新規購入等の理由により、過去の本ブログのレンズ紹介記事
では未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回も引き続き、未紹介レンズを4本取りあげるが、
一部は、「特殊レンズ・スーパーマニアックス」記事で
先行して紹介したものも含まれる。
また、本記事では、たまたまだが、マクロレンズまたは
それに準ずる近接用レンズの紹介が多く、掲載写真も
フィールド分野の近接撮影のものが主となる。
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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、NIKON Ai Micro-NIKKOR 105mm/f4
(中古購入価格 8,000円)(以下、Ai(Micro)105/4)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
1977年発売のMF小口径中望遠マクロレンズ。
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まず、ニコンでは「マクロ」では無く「Micro」(マイクロ)
と呼ぶ。実は、言葉の意味的には「マイクロの方が正しい」と
私も思っているのだが、ニコンを除く世の中の全てが「マクロ」
と言っている現状においては、このニコンの拘りは、まるで
「それでも地球は回っている!」と、ただ一人地動説を貫いた
ガリレオ・ガリレイのような感じだ。
(また、本レンズの時代では、Micro-NIKKORと、ハイフン有り
現代では、Micro NIKKORと、ハイフン無しとなっている。
それと、大文字小文字の表記も注意点だ)
まあ、正しい事を言っているのに、周囲の誰も聞かないという、
こうした不幸な事態を避ける為には、他の記事でも何度も何度も
述べているように、カメラ界を通じた用語統一とか規格統一等を
行えば良いのだろうが、そういう気配は全く無く、残念ながら
各社は自社のポリシーや都合や利益を優先するばかりだ。
これもよく例にあげるが、電子楽器の世界では「梯郁太郎」氏
(1930-2017)は、1980年代に世界各国の電子楽器メーカーを
巡り、その利害関係を調整して、全電子楽器の共通規格「MIDI」
を実現した。これは30年以上経った現在でも使われていて、
電子楽器間の連動、自動演奏、PCでの音楽制作、レコーディング
ネットでの音楽共有、ゲームミュージック、通信カラオケ、
ステージ照明との連動など、その利便性や恩恵は計り知れない。
梯(かけはし)氏は、この功績で2013年にグラミー賞を
受賞している。
もし電子楽器が現代のデジカメのように、各社バラバラの規格で
作られていたら、ユーザーもメーカーも非常に困っていたことに
なるばかりか、音楽界の発展の大きな妨げになっていただろう。
カメラ界には、この梯氏のように、あるいは幕末の坂本龍馬の
ように各者(各社)の利害関係を調整してまとめあげる実力や
政治力やリーダーシップを持った人が残念ながら現れなかった。
まあ、米谷美久氏(1993-2009、元オリンパス)の
開発製品は、極めて強い汎用化思想・標準化思想が見られ
好ましいが、それはあくまで自社(オリンパス)製品群の
範疇に留まりメーカーを超えての標準化・規格化までには
至っていない、
2008年、オリンパスでは「μ4/3規格」を発表、その仕様
や技術内容を公開、他社からの賛同を取り付る措置を
行ったが、多くの大メーカーはそれには乗って来なかった。
この時、まだ米谷氏は、ご存命であったので、こうした
汎用化・標準化・規格化には尽力し続けたのであろう。
他社においても著名な技術者は居たが、自社の枠を
超えて、他社との連携を取ろうとした例は極めて少ない、
下手をすれば「そういう政治的な話は、技術者の本分
(仕事)では無い」とも、考えていたのだろうか・・?
いや、場合により標準化は「敵に塩を送る」ようにも
解釈されてしまう要素も世間的にはあるだろう・・
勿論、そうでは無く、ユーザー利便性が上がる事で、
市場は、むいろ拡大するのだ。(PC業界がその一例だ)
今から80年以上も前の、ドイツの「ライカ・コンタックス戦争」
(=ライバル関係を強く意識して、カメラの様々な仕様や表記を
お互い、全て逆にして設計された)の名残りが、日本にまで輸入
されてしまい、ずっと日本国内の製品仕様や表記法などの規格が
統一できないまま、というのは極めて残念な話である。
この話は「残念」では済まず、その事(仕様がバラバラ)は
ユーザー利便性を極めて損なうケースもある(例:同じメーカー
の製品でシステムを組まない限り性能が発揮できない)、
こうした「排他的仕様」は、私の機材購入ポリシーに大きく
反するので賛同できず、「出来るだけそういう製品は買わない」
というスタンスを取っている。
全てのマニア層がそういう行動を取っている訳では無いと思うが、
新製品にそっぽを向けるマニア層が多いのも事実だろう。
もし、その事が、2010年代以降の一眼レフ市場の縮退を
引き起こしている要因の1つになっているのならば、あるいは
2018年からの各社一斉のフルサイズ化ミラーレス機があまり
普及しない要因となっているならば、これはメーカー側も
認識するべき極めて重要なポイントだ。
ちなみに、この「感じ」はデジャビュ(既視感)がある。
1990年代、バブル崩壊以降に、バブル期に企画開発された
AF一眼レフカメラは、マニア層や世の中のニーズと大きく
かけ離れた製品となり、まったくの不人気になってしまった。
マニア層は新鋭AF一眼レフを誰も買わず、古い時代のMF一眼レフ
等を買いあさった為、「第一次中古ブーム」が加熱してしまった。
各カメラメーカーは、高級コンパクトカメラや、昔のカメラの
リメイク版を作って対応、これらはマニア層にも受け入れられた為、
なんとか市場崩壊は避けられた、という重要な歴史的事実がある。
(注:「マニア層の数など、たかが知れている」という判断も
あるだろう。勿論それはそうだが、事の本質がわかっていない
ビギナー層等は、周囲の、カメラに詳しい人の意見を聞いて
購買行動に結びつける。ネットもまだ普及していない時代
であるから、それは当然だ、だから、マニア層の購買行動や
評価は、周囲や市場全般に与える影響が強かったと言える。
そして、ネット社会が普及した現代においては、誰でも
「にわかマニア」として情報発信が可能となったが、それが
必ずしも全て的確で正しい情報であるとは限らない。だから
むしろ現代の方が、情報の真偽を見抜く事が難しくなって
しまっている。基本的には、正確性に欠ける表記とか、根拠の
無い思い込み評価は、信用するに値しないと思う事が賢明だ)
・・で、つまり上記の歴史は、バブル崩壊後でユーザー層に
経済的損失があったり、余分なお金が無かったから、新鋭の
カメラが売れなかった、という訳では無い。その時代の
「バブリーなカメラ」に、製品としての魅力が無かったから、
誰も買わなかった訳だ。
現代のカメラ市場でも同様かも知れない。スマホやミラーレス機が
出てきたから一眼レフが売れなくなった、等と言った、ありきたり
の市場分析をして、新型一眼レフに不要なまでの超絶性能を与えて
高価な価格とし、それで一眼レフ販売数の減少を利益でカバー
しようとしているならば、それは根本的に何かがおかしいのかも
しれない・・ つまり市場の変化が責任なのではなく、カメラの
企画コンセプトそのものに問題があるのではなかろうか・・?
そして、「もう一眼レフは限界だ」と見限ったのか、2015年
頃から魅力的な一眼レフ新製品は殆ど登場せず、さらに
2018年秋から、各社一斉に(高価すぎる)フルサイズ・
ミラーレス機に転換したのであれば、どうにも、ユーザー層を
ちゃんと見ていない製品戦略にも思えてならない。
(で、その高額ミラーレス機は売れているのであろうか?
私は、その手の新鋭カメラを使って撮影している人を、
発売後約半年間程度、全く見かけた事が無かった・・)
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余談が極めて長くなった・・
本レンズAi105/4の話を始めよう。
本レンズは1/2倍マクロレンズである、別売(?)の接写リング
(通称:ゲタ)のPN-11を使用すると等倍までのマクロとなるが、
この場合∞は出なくなり、1/2倍~等倍までの近接距離専用となる。
レンズ鏡筒にはPN-11使用時の撮影倍率が目盛りとして書いてある。
PN-11無しの場合の本レンズの最短撮影距離は47cmである。
NIKONの接写リングは色々と所有してはいるが、デジタル時代の
撮影技法的な観点では、適正なアタッチメントとは言えない。
今回は、それらを使用する事はやめておこう。
レンズ構成は3群5枚(ヘリアー型)とシンプルだ。
発売数年後に後期型(Ai~S型)として小改良されている模様
だが、光学系は共通だと思うので、そのあたりはあまり
気にする必要は無いだろう。
なお、ニコン党の人の中には、非Ai、Ai、Ai改、Ai~S等の
ニコンMFレンズ群の細かい仕様の差異に非常に詳しい方が多い、
マニア層のみならず、実際にF2やF3を現役で使っていた
シニア層でもそういう傾向が強くある。
まあ確かに当時の銀塩ニコン機を使う上では上記の差は重要で
あり、ボディとレンズの組み合わせによっては、使えない場合も
あったから当然だろう。
しかし現代、ミラーレス時代では、Fマウントアプターを使えば
上記レンズ群は、どれも問題なく使えるので、細かい差異は、
ほとんど気にする必要は無い。
・・と言うか、細かい仕様の差を必要以上に気にするベテラン層
が極めて多く、そこが逆に問題だと思っている。
そう思ってしまう原因は、「新しいレンズや高価なレンズは、
常に描写性能が高いレンズだ」と誤解してしまう事がある。
それから「高性能なレンズでないと、上手く撮れない」という
不安も抱えているからだと思う。
レンズの仕様差の正確な「知識」、そしてレンズの特徴を評価
する「眼力」と、それを上手く使いこなせる「技能」があれば、
そうした仕様の差等は、本来、どうでも良くなる筈だ。
また、「投機上」の観点もあったかも知れない。つまり販売数
が少ないレアなレンズならば「後年に高く売れる」という期待
からだ。でもまあ、それもレンズを「全て実用品だ」と考える
マニア的観点からすれば、ちょっと受け入れ難い話でもある。
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また余談が長くなった(汗)、本Ai105/4の話に戻る。
本レンズは開放F4と暗いレンズだ、現代の超高感度カメラ
では何ら問題は無いが、近接撮影では「露出(露光)倍数」も
かかって、最大2.25倍程度、さらに暗くなる。
これではシャッター速度が低下するので、銀塩時代では使う
事がなかなか困難であったと思われる。この問題を改善した
後継レンズは1985年のAi Micro-NIKKOR 105mm/f2.8である。
大口径化と共にレンズ構成もかなり複雑化している模様だが
F2.8版は残念ながら未所有であり、その写りはわからない。
