「レンズ・マニアックス」シリーズの補足編として、
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
合計12本のレンズを順次紹介する3記事の中編。
前編と後編では、描写表現力5点満点のレンズを
計8本紹介するが、今回の中編記事では描写表現力
4.5点のレンズを4本取り上げる。
なお、ここで紹介するレンズ群は「マニアック度」が
強過ぎるので、一般層(マニア以外の初級中級層)に
推奨できるような類のレンズでは無い事は、予め
念の為に述べておく。
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まずは最初のレンズ
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レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL
(新品購入価格 79,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
2001年発売の高描写力MF中望遠(等倍)マクロレンズ。
(注:例によってフォクトレンダーの独語綴りでの
変母音の表記は記載便宜上省略している)
![_c0032138_07102603.jpg]()
本シリーズ第12回記事、「使いこなしが難しいレンズ編」
で堂々の第1位(ワースト・ワン)となった、いわくつき
の高マニアック度レンズである(汗)
レア品であるから、市場での正当な評価は殆ど存在せず、
かつ、所有している人は、それを持っている事を周囲に
自慢したいだろうから、過剰な「良い評価」しかしない。
そうなると「何としても欲しい!」という「好事家」が
出てきて、そこに高く売れるから、そうしたレンズは
「投機対象」となってしまう。
結果、プレミアム(=不当に高額な)相場化してしまい、
高価なそれを買った人は、ますます「凄い」と褒めるから、
さらに、そのレンズは「神格化」されてしまう。
場合により、さらに相場が上がれば、高く購入した人も、
「売却益」が得られるので、売ってしまう事であろう・・
ただ、そられは全て市場や心理的な原理により、どんどん
と勝手に話が膨らんでいるだけの事であり、本レンズが
超高性能レンズであるというのは、単なる「幻想」である。
私の評価データベース上の「描写表現力」得点は4.5点、
これは悪い点数では無いが、これ以上の「満点」のレンズ
も沢山ある。本記事の前編や後編の紹介レンズは全て
5点満点だし、マニアック度が低くて紹介していないが、
他にも5点満点のレンズは、勿論色々と存在している。
そして「描写表現力」よりも大きな問題となるのは、
本レンズの「エンジョイ度」が1.5点しか無い事である。
ただ、これは少々甘い評価であり、なんとか本レンズを
使いこなせるスキルでの評価点だ。初級層が本レンズ
を使ったら、なにせ400本弱の様々な所有レンズの中で
最も難しいレンズである故、「絶対に」と言っていい程
使いこなす事は出来ないだろうし、下手をすれば
まともに写真を撮る事すらも難しいであろう。
すぐに「メゲて」しまって、二度と本レンズを外に
持ち出したくなくなってしまう、そうなるとエンジョイ
度は、最低レベルの0.5~1点程度の評価になるだろう。
最大の課題は、最近接撮影から無限遠まで、実に14回の
「指の持ち替え回転操作」が必要とされるMF操作性だ。
非常に重たいピントリングを1日中伸ばしたり縮めている
事を続けていれば、「これは何かの修行か?」という
疑問が沸いてきてもおかしく無い。
まあ、宗教的に「苦行」を行う事で、一種のトランス状態
(≒悟り)を得る事は、その宗教分野においては、一般的
な話であるかもしれない。あるいはアスリート等が、苦しい
練習を積んで集中力を高め、トランス状態(≒ゾーン)を
得たりする事も良く聞く話ではあるが、いずれもカメラマン
が志向するような類の行為では無いだろう、だから、
本レンズを使う事は、単に辛いだけの話でしか無い。
![_c0032138_07102607.jpg]()
なお、三脚を使って、ほぼ固定距離の被写体に特化する
ならばピントリングの操作の負担は緩和される可能性が
あるのだが、本レンズの特性で三脚の使用は非推奨だ。
何故ならば、マクロレンズ、しかも大口径で等倍である
から、これは撮影アングルの自由度が格段に高いレンズだ。
したがって、三脚を立てアイレベル(目の高さ)や
ウエストレベル(腰の高さ)で、数十cm程度の距離で
固定的に撮るなどは、もうその時点で、本レンズの
アングルとレベルの自由度の高さの長所を全て殺して
しまっている事となる。そうした、機材の持つ特徴を
無駄にする撮影技法は、本ブログでは完全に非推奨だ。
それと屋外被写体では、本レンズのような被写界深度の
浅いレンズでは、三脚を立てて撮影側が固定していたと
しても被写体側は風などで常に揺れていて、距離ブレに
よるピンボケや、被写体ブレを連発する。
ちなみに開放F値はF2.5と比較的明るいレンズであるが
近接撮影では露出倍数がかかり、最大でおよそ4倍程度
のシャッター速度低下、あるいはISO感度増加が必至だ。
よって、各種AUTO設定のままでAPS-C機等で使うと
望遠画角で内蔵手ブレ補正が無い事もあいまって、
手持ちでは、いくら絞りを開けても、初級層では間違い
なく手ブレで全滅するし、三脚利用でもシャッター速度
が低速化して、被写体ブレで厳しい。
では、温室などの無風状態でなら撮れるか?というと
そういった人が沢山通る場所で三脚を立てていたら
大顰蹙ものであり、現代では多くの植物園の温室は
三脚の使用は勿論禁止されている。
仮に三脚を立てれたとしても、別の問題がある。
温室の空調等の風で被写体はやはり多少揺れているし、
本レンズのような内部空気変動量の大きい(ヘリコイド
の伸び縮みが大きい)レンズは、外気との温度差と
湿度差で、結露が非常に発生しやすいのだ。
これは時間をかけてレンズ内部空気と外気の環境差が
安定するまで消える事は無いし、無事に消えたとしても、
なんだか、レンズの中に水分が沢山残っているようで、
カビ等が発生しそうな不安がつきまとう。
結局、本レンズは「草花を撮るものだ」という思い込み
は捨てなければならない、まともに撮れないからだ。
であれば、屋外(フィールド)での近距離から遠距離
までの様々な被写体において、その高描写力と被写体
汎用性を発揮するのが正解となる。しかし、その際に
前述の「ピントリングの修行とも言える劣悪な操作性」
の問題点が襲ってくるのだ。
それからシャッター速度等による様々な課題は、上級層
であれば、あらゆる手動設定を駆使して、これらは
回避可能だが、その際、事前に想像しているよりも、
設定の自由度が、かなり少ない事に気づくであろう。
具体的には撮影倍率を高めようとAPS-C機を使うとして
換算画角200mm相当から、手ブレ安全圏は最低でも
1/250秒、または余裕を持って1/500秒だ。
しかし、近接撮影では露光(露出)倍数がかかり、
開放F5相当となったレンズは暗く、また被写界深度が
浅すぎると感じる為にF4~F5.6程度に絞ったら、
それは実質F8~F11相当と、非常に暗くなる。
日中屋外でも、影に入ったらISO感度をそこそこ高め
ないと確実に手ブレする。「何で昼間なのにISO1600
なんだ~」と、ブツブツと文句を言いながら、今度は
そろそろ高感度ノイズの発生を気にしないとならない。
さらには、ピントが合い難い。今時のデジタル機の
光学ファインダーでは精密なMF操作は厳しいのだ。
(この対策の為、今回使用機EOS 6DではMF用のEg-S
スクリーンに換装済みだが、それでもわかりにくい)
そして、仮にEOSマウント版であれば(注:本レンズの
発売マウントは限られている)頼みの綱の、EOS機の
フォーカスエイド機能は、本レンズではかろうじて動作
するのだが(注:他の多くのMFレンズでは動作しない)
その精度が怪しい事と、仮測距点選択の操作性が煩雑
すぎる事に気づくであろう。
まあ、イライラが募るばかりである。
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だから本レンズは「最も使いこなしが難しいレンズ」
なのだ。そして、20年近くも使っていないと、これらは
決してわからない事かも知れない、他のWeb等で色々と
あるだろう過剰な好評価は、あてにしない事だ。
幸か不幸か、現代では購入する事すら困難なレア物
レンズであるから、もう完全に非推奨品である。
どうしてもマクロアポランターが欲しければ、2018年末
に発売された、新鋭110mm/F2.5版の方が良いであろう、
本レンズの不満点は殆ど解消されている。(注:本記事
には間に合わなかったが、別途紹介済みだ)
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では、次のシステム
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レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 56mm/f1.2 R APD
(中古購入価格 112,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
2014年発売の、Xマウント(APS-C)機専用、大口径AF
中望遠(相当)アポダイゼーション内蔵レンズ。
![_c0032138_07105056.jpg]()
定価20万円越えという高価なレンズであるが、
「高価だから高性能だ」と勘違いしてはならない。
高価なのは、この特殊な構造における開発費の減価償却が
乗ってきているからである。多額の開発費をかけて、かつ
販売本数が少ないならば、その値段の大半は、そうした
開発費償却に充当されている。まあつまり、FUJIFILMの
技術者さん達の給料を、ユーザーが払っている、という
図式になる訳だ。
でも、別にまあ、それでも良い。こうした特殊なレンズ
を良く作ってくれた、という「ご苦労賃」である訳だし、
元々、このスペックのレンズは、本ブログの、かなり
初期の十数年前の記事でも、「将来的に50mm~100mm
