一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の写真用語や概念」を解説するシリーズ記事。
今回第14回記事は「ノウハウ編」でのサブカテゴリーの
「撮影技法・特殊技法」の「Part2」とする。
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<撮影技法・特殊技法>Part 2
★デジタル拡大機能
一般用語+独自概念。
まずデジタル拡大機能とは、画像処理的手法を用いて、レンズの
画角(焦点距離)を仮想的に伸ばす(拡大する)機能と定義する。
(注:ピント確認やMFの為に、EVFやライブビューでの表示画像を
拡大するケースは除く。その事は「拡大表示」と呼んでいる)
これはメーカーにより色々な処理方式や呼び名がある機能だが、
本ブログでは
・デジタルズーム(画角を連続的に変化させる事が出来る)
・デジタルテレコン(画角を1.4倍、2倍等、予め
決められたステップで段階的に変化させる事ができる)
の2種類に統一して、かつ区別している。
近年の多くのミラーレス機には、デジタル拡大機能が入って
いるが、一眼レフであっても例えばSONY αフタケタ機には
デジタルテレコン機能が搭載されているし、NIKON機での
撮像範囲設定(FX→DXまたはDX→1.3倍モード。いわゆる
クロップ機能)も、原理的には類似であると言える。
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一般初級中級層には、これらの機能は、以下の3つの理由で
嫌われている。
1)画質が悪くなる
2)画素数が減る
3)トリミング編集と等価な為、使う意味が無い
これらは確かに半分はその通りだ、だが、短所ばかりという
訳では無い、デジタル拡大機能を、より深堀りするには、
まず、その原理と効能を良く理解する必要があるだろう。
デジタル拡大には概ね以下の4つの方式がある。
A)単純拡大
→画像処理(スプライン関数、バイキュービック法、
ランチョス法など)により単純に画像を拡大する。
2~3倍程度迄ならば画質の劣化はあまり目立たない。
(注:ここでの「倍数」は、撮像素子の対角線長の変化だが
簡便には、レンズ焦点距離の変化と見なしても良い、
例:100mm画角→200mm画角になれば2倍)
B)超解像拡大
→画像処理手法の一種であり、画像の一部の特徴を解析
しながら、どのように補間するか(拡大したピクセル
の隙間をどれくらいの色にするか)を決めていく手法。
概ね上記単純拡大よりも高画質で拡大でき、4~6倍
程度までは画質劣化は目立たない。
このやり方(アルゴリズム)は各社様々だが、大別して
「1枚超解像」と「複数超解像」があり、前者は主に
デジカメや画像編集での静止画処理に用いられている。
後者は複数のフレーム(コマ)が必要な為に、従来は
ビデオデッキ等での動画処理(NTSC→ハイビジョン)等に
使われていたが、近年ではデジカメでも連写を行ってそこから
合成する「連写超解像」や、内蔵手ブレ補正と同様に撮像
センサーを微細に動かしながら連写を行い、それらを合成して
解像感を高める方式(例:PENTAX リアルレゾリューション)も
存在する(注:これを拡大処理とするか否か、は別の要素だ)
なお、この手法が高画質かどうかは、被写体の状況や、それ
に求める要素によりけりであり、常に期待するような高画質
な拡大処理が得られる訳でも無い。
(参考:下写真は、超解像拡大で輪郭線が固くなった例)
![c0032138_16363033.jpg]()
C)画素補完型拡大
→撮像センサーの記録画素数を、拡大と同時に低める事で
画質が劣化しないデジタルズーム(テレコン)が実現する。
例えば最大1600万画素のデジカメでは、800万画素に
落とすと1.4倍(=√2倍)、400万画素に落とせば
2倍の拡大率が得られる(その途中の画素数も原理的には
可能である)
画質が劣化しないのが最大の特徴だが、記録画素数が
減る事と引き換えだ。趣味撮影などでSNS等掲載用の
写真を撮ったりL判程度にプリントするならば、400万画素
もあれば十分過ぎる程であるので、そういう用途であれば
実用的な機能だ。
画素数が減る事については各社で2種類の方式があり、
・記録画素数を最初から低めておかないと、この機能が
利用できない(例:パナソニック)
・この機能を使うと記録画素数が自動的に減る(例:SONY)
があるので、自身の使っているカメラの仕様を理解しておく
必要がある。
![c0032138_16363099.jpg]()
D)センサーサイズの変更
→例えばフルサイズ機をAPS-Cモードで使うと 約1.5倍の
画角が得られる、あるいはAPS-C機でさらにセンサーサイズ
