さて、新シリーズの開始である。
本シリーズ「海外レンズ・マニアックス」は、日本国内で
流通している、海外製レンズ(中国、韓国、台湾、米国、
独国、旧ソ連等)を、メーカー別、または国別に紹介する。
なお、本シリーズで紹介する全レンズは、別記事である
「ミラーレス・マニアックス」又は「レンズ・マニアックス」
シリーズ中で紹介済み/予定となっているが、掲載写真は
全て、それらの記事以降の新規の撮影のものだ。
本シリーズの対象となる所有レンズ数は、さほど潤沢では
無い(数10本程度)ので、1記事あたり4~5本程度の
紹介で、シリーズは合計十数記事となる予定だ。
従前のμ4/3用レンズ・マニアックスの記事群に続く、
このシリーズは「レンズマニアックス+(プラス)」
と称する事としよう。
レンズマニアックス+(プラス)シリーズでは通算
第6回目となり、海外レンズ・マニアックスとしては
第1回目の今回の記事は「七工匠(しちこうしょう)編」
という主旨とし、同社製の4本のレンズを紹介する。
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「七工匠」(しちこうしょう、7 Artisansとも)とは、
中国「深セン」にある光学機器メーカー(のブランド銘)
である。
他記事でも書いた事があるが、中国の「深セン」には、
近年、光学機器関連メーカーが集中している模様であり、
恐らくは協業等により、効率的な研究・開発・製造体制が
出来上がって来ているのではなかろうか?
「全てが」とは言い切れないが、「深セン」にある
メーカーで作られた一部の交換レンズは、品質や性能が
高いものが色々と存在している。
----
では、早速「七工匠」レンズを紹介して行こう。
個々のレンズには、正式な型番があるかも知れないが
その表記は、あまり一般的なものでは無い模様なので、
型番記載は省略し、焦点距離と開放F値のみ記載する。
なお、型番省略をしても、今のところ同じ仕様のレンズ
等での、機種かぶりや後継機種等は存在していない。
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レンズは、七工匠 60mm/f2.8 Macro
(新品購入価格 24,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)
2019年に発売された、各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF中望遠(相当画角)等倍マクロレンズ。
本レンズは発売後すぐに購入するつもりであったが、
発表された予定発売日から数ヶ月遅れての発売となり、
「もしかして、お蔵入りか?」と、少々やきもきした。
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なお、今回紹介の七工匠製レンズの多くは、μ4/3
マウントで購入している。そうしておくと、簡易な
アダプターで、SONY Eマウント機でも利用ができる
からである。ただし、多くの七工匠製レンズは、
イメージサークルはAPS-C機対応の設計となっている。
よって、フルサイズα機ではケラれるレンズが多いし、
APS-C機用レンズであっても、μ4/3機で使った方が
周辺収差低減の点で僅かに有利な場合もある。
そして、七工匠製レンズの大半は、銀塩時代の名玉の
「ジェネリック(設計)レンズ」である。
すなわち、その名玉の設計を基本的に2/3倍~1/2倍に
縮小し、ミラーレス機用に後群等を微調整した設計だ。
この手法では、過去の名玉の優秀な描写特性を、ほぼ
再現する事が出来、そうであるのに新たな設計関連費用
(手間、工数、試作、評価など)を大幅に削減できる。
この手法を過去からある医薬品のコピー品(ジェネリック
薬品)に例え、「ジェネリック・レンズ」と呼んでいる
次第である。
現代ではコンピューター光学設計が主流だが、求める
スペックを高目に設定し(例:諸収差を全て補正する等)
そのままコンピューター(PC)に設計させてしまうと、
PCは、際限無く高性能のレンズを目指して計算を続け、
結果、できあがった設計は、とてつもなく複雑で高価
(例:10数群10数枚で、高価な部材である非球面
レンズや異常低分散ガラスを多用した設計)な物を
提示してしまい、おまけに、大きく重量級となる。
(例:単焦点標準レンズなのに、フィルター径が
φ82mmもあって、重量も1kg前後もある、等)
これでは、たとえ性能が良いレンズであっても「三重苦」
であるから、消費者側から見れば、とても買い難い。
現代、日本のカメラ(レンズ)市場は縮退しているので、
そういった高付加価値型商品(=メーカーの利益が大きい)
を販売していかないと、事業がやっていけないのだろうが、
それは、メーカー側や流通(市場)側の都合でしか無い。
ユーザーから見れば、安くて良い商品が欲しいのは当然だ。
で、ジェネリック設計であれば、コンピューター光学設計
でも上記のような「過剰な性能のレンズ」を提示する事は
無い。数十年前の時代の基本的でオーソドックスで安価な
構成を元にした、小改良(小修正)品であるからだ。
そして、AF/超音波モーターやら、内蔵手ブレ補正機能も
廃してしまえば、中国の製造設備と人件費であれば、
数十年前の時代の価格帯で、新型レンズを製造できる。
結果、安価なレンズを市場に出す事ができるようになり、
前記のように、高額な新製品レンズばかりで、低価格帯
レンズが何もなくなってしまった日本国内市場に向け、
「競争力の高いレンズ製品」を投入できる。
これが2017年ごろから活性化した、各海外新鋭メーカー
の市場戦略である。
(注:近年では、市場等において、これらの中国製の
レンズを「中華レンズ」と、やや見下げたように呼ぶ
ケースが多いが、あまり推奨ができない呼び方だ。
これらは、ただ単に「安かろう、悪かろう」(つまり
低価格で品質も低い)という商品でもなく、市場戦略が
あり、コストダウンの為の様々な措置が行われている。
それらを正しく理解した上で、個々の商品の性能や品質、
そして、そのレンズがどのように生まれてきたのか?の
出自を理解した上で、評価を行う必要があるだろう。
特に、国産レンズが市場縮退の理由で高価になりすぎて
しまった事が最大の課題であり、つまり、国産レンズは
国際的な価格競争力を既に失ってしまっている。
だから、コスパに優位性がある新鋭の海外製レンズが、
実に大量に国内市場に次々と参入してきている訳だ。
この対策をきっちりと、国内メーカーも、流通市場も
消費者層ですらも考えていかないとならない事だろう。
消費者層は、皆、安くて良いレンズが欲しいに決まって
いる訳で、例え、いくら高性能であっても、高価すぎる
と思われる商品は、欲しいとは思い難い訳だ)
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で、「七工匠」は、ここまで述べてきた「ジェネリック
設計/戦略」を最も得意とする中国メーカーである。
他にも中国レンズメーカーは色々あるが、ここまで明白に
多くのレンズを「ジェネリック設計」としている例は殆ど
無く、むしろ新規の独自設計としている製品が多い。
まあ、なので、「七工匠」が新しくレンズを発売すると、
個人的には「今度は、どのレンズのジェネリックだろう?」
と、わくわくしてしまうのだ。
七工匠のレンズは、レンズ構成図が公開されているので、
それを良く見て、過去の名レンズで似ているものを探せる
訳である。
ここまで長々と述べてきたのだが、実は、本七工匠60mm
/F2.8 Macroに関しては、ジェネリックの元となった
レンズを発見する事が、まだ出来ていない(汗)
ジェネリックの場合、APS-C機用イメージサークルに
合わせる為、2/3倍に設計をダウンサイジングするケースが
多い。よって、元レンズがあるならば、90mm~105mm
程度のF2.8の等倍マクロであろう。
だが、最も著名なTAMRON SP90/2.8とは類似していない、
そのレンズは1990年代後半と新しく、まだ特許が切れて
いないのだろうか?(注:基本的には特許の有効期間は
20年間なので、もう切れているとは思う。
ただ、いくら中国製とは言え、さすがに特許で権利が
守られているものはコピーできないであろう、それは
国際的なルールだ。それと、設計図面等が公知or公開
されているかどうかも、ポイントとなるだろう)
すると、もっと昔のCONTAX Makro-Planar100/2.8
とかをベースとしたのだろうか?
