過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介のマニアックな
レンズを主に紹介するシリーズ記事。
通常、1記事に4本のレンズ紹介だが、今回は、少々難解で
ややこしい話が長くなる為、紹介本数を減らし、未紹介レンズ
2本と、紹介済みレンズ1本での特殊な用法を取り上げる。
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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、mEiKe 25mm/f1.8 (MK25F18M4/3)
(新品購入価格 約9,000円)(以下、Meike25/1.8)
カメラは、PANASONIC DMC-G5 (μ4/3機)
2019年に発売された、APS-C型以下マウント用の
MF広角(準標準~標準画角相当)レンズ。
例によって「mEiKE」と大文字小文字混じりのロゴ
デザインであるが、以下は「Meike」と記載する。
5群7枚の、銀塩小口径標準のダウンサイジングによる
ジェネリックに近い構成と思われるが、レンズ構成図が
見当たらず、詳細は不明である。
50mm標準の1/2倍設計であれば、APS-C機で僅かに
周辺減光が出る理屈であるが、本レンズではAPS-C機に
装着した場合でも周辺減光は起ら無い。
そのポイントとフランジバックを調整する為に、
銀塩時代の変形ダブルガウス5群6枚に、1枚レンズを
追加したのであろうか?
まあ、Meikeは、七工匠のように「ほぼジェネリック設計」
とする事はなく、僅かにオリジナリティを効かせている
模様だ。とは言え、まだ同社製レンズを4本しか入手
していないので詳細は不明、また、他のMeike製レンズ
全てが、そうである訳でもあるまい。
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安価なレンズではあるが、性能はどうだろうか?
まず最初に気になった課題は、「オーバーインフ」である。
「Over Infinity」とは、カメラ用語において、
「無限遠を超えてピントリングが回ってしまう」という
状態を示す、これは故障というよりは、そういう構造上の
仕様(弱点)である。
AF時代初期のレンズ(1980年代後半くらい)では、
稀にそういうものもあったし、現代AFレンズの中にも
僅かに、そういう仕様傾向のものもある。
何故ならば、最初期のAFアルゴリズムでは、例えば無限遠
の合焦距離を探す上で、AFが段々と無限遠に近づいて行き、
位相差値が減って行く。しかし、これでは無限遠でAFが
止まらない、位相差の最小値(変曲点)が不明だからだ。
そこで、AFは無限遠を超えてピントを合わせに行く、
すると無限遠を超えるとピンボケとなるから、無限遠の
距離が、ぴったり合焦点である事がわかる。
だから、当時のAFレンズは、無限遠を超えてオーバインフ
となる仕様のものがあった訳だ。
しかし、その後の時代では、上記のような単純なAF合焦
アルゴリズムは使われなくなったと思われる。
具体的な改良点としては、単純に位相差センサーからの
現在値を見るのでは無く、その変化量(差分、勾配)を
解析する、そうすると、上手くすれば、どのあたりの
距離でピントが合うかが、ある程度予測できる為、
AF速度・精度が向上する他、AFレンズをオーバーインフ
仕様にしなくても済む、という訳だ。(ただ、ピント
精度が厳しい大口径レンズ等では、若干の無限遠余裕が
必要な場合もあるだろう)
実際のAFアルゴリズムは非公開(企業秘密)であるから、
中で何をやっているのかはわからない、けどまあ、上記の
考え方は技術的には基本だ、さほど的外れでは無いであろう。
![_c0032138_19482307.jpg]()
さて、何故オーバーインフ状態が問題点になるのか?は、
レンズをMFで使う際に操作性が非常に悪化するからだ。
具体的には、MF時、遠距離にある被写体を撮る際、ピント
リングをいっぱいまで廻し、手指に停止感触があるならば、
そこでシャッターを切って撮影すれば良い。
このMF操作は、AFで合焦するよりも高速で確実な利点が
あるが、まあこれは基本的なMF操作(技法)でもある。
だから、もしMFレンズでオーバーインフ仕様となって
いる場合は、基本的なMF技法が使えず、困った事となる。
初期AFアルゴリズムのように、MF操作をしている際
「あれっ? 無限を通りすぎたか?、じゃあ、ちょっと
戻って、この辺がピントが合う距離かな?」と、なんとも
非効率的なMF撮影技法を強いられてしまう訳だ。
よって、古今東西、MFレンズでオーバーインフ仕様に
なっているものは皆無に近い、それはMFレンズにとって
「重大な弱点」と見なされてしまうからだ。
MFレンズでオーバーインフになる状況は、レンズ単体では
まず有り得ない。それがあるケースは、例えば、NIKON S
マウントと旧CONTAX マウント間で、レンズをアダプターを
使用して装着した場合には発生する。これは、両マウントは
形状互換はあるが、レンズ(ピント)繰り出し量が異なる
仕様となっているからだ。
さて、本レンズは何故オーバーインフとなっているので
あろうか? 以下は想像であるが、本レンズは各種
ミラーレスマウント用に発売されているが、その種類は、
μ4/3、SONY E、FUJI X(注:発売開始時)である。
これらのマウントでのフランジバック長は、17.7mm~
約20mmの範囲、つまり殆ど差が無い。
そこで、例えば、これらの中間値あるいは最小値に合致
するように、レンズ/鏡筒の設計を行っておけば、後は
マウント形状に合うパーツを嵌めてやれば、だいたいどの
マウントでも共通で使えるレンズとなる、ただしその際
無限遠のピントが出なくなる(届かない)危険性がある
ので、予めオーバインフとして、フランジバックの差異を
吸収しているのではなかろうか?
あるいは、マウント部品をはめ込む際に、ピントリング
の回転角範囲が変化し、マウントによっては、オーバー
インフとなったり、最短撮影距離が変化する構造なのか?
まあ、普通は、そんな事をせず、各マウントでのフランジ
バック長の差異を吸収する為の厚みが異なるマウント部品
を使えば済む話なのだが、もしかすると、このやり方の
方が、僅かにコストダウンが可能なのかも知れない(?)
つまり、本レンズは、新品で1万円を軽く下回る
ローコストレンズである。10円でも100円でも部品代や
製造工程でコストダウンしていかないと、なかなかこの
低価格は実現し難いのではなかろうか?
ここまでの話はあくまで想像ではあるが、もしこれが
事実であり、コストダスンの為のオーバーインフ仕様
なのであれば、メーカーはコストダウンの為に涙ぐましい
までの努力や工夫を行っている、という事なのであろう。
この想像の根拠の1つとしては、本レンズ(μ4/3用)
をSONY Eマウントにアダプターで変換する際、普通は
ピッタリと装着できるが、本レンズの場合のみ、
約1mm強の隙間が開いてしまう、これはもしかすると、
μ4/3とEマウントのフランジバック長の差に関係が
あるのだろうか? と推察している。(下写真)
(注:μ4/3のフランジバック規格は正確な値が良く
わからない・・汗。資料によっては、19.25mm,
19.3mm、約20mm等がある。
対して、SONY Eは18.0mmだと思われる)
![_c0032138_19482308.jpg]()
ちなみに、私の所有範囲の他のMeikeレンズは、こうした
状況は無いが、他のMeikeレンズで、オーバーインフでは
無く、逆に最短撮影距離の位置が不明瞭なレンズがある。
こちらも同じ理由かも知れない、つまり無限か最短か
いずれかに余裕を持たせる事で、構造を簡略化できるの
かも知れない。ちなみにオーバーインフとなるレンズは
μ4/3用で、これはフランジバック長がミラーレス機の
中では長い約20mm、逆に最短撮影距離が不明瞭なレンズ
はFUJI Xマウント用で、こちらはフラジバックが短い方
の17.7mmである、これらを共用化できるピントリング
とマウント部の構造は複雑そうで、頭の中では簡単には
想像できないが、機構(メカ)に詳しい人は、推察して
みると興味深い事であろう。
実用上においては、オーバーインフは、やはり使い難い、
これはMF操作上、重欠点と言えるであろう。
私は本レンズをμ4/3機と、SONY E機で共用する為に、
μ4/3版を購入したのだが、他マウント品は、手にした
事が無くてわからないが、もしFUJI Xマウント品等が
オーバーインフになっていないならば、そちらを買った
方がMF技法上では有利かも知れない。
![_c0032138_19483697.jpg]()
オーバーインフの説明が長くなり、レンズの描写力の
話が出来なかったが、準ジェネリック構成であろうから
基本的な描写力の不満は無いと思う、MFピント問題を
除いては、コスパの良いレンズだ。
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さて、次のシステムだが、「近赤外線マクロ撮影」を
試してみよう。
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レンズは、NIKON Ai AF MICRO NIKKOR 60mm/f2.8
フィルターは、自作の赤外線透過型(760nm型)
カメラは、NIKON D500 (超高感度APS-C機)
さて、説明がややこしいシステムである(汗)
まず最初に、以下での「赤外線」とは、全て「近赤外線」
(Near IR)を示す。赤外線には他にも、熱(中)赤外線、
遠赤外線(テラヘルツ/サブミリ波)があり、加えて、
NIR,SWIR,MWIR,LWIR,TIR,FIR等と細分化されていて、
それらの理解は極めて専門的なレベルの知識を要求される。
巷で言わているような赤外線の話は、その殆どが赤外線の
種類を混同したり、特性や効能についても誤まっているか、
又は、科学的根拠の無い話ばかり、という残念な状態だ。
ここでは、純粋に技術的観点からの近赤外線撮影の話を
するが、専門的な知識が無いと理解しずらい点がある
だろう事は最初に述べておく。
まず最初に、D500+AiAF60/2.8で、通常の可視光
撮影をモノクロモードでした場合の写真を挙げておく。
![_c0032138_19483606.jpg]()
まあ、当然だが普通に写る、何も難しい要素は無い。
では、以下、今回のシステム構成について。
レンズ自体は、昔から所有しているNIKON製マクロ
(マイクロ)であり、過去記事で何度か紹介済みだ。
基本的に、赤外線撮影を行うレンズは何でも良いが、
今回の実験の主旨ではマクロレンズを選ぶ必要がある。
カメラは、最高ISO感度約164万の超々高感度機である。
ここもD500でなくても良いのだが、少なくともISO40万
以上の超高感度機を用いる必要がある、その機種数は
あまり多くは無いが、まあ、PENTAX KP等、低価格な
機体もあるので、入手困難という訳では無いであろう。
(注:SONY α7S=最大ISO40万は、超高感度機なのに
近赤外線撮影のレベルでの超々低輝度撮影では、全く
動作しない。これは購入後に気付いた「重欠点」だが、