105mmというレンズ焦点距離はニコンの伝統であり、ニコンの
ほぼ全ての100mm級レンズは、105mmの焦点距離となっている。
古くは、Sマウントの時代のNIKKOR-P 10.5cm/f2.5(1960年、
本シリーズ第4回記事)あたりからずっと105mmとなっていた。
例外は確か1例のみ、シリーズE100mm/f2.8(ハイコスパ
第13回記事等)だけだったと記憶している。
なお、「マイクロ」を「マクロ」と呼んだ例外もある、それは
「ニコンおもしろレンズ工房」の中の「ぐぐっとマクロ」
(ミラーレス・マニアックス第13回記事)の1例だけだと思う。
(恐らく、後者のレンズはニコン社外での企画設計であろう)
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本レンズAi105/4の描写力は、オールドと言う程には悪く無い。
この時代のマクロの例に漏れず、解像力優先でボケ質破綻が
若干出るのだが、あまり気になる程では無い、
しかし開放F4と暗いレンズなので、ボケ質破綻回避の技法は、
絞り値の自由度があまり無い。それに今回使用のNIKON Dfの
光学ファインダー+開放測光では、そのボケ質破綻回避の技法は、
全く使えない。撮った後からでしかボケ質は確認出来ないのだ。
購入価格は一般的相場より安目の8000円、まあ準ジャンク
扱いでリサイクル店で買ったからであり、カメラ中古市場では
この手のオールドMFニコンレンズは、初級マニア層、シニア層、
投機層等が高値での取引を行う為、値段が吊り上がってしまい、
2万円台以上とかが普通だ。しかし、そうした価格だと本レンズ
の性能からすれば、購入に値しないコスパの悪さとなる。
まあ1万円台前半程度までが妥当な相場であろう。
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さて、次のシステム
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レンズは、smc PENTAX-M 75-150mm/f4
(中古購入価格 2,000円)(以下、M75-150)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
恐らくは1970年代後半の発売と思われる、小型軽量の
中望遠開放F値固定MFズームレンズ。
Mシステム(MX)が1976年の発売であり、PENTAX MXの
「当時世界一の小型さ」に合わせた、小型軽量化の
コンセプトが、このMシリーズレンズの特徴だ。
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少々変わった焦点距離ではあるが、この時代のPENTAXは、
ライカが決めたと言われている焦点距離系列(たとえば、
28mm.35mm,50mm,90mm,135mm等)に、
あえて反発した焦点距離のレンズを良く作っていたので、
あまり驚くには値しない。
ズーム比は2と小さいが、PENTAX伝統の「開放F値固定の
小口径ズーム」であり、この点では使い勝手は良い。
PENTAXで、ライカの焦点距離系列に反発していた理由の
1つとして、「望遠レンズでの手ブレ限界」に配慮していた
設計コンセプトがあったと思われる。
せっかく世界一の小型(軽量)のカメラを作った訳であり、
それまでのように、「カメラは三脚を立てて撮るものだ」
という一般的な常識を壊さないと、小型軽量が活かせない。
この時代、CONTAX RTS(1975)も発売されていて、そこでも
ツァイスレンズを絞りを開けて撮る(当然、手持ちだ)が
推奨されていた。時代は、「三脚から手持ちへ」と
大きく変化していた。(注:40年以上も昔の話ではあるが
当時のユーザー層は、現在でも70歳代と現役である事も
あって、シニア層等では現代に至るまで、こうした古い
時代の撮影技法を頑なに守っている事も多い)
その際、ビギナー層では、望遠レンズでは手ブレするリスク
が大きい。特に、その当時ポピュラーな200mm F4級望遠だと、
日中でも、初級者の手ブレ限界の1/250秒のシャッター
速度を維持するのは難しいケースも多い。
なので、これを1/125秒と、要件を緩和し、それに対応する
レンズ焦点距離として、120mm~150mm程度の望遠レンズが、
ビギナー層が扱える限界焦点距離、という企画コンセプトで
あったのだろう。(本レンズ M75-150に限らず、120mmや
150mmの望遠レンズも、この時代のPENTAXにあった)
(参考:120mmレンズの開発秘話で「標準レンズの2.5倍
までの焦点距離(=125mm)であれば、手ブレし難い」
というPENTAX技術者の話があって、マニアの間では有名な話だ。
しかし、今から考えると、これは対外的にノウハウを隠す為の
「方便」であり、実際には初級者の手ブレ限界速度を1/125秒
とした場合での設計基準を設けたものであったと推察している)
![c0032138_07040675.jpg]()
本レンズの描写力だが、コントラストが低く感じる。
ただ、これについては、本レンズはジャンク品であり、
僅かなクモリ(カビ?)があるので、それが原因の要素も
大きいと思う。
その他の性能は、古いのは確かだが、あまり不満は無い。
NEX-7との組み合わせで、約112mm~約225mmの、ちゃんと
した望遠画角となるが、小型のNEX-7での望遠システムとしては、
バランスは悪く無い。直進式ワンハンド・ズームでもあるので
望遠MFレンズとしての操作性は秀逸だ。
![c0032138_07040668.jpg]()
余談だが、現代、中古カメラ流通が、以前よりずいぶんと
様変わりしている。それは勿論、銀塩ビジネスモデルの崩壊で
地方DPE店や、中古カメラ店が激減した事があり。さらには
ネット商流の普及もある。
結局、現代での中古市場は、ネットオークション、チェーン
店によるネット販売、大都市圏の老舗専門店が主流となって
いるのだが、まあ上級マニア層では、「目利き」の効かない
オークションは使わず、「現物を見て買う」が基本だ。
また、老舗中古店は、ライカ、コンタックス、ニコン等の
銀塩機(一部デジタル機)が主力商品であり、これらの
「ブランドカメラ」は、高付加価値(高く売れる)と、
時間を置いても相場が下がり難く、在庫リスクが少ない
からだ(デジタル機では、すぐに二束三文となる)
まあブランド品に憧れるのは、これらの銀塩機を若い頃に
憧れたが、高価すぎて買えなかったのを、時代が過ぎて
「可処分所得も上がったので買う」という傾向もある。
これはカメラに限らず、楽器とか乗用車とかの様々な
市場分野でも同様だ。
で、例えば、高級機に憧れたのは20歳前後と仮定しよう。
1960年前後のNIKON FやライカM3の世代は、現在80歳前後
1970年代のNIKON F2やCONTAX RTSの世代は、現在70歳前後
1980年代のNIKON F3やライカM6の世代は、現在60歳前後
となる。
なお、この後の時代では、歴史的な価値のある銀塩機は
残念ながらかなり少なく、あえて言えば、1990年代の高級
銀塩コンパクト位(例:CONTAX Tシリーズ、RICOH GR1等)
であり、それに憧れた世代は現在40歳代となる。
まあつまり、古い銀塩機(特に一眼レフやレンジ機)を
欲しがる世代は、既にかなり高齢化していて、もはや写真を
撮れる年代では無くなりつつある状況だ。
実際の所、銀塩機を買ったところで、フィルムを入れて銀塩
写真を撮る筈もなく、飾って眺めておく状況が殆どであろう。
それから、ここまでの話は、「ドンピシャの世代」であるが、
カメラの世界では、先輩マニアから後輩マニアへと、情報が
(真偽入り混じって)伝播されていく傾向が強い。
そこで先輩マニアが「ライカとコンタックスはとても良く写る」
などと言えば、その情報が時代を超えて継承されてしまう。
だが、この例などは、実際のところは、現代とは時代が大きく
違うので、もうなんとも言えない。
80年~100年前後の前の古い設計のレンズと、現代のレンズ
を比べても、技術的水準は比較にもならない事は明白だ。
ただまあ、レンズ描写力は単純に数値性能だけでは決まらない
事も確かであり、オールドレンズには、それなりの良さもある。
![c0032138_07040637.jpg]()
さて、余談が長くなったが、総括だ。
本M75-150については、まあ普通に写るが、必携のレンズ
とは言い難い。地味なスペックである点でも、人気のある
レンズとも言えない。
しかし、PENTAXのこの時代の設計思想を考察する上では、
なかなか興味深い研究対象となるレンズとも言えるであろう。
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さて、次のシステム
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レンズは、VS Technology VS-LD25N
(発売時定価22,000円)(以下、VS-LD25N)
カメラは、PENTAX Q (1/2.3型機)
発売年不明(2000年代?)の、マシンビジョン(FA)用
MF単焦点手動絞り近接専用レンズ。
最大撮影倍率1/4倍、初期メガピクセル対応、、
2/3型センサー対応、Cマウント。
開放F値は撮影距離に関連した「露出(露光)倍数」に応じ、
F2.1~F2.5程度となる。
![c0032138_07042184.jpg]()
この手のレンズは、カメラ用レンズの市場とは全く
接点が無い為、これを知らない人に説明するのは難しい。
まあ、興味があれば「特殊レンズ・超マニアックス第1回」
や「匠の写真用語辞典第3回」記事を参照していただきたい。
そして、こうしたレンズを使うのは、様々な、この分野に
係わる専門的な知識が必要であり、そうして無事撮影用の
システムを組んだとしても、高度な撮影技能を要求される
為、そう簡単な話では無い。
マニア向け、というよりも、むしろ専門家向けの分野であり
あまり詳細について説明しても、一般カメラユーザーに
対しては無意味かも知れない。こうしたレンズを入手する
のも難しいし、好んでこうしたレンズを入手したいとも
思えない事であろう。
基本的な話だけを書いておけば、まずマシンビジョン用
レンズには「対応センサーサイズ」があり、これを上回る
大きなサイズの撮像素子を持つデジタルカメラで使用すると、
画面周辺がケラれてしまう。
第二に、レンズのマウントに応じた、マウントアダプター
を使用して、デジタルカメラに装着する。概ね多くの
マシンビジョン用レンズは、Cマウント(内径1インチ、
ピッチ0.794mm、フランジバック17.526mm)である。
(注:旧CONTAXレンジファインダー機の「Cマウント」
とは全く違うものである)
第三に、これらのレンズには、スペック的には非公開の
解像力の性能があり、使用するデジタルカメラのピクセル
ピッチを計算し、解像力をその単位に変換し、それが条件を
満たているか否かを調べ、レンズ解像力に対して満たして
いない場合には、適宜記録画素数を変更する等を行ってから
使用する。
それらの計算例を挙げると、
本VS-LD25Nの場合、2/3型対応であるから、それ以下の
