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特殊レンズ・スーパーマニアックス(56)超高描写力レンズ(前編)

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さて、コロナ禍明けやらぬ新年だが、今年も
従前に書き溜めてあった記事(まだ1年分位は
あるだろう)を、順次掲載していく事とする。

本シリーズ記事では、やや特殊な交換レンズを
カテゴリー別に紹介している。

今回は「超高描写力レンズ(前編)」という主旨で
私の個人的な「レンズ評価データベース(DB)」
において【描写・表現力】の項目が「5点満点」
となった優秀なレンズ群を紹介しよう。

なお、この条件に当てはまるレンズは、所有レンズ
約400本中、10数本が存在するのだが、その中から
「表現力」よりも「描写力」に重きを置いて、11本を
選別し、それを前編6本、後編5本に分けて紹介する。

----
ではまず、最初のシステム
_c0032138_10182078.jpg
レンズは、MINOLTA STF 135mm/f2.8 [T4.5]
(新品購入価格 118,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)

1998年に発売されたアポダイゼーション光学エレメント
搭載型MF望遠レンズ。α(A)マウント用レンズであるが、
その後、SONYに引き継がれ、現代まで生産が継続されて
いるロングセラー名レンズである。
_c0032138_10182017.jpg
さて、今回は、ややこしいテーマの記事である。
何がややこしいか? という点だが、一般ユーザー層が
感じる「レンズに求める性能」と、私、またはマニア層や、
はたまた職業写真家層等においては、レンズに求める内容、
すなわち「ニーズ」が、ずいぶんと異なると思われるからだ。

結局、ユーザー側には個々に写真を撮る目的があり、また
個々にスキル(撮影技能等)も異なる。だから、レンズに
求めるニーズも相当に異なり、結果、その評価も個人毎に
全然別のものとなってしまう訳だ。

だが「人それぞれだから、決められない」という消極的な
スタンスは個人的には好きでは無い。
何かの基準や規範を創り上げる事も重要だと思っている。

本ブログにおいては、あくまで私個人の考え方に基づいて
様々なレンズを評価している。
本記事においても同様であり、ここで「超高描写力」と
評価しているのは、あくまで個人的な評価基準である。

けど、その評価内容は、単なる「思い込み」ではない。
ちゃんと綿密なルールを定めて行っているし、母体となる
レンズのサンプル数も、試写の枚数も、一般的なユーザーの
環境・規模よりは、はるかに多い訳であるから、この記事に
おける評価は、実際にそれらの「実践」に基づいた精度の
高い情報になっていると言えると思う。

で、勿論時代は変化する。レンズの設計・製造技術の進歩や
新型レンズの発売のみならず、カメラを含めたシステムの
環境の変化であるとか、新しい撮影機能により、撮影技法の
そのものも時代とともに変化していく。
まあ、昔は使い難くかったレンズが、近代のカメラでは快適
に使用できる事は多いし、それと逆のケースで、現代の環境
では使い難いレンズも勿論存在する。

だから、この評価はあくまで現在の、この瞬間のものでしか
有り得ない、いずれ時間が経てば、評価データベースも適宜
改変(アップデート)していかなくてはならないだろう。
まあ、そういう場合は、また機会があれば、その時代毎での
トップクラスのレンズを紹介していこう。

余談が長くなったが、これは重要なポイントだ。

レンズそのものの話は、全て過去記事で紹介しているもの
ばかりだし、個々のレンズの長所とか短所とかは、あまり
そういった狭い視点での記事も、正直言って書きたくは無い。

すなわち、レンズは個々に用途が異なる訳であるから
例えば「洗濯用洗剤と、台所用洗剤、食器用洗剤の
どれが優れているのか?」という比較は無意味な訳だ。

また、ユーザーによってもレンズの使用用途は異なる。
上記の例で挙げれば「野球少年が居る家庭で、泥汚れが
酷い」場合と「お洒落着を多数所有する女性一人暮らし」
の場合では、同じ洗濯用洗剤であっても、それに求める
効能は全く異なると思う、だからここも同一(均一)の
価値感でレンズの評価を行う事は出来ない。