超高感度機の特性を期待したのに、非常にがっかりした)
で、自作赤外線透過(可視光カット)フィルターは、
ちょっとやっかいだ。私の場合、FUJIFILM社から
発売されている「光吸収・赤外線透過フィルター」の
角型ゼラチン版を購入し、これを円形に切り抜き、
ステップアップリングとステップダウンリングで
挟み込み、φ58mmの赤外線透過フィルターとした。
レンズ側のフィルター径によっては装着しずらいが、
適宜、もう1つフィルター径変換リングを用いれば良い。
(今回の例では、φ62mm→φ58mmにダウンしている)
また、ゼラチンフィルターは薄くて脆い構造の為、
取り回しには十分に注意する必要がある。
さて、この状態で赤外線撮影システムは完成だ、
ここまでは簡単であるが、ここからがまた難しい。
![_c0032138_19483652.jpg]()
技法の説明の前に、まず、今回の「赤外線マクロ撮影」の
主旨であるが・・・
銀塩時代のMFレンズの多くには、被写界深度目盛り上に
「R」マーク、またはそれに準ずる赤色の指標が存在
している(上写真)
銀塩で赤外線撮影を行う場合、赤外線フィルム(コニカ、
コダック、イルフォード製:当時)を用い、可視光カット
フィルターの代用として濃い赤色のフィルターを装着する。
(注:商品・仕様名は各フィルターメーカーにより異なる。
ここも例によって、カメラ・写真業界全般での、昔からの
「用語不統一」があって、ユーザーの混乱を招いている)
なお、近赤外線には「色」という概念は無い為、写真が
赤色等に写るという訳では無い。赤外線フィルム自体も
ほとんどモノクロフィルムと同じ描写である。
できれば今回使用のような完全可視光カットフィルターを
用いるのが、赤外線撮影効果上では望ましいが、光を全く
通さず、構図確認が不可能となる為、銀塩時代では、濃い
赤色フィルターを用いる事が一般的であった、
で、可視光と赤外線では波長の差により、屈折率がかなり
変わり、ピント合焦距離も変わる為、レンズ上の指標の
「R」マークを頼りとしてMF操作を行う。
なお、この時、光学ファインダーは濃い赤色フィルターの
使用で暗くなっているので、目視によるMFピント合わせは
若干困難だ。赤色フィルターならばまだしも、可視光カット
フィルターでは、ピント合わせは不可能となる。
そこで、基本は無限遠距離撮影とし、∞マークをR指標に
合わせる(上写真の状態)
なお、原理的には、2mでも50cmでも、任意の撮影距離で
Rマークに合わせれば良さそうなのだが、ここで2点課題
があり・・
1)被写体までの正確な距離を測る事が困難。
2)中近距離撮影では、Rマークに合わせてもピンボケに
なる場合がある、つまり、Rマークは無限遠撮影時に
合わせて書かれている模様だ。
これらの課題により、銀塩時代には、無限遠距離の
赤外線撮影しか、ほぼ出来ない状況であった。
(注:下写真は、赤外線中距離撮影)
![_c0032138_19484607.jpg]()
さて、デジタル時代だが、銀塩時代のように赤外線
フィルムに差し替える事はできない。撮像センサーに
おいては、通常撮影において、(近)赤外光は写真が
赤みがかる等で有害である為、ほぼ全てのデジタル
カメラの撮像センサーには、赤外線カットフィルター
が装着されている。これは、ごく一部の機種を除き、
取り外す事は出来ない(無理にやると戻せなくなる)
また、ごく一部に、天体観測用途等に向け赤外線撮影
専用の一眼レフが数機種存在したが、特注品で高価で
あったし、また、現代ではあまり見当たらない。
ただ、「監視カメラ」の世界では、昼間は可視光撮影、
夜間は赤外線撮影で警備を行う「デイナイト・モード」
を搭載した製品がとても多い。
この仕組みをコンパクト機に応用した例としては、
YASHICA EZ Digital F537 IR(本シリーズ第19回等)
がある。このカメラはIRカットフィルターの有無を
手動スイッチで切換え、可視光と赤外線のMIX撮影を
可能とするものだ。(暗所では、赤外線のみの撮影)
![_c0032138_19484605.jpg]()
上写真が、YASHICA F537 IRによる、昼間赤外線撮影
の例である、一応、このカメラには近接撮影モードが
あるが、基本的にトイカメラ相当の性能・仕様であり、
あまりちゃんとした赤外線近接撮影が出来ない。
上写真も、一般的な無限遠赤外線(MIX)撮影である。
遠距離赤外線撮影では、空は黒っぽく写り、雲は白く、
木々も白く写り、肉眼での映像とは異なる様相となる。
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さて、説明が長くなったが、すなわち銀塩時代に
おいても、デジタル時代においても、赤外線撮影で
近距離(マクロ)撮影は容易では無い。
この為、マクロ時での草花や小物、昆虫等が赤外線で
どう写るのかは、(研究者等を除き)殆ど誰も見た事が
無かった。
ここではその状況を打開する為、本システムにおいて
赤外線マクロ撮影を実現する実験を行ってみる。
![_c0032138_19484630.jpg]()
ところが、これが恐ろしく困難なのだ・・
まず、今回使用機のNIKON D500には、当然赤外線カット
フィルターが入っている、そしてレンズには可視光カット
フィルターを装着する。
「それでは何も写らんではないか?」と思うだろうが、
それはその通り。だが、両者のフィルターには、カット
される波長の特性上、わずかに漏れ出る光(赤外光)が
ある。その量は、可視光の数千~数万分の1である。
普通のカメラでは、こういう微細な光を捉える事は
出来ない。けど、D500や他の超高感度機を用いれば
これは不可能という話では無い(注:SONY α7Sを除く)
具体的には、通常システムで日中快晴時に、F2.8
レンズを用いるとISO100で1/4000秒程度のシャッター
速度となる、ここで感度をISO10万とするならば、
本来ならばシャッター速度は1000倍速い400万分の
1秒、でも赤外光が例えば4万分の1しか入って来ない
ならば、これは100分の1秒のシャッター速度となる。
でも、これであれば、マクロレンズでの手持ち撮影が
可能である。(60mmレンズで手ブレ補正無しの場合
標準的手ブレ限界シャッター速度は、APS-C機に
おいて、1/90秒となる)
まあつまり、日中明所でISOを10万程度まで上げれば
本システムで撮影可能であり、やや暗い被写体でも、
ISOを40万程度でカバー可能、という計算になる。
(注1:この為、「晴天直射日光」の環境でないと、
まず撮影が出来ない)
(注2:ここで言う近赤外線の減衰率は、システムの
仕様・特性に依存する。旧世代のISO3200程度の機体
でも、赤外線撮影が出来る場合もあった→その機体は
赤外線の減衰率があまり強く無い仕様であったから)
しかし、ここまでの高感度域かつ赤外線では、露出(計)
の正確さは、まったく期待できない。だから撮影モード
はM(マニュアル)とし、かつ露出計に依存しない状態
とする。つまり、絞りは、ほぼ開放、シャッター速度は
1/100秒程度をキープ、後は被写体の明るさに合わせて
ISO感度を5万~80万程度の範囲で手動設定すれば良い。
これで露出に係わる要素はOKだ。
写真の色味は、カラーだと赤外光と高感度偽色でデタラメに
なるので、予めモノクロモードを選択しておく。
(注:今回の撮影では、赤外線撮影である事を示す為、
意図的に緑色に着色している。これは軍事用赤外線暗視装置
とか、一般的にはスパイ映画等でお馴染みの処置である)
![_c0032138_19484653.jpg]()
あとは構図とピントだ。
構図については、光学ファインダーでは全く何も見えない
為、ライブビューを選択する。だが、ここまでの超高感度
域となると、モニターのゲイン(増幅率)が不足し、
映像もかなり不安定となる(出たり、出なかったり)し、
そもそも、かなり暗く、かつ赤外光は可視光とは見える
雰囲気が異なる為、被写体が良く視認できない。
ただ、ここはシステムの性能的限界であるから、もう
このまま行くしかない。(注:SONY α7Sでは、この
性能的限界が低く、超高感度特性が発揮できない)
常時ライブビューに設定できると嬉しいが、残念ながら
NIKON D500では電源ONの度にライブビューボタンを押す
必要がある。(注:PENTAX KPであれば、レバーの設定で
常時ライブブビューが可能。これもNIKON機全般での
「過剰安全対策」の一環であろうか・・ こういうのは
全て、使うユーザー側の責任範囲で行えば良い、メーカー
側が、過保護や、おせっかいをする必要は一切無いのだ)
さて、最難関はピントである。不安定で暗いモニターを
見ながら、被写界深度の浅い近接(マクロ)撮影を
行わなければならない、これは基本、MFモードとする。
この時、NIKON機でのライブビュー拡大は、そのボタンを
押すと、シャッター半押しでその解除ができず、拡大した
回数だけ別の縮小ボタンを押さないと最終全体構図確認が
出来ない、という致命的な迄に劣悪な操作系となっている。
何故こんな酷い仕様なのだろうか? MF撮影をしない人が
仕様設計をしているか、あるいは、三脚を立てて、のんびり
とピント合わせをするという、数十年前での古い世代の
撮影技法を意識して設計をしているとしか思えない。
勿論、他社では、ここまで酷い例は無い。
(ちなみに、NIKON機での操作系の課題はこの例に留まらず、
多岐に及ぶ。そして、不条理な仕様であっても、それを簡単
には変えない頑固さがある。例えば、露出メーターのプラス
マイナスが一般常識とは逆であっても、それを約40年間も
改める事をしなかった。ここはメーカーだけの責任とは言えず
NIKON機ユーザーが保守的、あるいはビギナー層が大半であり、
前機種と仕様が変わる事を極度に嫌ったり、操作が分から
ないと、すぐにクレームを言う風潮があるからだろう。
・・まあ、とても残念な話である)
で、これでは使い物にならないので、ライブビュー拡大は
行わず、なんとか1倍のままで行くか、あるいはどうせ
AFは効かないし、屋外被写体では風等の影響で揺れている
場合が多く、撮影者自身も距離ブレが発生している為、
D500の高速連写機能を活用した手動MFブラケットを行う。
つまりピントを少しづつ、ずらしながら高速連写を行う訳だ、
これはピントリングを廻しても良いし、撮影者自身が微妙に
前後しながら撮影しても良い。
勿論、無駄打ちが極めて多くなるが、10枚に1枚くらいは、
ピントの合っている写真があるだろう。
さて、次の課題は、前述の可視光と赤外線のピントの
ズレは、近接撮影では、より顕著になる点がある。
だから、レンズの距離指標やR指標は参考にならず、
また、手指の感触で最短撮影距離付近で撮ろうとしても
無理である。そしてNIKON一眼では、ライブビュー時でも
ピーキング機能は無い。(他社の一部の機体では可能)
結局、ピント合わせはライブビューモニターを見ながら
目視で行うしか無い。
さらなる問題点は、「露出(露光)倍数」が掛る事だ、
これは近接撮影距離、というか、撮影倍率に応じて
(1+撮影倍率)x(1+撮影倍率)の公式の分だけ
露出が暗くなる。
「等倍の際には、4倍も暗くなる」という計算であり、
