本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、ソフト(軟焦点)レンズを4本紹介しよう。
(注:「ソフトフォーカス・レンズ」とも呼ばれる)
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なお、現代の初級中級層では「ソフトレンズ」なるものを
見た事も聞いた事も無い人も、かなり多いかも知れない。
「なにそれ? コンタクトレンズの一種?」と言われてしまう。
まあ、それもその筈、現代(現行)の各メーカーの一眼レフや
ミラーレス機用の純正レンズでは、ソフトレンズは存在せず、
サードパーティから、ほんの数機種が発売されているだけだ。
過去の銀塩時代から通算しても、私が知る限りでは、10数機種
位しか発売されていない珍しいレンズであるからだ。
だが勿論、レンズのガラス素材が柔らかい(ソフト)な
訳では無く、写真の写りがソフト(軟調)なだけである。
ただまあ、ソフトレンズやピンホールの写りは「ボケボケ」
となる。ブログ記事にしたり、写真教室等で発表会を行う際、
これらのレンズの写真が続くと「なんだか眠たくなる」という
状況となる(汗)ので、本来、あまり特集したく無い(笑)
それと、本シリーズ記事は、基本的には上級マニア層以上
向けである、解説もそのレベルを対象とするので、初級中級層
では理解不能な所も多いかも知れないが、了承あれ。
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まず最初のシステム
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レンズは、MINOLTA AF SOFT FOCUS 100mm/f2.8
(中古購入価格 35,000円)(以下AF100/2.8SOFT)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)
現代となっては、殆ど情報すらも残っていない、ある意味
「幻のレンズ」である。ミノルタのN型と同様のピントリング
構造であるので、恐らくは1990年代の製品だろう。
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ソフトレンズとしては希少なAF対応品であり、私の知る限り
AFのソフトレンズは非常に少なく、著名なものは本レンズと、
もう1本、CANON EF135mm/f2.8 ソフトフォーカス(1987年)
がある。そして、PENTAX-FA SOFT 85/2.8や、その旧型の
F SOFT85/2.8もAF対応だったかも知れないが、両者、かなり
レアなレンズであり、中古市場で数回のみ見かけたが、
実際に手にした事は無く、その仕様は良くわからない。
CANON EF135/2.8 SOFTも、1990年代に所有していたのだが、
あまり用途が無く、知人の結婚式撮影等で何度か使った後
2000年代に譲渡してしまって、現在は未所有だ。
で、MINOLTAとCANONのAFソフトは、絞り値制御とは独立した
ソフト量制御機構を持っている事が特徴である。
これら以外の各種ソフトレンズは、(恐らくは)ほぼ全てが
ソフト量の調整は絞り環と共用である。すなわち絞りを
開けるとソフト量が増え、絞り込むと通常の写りとなる。
本AF100/2.8SOFTでは、ソフト量を絞りと独立して可変
できるのだが、それを調整するとレンズの全長が変化する。
まあ一種の「フローティング構造」なのだろうが、実際に
中でレンズ構成が、どのように動いて、どのような動作原理と
なっているか?等は、現代となっては情報が全く残っておらず
不明だ。
ミノルタは2003年にコニカと合併し、KONICA MINOLTAとなり、
その後2006年にはカメラ事業(α)をSONYに譲渡している。
旧製品の情報等は、なかなかもう見つける事が出来ない訳だ。
そして、本レンズそのものも、かなりのレア品だ。中古では
殆ど見かけず、あったとしても高額なプレミアム価格となって
コスパが悪い。まあ、ただでさえレアな物を、あまり褒めたり
すると、お金を出しても欲しがる好事家や投機層が出てきて、
さらに中古相場が不当に上がってしまうリスクすらある。
そういう風に「珍しいモノ」ばかりを欲しがるのは、真の
マニアとは言えず、本ブログでは「好事家」と呼んでいる。
マニアとは、本来は「モノの価値が分かる人」を指すべき
言葉であろう。
本レンズの(1990年代での)購入価格35,000円ですら、
個人的には、あまり納得がいく価格ではなく、高価すぎる。
私は「実質的なソフトレンズの価値は2万円以下である」
という認識だ。それはこの記事の後で紹介する各種ソフトレンズ
の新品・中古入手価格を見てもらえれば分かる事であろう。
まあ、本レンズに限らず「プレミアム価格」という事態が納得が
行かない事だ。何故コスパが悪いレンズを欲しがるのだろうか?
そして「珍しい」という事と、「価値が高い」という事は、
決してイコールでは無い。
「希少であるから高くなる」と、そういう経済原理なのではなく、
「高くても売れる」から高い値段なのだ。
「希少なモノは価値が高い」と勘違いをして、高価すぎる商品
を買ってしまうユーザー側にも、大きな責任があると思う。
それをする事が「マニア」だと思っているならば、大きな誤解だ。
真のマニアならば、不当な価格と判断するモノは絶対買わない。![c0032138_16550966.jpg]()
さて、本レンズAF100/2.8 SOFTであるが、発売本数の希少性
よりも重要な点は「AFのソフトレンズである」事の希少性だ。
実際にソフトレンズを使ってみれば簡単にわかるとは思うが、
MFでは、まずピントを合わせる事ができない。
一眼レフでの光学スクリーンではピントの山がわからない
事は勿論、例えばミラーレス機でのピーキングも効かず、
画面拡大をしても依然ピントが良くわからない。
(注:自作(独自開発)の超高精度ピーキング・アルゴリズム
では、ソフトレンズでもピーキングが効く。ただしそれは
PC用であり、後計算であり計算量がとても多いので、カメラ
への搭載は、まず困難だ→後日特集記事で紹介予定)
一般的なソフトレンズで、MFで正確にピントを合わせようと
する場合は、撮影前に一旦絞り込んで「球面収差」を減らし、
その状態では、スクリーンでもピーキングでもピントがわかる
ので、そこから再度絞りを開け、必要なソフト量を調整してから
シャッターを切る必要がある。
これは、非常に面倒な操作性である事に加え、たとえば絞り
込むと被写界深度も増え、構図全体の多くの距離にピントが合う、
これはミラーレス機でピーキング機能を使うと顕著にわかる。
この場合は、どこにでもピントが合ってるので一見安心する。
しかし、この状態から、また絞りを開けると、被写界深度が
浅くなる為、自分が意識した主要な被写体の距離(=MFでの
仮想的な測距点)でピントが合っている保証が無くなる。
これでは不安な為、下手をすれば、もう1度絞り込んでから、
画面拡大を行い、自分が狙った構図内の被写体部分に、本当に
ピントが合っていたかどうかを再確認しなければならないが、
これでも、また絞りを開けるとピント位置の保証が無く、
訳がわからない無意味な操作を繰り返してしまう事になる。
まあ、ソフトレンズの撮影に慣れれば、再確認までの無駄な
操作は不要だとは思うが、それにしても、面倒だし不安だ。
対して、本レンズのようなAFソフトレンズでは、一応だが
通常のAFレンズ同様に、測距点を選択し、そこでAFでピントを
合わせる事ができる。
これは原理を考慮すると、AF精度がとても不安であるのだが、
一応は、これでピントが合っている模様だ。
なお、このAF処理では、特に、自動的に絞り込んだりする等は、
行われていないので、本当にAF精度が出ているのか懐疑的だ。
だがまあ、例えば、とても古いミノルタ銀塩AF初期の機体
(例:α-7000 1985年)等ではなく、後期ミノルタAF機
(例:α-9 1998年)等の水準では安心して使えるだろうし
勿論、現代のSONY製αデジタル一眼レフにおいても、
AF精度は高いので問題なく利用できる。
(注:ピーキングが出ない状態では、ミラーレス機の
コントラストAFは、原理上では合焦精度が出ない)
ちなみに、後期ミノルタの銀塩AF一眼レフ(2000年前後)は、
同時代の他社銀塩AF一眼レフよりも、AF精度が高かったのが
特徴であった。この事は、さすがに世界初の実用AF一眼レフ
α-7000を作ったメーカーである。AF処理アルゴリズム等の
目に見えずに、カタログスペックにも現れない部分に、
長年の技術改良とノウハウの蓄積があったのだろう。
その、ミノルタ(又はコニカミノルタ)時代のAFノウハウが
SONYに(2006年に)引き継がれたかどうかは、さだかでは無い。
しかし、普通は、こういう場合には開発資料一式等は後継の
企業に移管される筈だ、多分、こうしたノウハウもまた現代の
SONY製一眼レフ(やミラーレス機)に生かされているのだろう。
本レンズAF100/2.8SOFTの総括であるが、AFの利用可という
点で、ソフトレンズとしての使用利便性が抜群に良い。
また絵作りにおいても、絞り値とソフト量を独立制御できる
点が技術的に興味深く、この実際の用途はさだかでは無いが
テクニカル的に色々と探求(研究)できる点で、マニア的な
エンジョイ度は高まるであろう。
なお、ソフト非使用(ソフト量=0)の際の画質の高さを
好評価されるケースも良くある本レンズではあるが・・
そういう用法で使うならば、より高描写力な100mmレンズは、
世の中にいくらでも存在する。だから本レンズは、あくまで
ソフトを掛けて使う事が、機材の特徴を活かした本筋である。
(参考:私のデータベースによる本レンズの「描写表現力」の
評価得点は、5点満点で3.5点。これでも他のソフトレンズより
高得点だが、100mmレンズで4点や5点の評価の物は沢山ある。
例:SONY FE 100mm/f2.8 STF=評価点5点満点)
まあ、100mm単焦点は、銀塩MF時代から現代に至るまで、
高性能なレンズがとても多いカテゴリーだ、そういう状況を
知らずして、本レンズの(ソフト無しの)描写力を、他の
一般的ズームレンズ等と比較して評価してはならない。
![c0032138_16550982.jpg]()
弱点としては、希少レンズ故に「投機対象」となっている
模様であり、中古相場がプレミアム化して高価な事だ。
希少性を加味したとしても、実用的レベルからの適正相場は
AF利用可という事で1万円上乗せして、3万円迄であり、
それを超えてまで購入する価値は殆ど無い。
(参考:CANON EF135/2.8 Soft FocusはAFソフトレンズ
ながら1万円台の中古相場で購入可能だ)
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では、次のソフトレンズ
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レンズは、安原製作所 MOMO 100 28mm/f6.4 Soft
(新品購入価格 21,800円)(以下、MOMO100)
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-GF1 (μ4/3機)
2016年に発売された、とても希少な広角ソフトレンズである。
一眼レフ用のソフトレンズでは、焦点距離28mmというレベルに
まで広角なものは存在しない。
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何故ならば、本レンズのような単玉(1群2枚メニスカス)構成
ソフトレンズの場合、一眼レフ用にバックフォーカスを稼ぐ
「レトロフォーカス設計」とするには、それ用の追加レンズが
必要となる為、設計も大変だし、場合によっては目的とする
ソフト描写を得る事も困難になってしまう。
レンズの曲率を変えて広角化に挑戦した前例(例:清原光学
VK50R)もあった様子だが、それも限界がある模様だ。
無理やりに作ったら、かなり割高になってしまうだろう。
例えばだが「ソフト・ディスタゴン21mm 定価30万円」と
なったら、恐らくは誰も買わず、商品には成り得ない。
よって、フランジバックが20mm弱と短いミラーレス機用
でないと、焦点距離の短いソフトレンズは設計できない。
事実、本レンズMOMO 100ではミラーレス機用以外に一眼レフ
用のバージョンが存在するが、そちらは43mmの焦点距離だ。
すなわち、一眼レフのフランジバックが、だいたい45mm
前後である事が、この理由となる。
まあ、このあたりのニッチな発想は、かつて「安原一式」を
設計した、著名なアイデアマンである安原氏の作品だ、
「さすがに上手い所を突いてくるなあ」という感想である。
ちなみにMOMO 100のMOMOとは「百」という漢字の別読みだ、
これは、ヴェスト・ポケット・コダック(後述)の発売から
およそ100年を経過して作られた製品である事からの命名だ。
なお、他社製28mmソフトレンズであるが、KENKO TOKINAから
発売されていた 「LENSBABY TRIO28」が存在していたが
こちらは所有していない。このレンズは3種類の特殊効果を
切り替える事ができる、ユニークでお買い得な仕様であるが、
「お試し版」的コンセプトであるから、個々の効果の掛り具合の
調整が出来ない為、私は、この1本を買って済ませようとせず、
「シフト、ソフト、ツィスト」各々の特殊効果の専用レンズを
個別に購入した次第である。
![c0032138_16552296.jpg]()
さて、本MOMO 100は希少な広角ソフトレンズではあるが、
μ4/3機であるDMC-GF1に装着時には、残念ながら56mm相当と、
標準画角となってしまう。
で、μ4/3機用で購入したのは、本来であれば、これを別の
アダプターを利用して、SONY Eマウントでも使用できるだろう
と目論んだからだ。EマウントであればAPS-C撮影で42mm相当
の準標準画角で利用できる。
なお、本MOMO 100の構造上、イメージサークルが大きいとは
思えない為、フルサイズEマウント機に装着時には、恐らくは
周辺がケラれてしまうだろう。でもまあ、ケラレの度合いを
デジタルズームで調整する事によって、周辺減光的な効果を
得て「ソフト・トイレンズ」として使う事も想定していた。
だが、残念ながら、本μ4/3用MOMO 100と、私が使用している
μ4/3→Eマウントのアダプターは、微妙な工作仕様の違いで
ハマらない。他にも、装着できない組み合わせが1件出ている
ので、マウントアダプターを買い換えようか?とも思っているが、
さほど大きな問題点ではないので、保留したままだ。
結局のところ現状では、μ4/3機で使うしか無い状態だが、
まあそれでも56mmの画角は、ソフトレンズとしては新鮮だ。
(旧来の銀塩時代からのソフトレンズは、上記の設計上の
理由により、85mm前後の望遠系の画角の製品が殆どで、
ごく稀に35~50mmの準標準画角の物が、恐らくは3機種のみ
存在していた程度だ。→つまり標準ソフトは極めてレアな為、
購入の機会がなく、未所有だ)
そして、MOMO 100は広角ソフトであり、かつ、開放F値も若干
暗めであるが故に、被写界深度が深く、ピント合わせが
他の望遠系ソフトレンズに比べて、かなり容易である。
ただ、それでも精密なピント合わせが困難な事には変わり無く、
私の場合、このMOMO 100の専用母艦として、ミラーレス機では
最初期の時代のDMC-GF1(2009年)を使用している次第だ。
この機体にはEVFは搭載されておらず、背面モニターの解像度も
46万ドット(480x320x3色)と貧弱であるが、どうせ
ピントの山がわかり難く正確性に欠けるソフトレンズである。
であれば、こうしたMF性能が低い機体を母艦にあてがう事で、
システム的な弱点を相殺し無効化できる、という発想となる。
すなわち、MFでのピント合わせが大変困難なソフトレンズを
μ4/3機で使った場合、電子ファインダー又はMF性能が、とても
優れた機体(例:276万ドットEVFのPANASONIC DMC-GX7や、
EVF倍率1.48倍のOLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ等)を使っても無意味
であり、そういう組み合わせは「システム的に勿体無い」
(システム効率が悪い)という判断になる訳だ。
これらのケースも、カメラ性能の方がレンズ性能よりも突出
する、一種の「オフサイド」であり、本ブログでは、そうした
オフサイド状態を戒める持論(ルール)がある。
![c0032138_16552179.jpg]()
さて、本MOMO 100の総評であるが、
現代では希少な現行製品ソフトレンズである。
前述のLENSBABY TRIO28がディスコン(生産終了)となって
いる模様なので、現行ソフトレンズは他には同LENSBABYの
Velvet 56とVelvet 85、そして、Lomography社製の
Daguerreotype(ダゲレオタイプ) 64mm/f2.9の
僅かに3本しか無いかも知れない。
他は聞いた事がなく、あったとしても、あまり一般的に
入手が容易なソフトレンズでは無いだろう。
だが、LENSBABY Velvetシリーズやダゲレオタイプは意外に
高価なレンズであり、新品で5~6万円もする。
