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特殊レンズ・スーパーマニアックス(4)ロシアンレンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では「ロシアン」レンズを5本紹介しよう。
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ここで言う「ロシアン」とは、旧ソ連(ソビエト連邦:
1922~1991年に存在)製のレンズを指す。

旧ソ連製レンズの多くは、第二次大戦前の独ツァイス社が
戦後、東西分断された事から、「東側」に技術や設備が
流出し、そのレンズ設計等を流用またはコピーして戦後に
製造された物である。
まあ、そうした暗い歴史的な経緯はともかく、描写力には
定評があり、かつ安価であった。

ただ、第二次大戦前からは既に約80年の歳月が流れており、
ロシアンレンズが、現代的視点から見て、必ずしも
高描写力である保証は無い。(=要は、古すぎる訳だ)

また、ロシアンレンズは現代のデジタル機で使うには
システム的に厳しい場合もあり、装着する事で、カメラ
本体が壊れてしまう危険性すらある事は、良く認識する
必要がある。
ロシアンは、あくまで上級マニア向けであり、一般的な
カメラユーザー層には手がおえない為、非推奨とする。

なお、過去記事「ハイコスパレンズマニアックス第19回
ロシアンレンズ特集」と主旨が被るので、本記事では、
過去特集記事とは、また違うレンズを紹介しよう。

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まず、最初のシステム
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レンズは、Jupiter-37A (135mm/f3.5)
(中古購入価格 8,000円)(以下、Jupiter37A)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

【重要な注意点】
重要な事をまず最初に書いておくが、旧ソ連製レンズは
工作精度の品質基準等は、あって無いようなものである。
したがって、たとえM42マウントやNIKON Fマウント風の
見かけであったとしても、それを、そのまま国産デジタル
機(一眼レフ)に装着する事は極めて危険だ。

装着できないならばまだしも、装着したら外れなくなる、
あるいは撮影したらミラー等が干渉してカメラが壊れて
しまう等のリスク(危険性)が常に付きまとう。

よって、まず、上級マニア層以外では絶対に使用しない事。
そしてマニア層であっても、これらのロシアンレンズを
使用する際は、「必ずマウントアダプターを介して
ミラーレス機に装着する」事が必須条件だ。

この用法であれば、万が一レンズが外れなくなっても
アダプターが一個犠牲になるだけで済むし、ミラーレス機
であればミラー干渉などの故障リスクも無い訳だ。

本記事においても、この用法を守り、殆どのロシアンを
ミラーレス機で使用する。なお、APS-C機やμ4/3機では
レンズ本来の画角では無くなるが、そういう点は気に
しない方が良い。むしろ画角を狭くして、ロシアンレンズ
の典型的な弱点である、周辺収差、ボケ質破綻、逆光耐性の
低さ等を少しでも緩和しようとしている。

元々本シリーズ記事は「フルサイズ機で使わなくちゃ嫌だ」
等と言っているビギナー層向けの記事では無いので念の為。
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さて、本Jupiter37Aだが、恐らく1960~1980年代頃に
生産されていたと思われるロシアンレンズだ。
シリアルナンバーの上位が製造年である、という情報が
あり、それを信じるならば本レンズは1983年製である。

なお、旧ソビエト連邦では「メーカー」という概念は無く、
各レンズは、いくつかの国営工場に分散されて製造されて
いた次第だ。(この点も、レンズ製造の個体差に繋がる)
ただしレンズによっては、その工場名、あるいは製造地域
の工場が後年のソビエト崩壊で独立し企業化された際には、
企業名が冠される場合もある。(例:アルセナール社等)

さて、本Jupiter37Aに関しては、現代となっては、詳しい
情報が殆ど無いので、実際にレンズを触りながら、わかる
範囲で記事を進めていく。

本レンズはM42マウントである。プリセット型に似た
単独の連続値絞り環方式であるが、プリセット環は無い。
この手の構造の場合、絞り羽根枚数は極めて多く
数え切れない(汗)程だ。ただし、円形に近い絞り形状
の仕様だからといって「ボケ質」が良くなる訳ではなく、
あくまで、木漏れ日等の「ボケ形状」が良好なだけだ。

