今回は補足編として、ペッツヴァール(ペッツバール)
式/型の光学系を持った2本のレンズを紹介しよう。
いきなり聞いた事の無い用語だと思うが、追々説明
していく。
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では、まず最初のシステム
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レンズは、Lomography (xZenit)
(New) Petzval (85) (Art) Lens 85mm/f2.2
(中古購入価格 50,000円)(以下、PV85/2.2)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)
2014年発売の、ロシア製ぐるぐるボケMF中望遠レンズ。
(注:実は、単に「ロシア製」だとは言えない状況だが、
詳細は長くなるので、追々説明する)
正式名称は不明、上記レンズ名の()の部分は出展資料に
よって記載されている場合と、そうで無い場合がある。
(製品Web上や、取扱説明書、元箱等でも同様)
まず最初に【注意点】だが、ロシア製レンズである為、
一眼レフ用マウント(NIKON F、CANON EF)製品であっても、
いきなりデジタル一眼レフに直接装着するのは危険である。
マウントアダプターで試験的に装着してみる、次いでジャンク
機体に装着した後に、上級機で使う等の慎重な対応が必要だ。
今回も、そのような安全確認を施した後、NIKON Dfに装着
して使用している。
![_c0032138_11323902.jpg]()
・・さて、説明がとても面倒なレンズの登場である(汗)
本レンズの歴史背景等の説明で記事の大半を費やす予定だが、
まあやむをえない、現代の一般ユーザー層には無縁のレンズ
だろうからだ。
簡単に言えば、「ぐるぐるボケ」が発生するレンズであり、
正式にこの効果を謳い文句としているレンズは、記事執筆
時点(2019年末頃)では数機種しか存在しない(後述)
今回の記事では、希少なそれら「ぐるぐるボケ」レンズの
中から、所有している2機種を紹介/比較する記事としよう。
ただし、「対決」と言う要素は弱く、本記事では歴史的な
背景の紹介や技術的な内容が主となる。
(注:「ぐるぐるボケ」レンズを用いても、全ての撮影
条件で「ぐるぐるボケ」が発生する訳では無い。
その理由は大変難解ではあるが、後で少しだけ解説する。
とりあえず本記事中では「ぐるぐるボケ」の発生している
写真と、それが無い写真を混ぜて掲載する。
ちなみに「ぐるぐるボケ」発生のコントローラビリティ
(自在な制御性)は殆ど無いか、または、極めて高度な
撮影技能が要求されると思われるので、世の中に存在する
「ぐるぐるボケ」の作例写真の殆ど全ては、たまたま、
それが発生しているものを選んでいると思われる)
![_c0032138_11323970.jpg]()
「ぐるぐるボケ」の原因は簡単に言えば「収差」である。
オールド(海外製)レンズ、オールド国産レンズ等、
1960年代頃迄の写真用レンズでは同様な描写傾向を持つ
もの(特に大口径レンズ)もあったのだが、その後の時代
においては、レンズの設計技術、およびガラス素材等の
改良が進み、現代においては「ぐるぐるボケ」が発生する
一般レンズは皆無と言っても良い。
そんな現代で、まず、Lomography(ロモグラフィー)社
(本社はオーストリア、工場は主にロシア)より、本レンズ
PV85/2.2が発売されたのだが、このレンズ、実は
「クラウドファンディング」により開発販売されたので、
一般向け販売という様相ではなかった。
クラウドファンディング(Crowdfunding)とは、簡単に
言えばネット等で出資者を募り、それが集まったら何らかの
事業を行う事であるが(注:ここで、クラウドとはIT用語
での「Cloud」では無く、「群集」という意味である)
・・写真用レンズの場合は、目標となる金額が集まったら、
レンズの開発/製造を行い、出資者に優先的に販売(頒布)
する仕組みである。
現代においては様々な事業において良くある形態ではあるが、
カメラ(レンズ)界でこれを行ったのは、恐らくだが本レンズ
が初めてではなかっただろうか? 2013年の事であった。
Lomography社が本格的な写真用レンズを作るのは、これも
初めての事であった。しかし、だいたい1980年代位から
「LC-A」等のトイカメラがあり、この企業はトイカメラや
トイレンズの発売元として活動していた為、「LOMO(ロモ)」
の名前は世界中に知られていたので、この資金はすぐ集まった
そうである。だだ、お金が集まってから開発を始めるので、
本レンズの実際の発売は2014年までずれこんでいる。
以降、2015年には第二弾の58mm/f1.9の「Petzval」を、
そして2016年には第三弾の「ダゲレオタイプ」レンズ。
また、2019年には第四弾「Lomogon」と、第五弾
「Petzval 55/1.7 MKⅡ」が発売されている。
第五弾レンズを除き、いずれも、クラウドファンディングで
あったように記憶しているが、初代の本レンズは出資者主体
での販売で、すぐ売り切れてしまったのが、第二弾以降では、
そのまま一般向けの販売も行っている模様である。
(追記:2020年には「Petzval 80.5/1.9 MKⅡ」が
新発売。これは、本レンズPV85/2.2の後継機種だと
思われるが、Lomography社での「MKⅡ」は、初代製品
とは焦点距離も開放F値も変化する場合が良くある模様だ)
よって、本レンズは、なかなか市場に流通していなかった
のだが、2019年になって、ようやく、本レンズおよび、
その金色(真鍮色)仕様の2本が中古市場に流れて来た。
これらは「投機層」による放出品ではないか?と推察している。
希少である事は確かなのだが、あまりこの手のレンズが市場で
話題になる事も少なかった。なにせ、どう考えてもマニアック
すぎる製品だ、そう誰でもが欲しがるレンズとは思えない。
それに高価すぎる。それまでのLOMO製品は、数千円という
価格帯だったのか、一気に10倍以上、7万円~10万円の
高付加価値型の高額商品に変貌してしまっていた。
真鍮色バ-ジョンは派手すぎる印象があったし、先に中古
市場に出てきたのが黒色バージョンであったので、こちらを
選択。まあ、真鍮色はいずれ他のLomography製品で、機会が
あれば購入する事にしよう。
![_c0032138_11324803.jpg]()
さて、このあたりのレンズの説明をするのは「写真史」に
ついての理解が必須となる。だが、幸いな事に、本レンズの
他者の紹介記事等では、その歴史について触れている場合が
殆どであるし、あるいは設計者ペッツヴァール氏そのものの
情報も世の中には沢山ある。でも、個人的には、それらを
単に引用しただけの「二次情報」を本ブログで書く事は、
あまり好まない。(「二次情報には情報価値が無い」と
思っているからだ)
ここでは、もう少し深堀りして、技術的観点および歴史的
な観点から補足的な説明をしていこう。
まず、ペッツヴァール氏がペッツヴァール型構成レンズを
開発するきっかけとなった、ライバルのシステムがある。
それは1839年に開発された、ダゲール氏(仏)による
「ダゲレオタイプ」だ。
ダゲレオタイプは特定のカメラやレンズを指すものでは無く
まず、フィルムの元祖とも言える、銀メッキをした銅板の
表面を、ヨウ化銀(AgI)化して「感光板」とした、いわゆる
「銀板写真」を実用化した事が特徴的なシステムである。
勿論これは歴史的快挙だ。
そして、その搭載レンズは、「アクロマート」を世界初で
採用した事も大きな技術的特徴だ。
(注:近年のLOMO製のダゲレオタイプとは構造が異なる)
「アクロマート」(Achromat)は、屈折率や色分散が異なる
2枚の凸凹レンズ(クラウンとフリント)を貼り合わせた
ものであり、現代では「ダブレット」と呼ばれる事もある。
これは「色収差」を補正する効果があるが、この構成で可能な
補正は、基本的には光の2色(2波長)のみである。
これをさらに改良して、3色(3波長)での色収差補正を実現
したものは、一般に「アポクロマート」(Apochromat)と
呼ばれているが、これでは長いので、適宜「アポ」(APO)と
省略される。
そう、銀塩時代においてSIGMAやMINOLTA製の高性能レンズ
に良く名前が冠されていた、あの「APO」の事であるし、
また、現代においても、コシナ・フォクトレンダーから、
アポランター(APO-LANTHAR)や、マクロアポタンター銘を
冠する高性能レンズが発売されているので、中上級層であれば
良く知っている名称であろう。(注:元祖アポランターは、
1951年頃のドイツ時代のフォクトレンダー社による開発だ)
「では、アクロマートは、アポクロマートよりも性能が
低いのか?」と言えば、まあ、それはそうなのだが、実際
には用途によりけりであり、例えば、そんなに広範囲の波長域
を用いない観察分野、具体的には天体望遠鏡とか、学術用の
観察装置(顕微鏡等)の一部においては、アクロマート仕様
で十分な場合もある。なにも高性能を求めてコスト高になる
事は、必ずしも歓迎できるケースでは無い事もあるからだ。
![_c0032138_11324862.jpg]()
さて、「ダゲレオタイプ」は、アクロマート仕様で画期的
ではあったのだが、弱点を持っていた。
それは具体的には、感度の低い「銀板写真」と開放F値の
暗いレンズ(開放F値=F17程度)との組み合わせでは、
感光(露光)時間(=シャッター速度)が、日中でも、
10分~20分もかかってしまう事であった。
1枚写真を撮るのに20分もかかるのでは、実用的には厳しい。
まあ、ダゲレオタイプは歴史的価値は非常に高いが、まだ
「写真機」としては完成度が低いという状況であったのだ。
ここから感光(露光)時間、すなわちシャッター速度を
速めるには、フィルム(銀板)側と、レンズ側の両方の
改良が必要である。ダゲレオタイプはその後、感光材料を
改良し、最終的には数秒間の露光時間で大丈夫なように
なったそうだが、それには少し年月を要した事であろう。
ダゲレオタイプの開発は、フランス政府の援助もあった
模様であり、完成品は1839年にフランスで公開された。
これに興味を示したのが、オーストリア(国)である。
特に、ウィーンの工学研究所の教授が「ダゲレオタイプと
同様かそれ以上のものがオーストリアでも作れないか?」
と思った模様だ。
さて、ここでやっと「ペッツヴァール氏」の登場である。
スロバキア出身のペッツヴァール氏ではあるが、その当時は
オーストリアのウィーン大学の数学教授であった。
で、実は、オーストリアのウィーンには、なんとすでに
「フォクトレンダー社」が存在していた(!)
フォクトレンダー社の創業は、このダゲレオタイプの時代
よりも、さらに80年以上も前の1756年だ。
この年は、モーツアルトの生誕年(注:オーストリアの
ザルツブルグ生まれ)であり、そんな昔の時代に光学器械
メーカーがあったなどは、なかなか信じられないのだが、
まあ歴史的な事実ではある。
歴史的と言えば、フォクトレンダー社創業の年の1年前に、
オーストリアでは「マリーアントワネット」が生まれていて、
ご存知のように、その後、彼女はフランス王妃となり、
フランス革命の勃発により、1793年に処刑されてしまう。
(注:漫画「ベルサイユのばら」を読めば、この時代の
フランスの歴史は、良く理解できると思う)
フランスはその後、ナポレオンの時代となったり、復古王政
とかが色々あって・・ 1830年にはブルボン家(朝)が断絶。
ダゲレオタイプは、その少し後の時代での発明であるが、
オーストリア(人)が歴史的な様々な意味で、フランスの
動向を意識していたのは間違い無いであろう、だからまあ、
ダゲレオタイプを超えるものを作りたかったのかも知れない。
フォクトレンダー社だが、その後、ドイツに移転、それから
あれやこれや色々あって、最終的にはツァイス(イコン)に
吸収され、そして1972年にはツァイス(CONTAX)とともに、
カメラ事業から撤退してしまう。(日本製カメラの世界的な
台頭が、この背景にあった事は間違いない。現代の初級
マニア層等が崇拝するドイツのビッグ・ブランド各社は、
もうこの1970年代に、事実上終焉してしまっていた)
その後「CONTAX」は、日本のヤシカ(後に京セラ)が
商標権を継承、1975年にはCONTAX RTS(銀塩一眼第5回)
を発売し、国産CONTAXの時代が始まる。(~2005年)
それと、フォクトレンダーのブランドは、「ローライ」社が
取得し、フォクトレンダー銘のカメラ等も販売されていたが、
そのローライも1981年には倒産、その後、フォクトレンダー
のブランドは商社等を転々としていた模様であるが・・
1990年代後半には、日本のコシナ社がその商標権を獲得。
以降、20年間以上も、フォクトレンダー銘で、多数のカメラ
や高性能レンズを発売し、いまやコシナの代名詞ともなって
いる、という、300年近くもの長いブランドの歴史である。
![_c0032138_11324822.jpg]()
さて、フォクトレンダー(社)の余談が長くなった。
「フォクトレンダー氏」(三代目)と「ペッツヴァール氏」は、
1839年にウィーンで出合い、ここでダゲレオタイプを超える
新レンズの開発を目指す。
少し前述したように、フランスとオーストリアは歴史的にも
色々とあった訳だから、カメラの世界にも、なんらかの影響は
出ているのだ。カメラ界だけでの視点で物事を見ていたら
その背景にある「何故、そうした機器が開発されたのか?」
という重要な事(意味)を見逃してしまいかねない。
ダゲレオタイプを超える新レンズの開発については、
オーストリア政府が全面的に後援し、国内の砲兵隊から、
計算力に優れる「計算中隊」まで編成して、複雑な計算が
必要とされるレンズの光路設計を手伝わせた。
(注:軍事転用への可能性も意識していたと思われる)
僅か1年後の1840年には、ダゲレオタイプを遥かに
上回る明るさの「約150mm/F3.7」のレンズが完成。
これは銀板写真においても、屋外で1~2分の露光時間で
写真が撮れるようになったと聞く。
ただまあ、F17→F3.7に向上したのであれば、露光時間
(シャッター速度)は、24倍程速くなる理屈なので、
20分→2分というのは、少々計算が合わない。
(オーストリアの銀板写真は、低感度だったのか?)
でもまあ、ダゲレオタイプに比べて遥かに実用的なのは
確かであろう。
この新開発レンズは、ペッツヴァール型(or 構成)と
呼ばれているが、ダゲレオタイプと同様のダブレットを
前群とし、後群に、メニスカス(凸凹)と凸レンズを
2枚配置した「2群4枚構成」である。
シンプルな構成ながら、画面中央部の解像力に優れる。
この為、長い焦点距離(望遠)のレンズでの人物撮影用、
映画投影用、それから(天体)望遠鏡用に長らく使用された。
(注:現代でも使用されるケースも多々ある)
対して弱点だが、像面湾曲と非点収差の発生により、
ボケ質が僅かに「ぐるぐるボケ」となる事だ。
ただし、人像写真(ポートレート)では、むしろ人物が
浮き出るイメージがあって、これはあまり欠点とはならず、
また、(天体)望遠鏡では、そもそも背景をボカして
観察する事は無いので、全く欠点にはならない。
だからまあ非常に長い期間(百年以上も)ペッツヴァール
型は、(天体)望遠鏡等のスタンダードに成り得た訳だ。
なお、レンズ開発に協力したフォクトレンダー社では、
数十種類にもおよぶペッツヴァール型レンズを様々な
光学分野に向けて長らく販売していた様子だ。
さて、ペッツヴァールレンズやフォクトレンダーを輩出した
オーストリアではあるが、その後の時代には、あまり光学
機器に係わる歴史は持たない。前述のようにフォクトレンダー
もドイツに移転してしまった事も理由としてあるのだろう。
・・で、オーストリアに「ロモグラーフィシェ株式会社」
(Lomographische、通称:Lomography/ロモグラフィー)
が生まれるのは、近代、1994年の事だ。
それ以前、1980年代前半から、サンクトペテルブルクに
「ロモ社」があって、日本のコシナ社製の「CX-2」のコピー
製品である「LOMO LC-A」を生産した・・ との事であるが、
これは、当時はソビエト連邦であるから、ロモ「社」では
なく、「国営工場」であったのではなかろうか?
このLC-Aを、たまたま見かけたオーストリア人の学生が、
それを気にいったのか? 有名な「ロモグラフィー宣言」を
オーストリアの新聞に広告掲載し、その直後の1994年に
「ロモグラーフィシェ株式会社」をオーストリアで創立した。
これはつまり、ロシア製LOMOの販売会社である。
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さて、ここで試写システムを交換しよう。
