連載中の「レンズ・マニアックス」シリーズ記事では、
マニアックなレンズで、主に未紹介の物を掲載しているが、
ここのところマニアック過ぎるシステムの紹介が主となって
いた。その流れではあるが、ここで補足編を3つ挟む事とする。
今回の記事群では、「ミラーレス・マニアックス」および
本「レンズ・マニアックス」のシリーズ記事において
紹介済みの、所有写真用交換レンズ延べ400本弱の内、
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
と思われたレンズ群を3回に分けて紹介する。
具体的には、私のレンズ評価データベースにおいて、
「マニアック度」が5点満点、加えて「描写表現力」が
4.5点~5点満点の範囲のレンズとするが、この条件に
当てはまるレンズは、数百本中、12本しか存在しなかった。
1記事あたり4本、3記事でこれらを紹介する。
(なお、本補足編記事執筆後に新発売され新規購入した
等で、この条件に該当するレンズが、さらに1~2本増えて
いるのだが、それらについては、別途後日紹介とする)
なお、この2項目のみの評価点を見ている為、ランキング
型式にはしない(皆、殆ど同点だ)
ただし、描写表現力5点満点のレンズと、4.5点のレンズ
は記事毎に分けて紹介しよう。
勿論ここで紹介するレンズ群は極めて「マニアック度」が
高いという特徴を持つ為、一般層に推奨できるような類の
レンズでは無い、あくまで上級マニア御用達である。
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まずは最初のレンズ
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レンズは、SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART
(新古品購入価格 100,000円)(以下A135/1.8)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ (APS-C機)
2017年発売の高描写力AF大口径望遠レンズ。
![_c0032138_07042804.jpg]()
さて、本ブログでの紹介レンズの大半は中古購入品だが、
この高マニアック編においては、新品または、新古品
(展示品処分や在庫品処分等の新品同様の中古品)での
購入が殆どとなる。これは、マニアック度の非常に高い
レンズは、それほど数が売れる訳ではなく、入手した人も
中上級マニア層、あるいは、こうしたレンズを業務上の目的
で用いる職業写真家層等であろうから、さほど簡単には、
手放したりはしない訳だ。
よって、中古品も殆ど出て来ない状況なので、欲しいと
思ったら、発売期間中に新品(相当)で買うしか無いのだ。
しかし、その状況はメーカー側でもわかっている。
あまり売れないと思われるレンズは、生産数が少なくなり、
たとえば、僅か1ロット(これは生産数の単位であるが、
最小は恐らく700~800本程度だ。売れるレンズであれば
数千本を一気に生産する場合もあるだろう)だけしか
作られないレンズもあるので、いつのまにか売り切れて
しまい、入手不能(再生産無し)になるケースも良くある。
そんな場合、それらのレンズを買いそびれた好事家等が
後年に入手不能となったそれらを、必死になって探して
欲しがる場合がある、これがいわゆる「プレミアム価格」
(=不条理なまでに高騰する)化する理由の1つなのだが・・
では「何故売っている時に買わないのだ?」という点だが
まず、少数生産レンズは基本的に高価である、何故ならば
多額のレンズの開発・製造経費を、少ない販売本数に
振り分けて乗せる(=償却する)必要があるからだ。
高価だし販売数が少ないから、ユーザーからの評価も何も
無い。また、それらのレンズは、ビギナー層等に対しては
売れるものでは無いから、市場や流通側でもレビュー記事
等により「褒める内容」を書くような事も全くしない。
(良く売れる人気レンズを紹介した方が記事のアクセス数や
雑誌の販売数も増える、という市場原理がある)
だから「誰かが良いと言ったから買う」といった受動的な
ユーザー層では、それらの高額レンズを買っていいものか
どうか?を迷っている間に、売り切れてしまう訳だ。
で、後年には、投機層等が、そういう入手困難なレンズの
プレミアム価格化(=売買利益の増大)を狙う為に、
手に入らなくなった頃に「このレンズは凄い!」などの評価を
市場に流し始める。別に転売を狙う投機層のみならず、カメラ
中古店等でも高く売りたいだろうし、マニア層でも、珍しい
レンズを持っている事を自慢したいだろうから、皆、同様だ。
で、そうした話を見聞きして、購入を躊躇していた好事家層は
「やっぱり買っておくべきだった、どうしても欲しい!」
となって、高額なプレミアム中古相場を受け入れる訳だ。
高額すぎる物を何故買ってしまうのか?そこが大問題なのだが、
これについては「有名な誰それも良いと言っていた、だから
これは凄く価値のあるレンズなのだ!」と、所有満足度を
高めたり、入手困難であった物を手に入れた事から、周囲に
対して自慢もできるからであろう。
(でも、これらは「主体的」では無い考え方だ)
世間一般では、こういう購買行動をする人達を「マニア」と
呼ぶケースが多いが、本ブログでは、そのような層は、
マニアとは定義していない、それでは単に市場の仕組みに
振り回されている状態なだけであり、それを「好事家」と
呼んでいる。
真のマニアであれば、市場での噂話や意図的な流言には
惑わされる事なく、自身で強い絶対的価値感覚を持って
いないとならない、だから「不条理なまでに高いと」思えば
もう、そういう商品は買わなければ良いだけである。
本ブログでは、こうしたネガティブなスパイラル(負の連鎖)
には賛同していない為、そうしたプレミアム化した商品の
売買は個人的にも絶対に行わないし、無闇にそれらを褒める
事もしない。たまたまレアものになったレンズを紹介する
際にも、あくまで冷静かつ客観的な評価を行っているし、
たいていの場合は、最後には「入手困難につき非推奨」と、
締めくくっているケースが多い。
![_c0032138_07042800.jpg]()
前置きが長くなったが、今回の高マニアック編に登場する
レンズ群は、全て過去記事で紹介済みの物ばかりである。
各レンズの仕様や特徴などの詳細解説は大幅に割愛する。
それらよりも、こうしたレンズを必要とする(購入する)
意義や意味、あるいは用途など、そして市場の状況など、
そうした客観的な側面について言及する方が、ユーザーに
とって有益な一次情報となるだろう。
「珍しいレンズだから高くても買う」といった購買行動は
どうみても褒められたものでは無いからだ。そしてその
理由の大半は「思い込み」であるから、客観的ではなく
主観的または心理的・感情的な理由となる。
そこについては「情報不足」も1つの課題であろう、あまり
情報が潤沢では無いから、ユーザー側も個々に色々と
「思い込んで」しまう訳だ、そういう点でも本ブログでは
様々な「一次情報」を提供していく必然性を感じている。
(他人が書いた内容や情報を転用しない、という意味だ。
他者からの引用の「二次情報」は、情報価値が少ない事に
加えて、ネット資源等の無駄遣いだとも思っている。
ましてや、二次情報ばかりで「アフィリエイト(広告収入)
を得たい」等は、虫が良すぎる状態ではなかろうか?)
では、本A135/1.8だが、「用途開発」が難しいレンズ
である。これを簡単に言えば「何を撮るレンズなのか?」
という事である。
描写表現力などの性能的には何も不満は無い、なにせ
個人データベース上では、5点満点評価である。
また、最短撮影距離も87.5cmと短く、これは過去からの
(一眼レフ用)全135mm単焦点レンズ中、ベスト5に入る。
手ブレ補正機構が内蔵されておらず、一眼レフ用では
ボディ側手ブレ補正無し(NIKON,CANON,SIGMA)の
マウント版しか発売されていないので、その点が初級中級層
には気になるかも知れない。(注:SIGMA Art Lineは、
順次SONY Eマウント版やLマウント版が発売されていて、
それにより、例えばSONY α7系Ⅱ型機以降では、内蔵手ブレ
補正の利用が可能となる。ただし小型軽量のミラーレス機と、
大型で重量級の本レンズとの組み合わせは、いかにも
アンバランスとなる。下写真でその例を紹介)
![_c0032138_07044196.jpg]()
しかし、上級層においては「手ブレ補正無し」は、むしろ
購入の動機にもなりうる、それには3つの理由がある。
1)ISO感度やシャッター速度の綿密な設定により、手ブレは
起こりにくく、手ブレ補正を内蔵する必要性が余り無い。
(特に、大口径レンズであれば、なおさらである)
2)手ブレ補正を入れて価格が上がるならば、それはいらない。
3)複雑な手ブレ補正機構を省略し、その分だけレンズ性能に
注力し、高性能化して欲しい。
まあつまり、余計な機能を入れない事はむしろ「硬派で
潔く感じ」、軟弱さが全く無い事から、好感が持てる訳だ。
まあでも、いずれも重量級レンズであるから、メーカー側
の企画コンセプトにおいては、「職業写真家層等が、室内
スタジオ撮影等で三脚で用いる事が前提」となっているの
かも知れない。ただ、そのコンセプトだとしても、それとは
無関係に上記の購入動機が得られる。
しかし、弱点もある、大きく重く高価な三重苦レンズで
ある事が最大の課題であろう。これを手持ちで使うのは
正直、長時間はしんどい、ただまあ、超望遠ズームよりも
若干軽い(1130g)状況であり、利用者の慣れやスキル
(撮影技能のみならず、どのようにして疲労を回復させつつ
撮るか等)にも依存する事であろう。
![_c0032138_07044185.jpg]()
で、このような特徴から、本レンズを何に使うかは難しい、
一般的に想定される用途は、ほぼ3つであり、以下にあげる、
A)中距離人物撮影(ポートレート)
B)暗所のステージ撮影(ライブ、演劇、イベント等)での
パフォーマー(出演者)の中距離撮影
C)最短撮影距離の短さを利用した自然観察撮影
(草花、昆虫、小動物、近距離の野鳥等)
いずれの用途も焦点距離(画角)や撮影距離が適性となる
他、大口径(F1.8)である事が、暗所や背景ボケにおいて
有効である理由となる。
もし本レンズを絞って使うのであれば、ずっと安価な
銀塩用MF/AF135mm単焦点とか、被写体汎用性の高い
現代のAF望遠ズームを使えば良い訳であり、本レンズの
必然性は無い。
本レンズを使う以上、135mmで、開放F1.8で、最短が短い
という3つの条件を絶対的に活用しなければならないのだ。
なお、もう1つ別な用途があるような気もしていて、
4)鉄道写真
が考えられる、適度な画角と望遠圧縮効果、高速動体でも
大口径で止めて写せ、ボケも得られる等の理由である。
![_c0032138_07044205.jpg]()
上記の3つ(または4つ)の想定用途の一部があるならば、
まあ本レンズは悪く無い。だが、いずれの用途にも使わない
のであれば、本レンズを買う必然性は全く無いと言える。
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では、次のシステム
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レンズは、Voightlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(新品購入価格 90,000円)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、Panasonic DMC-G5(μ4/3機)
2010年代のμ4/3機専用MF超大口径中望遠(相当)レンズ
注:本ブログの通例により、フォクトレンダーの独語綴り
の上での変母音(ウムラウト)は、便宜上省略している。
また、これも本ブログ開設時からの通例により、レンズの
焦点距離と開放絞り値の表記は○○○mm/f○○としている、
これは正しい記法では無いが、便宜上において、メーカー毎に
スペック表記法が全く異なる事を記事上で統一している為だ。
![_c0032138_07050245.jpg]()
さて、このNOKTON42.5/0.95もマニアックなレンズである。
「描写力」に関しては、開放近くでの解像力の低下により、
正直言えば、5点満点どころか、良くても3点という所なの
だが、開放F0.95である事による、多大なボケ量の自在な
コントロール性については「表現力」という点で、大きな
メリットであり、これにより「描写・表現力」の評価は
個人データベース上、満点の5点となっている。
また、μ4/3機用に特化した事で、超大口径レンズながら
さほど大型化・重量化されてはおらず、ハンドリング性能
は優れている。
![_c0032138_07050288.jpg]()
しかし、これも「用途開発」が難しいレンズである。
すぐに思いつくのは換算画角が丁度85mmになる事から
人物撮影(ポートレート)用であろう、描写力の甘さも
女性ポートレートでは、1つの表現方法として、あまり
大きな問題点にはならない。
しかし、依頼(業務)人物撮影では、リスキーなレンズ
であり、まずMFで精密なピント合わせが要求されるので
あるが、開放近くでは収差の発生で輪郭部のコントラスト
検出が難しくなり、μ4/3機のピーキング機能があまり
役に立たない。
本レンズの専用母艦として、ピーキング機能を持たない
DMC-G5をあえて使用しているのは、ピーキングがあまり
有益では無いからだ。それとG5は旧型EVF機であり、これは
144万ドットの解像度しか無いのだが、後年の有機EL方式
のEVF(144万、236万、368万ドット等)よりも、むしろ
ピントの山が掴み易い。新型有機ELは、明るく綺麗であるし
高精細ではあるが、何故かMFにはあまり向いていないのだ、
でもまあ、有機ELの普及と同時期にピーキング機能も搭載
されている為、一般的なレンズでは、その弱点は相殺できる。
だが、本レンズでは、ピーキング機能がやや効き難いので、
そういう事情からの母艦選択となっている次第だ。
さて、人物撮影に使う件だが、ピント合わせの精度の
課題に加え、時間がかかってしまうのが問題点だ。精密な
ピント合わせを要求される際、ほぼ毎回、1枚ごとの画面
拡大ピント確認操作が必須となる、この拡大操作系に
優れたミラーレス機はさほど多くなく、私の評価では
Panasonic DMC(DC)-Gシリーズのみが及第点である。
それでも時間がかかる事は確かなので、相応に撮影時間が
かかってしまい、かつ枚数を大量に撮る事も出来ない。
高性能AFの一眼レフ+高速連写により、短時間で数千枚を
撮影し、その中から表情やピントが適正なものを探す
という訳にはいかない。
なお、大口径85mm級では、通常撮影距離での被写界深度は
せいぜい数cmしか無いので、いくら撮影者が動かないように
していても(たとえ三脚を使おうが)、被写体側の動きは
防げない、だからピントが合っていないカットを連発し
通常では、その9割の写真はピントの面でアウトになる。
ピントが合っているカットから表情の良いものを探すと
なると、さらにその中から大半がボツになる為、
結局、最終的な歩留まり(成功率)は数%以下となる。
だから1000枚撮っても、10枚もOKが無いとなったら、
数千枚の撮影はどうしても必須となるのだ。
そこまで時間をかける事ができない撮影条件の場合は、
もう大口径85mmを使わず、絞って使うか、あるいは
レンズ特性上でもっと「安全な」(成功確率の高い)レンズ
を人物撮影には選択するしかないわけだ。
(なお、絞って使うならば、せっかくの大口径85mmの
特徴が失われてしまうであろう。MTF特性等での描写力を
高める為に絞るならば、元々小口径レンズの方が諸収差
の補正が良く行き届いているケースが多々ある)
しかしながら、概ね85mm/F1.4級は、ほぼ全滅である。
それらは依頼(人物)撮影においては、納品できる保証が
あまり無く、リスキーなレンズだ、つまり趣味撮影での
