本シリーズは、所有している銀塩コンパクトカメラ
(ハーフ判、35mm判、APS判)を順次紹介していく記事だ。
今回は1990年代のAPSコンパクトの特殊機を2台紹介する。
まずは、1機種目は「CONTAX Tix」である。
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1997年に発売された、APS判唯一(?)の「高級コンパクト」
28mm/F2.8のSonnar型単焦点レンズを搭載し、
チタン製ボデイ仕様で、定価は12万円と高額であった。
唯一に「?」としたのは、前記事で紹介した「FUJIFILM
EPION 1000 MRC TIARA ix TITANIUM」も、ぎりぎり
「APS高級コンパクト」と言えるかも知れない事からだ。
さて、本シリーズ記事では紹介機でのフィルム撮影は
行わず、デジタルのシミュレーター機を使う。
これは銀塩カメラの紹介記事での通例としているが、
特にAPSカメラにおいては、現在(2020年代)では、
APS用フィルム(IX240フィルム)は、入手も現像も
困難である。
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今回のシミュレーター機は、SONY α7を使用。
レンズは、CONTAX Distagon T* 25mm/F2.8を装着し、
APS-Cモードで撮影する、この時の換算画角は
約37.5mmとなりCONTAX Tixのそれに近くなる。
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まず、実は「高級コンパクト」とは定義が曖昧である。
銀塩時代においては、35mm判又はAPS(IX240)フィルム
を用いる、レンズ固定型の、いわゆる「コンパクト」
カメラにおいて・・
1)高性能(高描写力)のレンズ(単焦点、ズームは不問)
を搭載している事。
2)AF/MF切り替え、絞り優先AE、露出補正など、
カメラを自在に設定できる要素が多い事。
3)チタンやマグネシウム等の高級素材を外装に用い、
耐久性に優れる事。(又は、美しく高級感が高い事)
4)それらの結果、高額なカメラである事。
5)”次々に新製品が出ない”という暗黙の了解があり、
長い期間使える事。(=仕様老朽化寿命が長い)
といった特徴を持つカメラを言う(と、私は定義している)
これらの条件を満たす機種はさほど多くなく、その殆どは
1990年代に発売された銀塩AFコンパクト機だ。
CONTAX Tシリーズ(T?,T2,T3,Tvs/Ⅱ/Ⅲ,Tix)
RICOH GRシリーズ(GR1,GR1s,GR1V,GR10?,GR21)
MINOTA TC-1シリーズ(TC-1,TC-1 Limited)
NIKON Tiシリーズ(28Ti,35Ti)
FIJIFILM KLASSE シリーズ(KLASSE/W/S)、Tiara ix?
LEICA miniluxシリーズ(minilux?,miniluxzoom?)
なお、?を付けた機種は、高級コンパクトの全ての要件を
満たしておらず、微妙な立場である。
他にも、海外製「MINOX 35GT」シリーズや、やや古いが
Rollei(ローライ)35シリーズ(本シリーズ第1回記事)
も、ぎりぎりで高級コンパクトにカテゴライズされる
かも知れない。
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それと、「どの機種が高級コンパクトの最初か?」
という話はよくあるのだが、まあ、歴史的観点からは、
CONTAX T2(1990年)であると思う。
より古い、ローライ35は確かに高価なコンパクトだが、
上記にあげた高級コンパクトの条件を全て含んではいない。
ただ、実際には「高級コンパクト」という名称が生まれ、
そうしたカテゴリーも明確化されたのは、RICOH GR1
(1996年)あたりだったようにも思える。
本シリーズ記事では、そのあたり(どの機種が最初
だったか)は明確化せず、適宜説明・紹介をしている
ので念の為。(例:GR1を高級コンパクトの走りである、
と言う事もある)
ちなみに上記の内、チタン外装を施した高級コンパクト
機は、全てという訳では無く、およそ半数くらいである。
個人的にはチタン外装カメラは好みであった時期もあり、
その多くを銀塩時代に所有していた事があるが、
デジタル時代に入った頃に、ごく一部を残して、譲渡・
処分してしまっている。
本シリーズ記事では、その何台かが紹介されるが、
残存数は少ない。
「無駄に高いカメラだ」と反発する考えを持っていた
時期もあったし、デジタル時代に残す必要性もあまり
感じなかったからだ。
でも、デジタル時代において使えるか使えないか?
という視点よりも、歴史的価値が高いカメラばかり
であったので、譲渡・処分せずに、全て残しておく
べきだったかも知れない、と、やや後悔している。
なお、チタンはその素材自体の価格の高さよりも、
加工の難しさでコストが上がったと聞いている。
そして、これはあくまでマニア間での噂だが・・
1995年に起こった「阪神淡路大震災」により、
大手のチタン加工工場が被害を受けた、という話だ、
これは信頼できる確実な情報だという保証は無いの
だが、マニアの話は、その後も続き、
マ「今後はチタン外装のカメラは減ってくるかも
しれない。
だから、今のうちに、チタンカメラを押さえて
(買って)おくのが良い」
という事であったが・・
確かに震災後にチタンカメラは減ったが、CONTAX等の
一部のメーカーでは引き続き新製品のチタンカメラが
出ていたし、それと1990年代の「第一次中古カメラ
ブーム」の後期においては、投機的(つまり希少な
カメラを高く転売する)な要素が大きかった為、
チタン製カメラの価格を吊り上げる為に、意図的に
流されたデマかも知れない。つまり戦国時代の忍者が
行っていた「流言」(民衆や武士に、事実とは異なる
噂を流し、政治的又は戦略的に有利な状況を作り出す)
と同じ類のものかも知れなかったのだ。
なお、チタン製カメラは、どうしても高価になるが、
材料費や加工費以上の「付加価値」(=利益)も、
そこには乗ってくる。
だから、ブランド力のある「ニコン」「コンタックス」
「ライカ」等か、又は歴史的な名機と呼ばれている
機種の限定生産品の場合でのみ、チタン製カメラは高く
売る事ができ、これは他社との差別化戦略の一環でも
あった、つまり、ブランド力を最大に活かせる市場
戦略であるという事だ。
(注:LEICA miniluxは、チタン外装では無く、色を
