本シリーズは、やや特殊な交換レンズをカテゴリー別に
紹介している上級マニア層以上向けの記事群だ。
今回の記事では「ニコン おもしろレンズ工房」の、
レンズ群3本(4種)を紹介しよう。
「ニコン おもしろレンズ工房」の出自については
長くなるので記事文中で適宜説明していく。
では早速始めよう。
----
まず最初のシステム
Image may be NSFW.
Clik here to view.
レンズは、ぎょぎょっと20 (Fisheye Type 20mm/f8)
(中古購入価格 レンズ1本あたり7,000円相当)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
「ニコン おもしろレンズ工房」は、ニコン銀塩(35mm版)
一眼レフ向けの、変則的レンズ群の3本セット製品だ。
現代で言うところの「エントリーレンズ」の元祖とも言える
製品であるが、色々と興味深い特徴を持つ。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
ニコン社内ではなく、関連会社での企画開発と聞く。
初代の製品が1995年に限定発売されているが、人気があった
のか、2000年に再生産品が同じく限定発売されている。
現在の中古市場では殆ど見る事は無いが、希少品故に
プレミアム相場となってしまう事もある模様だ。
ちなみに、私の中古取得価格も、セットで約2万円と、
発売時の定価そのままか、むしろやや高目であった。
参考まで、2017年頃に大阪の中古専門店で元箱付きセット
を1組見かけたが、その価格は9,800円であった。
まあ、このあたりの価格帯が妥当な中古相場だと思われる。
さて、これら「おもしろレンズ工房」のレンズはAFもなければ、
絞り制御もなく、Ai露出連動爪も備えていない。
よって、デジタル機において、これらを簡便に利用できる
システム環境は限られている。だいたい以下の通りだ。
1)比較的簡便に使える
A)ニコン製デジタル一眼レフ高級機を用いる。
(Dヒト桁、Df、D三桁、D7000系)
B)ニコンF(Ai)マウントアダプターを用いて、
任意のミラーレス機で用いる。
2)やや面倒だが、使えない事は無い
C)ニコンの中級機以下の旧機種でマニュアル露出で用いる。
(D二桁、D三桁初期、D5000系、D3000系)
D)ニコンF(Ai)マウントアダプターを用いて
一部のデジタル一眼レフ(例:EOS、4/3等)で用いる。
ただし、2)の方法は相当に面倒であったり、システム全般の
知識が必要であったり、撮影技能が必要だったりするので、
初級中級層においては、1)のA/Bの用法のみが推奨だ。
そして、A)の使用法は「オフサイドの法則」にひっかかかる。
(あまりに高性能で高価なカメラに、安価で低性能なレンズを
装着する事は、アンバランスかつシステム性能が活かせない。
という理由で、本ブログの範囲では、そうした組み合わせを
禁じている。レンズ価格は、本体の少なくとも半分以上が
望ましい、という持論)
・・なので、B)のミラーレス機での使用が最も推奨なのだが、
本記事では、様々な使用法バリエーションを紹介する目的も
あるので、「オフサイドの法則」については緩和する。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
さて、本レンズ「ぎょぎょっと20」は、対角線魚眼タイプの
描写が得られる特殊レンズだ。
ネーミングのセンスが面白いが、そこについては後述する。
しかし、絞りはF8で固定だし、ピント機構(ヘリコイド)は
存在せず、1m~∞(無限遠)の固定焦点(パンフォーカス)
レンズである。(ピント位置は、約1.6mに固定されている)
本レンズではなく、本格的な魚眼レンズを使用する場合だが、
まず第一に最短撮影距離が、そこそこ短くなくてはならない。
魚眼レンズでの「焦点距離」は、あまり意味が無く、問題は
画角なのだが、本格派の対角線魚眼レンズの場合は、だいたい
20cm以下の最短撮影距離が望ましい。これは、昔流行した、
「鼻デカのペット写真」を撮るようなイメージを想像して
もらえれば、技法上、最短撮影距離の短縮が必須な事は
理解が容易だと思う。
しかし、本「ぎょぎょと20」は、最短撮影距離が1mと長く、
これについては、ヘリコイドアダプターやマクロテレプラス等の
特殊アタッチメントを使用しないと、それを短くする事は出来ず、
実際に以前のミラーレス・マニアックス記事でマクロテレプラス
を用いて、その実験を行った事もあったが、最短は何十cmかだけ、
短くなる程度で、最短20cmとかのレベルになる事は無かった。
こうした、本「おもしろレンズ工房」での様々な仕様制限に
ついては、製造コスト上の問題もあるかも知れないが、それより
製品企画上の意図も大きいであろう、それについては後述する。
それから、本レンズの撮影画角は153度であり、本格対角線
魚眼レンズでの180度には満たない「魚眼風レンズ」である。
そして、魚眼レンズでの「強い歪曲」を強調したい場合は
(注:正確に言えば、魚眼レンズの原理は「歪曲収差」では
無いが、それを述べると非常に長く専門的になる為に割愛する)
画角が広い方が好ましく、APS-C機やμ4/3機ではなく、
フルサイズ機を用いるのがノーマルな考え方だ。
ただし、この点も作画意図と撮影技法に依存する、すなわち
あまり魚眼らしい描写にはせず、「少し歪んだ広角レンズ」の
ような利用法を意図する場合は、APS-C機等に装着しても良い。
また、「魚眼レンズでは画面中点から放射線上に伸びる直線上
の被写体は歪まない」と毎回のように説明しているが、これを
意識する事は非常に重要であると同時に、画面内のどの直線部を
曲げたりまっすぐにするのかは構図上の意図に依存し、その意図
との関係で、フルサイズ機とするか、より小さいセンサーサイズ
にするか、あるいは、トリミングするか、等と変わってくる。
ともかく、たとえ玩具のようなトイレンズ系の魚眼レンズで
あっても、構図をしっかりコントロールする事は極めて難しく、
少なくとも上級者以上クラスの高度なスキルを要求される。
魚眼レンズは、決して甘くは見る事ができない、使いこなしが
非常に難しいレンズなのだ。
そして、単に難しいだけであれば良いが、初級中級層の場合は、
まず魚眼レンズを使いこなす事が出来ず、思うように撮れない為、
ほぼ100%、間違いなく「飽きて」使わなくなってしまう。
もし、数万円や十数万円もする高価な本格的な魚眼レンズを
ビギナー層が購入してしまった場合、相当に覚悟して、しっかり
それを使いこなす修練・鍛錬を行わないかぎり、その投資額は
完全に無駄になってしまうので、重ね重ね注意が必要だ。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17542199.jpg]()
まあ、そういう意味でも、本「おもしろレンズ工房」のような
「魚眼風レンズ」で感触を試してみて、ハマるとか、ちゃんと
撮れるようになってから、本格派の魚眼レンズを購入するのも
悪く無いステップアップだ。
しかし、本「おもしろレンズ工房」は、レア品である為、
現代では入手が困難であろう。
その場合には、現行製品での安価な魚眼レンズとしては、
OLYMPUS BODY CAP LENS BCL-0980 9mm/f8 FISHEYE
が存在する。
μ4/3機用のアクセサリー的レンズであるが、写りは本格的だ。
中古価格も安価で、だいたい7,000円前後から入手できる。
また、近年では海外新鋭メーカー(七工匠やMEIKE等)
からも、新品で1~2万円台の安価な魚眼レンズが、主に
ミラーレス機向けに発売されている。(注:海外新鋭魚眼
レンズは主にAPS-C機向け仕様なので、μ4/3機で使うと
魚眼効果が出にくいかも知れない→未確認、要検証)
----
では、次のシステム
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17543346.jpg]()
レンズは、ぐぐっとマクロ (120mm/f4.5)
(中古購入価格 レンズ1本あたり7,000円相当)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)
このレンズは、「組み換え式」という珍しいレンズである。
すなわち、ユーザーがレンズを(簡単に)分解して、部品を
つけ換える事で、マクロレンズとソフトフォーカス(軟焦点)
レンズの各々に変身させる事が可能だ。
ここではマクロの形態で使用する。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17543399.jpg]()
この手の構造を持つ一眼レフ用レンズは、私は他に知らず、
あえて似ているものを上げれば、LENSBABY MUSE/COMPOSER
系での「オプティック(光学系)交換式」があるが、そちらは
すっぽり光学系を入れ替えてしまうので、本レンズのような
組み換えのギミック(仕掛け)では無い。
まあ本レンズでの組み換え式は、まるで昔のロボットアニメか、
「トランスフォーマー」のようなイメージで、とても面白い。
それから、ネーミングセンスも、本「おもしろレンズ工房」
全般で、ニコンらしくなく、むしろ興味深い。
これは前述のように「(元祖)エントリーレンズ」的な企画の
コンセプトである事と、ニコン以外の外部で開発を行った事にも
関連があるのだろう。
ただ、ブランドイメージを極度に守ろうとするニコンの社風には
合わないようにも思える、その事の影響については後述する。
社外で企画した、という事からも、近接撮影用レンズは、ニコン
では「マイクロ」と呼ぶのであるが、本レンズの場合は「マクロ」
と、世間一般的な呼び方となっている。
実は、小さいものを写すのであれば、「微視的」という意味から
「ミクロ」または「マイクロ」が、本来ならば正しい。
「マクロ」では「巨視的」であり、正反対の意味だ。
ニコンではこの原則的な面を守って、ずっと「マイクロ」と
呼んでいるが、いつのまにか、他社の全てが「マクロ」と言う
ように(誤解された用語が)広まってしまった。
まあ、正反対の誤解が広まって、もうそれを変えようがなければ
実際のところはやむを得ない。例えば、麻雀で「先付け」とは、
後から翻牌(ファンパイ)をポンして役をつけてあがるという、
場合によっては禁則事項となるルールだが、これを「後付け」と
呼んでしまう誤解が世間一般的に広まって、もう元に戻せない。
また、スポーツにおける「グランドスラム」とは、本来は
「年間の主要大会に全て優勝する(圧勝する)」という意味だが、
それが実現出来る超人的プレーヤーも、現代では殆ど居ない為、
いつの間にか、主要大会そのものが「グランドスラム大会」と
呼ばれるようになってしまった。これはまだ、誤解を消す事が
可能な段階だが、報道・CMや選手自身まで、そういう誤解のまま
話しが広められてしまっているし、最近では、そういう名前を
つけた新規大会まで出来ていて、もう誤解を解くのは困難だ。
カメラの世界でも、初級中級層が憧れる大口径(F2.8)ズーム
を、広角、標準、望遠と3本全て揃える事を「大三元」と呼ぶ。
その用語自体がビギナー用語なのだが、これもビギナー層では
高価なレンズを「3本揃える事」は、予算的にも無理な為、
いつのまにか、1本のレンズそのものが「大三元レンズ」と
呼ばれるようになった。
(勿論、元々の麻雀用語においても、白・發・中、を全て
刻子で揃えないと「大三元」では無い事は言うまでもない)
・・で、本レンズの社外設計者としては「頑なに「マイクロ」と
呼ぶ事はせず、世間一般に広まっているマクロにしましょうよ」
というメッセージを、このネーミングに込めていると推察されるが
ただ、これではますます「ニコンに楯突いている」事になる(汗)
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17543387.jpg]()
さて、本「ぐぐっとマクロ」だが、「ぐぐっと」と言う割りには
最案撮影距離64cmとやや長い。まあ長目(120mm)の焦点距離と
あいまって、これでも一応は、最大撮影倍率1/3倍の仕様だ。
だが、現代では、1990年代銀塩時代とは異なり、等倍マクロ
レンズ位は、中級層以上であれば、誰でも持っている。
よって、実用上では1/3倍では不満を感じてしまうと思う。
その不満を解消するには、μ4/3機を使うのが簡便であろう。
本記事でのOM-D E-M5Ⅱで使用時には、そのままで2/3倍、
そして2倍テレコンモードを使用時は、約1.33倍の換算撮影
倍率を得る事ができ、このレベルであれば不満は無い筈だ。
ただ問題点は、本レンズには絞り機構が無く、F4.5固定と
なって、これは結構被写界深度が浅い状態だが、絞れない。
(また、本レンズではボケ質破綻が発生し、絞りが無い為、
その回避が困難となるが、もうそこはやむを得ない)
この場合の上級技法としては、連続デジタルズームを搭載
しているミラーレス機(注:OM-D E-M5Ⅱには無い)を用いて、
被写体撮影距離を離して、被写界深度を増やす同時に、デジタル
ズームをかけながら、同一被写体サイズを維持する事だ。
これで擬似的に被写界深度を深める事ができる。
「背景の取り込み範囲が変わる」とか、「トリミングと同じだ」
とか、あまり細かい事は言うまい。撮影の時点で、その調整が
現場で考えながら出来る事が重要なのであって、可能かどうか?
という原理的な原則論とは、感覚的な意味が大きく異なる。
上記の事の他の例としては「エフェクト」があるだろう。
撮った写真を事後にPC等で画像処理効果を掛ける事は容易
ではあるが、それは単に「そうできる」という話であり、
撮影時に、その被写体の状況、雰囲気、などを考慮して
どういった「表現」を撮影者が意図し、それを込める為に
その場で「エフェクト」を掛ける事と、PCでの後掛けでは
心理的要素が全く異なる。こうした事は上級者以上であれば
理解可能であろう。つまり「そんな事は他の方法でも出来るよ」
などと原理的な部分だけを語っているようでは、中級者以下だ、
と見なされてしまうという訳だ。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17543359.jpg]()
それから、本レンズでは、組み換えの手法(構成)を変えて、
前群をレンズ前部に装着する事で、「さらにぐぐっとマクロ」
とする事ができる。
この場合には、フルサイズ機で1/1.4倍(約0.7倍)、μ4/3機で
換算約1.4倍の撮影倍率が得られるが、遠距離の撮影が出来なく
なり、画質も若干低下する、という制限事項が生じる。
また、屋外ではこの組み換えが若干面倒である事と、組み換え
の手順(組み立て方)は、あまり簡単には覚えられず、
説明書やWEBなどを参照しながら行う事が普通である。
今回は、その「さらにぐぐっとマクロ」の用法は割愛しよう。
----
では、3本目のシステム
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17544532.jpg]()
レンズは、ふわっとソフト (90mm/f4.8)
(中古購入価格 上記マクロレンズに含まれる)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)
マクロレンズから組み換えると、「ふわっとソフト」となる。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17544577.jpg]()
マクロ時には、2群3枚のレンズ構成であったものを、
途中のレンズを取り外し、1群2枚の単玉構成とする。
(いわゆる「ベス単フード外し」と類似の構成)
取り外したレンズの処置に困るが、「フィルムケースにぴったり
入る」という実用的アイデアだ(ただまあ、デジタル時代では
そのアイデアは無効だが)
絞り機構が無いので、残念ながら「ソフト量調整不可」である。
一般的なソフトレンズでは、絞り込むことで、ソフト描写となる
原因の球面収差を減らし、一般的な撮影画質を得る事ができる他、
さらにF11以上等に絞り込むと、輪郭の固い独特な描写を得る事が
可能なソフトレンズもあるが、その手の用途や実験は本レンズでは
出来ない(機械絞り内蔵アダプターを使っても無理だ→実験済み。
その場合は「視野絞り」となり、単に露出値が変化するだけだ。
ソフト量を調整する為には、レンズ内部に絞り機構があるという
「開口絞り」構造としなければならない。参考→ベス単フード)
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17544579.jpg]()
ただ、最短撮影距離は40cmと短く「ソフトマクロ」的な
使用法も出来るのは長所だ。
(注:ソフトマクロは、近年でのLENSBABY VELVETシリーズ
(後日紹介)以外では、他に存在していない希少な仕様だ)
しかし、この点においても、「撮影前にいったん絞り込んで
ピント位置を確認する」という、「ピントのわからないソフト
レンズでは必須の撮影技法」が使えず、大いに不満である。
どのレンズも絞り機構が無かったり、最短撮影距離が長いなど、
これら「ニコン おもしろレンズ工房」では、様々な性能制限
や、その他の制限事項が色々とある。(あった)
例えば、ニコン製品カタログに載っておらず単独のチラシである。
また、「ニコン(NIKON)」というロゴ名がレンズに記載されて無く
「NIKON」と印刷されたシールを貼って使う(=ニコンの製品とは
認められていない)それと、流通が特殊経路となり一般には販売
されていない、限定数販売である、などの大きな制約事項だ。
これはつまり「正規のニコンの製品であるとは認めない!」
というスタンスの製品であると思う。
これはまあ、「ニコンのブランドイメージを汚さない」という
本社側の意図もあるとは想像できるが、それにしても、どうも
ちぐはぐだし、保守的だし、ユーザー主体ではないし、意地悪
でもあるようにも見える。
そして、そこまでして守りたい「ニコンのブランドイメージ」
って、いったい何なのだろうか? 現代での「ニコン党」は
シニア層ばかりであり、いわく・・
「戦艦大和の測距儀は日本光学製であった」(1940年代)
「写真家D.D.ダンカン氏がNIKKORを褒めた」(1950年代)
「最初のプロ用一眼レフがNIKON Fだった」(1960年代)
「冒険家植村直己が極地でNIKON F2を愛用した」(1970年代)
「NASAが宇宙での撮影用にNIKON F3改を発注した」(1980年代)
「平成天皇即位の際、NIKON F4遠隔撮影が行われた」(1989年)
・・と、まあ、そういう話が、ブランドイメージを構築する
上で有効に働いていたのだろうが・・ 残念ながら、現代の
新規マニア層では、上の話は、どれも全く知らないであろう。
事実、現代の若手の実用派中上級層の主力機材はCANON機と
