過去の本ブログのレンズ関連記事では未紹介の
マニアックなレンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回は、未紹介レンズ4本を取り上げる。
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ではまず、今回最初のレンズ
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レンズは、Docooler 35mm/f1.6
(中古購入価格 9,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)
発売年不明、正確なメーカー名も不明の、中国製と思われる
単焦点MFレンズ。
なにせ、レンズにはメーカー名も型番も何も書かれていない、
書いてあるのは、焦点距離と口径比のみである。
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μ4/3機用で購入したが、Eマウントのフルサイズ機および
APS-C機に装着してみると、一応、本レンズはAPS-C型の
イメージサークルに対応している事がわかった。
ただまあ、周辺収差のカット等の目的からすれば、μ4/3
機で使うのが良さそうだ。その場合、換算70mmで開放
F1.6の、まずまず使い易い画角仕様となる。
長所としては、ローコストレンズの割りに、高級感が
ある事だ。金属鏡筒で質感が高く、ヘリコイドのトルクも
適正、絞り環もノンクリック連続方式でスムーズである。
そして安価であるし、非常に格好の良いフードも付属して
いた(注:これは製品の付属品では無いかも知れない?)
また、描写力もさほど悪くない。
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最大の長所としては、最短撮影距離が18cmと異様に寄れる
事である。海外製オールドレンズのフレクトゴンが同等の
18cmであったが、とっくの昔に生産終了となっている為、
近代の35mmレンズにおいては、TAMRON SP35/1.8(F012)
が、最強の20cmであったものを上回る近接性能だ。
(注:35mmマクロ、および準マクロレンズを除く)
ただ、本レンズはフルサイズ対応では無い為、これは
例外的に扱うのが良いであろう。
価格、という点については、もう本レンズは生産完了に
なっているかも知れず、発売時の価格が不明であった。
中古約9000円は高価すぎる買い物だったかも知れないが、
他の同等品質の中国製レンズと価格に大差がある訳でも無く、
本レンズの近接性能を考慮すれば、コスパ的に許容範囲だと
見なしている。
弱点だが、絞りを開けた場合では、ボケ質の破綻が頻発
するので、頻繁な絞り値コントロールが必須となる。
ただまあ、絞りは、無段階式であるので使い易い、という
面もある。また逆に、手指の感触では絞り値がわからない
ので、たまに絞り環の指標を確認する手間も出てくる。
![_c0032138_16344501.jpg]()
出自が全く不明なので、故障時のサポート等も不安であろう、
現行流通品でも無い模様なので、入手性も悪い。
よって本レンズを「指名買い」する必要性は無く、あくまで
たまたま見かけた場合での、上級マニア向けレンズ、
という結論にしておこう。
総合的には良いレンズだと思うが、入手性が悪い為に、
あまり細かい点を色々と述べても、意味が無い。
説明は早々に切り上げよう。
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さて、次のシステム
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レンズは、日東光学 Tele Kominar 135mm/f3.5
(ジャンク購入価格 800円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)
日東光学(現:株式会社 nittoh)は、現在も長野県に
ある光学機器メーカーである。(工場をいくつも持つ
大きな企業である)
現在では、自社ブランドでの写真用交換レンズの展開を
行っていないが、かつてKominar(コミナー)のブランド銘
で、銀塩コンパクトカメラ本体、それから、M42マウントや、
その他一眼レフ用の交換レンズを製造販売したり、
自社ブランドでは無いが、銀塩コンパクトカメラ用レンズ、
APSカメラ用レンズも、多数OEM供給されていた、との事で
ある。
![_c0032138_16350328.jpg]()
また、近年でも、あまりブランド銘が表に出る事は少ないが、
デジタルコンパクト機用レンズを始め、様々な光学機器の
レンズユニットの設計製造を手がけている模様だ。
マシンビジョン用レンズの世界でも、そこそこ有名なので、
その分野に興味がある私としては、いずれ同社製レンズも
入手したいとは思っているが、例によってマシンビジョン
用レンズは個人では入手しずらく、少々困った状況である。
Kominar銘で一眼レフ用レンズを生産していた時期は不明、
恐らくだが1960年代~1970年代頃と思われる。
1980年代のAF化に追従せず、そのあたりで自社ブランド
の一眼レフ用交換レンズ事業から撤退して、OEM製造に
特化したのであろうか・・?
(参考:米国Vivitar社に係わる、海外の資料において、
VIVITARレンズOEM供給元としての「KOMINE」(コミネ)
の名前が見られる、多分これは「日東光学」の事であろう)
さて、そんな歴史を踏まえ、本レンズKominar135/3.5
であるが、プリセット絞り構造の古い時代のレンズで
ある、恐らくは1960年代の製品だろう。
マウントはミノルタMDであった。ただし、当時であれば
「MD」とは呼ばず、AE機構を持たない「SRマウント」と
呼んでいたかも知れない(参考:MINOLTA SR-7=1962年
SR-T101=1966年、SR-T Super=1973年、等)
135mm望遠レンズとしては、細身で小型軽量である。
外観がボロボロのジャンク品であるが、写りはどうか?
![_c0032138_16350499.jpg]()
描写力であるが、使っていて気づく課題としては、
逆光耐性が低い事だ。ちょっとした逆光状態でも
コントラストがかなり低くなる。
でもこれは、この時代(1960年代)であれば、
多層コーティング技術が未発達なので、まあ、やむを
得ない節がある。
逆光耐性を除いては、あまり描写力的な不満は感じ難い。
μ4/3機で周辺収差をカットしているのも功を奏して
いるのか、解像感もあるし、ボケ質破綻はたまに発生
するが、課題となるほどのレベルでは無い。
なお、レンズ構成などは不明である。
総合的には1960年代オールドとしては、かなり優秀な
類に属するレンズだと解釈できる。
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ブランド銘は世の中に知られていないが、長期間、OEM供給
の裏方としての歴史と実績を持つ企業だ、基本的には高い
技術力と生産力を持っていると推測できる。
初級中級層では、聞きなれないメーカーの製品であると
「聞いた事が無い、三流メーカーか? 良く写る筈が無い」
と、見下してしまうケースが大変多いのだが、世の中には
一般層には知られていない事実や真実が沢山隠されている。
いつも言っている事だが、過剰なブランド信奉は禁物だ。
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では、次のシステム
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レンズは、TOKINA AF210 70-210mm/f4-5.6
(中古購入価格 1,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)
発売年不明、恐らくは1990年前後の発売と思われる、
AF望遠ズーム。CANON EFマウント版だ。
本シリーズ第3回記事「ジャンク編」に登場したレンズと
同型だが、異マウント品である。こちらのレンズの方が
やや程度が良く、ジャンク品と言うよりは、中古品相当と
しておこう。
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AF時代最初期のローコスト望遠ズームであり、製造コスト
の制約上、あまり高い性能は与えられていない。
これは、ビギナー層が考えるように、「TOKINAだから」
といった、メーカーの知名度などでランク分けをするのは
的外れであり、市場戦略上、どの程度の価格で、どの程度
の性能の製品を市場に投下したら良いのか? という要素
が、かなり大きい。
それもそのはず、このレンズの時代は、MFからAFへの
転換期であって、世間の誰もが「AF一眼レフが欲しい」と
その時流に乗ろうとしていた。まあでも、いつの時代の
世の中でも常であるが、ビギナー層は、カメラ本体の事
ばかり考えていて、交換レンズの事前検討を全く行わない。
だから、AFカメラは新品で高価に買ったものの「AFの
交換レンズが足りない!」と、後で慌ててしまう訳だ。
そうしたビギナー層に向けて「安価にAF望遠ズームを
提供する」というコンセプトの商品が、本レンズであるの
だから、コストダウン優先となり、性能が多少犠牲になる
事はやむ得ない訳だ。
それ故に、本シリーズ第3回記事での同型レンズの評価は
あまり芳しいものでは無かった。そこで今回は、出来るだけ
本レンズの課題を回避して使っていこう。
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具体的な課題としては、逆光耐性が低く、フレアっぽくて
コントラストの低下が見られる事、ボケ質が悪く、ボケ質
破綻が出る事、望遠端での解像感の低下、AF速度・精度等
がある。
これらの回避には、まずAPS-C型機以下で周辺収差をカット、
僅かに絞り、開放を用いない。できるだけフラット光や
室内で用いる。ボケ質破綻回避技法を行うか、一眼レフ使用
で、それが困難ならば、できるだけ平面被写体に特化する。
さらには、ズーミングを、あまり望遠端に近いところまで
伸ばさない。エフェクトを活用し、表現力の低さを緩和する。
課題が出そうな被写体を選ばない。またAFの課題は適宜MFを
併用して回避する、等である。
ちなみに、これらはオールドレンズを使う場合の基本的な
対処方法と、ほぼイコールである。
世の中の中級マニア層等では、オールドレンズを使う際に
「母艦は何が良いのか? フルサイズ機かAPS-C機か?」
といった表面的な機材スペックの話ばかりをしているケース
を良く見るが、そういう単純な話ではなく、システム構築上の
性能バランスの管理に加えて、撮影技法上でのコントロールが
オールドレンズ使用時の要点の大半を占める。
まあ、そういう工夫を複合的に行う事で、描写性能が低い
レンズであっても、ある程度は、まともに写るという事だ。
![_c0032138_16351245.jpg]()
で、例によって、これは「ワンコイン・レッスン」である。
つまり、性能が低そうなジャンクレンズを安価に買って
それの課題を探し出しだし、それを回避する技法を模索する
という練習方法である。これらは母艦(カメラ)を
あれこれと変えて試写するよりも、ずっと有益な練習・研究法
なので是非試してみると良い。まあすなわちカメラやレンズ
の性能を引き出すのは、ほとんど全て利用者側の責務である。
ちなみに、こういう事はカメラやレンズに限らず、他の
様々な商品分野でも同じであろう。高価なゴルフクラブを
買っただけでスコアが向上する訳では無いし、高価なギター
を買ってみても演奏が上手に聞こえるようにはならない。
あくまで、機材や道具を使いこなすのはユーザー側の責任だ。
ただまあ、高価な道具を買った事により、練習の意欲が
沸いて、結果的にスキルアップするケースは多いにありうる、
