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レンズ・マニアックス(41)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回は未紹介レンズ3本と、別シリーズで紹介済みレンズを
1本取り上げる。

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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、アルセナール MIR-1 37mm/f2.8
(中古購入価格 14,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

アルセナール(または、アーセナル)は、ウクライナに
ある光学・電子関連企業であり、旧ソビエト連邦時代は
「アルセナール国営工場」であった模様だが、現在では
「メーカー」として自立、先進的な技術系企業となった、
とも聞く。

ソビエト時代、カメラでは「KIEV」、レンズでは「MIR」
がマニア層の間で著名である。
_c0032138_18142348.jpg
個人的には、銀塩時代よりMIR-24(35mm/F2)を愛用して
いて、そちらはロシアンレンズの特集記事では、必ずと
言って良いほど紹介するレンズだ。
MIR-24は高性能(高描写力に加え最短撮影距離が24cmと、
35mmレンズ中トップクラスに優秀)である事から、
過去記事ミラーレス・マニアックス名玉編では、ロシアン
レンズとして、ただ1本、第17位にランクインしている。

第二次大戦後に、旧ドイツが東西分断された事での影響に
より、独カール・ツァイスも東西分断。ソビエトを含む
東側に光学技術が流出した(正確には「接収」された)
事から、ツァイス・イコン系の技術をベースとした
カメラやレンズは、以降、そのコピー品が、沢山、
(旧)ソビエト連邦の国営工場等で作られた。

冷戦時には、これらの旧ソ連製の光学機器は、あまり
日本では流通していなかったように思われるが、
1991年のソビエト連邦崩壊後、1990年代後半には
(国内で「第一次中古カメラブーム」が起こった事もあり)
旧ソ連製のカメラやレンズも良く流通し、レンズについては
マニア層において「ロシアンレンズは良く写る、何故ならば
昔のCONTAX/カール・ツァイスの設計をコピーしたからだ」
という認識で広まって行く。

ただまあ、ツァイスの設計と言っても、その殆どは、
第二次大戦前の、今から90年以上も昔の設計である。
多層コーティングも、非球面レンズも、新素材ガラスも
使われていない、とても古い設計だ。1990年代ならば
まだしも、現代において、これらをもって「良く写る」と
いうのも的外れな評価であろう。

それでも、1990年代、これらの「ロシアンレンズ」は、
中古で、およそ数千円、輸入新品でも数千円から高く
ても1万円台後半であった為、「安くて良く写る」という
ハイコスパ的な観点からは、マニア層での評価は高かった。

現代においては、国内メーカーのエントリーレンズは
同等の価格帯(1万円前後)で、もっと良く写る。さらには
近年での普及が凄まじい中国製等の新鋭海外レンズもまた、
同等の価格帯であり、それらも過去の名レンズのコピー品
の「ジェネリック・レンズ」であるケースも良くあり、
これもまたコスパが良い。

いや、むしろ、ロシアンは現代においては、コーティング
技術の未発達等から、これら近代ローコストレンズに比べ
かなり見劣りする状況であり、加えて、現在ではロシアン
の中古流通が少なく、旧来よりもずっと割高な中古相場と
なっている為、あまりこれらを好んで使ったり、指名買い
をする必要も無い、とも言えるであろう。 

私も、実にひさしぶりのロシアンの購入であり、かつ
中古としては、この14,000円は、最も高値で買った
ロシアンである。コスパが非常に悪い事は事前段階から
明白だが、さて、実際の性能はいかに・・?
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まず、すぐに気づく弱点としては、絞り環の操作性だ。
自動復帰スイッチ付きの、準プリセット仕様である。

個人的には、ロシアンに多い「プリセット絞り」は
嫌いでは無い。プリセット環を最大に絞っておけば、
絞りリングでの操作性が優れ、ボケ質破綻回避が効率的

だからだ。しかし、本レンズはそれが使い難く、かつ
絞り開放とパンフォーカスを瞬時に切り替えると言った
特殊技法もやりにくい。

そして絞り自体も、何故か開放でも少し絞り込まれた
状態になっている。これは故障では無いとは思うが、
口径比に無駄が出ているようで不満だし、常に絞りが
効いている為、ボケ形状に影響が出そうだ。