そこまでは詳しい資料が無く、正直、調べきれていない。
あるいは、本レンズはオリジナル設計なのだろうか?
その為、検証に時間がかかってしまい、当初の発売予定
(発表済み)から3ヶ月も遅れての新発売になったので
あろうか? そのあたりは良くわからない。
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本レンズの出自はともかく、性能であるが、正直言うと
あまり芳しく無い。
詳しくは、レンズマニアックス第53回記事(予定)で
述べるので、重複する為に簡単に書くが、弱点として、
1)解像感の弱さ
2)逆光耐性の低さ
が目立つレンズだ。
近代のマクロレンズは、解像感を高めた設計コンセプト
の物が多い。それは必ずしも優れた特性だとは言い難い
節もあるが、まあでも、そういうマクロを見慣れると、
やはり、マクロでも、ある程度のシャープさは欲しいと
思う場合が多いであろう。そういう点では、本レンズは
現代的な特性では無く、若干見劣りしてしまう。
(新品)価格もやや高く、中古相場もあまり安価には
なっていない。
購入を躊躇するまででは無いとは思うが、ややコスパ
が悪く感じる。
ただ、多数ある新鋭海外(中国)製レンズ群の中では
本レンズが唯一に近い、安価なマクロ(他にLAOWA製や
近年ではMeike製がある)であるから、適価でマクロが
欲しいとなれば、有力な選択肢ではあろう。
しかし、銀塩時代からの名マクロは国内中古市場には
多数流通している。名玉のTAMRON SP90/2.8系統で
あれば初期のバージョンであれば、1万円前後から中古
入手が可能なので、実用的にはそちらを購入する方が
望ましい状況であろう。
---
では、次の七工匠レンズ。
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レンズは、七工匠 25mm/f1.8
(新品購入価格 12,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
2018年頃に発売された、各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF準広角(相当画角)レンズ。
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これも銀塩時代の完成度が極めて高い、各メーカーの
小口径MF標準レンズ、具体的には、MF50mm/F1.8級
のジェネリックである。
ただし、1/2倍への縮小設計であるから、μ4/3機は
ともかく、APS-C機で使用時はイメージサークルが
僅かに足りていない。
これをどう計算するか?は簡単で、各センサーサイズの
カメラでの焦点距離換算係数(フルサイズ=1倍、
APS-C=約1.5倍、μ4/3=2倍)の逆数を求めるだけだ。
だから、μ4/3機用にスケールダウンするならば1/2倍、
APS-C機用に縮小する場合は、2/3倍となる。
本レンズのように、APS-C機用に1/2倍縮小した
場合には、0.66倍と0.50倍の数値の差の分、わずかに
周辺が足りない、この時「周辺減光」の発生が起こる。
ただ、確かに本レンズでは周辺減光があるのだが、
その度合いは少ない。
これは、元となった銀塩MF50mm/F1.8級の設計が、
わずかにイメージサークルに余裕を持った設計であった
のか? または、それを1/2倍縮小した際、どうせ
ミラーレス機用にフランジバック長、等を調整しないと
ならないので、そこでAPS-C機でも周辺減光を目立たなく
する為の、レンズの後玉または後群の改良(改修)が
行われたのであろう、と推測できる。
まあ、その結果として像面湾曲収差特性が変化したのか?