だからまあ、そういう目的があるならば、高価なレンズや
カメラを買う事は否定しない。けど逆に、自分のスキル不足を
棚に上げて、高価な高性能機材でそれをカバーしているような
状態であれば、スキルアップもあまり期待は出来ないであろう。
つまり、低廉な低性能機材(道具)を用いてスキルアップの
練習を行う事は、私の感覚からは、とても効果的な手段だ。
低性能機材を使う事にメゲないのであれば、それらの弱点を
回避する手法を見出す事は、(ワンコイン)レッスンとして、
極めて効率的でコスパに優れる状況となる。
これはレンズに限らず、他の分野の「道具」でも同様だ。
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次は、今回ラストのレンズ
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レンズは、NIKON AF-S NIKKOR 58mm/f1.4 G
(中古購入価格 110,000円)(以下、AF-S58/1.4)
カメラは、NIKON D5300(APS-C機)
2013年発売の高付加価値仕様大口径AF標準レンズ。
発売当時、NIKONからは「レンズ収差を綿密に解析できる
ソフトを自社開発し、それを元に優秀なレンズの設計が
出来る」(別名では「3D(三次元的)ハイファイ」とも)
という風に発表されていたが、当然、この手の独自ソフトの
詳細は、高度な知的財産の為、社外秘(企業秘密)であるし、
その説明も、極めて専門的で難解、かつ「曖昧」であった為、
(=まあ、詳細を知られたく無いから、曖昧になる訳だ)
一般層には理解されず、程なくして、その話は世間からは
忘れ去られてしまっていた。
だが、「そのソフトを元に開発された、”3Dハイファイ”
シリーズとして、ボケ質が優秀なレンズ(群)の、第1弾の
商品が、本AF-S58/1.4となっている」という話は、一般層
やマニア層にも、そこそこ有名だ。
![_c0032138_16351982.jpg]()
でも「そのソフトにより開発された」という世間での
解釈(評判)は、実は、ちょっと違っていると思う。
レンズ設計は、あくまで別の光学設計ソフトを用いて
行われるだろう、しかし、その手の光学設計ソフトでは
全ての収差が、どのように描写力に影響するか?
といった細かい点迄は、多分、良くわからないだろう。
(注:簡単な画像シミュレーション機能や、MTF等の
収差特性グラフ等は表示する事が出来る筈だ)
そこで、NIKONでは「解析専用のソフト」を別途開発した
のであろう、レンズ設計ソフトで出来上がった構成を
そのソフトで解析すれば、従来では良くわからなかった
様々な描写力に係わる要素がわかってくる。
(この実例は、後述する)
まあ、現在に至っては、その設計ソフトと解析ソフトを
一体化しているのかも知れないが、そこは良くわからない、
というか、そのあたりはどうでも良く、「設計」と「解析」
の二段構えの処置が必要である事は間違い無いであろう。
つまり、光学設計ソフトで作ったレンズ(注:実際には
シミュレーションであって、実物は作らないだろう)を、
解析ソフトで検証しダメ出しをする。そこからさらに改良
された、また別の構成も、それもダメ出しし、そうした
気の遠くなるような作業を繰り返した結果、本レンズが
出来上がったのであろう。
そう聞くと凄そうだが、まあ、どんなレンズでも、いや
全ての工業製品において出来上がった試作品を厳密に検証
して改善を施していくのは、研究開発全般で当然の事だ。
むしろ、そうした事が出来なかった、あるいは、やって
いなかった事が問題であろう。カメラ界全般でも、レンズ
やカメラにおいて、実用的に課題となる弱点を持つ製品が
そのまま市場に出回ってしまった実例は、(NIKONを含め)
残念ながら、いくらでも存在している。
だから、本ブログの機材評価記事でも「本当に、誰かが
このシステムで実写してから製品化しているのか?
あまりに単純な仕様ミスを見逃しているじゃあないか!」
と、キレかけてしまう事も良くある訳だ。
まあでも、それは「目で見える事象しか対応できなかった」
という要素もある。エンジニア等は、目で見える数値的な
性能には一切妥協しないが、操作系、感触性能、実用性等
の個人の経験や感性や感覚に依存するような部分までは、
その評価スキルを持っている事は、むしろ極めて稀だ。
そもそも「そんな事は、オレ達の仕事では無い」と思って
いるかも知れない。
メーカーはもとより、世間のユーザー層や専門評価者層
でも、概ね「目で見える部分」しか評価していない。
だから、たとえばレンズの性能評価を、ユーザーレベルで
行う際にも、解像感(力)、歪曲収差、逆光耐性、色収差、
周辺減光、と、だいたいこのあたりの、写真を見さえすれば
誰にでもわかるような項目内容しか評価せず、これらが優秀
であれば「良いレンズだ」と評価(錯覚)する事が殆どだ。
でも、それは基本的には誤りだ。レンズ性能のごく一部
しか見ていない訳だから、ボケ質の良否、ボケ質破綻頻度、
ボケ遷移、内面反射やコントラスト特性、MF操作性と感触
ヘリコイド回転角、指標類の見やすさ、使いこなしの困難度、
エンジョイ度、重量バランスやハンドリング性能、デザイン、
操作に関わる音量や音色、等、こういった実用上で重要な、
または製品としての愛着を持てるか?といった感覚的な
要素は、まるっきり評価の対象から外されてしまっている。
この状況が酷くなり続けると、レンズを作るメーカー側でも
解像力や歪曲収差等、ユーザーの誰が見ても、明白にわかる
部分だけ重点的に性能を強化させ、その他の要素に無頓着な
レンズが、世の中に沢山出回ってしまうかも知れない。
事実、そんなレンズが近年では多く、しかも、その事で
ユーザー側が「高性能なレンズだ」と思い込んでしまうから、
そうした商品は付加価値が高く(高くても売れる)、結果
とても高価な値づけになり、コスパが極めて悪くなる。
おまけに、「モノ」としての価値感覚は年々低下しつづけ、
高騰した価格に見合う存在感を持つ製品は非常に稀だ。
(本レンズであっても、20万円以上もする高額商品とは
思えない程に安っぽい作りで、所有満足感が皆無に近い)
これは個人的には、正しい方向性とは思っていないのだが、
世の中は確かに、そう動いているので、実用性が高くて、
所有満足度が高く、使っていて楽しいレンズ等は、どんどん
減って行くばかり、という極めて残念な世情だ。
で、本レンズAF-S58/1.4も、実際の設計コンセプトを理解
されず、表面的な評価だけに留まっているという、そうした
状況に陥ってしまった不幸なレンズかも知れない。
ボケ質を高めるというコンセプトがあるが故に、いままで
ユーザーの誰しもが、あまり気にする事がなかった類の
収差を、前述の「解析ソフト」等を用いて厳密に優先的に
補正していると思われる。
でも、そうすると、これまで「目に見える性能」として
重要視されていた「解像力(感)」等については、若干だが
補正の優先度が下がる。何故ならば全てのレンズ性能を完璧
に整える事は出来ず、仮に無理をして、それを目指したら、
大きく重く高価な三重苦レンズとなり、それは実用範囲外と
なってしまうからだ。(例:本シリーズ第38回記事の
SIGMA A40mm/f1.4は、1200gもある化物レンズであり、
普段使いができるレベルでは、もはや無くなっている)
その為、本レンズの場合は、いままで世の中が評価しない
部分の性能を高めた結果、一般ユーザーから見える範囲の
性能は低い。だから、本レンズは一般的には不人気であり、
下手をすれば「クセ玉」やらとも呼ばれて、中古市場には
玉数が多数溢れている状況だ。
(参考:NIKONレンズの中古相場基準は定価の60%だ。
この比率からは、本レンズの適正中古相場は約13万円
(税込)となるが、それよりも相場がやや安価であるので、
これは中古市場においては、不人気レンズだ、と見なせる)
「価格が高価(発売時21万円+税)だから良いレンズだ」
と思い込んで購入をしたビギナー層や富裕層も多かった
事であろう、だけど、本レンズの設計コンセプトの真意を
見抜くのは、残念ながら初級中級層では、まず無理だ。
「開放からシャープに写るレンズが良いレンズだ」と
思っているならば、本レンズを手放し、そういう風に
カリカリにチューニングされた現代的レンズを買えば良い
と、多くの初級中級層は思ってしまう事であろう。
![_c0032138_16355643.jpg]()
さて、本レンズの設計コンセプトにおいて、良く比較
されるのは、Ai Noct-NIKKOR 58/1.2 (1977年)
であろう(注:未所有につき、詳細には言及しない)
これは、「非球面レンズ」を採用した最初期(注:
世界初では無い)のレンズであり、絞り開放付近での
「コマ収差」の補正を重点的に行った設計であった。
つまり、点光源の多い夜景撮影で、絞りを開けても
高い解像力や優秀な描写性能を発揮できる。
この為「ノクト」(=夜の)という名前が冠されている。
しかし、このレンズは、当時の他の標準レンズの、3倍
以上も高価なレンズだった為、当時のユーザー層には
「値段が3倍も高価ならば、とても高性能だ」という
思い込みが起こり、高価すぎて当然販売数も少なかった
ので、後年には完全な「投機対象」となってしまった。
つまり「希少価値」により、中古相場が大きく高騰、
30万円以上という超高値相場もざらであった。
ただ・・・ 私は、この「ノクト」を実用撮影に
使っている人を殆ど知らず、それを使って実際に撮影
している人も、何十年間も1度も見た事が無い。
まあつまり、完全なる「コレクターズ・アイテム」と
なってしまっているレンズであろう。
で、本レンズは「ノクトの再来」という訳では無いと
思われる。前玉に非球面を採用している設計はノクトに
類似しているが、「コマ収差補正による点光源解像感の
向上」と「像面湾曲や非点収差の補正によるボケ質の向上」
は設計コンセプトが異なり、むしろ正反対の思想だ。
スペックが似ている、という事だけで、設計思想まで
同じだとは限らない。そして、時代背景も大きく違う訳
であり、現代での超高感度機を使うならば、夜景撮影に
求める要素も、銀塩時代とはまるで異なってきている。
![_c0032138_16351997.jpg]()
(注:上写真はエフェクトを使用)
さて、ここまで本レンズの母艦として、NIKON D5300
を使用してきたが・・ この理由は、この機体の
ピクセルピッチは約3.9μmと、デジタル一眼レフの
中ではかなり狭く、かつローパスレスである事だ。
つまり、解像力の高いレンズの母艦として向く機体だ。
本レンズの特徴(特性)とは、やや異なるかも知れない。
でもこれは、「限界性能テスト」という研究の為の
要素もある。(注:画素ピッチの件よりも、D5300では
本レンズとの組み合わせでは、そもそもAF精度が厳しい)
で、何故、こうした普及機がそういう特性を持つのかは
エントリー(ビギナー向け)市場では、単純に画素数が
大きいカメラが好まれるからである。
各社の製品ラインナップを良く見てもらえればわかると
思うが、一眼レフの高級機の方が、画素数が少ない事も
多々ある。
つまり現代の中上級者であれば、必ずしも「画素数が
大きい事が良い事ばかりでは無い」という事実を良く
知っているからである。ここの詳細を述べていくと
際限なく記事文字数を消費するので割愛するが、他の
様々な記事でも、そうした原理は述べてある。
まあつまり、良くわかっているユーザーならば、
2000年代におけるメーカー間の「画素数競争」に
踊らされた事を反省していて、各自の実用上の範囲内で
適正な画素数や、それに合うレンズというものがある
という事実を、よく勉強してわかって来ている、という
事である。今時で「画素数の多いカメラが良いカメラ」
だと思っているならば、もうそれは完全なビギナーだ。
では、ここで一眼レフ現行機としては、最もピクセル
ピッチが大きい(広い)類と思われる、NIKON Df
(ピッチ=約7.2μm)に母艦を交替する。
こちらはオールドレンズ等の解像力の低いレンズの