センサーサイズのデジタルカメラでなくてはならない。
分数ではピンと来ないので、まずこれを小数に変換する。
2/3型とは、小数では、0.66型だ。
PENTAX Qは1/2.3型なので、これは0.43型となる。
また、PENTAX Q7だと1/1.7型なので、0.58型である。
これらの機種であれば、2/3型レンズでもケラれない。
それから、μ4/3機は1.33型だが、これを2倍デジタル
拡大(テレコン、ズーム)モードで使用すると、0.66型
となり、これもギリギリで使用可能だ。
これより大きなセンサーサイズのカメラは、そう簡単には
使用できない(その詳細は長くなるので割愛する)
次いで、Cマウントアダプターを準備するが、これは
PENTAX Qマウント用も、μ4/3用も市販されている。
![c0032138_07042170.jpg]()
さて、問題の本VS-LD25Nの解像力だが、ここは仕様上では
非公開だ。例えばレンズ解像度チャートあるいはマイクロ
メーターというものを実写して計測は可能だが、専門的な
道具なので入手は困難だし、一般カメラマンが持っていても
殆ど意味(価値)が無い。
まあ、概算だが、本VS-LD25Nの場合、140LP/mm前後だと
思われる(この数値の詳しい意味も割愛する)
また、この数値は最良の値であり、画面上の場所や
絞り値によっても性能は変化する。
この場合、解像可能な長さ(幅)をピクセルピッチに
置き換えて示すと、だいたい3.5μmとなる。
次いで、PENTAX Q等の母艦のピクセルピッチの計算だ。
PENTAX Qは1/2.3型機なので、センサーサイズと
記録画素数からは、ピクセルピッチは1.55μm程度だ。
(注:ピクセル開口比等の専門的な要素は無視する)
まあ、これでは、レンズの性能が全然足りない。
なので、PENTAX Qの画素数を適宜下げて(例:300万画素)
使わないと、画素数に対してレンズ解像力が出ておらず
システム要件を満たさない、という計算となる。
ただし、ここで記録画素数を下げる設定を行ったとしても
それによりピクセルピッチを広げる効果があるかどうかは
(PENTAX Q等の)各々のデジタルカメラ毎の画像処理的な
内部動作原理によるので、その詳細は明らかでは無い。
そして、PENTAX Qはローパスフィルターを持たない仕様
であるし、ピクセルピッチが小さすぎる(例えば、超高画素
の新鋭フルサイズデジタル一眼レフよりも遥かに小さい)
ので、まあ、上記計算通りに設定しておくのが無難だ。
余談だが、現代のデジタル一眼レフ(フルサイズ、APS-C機)
では高画素機であっても、ピクセルピッチは4μm程度迄だ。
μ4/3の高画素機では3μm程度、つまりセンサーサイズが
小さい方が、画素数を上げるとピクセルピッチが小さく
なりすぎ、その分、レンズも超高解像力の物が必須となる。
ここのバランスを良く考慮しないと、単純に画素数の高い
カメラが良く写る、とかは言えない事になる。
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さて、撮影前に、ここまでの様々な計算が必要となるのだが、
正直言えば専門的すぎて、一般のカメラマンには無理だ。
さらに、ここまでして撮影システムを組めたとしても、
実際の撮影は技術的に極めて困難である。特に本VS-LD25N
は近接撮影専用レンズであるので、その難しさは倍増する。
![c0032138_07042101.jpg]()
まあ、本シリーズ記事等では、この手のレンズの紹介が良く
あるが、基本的には、一般ユーザーには非推奨としておく。
しかし、色々と手間はかかるが、奥が深くて、なかなか
面白い機材ジャンルであるとは言える。
実を言うと、現在、この手のレンズは、一般ユーザーでは
購入する事すら出来ない状態だ。つまり業務用での販売で、
あり、法人(会社組織等)で無いと購入できない。
ここが私としては最大の不満事項であって、自由に個人で
これらを入手したい訳だ。(ちなみに、中古もまず存在
しない)
で、もし、こうしたレンズ群が、一般カメラマンにも広く
知られるようになり、欲しがるユーザーも増えて、万が一、
カメラ(レンズ)市場で(中古も含めて)流通が始まったら、
それは個人的には、とても嬉しい事だ。
あくまで万が一なのだが、そうなる可能性を願って、今後も
この手のマシンビジョンレンズの紹介を続ける事にしよう。
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では、今回ラストのシステム
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レンズは、NIKON Ai Micro-NIKKOR 55mm/f3.5
(中古購入価格 9,000円)(以下、Ai(Micro)55/3.5)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)
恐らくは1970年代後半の製品と思われる1/2倍標準マクロ。
4群5枚で、最短撮影距離は24.1cm、勿論MFだ。
この後、1980年代からは開放F2.8版となり、レンズ構成も
変化し、同じハーフマクロでありながら、最短撮影距離も
僅かに変化している。
![c0032138_07045037.jpg]()
さて、本F3.5版の購入は実は2回目だ、当初、銀塩時代に
これを使っていたものの、ボケ質が非常に固く、好みに
合わない描写であった為、1990年代にAiAF Micro 60/2.8
に買い換えた(AiAF版は等倍マクロ)
だが、AiAF60/2.8のボケ質も、やはり好みではなく
その後は、NIKON製マクロ(マイクロ)の購入は控え、
もっぱら他社製マクロ、あるいは他マウント機でマクロを
色々と使う事になる。
だが近年になって、これまで集めてきた様々なマクロ
レンズを撮り比べて、色々と研究していくと、どうやら
本Ai55/3.5のようなマクロを「平面マクロ」と分類できる
ように思えてきた(匠の写真用語辞典、第5回記事参照)
まあつまり、平面被写体に特化し、その際の解像力を
高めるようなコンセプトで設計されたレンズという事だ。
であれば、その特性を理解した上で、レンズの弱点を
回避するような被写体や撮影技法を選べば良い事になる。
そこで、約20年ぶりに、本レンズを買い直す事とした。
中古市場には、後継のF2.8版も当然販売されているが、
F2.8版はAFの物を所有しているし、あくまで「平面マクロ」
が欲しいので、F3.5版を選択した。
さて、解像力重視という事であれば、母艦も考えて選ぶ
必要がある。例えば冒頭の Ai Micro 105/4の母艦は
フルサイズ機NIKON Dfを使用したが、その機体は画素数も
1600万と控えめで、ピクセルピッチも約7.2μmと大きく、
ローパスフィルターもある。
よって、NIKON Dfは、銀塩時代の解像力の低いオールド
レンズを使う際に、センサーの方が過剰性能にならずに
バランスが良い訳だ。
でも、逆に言えば、解像力の高いレンズを使うには、
NIKON Dfは適さないとも言える。
そこで、今回の母艦NIKON D500であるが、こちらは
APS-C機で約2000万画素であるから、ピクセルピッチは
約4.2μmと、NIKON Dfより遥かに小さく、その結果として
高解像力仕様のレンズとの相性が良い。
できればローパスレスであれば、なおバランスが良いが、
D500はローパス有りの仕様だ。
まあ、こういう事を色々と考えていくと、下手をすれば
レンズの仕様や性能毎に、様々なカメラボディが必要だ、
という事になる(汗) それはちょっと、やりすぎかも
知れないので、当面は、そういう研究や実験はやめておこう。
![c0032138_07045025.jpg]()
さて、本レンズ Ai(Micro)55/3.5の描写力だが、
解像力が高い、とは言うものの、まあそれは今から
40年も前の時代のレベルである。
だから、現代における最新の高解像力仕様のレンズと
比べれば、さすがに、そこまでの性能は無いとは思う。
ただ、それでも本レンズは、十分に「カリカリ描写」だ。
ちなみに、この時代には「コピー機」は、まだ普及して
おらず、文書、絵画、画像、検体、資料などの複写には、
写真を使うしかなかった訳だ。
よって、そういう「平面被写体の複写」をコンセプトと
して設計されたレンズという事だ。これに類似する描写
傾向を持つレンズは、他にはOLYMPUS OM Zuiko 50mm/f3.5
Macro等があるし、冒頭紹介の「Ai105/4」も平面マクロ
的な特性を若干持っている。
なお、こういう、解像力および歪曲収差低減を中心とした
設計とすると、たいていの場合画面周辺での解像力が
悪化したり、ボケ質が悪化したりしてしまう。
この問題の対策としては、まずフルサイズ機を使わず、
APS-C機やμ4/3機で、画面中央部だけを切り出して使う事。
それから、ボケ質に関しては、あまり対処の手段が無いが、
「ボケ質破綻技法」で色々と条件を変えて撮影するか、
あるいはもう、あまり背景ボケや前景ボケを作らない
被写体状況(平面構図)にするしか無いと思う。
![c0032138_07045034.jpg]()
まあ、本レンズの特徴・特性を良く理解して、その長所を
引き出し、短所を出さないようにすれば、現代においても
十分に使えるレンズである。
また、今回は試していないが、その「固いボケ質」等を
弱点とは思わずに、逆に「個性」として利用するならば、
それはそれで、現代の、ある意味「高性能になりすぎた」
レンズに対しては、現代のレンズでは得られない独特の
描写傾向を得られると思う。それを、どう使うか?という
点は、そう簡単では無いが、テクニカル的には興味深い
のではなかろうか・・
最後に余談だが、近年、NIKON F2やF3の時代を生きて来た
シニアのマニアの方が、私が使っているこのレンズを見て、
「F2.8版の方が良く写ると聞きますが?」という質問を
してきた。私は「必ずしもそうとは限りません」と言い
さらに本レンズの開発の背景や、F2.8版とのコンセプトの
違いや使い方の違いを詳しく説明した。シニアのマニア氏は
「なるほど!」と納得した模様であり、今更ながらスペック
だけを見て良し悪しを語るのは早計だと理解した様子だった。
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さて、今回の第16回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。
では未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回も引き続き、未紹介レンズを4本取りあげるが、
一部は、「特殊レンズ・スーパーマニアックス」記事で
先行して紹介したものも含まれる。
また、本記事では、たまたまだが、マクロレンズまたは
それに準ずる近接用レンズの紹介が多く、掲載写真も
フィールド分野の近接撮影のものが主となる。
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まず、今回最初のレンズ