NIKONのマイクロレンズでは、こうした場合に、F値の
変化でこれを知らせてくれる。本AiAF Micro 60/2.8
では、開放F値は撮影距離に応じてF2.8~F5まで
変化するが、F2.8の4倍は、F5.6であるから、レンズ
設計上で、この課題を少し緩和しているのであろうか?
(例:レンズ繰り出し量が少なく、瞳径(有効径)を
比較的維持できる構造等)
また、上記公式は可視光の場合であり、近赤外域で
同様の露光倍数で済むのかどうか?は不明だ。
ただ、暗くなる事は確かだ、つまり、本システム使用時
では、撮影距離が短くなった場合、F値が暗くなるから、
シャッター速度を低めるか(注:手ブレしやすくなる)
またはISO感度を最大4倍まで高める(注:超高感度域
は、もうほとんど余裕が無く、頭打ちしている)
必要がある。
![_c0032138_19485882.jpg]()
上写真では、やや暗所での赤外線近接撮影につき、
超々高感度機ですら、もう、ISO感度を高める余裕が
全く無く、ノイズまみれとなっている。
いずれにしても超高難易度の撮影だ。初級中級者層では、
まず不可能、上級者や職業写真家でも難儀するであろう。
撮影歩留まり(成功率)は、良くて数%程度、つまり
殆どの撮影は失敗する事が明白だ。
![_c0032138_19485889.jpg]()
まあ結局、「赤外線マクロ撮影は、相当に難しい」という
結論となる。何も、好き好んで、こういう撮影をやろう
とする人も少ないと思うし、撮影の為のシステムを構築
する事も、一般レベルから見れば容易では無い事かも
しれないが、マニア層や研究者層であれば、知的好奇心や
研究目的で、試してみるのも悪く無いかも知れない。
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次は、今回ラストのレンズ
![_c0032138_19485804.jpg]()
レンズは、三協光機 KOMURA LENS SUPER-KOMURA
(ZOOM LENS) 90-250mm/f4.5(TL925)
(中古購入価格 1,000円)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
発売年不明、恐らくは1970年代頃と思われる、解放F値
固定型MF望遠ズームレンズ。
三協光機は、1950年代~1980年頃まで存在した光学機器
メーカーで、1969年には「KOMURA LENS MFG. LTD.」
に社名変更している、本レンズにはKOMURA LENS・・
の表記がある事から、1970年代の製品と推測される。
正式な型番名称も不明、()内の表記は、レンズ上には
いろいろな場所に書かれているが、順不同である。
また、同じスペックのレンズでも、前期型や後期型等、
細かいバージョン差により仕様が異なると思われるが、
そこも、詳しい情報が残っておらず、詳細は不明だ。
なお、KOMURA製のレンズは本ブログでは初登場である。
安価なジャンク品としての購入であるが、特に大きな
瑕疵は無く、問題なく使える。
マウントはNIKON F版であるが、この当時のKOMURA
(コムラー)のレンズは、マウント交換式であったと
思われる。ただし、現代においてKOMURA用交換マウント
を入手するのは、まず不可能だ。無理をしてそれを探す
必要は無く、現代ではマウントアダプターの方を変えれば
どんなマウントのレンズであっても使えるであろう。
当時は、テレ端250mmの望遠ズームは珍しかったかも
知れず、銀塩時代には中級者層やマニア層等に、そこそこ
高く評価されていた模様であるが、そこも、もう、詳しい
情報が残っていない。
はたして、現代においても使えるレンズであろうか?
![_c0032138_19485867.jpg]()
さて、使用してすぐに気づくのは、かなり重いレンズで
ある事だ。そういえば、ジャンク品で購入した際にも
無造作に紙袋に入れられてきたが、帰路、底が抜けそう
になったくらいであった。後で重量を測ると約1kgも
あり、まあ、例えばSIGMA Art Line並みの重量感だ、
これでは重く感じるのも当然であろう。
重くてもバランスや操作性に影響が出なければ良いが、
本レンズは、なんと「四重回転式」操作を強いられる。
具体的には、レンズ前方より、①ピントリング
②ズームリング ③プリセット環 ④絞り環 である。
ただまあ、③のプリセット環は、いっぱいまで絞って
おけば、④の絞り環で絞り値調整をすれば良いので、
これは普通は触らずとも済む。
しかし、ピントとズームが二重独立回転式なのは、やはり
重たいレンズなので操作性が悪化し、勿論、常時手持ち
撮影であるから、レンズ前方のピントリングから手元の
絞り環まで、大きく手指を移動するのは、重量バランス
を維持する上で、かなりしんどい。
また、ズーミングでレンズ全長が変化しない点は良い
のだが、ピント変化ではレンズ全長が変わる。
これらから、いずれの操作の場合でも、レンズの重心
位置をキープしてシステムをホールドする事が大変難しく、
勿論このシステムには、手ブレ補正機能などは入って
いないから、日陰などで換算400mm近くともなれば
AUTO ISOなどで安易に使うと簡単に手ブレしてしまう。
SONY α6000には、AUTO ISOの時の低速限界設定が
無いので、手動でISO感度を、こまめに調整し、常に
1/320秒ないし1/400秒以上のシャター速度をキープ
しなければならない。その為には、日中であっても
場合によっては、ISO800~ISO1600程度の高感度の
値になるケースもある。
あれこれと設定が難しく、レンズの重量も含めると、
かなり難儀する。「修行レンズ」と言っても良く、
今から「使いこなしが困難なレンズランキング」に
追加でノミネートしたい位だ。
(本シリーズ第11回、第12回記事参照)
このレンズを手持ちで使うと、非常に重たいレンズを
左手で支えながら、かつ左手で、四箇所(または三箇所)
の、位置が大きく離れたリングを順次廻す、という
曲芸的な迄の、とても困難な操作が要求される。
デジタル時代であっても、これだけ苦労するレンズだ、
銀塩時代で、こんな難しい操作で、かつ低感度フィルム
使用であれば、本レンズを手持ちでは、絶対に誰も使い
こなせない、と断言できる。
![_c0032138_19491179.jpg]()
銀塩時代、どんな上級者であっても、本レンズを手持ちで
自由自在に扱える人など、誰も居なかったに違い無い。
まあつまり、100%、三脚を用いる技法でないと、使い物
にはならないレンズであった事だろう。
そう考えると、劣悪な「四重独立回転式操作性」も、
三脚を立てて、横から手を伸ばして順次廻すのであれば
あまり課題にはならなかったと思われる。
(しかし、それでは、迅速な操作・撮影が出来ない。
1日に数枚程度しか写真を撮らなかった古い時代の技法だ。
現代では1日の撮影枚数が数千枚にも及ぶ事はザラである)
まあ、そうであれば、現代の機材環境においてならば、
本レンズを、なんとか手持ちで使いこなしてみようと
考えてトライしてみる事も、十分意味のある話であろう。
初級中級層では、まず無理だとは思うが、逆に言えば
本レンズを手持ちで使いこなせるならば、上級レベル
である。その為の修行と考えれば、やる気も出てくる
事であろう。そして、ここまで難しいレンズをなんとか
使いこなせるようになれば、現代の軟弱なAFズーム等は
あまりに簡単すぎて拍子抜けしてしまうように思える
かも知れない(例えれば「大リーグボール養成ギプス」を
嵌めて練習しているようなものだ・笑)
つまり、そこまで修練すれば、新たな境地に達する事が
出来るようになる、という事だ。
ちなみに、ただ単に普通に撮るだけでは不十分だ、
本レンズで結構頻繁に発生するボケ質破綻の回避には、
あまり触りたくないレンズ手前の絞り環を微調整する
必要が生じ、また、望遠域では解像力(感)が弱まる
傾向(弱点)がある為、光学ズームを適切なレベルまで
の使用に留める、その結果、遠距離撮影や近接撮影等で
意図する撮影倍率が不足するならば、デジタルズームの
操作も必要となる。
焦点距離による描写力の低下のみならず、全般的に絞り
開放近くでは、かなり解像感が低い、手持ち撮影では
できるだけシャッター速度を速めたい為、これは困った
特性であるが、まあ、性能上、やむを得ない。
少し絞り込むと、解像感が高まり、そこそこ良い描写
傾向となる。逆光でなければ、あるいは明暗差が大き過ぎ
なければ、コントラストも高くヌケの良い写りとなる。
でも、条件をそうした場合、大抵、シャッター速度が不足
して今度は手ブレ問題が襲ってくる。そうならないように
またISO感度を、自身の手ブレ限界速度に合わせて細かく
調整する必要がある。
ピントリングやズームリングの回転角は比較的大きい、
この仕様の為に、「ワンハンドズーム構造」には
出来なかったのだと思われるが、各回転リングで
持ち替え動作が発生すると、重たいシステムを支える
為に、左手も右手にも疲労が蓄積していく。手持ちで
2時間を超える連続撮影は、なかなか厳しいとは思うが、
そこは「修行レンズ」だ、そんな事で音を上げていたら、
新たな境地に至る事は出来ない・・(汗)
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さて、このような難しいレンズを使う気になる人が
本当に居るだろうか? まあでも、スキルアップの為に
それに挑戦してみたいという奇特な人が居るならば、
それは止めはしない、そうしていくことで、必ず、
様々な技能(技術)が自然に身についていくからだ。
「ビギナーだから無理」という言い訳は通用しないだろう、
逆に言えば、そういう難しい練習をしないで、フルオート
のモードで、手ブレ補正や超音波モーター等の文明の利器
に頼って写真を撮っているから、いつまでもビギナーの
レベルからステップアップできないのだと思う。
(注:ビギナー層では、そうした「文明の利器」に頼らない
と「上手く撮れない」という不安要素を常に抱えている。
しかし、上手く撮れずに何が問題なのか? 実際に手ブレ
の失敗を起こしてみるまで、どこが、自身の手ブレ限界点
なのかは、永久に理解できないでは無いか・・)
たまには、難しいレンズを使ってトレーニングしてみる。
その為に、中古カメラ店やリサイクル店のジャンク品の
コーナーから、面倒くさそうなレンズを「サルベージ」
する事も、練習の為の教材への出費と考えれば、高い
値段でもなく、スキルアップで十分に元が取れるだろう。
その事を指して「ワンコイン・レッスン」と呼んでいる訳だ。
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さて、今回の第39回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。
レンズを主に紹介するシリーズ記事。
通常、1記事に4本のレンズ紹介だが、今回は、少々難解で
ややこしい話が長くなる為、紹介本数を減らし、未紹介レンズ
2本と、紹介済みレンズ1本での特殊な用法を取り上げる。
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まず、今回最初のレンズ