くらいの画角のSTF(アポダイゼーション)が欲しい」
と記載した事がある。
それまで唯一であった、MINOLTA STF135/2.8[T4.5」
からは、実に16年ぶりのアポダイゼーションレンズの発売
なのだ、ちょうど良い仕様のレンズが出てきた事で、これは
もう、どんなに高くても買うしか無いではないか・・
まあ、個人レベルで特注レンズなど出来るはずもなく、
もしそれをやったら軽く500万円以上という金額になって
しまう(汗)だから、殆ど希望するスペック通りの特殊な
レンズが市販されるという事は、非常に喜ばしい事態なのだ。
![_c0032138_07105058.jpg]()
・・まあ、それでもさすがに20万円以上は高い(汗)
1年程指を銜えて待っていて、やっと市場に出た中古を
適価で入手した次第だ、それでも11万円超えは、もう
私のルール(持論)でのレンズ入手価格の上限に近い。
まあ、ギリギリセーフという感じであった。
現行レンズである為、高価ではあるが入手性は悪く無い、
しかし、これも手放しでは褒められないレンズである。
課題は3つ、
まず、カメラを含めたシステムとしてのAF/MF性能が
低く、実用撮影上でのピント合わせが困難な事。
次に、大口径化で無理をしているのか、開放近くで
若干甘い描写となり、ボケ質破綻も若干出る。
普通のレンズであれば及第点のレベル(4.5点)
ではあるが、アポダイゼーションなので5点満点
の描写表現力は当然であろう、と期待してしまう。
最後、やや大きく重く、高価な三重苦レンズであり、
入手性やハンドリングが悪く、希少品故に
過酷な撮影環境で使い難い。
である。
まあ、これらの小さい弱点を、価格と比べてどう捉える
かはユーザー側の価値観や、利用目的次第であろう。
ちなみに、人物撮影に適した換算画角だからといって
ポートレートに使おうとすると、上記の課題の1と2は
結構影響が大きく、私はもう人物撮影用途は本レンズ
では諦めている。
![_c0032138_07105041.jpg]()
結果、私の評価データベースでは、本レンズのコスパ点
は2点と、厳しい低評価だ。
まあでも、これでも、希少なスペックである事で若干
甘い評価をしていて、本来であれば1~1.5点が妥当だ。
購入検討時に、このコスパの悪さをどう解釈するかが、
最大の課題であろう、まあ、決して簡単には推奨は
できないレンズである。
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では、3本目の高マニアックレンズ
![_c0032138_07110501.jpg]()
レンズは、MINOLTA AF 85mm/f1.4 G (D) Limted
(新品購入価格 145,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)
2002年に限定700本で販売された「幻のレンズ」とも
言える希少レンズ。
ただ、これも注意するのは「神格化」する程には
高い描写表現力を持つものでは全く無い、という事だ。
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非常にレアな為、投機対象となってしまっている。
しかし、単に「高描写力の大口径85mmレンズが欲しい」
という目的であれば、本レンズよりも高い描写力を
発揮する85mmは、現行品を含め数本は存在しているし、
私が未所有の範囲まで広げれば、恐らくは10本弱程度
の85mmレンズは、本レンズよりも高描写力であろう。
では、本レンズの存在意義は何か?というと・・
それが実は、残念ながら殆ど無いのだ(汗)
もう一々、出自などを説明するのもやめておこう、
今更入手できるようなレンズでも無いし、まあこれは
ミノルタがコニカと合併したり、さらにはカメラ事業
から撤退する前に、「出来る時に、足跡を残しておこう」
という意味合いで発売された記念碑的なレンズであろう
からだ、だからその「歴史的価値」を除いては、実用的に
本レンズを使う意味は殆ど無い。
たとえ限定発売品とは言え、その性能から比べると、
発売時購入価格ですら高価すぎると思ってしまい、
私の評価データベース上のコスパ評価点は、僅かに
1点であり、これは史上最低点である。
ましてや、プレミアム相場で、この価格(145,000円)
を超えてまで買う事は、もうコスパ的観点からは
有り得ない。(評価0点、あるいは完全非推奨)
私が買ったレンズ中では、珍しい「失敗レンズ」と
なってしまい、その教訓から、もうこの価格帯以上
の高価なレンズは、二度と買わない事と決めた。
つまり、たとえ市場等での評判が良かったり、出自が
希少であったとしても高価なレンズは買わない。
それは、当然ながら、どんなレンズでも様々な欠点が
目につくからであり、それが安価なレンズであれば
まあ我慢したり、弱点回避技法を色々と使って逃げる事
は出来るだろうが、高価なレンズで性能が悪かったら、
心理的にもう嫌になってしまうのだ。「値段だけやたら
高いくせに、この低性能はいったい何なのだ!」という
感じである。値段が高ければ高いほど、その評価の視点
は厳しくなっていくのは当然なのだ。
![_c0032138_07110564.jpg]()
本レンズを購入する為に下取りしたMINOLTA AF85/1.4
(初期型)を手放した事も、ずいぶんと後悔した。
それは、そこそこ良く写る85mmレンズであったのだ。
(まあ、初期αの発売時の1980年代に、社内コンペが
あって、勝利したのがそのレンズで、本レンズは敗北して
「お蔵入り」となったのだ、という話を聞いている)
後年、再入手しようと思ったが、KONICA MINOLTAの
カメラ事業撤退(2005年)により、AF85/1.4(初期型等)は
投機層および流通業者の買占めに合い、中古市場から消滅。
しばらくレア感が演出された後で出てきたAF85/1.4は、
10数万円という、本レンズすらも超えるプレミアム相場化
されてしまい、入手する術(すべ)が無くなってしまった。
ほんの数年前、同初期型レンズを知人に勧めた際には、
僅かに29,800円の中古相場であったにもかかわらずだ。
勿論、そんな不当な高値で私が買う筈もなく、また他にも
売れるはずも無い為、後年には相場は下落、だけどもう
私のAF85/1.4初期型への興味も失せてしまっていた,
「市場での意図的な評価や作為に乗せられているだけ」
という事が大変良く理解できたからである。
で、しばらく85mmレンズ全体にも興味が無くなっていた、
それまで沢山の85mmを買い、市場での評判が良かった物も
多々含まれていたにも係わらず、使いこなしが難しくて
歩留まり(成功率)が極めて悪いレンズばかりだった
からである。それに基本設計は、昔(銀塩MF時代)から
殆ど変わる事も無く、設計が古く、描写力的にも納得が
いかないものが多かったのだ。
その後、2010年代後半頃から、今度は新鋭の全くの
新設計(プラナー型やゾナー型では無い)85mmレンズが
やっと各社から出始めた、それらには興味が出て、
実際に数本入手してみると、もう20年も30年も前の
レンズとは全くの別物と言える程に進化している。
(注:本AF85/1.4Limitedは、1980年代前半の設計
であり、40年近くも前のオールドレンズと等価だ)
よって、もう、本レンズやノーマル型のAF85/1.4
への興味も完全に醒めた、もうこれらは過去の遺物と
同様であり、単なる「歴史の証人」に過ぎない訳だ。
(参考:ごく近年、七工匠55mm/f1.4等、この1980年代
頃の古い時代の85mmレンズの設計を2/3程度にスケール
ダウンしたジェネリック・レンズが新発売されている。
それは当時の各社85/1.4と同等の描写力を持ち、新品で
1万数千円程度と極めて安価であり、それならばコスパが
極めて高いので、かなり、お気に入りだ。
ただ、その時代の85mmの描写特性上の弱点を同時に抱えて
いる為、簡単には使いこなせないレンズとなっている。
→後日紹介予定)
![_c0032138_07110521.jpg]()
ただまあ、本レンズの歴史的価値の高さからは、今度は
また手放す事も難しくなる。なのでまあ、たまには
持ち出して使ってあげて、ミノルタのレンズ開発史に
おけるノスタルジックな気分に浸っている次第だ。
勿論、本レンズは上級マニア層やコレクター層に至る
まで非推奨である。
これを持つ理由が何も思い当たらないのだ。
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では、今回ラストのレンズ、
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レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANNTHAR 65mm/f2
(新品購入価格 122,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
2017年発売の、大口径準中望遠MFマクロレンズ。
フルサイズ対応であるが、現状、SONY E(FE)マウント版
のみの発売である。
![_c0032138_07111389.jpg]()
「またアポランターか? 125/2.5SLで懲りたのでは?」
という話が、外からも心の内からも聞こえてきそうな
状況である(汗)
まあ、事実その通りではあるが、16年もの歳月を経て
新発売されたレンズだ、兄弟レンズであるといっても
それなりに旧機種の欠点は改良されている事であろう、
いや、改善されていなかったら、そちらがむしろ問題だ。
フォクトレンダー(コシナ)の設計力(技術水準)は
信用していない訳では無いが、125/2.5SLの問題点は、
描写力そのものではなく、使い勝手にあったからだ。
そういう意味では、設計側が、そうした自分達で作った
レンズを本当に長期に渡って実際に使ってみて、その
欠点などを洗い出しているかどうかは極めて疑問である。
(特に、短期間しか発売されていない、マニアックな
レンズが多すぎるのも、ロングラン評価には課題であろう)
あるいは社外の評価者などに意見を聞くのも難しい事で
あろう。あまりに特殊な使い方を要求されるような
マニアックなレンズばかりだからだ。たとえ職業写真家
