本シリーズでは、やや特殊な交換レンズをカテゴリー
別に紹介している。
今回の記事では「超大口径レンズ」を3本+αで紹介
しよう。
本シリーズ記事は、殆ど全てが過去記事で紹介済みの
所有レンズの再掲である。
コロナ禍で新規レンズ等は買っていられる状況では無い
訳だし、当然、新たに写真を撮りに行く事も出来ない。
そもそも、それどころでは無い緊迫した世情であるが、
まあ、知人等への安否の表明の意味もあり、過去の
撮影写真を用いた執筆済みの記事を順次掲載していく
事にしよう。
さて、本ブログでは「超大口径」とは「開放F1.0以下の
レンズ」と定義している。(匠の写真用語辞典第20回)
本記事で紹介できる当該条件に当てはまる所有レンズは
3本のみである。通常、4本のレンズを紹介する通例
なので、他の1本はF1.2級レンズを取り上げる。
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まず、最初のシステム
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レンズは、Voigtlander NOKTON 25mm/f0.95(初期型)
(フォクトレンダー ノクトン)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)
注:フォクトレンダーの独語綴りには変母音(ウムラウト)
が入るが、記事執筆掲載の便宜上、それを省略している。
2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。
コシナ・フォクトレンダーとしては初のμ4/3機用レンズ
であり、その後本NOKTON25は小改良されてⅡ型になった他、
10.5mm,17.5mm,42.5mm,60mm(2020年4月発売予定)
の姉妹製品の発売により、「F0.95シリーズ」として
現在に至る。
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本レンズの発表は衝撃的であった。F0.95という明るい
開放F値は写真用レンズでは殆ど前例が無く、あったとしても、
海外製の極めて高価な商品か、国産オールドのレア品しかない。
まあ、CCTV(監視カメラ)用レンズでは、F0.95級は珍しくは
無いが、その分野と写真用レンズは殆ど接点が無い。
思わず、発売後すぐに新品購入したのだが、そこそこ高価で
あったので、どのように使うか?の「用途開発」を行わないと
コスパが悪い買い物になってしまう。
事前に最も心配であったのが、本NOKTON25のピント合わせだ。
μ4/3機は、まだ発売開始後2年少々で、EVF搭載機は少なく、
あったとしても、その解像度は144万ドットと、やや低く、
ピーキング機能は、まだ世の中に出てきていない。
本レンズ専用でPANAのDMC-G1(青)をあてがう事とした、
当時としては、MF性能に最も優れる機体だと思ったからだ。
実は、既にDMC-G1は赤色版を所有していたが、その当時は
μ4/3機の登場で、およそあらゆるオールドレンズが
マウントアダプターで使用可能となった事で、一種のブーム
が起きていたのだ(個人的にもそうであったし、世間一般
でも「第二次中古レンズブーム」という状況だった)
DMC-G1(赤)は、オールドレンズ母艦としてフル稼動して
いて他の目的には使い難かったし、新たなG1(青)は、
中古で1万円強と、極めて安価な相場となっていて、買い
易かったのだ。
専用機体に装着する事で、本レンズの総撮影枚数が容易に
わかる。これは前述の「用途開発」を行う上で、本レンズ
を、元が取れるまで使いこなしたかどうか?という点を
判断する上でも必要であった。
私はレンズの減価償却ルールは特に設けてはいないが、
カメラの場合と同様に「1枚3円の法則」で判断は可能だ。
つまり、84,000円で購入したレンズは、28,000枚撮影
すれば十分に元が取れていると言える。
現在、DMC-G1(青)の撮影枚数カウンターは楽に3万枚を
越えているので、本NOKTON25は良く使っている状況だ。
使い始めた当初は、やはりMFに問題を感じた。
DMC-G1の144万ドット・カラー液晶EVFは輪郭線が強い
表示特性を持ち、これは基本的にはMFでのピント合わせ
に優れる。
その後、このEVF用液晶は2013年頃から、有機EL版に
各社とも置き換わるようになっていき、その新型液晶は
明るく、色再現性や解像感が、より自然となった点は
利点ではあったが、輪郭線が若干柔らかくなった為、
MFでのピントの山は少しだけ掴み難くなってしまった。
ただ、2013年には既に各社の機体には「ピーキング機能」
が搭載され始めた為、MF性能の改悪は帳消しとなっている。
しかし、DMC-G1の、この144万ドット・カラー液晶を
用いても、本NOKTON25のピント合わせは厳しく、ほぼ
毎回の画面拡大操作が必須だ。
で、この点に関しては、DMC-G系列のカメラは、MFレンズ
装着時の画面拡大操作系にとても優れる、というメリット
があった為、この点もDMC-G1を本レンズの母艦として
採用した理由となっている。他社機では拡大操作系が
指動線(移動)の面などで、イマイチであったのだ、
ピント合わせが困難な理由はもう1つあり、それは
本NOKTON25は最短撮影距離が17cmと、マクロレンズ並み
の近接能力を誇る事だ。近接+超大口径による圧倒的な
ボケ量を活用する為にも、MF性能の充実は欠かせないが
被写界深度が浅すぎるので、どうにもMFが困難である。
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本レンズの課題は、まず画質がイマイチである事だ。
特に絞り開放近辺では諸収差等を起因としたハロ等が
発生し、輪郭が滲んだような画像となる。
これの対策は、単に絞り込むだけで良いので、簡便では
あるが、せっかくの超大口径レンズを、あまり絞っては
使いたくない。F1.4程度まで絞る位ならば、他に開放
F1.4で、良く写るレンズは、世に沢山存在する訳だ。
よって、構図的な対策としては、画面内に点光源とか
強いハイライト部がある等の、ハロが目立ちやすい
被写体や構図を、できるだけ避ける事が望ましい。
ここで余談だが、初級中級層の殆どは「開放F値が明るくて
高価なレンズの方が高画質だ」と信じて疑わない。
だが、実際にはそういう事はまるで無く、開放F値を
明るくすると、必ず様々な設計上の問題点が出てくる。
例えば、球面収差等はF値(or 口径比)の3乗に反比例
して悪くなる程なのだ。
よって、開放F値の暗いレンズの方が描写力が高い事は
いくらでも実例がある。
開放F値を明るくした際での収差発生等の問題点を避ける
為に複雑なレンズ構成にすると、結果的にそのレンズは
「大きく重く高価」という「三重苦レンズ」となる。
まあ、それが開放F値を明るくする事の代償ではあるが、
それでも諸収差等は完璧に補正されている保証は無い為、
三重苦に加えて描写性能まで低かったら、目も当てられない。
まあ、そういうレンズも中には存在している、その状況が
予想される場合、私は、そうしたレンズを購入しない事と
しているが、間違って買ってしまう事もある。
そういうレンズを、本ブログで紹介する場合「コスパが悪い」
とか「嫌いなレンズ」と表現している。あるいは記事には
書かないがマニア間等で話す場合は「ぼったくりレンズ」だ。
そう言う風に書かないと、そういう高価なレンズを無理を
して購入し「このレンズは良いレンズだ」と信じて疑わ無い
初級中級層が可哀想だからだ。まあしかし、その状況では
「信者」となっているから、廻りで何を言っても無駄だ。
でもまあ、いずれそういう初級中級層も、安価なレンズを
購入した際などで、その描写力が意外にまで高く、下手を
すれば、今まで自分が「神格化」していた「高級レンズ」の
性能やコスパに疑問を抱く事も出てくるであろう、つまりは、
「遅かれ早かれ気がつく」という事になると思う。
あまり、開放F値が明るいとか、値段が高いとかいった
レンズを単純に「高性能だ」と盲信しない方が賢明だ。
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さて、余談が長くなった、本NOKTON25の話に戻る。
本レンズの描写力がイマイチなのは、前述の通りであり、
様々な技法で課題を回避しながら使う必要がある。
で、さらに難しいのが、その「構図上の処理」である。
特に近距離撮影においては、被写界深度が極めて浅くなる
為に、構図内で撮影距離の近い被写体が密集している場合
(例:群生の花など)では、被写体距離のごく1部にしか
ピントが合わず、なんだか良くわからない構図となる。
画質の面や構図面で、様々な回避技法が必須となる為に
本レンズは「被写体汎用性」が極めて狭い。
よって、本レンズはとても使いこなしが難しい事は確かだ。
結局のところ、本レンズの「用途開発」としては、
「暗所や悪条件での人物撮影」というのが多かった。
舞台などステージ、夕暮れ、曇天や雨天、室内等において、
明るい開放F値を活かしての撮影に適する。確かに、その
目的には優れたレンズであった。ただMFが困難であるので、
ある瞬間を捉える動体撮影とかは、かなり難しく、結局の所
なかなか被写体条件を整えるのは難しい。
誰にでも推奨できるレンズとは言い難いが、「超大口径」
の世界を味わってみたければ、現実的な価格帯で購入
できるレンズの数は極めて限られている。
本NOKTON25は、その希少なレンズのうちの1本である。
なお、マニアック度が極めて高いレンズで、使いこなしの
為のテクニカル要素が強くなり、エンジョイ度が高い為に、
本レンズは、過去記事「ミラーレス・マニアックス名玉編」
で、第7位相当にランクインしている。ただし、この評価は
「難しいから面白い」という逆説的な要素も高く、安直に
誰にでも使えるレンズでは決して無い。
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では、次の超大口径システム
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レンズは、中一光学 SPEEDMASTER 35mm/f0.95 Ⅱ
(新品購入価格 63,000円)(以下、SM35/0.95)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
2016年に発売された中国製の超大口径MF標準画角レンズ。
これ以前に初期型(Ⅰ型、MITAKON銘もある)が存在して
いたが、本Ⅱ型になって大幅な小型軽量化を実現した。
重量は440g、フィルター径もφ55mmと小さい。
ただし、APS-C型以下のセンサー機専用であり、発売されて
いるマウントもミラーレス機用が基本だ。
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コシナ・フォクトレンダー製の、同等スペックの製品と
比べて販売価格が安価である。中古は殆ど見かけないのだが、
発売後2年程して、若干新品価格が下がって来たタイミングを
見計らっての新品購入となった。
ピント合わせが困難なのは他の超大口径レンズでの経験上
明らかであったので、SONY Eマウント版を選択。
このマウントの機体であれば、どれもMF性能には優れる。
銀色版と黒色版が発売されていたが、銀色版を選択した。
なお、SONY FE(フルサイズ)機で使用する場合には
自動的にAPS-Cモードには切り替わらないので、手動で
「APS-C撮影」をONしなければならない。
また、フルサイズ機ではクロップすると画素数が大きく
減るので要注意だ。(APS-C機で、そのまま使った方が、
画素数が大きく取れる場合もある)
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長所としては、「超大口径」というカテゴリーのレンズ
としては、かなり価格が安価である事(F0.95製品の
中では2番目に安い。注:近年に少数限定発売された
TT Artisan(銘匠光学)製F0.95レンズを除く)
そして小型軽量である事だ。
そして、勿論超大口径による描写表現力の高さも特徴
であろう、フォクトのNOKTON 42.5mmにあるような
開放近くでの収差の大きさも、本レンズではさほど
目立たず、超大口径にしては被写体汎用性が高い。
短所だが、最短撮影が35cmと、NOKTONに比べると
ずいぶんと長く、近接撮影で、さらに被写界深度を浅く
しようとする技法が使えない。
それから、絞り値が無段階調整となっているのだが、
絞り環の回転範囲が狭く、主に大口径側の回転角が大きい
(絞り環の中間位置で、やっとF2.8となる)ので、
近距離で絞り開放あたりで撮っていて、遠距離被写体等を
見つけて、瞬時に絞り込みたいと思っても、小絞りでの
コントローラビリティ(調整する事)が低下する。
なお、電子設定を持たないレンズであるから、カメラ本体
側に絞り値が表示される事は一切無い。よって、手指の
感触だけで絞り値を制御する必要があるので、上記の課題は
想像よりも深刻だ。この問題の回避の為には、本レンズは
絞り開放近くの撮影に特化し、上記の「絞り込んだ撮影」は
他のレンズに任せる、などの対策が良いであろう。
SONY EマウントでのF1未満の超大口径は、中一光学製
くらいしか選択肢が無いので、必要であれば、本レンズ
SM35/0.95か、あるいは同シリーズの50mm/f0.95
(こちらはフルサイズ対応)を買うしか無いのだが、
例によって非常にマニアックなカテゴリーの製品であるし
中古もまず出てこないと思うので、本当に必要かどうかは、
購入前に慎重に検討するのが良いと思う。
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なお、姉妹レンズのSpeed Master 25mm/f0.95は、
μ4/3マウント版しか発売されていない。そのマウントだと
本記事冒頭のNOKTON 25mm/f0.95と、モロにスペックが
被ってしまう。ただ、中一光学版はフォクトレンダー版の
およそ半額で買えるので、コスパは良いかも知れない(?)
私の場合は、中一光学版が出る前にフォクトレンダー版を
購入してしまっていたので、同じキャラクターのレンズは
2本は不要であり、中一光学版のSM25/0.95は未所有で
あるので、その特性はわからない。
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では、3本目のシステムは、F1.2級レンズだ。
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レンズは、CANON EF85mm/f1.2 L USM(初期型)
(中古購入価格 94,000円)(以下、EF85/1.2)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
1989年発売の、EOS EFマウント用大口径AF中望遠レンズ。
本記事は「超大口径レンズ特集」であり、本レンズの開放
F1.2は、本ブログでの超大口径の定義(F1.0以下)には
外れるが、十分に大口径の類だ。
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まあ、本シリーズでは、最低4本づつの同一カテゴリーの
レンズを紹介しているが「超大口径を4本も持っていない」
のが実際の理由だ。つまり、高価であり、用途も少ない
超大口径を4本も持つ必要が無い、という感じでもある。
(追記:本記事執筆後に台湾のメーカーより、KAMLAN
50mm/f1.1が安価に発売されている。それは所有は
しているが、本記事では無く、また新鋭海外レンズ編で
紹介しよう)
さて、本レンズEF85/1.2Lは「嫌いなレンズ」である。
