Quantcast
Channel: 【匠のデジタル工房・玄人専科】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

特殊レンズ・スーパーマニアックス(54)新鋭海外製レンズⅢ

$
0
0
本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。

今回は「新鋭海外製レンズ」を5本紹介しよう。
既に本シリーズ第17回、第41回記事で「新鋭海外製レンズ」
を紹介しているが、それらの続編であり、今回紹介分は
2010年代後半頃に発売された比較的新しいレンズである。

----
ではまず、最初のシステム
_c0032138_17501580.jpg
レンズは、KAMLAN FS 50mm/f1.1
(新品購入価格 23,000円)(以下、FS50/1.1)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)

2019年に国内販売開始された新鋭海外製レンズ。

中国の「深セン」地区で製造されたレンズであるが、設計に
関しては台湾のメーカー(瑪暢光電有限公司/Sainsonic社)
が行っている。

国内代理店としては、既にLAOWA製品等を扱っている
サイトロンジャパン社が務める。通販のみならず、
家電量販店等でも購入可能である。


F1.1の大口径である事が最大の特徴であるが、過去に他に
類を見ない、5群5枚とシンプルな(シンプルすぎる)設計
であり、コンピューター光学設計と思われる。

異常低分散ガラスを用いたレンズを2枚使用してはいるが、
実写においては、球面収差が抑えきれておらず、かなり
解像感が低い描写になってしまうのが、大きな課題(弱点)
となるレンズだ。
_c0032138_17501553.jpg
このあたりの特性をユーザーレベルで解析する方法として
まずは、ピーキング精度の高いミラーレス機を用い、
ピーキングレベルを調節した状態で、撮影距離、背景距離
等の条件を固定しながら、絞り値を順次変えてピーキング
の反応の変化を確認すると、だいたい様子がわかると思う。

注意点だが、この確認措置は、本レンズの場合は絞り込み
(実絞り)測光であるので、これが可能となるが、一般の
ミラーレス機用純正等AFレンズ等の場合、組み合わせる
ミラーレス機の種類によっては、実絞り測光ではなく、
この確認措置はやりにくい(または出来ない)場合がある。

さらに厳密な検証をしたい際、私は自前のピント解析ソフト
等をいくつか作って持っているので、それを使う事が出来る。
_c0032138_17501532.jpg
上は、「高精度後付けピーキング解析ソフト」であり、
撮影後の写真に対して、ピントが来ている部分を精密に
解析できる。これによると、絞りを開けた状態では、
ピント面がはっきりしておらず、球面収差等を原因とした
(超)大口径特有の低解像感の現象が現れている事が、
だいたい推察できる。

なお、球面収差は有効径の3乗に比例して大きくなるし、
コマ収差も有効径の2乗に比例して大きくなる。
(匠の写真用語辞典第29回記事、参照)

すなわち(開放)F値の値を小さくしていくと、解像感を
低下させる要因となる類の収差が「鬼のように増大する」
訳であり、これを防ぐには、異常低分散ガラスを用いる
設計よりも、むしろ非球面レンズを使う事が有効だと思う
のだが、非球面レンズの採用はコストアップが甚だしい。

つまり、こうした中国製ローコストレンズでは、低価格に
する事が、日本市場参入への条件(市場戦略)となって
いる為、非球面レンズを使う事は、まず有り得ない。

そういう設計で高性能レンズを作ったら、かなり高額な
レンズとなってしまい、国産の高価になりすぎたレンズと
変わらない値段となる。そうなると新鋭海外レンズでは
AF、超音波モーター、内蔵手ブレ補正等の仕様を搭載して
いないので、国産レンズに対抗するのが難しい。

LAOWA、中一光学等の一部の海外メーカーでは、様々な
贅沢な設計を行い、10万円以上のレンズも販売しているが、
その価格で販売するには、超低歪曲、アポダイゼーション、
超マクロ、超大口径等の、国産レンズがあまり対応できない
(=それらを国内で作ると、あまりにも高額になるから)
特殊仕様の分野で戦うしか無くなってくる。