モデル撮影会とか、知人のプライベートな撮影などにしか
使えない。そして本NOKTON42.5/0.95も、そのリスキーな
レンズの類であり、AF85/1.4級よりさらに難しいレンズで
ある事から、まあつまり人物撮影には使い難い次第だ。
![_c0032138_07050295.jpg]()
では、本レンズを何に使うか?
結局、ここが難しい、まあ、非常に高い近接性能
(最短撮影距離23cm)を活かして、自然観察用途という
のが最も無難であろう。ただし、ある程度は絞り込む事が
被写界深度が浅すぎて構図上のまとまりが無くなるのと、
絞り開放近くでの収差の発生を避ける為に必須だ。
なお、ステージ等暗所の撮影には、解像力確保の為に
必ず絞り込まないとならないので向かない、せっかくの
F0.95が暗所でも活かせない訳だ。
だから、その目的であれば一般的な大口径中望遠レンズ
の方が適している。
まあ、本レンズは、本シリーズ第12回「使いこなしが
難しいレンズ編」で、ワースト2位となったレンズである
そう簡単に使いこなせるレンズでは無い事は述べておく。
推奨できるかどうかも微妙だ、まあ上級マニア御用達
であろう、勿論ビギナー層が使うようなレンズでは無い。
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では、3本目の高マニアックレンズ
![_c0032138_07052295.jpg]()
レンズは、CONTAX N Planar T* 85mm/f1.4
(新品購入価格 115,000円)(以下、NP85/1.4)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、Panasonic DMC-G6(μ4/3機)
2002年発売の、CONTAX Nシステム専用大口径AF
中望遠レンズ。
まず、本レンズはレア品(レア物、希少品)である。
![_c0032138_07052321.jpg]()
何故レア品なのかを説明すると非常に長くなる、
それについては、国産(ヤシカ/京セラ)CONTAXの
30年に及ぶ歴史を理解しなければならない。
幸いにして別シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」
で、国産CONTAX機を何台か紹介しているのと、後半の記事
ではNシステムを襲った悲運についても書いてあるので、
それらを参照すると良いであろう、具体的には以下だ、
銀塩一眼第5回CONTAX RTS、同第12回CONTAX 159MM
同第20回CONTAX AX、同第24回CONTAX N1
まあ、特にCONTAX N1の回では、本NP85/1.4の出自や
その悲運について詳しく紹介している。
で、まあ、本レンズは現代においては使いようが無い。
母艦はもう何も存在しない状態に近いし、アダプターも
殆ど発売されていない。仮に機械式絞り羽根内蔵の
アダプターを入手したところで、それは「視野絞り」
と言い、露出の調整は効くのだが、本来のレンズ内の
「開口絞り」のように、被写界深度やボケ質破綻回避の
調整、諸収差低減の目的には、殆ど有効には働かない。
(注:稀に、Nシステム用電子アダプターが小ロットで
発売されるケースもあるが、たいてい、とても高価だ)
描写力はとても高いレンズであるのに、システムの制約
上で、本レンズが使えないというのは惜しい限りだ。
![_c0032138_07052306.jpg]()
そして、レア品をあまり褒めると、また投機対象になって
しまい、相場が際限なく上昇する危険性もある。
別に「CONTAXのレンズだから良く写る」などと言う事は
全く無いし、むしろ遠距離撮影での解像感の低下等の
課題も持っている位だ。現代において、どうしても
本レンズでなければならない理由も皆無である。
性能的には、ここからさらに15年程経過した2010年代
後半の新鋭の85mm級レンズが、本NP85/1.4に勝るとも
劣らない描写力を持つので、それら新鋭レンズを適価で
入手した方が賢明である。例えば、SIGMA Art85/1.4や
TAMRON SP85/1.8であれば、どちらも10万円以内の新古・
中古価格で入手でき、描写力的にも不満は無いであろうし、
現代機との相性的にも何ら問題は無い。
本レンズ、NP85/1.4については、入手が困難であるし、
既に絶滅したブランドでもあるから、今更何を書いても
始まらない、なので解説も最小限とし、このあたりまでで
留めておく。
![_c0032138_07052372.jpg]()
余談だが、写真機材の「ブランド信奉」は現代においては
全くの的外れとなっている。1つはデジタル化製品における
製造上の特性(事業構造)から、共通化部品や協業等により
メーカー(独立)という概念が希薄になっている事がある。
もう1つは、「ブランド」という物も一種の商品であり
企業間で、その名前だけを売買しているという事実だ。
3つ目に、そうしたブランドに、どのような紆余曲折が
あったのかは、ユーザー側もちゃんとその歴史を理解して
おく必要があるという事だ。
つまり、製造の仕組み、市場の仕組み、ブランドの歴史
について全く理解もしておらず、知識も無い層だけが
いまだに有名ブランド商品(カメラ、レンズ)を有りがた
がって買っている訳である。
別にそれは、何もわからずに買う人の勝手だ、とは思うが
その結果、そのブランド品の中で、たまたま購入に値する
ような優れた商品が存在していたとしても、高価な値付けで
買いにくくなってしまっている。
新品はともかく、中古の場合には、相場高騰という事態が
発生するので、それは顕著だ。
つまり私としては、普通に適正な価格で買いたいのだが、
ある意味「風評被害」により、相場が上がりすぎて
コスパが悪化して買えなくなってしまっている。これは
困った話であり、多くのユーザー層がちゃんと、ブランド
などに惑わされず、その商品の真の価値を見抜く眼力を
養って貰わないければならないと、常々思っている次第だ。
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では、今回ラストのレンズ、
![_c0032138_07054010.jpg]()
レンズは、MINOLTA STF 135mm/f2.8[T4.5]
(新品購入価格 118,000円)(以下STF135)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)
1998年発売の、MINOLTA/KONICA MINOLTA/SONY
α(A)マウント用アポダイゼーション(光学エレメント)
搭載MF望遠レンズ。
![_c0032138_07054027.jpg]()
「アポダイゼーションとは何か?」という点は、以下の
過去関連記事を参照されたし。
*ミラーレス・マニアックス第17回「STF vs APD」
*特殊レンズ・スーパーマニアックス第0回
「アポダイゼーション・グランドスラム」
*匠の写真用語辞典第3回、項目「アポダイゼーション」
で、簡単に言えば、アポダイゼーション光学エレメント
の搭載により、ボケ質が大変良くなるレンズである。
この仕様のレンズは世の中に4機種しか存在せず、それは
上記「グランドスラム」記事で、全4本を紹介している。
で、本STF135は、アポダイゼーションレンズの中でも
特に優れた描写力を発揮する。私はこのレンズを20年間
以上使っているが、2本目のアポダイゼーションが発売
されたのが、なんと本レンズから16年も後だったので
その間、私は「アポダイゼーションが入っているから
描写力が優れているのだ」と勘違いをしていた(汗)
しかし、計4本のアポダイゼーションレンズを所有し
撮り比べてみると、基本的な描写力に優劣がある事が
良くわかった。つまりこれは「ベースとなるレンズ設計が
優秀でなければ、ただ単にアポダイゼーションを入れた
だけでは高描写力にはならない」という事実である。
![_c0032138_07054055.jpg]()
さて、本STF135であるが、その20年間、ずっと機嫌良く
使っていたのか?というと、そうでも無い。
最大の課題は、「描写力が高すぎる」のである。
「それの何が問題なのだ? 贅沢な事を言うな!」と、
怒られそうな話なのだが、これについては明確な理由が
あって、つまり本STFでは、ボケ質破綻回避の作業を
行う必要はまったく無く、絞り開放あるいは、STFと表記
された、T(実効絞り値)4.5~T6.7の範囲の、どの
絞り値を使ってもボケ質はまったく乱れず、描写傾向も
変化が無い。また、逆光耐性も極めて高く、およそ
フレアやゴーストが発生する事態も想像すらできないし
それから、STF範囲の絞りは、通常絞りとは別途内蔵されて
いて、その円形絞り構造により、ボケ形状も安定している。
大きな(大きすぎる)物理口径により、口径食も発生しない、
すなわちボケの形状が乱れたり周辺減光が起こる事も無い。
まあつまり、ほとんど完璧とも言える描写性能なのだ。
この結果、何もテクニカル(技術、技能、経験、知識)な
要素を使わずとも、ただ被写体に向けて(MFで)ピントを
合わせさえすれば、いつでも誰でも、高い描写力の写真が
撮れてしまう。
この事は、大きく3つの問題点に繋がり、
1つは、テクニカルな要素が無く「エンジョイ度」が低い。
2つ目、「レンズに撮らされている」気になり主体性が無い。
3つ目、誰でも同様に撮れるので差別化要因が無い。
という事である。
だから、本ST135Fを使うと,レンズ側の高性能により
「撮らされてしまっている」気分になり、しかもそれは
私でなくても、同じ状況でシャッターを切りさえすれば
誰でも同じような高描写力の写真が撮れてしまうのだ。
これでは、撮っていても、あまり楽しくは無い。
つまり、あれこれと工夫して、なんとか上手く撮れた、
という「使いこなしの喜び」が全く無いレンズである。
まあ、ある意味贅沢すぎるレンズ、と言う事も言えるで
あろう、今回の記事中、唯一本レンズのみ、初級中級層
へも推奨できるレンズではあるが、それでもまあ次なる
課題としては価格の高さがある。
現在でも、SONY Aマウント品に外観変更されて販売は
継続されてはいるが、定価は175,000円+税である。
全般的にSONY高性能レンズは高額ではあるが、
これは単焦点レンズの中では、上から数えた方が早い
くらいの高価な類であり、かつ、実効F値[T4.5]
という「暗さ」は、初級層においては「開放F値の
暗いレンズは性能が低いレンズだ」という間違った
思い込みがあるから、買う気には全くなれないだろうし、
その誤解を持たない中上級層においては、今度は、
「暗い開放F値と望遠焦点距離により、手ブレが心配」
という話になってしまうだろう。
![_c0032138_07054876.jpg]()
そして、SONYの同じ135mmには、SAL135F18Z
(Sonnar T* 135mm/F1.8 ZA)という、値段もあまり
変わらない(こちらは20万円+税)、カール・ツァイス
ブランド銘の高級レンズが存在する。
中上級者と言えども「カール・ツァイスの方が絶対に
良く写るはずだよね? だったらそっちを買おう」という
ここもまた、誤ったブランド信奉の思い込みによる
購買行動になってしまうだろう。
まあ、当該ZA135/1.8は、本シリーズ第18回記事や、
ハイコスパ第16回記事でも紹介しているので、それらを
参照してもらえればわかるとは思うが、それもまた
悪い描写力では無いが、あまり手放しで褒められるような
レンズでは無く、細かい弱点を色々と持っている。
そして、そもそも135mm単焦点は、基本的には「単用途」
である、その件は、本記事冒頭のSIGMA A135/1.8でも
説明しているが、レンズ個別に用途を想定して使う
必要性があるのだ。
だから、STF135、ZA135、A135は、いずれも同じ
焦点距離の135mmレンズでありながら、用途が異なる
レンズである、したがって、どれか1本だけを所有して
いれば済む、という話でも無いし、さらに言えば、
「70-200mm/F2.8の高性能ズームを持っているから不用だ」
という訳でも決して無い。
このあたりは、多数のレンズを使っていかないと理解
しずらい事かも知れないから、たとえ上級層であっても、
職業写真家層であっても、理解困難な話かも知れない
のだが、これはあくまで事実である。
非常に難解な話ではあるのだが、レンズはその用途を
きっちり想定して、その用途にちゃんとハマるものを
買う必要がある。で、もし用途不明で買ってしまったり
想定した用途に合わない事が購入後にわかった場合は、
新たな「用途開発」を行う必要がある。
さらに言えば、その時代において、レンズの用途は
変わってくる事もある。
具体例としては、SONY ZA135/1.8は、まだデジタル一眼
レフのISO感度が高感度化されていない時代(2000年代
~2010年代前半)では、暗所でのステージ撮影等に
効果的ではあったレンズだが、2010年代後半より、
デジタル一眼レフの高感度領域が、ISO数十万まで
拡張されてしまうと、もうその大口径(F1.8)も
あまり有益な特徴ではなくなってしまっている。
そうなれば、多少開放F値が暗いレンズでも十分に
用途代替できるわけであり、かつ、ZA135/1.8は、
超音波モーターが内蔵されていない為、AF速度の面で
不満が生じるようになってしまっている訳だ。
さらに言えば、現在SONYは、α/Aマウント機に注力
しておらず、現行品は僅かに2機種、新製品も出ずに
絶滅危惧種となってしまっている。
まあつまり、レンズの性能自体は殆ど問題はなくても、
周囲の機材環境が変化し、古く見える「仕様老朽化寿命」が
来てしまっている訳だ。
![_c0032138_07054819.jpg]()
その点、本STF135の方は「仕様老朽化寿命」はむしろ
起こり難い、なにせアポダイゼーションを搭載する
唯一のα(A)マウントレンズなのだ。
(注:SONYのもう1本のSTFは、FEマウントである)
本STF135の凄さを実感するには、実際に購入して使って
みるしか無いであろう。
以前の記事でも書いたが、「清水の舞台から飛び降りる
つもりで」本STF135を購入した知人の若い女性が居た、
その後、本レンズは「清水レンズ」と仲間内では呼ばれる
ようになったのだが、まあ「清水寺」に値するとも言える
世界遺産級の名レンズである。
----
さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
次回中編記事では、描写表現力4.5点のレンズを紹介予定だ。
マニアックなレンズで、主に未紹介の物を掲載しているが、
ここのところマニアック過ぎるシステムの紹介が主となって
いた。その流れではあるが、ここで補足編を3つ挟む事とする。
今回の記事群では、「ミラーレス・マニアックス」および
本「レンズ・マニアックス」のシリーズ記事において
紹介済みの、所有写真用交換レンズ延べ400本弱の内、
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
と思われたレンズ群を3回に分けて紹介する。
具体的には、私のレンズ評価データベースにおいて、
「マニアック度」が5点満点、加えて「描写表現力」が
4.5点~5点満点の範囲のレンズとするが、この条件に
当てはまるレンズは、数百本中、12本しか存在しなかった。
1記事あたり4本、3記事でこれらを紹介する。
(なお、本補足編記事執筆後に新発売され新規購入した
等で、この条件に該当するレンズが、さらに1~2本増えて
いるのだが、それらについては、別途後日紹介とする)
なお、この2項目のみの評価点を見ている為、ランキング
型式にはしない(皆、殆ど同点だ)
ただし、描写表現力5点満点のレンズと、4.5点のレンズ
は記事毎に分けて紹介しよう。
勿論ここで紹介するレンズ群は極めて「マニアック度」が
高いという特徴を持つ為、一般層に推奨できるような類の
レンズでは無い、あくまで上級マニア御用達である。
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まずは最初のレンズ