僅かにボケ質破綻が発生しやすい特性となってしまった。
ただまあ、銀塩MF50mm/F1.8級レンズでも元々それらは
絞って使えば高描写力であるが、絞りを開けると同様に
ボケ質破綻が発生するケースがあるので、これは元々の
オリジナルレンズからあった特性(弱点)かも知れない。
幸か不幸か、本レンズはFUIFILM Xマウント版を購入して
いる。そもそもFUJI X機は、どれもピーキングの精度が
低く、ピント歩留まりが悪い(ピンボケ確率が大きい)
という課題を抱えている。
だから、本レンズも、やや絞って使うのが被写界深度を
深めてピント歩留まりを上げる為に望ましいので、
この母艦(FUJI X機)との相性は良い。
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いや、実は、最初からここまで想定した上での購入だ。
銀塩小口径標準(5群6枚構成)は、完成度が高いが、
ボケ質破綻などの微小な弱点を抱えている。
(参考:最強50mm選手権シリーズ第2回、第4回記事で、
計11本の銀塩小口径標準を紹介(対戦)している)
この為、本レンズは、少し絞って使う前提として、
あえてFUJI Xマウント版を購入、これでカメラ側と
レンズ側の弱点が消える「弱点相殺型システム」と
なる訳だ。
まあつまり、元となるレンズの特性(長所・短所)が
わかっているならば、そのジェネリックレンズの
使いこなしにも、大いに参考になるという事である。
そうした出自を知らずに、ただ単に、買って来た1本の
レンズだけを見て、良いとか悪いとか語っている初級層
の評価スタイルは、あまり好ましく無いと思っている。
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本レンズ七工匠25/1.8の総括であるが、μ4/3機で
使用するならば、50mm相当の安価な標準画角レンズ
として、悪く無い選択だと思う。
中級層、初級マニア層あたりには特にオススメだ。
なお、いくつかの七工匠レンズには、本レンズのように
銀色塗装版が存在する。(一部は黒塗装のみ)
ボディ側のカラーとの組み合わせで、レンズの色を
選択すると良いであろう。
----
さて、3本目の七工匠システム。
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レンズは、七工匠 35mm/f1.2
(新品購入価格 20,000円)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
2018年頃に発売された各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF標準(相当画角)レンズ。
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本レンズの元は、銀塩時代1960年代~1970年代頃
のMF大口径標準(50mm~58mm/F1.2級)である。
それを約2/3倍に縮小すると本レンズの仕様となる
のであるが・・
残念ながら、このジェネリックでは、元となった
レンズの性能が低すぎる。
その時代の大口径標準は、最強50mm選手権シリーズ
第7回MF50mm/F1.2編で、5本の同スペックレンズを
紹介(対戦)しているのだが、途中で記事を書くのが
嫌になってしまった位に、低描写力のレンズばかり
である。
これはまあ、その当時の「大口径化競争」、つまり、
他社よりも開放F値を明るくした標準レンズを発売
する事が、メーカーとしての、技術力、ブランド力、
市場優位性、等を高める為の戦略であったのだが・・
実際のところ、後年の技術である、非球面レンズや
異常低分散ガラスを使わない限り、当時の技術力や
設計技能では、F1.2級の大口径標準レンズを作る
事は難しかった訳だ。
(=難しいからこそ、開発競争が起こった。その困難
な開発に成功すれば、一気に他社よりもリードできる
からである)
で、F1.2級標準では、無理をして高価な非球面レンズ
を採用した例も稀にある。だが当時の非球面レンズは
高度な技能を持つ職人による、いわば「手磨き」だ。
(=「研削非球面レンズ」等とも呼ばれる)
当然製作に時間もかかるし、出来上がったが上手く磨けて
おらず、不良でボツとなるレンズが大量に発生する事で
あろう。後年の時代のようにガラスモールド(金型)で
非球面レンズを量産できる訳では無いのだ。
だから、非球面レンズの入った製品は恐ろしく高価だ。
おまけに、非球面レンズを1枚入れた程度では、それに
より、飛躍的に描写性能が向上する訳でも無い。
1990年代には非球面が量産されるようになり、普及機の
付属(キット)標準ズームですら、非球面レンズを搭載
しているものも多々あったが、それらが市場において
「名玉だ」と評価された例は1つも無い事であろう。
(注1:この1990年代では、球面レンズに非球面部材
を貼りつけた「複合非球面レンズ」も良くあった)
(注2:非球面レンズの採用は、常に高描写力化を意図
したものでもなく、レンズの小型化や低価格化等の
目的でも、非球面レンズが使われる場合がある)
・・なので銀塩F1.2級標準の性能は、非球面があろうが
無かろうが描写性能的にはイマイチであり、その設計を
2/3に縮小して作った、本レンズ七工匠35/1.2も、その
弱点をモロに引きずってしまい、低性能なレンズとなった。
これがジェネリックレンズの典型的な弱点であろう。
昔の名レンズとか言っても、全ての面で完璧なレンズは
簡単には作れないし、そもそも存在していない事であろう。
であれば、旧レンズにあった長所はともかく、短所ですら
も、それを引き継いでしまう訳だ。
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本レンズの使いこなしは極めて難しい。
まあ近年では「レンズの弱点を回避して使うのはユーザー
側の責務である」という持論を良く述べてはいるが、
それにしても限界はある。元々低性能なレンズであれば
何をどうしても弱点回避が出来ない場合もある訳だ。
本レンズ(や、銀塩F1.2級標準)の典型的弱点は、
大口径化による、諸収差(特に、球面収差、コマ収差、
像面湾曲、非点収差)の補正が行き届いていない事で
ある。したがって、絞りを開けて使うと、これらの
収差は口径比(有効径)に比例または累乗で増加する為、
「ボケボケ」、「甘々」な描写傾向となってしまう。
この状態は、ミラーレス機のピーキング機能を使っても
確認できる。絞りを開けると、ピーキングすら反応しなく
なってしまい、相当に収差が発生して、像面コントラスト
が非常に低下している事がわかる。
だが幸い、上記収差群の多くは、有効径が減少するに
従って低減していくので、絞り込むと、ある程度は
描写力は改善される。しかし本レンズの場合では、その
目的での絞り値は、F11程度まで絞り込む必要がある。