そして、そうしたとしても、現代市場での主力ユーザー層で
ある初級中級層では、10万円を超える中国(海外)製レンズ
には信用がおけず、まず買わないであろう。

まあつまり、低価格帯市場で戦うには、非球面レンズ等の
コストのかかる新技術を搭載する訳にはいかないという事だ。
なので、このKAMLAN FS50/1.1は、そこに矛盾が出てくる。

つまり、大口径の仕様で国産レンズとは差別化したいのに、
低価格では、その設計が困難だ。そこのギリギリの妥協点が
このF1.1というスペックだとは思うが・・
_c0032138_17501519.jpg
しかし、残念ながら、この性能(解像感)だと、絞りを
開けて使う撮影用途には向かない。

日本でも、超大口径化競争が行われた1960年代くらいで
あれば、だいたいこれくらいの性能でも当時のユーザー層は、
「F値がとても明るいレンズだ」と喜んで買ったかも知れない。

まあ、当時はフィルム時代であり、低感度のフィルムでは
少しでも開放F値を明るくしないと、室内などの暗所で撮影
する事自体が困難であった事も理由であった。

しかし、その後半世紀以上を経て、フィルムはデジタルに
変わり、ISO感度は100程度から20万~320万にまで進歩、
つまり(超)大口径レンズを使う必然性は、被写界深度の
浅さを求める以外の理由では、ほぼ無くなった。

さらには、ユーザーがレンズの解像力(感)に求める
要素も年々厳しくなっていく。デジタルカメラの画素数
向上により、近い将来には一眼レフでピクセルピッチが
2~3μmに到達する事を予見し、国産新鋭高解像力レンズ
では、最良250LP/mm程度の解像力性能(2μmピッチに
対応)あたりまでになっていると推測される。

私は、個人的には、あまりにパキッパキ、カリッカリの
強すぎる解像感を持つレンズは好みではないが、初級中級
ユーザー層には、そうした特性のレンズは評判が良い。

だから、この現代で、本レンズFS50/1.1程度の解像感
だと、多くのユーザーは大きな不満を感じてしまう訳だ。

これは、KAMLAN社としては、ほぼ初のレンズ製品で
あったので、市場への認識(マーケティング)がまだ
未成熟であった事も理由としてあるかも知れない。

「光学設計」という、従来は専門職であった分野が、近年
では、コンピューター光学設計でパソコン上でもレンズの
設計が出来るようになった事も、理由としてあるだろう。
これで設計したレンズをローコストな中国の工場で作れば、
生産台数がある程度大きければ、1~2万円の格安レンズが
出来てしまうから、市場参入は比較的容易なのだ。

だけど、パソコンで設計が出来たとしても、どの程度の
仕様でまとめるか?というのは、やはり経験的なノウハウ
が必要であろう、このあたりはKAMLANは新規参入なので、
しかたがない要素もある、今後の設計ノウハウの向上に
期待したいところだ。(注:後述のように本レンズは
短期間でⅡ型にバージョンアップされた)

なお本レンズFS50/1.1は、解像感は低いが、ボケ質破綻
等は比較的起こり難い。ただし、像面湾曲と非点収差の
発生は、やはり抑えきれておらず、「ぐるぐるボケ」が
発生しやすい。

これについて、自作の「ボケ遷移解析ソフト」での解析の
模様を挙げておく。
_c0032138_17502959.jpg
上画面において、右部の解析結果画像は、殆どが青色で
表示されている。これはつまり「ゆるやかなボケ遷移」
を表しているが、背景等のボケ部に、これが多数出ている
場合は、感覚的に「ボケが固い」と感じ易いが、それは
殆ど無い。でも、逆に言えば、黄色や赤で表示される
解析結果が殆ど出ていない。

黄色や赤は、「急激なボケ遷移がある」という解析であり
これが強いレンズは、「ピント面がシャープで、そこから
急峻に背景がボケる」という特性だ、これは現代的な設計
の新鋭レンズや、アポダイゼーションレンズで、こういう
特性が出る場合が多く、つまり、現代的で好まれる特性だ。

本FS50/1.1は「そういう特性では無い」という事であり、
「メリハリの無い、ユルユルの描写」になりやすい。
それの回避はとても難しいが、被写体状況に応じて
綿密な撮影距離、背景距離、絞り値等の調整を行い、
その「ユルさ」を目立たせないようにする必要がある。
_c0032138_17502936.jpg
これは、ボケ質破綻回避技法(匠の写真用語辞典第13回)
と、ほぼ等価な撮影技法となる。