まあだから、様々なレンズにおいて、画一的な視点で
長所短所を語る、というのは本来あってはならない事だ。
でも、もっとグローバルな視点で絶対的な評価が出来る
人など、世の中には皆無であるし、基本的には、それは
不可能な話である。

よって、評価や長所短所の判断は、原則的には、ユーザー
個々に行わなければならない。だが、その方法論そのものは
一般カメラマン層では難しい、やりかたがわからないのだ。

本ブログにおいては、「私の評価手法のサンプルを提示して
いる」という風に解釈してもらう事が、最も正解に近い要素
だと思う。勿論、個々のユーザー層においては、自分に向いた
評価の方法論を構築していけば良い。
_c0032138_10182068.jpg
・・さて、でも一応は、本レンズの話をしておく。

STF135/2.8は史上初のアポダイゼーション搭載レンズ
であり、1998年発売と古いが、発売後長期間を経ても
第一線の高い描写表現力を持つ(超)名玉である。

弱点は色々とあるが、総合的には多数の長所をもって、
殆どが相殺できると思う。

本STF135/2.8のさらなる詳細に関しては、近年の
以下の2つの記事が参考になる事であろう。

1)特殊レンズ・スーパーマニアックス第0回
 「アポダイゼーション・グランドスラム」記事
2)レンズ・マニアックス第31回、新旧STF対決記事

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では、次のシステム
_c0032138_10182761.jpg
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
(注:独語綴り上の変母音の記載は省略している)
(新品購入価格 138,000円)(以下、MAP110/2.5)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

2018年に発売された高描写力MF中望遠等倍マクロレンズ。
現状、SONY E(FE)マウントのみでの販売となっているが、
将来的に異マウントでの発売の可能性も無きにしもあらずだ。
_c0032138_10182727.jpg
さて、「描写力とは何か?」という、極めてシンプルな
疑問や質問があると思う。 

もっと下世話に言えば、「このレンズは良く写る」等の
会話はマニアから一般層に至るまで、あらゆるところで
日常的に行われているのだが、ではいったい何を持って
「良く写る」と評しているのだろうか?

実は、この問題は難しい。前述の「ユーザー毎に様々な」
用途や目的の話からすると、ここでも「評価は人それぞれ」
という事となり、結論が出なくなってしまいかねない。

以下においては、私個人の定義を述べておこう。

<描写力とは?>
解像感(解像力、シャープネス)、ボケ質、コントラスト、
歪曲の度合い、色再現性、口径食(周辺減光)、焦点移動
諸収差、等の要素を「感覚的」に利用者が評価したもの。

これらの一部は、数値的データで表す事も可能ではある、
レンズメーカー等で計測器を使って実測したり、または
レンズ(光学)設計ソフト上でシミュレーションにより
数値スペックを計算で求める事も可能である。

ただ、これに関しては、そうした厳密な数値データよりも、
ユーザーの感覚値でも十分なような気もしている。

特に「ボケ質」などは、感覚的かつ、多数の撮影条件を
変えた状態でないと判断しにくい。実験室の中ではあまり
求まらないデータであるし、数値的評価も、例え「スポット
ダイアグラム」等の手法を用いても、あるいは像面湾曲や
非点収差を数値化したとしても、まず困難であろうからだ。

よって、ここは利用者の感覚値に委ねる事となる。
だが、「絶対的評価感覚」を養うには、ユーザー側にも
高いスキルと経験値が要求される。あまり簡単な話では
無いが、まあ、時間をかけてもそれを目指すのが良いだろう。