層であっても、今時のそういう人達は、高性能なAFの
システムしか使わない。MFで、ヘリコイドを14回も
廻さなければならないレンズなど、見た事も使った事も
無ければ、評価のしようも無いではないか・・
(ちなみに、もう1本、CONTAX Makro-Planar T* 100/2,8
も「14回廻し」のレンズである、しかし古くて準レア品だ)
![_c0032138_07111341.jpg]()
さて、新設計の65mm/F2版は、さすがに「14回廻し」
では無くなっていた、ちなみに、こちらは「5回廻し」
である。まあこれであれば、MFでの操作性はセーフと
言えるが、逆にちょっと少なすぎるかも知れない。
まあ、等倍マクロであればMFでの厳密なピント合わせの
精度を出すならば「7回廻し」あたりが適切だろうと
思うし、過去の各社のマクロも、だいたいそのあたりが
標準的な仕様である。しかし本レンズは1/2倍なので、
やはり「5回廻し」が妥当か・・
で、今度は別の課題が発生、それは大きく重いのだ。
本レンズのようなマニアックなレンズは、殆ど量販店の
店頭にも展示されていない、これを予約して初めて手に
した際には驚いてしまった。TAMRONのSP60mm/F2位の
サイズ感を想像していたのだが、軽くそのレンズの倍程に
大きいのだ。
「ぎょえ~、こんなに大きいのかよ!」と思った1つの
理由として、SONY α Eマウント機は、ご存知のように
一眼レフよりもはるかに小さい。そこへ本レンズを
装着すると、とてつもなくトップヘビーとなる。
α7に取りつけた状態では、どうにもバランスが悪い。
いや、正確に言えば、本来MFレンズでは、システムの
重心付近にピントリングや絞り環が来なくては操作性が
悪化するのだが、一応は、だいたいその位置となって
いるものの、ピントと絞り環の前後の持ち替え時に
バランスが崩れるのだ。この調整の為に、α7用縦位置
グリップを買おうか?と一瞬思ったが、それを買って
本体重量を増やしたところで、バランスが良くなる保証
も無いし、元々世界一小型軽量なフルサイズ機である
α7の最大の特徴を、付属品を追加する事で、その長所
を殺してしまう事は、概念的にも有り得ない話だった。
「困ったなあ・・ コシナ(フォクトレンダー)も
あいかわらず操作性等は、何も考えていないなあ・・」
と思いつつ、たまたまAPS-C機のNEX-7に装着してみると、
意外にしっくりと来る。
NEX-7は、α7よりさらに小型軽量であるので、むしろ
重量バランスが悪化するのでは? という先入観が
あったのだが、実際にはそうでは無かった。
本レンズMAP60/2の重量は625gあり、NEX-7の291g
(本体のみ)の、およそ2倍だ。ここで実際にシステムを
持ってみると、ほとんどレンズだけを支えている感覚
となる。つまり、カメラ本体の重量をあまり意識する
必要がなく、操作性上での重心バランスが、偶然だが
適正になったのだ。
今回、NEX-7と、ほぼ同等の285gの重量のα6000で、
かつケース付き、とちょっと重くなる条件で試して
いるのは、機種毎の重心バランスの再確認である。
案の定、こちらもあまり悪く無い。
比較的快適に使える重量バランスである。
なお、APS-C機での利用で、「換算画角が変わるでは
無いか」とは言うまい、本レンズは、1/2倍(ハーフ
マクロ)と、ちょっと撮影倍率上の不満がある。
APS-C機への装着で、約100mmの画角、約0.75倍の
最大撮影倍率となり、むしろ中望遠マクロとしては
使い易く感じるのだ。(ちなみに画面周辺収差も消えて
全体画質も向上する。その点では、αフルサイズ機の
APS-Cモードで使用しても同様だが、その際には、記録
画素数が大幅に減ってしまう課題とのトレードオフだ。
NEX-7やα6000であれば最大2430万画素をフルに活用
できる。そして本レンズは、画素数を下げないと解像力
性能が追いつかないような柔(やわ)なレンズでは無い)
他の使用上の注意点としては「MFアシスト」機能を
必ずOFFにしておく事だ、これをON(入り)とすると
ピントリングに手を触れると、下手に電子接点を持つ
レンズであるが故に、勝手に画面拡大が働いてしまい
かつα6000では、その解除は簡単では無い(タイマー
の経過待ち)よって、全体構図確認がやりにくい。
(注:画面拡大表示と、デジタルズーム(拡大)撮影は
全く意味が異なる事は、言うまでも無いであろう)
MFアシストをOFF(切り)にしておけば、自動拡大は
行われない、その際にも手動拡大は、Fnキー等に、
その操作を割り振っておけば任意のタイミングで可能だ。
ただ、ここも拡大の解除は容易では無い。
けど、ピーキング機能が常時出せるので、あまり精密な
ピント合わせで無ければ、殆どそれだけで事足りる。
他には特に注意点は無いが、NEX-7やα6000系等の
1/4000秒機で使う際は、屋外晴天時ではND2~ND4
の減光フィルターを装着しないと、絞り開放F2では
シャッター速度オーバーになってしまう事くらいか。
「描写力」は悪くは無いが、「感動的」という領域には
ほんのちょっと届かない。それから、1/2倍マクロ
という点で、ほんの僅かだが「表現力」の減点がある。
結果「描写表現力」4.5点というのは、妥当な評価だと
思うが、勿論悪い点数では無く、総合的な描写力的には
不満は、まず無いであろう。
大きさと重さ以外の最大の課題は、価格である。
12万円+税であり、かつ値引きも殆ど無い。
中古は一度見かけたが、11万円台と新品と殆ど
変わらない価格であり、恐らくそれは展示品処分の
新古品であった事だろう。(追記:近年では、10万円
以下の中古も良く見かけるようになった)
前機種の125/2.5SLの定価9万円台よりも、何割か
価格が上乗せされてしまい、値引きも無くて実勢価格が
高価な為、旧来よりも、かなり割高な印象を受ける。
その16年間で物価水準は殆ど変動していないので、
価格の高さはレンズ市場の縮退による高付加価値化戦略
(=値上げ)であろう事が如実に見て取れる。
「高付加価値製品」をアピールする為か、本レンズの
キャッチコピーは「フォクトレンダー史上、最も優秀な
マクロレンズ」となっている。
しかし・・・ 本レンズの私の描写表現力の評価点は、
4.5点であり、5点満点がつくフォクトレンダーレンズ
は、この記事の前後編に2本存在している。
まあ、「優秀な」というキャッチコピーが、いったい
何を表しているのか? という点であろう。
電子接点によって、SONY機の内蔵手ブレ補正が使える
というならば、まあ確かに性能仕様的には優秀だ。
でもなあ・・それだけか?、という気もしないでも無い。
ちなみに、かつてフォクトレンダーのレンズ群は、カメラ
側との連携・連動を拒むようなものばかりであった。
M42マウント版は、絞り羽根連動ピンを押し込める仕様で
無いと使えなかったし、ニコンFマウント版も初期のZF
仕様ではCPU/ROMを内蔵しておらず、使える一眼レフが
限られていた。まあ、旧来からのコシナ製のMFレンズが
マウントを換える事で、各社のカメラに対応していた、
という、OEMメーカー故の「文化」であったのだろう。
(精密機械メーカーであり、電子機器が得意では無い)
それから、AFのレンズもコシナ製では殆ど存在しない。
ここにきてやっと、SONY Eマウント版で、カメラ側との
情報連動を行うようになった、という事か・・
![_c0032138_07111324.jpg]()
総論だが、大きく重く高価な三重苦レンズとなって
しまっている、それが本レンズの最大の弱点であろう。
本レンズのコスパ評価点は、2点と低い。だがこれも
また少々甘い評価であり、近代的な仕様という点で
多少ゲタをはかせている、実質的には、1.5点という
のが妥当な評価であろう。
この低コスパをどう捉えるかが、また本レンズを購入
するに値するかの検討事項に強く関連する。
ただ、現行品とは言え、あまり潤沢に製造数がある
状態とはとても思えない、しばらくするといつの間にか
生産中止になっていて、入手不能になる、というのは
過去20年間強のコシナ・フォクトレンダーの歴史の上
では毎度の事である。だから、気になっているレンズ
ならば発売期間中に、なんとしても入手しておかなければ
ならないのだ。
さもないと、また後年に入手不能となり、冒頭のMAP125/2.5
のように、レア品と化してしまい、投機層などが意図的に
「神格化」する事により、とんでも無いプレミアム価格が
ついてしまう恐れが非常に大きい。
「そんなにびっくりする程凄い写りのレンズでは無いよ」
と言ったところで、手に入らない人達にはわかりようが
無いのだ、誰かが「凄い」と言えば、それを信じて
しまっても、それを責めるわけにもいくまい。
描写表現力4.5点、コスパは2点、この評価点の傾向を
どう捉えるかは微妙なところであろう。
ちなみに、エンジョイ度はあまり低くは無く、4点の
好評価である、ビギナー層には依然使いこなしが難しい
レンズだとは言えるが、幸いにしてその敷居はさほど
高いものでは無い。SONY α機の様々な現代的な先進機能を
上手く利用できるのであれば(注:初級ユーザー層では
それは困難だとは思うが)、本レンズの使いこなしは、
従前のコシナ・フォクトレンダー製品ほどには難しくは
無いのだ。
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さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
次回後編記事では、描写表現力5点満点のレンズを紹介する。
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
合計12本のレンズを順次紹介する3記事の中編。
前編と後編では、描写表現力5点満点のレンズを
計8本紹介するが、今回の中編記事では描写表現力
4.5点のレンズを4本取り上げる。
なお、ここで紹介するレンズ群は「マニアック度」が
強過ぎるので、一般層(マニア以外の初級中級層)に
推奨できるような類のレンズでは無い事は、予め
念の為に述べておく。
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まずは最初のレンズ