ボケ質だが、破綻頻度が高く、絞り値調整による
ボケ質破綻回避もやりにくい。これでは実用レベルに
満たないので、できるだけ平面被写体に特化する等の
措置が必要であろう。

周辺減光が僅かに出るが、これは回避は容易だし、
そういう描写は個人的には弱点だとは思っていない。

逆光耐性や解像感は、あまり悪くなく、このあたりは、
さすがに技術力の高いアルセナール社(工場)の製品だ。

が、本レンズは「フレクトゴン」(Flektogon)の系統
であるという説も有力だ。これについて話すと長く
なるし、生憎、そのオリジナルのFlektogon 35mm系
を所有していない。所有してもいないレンズについては

説明や比較が出来ないので、詳細は割愛する。
ただ、いずれにしても古い時代のレンズである事は
確かであろう。
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結局、課題となるのは、ボケ質の悪さだけである。
ただ、せっかくの最短撮影距離24cmという高い近接性能が
ボケ質破綻の発生により、有効活用しにくい。
この矛盾を解決するのは容易では無い。今後、長期に渡り
このレンズを上手く活用する「用途開発」を考えて行く
必要があると思っている。

入手性も悪く、使いこなしも難しいので、上級マニア向け
という事にしておこう。

ただ、気になるのは近年の一部の中上級マニアにおいては、
ネット商流の普及等から、やみくもに「珍しい」だけの
レンズを入手し、あまりちゃんと評価もせずに手放し、
それを繰り返してるだけ、という状況が多い事がある。
まあつまり、「珍しいレンズを入手した」というSNS上
等での話題性だけを狙っている、という様相も見られる。

でも、せっかく購入したレンズだ、元を取るまで徹底的に
使いこみ、その研究や実践から、見識を広めスキルアップ
を目指す事が本筋ではなかろうか? さもなければマニア
とは言い難く、SNS映えスポットを巡って、その場かぎりの
イイネを欲しがるだけの一般層と変わらない事となってしまう。

また、コレクター系のマニア層の一部には、実際に写真を
殆ど撮らない人も多い。だから作例などの紹介には苦心して
いると思われるし、誰もが持って(知って)いるレンズでは、
よりその課題が厳しい為、「誰も持っていないレンズを使い
たがる」というネガティブな購入動機も否定できないだろう。

ここも対応は同じだ、せっかく購入したレンズであるから、
ガンガンに写真を撮ってあげれば良い。
本ブログでは「マニアの条件」として、「年間3万枚以上の
(単写による)撮影枚数」を良く挙げている、これくらい
撮っていれば、まあ、十分であると言えよう。

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では、次のシステム
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レンズは、大沢商会 OSAWA (ZOOM)(MC) 100-200mm/4.5
(中古購入価格 500円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

詳細不明。恐らくは、1970年代~1980年代頃と
思われる、開放F値固定型MF望遠ズーム。
ミノルタMD(SR)マウント品のジャンクでの購入だ。
_c0032138_18143385.jpg
大沢商会は、創業1890年と古い企業であり、現代でも
各種海外商品(スポーツ用品、アパレル等)の輸入販売
を行っている。
写真関連用品やカメラ等、光学機器の販売も行っていた。
1960年代~1980年代では、自社ブランドとして、
「プリモ」や「OSAWA」の名前で、カメラやレンズを
販売していた。
レンズはOEM製品であった可能性も高い。その種類は
15機種程度で、殆どがズームであるが、多くのレンズに
マクロ切換機構がついている事が特徴だ。

その後、AF時代(1980年代後半)には、対応せず、
その頃には、自社ブランド事業から撤退していると
思われる。
中古市場でもあまり見る事は無く、本ブログにおいて
OSAWAレンズは初登場となる。
_c0032138_18145630.jpg
本レンズは、そうしたOSAWAのズームレンズの中では
むしろ珍しい「マクロ機構無し」であり、最短撮影距離は
2mと、望遠端はともかく100mm側ではかなり不満が
出る仕様である。この為、今回の記事ではμ4/3機に
装着し、周辺収差等の低減を図るとともに、撮影倍率の
不満を仮想的に解消する事とする。

描写力は、あまり褒められたものではなく、解像感や
コントラストが低く、ボケ質も芳しく無い。
まあ、典型的なオールドズームである。
一応μ4/3機利用で、収差の低減を狙ってはいるが
それでも限界があるレベルだ。