<諸収差とは?>
レンズには、性能を落とす要因としての「収差」という
ものが存在し、それらを無くす事がとても困難な事は、
多くのユーザー層が知っているであろう。

具体的な収差には以下がある。
色収差(倍率、軸上)、球面収差、コマ収差、像面湾曲、
非点収差、歪曲収差(後ろの5つを、ザイデル5収差と呼ぶ。
又、沢山の種類があるので、「諸収差」とも言われる)


ただ、これらは難解な専門用語であり、その理解には非常に
高度な専門的知識を要する。一般向けに平易に解説している
ような資料も皆無であるから、結局のところ、誰も簡単には
説明できないし、同様に理解も難しい状況だ。

まあ、概ねだが、
球面収差、コマ収差は、レンズの解像力(解像感、または
シャープネス)に影響し、一部、色収差もここに関連する。

色収差は、解像力に影響する他、色再現性にも影響する。

像面湾曲と非点収差は、主にボケ質への影響が大きい。
ただ、これらは、その原理および発生条件が極めて複雑で
あるので、単にこれを数値的に良好に補正したところで
それイコールボケ質が良いレンズになりうるか?というと
そういう単純な話でも無いと思う。

なお、円形絞りとか、絞り羽根枚数とかは、直接的には
「ボケ質」との関連性は少ない。

歪曲収差は、読んで字のごとしであるが、これは現代の
レンズにおいては、広角レンズ、廉価版標準・広角ズーム、
廉価版レンズ、トイレンズあたりでしか目立たない。
今回紹介の高性能レンズ群では、これらの条件には、当て
はまらない為、歪曲収差に関しては今回は無視できる。

また、歪曲収差は、ユーザー側でも実写による感覚評価が
容易な項目であり、一部の評価記事では歪曲収差の有無で
レンズ性能を語っている場合も多々あるが、勿論そんな
単純な話では無い。むしろ、そういう風にユーザー側がこの
収差を、とても気にする為、ハイレベルな高性能レンズでは、
歪曲収差を全く目だたないようにと優先的に改善されている
状況だ。また、カメラ内補正機能や、PC上でのレタッチでも
補正が容易な為、この収差は現実的には無視できる。

コントラスト、色再現性、口径食、焦点移動は、これらと
収差との直接的な関係は説明しずらい、むしろレンズ全体の
設計・構造や、ガラス材質、コーティング等と関係する為、
あくまで利用者側の実用目的に応じて、感覚的に判断する
のが望ましいであろう。


まあすなわち、「諸収差を完璧に補正しました」と謳って
いるレンズであっても、その収差の数値的な部分以外の
要素も色々とある為、収差の少ないレンズ=良いレンズ
といった単純な話では無い訳だ。

例えば、ここには挙げていないが、収差補正を重点的と
したコンセプトで、複雑で大きく重く高価なレンズと
なってしまったら、入手性や実用性が低下してしまう、
それは優れたレンズと言えるだろうか?そこは簡単な
判断では無い。

いずれにしても「描写力」とは、高忠実度(高忠実性、
いわゆるHi-Fi)と置き換えても良い要素だと思われる。

話の途中であるが、この話は長くなりそうなので、
また後で続ける事としよう。
_c0032138_10182715.jpg
とりあえず、本レンズMAP110/2.5であるが、ここまで
述べてきた「描写力」すなわち「高忠実度」については、
文句のつけようが無いレンズである。

ただ、それがすなわち「良いレンズ」であるかどうかは
ユーザー毎の価値感覚に委ねられる。

高価すぎるレンズであるし、MFレンズでもあるから、
一般的には敬遠されるレンズだと思う。
それはレンズそのもの描写力とは関係が無い話でもあるが、
入手しないレンズの描写力が良くても悪くても無関係で
あるから、結局のところ、ユーザー側個々の判断となる。
欲しいと思う(必要と思う)ならば、買うしか無いであろう。

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では、ここで3本目のシステムに変更しよう。
_c0032138_10183372.jpg
レンズは、smc PENTAX-DA ★ 55mm/f1.4 SDM
(中古購入価格 42,000円)
カメラは、PENTAX KP(APS-C機)