ただし、ボケ質破綻回避では、ボケを綺麗にする目的の
為で行うが、このレンズの場合は正反対な概念であり、
ボケ質はあまり破綻しないし、像面湾曲・非点収差による
「ぐるぐるボケ」は重点的な回避項目では無いのだから、
むしろ、被写体部の解像感をキープする措置を優先的に
行う事が望ましい訳だ。

本FS50/1.1の総括だが、設計コンセプトの未成熟により
現代ユーザーが求めるレベルの描写性能に達していない。

それを回避して、本レンズの大口径や良好なボケ質という
特徴を活用するには、本記事で述べてきたような、極めて
高度な分析および弱点回避技能を用いなければならない。

研究対象として、テクニカル(技法)的な興味はある
レンズだが、それは物凄く難しいので、気楽に撮る要素の
「エンジョイ度」は、とても低く評価せざるを得ない。

結果、上級マニア層にしか推奨できないレンズとなると
思われる。

・・で、この低性能はやはり市場で問題視されたのか?
本レンズは発売後僅かに数ヶ月で、レンズ構成の全く
異なるⅡ型(9枚構成?)にバージョンアップされた。
ただし、大型化して価格もアップされてしまったので、
Ⅱ型は未購入だ。
Ⅰ型(本レンズ)のままで、なんとかこの低性能を回避
していくか、あるいは課題を逆用するべく「用途開発」
をしていく必要があると思っている。

----
さて、次のシステム
_c0032138_17503883.jpg
レンズは、mEiKE MK-85mm/f1.8
(MK85F18EFAF Canon EOS AF)
(新品購入価格 23,000円)(以下、MK85/1.8)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)

2018年後半(?)~2019年初頭(?)頃に発売された、
中国製のCANON EFマウント専用のAF中望遠レンズ。

ロゴマークは、「mEiKE」と大文字小文字が混じった
デザインであるが、以下は「Meike」と記載する。

以前は「Neewer」というブランド銘で商品を展開して
いたメーカーと聞く(??両ブランドは、あまりにも
品質レベルが違いすぎるので、信用の置けない情報だ)

中国製レンズには珍しく、本レンズはAF版である。
ただし、超音波仕様のモーターでは無い為、AFの速度や
精度は、約30年前、1990年頃のEFレンズ相当である。
ピント歩留まりが悪い事は、ある程度覚悟して使うか、
適宜、手動MFブラケット技法等をおりまぜて、ピントが
合っているものを選別するなどの対策が必要だ。

だから、基本的には本レンズは、「ある一瞬を絶対に
撮らなければならない」という業務用途または上級実用
撮影には向かず、趣味撮影専用のレンズとなってしまう。
_c0032138_17503958.jpg
ピント問題を除いては、本レンズは比較的良く写る。
まあ85mmという焦点距離のレンズの場合、一般ユーザーが
想像するような「85mm/F1.4レンズが最強」という要素は
実は全く無く、85mm小口径(開放F1.7~F2級)の方が
はるかに実用価値が高く、場合により描写力に優れる事
すらあるので、85mm/F1.4の過剰な「神格化」は禁物だ。

それを実感したいならば、複数の85mm/F1.4級レンズと、
複数の85mm/F1.8級レンズを所有し、何年もじっくりと
様々な撮影シーンで撮り比べてみたら良いだろう。
そうすればきっと誰にでも良くわかる事だと思う。


けど、そんな事を実際にするユーザーは殆ど皆無であるから、
誰しもが、値段が高い85mm/F1.4に憧れ、それを無理をして
購入すれば「やはり85mm/F1.4は最高だ!」と思い込んで
しまう訳だ。それはそうだろう、せっかく高価な投資をして
買ったレンズだ、その行為を自分の中で正当化する為には
「85mm/F1.4は良いものでなくてはならない」と思い込む
しか無い訳である。