マクロ機構が無い事は課題になる。最短2mはμ4/3機
を使った場合でも撮影倍率上の不満が出る事に加え、
被写体距離を長く取らざるを得ないので、身近な
距離範囲にある小さい被写体を何も撮れないのだ。
_c0032138_18143348.jpg
まあ、弱点回避の為の練習用教材としても、かなり
苦しいレベルであろう、勿論、自虐的に「修行レンズ」
として指名買いをすべきものでも無い。

入手するならば、他のマクロ機構つきズームであろうか?
ジャンクですら殆ど見かける事が無い「OSAWA ZOOM」
ではあるが、怖いもの見たさに(笑)、もし見かけたら、
また購入する事にしよう。

本レンズは、「実用レベルに満たない性能である」という
結論にしておき、解説は早々に終了する。

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さて、次のシステム
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レンズは、NIKON LENS SERIES E (Zoom) 70-210mm/f4
(中古購入価格 1,000円)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)

1982年に発売された、開放F値固定型MF望遠ズーム。

SERIES E(シリーズE)は、ローコスト版レンズ故に
NIKKORの名称はつかず、「NIKON LENS」となっている。
なお、レンズに書かれている「SERIES E」名称は全て
大文字である。また、()内はレンズ上のみに記載。
(注:本記事では、適宜「シリーズE」表記も用いる)
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「SERIES E」とは、NIKONにおける「普及機戦略」として、
1980年代前半に展開されたカメラおよびレンズ群である。

ご存知、NIKONは、昔から現代に至るまで「高級機」を
販売する戦略だ。だから普及機は本来ならば売りたく無い。

安価なそれらを買って「NIKONを買ったぞ」とユーザーが
満足してしまったら、本来、利益を出すべき、高額(高級)
機種が売れなくなってしまうからだ。

だが、世情は銀塩MF時代末期。一眼レフのAE化は既に完了
したが、AF化にはまだ数年かかる。ここはエントリーモデル
を展開し、近い将来のAF化に備えた「囲い込み戦略」を
取るべきであろう。(つまり、この時期に入門層に安価な
MF一眼レフを買ってもらい、同じメーカーがAF化した際に、
高価なそれを買ってもらう、という市場戦略)
また、1970年代はインフレにより、物価が高騰した時代
でもあって、1970年代後半には、カメラも当然高価格化
していた。

そんな時代、1978年にRICOH XR500が発売(現在未所有)
レンズ込み39,800円という低価格で、空前の大ヒット
一眼レフとなった。(一眼レフ最多販売台数記録を樹立)
同様にOLYMPUSも OM10(1979年、現在未所有)で低価格
路線に追従。さらにはMINOLTAも、低価格AE機、X-7
(1980年、現在未所有)を、当時20歳の「宮崎美子」さん
(現、女優兼クイズの女王)をTV CMに抜擢し、社会現象的
な大ヒットカメラとした。 

NIKONは当初 NIKON EM(1979年、通称「リトル・ニコン」
未所有)を、海外(米国)向けに展開し、同時に、専用の
ローコストレンズ群「SERIES E」も数機種発売。
なお「E」の意味は不明、エコノミーの「E」か、あるいは、
「Fの弟分」としての「E」であろうか?

「シリーズE」は、当初海外のみの展開予定であったのかも
知れない(注:すなわち、国内では高級機を売りたいから)
たが、日本での、この低価格帯市場が活性化した状況を鑑み、
EMおよびシリーズEのレンズ群を1980年に国内でも発売する。

しかし、不評につき、この普及化戦略は失敗。
何故ならば、RICOH、OLYMPUS、MINOLTA等、他社の
低価格機には、購入を迷うような上級機はあまり存在せず、
そのメーカーの同等のスペックのカメラやレンズ群の
中では、とても割安な印象があったからだ。

ところが、NIKONでは、F3とかFE/FM等、上級機が存在
している。そこに最高シャッター速度1/1000秒、そして
AEは絞り優先のみ、というカメラを出してもウケが悪い、
「どうせ買うならば、F3が欲しいよ」という事になる。
(NIKON F3/Tは、銀塩一眼レフ第8回記事参照)

また、シリーズEのレンズ群も、プラスチックス鏡筒で
安っぽく、一部は単層コーテイング、さらには「カニ爪」
が無い為、少し前の1970年代のNIKON F2(非Ai版)や
NIKOMATシリーズ等の旧機体への装着互換性が無い。

