所有している一眼レフ用の50mm標準レンズを、AF/MF、
開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。
緊急事態宣言で、なかなか撮影に出かける事も出来ない
世情ではあるが、まあ、本ブログでのシリーズ記事等は、
記事掲載時点の1~2年も前から、写真撮影や文章執筆
を行って準備している。(さもなければ、いきあたり
ばったりでは、体系的(システマチック)なシリーズ
記事等の執筆は無理だ)
そして、そもそも、私の場合は桜や紅葉の名所や
観光地等の、多数の人達が集まるような場所に、
趣味の撮影に行くような習慣は元々持っていない。
それにしても、昨今の状況においても、なお桜の撮影
に来ているようなアマチュアカメラマンでの、マスク
の着用率が異様に低い(半数以下、3割程度が装着)
状況は、特に気になる点だ。
(関西の通勤時間帯の電車等では、9割以上が着用)
まあ、いずれにしても、そうした場所にも、人にも
近寄らない事が賢明であろう。
それから、遠方の友人知人等間では、安否確認等の
理由でSNSを相互閲覧する用途も増えてきている模様だ。
まあ、「元気そうに記事を更新できていれば安心だ」
という理由であろう。それもそうだろうと思うので、
できる限り当方も新記事を掲載し続けて行こう。
さて、今回の「選手権記事」は、予選Gブロックとして
「MF50mm/f1.2」級のレンズを5本(うち1本は棄権
扱い)紹介(対戦)する。
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では、まずは今回最初のF1.2級標準レンズ。
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レンズ名:OLYMPUS OM-SYSTEM G.ZUIKO 55mm/f1.2
レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited(μ4/3機)
ミラーレス・マニアックス第59回記事で紹介の、
1970年代~1980年代のOMシステム用のMF大口径標準レンズ
![_c0032138_16454605.jpg]()
まず最初に簡単に大口径レンズの歴史を述べておくが、
戦前から戦後にかけ、一般的な大口径の写真用レンズと
言えば、例えばレンジ機用レンズのツァイス ゾナー
50mm/f1.5等が著名であろう。この時代、あるいは
銀塩時代全般においては、大口径と言えば、普通は
標準レンズ(35mm判で、50~60mmの焦点距離)
である事が大半だ。(注:近代においては、F1.4級
大口径レンズは、20mm~135mm程度の焦点距離で
存在するし、F1.4を下回る開放F値のレンズも多い)
以下は国産レンズの話に限定するが、ゾナー級の開放
F1.5を大きく下回る超大口径レンズの代表格としては、
マニアの間ではそこそこ有名な、1950年代のズノー光学
(後にヤシカにより買収)の、ZUNOW 50mm/f1.1
(レンジ機用マウント)があると思う。
一説によると、第二次大戦中の日本海軍による夜間索敵用
大口径光学機器として当該レンズの開発が開始されたそうだが
完成は戦後の時代となり、写真用レンズとしての発売となった。
この、ズノー50m/f1.1はレアものレンズにつき、所有して
いないので、その写りは不明だ。
1950年代には他社でも同様な超大口径レンズが発売された。
たとえば、フジフィルム フジノン50mm/f1.2
コニカ ヘキサノン 60mm/f1.2等のレンジ機用レンズが
著名であろう。
さらに極め付きは、1960年のキヤノン7s(レンジ機)用の
キヤノン 50mm/f0.95 であろうか。
このカメラ(レンズ)は、後の中古市場でも比較的玉数が
多く、1990年代の中古カメラブームの際には、セット品が
20万円台位の高額な相場で取引されていて、中古市場では
「その価格の殆どはF0.95という希少なレンズの価値だよ」
とも言われていた。
これらレンジ機用の超大口径標準レンズは、レア感も高く、
コレクターズアイテムとして捉えられ、中古相場も高価だ。
私も、それらを入手したいとは思えずに、未所有である。
しかしながら、稀にある実写作例などを見る限りでは、
描写力はどれも(かなり)イマイチという感覚も受ける。
つまり大口径化競争においては、描写力よりも開放F値を、
0.1でも下げる事が1950年代~1960年代の製品コンセプト
であったのかも知れない。
さて1960年代以降、レンジ機に替わって一眼レフが主流に
なった後でもF1.2級の超大口径標準のニーズは存在した。
その理由は、当時の35mm判フィルムの感度はさほど高くは
無く、およそASA(ISO)50~100程度が主流であったと
思われ、そうであれば、少しでも開放F値が明るければ、
室内や夜間などの暗所でも写真を撮れる可能性が高まる
訳である。(注:当時のフラッシュは、バルブ球を
1回焚く毎に交換する高価な消耗品だ)
当時の(超)大口径レンズの広告のキャッチコピーには
「ろうそくの光でも撮れる」といった趣旨のものも
多く見受けられたと思う。
ここまでの歴史の中、今回の記事だが、MF一眼レフ用の
F1.2級MF超大口径標準レンズを5本紹介する。
今回紹介のレンズ群は、1960年代末~1980年代位の
時代の発売であるが、前述のレンジ機用大口径競争の
1950年代~1960年代より、若干時代が下っている為、
レンズの描写力的には、なんとか実用範囲だ。
だが、依然超大口径レンズは設計が難しい時代であった
のだろう、開放F1.2の大口径化の代償として、
1)焦点距離が50mmにならず若干長く(55~58mm位)なる
2)最短撮影距離がF1.4級の45cmより長く60cm程度となる
3)絞りを開けると様々な収差で描写力が低下する
(解像度の低下、ハロ、周辺光量落ち、ボケ質破綻等)
などの重大な課題がつきまとってしまう。
![_c0032138_16454659.jpg]()
さて、前置きが長くなったが、本レンズOM55/1.2の話だ。
F1.2級大口径標準の例に漏れず、描写力はさほど高く無い。
絞りを開けて行くと解像度が甘く感じ、ハロ(光源や
高輝度=ハイライト部での、光の滲み)の発生も多い。
また、ボケ質も破綻しやすい。
弱点ばかりと言う訳でも無く、長所も存在する。
最短撮影距離は45cmと、一般的なF1.4級標準と同等
であり、55mmと、標準域よりわずかに長い焦点距離と
あいまって近接撮影には強い印象を受ける。
開放近くで出る球面収差による軟焦点化(ソフト化)や
ハロの発生は、例えば花の準近接撮影などの被写体分野では、
柔らかいイメージを作画意図として盛り込めるであろうし、
今回使用のμ4/3機母艦の場合は、なおさら見かけ上の撮影
倍率を高める事が出来るので、さらに、こういう近接用途に
向くかも知れない。
なお、本レンズはOMシステム初期のものであり、後期には、
焦点距離を一般の標準レンズ同様とした50mm/f1.2版が
発売されている。(未所有)
![_c0032138_16454685.jpg]()
それから、本レンズはOMシステムにおける強い「標準化思想」
により、他の大口径OMズイコー同様、フィルター径はφ55mm
に統一されている。このメリットは小型化という点のみならず
例えば特殊フィルター等の使いまわしや、互換性において
当時のみならず現代においても非常に便利だ。
例えば、開放絞り値F1.2を日中で使用するのは、現代の
デジタル機の性能を持ってしても難しい。最低ISO感度でも
カメラの最高シャッター速度をオーバーする可能性があるのだ。
(注:電子(撮像素子)高速シャッターの利用は、動体
(ローリング)歪みの発生や、ディスプレイの走査線が
写る等の課題で、まだ実用的な技術とは見なしていない)
よって、ND8(減光3段)等のフィルターを用いるのが、
どのような光線状況であっても、絞り値をフルレンジで
使用できる点で良いのだが、雨天等の光線状況によっては、
ND8は、やりすぎの可能性もある。なので減光度が異なる
そういう様々なフィルターを各種のフィルター径で所有する
必要があり、きりが無い。φ55mm(やφ49mm、φ52mm)
といった、汎用的なフィルター径のみでしか、まず揃える
事ができない訳だ。(注:2019年頃より、安価なND
フィルター商品が殆どディスコン(生産終了)となって
しまい、高価な新タイプのみが店頭に出回るようになり、
なおさら、この課題は深刻である。特にNDフィルターは
数十年間使うと減光にムラが出て劣化する消耗品であり、
全てを1万円とかの高額商品で揃えるのは理不尽な話だ。
新型の高額NDフィルターが劣化しない保証は何処にも無い)
本OM55/1.2の総評だが、やはり現代的な視点では、描写力に
物足りなさを感じる。
もっとも、この点については、本記事で続く各社F1.2級の
超大口径標準レンズにおいても、ほぼ同等の評価となると思う。
---
では、次のレンズ。
![_c0032138_16460529.jpg]()
レンズ名:MINOTA MC ROKOR PG58mm/f1.2
レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:SONY α7(フルサイズ機)
ミラーレス・マニアックス第45回、同補足編第1回で
紹介した1970年前後の超大口径MF標準レンズ。
マニア間では「鷹の目ロッコール」と呼ばれていて、
若干「神格化」された要素もあるレンズである。
![_c0032138_16460561.jpg]()
本レンズは2000年頃の購入で、2000年代の銀塩末期には
銀塩機で機嫌よく使っていたのだが、デジタル全盛の時代と
なって、ミノルタMCマウントは、フランジバックの関係で、
デジタル一眼レフではアダプターでの使用が困難であり、
あまり使う事が無くなってしまっていた。
2010年代、ミラーレス時代となって、MC/MDマウント用の
アダプターの流通が始まると、久しぶりの復活を見たのだが
数年前から絞りが不調、開放から閉じなくなってしまった。