ちなみにネット等で他者の評価を参考にしても無意味だ、
全てのユーザー層は、上記「自分の投資行為の正当化」の
為に、購入した高額なレンズは、良い評価しか行わない。

また、流通や販売側の立場に立った評価者においては、
高額なレンズを販売する事で大きな利益が得られる訳
だから、消費者に安い方(85mm/F1.8級)に興味を
持たれてしまうと困った事になる。なんとしても
高額商品を売らなければ、商売がやっていられない。


あるいは、専門評価者等においては、担当したレビューで
悪口ばかり書いていたら、メーカーや流通、既存ユーザー等
からも悪印象となり、下手をすれば、もうレビューの仕事が
来なくなってしまう。だから、ものすごい重欠点を見つけた
としても、それをオブラートでくるんで、マイルドな評価
結果を記載するしか無い訳だ。

結局、冷静かつ客観的な評価など、世の中においては誰も
出来ない訳だ、よって、あくまで評価は自分自身で行う
事が必須である。

「それでは購入するかどうか、判断できないではないか?」
と思うかも知れない。だが、そこはマニアであるならば、
自身の価値感や購買倫理(ルール)に基づき、自己責任の
範囲で機材を購入するしかない。結果、それが上手く行き
満足いく商品を買える場合もあるが、がっかりする程の
失敗をする場合もある。でも、そういう経験を繰り返し、
様々な知識やノウハウを得る事で、だんだんと価値感覚も
研ぎ澄まされていくわけだ、そうやって精進する事が
「マニア道」である訳だから、人が良いと言った機材や
珍しい機材、高価な機材だけを買い求めて、自身に
おける評価スキルが全く身に付かないままであったら、
もはや、それはマニアとは呼べない状態だ。
_c0032138_17504704.jpg
余談が長くなったが、こういう事はとても重要だ。
むしろ個々の機材の性能が、どうしたこうしたと・・
そんな事を書くより、ずっと重要である。


そもそも、個々の機材の性能といっても、それは使う
ユーザーが、どんな状況で、どんな被写体をどのように
撮りたい、あるいはユーザーのスキル(知識、技能、経験等)
によっても、性能の評価は大きく変わる。

例えば、カメラの構えもおぼつかず、露出の原理もわかって
おらず、MF操作も出来ないビギナー層に、MFの新鋭高性能
レンズ(例:カール・ツァイスやフォクトレンダー等)を
推奨しても無意味だ。

あるいは手ブレ補正に頼りきり、手ブレ限界シャッター
速度やISO切換低速限界の意味、セイフティシフトの効能、
被写界深度の意味やそれが変化する条件、等が全く理解
できていない初級中級層に対して、高描写力ではあるが、
重量級で手ブレ補正機能を持たないSIGMA Art Lineの
レンズを勧めても無意味であろう。

結局、レンズの性能(評価)は、あくまでユーザー側に
委ねられる事となる、他人の評価はあてにしてはならない、
そこが最も重要なポイントとなるであろう。
_c0032138_17504813.jpg
でもまあ、一応本MK85/1.8の総括だけは述べておこう。

長所としては、高い描写力が安価に得られる事、つまり
とてもコスパが良いレンズである。私のコスパ評価点は
5点満点で4点)
描写力については、比較的高い安定性を誇る。一般的に
小口径レンズは大口径版よりも多くの状況で安定した
高描写力が得られる。つまり、85mm/F1.4級よりも
使い易い要素があるという事だ。


短所としては、AF性能等、操作性等、微細な使い難さが
ある為、重要な撮影には使えない事。つまり、あくまで
趣味専用レンズであり、せっかくの高描写力も「たまたま
それが得られれば良い」という、おおらかな用途にしか
使えない事である。
まあでも、歩留まりが悪くても良い特殊な状況においては
描写力自体は、重要な撮影目的にも使えるレベルだと思う。

----
では、3本目のシステム
_c0032138_17505461.jpg
レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
(新品購入価格 16,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

2018年頃発売の中国製ミラーレス機(APS-C機以下)
専用、MF大口径標準(中望遠画角)レンズ。

こちらは典型的な「ジェネリック・レンズ」である。
このレンズの場合、1970年代~1980年代頃に各社から
発売されていた、MFの85mm/F1.4レンズ、かつ、通称
「プラナー構成」と呼ばれているものをベースとしている。
でも「プラナー」はカール・ツァイスおよび、その時代は
京セラCONTAXの商標だ、だから、他社ではプラナーの
名称は使えないから、そう呼んではいない。