(中古購入価格 8,000円)(以下、Ai(Micro)105/4)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
1977年発売のMF小口径中望遠マクロレンズ。

と呼ぶ。実は、言葉の意味的には「マイクロの方が正しい」と
私も思っているのだが、ニコンを除く世の中の全てが「マクロ」
と言っている現状においては、このニコンの拘りは、まるで
「それでも地球は回っている!」と、ただ一人地動説を貫いた
ガリレオ・ガリレイのような感じだ。
(また、本レンズの時代では、Micro-NIKKORと、ハイフン有り
現代では、Micro NIKKORと、ハイフン無しとなっている。
それと、大文字小文字の表記も注意点だ)
まあ、正しい事を言っているのに、周囲の誰も聞かないという、
こうした不幸な事態を避ける為には、他の記事でも何度も何度も
述べているように、カメラ界を通じた用語統一とか規格統一等を
行えば良いのだろうが、そういう気配は全く無く、残念ながら
各社は自社のポリシーや都合や利益を優先するばかりだ。
これもよく例にあげるが、電子楽器の世界では「梯郁太郎」氏
(1930-2017)は、1980年代に世界各国の電子楽器メーカーを
巡り、その利害関係を調整して、全電子楽器の共通規格「MIDI」
を実現した。これは30年以上経った現在でも使われていて、
電子楽器間の連動、自動演奏、PCでの音楽制作、レコーディング
ネットでの音楽共有、ゲームミュージック、通信カラオケ、
ステージ照明との連動など、その利便性や恩恵は計り知れない。
梯(かけはし)氏は、この功績で2013年にグラミー賞を
受賞している。
もし電子楽器が現代のデジカメのように、各社バラバラの規格で
作られていたら、ユーザーもメーカーも非常に困っていたことに
なるばかりか、音楽界の発展の大きな妨げになっていただろう。
カメラ界には、この梯氏のように、あるいは幕末の坂本龍馬の
ように各者(各社)の利害関係を調整してまとめあげる実力や
政治力やリーダーシップを持った人が残念ながら現れなかった。
まあ、米谷美久氏(1993-2009、元オリンパス)の
開発製品は、極めて強い汎用化思想・標準化思想が見られ
好ましいが、それはあくまで自社(オリンパス)製品群の
範疇に留まりメーカーを超えての標準化・規格化までには
至っていない、
2008年、オリンパスでは「μ4/3規格」を発表、その仕様
や技術内容を公開、他社からの賛同を取り付る措置を
行ったが、多くの大メーカーはそれには乗って来なかった。
この時、まだ米谷氏は、ご存命であったので、こうした
汎用化・標準化・規格化には尽力し続けたのであろう。
他社においても著名な技術者は居たが、自社の枠を
超えて、他社との連携を取ろうとした例は極めて少ない、
下手をすれば「そういう政治的な話は、技術者の本分
(仕事)では無い」とも、考えていたのだろうか・・?
いや、場合により標準化は「敵に塩を送る」ようにも
解釈されてしまう要素も世間的にはあるだろう・・
勿論、そうでは無く、ユーザー利便性が上がる事で、
市場は、むいろ拡大するのだ。(PC業界がその一例だ)
今から80年以上も前の、ドイツの「ライカ・コンタックス戦争」
(=ライバル関係を強く意識して、カメラの様々な仕様や表記を
お互い、全て逆にして設計された)の名残りが、日本にまで輸入
されてしまい、ずっと日本国内の製品仕様や表記法などの規格が
統一できないまま、というのは極めて残念な話である。
この話は「残念」では済まず、その事(仕様がバラバラ)は
ユーザー利便性を極めて損なうケースもある(例:同じメーカー
の製品でシステムを組まない限り性能が発揮できない)、
こうした「排他的仕様」は、私の機材購入ポリシーに大きく
反するので賛同できず、「出来るだけそういう製品は買わない」
というスタンスを取っている。
全てのマニア層がそういう行動を取っている訳では無いと思うが、
新製品にそっぽを向けるマニア層が多いのも事実だろう。
もし、その事が、2010年代以降の一眼レフ市場の縮退を
引き起こしている要因の1つになっているのならば、あるいは
2018年からの各社一斉のフルサイズ化ミラーレス機があまり
普及しない要因となっているならば、これはメーカー側も
認識するべき極めて重要なポイントだ。
ちなみに、この「感じ」はデジャビュ(既視感)がある。
1990年代、バブル崩壊以降に、バブル期に企画開発された
AF一眼レフカメラは、マニア層や世の中のニーズと大きく
かけ離れた製品となり、まったくの不人気になってしまった。
マニア層は新鋭AF一眼レフを誰も買わず、古い時代のMF一眼レフ
等を買いあさった為、「第一次中古ブーム」が加熱してしまった。
各カメラメーカーは、高級コンパクトカメラや、昔のカメラの
リメイク版を作って対応、これらはマニア層にも受け入れられた為、
なんとか市場崩壊は避けられた、という重要な歴史的事実がある。
(注:「マニア層の数など、たかが知れている」という判断も
あるだろう。勿論それはそうだが、事の本質がわかっていない
ビギナー層等は、周囲の、カメラに詳しい人の意見を聞いて
購買行動に結びつける。ネットもまだ普及していない時代
であるから、それは当然だ、だから、マニア層の購買行動や
評価は、周囲や市場全般に与える影響が強かったと言える。
そして、ネット社会が普及した現代においては、誰でも
「にわかマニア」として情報発信が可能となったが、それが
必ずしも全て的確で正しい情報であるとは限らない。だから
むしろ現代の方が、情報の真偽を見抜く事が難しくなって
しまっている。基本的には、正確性に欠ける表記とか、根拠の
無い思い込み評価は、信用するに値しないと思う事が賢明だ)
・・で、つまり上記の歴史は、バブル崩壊後でユーザー層に
経済的損失があったり、余分なお金が無かったから、新鋭の
カメラが売れなかった、という訳では無い。その時代の
「バブリーなカメラ」に、製品としての魅力が無かったから、
誰も買わなかった訳だ。
現代のカメラ市場でも同様かも知れない。スマホやミラーレス機が
出てきたから一眼レフが売れなくなった、等と言った、ありきたり
の市場分析をして、新型一眼レフに不要なまでの超絶性能を与えて
高価な価格とし、それで一眼レフ販売数の減少を利益でカバー
しようとしているならば、それは根本的に何かがおかしいのかも
しれない・・ つまり市場の変化が責任なのではなく、カメラの
企画コンセプトそのものに問題があるのではなかろうか・・?
そして、「もう一眼レフは限界だ」と見限ったのか、2015年
頃から魅力的な一眼レフ新製品は殆ど登場せず、さらに
2018年秋から、各社一斉に(高価すぎる)フルサイズ・
ミラーレス機に転換したのであれば、どうにも、ユーザー層を
ちゃんと見ていない製品戦略にも思えてならない。
(で、その高額ミラーレス機は売れているのであろうか?
私は、その手の新鋭カメラを使って撮影している人を、
発売後約半年間程度、全く見かけた事が無かった・・)