母艦として適するカメラである。
![_c0032138_16360536.jpg]()
NIKON Dfであれば、本レンズの特性にマッチする事で
あろう。
ただまあ、ちょっと考えすぎでもあったかもしれない。
NIKON D5300のピクセルピッチが約3.9μmで
あれば、レンズ側必要解像力は約128LP/mmとなる。
銀塩時代のレンズならばまだしも、今時のレンズで
あれば、よほどのローコストレンズでもなければ、
128LP/mm程度の性能はクリアしている。勿論本レンズ
もそうであろう、D5300で限界性能をチェックできる
状況では無かった。
また、本レンズのMTF特性図を見ると、画面周辺で急激に
解像力が落ち込む傾向が見られるが、その点においても、
D5300はAPS-C機であるから、そういう特性はカット
されていて、問題点は緩和される。
それと、NIKON Dfのピクセルピッチでは、僅かに
約70LP/mm程度が、要求されるレンズ解像力になるが、
トイレンズでも無ければ、通常レンズでここまで低い
性能のものは無いであろう。オールドレンズを使う際に
も安心して使える機体である。
![_c0032138_16360507.jpg]()
さて、ここからやっと本レンズAF-S 58/1.4固有の
話となる。
外観が奇妙なレンズである。NIKON Fマウントの口径が
狭い事とあいまって、前玉が大きく(φ72mm)て
尻すぼみとなっていって、不思議なフォルムだ。
ただまあ、大きく重く、という事態に陥っていないのは
幸いであり、例えば、重量だが、近代の新鋭高性能
単焦点標準レンズの800g~1.2kgに対し、本レンズでは
385gと、半分以下に収まっている点は利点である。
(・・と言うか、高性能レンズとしては、拍子抜けして
しまうほど軽い。勿論、その事は悪く無いが、なんだか
中身が「スカスカ」な印象で、高級感が皆無という感想
も無きにしもあらずだ)
まあ、Fマウントの口径が、今から60年も前の規格で
あるが故に、小さい(φ44mm)という事で、レンズ設計
上の自由度が無く、弊害になっていた事は確かだと
思われる。特にそれは、大口径レンズ等で後玉を大きく
しようとした際に、マウント径が仇となって、それが
しにくい。
NIKONは、約60年ぶりに2018年より、フルサイズ
ミラーレス機用のZマウントで、ようやくφ55mmと
マウントの大口径化を行った。これの効能をビギナー
層にまで、わかりやすくアピールする為、NIKONでは、
F0.95の超大口径レンズを、発売前からアナウンスや
参考展示していた、つまり、「マウント径が大きく
なれば、こういうレンズも作れるのです」と知らせる
為のプロパガンダであろう。
まあ別に悪くは無い、マウントの大口径化は歓迎だ。
ただ、それにより旧来のFマウントレンズの互換性は
薄れてしまう、勿論(電子)マウントアダプターが
存在しているが、旧レンズのパフォーマンスを最大に
発揮できるものでも無い事であろう。また、大口径
マウントレンズを新規購入した際、他社機での利用は、
ほぼ不可能となる。
ただ、このあたりの話については、私はZマウント機を
「コスパがとても悪い」と見なし、まだ購入していない
ので、詳細の言及は避ける。
さて、本レンズ自体の性能であるが、まず、ボケ質に
ついては、自作の解析ソフト「Trans Focus」を用いて
「ボケ遷移」を分析してみよう。
![_c0032138_16360524.jpg]()
何故、こうしたソフトを自力開発したのか? は、
本レンズのように、メーカー側が、ユーザー側が目で
見える範囲「以外」の性能を強化した、と言うならば、
その効能をユーザー側として確認する為である。
さもないと、メーカー側が「ここが凄いのです」と
言っても、それをユーザー側で確認する術が全く無く、
メーカー側の言うがままに、高価な商品を買わされて
しまう恐れがあるからだ。それでは「ユーザーの負け」
となってしまう。それは悔しい話だと思っている。
それと、知的好奇心や研究要素もある。いままでボケ質
やボケ遷移については、ユーザー側での感覚的な評価
しか出来なかった。それは、人それぞれに評価方法も
スキルも異なる為、ボケ質の良し悪しは定量的な評価が
出来なかったり、それ故に、これまでは「人それぞれに
異なるものは、公式な評価結果としては好ましく無い」と
いう風潮もあった事であろう。今時のコンプライアンス
では「個人の感想です」と書かないといけないのかも
知れない(汗)・・という、世知辛い世情でもある。
そういう状況の中で、「誰が見ても一目瞭然、経験的な
感覚値を持っていなくても評価ができる」という要素は
重要である。だからNIKONでも収差解析ソフトを作った
のであろう(まあ、その中身の詳細は不明であるが・・)
そして、この自作ソフトは「撮った写真の事後解析」
しかできない。NIKON側(メーカー側)では、レンズ設計
の一環として、撮る前の状態でも、様々な被写体位置や
距離からの極めて多数の光路をコンピューターで計算させて
シミュレーションする事が可能だ、そうした空間的な
特徴を制御する設計方針、設計思想が、NIKONで言う所の
「三次元的ハイファイ」であろう。
しかし、その詳細は一種のノウハウであり知的財産でも
あろうから、一般層に向けては非公開だ。
それをユーザー側で理解する事は、たとえ自作解析ソフト
を使ったところで依然、理解困難である。
それから、こちらの自作ソフトも高度な知的財産である為、
これを公開したり販売したりするつもりは毛頭無い。
まあ、ユーザー側でレンズの評価スキルを高める為には、
こうした特殊な事も必要な時代になりつつある、という
状況だと思ってもらえれば良いであろう。
現代の情報社会では、誰かが「思い込み」で言った事が、
その真偽を問われないまま広まってしまうケースが多い。
その情報がフェイクかどうかを確かめるには、より高度で
論理的な検証が必要になる訳だ。
さて、ボケ遷移解析ソフト「Trans Focus」の結果では、
後ろボケに対する遷移が良好である事が見てとれる、
「アポダイゼーション並み」とまでは言わないが、
優秀なDC NIKKOR(105/2等)並みかも知れない。
ただ、前ボケに関しては、今回は、あまり意識していない
ので、ここは、さらなる試写と追加解析が必要であろう。
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現代における多くの新鋭レンズが「解像力向上」を
コンセプトにしている中、本レンズの存在は異質だ。
特に、銀塩時代の旧来からボケが固いレンズが大半の
NIKKORレンズ群の中では希少なコンセプトの製品である。
まあでも、銀塩時代から、報道や学術撮影分野で高く
評価されたNIKKORであるから、それらの分野ではともかく
被写体がはっきり、くっきり写っている必要性がある為
ボケ質の優れたレンズを作りたくても、あまりそれが
許されなかった、という状況もあるだろう。
だからこそ、Ai時代のMFレンズのAi85/1.4、Ai135/2、
Ai(ED)180/2.8や、あるいはAiAF時代でのDC105/2等
(いずれも過去記事で紹介済み)は、解像力優先傾向の
とても強いNIKKORの中では、ボケ質に配慮した個性的な
コンセプトを持つレンズ群として、個人的には高く評価
しているし、勿論、これらのレンズの歴史的価値も高い
と思っている。(いずれ特集記事を組んでみよう)
本AF-S58/1.4も、そうした希少なレンズである。
同系列の設計コンセプトと思われる、AF-S105/1.4も
欲しくなってきた。ただし、そちらは、まだ中古相場が
高価であり、あと数年くらいは相場下落待ち、という
事になるだろうか・・(持論として、レンズ購入価格の
上限を儲けている状況もある)
(追記:記事執筆後に購入しているので、いずれ
本レンズとの比較記事も書いてみよう)
それと最後の課題としては、最短撮影距離が58cmと長い
事がある、銀塩時代から、50mm級標準レンズの最短は
45cmと横並びであって、これがスタンダードだ。
近年ではCANON EF50/1.8STM(未所有)が最短35cm
TAMRON SP45/1.8 Di VC USDが最短29cmである。
(注:一眼レフ用のフルサイズ対応レンズの範疇)
つまり、優秀なボケ性能を持つレンズであれば、
これらくらいの近接性能を持てば、さらに利用範囲が
広がっただろうから、ちょっと惜しいところである。
惜しい、というか、開発側が実際に作り上げたレンズで
最低限数万枚から、数十万枚程度を実写し、問題点を
洗い出しているのかどうか? そのあたりが疑問だ。
そこまでの枚数を撮影しないまでも、上級クラスの
ユーザーであれば、本レンズをフィールドに持ち出し、
ものの30分も撮ってみれば、ボケ質の良さは感覚的に
実感できるであろう。そうなれば、より大きなボケ量を
得たいが為に、近接撮影に持ち込もうとする事は、
カメラマンの本能的に、あまりに当然の事だと思う。
そんな際に、「寄れない」という事は大きなストレスを
感じる訳だ。
これに気づかない、という事は、撮影スキルを持って
いないのかも知れないが、その「言い訳は」効かず、
むしろ「実写検証をしていない」という事と、私から
見れば等価である。
もし「設計基準的に、近接撮影では想定している画質
下限(収差補正限界)を下回ってしまう」等の、あまりに
研究者的な発想をしてしまっているならば、まるっきり
的外れの考え方だ。
「レンズは撮ってナンボ」であり、研究室の中であれこれ
と考えているだけでは、それ以上の進歩は何も無い。
こういう事はメーカーには厳しい話ではあろうが、現代に
おいて交換レンズ市場が縮退しているのは、スマホの台頭
とかの外的な要因のみならず、各メーカーの製品企画開発
方針が、ユーザー側の思考に寄り添っておらず、ものすごく
心理的に「遠い」状況になってしまっているように思えて
ならない。そんな状況だから、ユーザーから見て魅力的な
新製品が出てこない訳だ。だからちょっとわかっている
ユーザー層は、誰も、新製品を欲しいとは思えないように
なってしまっているのではなかろうか・・?
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本AF-S58/1.4は、誰にでも必要とされるレンズでは
無いだろうし、ビギナー層が多いNIKON機ユーザーに
おいては、ますますその実用性や、性能的特徴が
理解されにくいレンズ、とも言えるであろう。
下手をすれば、本レンズの特性を発揮できるような、
適正な機材、カメラ設定、被写体状況等の選択が出来ず
本レンズの弱点をモロに出し、アンコントローラブルな
その状況から「クセ玉だ」という評価に陥ってしまう。
だが、それはフェアでは無い評価だ・・
例えば、会社組織で、部下に過剰な労働をさせ、その結果
として仕事の出来が悪かったら、「何をやってるのだ!」
と怒る上司は完全にNGだ。部下(カメラやレンズ)に無理を
させないように、上手くマネージメント(使いこなし)し、
より良い仕事(写真)を得ようとする事が管理職(撮影者)
の本筋であろう。
結局、どんな場合でも、レンズやカメラ等の機材の弱点を
回避しながら使うのはユーザー側の責務である。
まあ、本AF-S 58/1.4Gは、「上級者・上級マニア御用達
(専用)レンズ」という結論にしておく。
「高価なレンズは良く写る」という単純な思い込みや誤解で
初級中級層が安易に手をだせる類のレンズでは無い。
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さて、今回の第40回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。
マニアックなレンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回は、未紹介レンズ4本を取り上げる。
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ではまず、今回最初のレンズ