けど、当時の85mm/F1.4級レンズの構成は、各社似たり
寄ったりである。そこで、ここでは、それらのレンズ構成
を総称して「プラナー系」と呼ぶ事とする。
_c0032138_17505460.jpg
さて、そうしたプラナー系レンズの設計を、およそ
3分の2にスケールダウンする。そうすると、55mm/F1.4
というスペックとなる。イメージサークルが小さくなる為、
フルサイズ機では使えず、APS-C機以下専用レンズとなる。

そして、これをミラーレス機で使用する場合は、
バックフォーカスを短いフランジバック長に対応する為、
場合により、レンズ後群の設計変更が必要であろう。
でもまあ、それはコンピューター光学設計ソフトで
対応できる。9割方は、元のレンズの構成を流用するので
小変更の設計シミュレーションは容易であろう。

昔の優れたレンズ構成であるから、非球面レンズや異常低
分散ガラス等は使っていない。そしてMFで作れば、余分な
AF機構は不用であり、手ブレ補正すらも無ければ、極めて
安価にレンズを製造する事ができる。

だから、当時の貨幣価値からすると、現代の感覚では
20万円も30万円もしていた、プラナー系高性能レンズが
ミニチュア化されて、現代においては1万円台中程の、
とても安価なミラーレス機用高性能、大口径中望遠画角
のレンズとして蘇る訳だ。

これは、「物凄くコスパが良いレンズ」となる。
過去シリーズ記事「ハイコスパレンズ名玉編」では、
残念ながら本レンズは購入と評価が間に合っておらずに
ランクインは見送ったのだが、後日、それを計算すると
だいたい9位~10位の好順位に相当する(注:約400本
中なので、とても高い順位だ)事が判明した。

まあ、そのレベルの「高コスパレンズ」という事だ。
_c0032138_17510104.jpg
弱点は、いくら過去の超名玉である「プラナー系」
レンズのジェネリック(スケールダウン)とは言え、
元のレンズにあった特徴的な弱点は、ほぼそのまま
残ってしまう事だ。

銀塩時代のRTSプラナー(85/1.4)と言えば、
「使いこなしが難しい」事で有名(悪名)であり、
昔の中古市場には、それが溢れかえった事もある。
(参考:レンズ・マニアックス第11~第12回、
使いこなしが難しいレンズ特集=ワースト・ランキング)

まあつまり、「良いレンズだ」と評判を聞いて、高額な
それを買ったものの、上手く撮るには相当なスキルが
必要だから、初級中級層や初級マニア層などでは、
ちゃんと撮れずにイライラして、それを皆が手放して
しまった、という歴史的な事実がある次第だ。

でも幸いにしてミラーレス機用とした事で、プラナー系
レンズの弱点の多くは解消されている。それについては
長くなるので、別記事(例:レンズマニアックス第38回、
近日掲載予定)を参照されたし。

_c0032138_17510114.jpg
基本的には上級者向けレンズではあるが、このレンズ
の長所を理解し、弱点を回避して使う為の練習教材と
するならば、中級層にも推奨できるレンズとなる。

だが、やはり初級者には無理だろう。ピント歩留まりの
悪さやボケ質破綻を頻発させ、前述の銀塩プラナー系と
同様「良いレンズと聞いて買ったが、それはウソか?
ちっとも上手く撮れないではないか!」と、当時の
ユーザー層と同じ状態になってしまうだろう・・

ちなみに、そういう状況では、「やはり中国製だ、
安かろう、悪かろう」という初級評価にしかならない。
まあ、そういう評価内容を参考にする必要は全く無く、
あくまで自分でレンズの性能評価をするしか無い。

----
さて、次のシステム
_c0032138_17510815.jpg
レンズは、LENSBABY Twist 60mm/f2.5
(新品購入価格 39,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2016年発売の米国製MF単焦点標準「ぐるぐるボケ」
レンズ。国内ではKenko Tokina社が、販売代理店を
務めている。