2009年発売のAPS-C機専用AF標準(中望遠画角)レンズ。

APS-C機専用なので一般層においては不人気なレンズでは
あるが、職人芸的な手動設計技法による、独特の「空気感」
(注:定義が曖昧、少しだけ後述する)を持ち、個人的
には気にっているレンズである。
つまり、描写力というよりも、表現力に優れたレンズだ。
_c0032138_10183312.jpg
では、前述の用語の意味(定義)の解説を続けよう。

<表現力とは?>
私のレンズ評価データベースにおいては、レンズの
描写傾向は、前記「描写力」だけで評価される訳では無く、
「描写・表現力」という項目となっている。

ここで表現力とは、ボケ質を含むボケ量、空気感、および
特殊(付帯)効果の事を示す。

うち、空気感(アトモスフェアー)は、極めて曖昧な
要素であり、なんとも言葉では表現し難い要素だ。

「ボケの遷移(変化の状態)」という風に定義する事も
稀にあるのだが、そう簡単な話でも無く、もっと別の要素、
たとえば、コントラスト感なども含めた「臨場感」を示す
解釈も十分に有り得る。

ここはまあ、「研究途中」の内容ではあるが、いつか
ここをはっきりと定義したいと思っている。

(その為には高度な検証作業が必要だ。場合により専用の
解析ソフトウェアの自主研究開発も必要になるだろうと
思っている。簡単な話では無いが、追々進めていく予定だ。
NIKONやTAMRONでは、そうした三次元的なボケ遷移をも
意識した開発や、ツールの整備が進んでいるとも聞く。
開発側が進化するならば、その製品を利用するユーザー側も
追いついていかなければならない。まあ、そこまでやる必要も
無いとは言えるが、メーカー側だけに主導権を持たせる事は、
どうも気に入らない(汗) 「ほら、新技術で凄いレンズが
出来ましたよ、だから高価なのです」とメーカーから言われて、
「はいそうですか、では買います」と応えるのでは、あまりに
無策であるからだ)

さて、特殊(付帯)効果とは、具体的には、魚眼、超大口径、
シフト、ティルト、ソフトフォーカス、ぐるぐるボケ、
アポダイゼーション、超マクロ等による、そのレンズ独自の
特徴的な効能・機能・効果・描写を示す。

前述の「描写力」が、すなわち、高忠実度であるならば。
「表現力」とは、アート的な観点においての「映像表現」
を持つ事である。できれば同一のレンズにおいて、多数の
映像表現バリエーションを持たせる事が望ましいのだが、
それは物理的に困難である為、一々レンズを交換するしか
無いのも現状である。
_c0032138_10183431.jpg
ここからは夢物語であるが、遠い将来の写真用レンズに
おいては、プリセット値形式のデータを入れ替える事で
様々な表現特性を持つレンズに切り替える事が出来るならば
最高であろう。
すなわち、例えば、この被写体はプラナーモードで撮り、
別の被写体はSTFモードで、次はマクロアポランター、
はたまたベッツヴァール・モード等に切り替えて使える
レンズである。


・・まあ夢物語ではあるが、他分野の製品、たとえば
デジタル・シンセサイザー(電子楽器)においては、
この方法論と同様に、プリセットを選ぶだけで、ピアノ
(複数の機種まで選べる)、オルガン、バイオリン、
ギター、トランペット、フルートから、果ては民族楽器や
打楽器まで、何であっても好きな楽器音色を選ぶ事が、
およそ30年も前から出来るようになっているではないか。
カメラやレンズの世界でも、全くの夢物語という訳では
無いかも知れない・・

<実用性能とは?>
逆光耐性、ボケ質破綻の頻度、ピント精度(歩留まり)
ハンドリング性能、操作性、入手性、等であるが、ここは
「描写表現力」の評価に含まれる場合と、そうでは
無い場合があると思う。