(中古購入価格 9,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)
発売年不明、正確なメーカー名も不明の、中国製と思われる
単焦点MFレンズ。
なにせ、レンズにはメーカー名も型番も何も書かれていない、
書いてあるのは、焦点距離と口径比のみである。

APS-C機に装着してみると、一応、本レンズはAPS-C型の
イメージサークルに対応している事がわかった。
ただまあ、周辺収差のカット等の目的からすれば、μ4/3
機で使うのが良さそうだ。その場合、換算70mmで開放
F1.6の、まずまず使い易い画角仕様となる。
長所としては、ローコストレンズの割りに、高級感が
ある事だ。金属鏡筒で質感が高く、ヘリコイドのトルクも
適正、絞り環もノンクリック連続方式でスムーズである。
そして安価であるし、非常に格好の良いフードも付属して
いた(注:これは製品の付属品では無いかも知れない?)
また、描写力もさほど悪くない。

事である。海外製オールドレンズのフレクトゴンが同等の
18cmであったが、とっくの昔に生産終了となっている為、
近代の35mmレンズにおいては、TAMRON SP35/1.8(F012)
が、最強の20cmであったものを上回る近接性能だ。
(注:35mmマクロ、および準マクロレンズを除く)
ただ、本レンズはフルサイズ対応では無い為、これは
例外的に扱うのが良いであろう。
価格、という点については、もう本レンズは生産完了に
なっているかも知れず、発売時の価格が不明であった。
中古約9000円は高価すぎる買い物だったかも知れないが、
他の同等品質の中国製レンズと価格に大差がある訳でも無く、
本レンズの近接性能を考慮すれば、コスパ的に許容範囲だと
見なしている。
弱点だが、絞りを開けた場合では、ボケ質の破綻が頻発
するので、頻繁な絞り値コントロールが必須となる。
ただまあ、絞りは、無段階式であるので使い易い、という
面もある。また逆に、手指の感触では絞り値がわからない
ので、たまに絞り環の指標を確認する手間も出てくる。