本レンズAi105/4の話を始めよう。
本レンズは1/2倍マクロレンズである、別売(?)の接写リング
(通称:ゲタ)のPN-11を使用すると等倍までのマクロとなるが、
この場合∞は出なくなり、1/2倍~等倍までの近接距離専用となる。
レンズ鏡筒にはPN-11使用時の撮影倍率が目盛りとして書いてある。
PN-11無しの場合の本レンズの最短撮影距離は47cmである。
NIKONの接写リングは色々と所有してはいるが、デジタル時代の
撮影技法的な観点では、適正なアタッチメントとは言えない。
今回は、それらを使用する事はやめておこう。
レンズ構成は3群5枚(ヘリアー型)とシンプルだ。
発売数年後に後期型(Ai~S型)として小改良されている模様
だが、光学系は共通だと思うので、そのあたりはあまり
気にする必要は無いだろう。
なお、ニコン党の人の中には、非Ai、Ai、Ai改、Ai~S等の
ニコンMFレンズ群の細かい仕様の差異に非常に詳しい方が多い、
マニア層のみならず、実際にF2やF3を現役で使っていた
シニア層でもそういう傾向が強くある。
まあ確かに当時の銀塩ニコン機を使う上では上記の差は重要で
あり、ボディとレンズの組み合わせによっては、使えない場合も
あったから当然だろう。
しかし現代、ミラーレス時代では、Fマウントアプターを使えば
上記レンズ群は、どれも問題なく使えるので、細かい差異は、
ほとんど気にする必要は無い。
・・と言うか、細かい仕様の差を必要以上に気にするベテラン層
が極めて多く、そこが逆に問題だと思っている。
そう思ってしまう原因は、「新しいレンズや高価なレンズは、
常に描写性能が高いレンズだ」と誤解してしまう事がある。
それから「高性能なレンズでないと、上手く撮れない」という
不安も抱えているからだと思う。
レンズの仕様差の正確な「知識」、そしてレンズの特徴を評価
する「眼力」と、それを上手く使いこなせる「技能」があれば、
そうした仕様の差等は、本来、どうでも良くなる筈だ。
また、「投機上」の観点もあったかも知れない。つまり販売数
が少ないレアなレンズならば「後年に高く売れる」という期待
からだ。でもまあ、それもレンズを「全て実用品だ」と考える
マニア的観点からすれば、ちょっと受け入れ難い話でもある。
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また余談が長くなった(汗)、本Ai105/4の話に戻る。
本レンズは開放F4と暗いレンズだ、現代の超高感度カメラ
では何ら問題は無いが、近接撮影では「露出(露光)倍数」も
かかって、最大2.25倍程度、さらに暗くなる。
これではシャッター速度が低下するので、銀塩時代では使う
事がなかなか困難であったと思われる。この問題を改善した
後継レンズは1985年のAi Micro-NIKKOR 105mm/f2.8である。
大口径化と共にレンズ構成もかなり複雑化している模様だが
F2.8版は残念ながら未所有であり、その写りはわからない。
105mmというレンズ焦点距離はニコンの伝統であり、ニコンの
ほぼ全ての100mm級レンズは、105mmの焦点距離となっている。
古くは、Sマウントの時代のNIKKOR-P 10.5cm/f2.5(1960年、
本シリーズ第4回記事)あたりからずっと105mmとなっていた。
例外は確か1例のみ、シリーズE100mm/f2.8(ハイコスパ
第13回記事等)だけだったと記憶している。
なお、「マイクロ」を「マクロ」と呼んだ例外もある、それは
「ニコンおもしろレンズ工房」の中の「ぐぐっとマクロ」
(ミラーレス・マニアックス第13回記事)の1例だけだと思う。
(恐らく、後者のレンズはニコン社外での企画設計であろう)