中古も滅多に見る事がなく、個人的にも、これらは、所有の
機会に恵まれていない。
結局、現行ソフトレンズで最も安価に新品購入できるのが
実売2万円以下である本レンズ MOMO 100という事になる。
(注:私が購入後、新品相場が少し下がっている)
広角ソフトレンズであるので、他のソフトレンズ程、使用の
難易度が高いものでは無く、価格が手頃で入手性も高い。
実際のソフトレンズを見た事が無く、「試してみたい」という
初級マニア層等には最適のレンズであると思う。
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では、次のソフトレンズ
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レンズは、KENKO MC SOFT 85mm/f2.5
(中古購入価格 16,000円)(以下、KENKO 85mmSOFT)
カメラは、PENTAX K-30(APS-C機)
本レンズもまた、現在となっては、全く情報が残っていない
レンズだ。
恐らくは1980年代~1990年代位のMFソフトレンズであり、
確か同時代のKENKOには、この85mmの他、45mmと35mm
版が存在していたと、当時のカタログで見た記憶があるが、
そこも定かでは無い。
この85mm版は1990年代に中古購入した個体で、後年において、
稀に本レンズの中古を見かけると、1万円前後の相場となって
いたと思う。
![c0032138_16553040.jpg]()
レンズ構成は、ベス単方式の1群2枚ではなく、恐らくだが
3群3枚という構成だ。
例によって、絞り値の調整によりソフト量をコントロールする。
絞り環には開放F2.5からF4の間に中間絞りクリックが3個もある。
また、F4からF5.6の間にも中間絞りがあるが、最大でも
F8までしか絞れない。つまり、絞り値を細かく綿密に設定して
ソフト量をコントロールするタイプの設計コンセプトであり、
殆ど「ソフトフォーカス専用レンズ」だと思っておけば良い。
本レンズの逸話だが、1990年代の終わり頃に、いきつけの
写真屋さんの店長から、「ウチの店の主催で写真展をやるので、
1枚、作品を出してもらえないか?」という話があった。
そこで、本レンズを持ち出し、確かNIKON F4だったかに装着し、
大阪で公園の情景を撮影した。ソフト量が強いレンズであり、
遠距離だと誰が写っているの全くわからない位なので、肖像権に
あまり配慮する必要が無かったからだ。
写真展等では、ソフトレンズの作品は珍しいと思え、そこそこ
評判が良かったのだが・・ まあ今時の感覚からすれば盗撮に
近い状態であり(汗)あまり褒められた作品では無い。
なお、まったく人を撮ってはいけない、という事ではなく、
はっきり顔が写っていない状態とか後ろ姿とかでは、まあ
セーフであろうが、それが被写体の人格を貶めるような状態
ではいけない。つまりまあ、社会的な「モラル」や「倫理」
(コンプライアンス)の感覚が要求される。
まあでも、銀塩時代では、世の中一般的にも、肖像権に対する
配慮は皆無に近い状態であり、平気で見知らぬ他人を撮って
写真展やコンテストに出したりするアマチュア層が殆どであったし、
職業写真家層であっても、海外での人物撮影等では同様であった。
これらは現代であれば、世情的や「モラル的」にちょっとマズい
のであるが、まあ、銀塩時代からのシニアカメラマンだと、
今時であっても昔のままの感覚で、見知らぬ他人を平気で盗撮
するので、困ったものだ。あるいは若い頃はモラルもあったのが
近年よく話題となる「オレ様老人」のように、年齢や立場と
ともにマナーやモラルを持たなくなってしまうのだろうか?
(近年の京都では、舞妓さん(本物、変身)を外国人観光客等
が追い回して撮影をするので、大きな社会問題となっている。
また、京都下賀茂神社の「足付け神事」では、一般女性が
着物の裾を捲って浅い池を歩くので、それを狙う男性シニア層
のアマチュアカメラマンが沢山居る、モラル的には最低最悪
であるが、そんな事は知らん顔の輩(やから)ばかりだ)
銀塩時代では、作品の発表の場が写真展など限られた範囲なので、
単に被写体になった人に「知られずに済んだ」というだけであり、
確か、2000年代に、写真コンテストで被写体になった人から
「自分が写っている」とクレームが出て、その作品の入賞が
取り消しになったという事件があり、現代では肖像権の配慮が
うるさくなっていて、そういうコンテスト等でも「被写体からの
掲載許可が必須」という注意事項が記載されている筈だが、
特にシニア層では、気にしない人が依然多いという状況である。
なお、これの回避法は簡単だ、人物の顔などがはっきりと写った
写真では、被写体となる人と話をして掲載許可をもらえば良い。
そのコミュニケーションが取れない、と言うならば、もうその
時点で、人物撮影のジャンルを志向する事は極めて難しい。
お金を払って、モデル撮影会にでも行くしか無い状態だ。
![c0032138_16553069.jpg]()
さて、本レンズであるが、MFのソフトレンズとしては代表格と
言っても良いと思う。ソフト量とそのコントロール性は抜群で
あり、派手なソフト効果から上品で控え目なソフト効果まで
設定の自由度が極めて高い。
課題は例によって、ピント合わせが非常に困難な事だ。
まあでも、その点については、絞り環がレンズ前部の比較的
廻しやすい位置にあるので、都度、ピント合わせの為に
絞り込むという、とても面倒だが確実な撮影技法は存在する。
そういう意味では、ピーキング性能に優れたミラーレス機で
使う方が望ましいのだが、今回は捻くれてPENTAX K-30に
装着している。
その理由だが、K-30に備わる、ライブビューモードでの
ピーキング機能を試してみたかった訳だ。
一眼レフでこういう機能を搭載している機種は珍しい。
K-30で、ライブビュー時にピーキングONで、画面拡大機能と
組み合わせて、かつ、F4~F5.6程度に絞り込んでソフト
効果を減らすと、かろうじてピントの山がわかる。
けど、やはり面倒な撮影技法である事は間違い無い。
それと、このK-30の時代(2012年)前後のPENTAXでの
ミラーレス機を含めたピーキング精度はあまり高く無い。
(2011~2013年、PENTAX Q,K-30,K-01,Q7の各機種での評価)
![c0032138_16553063.jpg]()
本レンズKENKO 85mmSOFTは、現在では入手が困難なセミレア
品かも知れない、だが、他のソフトレンズよりは、中古市場で
見かけた回数も多く、「ソフトレンズが欲しい」というニーズ
が強い場合には、根気良く出物を待ってみるのも良いであろう。
ただ、これも中古相場としては1万円程度の価値でしか無いと
思うので、希少品プレミアム価格で、あまりに高価であれば
見送るのが賢明であると思う。
なお、本レンズは、「KENKO Tマウント」対応品である為、
Tマウントを別途入手可能なので、購入時のマウント違いは
あまり気にする必要は無いし、ミラーレス機で使用するなら
アダプターをチョイスするのは容易であろう。
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では、今回ラストのシステム
![c0032138_16553767.jpg]()
レンズは、清原光学 VK70R 70mm/f5
(新古品購入価格 14,000円)(以下、VK70R)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)
1986年発売のMFソフトレンズ。
翌年発売の、50mm版のVK50Rがあったと思う(未所有)
(さらには、645中判カメラ用も存在していた模様だ)
![c0032138_17130501.jpg]()
過去記事として、ミラーレス・マニアックス第5回、補足編
第4回、ハイコスパ第21回記事や、さらに古い特集記事でも
紹介しているが、簡単に本レンズの出自を再掲しておく。
株式会社清原光学は、戦後の1949年に創業した老舗の
光学機器メーカーである。
一般的なカメラユーザーに名前が知られていないのは、
同社は、レーザー干渉計やら、シリンドリカルレンズ、
トロイダルミラーといった、研究開発用の特殊光学部品
を設計・製造する専門的なメーカーだったからだ。
(注:近年に京都の企業の子会社となったと聞く)
同社が開発製造した民生向けの(35mm判)一眼レフ用の
交換レンズは、本VK70RとVK50Rの2本のみである。
聞く所によると、1980年代、カメラ誌での「ベス単フード外し」
の対談の内容を受け、同様な構成を現代に蘇らせる為の
特別プロジェクトとして、本レンズが開発された模様である。
発売されたレンズには、「KOPTIC」と記載があるが、
これは「コプテック」と読み、販売元である。まあ清原のKと、
光学のOPTICを組み合わせた販売子会社名であろうか。
「ベス単フード外し」に関しては、毎回の説明となって
しまうが、以下、簡単に。
約百年前のクラッシックカメラ「ヴェスト・ポケット・コダック」
(VPK)には、1群2枚(単玉、メニスカス)構成のレンズが搭載
されているが、これをフード状の固定絞り機構で約F11まで
絞り込んだ状態で撮影する。
(注:このカメラの事を、一般には「ヴェス単(ベス単)」と
呼ぶのだが、昭和初期の国内市場では、単玉レンズを搭載する
127判カメラの「総称」としての「ベス単」があった。
すなわち「ヴェスト」とはコダックのカメラ特有の製品名
ではなく、ヴェスト判(127判)フィルムの事を指すからだ。
よって「コダックのVPKとベス単はイコールでは無い」という
解釈もある。まあ厳密にはそうかも知れないが、いずれにしても
あくまで俗称なので、本記事ではその点には拘らない。)
さらに余談だが、「マイナス・ゼロ」という国産タイムトラベル
SF小説の隠れた傑作があるが、その作品内に(後年において)
昭和初期のカメラ市場の事を綿密に調査して記述した部分がある。
そこに「ベス単」の事が載っているか?と再度読み返してみたが、
残念ながら「ベス単」そのものの記載は無かったのだが、
広義の「ベス単」である「パーレット」(コニカ製)を
主人公が「25円」で購入するシーンが出てきている。
昭和初期の物価を現代に換算すると、これは8万円程度か?
なお、この主人公は「ベス単フード外し」は行っていない・笑
で、後年のマニアが、このVPKあるいは他機種の「ベス単」を
入手し、試験的にフード状の絞りを取り外して撮影してみた。
すると、絞り機構で抑えられていた「球面収差」が大量に
発生し、見事なソフトレンズとしての描写力が得られた!
(注:球面収差は口径比の3乗に比例して増加する。
よって、大口径レンズでは球面収差を抑える設計は難しい。
ビギナー層が勘違いするように、「F値が明るいレンズは
良く写るレンズだ」とは限らない訳だ)
これまでも述べてきたように、ソフトレンズという製品は
希少である。マニアはこぞって、クラッシックな「ベス単」
を入手し、「ベス単フード外し」の改造を行い、さらには
レンズ部を取り外して、他のカメラ用のマウントに改造し
一眼レフやレンジ機等で、その写りを楽しんでいた。
1970年前後の上級マニア層には、この「ベス単フード外し」
は極めて有名であったのだが・・・
実際にこれを行うとすると、まず古くて希少な「VPK」等を
入手するのが非常に困難だ、さらにはレンズを取り外して
マウント改造などを行わないと、まともには使えない。
だから、誰にでも行える措置ではなかった訳だ。
それだけ様々な面倒な事を試せるのは、本当に、ごくごく
一部の上級マニア層のみであるが故、一般マニア層等には
一種の過剰なまでの評判も流れてしまった。
すなわち、「ベス単フード外し」による「ソフト描写」は、
「非常に上品なソフト効果」とか「理想のソフトレンズ」等と、
好評価だけが一人歩きした状態になっていたとも思う。
(つまり、それだけ手間をかけたのだから、周囲の人達に
自慢したい訳である)
でも「それは本当なのか?」と、懐疑的ながらも興味を持つ
カメラマニアは極めて多いと思う。
なので、この清原光学のVKプロジェクト(VKとは、ヴェスト・
キヨハラと言う意味と聞く)では、「できるだけオリジナル
のベス単フード外しに近づける」という意図もあった模様で、
レンズ構成はもとより、その硝材(ガラス材質)までも、
VPKに極めて近い特性のものを揃えて復元しようとした。
このレンズは発売後、瞬間的にマニア層に人気が出て
1980年代後半当時の様々な、MF/AFマウント版が発売された
模様であるが、良く製品を見ると「交換マウント仕様」と
なっている。
ただ、この交換マウントがどんな規格で、現代でも入手が
可能かどうかは不明だ。いずれにしても、電子接点は無く
勿論、AFやら自動絞り方式AEは一切効かない。
(注:絞り優先、またはマニュアル露出での使用となる)
後年の中古市場で見る個体はニコンF版が多かった。
まあ、現代においては、マウントアダプターが流通している
ので、どんなマウント版であっても、様々なデジタル機で
利用するのは容易だ、
そして、本レンズVK70Rを欲しいと思って入手する人は
「ベス単フード外し」の事を知っている中上級マニア層だ、
よって、マウントの差異などは、どうにかできてしまう。
![c0032138_16553710.jpg]()
さて、出自の話が長くなったが、本レンズの描写力である。
これについては、絞り値の設定で、その描写特性は大きく
変化する。
絞りを開放(F5)近くまで開けると、派手なソフト効果が
出る、これを「素朴」だとか「雑」「大味」等とマイナス
評価されるケースもある模様だが、まあ、これはこれで
ソフトレンズの特徴が良く出ていると思う。
次いで、中間絞り(F7~F9)とすると、上品なソフト効果
が得られる。このあたりが、本VK70Rの真骨頂だろう。
ただし、本レンズが発売された1980年代後半の銀塩時代に
おいては、全ての一眼レフカメラにおいて、絞り込むと、
光学ファインダーが暗くなり、元々ソフトレンズでは難しい
ピント合わせがさらに困難となり、さらには低感度フィルム
ではシャッター速度が低下し、手ブレのリスクが発生する。
その為、銀塩時代では三脚を使用する人も居たかも知れない。
あるいは、もうF8あたりより下の絞りは、銀塩時代では
事実上「撮れない」状態であったかも知れない。
だが、現代では大丈夫だ、ミラーレス機や一部の一眼レフ
でのEVFあるいはライブビューモードでは、ファインダーが
暗くなる事はなく、ISO感度もいくらでも上げられる。
それに、本VK70Rのような単純構成のソフトレンズの場合、
明所の被写体において、ハイライト(輝度の高い部分)
の周囲に、ハロまたはフレア風の滲みが発生する為、
その滲みの出し方を楽しむのが、ソフトレンズにおける
1つの上級技法だ、逆に言えば、低コントラスト環境、
つまり日陰、曇天、屋内等では、そのハイライト部を作り
難いため、基本的に本VK70Rは屋外明所で使った方が面白い。
さて、本VK70Rを、さらにF11以上に絞り込むと、描写傾向
はガラリと変わり、輪郭線が非常に強くなる「パキッパキ」
の写りに変貌する。
これはHi-Fiの描写とは言い難く、欠点であるとも言えるが
この描写は、現代的な視点からは、とても興味深い為、
ミラーレスマニアックス補足編第4回とハイコスパ第21回
記事では、この「絞り込み技法」をメインに紹介した。
銀塩時代では、このような撮り方は機材環境(性能)的
に難しかったし、仮に偶然それを見つけても「写りが悪い
写真は、正当では無い」という価値観も当時はあった為、
VK70Rの、こういう用法は上級マニア層にも知られていない
かも知れない。
なお、VK70Rの絞り機構はレンズ前部にあり、廻し難い他、
調整をする際には、一々カメラの構えを解いて、レンズを
前部から覗く必要がある、面倒だが、まあやむを得ない。
それから、絞り値表示は、一応はF11までの記載であるが
それを超えて、かなり絞り込む事ができる。
あくまで目視での印象だが、恐らくはF27ないしF32程度
までは絞り込む事が可能であろう。
そういう条件で使う事は、絞り指標がF11止まりである事も
含め、開発時には全く想定していなかったとは思われるが、
現代においては、「機材についている機能は何でも使う」
という考えも当たり前ではあるし、Lo-Fi描写も歓迎だ。
![c0032138_17131146.jpg]()
本VKK70Rの弱点だが、特には無い。まあソフトレンズ故に
ピントが合わせにくい、とかは、もうやむを得ない。
それと、希少なレンズ故に現代における入手性が、かなり
低い事は問題点だ。しかし幸いな事に「投機対象」には
なっていない模様なので、プレミアム相場でも無いと思う。
まあ、1万円台で購入できるならば「買い」であろう。
が、「ベス単フード外し」を知りたい、というマニア層の
知的好奇心を除いては、どうしても本VK70RやVK50Rを
指名買いする必然性はあまり無く、他のソフトレンズでも
用途代替は出来るだろうし、あるいは前述のMOMO100も、
「ベス単フード外し」の設計思想であるので、現行製品
として購入が容易な、そちらを入手しても良いと思う。
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さて、今回の記事「ソフトレンズ特集」は、このあたり迄で、
次回記事に続く・・
紹介している。
今回の記事では、ソフト(軟焦点)レンズを4本紹介しよう。
(注:「ソフトフォーカス・レンズ」とも呼ばれる)