(注:1990年代頃に「円形絞り」技術が出て来た際、
大手メーカーでさえ、そうした誤解を生むような説明を
「確信犯」的に行っていたし、その詳細を隠してしまう為に
「ボケ味」等の定義不明な曖昧な表現を使う場合もあった。
つまりまあ、そうした曖昧な用語を使っている情報は、
基本的に、あまりあてにならない訳だ)

最短撮影距離は1.2mと、135mmレンズとしては標準的。
ただし、今回は「M42ヘリコイドアダプター」を使用し、
かつ、APS-C機に装着している為、実際のところは
マクロレンズ並みの撮影倍率を可能とするシステムだ。

レンズ構成は不明だが、一説には、Carl Zeiss Jena
(イエナ)製のSonnar 135/3.5のデッドコピーだとも
言われている。

レンズ開放F値と焦点距離の表記は、「ドイツ式」と
言われる「3.5/135」という順番で書かれている。
これは、カール・ツァイス系のレンズでは、現代でも
この表記となっているケースがあるが、他のほとんど
全てのメーカーが、焦点距離、口径比(開放F値)の
順で書かれている。ツァイスはいくつかのメーカーに
ライセンス供与をしているが、例えばSONYなどでは、
焦点距離、口径比、と現代の慣習に沿って書いている。
結局「ドイツ式表記」は、現代となっては少々異端だ。

また、これらの表記法は、現代のメーカー間でも、全く
統一されていない。これは好ましく無い状態である為、
本ブログでは、開設当初から、135mm/f3.5という
表記法を用いて統一している。これは必ずしも正しい
表記法では無いが、正解が無い以上、やむを得ない。
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さて、本Jupiter37Aの描写力だが、逆光耐性が悪く、
コントラストも低くて、フレアっぽい描写だ。
これらは弱点とは言えるが、まあ、やむを得ない節もある。

元々本レンズの設計のベースとなったSonnarを設計した
Carl Zeiss Jenaは、東ドイツにおける、第二次大戦後の、
今から70年程前の時代の企業だ、1970年代には西独の
ツァイスと商標訴訟が起こった、という暗い歴史もあるが、
それはともかく、Sonnar135/3.5やJupiter37Aは、
基本的に古い設計のレンズであり、それに加えて東独や
ロシアにおいては、コーティングの技術が未発達のままで
あった。
よって、MC(マルチコート)等の記載の無い、ほぼ全ての
ロシアンレンズは、逆光耐性に課題があり、コントラスト
が低いという、いわゆる「ヌケが悪い」とか「眠い」とか
評される画質となる。

また、ボケ質破綻が良く出る。まあ、これはレンズの
収差の一環ではある、昔のレンズの手動設計では、現代
レンズのコンピュター設計のように諸収差をバランス良く
低減できる筈も無く、また、低分散ガラスや非球面レンズ
といった、新素材・新技術が導入されている訳でも無い。

こういう点が、ロシアン全般の課題ではあるが、こうした
弱点を回避するには、まずは、光線状況を綿密に分析して
撮るしか無い。加えてボケ質破綻回避の技法も必須だ。
(匠の写真用語辞典第13回記事参照)

それらが出来るか出来ないかで、ロシアンレンズの
描写力は大きく変わり、当然ながら評価も変わってくる。
利用者側に、こうしたスキルを要求される状況であるので
ロシアンレンズの使いこなしの難しさが現れる訳だ。
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本レンズの総括だが、結局、利用者側のスキルによりけり
の要素が大きい、使いこなせなければ「ダメレンズ」となり、
上手く使う事ができれば「コスパが良いレンズ」となる。
まあ、これは、本レンズに限らず、多くのロシアン、そして
様々なオールドレンズ全般でも同様と言えよう。

(参考:2018年頃から新鋭の海外(中国製等)製レンズ
が急速に国内市場に普及している。それらの一部はオールド
名レンズの設計を流用し、APS-C機用にダウンサイジングした
ものもある。(これを「ジェネリック・レンズ」と呼ぶ)
この場合、オールド(名)レンズと同様の特性を持つ為、
元々の設計上にあった課題を理解・回避して使えるならば、
「コスパが良いレンズ」となり、使いこなせなければ、
「安かろう、悪かろうのダメレンズ」となってしまう)