レンズはそのままで、カメラをEOS 6D(フルサイズ機)に
変更する。 NIKON Dfでは、どうも重量的または形状的な
バランスが良く無いように感じたのだ。
NIKON Fマウントのレンズである為、他社機での使用の
汎用性は高い。(注:装着の安全性は、必ず事前確認する
必要がある)
![_c0032138_11325637.jpg]()
1990年代後半、ここからは個人的な話だが、私は、
当時、オーストリアから日本に職業留学をしていた若い
男性と知り合った。
彼は「LOMO LC-A」を所有していた。まあオーストリア人
だから、ロモグラフィー社の「お膝元」である。
彼は「このLOMOは安かったから故郷で買ったが、写りが悪い、
日本に居る間に、高性能な日本製カメラが欲しい」
と私に言った。要は”中古カメラ探しを手伝って欲しい”
という事であり、彼はドイツ語(=オーストリアの公用語)と
英語は話せるが、日本語が片言なので、中古専門店での交渉が
出来なかったのだ。(私は、彼との会話は英語で行っていた)
彼は私の見立てで無事、中古カメラとレンズを入手すると
「もうLOMO LC-Aは、いらない(あげる)」と言い出した。
私は「せっかく故郷で買ったのだから、持っておきなよ」
と言ったのだが、私は、それまで「トイカメラ」なるものは
見た事が無かったし(注:日本には殆ど輸入されていない)
そもそもLC-Aが「トイカメラ」だと言う事すら知らなかった。
私は「コシナ風の普通のカメラがそんなに写りが悪い筈が無い」
とも思い、彼から「LC-A」を借りて、それを1~2ヶ月ほど
評価する事とした。
その評価だが、まあ確かに酷い写りであった(汗)
詳細は長くなるので割愛するが「特殊レンズ第3回HOLGA編」
にも、この話は詳しく書いてあったと思う。
でもまあ、それが「トイカメラ」の本質であるから、酷い写り
(Lo-Fi)は、本来は欠点になるものでは無い。
![_c0032138_11325621.jpg]()
さて、その(通称)ロモグラフィー社であるが、
2010年代前半迄の約20年間の間に「トイカメラの筆頭格」
として急成長したのだが、「トイカメラ」という枠から
抜け出ておらず、本格的な「Hi-Fi」カメラやレンズ等は、
1台(本)も販売していない状況であった。
ただ、2000年代前半に、女子カメラ層やアート層に一大
ブームを巻き起こしたトイカメラも、2000年代後半には、
既に銀塩時代は終焉を迎えていて、ブームも沈静化していた。
さしもの「トイカメラの巨人LOMO」も、いつまでも旧来の
ビジネス・スタイルを続けていく訳にはいかない。
何か、大きな戦略転換が必要であろう。
日本の様子を見れば、カメラメーカーもレンズメーカーも
2010年代前半には「高付加価値化商品」へ戦略転換している、
ロモグラフィー社も同様な事をやらなければならない。
よって2013年の「クラウドファンディング」の開始である。
そこで「ペッツヴァールレンズ」を選んだのは、これまで述べて
来たオーストリアの光学機器の歴史を鑑みれば、当然の話だと
言えるだろう。もう1つの地元の誇り「フォクトレンダー」は、
ドイツに行った後、極東の島国にまで遠征してしまっている
状況だ(汗) まあ「ペッツヴァール」だけがオーストリアに
残った栄光の光学歴史である訳だ。
例えば日本で言えば同時代の「平賀源内」のような「発明王」
のイメージが地元ではあるのかも知れない・・(?)
![_c0032138_11325611.jpg]()
さて、「クラウドファンディング」は幸いにして成功し、
「New Petzval Lens」の開発が開始される事となった。
でも「トイカメラ」で世界的に名を馳せた「ロモ」である。
単にペッツヴァール構成を復刻させただけでは面白味が無い。
ここからは想像であるが・・ ロモグラフィー社は、
ペッツヴァール構成の弱点をあえて強調し「ぐるぐるボケ」
レンズとしてしまう事を思いついたのであろう。
レンズ製造(設計もか?)は、LOMOの製造で関連があった
ロシアのZENIT社が担当した、との事。
ZENIT社は、現代では企業となっているのかも知れないが、
旧ソ連の時代では、KMZ(クラスノゴルスク機械工場)と
呼ばれていて、その時代、同「国営工場」では、銀塩カメラ
の「ゾルキー(ZORKI)」や「ゼニット(ZENIT)」および
交換レンズの「ZENITAR」や「INDUSTAR」を生産した事で、
マニアの間では、かなり有名だ。
KMZ(ZENIT)のレンズは、私もいくつか所有しているが、
旧ソ連の時代では、製造品質がちょっと怪しい印象もあった。
(注:当時は、同じレンズであっても、様々な国営工場で
分散されて製造される事もあった。よって、例えばINDUSTAR
でも、FED工場で作られている場合もあり、品質がまちまちだ。
この為、今回記事でのカメラ装着も慎重を期している)
・・でもまあ、描写性能については、あまり問題は無い。
かつてロシアンレンズの弱点であった「コーティング技術」も、
KMZでは採用していた訳だ。
まあ、ロモグラフィーが、ZENIT(社?)に相談(製造委託)
したのは、正解と言えたかも知れない。
他にも「アルセナール社」とかも高性能なレンズの設計製造が
出来ただろうが、そこは現代ではロシアでは無く、ウクラナナ
の企業(光学機器メーカー)となっている、LOMOとの関連性は
薄いであろうとも想像できる。
さて、LOMOの発案(?) ZENITの設計(?)により、本来であれば
2群4枚構成であった「ペッツヴァール構成」は、3群4枚へと
変化した。これは恐らく後群の2枚を分離したのであろうが、
それにより、像面湾曲と非点収差が大幅に増大し、いわゆる
「ぐるぐるボケ」レンズが見事に完成した。
![_c0032138_11330304.jpg]()
像面湾曲と非点収差は、画角の二乗に比例して、および
有効口径に比例して大きくなるので、中望遠単焦点レンズ
であれば、フルサイズ機で絞りを開ければ「ぐるぐるボケ」
は大きくなり、逆に絞りを絞れば、急速に減少するし、
APS-C機やμ4/3機を使用しても見かけ上は減少する原理だ。
本レンズPV85/2.2は、絞り環を持たず、絞り値の変更は
「ウォーターハウス絞り」と呼ばれる、絞りプレートを
差し替えて使用する。
![_c0032138_11330392.jpg]()
「ウォーターハウス」は、人名だと思うが、詳細は不明。
私が知っている範囲では、画家の「J.W.Waterhous」氏
(19世紀~20世紀)が居る。神話等を題材にした
美しい女性の絵を描く芸術家であるが、この、絞りの
「ウォーターハウス」とは、恐らく無関係であろう。
(参考:「J.W.Waterhous」の画集は、あまり種類が
刊行されておらず、それなりに希少だ)
この絞りは、操作性的には面倒ではあるが、そもそも
実用撮影用途でのレンズとは言えず、極端に趣味性の
高いレンズであるから、まあ、やむを得ない。
むしろ、「ウォーターハウス絞り」では、円形では無い
任意の形状の絞りプレートを使用する事で、「ボケ形状」
を変更できるメリットもある。
(注:近年のLOMOの機種では、通常絞り環と、ウォーター
ハウス型絞りを併用できる構造となっているものもある)
特殊形状絞りプレートは、安価なオプション部品として
販売されているのだが、 あまりそうした「ガジェット」
に頼って撮影したく無いので、それは購入していない。
(注:後年に発売されたLomography社製レンズでは
数種類の特殊形状絞りプレートが同梱されている。
だが、そのプレートは本PV85/2.2には微妙なサイズ差で
上手く装着できない。このあたり「ロシアン」だ・汗)
なお、今回の撮影では、F2.2の絞りと、F2.8の絞りを
使用している。なお、カメラを縦位置に構えても
絞りプレートが脱落する事は無い。(注:試作機では、
そういう弱点があった模様だが、量産版では、むしろ、
外し難いくらいである)
それから「ぐるぐるボケ」の効果は被写体条件によって
出易い場合と出難い場合がある。単に絞り値や撮影距離、
すなわち被写界深度の変化のみならず、他には背景距離、
背景の絵柄、背景の平面性、等の要素が複雑に絡んで、
ぐるぐるボケの効果は大きく変化してしまう。
本記事においても、ぐるぐるボケが発生している写真と、
さほどでもない写真を混在して掲載しているのは、それが
理由であり、かつ、その差異を伝えたいからだ。
で、デジタル一眼レフの光学ファインダーではその効果の
度合いが殆ど見えないので、EVF搭載ミラーレス機で用いる
のが本筋であろう。
(注:この事実が、一般レンズでの「ボケ質破綻」と密接に
関連があるような気がしている。つまり、本ペッツヴァール
や後述のTWISTで、「ぐるぐるボケ」が発生する撮影条件で
あれば、他の一般レンズでも「ボケ質破綻」が出易い状態に
なっている、という仮説だ。
しかし、この仮説の証明は長期間の高度な検証が必要である。
他には誰もそんな事は調べていないので、しばらくは個人で
研究を続ける事としよう)
で、短所は色々とあるが、ほとんどは「不問」としたい。
それをとやかく言うような類のレンズでは無いからだ。
ただ、大きく重く高価な「三重苦」レンズな事は確かであり、
ピント合わせがヘリコイド式ではなく、ツマミ(ノブ)式で
あるので、それを廻す為には、システム全体の重心位置で
カメラを支えきれず、長時間の撮影では疲労を誘発して
しまう弱点がある。
では最後に、対決記事で恒例でのデータベース評価点を
あげておくが、例によって、こうした評価は、ユーザー毎
の用途やスキルによって様々である為、この数字が一人歩き
する事は望ましくない。
【描写表現力】★★★★☆
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★☆
【エンジョイ】★★★
【必要度 】★★★★
★=1点、☆=0.5点、各項目5点満点
・評価平均値:3.60点
全体に悪く無いが、コスパ点が足を引っ張っている。
まあ、「面白いが、高価すぎる」という評価となった。
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PV85/2.2の話が、とても長くなったが、ここからは
2本目のペッツヴァール型レンズの紹介とする。
![_c0032138_11330759.jpg]()
レンズは、LENSBABY Twist 60 (60mm/f2.5)
(新品購入価格 39,000円)(以下、TWIST60/2.5)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
2016年発売の米国製MF単焦点標準「ぐるぐるボケ」
レンズ。
既に、本シリーズ第2回記事等で紹介済みであるし、
「ぐるぐるボケ」の出自や原理等は前述しているので
本レンズの詳細に対する解説は最小限とする。
ただし、本レンズにおいても撮影条件に依存し、ぐるぐる
ボケが出る場合と出ない場合があるので、掲載写真は
その両者を適宜混ぜて紹介している。
![_c0032138_11331387.jpg]()
さて、LENSBABY社はティルトレンズやソフトレンズ等の
ユニークな写りをするレンズ製品を多数販売する企業だ。
こちらも前述の「Lomography」社と同様に、アート系の
固定ファン層がついているメーカーであり、それらは
「フリーク」(=熱中している人)と良く呼ばれている。
LENSBABY製品は、2000年代中頃より国内販売が始まって
いたが、直販に近い状態で入手性はあまり高くなかった。
2010年代にはKenko Tokina社が輸入販売代理店を務め、
新品および中古でも入手性が高まっている。
しかし、他の国産レンズ、そしてLomographyも同様だが
2010年代では交換レンズ市場の縮退により、LENSBABY
製品も高付加価値化して、結構高額である。
![_c0032138_11331313.jpg]()
さて、本レンズの仕様だが、3群4枚の変形ペッツヴァール
構成。恐らくはLOMO PV85/2.2と、ほとんど類似だろう。
こちらは絞り環を持ち、ぐるぐるボケ効果の制御が簡便だ、
勿論フルサイズ対応、前述のとおりフルサイズ機の方が
効果が良く出るが、何度も述べているように効果の強さは
撮影条件に依存する。世の中にある「ぐるぐるボケ」の
作例は、全て、その効果が強く現れているものを選んで
掲載しているだろうから、それを見てレンズを購入しても、
いつでもそうした効果が得られる保証は無い。
では、ここで「ぐるぐるボケ」を出す事が出来る現代レンズ
の一覧を上げておく。
<Lomography製品>
(New) Petzval (85) (Art) Lens 85mm/f2.2(本記事)
(New) Petzval (58) Bokeh Control Art Lens 58mm/f1.9
(New) Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ(後日紹介予定)
(New) Petzval 80.5mm/f1.9 MKⅡ
<LENSBABY製品>
LENSBABY Twist60 60mm/f2.5(本記事)
LENSBABY Twist60 Optic(注:コンポーザー系用交換光学系)
LENSBABY Brunside35 35mm/f2.8(後日紹介予定)
LENSBABY Trio28 (注:効果調整不可、後日紹介予定)
現時点では、以上の8機種しか存在せず、またいずれも
そこそこ高価であるし、中古もまず出てこず、入手性は
あまり良く無い。それこそ「フリーク」等のマニア向け
専用レンズと言えるであろうし、製品のモデルチェンジも
激しく、現状、かろうじて新品入手が容易なのは、
Petval55,80.5,Twist60,Bunside35の4本だけだ。
(注:この状況も1年程で変わってしまうかも知れない)
また、上の表には載せていないが、LENSBABY社の
Velvelシリーズのソフトマクロレンズでも、一部には
軽い「ぐるぐるボケ」傾向が発生するものもある。
(注:Velvet 56/1.6で発生。しかしVelvetシリーズ
は1本しか所有していないので、他の詳細は不明)
実用的な価値もあまり高く無い、ただ、このユニークな
「ぐるぐるボケ」の描写特性は、他の一般レンズでは、
そう簡単には得られない。
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まあ、1960年代前後のオールド大口径レンズを使えば、
稀にそういう特性を持つものも見つかるが、それらを
探すのも大変であるし、不条理に高価でもあろう。
海外製オールドレンズ等でも、同様な特性を持つものも
複数機種あると思うが、現代では、それらも入手困難だ。
まあ、ぐるぐるボケの度合いも、こうした現代の、特殊
(専用)レンズの方が、大きくて面白いと思う。
それと「超裏技」であるが、フランジバック長の差を吸収
する為の「補正レンズ入りマウントアダプター」を用いると
稀に、特定のレンズとの組み合わせによっては、今回紹介の
ペッツヴァール改型レンズと同様の後群レンズの分離効果で
像面湾曲と非点収差が増大し、絞りを開けていく等をすると、
これらの「ぐるぐるボケ」と同等の効果が出る場合もある。
ただ、組み合わせを探すのが大変面倒であろうから、これは
超上級マニア向けの措置(研究テーマ)としておく。
![_c0032138_11331780.jpg]()
では最後に、本Twist60/2.5の総合評価を行う。
【描写表現力】★★★★
【マニアック】★★★★☆
【コスパ 】★★★
【エンジョイ】★★★★
【必要度 】★★★☆
★=1点、☆=0.5点、各項目5点満点
・評価平均値:3.80点
なかなか悪く無い得点だ、誰にでも必要なレンズとは決して
言えないが、マニア層であれば購入検討も悪く無い。
多くのペッツヴァール型レンズで、NIKON Fマウント版が
販売されているので、それで購入しておけばマウント汎用性
は高く、およそあらゆるカメラで使用可能ではあるが・・
NIKON(デジタル)一眼レフの場合は、この手の非Ai型
レンズの露出制御は困難な場合が多く、NIKON Df位でしか
まともに使用できないかも知れない。まあ、ミラーレス機で
マウントアダプター経由で使用するのが、前述の、マウント
製造(工作)精度の件も含めて無難であると思う。
(注:Petzval 55mm/f1.7 MKⅡは、ミラーレス機専用)
----
さて、今回の「ペッツヴァール対決編」は、このあたり迄で。
また、本年2020年の記事掲載も、これにて終了だ。
式/型の光学系を持った2本のレンズを紹介しよう。
いきなり聞いた事の無い用語だと思うが、追々説明
していく。
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では、まず最初のシステム