(新古品購入価格 100,000円)(以下A135/1.8)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ (APS-C機)
2017年発売の高描写力AF大口径望遠レンズ。

この高マニアック編においては、新品または、新古品
(展示品処分や在庫品処分等の新品同様の中古品)での
購入が殆どとなる。これは、マニアック度の非常に高い
レンズは、それほど数が売れる訳ではなく、入手した人も
中上級マニア層、あるいは、こうしたレンズを業務上の目的
で用いる職業写真家層等であろうから、さほど簡単には、
手放したりはしない訳だ。
よって、中古品も殆ど出て来ない状況なので、欲しいと
思ったら、発売期間中に新品(相当)で買うしか無いのだ。
しかし、その状況はメーカー側でもわかっている。
あまり売れないと思われるレンズは、生産数が少なくなり、
たとえば、僅か1ロット(これは生産数の単位であるが、
最小は恐らく700~800本程度だ。売れるレンズであれば
数千本を一気に生産する場合もあるだろう)だけしか
作られないレンズもあるので、いつのまにか売り切れて
しまい、入手不能(再生産無し)になるケースも良くある。
そんな場合、それらのレンズを買いそびれた好事家等が
後年に入手不能となったそれらを、必死になって探して
欲しがる場合がある、これがいわゆる「プレミアム価格」
(=不条理なまでに高騰する)化する理由の1つなのだが・・
では「何故売っている時に買わないのだ?」という点だが
まず、少数生産レンズは基本的に高価である、何故ならば
多額のレンズの開発・製造経費を、少ない販売本数に
振り分けて乗せる(=償却する)必要があるからだ。
高価だし販売数が少ないから、ユーザーからの評価も何も
無い。また、それらのレンズは、ビギナー層等に対しては
売れるものでは無いから、市場や流通側でもレビュー記事
等により「褒める内容」を書くような事も全くしない。
(良く売れる人気レンズを紹介した方が記事のアクセス数や
雑誌の販売数も増える、という市場原理がある)
だから「誰かが良いと言ったから買う」といった受動的な
ユーザー層では、それらの高額レンズを買っていいものか
どうか?を迷っている間に、売り切れてしまう訳だ。
で、後年には、投機層等が、そういう入手困難なレンズの
プレミアム価格化(=売買利益の増大)を狙う為に、
手に入らなくなった頃に「このレンズは凄い!」などの評価を
市場に流し始める。別に転売を狙う投機層のみならず、カメラ
中古店等でも高く売りたいだろうし、マニア層でも、珍しい
レンズを持っている事を自慢したいだろうから、皆、同様だ。
で、そうした話を見聞きして、購入を躊躇していた好事家層は
「やっぱり買っておくべきだった、どうしても欲しい!」
となって、高額なプレミアム中古相場を受け入れる訳だ。
高額すぎる物を何故買ってしまうのか?そこが大問題なのだが、
これについては「有名な誰それも良いと言っていた、だから
これは凄く価値のあるレンズなのだ!」と、所有満足度を
高めたり、入手困難であった物を手に入れた事から、周囲に
対して自慢もできるからであろう。
(でも、これらは「主体的」では無い考え方だ)
世間一般では、こういう購買行動をする人達を「マニア」と
呼ぶケースが多いが、本ブログでは、そのような層は、
マニアとは定義していない、それでは単に市場の仕組みに
振り回されている状態なだけであり、それを「好事家」と
呼んでいる。
真のマニアであれば、市場での噂話や意図的な流言には
惑わされる事なく、自身で強い絶対的価値感覚を持って
いないとならない、だから「不条理なまでに高いと」思えば
もう、そういう商品は買わなければ良いだけである。
本ブログでは、こうしたネガティブなスパイラル(負の連鎖)
には賛同していない為、そうしたプレミアム化した商品の
売買は個人的にも絶対に行わないし、無闇にそれらを褒める
事もしない。たまたまレアものになったレンズを紹介する
際にも、あくまで冷静かつ客観的な評価を行っているし、
たいていの場合は、最後には「入手困難につき非推奨」と、
締めくくっているケースが多い。