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では、次のロシアン
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レンズは、アルセナール MC KALEINAR-5N (100mm/f2.8)
(中古購入価格 3,000円)(以下、KALEINAR-5)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

こちらはウクライナ製のレンズである。
恐らくは1980年代の製造と思われるので、その時代
であれば「旧ソ連」だから、「ロシアン」とも言える。

ウクライナは1991年のソビエト崩壊後は独立した国家
となり、アルセナールは、それ以前から首都キエフに
存在していた国営工場(現在も)であるが、現代的な
感覚からすれば、これはメーカー(企業)である。

旧ソ連時代から「キエフ」等のカメラを製造していた
事で著名だ。国内市場では「アルセナール」
(Арсенал)を「アーセナル」と呼ぶケースも
ある模様だが、元々のロシア語(キリル文字)を読んでも、
正確な発音は良く分からなかった事であろう。
例えば、独フォクトレンダーも、戦前の国内市場では
「ホクトレンデル」と呼ばれていた位だし、アルセナール
社がある都市(Kiev/Kyiv)も、キエフ、キーウ、キーイウ、
といった発音や表記が混在する。

同様に、本レンズKALEINARの正式名は、当然ロシア語
(キリル文字)ではあるが、パソコンでの文字入力が
面倒なので、便宜上アルファベット表記にしている。

ちなみに、ロシアンレンズ名の最後に良く出てくるHは、
英文字ではNであり、これは「ニコン(風)マウント」
の意味だ(注:完全なニコン互換マウントでは無いので
それらをニコン機にそのまま装着すると、外れなくなる
などのリスクが非常に高く、大変危険である。
ニコン風マウントであってもマウントアダプター必須だ)
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さて、本レンズの長所であるが、そこそこ良く写る事だ。
アルセナール製のレンズは、マルチコーティング技術も
採用されていたと思われ、他のオールド・ロシアンとは
一線を画す性能だ。

そして価格も安価である、まあ、価格については
入手の手法にもよりけりであろう。
ソビエト崩壊後の1990年代に、日本では中古カメラ
ブームが起こり、これらのロシアンレンズが国内市場
にも多数流通した。その中古相場は3000円~1万円で、
新品の場合でも5000円~2万円、というのが当時の
価格帯であった訳だ。

が、後年、デジタル時代の2000年代以降に、新世代の
初級マニア層等が、「ロシアンレンズって良く写る
のだろう?」とか言って、これらを探し始めた際には
中古相場が2万円~5万円と不当な迄に、吊りあがって
しまっていた事もあった。
これは、元々「数が少なく希少」である事と「それでも
欲しい」という初級マニア層や好事家と、流通や投機層
による、需要と供給のバランス点による結果の高値相場だ。

だが、「ロシアンは安くて良く写る」が大原則であり、
5万円も出すくらいならば、現代の新鋭高性能レンズを
中古で買った方が、比較の対象にもならないくらいに
良く写るのだ。それらの「絶対的価値感覚」を忘れては
ならない。
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本KALEINAR-5の他の長所だが、最短撮影距離80cmと、
100mmレンズにしては、かなり寄れる仕様となっている
事である。アルセナール製のレンズは、他にも最短が
短い物があり、とても「現代的な仕様」で好感が持てる。

ちなみに他の100mmレンズで、これより最短が短いレンズ
(マクロを除く)は、銀塩時代1980~1990年代頃の
OLYMPUS OM100mm/f2が70cm(ハイコスパ第18回記事等)
それから、2017年のSONY FE100/2.8STFが57cm
(本シリーズ第0回アポダイゼーション・グランドスラム
記事等。ただしMACROモードへ要切換)が存在している。

KALEINAR-5の総評だが、全体的に悪くないレンズだ。
入手性が悪いのが課題だとは思うが、もし安価に
見かけたら買う価値はあるだろう。

ちなみに、銀塩時代末期に、私はこのレンズを2本
所有していたが、内1本は、製造個体差でNIKON機に直接
装着が出来ずに手放している。中古市場で、その個体が
約20年ぶりに巡って来たら不運かも知れないが(汗)
まあでも、もしかすると、現代のマウントアダプターを
介せばミラーレス機には装着可能かも知れない。