この時代のマクロの例に漏れず、解像力優先でボケ質破綻が
若干出るのだが、あまり気になる程では無い、
しかし開放F4と暗いレンズなので、ボケ質破綻回避の技法は、
絞り値の自由度があまり無い。それに今回使用のNIKON Dfの
光学ファインダー+開放測光では、そのボケ質破綻回避の技法は、
全く使えない。撮った後からでしかボケ質は確認出来ないのだ。
購入価格は一般的相場より安目の8000円、まあ準ジャンク
扱いでリサイクル店で買ったからであり、カメラ中古市場では
この手のオールドMFニコンレンズは、初級マニア層、シニア層、
投機層等が高値での取引を行う為、値段が吊り上がってしまい、
2万円台以上とかが普通だ。しかし、そうした価格だと本レンズ
の性能からすれば、購入に値しないコスパの悪さとなる。
まあ1万円台前半程度までが妥当な相場であろう。
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さて、次のシステム

(中古購入価格 2,000円)(以下、M75-150)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
恐らくは1970年代後半の発売と思われる、小型軽量の
中望遠開放F値固定MFズームレンズ。
Mシステム(MX)が1976年の発売であり、PENTAX MXの
「当時世界一の小型さ」に合わせた、小型軽量化の
コンセプトが、このMシリーズレンズの特徴だ。

ライカが決めたと言われている焦点距離系列(たとえば、
28mm.35mm,50mm,90mm,135mm等)に、
あえて反発した焦点距離のレンズを良く作っていたので、
あまり驚くには値しない。
ズーム比は2と小さいが、PENTAX伝統の「開放F値固定の
小口径ズーム」であり、この点では使い勝手は良い。
PENTAXで、ライカの焦点距離系列に反発していた理由の
1つとして、「望遠レンズでの手ブレ限界」に配慮していた
設計コンセプトがあったと思われる。
せっかく世界一の小型(軽量)のカメラを作った訳であり、
それまでのように、「カメラは三脚を立てて撮るものだ」
という一般的な常識を壊さないと、小型軽量が活かせない。
この時代、CONTAX RTS(1975)も発売されていて、そこでも
ツァイスレンズを絞りを開けて撮る(当然、手持ちだ)が
推奨されていた。時代は、「三脚から手持ちへ」と
大きく変化していた。(注:40年以上も昔の話ではあるが
当時のユーザー層は、現在でも70歳代と現役である事も
あって、シニア層等では現代に至るまで、こうした古い
時代の撮影技法を頑なに守っている事も多い)
その際、ビギナー層では、望遠レンズでは手ブレするリスク
が大きい。特に、その当時ポピュラーな200mm F4級望遠だと、
日中でも、初級者の手ブレ限界の1/250秒のシャッター
速度を維持するのは難しいケースも多い。
なので、これを1/125秒と、要件を緩和し、それに対応する
レンズ焦点距離として、120mm~150mm程度の望遠レンズが、
ビギナー層が扱える限界焦点距離、という企画コンセプトで
あったのだろう。(本レンズ M75-150に限らず、120mmや
150mmの望遠レンズも、この時代のPENTAXにあった)
(参考:120mmレンズの開発秘話で「標準レンズの2.5倍
までの焦点距離(=125mm)であれば、手ブレし難い」
というPENTAX技術者の話があって、マニアの間では有名な話だ。
しかし、今から考えると、これは対外的にノウハウを隠す為の
「方便」であり、実際には初級者の手ブレ限界速度を1/125秒
とした場合での設計基準を設けたものであったと推察している)