(New) Petzval (85) (Art) Lens 85mm/f2.2
(中古購入価格 50,000円)(以下、PV85/2.2)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)
2014年発売の、ロシア製ぐるぐるボケMF中望遠レンズ。
(注:実は、単に「ロシア製」だとは言えない状況だが、
詳細は長くなるので、追々説明する)
正式名称は不明、上記レンズ名の()の部分は出展資料に
よって記載されている場合と、そうで無い場合がある。
(製品Web上や、取扱説明書、元箱等でも同様)
まず最初に【注意点】だが、ロシア製レンズである為、
一眼レフ用マウント(NIKON F、CANON EF)製品であっても、
いきなりデジタル一眼レフに直接装着するのは危険である。
マウントアダプターで試験的に装着してみる、次いでジャンク
機体に装着した後に、上級機で使う等の慎重な対応が必要だ。
今回も、そのような安全確認を施した後、NIKON Dfに装着
して使用している。

本レンズの歴史背景等の説明で記事の大半を費やす予定だが、
まあやむをえない、現代の一般ユーザー層には無縁のレンズ
だろうからだ。
簡単に言えば、「ぐるぐるボケ」が発生するレンズであり、
正式にこの効果を謳い文句としているレンズは、記事執筆
時点(2019年末頃)では数機種しか存在しない(後述)
今回の記事では、希少なそれら「ぐるぐるボケ」レンズの
中から、所有している2機種を紹介/比較する記事としよう。
ただし、「対決」と言う要素は弱く、本記事では歴史的な
背景の紹介や技術的な内容が主となる。
(注:「ぐるぐるボケ」レンズを用いても、全ての撮影
条件で「ぐるぐるボケ」が発生する訳では無い。
その理由は大変難解ではあるが、後で少しだけ解説する。
とりあえず本記事中では「ぐるぐるボケ」の発生している
写真と、それが無い写真を混ぜて掲載する。
ちなみに「ぐるぐるボケ」発生のコントローラビリティ
(自在な制御性)は殆ど無いか、または、極めて高度な
撮影技能が要求されると思われるので、世の中に存在する
「ぐるぐるボケ」の作例写真の殆ど全ては、たまたま、
それが発生しているものを選んでいると思われる)

