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特殊レンズ・スーパーマニアックス(23)ピンホール特集

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、ピンホール(レンズ)を4本紹介しよう。

ピンホール(Pinhole)とは、「針穴」であり、単に小さい穴が
開いているだけけで、「レンズ」とは言い難いが、本記事では
適宜「レンズ」であるかのように記載する場合もある。

なお、いずれも「ボケボケ」の写りなので、見ているときっと
「眠くなる」(笑) あまり特集記事としては好ましくは
無いが、本シリーズは上級マニア層以上向けなので了承あれ。

それと、言う迄も無いが、ピンホールの写りは基本的には
「周辺減光」を伴うものでは無く、画面全般が均一の明るさで
写る(ピンホールは周辺が暗くなる、と誤解している人が多い
それが起こるのは、後述の「埋め込み型ピンホール」の場合
のみであり、むしろそちらの方が特殊なケースであろう)

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まず最初のシステム
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ピンホールは、LENSBABY MUSE PINHOLE OPTIC
(中古購入価格 4,000円 注:OPTICのみの価格)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

「ピンホール」、すなわち小さい穴(針穴)に光を通す事で
風景等の映像が写る事は、カメラ登場以前の非常に古い時代
(数千年前の古代中国とか古代ギリシャの時代)から知られ
ていた。

もっとも、この古代では、ピンホールと同様に水滴等を
通った光が屈折して像を結ぶ事も知られていて、すなわち
「レンズ」の原理も、既に理解されていたと思う。
_c0032138_18531478.jpg
レンズよりも構造が簡単なピンホールは、古代における天体観測
(日食等)でも多く使用されていたし、その後の時代も同様だ。

16世紀頃になると、ピンホールは「絵画」の為の道具として
(絵を描く際にピンホールの像を見る)芸術家達にも広まる。
かの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」もピンホールを使って絵を
描いた、と聞くと、「あの名作もピンホールのおかげか?」と、
ちょっと興味深くなってくる。
また、17世紀には、画家「フェルメール」も、正確な
遠近法を得る為に実用的にピンホールを使っていたと聞く。

それまでのピンホールは、1つの部屋を丸ごと使用するなど
大きい物であったが、18世紀頃になると、持ち運びが出来る
小型のものも生まれ、芸術家等は、ますますこれを、屋外で
絵を描く目的に使用するようになる。

これらのピンホール機器の名称は、「写真」の歴史を学ぶ人達
には非常に著名な「Camera obscura」(カメラ・オブスキュラ/
カメラ・オブスクラ)である。これは「暗い部屋」という意味
のラテン語であり、初期のカメラ・オブスキュラが、丸ごと
1部屋を使っていた大型設備であった事を彷彿させる。
(この「暗い部屋」を観光用にした例は、昔から世界でいくつも
あって、近年の日本でも東京ディズニーシー内にあると聞く)

この「camera」がそのまま現代の「カメラ」の語源となっている。
つまり、カメラはラテン語では「部屋」という意味だ。

そう考えると、現代の「デジタル・カメラ」とは「離散的な部屋」
という意味となって、昔の人が聞いたら「いったい、何の意味だ?
アパートのような集合住宅か?」となるかも知れない(笑)

ちなみに「Camera obscura」と命名したのは、かの有名な天文
学者「ヨハネス・ケプラー」(16世紀)であったそうだ。
ケプラーは、地動説における「惑星の楕円軌道の運行の法則」を
考えた事で著名で、これは「ケプラーの法則」として、現代でも
天文学を学ぶ上で理解が必須の原理だ。(試験に出る・笑)

さてピンホールを用いたカメラ・オブスキュラは、そのままでは
風景などの映像が見れるだけで、それこそ天体観測や、絵画用の
目的位にしか使用できないし、その像も非常に暗い。

改良点としては、1つは「光学レンズ」を使用して、より明るい
像を得られるようにする事であり、
もう1つは、ピンホールで得られた像を、なんらかの光/化学的
反応で、像として残す、つまり「写真」を撮る事だ。