本レンズの出自とか、原理とかを説明しだすと
膨大な文章量が必要となる為、本記事では割愛せざるを
得ない。最も詳しい別記事としては「レンズマニアックス
第37回ペッツヴァール対決編」(近日掲載予定)が
あるので、興味があれば、そちらも参照されたし。

今回はごく簡単に述べておくが、本レンズは、百数十年
前の写真黎明期に発明された、ペッツヴァ(バ)ール型
高性能レンズの設計をベースに、後群の分離という特殊な
改変を施す事で収差が増大し、盛大な「ぐるぐるボケ」を
発生させる事ができるユニークな仕様のレンズである。
_c0032138_17510811.jpg
昔(1960年代前後)の大口径レンズでは、似た特性
(弱点)を持つものも市販されてはいたが、それらは
一般的には「弱点」である為、その後の時代での改良が
進み、1980年代頃には、市販レンズで「ぐるぐるボケ」
が見られるものは、ほぼ皆無となった。


現代においては、あえて、その弱点を強調した設計だ。
この特性を持つ市販レンズは、数える程の機種数しか存在
せず、本レンズはその中の1本、そして私の所有範囲でも
僅かに4本(4機種)しか持っていない。

(参考:超裏技として、前述のような、昔の時代の大口径
レンズ等の中で、像面湾曲や非点収差の補正が行き届いて
いないものを選びだし、それを「補正レンズ入りマウント
アダプター」を介して一眼レフに装着すると、組み合わせ
によっては、軽い「ぐるぐるボケ」が発生する。
ただし、これに適した組み合わせを探すのは大変であるし、
また、一眼レフの光学ファインダーでは「ぐるぐるボケ」
を視認するのも困難だ。この手法は「似たような事は
出来るが、手間がかかりすぎる」という意味となる)

描写特徴等は掲載写真を見れば一目瞭然であろう、他者の
本レンズ等による一般的な作品や作例でも、当然、盛大に
「ぐるぐるボケ」を発生させたものばかりとなっている。
_c0032138_17511165.jpg
しかし、1点だけ注意点。本レンズや他の「ぐるぐるボケ」
レンズでは、「常にぐるぐるボケが発生する訳では無い」
という事実だ。これは、被写界深度を決める為の各種条件
を整えたとしても、やはり出る場合と出ない場合がある。

私は、現状「これはボケ質破綻条件と類似である」という
仮説を立てている、すなわち一般レンズでボケ質破綻が
出るケースを特定するのは難しいが、撮影技法上では撮影
条件を変えながら、ボケ質が良くなる状況を探して撮る。
しかし、本レンズや他のぐるぐるボケレンズでは、恐らくだが
逆に、ボケ質が悪くなる条件を整えた場合において、強い
ぐるぐるボケが発生するような気がしてならない。

これについては、高度な検証作業が必要だ。
沢山の撮影条件をもとに、数万枚から十数万枚を撮影して
みないとわからず、場合により、専用の解析ソフトをまた
自作しないとならないかもしれない。どう解析すべきか? 
という事自体も世の中には参考になる事例は皆無だ、だから
あくまで自力で全ての方法論を考え出さないとならない。

これらの話は、何年、あるいは十数年という時間がかかる、
まあつまり「研究」レベルの話である。
そう簡単なものでは無いが、ぼちぼち進めていく事にしよう。
世の中には、そこまで時間をかけないと、わからないような
高度で複雑で難解な事柄も色々とある。

たとえば、本レンズでも、ちょっと借りて何百枚か撮った
程度で、あれこれと長所短所を評価するなど、本来は
有り得ない話なのだ。まあだから、繰り返しになるが
「他人の評価はあてにしない、評価は必ず自分自身で行う」
とう結論となる。

----
では、今回ラストのシステム
_c0032138_17511701.jpg
レンズは、mEiKe 25mm/f1.8 (MK25F18M4/3)
(新品購入価格 約9,000円)(以下、Meike25/1.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

