ、利用する
事は、まず困難だと思われる。

様々な(自分の)限界値がわかっていれば、本レンズの
実用性は高い。描写力も優れていて、他の望遠ズーム
ではよくある、「望遠域での解像感の低下」の課題も、
本レンズであれば最小限だ。
_c0032138_15245007.jpg
他の課題だが、二重回転式リングの操作性は良く無く、
MF操作が困難だ。シームレスMFでは無いので、MFで使う
ならばSONY上級機のDMF機能を有効活用するしかない。


また、大柄なレンズであり、ショルダー型のカメラバッグ
へ収納できず、専用または汎用の超望遠ケースに入れて
持ち運びする必要がある。

ハンドリング性能の課題は、個人的には重要と見なして
いて、現在においては本レンズは主力では無く、同じ
TAMRONの新型100-400mmか、同等性能のSIGMA製
100-400mm(いずれも2017年発売)に、主力望遠ズーム
の座を明け渡している。これらであれば、若干小型で
あるから、カメラバッグへ、そのまま収納できる。

腕前があるならば、本レンズの購入選択は悪く無い。
中古は少ないが、見ない訳では無いし、あればそこそこ
安価である、上級層、または実践派上級マニア向けの
レンズだ。

----
では、次のシステム。
_c0032138_15245870.jpg
レンズは、CANON (NEW) FD 50mm/f1.2 L
(中古購入価格 55,000円)(実用価値 約35,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)

1980年発売の大口径MF標準高級仕様(L)レンズ。
_c0032138_15245836.jpg
ただし、L仕様であるから写りが良い、という訳では無い。
まあ、ごく普通の写りの大口径標準であり、他の
標準レンズとの差異は、この時代では、50mm/F1.4級
のデファクト(事実上の)スタンダードとなっていた
6群7枚変形ダブルガウス型構成よりも、1枚レンズが
多い程度である。

しかしながら、この時代以前の50mm級標準で、大口径
F1.2級MFレンズは、どれも非常に酷い写りである。
(「最強50mm選手権第7回50mm/F1.2級」記事参照)
我慢が出来ない程であった、それまでのF1.2級標準に
比べれば、本レンズはF1.2ながら、そこそこまともに
写る。それをもって「高画質仕様の「L」だ」と言う
のであれば、その主張は、まあ納得は出来る。

開発の意図は、恐らくだが、この数年前の時代に、
ヤシカ(京セラ)CONTAX RTSが発売を開始(1975年)
その標準レンズCONTAX (RTS) Planar T* 50mm/f1.4
(複数の過去記事で紹介済み、本シリーズにも登場予定)
が「世界最高の標準レンズ」という好評価が市場で
定着してしまった事から、それへの対抗心での開発では
なかろうか?

まあでも、1970年代後半においては、かのCONTAX
(ツァイス)が国産となった事自体がセンセーショナル
な事件であり、それを低く評価する事は許されなった
世情だ。後年に冷静に分析すると、RTS Planar 50/1.4
には細かい弱点も多く、使いこなしは、かなり難しい。
つまり、いつでも誰にでも高描写力が得られるレンズ
だとは言い難い。

その事実は、当時のCANONでもわかっていた事であろう、
ライバル社の新製品は、それを入手して徹底的に分析
しただろうからだ。当時のマニア層や評論家での
「ツァイスは凄い!」という、単なる「思い込み」での
意見や評価とは、まるで次元の違う仕事だ。

なので、CANONでは「この程度で世界一とは・・ 
我々はもっと凄いレンズを作れるぞ」という意地で
本レンズを開発したように思えてならない。

まあでも、少々空振り感もある(汗) やはり最大
の課題は、開放F値をF1.2まで明るくしてしまった
事であろう。これによる諸収差の増大は、レンズを
1枚追加した位では抑えきれておらず、「凄いレンズだ」
という印象や評価には繋がらない。

「何故、無理をしてF1.2にしたのか?」は、企画方針が
あったのだと思われる。ブランド力で武装したCONTAXに
勝つ為には、彼らのF1.4を数値的に上回る、凄い仕様
のものを出すしか無いでは無いか・・