まあつまり、ユーザー層から見ても、すぐわかるレベルの
「仕様的差別化」が行われていた訳だ。

他社ではあまりそういう点は気づきにくいが、NIKONの
場合、上級機を買わせたい為に、あからさまに低価格機に
様々な性能・仕様制限を設ける訳だ。これはユーザーから
したら面白く無い。(注:この傾向は、そこから40年
以上が経過した現代においても、全く同様である)
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NIKONは、EMおよびシリーズEのレンズ群の販売不調を
鑑み、EMをスペックアップしたNIKON FG(1982年、
今も所有している筈だが、現在行方不明・汗)を発売。
こちらは、NIKON初のプログラムAE搭載、絞り優先AE
&マニュアル露出、瞬間絞り込み測光、LED露出表示、
分割巻上げ可、等、ある意味上位機FE/FMシリーズを凌ぐ、
出し惜しみの無い高スペックの高性能普及機を展開したが、
EMや他社低価格機の、約4万円という価格帯から外れ、
5割増し以上の6万円台と高価となり、こちらの戦略も
市場には通用せず。

慌てて、1984年には低価格化を意図した「FG-20」
(48,000円、未所有)を発売するが、時既に遅し、という
感じでもあり、また、低価格帯機に対する企画コンセプトが
ころころと変わる事も、ユーザーから見て、あまり好ましい
市場戦略では無かったと思われた。

そして、その直後、1985年からは「αショック」による
AF化の荒波が押し寄せ、MF一眼レフ等、もうどうでも良い
とも言える時代に突入してしまったのだ。

ちなみに、NIKONが低価格機戦略でモタモタしている間、
1983年前後には、NIKONは高級機のカテゴリーで、FM2/
FA/FE2/New FM2と、後年にまで語り継がれるべき歴史的
な名機が次々と誕生している。(全て所有していたが、
現在手元にあるのはFE2のみ、銀塩一眼第11回記事参照)
これらの超絶スーパーサブ機が発売されれば、NIKONユーザー
としても、もう低価格帯機に興味を持つ事は無い。

ちなみに前述の、直後の時代のAF化により、これらスーパー
サブ機の販売数は、(New)FM2を除いては伸びず、後年の中古
市場では、FEやFAは希少価値で、かなりの高値で取引されて
いた(特にFE2は10万円を超える不条理な投機相場であった)

結局、「シリーズE」戦略は失敗に終わった。この頃から
市場やマニア層では「NIKONは低価格帯機を作るのが下手」
という話が囁かれるのだが、これは正確に言えば「下手」
なのではなく、「低価格帯機を余り売りたく無い」が
正解であろう。

高級機を販売するのがNIKONでの正当なビジネスモデルで
あるのに、市場環境等の変化で、普及機戦略等を行うのは、
まさしく「嫌々」の状態だと思う。それがユーザー層にも
見えてしまい、「手を抜いている」ようにも感じられる
あまり魅力的では無いカメラやレンズが発売される。

シリーズEに限らず、その後の時代でも、NIKONにおいては、
「銀塩AFコンパクト」「中期AF一眼レフ普及機、Fフタケタ」
「銀塩APSコンパクト」「銀塩APS一眼レフ、PRONEA」
「末期AF一眼レフ、普及機による囲い込み戦略、Uシリーズ」
「2000年代初期、デジタル一眼レフ普及機、Dフタケタ機」
「2000年代末期、一眼レフ用エントリーレンズ」
「2010年代初期、デジタル一眼レフ普及機、D3000系」
「2010年代前半、ミラーレス機1シリーズ」・・
において、全て同様に「普及機戦略」に失敗している。

・・歴史と市場の説明が長くなった、でもまあ、これは
マニア層(特に、NIKON党)であれば必ず知っておかなく
てはならない歴史だ。

で、これら「普及機戦略」の失敗は、いずれもユーザー側が
NIKON製品に求めるイメージとの食い違い(ニーズの差異)
が原因としては大きいと分析している。
よって、それぞれの普及カメラ、普及レンズ自体に責任は
無いし、それらの性能が劣っている訳でも無い。