いわゆる「絞りネバり」の状態であり、オールドレンズとか
あまり使わないレンズであると、油分が固化してしまう等を
原因として、珍しい故障では無い。しかし、いくら名玉とは
言え、今更修理するのも何だか馬鹿馬鹿しい気がして、
故障は放置したままだ。
ミラーレス・マニアックス補足編第1回では、絞り羽根内蔵型
アダプターを重ねて使うというアイデアで課題回避を試したが、
どうやっても補正レンズが入って描写力が落ちてしまう。
もう思い切って、本対戦記事では、故障欠場(棄権)と
しておこう。
一応開放のままで撮った写真を何枚か上げておく。
![_c0032138_16460518.jpg]()
なお、本PG58/1.2は「鷹の目ロッコール」と呼ばれていて
評判が良かったレンズであり、マニア等では、このレンズの
前群の配置構成が、他の一般的な変形ダブルガウス型標準と
若干差異がある(1枚多い)事などを根拠として「他の標準
レンズよりも優れている」と言うが、とは言え、手放しで
「最高の性能」だと思ってはいけない。
まず、エンジニアリング(機器・技術開発)の基本だが、
もし、全ての点で優れた技術が発明・発見された場合、
後に殆ど全ての製品がそれを採用し、いずれデファクト・
スタンダード(事実上の標準)技術となる。
そうならないのは新技術に何らかの課題が存在するからだ。
で、元々、当時の技術環境では設計仕様に無理がある1970年
前後の超大口径レンズであるし、最短撮影距離は60cmと長い、
ボケ質破綻も出る。そして当時の機材環境では、本レンズを
開放で撮れるような高速シャッターを持つ機体は、ミノルタ
には存在していないので、絞り込んだ状態での当時のマニア
の評価であろう。そりゃあまあ、中遠距離被写体を平面的に
撮るならば、最短の長さも、ボケ質破綻も、問題点とは
成り得ないし、ある程度絞り込めば、ハロも収差も消えて、
MTF特性(解像力)が良くなるのは当然だ。
銀塩時代では、撮影機材環境の他、フィルムのコスト的にも、
撮影結果の即時フィードバックが不可(どう写ったかは
現像するまで分からない)という意味でも、様々な側面から
の厳密なレンズの性能評価には無理がある。
オールドレンズで、当時の評判が良かったものを入手しても
現代の視点で見ると、がっかりしてしまう事も多々あるし、
当然そういうレンズは中古相場も高いので、コスパは最悪だ。
もし入手してしまっているならば、それらのオールドレンズの
弱点を、むしろ長所として、写真の個性的な表現力として使う
といった、発想の転換が必要だ。
ただ、それは極めて高度な撮影知識やスキルを要求されるので
初級中級マニア層では困難である事を述べておく。
---
では、次のレンズ。
![_c0032138_16462192.jpg]()
レンズ名:COSINA 55mm/f1.2 MC
レンズ購入価格:約17,000円(新品)
使用カメラ:SONY NEX-7(APS-C機)
ミラーレス・マニアックス第30回記事、および
ハイコスパレンズ・マニアックス第2回記事で紹介の
1980年代(~1990年代)の超大口径MF標準レンズ。
![_c0032138_16462171.jpg]()
他の記事で本レンズの出自は詳しく紹介しているので
今回はそのあたりは割愛する。
当時は、自社ブランド力が弱かったコシナ社であるが、
現代は、知っての通りフォクトレンダーやカール・ツァイス
の高級ブランド商標を取得して、高性能レンズを開発販売
する高級品メーカーとして知られている。
(本シリーズ第6回記事、Milvus 50mm/f1.4等を参照)
が、当時はブランド力の問題により、本レンズ等のコシナ製
レンズは、新品価格がとても安価であり「最も入手しやすい
F1.2級大口径レンズ」としてマニア間でも広く知られていた。
勿論課題は色々とある。開放近くの描写力の甘さ、
最短撮影距離の長さ(60cm)、ボケ質の悪さや破綻、そして
50mmの画角にならないで、長目の焦点距離な事・・
本レンズを買ったマニアでも、これらの欠点には悩まされる
状況であった、例えば絞り値をF5.6ないしF8位に絞って
中遠距離被写体を撮れば、殆どの欠点は消えるが、それでは
せっかくの開放F1.2の大口径のスペックが全く活かせない。
まあでも、これらの欠点は他社でも、この時代のF1.2級
標準レンズに共通する、全く同じ傾向の弱点だ。
であれば、本レンズは、まだ値段が安価な点だけ救われる、
ただし、中古市場においてはセミレアなレンズである。
まずマニアしか買わないし、マニアはあまりレンズを
手放す事もしない。
そして、この時代のコシナのMF(まれにAF)レンズは
各社一眼レフ用の複数のマウントで発売されていたが、
本55/1.2に関しては、PENTAX Kマウントのみの販売だ。
これは恐らくだが、後玉が極めて大きなレンズ故に
作れるマウントの種類が制限されたのであろう。
なお、同じPKマウント互換では、リコー製のXR RIKENON
55mm/f1.2というレンズが存在している、そちらは未所有
であるので詳細は不明なのだが、本レンズと兄弟レンズ
(OEM生産)である可能性も捨てきれない。
であれば、コシナ社がOEM品を自社ブランドで発売すれば
開発費が削減できる訳だ。
が、このあたりはあくまで想像であり、当時の実際の
情報等は、もう殆ど現存していないので、真相は闇の中だ。
![_c0032138_16463403.jpg]()
・・余談に行きそうなので話を戻す。
中古市場でセミレアであった事から、本レンズが欲しければ
新品で買うしかなかった。例えば1990年代での新品相場だが、
最も安価なケースで15000円弱、高価な場合でも17000円弱
位であっただろうか?
私は、ちょっと入手のタイミングが悪く、16800円位での
購入だったと記憶している。
だが、この価格帯だと、他のメーカー純正50mm/f1.2級
レンズの安価な中古だと、2万円位の相場で購入できたので、
さほど劇的に安価であるという訳でも無い。
したがって、他社同等品と同じく、性能上の課題が色々と
あるF1.2級標準の場合、いずれにしても「コスパが悪い」
という評価になるだろう。
なお、本レンズは当時のコシナ社の「新品値引戦略」が
適用されていた。つまり本来の新品定価は5万円だか
6万円だかの値札がついていて、それが6割引きやら7割引き
という感じで売られていたのだ。
これはブランド力の無いメーカとしては、一種の有効な販売
戦略であり、買う方も「安く買えた」と、悪い気はしない。
ただ一点、問題点があったのは、後に本レンズが生産中止
となり、2000年代以降に中古品が稀に市場に出てきた際に、
その5万円や6万円等の定価の記録から中古相場が割り出され、
25000円とか27000円とかの高額相場になってしまった
事もあった、つまりプレミアム品でも無いのに、新品価格
よりも遥かに中古相場が高額であったのだ。
(さらに近年、このレンズの中古を1本見かけたが、
3万円以上もする高額相場となっていた)
ちなみに、コシナ製ではなく他社のF1.2級の標準レンズの
相場はさらに高騰してしまった、3~5万円あたりにまで
なってしまうのは常識であり、さらに、ややレアなレンズ
では、プレミアム相場で8万円以上という場合すらある。
ただ、何度も述べるように、MF標準のF1.2級レンズの
描写力は欠点が多く、たいした事は無い。
この貧弱な性能をどう捉えるかで、これらのレンズの
「コスパ」は決まってくる。
まあ軽く前述したが、レンズの欠点を回避または逆用して
作画表現に取り入れてしまう事は、高難易度であるから、
これらのF1.2級レンズは、初級中級者層にとっては
間違いなく「コスパが悪い」レンズとなりうると思う。
買ってしまったならば、レンズの言うがままに撮るだけ
ではダメだ。そうなると「オールド風の写り」としてしか
評価しにくいであろう。高性能である現代レンズに対する、
低描写力(ローファイ)は、購入当初は目新しく感じる
かも知れないが、たいてい飽きが来る。
つまり、性能が悪い、という事は初級中級者層にも明白で
あるから、だんだんと使いたく無くなってしまうのだ。
そうならないようにするには(=買った価格の元を取るには)
レンズの欠点を徹底的に分析し、そのレンズを、どのように
使ったら有効に活用できるかを、考え出したり、創意工夫
していく必要がある。それが「欠点を回避または逆用する」
という意味である。
![_c0032138_16463579.jpg]()
まあ、本レンズCOSINA 55/1.2は、もう現代ではレア品
で入手困難、あるいは高額相場になっていると思うので、
非推奨とし、これ以上の性能面での詳細は割愛する。
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では、次のレンズ。
![_c0032138_16464464.jpg]()
レンズ名:SMC PENTAX 50mm/f1.2
レンズ購入価格:30,000円(中古品)
使用カメラ:PENTAX K10D(APS-C機)
ミラーレス・マニアックス第27回記事で紹介の、
1970年代後半頃の、PENTAX Kマウント用超大口径MF標準
レンズ(以下、K50/1.2)
![_c0032138_16464405.jpg]()
この時代のPENTAXレンズは識別する文字が無い「無印」で
あり、一般に「Kレンズ」又は「Pレンズ」と呼ばれている。
この時代以降PENTAXは、OLYMPUS(OMシリーズ)に追従して、
小型化戦略を行い、名機MX(1976年)を発売後、小型軽量
なMシリーズ一眼レフを多数展開し、その時代のレンズも
小型化して旧来レンズの無印とは区別して「M」の名称が
与えられている。
さらに1980年代に入ると、当時のトレンドであった
マルチモード化(それまでの絞り優先AEのみの状況から、
プログラムAEやシャッター優先AE機能の追加)に対応した
PENTAX Super A(1983年)を発売。ここでは電子接点が
追加された「KAマウント」になり、そのマルチモードに
対応した自動絞り機構を持ったレンズには最小絞り値の
次に「A」(自動)位置が備わり、「Aレンズ」の名称が