チタン色に似せた塗装を施してある)
なお、それらの「ブランド力」は未だなお、シニア層
等には有効であり、古いカメラやレンズにおいても、
それらのブランド力で、不当に中古相場が上がって
しまっている。
これはあまり好ましく無い傾向であり、ブランド信奉
自体も、それぞれの歴史、とりまく状況、絶対的な
性能判断などをしっかり学んで理解すれば、必要以上に
「信奉」する意味は無い事も理解できるであろう。
つまりブランドに拘るのは、現代では初級中級者ばかり
の状況で、カメラや、とりまく様々な状況への知識が
少ない事が露呈されてしまう事にも繋がるので要注意だ。
例えば、現代において、他社機の現状など何も知らない
のに「やはり、XX社のカメラやレンズは最高だのう」
等と言ったら、格好悪いばかりか、その人のカメラ
知識への周囲からの信用度も落としてしまう訳だ。
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さて、余談が長くなってきたので、高級コンパクト機の
話に戻る。
ちなみに、デジタル時代のコンパクト機においては、
「高級」の定義は、さらに曖昧であるが、概ね、
2010年代の、大型センサー(1型~APS-C~フルサイズ)
を搭載した高価な機種群を「高級デジタルコンパクト」
と呼ぶ場合もある。
が、これらは、現代で「そう言える」とは決め付けれず、
後年において、より長いスパンでの評価で、「高級
デジタルコンパクト」を定義するのが良いであろう。
それと、デジタルコンパクト機では、チタン外装の
ものは殆ど無い。
さて、本機「CONTAX Tix」は、唯一(?)のAPS高級
コンパクトである。
APS機で唯一かどうかは微妙だが、チタン外装の高級
コンパクト機である事は、まあ間違い無い。
なお「T」は大文字だが「ix」は小文字だ。
TがCONTAXの高級機のメインシリーズ名であり、
ixやvsはサブ名なので、「Tix」や「Tvs」となる。
「TIX」や「TVS」表記は間違い。実際の機体上で
機種名を見れば、上記のように大きく書いてある。
(だから、間違い表記がある場合は、「その機体を
所有していないのに情報を提示している」と判断し、
その情報全般の信憑性を疑うようにしている)
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本機Tixの仕様だが、
APS(IX240)フィルム使用、H/C/P切り替え可
レンズ 28mm/F2.8 (Cモード時約40mm相当の画角)
AF方式 パッシブ式
最短撮影距離 35cm
最高シャッター速度 1/1000秒(注:絞り開放時は
1/500秒)露出補正 ±2EV 1/3段ステップ
プログラムAE、絞り優先AE使用可
フラッシュ内蔵(GNは不明、計算上ではGN6程度?)
IX240フィルムに、絞り値やシャッター速度の記録可
使用電池 CR2 x1
重量 225g
となっていて、まあ、高級コンパクトの名に恥じない
仕様だ。
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さて、本機Tix の長所だが、
まず、APS唯一の高級コンパクトであるという希少性と
歴史的価値やマニアック度の高さだ。
それと、APS機の中では最高画質機である事も、まず
間違いない。
ちなみに、私の評価では、第一位が本機CONTAX Tix、
そして第二位が前記事で紹介したCANON IXY 310だ。
なお、後年2001年に発売された「CONTAX T3」
(後日紹介予定)と同等のレンズ性能と見なせば、
やはりフィルム面積が2倍もある35mm判のT3の方が、
本機Tixよりも高画質であろう。
本機の高画質は、あくまで「APS機の中で」という
事であり、過剰な評価は禁物だ。
それと、コンパクト機のレンズシャッター機の中では、
速い方である、最高シャッター速度1/1000秒も、
長所と言えるであろう。
(ダブル・ビトウィーン式シャッターと呼ばれた)
ただ、これは絞り優先AEでの絞り開放時には、
レンズシャッターの動く距離が長くなる為(動作が
間に合わずに)最高1/500秒に制限されてしまう。
これは機構上の原理的な問題点であるので、やむを
得ないのだが、もし開放でも高速シャッターが使えた
ならば、絞り優先機能とあいまって、日中でも絞りを
開けて使えた事であろう。
逆に言えば、絞りを開けた際に、特に高速シャッター
が必要となるのに、「絞り開放では高速シャッターが
得られない」という矛盾点は、ちょっとイラっとする
場合もある。
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他、絞り値、シャッター速度、露出補正値等をIX240
フィルムに記録できる機能は有益だが、まあでも、
本機Tixの場合は、広角気味のレンズでもある事から、
絞り値を多少変えても被写界深度の変化は少ない。
それと、これらの「IX」情報はDPE店でプリント時に、
写真の裏面に印刷してくれない限り、(つまり、その
機能を持つプリンターでなくてはならない)後で
フィルム内に記録された情報を見る事は容易では無い。
それから、レンズのフードだが、CONTAX Tシリーズ
機種のいくつかは、オプションのアダプターリング
を介して、フィルターや専用フードを装着でき、
Tixに関してもこのオプションがある。
ただし、CONTAX T3等では、アダプターをつけて
フードもつけると完全に沈胴(ちんどう、レンズ等の
突起物がカメラボデイに収納可能である事)され無い、
という課題がある。
が、本機Tixでは、フードを逆付けする事で、本体に
沈胴可能だ。
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それから、本機Tix の弱点だが、
まずは前述の絞り開放でのシャッター速度の制限で
あろう。ここは「技術的な矛盾」が気に入らない。
(つまり、新技術による課題の解決プロセスが、
正当な方向性を持っていない)
それから、高価すぎる事か。
他のAPS機が定価が3~4万円前後であった中で、
12万円はさすがに高すぎる。
MRC(フィルム途中交換)機能が(正しく)搭載
されていないが・・
まあ、前回のAPSコンパクト機の記事でも書いたが、
その機能を使うくらいならば、複数のAPS機を同時に
持ち出す事がマニア的な解決手段であり、この点は
どうでも良い。
そして、この点は、他のAPS機も同様だが、現在
2020年代においては、APSのフィルムは入手困難、