いやむしろ、これらの普及化戦略製品群の中には、仕様的
差別化が小さく、コスパが極めて良い製品も含まれていて、
それらは、個人的には結構好みである。具体的には、
NIKON FGやシリーズEレンズ群、NIKON MINI AF600(銀塩
コンパクト)、NIKON U2(銀塩末期の囲い込み戦略機)
DX銘エントリーレンズ(DX35/1.8等)は、いずれも好みの
コンセプトの製品群であり、いずれも所有している(いた)。
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さて、ここでようやく本レンズSERIES E70-210/4の話だ。
準ジャンク品としての購入で、税込み1,000円と安価だ。
勿論、銀塩時代から知っているレンズではあったが、
SERIES Eは、小型軽量な単焦点(35/2.5、50/1.8、
100/2.8)を愛用していて、本レンズのような大型ズーム
(9群13枚、フィルター径φ62mm、重量約744g)は
「こんな大きく重いレンズは、シリーズEでは無い!」
と思って敬遠していたのだ。

だがまあ、銀塩時代であればそうだが、現代においては、
本レンズもまた、どのミラーレス機にも装着が可能な
この時代の、ごく普通の望遠ズームである。そう考えると、
本レンズは、1)開放F値固定ズーム 2)ワンハンド操作性
3)マクロモード有り(ワイド端70mmで、最短56cm)
という多数の長所がある為、これの購入に至った次第だ。

描写力は、この時代の望遠ズームとしては可も無く不可も
無し。弱点として、ボケ質破綻、望遠端での解像感低下、
低コントラスト等があるが、もうそれらは不問としたい。
まあ、なんとでも弱点回避の方法論はある訳で、その練習
をする為の「ワンコイン・レッスン」での購入目的もある。

マクロモードは有益であり、フルサイズまたは銀塩機で
70mmで撮影距離56cmの場合、撮影範囲は約29cmx約19cm
約1/8倍という撮影倍率だが、これを現代のAPS-C機で
使い、さらにデジタルズーム等を併用すると、マクロ
レンズ並みの1/2倍以上の撮影倍率が得られる。

なお、広角端70mm側にマクロ機構があるのは、「何故
望遠端では無いの?」と、若干の違和感があるのだが、
まあ、この時代のレンズでは、稀にそうした仕様の
ものも他にも存在している。

ちなみに、マクロ無しの場合、望遠端210mmで最短1.5m
の撮影距離では、計算上では70mm端マクロとほぼ同等の
撮影範囲となるのだが、実際に使用してみると、やはり
210mm側よりも70mm+マクロの方が、撮影距離やWDが
短縮される事による大きなメリットがあり、使い易い。

シリーズEのレンズは数種類(8機種、ただし新旧あり)
が発売されていて、うち、数機種は国内未発売だ。
これらの中では、マクロレンズが存在しないので、
本レンズをもって、マクロの代用とするラインナップ戦略
だったと思われるが、いかんせん、シリーズEの中では
最も大柄かつ重量級レンズであった故に、発売当時に
シリーズEを志向する初級ユーザー層では、手持ちで
本レンズを使用するのは、大変困難であった事であろう。

現代においても、中古は良く見かける。現代機で使っても
依然、大柄で重量級の課題は目だち、あまり推奨し難い
レンズではあるが、NIKONの市場戦略上の歴史的な観点から
は、価値のあるレンズだと思う。まあ、研究・資料用の
レンズである、とも言えるかも知れない。

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では、今回ラストのシステム
_c0032138_18151132.jpg
レンズは、smc PENTAX-DA 70mm/f2.4 Limited
(中古購入価格 22,000円)
カメラは、 PENTAX K-5(APS-C機)

2006年発売のAF単焦点中望遠レンズ(APS-C機専用)

後継機として新型コーティング(HD)となった
2013年版が存在するが、こちらはsmcコーティングの
初期型(旧型)である。

ハイコスパレンズ第12回記事とデジタル一眼レフ・
クラッシックス第22回記事「PENTAX KP」の回で紹介
済みのレンズであったが・・

従前のシリーズ記事「ミラーレス・マニアックス」
(2015~2017)と、本「レンズマニアックス」
(2018~継続中)の、2つのシリーズを本流として、
これらで、全ての所有レンズを紹介する方針があり、
こちらでは未紹介であったので、再度取り上げよう。
ただし、描写力等の話は重複する為に最小限として、
また別の視点からの内容とする。
_c0032138_18151158.jpg
さて、本レンズは小型軽量の中望遠レンズである。
固定フードと組み込み式フードが内蔵されているが、
それがなかったら、まるで「望遠パンケーキ」とも
言える程に、薄型のサイズだ。