与えられた。
で、この「KA」型以降のレンズでは、現代のPENTAX製
デジタル一眼に装着したとしても、ボディ側から絞り値の
制御が可能な為、快適に使用する事ができる。
ところが、A位置の無い従前のMおよび,K(P)レンズの場合
近年(おおよそ2010年代)のPENTAXデジタル一眼レフ
では、上手く使う事ができない。絞り環の使用を「許可」
に設定しても、絞りが開放のままで動かないのだ。
2000年代の初期のPENTAXデジタル一眼レフでは、上記設定を
「許可」の上、M露出モードにして、都度絞り込みプレビュー
を行うという面倒な操作をすれば、絞り込んだ値での露出を
知る事ができ、絞りが動いて正しい露出で撮影が可能だ。
今回使用の PENTAX K10Dでも同様の操作で、無印のK(P)
レンズを使用する事が出来る。
なお、上記使用法を無視して「絞り優先露出とし、絞り込み
プレビューを行わない」という場合では、露出値(すなわち
シャッター速度)を知る事は出来ないが、絞り羽根は動くので
正しい露出で撮影が可能だ。
これはまあ、古い時代のデジタル一眼レフでも、最新機種に
無い長所を持つ場合もある、という事である。
なお、いずれにしても、PENTAXデジタル一眼レフでは、
PENTAX Kマウントの最初期レンズの使用利便性はあまり
高くない。これであれば、むしろミラーレス機で使った方が
ずっと快適なので、今後の記事では、Kマウントレンズでも
ミラーレス機を使うケースが多くなるかも知れない。
(注:より古い時代のPENTAX Takumar系M42レンズであれば、
現代のPENTAX機でもさほど操作性を損ねずに撮影が可能だ)
![_c0032138_16464407.jpg]()
さて、前置きが長くなった。本K50/1.2であるが、
他のF1.2級標準のように焦点距離を長くせずにF1.2を
実現している、また、最短撮影距離も45cmとF1.4級と
同じで好ましい。
さらに言えば、本K50/1.2のレンズ構成は、6群7枚と
同時代のF1.4版と同じであり、恐らくは、レンズのパワー
配置(曲率、屈折率など)や有効口径等を調整して、
開放F値がやや明るいレンズが出来たのであろう。
しかしレンズ重量は重い。同じK(P)時代の50mm/f1.4版は
生憎未所有なので感覚的な比較はできないが、密度感が
あって、ずっしりと重い。ただしフィルター径はF1.4版
と同じφ52mmに収まっている。
![_c0032138_16465070.jpg]()
描写力だが、他の50mm/f1.2級レンズと同様に、あまり
芳しく無い。
弱点としても、他F1.2級と同様に、ボケ質破綻と開放近く
での解像度の低下が目立つが、特にボケ質破綻が顕著だ。
様々な条件でボケ質が悪く、回避も極めて難しい。
購入価格も3万円と高価だったので、コスパが悪く、
個人的には好きでは無いレンズだ。
---
では、今回ラストのレンズ。
![_c0032138_16470077.jpg]()
レンズ名:CANON New FD50mm/f1.2 L
レンズ購入価格:55,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1(APS-C機)
ミラーレス・マニアックス第3回記事で紹介の
1980年発売のCANON FDマウント用超大口径MF標準レンズ。
![_c0032138_16470001.jpg]()
またしても「嫌いなレンズ」の登場だ。
その理由は言わずもがな、55,000円という中古購入
価格にある。
これはどう考えても高すぎるのであるが、本レンズを
購入したのは1990年代の第一中古カメラブームの最中
であり、中古相場も強気の高値であったのと、これは
投機用であったのかも知れず、本レンズのキャップには、
「1980年冬季オリンピック(レークプラシッド)で
CANONカメラが公式機材となった」という趣旨の
記念ロゴが入っている。
まあつまり「コレクターや転売(投機)層向け」であり、
実用的に使うレンズではなかった、という事だ。
それから、もう1つの嫌いな理由は、当時の私は、
「キヤノンで高画質仕様を表す「L」レンズであり、しかも
F1.2だ。値段も高価だし、描写性能も、さぞかし高いに
違い無い」と、極めて単純な大きな誤解をしていたのだ。
その後、何百本もの様々な交換レンズを入手して、それらを
数十年という長期間に渡り、実際に使用し、厳密に描写力等
を比較して、やっとわかってきた事が、
「レンズの値段と描写性能は全く比例しない」であった。
だから、近年は「コスパ」という点が、私がレンズに求める
最大の要素となっている。仮に価格が高くても、性能が
それに見合って高ければ別に文句は言わない。
しかし、性能が低くて、価格が高いものはダメだ。
それでは「コスパ評価」が限りなく低くなってしまう・・
まあ、あまりごちゃごちゃとは言うまい、ともかく
嫌いなレンズである。言うまでもなく、ここまで紹介
してきた他の50mm/f1.2級と同様の様々な欠点が目立つ。
私は、本レンズを購入するまで、それまで「Lレンズ」と
言うのは、「高画質仕様」だと思っていたが、どうやら、
値段が高い「贅沢品仕様」であったのだ、という解釈を
知らされたレンズであった。
![_c0032138_16470056.jpg]()
なお、本レンズ NFD50/1.2L の2ヵ月後に発売された、
L仕様では無い、NFD50/1.2というレンズが存在していた
模様だ(全く見た事も無く、知らなかった・・汗)
で、L仕様版は、非球面レンズを含む6群8枚構成で
非Lの通常版は、6群7枚である、後者は恐らくは、前述の
PENTAX 50/1.2と同様の設計手法なのであろう。
で、中級マニア層からすれば「L仕様は非球面が入っていて、
レンズも1枚多い、だから高いのだし、だから良く写って
当たり前だろう?」という判断(主張)があっても不思議
では無い。
でも、そういう風に仕様から性能を類推するのは、必ずしも
それが正しいとは言い切れない。
レンズの描写性能は、それを発揮できるシチュエーション
(条件)に、ハマらなければ、高い性能を得られない場合も
多々あるのだ。
一番簡単な例を挙げれば「ボケ質破綻」である、これは同じ
レンズを使っていでも、撮り方や被写体条件や絞り設定に
よって、大きくボケ質が変化(悪化)してしまう事だ。
だから、たまたま良く写った1枚か2枚の写真をもって
「これは良いレンズだ」と評価する事は出来ない。
このあたりは初級中級マニアが陥り易い誤解であろう。
なお、「後から非L版が出た」という事実は、うがった
見方をすれば、「Lレンズの付加価値をより高める為に」
あえて、そういう市場戦略を取ったかも知れない。
上位と下位レンズが並存ラインナップされていれば、
多くのユーザー層は、上位レンズが欲しいと思うからだ・・
それから今回、NFD50/1.2Lの色々な弱点を緩和する為、
近年のデジタル機(一眼レフ、ミラーレス)としては、
かなり発色性能に優れるFUJIFILM X-T1を母艦として
使用している。
よって、意外に本レンズが良く写ると思ったとしても、
大半はカメラ側の手柄だ。(ただし、X-T1は、AF/MF性能
や操作系に劣るカメラであり、様々なレンズにおいて全て
のケースで高描写力を発揮できる訳では無い)
でもまあ、このようにレンズやらの欠点を回避する手段は
機材の選択やら撮影技法やら、様々にあるので、
そういう条件をきっちりと整えていけば、結局のところ、
レンズの描写力の差などは、殆ど無くなってしまう訳だ。
すなわち、再三述べているが、重要なのは「使いこなし」
であり、レンズ(やカメラ)自体のスペックの優劣では無い
と言う事だ。
![_c0032138_16470160.jpg]()
総論としては、本NFD50/1.2Lは、コスパは極めて悪いが、
欲しい人にとっては、魅力的なスペックであり、予算が
許すのであれば買えば良いと思う。
ただし、性能はあまり期待せず、つまるところは、実用で
ガンガンに使うと言うよりは、むしろコレクター向けの
レンズであると思う。
---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Gブロック「MF50mm/f1.2」の記事は終了だ。
F1.2級MF標準は、なんだかどれもイマイチな性能ばかりで
そのくせ値段も高い(=コスパが極めて悪い)
試写で撮っていても、記事を書いていても、ストレスが
募るばかりであった。
次回の本シリーズ記事は、
予選Hブロック「AF50mm Macro」となる予定だ。
AF標準マクロは、幸いにして描写力が高いものが殆どだ・・
開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。
緊急事態宣言で、なかなか撮影に出かける事も出来ない
世情ではあるが、まあ、本ブログでのシリーズ記事等は、
記事掲載時点の1~2年も前から、写真撮影や文章執筆
を行って準備している。(さもなければ、いきあたり
ばったりでは、体系的(システマチック)なシリーズ
記事等の執筆は無理だ)
そして、そもそも、私の場合は桜や紅葉の名所や
観光地等の、多数の人達が集まるような場所に、
趣味の撮影に行くような習慣は元々持っていない。
それにしても、昨今の状況においても、なお桜の撮影
に来ているようなアマチュアカメラマンでの、マスク
の着用率が異様に低い(半数以下、3割程度が装着)
状況は、特に気になる点だ。
(関西の通勤時間帯の電車等では、9割以上が着用)
まあ、いずれにしても、そうした場所にも、人にも
近寄らない事が賢明であろう。
それから、遠方の友人知人等間では、安否確認等の
理由でSNSを相互閲覧する用途も増えてきている模様だ。
まあ、「元気そうに記事を更新できていれば安心だ」
という理由であろう。それもそうだろうと思うので、
できる限り当方も新記事を掲載し続けて行こう。
さて、今回の「選手権記事」は、予選Gブロックとして
「MF50mm/f1.2」級のレンズを5本(うち1本は棄権
扱い)紹介(対戦)する。
---
では、まずは今回最初のF1.2級標準レンズ。

レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited(μ4/3機)
ミラーレス・マニアックス第59回記事で紹介の、
1970年代~1980年代のOMシステム用のMF大口径標準レンズ

戦前から戦後にかけ、一般的な大口径の写真用レンズと
言えば、例えばレンジ機用レンズのツァイス ゾナー
50mm/f1.5等が著名であろう。この時代、あるいは
銀塩時代全般においては、大口径と言えば、普通は
標準レンズ(35mm判で、50~60mmの焦点距離)
である事が大半だ。(注:近代においては、F1.4級
大口径レンズは、20mm~135mm程度の焦点距離で
存在するし、F1.4を下回る開放F値のレンズも多い)
以下は国産レンズの話に限定するが、ゾナー級の開放
F1.5を大きく下回る超大口径レンズの代表格としては、
マニアの間ではそこそこ有名な、1950年代のズノー光学
(後にヤシカにより買収)の、ZUNOW 50mm/f1.1
(レンジ機用マウント)があると思う。
一説によると、第二次大戦中の日本海軍による夜間索敵用
大口径光学機器として当該レンズの開発が開始されたそうだが
完成は戦後の時代となり、写真用レンズとしての発売となった。
この、ズノー50m/f1.1はレアものレンズにつき、所有して
いないので、その写りは不明だ。
1950年代には他社でも同様な超大口径レンズが発売された。
たとえば、フジフィルム フジノン50mm/f1.2
コニカ ヘキサノン 60mm/f1.2等のレンジ機用レンズが
著名であろう。
さらに極め付きは、1960年のキヤノン7s(レンジ機)用の
キヤノン 50mm/f0.95 であろうか。
このカメラ(レンズ)は、後の中古市場でも比較的玉数が
多く、1990年代の中古カメラブームの際には、セット品が
20万円台位の高額な相場で取引されていて、中古市場では
「その価格の殆どはF0.95という希少なレンズの価値だよ」
とも言われていた。
これらレンジ機用の超大口径標準レンズは、レア感も高く、
コレクターズアイテムとして捉えられ、中古相場も高価だ。
私も、それらを入手したいとは思えずに、未所有である。
しかしながら、稀にある実写作例などを見る限りでは、
描写力はどれも(かなり)イマイチという感覚も受ける。
つまり大口径化競争においては、描写力よりも開放F値を、
0.1でも下げる事が1950年代~1960年代の製品コンセプト
であったのかも知れない。
さて1960年代以降、レンジ機に替わって一眼レフが主流に
なった後でもF1.2級の超大口径標準のニーズは存在した。
その理由は、当時の35mm判フィルムの感度はさほど高くは
無く、およそASA(ISO)50~100程度が主流であったと
思われ、そうであれば、少しでも開放F値が明るければ、
室内や夜間などの暗所でも写真を撮れる可能性が高まる
訳である。(注:当時のフラッシュは、バルブ球を
1回焚く毎に交換する高価な消耗品だ)
当時の(超)大口径レンズの広告のキャッチコピーには
「ろうそくの光でも撮れる」といった趣旨のものも
多く見受けられたと思う。
ここまでの歴史の中、今回の記事だが、MF一眼レフ用の
F1.2級MF超大口径標準レンズを5本紹介する。
今回紹介のレンズ群は、1960年代末~1980年代位の
時代の発売であるが、前述のレンジ機用大口径競争の
1950年代~1960年代より、若干時代が下っている為、
レンズの描写力的には、なんとか実用範囲だ。
だが、依然超大口径レンズは設計が難しい時代であった
のだろう、開放F1.2の大口径化の代償として、
1)焦点距離が50mmにならず若干長く(55~58mm位)なる
2)最短撮影距離がF1.4級の45cmより長く60cm程度となる
3)絞りを開けると様々な収差で描写力が低下する
(解像度の低下、ハロ、周辺光量落ち、ボケ質破綻等)
などの重大な課題がつきまとってしまう。