を(例えば μ4/3相当)に小さくして使うと、2倍程度の
画角が得られる。
NIKON機では高級デジタル一眼レフにこの機能が入っていて
これを「クロップ」(切り取る)機能と呼んでいる。
また、SONYフルサイズミラーレス機(例:α7)でも
フルサイズ→APS-Cモードに(任意に)変更が出来る。
上記C)の画素補間方式と原理的には極めて類似しているが
こちらの方式では、測距点や露出計算の分布パターンが
変化するので、それがメリットとなるケースも多々ある。
ただし、手ブレが起こりやすくなる弱点と、重要なのは、
センサーサイズが小さくなった分、勿論だが記録画素数が
減ってしまう。
勿論ここはユーザーの用途によりけりであり、減った
画素数でも写真を利用する解像度を満たしていれば、何ら
問題は無い。
ただ、ニコン機でもD4やDfでは記録画素数が最大でも
1600万画素しか無い為、例えば趣味撮影で画像サイズを
FXのS(約400万画素)や、M(約900万画素)で使っていて
遠方の野鳥を見かけた際等で、クロップしてDXモードに
設定変更すると画素数が大幅に減り、Sでは160万画素
Mでは、380万画素にまで減る。
160万画素はさすがに小さいので、本来であればクロップ
時には、同時に記録画素数を上げる(つまり上記Cの
画素補完方式とほぼ等価)ような仕様にして貰いたい。
まあ、NIKON機は全体に操作系仕様が練れていない(他社
よりもかなり遅れている)ので、こういう細かい配慮を
期待するのは難しいが、操作系仕様を良く考察してあって
その(インターフェース設計)専門部署まであるという噂の
SONYであっても、α7等では同様にAPS-Cモードでは単純に
画素数が減ってしまう。(この為、最初からαのAPS-C機
を使った方が簡便だし画素数的に有利になる場合もある)
さて、デジタル拡大の原理を理解したところで、概ね画素数の
減少や画質の劣化の問題は、用途や設定で回避可能だと言う
事が、わかったと思う。
以下は、さらに高度なデジタル拡大機能の応用についてだ。
これらの機能のメリットは概ね3つある。
1)デジタル拡大で測光パターンが変化する仕様の場合、
その操作においては、主要被写体の面積比率が、より
増える為、露出補正操作の必要性が減る。
(例:晴天時に遠距離の水面上にあるボートは、通常は
周囲の明るさに露出が合い、真っ黒に写るが、望遠に
すればする程、画面内のボートの面積比率が増えて適正な
明るさに近くなっていく、下写真2枚参照)
![c0032138_16364418.jpg]()
(注:この利点は、カメラ毎の画像拡大の方式によっては
得られない場合がある。例えば画面全体からの露出決定後に
デジタル拡大処理を行う場合は無効だが、センサーサイズを
小さくするクロップ仕様であれば有効である等)
![c0032138_16364489.jpg]()
2)被写界深度を維持したまま構図を変更できる(注:望遠
側のみ)あるいは撮影距離を変えながらデジタルズームを
併用して、絞り値に頼らずに被写界深度が変更できる。
この結果、作画的な構図自由度が格段に上がったり、
またはミラーレンズ等で絞りが無いレンズでも被写界深度が
変えられる(注:これは凄い利点である)
そして、さらに高度な使い方としては、前記事で説明した
「ボケ質破綻の回避技法」として非常に有益である。
3)業務撮影等で大量の画像を編集しなくてはならない場合
デジタルズームで予め構図を決めて撮影すれば、後での
トリミング編集の手間が大幅に減る(=編集コストが下がる
何千枚もの写真を何日もかけて編集していたら赤字だ・汗)
4)撮影時にこれら拡大処理を行う事で、「どう撮りたいか」
が十分に意識できる。事後のトリミング編集では、その意図
を忘れてしまっている事もある。(又は撮影者以外の人が
写真編集作業を行う事も、業務上では有り得るであろう)
これらのデジタル拡大のメリットは頭の中で考えているだけ
(例:デジタル拡大はトリミングと等価だ、という誤解)では
まずわからず、実際にこの機能を多用していないと見え難い
利点だ。
それから、デジタル拡大には、一般には見え難いデメリットも
いくつか存在する。
A)内蔵手ブレ補正機能が使い難い場合がある
オールドレンズ等の焦点距離情報が得られないレンズを、
内蔵手ブレ補正の焦点距離手動設定が可能なミラーレス機や
一眼レフで使った場合、各種デジタル拡大機能を用いると
見かけ上の焦点距離が変化してしまい、手ブレ補正が効かなく
なる場合がある(注:これは機種毎の拡大仕様によりけりだ)
また、当然の事だが、画角が狭くなると手ブレしやすくなる。
この為、1000mmを超える超々望遠域の換算拡大画角ともなると、
内蔵手ブレ機能は、ほとんどまともに動作しない。