後者は1798年頃(フランス革命のやや後)天然アスファルトを
用いて、初めて、カメラ・オブスキュラの像を写真として残す
事に成功、これが現代のカメラの元祖だ。
(余談だが、「フォクトレンダー社」は、この時代の前から既に
存在している! が、マリー・アントワネットは既に居ない)

その後、感光素材は19世紀に大きく発展して、後のフィルムに
繋がるのだが、そのあたりの歴史の説明は、今回は割愛する。

それから、ピンホールのままでは、非常に暗かった為、この頃
の(感度が極めて低い)感光素材では、写真を撮るのに時間が
かかりすぎて実用的ではなかったのだ。よって、前述の、
カメラ・オブスキュラの、もう1つの改良点である「レンズ」
が発達した為、ピンホールはだんだんと廃れていってしまう。

本記事は「ピンホール」特集であるので、「レンズ」は「憎き
ライバル」だ(笑) 歴史の話はこのあたりでとどめておこう。
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さて今回使用のLENSBABY MUSEは、OPTIC(光学系)交換型
システムである。本OPTICは「PIHOLE/ZONEPLATE」という
製品仕様で、2つの異なる効果を切り替えて使用できる。
ZONEPLATEの描写に関しては、別の記事で紹介している
(レンズ・マニアックス第4回記事参照)ので、今回は
ピンホール設定のみで使用する。

焦点距離と口径比(F値)は、厳密には使用するシステムに
依存する、すなわちセンサー面からピンホールまでの距離が
焦点距離となり、その距離を穴径で割ればF値が求まる。

本システムでは、それらの正確な仕様は不明であるが、
これはフォーサーズ機用のマウント品で、使用時はだいたい
フランジバック長約38mm+α、穴径約φ0.35mmと
仮定すれば、F110~F120程度となるだろう。
(仕様表には、F117と書かれている)

このあたり全般の数値は、仕様表のF値以外は推定である。

まあ、ピンホールは通常F180~F250程度なので、ずいぶんと
明るく、高ISO(12800以上)とすれば明所で簡単に手持ち撮影
を可能とするが、反面、穴径が通常のピンホール(φ0.2mm程度)
よりも大きいと思われ、あまりシャープな写りは得られない。

なお、適正な穴径を求めるには、以下の光学公式がある。
適正針穴径=(0.03~0.04)x√(フランジバック長)
一眼レフの場合、0.20mm~0.25mm程度がこの値となる。

それから、LENSBABY MUSEはティルト操作が可能であるが、
PINHOLEは「ただの穴」であるから、光軸を任意に傾けても
ティルトのピント面の効果を出せない(この事はミラーレス・
マニアックス記事等で実験済み)し、ケラれてしまう。

本MUSE PINHOLEは、口径比(F値)が明るい分、手持ち撮影は
容易だが、写りのシャープさに欠ける課題がある、ここは、
どちらかを取れば他が立たない「トレードオフ」関係である。
まあ、基本、トイレンズなので、その設計コンセプトは有りだ。
_c0032138_18531480.jpg
それと、今回使用のMUSE本体は4/3マウント版で、現代では、
4/3システムは終焉している為、新品在庫を、かなり安価に購入
する事ができた。ただし4/3版を買って4/3機で使用する場合
では、最高ISO感度が低い為、本PINHOLEのOPTICだけは
使用の際に注意が必要だ。まあでも、他の「ダブルグラス」
や「プラスチック」OPTIC等は、4/3機でも使用可能だ。


今回の使用法では、4/3→Eマウントの「簡易アダプター」を
用いてSONY α7に装着しているが、本MUSEは電子接点を
持たないレンズであるから、かろうじて、この用法ができる。

一般的な4/3機用純正等のレンズでは、電子接点を持たない
「簡易アダプター」では、4/3レンズの絞りもピントも動かずに
使用できない。その際は、4/3→μ4/3電子アダプター
(OLYMPUS等から純正品が発売されている)を用いる必要がある。