F1.2級大口径標準の例に漏れず、描写力はさほど高く無い。
絞りを開けて行くと解像度が甘く感じ、ハロ(光源や
高輝度=ハイライト部での、光の滲み)の発生も多い。
また、ボケ質も破綻しやすい。
弱点ばかりと言う訳でも無く、長所も存在する。
最短撮影距離は45cmと、一般的なF1.4級標準と同等
であり、55mmと、標準域よりわずかに長い焦点距離と
あいまって近接撮影には強い印象を受ける。
開放近くで出る球面収差による軟焦点化(ソフト化)や
ハロの発生は、例えば花の準近接撮影などの被写体分野では、
柔らかいイメージを作画意図として盛り込めるであろうし、
今回使用のμ4/3機母艦の場合は、なおさら見かけ上の撮影
倍率を高める事が出来るので、さらに、こういう近接用途に
向くかも知れない。
なお、本レンズはOMシステム初期のものであり、後期には、
焦点距離を一般の標準レンズ同様とした50mm/f1.2版が
発売されている。(未所有)

により、他の大口径OMズイコー同様、フィルター径はφ55mm
に統一されている。このメリットは小型化という点のみならず
例えば特殊フィルター等の使いまわしや、互換性において
当時のみならず現代においても非常に便利だ。
例えば、開放絞り値F1.2を日中で使用するのは、現代の
デジタル機の性能を持ってしても難しい。最低ISO感度でも
カメラの最高シャッター速度をオーバーする可能性があるのだ。
(注:電子(撮像素子)高速シャッターの利用は、動体
(ローリング)歪みの発生や、ディスプレイの走査線が
写る等の課題で、まだ実用的な技術とは見なしていない)
よって、ND8(減光3段)等のフィルターを用いるのが、
どのような光線状況であっても、絞り値をフルレンジで
使用できる点で良いのだが、雨天等の光線状況によっては、
ND8は、やりすぎの可能性もある。なので減光度が異なる
そういう様々なフィルターを各種のフィルター径で所有する
必要があり、きりが無い。φ55mm(やφ49mm、φ52mm)
といった、汎用的なフィルター径のみでしか、まず揃える
事ができない訳だ。(注:2019年頃より、安価なND
フィルター商品が殆どディスコン(生産終了)となって
しまい、高価な新タイプのみが店頭に出回るようになり、
なおさら、この課題は深刻である。特にNDフィルターは
数十年間使うと減光にムラが出て劣化する消耗品であり、
全てを1万円とかの高額商品で揃えるのは理不尽な話だ。
新型の高額NDフィルターが劣化しない保証は何処にも無い)
本OM55/1.2の総評だが、やはり現代的な視点では、描写力に
物足りなさを感じる。
もっとも、この点については、本記事で続く各社F1.2級の
超大口径標準レンズにおいても、ほぼ同等の評価となると思う。
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では、次のレンズ。

レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:SONY α7(フルサイズ機)
ミラーレス・マニアックス第45回、同補足編第1回で
紹介した1970年前後の超大口径MF標準レンズ。
マニア間では「鷹の目ロッコール」と呼ばれていて、
若干「神格化」された要素もあるレンズである。

銀塩機で機嫌よく使っていたのだが、デジタル全盛の時代と
なって、ミノルタMCマウントは、フランジバックの関係で、
デジタル一眼レフではアダプターでの使用が困難であり、
あまり使う事が無くなってしまっていた。
2010年代、ミラーレス時代となって、MC/MDマウント用の
アダプターの流通が始まると、久しぶりの復活を見たのだが
数年前から絞りが不調、開放から閉じなくなってしまった。
いわゆる「絞りネバり」の状態であり、オールドレンズとか
あまり使わないレンズであると、油分が固化してしまう等を
原因として、珍しい故障では無い。しかし、いくら名玉とは
言え、今更修理するのも何だか馬鹿馬鹿しい気がして、
故障は放置したままだ。
ミラーレス・マニアックス補足編第1回では、絞り羽根内蔵型
アダプターを重ねて使うというアイデアで課題回避を試したが、
どうやっても補正レンズが入って描写力が落ちてしまう。
もう思い切って、本対戦記事では、故障欠場(棄権)と
しておこう。
一応開放のままで撮った写真を何枚か上げておく。

評判が良かったレンズであり、マニア等では、このレンズの
前群の配置構成が、他の一般的な変形ダブルガウス型標準と
若干差異がある(1枚多い)事などを根拠として「他の標準
レンズよりも優れている」と言うが、とは言え、手放しで
「最高の性能」だと思ってはいけない。
まず、エンジニアリング(機器・技術開発)の基本だが、
もし、全ての点で優れた技術が発明・発見された場合、
後に殆ど全ての製品がそれを採用し、いずれデファクト・
スタンダード(事実上の標準)技術となる。
そうならないのは新技術に何らかの課題が存在するからだ。
で、元々、当時の技術環境では設計仕様に無理がある1970年
前後の超大口径レンズであるし、最短撮影距離は60cmと長い、
ボケ質破綻も出る。そして当時の機材環境では、本レンズを
開放で撮れるような高速シャッターを持つ機体は、ミノルタ
には存在していないので、絞り込んだ状態での当時のマニア
の評価であろう。そりゃあまあ、中遠距離被写体を平面的に
撮るならば、最短の長さも、ボケ質破綻も、問題点とは
成り得ないし、ある程度絞り込めば、ハロも収差も消えて、
MTF特性(解像力)が良くなるのは当然だ。
銀塩時代では、撮影機材環境の他、フィルムのコスト的にも、
撮影結果の即時フィードバックが不可(どう写ったかは
現像するまで分からない)という意味でも、様々な側面から
の厳密なレンズの性能評価には無理がある。
オールドレンズで、当時の評判が良かったものを入手しても
現代の視点で見ると、がっかりしてしまう事も多々あるし、
当然そういうレンズは中古相場も高いので、コスパは最悪だ。
もし入手してしまっているならば、それらのオールドレンズの
弱点を、むしろ長所として、写真の個性的な表現力として使う
といった、発想の転換が必要だ。
ただ、それは極めて高度な撮影知識やスキルを要求されるので
初級中級マニア層では困難である事を述べておく。
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では、次のレンズ。

レンズ購入価格:約17,000円(新品)
使用カメラ:SONY NEX-7(APS-C機)
ミラーレス・マニアックス第30回記事、および
ハイコスパレンズ・マニアックス第2回記事で紹介の
1980年代(~1990年代)の超大口径MF標準レンズ。