まず、大きく重く高価な「三重苦レンズ」だ。
重量は1kgを軽く越え、近年、SIGMAやZEISSからこれ以上
の重さの85mmレンズが発売されてはいるが、それまででは
ワーストワンであった(注:2006年にⅡ型にリニューアル
されているが、レンズ構成に変化は無く、重量も同一だ)
三重苦レンズに加え、AFが極めて遅い事が課題であり、
大口径レンズであるから、ピント精度も怪しくなってくる。
それと、レンズ側に電源を供給しないとMFが一切動かず、
この状態では、基本的にはEOS機(一眼レフまたは
電子アダプターを介したEOS M/Rミラーレス機)
で無いと使えない。
光学ファインダー・スクリーンにMF性能上の課題を持つ
EOS一眼で本レンズを使うのは厳しく、AFを補佐するMF
での撮影が厳しいし、ボケ質破綻が発生する本レンズの場合、
光学ファインダーでは、それを回避する技法も使えない。
一応、本記事では、MF用スクリーン「Eg-S」に換装した
EOS 6Dを用いてはいるが、EOS 6Dの1/4000秒シャッター
では日中絞りを開放F1.2までのフルレンジでは使えない為、
ND8というキツ目の減光フィルターを使用している。
この際、実質上、開放約F3.5相当の暗さとなる為、
光学ファインダーも若干暗めで、MFでのピント合わせが
しんどい。
つまり、「何だかわけのわからない非効率的なシステム」
で使わざるを得ず、非常に使い難い。
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本レンズの購入は1990年代であったが、銀塩初期のEOS
(1980年代末~1990年代初頭)においては、単焦点の
EOS用レンズは少なく(注:ズームレンズが主体であった)
高性能のEOS用大口径単焦点レンズが欲しい、と思った
場合、なかなか選択肢が無かったのだ。
発売時は、バブル期の真っ最中。AF化で他社に若干先行
されたCANONが、旗艦EOS-1/HS(銀塩一眼レフ第14回)
を発売し、巻き返しを図った年である。
バブルの時代は「ともかく凄いモノ」を要求していた為、
85mmで開放F1.2というスペックで、消費者層の度肝を
抜いてEOS機に注目してもらう、という販売戦略であろう。
で、1990年代当時の私は、85mmのF1.4級レンズは
他にいくつかは使ってはいたが、本EF85/1.2のような
F1.2級は持っていなかったし(注:85mmのF1.2級レンズは
他社を含めても希少だ)価格(定価)も20万円近くと高価だ
「いったいどんなに凄い写りをするのだろうか?」と
単純な期待も多々あった訳だ。
だが、その「期待」が「誤解」である事に気づくのは、
そう長い時間はかからなかった。本EF85/1.2の描写傾向は
個人的な好みには合わなかったのだ。
知人のマニアが、旧MF版のCANON FD85/1.2L(1980年)
を所有していたので、それを借りて撮ってみると、旧版の
方が好みに合う。(注:旧版とはレンズ構成が異なる)
ちょっと腹が立って、本EF85/1.2は処分してしまおうか?
と思ったのだが、その知人への対抗意識もあって(笑)
本レンズは残す事とした。
以降、本レンズを「ハズレ」と判断した私は、多社の
85mm/F1.4級レンズを色々と買い始める、しかし、
そのどれも、あまりズバリと好みに合うレンズは無く、
デジタル時代に入った頃には、当初はAPS-C型センサー
機ばかりで人物撮影用途に85mmが向かなくなった事と、
カメラ側のMF(ファインダー)性能が、銀塩時代よりも
悪化した事もあって、もう85mm/F1.4級レンズは殆ど使う
事がなく、もっぱら50mm/F1.4で代用したり、あるいは
85mm前後でもF1.8級の小口径レンズの方が、良く写って
かつ歩留まりも良い(成功率が高い)事が多いので、
それらをメインに使う事となる。
ますます、本EF85/1.2Lの用途が無くなってきてしまった
状況ではあるが、まあ、単純に「開放F値が明るくて
高価なレンズであるから、きっと良く写るだろう」と
勘違いしてしまった事への報いだ。
「値段の高いレンズが常に良いとは限らない」という
事実を学ぶ為の授業料であった、と納得する事とした。
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ただまあ、近年においては「レンズに弱点があったと
しても、それを使いこなせないのは、利用者側の責任だ」
と、私は思うようになってきている。
本レンズが使い難くかったり、描写力が好みでは無いと
しても、本レンズが適する被写体条件は必ずあるはずだ。
したがって、「用途開発」が必須となるレンズである。
正直言うと、「嫌いだ」と決め付けてかかって、20年間
以上も、殆どほったらかしにしてしまったレンズだ(汗)
だから、「用途開発」も全く進んでいない。
何かの撮影において、「では、EF85/1.2Lが最適だから、
これを持っていこう」等と考えた事は一度も無いのだ(汗)
が、せっかく持っている高額レンズだ、高額だから高性能だ、
とは全く言い難いレンズではあるが、コストが高いレンズで
ある事は確かなので、そのコストに見合うパフォーマンス
を発揮してもらわないと、レンズが無駄になって困る。
まあ、今後ぼちぼちと時間をかけて、「本レンズが最適だ」
と言えるような状況を探し出していく事とするか・・
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では、今回ラストの超大口径システム
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レンズは、Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(新品購入価格 90,000円)(以下、NOKTON42.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G5 (μ4/3機)
2013年発売のμ4/3機専用超大口径MF中望遠画角レンズ。
中途半端な焦点距離ではあるが、μ4/3で2倍して85mm
になる事から、意味の無い焦点距離では無い。
本レンズ以外にPANASONICからも42.5mmの焦点距離の
レンズが2本(F1.2版、F1.7版)発売されている等で、
あまり違和感がある焦点距離でも無いであろう。
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この「F0.95シリーズ」は、まず前述の25mm/F0.95
そして、本レンズの前年の2012年にはNOKTON
17.5mm/f0.95が発売されており、これは換算で
35mmとなる画角である。
また、本レンズ以後の2015年には、NOKTON
10.5mm/f0.95(換算21mm)が発売されており、
現状ではこの計4本が「F0.95シリーズ」である。
(注:2020年4月に5本目の60mm/f0.95が発売予定)
余談だが、2014年に米国の物資輸送用無人ロケット
「アンタレス」が、打ち上げ直後に爆発事故を起こして
しまった。無人機なので幸いにして人的被害は無かったが、
ISS(国際宇宙ステーション)への補給物資が失われた事や、
同ロケットに搭載されていた国産新開発の「流星観測カメラ」
も壊れて無くなってしまった。
その「流星観測カメラ」を、当時のTVのニュース映像で
見たのだが、その使用レンズが「NOKTON 17.5mm/f0.95」
であった事を鮮明に覚えている。
匠「げげっ! ノクトン17.5mmを使っているよ!
あ~あ、発売されたばかりの高級レンズなのに、
壊れてしまったのは、実に勿体無い!」
という印象であったが・・
(まあ、レンズ1本の被害額よりも、ロケット全体を
考えると、とるに足らない話ではあるが・・・)
後日、よくよく考えてみると、「NOKTON 17.5mm/f0.95」
が流星観測に適切なレンズなのだろうか? という疑問が
沸いてきた。
まあ、センサー部やマウント機構は、μ4/3システムを
そのまま利用できるし、消費電力が少ないのも利点だろう。
MFである事も良い、宇宙空間の遠距離撮影で、AFなどは
意味が無いからだ。ピントは∞(無限遠)固定で十分だ。
しかし、開放F0.95はやや冗長なスペックではなかろうか?
まあ、暗い宇宙空間だから、できるだけ開放F値の明るい
レンズを使った方が有利である事はわかる。
でも、この「F0.95シリーズ」は、どれも開放では収差が
大きいのだ、特に流星等の撮影で「ハロ」や「コマ収差」が
出てしまったら、学術的に正しく物体形状を分析できない
のではあるまいか?
まあ、その「NOKTON17.5mm/f0.95」は残念ながら未所有
なので、どこまで開放での収差が大きいのか?は不明だ。
が、25mmと42.5mmを使っている経験からすれば、絞り開放
での収差は、趣味撮影ならまだしも、学術的撮影に適して
いるレベルとは言い難い。
匠「そうであったら、もっと安価な銀塩時代のMF広角
レンズか、または工業用マシンビジョンレンズを
使えただろうし、そうしておけば壊れた際の被害額も
小さくて済んだのに・・」
と、ちょっとセコイ事を考えてしまった次第だ。
(前述のようにロケット全体から考えると、些細な事だ)
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余談が長くなった、本NOKTON42.5の話に戻る。
2013年に本レンズが発売された頃には、前述のNOKTON
F0.95シリーズも世の中で一般的で、さらには、中一光学
からもMITAKON(ミタコン、現:SPEEDMASTAR=前述)
35mm/f0.95が発売され、開放F1以下の「超大口径」
レンズも色々と選択肢が増えてきた状況であった。
だが、これらはいずれもマニアックで高価な商品であり
中古市場にはなかなか出て来ない。新品で買うにしても
高すぎて、次々と買う訳にもいかず、おまけに、どうしても
「超大口径」が必要だ、という強い理由も無い為に、
なかなか買い難い商品となってしまった。
ただ、本NOKTON42.5は、当時最長の焦点距離のF0.95
レンズであるから、「最も大きなボケ量が得られる」
レンズとして強い興味があった。
なお、実際の被写界深度を考えると、センサーサイズの
小さいμ4/3機用のレンズばかりなので、場合によっては
フルサイズ機で、F1~F1.2級のレンズの方が被写界深度は
浅くなるかも知れない。
しかし、本NOKTON42.5は、最短撮影距離が23cmと、
異様に短い、これは他のNOKTON F0.95シリーズも同様に
短いのだが、あまり寄れない事が普通であるフルサイズ機用の
超大口径レンズよりも、本レンズの方が様々な撮影における
エンジョイ度が高いだろう、と踏んだ。
問題は価格である、定価は118,000円+税と高額だ。
1年程中古市場をウォッチしたが、案の定1本も出て来ない。
が、2014年後半頃には老舗専門店で新品の値引率が上がって
きていて、税込み9万円程度まで下がったので、それを購入
する事とした。(注:現在では7万円台とさらに安価だ)
母艦であるが、これがまた難しい。DMC-G5/G6を候補と
して上げたが、G5はG1と同じ144万ドットカラー液晶で、
G6は、144万ドット有機EL+ピーキングだ。
DMC-G6で初搭載のピーキング機能が、超大口径である
本レンズで正しく動作する保証が無かった為、DMC-G5を
選択し、これを中古で1万円台後半で入手し、本レンズの
専用母艦にあてがった。
G5は他のレンズ用としても、ごく稀に使っているのだが、
総撮影枚数は3万枚弱、恐らくは本NOKTON42.5だけでは
2万数千枚程度の撮影枚数であろうか・・
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使用感だが、まず本NOKTON42.5は、NOKTON25
に比べ、相当に大きく重くなった。
重量を比較すると、およそ5割増しとなっている。
明るすぎる為に、昼間はNDフィルターを常時必要とする。
本レンズの場合は、ND8フィルターをつけっぱなしであり、
これで開放で約F2.8相当、日中快晴時でも、1/4000秒
シャッターで、ぎりぎり撮れる、という感じである。
(注:DMC-G5のベース感度はISO160と、やや高目である、
これがISO100であれば、ちょうど良い感じだが・・)
なお、より後年のμ4/3機であれば、高速電子シャッター
が使える機種も存在する、しかしこのDMC-G5は電子
シャッターは搭載しているものの、1/4000秒止まりだ。
また、このシステムでビジネス・プレゼンを撮影した事が
あったのだが、無音である事は良いが、プロジェクターの
走査線の縞が写真に入ってしまい、使えなかった事がある。
同様に、TVやPCの画面でも電子シャッターでは縞が入り、
動体被写体でも時間差の歪みが出てしまう恐れがある。
それと、新鋭機でも電子シャッターの速度が1/16000秒
止まりである場合が多く、ND8で1/4000秒必須であれば、
ND8無しでは、1/32000秒の高速電子シャッターが必要だ。
それがある機種は希少であり、あるいは当時のμ4/3機では
皆無であった事だろう。
まあ、やはりND8フィルターを使うのが簡便である。
なお、暗所の撮影では、ND8を外せば、それで良い。
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後年、初級マニアの知人が本NOKTON42.5を購入したので、
匠「サングラスを買う事を忘れずに!」
とアドバイスした、「日中はND8フィルターを付けておく」
という概念を説明するのに「明るすぎる場所ではサングラス
を掛ける」という概念で覚えてもらった方が簡単だからだ。
本レンズの特徴だが、冒頭のNOKTON25と似たり寄ったり
である、最短撮影距離が短く、準マクロレンズとして
目の前の任意の被写体に対して多大なボケ量を得る事が
できるが、弱点としての、開放近くでのハロ発生による
輪郭の滲みによる画質の低下。それに加えて、作画の難しさ
であるが、いずれも、NOKTON25に輪をかけて使いこなし
が難しい。
この難しさは全所有レンズの中でもトップクラスであり、
別シリーズ「レンズマニアックス」の「使いこなしが困難な
レンズ特集(第12回記事)」でワースト2位を記録している。
誰にでも推奨できるレンズでは無いが、反面、マニアック度
やエンジョイ度(面白さ)も最高レベルであり、過去記事
「ミラーレス・マニアックス名玉編」では、見事に第2位に
ランクインしている。
難しさと楽しさが同居していて、矛盾を抱えたレンズでは
あるが、本レンズを手にすれば「超大口径」の魅力(魔力)
にハマるかも知れない。
上級者または上級マニア層向けの特異なレンズである。
----
さて、今回の記事「超大口径レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・
別に紹介している。
今回の記事では「超大口径レンズ」を3本+αで紹介
しよう。
本シリーズ記事は、殆ど全てが過去記事で紹介済みの
所有レンズの再掲である。
コロナ禍で新規レンズ等は買っていられる状況では無い
訳だし、当然、新たに写真を撮りに行く事も出来ない。
そもそも、それどころでは無い緊迫した世情であるが、
まあ、知人等への安否の表明の意味もあり、過去の
撮影写真を用いた執筆済みの記事を順次掲載していく
事にしよう。
さて、本ブログでは「超大口径」とは「開放F1.0以下の
レンズ」と定義している。(匠の写真用語辞典第20回)
本記事で紹介できる当該条件に当てはまる所有レンズは
3本のみである。通常、4本のレンズを紹介する通例
なので、他の1本はF1.2級レンズを取り上げる。
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まず、最初のシステム