見た事も聞いた事も無い人も、かなり多いかも知れない。
「なにそれ? コンタクトレンズの一種?」と言われてしまう。
まあ、それもその筈、現代(現行)の各メーカーの一眼レフや
ミラーレス機用の純正レンズでは、ソフトレンズは存在せず、
サードパーティから、ほんの数機種が発売されているだけだ。
過去の銀塩時代から通算しても、私が知る限りでは、10数機種
位しか発売されていない珍しいレンズであるからだ。
だが勿論、レンズのガラス素材が柔らかい(ソフト)な
訳では無く、写真の写りがソフト(軟調)なだけである。
ただまあ、ソフトレンズやピンホールの写りは「ボケボケ」
となる。ブログ記事にしたり、写真教室等で発表会を行う際、
これらのレンズの写真が続くと「なんだか眠たくなる」という
状況となる(汗)ので、本来、あまり特集したく無い(笑)
それと、本シリーズ記事は、基本的には上級マニア層以上
向けである、解説もそのレベルを対象とするので、初級中級層
では理解不能な所も多いかも知れないが、了承あれ。
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まず最初のシステム

(中古購入価格 35,000円)(以下AF100/2.8SOFT)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)
現代となっては、殆ど情報すらも残っていない、ある意味
「幻のレンズ」である。ミノルタのN型と同様のピントリング
構造であるので、恐らくは1990年代の製品だろう。