レンズ群は、全て過去記事で紹介済みの物ばかりである。
各レンズの仕様や特徴などの詳細解説は大幅に割愛する。
それらよりも、こうしたレンズを必要とする(購入する)
意義や意味、あるいは用途など、そして市場の状況など、
そうした客観的な側面について言及する方が、ユーザーに
とって有益な一次情報となるだろう。
「珍しいレンズだから高くても買う」といった購買行動は
どうみても褒められたものでは無いからだ。そしてその
理由の大半は「思い込み」であるから、客観的ではなく
主観的または心理的・感情的な理由となる。
そこについては「情報不足」も1つの課題であろう、あまり
情報が潤沢では無いから、ユーザー側も個々に色々と
「思い込んで」しまう訳だ、そういう点でも本ブログでは
様々な「一次情報」を提供していく必然性を感じている。
(他人が書いた内容や情報を転用しない、という意味だ。
他者からの引用の「二次情報」は、情報価値が少ない事に
加えて、ネット資源等の無駄遣いだとも思っている。
ましてや、二次情報ばかりで「アフィリエイト(広告収入)
を得たい」等は、虫が良すぎる状態ではなかろうか?)
では、本A135/1.8だが、「用途開発」が難しいレンズ
である。これを簡単に言えば「何を撮るレンズなのか?」
という事である。
描写表現力などの性能的には何も不満は無い、なにせ
個人データベース上では、5点満点評価である。
また、最短撮影距離も87.5cmと短く、これは過去からの
(一眼レフ用)全135mm単焦点レンズ中、ベスト5に入る。
手ブレ補正機構が内蔵されておらず、一眼レフ用では
ボディ側手ブレ補正無し(NIKON,CANON,SIGMA)の
マウント版しか発売されていないので、その点が初級中級層
には気になるかも知れない。(注:SIGMA Art Lineは、
順次SONY Eマウント版やLマウント版が発売されていて、
それにより、例えばSONY α7系Ⅱ型機以降では、内蔵手ブレ
補正の利用が可能となる。ただし小型軽量のミラーレス機と、
大型で重量級の本レンズとの組み合わせは、いかにも
アンバランスとなる。下写真でその例を紹介)