(新品購入価格 約9,000円)(以下、Meike25/1.8)
カメラは、PANASONIC DMC-G5 (μ4/3機)
2019年に発売された、APS-C型以下マウント用の
MF広角(準標準~標準画角相当)レンズ。
例によって「mEiKE」と大文字小文字混じりのロゴ
デザインであるが、以下は「Meike」と記載する。
5群7枚の、銀塩小口径標準のダウンサイジングによる
ジェネリックに近い構成と思われるが、レンズ構成図が
見当たらず、詳細は不明である。
50mm標準の1/2倍設計であれば、APS-C機で僅かに
周辺減光が出る理屈であるが、本レンズではAPS-C機に
装着した場合でも周辺減光は起ら無い。
そのポイントとフランジバックを調整する為に、
銀塩時代の変形ダブルガウス5群6枚に、1枚レンズを
追加したのであろうか?
まあ、Meikeは、七工匠のように「ほぼジェネリック設計」
とする事はなく、僅かにオリジナリティを効かせている
模様だ。とは言え、まだ同社製レンズを4本しか入手
していないので詳細は不明、また、他のMeike製レンズ
全てが、そうである訳でもあるまい。

まず最初に気になった課題は、「オーバーインフ」である。
「Over Infinity」とは、カメラ用語において、
「無限遠を超えてピントリングが回ってしまう」という
状態を示す、これは故障というよりは、そういう構造上の
仕様(弱点)である。
AF時代初期のレンズ(1980年代後半くらい)では、
稀にそういうものもあったし、現代AFレンズの中にも
僅かに、そういう仕様傾向のものもある。
何故ならば、最初期のAFアルゴリズムでは、例えば無限遠
の合焦距離を探す上で、AFが段々と無限遠に近づいて行き、
位相差値が減って行く。しかし、これでは無限遠でAFが
止まらない、位相差の最小値(変曲点)が不明だからだ。
そこで、AFは無限遠を超えてピントを合わせに行く、
すると無限遠を超えるとピンボケとなるから、無限遠の
距離が、ぴったり合焦点である事がわかる。
だから、当時のAFレンズは、無限遠を超えてオーバインフ
となる仕様のものがあった訳だ。
しかし、その後の時代では、上記のような単純なAF合焦
アルゴリズムは使われなくなったと思われる。
具体的な改良点としては、単純に位相差センサーからの
現在値を見るのでは無く、その変化量(差分、勾配)を
解析する、そうすると、上手くすれば、どのあたりの
距離でピントが合うかが、ある程度予測できる為、
AF速度・精度が向上する他、AFレンズをオーバーインフ
仕様にしなくても済む、という訳だ。(ただ、ピント
精度が厳しい大口径レンズ等では、若干の無限遠余裕が
必要な場合もあるだろう)
実際のAFアルゴリズムは非公開(企業秘密)であるから、
中で何をやっているのかはわからない、けどまあ、上記の
考え方は技術的には基本だ、さほど的外れでは無いであろう。

