Quantcast
Channel: 【匠のデジタル工房・玄人専科】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

特殊レンズ・スーパーマニアックス(8)TAMRON SP LENS

$
0
0
「TAMRON SPレンズ40周年記念記事」

本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、TAMRON製の「SP」銘の単焦点レンズを、
5本紹介しよう。
c0032138_17563743.jpg
TAMRONの「SP」とは、銀塩時代の今から丁度40年前の
1979年より続く、「高描写力のレンズである事」を
示す称号だ。

その名を冠したレンズはかなり多いし、私も多数のSP銘の
レンズを所有してはいるが、今回の記事では、その代表的
な物(注:単焦点のみ)を厳選して紹介する。

それと、最初に述べておくが、私は、メーカー側が、
こうして型番で性能を区別して高画質を謳うスタンスには、
あまり賛同ができない。
性能を評価するのは、あくまで購入(ユーザー)側だからだ。
レンズの使い方も、ユーザー毎により様々であろう。

よって、「SPやらLやらARTやらPROやらGMやらライカやら
ツァイスやら」という、「いかにも特別なレンズ」という
名称をつけて、その結果、価格を吊り上げているならば、
そういうレンズは、むしろあまり買いたいとは思わない。

何故ならば、そんな称号や型番がついていなくても、
安くて良く写るレンズは、他にいくらでも存在するからだ。
その事実は、中上級層やマニア層ならば誰でも知っている。

ただ、TAMRONの場合には、高性能でコスパが良いレンズを
探していくと、”たまたま「SP」銘に行き当たった”という
感じである。値段もさほど高価では無い為、ここで取り上げる
「SP」銘レンズについては、「そんなの名前だけだ!」と
目くじらを立てる必要も無いであろう。

----
では、まず最初のSPシステム
c0032138_17565193.jpg
レンズは、TAMRON SP 35mm/f1.8 Di VC USD(Model F012)
(中古購入価格 41,000円)(以下、SP35/1.8)
カメラは、NIKON D2H (APS-C機)

【注意】このカメラとレンズの組み合わせは時代が10年以上
も異なる。一応写真は撮れるが、稀にエラーや動作不良が
起こる為、これは「非推奨」の組み合わせとしておく。

----
2015年に発売された、高描写力単焦点準広角レンズ。
フルサイズ対応品であるが、今回、古いAPS-C機に装着
しているのは、それなりに意味があり、そこは後述する。
c0032138_17565163.jpg
「SP」の名に恥じない高描写力レンズである事は確かだ。
しかし、どうも、このシリーズ(35mm,45mm,85mm)は
市場で人気が無い模様で、特に本SP35/1.8やSP45/1.8は、
発売から2年ほど経った2017年頃から、中古市場に
大量に新古品(在庫処分品)が流通していた。

こういう状況は、モデルチェンジ前か、または、その商品
が、あまり人気が無い場合か、たいていどちらかである。
本レンズSP35/1.8の、その後のモデルチェンジは無いので
やはり人気が無かったのであろう。
(追記:本記事執筆後にSP35mm/f1.4 Di USDが発売された。
その発売理由も本記事での分析内容に密接に関係して来る。
ここでの本レンズSP35/1.8の話は、数ヶ月前のSP35/1.4
未発表の状況での分析と思っていただければ良いだろう)

で、何故人気が無いか?は、理由が想像できる。

まず、2010年代での、スマホやミラーレス機の台頭による
一眼レフ市場の縮退は、毎回のように説明している事だ。
そういう「飽和市場」では、販売数が少なくても利益が
得られる「高付加価値型商品」を出さないとやっていけない。
これは現代では、TAMRONに限らず、他のカメラメーカーや
レンズメーカーも全てが実施している戦略だ。

単純に言えば、2010年代におけるカメラ・レンズ製品は
ユーザーが欲しいと思うように「凄いスペックを並べ立て
その分、製品価格を値上げしている」という事だ。
言い方は多少悪いが、これは純然たる事実である。

で、現代のカメラ市場の主要ユーザー層は「初級中級者」
である。何故ならば、昔からカメラをやっているような
ベテラン層、上級層、マニア層などは、現代のカメラや
レンズが「割高である」と感じている。だから、旧機種を
できるだけ長く使おうとしたり、買い控えを行っている訳だ。
旧来より遥かに高価になった新製品を、そう簡単に次々と
買う気にはなれない。