(フォクトレンダー ノクトン)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)
注:フォクトレンダーの独語綴りには変母音(ウムラウト)
が入るが、記事執筆掲載の便宜上、それを省略している。
2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。
コシナ・フォクトレンダーとしては初のμ4/3機用レンズ
であり、その後本NOKTON25は小改良されてⅡ型になった他、
10.5mm,17.5mm,42.5mm,60mm(2020年4月発売予定)
の姉妹製品の発売により、「F0.95シリーズ」として
現在に至る。

開放F値は写真用レンズでは殆ど前例が無く、あったとしても、
海外製の極めて高価な商品か、国産オールドのレア品しかない。
まあ、CCTV(監視カメラ)用レンズでは、F0.95級は珍しくは
無いが、その分野と写真用レンズは殆ど接点が無い。
思わず、発売後すぐに新品購入したのだが、そこそこ高価で
あったので、どのように使うか?の「用途開発」を行わないと
コスパが悪い買い物になってしまう。
事前に最も心配であったのが、本NOKTON25のピント合わせだ。
μ4/3機は、まだ発売開始後2年少々で、EVF搭載機は少なく、
あったとしても、その解像度は144万ドットと、やや低く、
ピーキング機能は、まだ世の中に出てきていない。
本レンズ専用でPANAのDMC-G1(青)をあてがう事とした、
当時としては、MF性能に最も優れる機体だと思ったからだ。
実は、既にDMC-G1は赤色版を所有していたが、その当時は
μ4/3機の登場で、およそあらゆるオールドレンズが
マウントアダプターで使用可能となった事で、一種のブーム
が起きていたのだ(個人的にもそうであったし、世間一般
でも「第二次中古レンズブーム」という状況だった)
DMC-G1(赤)は、オールドレンズ母艦としてフル稼動して
いて他の目的には使い難かったし、新たなG1(青)は、
中古で1万円強と、極めて安価な相場となっていて、買い
易かったのだ。
専用機体に装着する事で、本レンズの総撮影枚数が容易に
わかる。これは前述の「用途開発」を行う上で、本レンズ
を、元が取れるまで使いこなしたかどうか?という点を
判断する上でも必要であった。
私はレンズの減価償却ルールは特に設けてはいないが、
カメラの場合と同様に「1枚3円の法則」で判断は可能だ。
つまり、84,000円で購入したレンズは、28,000枚撮影
すれば十分に元が取れていると言える。
現在、DMC-G1(青)の撮影枚数カウンターは楽に3万枚を
越えているので、本NOKTON25は良く使っている状況だ。
使い始めた当初は、やはりMFに問題を感じた。
DMC-G1の144万ドット・カラー液晶EVFは輪郭線が強い
表示特性を持ち、これは基本的にはMFでのピント合わせ
に優れる。
その後、このEVF用液晶は2013年頃から、有機EL版に
各社とも置き換わるようになっていき、その新型液晶は
明るく、色再現性や解像感が、より自然となった点は
利点ではあったが、輪郭線が若干柔らかくなった為、
MFでのピントの山は少しだけ掴み難くなってしまった。
ただ、2013年には既に各社の機体には「ピーキング機能」
が搭載され始めた為、MF性能の改悪は帳消しとなっている。
しかし、DMC-G1の、この144万ドット・カラー液晶を
用いても、本NOKTON25のピント合わせは厳しく、ほぼ
毎回の画面拡大操作が必須だ。
で、この点に関しては、DMC-G系列のカメラは、MFレンズ
装着時の画面拡大操作系にとても優れる、というメリット
があった為、この点もDMC-G1を本レンズの母艦として
採用した理由となっている。他社機では拡大操作系が
指動線(移動)の面などで、イマイチであったのだ、
ピント合わせが困難な理由はもう1つあり、それは
本NOKTON25は最短撮影距離が17cmと、マクロレンズ並み
の近接能力を誇る事だ。近接+超大口径による圧倒的な
ボケ量を活用する為にも、MF性能の充実は欠かせないが
被写界深度が浅すぎるので、どうにもMFが困難である。