AFのソフトレンズは非常に少なく、著名なものは本レンズと、
もう1本、CANON EF135mm/f2.8 ソフトフォーカス(1987年)
がある。そして、PENTAX-FA SOFT 85/2.8や、その旧型の
F SOFT85/2.8もAF対応だったかも知れないが、両者、かなり
レアなレンズであり、中古市場で数回のみ見かけたが、
実際に手にした事は無く、その仕様は良くわからない。
CANON EF135/2.8 SOFTも、1990年代に所有していたのだが、
あまり用途が無く、知人の結婚式撮影等で何度か使った後
2000年代に譲渡してしまって、現在は未所有だ。
で、MINOLTAとCANONのAFソフトは、絞り値制御とは独立した
ソフト量制御機構を持っている事が特徴である。
これら以外の各種ソフトレンズは、(恐らくは)ほぼ全てが
ソフト量の調整は絞り環と共用である。すなわち絞りを
開けるとソフト量が増え、絞り込むと通常の写りとなる。
本AF100/2.8SOFTでは、ソフト量を絞りと独立して可変
できるのだが、それを調整するとレンズの全長が変化する。
まあ一種の「フローティング構造」なのだろうが、実際に
中でレンズ構成が、どのように動いて、どのような動作原理と
なっているか?等は、現代となっては情報が全く残っておらず
不明だ。
ミノルタは2003年にコニカと合併し、KONICA MINOLTAとなり、
その後2006年にはカメラ事業(α)をSONYに譲渡している。
旧製品の情報等は、なかなかもう見つける事が出来ない訳だ。
そして、本レンズそのものも、かなりのレア品だ。中古では
殆ど見かけず、あったとしても高額なプレミアム価格となって
コスパが悪い。まあ、ただでさえレアな物を、あまり褒めたり
すると、お金を出しても欲しがる好事家や投機層が出てきて、
さらに中古相場が不当に上がってしまうリスクすらある。
そういう風に「珍しいモノ」ばかりを欲しがるのは、真の
マニアとは言えず、本ブログでは「好事家」と呼んでいる。
マニアとは、本来は「モノの価値が分かる人」を指すべき
言葉であろう。
本レンズの(1990年代での)購入価格35,000円ですら、
個人的には、あまり納得がいく価格ではなく、高価すぎる。
私は「実質的なソフトレンズの価値は2万円以下である」
という認識だ。それはこの記事の後で紹介する各種ソフトレンズ
の新品・中古入手価格を見てもらえれば分かる事であろう。
まあ、本レンズに限らず「プレミアム価格」という事態が納得が
行かない事だ。何故コスパが悪いレンズを欲しがるのだろうか?
そして「珍しい」という事と、「価値が高い」という事は、
決してイコールでは無い。
「希少であるから高くなる」と、そういう経済原理なのではなく、
「高くても売れる」から高い値段なのだ。
「希少なモノは価値が高い」と勘違いをして、高価すぎる商品
を買ってしまうユーザー側にも、大きな責任があると思う。
それをする事が「マニア」だと思っているならば、大きな誤解だ。
真のマニアならば、不当な価格と判断するモノは絶対買わない。