オールド(海外製)レンズ、オールド国産レンズ等、
1960年代頃迄の写真用レンズでは同様な描写傾向を持つ
もの(特に大口径レンズ)もあったのだが、その後の時代
においては、レンズの設計技術、およびガラス素材等の
改良が進み、現代においては「ぐるぐるボケ」が発生する
一般レンズは皆無と言っても良い。
そんな現代で、まず、Lomography(ロモグラフィー)社
(本社はオーストリア、工場は主にロシア)より、本レンズ
PV85/2.2が発売されたのだが、このレンズ、実は
「クラウドファンディング」により開発販売されたので、
一般向け販売という様相ではなかった。
クラウドファンディング(Crowdfunding)とは、簡単に
言えばネット等で出資者を募り、それが集まったら何らかの
事業を行う事であるが(注:ここで、クラウドとはIT用語
での「Cloud」では無く、「群集」という意味である)
・・写真用レンズの場合は、目標となる金額が集まったら、
レンズの開発/製造を行い、出資者に優先的に販売(頒布)
する仕組みである。
現代においては様々な事業において良くある形態ではあるが、
カメラ(レンズ)界でこれを行ったのは、恐らくだが本レンズ
が初めてではなかっただろうか? 2013年の事であった。
Lomography社が本格的な写真用レンズを作るのは、これも
初めての事であった。しかし、だいたい1980年代位から
「LC-A」等のトイカメラがあり、この企業はトイカメラや
トイレンズの発売元として活動していた為、「LOMO(ロモ)」
の名前は世界中に知られていたので、この資金はすぐ集まった
そうである。だだ、お金が集まってから開発を始めるので、
本レンズの実際の発売は2014年までずれこんでいる。
以降、2015年には第二弾の58mm/f1.9の「Petzval」を、
そして2016年には第三弾の「ダゲレオタイプ」レンズ。
また、2019年には第四弾「Lomogon」と、第五弾
「Petzval 55/1.7 MKⅡ」が発売されている。
第五弾レンズを除き、いずれも、クラウドファンディングで
あったように記憶しているが、初代の本レンズは出資者主体
での販売で、すぐ売り切れてしまったのが、第二弾以降では、
そのまま一般向けの販売も行っている模様である。
(追記:2020年には「Petzval 80.5/1.9 MKⅡ」が
新発売。これは、本レンズPV85/2.2の後継機種だと
思われるが、Lomography社での「MKⅡ」は、初代製品
とは焦点距離も開放F値も変化する場合が良くある模様だ)
よって、本レンズは、なかなか市場に流通していなかった
のだが、2019年になって、ようやく、本レンズおよび、
その金色(真鍮色)仕様の2本が中古市場に流れて来た。
これらは「投機層」による放出品ではないか?と推察している。
希少である事は確かなのだが、あまりこの手のレンズが市場で
話題になる事も少なかった。なにせ、どう考えてもマニアック
すぎる製品だ、そう誰でもが欲しがるレンズとは思えない。
それに高価すぎる。それまでのLOMO製品は、数千円という
価格帯だったのか、一気に10倍以上、7万円~10万円の
高付加価値型の高額商品に変貌してしまっていた。
真鍮色バ-ジョンは派手すぎる印象があったし、先に中古
市場に出てきたのが黒色バージョンであったので、こちらを
選択。まあ、真鍮色はいずれ他のLomography製品で、機会が
あれば購入する事にしよう。