特に絞り開放近辺では諸収差等を起因としたハロ等が
発生し、輪郭が滲んだような画像となる。
これの対策は、単に絞り込むだけで良いので、簡便では
あるが、せっかくの超大口径レンズを、あまり絞っては
使いたくない。F1.4程度まで絞る位ならば、他に開放
F1.4で、良く写るレンズは、世に沢山存在する訳だ。
よって、構図的な対策としては、画面内に点光源とか
強いハイライト部がある等の、ハロが目立ちやすい
被写体や構図を、できるだけ避ける事が望ましい。
ここで余談だが、初級中級層の殆どは「開放F値が明るくて
高価なレンズの方が高画質だ」と信じて疑わない。
だが、実際にはそういう事はまるで無く、開放F値を
明るくすると、必ず様々な設計上の問題点が出てくる。
例えば、球面収差等はF値(or 口径比)の3乗に反比例
して悪くなる程なのだ。
よって、開放F値の暗いレンズの方が描写力が高い事は
いくらでも実例がある。
開放F値を明るくした際での収差発生等の問題点を避ける
為に複雑なレンズ構成にすると、結果的にそのレンズは
「大きく重く高価」という「三重苦レンズ」となる。
まあ、それが開放F値を明るくする事の代償ではあるが、
それでも諸収差等は完璧に補正されている保証は無い為、
三重苦に加えて描写性能まで低かったら、目も当てられない。
まあ、そういうレンズも中には存在している、その状況が
予想される場合、私は、そうしたレンズを購入しない事と
しているが、間違って買ってしまう事もある。
そういうレンズを、本ブログで紹介する場合「コスパが悪い」
とか「嫌いなレンズ」と表現している。あるいは記事には
書かないがマニア間等で話す場合は「ぼったくりレンズ」だ。
そう言う風に書かないと、そういう高価なレンズを無理を
して購入し「このレンズは良いレンズだ」と信じて疑わ無い
初級中級層が可哀想だからだ。まあしかし、その状況では
「信者」となっているから、廻りで何を言っても無駄だ。
でもまあ、いずれそういう初級中級層も、安価なレンズを
購入した際などで、その描写力が意外にまで高く、下手を
すれば、今まで自分が「神格化」していた「高級レンズ」の
性能やコスパに疑問を抱く事も出てくるであろう、つまりは、
「遅かれ早かれ気がつく」という事になると思う。
あまり、開放F値が明るいとか、値段が高いとかいった
レンズを単純に「高性能だ」と盲信しない方が賢明だ。