それに、35mm,45mm,85mmは中級層以上では、本SP
シリーズで無くても、代替できる似た仕様のレンズを必ず
所有している、むやみに買い換える必然性も殆ど無い。


また、職業写真家層であっても、使用する機材が”企業等の
所属組織やメーカー等から提供される”といった、恵まれた
環境以外の場合は、高価になりすぎた機材を自腹で買って
いたら、収支が見合わないケースも多々出てくるであろう。

高性能な最新機材では無くても撮れるだけの、高いスキルや
経験値を持っていればいるほど、最新の「高付加価値型」の
製品は買う必要は無い。(職業写真家層等が、そうした新鋭
レンズを使っている状況は、「広告塔」としての立場の場合も
多々ある事も、ユーザー側は良く認識しておく必要がある)
c0032138_17565152.jpg
で、本レンズSP35/1.8も、そうした「高付加価値型」
レンズである、その定価は9万円と、かなり高額である。

例えば、少し前の時代の他社の同等スペックの製品では
SONY製DT35/1.8(SAL35F18)の定価は2万4000円で、
実売価格は、新品で1万円台後半であった。
(注:まあDT35/1.8はAPS-C機専用レンズであるから、
正当な比較とは言い難いが・・)

それから、ライバルのSIGMAには35mm/f1.4 DG HSM | Art
が存在する、こちらは定価11万8000円と、本SP35/1.8
よりさらに高価であるが、なんと言っても開放F1.4が光る。

ビギナー層における、機材評価の論理は以下の通りだ
初「SIGMAの方は開放F1.4だから、TAMRONのF1.8より
  高性能なんでしょう? だから値段も高いのでしょう?
  当然SIGMAの方が良く写るよね? 
  だったら、多少高くてもSIGMAを買う事にするよ」

この論理の何処がおかしいか? まあビギナー層以外
(つまり、中上級層、マニア層、職業写真家層、評論家層
そしてメーカー関係者、市場(流通)関係者等)であれば
誰でも簡単に、「そうとは言い切れない」と断言できる。

つまり、ごく単純に「カタログスペックの数字だけを見て
商品の性能や価値を評価するなかれ」という大原則だ。

特に「開放F1.4が、開放F1.8より優れている」というのが
最大の「思い込み」だ。
開放F1.4を実現するには、開放F1.8のレンズよりも、
設計が困難であったり、コストが増加したり、大きく重く
なったり、最短撮影距離が伸びたり、そして場合により
画質も低下する等、様々なデメリットが発生するのだ。
(特に、「球面収差」は有効径の3乗に比例して大きくなり、
「コマ収差」も有効径の2乗に比例する為、大口径レンズで
これらの収差の発生を抑える設計は非常に困難となる)

そして、銀塩から近代に至るまで、同一メーカーの同時代
の製品で、50mmや85mm等の同じ焦点距離で、F1.4版と
F1.8(or F1.7)版が並存してラインナップ(併売)されて
いる場合、ほぼ100%、F1.8版の方が写りが良い。
(注:ごく近年の高付加価値型F1.4版製品のケースを除く。
が、そういう場合にはF1.4版はF1.8版の数倍から十数倍の
高額定価になる事も多々あり、「それらは根本的に違う物」
という事で、区別する事や理解は容易であろう)

で、「F1.8版の方が100%写りが良い」という根拠であるが
両者が同様な設計・製造プロセスで、しかも定価にもあまり
差が無く、2倍以内程度の差であれば・・
ここで、もしF1.4版が全ての性能要素で優れているならば、
両者を同時にラインナップ(併売)する意味が無い。

つまりF1.4版に一本化し、F1.8版を製造中止にすれば
良い訳だ、その方がラインナップ維持の様々な負担が減る。
そうできないのは、F1.8版の方が実は高描写力であったり
又は描写力が同等であっても、小型軽量化や最短撮影距離
短縮等の他の性能上のメリットがあるからだ。

では、同一メーカー間ではなく、他のメーカー同士の
同等スペックの製品の場合はどうか?
この場合は、たいてい、ライバル製品に対して、後から
発売された方が優れている。