(製造中止)、また現像も困難という事だ。
発売から僅かに10年程の2000年代後半で、もう使用
が困難、そして発売後20年で、ほぼ使用不能と
なってしまったのは、APS機の悲運であると言えよう。
唯一のAPS高級コンパクトの本機Tixも、今となっては、
単なる歴史的カメラとして、飾っておくしか無い。
さて、最後に本機の評価だ。
CONTAX Tix 1997年
【基本・付加性能】★★★☆
【描写力・表現力】★★★★
【操作性・操作系】★★★
【質感・高級感 】★★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★☆
【購入時コスパ 】★ (中古購入価格50,000円)
【完成度(当時)】★★★☆
【歴史的価値 】★★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.5点
なかなかの高得点であり、APS機では希少な名機であろう、
ただ、いくら評価点が高くても、現在において使用が
困難であれば何の意味も無い。カメラはあくまで写真を
撮る為の道具であるからだ。
もし極めて安価になった中古等を見かけても購入する
必要は全く無いであろう、ただ飾っておくだけでは
何も面白く無い。
「チタン外装の高級感は捨てがたい」とは言えるが、
その点も「コレクター的視点」の話であって、実際に
写真を撮る道具としての価値を捉えるカメラマニアの
視点とは、あくまで別次元の価値感覚だ。
---
では、今回の2機種目だ、こちらは特殊カメラである。
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OLYMPUS NEWPIC M10 Macro
1998年に発売された「超接写」APS単焦点コンパクト機。
現代のデジタル・コンパクト機の場合は、レンズ前
数cm程度の超接写が可能であるが、銀塩コンパクト機
では、寄れたとしてもレンズ前30cm程度が限界
(技術的、仕様的、性能的)であった。
本機M10では、10cmまでの接写が可能であり、当時と
しては画期的な性能を持ったカメラである。
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シミュレーターは、SONY NEX-7(APS-C機)と、OLYMPUS OM-SYSTEM 50mm/F3.5 Macroを用い、
必ずフラッシュを使って撮影する。
その(フラッシュ必須)理由については、本機M10の
動作原理が関係するので後述する。
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本機はOLYMPUS銘であるが、このカメラのアイデアは
「GOKO マクロマックス」(FR-2200,FR-350)が
最初である。
うち、FR-2200は、APSフィルム(IX240)使用機であり、
本機M10のベースとなったカメラである。
(FR-350は35mm判フィルムを使用。後にズーム機も
発売された)
GOKOとは聞き慣れないメーカー名だとは思うが、
「三星光機」として1950年代に設立、後に
「GOKOカメラ株式会社」として、1960~1980年代
には、8ミリフィルム編集機のおよそ85%の、世界
シェアを獲得したメーカーだ。
8mmフィルムが廃れた後は、コンパクトカメラの
生産工場を作り、1980年代~1990年代の、各社の
コンパクト機のOEM生産を手がけ、カメラ生産台数
世界一にもなったという、隠れた超巨大企業だ。
OEM中心の為、自社ブランドの製品は少ないが、
1984年には「UF2」というパンフォーカス
(固定焦点)型のカメラを発売している。
これはフラッシュ使用時に近距離設定がされる仕様で
このアイデアが発展して、その後の「フラッシュ光に
より撮影する」という1990年代での「マクロマックス」
の発想に繋がっていったのだろう。
また、GOKOでは、2000年代に本機と同じ原理を
用いた、一眼レフ用のフラッシュ付きマクロレンズ
「エスカルゴ」や、LED光源内蔵型特殊マクロレンズを
販売していたが、現代では入手がやや困難かも知れない。
本機OLYMPUS NEWPIC M10 Macro は、FR-2200の
オリンパス版であるが、GOKOのアイデアを元に
オリンパスで生産したのではなく、むしろその逆で
あろう、GOKOによるOEM生産品をオリンパス銘で
販売したのだと思われる。
ちなみに、GOKOマクロマックスFR-2200も所有して
いたのだが、本機とまったく同じ性能だったので、
それは譲渡して本機を残した。
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さて、以下は本機M10での近接撮影の原理であるが、
ウルトラマクロモード(10cm~30cm)に絞って
解説する。
これを理解できれば、他のスーパーマクロモードも
同様だ。
ウルトラマクロモードでは、本来25mm/F6.7の
レンズが、F44(!)まで絞り込まれる。
こんなに絞ると露出が合わないが、それはさておき、
この際のAPS(IX240)フィルムでの被写界深度は、
仮にAPSフィルムの許容錯乱円を0.03mmとすれば、
撮影距離20cmで、およそ20cmの(深度)範囲となる。
厳密な計算をすると許容錯乱円も、前方被写界深度
と後方被写界深度も、ぴったりとは合わないのだが、
その辺はアバウトに判断すれば・・ この時点で、
「約10cmから30cmの距離にある、全ての被写体」
にピントが合う計算となる。
問題は露出だ、F44はさすがに暗い。
だが、ここはGOKO伝統の「フラッシュ撮り」の
アイデアがある。
正確な仕様は不明であるが、GN(ガイドナンバー)
が6程度の内蔵フラッシュを近接で発光すると、
ISO400のフィルムの場合、フラッシュ到達距離は、
GN6/F44x√(400/100)=約27cm となる。
つまり、10~約30cm程度の範囲は、フラッシュの
光だけで撮れる計算となる。
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この際、通常のシャッター速度による露出値は無効だ、
F44では暗すぎて、真っ黒にしか写らない。
したがってフラッシュの光だけが頼りであり、
フラッシュが発光する時間が、それイコール、
シャッター速度となる。
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フラッシュは、およそ1万分の1秒だけ光る。
よって、このシステムにおいては、1/10000秒超高速