今回はそのあたりは割愛する。
当時は、自社ブランド力が弱かったコシナ社であるが、
現代は、知っての通りフォクトレンダーやカール・ツァイス
の高級ブランド商標を取得して、高性能レンズを開発販売
する高級品メーカーとして知られている。
(本シリーズ第6回記事、Milvus 50mm/f1.4等を参照)
が、当時はブランド力の問題により、本レンズ等のコシナ製
レンズは、新品価格がとても安価であり「最も入手しやすい
F1.2級大口径レンズ」としてマニア間でも広く知られていた。
勿論課題は色々とある。開放近くの描写力の甘さ、
最短撮影距離の長さ(60cm)、ボケ質の悪さや破綻、そして
50mmの画角にならないで、長目の焦点距離な事・・
本レンズを買ったマニアでも、これらの欠点には悩まされる
状況であった、例えば絞り値をF5.6ないしF8位に絞って
中遠距離被写体を撮れば、殆どの欠点は消えるが、それでは
せっかくの開放F1.2の大口径のスペックが全く活かせない。
まあでも、これらの欠点は他社でも、この時代のF1.2級
標準レンズに共通する、全く同じ傾向の弱点だ。
であれば、本レンズは、まだ値段が安価な点だけ救われる、
ただし、中古市場においてはセミレアなレンズである。
まずマニアしか買わないし、マニアはあまりレンズを
手放す事もしない。
そして、この時代のコシナのMF(まれにAF)レンズは
各社一眼レフ用の複数のマウントで発売されていたが、
本55/1.2に関しては、PENTAX Kマウントのみの販売だ。
これは恐らくだが、後玉が極めて大きなレンズ故に
作れるマウントの種類が制限されたのであろう。
なお、同じPKマウント互換では、リコー製のXR RIKENON
55mm/f1.2というレンズが存在している、そちらは未所有
であるので詳細は不明なのだが、本レンズと兄弟レンズ
(OEM生産)である可能性も捨てきれない。
であれば、コシナ社がOEM品を自社ブランドで発売すれば
開発費が削減できる訳だ。
が、このあたりはあくまで想像であり、当時の実際の
情報等は、もう殆ど現存していないので、真相は闇の中だ。

中古市場でセミレアであった事から、本レンズが欲しければ
新品で買うしかなかった。例えば1990年代での新品相場だが、
最も安価なケースで15000円弱、高価な場合でも17000円弱
位であっただろうか?
私は、ちょっと入手のタイミングが悪く、16800円位での
購入だったと記憶している。
だが、この価格帯だと、他のメーカー純正50mm/f1.2級
レンズの安価な中古だと、2万円位の相場で購入できたので、
さほど劇的に安価であるという訳でも無い。
したがって、他社同等品と同じく、性能上の課題が色々と
あるF1.2級標準の場合、いずれにしても「コスパが悪い」
という評価になるだろう。
なお、本レンズは当時のコシナ社の「新品値引戦略」が
適用されていた。つまり本来の新品定価は5万円だか
6万円だかの値札がついていて、それが6割引きやら7割引き
という感じで売られていたのだ。
これはブランド力の無いメーカとしては、一種の有効な販売
戦略であり、買う方も「安く買えた」と、悪い気はしない。
ただ一点、問題点があったのは、後に本レンズが生産中止
となり、2000年代以降に中古品が稀に市場に出てきた際に、
その5万円や6万円等の定価の記録から中古相場が割り出され、
25000円とか27000円とかの高額相場になってしまった
事もあった、つまりプレミアム品でも無いのに、新品価格
よりも遥かに中古相場が高額であったのだ。
(さらに近年、このレンズの中古を1本見かけたが、
3万円以上もする高額相場となっていた)
ちなみに、コシナ製ではなく他社のF1.2級の標準レンズの
相場はさらに高騰してしまった、3~5万円あたりにまで
なってしまうのは常識であり、さらに、ややレアなレンズ
では、プレミアム相場で8万円以上という場合すらある。
ただ、何度も述べるように、MF標準のF1.2級レンズの
描写力は欠点が多く、たいした事は無い。
この貧弱な性能をどう捉えるかで、これらのレンズの
「コスパ」は決まってくる。
まあ軽く前述したが、レンズの欠点を回避または逆用して
作画表現に取り入れてしまう事は、高難易度であるから、
これらのF1.2級レンズは、初級中級者層にとっては
間違いなく「コスパが悪い」レンズとなりうると思う。
買ってしまったならば、レンズの言うがままに撮るだけ
ではダメだ。そうなると「オールド風の写り」としてしか
評価しにくいであろう。高性能である現代レンズに対する、
低描写力(ローファイ)は、購入当初は目新しく感じる
かも知れないが、たいてい飽きが来る。
つまり、性能が悪い、という事は初級中級者層にも明白で
あるから、だんだんと使いたく無くなってしまうのだ。
そうならないようにするには(=買った価格の元を取るには)
レンズの欠点を徹底的に分析し、そのレンズを、どのように
使ったら有効に活用できるかを、考え出したり、創意工夫
していく必要がある。それが「欠点を回避または逆用する」
という意味である。

で入手困難、あるいは高額相場になっていると思うので、
非推奨とし、これ以上の性能面での詳細は割愛する。
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では、次のレンズ。

レンズ購入価格:30,000円(中古品)
使用カメラ:PENTAX K10D(APS-C機)
ミラーレス・マニアックス第27回記事で紹介の、
1970年代後半頃の、PENTAX Kマウント用超大口径MF標準
レンズ(以下、K50/1.2)

あり、一般に「Kレンズ」又は「Pレンズ」と呼ばれている。
この時代以降PENTAXは、OLYMPUS(OMシリーズ)に追従して、
小型化戦略を行い、名機MX(1976年)を発売後、小型軽量
なMシリーズ一眼レフを多数展開し、その時代のレンズも
小型化して旧来レンズの無印とは区別して「M」の名称が
与えられている。
さらに1980年代に入ると、当時のトレンドであった
マルチモード化(それまでの絞り優先AEのみの状況から、
プログラムAEやシャッター優先AE機能の追加)に対応した
PENTAX Super A(1983年)を発売。ここでは電子接点が
追加された「KAマウント」になり、そのマルチモードに
対応した自動絞り機構を持ったレンズには最小絞り値の
次に「A」(自動)位置が備わり、「Aレンズ」の名称が
与えられた。
で、この「KA」型以降のレンズでは、現代のPENTAX製
デジタル一眼に装着したとしても、ボディ側から絞り値の
制御が可能な為、快適に使用する事ができる。
ところが、A位置の無い従前のMおよび,K(P)レンズの場合
近年(おおよそ2010年代)のPENTAXデジタル一眼レフ
では、上手く使う事ができない。絞り環の使用を「許可」
に設定しても、絞りが開放のままで動かないのだ。
2000年代の初期のPENTAXデジタル一眼レフでは、上記設定を
「許可」の上、M露出モードにして、都度絞り込みプレビュー
を行うという面倒な操作をすれば、絞り込んだ値での露出を
知る事ができ、絞りが動いて正しい露出で撮影が可能だ。
今回使用の PENTAX K10Dでも同様の操作で、無印のK(P)
レンズを使用する事が出来る。
なお、上記使用法を無視して「絞り優先露出とし、絞り込み
プレビューを行わない」という場合では、露出値(すなわち
シャッター速度)を知る事は出来ないが、絞り羽根は動くので
正しい露出で撮影が可能だ。
これはまあ、古い時代のデジタル一眼レフでも、最新機種に
無い長所を持つ場合もある、という事である。
なお、いずれにしても、PENTAXデジタル一眼レフでは、
PENTAX Kマウントの最初期レンズの使用利便性はあまり
高くない。これであれば、むしろミラーレス機で使った方が
ずっと快適なので、今後の記事では、Kマウントレンズでも
ミラーレス機を使うケースが多くなるかも知れない。
(注:より古い時代のPENTAX Takumar系M42レンズであれば、
現代のPENTAX機でもさほど操作性を損ねずに撮影が可能だ)