(新品購入価格 79,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
2001年発売の高描写力MF中望遠(等倍)マクロレンズ。
(注:例によってフォクトレンダーの独語綴りでの
変母音の表記は記載便宜上省略している)

で堂々の第1位(ワースト・ワン)となった、いわくつき
の高マニアック度レンズである(汗)
レア品であるから、市場での正当な評価は殆ど存在せず、
かつ、所有している人は、それを持っている事を周囲に
自慢したいだろうから、過剰な「良い評価」しかしない。
そうなると「何としても欲しい!」という「好事家」が
出てきて、そこに高く売れるから、そうしたレンズは
「投機対象」となってしまう。
結果、プレミアム(=不当に高額な)相場化してしまい、
高価なそれを買った人は、ますます「凄い」と褒めるから、
さらに、そのレンズは「神格化」されてしまう。
場合により、さらに相場が上がれば、高く購入した人も、
「売却益」が得られるので、売ってしまう事であろう・・
ただ、そられは全て市場や心理的な原理により、どんどん
と勝手に話が膨らんでいるだけの事であり、本レンズが
超高性能レンズであるというのは、単なる「幻想」である。
私の評価データベース上の「描写表現力」得点は4.5点、
これは悪い点数では無いが、これ以上の「満点」のレンズ
も沢山ある。本記事の前編や後編の紹介レンズは全て
5点満点だし、マニアック度が低くて紹介していないが、
他にも5点満点のレンズは、勿論色々と存在している。
そして「描写表現力」よりも大きな問題となるのは、
本レンズの「エンジョイ度」が1.5点しか無い事である。
ただ、これは少々甘い評価であり、なんとか本レンズを
使いこなせるスキルでの評価点だ。初級層が本レンズ
を使ったら、なにせ400本弱の様々な所有レンズの中で
最も難しいレンズである故、「絶対に」と言っていい程
使いこなす事は出来ないだろうし、下手をすれば
まともに写真を撮る事すらも難しいであろう。
すぐに「メゲて」しまって、二度と本レンズを外に
持ち出したくなくなってしまう、そうなるとエンジョイ
度は、最低レベルの0.5~1点程度の評価になるだろう。
最大の課題は、最近接撮影から無限遠まで、実に14回の
「指の持ち替え回転操作」が必要とされるMF操作性だ。
非常に重たいピントリングを1日中伸ばしたり縮めている
事を続けていれば、「これは何かの修行か?」という
疑問が沸いてきてもおかしく無い。
まあ、宗教的に「苦行」を行う事で、一種のトランス状態
(≒悟り)を得る事は、その宗教分野においては、一般的
な話であるかもしれない。あるいはアスリート等が、苦しい
練習を積んで集中力を高め、トランス状態(≒ゾーン)を
得たりする事も良く聞く話ではあるが、いずれもカメラマン
が志向するような類の行為では無いだろう、だから、
本レンズを使う事は、単に辛いだけの話でしか無い。