ついての理解が必須となる。だが、幸いな事に、本レンズの
他者の紹介記事等では、その歴史について触れている場合が
殆どであるし、あるいは設計者ペッツヴァール氏そのものの
情報も世の中には沢山ある。でも、個人的には、それらを
単に引用しただけの「二次情報」を本ブログで書く事は、
あまり好まない。(「二次情報には情報価値が無い」と
思っているからだ)
ここでは、もう少し深堀りして、技術的観点および歴史的
な観点から補足的な説明をしていこう。
まず、ペッツヴァール氏がペッツヴァール型構成レンズを
開発するきっかけとなった、ライバルのシステムがある。
それは1839年に開発された、ダゲール氏(仏)による
「ダゲレオタイプ」だ。
ダゲレオタイプは特定のカメラやレンズを指すものでは無く
まず、フィルムの元祖とも言える、銀メッキをした銅板の
表面を、ヨウ化銀(AgI)化して「感光板」とした、いわゆる
「銀板写真」を実用化した事が特徴的なシステムである。
勿論これは歴史的快挙だ。
そして、その搭載レンズは、「アクロマート」を世界初で
採用した事も大きな技術的特徴だ。
(注:近年のLOMO製のダゲレオタイプとは構造が異なる)
「アクロマート」(Achromat)は、屈折率や色分散が異なる
2枚の凸凹レンズ(クラウンとフリント)を貼り合わせた
ものであり、現代では「ダブレット」と呼ばれる事もある。
これは「色収差」を補正する効果があるが、この構成で可能な
補正は、基本的には光の2色(2波長)のみである。
これをさらに改良して、3色(3波長)での色収差補正を実現
したものは、一般に「アポクロマート」(Apochromat)と
呼ばれているが、これでは長いので、適宜「アポ」(APO)と
省略される。
そう、銀塩時代においてSIGMAやMINOLTA製の高性能レンズ
に良く名前が冠されていた、あの「APO」の事であるし、
また、現代においても、コシナ・フォクトレンダーから、
アポランター(APO-LANTHAR)や、マクロアポタンター銘を
冠する高性能レンズが発売されているので、中上級層であれば
良く知っている名称であろう。(注:元祖アポランターは、
1951年頃のドイツ時代のフォクトレンダー社による開発だ)
「では、アクロマートは、アポクロマートよりも性能が
低いのか?」と言えば、まあ、それはそうなのだが、実際
には用途によりけりであり、例えば、そんなに広範囲の波長域
を用いない観察分野、具体的には天体望遠鏡とか、学術用の
観察装置(顕微鏡等)の一部においては、アクロマート仕様
で十分な場合もある。なにも高性能を求めてコスト高になる
事は、必ずしも歓迎できるケースでは無い事もあるからだ。