レンズをMFで使う際に操作性が非常に悪化するからだ。
具体的には、MF時、遠距離にある被写体を撮る際、ピント
リングをいっぱいまで廻し、手指に停止感触があるならば、
そこでシャッターを切って撮影すれば良い。
このMF操作は、AFで合焦するよりも高速で確実な利点が
あるが、まあこれは基本的なMF操作(技法)でもある。
だから、もしMFレンズでオーバーインフ仕様となって
いる場合は、基本的なMF技法が使えず、困った事となる。
初期AFアルゴリズムのように、MF操作をしている際
「あれっ? 無限を通りすぎたか?、じゃあ、ちょっと
戻って、この辺がピントが合う距離かな?」と、なんとも
非効率的なMF撮影技法を強いられてしまう訳だ。
よって、古今東西、MFレンズでオーバーインフ仕様に
なっているものは皆無に近い、それはMFレンズにとって
「重大な弱点」と見なされてしまうからだ。
MFレンズでオーバーインフになる状況は、レンズ単体では
まず有り得ない。それがあるケースは、例えば、NIKON S
マウントと旧CONTAX マウント間で、レンズをアダプターを
使用して装着した場合には発生する。これは、両マウントは
形状互換はあるが、レンズ(ピント)繰り出し量が異なる
仕様となっているからだ。
さて、本レンズは何故オーバーインフとなっているので
あろうか? 以下は想像であるが、本レンズは各種
ミラーレスマウント用に発売されているが、その種類は、
μ4/3、SONY E、FUJI X(注:発売開始時)である。
これらのマウントでのフランジバック長は、17.7mm~
約20mmの範囲、つまり殆ど差が無い。
そこで、例えば、これらの中間値あるいは最小値に合致
するように、レンズ/鏡筒の設計を行っておけば、後は
マウント形状に合うパーツを嵌めてやれば、だいたいどの
マウントでも共通で使えるレンズとなる、ただしその際
無限遠のピントが出なくなる(届かない)危険性がある
ので、予めオーバインフとして、フランジバックの差異を
吸収しているのではなかろうか?
あるいは、マウント部品をはめ込む際に、ピントリング
の回転角範囲が変化し、マウントによっては、オーバー
インフとなったり、最短撮影距離が変化する構造なのか?
まあ、普通は、そんな事をせず、各マウントでのフランジ
バック長の差異を吸収する為の厚みが異なるマウント部品
を使えば済む話なのだが、もしかすると、このやり方の
方が、僅かにコストダウンが可能なのかも知れない(?)
つまり、本レンズは、新品で1万円を軽く下回る
ローコストレンズである。10円でも100円でも部品代や
製造工程でコストダウンしていかないと、なかなかこの
低価格は実現し難いのではなかろうか?
ここまでの話はあくまで想像ではあるが、もしこれが
事実であり、コストダスンの為のオーバーインフ仕様
なのであれば、メーカーはコストダウンの為に涙ぐましい
までの努力や工夫を行っている、という事なのであろう。
この想像の根拠の1つとしては、本レンズ(μ4/3用)
をSONY Eマウントにアダプターで変換する際、普通は
ピッタリと装着できるが、本レンズの場合のみ、
約1mm強の隙間が開いてしまう、これはもしかすると、
μ4/3とEマウントのフランジバック長の差に関係が
あるのだろうか? と推察している。(下写真)
(注:μ4/3のフランジバック規格は正確な値が良く
わからない・・汗。資料によっては、19.25mm,
19.3mm、約20mm等がある。
対して、SONY Eは18.0mmだと思われる)