ならばピントリングの操作の負担は緩和される可能性が
あるのだが、本レンズの特性で三脚の使用は非推奨だ。
何故ならば、マクロレンズ、しかも大口径で等倍である
から、これは撮影アングルの自由度が格段に高いレンズだ。
したがって、三脚を立てアイレベル(目の高さ)や
ウエストレベル(腰の高さ)で、数十cm程度の距離で
固定的に撮るなどは、もうその時点で、本レンズの
アングルとレベルの自由度の高さの長所を全て殺して
しまっている事となる。そうした、機材の持つ特徴を
無駄にする撮影技法は、本ブログでは完全に非推奨だ。
それと屋外被写体では、本レンズのような被写界深度の
浅いレンズでは、三脚を立てて撮影側が固定していたと
しても被写体側は風などで常に揺れていて、距離ブレに
よるピンボケや、被写体ブレを連発する。
ちなみに開放F値はF2.5と比較的明るいレンズであるが
近接撮影では露出倍数がかかり、最大でおよそ4倍程度
のシャッター速度低下、あるいはISO感度増加が必至だ。
よって、各種AUTO設定のままでAPS-C機等で使うと
望遠画角で内蔵手ブレ補正が無い事もあいまって、
手持ちでは、いくら絞りを開けても、初級層では間違い
なく手ブレで全滅するし、三脚利用でもシャッター速度
が低速化して、被写体ブレで厳しい。
では、温室などの無風状態でなら撮れるか?というと
そういった人が沢山通る場所で三脚を立てていたら
大顰蹙ものであり、現代では多くの植物園の温室は
三脚の使用は勿論禁止されている。
仮に三脚を立てれたとしても、別の問題がある。
温室の空調等の風で被写体はやはり多少揺れているし、
本レンズのような内部空気変動量の大きい(ヘリコイド
の伸び縮みが大きい)レンズは、外気との温度差と
湿度差で、結露が非常に発生しやすいのだ。
これは時間をかけてレンズ内部空気と外気の環境差が
安定するまで消える事は無いし、無事に消えたとしても、
なんだか、レンズの中に水分が沢山残っているようで、
カビ等が発生しそうな不安がつきまとう。
結局、本レンズは「草花を撮るものだ」という思い込み
は捨てなければならない、まともに撮れないからだ。
であれば、屋外(フィールド)での近距離から遠距離
までの様々な被写体において、その高描写力と被写体
汎用性を発揮するのが正解となる。しかし、その際に
前述の「ピントリングの修行とも言える劣悪な操作性」
の問題点が襲ってくるのだ。
それからシャッター速度等による様々な課題は、上級層
であれば、あらゆる手動設定を駆使して、これらは
回避可能だが、その際、事前に想像しているよりも、
設定の自由度が、かなり少ない事に気づくであろう。
具体的には撮影倍率を高めようとAPS-C機を使うとして
換算画角200mm相当から、手ブレ安全圏は最低でも
1/250秒、または余裕を持って1/500秒だ。
しかし、近接撮影では露光(露出)倍数がかかり、
開放F5相当となったレンズは暗く、また被写界深度が
浅すぎると感じる為にF4~F5.6程度に絞ったら、
それは実質F8~F11相当と、非常に暗くなる。
日中屋外でも、影に入ったらISO感度をそこそこ高め
ないと確実に手ブレする。「何で昼間なのにISO1600
なんだ~」と、ブツブツと文句を言いながら、今度は
そろそろ高感度ノイズの発生を気にしないとならない。
さらには、ピントが合い難い。今時のデジタル機の
光学ファインダーでは精密なMF操作は厳しいのだ。
(この対策の為、今回使用機EOS 6DではMF用のEg-S
スクリーンに換装済みだが、それでもわかりにくい)
そして、仮にEOSマウント版であれば(注:本レンズの
発売マウントは限られている)頼みの綱の、EOS機の
フォーカスエイド機能は、本レンズではかろうじて動作
するのだが(注:他の多くのMFレンズでは動作しない)
その精度が怪しい事と、仮測距点選択の操作性が煩雑
すぎる事に気づくであろう。
まあ、イライラが募るばかりである。