何故ならば、既に市場には他社のライバル製品が存在
しているのに、後から、それより性能の低い製品を
出しても、全く勝ち目が無く、無意味だからだ。

先のSIGMAとTAMRONの例を見れば、SIGMA A35/1.4が
2013年頃の発売、TAMRON SP35/1.8が2015年の発売と
なれば、TAMRONは当然、SIGMAの製品を研究しつくし、
それを超える性能のものを開発する時間的な余裕が
あった筈だ。
そこで、仕事をサボって「安かろう、悪かろう」という
製品を後から出せる筈が無い。設計担当者の問題だけでは
なく、沢山の関係者が見守っている中で製品が出てくる訳
だから、「後だしジャンケンで負ける」ような話などは、
完全に有り得ないシナリオでは無いか・・・

で、ここまで読んで来て、初級中級者層は思うであろう
初「ならば、実はTAMRONの方が性能が良いのか?」

いや、それも早計な考え方だ。SIGMAとTAMRONは同じ
35mmで開放F値が微妙に異なるのみならず、製品の
企画コンセプトが、まるで違う。


なお、ここでSIGMA A35/1.4の性能の詳細について断言
できないのは、現状、私はA35/1.4は未所有だからだ。
一応、「購入予定リスト」に入っているレンズであるが
まだ自身で想定している購入希望中古相場よりも高価で
買えていない。(まあ、近い将来に入手するであろう)

で、スペック上での話をするならば、特に差異があるのは、
本SP35/1.8の最短撮影距離が20cmと異常な迄に短い事だ。
これは近代の35mmレンズの中でマクロを除いて、完全なる
第1位であり、各社がこれまで35mmレンズにおいて
最短23~26cmあたりで凌ぎを削ってきた中、ダントツの
1位のスペックである。(注:海外製では、18cmという
最短撮影距離の35mmレンズが、オールドレンズおよび近年
のローコスト中国製レンズで存在していた→後日紹介予定)
おまけに本SP35/1.8は、手ブレ補正内蔵だ。

つまり、SIGMA版は、F1.4と明るい大口径レンズで
明所から暗所まで、汎用的な被写体状況に対応する事を
コンセプトとした正統派で硬派なレンズであると思われ、
本SP35/1.8は、開放F値をわずかに犠牲にしても、最良の
描写力と最高の近接性能を与え、おまけに手ブレ補正で
暗所への対応までを可能とした、という方向性の差異だ。

だが、この差異は用途面からは大きく、両レンズにおいて、
被写体の選び方からして異なってしまう・・

(それと、前述のように、本記事執筆後に、TAMRONからも
SIGMA版と全く同じコンセプトのSP35/1.4が発売された、
まあ、F1.8版を失敗と見なし、戦略転換したのであろう)
c0032138_17565181.jpg
それから、今回の記事では、本SP35/1.8の母艦として
APS-C機であるNIKON D2Hを使っている。
(注:冒頭に説明したように、この組み合わせは非推奨)

このかなり古い時代(2003年製)の機体に装着した場合でも
一応手ブレ補正は有効な模様で、換算52.5mmの標準画角で、
最大撮影倍率は、何と0.6倍!と、ほとんどマクロレンズ
並みの性能となる。
よって、今回は近接撮影を主体とした写真を掲載している。

まあ、こういう使い方をするならば、レンズの解放F値が
F1.4だろうが、F1.8だろうが、どうても良い事になる。
SIGMA A35/1.4と本SP35/1.8は、それぞれは用途が違う
レンズだ、こうした場合は、どちらかを選ぶものではなく
必要な方を買うか、あるいは両方を買うしか無いでは
ないか・・・

「でも、どちらが良いのだ?」とは聞くなかれ、それは、
それぞれのユーザーが、どんな目的で、どんな被写体を
どんな技法で撮るか?等で異なり、そんな事は他人では
知りようが無いので、答えようも無い。

それこそ、「気になる位ならば、両方買ってしまえば・・」
とも思う。勿論、コストは、かなり余計にかかるだろうが、
後になって「あちらの方が良かったかも?」等と、後悔や
疑念を持つ事は絶対に無いし、様々な被写体条件に合わせて
より適正なレンズを選んで使う等は、初級中級層における
勉強や練習にも役立つと思う。

----
では、次のシステム
c0032138_17570646.jpg
レンズは、TAMRON SP AF 90mm /f2.8 MACRO[1:1]
(Model 172E)(中古購入価格 20,000円)
カメラは、PENTAX K-30(APS-C機)