SONY機であり、NIKON機は殆ど誰も使っていない。
現代でNIKON機を使っているのは、国内ではシニア層、
一部の海外では報道層くらいだ。海外では国内の世情が
遅れて反映されるのかも知れない。で、何故海外報道で
NIKON機の比率が高いのがわかるか?と言えば、その
うるさいシャッター音からだ。TVで流れる海外記者会見や
海外スポーツ報道等では、発言者の声が聞き取れない程の
大音量のNIKON高速連写機のシャッター音が目立つ。
(これを嫌って、近年の国内報道ではNIKON機使用の
比率がだんだん下がってきている模様だ)
シャッター音の静粛化くらい、すぐにやれば良いのに、
何故それが何十年も手つかずなのだろうか? ちなみに
CANON EOSでは、EOS-1HS(1989年、銀塩一眼第14回)
が、とても煩いシャッター音だった事をすぐさま反省し、
1990年代前半(例:EOS 100QD、1991年、現在未所有)
には、「サイレントEOS」と呼ばれたシャッター音の
静粛化を実現している。
現代のデジタル時代でもNIKON一眼レフ以外の他社機は、
どれも静かなシャッター音量である。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17544441.jpg]()
余談が長くなったが・・
ただ、様々な制約や制限がある中で、この「おもしろレンズ工房」
は、どれも描写力的には殆ど不満が無い。どれも良く写るレンズ
であり、設計者の意地(反骨精神)が強く見てとれる。
(様々な制約の中でも「最良の仕事」をしてやろうという精神)
よって、これを設計者は「ローコストレンズ」と呼んでいたと
聞く。まあ現代であれば「エントリーレンズ」の称号を
与えても良いと思え、その立場としては、ほぼ元祖である。
(他にはCANON EF50mm/f1.8Ⅱ型1990年、も「元祖」か)
----
では、今回ラストの「おもしろレンズ工房」システム
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17545661.jpg]()
レンズは、どどっと400 (400mm/f8)
(中古購入価格 レンズ1本あたり7,000円相当)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)
セットのラストは、400mm超望遠レンズだ。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17545658.jpg]()
この「おもしろレンズ工房」の存在意義(企画理由)として、
「ビギナー層にレンズ交換の楽しさを伝える」という意図が
あったと思える。
ビギナー層が安価なレンズを「お試し的」に買ってくれれば、
レンズ交換にハマって、より高価な「高付加価値型レンズ」
(つまり、メーカー側の儲けが大きい製品)を買ってくれる
かも知れないし、あるいは、数本のレンズを買い揃えた事で
「いまさら他社のカメラに買い換えるのは面倒だ」等という
「囲い込み戦略」を行う事ができる。
まあ、2010年前後頃の、一眼レフメーカー各社における
「エントリーレンズ戦略」と全く同様だ。
ただ、この時代(1990年代)、しかも、保守的なニコンと
しては、ずいぶんと先進的で意欲的な企画だ。
「よくこの企画が通ったものだ」と、むしろ感心してしまう。
なお、レンズ以外の市場分野、例えば、化粧品、日用品、食品、
携帯電話等においては、こうした「お試し版・囲い込み」戦略
は、いつの時代でも、ごく普通に行われている。
何故カメラ・レンズ市場では、常にそれが行われている訳では
ないのか? と言えば、それは恐らく時代背景(市場の状況)に
よる事であろう。よほどの危機的状況で無いかぎり「ユーザーが
お試しレンズを買って、それで満足してしまう」というリスクは
避けたい(=高価なレンズを勿論売りたい、それが利益の根幹だ)
2010年前後は、スマホとミラーレス機の台頭により、一眼レフ
市場が完全に喰われてしまう、という危機感があった事だろう。
本「おもしろレンズ工房」発売時の1995年は、まず1992年頃の
「バブル経済崩壊」による消費の冷え込みに加え、1995年の
「阪神淡路大震災」による、さらなる消費心理の減退という
状況であり、それらが複合的にからんで、AF一眼レフ市場では、
この時代にユーザーニーズの激変が起こった。
すなわち、この1990年代中頃には、多くのユーザー層は、新規に
発売されるAF一眼レフに興味が持てず、新分野の「高級コンパクト」
や「APSカメラ」や「中古カメラ」に興味が行ってしまった訳だ。
この結果、1990年代後半には大規模な「第一次中古カメラブーム」
が起こり、社会現象ともなったし、中古売買で儲ける「投機層」
まで多数現れたという「カメラ・バブル期」でもあった訳だ。
まあ、一眼レフメーカー側としては、なかなか厳しい状況ではある。
ただ、ユーザーが一眼レフを欲しがらない点は、その原因もある。
具体例として、1990年代前半にニコンから発売されたAF一眼レフ
の機種群を以下にあげる。(注:この時代の、銀塩F三桁機の
名称のみ、F-xxxと、ハイフンが入る事が通例だ)
1990年
F-601M 中級機 AF機F-601外装のままのMF機
1991年
F-801S 高級機 F-801の小改良版
F-401X 初級機 F-401の小改良版
1992年~1993年
F90S/F90D 高級機 F-801の後継シリーズ(データバック装備型)
F90 高級機 データバック等が無い通常版F90
1994年
F70 中級機 信じられない程の劣悪な操作系を持つ「迷機」
F50 普及機 F-401後継機
F90X系 高級機 F90シリーズの小改良版
1995年
一眼レフの新発売なし、阪神淡路大震災の影響か?
と、このように1990年代前半のニコンAF一眼レフは、非常に
地味な製品展開であり、ニコンお得意のフラッグシップ機等の
新発売は無い。(注:F4 1988年とF5 1996年の狭間にあたる)
この時代の銀塩機の事を全く知らない現代のユーザーの視点で
あっても、「マイナーチェンジの改良機が多く、全くの新製品の
比率が、とても少ない」という印象を受ける事であろう。
このうち、中上級ユーザーにかろうじて受け入れられたのは
F90/X系のみであるが、勿論、次期旗艦F5に期待する要素が
大きく、それまでの間の「繋ぎ」であったとも言えよう。
現行旗艦F4は、MFで使うならば最強の優秀な機体だが、AFで
使うと弱点が目立つ、よって、あまり人気の高い機種では無い。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第15回記事参照)
「迷機」F70は、ある意味注目だが、それはマニアックな視点で
あり、一般ユーザー受けはしない(この機体は、現在家にあるが
自身の所有物ではない為、銀塩一眼レフ記事では未紹介だ)
まあ、ニコンの例を挙げているが、他社の状況も似たりよったりだ。
(注:この時代、唯一他社でヒットした機種は、CANON EOS Kiss
1993年~ が存在する。殆ど一人勝ちだったのではなかろうか?)
この為、この時代(1990~1995年)の各社銀塩AF一眼レフは、
現在私は、PENTAX Z-1の1台を歴史的価値から残しているのと
研究用のNIKON F70があるだけで、他の機種は綺麗さっぱり手元
から消えてなくなっている。つまり、後世に残すべき価値のある
銀塩AF一眼レフが、殆ど存在しない時代であった訳だ。
まあ、バブル経済崩壊が、その根底にはあると思うが、
こういう世情・市場状況であるから、高級コンパクトブーム
や、中古カメラブームが起こるのは良く理解できる。
AF一眼レフの新製品が、まるで魅力的では無かった訳だ。
こんな時代、失いかけた一眼レフユーザーを引き戻す為にも
その戦略の一環として、「ニコン おもしろレンズ工房」が
生まれたのであろう。
そう考えると、その意義と重要性は、このセットの「のんびりと
した、ユルい仕様」からは、むしろ想像もできないほどの重責を
与えられていたのかも知れない。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17545623.jpg]()
さて、歴史の余談が長くなったが、さらに、もう少しだけ、
本レンズ自体の事以外の、レンズ市場背景の理解が必要だ。
一眼レフのビギナーユーザーが交換レンズを買わない事は、
現代でも昔も同様だ。いつも言うように、その理由は2つあり
「種類が多すぎて、どれを買ったら良いか、わからないから」
「値段が高すぎて、なかなか買えないから」である。
これらの理由を直接言うと格好悪い事もあるので、ビギナー層は
ほぼ全員が「まだ、今のレンズを使いこなしていないから」
という言い訳を口にする。そういう話が出てきたら、つまり
レンズの事を全くわかっていない事が明白だ。
そして、1990年代前半では、上記の理由とは別の、レンズを
買わない理由もある。
1980年代後半のMF一眼レフからAF一眼レフへの転換期を過ぎ、
1990年代前半では本格的なAF時代に突入、と同時に交換レンズ
も、それまでの単焦点主体からズーム主流へと変化する。
それ以前、1980年代の標準ズームは、ズーム比も小さく、
広角も足らず(35mm始まり等)、最短撮影距離も長く、
暗い開放F値で背景もボカせず、おまけに描写力も優れなかった。
だが、1990年代には、まだ仕様的には未成熟ながらも、
TAMRONからAF高倍率ズーム28-200mm(最初期型は1992年)
が発売される等、やっと標準ズームが実用的になりつつあった。
しかし、標準ズームが1本あれば、ビギナー層はそれで満足だ。
周囲の中上級層は、まだ単焦点派が主流だし、ズームの弱点も
良く知っているので、「50mmを買え、28mmも135mmも買え」
と薦めるかも知れないが、ビギナー層では、それらの焦点距離
はズームに含まれているので、わざわざ別のレンズを買い足す
必要性が、全く理解できない。
まあそれでも、(評判の悪い)標準ズームを嫌って、単焦点で
買い揃えたビギナー層も居ただろう。その場合の焦点距離系列は
28mm,50mm,135mmが定番であり、あえてそこに追加しても、
200mm,35mm。まあ、そのあたりまでだろう。
マクロ等も、メーカー純正品は高価なのでなかなか入手できず
買ったとしてもTAMRONの90マクロくらいだが、この時代では
まだ等倍版(1996年~)は発売されておらず、旧型の1/2倍の
F2.5版のAF仕様品(152E)や、SIGMA、TOKINA製があるのみだ。
さて、結局、1990年代前半の初級中級ユーザー層は、単焦点に
しても、ズームにしても、おおよそ 28mm~200mmの範囲の
焦点距離のレンズしか所有していなかった。
そこで、あらためて本「おもしろレンズ工房」のスペックを見る、
20mm魚眼、90mmソフト、120mmマクロ、400mm超望遠、と
初級中級者層では、絶対に所有していない仕様のレンズばかりだ。
これは、かなり「ウケる」であろう。
なにせ、まともなニコン純正400mmなどは、高価すぎて買える
筈も無いのだ。
(参考:1990年代当時の400mm単焦点は、MFであってもF5.6版で
20万円以上、F2.8版では80万円以上、F2.8のAF版は約100万円。
注:情報が殆ど残っておらず、いずれも推定価格だ)
まあ、当時、この「おもしろレンズ工房」の企画を通す為に
保守的なニコンの中では、担当者は四苦八苦した事だろう。
下手をすると「クビをかけて」の一発勝負だったかも知れないが、
無事、人気商品となり、限定発売ながら異例の再生産となった。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![_c0032138_17545620.jpg]()
さて、ここからやっと、本「どどっと400」の話になる。
焦点距離400mm、開放F8だが、例によって絞り機構は無い。
最短撮影距離約4.5mは、恐ろしく長い。
焦点距離10倍法則を超えて長い事のみならず、実際に被写体に
対峙しても、目の前にある範囲のものは、ほぼ全滅で撮れず、
はるか遠くの被写体を探すしか無い。
私が所有する数百本のレンズ中、最短4.5mはワースト記録
であり、本レンズと、他にYASHICA ML300mm/f5.6(C)が
同様の4.5mだ。この低レベルだと、非常にストレスとなる。
構造だが、鏡筒が長すぎて、入れ子(延長)式となっている。
収納時は約15cmと、まあカメラバッグに入るサイズではあるが、
組み立てて伸ばすと30cm近くとなり、ハンドリングが悪いどころか
周囲の人から見たら、異様な雰囲気となり「盗撮しているのか?」
と疑われてしまう為、残念ながら人目のある場所で使用できない。
この問題は深刻であり、現代では、そのあたり肖像権やら盗撮
やらの「コンプライアンス」が、約20数年前に比べて遥かに
厳しく、このような「不審な撮影機材」(汗)は、実質的には
使う事はできない。(このあたりのコンプライアンスやモラル
を理解していないアマチュア層が現代でも多く、例えば京都で
丸一日、舞妓さん等を追いかけて撮影し、社会問題となっている。
そういう輩を見かけると、肖像権とか言う以前に、ストーカーの
ようで気持ちが悪い、他に撮りたい被写体は無いのだろうか?
まあ、いずれ「犯罪」として取り締まりの対象となるだろう)
さて、では、たとえば野鳥観察場等の「通報されない(笑)
安全な場所」で、本レンズを使ったとしよう。
最短撮影距離の長さの欠点も、野鳥等の遠距離被写体では
無視できる。
こういう場合、望遠画角をかせぐ為、フルサイズ機ではなく、
APS-C機又はμ4/3機で使う。各々の画角は600mm又は800mm
となるが、そこからクロップまたはデジタルテレコン機能で
さらに焦点距離を伸ばせる。(注:換算1000mmを超えると、
構えた所に被写体がまず入らない、というピンポイント状態と
なり、かなりの超望遠撮影経験が無いと、全く手に負えない)
が、軽量レンズであるが故に、三脚は使わない事がベターだ。
オリンパスやLUMIX後期のμ4/3機、SONY α後期等の手ブレ補正
内蔵ミラーレス機では、正しく焦点距離設定を400mmとする。
これでまあ、手ブレの危険性は少しだけ減るが、換算800mmあたり
ともなると、どんな優秀な内蔵手ブレ補正でも、あまり正確な
動作(精度)は期待できない。
よって、「手ブレ限界=焦点距離分の1」の法則により、
シャッター速度が1/800ないし1/1000秒を、少なくともキープ
できるようにISO感度を手動で設定する。
なお、多くの機種のAUTO ISOでは、もっと低いシャッター速度が
低速限界となっているので無理だ。1/125秒とかでは、まず100%
手ブレは免れない。
今回使用機のNIKON D300や新鋭500ではISO低速限界速度が
一応設定できるが、何故かこれがマイメニューには登録できず、
メニューの奥深くから掘り出して設定する、という極めて
不条理な操作系仕様だ。
(注:D500より古い初級機D5300では、マイメニュー登録が
可能だ。D500では、忘れた? 間違えた? 昔のソフト
ウェアのコードを流用した? という、お粗末な設計だ。
こういった、細かい操作系等にまで配慮する事が、本来の
「ブランドイメージ」の維持であり、それが出来ない状態は
メーカーへの信頼を落としてしまう)
まあでも、仮にミラーレス機でも、いずれの機種であっても、
上級レベルの知識と技能を伴わないと、こういう特殊レンズを
使うのはとても難しい。
さて、本「どどっと400」のレンズは、2群4枚型構成である。
百数十年前の「ペッツバール(ペッツヴァール、Petzval)型」
に近い構成(テレフォト型)であると思われると思われるのだが、
アポ(アポクロマート、色収差低減)仕様とは書かれて無い。
(注:前玉の「ダブレット」構成で、2波長程度までであれば
倍率色収差は補正されていると思う→アクロマート仕様)
まあ古いレンズ構成であるが、シンプルでそこそこ性能が良い為
天体望遠鏡分野等では、長らく基本のレンズ構成となっている。
このペッツバール(改)型レンズ構成の長所は、構造が単純で
ローコストながら、画面中央部の解像力に優れる点だ。
反面、画面周辺で解像力が低下するといった周辺収差の発生や、
像面湾曲が生じやすく、場合によっては、ボケ質が低下する。
(注:画面中央の惑星等を平面的に見れば良い天体望遠鏡では、
このレンズ構成の弱点が全く欠点にならない)
また、望遠比(率)が低く、焦点距離に応じて、その分だけ
鏡筒長がとても伸びてしまう。(注:最短撮影距離が長い
原因もこの構成故か? それについては専門的すぎて不明)
余談だが、このボケ質低下をさらに強調したレンズ設計とすると
(例:後群の2枚を分離し、2群4枚→3群4枚とする)
「ぐるぐるボケ」が発生する事から、近年、LENSBABYやLOMOから
そういう描写となる特殊レンズが新発売されている。
(LENSBABY TWIST等。別記事で紹介済み、及び後日特集予定)
で、画面周辺での画質低下を防ぐのは簡単であり、前述の
「望遠画角を得る」という理由と合わせて「APS-C機」または
「μ4/3機」に本レンズを装着すればよい、ただそれだけの
簡単な対策だ。
世の中の初級中級ユーザーの殆どは「フルサイズ機の方が良く
写る」と、勘違いしているかも知れないが、こういうケースの
ように、フルサイズ機ではレンズ性能の欠点がモロに出てしまう
場合があるので、「それを防ぐ為に、フルサイズ機を使わない」
という上級層または上級マニアだけが理解できるテクニックが
ある訳だ。
総括だが、「おもしろレンズ工房」は実際のところ初級中級者
向け、といった安易で安直なレンズ群では無い。
特に魚眼や超望遠は、それを使いこなすのは、上級者クラスの
知識と技能が必要だ。
もっとも、現代において、このセットは「レア品」であるから、
初級中級層が簡単に入手して使ってしまうようなものでもなく、
あくまで、マニア、しかも撮影派の上級マニア向けであろう。
これをコレクションしても、あまり意味も、歴史的価値も無く、
高値を付けて相場を吊り上げても、多分誰も欲しがらないと思う。
(何もわかっていないビギナー層に高く売る行為は不誠実だ)
1万円前後の適正相場で買って、ちゃんとこれで、勉強・練習や
研究をしよう、という正統派マニア向けの製品だ。
----
さて、今回の記事「ニコン おもしろレンズ工房」特集は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・
紹介している上級マニア層以上向けの記事群だ。
今回の記事では「ニコン おもしろレンズ工房」の、
レンズ群3本(4種)を紹介しよう。
「ニコン おもしろレンズ工房」の出自については
長くなるので記事文中で適宜説明していく。
では早速始めよう。
----
まず最初のシステム
Clik here to view.