なのだ。そして、20年近くも使っていないと、これらは
決してわからない事かも知れない、他のWeb等で色々と
あるだろう過剰な好評価は、あてにしない事だ。
幸か不幸か、現代では購入する事すら困難なレア物
レンズであるから、もう完全に非推奨品である。
どうしてもマクロアポランターが欲しければ、2018年末
に発売された、新鋭110mm/F2.5版の方が良いであろう、
本レンズの不満点は殆ど解消されている。(注:本記事
には間に合わなかったが、別途紹介済みだ)
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では、次のシステム

(中古購入価格 112,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
2014年発売の、Xマウント(APS-C)機専用、大口径AF
中望遠(相当)アポダイゼーション内蔵レンズ。

「高価だから高性能だ」と勘違いしてはならない。
高価なのは、この特殊な構造における開発費の減価償却が
乗ってきているからである。多額の開発費をかけて、かつ
販売本数が少ないならば、その値段の大半は、そうした
開発費償却に充当されている。まあつまり、FUJIFILMの
技術者さん達の給料を、ユーザーが払っている、という
図式になる訳だ。
でも、別にまあ、それでも良い。こうした特殊なレンズ
を良く作ってくれた、という「ご苦労賃」である訳だし、
元々、このスペックのレンズは、本ブログの、かなり
初期の十数年前の記事でも、「将来的に50mm~100mm
くらいの画角のSTF(アポダイゼーション)が欲しい」
と記載した事がある。
それまで唯一であった、MINOLTA STF135/2.8[T4.5」
からは、実に16年ぶりのアポダイゼーションレンズの発売
なのだ、ちょうど良い仕様のレンズが出てきた事で、これは
もう、どんなに高くても買うしか無いではないか・・
まあ、個人レベルで特注レンズなど出来るはずもなく、
もしそれをやったら軽く500万円以上という金額になって
しまう(汗)だから、殆ど希望するスペック通りの特殊な
レンズが市販されるという事は、非常に喜ばしい事態なのだ。

1年程指を銜えて待っていて、やっと市場に出た中古を
適価で入手した次第だ、それでも11万円超えは、もう
私のルール(持論)でのレンズ入手価格の上限に近い。
まあ、ギリギリセーフという感じであった。
現行レンズである為、高価ではあるが入手性は悪く無い、
しかし、これも手放しでは褒められないレンズである。
課題は3つ、
まず、カメラを含めたシステムとしてのAF/MF性能が
低く、実用撮影上でのピント合わせが困難な事。
次に、大口径化で無理をしているのか、開放近くで
若干甘い描写となり、ボケ質破綻も若干出る。
普通のレンズであれば及第点のレベル(4.5点)
ではあるが、アポダイゼーションなので5点満点
の描写表現力は当然であろう、と期待してしまう。
最後、やや大きく重く、高価な三重苦レンズであり、
入手性やハンドリングが悪く、希少品故に
過酷な撮影環境で使い難い。
である。
まあ、これらの小さい弱点を、価格と比べてどう捉える
かはユーザー側の価値観や、利用目的次第であろう。
ちなみに、人物撮影に適した換算画角だからといって
ポートレートに使おうとすると、上記の課題の1と2は
結構影響が大きく、私はもう人物撮影用途は本レンズ
では諦めている。

は2点と、厳しい低評価だ。
まあでも、これでも、希少なスペックである事で若干
甘い評価をしていて、本来であれば1~1.5点が妥当だ。
購入検討時に、このコスパの悪さをどう解釈するかが、
最大の課題であろう、まあ、決して簡単には推奨は
できないレンズである。
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では、3本目の高マニアックレンズ

(新品購入価格 145,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)
2002年に限定700本で販売された「幻のレンズ」とも
言える希少レンズ。
ただ、これも注意するのは「神格化」する程には
高い描写表現力を持つものでは全く無い、という事だ。

しかし、単に「高描写力の大口径85mmレンズが欲しい」
という目的であれば、本レンズよりも高い描写力を
発揮する85mmは、現行品を含め数本は存在しているし、
私が未所有の範囲まで広げれば、恐らくは10本弱程度
の85mmレンズは、本レンズよりも高描写力であろう。
では、本レンズの存在意義は何か?というと・・
それが実は、残念ながら殆ど無いのだ(汗)
もう一々、出自などを説明するのもやめておこう、
今更入手できるようなレンズでも無いし、まあこれは
ミノルタがコニカと合併したり、さらにはカメラ事業
から撤退する前に、「出来る時に、足跡を残しておこう」
という意味合いで発売された記念碑的なレンズであろう
からだ、だからその「歴史的価値」を除いては、実用的に
本レンズを使う意味は殆ど無い。
たとえ限定発売品とは言え、その性能から比べると、
発売時購入価格ですら高価すぎると思ってしまい、
私の評価データベース上のコスパ評価点は、僅かに
1点であり、これは史上最低点である。
ましてや、プレミアム相場で、この価格(145,000円)
を超えてまで買う事は、もうコスパ的観点からは
有り得ない。(評価0点、あるいは完全非推奨)
私が買ったレンズ中では、珍しい「失敗レンズ」と
なってしまい、その教訓から、もうこの価格帯以上
の高価なレンズは、二度と買わない事と決めた。
つまり、たとえ市場等での評判が良かったり、出自が
希少であったとしても高価なレンズは買わない。
それは、当然ながら、どんなレンズでも様々な欠点が
目につくからであり、それが安価なレンズであれば
まあ我慢したり、弱点回避技法を色々と使って逃げる事
は出来るだろうが、高価なレンズで性能が悪かったら、
心理的にもう嫌になってしまうのだ。「値段だけやたら
高いくせに、この低性能はいったい何なのだ!」という
感じである。値段が高ければ高いほど、その評価の視点
は厳しくなっていくのは当然なのだ。