本レンズの描写力がイマイチなのは、前述の通りであり、
様々な技法で課題を回避しながら使う必要がある。
で、さらに難しいのが、その「構図上の処理」である。
特に近距離撮影においては、被写界深度が極めて浅くなる
為に、構図内で撮影距離の近い被写体が密集している場合
(例:群生の花など)では、被写体距離のごく1部にしか
ピントが合わず、なんだか良くわからない構図となる。
画質の面や構図面で、様々な回避技法が必須となる為に
本レンズは「被写体汎用性」が極めて狭い。
よって、本レンズはとても使いこなしが難しい事は確かだ。
結局のところ、本レンズの「用途開発」としては、
「暗所や悪条件での人物撮影」というのが多かった。
舞台などステージ、夕暮れ、曇天や雨天、室内等において、
明るい開放F値を活かしての撮影に適する。確かに、その
目的には優れたレンズであった。ただMFが困難であるので、
ある瞬間を捉える動体撮影とかは、かなり難しく、結局の所
なかなか被写体条件を整えるのは難しい。
誰にでも推奨できるレンズとは言い難いが、「超大口径」
の世界を味わってみたければ、現実的な価格帯で購入
できるレンズの数は極めて限られている。
本NOKTON25は、その希少なレンズのうちの1本である。
なお、マニアック度が極めて高いレンズで、使いこなしの
為のテクニカル要素が強くなり、エンジョイ度が高い為に、
本レンズは、過去記事「ミラーレス・マニアックス名玉編」
で、第7位相当にランクインしている。ただし、この評価は
「難しいから面白い」という逆説的な要素も高く、安直に
誰にでも使えるレンズでは決して無い。
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では、次の超大口径システム