(中古購入価格 レンズ1本あたり7,000円相当)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
「ニコン おもしろレンズ工房」は、ニコン銀塩(35mm版)
一眼レフ向けの、変則的レンズ群の3本セット製品だ。
現代で言うところの「エントリーレンズ」の元祖とも言える
製品であるが、色々と興味深い特徴を持つ。
Clik here to view.

初代の製品が1995年に限定発売されているが、人気があった
のか、2000年に再生産品が同じく限定発売されている。
現在の中古市場では殆ど見る事は無いが、希少品故に
プレミアム相場となってしまう事もある模様だ。
ちなみに、私の中古取得価格も、セットで約2万円と、
発売時の定価そのままか、むしろやや高目であった。
参考まで、2017年頃に大阪の中古専門店で元箱付きセット
を1組見かけたが、その価格は9,800円であった。
まあ、このあたりの価格帯が妥当な中古相場だと思われる。
さて、これら「おもしろレンズ工房」のレンズはAFもなければ、
絞り制御もなく、Ai露出連動爪も備えていない。
よって、デジタル機において、これらを簡便に利用できる
システム環境は限られている。だいたい以下の通りだ。
1)比較的簡便に使える
A)ニコン製デジタル一眼レフ高級機を用いる。
(Dヒト桁、Df、D三桁、D7000系)
B)ニコンF(Ai)マウントアダプターを用いて、
任意のミラーレス機で用いる。
2)やや面倒だが、使えない事は無い
C)ニコンの中級機以下の旧機種でマニュアル露出で用いる。
(D二桁、D三桁初期、D5000系、D3000系)
D)ニコンF(Ai)マウントアダプターを用いて
一部のデジタル一眼レフ(例:EOS、4/3等)で用いる。
ただし、2)の方法は相当に面倒であったり、システム全般の
知識が必要であったり、撮影技能が必要だったりするので、
初級中級層においては、1)のA/Bの用法のみが推奨だ。
そして、A)の使用法は「オフサイドの法則」にひっかかかる。
(あまりに高性能で高価なカメラに、安価で低性能なレンズを
装着する事は、アンバランスかつシステム性能が活かせない。
という理由で、本ブログの範囲では、そうした組み合わせを
禁じている。レンズ価格は、本体の少なくとも半分以上が
望ましい、という持論)
・・なので、B)のミラーレス機での使用が最も推奨なのだが、
本記事では、様々な使用法バリエーションを紹介する目的も
あるので、「オフサイドの法則」については緩和する。
Clik here to view.