逆光耐性、ボケ質破綻の頻度については、間違いなく
描写力の項目に入る事であろうが、他は入らない。
で、これらは何故別途説明しているのか? と言えば、
これらの要素は、ユーザー側の機器利用手法や技能により、
特徴(長所)や弱点にはならない場合も十分にあるからだ。

具体的には逆光耐性が低いレンズであっても、日中屋外
で逆光で撮らなければ、その欠点が表面化する事は無い。

だが、使用条件に制限が出てしまう事も確かであろう。
だから、これらの項目は評価が難しい。
私の場合では、これらの一部は、「描写表現力」では
なく、「エンジョイ度」や「マニアック度」の評価項目に
含まれるケースもある。

「ピント精度」だが、これはカメラ側のシステム性能に
影響される要素も大きい。
レンズ側のAF性能に起因する場合、いざとなればMFで撮る
事もありうるが、その場合は、カメラ側のMF性能・機能に
大きく依存する。

「ハンドリング性能」「操作性」「入手性」に関しては、
読んで字のごとくなのだが、実用的にはとても重要な事だ、
これらを自身の用途に合わせて考えてみて、それが向くか
否か?は、必ずユーザー側で判断せざるを得ないであろう。

<レンズの仕様上の項目とは?>
具体的には、AF/MFの区別、シームレスMF機能の有無、
ピントリングの構造(有限、無限)、最短撮影距離、
内蔵手ブレ補正、超音波モーター、特殊仕様モーター、
非球面レンズの使用、異常低分散ガラスの使用、レンズ構成、
MTF特性、焦点距離、ズーム比、開放F値、重量、寸法、等
・・・であるが。

これらはまあ「カタログスペック」である、と言える。

初級中級層では、これらのカタログ性能ばかりを気にして
しまうのだが、まあこれらレンズ自体の数値性能は
大半が、あまり意識する必要の無いデータであるとも
思っている。
私が重要視するのは、ピントリング仕様、最短撮影距離、
と重量だけであり、他は、ある意味、どうでも良い(汗)

・・というのも、他の項目は撮影技能や技法によっても、
ある程度はコントロールできる要素でもあるからだ。
内蔵手ブレ補正が無くても、条件が合えば何も問題なく
撮影できる訳であるし、あるいは、複数のレンズや
システムを所有しているのであれば、そもそも焦点距離や
その他のスペックに関しては、撮影環境や条件に合致した
システムを持ち出す事も可能となる訳だ。

また、一眼レフやミラーレス機は、あくまで「レンズ交換
型カメラ」であるのだから、撮影条件や用途や求める表現に
応じて、複数のレンズを交換して用いる必要がある。

初級中級層が考えるように、単に「焦点距離が、広角から
望遠まで、全て揃っていれば、何でも撮れる」という
訳では決してない。そういう考え方に陥ってしまうと、
「高倍率(高ズーム比)レンズが1本あれば良い」とか
あるいは「大三元(小三元)ズームを全部所有すれば良い」
といった、あまりにも単純な発想となる。

それらは確かに「被写体汎用性」は高いレンズではあるが
ここまで述べてきた、極めて多数の評価(性能)項目の
全てを完璧に満足できるものでは決して無い。
いやむしろ、それらの「汎用レンズ」には、特徴的な
要素が殆ど無いから、私は個人的に、それらのレンズを
好まず、多種多様のレンズ群を使用している訳だ。

---
さて、このあたりで次のレンズに交換しよう、4本目だ。
_c0032138_10183975.jpg
レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus(注:例によって変母音(ウムラウト)は省略)
(新品購入価格 47,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)

本シリーズ第11回「アポランター・グランドスラム」記事等
多数の記事で紹介の、2000年代初頭に発売のMF中望遠。
_c0032138_10183932.jpg
さて、もうだいたい「性能の評価」の話は終わったので、
ここからは、(簡単ではあるが)紹介レンズ個々の話を
中心にしていこう。