(新品購入価格 63,000円)(以下、SM35/0.95)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
2016年に発売された中国製の超大口径MF標準画角レンズ。
これ以前に初期型(Ⅰ型、MITAKON銘もある)が存在して
いたが、本Ⅱ型になって大幅な小型軽量化を実現した。
重量は440g、フィルター径もφ55mmと小さい。
ただし、APS-C型以下のセンサー機専用であり、発売されて
いるマウントもミラーレス機用が基本だ。

比べて販売価格が安価である。中古は殆ど見かけないのだが、
発売後2年程して、若干新品価格が下がって来たタイミングを
見計らっての新品購入となった。
ピント合わせが困難なのは他の超大口径レンズでの経験上
明らかであったので、SONY Eマウント版を選択。
このマウントの機体であれば、どれもMF性能には優れる。
銀色版と黒色版が発売されていたが、銀色版を選択した。
なお、SONY FE(フルサイズ)機で使用する場合には
自動的にAPS-Cモードには切り替わらないので、手動で
「APS-C撮影」をONしなければならない。
また、フルサイズ機ではクロップすると画素数が大きく
減るので要注意だ。(APS-C機で、そのまま使った方が、
画素数が大きく取れる場合もある)

としては、かなり価格が安価である事(F0.95製品の
中では2番目に安い。注:近年に少数限定発売された
TT Artisan(銘匠光学)製F0.95レンズを除く)
そして小型軽量である事だ。
そして、勿論超大口径による描写表現力の高さも特徴
であろう、フォクトのNOKTON 42.5mmにあるような
開放近くでの収差の大きさも、本レンズではさほど
目立たず、超大口径にしては被写体汎用性が高い。
短所だが、最短撮影が35cmと、NOKTONに比べると
ずいぶんと長く、近接撮影で、さらに被写界深度を浅く
しようとする技法が使えない。
それから、絞り値が無段階調整となっているのだが、
絞り環の回転範囲が狭く、主に大口径側の回転角が大きい
(絞り環の中間位置で、やっとF2.8となる)ので、
近距離で絞り開放あたりで撮っていて、遠距離被写体等を
見つけて、瞬時に絞り込みたいと思っても、小絞りでの
コントローラビリティ(調整する事)が低下する。
なお、電子設定を持たないレンズであるから、カメラ本体
側に絞り値が表示される事は一切無い。よって、手指の
感触だけで絞り値を制御する必要があるので、上記の課題は
想像よりも深刻だ。この問題の回避の為には、本レンズは
絞り開放近くの撮影に特化し、上記の「絞り込んだ撮影」は
他のレンズに任せる、などの対策が良いであろう。
SONY EマウントでのF1未満の超大口径は、中一光学製
くらいしか選択肢が無いので、必要であれば、本レンズ
SM35/0.95か、あるいは同シリーズの50mm/f0.95
(こちらはフルサイズ対応)を買うしか無いのだが、
例によって非常にマニアックなカテゴリーの製品であるし
中古もまず出てこないと思うので、本当に必要かどうかは、
購入前に慎重に検討するのが良いと思う。

μ4/3マウント版しか発売されていない。そのマウントだと
本記事冒頭のNOKTON 25mm/f0.95と、モロにスペックが
被ってしまう。ただ、中一光学版はフォクトレンダー版の
およそ半額で買えるので、コスパは良いかも知れない(?)
私の場合は、中一光学版が出る前にフォクトレンダー版を
購入してしまっていたので、同じキャラクターのレンズは
2本は不要であり、中一光学版のSM25/0.95は未所有で
あるので、その特性はわからない。
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では、3本目のシステムは、F1.2級レンズだ。

(中古購入価格 94,000円)(以下、EF85/1.2)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
1989年発売の、EOS EFマウント用大口径AF中望遠レンズ。
本記事は「超大口径レンズ特集」であり、本レンズの開放
F1.2は、本ブログでの超大口径の定義(F1.0以下)には
外れるが、十分に大口径の類だ。