だから、せっかくの大口径レンズであるのに、描写力を
実用範囲として維持するには、常に絞りを相当に絞り込む
必要があり、レンズの特徴と撮影技法がマッチしておらず
絞りを開けたいのに開けれない、と相当にストレスとなる。
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今回の記事内の4本では、本レンズのみ非推奨だ。
元(ベース)となった素材が悪すぎる、という事であり
七工匠側の課題は少ないとは思うが、とは言え、適正な
性能のレンズを発売したいと思うのであれば、これは
ちょっと酷すぎたかも知れない。
元となるレンズは良く選んで、ジェネリック化するべき
であろう。それは勿論メーカー側の責任範囲だ。
なお、疑問に思っていたのは、「何故ジェネリック
と言うと、一眼レフ用レンズの設計ばかりを踏襲
しているのだろう? ミラーレス機用ならば、レンジ
ファインダー機用のレンズを参照できるだろう?」
という点があった・・・
これについては、2019年に発売された「安原製作所
ANTHY 35mm/F1.8」が、レンジ機用レンズ設計を
ベースとしていると思われ、ミラーレス機にマッチ
した、優秀な描写特性を持っている(別記事参照)
まあ、著名なアイデアマンである安原氏の企画だ、
流石に上手いところを突いてきた、という印象だ。
(追記1:ANTHYシリーズは、その後、85mm等が
発売される予定だと聞いていたが、安原氏は2020年
3月に急逝。ANTHY35/1.8が遺作となってしまって
いる。ご冥福をお祈りすると同時に、ANTHY35/1.8
は大事に使っていく事としよう)
(追記2:ごく最近、2020年12月頃に
「TTArtisan 35mm/F1.4 C」という、安価な
中国製レンズ(APS-C機以下用)が発売された。
これは、レンジファインダー機用のSonnar型の
構成を採用しているジェネリックな模様だ。
現状未購入だが、早めに入手したいと考えている)
----
では、次は今回ラストの七工匠システム
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レンズは、七工匠 55mm/f1.4
(新品購入価格 16,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7 (μ4/3機)
2018年頃に発売された各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF中望遠(相当画角)レンズ。
本レンズは、異マウント(μ4/3、FUJI X)で、計2本
所有している。
その理由は「優秀なレンズだ」という認識からであり、
μ4/3機用レンズは、マウントアダプターでSONY E機
(APS-C機/APS-Cモード)でも使用可能であり、
所有している各ミラーレス機システム内での汎用性を
高めている。
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これも勿論ジェネリックだ。元となったレンズは、
1970年代~1980年代の各社「プラナー系85mm/F1.4」
であろう。元祖RTS Planar 85mm/F1.4(1975年)が
著名であるが、その後、国内各メーカーにおいても、
同様の設計の85mm/F1.4級レンズが出揃っているので、
本レンズのベースは、そのうちの1本または、それらの
”共通項の設計”をスケールダウンしたものであろう。
元祖RTSプラナー85/1.4は、当時の初級中級層に
「神格化」されたレンズであった。
ヤシカ(後に京セラ)の、国産CONTAXを市場に訴求
させる為の最強ウェポン(兵器)であって、これを
皆が欲しがった事で、初期(国産)CONTAXの事業が
支えられていた、と言っても過言では無い。
ただ、RTS P85/1.4は使いこなしがとても困難な
レンズであったので(レンズマニアックス第12回、
「使いこなしが困難なレンズ特集」でワースト4位)
後年には、中古市場に溢れかえったレンズでもある。
毎回のRTS P85/1.4や本レンズの紹介記事で書いて
きたので理由等の詳細は割愛するが、簡単に言えば、
RTS P85/1.4は、ピントが合わない、焦点移動が出る、
ボケ質破綻の頻繁な発生、という重欠点を抱えていて
開放測光MF一眼レフ、しかもスクリーン性能が全般的に
低いCONTAX機では、いずれの弱点も、システム的に
回避が困難か不可能であった状態だ。
だから、「偶然」でしか良い写真を撮る事ができず、
私の経験上、その成功確率は1~3%程度でしか無い。
銀塩時代に、高価なCONTAX機や高級レンズをポンと
買ってしまうような金満家層等では、失礼ながら、
さほど沢山の写真を撮っていたとは思えないので、
この課題の回避は容易では無かったと思う。
そして勿論腕前もあるだろう。だから結局、千枚、いや1万枚とかを撮らないと、
P85/1.4では、気に言った写真は撮れなかった訳だ。
で、そういう事ができた人は、実践派上級マニア層か
職業写真家層あたりしか居ない。
そういう人達が、999枚の写真をボツにして、残った
1枚の写真を見せて「ほら、これがRTS Planar 85/1.4
の写真だ、どうだ、凄い写りだろう!」とか言えば、
まあ、それは確かに、そのレンズで撮った写真だから、
周囲の人達は「さすがCONTAX(ツァイス)、凄いですね」
としか、感想を述べようが無い訳だ。
でも、その凄い写りを見て、高価なシステムを購入した
としても、998枚撮って「ダメだ、ただの1枚も良い写り
の写真が無いや、オレが下手なのか? それとも、この
レンズが凄いと言われていたのは、ガセ(嘘)なのか?」
と、思ってしまう事であろう。
まあ、皆、自分が下手だと思われるのは嫌だろうから、
ひっそりと処分してしまうのが普通だ、だから中古市場に
CONTAX RTS P85/1.4が沢山出回ってしまった訳だ。
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さて、余談が長くなった。
本七工匠55/1.4も、そうしたプラナー系85/1.4の
長所(うまく当たった時の、爆発的な高描写力)も
弱点(ピント歩留まり、焦点移動、ボケ質破綻)も
しっかりと引き継いでしまっている。
ただ、ミラーレス機専用とした事で、弱点のことごとく
を回避可能なのだ。高精細EVFによるピーキング機能と
絞り込み(実絞り)測光、そしてボケ質破綻回避技能で
全ての弱点は消える。
技能的にちょっと難しい面もあるので、場合により、
絞り値やピント位置を変えながら連写をする、2次元
ブラケットにより「下手な鉄砲、数撃てば当たる」方式
が成り立つ。まあ、デジタルならば1000枚位撮るのは
普通だ。だから1日の撮影枚数の中でも、気にいった
カットが多く含まれる事となる。
ただし、銀塩プラナー系85/1.4には無かった新たな