ではあったのだが、弱点を持っていた。
それは具体的には、感度の低い「銀板写真」と開放F値の
暗いレンズ(開放F値=F17程度)との組み合わせでは、
感光(露光)時間(=シャッター速度)が、日中でも、
10分~20分もかかってしまう事であった。
1枚写真を撮るのに20分もかかるのでは、実用的には厳しい。
まあ、ダゲレオタイプは歴史的価値は非常に高いが、まだ
「写真機」としては完成度が低いという状況であったのだ。
ここから感光(露光)時間、すなわちシャッター速度を
速めるには、フィルム(銀板)側と、レンズ側の両方の
改良が必要である。ダゲレオタイプはその後、感光材料を
改良し、最終的には数秒間の露光時間で大丈夫なように
なったそうだが、それには少し年月を要した事であろう。
ダゲレオタイプの開発は、フランス政府の援助もあった
模様であり、完成品は1839年にフランスで公開された。
これに興味を示したのが、オーストリア(国)である。
特に、ウィーンの工学研究所の教授が「ダゲレオタイプと
同様かそれ以上のものがオーストリアでも作れないか?」
と思った模様だ。
さて、ここでやっと「ペッツヴァール氏」の登場である。
スロバキア出身のペッツヴァール氏ではあるが、その当時は
オーストリアのウィーン大学の数学教授であった。
で、実は、オーストリアのウィーンには、なんとすでに
「フォクトレンダー社」が存在していた(!)
フォクトレンダー社の創業は、このダゲレオタイプの時代
よりも、さらに80年以上も前の1756年だ。
この年は、モーツアルトの生誕年(注:オーストリアの
ザルツブルグ生まれ)であり、そんな昔の時代に光学器械
メーカーがあったなどは、なかなか信じられないのだが、
まあ歴史的な事実ではある。
歴史的と言えば、フォクトレンダー社創業の年の1年前に、
オーストリアでは「マリーアントワネット」が生まれていて、
ご存知のように、その後、彼女はフランス王妃となり、
フランス革命の勃発により、1793年に処刑されてしまう。
(注:漫画「ベルサイユのばら」を読めば、この時代の
フランスの歴史は、良く理解できると思う)
フランスはその後、ナポレオンの時代となったり、復古王政
とかが色々あって・・ 1830年にはブルボン家(朝)が断絶。
ダゲレオタイプは、その少し後の時代での発明であるが、
オーストリア(人)が歴史的な様々な意味で、フランスの
動向を意識していたのは間違い無いであろう、だからまあ、
ダゲレオタイプを超えるものを作りたかったのかも知れない。
フォクトレンダー社だが、その後、ドイツに移転、それから
あれやこれや色々あって、最終的にはツァイス(イコン)に
吸収され、そして1972年にはツァイス(CONTAX)とともに、
カメラ事業から撤退してしまう。(日本製カメラの世界的な
台頭が、この背景にあった事は間違いない。現代の初級
マニア層等が崇拝するドイツのビッグ・ブランド各社は、
もうこの1970年代に、事実上終焉してしまっていた)
その後「CONTAX」は、日本のヤシカ(後に京セラ)が
商標権を継承、1975年にはCONTAX RTS(銀塩一眼第5回)
を発売し、国産CONTAXの時代が始まる。(~2005年)
それと、フォクトレンダーのブランドは、「ローライ」社が
取得し、フォクトレンダー銘のカメラ等も販売されていたが、
そのローライも1981年には倒産、その後、フォクトレンダー
のブランドは商社等を転々としていた模様であるが・・
1990年代後半には、日本のコシナ社がその商標権を獲得。
以降、20年間以上も、フォクトレンダー銘で、多数のカメラ
や高性能レンズを発売し、いまやコシナの代名詞ともなって
いる、という、300年近くもの長いブランドの歴史である。

「フォクトレンダー氏」(三代目)と「ペッツヴァール氏」は、
1839年にウィーンで出合い、ここでダゲレオタイプを超える
新レンズの開発を目指す。
少し前述したように、フランスとオーストリアは歴史的にも
色々とあった訳だから、カメラの世界にも、なんらかの影響は
出ているのだ。カメラ界だけでの視点で物事を見ていたら
その背景にある「何故、そうした機器が開発されたのか?」
という重要な事(意味)を見逃してしまいかねない。
ダゲレオタイプを超える新レンズの開発については、
オーストリア政府が全面的に後援し、国内の砲兵隊から、
計算力に優れる「計算中隊」まで編成して、複雑な計算が
必要とされるレンズの光路設計を手伝わせた。
(注:軍事転用への可能性も意識していたと思われる)
僅か1年後の1840年には、ダゲレオタイプを遥かに
上回る明るさの「約150mm/F3.7」のレンズが完成。
これは銀板写真においても、屋外で1~2分の露光時間で
写真が撮れるようになったと聞く。
ただまあ、F17→F3.7に向上したのであれば、露光時間
(シャッター速度)は、24倍程速くなる理屈なので、
20分→2分というのは、少々計算が合わない。
(オーストリアの銀板写真は、低感度だったのか?)
でもまあ、ダゲレオタイプに比べて遥かに実用的なのは
確かであろう。
この新開発レンズは、ペッツヴァール型(or 構成)と
呼ばれているが、ダゲレオタイプと同様のダブレットを
前群とし、後群に、メニスカス(凸凹)と凸レンズを
2枚配置した「2群4枚構成」である。
シンプルな構成ながら、画面中央部の解像力に優れる。
この為、長い焦点距離(望遠)のレンズでの人物撮影用、
映画投影用、それから(天体)望遠鏡用に長らく使用された。
(注:現代でも使用されるケースも多々ある)
対して弱点だが、像面湾曲と非点収差の発生により、
ボケ質が僅かに「ぐるぐるボケ」となる事だ。
ただし、人像写真(ポートレート)では、むしろ人物が
浮き出るイメージがあって、これはあまり欠点とはならず、
また、(天体)望遠鏡では、そもそも背景をボカして
観察する事は無いので、全く欠点にはならない。
だからまあ非常に長い期間(百年以上も)ペッツヴァール
型は、(天体)望遠鏡等のスタンダードに成り得た訳だ。
なお、レンズ開発に協力したフォクトレンダー社では、
数十種類にもおよぶペッツヴァール型レンズを様々な
光学分野に向けて長らく販売していた様子だ。
さて、ペッツヴァールレンズやフォクトレンダーを輩出した
オーストリアではあるが、その後の時代には、あまり光学
機器に係わる歴史は持たない。前述のようにフォクトレンダー
もドイツに移転してしまった事も理由としてあるのだろう。
・・で、オーストリアに「ロモグラーフィシェ株式会社」
(Lomographische、通称:Lomography/ロモグラフィー)
が生まれるのは、近代、1994年の事だ。
それ以前、1980年代前半から、サンクトペテルブルクに
「ロモ社」があって、日本のコシナ社製の「CX-2」のコピー
製品である「LOMO LC-A」を生産した・・ との事であるが、
これは、当時はソビエト連邦であるから、ロモ「社」では
なく、「国営工場」であったのではなかろうか?
このLC-Aを、たまたま見かけたオーストリア人の学生が、
それを気にいったのか? 有名な「ロモグラフィー宣言」を
オーストリアの新聞に広告掲載し、その直後の1994年に
「ロモグラーフィシェ株式会社」をオーストリアで創立した。
これはつまり、ロシア製LOMOの販売会社である。
----
さて、ここで試写システムを交換しよう。
レンズはそのままで、カメラをEOS 6D(フルサイズ機)に
変更する。 NIKON Dfでは、どうも重量的または形状的な
バランスが良く無いように感じたのだ。
NIKON Fマウントのレンズである為、他社機での使用の
汎用性は高い。(注:装着の安全性は、必ず事前確認する
必要がある)