本レンズは、「無収差レンズ」とも評価された傑作レンズ
である。近年には、そうした「アナスチグマート」レンズ
(注:球面収差、コマ収差、像面湾曲、非点収差を解消)
も多いのだが、いずれも大きく重く高価な三重苦レンズで
ある中、本レンズは軽量コンパクトで安価であった。

何故そういう風に出来たか?は、開放F値を犠牲にした
からだ。

本レンズは発売時(注:現在は生産完了)から、不人気で
あった。理由は単純に、開放F値が3.5と低いからだ。
大多数の初級中級ユーザーは「何? F3.5? どうせ安物で
性能も低いレンズに違いない、どうせ中望遠を買うならば、
やっぱ、85mm/F1.4だよね」という論理から、本レンズに
着目しないし、まず絶対に買う事も無い。

けど、その実態は、まるっきり正反対なのだ。
一般的に購入できる価格帯での85mm/F1.4級レンズに
本レンズは勝利できる。具体的には私は多数の85/1.4
レンズを所有しているが、今回の「超高描写力」編に、
それら85/1.4レンズは1本も登場しない。
(まあ、数十万円もする最新の85/1.4は未所有なので
その描写性能は知らないが、一般的に入手できる価格帯の
レンズでは無いので、比較の対象にはならないであろう)

つまり、本記事に登場している時点で既に「超高描写力」
なのであって、これらの登場レンズに実用上での描写力の
不満があるならば、もうそれは、個人個人での好みの差か、
または単なる「思い込み」に過ぎない。

「思い込み」は、一般に「過剰なまでの高い評価」である
ケースが殆どではあるが、稀に「過剰な低評価」も有り得る。
その理由は殆どが心情的な話であり、単に、好きだから
嫌いだから、という事だと思う。
「コシナは昔、安物レンズを作っていたから信用ならん」
と思い込んでしまえば、もうそれで終わりである。
自分の目で確かめたとしても、先入観に囚われるだけだ。
_c0032138_10183924.jpg
本APO-LANTHAR 90mm/f3.5 であるが、入手性が悪いのが課題であろう。小ロット生産が殆どのコシナとしては

珍しく後継型まで発売していて(注:高性能の所以か?)
比較的長期に渡り近年まで発売されていたレンズではあるが
それにしても前述の理由とかもあって、所有者数は少ない。

あまり褒めすぎると、また「投機対象」となってしまう
事も危惧はしているが、まあでも、長期の販売期間中に
本レンズの凄さに気が付かずに、購入していなかった側にも
問題がある、とも言える状況だ、後になって「欲しい」と
言っても、もはや手遅れだろう。
万が一中古市場で見つけたら「躊躇無く買い」の1本だ。

----
では、5本目の超高描写力システム
_c0032138_10184602.jpg
レンズは、TAMRON SP 85mm/f1.8 Di VC USD
(Model F016)
(中古購入価格 70,000円)(以下、SP85/1.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

レンズマニアックス第4回、ハイコスパ名玉編第2回、
本シリーズ第8回記事で紹介の、2016年に発売された、
高描写力単焦点AF中望遠レンズ。
_c0032138_10184687.jpg
開放F値がF1.8(F1.4では無い)という理由だけで、
不人気となってしまった不運の名玉である。

ただまあ、まだ継続販売されている点が救いだ、
今後20年間以上は、描写力上での不満はなく使える
レンズだと思うので、見かけたら購入するのも悪く無い。
中古相場も、不人気商品故に、年々下落しているから、
私の購入時点での金額よりも安価に入手できるであろう。

何度も述べているように、開放F値を抑えた設計であれば
描写力上では有利になる。それは口径比(F値)を上げる
(明るくする)事で、「鬼のように発生する諸収差」を、
「開放F値を欲張らない」という、ただそれだけの措置で、
ある程度緩和できるからだ。