シャッター(速度)と等価であり、その結果、どんなに
速く動く被写体も静止させて撮る事ができる。
このシステムの発売当時は「ミルク・クラウン」
(牛乳などの粘性がある液体に、一滴を垂らすと、
一瞬だけ王冠状の形になる)が撮れる、とも言われ
ていたが、まあ原理的には確かに可能ではあるが、
その一瞬を撮るのは、事実上ほぼ不可能であろう。
(フラッシュ撮影ではチャージ(充電)の時間が
ある為、連写は出来ない)
で、例えば扇風機を「強」で回転させて、その羽根を
本機で撮って「わ~! 羽根が止まって写るよ」等と、
つまらない遊びをやっていたのだが(汗)
まあ、あまり、高速シャッターを必要とする被写体は、
一般撮影(特に近接撮影)では無かった、というのが
実際の所であった。
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さて、今回のシミュレーター機では、ミラーレス機
NEX-7に(オリンパス繋がりで)OM50mm/F3.5の
マクロレンズを装着し、それをF16の最大まで絞って
使用している。
OM50/3.5の最短撮影距離は約23cm、最短撮影時での
被写界深度は、F16の時に計算上で約2cmと、やや
浅すぎるが、少し距離を離して30cm程度で撮れば、
そこそこ本機M10の雰囲気が出せる。
NEX-7はSONYのNEX/αシリーズでは希少なフラッシュ
内蔵機であり、本シミュレーションの目的に適する。
NEX-7のガイドナンバー(GN)は6であって、これは
近接時にF16では光が強すぎるので、調光補正
(マイナス)とISO感度の調整で、本機M10とだいたい
同じ雰囲気となるようにしている。
なお、シミュレート撮影では、調光補正を使うよりも
ISO感度が常時直接変更可能であるという、NEX-7の
特徴を活かして、ISOで光量を調整する(GNまたは
調光補正は固定)方が楽であった。
フラッシュの到達距離は、
ガイドナンバー÷絞り値x√(ルート)(ISO感度÷100)
で求まる、これは暗算も可能な、簡単な公式だが、
(注:そもそも計算しやすいように、GNの単位が
決められている)わざわざ計算をしなくても、原理が
わかっていれば、ISO感度を変更すると、フラッシュの
被写体に当たる強さも変わる事が理解できるだろう。
なお、M10を「ウルトラマクロモード」で使用する場合
ではなく、スーパーマクロモードでは、撮影範囲が
30cm~1mとなり、絞り値も、もう少し明るくなる。
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本機M10の長所だが、銀塩コンパクト機では、唯一無二
と言うべき、希少な近接撮影専用機である事だ。
そして、その実現アイデアのユニークさは高く評価したい。
35mm判機では、一眼レフ+マクロレンズで代替できる
為、その固有の特徴が活かせないが、APS機とした事で、
むしろ個性が際立ったし、APS機の利用目的(範囲)を
拡大するにも役立ったカメラである。
まあ、そういう意味では、私も遊び要素の強い撮影で
良く使ったし、結果的にエンジョイ度の評価も高く
なるカメラであった。
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本機M10の弱点だが、超近接撮影ではファインダーとの
パララックス(視差)が発生する事だ。
これは、コンパクト機やレンジファインダー機では、
レンズの位置から写る範囲と、光学ファインダーから
見える範囲が異なるという問題である。
遠距離撮影では両者ほぼイコールだが、近接撮影に
なればなるほど、パララックス(視差)が顕著になる。
この問題から、ライカや旧コンタックス、ベッサ等の
レンジファインダー機では、レンズ交換が出来ても、
近接撮影が難しい。
よって、レンズの仕様(正確には距離計連動範囲)に
制限をかけざるを得ず、最短撮影距離が70~90cmと
極めて長い。
広角レンズを使った場合、この最短の長さは作画の
自由度からすると致命的に近い問題となるのだ。
(特に、現代的な撮影技法には向かない為、近年に
おいてはミラーレス機用の、レンジ機用レンズの
アダプターには、ヘリコイドが内蔵されて近接撮影を
補助する仕様の物も多い。(ただし、結構高価だ)
まあ、現代の技法においては当然のニーズであろう。
よく銀塩時代は皆、文句も言わず、これらの最短撮影
距離の長いレンズを使用していたものだと思う。
まあ、だからこそ中遠距離を平面的に普通に撮るだけの
古風な撮影技法しか行われなかったのかも知れない)
で、レンジ機の話はともかく、本機M10においては
パララックスの問題の解決の為、本機やマクロマックス
には専用の針金のフレームが付属していた。
これが撮影範囲を表すという事だが、これでは大げさ
(持ち運びが不便、格好悪い等)な場合、ストラップ
に別途ついていた、10cmと30cmを表す目盛りを
用いて簡易的に撮影距離を知る事ができる。
まあ、撮影範囲の方はカンでも十分であろうという
感じだが、実際には構図がズレたりして、意外にも
結構難しかった。
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それと、描写力は、あまり高くは評価できない。
原理上、極端に絞り込んだ画像は、立体感が無い
パンフォーカス撮影だし、フラッシュ使用により、
さらに平面的な印象の写りとなる。
(光源が均一に、しかも同じ色味で当たるので
平板な写りだ)
銀塩一眼レフのマクロレンズとは正反対とも言える
傾向の描写であるので、一眼レフでの近接撮影の
ような写真が撮れる事を想像していたビギナー層は、
「あれっ?」と、少々戸惑ったかも知れない。
まあでも、このカメラの原理や特性がわかっていれば、
写りがどうであっても、むしろ、そのアイデア自体に
高い評価を下す事ができるであろう。
余談だが、この「フラッシュ光だけで撮影する」
という発想は、私も結構インパクトを受け、その後、
GR DIGITAL(2005年)が発売された際、GRDでは
フラッシュが全速同調できて、露出やISO感度や
フラッシュの調光などの設定操作の自由が高かった
特徴を生かす為に「擬似夜景撮影」という技法を
考え出した。
そこでは滅茶苦茶アンダーに露出を設定した状態で、
ごく軽いフラッシュを焚くと、近接した被写体だけを
暗夜の中に際立たせるような写真となり、この技法を
生み出す為に設定を色々と変えて実験しながら良く
撮っていた。
そして、この新撮影技法の原理は、本機M10や、