描写が得られる特殊レンズだ。
ネーミングのセンスが面白いが、そこについては後述する。
しかし、絞りはF8で固定だし、ピント機構(ヘリコイド)は
存在せず、1m~∞(無限遠)の固定焦点(パンフォーカス)
レンズである。(ピント位置は、約1.6mに固定されている)
本レンズではなく、本格的な魚眼レンズを使用する場合だが、
まず第一に最短撮影距離が、そこそこ短くなくてはならない。
魚眼レンズでの「焦点距離」は、あまり意味が無く、問題は
画角なのだが、本格派の対角線魚眼レンズの場合は、だいたい
20cm以下の最短撮影距離が望ましい。これは、昔流行した、
「鼻デカのペット写真」を撮るようなイメージを想像して
もらえれば、技法上、最短撮影距離の短縮が必須な事は
理解が容易だと思う。
しかし、本「ぎょぎょと20」は、最短撮影距離が1mと長く、
これについては、ヘリコイドアダプターやマクロテレプラス等の
特殊アタッチメントを使用しないと、それを短くする事は出来ず、
実際に以前のミラーレス・マニアックス記事でマクロテレプラス
を用いて、その実験を行った事もあったが、最短は何十cmかだけ、
短くなる程度で、最短20cmとかのレベルになる事は無かった。
こうした、本「おもしろレンズ工房」での様々な仕様制限に
ついては、製造コスト上の問題もあるかも知れないが、それより
製品企画上の意図も大きいであろう、それについては後述する。
それから、本レンズの撮影画角は153度であり、本格対角線
魚眼レンズでの180度には満たない「魚眼風レンズ」である。
そして、魚眼レンズでの「強い歪曲」を強調したい場合は
(注:正確に言えば、魚眼レンズの原理は「歪曲収差」では
無いが、それを述べると非常に長く専門的になる為に割愛する)
画角が広い方が好ましく、APS-C機やμ4/3機ではなく、
フルサイズ機を用いるのがノーマルな考え方だ。
ただし、この点も作画意図と撮影技法に依存する、すなわち
あまり魚眼らしい描写にはせず、「少し歪んだ広角レンズ」の
ような利用法を意図する場合は、APS-C機等に装着しても良い。
また、「魚眼レンズでは画面中点から放射線上に伸びる直線上
の被写体は歪まない」と毎回のように説明しているが、これを
意識する事は非常に重要であると同時に、画面内のどの直線部を
曲げたりまっすぐにするのかは構図上の意図に依存し、その意図
との関係で、フルサイズ機とするか、より小さいセンサーサイズ
にするか、あるいは、トリミングするか、等と変わってくる。
ともかく、たとえ玩具のようなトイレンズ系の魚眼レンズで
あっても、構図をしっかりコントロールする事は極めて難しく、
少なくとも上級者以上クラスの高度なスキルを要求される。
魚眼レンズは、決して甘くは見る事ができない、使いこなしが
非常に難しいレンズなのだ。
そして、単に難しいだけであれば良いが、初級中級層の場合は、
まず魚眼レンズを使いこなす事が出来ず、思うように撮れない為、
ほぼ100%、間違いなく「飽きて」使わなくなってしまう。
もし、数万円や十数万円もする高価な本格的な魚眼レンズを
ビギナー層が購入してしまった場合、相当に覚悟して、しっかり
それを使いこなす修練・鍛錬を行わないかぎり、その投資額は
完全に無駄になってしまうので、重ね重ね注意が必要だ。
Clik here to view.