正式な読み方が不明なレンズであるが、高性能なので、
私は「華麗な~る」(笑)と、駄洒落で呼んでいる。

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では、3本目のシステム
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レンズは、KMZ Industar-50-2 (50mm/f3.5)
(新品購入価格 7,000円相当)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

恐らくは、1960年頃から1990年頃迄、長期に渡って、
KMZ(クラスノゴルスク機械工場)で生産されていたレンズ。
同工場は、銀塩カメラ「ゾルキー」や「ゼニット」
交換レンズの「ZENITAR」を生産した事でも著名だ。
(参考:また、ごく近年では、Lomography(ロモ)社の、
高付加価値型レンズ(ダゲレオタイプやペッツバール等)の
レンズ製造を行っている事でも知られている)

なお、同工場は1927年頃、カール・ツァイスの子会社
に関連する「ポドリスキー機械工場」が設営したという
ことである。

本Indastar-50-2も、ツァイス・テッサー(1902年設計)の
3群4枚レンズ構成のコピー品であり、ツァイス(の子会社)
が関与していたのだろう、と想像できる。
レンズマウントは、M42対応品である。
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さて、「テッサー」と言うと、国産品については、
1980年代~の京セラCONTAX版の Tessar 45mm/f2.8を
まず連想するであろう、それは「パンケーキブーム」の
引き金になったとも思われる薄型レンズであった。

本Indastar-50-2は、パンケーキという程には薄型では無く
どちらかと言えば「小型レンズ」というイメージである。
「格好良い」事が特徴ではあるが、反面、小型すぎて
操作性が良く無い。特に、絞り環がレンズ前面での操作
となり、絞り値の指標も前面からで無いと見えないので
そこが使い難く不満だ。

京セラCONTAX Tessarは、45mm、F2.8、最短60cm
という仕様であったが、本Indastar-50-2は、50mm、F3.5、
最短65cmと、僅かづつだがスペックが異なっている。

それと、本レンズは、ロシアのKMZ工場に残っていた
在庫品を近年に日本国内の業者が輸入したものであり、
新品販売で、ティルトアダプター付きでの販売であった。
今回は、そのティルトの効果も交えて撮影している。
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描写力だが、多数存在するテッサー型レンズは、
いずれも似たり寄ったりという印象だ、そこそこ良く
写るが最短撮影距離も長い為、絞りを開けて使うよりも、
絞って中遠距離被写体を狙う撮り方がセオリーだ。
絞り込んだ時の描写力は、たいていのテッサー型の
レンズにおいて、あまり不満は無い。

一眼レフ用の開放測光のテッサーは、「焦点移動」が
出る弱点もあったのだが、こうした連続値絞り環を持つ
絞り込み(実絞り)測光タイプであれば、焦点移動は
起こらないので心配は無い。

ただまあ、ありふれた構成のレンズである。古今東西、
テッサー型レンズは、単体の交換レンズはもとより、
銀塩コンパクト機搭載レンズ等で、星の数ほどある。
まあ「テッサー」は商標なので、そうは書かれてはいない
までも、世の中には、あのカメラのレンズも、この交換
レンズも、いくらでもテッサー型レンズが存在する。

そもそも、今更、100年以上も前の時代の発明のレンズを
有りがたがる必然性も全く無い。
テッサーが高く評価されたのは、その100年も昔の話なの
だし、その特許が切れた数十年後には、世の中のカメラ用
レンズが、殆どテッサー型に席巻されてしまった状況だ。
そして、近年に至るまでテッサー型構成のレンズは、いくら
でもあるから、これを「オールドレンズ」と呼ぶのも
見当違いだ、つまり、ごくポピュラーな「定番レンズ」だ。
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・・と言う事で、特筆して紹介する内容も無いので、
本Indastar-50-2に関しては、このあたりまでで・・

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では、4本目のロシアン
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レンズは、アルセナール MIR-24N (35mm/f2)
(中古購入価格 8,000円)(以下、MIR-24)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