GOKOマクロマックスに原点があったのだ。
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さて、最後に本機M10の評価だ。
OLYMPUS NEWPIC M10 Macro 1998年
【基本・付加性能】★★★☆
【描写力・表現力】★★
【操作性・操作系】★★
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★★★
【購入時コスパ 】★★☆ (新品購入価格19,000円)
【完成度(当時)】★★★
【歴史的価値 】★★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.1点
マニアック度と歴史的価値が高く評価された。
本来は「アイデア度」という項目があれば、それは
満点に近いカメラだとは思うが、まあ、アイデアが
良くても、写り的にはたいした事が無く、常に
フラッシュを焚いた平板な写真にしかならないので、
全体的には、あまり過剰な評価は禁物であろう。
なお、APS機の本機M10やGOKO FR-2200は現代では
もう使い道が無いが、35mm判のGOKO FR-350で
あれば、まだ使えるとは思う。
FR-350は、デジタル時代に入っても、比較的長期に
わたって生産されていたカメラであり、丹念に探せば
見つかるかも知れない。
また、少し前述した、GOKO「エスカルゴ」(本機と
同様の原理の一眼レフ用システム)も、もしかして
現行製品かも知れず、メーカー直販が出来るかも
知れない。(?未調査、要確認)
さて、本記事はこのあたりまでで、
同時にAPSコンパクト機の紹介もここまでだ。
APS時代末期には、多数のAPS機の新品在庫が格安で
投売りされていたので、それらを多く購入したが、
後年に残す価値のあった機体は少なく、その殆どは
贈答品のような形で譲渡してしまっていた。
よって、手元に残っていたAPS機は、僅かに4機種
だけだったが、その全てが後年に残すべき歴史的な
価値のあるAPSカメラだ。
次回コンパクト記事からは35mm判機の紹介に戻ろう。
(ハーフ判、35mm判、APS判)を順次紹介していく記事だ。
今回は1990年代のAPSコンパクトの特殊機を2台紹介する。
まずは、1機種目は「CONTAX Tix」である。
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28mm/F2.8のSonnar型単焦点レンズを搭載し、
チタン製ボデイ仕様で、定価は12万円と高額であった。
唯一に「?」としたのは、前記事で紹介した「FUJIFILM
EPION 1000 MRC TIARA ix TITANIUM」も、ぎりぎり
「APS高級コンパクト」と言えるかも知れない事からだ。
さて、本シリーズ記事では紹介機でのフィルム撮影は
行わず、デジタルのシミュレーター機を使う。
これは銀塩カメラの紹介記事での通例としているが、
特にAPSカメラにおいては、現在(2020年代)では、
APS用フィルム(IX240フィルム)は、入手も現像も
困難である。
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レンズは、CONTAX Distagon T* 25mm/F2.8を装着し、
APS-Cモードで撮影する、この時の換算画角は
約37.5mmとなりCONTAX Tixのそれに近くなる。
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銀塩時代においては、35mm判又はAPS(IX240)フィルム
を用いる、レンズ固定型の、いわゆる「コンパクト」
カメラにおいて・・
1)高性能(高描写力)のレンズ(単焦点、ズームは不問)
を搭載している事。
2)AF/MF切り替え、絞り優先AE、露出補正など、
カメラを自在に設定できる要素が多い事。
3)チタンやマグネシウム等の高級素材を外装に用い、
耐久性に優れる事。(又は、美しく高級感が高い事)
4)それらの結果、高額なカメラである事。
5)”次々に新製品が出ない”という暗黙の了解があり、
長い期間使える事。(=仕様老朽化寿命が長い)
といった特徴を持つカメラを言う(と、私は定義している)
これらの条件を満たす機種はさほど多くなく、その殆どは
1990年代に発売された銀塩AFコンパクト機だ。
CONTAX Tシリーズ(T?,T2,T3,Tvs/Ⅱ/Ⅲ,Tix)
RICOH GRシリーズ(GR1,GR1s,GR1V,GR10?,GR21)
MINOTA TC-1シリーズ(TC-1,TC-1 Limited)
NIKON Tiシリーズ(28Ti,35Ti)
FIJIFILM KLASSE シリーズ(KLASSE/W/S)、Tiara ix?
LEICA miniluxシリーズ(minilux?,miniluxzoom?)
なお、?を付けた機種は、高級コンパクトの全ての要件を
満たしておらず、微妙な立場である。
他にも、海外製「MINOX 35GT」シリーズや、やや古いが
Rollei(ローライ)35シリーズ(本シリーズ第1回記事)
も、ぎりぎりで高級コンパクトにカテゴライズされる
かも知れない。
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という話はよくあるのだが、まあ、歴史的観点からは、
CONTAX T2(1990年)であると思う。
より古い、ローライ35は確かに高価なコンパクトだが、
上記にあげた高級コンパクトの条件を全て含んではいない。
ただ、実際には「高級コンパクト」という名称が生まれ、
そうしたカテゴリーも明確化されたのは、RICOH GR1
(1996年)あたりだったようにも思える。
本シリーズ記事では、そのあたり(どの機種が最初
だったか)は明確化せず、適宜説明・紹介をしている
ので念の為。(例:GR1を高級コンパクトの走りである、
と言う事もある)
ちなみに上記の内、チタン外装を施した高級コンパクト
機は、全てという訳では無く、およそ半数くらいである。
個人的にはチタン外装カメラは好みであった時期もあり、
その多くを銀塩時代に所有していた事があるが、
デジタル時代に入った頃に、ごく一部を残して、譲渡・
処分してしまっている。
本シリーズ記事では、その何台かが紹介されるが、
残存数は少ない。
「無駄に高いカメラだ」と反発する考えを持っていた
時期もあったし、デジタル時代に残す必要性もあまり
感じなかったからだ。
でも、デジタル時代において使えるか使えないか?