「魚眼風レンズ」で感触を試してみて、ハマるとか、ちゃんと
撮れるようになってから、本格派の魚眼レンズを購入するのも
悪く無いステップアップだ。
しかし、本「おもしろレンズ工房」は、レア品である為、
現代では入手が困難であろう。
その場合には、現行製品での安価な魚眼レンズとしては、
OLYMPUS BODY CAP LENS BCL-0980 9mm/f8 FISHEYE
が存在する。
μ4/3機用のアクセサリー的レンズであるが、写りは本格的だ。
中古価格も安価で、だいたい7,000円前後から入手できる。
また、近年では海外新鋭メーカー(七工匠やMEIKE等)
からも、新品で1~2万円台の安価な魚眼レンズが、主に
ミラーレス機向けに発売されている。(注:海外新鋭魚眼
レンズは主にAPS-C機向け仕様なので、μ4/3機で使うと
魚眼効果が出にくいかも知れない→未確認、要検証)
----
では、次のシステム
Clik here to view.

(中古購入価格 レンズ1本あたり7,000円相当)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)
このレンズは、「組み換え式」という珍しいレンズである。
すなわち、ユーザーがレンズを(簡単に)分解して、部品を
つけ換える事で、マクロレンズとソフトフォーカス(軟焦点)
レンズの各々に変身させる事が可能だ。
ここではマクロの形態で使用する。
Clik here to view.