状況は無いが、他のMeikeレンズで、オーバーインフでは
無く、逆に最短撮影距離の位置が不明瞭なレンズがある。
こちらも同じ理由かも知れない、つまり無限か最短か
いずれかに余裕を持たせる事で、構造を簡略化できるの
かも知れない。ちなみにオーバーインフとなるレンズは
μ4/3用で、これはフランジバック長がミラーレス機の
中では長い約20mm、逆に最短撮影距離が不明瞭なレンズ
はFUJI Xマウント用で、こちらはフラジバックが短い方
の17.7mmである、これらを共用化できるピントリング
とマウント部の構造は複雑そうで、頭の中では簡単には
想像できないが、機構(メカ)に詳しい人は、推察して
みると興味深い事であろう。
実用上においては、オーバーインフは、やはり使い難い、
これはMF操作上、重欠点と言えるであろう。
私は本レンズをμ4/3機と、SONY E機で共用する為に、
μ4/3版を購入したのだが、他マウント品は、手にした
事が無くてわからないが、もしFUJI Xマウント品等が
オーバーインフになっていないならば、そちらを買った
方がMF技法上では有利かも知れない。

話が出来なかったが、準ジェネリック構成であろうから
基本的な描写力の不満は無いと思う、MFピント問題を
除いては、コスパの良いレンズだ。
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さて、次のシステムだが、「近赤外線マクロ撮影」を
試してみよう。

フィルターは、自作の赤外線透過型(760nm型)
カメラは、NIKON D500 (超高感度APS-C機)
さて、説明がややこしいシステムである(汗)
まず最初に、以下での「赤外線」とは、全て「近赤外線」
(Near IR)を示す。赤外線には他にも、熱(中)赤外線、
遠赤外線(テラヘルツ/サブミリ波)があり、加えて、
NIR,SWIR,MWIR,LWIR,TIR,FIR等と細分化されていて、
それらの理解は極めて専門的なレベルの知識を要求される。
巷で言わているような赤外線の話は、その殆どが赤外線の
種類を混同したり、特性や効能についても誤まっているか、
又は、科学的根拠の無い話ばかり、という残念な状態だ。
ここでは、純粋に技術的観点からの近赤外線撮影の話を
するが、専門的な知識が無いと理解しずらい点がある
だろう事は最初に述べておく。
まず最初に、D500+AiAF60/2.8で、通常の可視光
撮影をモノクロモードでした場合の写真を挙げておく。

では、以下、今回のシステム構成について。
レンズ自体は、昔から所有しているNIKON製マクロ
(マイクロ)であり、過去記事で何度か紹介済みだ。
基本的に、赤外線撮影を行うレンズは何でも良いが、
今回の実験の主旨ではマクロレンズを選ぶ必要がある。
カメラは、最高ISO感度約164万の超々高感度機である。
ここもD500でなくても良いのだが、少なくともISO40万
以上の超高感度機を用いる必要がある、その機種数は
あまり多くは無いが、まあ、PENTAX KP等、低価格な
機体もあるので、入手困難という訳では無いであろう。
(注:SONY α7S=最大ISO40万は、超高感度機なのに
近赤外線撮影のレベルでの超々低輝度撮影では、全く
動作しない。これは購入後に気付いた「重欠点」だが、
超高感度機の特性を期待したのに、非常にがっかりした)
で、自作赤外線透過(可視光カット)フィルターは、
ちょっとやっかいだ。私の場合、FUJIFILM社から
発売されている「光吸収・赤外線透過フィルター」の
角型ゼラチン版を購入し、これを円形に切り抜き、
ステップアップリングとステップダウンリングで
挟み込み、φ58mmの赤外線透過フィルターとした。
レンズ側のフィルター径によっては装着しずらいが、
適宜、もう1つフィルター径変換リングを用いれば良い。
(今回の例では、φ62mm→φ58mmにダウンしている)
また、ゼラチンフィルターは薄くて脆い構造の為、
取り回しには十分に注意する必要がある。
さて、この状態で赤外線撮影システムは完成だ、
ここまでは簡単であるが、ここからがまた難しい。

主旨であるが・・・
銀塩時代のMFレンズの多くには、被写界深度目盛り上に
「R」マーク、またはそれに準ずる赤色の指標が存在
している(上写真)
銀塩で赤外線撮影を行う場合、赤外線フィルム(コニカ、
コダック、イルフォード製:当時)を用い、可視光カット
フィルターの代用として濃い赤色のフィルターを装着する。
(注:商品・仕様名は各フィルターメーカーにより異なる。
ここも例によって、カメラ・写真業界全般での、昔からの
「用語不統一」があって、ユーザーの混乱を招いている)
なお、近赤外線には「色」という概念は無い為、写真が
赤色等に写るという訳では無い。赤外線フィルム自体も
ほとんどモノクロフィルムと同じ描写である。
できれば今回使用のような完全可視光カットフィルターを
用いるのが、赤外線撮影効果上では望ましいが、光を全く
通さず、構図確認が不可能となる為、銀塩時代では、濃い
赤色フィルターを用いる事が一般的であった、
で、可視光と赤外線では波長の差により、屈折率がかなり
変わり、ピント合焦距離も変わる為、レンズ上の指標の
「R」マークを頼りとしてMF操作を行う。
なお、この時、光学ファインダーは濃い赤色フィルターの
使用で暗くなっているので、目視によるMFピント合わせは
若干困難だ。赤色フィルターならばまだしも、可視光カット
フィルターでは、ピント合わせは不可能となる。
そこで、基本は無限遠距離撮影とし、∞マークをR指標に
合わせる(上写真の状態)
なお、原理的には、2mでも50cmでも、任意の撮影距離で
Rマークに合わせれば良さそうなのだが、ここで2点課題
があり・・
1)被写体までの正確な距離を測る事が困難。
2)中近距離撮影では、Rマークに合わせてもピンボケに
なる場合がある、つまり、Rマークは無限遠撮影時に
合わせて書かれている模様だ。
これらの課題により、銀塩時代には、無限遠距離の
赤外線撮影しか、ほぼ出来ない状況であった。
(注:下写真は、赤外線中距離撮影)

フィルムに差し替える事はできない。撮像センサーに
おいては、通常撮影において、(近)赤外光は写真が
赤みがかる等で有害である為、ほぼ全てのデジタル
カメラの撮像センサーには、赤外線カットフィルター
が装着されている。これは、ごく一部の機種を除き、
取り外す事は出来ない(無理にやると戻せなくなる)
また、ごく一部に、天体観測用途等に向け赤外線撮影
専用の一眼レフが数機種存在したが、特注品で高価で
あったし、また、現代ではあまり見当たらない。
ただ、「監視カメラ」の世界では、昼間は可視光撮影、
夜間は赤外線撮影で警備を行う「デイナイト・モード」
を搭載した製品がとても多い。
この仕組みをコンパクト機に応用した例としては、
YASHICA EZ Digital F537 IR(本シリーズ第19回等)
がある。このカメラはIRカットフィルターの有無を
手動スイッチで切換え、可視光と赤外線のMIX撮影を
可能とするものだ。(暗所では、赤外線のみの撮影)

の例である、一応、このカメラには近接撮影モードが
あるが、基本的にトイカメラ相当の性能・仕様であり、
あまりちゃんとした赤外線近接撮影が出来ない。
上写真も、一般的な無限遠赤外線(MIX)撮影である。
遠距離赤外線撮影では、空は黒っぽく写り、雲は白く、
木々も白く写り、肉眼での映像とは異なる様相となる。
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さて、説明が長くなったが、すなわち銀塩時代に
おいても、デジタル時代においても、赤外線撮影で
近距離(マクロ)撮影は容易では無い。
この為、マクロ時での草花や小物、昆虫等が赤外線で
どう写るのかは、(研究者等を除き)殆ど誰も見た事が
無かった。
ここではその状況を打開する為、本システムにおいて
赤外線マクロ撮影を実現する実験を行ってみる。