(そして、1500mmを超えると、手持ち撮影は、ほぼ不可能だ)
なお、オールドの単焦点ではなく、(光学)ズームレンズを
使った時点でも、同様の理由でアウトであり、デジタル拡大
機能を使う使わないに限らず、内蔵手ブレ補正を利用する事は
困難である。(注:これは、どの機種でも同じだ)
B)最短撮影距離までは短縮できない
オールドレンズやレンジファインダー機用レンズでは
最短撮影距離が長いものが多く、特に広角レンズでは
最短が長いと、構図上、あるいは撮影アングル・レベルの
制限が大きく、やっていられない。
デジタル拡大機能で、見かけ上の被写体の大きさは大きく
できるが、最短撮影距離は変化しない為、被写体に寄る
事が出来ず、物理的な構図制限はそのまま残る。
C)望遠効果が出ない
デジタル拡大機能を用いても光学的な望遠効果が得られない。
「望遠効果」とは、以下のような要素を含む。
・レンズの焦点距離が長くなる事での被写界深度の減少。
・遠近感(パースペクティブ)の圧縮効果。
・被写体に対する背景の取り込み範囲の減少(背景の整理)
ただし背景の整理は、上手くデジタル拡大機能を用いる事で
ある程度、望遠レンズの代用とする事は出来るであろう。
さて、上記の様々な原理を良く理解すれば、どのような撮影
シーンにおいてデジタル拡大機能が有効かは、上級者レベルに
おいては応用が可能であろう。
ただ、結構高度なデジタル/光学知識を要求される内容で
あるから、初級中級層は理解や応用は困難であると思う。
であれば、冒頭に述べたような、初級中級層が持っている
デジタルズームの疑問点(画質が落ちる、画素数が減る等)
の回避は、これらの原理をきちんと理解していない場合は、
残念ながら無理だと思う。
が、せっかく高いお金を払って買ったカメラについている
機能だ、よく内容を勉強して理解したり、「先入観念」で
毛嫌いせずに色々と使ってみて、その効能を自分なりに把握
して応用していかなくてはならない、そういう努力をする事が
ビギナー層には最も必要な事だと思う。
---
さて、「ノウハウ編」と言いながらも、ここまで概念的な部分
の解説が多くなってきてしまった(汗)
少しづつ、具体的な撮影技法等に説明の方向を変えて行こう。
★ピンホール露出計算
独自概念。
ガラズのレンズが何も入っていない、ただの「穴」つまり
「ピンホール」で写真が撮れる事は、カメラの原理を習った
人の間では良く知られている。
勿論、通常のレンズよりも、ぼやけた写りにはなるが、
独特のノスタルジックな描写は銀塩時代からファンも多い。
(注;画像周辺が暗くなる=周辺減光、は、ピンホールの
原理上では起こらない、それはまた別の理由だ→後日解説)
![c0032138_16364485.jpg]()
ピンホールは、ごく稀に市販もされているが、カメラのボディ
キャップにドリルで穴を開け、そこに、ごく小さい穴を針で
開けた黒い紙や布を貼り付ければ簡単に出来てしまうので、
自作する事が普通であった(以下写真)
![c0032138_16364491.jpg]()
が、ピンホールを使った際の露出計算の方法は簡単では無い、
銀塩時代の一般的な一眼レフでは、(LXやOM-2Nを除き)
露出計の連動範囲外であるし、外部露出計を使ったとしても、
どのように計ったら良いかが不明で、なかなか困難であった。
ネガフィルムの場合には、完全なカンで「この明るさだったら
4秒くらいかな?」と、ある意味”適当”に撮っていたのだ。
ここでは外部露出計を用いる独自の計算方法を紹介する。
まず自作品ではピンホールのF値(口径比)が不明だと思うが、
「装着するカメラのフランジバック長÷ピンホール穴径」
という式で求まる。
一般的な一眼レフのフランジバックは、概ね45mm前後だ、
ピンホールの穴径は自作の場合、0.15mm~0.25mmであり、
まあ平均を取って0.2mmとしよう。
(注:穴径が正確に測れなければ、だいたいの値でも良い。
または、他のレンズや露出計を用い、それとの比較から
穴径あるいは開放F値を推測する方法もある)
ちなみに、KENKOから発売されている市販ピンホールも
穴径が0.2mmだ。
![c0032138_16370193.jpg]()
なお、穴径が小さいとシャープに写るが、F値が暗いので
必要な露光時間(シャッター速度)が長くなる。
具体的には、ピンホールの開放F値=45mm÷0.2mm=F225
これが代表的なF値であるが、どんなピンホールでも、だいたい、
F180~F300の間に収まるであろう(注1:一眼レフ使用の場合。
注2:適正な穴径を求める公式があるが、今回は割愛する)
ここで以降の計算を簡略化する為、F256のピンホールを想定する。
で、このF256は一般的なレンズのF値より、どれくらい暗いのか?