言わずと知れた「90マクロ」シリーズの製品である。

本172E型は、1999年に発売された銀塩時代では最終の
バージョンであり、この後継機の272E型(2004年)からは、
「Di」(デジタル)対応として、後玉のコーティングを
改良している。

なお、前機種72E(1996年)との差異は、(PENTAX版では)
外観のほんの僅かな差だけなので、ほとんど同じものと
見なして良い。
c0032138_17570797.jpg
「TAMRON90マクロ」の元祖は、銀塩時代に「ポートレート
マクロ」と呼ばれて賞賛された SP 90mm/f2.5 (52B)
(1979年)である。(ハイコスパ第15回記事等)

TAMRONは1960年代位から様々な写真用交換レンズを
発売していたが、この52B型が発売された1979年には、
「アダプトールⅡ」式交換マウントを採用し、MODEL名も
整理、そして、一部のレンズに初めて「SP」の名称を与えた。

この1979年に、TAMRONに何らかの転機があったのかも
知れないが、その詳細はわからない。(米国に現地法人を
作ったとか、経営体制が変わったとか、そんな感じか?)

だが、1979年だけで「SP」銘のレンズは、90マクロを含め
5本も発売され、中には500mmミラーとか17mm超広角とか
もある。これらもSP銘ではあるが、いずれも私は所有して
いるものの、特に写りがスペシャル(SP)だとは思えない。
まあ、500mmや17mmはスペックが特殊なので、SPとなった
のかもしれないが、後年の感覚で、高描写力を期待すると
ちょっとあてが外れる印象だ。

また、1980年代前半を通じて、さらに大量のSP銘レンズが
発売されたので、もうなんだか「SPの大安売り」という
感じだった事も否定できない。

しかし、その後の2000年代からのデジタル時代、特に、
2010年代については、TAMRONでSP銘の付与されている
レンズは、確かに、文句のつけようが無い高描写力と
なっているので、安心してSPレンズを購入できるとともに、
「SP」のブランド価値も、明確に存在するようになった。

例えば、2017年発売の超望遠ズーム100-400mm/f4.5-6.3
(Model A035)は、とても良く写るレンズであるが、
これにはSP銘がついていない。個人的には、このレンズでも
十分な描写性能なのに、これでもTAMRONは妥協できないので
あれば、「SP」銘は、かなり厳しい条件をクリアしないと
与えられない称号になってきているのだろう。
(だからまあ、メーカー側が提唱する、SPやらLやらGMやら
PROやらの呼称は、ユーザー側では気にする必要は無い。
性能や描写力を評価するのは、あくまでユーザー側であり
メーカーや評論家から、高性能である(「だから高価だ」、
又は「良いものだから買え」)と、押し付けられる要素は
何も無い)
c0032138_17570663.jpg
さて、本SP90/2.8は、この172E型以降も、順次後継機が
発売されている。
F2.8版の72系Modelであれば、どの時代のレンズを買っても
基本的なレンズ構成は同じなので、描写力には大差は無いと
思うが、後年の機種(F004以降)では、レンズ構成が若干
変わり、かつ手ブレ補正や超音波モーターが内蔵されている。
(故に高価だ=高付加価値型商品)

まあ、予算に応じて、Modelを選択する必要はあるが、
マニアあるいは中級者以上であれば、いずれかの時代の
「90マクロ」は必携である、この非常に著名かつ、必要性
の高いレンズを持っていないマニアなんて居ないと思うし、
「SP」を語る上で、このシリーズのマクロを無視する事は
有り得ない話だ。

----
では、3本目のSPレンズ
c0032138_17571625.jpg
レンズは、TAMRON SP 45mm/f1.8 Di VC USD(Model F013)
(中古購入価格 36,000円)(以下、SP45/1.8)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

2015年に発売された、高描写力単焦点標準レンズ。
冒頭のSP35/1.8(F012)の兄弟レンズであり、同時発売だ。

こちらもフルサイズ対応品である。
APS-C機に装着しているのは、まあ、あまり深い意味は無く
フルサイズ機の母艦を、そんなに沢山持っていないからだ。
c0032138_17571634.jpg
最短撮影距離29cmは、マクロを除き、標準レンズでは
最強クラスである。これに類するものは(APS-C専用だが)
SONY DT50/1.8(SAL50F18)が最短34cmと、かなり優れるが、
それすらも軽々と上回る。
(追記:2019年発売の、SIGMA 45mm/f2.8 DG DN |
Contemporaryは、最短24cmと、本レンズを上回る)
後、手ブレ補正内蔵も、恐らくは標準レンズ史上初であろう。