よりも重要な点は「AFのソフトレンズである」事の希少性だ。
実際にソフトレンズを使ってみれば簡単にわかるとは思うが、
MFでは、まずピントを合わせる事ができない。
一眼レフでの光学スクリーンではピントの山がわからない
事は勿論、例えばミラーレス機でのピーキングも効かず、
画面拡大をしても依然ピントが良くわからない。
(注:自作(独自開発)の超高精度ピーキング・アルゴリズム
では、ソフトレンズでもピーキングが効く。ただしそれは
PC用であり、後計算であり計算量がとても多いので、カメラ
への搭載は、まず困難だ→後日特集記事で紹介予定)
一般的なソフトレンズで、MFで正確にピントを合わせようと
する場合は、撮影前に一旦絞り込んで「球面収差」を減らし、
その状態では、スクリーンでもピーキングでもピントがわかる
ので、そこから再度絞りを開け、必要なソフト量を調整してから
シャッターを切る必要がある。
これは、非常に面倒な操作性である事に加え、たとえば絞り
込むと被写界深度も増え、構図全体の多くの距離にピントが合う、
これはミラーレス機でピーキング機能を使うと顕著にわかる。
この場合は、どこにでもピントが合ってるので一見安心する。
しかし、この状態から、また絞りを開けると、被写界深度が
浅くなる為、自分が意識した主要な被写体の距離(=MFでの
仮想的な測距点)でピントが合っている保証が無くなる。
これでは不安な為、下手をすれば、もう1度絞り込んでから、
画面拡大を行い、自分が狙った構図内の被写体部分に、本当に
ピントが合っていたかどうかを再確認しなければならないが、
これでも、また絞りを開けるとピント位置の保証が無く、
訳がわからない無意味な操作を繰り返してしまう事になる。
まあ、ソフトレンズの撮影に慣れれば、再確認までの無駄な
操作は不要だとは思うが、それにしても、面倒だし不安だ。
対して、本レンズのようなAFソフトレンズでは、一応だが
通常のAFレンズ同様に、測距点を選択し、そこでAFでピントを
合わせる事ができる。
これは原理を考慮すると、AF精度がとても不安であるのだが、
一応は、これでピントが合っている模様だ。
なお、このAF処理では、特に、自動的に絞り込んだりする等は、
行われていないので、本当にAF精度が出ているのか懐疑的だ。
だがまあ、例えば、とても古いミノルタ銀塩AF初期の機体
(例:α-7000 1985年)等ではなく、後期ミノルタAF機
(例:α-9 1998年)等の水準では安心して使えるだろうし
勿論、現代のSONY製αデジタル一眼レフにおいても、
AF精度は高いので問題なく利用できる。
(注:ピーキングが出ない状態では、ミラーレス機の
コントラストAFは、原理上では合焦精度が出ない)
ちなみに、後期ミノルタの銀塩AF一眼レフ(2000年前後)は、
同時代の他社銀塩AF一眼レフよりも、AF精度が高かったのが
特徴であった。この事は、さすがに世界初の実用AF一眼レフ
α-7000を作ったメーカーである。AF処理アルゴリズム等の
目に見えずに、カタログスペックにも現れない部分に、
長年の技術改良とノウハウの蓄積があったのだろう。
その、ミノルタ(又はコニカミノルタ)時代のAFノウハウが
SONYに(2006年に)引き継がれたかどうかは、さだかでは無い。
しかし、普通は、こういう場合には開発資料一式等は後継の
企業に移管される筈だ、多分、こうしたノウハウもまた現代の
SONY製一眼レフ(やミラーレス機)に生かされているのだろう。
本レンズAF100/2.8SOFTの総括であるが、AFの利用可という
点で、ソフトレンズとしての使用利便性が抜群に良い。
また絵作りにおいても、絞り値とソフト量を独立制御できる
点が技術的に興味深く、この実際の用途はさだかでは無いが
テクニカル的に色々と探求(研究)できる点で、マニア的な
エンジョイ度は高まるであろう。
なお、ソフト非使用(ソフト量=0)の際の画質の高さを
好評価されるケースも良くある本レンズではあるが・・
そういう用法で使うならば、より高描写力な100mmレンズは、
世の中にいくらでも存在する。だから本レンズは、あくまで
ソフトを掛けて使う事が、機材の特徴を活かした本筋である。
(参考:私のデータベースによる本レンズの「描写表現力」の
評価得点は、5点満点で3.5点。これでも他のソフトレンズより
高得点だが、100mmレンズで4点や5点の評価の物は沢山ある。
例:SONY FE 100mm/f2.8 STF=評価点5点満点)
まあ、100mm単焦点は、銀塩MF時代から現代に至るまで、
高性能なレンズがとても多いカテゴリーだ、そういう状況を
知らずして、本レンズの(ソフト無しの)描写力を、他の
一般的ズームレンズ等と比較して評価してはならない。