レンズの焦点距離と、レンズの全長の比を「望遠比」
や「テレ比」とも呼ぶ。しかし、ここには光学分野全体
の課題として「学術用語が統一されていない」という
大問題があって、正しい呼び方は、さだかでは無い。

「望遠比」は、上記の寸法比率の他、焦点距離と
バックフォーカスの比率を表す場合にも使われる。
これは一眼レフにおいて、ミラーボックスの長さを回避
する為、広角レンズでも無理に焦点距離を伸ばす設計
にする事で、これについては「レトロフォーカス型」とか
「逆望遠型」と呼ばれ、これは比較的良く世の中に定着
してる用語だが、この際の「比率」をどう呼ぶかにおいて
稀に「望遠比」が使われ、混乱の源となっている。

そして、今話題にしている、レンズ全長と焦点距離の
比であるが、これが小さいものを「望遠率が高い」とか
「短焦点」(注:広角と言う意味では無い。単焦点でも
無い)と呼ぶ場合がある。
また、元々、レンズの焦点距離よりもレンズの全長を
短くできる設計を「望遠レンズ」とも呼び、よって、
この解釈では、レンズの焦点距離自体は、望遠レンズか
どうかの判断とは無関係であり、これは現代における
一般的な市場用語の常識とは、概念がだいぶ異なる。

で、こちらの解釈の際、焦点距離よりもレンズ全長が
短いものを「短焦点」、その逆を「長焦点」と呼んで
いる訳だ。(長焦点タイプは、銀塩MF時代の28mm/F2
等の大口径広角レンズに多い)

で、いずれの用語や解釈も、光学分野全体での共通解釈
が無く、文献や資料、研究者毎等に、まちまちの言葉や
異なる意味が出てくる。

何故、光学分野での用語統一が何十年、いや100年以上も
出来ていないのか? そこが大問題なのだが、まあ
そういう技術分野なのだろうから、やむを得ない。
誰も「用語統一をしよう」などと主張する人は、現れ
なかったのであろう。残念な話だ。

現実的には、光学の原理を学ぼうとする際と、光学分野
の人と会話やビジネスの話をする際に大きな問題となる。

前者は、光学の参考書や専門書等の書籍毎に、書いてある
用語や解釈が異なるので、わけがわからなくなる。
で、ある程度のレベルを超えると、理解すべき技術内容も
高度になり、加えて用語や解釈も個々に異なるので最悪だ。
結局、専門性の高い(高すぎる)分野であるから、
一般カメラマンやマニア層が、レンズ等に興味が出てきて
専門的な光学の勉強をしようとする際、大きな弊害となる。

この不透明さは「意地悪」や「不条理」とも感じられる
要素もある。すなわち、光学分野の専門性を維持する為、
他者や門外漢があまり入ってこられないような「参入障壁」
では無いか?とも思ってしまう。まあ、他の分野で言えば
「お役所仕事」等を、必要以上に複雑化して、他の担当者等
では、さっぱりわけがわからず、それにより現行担当者の
地位を保身するような状況、それに似ているようにも感じる。

この混迷は、光学の専門家の範疇ではとどまらず、専門家
や一般層が、光学の原理をネット上等で、説明する際にも
それぞれが学んだ「スタイル」「お作法」「文化」等に
応じて、言っている事や用語がまちまちとなる。

だから、そうした公開情報を閲覧する一般層もまた、
多大な混乱を引き起こし、「何がなんだかわからない」と
なるか、あるいは、原理的には間違った情報や解釈のまま、
それが広く一般層に伝播されてしまうような困った自体が、
過去、星の数ほど存在した、という憂うべきケースがある。
_c0032138_18151107.jpg
また、この「用語不統一」があって、光学の専門分野の人と
ビジネス(商談)等の話をする場合も問題だ。
技術系の仕事等をしていれば、そういう光学系の部品等が
必要なケースもよくある事であろう。その際、専門用語の
解釈や意味が、光学の中でも細分化された業界毎あるいは
メーカー毎、さらには担当技術者に至るまで、各々、言って
いる事や(用語)その内容(解釈)が異なるのである。