まあ、いずれにしても、本OPTICは、ピンホールとしても
やや特殊な類であり、後述のピンホールが正統派であろう。

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では、次のシステム
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ピンホールは、KENKO ピンホール レンズ 02
(新品購入価格 3,000円)(以下、PINHOLE 02)
カメラは、PENTAX K-01 (APS-C機)

希少な市販ピンホールである。他の市販品も、さほど多くない。
現行製品でもある。確か1990年代末位から、店舗用の
カメラ用品の厚いカタログに載っていた、と記憶しているが、
確かな情報は無い。購入したのは2010年代になってからだ。

で、正式名称は上記の通りだが、ピンホールは、「レンズ」
では無い為、本ブログでは便宜上「PINHOLE 02」と記載する
事が多い。
_c0032138_18532704.jpg
非常に正統派のピンホールで、市販品故に工作精度が高い。
仕様は「ピンホール穴径φ0.2mm」のみである。
口径比(F値)はシステムに依存するので、後述しよう。


マウントは「Pマウント」で発売されている。これはM42と
構造上は同一規格(内径φ42mm、ピッチ1mm)だが、
各社カメラ用マウントを使用してフランジバックを調整する
のが前提のマウントである為、Pマウント通常レンズを使用
する場合は、単純にM42アダプターで直接装着してしまうと、
撮影距離の制限が出る。(具体的には最短撮影距離が伸び、
さらに、オーバーインフ=合焦が無限遠を超える、となる)

しかし、ピンホールの場合には、フランジバックの差異は
あまり関係が無く、M42マウントアダプターを直接利用できる。

旧来より最も安価な類のPENTAX純正「マウントアダプターK」
を用いれば、PENTAXのKマウントデジタル機への装着は容易だ。
(注:他社機で用いる場合も、M42アダプターを用いる事が
可能であるが、メーカー推奨の正式な利用法は、CANON EF用
又はNIKON F用のPマウント変換アダプターを使用する)

ただ、PENTAXデジタル一眼レフでは、光学ファインダーが暗く
なる為、そのままでは撮影は困難で、ライブビューモードに
切り替えるか、または勘でフレーミングするか、あるいは
外付けの単体ファインダー(注:適切な画角の物は探し難い)
を用いるか・・ 
そして裏技としては、一眼レフの内蔵ストロボをポップアップ
させ、その支柱の隙間を簡易ファインダー代わりとする。
(注:この場合、勿論、内蔵ストロボは非発光モードとする。
画角(視野)はテキトーになるので、アイポイントの長さで
適宜調整してフレーミングする)

そこで、今回は、母艦として唯一のKマウントミラーレス機
PENTAX K-01を使用している。このK-01は、その主な用途が
「ピンホール母艦」である。その理由は、K-01は、その構造上、
AF/MF性能に劣る為、一般的なレンズを装着した際には低性能な
システムとなるが、ピンホール使用時ではピント合わせの負担が
無くなり、欠点が消えて極めて効率的なシステムとなるからだ。
(=弱点相殺型システム)
_c0032138_18532702.jpg
K-01では、AUTOのままで最大ISO25600に到達し、内蔵手ブレ
補正機能(要:焦点距離を45mmに設定)とあいまって、日中
屋外では殆どのケースでピンホールの手持ち撮影を可能とし、
三脚は不用だ。
おまけに、露出補正などの一般的カメラ設定や、エフェクトも
かけ放題で、撮影前にそうした画像処理効果も背面モニターで
確認できる。

殆ど「最強」と言えるピンホールシステムであり、K-01入手後
は、ずっとこの使用法であったのだが、最近はちょっと弱点が
気になるようになってきた。それは、K-01の最高ISO25600では
暗所での撮影では、背面モニターのゲイン(増幅率)が足りず
暗くなり、また、表示フレーム数(fps)も低下する事だ。