ちなみに、本「超高描写力レンズ編」の後編でも、
85mmレンズは登場しない予定なので、本SP85/1.8のみが
唯一の85mmの超高描写力レンズとなる。
まあ、他にも多数の85mmmレンズを私は所有しているが
最良の描写表現力を持つ85mmでも、4.5点止まりが大半で、
5点満点をマークした85mmは、本レンズしか無い訳である。

解像感やボケ質等に配慮した設計であり、描写力上では、
ほとんど文句のつけようが無いレンズだ。

でも、褒めすぎは禁物なので、公正に弱点もあげておこう。

まず大きく重いレンズである事、だがこの点も、近年の
最新鋭の高性能85/1.4レンズよりは、だいぶ小さく軽い。

次いで、ニコンFマウント用で「電磁絞り」を採用して
いる事。これは旧機種や他社(他マウント)機での使用
汎用性に欠ける事となる。せっかくの高性能レンズなので
様々な機体で使いたいのであるが、それが困難だ。

なお、NIKON純正F→Zアダプター(FTZ)や、他社製の
マウントアダプターの一部では、「電磁絞り」(NIKONで
言うE型)への対応品もある事はあるが、使えるマウントに
制限があったり、価格が高価であったりする課題は残る。

その他、あまり目につく弱点は無い、焦点移動や周辺減光
を問題視しているレビュー等も見かけたが、そういう点が
あったとしても微細なものであり重欠点とは言えないだろう。
それに、以前の本レンズの記事でも書いているが、そういう
誰にでも容易にわかる弱点をもってレンズの評価をするのも
少々的外れだ。

本記事で色々と前述したように、レンズの性能(評価)には、
実に多種多様な項目がある。完璧な性能のレンズは有り得ない
のだから、それらの内の、どれを優先してレンズを作るかは、
その設計コンセプトに委ねられる、その設計コンセプトが、
自身における、レンズの使用目的に合致すれば良い訳であり、
それ以上でも、それ以下でも無い。
_c0032138_10184612.jpg
近距離人物撮影(ポートレート)に向くレンズとは言えるが
その用途だけで使うのは勿体無く、汎用的な被写体にも向く。
私の場合は、中距離人物撮影(ステージ系)や自然観察用途
にも良く使うが、後者に関しては、最短撮影距離80cmは、
もうほんの一声「寄れて」欲しい。特に、他の姉妹レンズ
(SP35/1.8、SP45/1.8)が、近接性能に優れる設計仕様
であるから、長兄(姉)の本レンズも、そういう要素も
あってもよかったかもしれない。

だが、これは「無いものねだり」の感想だ。近接性能が
必要であれば、クロップ機能でもAPS-C機でもトリミング
でも何でも用いて、擬似的に撮影倍率を稼げばよい。
多少の画素数ダウン等で画質に課題が出るような、軟弱な
レンズでは無いので、そのあたりは何ら問題にならない。

TAMRONとしても自信作であろうが、市場での好評価が
得られていない事がむしろ不思議である。まあ、と言うか、
ぶっちゃけ言えば、近年での主力購買層がビギナーばかり
になってしまい、評価スキルが落ちている事が、最大の
課題であろう。そして正当な評価が出来る中上級層や
マニア層は、85mmレンズ等は、既に何本か持っていても
不思議では無い、別に本レンズを追加して購入する必然性
は殆ど無い訳だ。


結局TAMRONとしても、このSP単焦点シリーズが売れない
事は大誤算であっただろう。一部の焦点距離では、慌てて
F1.4版を後継機としてリリースしているが、まあつまり
F1.4レンズにしか反応しない(できない)というビギナー
購入層が最大の課題(原因)であり、そこまで市場レベル
が落ちていた事が、TAMRONにとっての誤算であった訳だ。
残念な話であるが、これが市場縮退での現状であろう。