ただ、これについては、本レンズはジャンク品であり、
僅かなクモリ(カビ?)があるので、それが原因の要素も
大きいと思う。
その他の性能は、古いのは確かだが、あまり不満は無い。
NEX-7との組み合わせで、約112mm~約225mmの、ちゃんと
した望遠画角となるが、小型のNEX-7での望遠システムとしては、
バランスは悪く無い。直進式ワンハンド・ズームでもあるので
望遠MFレンズとしての操作性は秀逸だ。

様変わりしている。それは勿論、銀塩ビジネスモデルの崩壊で
地方DPE店や、中古カメラ店が激減した事があり。さらには
ネット商流の普及もある。
結局、現代での中古市場は、ネットオークション、チェーン
店によるネット販売、大都市圏の老舗専門店が主流となって
いるのだが、まあ上級マニア層では、「目利き」の効かない
オークションは使わず、「現物を見て買う」が基本だ。
また、老舗中古店は、ライカ、コンタックス、ニコン等の
銀塩機(一部デジタル機)が主力商品であり、これらの
「ブランドカメラ」は、高付加価値(高く売れる)と、
時間を置いても相場が下がり難く、在庫リスクが少ない
からだ(デジタル機では、すぐに二束三文となる)
まあブランド品に憧れるのは、これらの銀塩機を若い頃に
憧れたが、高価すぎて買えなかったのを、時代が過ぎて
「可処分所得も上がったので買う」という傾向もある。
これはカメラに限らず、楽器とか乗用車とかの様々な
市場分野でも同様だ。
で、例えば、高級機に憧れたのは20歳前後と仮定しよう。
1960年前後のNIKON FやライカM3の世代は、現在80歳前後
1970年代のNIKON F2やCONTAX RTSの世代は、現在70歳前後
1980年代のNIKON F3やライカM6の世代は、現在60歳前後
となる。
なお、この後の時代では、歴史的な価値のある銀塩機は
残念ながらかなり少なく、あえて言えば、1990年代の高級
銀塩コンパクト位(例:CONTAX Tシリーズ、RICOH GR1等)
であり、それに憧れた世代は現在40歳代となる。
まあつまり、古い銀塩機(特に一眼レフやレンジ機)を
欲しがる世代は、既にかなり高齢化していて、もはや写真を
撮れる年代では無くなりつつある状況だ。
実際の所、銀塩機を買ったところで、フィルムを入れて銀塩
写真を撮る筈もなく、飾って眺めておく状況が殆どであろう。
それから、ここまでの話は、「ドンピシャの世代」であるが、
カメラの世界では、先輩マニアから後輩マニアへと、情報が
(真偽入り混じって)伝播されていく傾向が強い。
そこで先輩マニアが「ライカとコンタックスはとても良く写る」
などと言えば、その情報が時代を超えて継承されてしまう。
だが、この例などは、実際のところは、現代とは時代が大きく
違うので、もうなんとも言えない。
80年~100年前後の前の古い設計のレンズと、現代のレンズ
を比べても、技術的水準は比較にもならない事は明白だ。
ただまあ、レンズ描写力は単純に数値性能だけでは決まらない
事も確かであり、オールドレンズには、それなりの良さもある。

本M75-150については、まあ普通に写るが、必携のレンズ
とは言い難い。地味なスペックである点でも、人気のある
レンズとも言えない。
しかし、PENTAXのこの時代の設計思想を考察する上では、
なかなか興味深い研究対象となるレンズとも言えるであろう。
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さて、次のシステム

(発売時定価22,000円)(以下、VS-LD25N)
カメラは、PENTAX Q (1/2.3型機)
発売年不明(2000年代?)の、マシンビジョン(FA)用
MF単焦点手動絞り近接専用レンズ。
最大撮影倍率1/4倍、初期メガピクセル対応、、
2/3型センサー対応、Cマウント。
開放F値は撮影距離に関連した「露出(露光)倍数」に応じ、
F2.1~F2.5程度となる。

接点が無い為、これを知らない人に説明するのは難しい。
まあ、興味があれば「特殊レンズ・超マニアックス第1回」
や「匠の写真用語辞典第3回」記事を参照していただきたい。
そして、こうしたレンズを使うのは、様々な、この分野に
係わる専門的な知識が必要であり、そうして無事撮影用の
システムを組んだとしても、高度な撮影技能を要求される
為、そう簡単な話では無い。
マニア向け、というよりも、むしろ専門家向けの分野であり
あまり詳細について説明しても、一般カメラユーザーに
対しては無意味かも知れない。こうしたレンズを入手する
のも難しいし、好んでこうしたレンズを入手したいとも
思えない事であろう。
基本的な話だけを書いておけば、まずマシンビジョン用
レンズには「対応センサーサイズ」があり、これを上回る
大きなサイズの撮像素子を持つデジタルカメラで使用すると、
画面周辺がケラれてしまう。
第二に、レンズのマウントに応じた、マウントアダプター
を使用して、デジタルカメラに装着する。概ね多くの
マシンビジョン用レンズは、Cマウント(内径1インチ、
ピッチ0.794mm、フランジバック17.526mm)である。
(注:旧CONTAXレンジファインダー機の「Cマウント」
とは全く違うものである)
第三に、これらのレンズには、スペック的には非公開の
解像力の性能があり、使用するデジタルカメラのピクセル
ピッチを計算し、解像力をその単位に変換し、それが条件を
満たているか否かを調べ、レンズ解像力に対して満たして
いない場合には、適宜記録画素数を変更する等を行ってから
使用する。
それらの計算例を挙げると、
本VS-LD25Nの場合、2/3型対応であるから、それ以下の
センサーサイズのデジタルカメラでなくてはならない。
分数ではピンと来ないので、まずこれを小数に変換する。
2/3型とは、小数では、0.66型だ。
PENTAX Qは1/2.3型なので、これは0.43型となる。
また、PENTAX Q7だと1/1.7型なので、0.58型である。
これらの機種であれば、2/3型レンズでもケラれない。
それから、μ4/3機は1.33型だが、これを2倍デジタル
拡大(テレコン、ズーム)モードで使用すると、0.66型
となり、これもギリギリで使用可能だ。
これより大きなセンサーサイズのカメラは、そう簡単には
使用できない(その詳細は長くなるので割愛する)
次いで、Cマウントアダプターを準備するが、これは
PENTAX Qマウント用も、μ4/3用も市販されている。