あえて似ているものを上げれば、LENSBABY MUSE/COMPOSER
系での「オプティック(光学系)交換式」があるが、そちらは
すっぽり光学系を入れ替えてしまうので、本レンズのような
組み換えのギミック(仕掛け)では無い。
まあ本レンズでの組み換え式は、まるで昔のロボットアニメか、
「トランスフォーマー」のようなイメージで、とても面白い。
それから、ネーミングセンスも、本「おもしろレンズ工房」
全般で、ニコンらしくなく、むしろ興味深い。
これは前述のように「(元祖)エントリーレンズ」的な企画の
コンセプトである事と、ニコン以外の外部で開発を行った事にも
関連があるのだろう。
ただ、ブランドイメージを極度に守ろうとするニコンの社風には
合わないようにも思える、その事の影響については後述する。
社外で企画した、という事からも、近接撮影用レンズは、ニコン
では「マイクロ」と呼ぶのであるが、本レンズの場合は「マクロ」
と、世間一般的な呼び方となっている。
実は、小さいものを写すのであれば、「微視的」という意味から
「ミクロ」または「マイクロ」が、本来ならば正しい。
「マクロ」では「巨視的」であり、正反対の意味だ。
ニコンではこの原則的な面を守って、ずっと「マイクロ」と
呼んでいるが、いつのまにか、他社の全てが「マクロ」と言う
ように(誤解された用語が)広まってしまった。
まあ、正反対の誤解が広まって、もうそれを変えようがなければ
実際のところはやむを得ない。例えば、麻雀で「先付け」とは、
後から翻牌(ファンパイ)をポンして役をつけてあがるという、
場合によっては禁則事項となるルールだが、これを「後付け」と
呼んでしまう誤解が世間一般的に広まって、もう元に戻せない。
また、スポーツにおける「グランドスラム」とは、本来は
「年間の主要大会に全て優勝する(圧勝する)」という意味だが、
それが実現出来る超人的プレーヤーも、現代では殆ど居ない為、
いつの間にか、主要大会そのものが「グランドスラム大会」と
呼ばれるようになってしまった。これはまだ、誤解を消す事が
可能な段階だが、報道・CMや選手自身まで、そういう誤解のまま
話しが広められてしまっているし、最近では、そういう名前を
つけた新規大会まで出来ていて、もう誤解を解くのは困難だ。
カメラの世界でも、初級中級層が憧れる大口径(F2.8)ズーム
を、広角、標準、望遠と3本全て揃える事を「大三元」と呼ぶ。
その用語自体がビギナー用語なのだが、これもビギナー層では
高価なレンズを「3本揃える事」は、予算的にも無理な為、
いつのまにか、1本のレンズそのものが「大三元レンズ」と
呼ばれるようになった。
(勿論、元々の麻雀用語においても、白・發・中、を全て
刻子で揃えないと「大三元」では無い事は言うまでもない)
・・で、本レンズの社外設計者としては「頑なに「マイクロ」と
呼ぶ事はせず、世間一般に広まっているマクロにしましょうよ」
というメッセージを、このネーミングに込めていると推察されるが
ただ、これではますます「ニコンに楯突いている」事になる(汗)
Clik here to view.

最案撮影距離64cmとやや長い。まあ長目(120mm)の焦点距離と
あいまって、これでも一応は、最大撮影倍率1/3倍の仕様だ。
だが、現代では、1990年代銀塩時代とは異なり、等倍マクロ
レンズ位は、中級層以上であれば、誰でも持っている。
よって、実用上では1/3倍では不満を感じてしまうと思う。
その不満を解消するには、μ4/3機を使うのが簡便であろう。
本記事でのOM-D E-M5Ⅱで使用時には、そのままで2/3倍、
そして2倍テレコンモードを使用時は、約1.33倍の換算撮影
倍率を得る事ができ、このレベルであれば不満は無い筈だ。
ただ問題点は、本レンズには絞り機構が無く、F4.5固定と
なって、これは結構被写界深度が浅い状態だが、絞れない。
(また、本レンズではボケ質破綻が発生し、絞りが無い為、
その回避が困難となるが、もうそこはやむを得ない)
この場合の上級技法としては、連続デジタルズームを搭載
しているミラーレス機(注:OM-D E-M5Ⅱには無い)を用いて、
被写体撮影距離を離して、被写界深度を増やす同時に、デジタル
ズームをかけながら、同一被写体サイズを維持する事だ。
これで擬似的に被写界深度を深める事ができる。
「背景の取り込み範囲が変わる」とか、「トリミングと同じだ」
とか、あまり細かい事は言うまい。撮影の時点で、その調整が
現場で考えながら出来る事が重要なのであって、可能かどうか?
という原理的な原則論とは、感覚的な意味が大きく異なる。
上記の事の他の例としては「エフェクト」があるだろう。
撮った写真を事後にPC等で画像処理効果を掛ける事は容易
ではあるが、それは単に「そうできる」という話であり、
撮影時に、その被写体の状況、雰囲気、などを考慮して
どういった「表現」を撮影者が意図し、それを込める為に
その場で「エフェクト」を掛ける事と、PCでの後掛けでは
心理的要素が全く異なる。こうした事は上級者以上であれば
理解可能であろう。つまり「そんな事は他の方法でも出来るよ」
などと原理的な部分だけを語っているようでは、中級者以下だ、
と見なされてしまうという訳だ。
Clik here to view.

前群をレンズ前部に装着する事で、「さらにぐぐっとマクロ」
とする事ができる。
この場合には、フルサイズ機で1/1.4倍(約0.7倍)、μ4/3機で
換算約1.4倍の撮影倍率が得られるが、遠距離の撮影が出来なく
なり、画質も若干低下する、という制限事項が生じる。
また、屋外ではこの組み換えが若干面倒である事と、組み換え
の手順(組み立て方)は、あまり簡単には覚えられず、
説明書やWEBなどを参照しながら行う事が普通である。
今回は、その「さらにぐぐっとマクロ」の用法は割愛しよう。
----
では、3本目のシステム
Clik here to view.

(中古購入価格 上記マクロレンズに含まれる)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)
マクロレンズから組み換えると、「ふわっとソフト」となる。
Clik here to view.

途中のレンズを取り外し、1群2枚の単玉構成とする。
(いわゆる「ベス単フード外し」と類似の構成)
取り外したレンズの処置に困るが、「フィルムケースにぴったり
入る」という実用的アイデアだ(ただまあ、デジタル時代では
そのアイデアは無効だが)
絞り機構が無いので、残念ながら「ソフト量調整不可」である。
一般的なソフトレンズでは、絞り込むことで、ソフト描写となる
原因の球面収差を減らし、一般的な撮影画質を得る事ができる他、
さらにF11以上等に絞り込むと、輪郭の固い独特な描写を得る事が
可能なソフトレンズもあるが、その手の用途や実験は本レンズでは
出来ない(機械絞り内蔵アダプターを使っても無理だ→実験済み。
その場合は「視野絞り」となり、単に露出値が変化するだけだ。
ソフト量を調整する為には、レンズ内部に絞り機構があるという
「開口絞り」構造としなければならない。参考→ベス単フード)
Clik here to view.

使用法も出来るのは長所だ。
(注:ソフトマクロは、近年でのLENSBABY VELVETシリーズ
(後日紹介)以外では、他に存在していない希少な仕様だ)
しかし、この点においても、「撮影前にいったん絞り込んで
ピント位置を確認する」という、「ピントのわからないソフト
レンズでは必須の撮影技法」が使えず、大いに不満である。
どのレンズも絞り機構が無かったり、最短撮影距離が長いなど、
これら「ニコン おもしろレンズ工房」では、様々な性能制限
や、その他の制限事項が色々とある。(あった)
例えば、ニコン製品カタログに載っておらず単独のチラシである。
また、「ニコン(NIKON)」というロゴ名がレンズに記載されて無く
「NIKON」と印刷されたシールを貼って使う(=ニコンの製品とは
認められていない)それと、流通が特殊経路となり一般には販売
されていない、限定数販売である、などの大きな制約事項だ。
これはつまり「正規のニコンの製品であるとは認めない!」
というスタンスの製品であると思う。
これはまあ、「ニコンのブランドイメージを汚さない」という
本社側の意図もあるとは想像できるが、それにしても、どうも
ちぐはぐだし、保守的だし、ユーザー主体ではないし、意地悪
でもあるようにも見える。
そして、そこまでして守りたい「ニコンのブランドイメージ」
って、いったい何なのだろうか? 現代での「ニコン党」は
シニア層ばかりであり、いわく・・
「戦艦大和の測距儀は日本光学製であった」(1940年代)
「写真家D.D.ダンカン氏がNIKKORを褒めた」(1950年代)
「最初のプロ用一眼レフがNIKON Fだった」(1960年代)
「冒険家植村直己が極地でNIKON F2を愛用した」(1970年代)
「NASAが宇宙での撮影用にNIKON F3改を発注した」(1980年代)
「平成天皇即位の際、NIKON F4遠隔撮影が行われた」(1989年)
・・と、まあ、そういう話が、ブランドイメージを構築する
上で有効に働いていたのだろうが・・ 残念ながら、現代の
新規マニア層では、上の話は、どれも全く知らないであろう。
事実、現代の若手の実用派中上級層の主力機材はCANON機と
SONY機であり、NIKON機は殆ど誰も使っていない。
現代でNIKON機を使っているのは、国内ではシニア層、
一部の海外では報道層くらいだ。海外では国内の世情が
遅れて反映されるのかも知れない。で、何故海外報道で
NIKON機の比率が高いのがわかるか?と言えば、その
うるさいシャッター音からだ。TVで流れる海外記者会見や
海外スポーツ報道等では、発言者の声が聞き取れない程の
大音量のNIKON高速連写機のシャッター音が目立つ。
(これを嫌って、近年の国内報道ではNIKON機使用の
比率がだんだん下がってきている模様だ)
シャッター音の静粛化くらい、すぐにやれば良いのに、
何故それが何十年も手つかずなのだろうか? ちなみに
CANON EOSでは、EOS-1HS(1989年、銀塩一眼第14回)
が、とても煩いシャッター音だった事をすぐさま反省し、
1990年代前半(例:EOS 100QD、1991年、現在未所有)
には、「サイレントEOS」と呼ばれたシャッター音の
静粛化を実現している。
現代のデジタル時代でもNIKON一眼レフ以外の他社機は、
どれも静かなシャッター音量である。
Clik here to view.