だが、これもSP35/1.8と同様に不人気なレンズだ。
何故不人気であるかは、「初級中級者層が、開放F1.8は
開放F1.4に比べて、低性能なレンズだと誤解するからだ」
と前述したが、では、ここでは、不人気になった事による
状況や影響について述べよう。

本レンズの定価は、SP35/1.8同様に9万円と高価だ。
「量販店」等では、発売当初は高額であるが、商品が
あまり売れないと見ると、急激に価格を値下げする。

その際、噂によると、量販店が下げた分の差額は
メーカー側が負担する模様だ。つまり、量販店側に
価格決定の主導権があるという事だろう。
なお、本レンズには一応定価が存在するが、現代では、
多くの他の商品は「オープン価格」となっているので、
さらに販売店側の価格主導権が強いと思う。

さて仮に、本レンズを発売初期に、ある程度高価に購入
したユーザー層が、なんらかの事情で、これを売却した
とする。その個体は中古扱いになるが、レンズ・サード
パーティの商品の中古相場は、特別な人気商品を除いて、
とりあえず定価の半額くらいと決められる。
つまり、本レンズの初期中古相場は、約45,000円前後だ。

で、その後、商品の販売計画よりも、実売数が少ない場合
(つまり、人気が無い場合)は、メーカーも流通も在庫品を
持て余す状況となる。
「量販店」では、そうした場合、価格を下げて在庫品を
捌いていこうとする。本レンズの場合は、発売後2~3年
程で、その新品販売価格は、前述の初期中古相場と同様の
定価のほぼ半額位まで下がった。

そうなると中古流通にある商品の相場も下げなくては
ならない、量販店で新品で購入するのと大差なければ
中古品は売れないからだ・・

ユーザーから見たら、このタイミングが買い頃だ。
つまり、本レンズの市場原理からの適正相場は3万円台
後半という事になるが、実際には「価値感覚」(つまり
コスパ感覚)からの適正相場を意識しなればならない。
これは、「F1.8級の小口径標準レンズを、3万円台後半
も出して買う意味があるのか?」という点だ。

だがまあ、本レンズは「非常に高いと予想される描写力」
「群を抜く最短撮影距離」「手ブレ補正と超音波モーター」
という、スペック的な特徴を鑑みれば、もうこれは購入に
値する、というコスパ感覚で正解であろう。

ちなみに中古4万円前後の価格の標準レンズ、といえば、
「smc PENTAX-FA 43mm/f1.9 Limited」とか、
「smc PENTAX-DA ★55mm/f1.4 SDM」(APS-C機専用)
「COSINA PLANAR T* 50mm/f1.4」(MFレンズ)
等が他に存在する。

これらが価格面での「ライバルレンズ」であると同時に
「価値感覚」(コスパ感覚)を比べる為の指標となる。

で、これら同価格帯の他のライバルレンズも大変良く写る。
(と言うか、全て「名玉」である。過去のレンズ系記事で
各々紹介済み。注:コシナPlanarはCONTAX版と中身は同じ)
c0032138_17571673.jpg
本レンズは、開放F1.8という事で、カタログスペック的な
弱点を持つが、描写力そのものは、上記名玉群に比べても
勝るとも劣らない。そして、最短撮影距離の短さは
他の追従を許さず、AFはもとより、手ブレ補正と超音波
モーターを搭載する「現代的フルスペック標準レンズ」だ。

いったい本レンズの何処が不満で、何故不人気なのだろう?
もし「最強の標準レンズ」を決める決定戦をやるとすれば
間違いなく決勝進出し、BEST5に確実に入る標準レンズだ。
(いつか、その手の記事を書いてみよう・・)

以下、単焦点標準レンズの歴史の余談だが、

銀塩時代、1970年代末には標準レンズの性能はF1.4版も
F1.8(F1.7)版も、ほぼ完成の域にまで到達していた。
(変形ダブルガウス型の構成により、完成度が高まった)