非公開だ。例えばレンズ解像度チャートあるいはマイクロ
メーターというものを実写して計測は可能だが、専門的な
道具なので入手は困難だし、一般カメラマンが持っていても
殆ど意味(価値)が無い。
まあ、概算だが、本VS-LD25Nの場合、140LP/mm前後だと
思われる(この数値の詳しい意味も割愛する)
また、この数値は最良の値であり、画面上の場所や
絞り値によっても性能は変化する。
この場合、解像可能な長さ(幅)をピクセルピッチに
置き換えて示すと、だいたい3.5μmとなる。
次いで、PENTAX Q等の母艦のピクセルピッチの計算だ。
PENTAX Qは1/2.3型機なので、センサーサイズと
記録画素数からは、ピクセルピッチは1.55μm程度だ。
(注:ピクセル開口比等の専門的な要素は無視する)
まあ、これでは、レンズの性能が全然足りない。
なので、PENTAX Qの画素数を適宜下げて(例:300万画素)
使わないと、画素数に対してレンズ解像力が出ておらず
システム要件を満たさない、という計算となる。
ただし、ここで記録画素数を下げる設定を行ったとしても
それによりピクセルピッチを広げる効果があるかどうかは
(PENTAX Q等の)各々のデジタルカメラ毎の画像処理的な
内部動作原理によるので、その詳細は明らかでは無い。
そして、PENTAX Qはローパスフィルターを持たない仕様
であるし、ピクセルピッチが小さすぎる(例えば、超高画素
の新鋭フルサイズデジタル一眼レフよりも遥かに小さい)
ので、まあ、上記計算通りに設定しておくのが無難だ。
余談だが、現代のデジタル一眼レフ(フルサイズ、APS-C機)
では高画素機であっても、ピクセルピッチは4μm程度迄だ。
μ4/3の高画素機では3μm程度、つまりセンサーサイズが
小さい方が、画素数を上げるとピクセルピッチが小さく
なりすぎ、その分、レンズも超高解像力の物が必須となる。
ここのバランスを良く考慮しないと、単純に画素数の高い
カメラが良く写る、とかは言えない事になる。
---
さて、撮影前に、ここまでの様々な計算が必要となるのだが、
正直言えば専門的すぎて、一般のカメラマンには無理だ。
さらに、ここまでして撮影システムを組めたとしても、
実際の撮影は技術的に極めて困難である。特に本VS-LD25N
は近接撮影専用レンズであるので、その難しさは倍増する。

あるが、基本的には、一般ユーザーには非推奨としておく。
しかし、色々と手間はかかるが、奥が深くて、なかなか
面白い機材ジャンルであるとは言える。
実を言うと、現在、この手のレンズは、一般ユーザーでは
購入する事すら出来ない状態だ。つまり業務用での販売で、
あり、法人(会社組織等)で無いと購入できない。
ここが私としては最大の不満事項であって、自由に個人で
これらを入手したい訳だ。(ちなみに、中古もまず存在
しない)
で、もし、こうしたレンズ群が、一般カメラマンにも広く
知られるようになり、欲しがるユーザーも増えて、万が一、
カメラ(レンズ)市場で(中古も含めて)流通が始まったら、
それは個人的には、とても嬉しい事だ。
あくまで万が一なのだが、そうなる可能性を願って、今後も
この手のマシンビジョンレンズの紹介を続ける事にしよう。
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では、今回ラストのシステム

(中古購入価格 9,000円)(以下、Ai(Micro)55/3.5)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)
恐らくは1970年代後半の製品と思われる1/2倍標準マクロ。
4群5枚で、最短撮影距離は24.1cm、勿論MFだ。
この後、1980年代からは開放F2.8版となり、レンズ構成も
変化し、同じハーフマクロでありながら、最短撮影距離も
僅かに変化している。

これを使っていたものの、ボケ質が非常に固く、好みに
合わない描写であった為、1990年代にAiAF Micro 60/2.8
に買い換えた(AiAF版は等倍マクロ)
だが、AiAF60/2.8のボケ質も、やはり好みではなく
その後は、NIKON製マクロ(マイクロ)の購入は控え、
もっぱら他社製マクロ、あるいは他マウント機でマクロを
色々と使う事になる。
だが近年になって、これまで集めてきた様々なマクロ
レンズを撮り比べて、色々と研究していくと、どうやら
本Ai55/3.5のようなマクロを「平面マクロ」と分類できる
ように思えてきた(匠の写真用語辞典、第5回記事参照)
まあつまり、平面被写体に特化し、その際の解像力を
高めるようなコンセプトで設計されたレンズという事だ。
であれば、その特性を理解した上で、レンズの弱点を
回避するような被写体や撮影技法を選べば良い事になる。
そこで、約20年ぶりに、本レンズを買い直す事とした。
中古市場には、後継のF2.8版も当然販売されているが、
F2.8版はAFの物を所有しているし、あくまで「平面マクロ」
が欲しいので、F3.5版を選択した。
さて、解像力重視という事であれば、母艦も考えて選ぶ
必要がある。例えば冒頭の Ai Micro 105/4の母艦は
フルサイズ機NIKON Dfを使用したが、その機体は画素数も
1600万と控えめで、ピクセルピッチも約7.2μmと大きく、
ローパスフィルターもある。
よって、NIKON Dfは、銀塩時代の解像力の低いオールド
レンズを使う際に、センサーの方が過剰性能にならずに
バランスが良い訳だ。
でも、逆に言えば、解像力の高いレンズを使うには、
NIKON Dfは適さないとも言える。
そこで、今回の母艦NIKON D500であるが、こちらは
APS-C機で約2000万画素であるから、ピクセルピッチは
約4.2μmと、NIKON Dfより遥かに小さく、その結果として
高解像力仕様のレンズとの相性が良い。
できればローパスレスであれば、なおバランスが良いが、
D500はローパス有りの仕様だ。
まあ、こういう事を色々と考えていくと、下手をすれば
レンズの仕様や性能毎に、様々なカメラボディが必要だ、
という事になる(汗) それはちょっと、やりすぎかも
知れないので、当面は、そういう研究や実験はやめておこう。

解像力が高い、とは言うものの、まあそれは今から
40年も前の時代のレベルである。
だから、現代における最新の高解像力仕様のレンズと
比べれば、さすがに、そこまでの性能は無いとは思う。
ただ、それでも本レンズは、十分に「カリカリ描写」だ。
ちなみに、この時代には「コピー機」は、まだ普及して
おらず、文書、絵画、画像、検体、資料などの複写には、
写真を使うしかなかった訳だ。
よって、そういう「平面被写体の複写」をコンセプトと
して設計されたレンズという事だ。これに類似する描写
傾向を持つレンズは、他にはOLYMPUS OM Zuiko 50mm/f3.5
Macro等があるし、冒頭紹介の「Ai105/4」も平面マクロ
的な特性を若干持っている。
なお、こういう、解像力および歪曲収差低減を中心とした
設計とすると、たいていの場合画面周辺での解像力が
悪化したり、ボケ質が悪化したりしてしまう。
この問題の対策としては、まずフルサイズ機を使わず、
APS-C機やμ4/3機で、画面中央部だけを切り出して使う事。
それから、ボケ質に関しては、あまり対処の手段が無いが、
「ボケ質破綻技法」で色々と条件を変えて撮影するか、
あるいはもう、あまり背景ボケや前景ボケを作らない
被写体状況(平面構図)にするしか無いと思う。

引き出し、短所を出さないようにすれば、現代においても
十分に使えるレンズである。
また、今回は試していないが、その「固いボケ質」等を
弱点とは思わずに、逆に「個性」として利用するならば、
それはそれで、現代の、ある意味「高性能になりすぎた」
レンズに対しては、現代のレンズでは得られない独特の
描写傾向を得られると思う。それを、どう使うか?という
点は、そう簡単では無いが、テクニカル的には興味深い
のではなかろうか・・
最後に余談だが、近年、NIKON F2やF3の時代を生きて来た
シニアのマニアの方が、私が使っているこのレンズを見て、
「F2.8版の方が良く写ると聞きますが?」という質問を
してきた。私は「必ずしもそうとは限りません」と言い
さらに本レンズの開発の背景や、F2.8版とのコンセプトの
違いや使い方の違いを詳しく説明した。シニアのマニア氏は
「なるほど!」と納得した模様であり、今更ながらスペック
だけを見て良し悪しを語るのは早計だと理解した様子だった。
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さて、今回の第16回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。