まあ、ある意味、不運なレンズとも言えるかも知れない。
本レンズをF1.4で設計してくれていたのであれば、
本レンズの企画上の高描写力は、技術的に十分に反映
され、結果的に、各社F1.4級標準の勢力図を塗り替え、
「6群8枚、非球面入り」という構成が、その後の
F1.4級標準のデファクトとなったかも知れない訳だ。
_c0032138_15250622.jpg
それから、本レンズは、価格が高いのが弱点だ。
その最大の理由は、当時では手作業で磨く必要があった
「非球面レンズ」を採用しているからであろう。
(同時代の他社の非球面入りレンズも、すべて同様に
極めて高価であった)

現代では製造技術の進歩により「ガラスモールド非球面」
という製法が使える。これはまあ「金型で作る」という
訳だから、職人等が一々精密にレンズを研磨する必要
もなく、安価に素早く非球面レンズの量産が可能だ。
(この技術は、この時代の後の「写ルンです」の大量
生産での、「プラスチック非球面を金型で作る技術」
から発達したものだと思われる)

だからまあ、現代における非球面や新硝材をふんだんに
使った新設計のレンズの方が、少なくとも諸収差補正の
側面からは確実に良く写る訳であり、よって、わざわざ
古い時代に無理をして作った未成熟なオールドレンズを
高価な相場で入手する必然性は皆無だ。

本レンズは、実用派の全てのユーザー層には非推奨だ。
CANONにおける標準レンズの歴史を研究する、という
特殊な目的の場合のみ、かろうじて推奨可能である。
(「特殊レンズ第35回CANON新旧標準レンズ編」参照)

----
では、今回ラストのシステム。
_c0032138_15251222.jpg
レンズは、smc PENTAX-FA ★ 85mm/f1.4
(中古購入価格 43,000円)(実用価値 約48,000円)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

1992年頃に発売のAF大口径中望遠レンズ。
_c0032138_15251220.jpg
これも不遇なレンズと言えよう。
バブル崩壊後の、AF一眼レフが不人気の時代での発売で
殆どユーザー層から注目されていなかった。
(注:バブル期の企画と思われる同時代のPENTAX Z
シリーズの「テイスト」に合わせて設計されている)

本レンズ以前のMF時代のPENTAX-A 85/1.4も同様に
AFへの切り替わり時代で、不人気で売れていなかった
上に、それに引き続きの本85mmレンズの不人気だ。
(→時代のタイミングが悪かった、とも言える)

だが、PENTAXでは「85mm/F1.4という仕様そのものが
売れない理由なのか?」という疑念も発生してしまった
のかも知れない。後年、2000年頃に(超名玉の)
smc PENTAX-FA 77mm/F1.8 Limitedが発売されると、
本レンズは置き換わるように、ひっそりと生産終了と
なってしまっていた。ちなみに、その時代の両レンズ
の定価は、いずれも10万円を僅かに切る程度だ。
(→さほど高価では無い点も、注目すべき事実だ)

仕様も価格も類似している両者を同時にラインナップ
できる程には、この、デジタル化直前の時代のPENTAX
では、そこまでの余裕が無かった事であろう。
(この後、PENTAXは事業再編の荒波に巻き込まれる)

だが、それらの事情により、PENTAXには85mm/F1.4の
スペックを持つレンズが存在しなくなってしまっていた。
(注:この状態は2020年のDFA★85/1.4発売まで続く)

他社には全て、85mm/F1.4級レンズが存在した(注:
この事が、PENTAX版の85/1.4が売れなった最大の
理由であろう、初級層と中級マニア層に2分されて
しまうPENTAXのユーザー層には85/1.4は売れない。
買うとしても、他社製品に目が行ってしまうからだ。
それに、本レンズはデザイン(見た目)が格好悪い
のも、大きな課題であった)

・・で、1990年代後半の中古カメラブームの時ですら、
本FA★85/1.4は、マニア層にも不人気であり、
私は、その性能からは安価と思われる(コスパが良い)
相場(43,000円)で、本レンズを入手している。

実際に使ってみると、本レンズの描写力は悪く無い。
まあでも、基本設計は他社と同様のプラナー系構成だ、
しかし、他社85/1.4級よりも、ボケ質破綻頻度が少なく
実用上での安定性は優れている、という評価を下した。
(他社製85/1.4の歩留まりはとても悪く、3%程度
しか、及第点となる写真を撮る事ができなかった)