2019年に発売された、ミラーレス機APS-C型以下
マウント用のMF広角(準標準~標準画角相当)レンズ。

mEiKEと大文字小文字混じりのブランド(ロゴ)銘で
あるが、以下は「Meike」と記載する。

さて、本レンズは、ジェネリック気味のレンズにも
思えるが、その確証は無い。まあ、恐らくではあるが、
昔の(1970年代~1980年代)の小口径標準レンズの
設計をベースに、コンピューター光学設計により、
大半の部分が新設計されたものであろう。
_c0032138_17511867.jpg
描写力は可も無く不可も無し、昔の小口径標準ほどの
高い描写性能は持たないが、あまり不満は無い。

長所は、そうした普通に良く写るレンズでありながら
とても価格が安価な事だ。中国製等新鋭海外製レンズの
中でも安価な類であり、1万円を切る新品価格である。
(まあ、ヨンヌオ(YONGNUO)製で、もっと安価な
レンズもあるが、そちらはCANON製品の完全コピー品
であり、ちょっといろいろと、いわくつきだ。
本シリーズ第41回新鋭海外製レンズⅡ編参照)

この価格帯であれば、コスパは十分に良いとは言える
だろう(ただ、「とても良い」とは、ちょっと言い難い)

弱点だが、まず問題となるのは、MF操作性である、
具体的には、ピントリングが無限遠を超えてオーバーインフ
状態まで回ってしまう。例えば、近距離撮影をしている
状態で、遠方に被写体を見つけ、ピントリングを最大
(無限遠)まで廻して、止まった感触があれば、そこで
シャッターを切る、というMF技法が使えない。それでは
無限遠を超えている状態だから、少しづつピントリングを
戻して正確なピント合わせを行わなければならないのだ。

他にもMeike製品は何本か所有しているが、同様に
ピントリングの仕様がどうも怪しいものもある。
(例:最短撮影距離がスペック通りになっていない等)

これは何故であろうか?
恐らくだが、各社ミラーレス機に対応した製品ラインナップ
である為、そこで各社フランジバック長に若干の差異がある。
普通は、アダプター的な機構部品を用いてそれを交換する
事で、各社のマウントに対応するのだろうが、そのアダプター
での仕様のばらつきを均一化し(コストダウンし)、レンズ
鏡筒(ヘリコイド、ピントリング)側で、ある程度の余裕
(マージン)を持たせているのではなかろうか?

その根拠としては、本レンズはμ4/3機用であるが、これを
SONY Eマウント用アダプターで装着すると1mm程度の隙間
が生じてしまう、他のレンズではこういうケースはまず無い。
(注:規格上では、μ4/3とSONY Eは、2mm弱、フランジ
バック長が異なっている)

まあつまり、できるだけあまりマウント毎に仕様を変えず、
共用する事でコストを下げられる、という製造上の都合の
可能性がある、という事だ。ただ、そういう措置をした事で
いったいどの程度、コストが下がるのかは良くわからない。

個人的には、別に1000円高くなって1万円でも良いから、
もう少しピントリングの操作性仕様は、ちゃんと作りこんで
もらいたい訳だ。さもないと、本レンズはMF操作性の不満から
エンジョイ度が低くなって、あまり持ち出したいとは思わない
レンズとなってしまう。そういう状態だと、幾ばくかの値段で
安く買う、あるいは、高級レンズを高価に買ったとしても、
「気に入らないから使わない」という事となり、実用価値が
落ちて、その結果、実質コスパが極めて悪化してしまう。

まあ、私はレンズは全て実用品だと思っているので、
「使いたいと思えない」「使うに値しない」「面倒で使えない」
「希少で使う事ができない」といったレンズ群は、すべて
低評価になってしまう。また、そういう状況が予想される
場合は、そうしたレンズは最初から購入しない事にしている。
_c0032138_17511884.jpg
本Meike25/1.8は、そこまで色々考えるほどの大げさな
レンズは無いし、安価な価格帯も、それを物語っている。
MF操作性を不満に思わない、あるいは、それを回避できる
状況(例えば、時間を掛けて撮っても良い状況で、高精度の
ピーキング頼みに、じっくり、のんびりとピントを合わせて
撮るような、風景・静止被写体等)であれば使えるであろう。

描写力的には不満は少ないと思うので、まあ初級マニア層
向け、という感じのレンズであろうか。

----
では、今回の「新鋭海外製レンズⅢ編」は、このあたり迄で。
次回記事に続く。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>