弱点も本レンズにはある、それは「逆光耐性の低さ」
である。ここにだけ注意をしておけば、本レンズは
名玉のミニチュア版(=同等画角)として、類稀な
高描写力を発揮できる極めて安価なレンズとなり得る。
(注:APS-C機で使用した場合に、約82.5mm/F1.4と、
元となったプラナー系85/1.4レンズと同等画角となる)
また、最短撮影距離が35cmと、焦点距離10倍則より
遥かに短く、ミラーレス機の各種デジタル拡大機能
と組み合わせれば、準(擬似)マクロレンズとして
も使用可能である。
当然ながらコスパは極めて良い。
本レンズは新品で1本、中古で1本購入しているが、
中古の方は1万円強程度の相場であった。
銀塩時代の各社プラナー系85/1.4は、MF/AF版等
色々あったが、いずれも定価は10万円程度以上は
していたと思う、それの1/6から1/15程度の価格で
同等の描写力のレンズが入手できるのであれば、何も
文句は無い。
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本レンズは、「最強50mm選手権」シリーズ記事には
評価が間に合っておらず、ノミネートを見送っているが、
続く「価格別レンズ選手権、1万円級レンズ(1)」の
記事(注:近日連載開始予定)では、当該カテゴリー
において高成績を収めたレンズとなっている。
主には中上級マニア層向けだが、他の一般層にも
推奨できるレンズである。
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では、今回の「七工匠編」は、このあたり迄で、
次回記事では、また他の(同一)海外メーカーの
レンズ製品群を紹介予定だ。
その後は、メーカー毎、あるいは国別での記事を
続けていく。
本シリーズ「海外レンズ・マニアックス」は、日本国内で
流通している、海外製レンズ(中国、韓国、台湾、米国、
独国、旧ソ連等)を、メーカー別、または国別に紹介する。
なお、本シリーズで紹介する全レンズは、別記事である
「ミラーレス・マニアックス」又は「レンズ・マニアックス」
シリーズ中で紹介済み/予定となっているが、掲載写真は
全て、それらの記事以降の新規の撮影のものだ。
本シリーズの対象となる所有レンズ数は、さほど潤沢では
無い(数10本程度)ので、1記事あたり4~5本程度の
紹介で、シリーズは合計十数記事となる予定だ。
従前のμ4/3用レンズ・マニアックスの記事群に続く、
このシリーズは「レンズマニアックス+(プラス)」
と称する事としよう。
レンズマニアックス+(プラス)シリーズでは通算
第6回目となり、海外レンズ・マニアックスとしては
第1回目の今回の記事は「七工匠(しちこうしょう)編」
という主旨とし、同社製の4本のレンズを紹介する。
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中国「深セン」にある光学機器メーカー(のブランド銘)
である。
他記事でも書いた事があるが、中国の「深セン」には、
近年、光学機器関連メーカーが集中している模様であり、
恐らくは協業等により、効率的な研究・開発・製造体制が
出来上がって来ているのではなかろうか?
「全てが」とは言い切れないが、「深セン」にある
メーカーで作られた一部の交換レンズは、品質や性能が
高いものが色々と存在している。
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では、早速「七工匠」レンズを紹介して行こう。
個々のレンズには、正式な型番があるかも知れないが
その表記は、あまり一般的なものでは無い模様なので、
型番記載は省略し、焦点距離と開放F値のみ記載する。
なお、型番省略をしても、今のところ同じ仕様のレンズ
等での、機種かぶりや後継機種等は存在していない。
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(新品購入価格 24,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)
2019年に発売された、各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF中望遠(相当画角)等倍マクロレンズ。
本レンズは発売後すぐに購入するつもりであったが、
発表された予定発売日から数ヶ月遅れての発売となり、
「もしかして、お蔵入りか?」と、少々やきもきした。
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マウントで購入している。そうしておくと、簡易な
アダプターで、SONY Eマウント機でも利用ができる
からである。ただし、多くの七工匠製レンズは、
イメージサークルはAPS-C機対応の設計となっている。
よって、フルサイズα機ではケラれるレンズが多いし、
APS-C機用レンズであっても、μ4/3機で使った方が
周辺収差低減の点で僅かに有利な場合もある。
そして、七工匠製レンズの大半は、銀塩時代の名玉の
「ジェネリック(設計)レンズ」である。
すなわち、その名玉の設計を基本的に2/3倍~1/2倍に
縮小し、ミラーレス機用に後群等を微調整した設計だ。
この手法では、過去の名玉の優秀な描写特性を、ほぼ
再現する事が出来、そうであるのに新たな設計関連費用
(手間、工数、試作、評価など)を大幅に削減できる。
この手法を過去からある医薬品のコピー品(ジェネリック
薬品)に例え、「ジェネリック・レンズ」と呼んでいる
次第である。
現代ではコンピューター光学設計が主流だが、求める
スペックを高目に設定し(例:諸収差を全て補正する等)
そのままコンピューター(PC)に設計させてしまうと、
PCは、際限無く高性能のレンズを目指して計算を続け、
結果、できあがった設計は、とてつもなく複雑で高価
(例:10数群10数枚で、高価な部材である非球面
レンズや異常低分散ガラスを多用した設計)な物を
提示してしまい、おまけに、大きく重量級となる。
(例:単焦点標準レンズなのに、フィルター径が
φ82mmもあって、重量も1kg前後もある、等)
これでは、たとえ性能が良いレンズであっても「三重苦」
であるから、消費者側から見れば、とても買い難い。
現代、日本のカメラ(レンズ)市場は縮退しているので、
そういった高付加価値型商品(=メーカーの利益が大きい)
を販売していかないと、事業がやっていけないのだろうが、
それは、メーカー側や流通(市場)側の都合でしか無い。
ユーザーから見れば、安くて良い商品が欲しいのは当然だ。
で、ジェネリック設計であれば、コンピューター光学設計
でも上記のような「過剰な性能のレンズ」を提示する事は
無い。数十年前の時代の基本的でオーソドックスで安価な
構成を元にした、小改良(小修正)品であるからだ。
そして、AF/超音波モーターやら、内蔵手ブレ補正機能も