続く1980年代に、一眼レフのAF化と単焦点からズームへの
変革期を迎えると、開発リソース(資源)が足りなかった
からか?あるいは旧来のMF標準レンズの完成度が高かった
からか?各社AF標準レンズは、殆どがMF時代のレンズ構成
をそのまま踏襲していた(=AF化しただけ)

1990年代はユーザーニーズの激変期であり、ここでも各社は
新規標準レンズを作る余裕も無く、その市場ニーズも無い。
(ズームレンズが発展し、主力となりつつある時代だ)

2000年代に入ると、デジタル化の荒波が押し寄せ、ここでも
各社は新型標準レンズを開発する余裕が全く無い。

2010年頃には、各社「エントリー標準レンズ」という企画
コンセプトで、ミラーレス機やスマホの台頭に対抗するが
その戦略では「高性能化」よりも「低価格化」が優先された。

2010年代後半になって、やっと各社より「高付加価値型」の
新世代標準レンズが数十年ぶりに発売された状況なのだ。

本SP45/1.8は、1960年代からの長いTAMRONの歴史において
殆ど初めての「標準レンズ」の発売である、これまでの
1960年代~2010年代前半では、他社の、原価がこなれていて
ローコストで完成度が高く、メーカー純正でブランド力を
持つMF/AF標準レンズと勝負しても意味が無い、と思って
いた事であろう。

やっと現代になって、新世代の標準レンズのコンセプトが
生まれ、それが今後将来の「スタンダード」に変わる
直前の状況な訳だ。

その結果、価格が極めて高くなってしまった事は大問題
ではあるが、メーカーが市場(ビジネス)を維持する為には、
値上げは、やむを得ないとも言える。

もう3年かそこら経過したら、各社の新世代の高性能標準
レンズの定価が軒並み20万円もしても、もう誰も驚かなく
なっているか知れない(事実、既にそうなりつつある)

まあ、(標準)レンズの高性能化は、コンピューター
光学設計手法の普及もある。ただ、必ずしもそれが良い
事ばかりとは限らない(=高い性能レベルの計算結果を
要望するならば、必然的に”三重苦レンズ”が出来あがる)
この話は深堀りするとキリが無い為、一部は後述するが
詳しくは、また別の記事に譲ろう。

----
では、次のシステム
c0032138_17573111.jpg
レンズは、SP AF60mm/f2 Di Ⅱ LD [IF] MACRO 1:1
(Model G005) (中古購入価格 20,000円)
(以下、SP60/2)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)

2009年に発売された、APS-C機専用、中望遠画角
大口径AF等倍マクロレンズ。

本レンズの後、2010年代後半には、デジタル機市場は、
フルサイズ機が主流となった為、本レンズは現行製品
ながらも、製品寿命的には自然終了している状況だ。

ただ、写真撮影上では「フルサイズ機でなくてはならない」
という理由は全く無い。初級中級層がフルサイズ機ばかりに
価値を見い出すから、APS-C機専用で、かつ手ブレ補正も
超音波モーターも無い本レンズが、不人気となる理由も
わからないでは無いが・・

ても、現実はその真逆だ。
本レンズSP60/2の描写力は一級品であり、解像力や、ボケ質
(およびその破綻状況)や、逆光耐性など、どこをとっても
何も不満は無い。
c0032138_17573189.jpg
まあつまりは、2000年代のAPS-C機が主流の時代における
90マクロの代替、として企画開発されたレンズなのだろう。
(すなわち、APS-C機装着時の画角が90mm程度になる)
銘マクロの代替(APS-C版)なのだから性能が悪い筈が無い、
もしイマイチの写りだったら、90マクロの評判にも傷が付くし、
「高描写力マクロのタムロン」というブランドイメージをも
低下させてしまう。(勿論メーカーとしては愚策となる)

おまけに、マクロレンズとしては希少な開放F2の大口径で
かつ、これまでF2級マクロで等倍仕様であった製品は、
恐らくは皆無であったと思われ、本レンズの性能面からの
優位点は多く、歴史的価値もとても高い。

「APS-C機専用」や「超音波モーターが無い」という点は、
先のSP35/1.8等での「大口径F1.4では無い」という事と同様に、
ビギナー層以外においては、気にする必要も無い事であり、
当然ながら欠点では無い。