まず、今回使用機のNIKON D500には、当然赤外線カット
フィルターが入っている、そしてレンズには可視光カット
フィルターを装着する。
「それでは何も写らんではないか?」と思うだろうが、
それはその通り。だが、両者のフィルターには、カット
される波長の特性上、わずかに漏れ出る光(赤外光)が
ある。その量は、可視光の数千~数万分の1である。
普通のカメラでは、こういう微細な光を捉える事は
出来ない。けど、D500や他の超高感度機を用いれば
これは不可能という話では無い(注:SONY α7Sを除く)
具体的には、通常システムで日中快晴時に、F2.8
レンズを用いるとISO100で1/4000秒程度のシャッター
速度となる、ここで感度をISO10万とするならば、
本来ならばシャッター速度は1000倍速い400万分の
1秒、でも赤外光が例えば4万分の1しか入って来ない
ならば、これは100分の1秒のシャッター速度となる。
でも、これであれば、マクロレンズでの手持ち撮影が
可能である。(60mmレンズで手ブレ補正無しの場合
標準的手ブレ限界シャッター速度は、APS-C機に
おいて、1/90秒となる)
まあつまり、日中明所でISOを10万程度まで上げれば
本システムで撮影可能であり、やや暗い被写体でも、
ISOを40万程度でカバー可能、という計算になる。
(注1:この為、「晴天直射日光」の環境でないと、
まず撮影が出来ない)
(注2:ここで言う近赤外線の減衰率は、システムの
仕様・特性に依存する。旧世代のISO3200程度の機体
でも、赤外線撮影が出来る場合もあった→その機体は
赤外線の減衰率があまり強く無い仕様であったから)
しかし、ここまでの高感度域かつ赤外線では、露出(計)
の正確さは、まったく期待できない。だから撮影モード
はM(マニュアル)とし、かつ露出計に依存しない状態
とする。つまり、絞りは、ほぼ開放、シャッター速度は
1/100秒程度をキープ、後は被写体の明るさに合わせて
ISO感度を5万~80万程度の範囲で手動設定すれば良い。
これで露出に係わる要素はOKだ。
写真の色味は、カラーだと赤外光と高感度偽色でデタラメに
なるので、予めモノクロモードを選択しておく。
(注:今回の撮影では、赤外線撮影である事を示す為、
意図的に緑色に着色している。これは軍事用赤外線暗視装置
とか、一般的にはスパイ映画等でお馴染みの処置である)

構図については、光学ファインダーでは全く何も見えない
為、ライブビューを選択する。だが、ここまでの超高感度
域となると、モニターのゲイン(増幅率)が不足し、
映像もかなり不安定となる(出たり、出なかったり)し、
そもそも、かなり暗く、かつ赤外光は可視光とは見える
雰囲気が異なる為、被写体が良く視認できない。
ただ、ここはシステムの性能的限界であるから、もう
このまま行くしかない。(注:SONY α7Sでは、この
性能的限界が低く、超高感度特性が発揮できない)
常時ライブビューに設定できると嬉しいが、残念ながら
NIKON D500では電源ONの度にライブビューボタンを押す
必要がある。(注:PENTAX KPであれば、レバーの設定で
常時ライブブビューが可能。これもNIKON機全般での
「過剰安全対策」の一環であろうか・・ こういうのは
全て、使うユーザー側の責任範囲で行えば良い、メーカー
側が、過保護や、おせっかいをする必要は一切無いのだ)
さて、最難関はピントである。不安定で暗いモニターを
見ながら、被写界深度の浅い近接(マクロ)撮影を
行わなければならない、これは基本、MFモードとする。
この時、NIKON機でのライブビュー拡大は、そのボタンを
押すと、シャッター半押しでその解除ができず、拡大した
回数だけ別の縮小ボタンを押さないと最終全体構図確認が
出来ない、という致命的な迄に劣悪な操作系となっている。
何故こんな酷い仕様なのだろうか? MF撮影をしない人が
仕様設計をしているか、あるいは、三脚を立てて、のんびり
とピント合わせをするという、数十年前での古い世代の
撮影技法を意識して設計をしているとしか思えない。
勿論、他社では、ここまで酷い例は無い。
(ちなみに、NIKON機での操作系の課題はこの例に留まらず、
多岐に及ぶ。そして、不条理な仕様であっても、それを簡単
には変えない頑固さがある。例えば、露出メーターのプラス
マイナスが一般常識とは逆であっても、それを約40年間も
改める事をしなかった。ここはメーカーだけの責任とは言えず
NIKON機ユーザーが保守的、あるいはビギナー層が大半であり、
前機種と仕様が変わる事を極度に嫌ったり、操作が分から
ないと、すぐにクレームを言う風潮があるからだろう。
・・まあ、とても残念な話である)
で、これでは使い物にならないので、ライブビュー拡大は
行わず、なんとか1倍のままで行くか、あるいはどうせ
AFは効かないし、屋外被写体では風等の影響で揺れている
場合が多く、撮影者自身も距離ブレが発生している為、
D500の高速連写機能を活用した手動MFブラケットを行う。
つまりピントを少しづつ、ずらしながら高速連写を行う訳だ、
これはピントリングを廻しても良いし、撮影者自身が微妙に
前後しながら撮影しても良い。
勿論、無駄打ちが極めて多くなるが、10枚に1枚くらいは、
ピントの合っている写真があるだろう。
さて、次の課題は、前述の可視光と赤外線のピントの
ズレは、近接撮影では、より顕著になる点がある。
だから、レンズの距離指標やR指標は参考にならず、
また、手指の感触で最短撮影距離付近で撮ろうとしても
無理である。そしてNIKON一眼では、ライブビュー時でも
ピーキング機能は無い。(他社の一部の機体では可能)
結局、ピント合わせはライブビューモニターを見ながら
目視で行うしか無い。
さらなる問題点は、「露出(露光)倍数」が掛る事だ、
これは近接撮影距離、というか、撮影倍率に応じて
(1+撮影倍率)x(1+撮影倍率)の公式の分だけ
露出が暗くなる。
「等倍の際には、4倍も暗くなる」という計算であり、
NIKONのマイクロレンズでは、こうした場合に、F値の
変化でこれを知らせてくれる。本AiAF Micro 60/2.8
では、開放F値は撮影距離に応じてF2.8~F5まで
変化するが、F2.8の4倍は、F5.6であるから、レンズ
設計上で、この課題を少し緩和しているのであろうか?
(例:レンズ繰り出し量が少なく、瞳径(有効径)を
比較的維持できる構造等)
また、上記公式は可視光の場合であり、近赤外域で
同様の露光倍数で済むのかどうか?は不明だ。
ただ、暗くなる事は確かだ、つまり、本システム使用時
では、撮影距離が短くなった場合、F値が暗くなるから、
シャッター速度を低めるか(注:手ブレしやすくなる)
またはISO感度を最大4倍まで高める(注:超高感度域
は、もうほとんど余裕が無く、頭打ちしている)
必要がある。

超々高感度機ですら、もう、ISO感度を高める余裕が
全く無く、ノイズまみれとなっている。
いずれにしても超高難易度の撮影だ。初級中級者層では、
まず不可能、上級者や職業写真家でも難儀するであろう。
撮影歩留まり(成功率)は、良くて数%程度、つまり
殆どの撮影は失敗する事が明白だ。

結論となる。何も、好き好んで、こういう撮影をやろう
とする人も少ないと思うし、撮影の為のシステムを構築
する事も、一般レベルから見れば容易では無い事かも
しれないが、マニア層や研究者層であれば、知的好奇心や
研究目的で、試してみるのも悪く無いかも知れない。
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次は、今回ラストのレンズ