購入の動機にもなりうる、それには3つの理由がある。
1)ISO感度やシャッター速度の綿密な設定により、手ブレは
起こりにくく、手ブレ補正を内蔵する必要性が余り無い。
(特に、大口径レンズであれば、なおさらである)
2)手ブレ補正を入れて価格が上がるならば、それはいらない。
3)複雑な手ブレ補正機構を省略し、その分だけレンズ性能に
注力し、高性能化して欲しい。
まあつまり、余計な機能を入れない事はむしろ「硬派で
潔く感じ」、軟弱さが全く無い事から、好感が持てる訳だ。
まあでも、いずれも重量級レンズであるから、メーカー側
の企画コンセプトにおいては、「職業写真家層等が、室内
スタジオ撮影等で三脚で用いる事が前提」となっているの
かも知れない。ただ、そのコンセプトだとしても、それとは
無関係に上記の購入動機が得られる。
しかし、弱点もある、大きく重く高価な三重苦レンズで
ある事が最大の課題であろう。これを手持ちで使うのは
正直、長時間はしんどい、ただまあ、超望遠ズームよりも
若干軽い(1130g)状況であり、利用者の慣れやスキル
(撮影技能のみならず、どのようにして疲労を回復させつつ
撮るか等)にも依存する事であろう。