という視点よりも、歴史的価値が高いカメラばかり
であったので、譲渡・処分せずに、全て残しておく
べきだったかも知れない、と、やや後悔している。
なお、チタンはその素材自体の価格の高さよりも、
加工の難しさでコストが上がったと聞いている。
そして、これはあくまでマニア間での噂だが・・
1995年に起こった「阪神淡路大震災」により、
大手のチタン加工工場が被害を受けた、という話だ、
これは信頼できる確実な情報だという保証は無いの
だが、マニアの話は、その後も続き、
マ「今後はチタン外装のカメラは減ってくるかも
しれない。
だから、今のうちに、チタンカメラを押さえて
(買って)おくのが良い」
という事であったが・・
確かに震災後にチタンカメラは減ったが、CONTAX等の
一部のメーカーでは引き続き新製品のチタンカメラが
出ていたし、それと1990年代の「第一次中古カメラ
ブーム」の後期においては、投機的(つまり希少な
カメラを高く転売する)な要素が大きかった為、
チタン製カメラの価格を吊り上げる為に、意図的に
流されたデマかも知れない。つまり戦国時代の忍者が
行っていた「流言」(民衆や武士に、事実とは異なる
噂を流し、政治的又は戦略的に有利な状況を作り出す)
と同じ類のものかも知れなかったのだ。
なお、チタン製カメラは、どうしても高価になるが、
材料費や加工費以上の「付加価値」(=利益)も、
そこには乗ってくる。
だから、ブランド力のある「ニコン」「コンタックス」
「ライカ」等か、又は歴史的な名機と呼ばれている
機種の限定生産品の場合でのみ、チタン製カメラは高く
売る事ができ、これは他社との差別化戦略の一環でも
あった、つまり、ブランド力を最大に活かせる市場
戦略であるという事だ。
(注:LEICA miniluxは、チタン外装では無く、色を
チタン色に似せた塗装を施してある)
なお、それらの「ブランド力」は未だなお、シニア層
等には有効であり、古いカメラやレンズにおいても、
それらのブランド力で、不当に中古相場が上がって
しまっている。
これはあまり好ましく無い傾向であり、ブランド信奉
自体も、それぞれの歴史、とりまく状況、絶対的な
性能判断などをしっかり学んで理解すれば、必要以上に
「信奉」する意味は無い事も理解できるであろう。
つまりブランドに拘るのは、現代では初級中級者ばかり
の状況で、カメラや、とりまく様々な状況への知識が
少ない事が露呈されてしまう事にも繋がるので要注意だ。
例えば、現代において、他社機の現状など何も知らない
のに「やはり、XX社のカメラやレンズは最高だのう」
等と言ったら、格好悪いばかりか、その人のカメラ
知識への周囲からの信用度も落としてしまう訳だ。
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話に戻る。
ちなみに、デジタル時代のコンパクト機においては、
「高級」の定義は、さらに曖昧であるが、概ね、
2010年代の、大型センサー(1型~APS-C~フルサイズ)
を搭載した高価な機種群を「高級デジタルコンパクト」
と呼ぶ場合もある。
が、これらは、現代で「そう言える」とは決め付けれず、
後年において、より長いスパンでの評価で、「高級
デジタルコンパクト」を定義するのが良いであろう。
それと、デジタルコンパクト機では、チタン外装の
ものは殆ど無い。
さて、本機「CONTAX Tix」は、唯一(?)のAPS高級
コンパクトである。
APS機で唯一かどうかは微妙だが、チタン外装の高級
コンパクト機である事は、まあ間違い無い。
なお「T」は大文字だが「ix」は小文字だ。
TがCONTAXの高級機のメインシリーズ名であり、
ixやvsはサブ名なので、「Tix」や「Tvs」となる。
「TIX」や「TVS」表記は間違い。実際の機体上で
機種名を見れば、上記のように大きく書いてある。
(だから、間違い表記がある場合は、「その機体を
所有していないのに情報を提示している」と判断し、
その情報全般の信憑性を疑うようにしている)
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APS(IX240)フィルム使用、H/C/P切り替え可
レンズ 28mm/F2.8 (Cモード時約40mm相当の画角)
AF方式 パッシブ式
最短撮影距離 35cm
最高シャッター速度 1/1000秒(注:絞り開放時は
1/500秒)露出補正 ±2EV 1/3段ステップ
プログラムAE、絞り優先AE使用可
フラッシュ内蔵(GNは不明、計算上ではGN6程度?)
IX240フィルムに、絞り値やシャッター速度の記録可
使用電池 CR2 x1
重量 225g
となっていて、まあ、高級コンパクトの名に恥じない
仕様だ。
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まず、APS唯一の高級コンパクトであるという希少性と
歴史的価値やマニアック度の高さだ。
それと、APS機の中では最高画質機である事も、まず
間違いない。
ちなみに、私の評価では、第一位が本機CONTAX Tix、
そして第二位が前記事で紹介したCANON IXY 310だ。
なお、後年2001年に発売された「CONTAX T3」
(後日紹介予定)と同等のレンズ性能と見なせば、
やはりフィルム面積が2倍もある35mm判のT3の方が、
本機Tixよりも高画質であろう。
本機の高画質は、あくまで「APS機の中で」という
事であり、過剰な評価は禁物だ。
それと、コンパクト機のレンズシャッター機の中では、
速い方である、最高シャッター速度1/1000秒も、
長所と言えるであろう。
(ダブル・ビトウィーン式シャッターと呼ばれた)
ただ、これは絞り優先AEでの絞り開放時には、
レンズシャッターの動く距離が長くなる為(動作が
間に合わずに)最高1/500秒に制限されてしまう。
これは機構上の原理的な問題点であるので、やむを
得ないのだが、もし開放でも高速シャッターが使えた
ならば、絞り優先機能とあいまって、日中でも絞りを
開けて使えた事であろう。
逆に言えば、絞りを開けた際に、特に高速シャッター
が必要となるのに、「絞り開放では高速シャッターが
得られない」という矛盾点は、ちょっとイラっとする
場合もある。
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フィルムに記録できる機能は有益だが、まあでも、
本機Tixの場合は、広角気味のレンズでもある事から、
絞り値を多少変えても被写界深度の変化は少ない。
それと、これらの「IX」情報はDPE店でプリント時に、
写真の裏面に印刷してくれない限り、(つまり、その
機能を持つプリンターでなくてはならない)後で
フィルム内に記録された情報を見る事は容易では無い。
それから、レンズのフードだが、CONTAX Tシリーズ
機種のいくつかは、オプションのアダプターリング
を介して、フィルターや専用フードを装着でき、
Tixに関してもこのオプションがある。
ただし、CONTAX T3等では、アダプターをつけて
フードもつけると完全に沈胴(ちんどう、レンズ等の
突起物がカメラボデイに収納可能である事)され無い、
という課題がある。
が、本機Tixでは、フードを逆付けする事で、本体に
沈胴可能だ。
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まずは前述の絞り開放でのシャッター速度の制限で
あろう。ここは「技術的な矛盾」が気に入らない。
(つまり、新技術による課題の解決プロセスが、