まあつまり「暗所では見え難い」という事である。この状態
でも、AE(自動露出)は効いているのだが、「手持ち限界」
(撮影者のスキルにもよるが、本システムでは1/15秒くらい)
を下回ってしまうケースもある為、撮影自体が厳しい。
_c0032138_18532790.jpg
ちなみに、開放F値(口径比)の計算であるが、Kマウント機に
これを直接装着時のフランジバック長を45mm程度とすれば、
約45mm÷0.2mm(穴径)=約F225となる。
なお、他社機でPマウントアダプターを使用した場合は、
概算だが、約50mm÷0.2mm=約F250だ。

これらは通常レンズに比べて極めて暗い値であるが、ISO感度を
25600以上とすれば、日中明所での手持ち撮影が可能となる。
まあ、「暗所で撮影しない事」を前提としたシステムであり、
それをしたい、と言うのは欲張った無い物ねだりなのだが・・

幸いにして近年では、PENTAX機の高感度化が進んでいる。
PENTAX K-5(2010)やK-3(2013)ではISO51200まで使え、
旗艦K-1(2016)でISO20万、普及機K-70(2016)でもISO10万、
高性能機KP(2017)では、何とISO82万もある。

これらのK-01超えの高感度デジタル一眼レフをライブビュー
モードで使えば、暗所でのピンホール手持ち撮影が可能と
なる訳だ。(注:機種によっては、依然背面モニターの
ゲイン不足の課題が残る)
なお、KP等では、ライブビューモード専用レバーが有り
それを倒しておけば、一々電源ONの度にライブビューに
切り替える必要が無く、この用法において便利である。

ちなみに、PENTAX機以外の他社デジタル一眼レフ等でも、
2010年代後半以降の新機種は、超高感度化が進んでいるので、
同様な用法が可能だ。

まあしかし、そうした組み合わせは「オフサイドの法則」に
ひっかかってしまう。それら高性能の新機種を、ピンホール
の撮影に使うのは、AF絡みの高性能が全く生かせず、無駄に
カメラの性能が良すぎる状態であるからだ。

その点(これは実用的には正しい用法では無い)のみ、良く
理解及び認識をするのであれば、まあ、暗所でのピンホール
撮影用に、超高感度機を使うのは「有り」だろう。、

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では、3本目のシステム
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ピンホールは、RISING ピンホール WIDE V
(新品購入価格 6,000円)(以下、RISING WIDE V)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

こちらも希少な市販ピンホール(海外製)である。
2012年頃の発売だが、生産完了で後継機種がある様子も無く、
現代では入手はやや困難かも知れない。
機種は沢山あって、まずマウント違いがある事と、それから
ミラーレス機用では「埋め込み配置」型がある(あった)

「埋め込み配置(型)」とは、本ブログでの造語だ。
ピンホールでは、レンズのように合焦する訳では無いので、
センサー面やフィルム面から、ある程度、任意の距離に針穴の
配置が可能であり、その配置距離が、ほぼ焦点距離となる。

一眼レフでは、ミラーBOXが存在する為、フランジバック長
ぎりぎりにピンホールを配置しても、だいたい45mm前後の焦点
距離までが限界だ。これは、フルサイズ一眼レフならまだしも、
APS-Cサイズ以下のセンサーのデジタル一眼レフでは、結構な
望遠画角(約70mm以上)となる為、ピンホール撮影技法とは
あまりマッチしない(注:広角で風景や情景などを撮る事が
スタンダードなピンホール撮影技法と言える)
_c0032138_18533757.jpg
ミラーレス機の出現以降、ミラーレス機では、その名の通り
ミラーBOXが無い為、ピンホール自作派等では、ピンホールの
配置位置を、できるだけマウント内に「埋め込んで」配置する
方法が考え出された。


この措置により得られるメリットは以下となる。
1)焦点距離が短く、画角が広い(広角となる)
2)焦点距離が短い事で、口径比(F値)が明るくなる
3)ミラーレス機の(ライブビュー)モニターやEVFで
 構図確認が容易