一般的に想定される用途は、ほぼ3つであり、以下にあげる、
A)中距離人物撮影(ポートレート)
B)暗所のステージ撮影(ライブ、演劇、イベント等)での
パフォーマー(出演者)の中距離撮影
C)最短撮影距離の短さを利用した自然観察撮影
(草花、昆虫、小動物、近距離の野鳥等)
いずれの用途も焦点距離(画角)や撮影距離が適性となる
他、大口径(F1.8)である事が、暗所や背景ボケにおいて
有効である理由となる。
もし本レンズを絞って使うのであれば、ずっと安価な
銀塩用MF/AF135mm単焦点とか、被写体汎用性の高い
現代のAF望遠ズームを使えば良い訳であり、本レンズの
必然性は無い。
本レンズを使う以上、135mmで、開放F1.8で、最短が短い
という3つの条件を絶対的に活用しなければならないのだ。
なお、もう1つ別な用途があるような気もしていて、
4)鉄道写真
が考えられる、適度な画角と望遠圧縮効果、高速動体でも
大口径で止めて写せ、ボケも得られる等の理由である。

まあ本レンズは悪く無い。だが、いずれの用途にも使わない
のであれば、本レンズを買う必然性は全く無いと言える。
----
では、次のシステム

(新品購入価格 90,000円)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、Panasonic DMC-G5(μ4/3機)
2010年代のμ4/3機専用MF超大口径中望遠(相当)レンズ
注:本ブログの通例により、フォクトレンダーの独語綴り
の上での変母音(ウムラウト)は、便宜上省略している。
また、これも本ブログ開設時からの通例により、レンズの
焦点距離と開放絞り値の表記は○○○mm/f○○としている、
これは正しい記法では無いが、便宜上において、メーカー毎に
スペック表記法が全く異なる事を記事上で統一している為だ。

「描写力」に関しては、開放近くでの解像力の低下により、
正直言えば、5点満点どころか、良くても3点という所なの
だが、開放F0.95である事による、多大なボケ量の自在な
コントロール性については「表現力」という点で、大きな
メリットであり、これにより「描写・表現力」の評価は
個人データベース上、満点の5点となっている。
また、μ4/3機用に特化した事で、超大口径レンズながら
さほど大型化・重量化されてはおらず、ハンドリング性能
は優れている。

すぐに思いつくのは換算画角が丁度85mmになる事から
人物撮影(ポートレート)用であろう、描写力の甘さも
女性ポートレートでは、1つの表現方法として、あまり
大きな問題点にはならない。
しかし、依頼(業務)人物撮影では、リスキーなレンズ
であり、まずMFで精密なピント合わせが要求されるので
あるが、開放近くでは収差の発生で輪郭部のコントラスト
検出が難しくなり、μ4/3機のピーキング機能があまり
役に立たない。
本レンズの専用母艦として、ピーキング機能を持たない
DMC-G5をあえて使用しているのは、ピーキングがあまり
有益では無いからだ。それとG5は旧型EVF機であり、これは
144万ドットの解像度しか無いのだが、後年の有機EL方式
のEVF(144万、236万、368万ドット等)よりも、むしろ
ピントの山が掴み易い。新型有機ELは、明るく綺麗であるし
高精細ではあるが、何故かMFにはあまり向いていないのだ、
でもまあ、有機ELの普及と同時期にピーキング機能も搭載
されている為、一般的なレンズでは、その弱点は相殺できる。
だが、本レンズでは、ピーキング機能がやや効き難いので、
そういう事情からの母艦選択となっている次第だ。
さて、人物撮影に使う件だが、ピント合わせの精度の
課題に加え、時間がかかってしまうのが問題点だ。精密な
ピント合わせを要求される際、ほぼ毎回、1枚ごとの画面
拡大ピント確認操作が必須となる、この拡大操作系に
優れたミラーレス機はさほど多くなく、私の評価では
Panasonic DMC(DC)-Gシリーズのみが及第点である。
それでも時間がかかる事は確かなので、相応に撮影時間が
かかってしまい、かつ枚数を大量に撮る事も出来ない。
高性能AFの一眼レフ+高速連写により、短時間で数千枚を
撮影し、その中から表情やピントが適正なものを探す
という訳にはいかない。
なお、大口径85mm級では、通常撮影距離での被写界深度は
せいぜい数cmしか無いので、いくら撮影者が動かないように
していても(たとえ三脚を使おうが)、被写体側の動きは
防げない、だからピントが合っていないカットを連発し
通常では、その9割の写真はピントの面でアウトになる。
ピントが合っているカットから表情の良いものを探すと
なると、さらにその中から大半がボツになる為、
結局、最終的な歩留まり(成功率)は数%以下となる。
だから1000枚撮っても、10枚もOKが無いとなったら、
数千枚の撮影はどうしても必須となるのだ。
そこまで時間をかける事ができない撮影条件の場合は、
もう大口径85mmを使わず、絞って使うか、あるいは
レンズ特性上でもっと「安全な」(成功確率の高い)レンズ
を人物撮影には選択するしかないわけだ。
(なお、絞って使うならば、せっかくの大口径85mmの
特徴が失われてしまうであろう。MTF特性等での描写力を
高める為に絞るならば、元々小口径レンズの方が諸収差
の補正が良く行き届いているケースが多々ある)
しかしながら、概ね85mm/F1.4級は、ほぼ全滅である。
それらは依頼(人物)撮影においては、納品できる保証が
あまり無く、リスキーなレンズだ、つまり趣味撮影での
モデル撮影会とか、知人のプライベートな撮影などにしか
使えない。そして本NOKTON42.5/0.95も、そのリスキーな
レンズの類であり、AF85/1.4級よりさらに難しいレンズで
ある事から、まあつまり人物撮影には使い難い次第だ。