廃してしまえば、中国の製造設備と人件費であれば、
数十年前の時代の価格帯で、新型レンズを製造できる。
結果、安価なレンズを市場に出す事ができるようになり、
前記のように、高額な新製品レンズばかりで、低価格帯
レンズが何もなくなってしまった日本国内市場に向け、
「競争力の高いレンズ製品」を投入できる。
これが2017年ごろから活性化した、各海外新鋭メーカー
の市場戦略である。
(注:近年では、市場等において、これらの中国製の
レンズを「中華レンズ」と、やや見下げたように呼ぶ
ケースが多いが、あまり推奨ができない呼び方だ。
これらは、ただ単に「安かろう、悪かろう」(つまり
低価格で品質も低い)という商品でもなく、市場戦略が
あり、コストダウンの為の様々な措置が行われている。
それらを正しく理解した上で、個々の商品の性能や品質、
そして、そのレンズがどのように生まれてきたのか?の
出自を理解した上で、評価を行う必要があるだろう。
特に、国産レンズが市場縮退の理由で高価になりすぎて
しまった事が最大の課題であり、つまり、国産レンズは
国際的な価格競争力を既に失ってしまっている。
だから、コスパに優位性がある新鋭の海外製レンズが、
実に大量に国内市場に次々と参入してきている訳だ。
この対策をきっちりと、国内メーカーも、流通市場も
消費者層ですらも考えていかないとならない事だろう。
消費者層は、皆、安くて良いレンズが欲しいに決まって
いる訳で、例え、いくら高性能であっても、高価すぎる
と思われる商品は、欲しいとは思い難い訳だ)
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設計/戦略」を最も得意とする中国メーカーである。
他にも中国レンズメーカーは色々あるが、ここまで明白に
多くのレンズを「ジェネリック設計」としている例は殆ど
無く、むしろ新規の独自設計としている製品が多い。
まあ、なので、「七工匠」が新しくレンズを発売すると、
個人的には「今度は、どのレンズのジェネリックだろう?」
と、わくわくしてしまうのだ。
七工匠のレンズは、レンズ構成図が公開されているので、
それを良く見て、過去の名レンズで似ているものを探せる
訳である。
ここまで長々と述べてきたのだが、実は、本七工匠60mm
/F2.8 Macroに関しては、ジェネリックの元となった
レンズを発見する事が、まだ出来ていない(汗)
ジェネリックの場合、APS-C機用イメージサークルに
合わせる為、2/3倍に設計をダウンサイジングするケースが
多い。よって、元レンズがあるならば、90mm~105mm
程度のF2.8の等倍マクロであろう。
だが、最も著名なTAMRON SP90/2.8とは類似していない、
そのレンズは1990年代後半と新しく、まだ特許が切れて
いないのだろうか?(注:基本的には特許の有効期間は
20年間なので、もう切れているとは思う。
ただ、いくら中国製とは言え、さすがに特許で権利が
守られているものはコピーできないであろう、それは
国際的なルールだ。それと、設計図面等が公知or公開
されているかどうかも、ポイントとなるだろう)
すると、もっと昔のCONTAX Makro-Planar100/2.8
とかをベースとしたのだろうか?
そこまでは詳しい資料が無く、正直、調べきれていない。
あるいは、本レンズはオリジナル設計なのだろうか?
その為、検証に時間がかかってしまい、当初の発売予定
(発表済み)から3ヶ月も遅れての新発売になったので
あろうか? そのあたりは良くわからない。
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あまり芳しく無い。
詳しくは、レンズマニアックス第53回記事(予定)で
述べるので、重複する為に簡単に書くが、弱点として、
1)解像感の弱さ
2)逆光耐性の低さ
が目立つレンズだ。
近代のマクロレンズは、解像感を高めた設計コンセプト
の物が多い。それは必ずしも優れた特性だとは言い難い
節もあるが、まあでも、そういうマクロを見慣れると、
やはり、マクロでも、ある程度のシャープさは欲しいと
思う場合が多いであろう。そういう点では、本レンズは
現代的な特性では無く、若干見劣りしてしまう。
(新品)価格もやや高く、中古相場もあまり安価には
なっていない。
購入を躊躇するまででは無いとは思うが、ややコスパ
が悪く感じる。
ただ、多数ある新鋭海外(中国)製レンズ群の中では
本レンズが唯一に近い、安価なマクロ(他にLAOWA製や
近年ではMeike製がある)であるから、適価でマクロが
欲しいとなれば、有力な選択肢ではあろう。
しかし、銀塩時代からの名マクロは国内中古市場には
多数流通している。名玉のTAMRON SP90/2.8系統で
あれば初期のバージョンであれば、1万円前後から中古
入手が可能なので、実用的にはそちらを購入する方が
望ましい状況であろう。
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では、次の七工匠レンズ。
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(新品購入価格 12,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
2018年頃に発売された、各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF準広角(相当画角)レンズ。
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小口径MF標準レンズ、具体的には、MF50mm/F1.8級
のジェネリックである。
ただし、1/2倍への縮小設計であるから、μ4/3機は
ともかく、APS-C機で使用時はイメージサークルが
僅かに足りていない。
これをどう計算するか?は簡単で、各センサーサイズの
カメラでの焦点距離換算係数(フルサイズ=1倍、
APS-C=約1.5倍、μ4/3=2倍)の逆数を求めるだけだ。
だから、μ4/3機用にスケールダウンするならば1/2倍、
APS-C機用に縮小する場合は、2/3倍となる。
本レンズのように、APS-C機用に1/2倍縮小した
場合には、0.66倍と0.50倍の数値の差の分、わずかに
周辺が足りない、この時「周辺減光」の発生が起こる。
ただ、確かに本レンズでは周辺減光があるのだが、
その度合いは少ない。
これは、元となった銀塩MF50mm/F1.8級の設計が、
わずかにイメージサークルに余裕を持った設計であった
のか? または、それを1/2倍縮小した際、どうせ
ミラーレス機用にフランジバック長、等を調整しないと
ならないので、そこでAPS-C機でも周辺減光を目立たなく
する為の、レンズの後玉または後群の改良(改修)が
行われたのであろう、と推測できる。
まあ、その結果として像面湾曲収差特性が変化したのか?