レンズを紹介しているが「超大口径を4本も持っていない」
のが実際の理由だ。つまり、高価であり、用途も少ない
超大口径を4本も持つ必要が無い、という感じでもある。
(追記:本記事執筆後に台湾のメーカーより、KAMLAN
50mm/f1.1が安価に発売されている。それは所有は
しているが、本記事では無く、また新鋭海外レンズ編で
紹介しよう)
さて、本レンズEF85/1.2Lは「嫌いなレンズ」である。
まず、大きく重く高価な「三重苦レンズ」だ。
重量は1kgを軽く越え、近年、SIGMAやZEISSからこれ以上
の重さの85mmレンズが発売されてはいるが、それまででは
ワーストワンであった(注:2006年にⅡ型にリニューアル
されているが、レンズ構成に変化は無く、重量も同一だ)
三重苦レンズに加え、AFが極めて遅い事が課題であり、
大口径レンズであるから、ピント精度も怪しくなってくる。
それと、レンズ側に電源を供給しないとMFが一切動かず、
この状態では、基本的にはEOS機(一眼レフまたは
電子アダプターを介したEOS M/Rミラーレス機)
で無いと使えない。
光学ファインダー・スクリーンにMF性能上の課題を持つ
EOS一眼で本レンズを使うのは厳しく、AFを補佐するMF
での撮影が厳しいし、ボケ質破綻が発生する本レンズの場合、
光学ファインダーでは、それを回避する技法も使えない。
一応、本記事では、MF用スクリーン「Eg-S」に換装した
EOS 6Dを用いてはいるが、EOS 6Dの1/4000秒シャッター
では日中絞りを開放F1.2までのフルレンジでは使えない為、
ND8というキツ目の減光フィルターを使用している。
この際、実質上、開放約F3.5相当の暗さとなる為、
光学ファインダーも若干暗めで、MFでのピント合わせが
しんどい。
つまり、「何だかわけのわからない非効率的なシステム」
で使わざるを得ず、非常に使い難い。

(1980年代末~1990年代初頭)においては、単焦点の
EOS用レンズは少なく(注:ズームレンズが主体であった)
高性能のEOS用大口径単焦点レンズが欲しい、と思った
場合、なかなか選択肢が無かったのだ。
発売時は、バブル期の真っ最中。AF化で他社に若干先行
されたCANONが、旗艦EOS-1/HS(銀塩一眼レフ第14回)
を発売し、巻き返しを図った年である。
バブルの時代は「ともかく凄いモノ」を要求していた為、
85mmで開放F1.2というスペックで、消費者層の度肝を
抜いてEOS機に注目してもらう、という販売戦略であろう。
で、1990年代当時の私は、85mmのF1.4級レンズは
他にいくつかは使ってはいたが、本EF85/1.2のような
F1.2級は持っていなかったし(注:85mmのF1.2級レンズは
他社を含めても希少だ)価格(定価)も20万円近くと高価だ
「いったいどんなに凄い写りをするのだろうか?」と
単純な期待も多々あった訳だ。
だが、その「期待」が「誤解」である事に気づくのは、
そう長い時間はかからなかった。本EF85/1.2の描写傾向は
個人的な好みには合わなかったのだ。
知人のマニアが、旧MF版のCANON FD85/1.2L(1980年)
を所有していたので、それを借りて撮ってみると、旧版の
方が好みに合う。(注:旧版とはレンズ構成が異なる)
ちょっと腹が立って、本EF85/1.2は処分してしまおうか?
と思ったのだが、その知人への対抗意識もあって(笑)
本レンズは残す事とした。
以降、本レンズを「ハズレ」と判断した私は、多社の
85mm/F1.4級レンズを色々と買い始める、しかし、
そのどれも、あまりズバリと好みに合うレンズは無く、
デジタル時代に入った頃には、当初はAPS-C型センサー
機ばかりで人物撮影用途に85mmが向かなくなった事と、
カメラ側のMF(ファインダー)性能が、銀塩時代よりも
悪化した事もあって、もう85mm/F1.4級レンズは殆ど使う
事がなく、もっぱら50mm/F1.4で代用したり、あるいは
85mm前後でもF1.8級の小口径レンズの方が、良く写って
かつ歩留まりも良い(成功率が高い)事が多いので、
それらをメインに使う事となる。
ますます、本EF85/1.2Lの用途が無くなってきてしまった
状況ではあるが、まあ、単純に「開放F値が明るくて
高価なレンズであるから、きっと良く写るだろう」と
勘違いしてしまった事への報いだ。
「値段の高いレンズが常に良いとは限らない」という
事実を学ぶ為の授業料であった、と納得する事とした。

しても、それを使いこなせないのは、利用者側の責任だ」
と、私は思うようになってきている。
本レンズが使い難くかったり、描写力が好みでは無いと
しても、本レンズが適する被写体条件は必ずあるはずだ。
したがって、「用途開発」が必須となるレンズである。
正直言うと、「嫌いだ」と決め付けてかかって、20年間
以上も、殆どほったらかしにしてしまったレンズだ(汗)
だから、「用途開発」も全く進んでいない。
何かの撮影において、「では、EF85/1.2Lが最適だから、
これを持っていこう」等と考えた事は一度も無いのだ(汗)
が、せっかく持っている高額レンズだ、高額だから高性能だ、
とは全く言い難いレンズではあるが、コストが高いレンズで
ある事は確かなので、そのコストに見合うパフォーマンス
を発揮してもらわないと、レンズが無駄になって困る。
まあ、今後ぼちぼちと時間をかけて、「本レンズが最適だ」
と言えるような状況を探し出していく事とするか・・
---
では、今回ラストの超大口径システム

(新品購入価格 90,000円)(以下、NOKTON42.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G5 (μ4/3機)
2013年発売のμ4/3機専用超大口径MF中望遠画角レンズ。
中途半端な焦点距離ではあるが、μ4/3で2倍して85mm
になる事から、意味の無い焦点距離では無い。
本レンズ以外にPANASONICからも42.5mmの焦点距離の
レンズが2本(F1.2版、F1.7版)発売されている等で、
あまり違和感がある焦点距離でも無いであろう。