結局、ここが難しい、まあ、非常に高い近接性能
(最短撮影距離23cm)を活かして、自然観察用途という
のが最も無難であろう。ただし、ある程度は絞り込む事が
被写界深度が浅すぎて構図上のまとまりが無くなるのと、
絞り開放近くでの収差の発生を避ける為に必須だ。
なお、ステージ等暗所の撮影には、解像力確保の為に
必ず絞り込まないとならないので向かない、せっかくの
F0.95が暗所でも活かせない訳だ。
だから、その目的であれば一般的な大口径中望遠レンズ
の方が適している。
まあ、本レンズは、本シリーズ第12回「使いこなしが
難しいレンズ編」で、ワースト2位となったレンズである
そう簡単に使いこなせるレンズでは無い事は述べておく。
推奨できるかどうかも微妙だ、まあ上級マニア御用達
であろう、勿論ビギナー層が使うようなレンズでは無い。
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では、3本目の高マニアックレンズ

(新品購入価格 115,000円)(以下、NP85/1.4)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、Panasonic DMC-G6(μ4/3機)
2002年発売の、CONTAX Nシステム専用大口径AF
中望遠レンズ。
まず、本レンズはレア品(レア物、希少品)である。

それについては、国産(ヤシカ/京セラ)CONTAXの
30年に及ぶ歴史を理解しなければならない。
幸いにして別シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」
で、国産CONTAX機を何台か紹介しているのと、後半の記事
ではNシステムを襲った悲運についても書いてあるので、
それらを参照すると良いであろう、具体的には以下だ、
銀塩一眼第5回CONTAX RTS、同第12回CONTAX 159MM
同第20回CONTAX AX、同第24回CONTAX N1
まあ、特にCONTAX N1の回では、本NP85/1.4の出自や
その悲運について詳しく紹介している。
で、まあ、本レンズは現代においては使いようが無い。
母艦はもう何も存在しない状態に近いし、アダプターも
殆ど発売されていない。仮に機械式絞り羽根内蔵の
アダプターを入手したところで、それは「視野絞り」
と言い、露出の調整は効くのだが、本来のレンズ内の
「開口絞り」のように、被写界深度やボケ質破綻回避の
調整、諸収差低減の目的には、殆ど有効には働かない。
(注:稀に、Nシステム用電子アダプターが小ロットで
発売されるケースもあるが、たいてい、とても高価だ)
描写力はとても高いレンズであるのに、システムの制約
上で、本レンズが使えないというのは惜しい限りだ。

しまい、相場が際限なく上昇する危険性もある。
別に「CONTAXのレンズだから良く写る」などと言う事は
全く無いし、むしろ遠距離撮影での解像感の低下等の
課題も持っている位だ。現代において、どうしても
本レンズでなければならない理由も皆無である。
性能的には、ここからさらに15年程経過した2010年代
後半の新鋭の85mm級レンズが、本NP85/1.4に勝るとも
劣らない描写力を持つので、それら新鋭レンズを適価で
入手した方が賢明である。例えば、SIGMA Art85/1.4や
TAMRON SP85/1.8であれば、どちらも10万円以内の新古・
中古価格で入手でき、描写力的にも不満は無いであろうし、
現代機との相性的にも何ら問題は無い。
本レンズ、NP85/1.4については、入手が困難であるし、
既に絶滅したブランドでもあるから、今更何を書いても
始まらない、なので解説も最小限とし、このあたりまでで
留めておく。

全くの的外れとなっている。1つはデジタル化製品における
製造上の特性(事業構造)から、共通化部品や協業等により
メーカー(独立)という概念が希薄になっている事がある。
もう1つは、「ブランド」という物も一種の商品であり
企業間で、その名前だけを売買しているという事実だ。
3つ目に、そうしたブランドに、どのような紆余曲折が
あったのかは、ユーザー側もちゃんとその歴史を理解して
おく必要があるという事だ。
つまり、製造の仕組み、市場の仕組み、ブランドの歴史
について全く理解もしておらず、知識も無い層だけが
いまだに有名ブランド商品(カメラ、レンズ)を有りがた
がって買っている訳である。
別にそれは、何もわからずに買う人の勝手だ、とは思うが
その結果、そのブランド品の中で、たまたま購入に値する
ような優れた商品が存在していたとしても、高価な値付けで
買いにくくなってしまっている。
新品はともかく、中古の場合には、相場高騰という事態が
発生するので、それは顕著だ。
つまり私としては、普通に適正な価格で買いたいのだが、
ある意味「風評被害」により、相場が上がりすぎて
コスパが悪化して買えなくなってしまっている。これは
困った話であり、多くのユーザー層がちゃんと、ブランド
などに惑わされず、その商品の真の価値を見抜く眼力を
養って貰わないければならないと、常々思っている次第だ。
----
では、今回ラストのレンズ、

(新品購入価格 118,000円)(以下STF135)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)
1998年発売の、MINOLTA/KONICA MINOLTA/SONY
α(A)マウント用アポダイゼーション(光学エレメント)
搭載MF望遠レンズ。