現行流通品でも無い模様なので、入手性も悪い。
よって本レンズを「指名買い」する必要性は無く、あくまで
たまたま見かけた場合での、上級マニア向けレンズ、
という結論にしておこう。
総合的には良いレンズだと思うが、入手性が悪い為に、
あまり細かい点を色々と述べても、意味が無い。
説明は早々に切り上げよう。
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さて、次のシステム

(ジャンク購入価格 800円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)
日東光学(現:株式会社 nittoh)は、現在も長野県に
ある光学機器メーカーである。(工場をいくつも持つ
大きな企業である)
現在では、自社ブランドでの写真用交換レンズの展開を
行っていないが、かつてKominar(コミナー)のブランド銘
で、銀塩コンパクトカメラ本体、それから、M42マウントや、
その他一眼レフ用の交換レンズを製造販売したり、
自社ブランドでは無いが、銀塩コンパクトカメラ用レンズ、
APSカメラ用レンズも、多数OEM供給されていた、との事で
ある。

デジタルコンパクト機用レンズを始め、様々な光学機器の
レンズユニットの設計製造を手がけている模様だ。
マシンビジョン用レンズの世界でも、そこそこ有名なので、
その分野に興味がある私としては、いずれ同社製レンズも
入手したいとは思っているが、例によってマシンビジョン
用レンズは個人では入手しずらく、少々困った状況である。
Kominar銘で一眼レフ用レンズを生産していた時期は不明、
恐らくだが1960年代~1970年代頃と思われる。
1980年代のAF化に追従せず、そのあたりで自社ブランド
の一眼レフ用交換レンズ事業から撤退して、OEM製造に
特化したのであろうか・・?
(参考:米国Vivitar社に係わる、海外の資料において、
VIVITARレンズOEM供給元としての「KOMINE」(コミネ)
の名前が見られる、多分これは「日東光学」の事であろう)
さて、そんな歴史を踏まえ、本レンズKominar135/3.5
であるが、プリセット絞り構造の古い時代のレンズで
ある、恐らくは1960年代の製品だろう。
マウントはミノルタMDであった。ただし、当時であれば
「MD」とは呼ばず、AE機構を持たない「SRマウント」と
呼んでいたかも知れない(参考:MINOLTA SR-7=1962年
SR-T101=1966年、SR-T Super=1973年、等)
135mm望遠レンズとしては、細身で小型軽量である。
外観がボロボロのジャンク品であるが、写りはどうか?

逆光耐性が低い事だ。ちょっとした逆光状態でも
コントラストがかなり低くなる。
でもこれは、この時代(1960年代)であれば、
多層コーティング技術が未発達なので、まあ、やむを
得ない節がある。
逆光耐性を除いては、あまり描写力的な不満は感じ難い。
μ4/3機で周辺収差をカットしているのも功を奏して
いるのか、解像感もあるし、ボケ質破綻はたまに発生
するが、課題となるほどのレベルでは無い。
なお、レンズ構成などは不明である。
総合的には1960年代オールドとしては、かなり優秀な
類に属するレンズだと解釈できる。

の裏方としての歴史と実績を持つ企業だ、基本的には高い
技術力と生産力を持っていると推測できる。
初級中級層では、聞きなれないメーカーの製品であると
「聞いた事が無い、三流メーカーか? 良く写る筈が無い」
と、見下してしまうケースが大変多いのだが、世の中には
一般層には知られていない事実や真実が沢山隠されている。
いつも言っている事だが、過剰なブランド信奉は禁物だ。
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では、次のシステム

(中古購入価格 1,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)
発売年不明、恐らくは1990年前後の発売と思われる、
AF望遠ズーム。CANON EFマウント版だ。
本シリーズ第3回記事「ジャンク編」に登場したレンズと
同型だが、異マウント品である。こちらのレンズの方が
やや程度が良く、ジャンク品と言うよりは、中古品相当と
しておこう。

の制約上、あまり高い性能は与えられていない。
これは、ビギナー層が考えるように、「TOKINAだから」
といった、メーカーの知名度などでランク分けをするのは
的外れであり、市場戦略上、どの程度の価格で、どの程度
の性能の製品を市場に投下したら良いのか? という要素
が、かなり大きい。
それもそのはず、このレンズの時代は、MFからAFへの
転換期であって、世間の誰もが「AF一眼レフが欲しい」と
その時流に乗ろうとしていた。まあでも、いつの時代の
世の中でも常であるが、ビギナー層は、カメラ本体の事
ばかり考えていて、交換レンズの事前検討を全く行わない。
だから、AFカメラは新品で高価に買ったものの「AFの
交換レンズが足りない!」と、後で慌ててしまう訳だ。
そうしたビギナー層に向けて「安価にAF望遠ズームを
提供する」というコンセプトの商品が、本レンズであるの
だから、コストダウン優先となり、性能が多少犠牲になる
事はやむ得ない訳だ。
それ故に、本シリーズ第3回記事での同型レンズの評価は
あまり芳しいものでは無かった。そこで今回は、出来るだけ
本レンズの課題を回避して使っていこう。