当時、オーストリアから日本に職業留学をしていた若い
男性と知り合った。
彼は「LOMO LC-A」を所有していた。まあオーストリア人
だから、ロモグラフィー社の「お膝元」である。
彼は「このLOMOは安かったから故郷で買ったが、写りが悪い、
日本に居る間に、高性能な日本製カメラが欲しい」
と私に言った。要は”中古カメラ探しを手伝って欲しい”
という事であり、彼はドイツ語(=オーストリアの公用語)と
英語は話せるが、日本語が片言なので、中古専門店での交渉が
出来なかったのだ。(私は、彼との会話は英語で行っていた)
彼は私の見立てで無事、中古カメラとレンズを入手すると
「もうLOMO LC-Aは、いらない(あげる)」と言い出した。
私は「せっかく故郷で買ったのだから、持っておきなよ」
と言ったのだが、私は、それまで「トイカメラ」なるものは
見た事が無かったし(注:日本には殆ど輸入されていない)
そもそもLC-Aが「トイカメラ」だと言う事すら知らなかった。
私は「コシナ風の普通のカメラがそんなに写りが悪い筈が無い」
とも思い、彼から「LC-A」を借りて、それを1~2ヶ月ほど
評価する事とした。
その評価だが、まあ確かに酷い写りであった(汗)
詳細は長くなるので割愛するが「特殊レンズ第3回HOLGA編」
にも、この話は詳しく書いてあったと思う。
でもまあ、それが「トイカメラ」の本質であるから、酷い写り
(Lo-Fi)は、本来は欠点になるものでは無い。

2010年代前半迄の約20年間の間に「トイカメラの筆頭格」
として急成長したのだが、「トイカメラ」という枠から
抜け出ておらず、本格的な「Hi-Fi」カメラやレンズ等は、
1台(本)も販売していない状況であった。
ただ、2000年代前半に、女子カメラ層やアート層に一大
ブームを巻き起こしたトイカメラも、2000年代後半には、
既に銀塩時代は終焉を迎えていて、ブームも沈静化していた。
さしもの「トイカメラの巨人LOMO」も、いつまでも旧来の
ビジネス・スタイルを続けていく訳にはいかない。
何か、大きな戦略転換が必要であろう。
日本の様子を見れば、カメラメーカーもレンズメーカーも
2010年代前半には「高付加価値化商品」へ戦略転換している、
ロモグラフィー社も同様な事をやらなければならない。
よって2013年の「クラウドファンディング」の開始である。
そこで「ペッツヴァールレンズ」を選んだのは、これまで述べて
来たオーストリアの光学機器の歴史を鑑みれば、当然の話だと
言えるだろう。もう1つの地元の誇り「フォクトレンダー」は、
ドイツに行った後、極東の島国にまで遠征してしまっている
状況だ(汗) まあ「ペッツヴァール」だけがオーストリアに
残った栄光の光学歴史である訳だ。
例えば日本で言えば同時代の「平賀源内」のような「発明王」
のイメージが地元ではあるのかも知れない・・(?)

「New Petzval Lens」の開発が開始される事となった。
でも「トイカメラ」で世界的に名を馳せた「ロモ」である。
単にペッツヴァール構成を復刻させただけでは面白味が無い。
ここからは想像であるが・・ ロモグラフィー社は、
ペッツヴァール構成の弱点をあえて強調し「ぐるぐるボケ」
レンズとしてしまう事を思いついたのであろう。
レンズ製造(設計もか?)は、LOMOの製造で関連があった
ロシアのZENIT社が担当した、との事。
ZENIT社は、現代では企業となっているのかも知れないが、
旧ソ連の時代では、KMZ(クラスノゴルスク機械工場)と
呼ばれていて、その時代、同「国営工場」では、銀塩カメラ
の「ゾルキー(ZORKI)」や「ゼニット(ZENIT)」および
交換レンズの「ZENITAR」や「INDUSTAR」を生産した事で、
マニアの間では、かなり有名だ。
KMZ(ZENIT)のレンズは、私もいくつか所有しているが、
旧ソ連の時代では、製造品質がちょっと怪しい印象もあった。
(注:当時は、同じレンズであっても、様々な国営工場で
分散されて製造される事もあった。よって、例えばINDUSTAR
でも、FED工場で作られている場合もあり、品質がまちまちだ。
この為、今回記事でのカメラ装着も慎重を期している)
・・でもまあ、描写性能については、あまり問題は無い。
かつてロシアンレンズの弱点であった「コーティング技術」も、
KMZでは採用していた訳だ。
まあ、ロモグラフィーが、ZENIT(社?)に相談(製造委託)
したのは、正解と言えたかも知れない。
他にも「アルセナール社」とかも高性能なレンズの設計製造が
出来ただろうが、そこは現代ではロシアでは無く、ウクラナナ
の企業(光学機器メーカー)となっている、LOMOとの関連性は
薄いであろうとも想像できる。
さて、LOMOの発案(?) ZENITの設計(?)により、本来であれば
2群4枚構成であった「ペッツヴァール構成」は、3群4枚へと
変化した。これは恐らく後群の2枚を分離したのであろうが、
それにより、像面湾曲と非点収差が大幅に増大し、いわゆる
「ぐるぐるボケ」レンズが見事に完成した。

有効口径に比例して大きくなるので、中望遠単焦点レンズ
であれば、フルサイズ機で絞りを開ければ「ぐるぐるボケ」
は大きくなり、逆に絞りを絞れば、急速に減少するし、
APS-C機やμ4/3機を使用しても見かけ上は減少する原理だ。
本レンズPV85/2.2は、絞り環を持たず、絞り値の変更は
「ウォーターハウス絞り」と呼ばれる、絞りプレートを
差し替えて使用する。