これらにより、これまでのデジタル一眼レフでの、ピンホール
撮影時の不満事項、「画角が狭い」、「手持ち撮影が難しい」
「構図確認が困難」が、全て解消される。

で、この「埋め込み配置」型のピンホールを市販化した物が
「RISING」シリーズ(のWIDEタイプ)である。

重要な注意点であるが、ピンホールにも「イメージサークル」が
存在している。あまりにセンサーに近接してこれを配置しても
針穴から来る光の角度は限られている為、当然、センサー全面に
迄は到達する事ができない、よって、口径食による「ケラれ」が
発生する訳だ。(↓に説明図)
_c0032138_18540245.gif
そこで、このRISINGピンホール(レンズ)には、埋め込みの度合い
に応じて(つまりピンホールを奥まった位置に配置した製品だ)
「スタンダード」、「WIDE」、「WIDE V」 (Vはヴィネットであり
周辺減光の意味)の、3種類が存在している。
これに応じて、順次奥まった位置に針穴が配置されている。

WIDEやWIDE Vは、ミラーレス機又はレンジファインダー機用の
マウント品でないと(前述のミラーBOXとフランジバックの
関係により)、広角化や周辺減光の効果が得られない。

ただ、これらの構造や原理を、良く理解して使うのであれば、
マウントアダプターを用いて、センサーサイズの異なる他機で
使う事も十分に可能である(注:ちゃんと理解せずに、アバウト
かつ無理やりに他機に装着すると、構造がミラーやセンサーに
ぶつかってしまう等のリスクがある)
_c0032138_18533836.jpg
さて、本ピンホールは、SONY Eマウント用のWIDE Vタイプである。
最もセンサー面に近接してピンホールを埋め込んだタイプであり、
広角画角が得られるというよりも、周辺減光が得られるという
効能よりも・・ 逆に課題として、そもそもイメージサークルが
全く足りておらず、画面周辺が大きくケラれてしまう。

旧来、SONY NEX-3を、本RISING WIDE Vの母艦としていたが、
(注:最初期のNEXで、AF性能に優れないので、トイレンズ
系の母艦として、その弱点を相殺する使用法を行っている)
このRISING WIDE Vによる「ケラれすぎ」には、ちょっと不満な
点もあった。そこで今回、この課題への対処としてSONY NEX-7を
母艦として使ってみる。

NEX-7では、本ピンホール使用時にもプレシジョン・デジタル・
ズーム機能が使える。これを使用して絶妙な拡大率に設定する事
により、周辺減光の度合いを、ある程度調整できる訳だ。

なお、「それはトリミングと等価だ」とは言うなかれ、
まず、心理的な意味で、撮影時に行うカメラ設定は、撮影後に
自宅のPCで編集するのとは全く違う、「撮る時の撮りたい気持ち」
を尊重しないかぎりは、写真はアートには成り得ず、ただの
「映像記録」という行為になってしまう。それではつまらない。

それから、PCでのトリミングは画質無劣化であるが、プレシジョン
デジタルズーム機能はカメラ内部での画像処理であるから、
画質劣化が生じる(例:輪郭線が固くなる等)
一般的な「Hi-Fi写真」では、画質劣化は「ご法度」であるが、
ピンホールのような「Lo-Fi写真」は、画質よりも表現を求める
アート的な撮影ジャンルだ、この場合、「アンコントローラブル」
(制御不可、突然変異的)な要素を、あえて人為的に加える事も、
非常に大きな意味があり、つまり「思わぬ画質劣化」は、この
システムでは歓迎である。

この辺りは、初級中級層には、まず理解不可能な話だとは思うが、
「写真の本質」として、とても重要な事である。
一般的な初級中級層が志向するように、高性能な撮影機材を使って
綺麗な写真を撮るだけでは、それは下手をすれば「単なる映像記録」
になってしまうだけで、面白味が得られない事も多々ある訳だ。