でも、そういう点を誤解したり、スペックだけを気にする
人(=ビギナー層)のみが、現代においては主力ユーザー
(お金を使って新製品を買ってくれる人達)なのだろう。
結果的に本レンズは不人気で、中古市場では2万円以下の
格安相場だ。

これは、カタログスペックに惑わされないビギナー層以外
の人達から見れば、逆に「極めてコスパの良いレンズ」と
見なされる事は間違いない。
c0032138_17573139.jpg
弱点だが、MF時のピントリングの操作性がやや悪い事、
少し固目の描写の為に被写体を選ぶ事、等だが、いずれも
中級者以上の人達には「言わずもがな」のレベルであろう。
勿論、これらは重欠点では無い。

なお、本レンズはSONY機用なので、勿論手ブレ補正は無い。
SONY機やPENTAX機にはボディ内手ブレ補正があるからだ。
よって、サードパーティ製の旧レンズ購入時は、それらの
マウントを選択するのも良い。ただし、2010年代中頃からの
サードパーティ製のレンズは、SONYα (A)版や、PENTAX KAF
版が発売されないケースも多く、困ったものである。
(ただし、残ったそれらのマウントの中古レンズは、
近年、急速に中古相場が下落している。メーカーのみならず
中古流通でも、それらのマウントの縮退を意識しているの
であろう。安価になっていれば買い頃とも言える)

----
では、今回ラストのシステム
c0032138_17574058.jpg
レンズは、TAMRON SP 85mm/f1.8 Di VC USD(Model F016)
(中古購入価格 70,000円)(以下、SP85/1.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

2016年に発売された、高描写力単焦点AF中望遠レンズ。
SP35/1.8(F012)やSP45/1.8(F013)より、半年ほど遅く
発売されているが、同一のシリーズ商品である。

これも勿論フルサイズ対応。
85mmは人物撮影に適した焦点距離であるという通説がある。
まあ、必ずしもそうだとは言い切れないが、あまり換算の
焦点距離を長くしない為にも、今回の母艦はフルサイズ機を
使用する。
c0032138_17574043.jpg
さて、極めて高い描写力を持つ中望遠レンズである。
個人的な購入目的としては、銀塩時代の超名玉の
「smc PENTAX-FA 77mm/f1.8 Limited」の代替用途だ。

「ナナナナ」は屋外・屋内・ステージ等での人物撮影の
どのシーンでも、最良の描写力と、抜群の歩留まりの良さ
(ボケ質破綻の発生が無く、逆光耐性が高く、ピントを
外す場合が少なく、成功率が高い為、安心して使える)
を誇ったレンズで、長年の実用(業務・依頼)撮影で
極めて重宝した。

だが、さすがの「ナナナナ」も発売から15年を過ぎると、
現代レンズに比較して、解像感等の点で見劣りが出てくる。
そこで「本レンズSP85/1.8が、が後継になるのでは?」
と踏んだ次第だ。

長所は、事前の予想通りの素晴らしい描写力であり、
何も文句のつけようがない。「ナナナナ」の代用に十分に
なりうる、まあこの時点で、すでに「名玉」であろう。

「F1.4では無い」という点は、色々書いてきたように全く
問題は無い、・・と言うか、85mm/f1.4級のレンズは
10本程所有しているが、むしろ、どれも「歩留まり」が
かなり悪くて、実用撮影には使用できなかったのだ。
F1.8級中望遠の方が実用上で使えるシーンが遥かに多い。

ピクセルピッチが7.2μmと大きいNIKON Dfで使用する際は
高解像力は、あまり差意が出ないと思うが、より高画素で
ローパスレスの機種で使う場合は、本レンズの解像力が
より際立つであろう。
c0032138_17574091.jpg
本SP85/1.8の最大の弱点は、大きく重く高価な「三重苦」
レンズである事だ、
もっとも、価格については「ナナナナ」と同レベルなので
あまり不満は無いのだが、大きく重いのは、ちょっと困る。
まあ、描写力を優先した設計の為に、F1.8級ながら異常な
までの大きいサイズ感となったのだろうが、やや過剰だ。

それから、ニコンFマウント用で「電磁絞り」を採用して
いる事。これではニコン旧機種や他社機で使用不能のため、
汎用性を失っている。他社よりも操作系のビハインド(遅れ)
があるニコン機でしか、本レンズが使えない点は不満だ。
(注:EOSマウント版を選んでも、他社機に装着しずらい。
まあでも、いずれEF版も予備レンズとして買うべきか?)