正当な方向性を持っていない)
それから、高価すぎる事か。
他のAPS機が定価が3~4万円前後であった中で、
12万円はさすがに高すぎる。
MRC(フィルム途中交換)機能が(正しく)搭載
されていないが・・
まあ、前回のAPSコンパクト機の記事でも書いたが、
その機能を使うくらいならば、複数のAPS機を同時に
持ち出す事がマニア的な解決手段であり、この点は
どうでも良い。
そして、この点は、他のAPS機も同様だが、現在
2020年代においては、APSのフィルムは入手困難、
(製造中止)、また現像も困難という事だ。
発売から僅かに10年程の2000年代後半で、もう使用
が困難、そして発売後20年で、ほぼ使用不能と
なってしまったのは、APS機の悲運であると言えよう。
唯一のAPS高級コンパクトの本機Tixも、今となっては、
単なる歴史的カメラとして、飾っておくしか無い。
さて、最後に本機の評価だ。
CONTAX Tix 1997年
【基本・付加性能】★★★☆
【描写力・表現力】★★★★
【操作性・操作系】★★★
【質感・高級感 】★★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★☆
【購入時コスパ 】★ (中古購入価格50,000円)
【完成度(当時)】★★★☆
【歴史的価値 】★★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.5点
なかなかの高得点であり、APS機では希少な名機であろう、
ただ、いくら評価点が高くても、現在において使用が
困難であれば何の意味も無い。カメラはあくまで写真を
撮る為の道具であるからだ。
もし極めて安価になった中古等を見かけても購入する
必要は全く無いであろう、ただ飾っておくだけでは
何も面白く無い。
「チタン外装の高級感は捨てがたい」とは言えるが、
その点も「コレクター的視点」の話であって、実際に
写真を撮る道具としての価値を捉えるカメラマニアの
視点とは、あくまで別次元の価値感覚だ。
---
では、今回の2機種目だ、こちらは特殊カメラである。
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1998年に発売された「超接写」APS単焦点コンパクト機。
現代のデジタル・コンパクト機の場合は、レンズ前
数cm程度の超接写が可能であるが、銀塩コンパクト機
では、寄れたとしてもレンズ前30cm程度が限界
(技術的、仕様的、性能的)であった。
本機M10では、10cmまでの接写が可能であり、当時と
しては画期的な性能を持ったカメラである。
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必ずフラッシュを使って撮影する。
その(フラッシュ必須)理由については、本機M10の
動作原理が関係するので後述する。
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「GOKO マクロマックス」(FR-2200,FR-350)が
最初である。
うち、FR-2200は、APSフィルム(IX240)使用機であり、
本機M10のベースとなったカメラである。
(FR-350は35mm判フィルムを使用。後にズーム機も
発売された)
GOKOとは聞き慣れないメーカー名だとは思うが、
「三星光機」として1950年代に設立、後に
「GOKOカメラ株式会社」として、1960~1980年代
には、8ミリフィルム編集機のおよそ85%の、世界
シェアを獲得したメーカーだ。
8mmフィルムが廃れた後は、コンパクトカメラの
生産工場を作り、1980年代~1990年代の、各社の
コンパクト機のOEM生産を手がけ、カメラ生産台数
世界一にもなったという、隠れた超巨大企業だ。
OEM中心の為、自社ブランドの製品は少ないが、
1984年には「UF2」というパンフォーカス
(固定焦点)型のカメラを発売している。
これはフラッシュ使用時に近距離設定がされる仕様で
このアイデアが発展して、その後の「フラッシュ光に
より撮影する」という1990年代での「マクロマックス」
の発想に繋がっていったのだろう。
また、GOKOでは、2000年代に本機と同じ原理を
用いた、一眼レフ用のフラッシュ付きマクロレンズ
「エスカルゴ」や、LED光源内蔵型特殊マクロレンズを
販売していたが、現代では入手がやや困難かも知れない。
本機OLYMPUS NEWPIC M10 Macro は、FR-2200の
オリンパス版であるが、GOKOのアイデアを元に
オリンパスで生産したのではなく、むしろその逆で
あろう、GOKOによるOEM生産品をオリンパス銘で
販売したのだと思われる。
ちなみに、GOKOマクロマックスFR-2200も所有して
いたのだが、本機とまったく同じ性能だったので、
それは譲渡して本機を残した。
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ウルトラマクロモード(10cm~30cm)に絞って
解説する。
これを理解できれば、他のスーパーマクロモードも
同様だ。
ウルトラマクロモードでは、本来25mm/F6.7の
レンズが、F44(!)まで絞り込まれる。
こんなに絞ると露出が合わないが、それはさておき、
この際のAPS(IX240)フィルムでの被写界深度は、
仮にAPSフィルムの許容錯乱円を0.03mmとすれば、
撮影距離20cmで、およそ20cmの(深度)範囲となる。
厳密な計算をすると許容錯乱円も、前方被写界深度
と後方被写界深度も、ぴったりとは合わないのだが、
その辺はアバウトに判断すれば・・ この時点で、
「約10cmから30cmの距離にある、全ての被写体」
にピントが合う計算となる。
問題は露出だ、F44はさすがに暗い。
だが、ここはGOKO伝統の「フラッシュ撮り」の
アイデアがある。
正確な仕様は不明であるが、GN(ガイドナンバー)
が6程度の内蔵フラッシュを近接で発光すると、
ISO400のフィルムの場合、フラッシュ到達距離は、
GN6/F44x√(400/100)=約27cm となる。
つまり、10~約30cm程度の範囲は、フラッシュの
光だけで撮れる計算となる。
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F44では暗すぎて、真っ黒にしか写らない。
したがってフラッシュの光だけが頼りであり、
フラッシュが発光する時間が、それイコール、
シャッター速度となる。
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よって、このシステムにおいては、1/10000秒超高速
シャッター(速度)と等価であり、その結果、どんなに
速く動く被写体も静止させて撮る事ができる。
このシステムの発売当時は「ミルク・クラウン」
(牛乳などの粘性がある液体に、一滴を垂らすと、
一瞬だけ王冠状の形になる)が撮れる、とも言われ
ていたが、まあ原理的には確かに可能ではあるが、
その一瞬を撮るのは、事実上ほぼ不可能であろう。
(フラッシュ撮影ではチャージ(充電)の時間が
ある為、連写は出来ない)
で、例えば扇風機を「強」で回転させて、その羽根を
本機で撮って「わ~! 羽根が止まって写るよ」等と、
つまらない遊びをやっていたのだが(汗)
まあ、あまり、高速シャッターを必要とする被写体は、
一般撮影(特に近接撮影)では無かった、というのが
実際の所であった。