まあ、写真を始めて数年間位は、そういう風に機材に投資したり
技能を高める修練も必要かも知れないが、もうその時期を過ぎたら、
自身の表現を写真で主張していかなくてはならない、それが出来な
ければ、いつまでもビギナーのレベルから脱却できない事になる。

あと、他の芸術ジャンルでの前例を挙げるならば、19世紀頃の
「印象派」の誕生の歴史を学んで見ると良い。それ以前の時代の
「新古典派」「ロマン派」「レアリスム」等と、「印象派」とは
全く別の観点で絵を描いた訳である。勿論当初は、その新発想は
世間には受け入れられ無いものであったが、数十年かけて難なく
定着、近代での絵画のオークションで高額に取引される作品は
たいていが「印象派」のものだ、(注:近年では、また様相は
変わってきている模様)まあつまり、それだけ芸術性が高いと
認識されている訳だろう。

ちなみに、勿論印象派の画家達も若い頃は正統派の絵画技法を
学んでいる。画家によっては若い頃の作品の方が「綺麗で上手」
という評価を受けるかも知れない。だが、彼らは皆、個性的な
新表現を求める為に、その古い殻を打ち破って、新しい手法に
挑戦をし続けた訳である。そして、基礎を学ぶ事の重要性も
この逸話から得られる教訓だ。基礎を知らずして、テキトーに
「これがアートだ!」などと出鱈目な絵を描く事は、さすがに
許されず、有り得ない話だ。
_c0032138_18533742.jpg
さて、RISINGのピンホール画質は極めて悪い、これが工作精度の
問題なのかどうかは不明だ(穴径は一応0.22mmと適正っぽい
が、前述の光学公式では、フランジバックの短いミラーレス機
では、より狭い穴径の方が適切であるようにも思える。
一眼レフ用の設計を、そのままミラーレス機に転用した弊害か?)

ただ、Lo-Fi描写は、エフェクトと組み合わせても面白いし、
開放F値が明るくなる(システムにもよるが、おそよF100未満)
ので、手持ち撮影も比較的容易だ。
「画質が悪い」と切り捨てず、これを、どのように写真表現に
利用可能か?を考える事が中上級者層における本RISING WIDE V
使用時のテーマとなるだろう。

課題は、現代では既に入手困難になっている事くらいか・・
中古も、まず見かける事は無いであろう。

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では、今回ラストのシステム
_c0032138_18535213.jpg
ピンホールは、自作品(穴径約φ0.2mm弱)
(製作費用:数百円程度)
カメラは、PENTAX K-30 (APS-C機)

2000年代前半に自作したピンホール。
当時はまだ銀塩時代であった為、ピンホール母艦用銀塩機
としては最強の「PENTAX LX」(銀塩一眼第7回記事)での
使用を前提として、PENTAXマウントの物を作った。
(注:LXはIDM測光によりピンホールでもAEが効く、後述)

自作は、まずPENTAXのボディキャップの完全な中心部に
電動ドリルでφ数mmの穴をあける。
別途黒い紙を準備し、そこに裁縫用の針で極めて微細な穴
(およそ直径φ0.2mm)を開ける。
後は、その黒い紙を、正しくボディキャップの中心部に
テープ等で貼って出来上がり、という簡単な工作だ。
_c0032138_18535251.jpg
ただし注意点は数点ある。
まず、正しく中心部に穴をあけないと(ドリルも、ピンホール
の穴位置も)それで偏心して画質が劣化する可能性がある事。

それと、針で開ける穴の精度が必要とされる事だ。
これは「真円性」、それからバリやケバ等が無く、滑らかで
ある事、まっすぐ垂直に穴を開けて傾かない事、針穴の周辺の
黒紙の厚みにムラや偏りを作らない事、等である。