(ZOOM LENS) 90-250mm/f4.5(TL925)
(中古購入価格 1,000円)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
発売年不明、恐らくは1970年代頃と思われる、解放F値
固定型MF望遠ズームレンズ。
三協光機は、1950年代~1980年頃まで存在した光学機器
メーカーで、1969年には「KOMURA LENS MFG. LTD.」
に社名変更している、本レンズにはKOMURA LENS・・
の表記がある事から、1970年代の製品と推測される。
正式な型番名称も不明、()内の表記は、レンズ上には
いろいろな場所に書かれているが、順不同である。
また、同じスペックのレンズでも、前期型や後期型等、
細かいバージョン差により仕様が異なると思われるが、
そこも、詳しい情報が残っておらず、詳細は不明だ。
なお、KOMURA製のレンズは本ブログでは初登場である。
安価なジャンク品としての購入であるが、特に大きな
瑕疵は無く、問題なく使える。
マウントはNIKON F版であるが、この当時のKOMURA
(コムラー)のレンズは、マウント交換式であったと
思われる。ただし、現代においてKOMURA用交換マウント
を入手するのは、まず不可能だ。無理をしてそれを探す
必要は無く、現代ではマウントアダプターの方を変えれば
どんなマウントのレンズであっても使えるであろう。
当時は、テレ端250mmの望遠ズームは珍しかったかも
知れず、銀塩時代には中級者層やマニア層等に、そこそこ
高く評価されていた模様であるが、そこも、もう、詳しい
情報が残っていない。
はたして、現代においても使えるレンズであろうか?

ある事だ。そういえば、ジャンク品で購入した際にも
無造作に紙袋に入れられてきたが、帰路、底が抜けそう
になったくらいであった。後で重量を測ると約1kgも
あり、まあ、例えばSIGMA Art Line並みの重量感だ、
これでは重く感じるのも当然であろう。
重くてもバランスや操作性に影響が出なければ良いが、
本レンズは、なんと「四重回転式」操作を強いられる。
具体的には、レンズ前方より、①ピントリング
②ズームリング ③プリセット環 ④絞り環 である。
ただまあ、③のプリセット環は、いっぱいまで絞って
おけば、④の絞り環で絞り値調整をすれば良いので、
これは普通は触らずとも済む。
しかし、ピントとズームが二重独立回転式なのは、やはり
重たいレンズなので操作性が悪化し、勿論、常時手持ち
撮影であるから、レンズ前方のピントリングから手元の
絞り環まで、大きく手指を移動するのは、重量バランス
を維持する上で、かなりしんどい。
また、ズーミングでレンズ全長が変化しない点は良い
のだが、ピント変化ではレンズ全長が変わる。
これらから、いずれの操作の場合でも、レンズの重心
位置をキープしてシステムをホールドする事が大変難しく、
勿論このシステムには、手ブレ補正機能などは入って
いないから、日陰などで換算400mm近くともなれば
AUTO ISOなどで安易に使うと簡単に手ブレしてしまう。
SONY α6000には、AUTO ISOの時の低速限界設定が
無いので、手動でISO感度を、こまめに調整し、常に
1/320秒ないし1/400秒以上のシャター速度をキープ
しなければならない。その為には、日中であっても
場合によっては、ISO800~ISO1600程度の高感度の
値になるケースもある。
あれこれと設定が難しく、レンズの重量も含めると、
かなり難儀する。「修行レンズ」と言っても良く、
今から「使いこなしが困難なレンズランキング」に
追加でノミネートしたい位だ。
(本シリーズ第11回、第12回記事参照)
このレンズを手持ちで使うと、非常に重たいレンズを
左手で支えながら、かつ左手で、四箇所(または三箇所)
の、位置が大きく離れたリングを順次廻す、という
曲芸的な迄の、とても困難な操作が要求される。
デジタル時代であっても、これだけ苦労するレンズだ、
銀塩時代で、こんな難しい操作で、かつ低感度フィルム
使用であれば、本レンズを手持ちでは、絶対に誰も使い
こなせない、と断言できる。

自由自在に扱える人など、誰も居なかったに違い無い。
まあつまり、100%、三脚を用いる技法でないと、使い物
にはならないレンズであった事だろう。
そう考えると、劣悪な「四重独立回転式操作性」も、
三脚を立てて、横から手を伸ばして順次廻すのであれば
あまり課題にはならなかったと思われる。
(しかし、それでは、迅速な操作・撮影が出来ない。
1日に数枚程度しか写真を撮らなかった古い時代の技法だ。
現代では1日の撮影枚数が数千枚にも及ぶ事はザラである)
まあ、そうであれば、現代の機材環境においてならば、
本レンズを、なんとか手持ちで使いこなしてみようと
考えてトライしてみる事も、十分意味のある話であろう。
初級中級層では、まず無理だとは思うが、逆に言えば
本レンズを手持ちで使いこなせるならば、上級レベル
である。その為の修行と考えれば、やる気も出てくる
事であろう。そして、ここまで難しいレンズをなんとか
使いこなせるようになれば、現代の軟弱なAFズーム等は
あまりに簡単すぎて拍子抜けしてしまうように思える
かも知れない(例えれば「大リーグボール養成ギプス」を
嵌めて練習しているようなものだ・笑)
つまり、そこまで修練すれば、新たな境地に達する事が
出来るようになる、という事だ。
ちなみに、ただ単に普通に撮るだけでは不十分だ、
本レンズで結構頻繁に発生するボケ質破綻の回避には、
あまり触りたくないレンズ手前の絞り環を微調整する
必要が生じ、また、望遠域では解像力(感)が弱まる
傾向(弱点)がある為、光学ズームを適切なレベルまで
の使用に留める、その結果、遠距離撮影や近接撮影等で
意図する撮影倍率が不足するならば、デジタルズームの
操作も必要となる。
焦点距離による描写力の低下のみならず、全般的に絞り
開放近くでは、かなり解像感が低い、手持ち撮影では
できるだけシャッター速度を速めたい為、これは困った
特性であるが、まあ、性能上、やむを得ない。
少し絞り込むと、解像感が高まり、そこそこ良い描写
傾向となる。逆光でなければ、あるいは明暗差が大き過ぎ
なければ、コントラストも高くヌケの良い写りとなる。
でも、条件をそうした場合、大抵、シャッター速度が不足
して今度は手ブレ問題が襲ってくる。そうならないように
またISO感度を、自身の手ブレ限界速度に合わせて細かく
調整する必要がある。
ピントリングやズームリングの回転角は比較的大きい、
この仕様の為に、「ワンハンドズーム構造」には
出来なかったのだと思われるが、各回転リングで
持ち替え動作が発生すると、重たいシステムを支える
為に、左手も右手にも疲労が蓄積していく。手持ちで
2時間を超える連続撮影は、なかなか厳しいとは思うが、
そこは「修行レンズ」だ、そんな事で音を上げていたら、
新たな境地に至る事は出来ない・・(汗)

本当に居るだろうか? まあでも、スキルアップの為に
それに挑戦してみたいという奇特な人が居るならば、
それは止めはしない、そうしていくことで、必ず、
様々な技能(技術)が自然に身についていくからだ。
「ビギナーだから無理」という言い訳は通用しないだろう、
逆に言えば、そういう難しい練習をしないで、フルオート
のモードで、手ブレ補正や超音波モーター等の文明の利器
に頼って写真を撮っているから、いつまでもビギナーの
レベルからステップアップできないのだと思う。
(注:ビギナー層では、そうした「文明の利器」に頼らない
と「上手く撮れない」という不安要素を常に抱えている。
しかし、上手く撮れずに何が問題なのか? 実際に手ブレ
の失敗を起こしてみるまで、どこが、自身の手ブレ限界点
なのかは、永久に理解できないでは無いか・・)
たまには、難しいレンズを使ってトレーニングしてみる。
その為に、中古カメラ店やリサイクル店のジャンク品の
コーナーから、面倒くさそうなレンズを「サルベージ」
する事も、練習の為の教材への出費と考えれば、高い
値段でもなく、スキルアップで十分に元が取れるだろう。
その事を指して「ワンコイン・レッスン」と呼んでいる訳だ。
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さて、今回の第39回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。