(初期型)を手放した事も、ずいぶんと後悔した。
それは、そこそこ良く写る85mmレンズであったのだ。
(まあ、初期αの発売時の1980年代に、社内コンペが
あって、勝利したのがそのレンズで、本レンズは敗北して
「お蔵入り」となったのだ、という話を聞いている)
後年、再入手しようと思ったが、KONICA MINOLTAの
カメラ事業撤退(2005年)により、AF85/1.4(初期型等)は
投機層および流通業者の買占めに合い、中古市場から消滅。
しばらくレア感が演出された後で出てきたAF85/1.4は、
10数万円という、本レンズすらも超えるプレミアム相場化
されてしまい、入手する術(すべ)が無くなってしまった。
ほんの数年前、同初期型レンズを知人に勧めた際には、
僅かに29,800円の中古相場であったにもかかわらずだ。
勿論、そんな不当な高値で私が買う筈もなく、また他にも
売れるはずも無い為、後年には相場は下落、だけどもう
私のAF85/1.4初期型への興味も失せてしまっていた,
「市場での意図的な評価や作為に乗せられているだけ」
という事が大変良く理解できたからである。
で、しばらく85mmレンズ全体にも興味が無くなっていた、
それまで沢山の85mmを買い、市場での評判が良かった物も
多々含まれていたにも係わらず、使いこなしが難しくて
歩留まり(成功率)が極めて悪いレンズばかりだった
からである。それに基本設計は、昔(銀塩MF時代)から
殆ど変わる事も無く、設計が古く、描写力的にも納得が
いかないものが多かったのだ。
その後、2010年代後半頃から、今度は新鋭の全くの
新設計(プラナー型やゾナー型では無い)85mmレンズが
やっと各社から出始めた、それらには興味が出て、
実際に数本入手してみると、もう20年も30年も前の
レンズとは全くの別物と言える程に進化している。
(注:本AF85/1.4Limitedは、1980年代前半の設計
であり、40年近くも前のオールドレンズと等価だ)
よって、もう、本レンズやノーマル型のAF85/1.4
への興味も完全に醒めた、もうこれらは過去の遺物と
同様であり、単なる「歴史の証人」に過ぎない訳だ。
(参考:ごく近年、七工匠55mm/f1.4等、この1980年代
頃の古い時代の85mmレンズの設計を2/3程度にスケール
ダウンしたジェネリック・レンズが新発売されている。
それは当時の各社85/1.4と同等の描写力を持ち、新品で
1万数千円程度と極めて安価であり、それならばコスパが
極めて高いので、かなり、お気に入りだ。
ただ、その時代の85mmの描写特性上の弱点を同時に抱えて
いる為、簡単には使いこなせないレンズとなっている。
→後日紹介予定)

また手放す事も難しくなる。なのでまあ、たまには
持ち出して使ってあげて、ミノルタのレンズ開発史に
おけるノスタルジックな気分に浸っている次第だ。
勿論、本レンズは上級マニア層やコレクター層に至る
まで非推奨である。
これを持つ理由が何も思い当たらないのだ。
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では、今回ラストのレンズ、

(新品購入価格 122,000円)
描写・表現力=★★★★☆
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
2017年発売の、大口径準中望遠MFマクロレンズ。
フルサイズ対応であるが、現状、SONY E(FE)マウント版
のみの発売である。

という話が、外からも心の内からも聞こえてきそうな
状況である(汗)
まあ、事実その通りではあるが、16年もの歳月を経て
新発売されたレンズだ、兄弟レンズであるといっても
それなりに旧機種の欠点は改良されている事であろう、
いや、改善されていなかったら、そちらがむしろ問題だ。
フォクトレンダー(コシナ)の設計力(技術水準)は
信用していない訳では無いが、125/2.5SLの問題点は、
描写力そのものではなく、使い勝手にあったからだ。
そういう意味では、設計側が、そうした自分達で作った
レンズを本当に長期に渡って実際に使ってみて、その
欠点などを洗い出しているかどうかは極めて疑問である。
(特に、短期間しか発売されていない、マニアックな
レンズが多すぎるのも、ロングラン評価には課題であろう)
あるいは社外の評価者などに意見を聞くのも難しい事で
あろう。あまりに特殊な使い方を要求されるような
マニアックなレンズばかりだからだ。たとえ職業写真家
層であっても、今時のそういう人達は、高性能なAFの
システムしか使わない。MFで、ヘリコイドを14回も
廻さなければならないレンズなど、見た事も使った事も
無ければ、評価のしようも無いではないか・・
(ちなみに、もう1本、CONTAX Makro-Planar T* 100/2,8
も「14回廻し」のレンズである、しかし古くて準レア品だ)