簡単な例を挙げれば「撮影距離」と言ったところで、
全ての業界担当者に正しく伝わる保証は無い。これには
「センサー面から被写体までの距離」
(いわゆる本来、最も良く使われる”撮影距離”だ。
 が、稀に、これを「焦点距離」と誤って呼ぶ人達が
 居て、非常に混乱してしまう)と、
「レンズ前面から被写体までの距離」
(別名、ワーキング・ディスタンス、又は物像間距離)や、
「設計上のレンズ主点から被写体までの距離」
(適正な代替用語無し)など、様々な解釈がある為、
お互い、わかっているつもりで話をしていても、製品が
出来上がったり納入された際に、「あれ? 欲しい品物と
全然仕様が違うじゃん!汗」といった事も有り得る話だ。

余談が長くなったが、これは余談では済まされず、
光学の分野に係わる際に、非常に大きな問題となる。
_c0032138_18151291.jpg
本ブログでは、できるだけ誤解無いような表現を用いて
いるし、複数の解釈が想定される場合には、知る範囲で
それを書いている。また、新技術や新用法等で、過去に
前例が無い場合は、新用語を創り出すしか無いのだが、
そうした独自用語は、別途「匠の写真用語辞典」シリーズ
記事で、詳しくそれを定義および解説している。

なお、そういう解説記事を書く事で、どこが曖昧なのか、
とか自分が何がわかっていないのか?が明確になって行く。
これは有益な勉強(学習)手法でもあり、たとえば受験
勉強の際にも、まず、その勉強したい(覚えたい)事柄を
声に出して説明する、あるいはノートに書き出してみる。
すると、そこで不明瞭な部分が「詰って」説明が出来なく
なるので、そこが、自身がわかっていない部分であろう。
そこを重点的に復習や勉強をすれば、その「事柄」は
もう忘れなくなる訳だ、これは非常に効率的な学習法と
言えると思う。

逆に言えば、曖昧なままで、「わかったような気」に
なっている場合は、その人の説明を聞いたり文章を読めば、
だいたいその雰囲気(様子)はわかる。難しい表現ばかりを
使っている場合には、さらに要注意であり、情報の信憑性
が薄い。つまり、その説明者が、ちゃんと物事や事柄を
完全に理解しているのであれば、難しい表現など使わず、
誰にでもわかりやすい概念等で補足や代替ができる筈だ。
それができていない説明では、説明者そのものが、良く
わかっていないケースが大半だ。

さて、ずいぶんと前置きが長くなった。

本DA70/2.4の話であるが、前述のように小型化
された中望遠である為、ハンドリング性能に優れる。
_c0032138_18151951.jpg
描写表現力全般は、標準レベルよりも、やや良好。
ボケ質破綻等が稀に出るが、重欠点では無い。

それから、本レンズは、2000年代前半のコシナ
フォクトレンダー製のカラーヘリアー75mm/F2.5
のコピー設計の可能性も無きにしもあらずで、

あるいは、両レンズは5群6枚の変形ダブルガウス
型構成であるから、銀塩時代の小口径50mm標準
レンズの「サイズアップ設計」かも知れない。
いずれもケースでも、設計の元となったレンズの
性能は高く、本DA70/2.4自体の描写力にも、
さほどの不満は感じ難いであろう。

中古価格も比較的安価であり、流通量も多い。
PENTAX党であれば、やや高価な超名玉FA77/1.8と
本レンズの選択は悩みどころになるだろう。

実は、私もFA77/1.8を長年愛用していた為、
本レンズDA70/2.4の購入は遅れに遅れ、2010年代
中頃であったのだ、だが、中古相場も下落していて
買いやすかったのは利点であり、この為「ハイコスパ」
系のシリーズ記事で取り上げる事となった次第である。
(なお、後継のHD型は、所有していないので性能差に
ついては良くわからないし、細かい差異に興味も無い)

選択肢だが、性能的観点では勿論超名玉のFA77/1.8を
推奨するのだが、コスパを重視するならば本DA70/2.4
も十分に有りだ、両者は値段差ほどの性能差は無い。
(FA77/1.8描写表現力=5点満点、に対し、
DA70/2.4描写表現力=4点)

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では、今回の第41回記事は、このあたり迄で、
次回記事に続く。


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