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NEX-7に(オリンパス繋がりで)OM50mm/F3.5の
マクロレンズを装着し、それをF16の最大まで絞って
使用している。
OM50/3.5の最短撮影距離は約23cm、最短撮影時での
被写界深度は、F16の時に計算上で約2cmと、やや
浅すぎるが、少し距離を離して30cm程度で撮れば、
そこそこ本機M10の雰囲気が出せる。
NEX-7はSONYのNEX/αシリーズでは希少なフラッシュ
内蔵機であり、本シミュレーションの目的に適する。
NEX-7のガイドナンバー(GN)は6であって、これは
近接時にF16では光が強すぎるので、調光補正
(マイナス)とISO感度の調整で、本機M10とだいたい
同じ雰囲気となるようにしている。
なお、シミュレート撮影では、調光補正を使うよりも
ISO感度が常時直接変更可能であるという、NEX-7の
特徴を活かして、ISOで光量を調整する(GNまたは
調光補正は固定)方が楽であった。
フラッシュの到達距離は、
ガイドナンバー÷絞り値x√(ルート)(ISO感度÷100)
で求まる、これは暗算も可能な、簡単な公式だが、
(注:そもそも計算しやすいように、GNの単位が
決められている)わざわざ計算をしなくても、原理が
わかっていれば、ISO感度を変更すると、フラッシュの
被写体に当たる強さも変わる事が理解できるだろう。
なお、M10を「ウルトラマクロモード」で使用する場合
ではなく、スーパーマクロモードでは、撮影範囲が
30cm~1mとなり、絞り値も、もう少し明るくなる。
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と言うべき、希少な近接撮影専用機である事だ。
そして、その実現アイデアのユニークさは高く評価したい。
35mm判機では、一眼レフ+マクロレンズで代替できる
為、その固有の特徴が活かせないが、APS機とした事で、
むしろ個性が際立ったし、APS機の利用目的(範囲)を
拡大するにも役立ったカメラである。
まあ、そういう意味では、私も遊び要素の強い撮影で
良く使ったし、結果的にエンジョイ度の評価も高く
なるカメラであった。
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パララックス(視差)が発生する事だ。
これは、コンパクト機やレンジファインダー機では、
レンズの位置から写る範囲と、光学ファインダーから
見える範囲が異なるという問題である。
遠距離撮影では両者ほぼイコールだが、近接撮影に
なればなるほど、パララックス(視差)が顕著になる。
この問題から、ライカや旧コンタックス、ベッサ等の
レンジファインダー機では、レンズ交換が出来ても、
近接撮影が難しい。
よって、レンズの仕様(正確には距離計連動範囲)に
制限をかけざるを得ず、最短撮影距離が70~90cmと
極めて長い。
広角レンズを使った場合、この最短の長さは作画の
自由度からすると致命的に近い問題となるのだ。
(特に、現代的な撮影技法には向かない為、近年に
おいてはミラーレス機用の、レンジ機用レンズの
アダプターには、ヘリコイドが内蔵されて近接撮影を
補助する仕様の物も多い。(ただし、結構高価だ)
まあ、現代の技法においては当然のニーズであろう。
よく銀塩時代は皆、文句も言わず、これらの最短撮影
距離の長いレンズを使用していたものだと思う。
まあ、だからこそ中遠距離を平面的に普通に撮るだけの
古風な撮影技法しか行われなかったのかも知れない)
で、レンジ機の話はともかく、本機M10においては
パララックスの問題の解決の為、本機やマクロマックス
には専用の針金のフレームが付属していた。
これが撮影範囲を表すという事だが、これでは大げさ
(持ち運びが不便、格好悪い等)な場合、ストラップ
に別途ついていた、10cmと30cmを表す目盛りを
用いて簡易的に撮影距離を知る事ができる。
まあ、撮影範囲の方はカンでも十分であろうという
感じだが、実際には構図がズレたりして、意外にも
結構難しかった。
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原理上、極端に絞り込んだ画像は、立体感が無い
パンフォーカス撮影だし、フラッシュ使用により、
さらに平面的な印象の写りとなる。
(光源が均一に、しかも同じ色味で当たるので
平板な写りだ)
銀塩一眼レフのマクロレンズとは正反対とも言える
傾向の描写であるので、一眼レフでの近接撮影の
ような写真が撮れる事を想像していたビギナー層は、
「あれっ?」と、少々戸惑ったかも知れない。
まあでも、このカメラの原理や特性がわかっていれば、
写りがどうであっても、むしろ、そのアイデア自体に
高い評価を下す事ができるであろう。
余談だが、この「フラッシュ光だけで撮影する」
という発想は、私も結構インパクトを受け、その後、
GR DIGITAL(2005年)が発売された際、GRDでは
フラッシュが全速同調できて、露出やISO感度や
フラッシュの調光などの設定操作の自由が高かった
特徴を生かす為に「擬似夜景撮影」という技法を
考え出した。
そこでは滅茶苦茶アンダーに露出を設定した状態で、
ごく軽いフラッシュを焚くと、近接した被写体だけを
暗夜の中に際立たせるような写真となり、この技法を
生み出す為に設定を色々と変えて実験しながら良く
撮っていた。
そして、この新撮影技法の原理は、本機M10や、
GOKOマクロマックスに原点があったのだ。
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OLYMPUS NEWPIC M10 Macro 1998年
【基本・付加性能】★★★☆
【描写力・表現力】★★
【操作性・操作系】★★
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★★★
【購入時コスパ 】★★☆ (新品購入価格19,000円)
【完成度(当時)】★★★
【歴史的価値 】★★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.1点
マニアック度と歴史的価値が高く評価された。
本来は「アイデア度」という項目があれば、それは
満点に近いカメラだとは思うが、まあ、アイデアが
良くても、写り的にはたいした事が無く、常に
フラッシュを焚いた平板な写真にしかならないので、
全体的には、あまり過剰な評価は禁物であろう。
なお、APS機の本機M10やGOKO FR-2200は現代では
もう使い道が無いが、35mm判のGOKO FR-350で
あれば、まだ使えるとは思う。
FR-350は、デジタル時代に入っても、比較的長期に
わたって生産されていたカメラであり、丹念に探せば
見つかるかも知れない。
また、少し前述した、GOKO「エスカルゴ」(本機と
同様の原理の一眼レフ用システム)も、もしかして
現行製品かも知れず、メーカー直販が出来るかも
知れない。(?未調査、要確認)
さて、本記事はこのあたりまでで、
同時にAPSコンパクト機の紹介もここまでだ。
APS時代末期には、多数のAPS機の新品在庫が格安で
投売りされていたので、それらを多く購入したが、
後年に残す価値のあった機体は少なく、その殆どは
贈答品のような形で譲渡してしまっていた。
よって、手元に残っていたAPS機は、僅かに4機種
だけだったが、その全てが後年に残すべき歴史的な
価値のあるAPSカメラだ。
次回コンパクト記事からは35mm判機の紹介に戻ろう。