ただ、様々な制約や制限がある中で、この「おもしろレンズ工房」
は、どれも描写力的には殆ど不満が無い。どれも良く写るレンズ
であり、設計者の意地(反骨精神)が強く見てとれる。
(様々な制約の中でも「最良の仕事」をしてやろうという精神)
よって、これを設計者は「ローコストレンズ」と呼んでいたと
聞く。まあ現代であれば「エントリーレンズ」の称号を
与えても良いと思え、その立場としては、ほぼ元祖である。
(他にはCANON EF50mm/f1.8Ⅱ型1990年、も「元祖」か)
----
では、今回ラストの「おもしろレンズ工房」システム
Clik here to view.

(中古購入価格 レンズ1本あたり7,000円相当)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)
セットのラストは、400mm超望遠レンズだ。
Clik here to view.

「ビギナー層にレンズ交換の楽しさを伝える」という意図が
あったと思える。
ビギナー層が安価なレンズを「お試し的」に買ってくれれば、
レンズ交換にハマって、より高価な「高付加価値型レンズ」
(つまり、メーカー側の儲けが大きい製品)を買ってくれる
かも知れないし、あるいは、数本のレンズを買い揃えた事で
「いまさら他社のカメラに買い換えるのは面倒だ」等という
「囲い込み戦略」を行う事ができる。
まあ、2010年前後頃の、一眼レフメーカー各社における
「エントリーレンズ戦略」と全く同様だ。
ただ、この時代(1990年代)、しかも、保守的なニコンと
しては、ずいぶんと先進的で意欲的な企画だ。
「よくこの企画が通ったものだ」と、むしろ感心してしまう。
なお、レンズ以外の市場分野、例えば、化粧品、日用品、食品、
携帯電話等においては、こうした「お試し版・囲い込み」戦略
は、いつの時代でも、ごく普通に行われている。
何故カメラ・レンズ市場では、常にそれが行われている訳では
ないのか? と言えば、それは恐らく時代背景(市場の状況)に
よる事であろう。よほどの危機的状況で無いかぎり「ユーザーが
お試しレンズを買って、それで満足してしまう」というリスクは
避けたい(=高価なレンズを勿論売りたい、それが利益の根幹だ)
2010年前後は、スマホとミラーレス機の台頭により、一眼レフ
市場が完全に喰われてしまう、という危機感があった事だろう。
本「おもしろレンズ工房」発売時の1995年は、まず1992年頃の
「バブル経済崩壊」による消費の冷え込みに加え、1995年の
「阪神淡路大震災」による、さらなる消費心理の減退という
状況であり、それらが複合的にからんで、AF一眼レフ市場では、
この時代にユーザーニーズの激変が起こった。
すなわち、この1990年代中頃には、多くのユーザー層は、新規に
発売されるAF一眼レフに興味が持てず、新分野の「高級コンパクト」
や「APSカメラ」や「中古カメラ」に興味が行ってしまった訳だ。
この結果、1990年代後半には大規模な「第一次中古カメラブーム」
が起こり、社会現象ともなったし、中古売買で儲ける「投機層」
まで多数現れたという「カメラ・バブル期」でもあった訳だ。
まあ、一眼レフメーカー側としては、なかなか厳しい状況ではある。
ただ、ユーザーが一眼レフを欲しがらない点は、その原因もある。
具体例として、1990年代前半にニコンから発売されたAF一眼レフ
の機種群を以下にあげる。(注:この時代の、銀塩F三桁機の
名称のみ、F-xxxと、ハイフンが入る事が通例だ)
1990年
F-601M 中級機 AF機F-601外装のままのMF機
1991年
F-801S 高級機 F-801の小改良版
F-401X 初級機 F-401の小改良版
1992年~1993年
F90S/F90D 高級機 F-801の後継シリーズ(データバック装備型)
F90 高級機 データバック等が無い通常版F90
1994年
F70 中級機 信じられない程の劣悪な操作系を持つ「迷機」
F50 普及機 F-401後継機
F90X系 高級機 F90シリーズの小改良版
1995年
一眼レフの新発売なし、阪神淡路大震災の影響か?
と、このように1990年代前半のニコンAF一眼レフは、非常に
地味な製品展開であり、ニコンお得意のフラッグシップ機等の
新発売は無い。(注:F4 1988年とF5 1996年の狭間にあたる)
この時代の銀塩機の事を全く知らない現代のユーザーの視点で
あっても、「マイナーチェンジの改良機が多く、全くの新製品の
比率が、とても少ない」という印象を受ける事であろう。
このうち、中上級ユーザーにかろうじて受け入れられたのは
F90/X系のみであるが、勿論、次期旗艦F5に期待する要素が
大きく、それまでの間の「繋ぎ」であったとも言えよう。
現行旗艦F4は、MFで使うならば最強の優秀な機体だが、AFで
使うと弱点が目立つ、よって、あまり人気の高い機種では無い。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第15回記事参照)
「迷機」F70は、ある意味注目だが、それはマニアックな視点で
あり、一般ユーザー受けはしない(この機体は、現在家にあるが
自身の所有物ではない為、銀塩一眼レフ記事では未紹介だ)
まあ、ニコンの例を挙げているが、他社の状況も似たりよったりだ。
(注:この時代、唯一他社でヒットした機種は、CANON EOS Kiss
1993年~ が存在する。殆ど一人勝ちだったのではなかろうか?)
この為、この時代(1990~1995年)の各社銀塩AF一眼レフは、
現在私は、PENTAX Z-1の1台を歴史的価値から残しているのと
研究用のNIKON F70があるだけで、他の機種は綺麗さっぱり手元
から消えてなくなっている。つまり、後世に残すべき価値のある
銀塩AF一眼レフが、殆ど存在しない時代であった訳だ。
まあ、バブル経済崩壊が、その根底にはあると思うが、
こういう世情・市場状況であるから、高級コンパクトブーム
や、中古カメラブームが起こるのは良く理解できる。
AF一眼レフの新製品が、まるで魅力的では無かった訳だ。
こんな時代、失いかけた一眼レフユーザーを引き戻す為にも
その戦略の一環として、「ニコン おもしろレンズ工房」が
生まれたのであろう。
そう考えると、その意義と重要性は、このセットの「のんびりと
した、ユルい仕様」からは、むしろ想像もできないほどの重責を
与えられていたのかも知れない。
Clik here to view.