模様であり、中古相場がプレミアム化して高価な事だ。
希少性を加味したとしても、実用的レベルからの適正相場は
AF利用可という事で1万円上乗せして、3万円迄であり、
それを超えてまで購入する価値は殆ど無い。
(参考:CANON EF135/2.8 Soft FocusはAFソフトレンズ
ながら1万円台の中古相場で購入可能だ)
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では、次のソフトレンズ

(新品購入価格 21,800円)(以下、MOMO100)
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-GF1 (μ4/3機)
2016年に発売された、とても希少な広角ソフトレンズである。
一眼レフ用のソフトレンズでは、焦点距離28mmというレベルに
まで広角なものは存在しない。

ソフトレンズの場合、一眼レフ用にバックフォーカスを稼ぐ
「レトロフォーカス設計」とするには、それ用の追加レンズが
必要となる為、設計も大変だし、場合によっては目的とする
ソフト描写を得る事も困難になってしまう。
レンズの曲率を変えて広角化に挑戦した前例(例:清原光学
VK50R)もあった様子だが、それも限界がある模様だ。
無理やりに作ったら、かなり割高になってしまうだろう。
例えばだが「ソフト・ディスタゴン21mm 定価30万円」と
なったら、恐らくは誰も買わず、商品には成り得ない。
よって、フランジバックが20mm弱と短いミラーレス機用
でないと、焦点距離の短いソフトレンズは設計できない。
事実、本レンズMOMO 100ではミラーレス機用以外に一眼レフ
用のバージョンが存在するが、そちらは43mmの焦点距離だ。
すなわち、一眼レフのフランジバックが、だいたい45mm
前後である事が、この理由となる。
まあ、このあたりのニッチな発想は、かつて「安原一式」を
設計した、著名なアイデアマンである安原氏の作品だ、
「さすがに上手い所を突いてくるなあ」という感想である。
ちなみにMOMO 100のMOMOとは「百」という漢字の別読みだ、
これは、ヴェスト・ポケット・コダック(後述)の発売から
およそ100年を経過して作られた製品である事からの命名だ。
なお、他社製28mmソフトレンズであるが、KENKO TOKINAから
発売されていた 「LENSBABY TRIO28」が存在していたが
こちらは所有していない。このレンズは3種類の特殊効果を
切り替える事ができる、ユニークでお買い得な仕様であるが、
「お試し版」的コンセプトであるから、個々の効果の掛り具合の
調整が出来ない為、私は、この1本を買って済ませようとせず、
「シフト、ソフト、ツィスト」各々の特殊効果の専用レンズを
個別に購入した次第である。

μ4/3機であるDMC-GF1に装着時には、残念ながら56mm相当と、
標準画角となってしまう。
で、μ4/3機用で購入したのは、本来であれば、これを別の
アダプターを利用して、SONY Eマウントでも使用できるだろう
と目論んだからだ。EマウントであればAPS-C撮影で42mm相当
の準標準画角で利用できる。
なお、本MOMO 100の構造上、イメージサークルが大きいとは
思えない為、フルサイズEマウント機に装着時には、恐らくは
周辺がケラれてしまうだろう。でもまあ、ケラレの度合いを
デジタルズームで調整する事によって、周辺減光的な効果を
得て「ソフト・トイレンズ」として使う事も想定していた。
だが、残念ながら、本μ4/3用MOMO 100と、私が使用している
μ4/3→Eマウントのアダプターは、微妙な工作仕様の違いで
ハマらない。他にも、装着できない組み合わせが1件出ている
ので、マウントアダプターを買い換えようか?とも思っているが、
さほど大きな問題点ではないので、保留したままだ。
結局のところ現状では、μ4/3機で使うしか無い状態だが、
まあそれでも56mmの画角は、ソフトレンズとしては新鮮だ。
(旧来の銀塩時代からのソフトレンズは、上記の設計上の
理由により、85mm前後の望遠系の画角の製品が殆どで、
ごく稀に35~50mmの準標準画角の物が、恐らくは3機種のみ
存在していた程度だ。→つまり標準ソフトは極めてレアな為、
購入の機会がなく、未所有だ)
そして、MOMO 100は広角ソフトであり、かつ、開放F値も若干
暗めであるが故に、被写界深度が深く、ピント合わせが
他の望遠系ソフトレンズに比べて、かなり容易である。
ただ、それでも精密なピント合わせが困難な事には変わり無く、
私の場合、このMOMO 100の専用母艦として、ミラーレス機では
最初期の時代のDMC-GF1(2009年)を使用している次第だ。
この機体にはEVFは搭載されておらず、背面モニターの解像度も
46万ドット(480x320x3色)と貧弱であるが、どうせ
ピントの山がわかり難く正確性に欠けるソフトレンズである。
であれば、こうしたMF性能が低い機体を母艦にあてがう事で、
システム的な弱点を相殺し無効化できる、という発想となる。
すなわち、MFでのピント合わせが大変困難なソフトレンズを
μ4/3機で使った場合、電子ファインダー又はMF性能が、とても
優れた機体(例:276万ドットEVFのPANASONIC DMC-GX7や、
EVF倍率1.48倍のOLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ等)を使っても無意味
であり、そういう組み合わせは「システム的に勿体無い」
(システム効率が悪い)という判断になる訳だ。
これらのケースも、カメラ性能の方がレンズ性能よりも突出
する、一種の「オフサイド」であり、本ブログでは、そうした
オフサイド状態を戒める持論(ルール)がある。