前述のKALEINAR-5N と同じくウクライナのKIEVにある
国営工場で製造されたレンズ。
製造年は不明、恐らくは1980年代前後であろう。
ニコンFマウント類似のKIEV-19用マウントであるが、
前述のように、ニコン機への直接装着は避ける事が賢明だ。

だが、今回、ちょっとした実験をする為にニコン機を
使用している、その実験内容については後述する。
実は、この個体に関しては、ニコン機に装着可能である。
だが、全ての個体で、そうである保証は無い為、(安全な)
マウントアダプターを介した装着を推奨している訳だ。

(なお、装着安全を確認するためには、多数の、各時代の
ニコン製一眼レフ(ジャンク機含む)で事前検証をする必要が
ある。一般的なユーザー環境では、そうした事は無理であろう。
私の場合は、およそ50年の間に製造された十数台の各時代の
NIKON製一眼を所有していて、それらに順次装着テストを続け、
新鋭機に本レンズを装着しても大丈夫である事は確認済みだ。
勿論ロシアンレンズには製造固体差もある為、他者が全く同じ
システムで使用できるとも限らない。あくまでそこはリスクだ、
リスクを「自己責任」として容認できる上級マニア層以外では、
新鋭一眼レフへの直接装着は、決して試してはならない)
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さて、キエフ(地名)で作ったカメラをKIEV(製品名)
と呼ぶのは、なかなかユニークな命名かも知れない。
例えば、日本産のカメラを「トーキョー」「オーサカ」と
命名するようなものだ。でもまあ、神戸六甲山の近くで
作られたレンズを「ロッコール」と命名した前例もある
ので、あまり不自然では無いのかも知れないが・・

まず、本MIR-24は、とても優秀なレンズだと思う。
過去記事の「名玉編」にもランクインしている位だし
ロシアンの中では特に高性能なレンズという認識だ。
1990年代には、輸入専門店等での新品販売もあった
模様だが、現代での入手は、少々困難な事であろう。

優秀な性能の所以としては、まず最短撮影距離が24cm
と短い事がある。これは古今東西の35mm級レンズでは
マクロレンズを除き、トップクラスだ。
(私が知っている範囲では、TAMRON SP35/1.8がトップ
の最短20cm、そしてSONY DT35/1.8の23cm、に次いで
本MIR-24は第3位相当である)

逆光耐性やボケ質も、多少そのあたりに注意しながら
撮れば問題は無い。
ただし、ここも上級者や上級マニアレベルのスキルが
必須となる、「レンズの言うがまま」にしか撮れない
初級中級者の場合は、ロシアン、あるいはオールドレンズ、
または新鋭中国製レンズを使いこなす事は、まず困難だ。
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ちなみに、世の中で「オールドレンズによる写真」と
称するもので、酷い写りのものが多いのは、それは
レンズの欠点を回避できないで使っているから、そうなって
しまう訳だ、ちゃんと使いこなせるのであれば、オールド
レンズでも、そこまで酷い写りにはならない。

なお、職業写真家等が、オールドレンズでの酷い写りの
写真集等を出しているのは、その場合は、あえて酷いもの
を選んでいる訳だ。何故ならば「オールドレンズ」と
タイトルに書く以上、読者は酷い写りのものを期待する
からである。オールドレンズと言っているのに、普通に良く
写ってしまったら面白く無いし、そもそも、下手をすれば
オールドの方が綺麗に写る、となったら、世の中の新製品
レンズの立場が無い。だから市場における「倫理」を崩壊
させない為にも、「オールドレンズは酷い写りでなくては
ならない」という「大人の事情」がある訳だ。

それから、たとえ職業写真家であっても、オールドレンズ
撮影の専門家等は、まず居ない、
当然ながら、それだけでは生計が立たないからだ。
業務撮影のほぼ全ては、現代の撮影機材を使う事であろう。

だから、専門的では無い職業写真家層では、オールドレンズ
の使いこなしが、ちゃんと出来ていないのかも知れない。
そういうレンズ群に多数触れる機会があったり、実際に
それで多数の写真を撮影しているのは、職業写真家層では
なく、むしろ上級マニア層なのだ。
まあ、「職業写真家兼上級マニア」という人も存在はする。
でも、その場合でも、ロシアンやオールドでは、飯のタネ
には殆どならないだろうから、分類上は「上級マニア」だ。