他のF1.2級標準のように焦点距離を長くせずにF1.2を
実現している、また、最短撮影距離も45cmとF1.4級と
同じで好ましい。
さらに言えば、本K50/1.2のレンズ構成は、6群7枚と
同時代のF1.4版と同じであり、恐らくは、レンズのパワー
配置(曲率、屈折率など)や有効口径等を調整して、
開放F値がやや明るいレンズが出来たのであろう。
しかしレンズ重量は重い。同じK(P)時代の50mm/f1.4版は
生憎未所有なので感覚的な比較はできないが、密度感が
あって、ずっしりと重い。ただしフィルター径はF1.4版
と同じφ52mmに収まっている。

芳しく無い。
弱点としても、他F1.2級と同様に、ボケ質破綻と開放近く
での解像度の低下が目立つが、特にボケ質破綻が顕著だ。
様々な条件でボケ質が悪く、回避も極めて難しい。
購入価格も3万円と高価だったので、コスパが悪く、
個人的には好きでは無いレンズだ。
---
では、今回ラストのレンズ。

レンズ購入価格:55,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1(APS-C機)
ミラーレス・マニアックス第3回記事で紹介の
1980年発売のCANON FDマウント用超大口径MF標準レンズ。

その理由は言わずもがな、55,000円という中古購入
価格にある。
これはどう考えても高すぎるのであるが、本レンズを
購入したのは1990年代の第一中古カメラブームの最中
であり、中古相場も強気の高値であったのと、これは
投機用であったのかも知れず、本レンズのキャップには、
「1980年冬季オリンピック(レークプラシッド)で
CANONカメラが公式機材となった」という趣旨の
記念ロゴが入っている。
まあつまり「コレクターや転売(投機)層向け」であり、
実用的に使うレンズではなかった、という事だ。
それから、もう1つの嫌いな理由は、当時の私は、
「キヤノンで高画質仕様を表す「L」レンズであり、しかも
F1.2だ。値段も高価だし、描写性能も、さぞかし高いに
違い無い」と、極めて単純な大きな誤解をしていたのだ。
その後、何百本もの様々な交換レンズを入手して、それらを
数十年という長期間に渡り、実際に使用し、厳密に描写力等
を比較して、やっとわかってきた事が、
「レンズの値段と描写性能は全く比例しない」であった。
だから、近年は「コスパ」という点が、私がレンズに求める
最大の要素となっている。仮に価格が高くても、性能が
それに見合って高ければ別に文句は言わない。
しかし、性能が低くて、価格が高いものはダメだ。
それでは「コスパ評価」が限りなく低くなってしまう・・
まあ、あまりごちゃごちゃとは言うまい、ともかく
嫌いなレンズである。言うまでもなく、ここまで紹介
してきた他の50mm/f1.2級と同様の様々な欠点が目立つ。
私は、本レンズを購入するまで、それまで「Lレンズ」と
言うのは、「高画質仕様」だと思っていたが、どうやら、
値段が高い「贅沢品仕様」であったのだ、という解釈を
知らされたレンズであった。

L仕様では無い、NFD50/1.2というレンズが存在していた
模様だ(全く見た事も無く、知らなかった・・汗)
で、L仕様版は、非球面レンズを含む6群8枚構成で
非Lの通常版は、6群7枚である、後者は恐らくは、前述の
PENTAX 50/1.2と同様の設計手法なのであろう。
で、中級マニア層からすれば「L仕様は非球面が入っていて、
レンズも1枚多い、だから高いのだし、だから良く写って
当たり前だろう?」という判断(主張)があっても不思議
では無い。
でも、そういう風に仕様から性能を類推するのは、必ずしも
それが正しいとは言い切れない。
レンズの描写性能は、それを発揮できるシチュエーション
(条件)に、ハマらなければ、高い性能を得られない場合も
多々あるのだ。
一番簡単な例を挙げれば「ボケ質破綻」である、これは同じ
レンズを使っていでも、撮り方や被写体条件や絞り設定に
よって、大きくボケ質が変化(悪化)してしまう事だ。
だから、たまたま良く写った1枚か2枚の写真をもって
「これは良いレンズだ」と評価する事は出来ない。
このあたりは初級中級マニアが陥り易い誤解であろう。
なお、「後から非L版が出た」という事実は、うがった
見方をすれば、「Lレンズの付加価値をより高める為に」
あえて、そういう市場戦略を取ったかも知れない。
上位と下位レンズが並存ラインナップされていれば、
多くのユーザー層は、上位レンズが欲しいと思うからだ・・
それから今回、NFD50/1.2Lの色々な弱点を緩和する為、
近年のデジタル機(一眼レフ、ミラーレス)としては、
かなり発色性能に優れるFUJIFILM X-T1を母艦として
使用している。
よって、意外に本レンズが良く写ると思ったとしても、
大半はカメラ側の手柄だ。(ただし、X-T1は、AF/MF性能
や操作系に劣るカメラであり、様々なレンズにおいて全て
のケースで高描写力を発揮できる訳では無い)
でもまあ、このようにレンズやらの欠点を回避する手段は
機材の選択やら撮影技法やら、様々にあるので、
そういう条件をきっちりと整えていけば、結局のところ、
レンズの描写力の差などは、殆ど無くなってしまう訳だ。
すなわち、再三述べているが、重要なのは「使いこなし」
であり、レンズ(やカメラ)自体のスペックの優劣では無い
と言う事だ。

欲しい人にとっては、魅力的なスペックであり、予算が
許すのであれば買えば良いと思う。
ただし、性能はあまり期待せず、つまるところは、実用で
ガンガンに使うと言うよりは、むしろコレクター向けの
レンズであると思う。
---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Gブロック「MF50mm/f1.2」の記事は終了だ。
F1.2級MF標準は、なんだかどれもイマイチな性能ばかりで
そのくせ値段も高い(=コスパが極めて悪い)
試写で撮っていても、記事を書いていても、ストレスが
募るばかりであった。
次回の本シリーズ記事は、
予選Hブロック「AF50mm Macro」となる予定だ。
AF標準マクロは、幸いにして描写力が高いものが殆どだ・・