コントラストの低下が見られる事、ボケ質が悪く、ボケ質
破綻が出る事、望遠端での解像感の低下、AF速度・精度等
がある。
これらの回避には、まずAPS-C型機以下で周辺収差をカット、
僅かに絞り、開放を用いない。できるだけフラット光や
室内で用いる。ボケ質破綻回避技法を行うか、一眼レフ使用
で、それが困難ならば、できるだけ平面被写体に特化する。
さらには、ズーミングを、あまり望遠端に近いところまで
伸ばさない。エフェクトを活用し、表現力の低さを緩和する。
課題が出そうな被写体を選ばない。またAFの課題は適宜MFを
併用して回避する、等である。
ちなみに、これらはオールドレンズを使う場合の基本的な
対処方法と、ほぼイコールである。
世の中の中級マニア層等では、オールドレンズを使う際に
「母艦は何が良いのか? フルサイズ機かAPS-C機か?」
といった表面的な機材スペックの話ばかりをしているケース
を良く見るが、そういう単純な話ではなく、システム構築上の
性能バランスの管理に加えて、撮影技法上でのコントロールが
オールドレンズ使用時の要点の大半を占める。
まあ、そういう工夫を複合的に行う事で、描写性能が低い
レンズであっても、ある程度は、まともに写るという事だ。

つまり、性能が低そうなジャンクレンズを安価に買って
それの課題を探し出しだし、それを回避する技法を模索する
という練習方法である。これらは母艦(カメラ)を
あれこれと変えて試写するよりも、ずっと有益な練習・研究法
なので是非試してみると良い。まあすなわちカメラやレンズ
の性能を引き出すのは、ほとんど全て利用者側の責務である。
ちなみに、こういう事はカメラやレンズに限らず、他の
様々な商品分野でも同じであろう。高価なゴルフクラブを
買っただけでスコアが向上する訳では無いし、高価なギター
を買ってみても演奏が上手に聞こえるようにはならない。
あくまで、機材や道具を使いこなすのはユーザー側の責任だ。
ただまあ、高価な道具を買った事により、練習の意欲が
沸いて、結果的にスキルアップするケースは多いにありうる、
だからまあ、そういう目的があるならば、高価なレンズや
カメラを買う事は否定しない。けど逆に、自分のスキル不足を
棚に上げて、高価な高性能機材でそれをカバーしているような
状態であれば、スキルアップもあまり期待は出来ないであろう。
つまり、低廉な低性能機材(道具)を用いてスキルアップの
練習を行う事は、私の感覚からは、とても効果的な手段だ。
低性能機材を使う事にメゲないのであれば、それらの弱点を
回避する手法を見出す事は、(ワンコイン)レッスンとして、
極めて効率的でコスパに優れる状況となる。
これはレンズに限らず、他の分野の「道具」でも同様だ。
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次は、今回ラストのレンズ

(中古購入価格 110,000円)(以下、AF-S58/1.4)
カメラは、NIKON D5300(APS-C機)
2013年発売の高付加価値仕様大口径AF標準レンズ。
発売当時、NIKONからは「レンズ収差を綿密に解析できる
ソフトを自社開発し、それを元に優秀なレンズの設計が
出来る」(別名では「3D(三次元的)ハイファイ」とも)
という風に発表されていたが、当然、この手の独自ソフトの
詳細は、高度な知的財産の為、社外秘(企業秘密)であるし、
その説明も、極めて専門的で難解、かつ「曖昧」であった為、
(=まあ、詳細を知られたく無いから、曖昧になる訳だ)
一般層には理解されず、程なくして、その話は世間からは
忘れ去られてしまっていた。
だが、「そのソフトを元に開発された、”3Dハイファイ”
シリーズとして、ボケ質が優秀なレンズ(群)の、第1弾の
商品が、本AF-S58/1.4となっている」という話は、一般層
やマニア層にも、そこそこ有名だ。

解釈(評判)は、実は、ちょっと違っていると思う。
レンズ設計は、あくまで別の光学設計ソフトを用いて
行われるだろう、しかし、その手の光学設計ソフトでは
全ての収差が、どのように描写力に影響するか?
といった細かい点迄は、多分、良くわからないだろう。
(注:簡単な画像シミュレーション機能や、MTF等の
収差特性グラフ等は表示する事が出来る筈だ)
そこで、NIKONでは「解析専用のソフト」を別途開発した
のであろう、レンズ設計ソフトで出来上がった構成を
そのソフトで解析すれば、従来では良くわからなかった
様々な描写力に係わる要素がわかってくる。
(この実例は、後述する)
まあ、現在に至っては、その設計ソフトと解析ソフトを
一体化しているのかも知れないが、そこは良くわからない、
というか、そのあたりはどうでも良く、「設計」と「解析」
の二段構えの処置が必要である事は間違い無いであろう。
つまり、光学設計ソフトで作ったレンズ(注:実際には
シミュレーションであって、実物は作らないだろう)を、
解析ソフトで検証しダメ出しをする。そこからさらに改良
された、また別の構成も、それもダメ出しし、そうした
気の遠くなるような作業を繰り返した結果、本レンズが
出来上がったのであろう。
そう聞くと凄そうだが、まあ、どんなレンズでも、いや
全ての工業製品において出来上がった試作品を厳密に検証
して改善を施していくのは、研究開発全般で当然の事だ。
むしろ、そうした事が出来なかった、あるいは、やって
いなかった事が問題であろう。カメラ界全般でも、レンズ
やカメラにおいて、実用的に課題となる弱点を持つ製品が
そのまま市場に出回ってしまった実例は、(NIKONを含め)
残念ながら、いくらでも存在している。
だから、本ブログの機材評価記事でも「本当に、誰かが
このシステムで実写してから製品化しているのか?
あまりに単純な仕様ミスを見逃しているじゃあないか!」
と、キレかけてしまう事も良くある訳だ。
まあでも、それは「目で見える事象しか対応できなかった」
という要素もある。エンジニア等は、目で見える数値的な
性能には一切妥協しないが、操作系、感触性能、実用性等
の個人の経験や感性や感覚に依存するような部分までは、
その評価スキルを持っている事は、むしろ極めて稀だ。
そもそも「そんな事は、オレ達の仕事では無い」と思って
いるかも知れない。
メーカーはもとより、世間のユーザー層や専門評価者層
でも、概ね「目で見える部分」しか評価していない。
だから、たとえばレンズの性能評価を、ユーザーレベルで
行う際にも、解像感(力)、歪曲収差、逆光耐性、色収差、
周辺減光、と、だいたいこのあたりの、写真を見さえすれば
誰にでもわかるような項目内容しか評価せず、これらが優秀
であれば「良いレンズだ」と評価(錯覚)する事が殆どだ。
でも、それは基本的には誤りだ。レンズ性能のごく一部
しか見ていない訳だから、ボケ質の良否、ボケ質破綻頻度、
ボケ遷移、内面反射やコントラスト特性、MF操作性と感触
ヘリコイド回転角、指標類の見やすさ、使いこなしの困難度、
エンジョイ度、重量バランスやハンドリング性能、デザイン、
操作に関わる音量や音色、等、こういった実用上で重要な、
または製品としての愛着を持てるか?といった感覚的な
要素は、まるっきり評価の対象から外されてしまっている。
この状況が酷くなり続けると、レンズを作るメーカー側でも
解像力や歪曲収差等、ユーザーの誰が見ても、明白にわかる
部分だけ重点的に性能を強化させ、その他の要素に無頓着な
レンズが、世の中に沢山出回ってしまうかも知れない。
事実、そんなレンズが近年では多く、しかも、その事で
ユーザー側が「高性能なレンズだ」と思い込んでしまうから、
そうした商品は付加価値が高く(高くても売れる)、結果
とても高価な値づけになり、コスパが極めて悪くなる。
おまけに、「モノ」としての価値感覚は年々低下しつづけ、
高騰した価格に見合う存在感を持つ製品は非常に稀だ。
(本レンズであっても、20万円以上もする高額商品とは
思えない程に安っぽい作りで、所有満足感が皆無に近い)
これは個人的には、正しい方向性とは思っていないのだが、
世の中は確かに、そう動いているので、実用性が高くて、
所有満足度が高く、使っていて楽しいレンズ等は、どんどん
減って行くばかり、という極めて残念な世情だ。
で、本レンズAF-S58/1.4も、実際の設計コンセプトを理解
されず、表面的な評価だけに留まっているという、そうした
状況に陥ってしまった不幸なレンズかも知れない。
ボケ質を高めるというコンセプトがあるが故に、いままで
ユーザーの誰しもが、あまり気にする事がなかった類の
収差を、前述の「解析ソフト」等を用いて厳密に優先的に
補正していると思われる。
でも、そうすると、これまで「目に見える性能」として
重要視されていた「解像力(感)」等については、若干だが
補正の優先度が下がる。何故ならば全てのレンズ性能を完璧
に整える事は出来ず、仮に無理をして、それを目指したら、
大きく重く高価な三重苦レンズとなり、それは実用範囲外と
なってしまうからだ。(例:本シリーズ第38回記事の
SIGMA A40mm/f1.4は、1200gもある化物レンズであり、
普段使いができるレベルでは、もはや無くなっている)
その為、本レンズの場合は、いままで世の中が評価しない
部分の性能を高めた結果、一般ユーザーから見える範囲の
性能は低い。だから、本レンズは一般的には不人気であり、
下手をすれば「クセ玉」やらとも呼ばれて、中古市場には
玉数が多数溢れている状況だ。
(参考:NIKONレンズの中古相場基準は定価の60%だ。
この比率からは、本レンズの適正中古相場は約13万円
(税込)となるが、それよりも相場がやや安価であるので、
これは中古市場においては、不人気レンズだ、と見なせる)
「価格が高価(発売時21万円+税)だから良いレンズだ」
と思い込んで購入をしたビギナー層や富裕層も多かった
事であろう、だけど、本レンズの設計コンセプトの真意を
見抜くのは、残念ながら初級中級層では、まず無理だ。
「開放からシャープに写るレンズが良いレンズだ」と
思っているならば、本レンズを手放し、そういう風に
カリカリにチューニングされた現代的レンズを買えば良い
と、多くの初級中級層は思ってしまう事であろう。