そして、本レンズの前年の2012年にはNOKTON
17.5mm/f0.95が発売されており、これは換算で
35mmとなる画角である。
また、本レンズ以後の2015年には、NOKTON
10.5mm/f0.95(換算21mm)が発売されており、
現状ではこの計4本が「F0.95シリーズ」である。
(注:2020年4月に5本目の60mm/f0.95が発売予定)
余談だが、2014年に米国の物資輸送用無人ロケット
「アンタレス」が、打ち上げ直後に爆発事故を起こして
しまった。無人機なので幸いにして人的被害は無かったが、
ISS(国際宇宙ステーション)への補給物資が失われた事や、
同ロケットに搭載されていた国産新開発の「流星観測カメラ」
も壊れて無くなってしまった。
その「流星観測カメラ」を、当時のTVのニュース映像で
見たのだが、その使用レンズが「NOKTON 17.5mm/f0.95」
であった事を鮮明に覚えている。
匠「げげっ! ノクトン17.5mmを使っているよ!
あ~あ、発売されたばかりの高級レンズなのに、
壊れてしまったのは、実に勿体無い!」
という印象であったが・・
(まあ、レンズ1本の被害額よりも、ロケット全体を
考えると、とるに足らない話ではあるが・・・)
後日、よくよく考えてみると、「NOKTON 17.5mm/f0.95」
が流星観測に適切なレンズなのだろうか? という疑問が
沸いてきた。
まあ、センサー部やマウント機構は、μ4/3システムを
そのまま利用できるし、消費電力が少ないのも利点だろう。
MFである事も良い、宇宙空間の遠距離撮影で、AFなどは
意味が無いからだ。ピントは∞(無限遠)固定で十分だ。
しかし、開放F0.95はやや冗長なスペックではなかろうか?
まあ、暗い宇宙空間だから、できるだけ開放F値の明るい
レンズを使った方が有利である事はわかる。
でも、この「F0.95シリーズ」は、どれも開放では収差が
大きいのだ、特に流星等の撮影で「ハロ」や「コマ収差」が
出てしまったら、学術的に正しく物体形状を分析できない
のではあるまいか?
まあ、その「NOKTON17.5mm/f0.95」は残念ながら未所有
なので、どこまで開放での収差が大きいのか?は不明だ。
が、25mmと42.5mmを使っている経験からすれば、絞り開放
での収差は、趣味撮影ならまだしも、学術的撮影に適して
いるレベルとは言い難い。
匠「そうであったら、もっと安価な銀塩時代のMF広角
レンズか、または工業用マシンビジョンレンズを
使えただろうし、そうしておけば壊れた際の被害額も
小さくて済んだのに・・」
と、ちょっとセコイ事を考えてしまった次第だ。
(前述のようにロケット全体から考えると、些細な事だ)

2013年に本レンズが発売された頃には、前述のNOKTON
F0.95シリーズも世の中で一般的で、さらには、中一光学
からもMITAKON(ミタコン、現:SPEEDMASTAR=前述)
35mm/f0.95が発売され、開放F1以下の「超大口径」
レンズも色々と選択肢が増えてきた状況であった。
だが、これらはいずれもマニアックで高価な商品であり
中古市場にはなかなか出て来ない。新品で買うにしても
高すぎて、次々と買う訳にもいかず、おまけに、どうしても
「超大口径」が必要だ、という強い理由も無い為に、
なかなか買い難い商品となってしまった。
ただ、本NOKTON42.5は、当時最長の焦点距離のF0.95
レンズであるから、「最も大きなボケ量が得られる」
レンズとして強い興味があった。
なお、実際の被写界深度を考えると、センサーサイズの
小さいμ4/3機用のレンズばかりなので、場合によっては
フルサイズ機で、F1~F1.2級のレンズの方が被写界深度は
浅くなるかも知れない。
しかし、本NOKTON42.5は、最短撮影距離が23cmと、
異様に短い、これは他のNOKTON F0.95シリーズも同様に
短いのだが、あまり寄れない事が普通であるフルサイズ機用の
超大口径レンズよりも、本レンズの方が様々な撮影における
エンジョイ度が高いだろう、と踏んだ。
問題は価格である、定価は118,000円+税と高額だ。
1年程中古市場をウォッチしたが、案の定1本も出て来ない。
が、2014年後半頃には老舗専門店で新品の値引率が上がって
きていて、税込み9万円程度まで下がったので、それを購入
する事とした。(注:現在では7万円台とさらに安価だ)
母艦であるが、これがまた難しい。DMC-G5/G6を候補と
して上げたが、G5はG1と同じ144万ドットカラー液晶で、
G6は、144万ドット有機EL+ピーキングだ。
DMC-G6で初搭載のピーキング機能が、超大口径である
本レンズで正しく動作する保証が無かった為、DMC-G5を
選択し、これを中古で1万円台後半で入手し、本レンズの
専用母艦にあてがった。
G5は他のレンズ用としても、ごく稀に使っているのだが、
総撮影枚数は3万枚弱、恐らくは本NOKTON42.5だけでは
2万数千枚程度の撮影枚数であろうか・・

に比べ、相当に大きく重くなった。
重量を比較すると、およそ5割増しとなっている。
明るすぎる為に、昼間はNDフィルターを常時必要とする。
本レンズの場合は、ND8フィルターをつけっぱなしであり、
これで開放で約F2.8相当、日中快晴時でも、1/4000秒
シャッターで、ぎりぎり撮れる、という感じである。
(注:DMC-G5のベース感度はISO160と、やや高目である、
これがISO100であれば、ちょうど良い感じだが・・)
なお、より後年のμ4/3機であれば、高速電子シャッター
が使える機種も存在する、しかしこのDMC-G5は電子
シャッターは搭載しているものの、1/4000秒止まりだ。
また、このシステムでビジネス・プレゼンを撮影した事が
あったのだが、無音である事は良いが、プロジェクターの
走査線の縞が写真に入ってしまい、使えなかった事がある。
同様に、TVやPCの画面でも電子シャッターでは縞が入り、
動体被写体でも時間差の歪みが出てしまう恐れがある。
それと、新鋭機でも電子シャッターの速度が1/16000秒
止まりである場合が多く、ND8で1/4000秒必須であれば、
ND8無しでは、1/32000秒の高速電子シャッターが必要だ。
それがある機種は希少であり、あるいは当時のμ4/3機では
皆無であった事だろう。
まあ、やはりND8フィルターを使うのが簡便である。
なお、暗所の撮影では、ND8を外せば、それで良い。

匠「サングラスを買う事を忘れずに!」
とアドバイスした、「日中はND8フィルターを付けておく」
という概念を説明するのに「明るすぎる場所ではサングラス
を掛ける」という概念で覚えてもらった方が簡単だからだ。
本レンズの特徴だが、冒頭のNOKTON25と似たり寄ったり
である、最短撮影距離が短く、準マクロレンズとして
目の前の任意の被写体に対して多大なボケ量を得る事が
できるが、弱点としての、開放近くでのハロ発生による
輪郭の滲みによる画質の低下。それに加えて、作画の難しさ
であるが、いずれも、NOKTON25に輪をかけて使いこなし
が難しい。
この難しさは全所有レンズの中でもトップクラスであり、
別シリーズ「レンズマニアックス」の「使いこなしが困難な
レンズ特集(第12回記事)」でワースト2位を記録している。
誰にでも推奨できるレンズでは無いが、反面、マニアック度
やエンジョイ度(面白さ)も最高レベルであり、過去記事
「ミラーレス・マニアックス名玉編」では、見事に第2位に
ランクインしている。
難しさと楽しさが同居していて、矛盾を抱えたレンズでは
あるが、本レンズを手にすれば「超大口径」の魅力(魔力)
にハマるかも知れない。
上級者または上級マニア層向けの特異なレンズである。
----
さて、今回の記事「超大口径レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・