私が知っている範囲では、画家の「J.W.Waterhous」氏
(19世紀~20世紀)が居る。神話等を題材にした
美しい女性の絵を描く芸術家であるが、この、絞りの
「ウォーターハウス」とは、恐らく無関係であろう。
(参考:「J.W.Waterhous」の画集は、あまり種類が
刊行されておらず、それなりに希少だ)
この絞りは、操作性的には面倒ではあるが、そもそも
実用撮影用途でのレンズとは言えず、極端に趣味性の
高いレンズであるから、まあ、やむを得ない。
むしろ、「ウォーターハウス絞り」では、円形では無い
任意の形状の絞りプレートを使用する事で、「ボケ形状」
を変更できるメリットもある。
(注:近年のLOMOの機種では、通常絞り環と、ウォーター
ハウス型絞りを併用できる構造となっているものもある)
特殊形状絞りプレートは、安価なオプション部品として
販売されているのだが、 あまりそうした「ガジェット」
に頼って撮影したく無いので、それは購入していない。
(注:後年に発売されたLomography社製レンズでは
数種類の特殊形状絞りプレートが同梱されている。
だが、そのプレートは本PV85/2.2には微妙なサイズ差で
上手く装着できない。このあたり「ロシアン」だ・汗)
なお、今回の撮影では、F2.2の絞りと、F2.8の絞りを
使用している。なお、カメラを縦位置に構えても
絞りプレートが脱落する事は無い。(注:試作機では、
そういう弱点があった模様だが、量産版では、むしろ、
外し難いくらいである)
それから「ぐるぐるボケ」の効果は被写体条件によって
出易い場合と出難い場合がある。単に絞り値や撮影距離、
すなわち被写界深度の変化のみならず、他には背景距離、
背景の絵柄、背景の平面性、等の要素が複雑に絡んで、
ぐるぐるボケの効果は大きく変化してしまう。
本記事においても、ぐるぐるボケが発生している写真と、
さほどでもない写真を混在して掲載しているのは、それが
理由であり、かつ、その差異を伝えたいからだ。
で、デジタル一眼レフの光学ファインダーではその効果の
度合いが殆ど見えないので、EVF搭載ミラーレス機で用いる
のが本筋であろう。
(注:この事実が、一般レンズでの「ボケ質破綻」と密接に
関連があるような気がしている。つまり、本ペッツヴァール
や後述のTWISTで、「ぐるぐるボケ」が発生する撮影条件で
あれば、他の一般レンズでも「ボケ質破綻」が出易い状態に
なっている、という仮説だ。
しかし、この仮説の証明は長期間の高度な検証が必要である。
他には誰もそんな事は調べていないので、しばらくは個人で
研究を続ける事としよう)
で、短所は色々とあるが、ほとんどは「不問」としたい。
それをとやかく言うような類のレンズでは無いからだ。
ただ、大きく重く高価な「三重苦」レンズな事は確かであり、
ピント合わせがヘリコイド式ではなく、ツマミ(ノブ)式で
あるので、それを廻す為には、システム全体の重心位置で
カメラを支えきれず、長時間の撮影では疲労を誘発して
しまう弱点がある。
では最後に、対決記事で恒例でのデータベース評価点を
あげておくが、例によって、こうした評価は、ユーザー毎
の用途やスキルによって様々である為、この数字が一人歩き
する事は望ましくない。
【描写表現力】★★★★☆
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★☆
【エンジョイ】★★★
【必要度 】★★★★
★=1点、☆=0.5点、各項目5点満点
・評価平均値:3.60点
全体に悪く無いが、コスパ点が足を引っ張っている。
まあ、「面白いが、高価すぎる」という評価となった。
----
PV85/2.2の話が、とても長くなったが、ここからは
2本目のペッツヴァール型レンズの紹介とする。

(新品購入価格 39,000円)(以下、TWIST60/2.5)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
2016年発売の米国製MF単焦点標準「ぐるぐるボケ」
レンズ。
既に、本シリーズ第2回記事等で紹介済みであるし、
「ぐるぐるボケ」の出自や原理等は前述しているので
本レンズの詳細に対する解説は最小限とする。
ただし、本レンズにおいても撮影条件に依存し、ぐるぐる
ボケが出る場合と出ない場合があるので、掲載写真は
その両者を適宜混ぜて紹介している。

ユニークな写りをするレンズ製品を多数販売する企業だ。
こちらも前述の「Lomography」社と同様に、アート系の
固定ファン層がついているメーカーであり、それらは
「フリーク」(=熱中している人)と良く呼ばれている。
LENSBABY製品は、2000年代中頃より国内販売が始まって
いたが、直販に近い状態で入手性はあまり高くなかった。
2010年代にはKenko Tokina社が輸入販売代理店を務め、
新品および中古でも入手性が高まっている。
しかし、他の国産レンズ、そしてLomographyも同様だが
2010年代では交換レンズ市場の縮退により、LENSBABY
製品も高付加価値化して、結構高額である。

構成。恐らくはLOMO PV85/2.2と、ほとんど類似だろう。
こちらは絞り環を持ち、ぐるぐるボケ効果の制御が簡便だ、
勿論フルサイズ対応、前述のとおりフルサイズ機の方が
効果が良く出るが、何度も述べているように効果の強さは
撮影条件に依存する。世の中にある「ぐるぐるボケ」の
作例は、全て、その効果が強く現れているものを選んで
掲載しているだろうから、それを見てレンズを購入しても、
いつでもそうした効果が得られる保証は無い。
では、ここで「ぐるぐるボケ」を出す事が出来る現代レンズ
の一覧を上げておく。
<Lomography製品>
(New) Petzval (85) (Art) Lens 85mm/f2.2(本記事)
(New) Petzval (58) Bokeh Control Art Lens 58mm/f1.9
(New) Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ(後日紹介予定)
(New) Petzval 80.5mm/f1.9 MKⅡ
<LENSBABY製品>
LENSBABY Twist60 60mm/f2.5(本記事)
LENSBABY Twist60 Optic(注:コンポーザー系用交換光学系)
LENSBABY Brunside35 35mm/f2.8(後日紹介予定)
LENSBABY Trio28 (注:効果調整不可、後日紹介予定)
現時点では、以上の8機種しか存在せず、またいずれも
そこそこ高価であるし、中古もまず出てこず、入手性は
あまり良く無い。それこそ「フリーク」等のマニア向け
専用レンズと言えるであろうし、製品のモデルチェンジも
激しく、現状、かろうじて新品入手が容易なのは、
Petval55,80.5,Twist60,Bunside35の4本だけだ。
(注:この状況も1年程で変わってしまうかも知れない)
また、上の表には載せていないが、LENSBABY社の
Velvelシリーズのソフトマクロレンズでも、一部には
軽い「ぐるぐるボケ」傾向が発生するものもある。
(注:Velvet 56/1.6で発生。しかしVelvetシリーズ
は1本しか所有していないので、他の詳細は不明)
実用的な価値もあまり高く無い、ただ、このユニークな
「ぐるぐるボケ」の描写特性は、他の一般レンズでは、
そう簡単には得られない。

稀にそういう特性を持つものも見つかるが、それらを
探すのも大変であるし、不条理に高価でもあろう。
海外製オールドレンズ等でも、同様な特性を持つものも
複数機種あると思うが、現代では、それらも入手困難だ。
まあ、ぐるぐるボケの度合いも、こうした現代の、特殊
(専用)レンズの方が、大きくて面白いと思う。
それと「超裏技」であるが、フランジバック長の差を吸収
する為の「補正レンズ入りマウントアダプター」を用いると
稀に、特定のレンズとの組み合わせによっては、今回紹介の
ペッツヴァール改型レンズと同様の後群レンズの分離効果で
像面湾曲と非点収差が増大し、絞りを開けていく等をすると、
これらの「ぐるぐるボケ」と同等の効果が出る場合もある。
ただ、組み合わせを探すのが大変面倒であろうから、これは
超上級マニア向けの措置(研究テーマ)としておく。

【描写表現力】★★★★
【マニアック】★★★★☆
【コスパ 】★★★
【エンジョイ】★★★★
【必要度 】★★★☆
★=1点、☆=0.5点、各項目5点満点
・評価平均値:3.80点
なかなか悪く無い得点だ、誰にでも必要なレンズとは決して
言えないが、マニア層であれば購入検討も悪く無い。
多くのペッツヴァール型レンズで、NIKON Fマウント版が
販売されているので、それで購入しておけばマウント汎用性
は高く、およそあらゆるカメラで使用可能ではあるが・・
NIKON(デジタル)一眼レフの場合は、この手の非Ai型
レンズの露出制御は困難な場合が多く、NIKON Df位でしか
まともに使用できないかも知れない。まあ、ミラーレス機で
マウントアダプター経由で使用するのが、前述の、マウント
製造(工作)精度の件も含めて無難であると思う。
(注:Petzval 55mm/f1.7 MKⅡは、ミラーレス機専用)
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さて、今回の「ペッツヴァール対決編」は、このあたり迄で。
また、本年2020年の記事掲載も、これにて終了だ。