されるのは、Ai Noct-NIKKOR 58/1.2 (1977年)
であろう(注:未所有につき、詳細には言及しない)
これは、「非球面レンズ」を採用した最初期(注:
世界初では無い)のレンズであり、絞り開放付近での
「コマ収差」の補正を重点的に行った設計であった。
つまり、点光源の多い夜景撮影で、絞りを開けても
高い解像力や優秀な描写性能を発揮できる。
この為「ノクト」(=夜の)という名前が冠されている。
しかし、このレンズは、当時の他の標準レンズの、3倍
以上も高価なレンズだった為、当時のユーザー層には
「値段が3倍も高価ならば、とても高性能だ」という
思い込みが起こり、高価すぎて当然販売数も少なかった
ので、後年には完全な「投機対象」となってしまった。
つまり「希少価値」により、中古相場が大きく高騰、
30万円以上という超高値相場もざらであった。
ただ・・・ 私は、この「ノクト」を実用撮影に
使っている人を殆ど知らず、それを使って実際に撮影
している人も、何十年間も1度も見た事が無い。
まあつまり、完全なる「コレクターズ・アイテム」と
なってしまっているレンズであろう。
で、本レンズは「ノクトの再来」という訳では無いと
思われる。前玉に非球面を採用している設計はノクトに
類似しているが、「コマ収差補正による点光源解像感の
向上」と「像面湾曲や非点収差の補正によるボケ質の向上」
は設計コンセプトが異なり、むしろ正反対の思想だ。
スペックが似ている、という事だけで、設計思想まで
同じだとは限らない。そして、時代背景も大きく違う訳
であり、現代での超高感度機を使うならば、夜景撮影に
求める要素も、銀塩時代とはまるで異なってきている。

さて、ここまで本レンズの母艦として、NIKON D5300
を使用してきたが・・ この理由は、この機体の
ピクセルピッチは約3.9μmと、デジタル一眼レフの
中ではかなり狭く、かつローパスレスである事だ。
つまり、解像力の高いレンズの母艦として向く機体だ。
本レンズの特徴(特性)とは、やや異なるかも知れない。
でもこれは、「限界性能テスト」という研究の為の
要素もある。(注:画素ピッチの件よりも、D5300では
本レンズとの組み合わせでは、そもそもAF精度が厳しい)
で、何故、こうした普及機がそういう特性を持つのかは
エントリー(ビギナー向け)市場では、単純に画素数が
大きいカメラが好まれるからである。
各社の製品ラインナップを良く見てもらえればわかると
思うが、一眼レフの高級機の方が、画素数が少ない事も
多々ある。
つまり現代の中上級者であれば、必ずしも「画素数が
大きい事が良い事ばかりでは無い」という事実を良く
知っているからである。ここの詳細を述べていくと
際限なく記事文字数を消費するので割愛するが、他の
様々な記事でも、そうした原理は述べてある。
まあつまり、良くわかっているユーザーならば、
2000年代におけるメーカー間の「画素数競争」に
踊らされた事を反省していて、各自の実用上の範囲内で
適正な画素数や、それに合うレンズというものがある
という事実を、よく勉強してわかって来ている、という
事である。今時で「画素数の多いカメラが良いカメラ」
だと思っているならば、もうそれは完全なビギナーだ。
では、ここで一眼レフ現行機としては、最もピクセル
ピッチが大きい(広い)類と思われる、NIKON Df
(ピッチ=約7.2μm)に母艦を交替する。
こちらはオールドレンズ等の解像力の低いレンズの
母艦として適するカメラである。

あろう。
ただまあ、ちょっと考えすぎでもあったかもしれない。
NIKON D5300のピクセルピッチが約3.9μmで
あれば、レンズ側必要解像力は約128LP/mmとなる。
銀塩時代のレンズならばまだしも、今時のレンズで
あれば、よほどのローコストレンズでもなければ、
128LP/mm程度の性能はクリアしている。勿論本レンズ
もそうであろう、D5300で限界性能をチェックできる
状況では無かった。
また、本レンズのMTF特性図を見ると、画面周辺で急激に
解像力が落ち込む傾向が見られるが、その点においても、
D5300はAPS-C機であるから、そういう特性はカット
されていて、問題点は緩和される。
それと、NIKON Dfのピクセルピッチでは、僅かに
約70LP/mm程度が、要求されるレンズ解像力になるが、
トイレンズでも無ければ、通常レンズでここまで低い
性能のものは無いであろう。オールドレンズを使う際に
も安心して使える機体である。

話となる。
外観が奇妙なレンズである。NIKON Fマウントの口径が
狭い事とあいまって、前玉が大きく(φ72mm)て
尻すぼみとなっていって、不思議なフォルムだ。
ただまあ、大きく重く、という事態に陥っていないのは
幸いであり、例えば、重量だが、近代の新鋭高性能
単焦点標準レンズの800g~1.2kgに対し、本レンズでは
385gと、半分以下に収まっている点は利点である。
(・・と言うか、高性能レンズとしては、拍子抜けして
しまうほど軽い。勿論、その事は悪く無いが、なんだか
中身が「スカスカ」な印象で、高級感が皆無という感想
も無きにしもあらずだ)
まあ、Fマウントの口径が、今から60年も前の規格で
あるが故に、小さい(φ44mm)という事で、レンズ設計
上の自由度が無く、弊害になっていた事は確かだと
思われる。特にそれは、大口径レンズ等で後玉を大きく
しようとした際に、マウント径が仇となって、それが
しにくい。
NIKONは、約60年ぶりに2018年より、フルサイズ
ミラーレス機用のZマウントで、ようやくφ55mmと
マウントの大口径化を行った。これの効能をビギナー
層にまで、わかりやすくアピールする為、NIKONでは、
F0.95の超大口径レンズを、発売前からアナウンスや
参考展示していた、つまり、「マウント径が大きく
なれば、こういうレンズも作れるのです」と知らせる
為のプロパガンダであろう。
まあ別に悪くは無い、マウントの大口径化は歓迎だ。
ただ、それにより旧来のFマウントレンズの互換性は
薄れてしまう、勿論(電子)マウントアダプターが
存在しているが、旧レンズのパフォーマンスを最大に
発揮できるものでも無い事であろう。また、大口径
マウントレンズを新規購入した際、他社機での利用は、
ほぼ不可能となる。
ただ、このあたりの話については、私はZマウント機を
「コスパがとても悪い」と見なし、まだ購入していない
ので、詳細の言及は避ける。
さて、本レンズ自体の性能であるが、まず、ボケ質に
ついては、自作の解析ソフト「Trans Focus」を用いて
「ボケ遷移」を分析してみよう。