それがわかれば、ピンホールのシャッター速度が計算できる。
ここでも計算を簡略化する為、ピンホールより約1000倍、
すなわち10段(2の10乗=1024)明るいF値を求める。
これは、F値256を2で割る事を5回繰り返せば良く、結果は
F8となった。 これがF256より10段明るいF値だ。
もし、自分のピンホールが若干明るい(穴径がやや大きいか、
又はフランジバックがやや短い)ならば、F180程度となり、
この場合、10段明るいF値はF5.6となる。
(ここは自身が使うシステムにおいて計算する必要がある)
![c0032138_16370171.jpg]()
さて、10段=2^10=1024であるから、今計算したF8なり
F5.6なりのF値の場合の露出値は、同一ISO感度であれば、
ピンホールよりも1024倍速いシャッター速度が得られる。
カメラにおける表示シャッター速度の500とか1000の数字は
分母の数字であるから、ピンホールの露出値は、外部露出計
または他のカメラにおいて、絞りをF8(又はF5.6等)にセット
した時に得られる表示速度に対して、1024倍遅い、この答えは、
「1/(表示シャッター速度)x 1024倍」となり、
この式を変形して
「約1000÷露出計表示シャッター速度」がピンホールにおける
シャッター速度の計算式だ。
この式であれば(外部)露出計が250(分の1秒)を示したら、
1000÷250=4秒、のように暗算でピンホール露出値が得られる。
以下同様、125ならば8秒、500ならば2秒、と簡単である。
(注:外部露出計の感度設定をピンホール・システムと同じに
する事、またF8で測定するかF5.6等でするかは穴径次第だ)
![c0032138_16370125.jpg]()
この計算式は、私が銀塩時代に考え出したものであるが、
かなり便利であり、ピンホール撮影の際には重宝した。
(注:上写真では、フォクトレンダーVCメーターを露出計に使用、
なお、便宜上、室内での計測でスローシャッターとなっている)
なお、銀塩のフィルムはISO感度が100~400位であった為、
どうしても数秒という露出時間が必要で、この長さだと
三脚を使うか、又はカメラをどこかに置いて撮る必要があった。
しかし、現代のデジタルカメラにおいては超高感度が使える。
例えばISO51200であれば、ISO100のフィルムの512倍の
速さのシャッター速度が得られる。
銀塩ピンホ-ルでISO100で4秒の条件であれば、その512倍の
シャッター速度は1/125秒である、この速さであれば、
手持ち撮影が可能となる。
概ね屋外の明所であれば、最大ISO25600以上の感度がある
デジタルカメラならば、ピンホールの手持ち撮影が可能だ。
(注:内蔵手ブレ補正機能があれば、さらに条件が緩和する)
![c0032138_16370183.jpg]()
ただし、一眼レフの光学ファインダーでは、F180~F256
ともなると、真っ暗で構図確認が出来ない。
これは撮影不可能なので、ライブビューモードに切り替えるが
初級一眼レフでは、ゲイン(光の増幅の度合い、これは最高
ISO感度にも関連する)が足りず、モニターがかなり暗くなる。
(注:最高ISO感度が概ね25600又は51200以上の機種ならば、
ライブビューでも明るい画像が得られる。ただし初期設定の
ままではそこまで上がらない機種も多く、拡張設定が必須だ)
他に、一眼レフの内蔵フラッシュを上げて、その枠を後ろから
覗き、簡易ファインダー代わりとして使う裏技が存在する。
まあ、面倒なので、ここはミラーレス機の方が良いであろう。
ミラーレス機であれば、ピンホールでもEVFやモニター画面に
構図が見える場合が多い(注:これもカメラ最大感度に依存
するが、一眼レフより後発であるミラーレス機は高感度を
搭載している場合が多い。ただし、ここも拡張が必須だ)