穴径はφ0.15mm~φ0.25mmの範囲が推奨であり、
小さいとシャープには写るが、口径比(F値)が暗くなりすぎて
実用性が厳しくなる(ただし最高ISO感度数十万の超高感度機
であれば使用可能)また、穴が大きすぎると、明るくはなるが
写りがボケボケになってしまい、これも使い道が難しい。

再掲するが、適正なピンホール穴径を求める以下の公式がある。
適正針穴径=(0.03~0.04)x√(フランジバック長)
PENTAX一眼レフの場合、フランジバック長は約45.5mmの為、
この公式による適正穴径は、φ0.20mm~φ0.26mmとなるが
経験上、この値より少しだけ小さい方が望ましいであろう。

この為、針穴を開ける際には結構緊張する。垂直かつ適切に
穴をあけないと、うまく写らないかも知れないからだ。
一発勝負であり、失敗したら別の黒紙でやりなおしになる為、
「エイヤッ!」と気合を入れて、できるだけ正確に穴を開ける。

この自作ピンホールは、たまたま、それが上手くいった。
市販のKENKO PINHOLE 02は、その工作精度が高い事が売り文句
だが、本自作品も、KENKO版に勝るとも劣らない高描写力だ。
穴径は標準的なφ0.2mmか、わずかに小さい程度で、
PENTAX機で使用する場合の口径比はF240程度だと思われる。
_c0032138_18535203.jpg
さて、銀塩時代でのPINHOLEの露出決定手法は結構難しくて、
よほど、その撮影ジャンルに精通していない限り不可能であった。
私は、外部(単体)露出計を用いて、その露出計算を暗算で
行える計算式を考案して、その手法を使っていたのだが、
(注:その説明は複雑な為に割愛する、過去記事参照)

そんな面倒な事をやらずとも、前述の「PENTAX LX」では、
完全自動で露出を決める事ができた。

これは、PENTAX LXが「IDM測光」という、一種のダイレクト
測光方式(珍しい)を採用していて、絞り優先AEのモードで、
何と125秒(!)までの長秒時AEを可能とする事からだ。
この値は、銀塩機では最長、恐らくデジタル機を含めて最強
であろう、これに追従するのは、同じくダイレクト測光機能を
搭載する銀塩OLYMPUS OM-2N系での120秒だ。

「2分以上」ものAEが効くのであれば、低感度ISO50や100の
フィルムを使った際においても、日中であれば、およそ
どんなシチュエーションでもピンホールの露出計算は行う
必要はなく、カメラまかせで十分だ。
なお、嬉しい事に、露光の途中で日が翳ったりした場合でも、
ダイレクト測光では「露光量を積算して」正しい露出値が
得られる。
これは凄い技術であるが、1980年代後半のAF一眼時代以降、
この構造を作る事が(AFセンサーが邪魔になり)難しく
なったからか? ダイレクト測光一眼レフは登場していない。

ただまあ、いくら超優秀なAE機能を備えていても、銀塩時代
でのピンホール露光時間は、1秒~16秒程度となり、これは
どう頑張っても、手持ち撮影は不可能で、三脚使用か、又は
カメラをどこかに置いて撮る必要があった。
(注:現代新鋭機に内蔵された超高精度手ブレ補正機能では、
2~4秒程度の長時間露光を手持ち撮影で可能とするらしいが、
新鋭機で高価につき未所有だ、いずれそういう機体を入手
できたらならば、その性能をまた検証してみよう。
そんな機体でのピンホールや赤外線撮影は有効かも知れない)

その後、デジタル時代に入ったが、初期デジタル一眼レフでは
ピンホールを効率的に使う術は全く無い。これは銀塩時代以下の
レベルでしか無いが、デジタル技術の未成熟故に、やむを得ない。
よって、本自作ピンホールは、どこかにしまいこんで、見当たら
無くなってしまった。近年、およそ10年ぶりに、本ピンホールを
カメラ関連部品を収納していた箱の中から見つけ、再度の使用を
始めた次第だ。