僅かにボケ質破綻が発生しやすい特性となってしまった。
ただまあ、銀塩MF50mm/F1.8級レンズでも元々それらは
絞って使えば高描写力であるが、絞りを開けると同様に
ボケ質破綻が発生するケースがあるので、これは元々の
オリジナルレンズからあった特性(弱点)かも知れない。
幸か不幸か、本レンズはFUIFILM Xマウント版を購入して
いる。そもそもFUJI X機は、どれもピーキングの精度が
低く、ピント歩留まりが悪い(ピンボケ確率が大きい)
という課題を抱えている。
だから、本レンズも、やや絞って使うのが被写界深度を
深めてピント歩留まりを上げる為に望ましいので、
この母艦(FUJI X機)との相性は良い。
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銀塩小口径標準(5群6枚構成)は、完成度が高いが、
ボケ質破綻などの微小な弱点を抱えている。
(参考:最強50mm選手権シリーズ第2回、第4回記事で、
計11本の銀塩小口径標準を紹介(対戦)している)
この為、本レンズは、少し絞って使う前提として、
あえてFUJI Xマウント版を購入、これでカメラ側と
レンズ側の弱点が消える「弱点相殺型システム」と
なる訳だ。
まあつまり、元となるレンズの特性(長所・短所)が
わかっているならば、そのジェネリックレンズの
使いこなしにも、大いに参考になるという事である。
そうした出自を知らずに、ただ単に、買って来た1本の
レンズだけを見て、良いとか悪いとか語っている初級層
の評価スタイルは、あまり好ましく無いと思っている。
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使用するならば、50mm相当の安価な標準画角レンズ
として、悪く無い選択だと思う。
中級層、初級マニア層あたりには特にオススメだ。
なお、いくつかの七工匠レンズには、本レンズのように
銀色塗装版が存在する。(一部は黒塗装のみ)
ボディ側のカラーとの組み合わせで、レンズの色を
選択すると良いであろう。
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さて、3本目の七工匠システム。
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(新品購入価格 20,000円)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
2018年頃に発売された各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF標準(相当画角)レンズ。
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のMF大口径標準(50mm~58mm/F1.2級)である。
それを約2/3倍に縮小すると本レンズの仕様となる
のであるが・・
残念ながら、このジェネリックでは、元となった
レンズの性能が低すぎる。
その時代の大口径標準は、最強50mm選手権シリーズ
第7回MF50mm/F1.2編で、5本の同スペックレンズを
紹介(対戦)しているのだが、途中で記事を書くのが
嫌になってしまった位に、低描写力のレンズばかり
である。
これはまあ、その当時の「大口径化競争」、つまり、
他社よりも開放F値を明るくした標準レンズを発売
する事が、メーカーとしての、技術力、ブランド力、
市場優位性、等を高める為の戦略であったのだが・・
実際のところ、後年の技術である、非球面レンズや
異常低分散ガラスを使わない限り、当時の技術力や
設計技能では、F1.2級の大口径標準レンズを作る
事は難しかった訳だ。
(=難しいからこそ、開発競争が起こった。その困難
な開発に成功すれば、一気に他社よりもリードできる
からである)
で、F1.2級標準では、無理をして高価な非球面レンズ
を採用した例も稀にある。だが当時の非球面レンズは
高度な技能を持つ職人による、いわば「手磨き」だ。
(=「研削非球面レンズ」等とも呼ばれる)
当然製作に時間もかかるし、出来上がったが上手く磨けて
おらず、不良でボツとなるレンズが大量に発生する事で
あろう。後年の時代のようにガラスモールド(金型)で
非球面レンズを量産できる訳では無いのだ。
だから、非球面レンズの入った製品は恐ろしく高価だ。
おまけに、非球面レンズを1枚入れた程度では、それに
より、飛躍的に描写性能が向上する訳でも無い。
1990年代には非球面が量産されるようになり、普及機の
付属(キット)標準ズームですら、非球面レンズを搭載
しているものも多々あったが、それらが市場において
「名玉だ」と評価された例は1つも無い事であろう。
(注1:この1990年代では、球面レンズに非球面部材
を貼りつけた「複合非球面レンズ」も良くあった)
(注2:非球面レンズの採用は、常に高描写力化を意図
したものでもなく、レンズの小型化や低価格化等の
目的でも、非球面レンズが使われる場合がある)
・・なので銀塩F1.2級標準の性能は、非球面があろうが
無かろうが描写性能的にはイマイチであり、その設計を
2/3に縮小して作った、本レンズ七工匠35/1.2も、その
弱点をモロに引きずってしまい、低性能なレンズとなった。
これがジェネリックレンズの典型的な弱点であろう。
昔の名レンズとか言っても、全ての面で完璧なレンズは
簡単には作れないし、そもそも存在していない事であろう。
であれば、旧レンズにあった長所はともかく、短所ですら
も、それを引き継いでしまう訳だ。
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まあ近年では「レンズの弱点を回避して使うのはユーザー
側の責務である」という持論を良く述べてはいるが、
それにしても限界はある。元々低性能なレンズであれば
何をどうしても弱点回避が出来ない場合もある訳だ。
本レンズ(や、銀塩F1.2級標準)の典型的弱点は、
大口径化による、諸収差(特に、球面収差、コマ収差、
像面湾曲、非点収差)の補正が行き届いていない事で
ある。したがって、絞りを開けて使うと、これらの
収差は口径比(有効径)に比例または累乗で増加する為、
「ボケボケ」、「甘々」な描写傾向となってしまう。
この状態は、ミラーレス機のピーキング機能を使っても
確認できる。絞りを開けると、ピーキングすら反応しなく
なってしまい、相当に収差が発生して、像面コントラスト
が非常に低下している事がわかる。
だが幸い、上記収差群の多くは、有効径が減少するに
従って低減していくので、絞り込むと、ある程度は
描写力は改善される。しかし本レンズの場合では、その
目的での絞り値は、F11程度まで絞り込む必要がある。
だから、せっかくの大口径レンズであるのに、描写力を
実用範囲として維持するには、常に絞りを相当に絞り込む
必要があり、レンズの特徴と撮影技法がマッチしておらず
絞りを開けたいのに開けれない、と相当にストレスとなる。
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元(ベース)となった素材が悪すぎる、という事であり
七工匠側の課題は少ないとは思うが、とは言え、適正な
性能のレンズを発売したいと思うのであれば、これは
ちょっと酷すぎたかも知れない。
元となるレンズは良く選んで、ジェネリック化するべき
であろう。それは勿論メーカー側の責任範囲だ。
なお、疑問に思っていたのは、「何故ジェネリック
と言うと、一眼レフ用レンズの設計ばかりを踏襲
しているのだろう? ミラーレス機用ならば、レンジ
ファインダー機用のレンズを参照できるだろう?」