過去関連記事を参照されたし。
*ミラーレス・マニアックス第17回「STF vs APD」
*特殊レンズ・スーパーマニアックス第0回
「アポダイゼーション・グランドスラム」
*匠の写真用語辞典第3回、項目「アポダイゼーション」
で、簡単に言えば、アポダイゼーション光学エレメント
の搭載により、ボケ質が大変良くなるレンズである。
この仕様のレンズは世の中に4機種しか存在せず、それは
上記「グランドスラム」記事で、全4本を紹介している。
で、本STF135は、アポダイゼーションレンズの中でも
特に優れた描写力を発揮する。私はこのレンズを20年間
以上使っているが、2本目のアポダイゼーションが発売
されたのが、なんと本レンズから16年も後だったので
その間、私は「アポダイゼーションが入っているから
描写力が優れているのだ」と勘違いをしていた(汗)
しかし、計4本のアポダイゼーションレンズを所有し
撮り比べてみると、基本的な描写力に優劣がある事が
良くわかった。つまりこれは「ベースとなるレンズ設計が
優秀でなければ、ただ単にアポダイゼーションを入れた
だけでは高描写力にはならない」という事実である。

使っていたのか?というと、そうでも無い。
最大の課題は、「描写力が高すぎる」のである。
「それの何が問題なのだ? 贅沢な事を言うな!」と、
怒られそうな話なのだが、これについては明確な理由が
あって、つまり本STFでは、ボケ質破綻回避の作業を
行う必要はまったく無く、絞り開放あるいは、STFと表記
された、T(実効絞り値)4.5~T6.7の範囲の、どの
絞り値を使ってもボケ質はまったく乱れず、描写傾向も
変化が無い。また、逆光耐性も極めて高く、およそ
フレアやゴーストが発生する事態も想像すらできないし
それから、STF範囲の絞りは、通常絞りとは別途内蔵されて
いて、その円形絞り構造により、ボケ形状も安定している。
大きな(大きすぎる)物理口径により、口径食も発生しない、
すなわちボケの形状が乱れたり周辺減光が起こる事も無い。
まあつまり、ほとんど完璧とも言える描写性能なのだ。
この結果、何もテクニカル(技術、技能、経験、知識)な
要素を使わずとも、ただ被写体に向けて(MFで)ピントを
合わせさえすれば、いつでも誰でも、高い描写力の写真が
撮れてしまう。
この事は、大きく3つの問題点に繋がり、
1つは、テクニカルな要素が無く「エンジョイ度」が低い。
2つ目、「レンズに撮らされている」気になり主体性が無い。
3つ目、誰でも同様に撮れるので差別化要因が無い。
という事である。
だから、本ST135Fを使うと,レンズ側の高性能により
「撮らされてしまっている」気分になり、しかもそれは
私でなくても、同じ状況でシャッターを切りさえすれば
誰でも同じような高描写力の写真が撮れてしまうのだ。
これでは、撮っていても、あまり楽しくは無い。
つまり、あれこれと工夫して、なんとか上手く撮れた、
という「使いこなしの喜び」が全く無いレンズである。
まあ、ある意味贅沢すぎるレンズ、と言う事も言えるで
あろう、今回の記事中、唯一本レンズのみ、初級中級層
へも推奨できるレンズではあるが、それでもまあ次なる
課題としては価格の高さがある。
現在でも、SONY Aマウント品に外観変更されて販売は
継続されてはいるが、定価は175,000円+税である。
全般的にSONY高性能レンズは高額ではあるが、
これは単焦点レンズの中では、上から数えた方が早い
くらいの高価な類であり、かつ、実効F値[T4.5]
という「暗さ」は、初級層においては「開放F値の
暗いレンズは性能が低いレンズだ」という間違った
思い込みがあるから、買う気には全くなれないだろうし、
その誤解を持たない中上級層においては、今度は、
「暗い開放F値と望遠焦点距離により、手ブレが心配」
という話になってしまうだろう。

(Sonnar T* 135mm/F1.8 ZA)という、値段もあまり
変わらない(こちらは20万円+税)、カール・ツァイス
ブランド銘の高級レンズが存在する。
中上級者と言えども「カール・ツァイスの方が絶対に
良く写るはずだよね? だったらそっちを買おう」という
ここもまた、誤ったブランド信奉の思い込みによる
購買行動になってしまうだろう。
まあ、当該ZA135/1.8は、本シリーズ第18回記事や、
ハイコスパ第16回記事でも紹介しているので、それらを
参照してもらえればわかるとは思うが、それもまた
悪い描写力では無いが、あまり手放しで褒められるような
レンズでは無く、細かい弱点を色々と持っている。
そして、そもそも135mm単焦点は、基本的には「単用途」
である、その件は、本記事冒頭のSIGMA A135/1.8でも
説明しているが、レンズ個別に用途を想定して使う
必要性があるのだ。
だから、STF135、ZA135、A135は、いずれも同じ
焦点距離の135mmレンズでありながら、用途が異なる
レンズである、したがって、どれか1本だけを所有して
いれば済む、という話でも無いし、さらに言えば、
「70-200mm/F2.8の高性能ズームを持っているから不用だ」
という訳でも決して無い。
このあたりは、多数のレンズを使っていかないと理解
しずらい事かも知れないから、たとえ上級層であっても、
職業写真家層であっても、理解困難な話かも知れない
のだが、これはあくまで事実である。
非常に難解な話ではあるのだが、レンズはその用途を
きっちり想定して、その用途にちゃんとハマるものを
買う必要がある。で、もし用途不明で買ってしまったり
想定した用途に合わない事が購入後にわかった場合は、
新たな「用途開発」を行う必要がある。
さらに言えば、その時代において、レンズの用途は
変わってくる事もある。
具体例としては、SONY ZA135/1.8は、まだデジタル一眼
レフのISO感度が高感度化されていない時代(2000年代
~2010年代前半)では、暗所でのステージ撮影等に
効果的ではあったレンズだが、2010年代後半より、
デジタル一眼レフの高感度領域が、ISO数十万まで
拡張されてしまうと、もうその大口径(F1.8)も
あまり有益な特徴ではなくなってしまっている。
そうなれば、多少開放F値が暗いレンズでも十分に
用途代替できるわけであり、かつ、ZA135/1.8は、
超音波モーターが内蔵されていない為、AF速度の面で
不満が生じるようになってしまっている訳だ。
さらに言えば、現在SONYは、α/Aマウント機に注力
しておらず、現行品は僅かに2機種、新製品も出ずに
絶滅危惧種となってしまっている。
まあつまり、レンズの性能自体は殆ど問題はなくても、
周囲の機材環境が変化し、古く見える「仕様老朽化寿命」が
来てしまっている訳だ。

起こり難い、なにせアポダイゼーションを搭載する
唯一のα(A)マウントレンズなのだ。
(注:SONYのもう1本のSTFは、FEマウントである)
本STF135の凄さを実感するには、実際に購入して使って
みるしか無いであろう。
以前の記事でも書いたが、「清水の舞台から飛び降りる
つもりで」本STF135を購入した知人の若い女性が居た、
その後、本レンズは「清水レンズ」と仲間内では呼ばれる
ようになったのだが、まあ「清水寺」に値するとも言える
世界遺産級の名レンズである。
----
さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
次回中編記事では、描写表現力4.5点のレンズを紹介予定だ。