さて、現代のデジタル機では、上記のようなダイレクト測光は
無いが、それに変わる大きな武器として「超高感度化」がある。

例えば、PENTAX KPの最高ISO感度は81万9200もあって、
しかもAUTO ISOのままで、その超高感度に到達し、おまけに
手ブレ補正まで効く。(デジタル一眼第22回記事参照)
ライブビューモードに切り替える必要があるが、他社機や
他機のように、一々電源ONの度に毎回切り替える必要は無く、
設定レバーを用いてライブビューモードに常時固定できる。

夜間等を除き、およそどんなシチュエーションでもピンホール
撮影が手持ちで可能な「夢のピンホール母艦」となる。

だが、前述のように、これは「オフサイド状態」だ。
つまり、カメラ側が過剰に高性能で、ピンホールやレンズ側が
それに追いついておらず、システム全体としての効率性が
得られていない状態である。具体的にはPENTAX KPの優秀な
AF性能や、一般撮影に係わる操作系の優秀さが、全く生かせて
おらず、ただ、ライブビューにしてシャッターを切るだけの
安直なシステムに「成り下がって」しまう。
_c0032138_18535210.jpg
その課題を考慮して、今回はPENTAX KPを使用せず、前述の
ピンホール母艦「PENTAX K-01」と同時代で同等のエンジン
廻りの性能を持つPENTAX K-30(2012年)を使う事とした。
この機体は約2万円強と安価だったので、オフサイド状態を
若干緩和できる訳だ。

まあ、勿論、PENTAX K-01の方がシステム効率は高いので
あるが、本機K-30でも、電源ON時の毎回の手ブレ補正焦点
距離設定と、毎回のライブビュー切り替えの手間を除いて、
使えないという訳では無い。

K-01や本機K-30での最高感度(ISO25600)が、暗所でのモニター
ゲイン不足で不満の場合は、「オフサイド」を起こさない他の
組み合わせとしてはPENTAX K-5(2010年、ISO5万強、現在の
中古相場2万円前後、デジタル一眼第12回記事)が唯一だろう。

さらに後年にPENTAX K-70(2016年、ISO10万、未所有)の
中古相場が下がってくれば、これも適正なピンホール母艦と
なるだろうし、また、さらに将来では、前述のPENTAX KPも
中古相場が下がれば、オフサイドルールには引っかからない。

なお、自作ピンホールはPENTAX機以外の他社一眼レフでも
同様な「ボディキャップ穴あけ手法」で容易に自作が出来る。


ただ、適正なスペックを持つ母艦が存在しないメーカーの
場合は、作ったは良いが、効果的には使えない事であろう。
例えば、NIKON D5(ISO320万)や、NIKON D500(ISO160万)
では、さらに高感度なので、ピンホール利用に適する事は
確かだが、高性能で高価すぎるそれらは、ますますオフサイド
禁止のルール抵触が酷くなるばかりで、推奨はできない。
(まあ、安価な高感度機があれば、それで良いという事だ)

また、ミラーレス機用のピンホールを自作する事も、前述の
RISINGの項目で説明したように、様々なメリットが存在する。
ただし「埋め込み配置」にする場合は、ボディキャップ穴あけ
方式では無理な為、自作するにも工作の技量が必要になる。
(3Dプリンターがあれば簡単に作れるかも知れないが、
なかなか、そういう環境は無いであろう)


さらに手先が器用であれば、埋め込みの度合いを調整できる
「ズーム・ピンホール」も自作できるかも知れない。
過去記事でミラーレス機+ヘリコイド内蔵アダプターで、
ズーム・ピンホールを実験した事があった。
ただ、これはシステムの構成上、望遠画角のズームになって
しまい、実用上の効能はあまり無かった。
スーム・ピンホールをやるならば、やはり広角系の画角の方が
(つまり、ミラーレス用「埋め込み式」にする)実用上では
望ましい事であろう。 

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さて、今回の記事「ピンホール特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・


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