なお、海外だったか?どこかのレビューで「焦点移動」が
出る事を弱点としてあげていたが、それは的外れな評価だ。
本レンズの用途上、絞って使う事は有り得ない。
F1.8~F4の間で使うのが基本であり、焦点移動は無視できる。
・・と言うか、設計の時点で焦点移動の発生は確実にわかる。
それでも、あえてそれを残したのは、焦点移動の補正よりも
優先すべき事項(例:解像力やボケ質)があったからであり、
どれかを優先すれば他が犠牲になる「トレードオフ」関係だ。

メーカー側は、ユーザー側の百倍も千倍も、色々と考えて
レンズを設計している訳だ。エンジニアが毎日毎日、何ヶ月
もの間、朝から晩まで頑張って開発しているから当然だ。
ユーザーが、買ったばかりのレンズを喜んで、2~3日撮って
レビューしている状況とはまるで違う時間の「重み」がある。

ユーザーの中級者等が、製品のわずかな弱点を見つけて、
「鬼の首を取ったかのように」騒ぎ立てる必要は、まるで
無いし、むしろ「長所が見えないのか?」と、格好悪い。
製品の細かい弱点がわかるだけのスキルを持っているならば、
それを回避して有益に使うのが上級ユーザーの責務であろう。
「弘法筆をえらばず」という故事があるが、このことわざの
真意は「道具にあれこれと文句をつけるな(使いこなせ)」
という意味だ。

レンズ設計において、全ての弱点を無くす事は不可能だし、
仮に諸収差を全て良好に補正しても三重苦レンズとなるし、
収差が無い事は、高描写力である事とはイコールでは無い。

例えば、前述の名玉FA77/1.8も、手動に近い設計手法で
諸収差をあえて残しながらも、実用上に極めて優れた
「バランス点」を意図して設計されている。

現代では、もうほぼ全てがコンピューター設計になって
しまった為、このような「職人芸的」な設計技法による
レンズ設計は、もう誰もできなくなってしまったのだろう。
・・であれば、あとは、どの収差を優先的に補正するかは、
もう設計者(企画者)の「センス」に依存する。

現代の設計ソフトでは、設計したレンズの評価値(メリット関数)
が表示されるが、ただ単に、その数値を高めようとするだけでは、
バランスの良いレンズ設計には成り得ない、やはり設計者の
センス(バランス感覚)やノウハウが、とても重要なのだ。

だが、「高付加価値化」した利益率の高い製品を作らないと
レンズ市場が維持できない、というメーカー側での大命題も
ある為、ともかく全ての収差を無くす事を目指し、結果的に
十数群十数枚と言う単焦点レンズが出来て、大きく重くなる
のは止むを得ず、また、それにより高価になる事は、むしろ
狙い通り、とメーカー側は考えてしまうだろう。

その事実を、どう判断・評価するかは、ユーザー次第だ、
値段に見合う価値があると思えば購入すれば良いし、
高価すぎる!と思えば、見送るか、または、中古を待って、
自分が希望する価格帯まで値段が下がった頃に買えば良い。
c0032138_17574048.jpg
中古相場は、一般的に時間が経たないと下がってこないが、
ビギナー層が「カタログスペックだけを気にする」といった
不当な理由により、不人気となって、早めに相場が下がる
事も、前述のように多々ありうる。
特に、SP35mm,45mm,85mmは、不当な不人気の商品で
あるから、早々に価格が下がっていて、コスパがとても良い。

中級層以上のユーザーであれば、一応、それらに代替できる
類似スペックの旧レンズを持っているとは思うが、
これらSP単焦点は、旧製品とは次元の違う高描写力を持つ。
しかるべきタイミングで入手しておくのが良いであろう。
特に本SP85/1.8は、私の購入時点よりも、近年ではさらに
中古相場の下落が大きいので、推奨しやすいレンズだ。

----
さて、今回の記事「TAMRON SPレンズ特集」は、
このあたり迄。他にも紹介したいSPレンズが何本もあった
のだが、記事が冗長になる為、やむなく他記事に廻そう。
では、次回記事に続く・・


Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>