では無くなっていた、ちなみに、こちらは「5回廻し」
である。まあこれであれば、MFでの操作性はセーフと
言えるが、逆にちょっと少なすぎるかも知れない。
まあ、等倍マクロであればMFでの厳密なピント合わせの
精度を出すならば「7回廻し」あたりが適切だろうと
思うし、過去の各社のマクロも、だいたいそのあたりが
標準的な仕様である。しかし本レンズは1/2倍なので、
やはり「5回廻し」が妥当か・・
で、今度は別の課題が発生、それは大きく重いのだ。
本レンズのようなマニアックなレンズは、殆ど量販店の
店頭にも展示されていない、これを予約して初めて手に
した際には驚いてしまった。TAMRONのSP60mm/F2位の
サイズ感を想像していたのだが、軽くそのレンズの倍程に
大きいのだ。
「ぎょえ~、こんなに大きいのかよ!」と思った1つの
理由として、SONY α Eマウント機は、ご存知のように
一眼レフよりもはるかに小さい。そこへ本レンズを
装着すると、とてつもなくトップヘビーとなる。
α7に取りつけた状態では、どうにもバランスが悪い。
いや、正確に言えば、本来MFレンズでは、システムの
重心付近にピントリングや絞り環が来なくては操作性が
悪化するのだが、一応は、だいたいその位置となって
いるものの、ピントと絞り環の前後の持ち替え時に
バランスが崩れるのだ。この調整の為に、α7用縦位置
グリップを買おうか?と一瞬思ったが、それを買って
本体重量を増やしたところで、バランスが良くなる保証
も無いし、元々世界一小型軽量なフルサイズ機である
α7の最大の特徴を、付属品を追加する事で、その長所
を殺してしまう事は、概念的にも有り得ない話だった。
「困ったなあ・・ コシナ(フォクトレンダー)も
あいかわらず操作性等は、何も考えていないなあ・・」
と思いつつ、たまたまAPS-C機のNEX-7に装着してみると、
意外にしっくりと来る。
NEX-7は、α7よりさらに小型軽量であるので、むしろ
重量バランスが悪化するのでは? という先入観が
あったのだが、実際にはそうでは無かった。
本レンズMAP60/2の重量は625gあり、NEX-7の291g
(本体のみ)の、およそ2倍だ。ここで実際にシステムを
持ってみると、ほとんどレンズだけを支えている感覚
となる。つまり、カメラ本体の重量をあまり意識する
必要がなく、操作性上での重心バランスが、偶然だが
適正になったのだ。
今回、NEX-7と、ほぼ同等の285gの重量のα6000で、
かつケース付き、とちょっと重くなる条件で試して
いるのは、機種毎の重心バランスの再確認である。
案の定、こちらもあまり悪く無い。
比較的快適に使える重量バランスである。
なお、APS-C機での利用で、「換算画角が変わるでは
無いか」とは言うまい、本レンズは、1/2倍(ハーフ
マクロ)と、ちょっと撮影倍率上の不満がある。
APS-C機への装着で、約100mmの画角、約0.75倍の
最大撮影倍率となり、むしろ中望遠マクロとしては
使い易く感じるのだ。(ちなみに画面周辺収差も消えて
全体画質も向上する。その点では、αフルサイズ機の
APS-Cモードで使用しても同様だが、その際には、記録
画素数が大幅に減ってしまう課題とのトレードオフだ。
NEX-7やα6000であれば最大2430万画素をフルに活用
できる。そして本レンズは、画素数を下げないと解像力
性能が追いつかないような柔(やわ)なレンズでは無い)
他の使用上の注意点としては「MFアシスト」機能を
必ずOFFにしておく事だ、これをON(入り)とすると
ピントリングに手を触れると、下手に電子接点を持つ
レンズであるが故に、勝手に画面拡大が働いてしまい
かつα6000では、その解除は簡単では無い(タイマー
の経過待ち)よって、全体構図確認がやりにくい。
(注:画面拡大表示と、デジタルズーム(拡大)撮影は
全く意味が異なる事は、言うまでも無いであろう)
MFアシストをOFF(切り)にしておけば、自動拡大は
行われない、その際にも手動拡大は、Fnキー等に、
その操作を割り振っておけば任意のタイミングで可能だ。
ただ、ここも拡大の解除は容易では無い。
けど、ピーキング機能が常時出せるので、あまり精密な
ピント合わせで無ければ、殆どそれだけで事足りる。
他には特に注意点は無いが、NEX-7やα6000系等の
1/4000秒機で使う際は、屋外晴天時ではND2~ND4
の減光フィルターを装着しないと、絞り開放F2では
シャッター速度オーバーになってしまう事くらいか。
「描写力」は悪くは無いが、「感動的」という領域には
ほんのちょっと届かない。それから、1/2倍マクロ
という点で、ほんの僅かだが「表現力」の減点がある。
結果「描写表現力」4.5点というのは、妥当な評価だと
思うが、勿論悪い点数では無く、総合的な描写力的には
不満は、まず無いであろう。
大きさと重さ以外の最大の課題は、価格である。
12万円+税であり、かつ値引きも殆ど無い。
中古は一度見かけたが、11万円台と新品と殆ど
変わらない価格であり、恐らくそれは展示品処分の
新古品であった事だろう。(追記:近年では、10万円
以下の中古も良く見かけるようになった)
前機種の125/2.5SLの定価9万円台よりも、何割か
価格が上乗せされてしまい、値引きも無くて実勢価格が
高価な為、旧来よりも、かなり割高な印象を受ける。
その16年間で物価水準は殆ど変動していないので、
価格の高さはレンズ市場の縮退による高付加価値化戦略
(=値上げ)であろう事が如実に見て取れる。
「高付加価値製品」をアピールする為か、本レンズの
キャッチコピーは「フォクトレンダー史上、最も優秀な
マクロレンズ」となっている。
しかし・・・ 本レンズの私の描写表現力の評価点は、
4.5点であり、5点満点がつくフォクトレンダーレンズ
は、この記事の前後編に2本存在している。
まあ、「優秀な」というキャッチコピーが、いったい
何を表しているのか? という点であろう。
電子接点によって、SONY機の内蔵手ブレ補正が使える
というならば、まあ確かに性能仕様的には優秀だ。
でもなあ・・それだけか?、という気もしないでも無い。
ちなみに、かつてフォクトレンダーのレンズ群は、カメラ
側との連携・連動を拒むようなものばかりであった。
M42マウント版は、絞り羽根連動ピンを押し込める仕様で
無いと使えなかったし、ニコンFマウント版も初期のZF
仕様ではCPU/ROMを内蔵しておらず、使える一眼レフが
限られていた。まあ、旧来からのコシナ製のMFレンズが
マウントを換える事で、各社のカメラに対応していた、
という、OEMメーカー故の「文化」であったのだろう。
(精密機械メーカーであり、電子機器が得意では無い)
それから、AFのレンズもコシナ製では殆ど存在しない。
ここにきてやっと、SONY Eマウント版で、カメラ側との
情報連動を行うようになった、という事か・・

しまっている、それが本レンズの最大の弱点であろう。
本レンズのコスパ評価点は、2点と低い。だがこれも
また少々甘い評価であり、近代的な仕様という点で
多少ゲタをはかせている、実質的には、1.5点という
のが妥当な評価であろう。
この低コスパをどう捉えるかが、また本レンズを購入
するに値するかの検討事項に強く関連する。
ただ、現行品とは言え、あまり潤沢に製造数がある
状態とはとても思えない、しばらくするといつの間にか
生産中止になっていて、入手不能になる、というのは
過去20年間強のコシナ・フォクトレンダーの歴史の上
では毎度の事である。だから、気になっているレンズ
ならば発売期間中に、なんとしても入手しておかなければ
ならないのだ。
さもないと、また後年に入手不能となり、冒頭のMAP125/2.5
のように、レア品と化してしまい、投機層などが意図的に
「神格化」する事により、とんでも無いプレミアム価格が
ついてしまう恐れが非常に大きい。
「そんなにびっくりする程凄い写りのレンズでは無いよ」
と言ったところで、手に入らない人達にはわかりようが
無いのだ、誰かが「凄い」と言えば、それを信じて
しまっても、それを責めるわけにもいくまい。
描写表現力4.5点、コスパは2点、この評価点の傾向を
どう捉えるかは微妙なところであろう。
ちなみに、エンジョイ度はあまり低くは無く、4点の
好評価である、ビギナー層には依然使いこなしが難しい
レンズだとは言えるが、幸いにしてその敷居はさほど
高いものでは無い。SONY α機の様々な現代的な先進機能を
上手く利用できるのであれば(注:初級ユーザー層では
それは困難だとは思うが)、本レンズの使いこなしは、
従前のコシナ・フォクトレンダー製品ほどには難しくは
無いのだ。
----
さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
次回後編記事では、描写表現力5点満点のレンズを紹介する。