さて、本MIR-24であるが、ロシアンレンズの一般的な
弱点を殆ど持たない特異なレンズだ。ある意味、使い易い
と言えるかも知れないし、反面、面白味の無いレンズとも
言えるかも知れない。
ただ、現代のレンズで「用途代替」が出来るのであれば
わざわざ本MIR-24を使う意味もあまり無い。
具体的には、現代のTAMRON SP35mm/f1.8を使うならば、
あらゆる点で、本MIR-24よりも高性能、高描写力だ。

MIR-24を使う意味は、「安価である場合」あるいは
「マニアック度を期待する場合」の2つしかなく、
とは言え、いずれも重要な実用価値は無い。
まあ、安価だったのは確かだが、現代では入手性が悪く
むしろ希少なレンズだ、もし、これを壊してしまったら、
代替の入手手段が殆ど無いので困ってしまう。
そういう意味では、多少高価でも現代レンズの方が
安心して使える。現代レンズであれば、万が一壊れても
修理に出すか、または中古で買い替えても良い訳だ。

結局、いくら「優秀なロシアンレンズだ」と言っても、
あまりこれ(MIR-24)を推奨する理由には成り得ない。

最後に、本レンズで少し実験をしてみよう。
MIR-24に、自作の「赤外線透過フィルター」を装着する。
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これは760nm以上の波長の光のみを通すゼラチンフィルター
を円形にカットし、ステップアップリングやフィルター枠で
挟み込んで自作したものだ。

このフィルターは可視光は通さないし、加えてカメラ側には
赤外線カットフィルターが入っているので、相乗効果により
映像が極めて(数千倍も)暗くなり、通常は撮影が不可能
となるが、NIKON D500の最高ISO感度は164万もある為、
ライブビューモード+超高感度でかろうじて撮影が可能だ。
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実際には、ISO感度を数十万~100万程度にすると、超高感度
における偽色と、IRカットフィルターの存在により、カラー
バランスが著しく狂って、赤い画像になってしまうのだが、
D500をモノクロモードにして、その問題を回避している。
なお、今回は作例は掲載していないが、本システムの場合、
銀塩赤外線撮影では(赤外領域での波長ピントずれにより)
不可能であった「赤外線近接撮影」が可能となる。

非常にマニアックで専門的な使い方であるが、参考まで。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、Jupiter-9 (85mm/f2)
(新品購入価格 5,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

恐らくは、1950年代~1990年頃まで生産された
ロシアンレンズの代名詞とも言える、著名なレンズだ。

有名な理由は、本レンズがCarl Zeissの旧CONTAX版の
Sonnar 85/2(3群7枚)をベースに設計した、という
事で、つまり「ゾナーと同等の安価なレンズ」といった
印象によるものだが、「厳密にはゾナーのデッドコピー品
ではなく、小改良がなされている(レンズ構成が異なる)」
という情報もある。

まあ、いずれにしても古い設計のレンズだ。いくら
旧CONTAXの銘玉と言っても、80年以上も昔のレンズだ、
むしろ、近代に至るまで、それとほぼ同じレンズを、
ずっと生産しつづけていた、という歴史の方が、
本Jupiter-9の偉業なのかも知れない。
c0032138_19223375.jpg
さて、このJupiterだが、「ジュピター」と読むのは
英語読みで、「ユピテル」と呼ぶのがロシア読みだが、
「ユピテル」もギリシャ神話に出てくる名前であるし、
国内通信機器メーカー名としても知られているので、
違和感の無い読み方であろう。

本記事で、Jupiterシリーズを2本紹介しているが、
他に著名なものとして、Jupiter-8 50mm/f2もある。

余談だが、ほぼ同名の電子楽器「ROLAND JUPITER-8」
(1980年)は、8音ポリフォニックのアナログシンセ
であり、疑う余地も無い歴史的名器(名楽器)である。

ただ、JUPITER-8は、当時の発売価格が98万円と非常に
高価であり、かつ、かなり大型のシンセでもあり、
楽器好きの私でも、さすがにこれを買う事は出来なかった。

その代わり「JUPITER-8をデジタルで復活した」と
呼ばれたアナログ・モデリングシンセ「ROLAND JP-8000」
(1996年)を所有している。こちらはJUPITER-8の
およそ1/6の価格で、音色は、ほとんどJUPITER-8だ!