という点があった・・・
これについては、2019年に発売された「安原製作所
ANTHY 35mm/F1.8」が、レンジ機用レンズ設計を
ベースとしていると思われ、ミラーレス機にマッチ
した、優秀な描写特性を持っている(別記事参照)
まあ、著名なアイデアマンである安原氏の企画だ、
流石に上手いところを突いてきた、という印象だ。
(追記1:ANTHYシリーズは、その後、85mm等が
発売される予定だと聞いていたが、安原氏は2020年
3月に急逝。ANTHY35/1.8が遺作となってしまって
いる。ご冥福をお祈りすると同時に、ANTHY35/1.8
は大事に使っていく事としよう)
(追記2:ごく最近、2020年12月頃に
「TTArtisan 35mm/F1.4 C」という、安価な
中国製レンズ(APS-C機以下用)が発売された。
これは、レンジファインダー機用のSonnar型の
構成を採用しているジェネリックな模様だ。
現状未購入だが、早めに入手したいと考えている)
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では、次は今回ラストの七工匠システム
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(新品購入価格 16,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7 (μ4/3機)
2018年頃に発売された各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF中望遠(相当画角)レンズ。
本レンズは、異マウント(μ4/3、FUJI X)で、計2本
所有している。
その理由は「優秀なレンズだ」という認識からであり、
μ4/3機用レンズは、マウントアダプターでSONY E機
(APS-C機/APS-Cモード)でも使用可能であり、
所有している各ミラーレス機システム内での汎用性を
高めている。
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1970年代~1980年代の各社「プラナー系85mm/F1.4」
であろう。元祖RTS Planar 85mm/F1.4(1975年)が
著名であるが、その後、国内各メーカーにおいても、
同様の設計の85mm/F1.4級レンズが出揃っているので、
本レンズのベースは、そのうちの1本または、それらの
”共通項の設計”をスケールダウンしたものであろう。
元祖RTSプラナー85/1.4は、当時の初級中級層に
「神格化」されたレンズであった。
ヤシカ(後に京セラ)の、国産CONTAXを市場に訴求
させる為の最強ウェポン(兵器)であって、これを
皆が欲しがった事で、初期(国産)CONTAXの事業が
支えられていた、と言っても過言では無い。
ただ、RTS P85/1.4は使いこなしがとても困難な
レンズであったので(レンズマニアックス第12回、
「使いこなしが困難なレンズ特集」でワースト4位)
後年には、中古市場に溢れかえったレンズでもある。
毎回のRTS P85/1.4や本レンズの紹介記事で書いて
きたので理由等の詳細は割愛するが、簡単に言えば、
RTS P85/1.4は、ピントが合わない、焦点移動が出る、
ボケ質破綻の頻繁な発生、という重欠点を抱えていて
開放測光MF一眼レフ、しかもスクリーン性能が全般的に
低いCONTAX機では、いずれの弱点も、システム的に
回避が困難か不可能であった状態だ。
だから、「偶然」でしか良い写真を撮る事ができず、
私の経験上、その成功確率は1~3%程度でしか無い。
銀塩時代に、高価なCONTAX機や高級レンズをポンと
買ってしまうような金満家層等では、失礼ながら、
さほど沢山の写真を撮っていたとは思えないので、
この課題の回避は容易では無かったと思う。
そして勿論腕前もあるだろう。だから結局、千枚、いや1万枚とかを撮らないと、
P85/1.4では、気に言った写真は撮れなかった訳だ。
で、そういう事ができた人は、実践派上級マニア層か
職業写真家層あたりしか居ない。
そういう人達が、999枚の写真をボツにして、残った
1枚の写真を見せて「ほら、これがRTS Planar 85/1.4
の写真だ、どうだ、凄い写りだろう!」とか言えば、
まあ、それは確かに、そのレンズで撮った写真だから、
周囲の人達は「さすがCONTAX(ツァイス)、凄いですね」
としか、感想を述べようが無い訳だ。
でも、その凄い写りを見て、高価なシステムを購入した
としても、998枚撮って「ダメだ、ただの1枚も良い写り
の写真が無いや、オレが下手なのか? それとも、この
レンズが凄いと言われていたのは、ガセ(嘘)なのか?」
と、思ってしまう事であろう。
まあ、皆、自分が下手だと思われるのは嫌だろうから、
ひっそりと処分してしまうのが普通だ、だから中古市場に
CONTAX RTS P85/1.4が沢山出回ってしまった訳だ。
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本七工匠55/1.4も、そうしたプラナー系85/1.4の
長所(うまく当たった時の、爆発的な高描写力)も
弱点(ピント歩留まり、焦点移動、ボケ質破綻)も
しっかりと引き継いでしまっている。
ただ、ミラーレス機専用とした事で、弱点のことごとく
を回避可能なのだ。高精細EVFによるピーキング機能と
絞り込み(実絞り)測光、そしてボケ質破綻回避技能で
全ての弱点は消える。
技能的にちょっと難しい面もあるので、場合により、
絞り値やピント位置を変えながら連写をする、2次元
ブラケットにより「下手な鉄砲、数撃てば当たる」方式
が成り立つ。まあ、デジタルならば1000枚位撮るのは
普通だ。だから1日の撮影枚数の中でも、気にいった
カットが多く含まれる事となる。
ただし、銀塩プラナー系85/1.4には無かった新たな
弱点も本レンズにはある、それは「逆光耐性の低さ」
である。ここにだけ注意をしておけば、本レンズは
名玉のミニチュア版(=同等画角)として、類稀な
高描写力を発揮できる極めて安価なレンズとなり得る。
(注:APS-C機で使用した場合に、約82.5mm/F1.4と、
元となったプラナー系85/1.4レンズと同等画角となる)
また、最短撮影距離が35cmと、焦点距離10倍則より
遥かに短く、ミラーレス機の各種デジタル拡大機能
と組み合わせれば、準(擬似)マクロレンズとして
も使用可能である。
当然ながらコスパは極めて良い。
本レンズは新品で1本、中古で1本購入しているが、
中古の方は1万円強程度の相場であった。
銀塩時代の各社プラナー系85/1.4は、MF/AF版等
色々あったが、いずれも定価は10万円程度以上は
していたと思う、それの1/6から1/15程度の価格で
同等の描写力のレンズが入手できるのであれば、何も
文句は無い。
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評価が間に合っておらず、ノミネートを見送っているが、
続く「価格別レンズ選手権、1万円級レンズ(1)」の
記事(注:近日連載開始予定)では、当該カテゴリー
において高成績を収めたレンズとなっている。
主には中上級マニア層向けだが、他の一般層にも
推奨できるレンズである。
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では、今回の「七工匠編」は、このあたり迄で、
次回記事では、また他の(同一)海外メーカーの
レンズ製品群を紹介予定だ。
その後は、メーカー毎、あるいは国別での記事を
続けていく。