本レンズ自体の事以外の、レンズ市場背景の理解が必要だ。
一眼レフのビギナーユーザーが交換レンズを買わない事は、
現代でも昔も同様だ。いつも言うように、その理由は2つあり
「種類が多すぎて、どれを買ったら良いか、わからないから」
「値段が高すぎて、なかなか買えないから」である。
これらの理由を直接言うと格好悪い事もあるので、ビギナー層は
ほぼ全員が「まだ、今のレンズを使いこなしていないから」
という言い訳を口にする。そういう話が出てきたら、つまり
レンズの事を全くわかっていない事が明白だ。
そして、1990年代前半では、上記の理由とは別の、レンズを
買わない理由もある。
1980年代後半のMF一眼レフからAF一眼レフへの転換期を過ぎ、
1990年代前半では本格的なAF時代に突入、と同時に交換レンズ
も、それまでの単焦点主体からズーム主流へと変化する。
それ以前、1980年代の標準ズームは、ズーム比も小さく、
広角も足らず(35mm始まり等)、最短撮影距離も長く、
暗い開放F値で背景もボカせず、おまけに描写力も優れなかった。
だが、1990年代には、まだ仕様的には未成熟ながらも、
TAMRONからAF高倍率ズーム28-200mm(最初期型は1992年)
が発売される等、やっと標準ズームが実用的になりつつあった。
しかし、標準ズームが1本あれば、ビギナー層はそれで満足だ。
周囲の中上級層は、まだ単焦点派が主流だし、ズームの弱点も
良く知っているので、「50mmを買え、28mmも135mmも買え」
と薦めるかも知れないが、ビギナー層では、それらの焦点距離
はズームに含まれているので、わざわざ別のレンズを買い足す
必要性が、全く理解できない。
まあそれでも、(評判の悪い)標準ズームを嫌って、単焦点で
買い揃えたビギナー層も居ただろう。その場合の焦点距離系列は
28mm,50mm,135mmが定番であり、あえてそこに追加しても、
200mm,35mm。まあ、そのあたりまでだろう。
マクロ等も、メーカー純正品は高価なのでなかなか入手できず
買ったとしてもTAMRONの90マクロくらいだが、この時代では
まだ等倍版(1996年~)は発売されておらず、旧型の1/2倍の
F2.5版のAF仕様品(152E)や、SIGMA、TOKINA製があるのみだ。
さて、結局、1990年代前半の初級中級ユーザー層は、単焦点に
しても、ズームにしても、おおよそ 28mm~200mmの範囲の
焦点距離のレンズしか所有していなかった。
そこで、あらためて本「おもしろレンズ工房」のスペックを見る、
20mm魚眼、90mmソフト、120mmマクロ、400mm超望遠、と
初級中級者層では、絶対に所有していない仕様のレンズばかりだ。
これは、かなり「ウケる」であろう。
なにせ、まともなニコン純正400mmなどは、高価すぎて買える
筈も無いのだ。
(参考:1990年代当時の400mm単焦点は、MFであってもF5.6版で
20万円以上、F2.8版では80万円以上、F2.8のAF版は約100万円。
注:情報が殆ど残っておらず、いずれも推定価格だ)
まあ、当時、この「おもしろレンズ工房」の企画を通す為に
保守的なニコンの中では、担当者は四苦八苦した事だろう。
下手をすると「クビをかけて」の一発勝負だったかも知れないが、
無事、人気商品となり、限定発売ながら異例の再生産となった。
Clik here to view.

焦点距離400mm、開放F8だが、例によって絞り機構は無い。
最短撮影距離約4.5mは、恐ろしく長い。
焦点距離10倍法則を超えて長い事のみならず、実際に被写体に
対峙しても、目の前にある範囲のものは、ほぼ全滅で撮れず、
はるか遠くの被写体を探すしか無い。
私が所有する数百本のレンズ中、最短4.5mはワースト記録
であり、本レンズと、他にYASHICA ML300mm/f5.6(C)が
同様の4.5mだ。この低レベルだと、非常にストレスとなる。
構造だが、鏡筒が長すぎて、入れ子(延長)式となっている。
収納時は約15cmと、まあカメラバッグに入るサイズではあるが、
組み立てて伸ばすと30cm近くとなり、ハンドリングが悪いどころか
周囲の人から見たら、異様な雰囲気となり「盗撮しているのか?」
と疑われてしまう為、残念ながら人目のある場所で使用できない。
この問題は深刻であり、現代では、そのあたり肖像権やら盗撮
やらの「コンプライアンス」が、約20数年前に比べて遥かに
厳しく、このような「不審な撮影機材」(汗)は、実質的には
使う事はできない。(このあたりのコンプライアンスやモラル
を理解していないアマチュア層が現代でも多く、例えば京都で
丸一日、舞妓さん等を追いかけて撮影し、社会問題となっている。
そういう輩を見かけると、肖像権とか言う以前に、ストーカーの
ようで気持ちが悪い、他に撮りたい被写体は無いのだろうか?
まあ、いずれ「犯罪」として取り締まりの対象となるだろう)
さて、では、たとえば野鳥観察場等の「通報されない(笑)
安全な場所」で、本レンズを使ったとしよう。
最短撮影距離の長さの欠点も、野鳥等の遠距離被写体では
無視できる。
こういう場合、望遠画角をかせぐ為、フルサイズ機ではなく、
APS-C機又はμ4/3機で使う。各々の画角は600mm又は800mm
となるが、そこからクロップまたはデジタルテレコン機能で
さらに焦点距離を伸ばせる。(注:換算1000mmを超えると、
構えた所に被写体がまず入らない、というピンポイント状態と
なり、かなりの超望遠撮影経験が無いと、全く手に負えない)
が、軽量レンズであるが故に、三脚は使わない事がベターだ。
オリンパスやLUMIX後期のμ4/3機、SONY α後期等の手ブレ補正
内蔵ミラーレス機では、正しく焦点距離設定を400mmとする。
これでまあ、手ブレの危険性は少しだけ減るが、換算800mmあたり
ともなると、どんな優秀な内蔵手ブレ補正でも、あまり正確な
動作(精度)は期待できない。
よって、「手ブレ限界=焦点距離分の1」の法則により、
シャッター速度が1/800ないし1/1000秒を、少なくともキープ
できるようにISO感度を手動で設定する。
なお、多くの機種のAUTO ISOでは、もっと低いシャッター速度が
低速限界となっているので無理だ。1/125秒とかでは、まず100%
手ブレは免れない。
今回使用機のNIKON D300や新鋭500ではISO低速限界速度が
一応設定できるが、何故かこれがマイメニューには登録できず、
メニューの奥深くから掘り出して設定する、という極めて
不条理な操作系仕様だ。
(注:D500より古い初級機D5300では、マイメニュー登録が
可能だ。D500では、忘れた? 間違えた? 昔のソフト
ウェアのコードを流用した? という、お粗末な設計だ。
こういった、細かい操作系等にまで配慮する事が、本来の
「ブランドイメージ」の維持であり、それが出来ない状態は
メーカーへの信頼を落としてしまう)
まあでも、仮にミラーレス機でも、いずれの機種であっても、
上級レベルの知識と技能を伴わないと、こういう特殊レンズを
使うのはとても難しい。
さて、本「どどっと400」のレンズは、2群4枚型構成である。
百数十年前の「ペッツバール(ペッツヴァール、Petzval)型」
に近い構成(テレフォト型)であると思われると思われるのだが、
アポ(アポクロマート、色収差低減)仕様とは書かれて無い。
(注:前玉の「ダブレット」構成で、2波長程度までであれば
倍率色収差は補正されていると思う→アクロマート仕様)
まあ古いレンズ構成であるが、シンプルでそこそこ性能が良い為
天体望遠鏡分野等では、長らく基本のレンズ構成となっている。
このペッツバール(改)型レンズ構成の長所は、構造が単純で
ローコストながら、画面中央部の解像力に優れる点だ。
反面、画面周辺で解像力が低下するといった周辺収差の発生や、
像面湾曲が生じやすく、場合によっては、ボケ質が低下する。
(注:画面中央の惑星等を平面的に見れば良い天体望遠鏡では、
このレンズ構成の弱点が全く欠点にならない)
また、望遠比(率)が低く、焦点距離に応じて、その分だけ
鏡筒長がとても伸びてしまう。(注:最短撮影距離が長い
原因もこの構成故か? それについては専門的すぎて不明)
余談だが、このボケ質低下をさらに強調したレンズ設計とすると
(例:後群の2枚を分離し、2群4枚→3群4枚とする)
「ぐるぐるボケ」が発生する事から、近年、LENSBABYやLOMOから
そういう描写となる特殊レンズが新発売されている。
(LENSBABY TWIST等。別記事で紹介済み、及び後日特集予定)
で、画面周辺での画質低下を防ぐのは簡単であり、前述の
「望遠画角を得る」という理由と合わせて「APS-C機」または
「μ4/3機」に本レンズを装着すればよい、ただそれだけの
簡単な対策だ。
世の中の初級中級ユーザーの殆どは「フルサイズ機の方が良く
写る」と、勘違いしているかも知れないが、こういうケースの
ように、フルサイズ機ではレンズ性能の欠点がモロに出てしまう
場合があるので、「それを防ぐ為に、フルサイズ機を使わない」
という上級層または上級マニアだけが理解できるテクニックが
ある訳だ。
総括だが、「おもしろレンズ工房」は実際のところ初級中級者
向け、といった安易で安直なレンズ群では無い。
特に魚眼や超望遠は、それを使いこなすのは、上級者クラスの
知識と技能が必要だ。
もっとも、現代において、このセットは「レア品」であるから、
初級中級層が簡単に入手して使ってしまうようなものでもなく、
あくまで、マニア、しかも撮影派の上級マニア向けであろう。
これをコレクションしても、あまり意味も、歴史的価値も無く、
高値を付けて相場を吊り上げても、多分誰も欲しがらないと思う。
(何もわかっていないビギナー層に高く売る行為は不誠実だ)
1万円前後の適正相場で買って、ちゃんとこれで、勉強・練習や
研究をしよう、という正統派マニア向けの製品だ。
----
さて、今回の記事「ニコン おもしろレンズ工房」特集は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・