このJP-8000は現在でも大切に保管しているが、鍵盤楽器
が沢山あって置くところが無く、しまいこんで、もう殆ど
弾いていない。たまには出してきて、名器の音を堪能すると
しようか・・

ちなみに、楽器の世界ではデジタル化が、カメラ界より
およそ15年も早く行われた。デジタル化して比較的早くに、
こうしてアナログの名楽器をリメイクする等は、なかなか
優れた市場戦略であった。

なお、デジタルカメラの世界では、そのJUPITER-8と
同時代の名機(名カメラ)を復活させようとする気配は無い。
具体的には、1980年前後の三大銀塩旗艦機のデジタル版、
NIKON F3 Digital、CANON New F-1 Digital、そして
PENTAX LX Digitalが発売されたら、マニア層にウケる事は
間違い無いと思うのだが・・
(まあ一応、デジタル版のOLYMPUS PENとOMがあるし、
NIKON Dfも、それっぽいとは言えるが、どうもオリジナル
機体ほどのマニアック度が、やや少ない。まあつまりカメラ
市場の縮退故に、遊び心が少なく、慎重すぎるリメイク版だ)
c0032138_19223374.jpg
さて、余談が長くなったが、Jupier-9がツァイスの
ゾナーのコピー品、という件だが、このゾナー型の
コピー品は、ニコン等各社で色々とあって、これもまた
前述の「テッサー」と同様に「定番レンズ」である。
だからまあ、あまりこれも「神格化」する必然性は無い。

ここでさらに余談だが、ツァイス製の写真用交換レンズは、
現代では全て日本製となっていると思われる。
しかし、強力なブランドバリュー(価値)を持つツァイスで
あるから、一部のレンズでは、日本のどのメーカーが作って
いるのかは完全非公開だ。
結局、初級中級層だけが、現代のツァイス銘レンズを
「カール・ツァイス製だぞ!」と、有り難がって買って
いる訳なのだが、それらは全て国産品なので念の為。

ここで言いたい事は、現代の初級層や初級マニア層は、
あまりそうした過去のブランド名などに拘る必要性は
無いし、神格化してしまう必要性も無い、という事だ。

本Jupitar-8が、いくら良く写るレンズだといっても
現代の新鋭85mm、例えばSIGMA ART 85/1.4とか、
TAMRON SP85/1.8には、描写力的には、遠く及ばない。
(いずれも他記事で紹介済み、または紹介予定)
また、同じくツァイス銘であれば、現代のコシナ・
ツァイスがMilvusやOtusの85mmを発売している。
それらは現状、僅かな数しか所有していないが、恐らく
他の新鋭85mm製品も全てが高性能なレンズであろう。
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まあすなわち、本Jupiter-9の国内流通が盛んであった
1990年代においては、入手する価値があったレンズだとは
思うが、現代においては新鋭85mmmレンズが色々とある為
本レンズを指名買いする理由は全く無いという事だ。

加えて、新品入手価格が5,000円と極めて安価であった
事もポイントだ。
もし現代において、本レンズがプレミアム相場になって
いるようであれば、ますます買う価値は無い。
仮に2万円も出すのであれば、中一光学85mm/f2という
選択肢もある、それは安価な中国製レンズながら、
本Jupiter-9に勝るとも劣らない高い描写力だ。
(ハイコスパレンズ第23回記事等参照)

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最後にもう1度書いておくが、ロシアンレンズやレアな
海外製レンズは、ボディへの装着の危険性という課題が
存在する。そこに留意する事は勿論、基本的にはロシアン
の使いこなしには高度な知識やスキルが要求される為、
あくまで上級マニア層向けであり、初級中級層に対しては、
一切推奨しない。

さて、今回の記事「ロシアンレンズ特集」は、この
あたり迄で、次回記事に続く・・


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