現代では希少な現行製品ソフトレンズである。
前述のLENSBABY TRIO28がディスコン(生産終了)となって
いる模様なので、現行ソフトレンズは他には同LENSBABYの
Velvet 56とVelvet 85、そして、Lomography社製の
Daguerreotype(ダゲレオタイプ) 64mm/f2.9の
僅かに3本しか無いかも知れない。
他は聞いた事がなく、あったとしても、あまり一般的に
入手が容易なソフトレンズでは無いだろう。
だが、LENSBABY Velvetシリーズやダゲレオタイプは意外に
高価なレンズであり、新品で5~6万円もする。
中古も滅多に見る事がなく、個人的にも、これらは、所有の
機会に恵まれていない。
結局、現行ソフトレンズで最も安価に新品購入できるのが
実売2万円以下である本レンズ MOMO 100という事になる。
(注:私が購入後、新品相場が少し下がっている)
広角ソフトレンズであるので、他のソフトレンズ程、使用の
難易度が高いものでは無く、価格が手頃で入手性も高い。
実際のソフトレンズを見た事が無く、「試してみたい」という
初級マニア層等には最適のレンズであると思う。
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では、次のソフトレンズ

(中古購入価格 16,000円)(以下、KENKO 85mmSOFT)
カメラは、PENTAX K-30(APS-C機)
本レンズもまた、現在となっては、全く情報が残っていない
レンズだ。
恐らくは1980年代~1990年代位のMFソフトレンズであり、
確か同時代のKENKOには、この85mmの他、45mmと35mm
版が存在していたと、当時のカタログで見た記憶があるが、
そこも定かでは無い。
この85mm版は1990年代に中古購入した個体で、後年において、
稀に本レンズの中古を見かけると、1万円前後の相場となって
いたと思う。

3群3枚という構成だ。
例によって、絞り値の調整によりソフト量をコントロールする。
絞り環には開放F2.5からF4の間に中間絞りクリックが3個もある。
また、F4からF5.6の間にも中間絞りがあるが、最大でも
F8までしか絞れない。つまり、絞り値を細かく綿密に設定して
ソフト量をコントロールするタイプの設計コンセプトであり、
殆ど「ソフトフォーカス専用レンズ」だと思っておけば良い。
本レンズの逸話だが、1990年代の終わり頃に、いきつけの
写真屋さんの店長から、「ウチの店の主催で写真展をやるので、
1枚、作品を出してもらえないか?」という話があった。
そこで、本レンズを持ち出し、確かNIKON F4だったかに装着し、
大阪で公園の情景を撮影した。ソフト量が強いレンズであり、
遠距離だと誰が写っているの全くわからない位なので、肖像権に
あまり配慮する必要が無かったからだ。
写真展等では、ソフトレンズの作品は珍しいと思え、そこそこ
評判が良かったのだが・・ まあ今時の感覚からすれば盗撮に
近い状態であり(汗)あまり褒められた作品では無い。
なお、まったく人を撮ってはいけない、という事ではなく、
はっきり顔が写っていない状態とか後ろ姿とかでは、まあ
セーフであろうが、それが被写体の人格を貶めるような状態
ではいけない。つまりまあ、社会的な「モラル」や「倫理」
(コンプライアンス)の感覚が要求される。
まあでも、銀塩時代では、世の中一般的にも、肖像権に対する
配慮は皆無に近い状態であり、平気で見知らぬ他人を撮って
写真展やコンテストに出したりするアマチュア層が殆どであったし、
職業写真家層であっても、海外での人物撮影等では同様であった。
これらは現代であれば、世情的や「モラル的」にちょっとマズい
のであるが、まあ、銀塩時代からのシニアカメラマンだと、
今時であっても昔のままの感覚で、見知らぬ他人を平気で盗撮
するので、困ったものだ。あるいは若い頃はモラルもあったのが
近年よく話題となる「オレ様老人」のように、年齢や立場と
ともにマナーやモラルを持たなくなってしまうのだろうか?
(近年の京都では、舞妓さん(本物、変身)を外国人観光客等
が追い回して撮影をするので、大きな社会問題となっている。
また、京都下賀茂神社の「足付け神事」では、一般女性が
着物の裾を捲って浅い池を歩くので、それを狙う男性シニア層
のアマチュアカメラマンが沢山居る、モラル的には最低最悪
であるが、そんな事は知らん顔の輩(やから)ばかりだ)
銀塩時代では、作品の発表の場が写真展など限られた範囲なので、
単に被写体になった人に「知られずに済んだ」というだけであり、
確か、2000年代に、写真コンテストで被写体になった人から
「自分が写っている」とクレームが出て、その作品の入賞が
取り消しになったという事件があり、現代では肖像権の配慮が
うるさくなっていて、そういうコンテスト等でも「被写体からの
掲載許可が必須」という注意事項が記載されている筈だが、
特にシニア層では、気にしない人が依然多いという状況である。
なお、これの回避法は簡単だ、人物の顔などがはっきりと写った
写真では、被写体となる人と話をして掲載許可をもらえば良い。
そのコミュニケーションが取れない、と言うならば、もうその
時点で、人物撮影のジャンルを志向する事は極めて難しい。
お金を払って、モデル撮影会にでも行くしか無い状態だ。

言っても良いと思う。ソフト量とそのコントロール性は抜群で
あり、派手なソフト効果から上品で控え目なソフト効果まで
設定の自由度が極めて高い。
課題は例によって、ピント合わせが非常に困難な事だ。
まあでも、その点については、絞り環がレンズ前部の比較的
廻しやすい位置にあるので、都度、ピント合わせの為に
絞り込むという、とても面倒だが確実な撮影技法は存在する。
そういう意味では、ピーキング性能に優れたミラーレス機で
使う方が望ましいのだが、今回は捻くれてPENTAX K-30に
装着している。
その理由だが、K-30に備わる、ライブビューモードでの
ピーキング機能を試してみたかった訳だ。
一眼レフでこういう機能を搭載している機種は珍しい。
K-30で、ライブビュー時にピーキングONで、画面拡大機能と
組み合わせて、かつ、F4~F5.6程度に絞り込んでソフト
効果を減らすと、かろうじてピントの山がわかる。
けど、やはり面倒な撮影技法である事は間違い無い。
それと、このK-30の時代(2012年)前後のPENTAXでの
ミラーレス機を含めたピーキング精度はあまり高く無い。
(2011~2013年、PENTAX Q,K-30,K-01,Q7の各機種での評価)

品かも知れない、だが、他のソフトレンズよりは、中古市場で
見かけた回数も多く、「ソフトレンズが欲しい」というニーズ
が強い場合には、根気良く出物を待ってみるのも良いであろう。
ただ、これも中古相場としては1万円程度の価値でしか無いと
思うので、希少品プレミアム価格で、あまりに高価であれば
見送るのが賢明であると思う。
なお、本レンズは、「KENKO Tマウント」対応品である為、
Tマウントを別途入手可能なので、購入時のマウント違いは
あまり気にする必要は無いし、ミラーレス機で使用するなら
アダプターをチョイスするのは容易であろう。
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では、今回ラストのシステム

(新古品購入価格 14,000円)(以下、VK70R)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)
1986年発売のMFソフトレンズ。
翌年発売の、50mm版のVK50Rがあったと思う(未所有)
(さらには、645中判カメラ用も存在していた模様だ)