----
では、今回ラストの超高描写力システム
_c0032138_10185194.jpg
レンズは、SIGMA 40mm/f1.4 DG HSM | Art
(新古購入価格 100,000円)(以下、A40/1.4)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

2018年に発売された、Art Lineにおける、新鋭大口径
AF準標準レンズ。
_c0032138_10185163.jpg
Art Lineには従来から、50mm/F1.4と35mm/F1.4が
存在している為、それらのいずれか、又は両者を所有
しているユーザーにとっては、焦点距離が近い為
買いにくいレンズであろう。そして価格も高価であり、
定価は16万円+税となっている。

2019年初頭には早くも新古品が中古市場に流れて来たが、
それに反応するユーザーは皆無であった。まあ、高画質
との噂はあったのだが、ともかく値段が高いのだ。

値段の他の大きな課題としては、大きく重い事である。
12群16枚の設計で、重量が1200g(注:EFマウント品)
フィルター径がφ82mmもあり、おまけにArt Lineには
手ブレ補正機能が内蔵されていない。
これはでちょっと・・ 中上級者層でも使う(買う)のを
躊躇ってしまう事であろう。

本レンズを趣味撮影に持ち出すのは正直言って「苦行」
である。「何で500mmレンズよりも重い!」と、ブツブツ
と文句を言いながら、重たいレンズを振り回すだけでも
気持ちがメゲてしまう。

まあ、確かに数値スペック上では高画質なのであろう、
シミュレーションで得られるような数値性能は非の打ち所
が無いように設計されていると予想できるし、ボケ質にも
配慮が行き届いている。
_c0032138_10185167.jpg
で、本レンズの描写表現力の評価点は、本カテゴリーに分類
されているように5点満点なのだが、これは僅かに甘い評価点
であり、あえて言うならば、4.5点と5点の中間くらいだ。

何と言うか、感動的なまでの描写力は持たなくパンチに欠ける
し、様々な実用用途における表現的要素も少しだけ足りない。
(ちなみに、他のArt Lineは、多数所有している訳では無いが、
所有範囲のレンズ中で同様に5点満点なのは、Art135/1.8
の1本のみである、そちらは後編記事で紹介するとしよう)

そして、微妙な弱点も存在する。
具体的には、逆光耐性がやや低い事、それとピント歩留まり
が良く無い事である。

まあ後者は、この優秀なレンズを、どうしても絞り開放近く
で使用したいと思ってしまう為、感覚的な予想値よりも
ずっと被写界深度が浅い状態で多用してしまうからだろう。
まあそれはそうだ、本レンズは絞りを開けた場合での収差
発生による性能劣化が少ない訳であり、本レンズをF5.6
やF8に絞って使うのであれば、銀塩時代からの変形ダブル
ガウス構成による小口径標準レンズ等と、写りに大差が
出る訳でも無い。であれば、わざわざ大きく重く高価な
三重苦レンズを持ち出しているならば、銀塩時代の数千円で
買えるレンズと同じような写りであれば面白くない。
なんとしても、絞りを開けて撮りたい訳だ、そうしても
破綻しない描写力やボケ質が、本レンズの最大の魅力で
あるからだ。
_c0032138_10185614.jpg
でもまあ・・ それにしても、その僅かな差を求める為、
わざわざ三重苦、かつ苦行の世界に身を置く必要性は、
少なくとも趣味撮影においては、全く無い。
逆に言えば、本レンズは100%業務用途となるレンズで
あろう、そうした用途があるならば、そして劣悪な
ハンドリング性能と、若干の弱点である逆光耐性と
ピント精度をカバーしうる撮影条件の下で使用するならば、
これはもう、十分に威力(パフォーマンス)を発揮できる
レンズとなりうる。
まあ、ここまで明確に、趣味撮影を排除するコンセプトで
あれば、それはそれで潔い・・・

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では、今回の「超高描写力レンズ(前編)」は、このあたり
迄で。「後編」記事は後日掲載しよう。


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