PENTAXから85mm/F1.4が無くなってしまった事で、
上級マニア層においては、例えば85mmマニアという
人種も多いので(私もその類かも知れない・汗)
「他社の85mmはだいたい揃えた、残るはPENTAXだけだ、
 どんな写りをするのだろうか?」等という、一種の
「コンプリート願望」的なニーズも発生してしまい、
まず、MF時代のA85/1.4(注:本レンズとはレンズ
構成が異なる)が、レア物として、プレミアム価格化
してしまい、さらには、本レンズも2000年代を通じて
高値相場へ移行、プレミアム化してしまっていた。

2010年代半ばにもなると、やはり本レンズは売れない
ので、異常すぎる高値相場も下落、近代においては
やっと発売時定価(約10万円)を下回っては来たが
依然高値傾向であり、今から買うにはコスパが悪すぎる。

描写力は、他のプラナー系85mm/F1.4と比較して、
悪い方では無いが、かと言って感動的にまで凄い写り
とは言い難い。まあ良くできた銀塩時代の普通の85mm
レンズであって、近代の複雑な光学系の最新鋭85mm
レンズには勝てない事は言うまでも無いであろう。

よって、無理をしてまで、高値相場の本FA★85/1.4を
探す必要は無い。

(追記:2020年には、PENTAXから近代設計の
「HD PENTAX-D FA★85mm/F1.4ED SDM AW」が
新発売されている。現代ユーザーならば、それを
買う事で「PENTAXに85mmレンズが無い!」という
不満を解消する事は可能だ。
ただし、新型85mmは、定価28万円+税、と異常に
高額な高付加価値型レンズであり、当然私も未所有で
あるから、その性能等は全くわからない。
また、今回の記事における4万円級という価格帯の
レンズと比較するような物でも無いであろう)
_c0032138_15251212.jpg
どうしても本レンズの、やや独特な描写傾向が知りたい
のであれば、2009年に発売された smc PENTAX-DA ★
55mm/F1.4 (SDM)が、本FA★85/1.4と極めて類似
した描写傾向を持つ。 


DA★55/1.4は、APS-C機専用レンズであるが、
85mmx0.65≒55mmという計算式からもわかるように
FA★85/1.4を、2/3程度にスケールダウンして設計
された「ジェネリックレンズ」(=過去の名レンズの
設計を、ほぼそのまま踏襲し、スケールダウンしたもの)
である可能性が極めて高い。
(DA★55/1.4をAPS-C機に装着する事で、
換算83mm/F1.4の画角のレンズとして使える、つまり
FA★85/1.4の「用途代替」が可能となるレンズである)


無理をしてFA★85/1.4を入手するならば、その予算で
ジェネリックのDA★55/1.4と、超名玉のFA77/1.8の
両方を同時に入手する方が、遥かに賢い買い物となる。

----
では、最後に各選出レンズの評価点を記載する。

1)Touit32/1.8=3.8点
2)BURNSIDE35 =3.9点
3)Ai135/2 =3.8点
4)SP200-500 =3.9点
5)NFD50/1.2L =3.0点
6)FA★85/1.4 =4.0点→非推奨

本ブログでは個人DB評価総合(平均)点が4.0点を
超えると「銘玉(名玉)」と称している。

まあ、3.8点以上あれば、買って損は無いと思うが、
今回は、そうした高得点レンズが僅差で5本もある。
一応、最高得点はFA★85/1.4であるが、このレンズは
セミレアな為、不当なプレミアム価格がついてしまって
いる。実用価値は4万円台後半がいいところだし、私の
購入価格もそのあたりだが、現代の中古相場はその2倍
程度もする、その金額ならば絶対に推奨はしない。

それと、各レンズは全て用途がずいぶんと異なる為、
結果的に「Best Buy」は決め難い状態となった(汗)
まあ、とは言え、いずれも悪く無い性能のレンズ群だ。
これらの得点上位レンズが、記事中で挙げた「実用価値」
の価格よりも安価であれば、購入検討の余地はある。

----
さて、今回の「4万円級レンズ編」記事は、このあたり
迄で、次回記事に続く。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>