第4回、ハイコスパ第21回記事や、さらに古い特集記事でも
紹介しているが、簡単に本レンズの出自を再掲しておく。
株式会社清原光学は、戦後の1949年に創業した老舗の
光学機器メーカーである。
一般的なカメラユーザーに名前が知られていないのは、
同社は、レーザー干渉計やら、シリンドリカルレンズ、
トロイダルミラーといった、研究開発用の特殊光学部品
を設計・製造する専門的なメーカーだったからだ。
(注:近年に京都の企業の子会社となったと聞く)
同社が開発製造した民生向けの(35mm判)一眼レフ用の
交換レンズは、本VK70RとVK50Rの2本のみである。
聞く所によると、1980年代、カメラ誌での「ベス単フード外し」
の対談の内容を受け、同様な構成を現代に蘇らせる為の
特別プロジェクトとして、本レンズが開発された模様である。
発売されたレンズには、「KOPTIC」と記載があるが、
これは「コプテック」と読み、販売元である。まあ清原のKと、
光学のOPTICを組み合わせた販売子会社名であろうか。
「ベス単フード外し」に関しては、毎回の説明となって
しまうが、以下、簡単に。
約百年前のクラッシックカメラ「ヴェスト・ポケット・コダック」
(VPK)には、1群2枚(単玉、メニスカス)構成のレンズが搭載
されているが、これをフード状の固定絞り機構で約F11まで
絞り込んだ状態で撮影する。
(注:このカメラの事を、一般には「ヴェス単(ベス単)」と
呼ぶのだが、昭和初期の国内市場では、単玉レンズを搭載する
127判カメラの「総称」としての「ベス単」があった。
すなわち「ヴェスト」とはコダックのカメラ特有の製品名
ではなく、ヴェスト判(127判)フィルムの事を指すからだ。
よって「コダックのVPKとベス単はイコールでは無い」という
解釈もある。まあ厳密にはそうかも知れないが、いずれにしても
あくまで俗称なので、本記事ではその点には拘らない。)
さらに余談だが、「マイナス・ゼロ」という国産タイムトラベル
SF小説の隠れた傑作があるが、その作品内に(後年において)
昭和初期のカメラ市場の事を綿密に調査して記述した部分がある。
そこに「ベス単」の事が載っているか?と再度読み返してみたが、
残念ながら「ベス単」そのものの記載は無かったのだが、
広義の「ベス単」である「パーレット」(コニカ製)を
主人公が「25円」で購入するシーンが出てきている。
昭和初期の物価を現代に換算すると、これは8万円程度か?
なお、この主人公は「ベス単フード外し」は行っていない・笑
で、後年のマニアが、このVPKあるいは他機種の「ベス単」を
入手し、試験的にフード状の絞りを取り外して撮影してみた。
すると、絞り機構で抑えられていた「球面収差」が大量に
発生し、見事なソフトレンズとしての描写力が得られた!
(注:球面収差は口径比の3乗に比例して増加する。
よって、大口径レンズでは球面収差を抑える設計は難しい。
ビギナー層が勘違いするように、「F値が明るいレンズは
良く写るレンズだ」とは限らない訳だ)
これまでも述べてきたように、ソフトレンズという製品は
希少である。マニアはこぞって、クラッシックな「ベス単」
を入手し、「ベス単フード外し」の改造を行い、さらには
レンズ部を取り外して、他のカメラ用のマウントに改造し
一眼レフやレンジ機等で、その写りを楽しんでいた。
1970年前後の上級マニア層には、この「ベス単フード外し」
は極めて有名であったのだが・・・
実際にこれを行うとすると、まず古くて希少な「VPK」等を
入手するのが非常に困難だ、さらにはレンズを取り外して
マウント改造などを行わないと、まともには使えない。
だから、誰にでも行える措置ではなかった訳だ。
それだけ様々な面倒な事を試せるのは、本当に、ごくごく
一部の上級マニア層のみであるが故、一般マニア層等には
一種の過剰なまでの評判も流れてしまった。
すなわち、「ベス単フード外し」による「ソフト描写」は、
「非常に上品なソフト効果」とか「理想のソフトレンズ」等と、
好評価だけが一人歩きした状態になっていたとも思う。
(つまり、それだけ手間をかけたのだから、周囲の人達に
自慢したい訳である)
でも「それは本当なのか?」と、懐疑的ながらも興味を持つ
カメラマニアは極めて多いと思う。
なので、この清原光学のVKプロジェクト(VKとは、ヴェスト・
キヨハラと言う意味と聞く)では、「できるだけオリジナル
のベス単フード外しに近づける」という意図もあった模様で、
レンズ構成はもとより、その硝材(ガラス材質)までも、
VPKに極めて近い特性のものを揃えて復元しようとした。
このレンズは発売後、瞬間的にマニア層に人気が出て
1980年代後半当時の様々な、MF/AFマウント版が発売された
模様であるが、良く製品を見ると「交換マウント仕様」と
なっている。
ただ、この交換マウントがどんな規格で、現代でも入手が
可能かどうかは不明だ。いずれにしても、電子接点は無く
勿論、AFやら自動絞り方式AEは一切効かない。
(注:絞り優先、またはマニュアル露出での使用となる)
後年の中古市場で見る個体はニコンF版が多かった。
まあ、現代においては、マウントアダプターが流通している
ので、どんなマウント版であっても、様々なデジタル機で
利用するのは容易だ、
そして、本レンズVK70Rを欲しいと思って入手する人は
「ベス単フード外し」の事を知っている中上級マニア層だ、
よって、マウントの差異などは、どうにかできてしまう。

これについては、絞り値の設定で、その描写特性は大きく
変化する。
絞りを開放(F5)近くまで開けると、派手なソフト効果が
出る、これを「素朴」だとか「雑」「大味」等とマイナス
評価されるケースもある模様だが、まあ、これはこれで
ソフトレンズの特徴が良く出ていると思う。
次いで、中間絞り(F7~F9)とすると、上品なソフト効果
が得られる。このあたりが、本VK70Rの真骨頂だろう。
ただし、本レンズが発売された1980年代後半の銀塩時代に
おいては、全ての一眼レフカメラにおいて、絞り込むと、
光学ファインダーが暗くなり、元々ソフトレンズでは難しい
ピント合わせがさらに困難となり、さらには低感度フィルム
ではシャッター速度が低下し、手ブレのリスクが発生する。
その為、銀塩時代では三脚を使用する人も居たかも知れない。
あるいは、もうF8あたりより下の絞りは、銀塩時代では
事実上「撮れない」状態であったかも知れない。
だが、現代では大丈夫だ、ミラーレス機や一部の一眼レフ
でのEVFあるいはライブビューモードでは、ファインダーが
暗くなる事はなく、ISO感度もいくらでも上げられる。
それに、本VK70Rのような単純構成のソフトレンズの場合、
明所の被写体において、ハイライト(輝度の高い部分)
の周囲に、ハロまたはフレア風の滲みが発生する為、
その滲みの出し方を楽しむのが、ソフトレンズにおける
1つの上級技法だ、逆に言えば、低コントラスト環境、
つまり日陰、曇天、屋内等では、そのハイライト部を作り
難いため、基本的に本VK70Rは屋外明所で使った方が面白い。
さて、本VK70Rを、さらにF11以上に絞り込むと、描写傾向
はガラリと変わり、輪郭線が非常に強くなる「パキッパキ」
の写りに変貌する。
これはHi-Fiの描写とは言い難く、欠点であるとも言えるが
この描写は、現代的な視点からは、とても興味深い為、
ミラーレスマニアックス補足編第4回とハイコスパ第21回
記事では、この「絞り込み技法」をメインに紹介した。
銀塩時代では、このような撮り方は機材環境(性能)的
に難しかったし、仮に偶然それを見つけても「写りが悪い
写真は、正当では無い」という価値観も当時はあった為、
VK70Rの、こういう用法は上級マニア層にも知られていない
かも知れない。
なお、VK70Rの絞り機構はレンズ前部にあり、廻し難い他、
調整をする際には、一々カメラの構えを解いて、レンズを
前部から覗く必要がある、面倒だが、まあやむを得ない。
それから、絞り値表示は、一応はF11までの記載であるが
それを超えて、かなり絞り込む事ができる。
あくまで目視での印象だが、恐らくはF27ないしF32程度
までは絞り込む事が可能であろう。
そういう条件で使う事は、絞り指標がF11止まりである事も
含め、開発時には全く想定していなかったとは思われるが、
現代においては、「機材についている機能は何でも使う」
という考えも当たり前ではあるし、Lo-Fi描写も歓迎だ。

ピントが合わせにくい、とかは、もうやむを得ない。
それと、希少なレンズ故に現代における入手性が、かなり
低い事は問題点だ。しかし幸いな事に「投機対象」には
なっていない模様なので、プレミアム相場でも無いと思う。
まあ、1万円台で購入できるならば「買い」であろう。
が、「ベス単フード外し」を知りたい、というマニア層の
知的好奇心を除いては、どうしても本VK70RやVK50Rを
指名買いする必然性はあまり無く、他のソフトレンズでも
用途代替は出来るだろうし、あるいは前述のMOMO100も、
「ベス単フード外し」の設計思想であるので、現行製品
として購入が容易な、そちらを入手しても良いと思う。
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さて、今回の記事「ソフトレンズ特集」は、このあたり迄で、
次回記事に続く・・