本レンズのように、メーカー側が、ユーザー側が目で
見える範囲「以外」の性能を強化した、と言うならば、
その効能をユーザー側として確認する為である。
さもないと、メーカー側が「ここが凄いのです」と
言っても、それをユーザー側で確認する術が全く無く、
メーカー側の言うがままに、高価な商品を買わされて
しまう恐れがあるからだ。それでは「ユーザーの負け」
となってしまう。それは悔しい話だと思っている。
それと、知的好奇心や研究要素もある。いままでボケ質
やボケ遷移については、ユーザー側での感覚的な評価
しか出来なかった。それは、人それぞれに評価方法も
スキルも異なる為、ボケ質の良し悪しは定量的な評価が
出来なかったり、それ故に、これまでは「人それぞれに
異なるものは、公式な評価結果としては好ましく無い」と
いう風潮もあった事であろう。今時のコンプライアンス
では「個人の感想です」と書かないといけないのかも
知れない(汗)・・という、世知辛い世情でもある。
そういう状況の中で、「誰が見ても一目瞭然、経験的な
感覚値を持っていなくても評価ができる」という要素は
重要である。だからNIKONでも収差解析ソフトを作った
のであろう(まあ、その中身の詳細は不明であるが・・)
そして、この自作ソフトは「撮った写真の事後解析」
しかできない。NIKON側(メーカー側)では、レンズ設計
の一環として、撮る前の状態でも、様々な被写体位置や
距離からの極めて多数の光路をコンピューターで計算させて
シミュレーションする事が可能だ、そうした空間的な
特徴を制御する設計方針、設計思想が、NIKONで言う所の
「三次元的ハイファイ」であろう。
しかし、その詳細は一種のノウハウであり知的財産でも
あろうから、一般層に向けては非公開だ。
それをユーザー側で理解する事は、たとえ自作解析ソフト
を使ったところで依然、理解困難である。
それから、こちらの自作ソフトも高度な知的財産である為、
これを公開したり販売したりするつもりは毛頭無い。
まあ、ユーザー側でレンズの評価スキルを高める為には、
こうした特殊な事も必要な時代になりつつある、という
状況だと思ってもらえれば良いであろう。
現代の情報社会では、誰かが「思い込み」で言った事が、
その真偽を問われないまま広まってしまうケースが多い。
その情報がフェイクかどうかを確かめるには、より高度で
論理的な検証が必要になる訳だ。
さて、ボケ遷移解析ソフト「Trans Focus」の結果では、
後ろボケに対する遷移が良好である事が見てとれる、
「アポダイゼーション並み」とまでは言わないが、
優秀なDC NIKKOR(105/2等)並みかも知れない。
ただ、前ボケに関しては、今回は、あまり意識していない
ので、ここは、さらなる試写と追加解析が必要であろう。

コンセプトにしている中、本レンズの存在は異質だ。
特に、銀塩時代の旧来からボケが固いレンズが大半の
NIKKORレンズ群の中では希少なコンセプトの製品である。
まあでも、銀塩時代から、報道や学術撮影分野で高く
評価されたNIKKORであるから、それらの分野ではともかく
被写体がはっきり、くっきり写っている必要性がある為
ボケ質の優れたレンズを作りたくても、あまりそれが
許されなかった、という状況もあるだろう。
だからこそ、Ai時代のMFレンズのAi85/1.4、Ai135/2、
Ai(ED)180/2.8や、あるいはAiAF時代でのDC105/2等
(いずれも過去記事で紹介済み)は、解像力優先傾向の
とても強いNIKKORの中では、ボケ質に配慮した個性的な
コンセプトを持つレンズ群として、個人的には高く評価
しているし、勿論、これらのレンズの歴史的価値も高い
と思っている。(いずれ特集記事を組んでみよう)
本AF-S58/1.4も、そうした希少なレンズである。
同系列の設計コンセプトと思われる、AF-S105/1.4も
欲しくなってきた。ただし、そちらは、まだ中古相場が
高価であり、あと数年くらいは相場下落待ち、という
事になるだろうか・・(持論として、レンズ購入価格の
上限を儲けている状況もある)
(追記:記事執筆後に購入しているので、いずれ
本レンズとの比較記事も書いてみよう)
それと最後の課題としては、最短撮影距離が58cmと長い
事がある、銀塩時代から、50mm級標準レンズの最短は
45cmと横並びであって、これがスタンダードだ。
近年ではCANON EF50/1.8STM(未所有)が最短35cm
TAMRON SP45/1.8 Di VC USDが最短29cmである。
(注:一眼レフ用のフルサイズ対応レンズの範疇)
つまり、優秀なボケ性能を持つレンズであれば、
これらくらいの近接性能を持てば、さらに利用範囲が
広がっただろうから、ちょっと惜しいところである。
惜しい、というか、開発側が実際に作り上げたレンズで
最低限数万枚から、数十万枚程度を実写し、問題点を
洗い出しているのかどうか? そのあたりが疑問だ。
そこまでの枚数を撮影しないまでも、上級クラスの
ユーザーであれば、本レンズをフィールドに持ち出し、
ものの30分も撮ってみれば、ボケ質の良さは感覚的に
実感できるであろう。そうなれば、より大きなボケ量を
得たいが為に、近接撮影に持ち込もうとする事は、
カメラマンの本能的に、あまりに当然の事だと思う。
そんな際に、「寄れない」という事は大きなストレスを
感じる訳だ。
これに気づかない、という事は、撮影スキルを持って
いないのかも知れないが、その「言い訳は」効かず、
むしろ「実写検証をしていない」という事と、私から
見れば等価である。
もし「設計基準的に、近接撮影では想定している画質
下限(収差補正限界)を下回ってしまう」等の、あまりに
研究者的な発想をしてしまっているならば、まるっきり
的外れの考え方だ。
「レンズは撮ってナンボ」であり、研究室の中であれこれ
と考えているだけでは、それ以上の進歩は何も無い。
こういう事はメーカーには厳しい話ではあろうが、現代に
おいて交換レンズ市場が縮退しているのは、スマホの台頭
とかの外的な要因のみならず、各メーカーの製品企画開発
方針が、ユーザー側の思考に寄り添っておらず、ものすごく
心理的に「遠い」状況になってしまっているように思えて
ならない。そんな状況だから、ユーザーから見て魅力的な
新製品が出てこない訳だ。だからちょっとわかっている
ユーザー層は、誰も、新製品を欲しいとは思えないように
なってしまっているのではなかろうか・・?

無いだろうし、ビギナー層が多いNIKON機ユーザーに
おいては、ますますその実用性や、性能的特徴が
理解されにくいレンズ、とも言えるであろう。
下手をすれば、本レンズの特性を発揮できるような、
適正な機材、カメラ設定、被写体状況等の選択が出来ず
本レンズの弱点をモロに出し、アンコントローラブルな
その状況から「クセ玉だ」という評価に陥ってしまう。
だが、それはフェアでは無い評価だ・・
例えば、会社組織で、部下に過剰な労働をさせ、その結果
として仕事の出来が悪かったら、「何をやってるのだ!」
と怒る上司は完全にNGだ。部下(カメラやレンズ)に無理を
させないように、上手くマネージメント(使いこなし)し、
より良い仕事(写真)を得ようとする事が管理職(撮影者)
の本筋であろう。
結局、どんな場合でも、レンズやカメラ等の機材の弱点を
回避しながら使うのはユーザー側の責務である。
まあ、本AF-S 58/1.4Gは、「上級者・上級マニア御用達
(専用)レンズ」という結論にしておく。
「高価なレンズは良く写る」という単純な思い込みや誤解で
初級中級層が安易に手をだせる類のレンズでは無い。
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さて、今回の第40回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。