それから、ピンホールの装着方法を上手く工夫すれば、
ミラーレス機のフランジバック長は一眼レフよりずっと短く、
概ね半分以下なので、さらに見かけ上のF値が1段~1.5段程
明るく、計算上ではF64~F128程度になる。
(注:アダプターを使って、一眼レフと同じフランジバック長に
したら意味が無い、できればミラーレス機に直結したいのだ)
F値が明るくなると、同一感度ならば、その分速いシャッター
速度が得られるので、手持ち撮影が、もっとやりやすくなる。
内蔵手ブレ補正機能の入っているミラーレス機ならば完璧だ。
まあつまり、ミラーレス機とピンホールの相性は悪く無い訳だ。
![c0032138_16371946.jpg]()
★プリセット絞り
一般用語、マニア用語。
多くのロシアンレンズや、国内外のオールドレンズの一部には、
近代での一般的な絞り環では無く、二重構造に見える絞り環が
ついているレンズが存在する。
この場合、片側が実際の絞り値であり、もう1つは、
開放と設定した絞り値を切り替える方式となっている場合が
殆どだ。こうしたレンズの構造を「プリセット絞り」と呼ぶ。
![c0032138_18315597.jpg]()
何故こんな面倒な事になっているのか?は、昔(1950~1960
年代)の開放測光では無い一眼レフ(絞り込み測光/実絞り測光)
では、絞り環を絞ると光学ファインダーが暗くなり、ピント
合わせが困難になったからだ。
手順として、まず、プリセットを開けて、絞り開放でピントを
合わせ、次いでプリセットを閉じて、露出を手動で会わせて
やっとシャッターを切れる・・ という面倒な方法であった。
だが、これらの「プリセット絞り」レンズをミラーレス機に
マウントアダプターを介して装着し、ピント合わせをEVFや
背面モニターで行う場合、絞り込んでも見える映像が暗くなる
訳では無いので、「プリセット」は閉じたままでも問題は無い。
で、ここまでが、まあマニア等の間では一般的に知られている
内容ではあるが、ここからさらに、もう少し工夫してみよう。
以下は、独自の技法だ。
「プリセット絞り」は、絞り開放と設定した絞り値を瞬時に
切り替える事がえきる機構である。であれば、これを作画意図
に活かすならば、例えば開放F2と、絞り込んだF11等の値を
一瞬で切り替えて連続撮影ができるので、F2で背景をボカした
写真と、F11等でパンフォーカスとした写真を、連続して
簡単に撮影が出来る。これはなかなか便利な機能となる。
(注1:プリセット環の動作が劣化していて多少スカスカの
方がむしろ好ましい。
注2:この操作では露出値が大きく変わるので、露出原理を
良く理解した上で、AUTO-ISO設定等を最適化しておく)
なお「今時の普通の一眼レフでもダイヤルを廻して出来るよ」
どは言うなかれ。
ただ単に「出来るか出来ないか」と「効率的か否か?」は、
まるっきり意味が異なるのだ。
(注:本件に限らず何でもそうだ。例えば、メニューの奥底にある
特殊な機能等は、事実上では「使えない」と等価だ)
もう1つのプリセット絞りの用法だが、最大限に絞り込んで
おけば、OPEN/CLOSE環で絞りを連続的に無段階に変更できる
ものも多い、微妙な絞り調整(ボケ質破綻回避等)において
非常に役に立つ機構(技法)だ。
さて、今時の一眼レフは、ほぼ全てがカメラ本体側のデジタル
(電子)ダイヤルでの絞り値の操作となっている。
そして、中上級者であれば、絞り値のステップ設定は、殆どが
1/3段モードにしているであろう。
この状態で、F2からF11まで設定を変えるのは、ダイヤルを廻す
回数が多い(15段階もある)ので、結構な手間だ。
普通は面倒なので、こういう事はやらない事であろう、さらに
言えば、面倒なので、あまり大きく絞り値を変えて撮ってみよう
とも思わなくなる。だから、自分が設定した絞り値から微調整
する位となってしまう(=絞り値の変更操作に無頓着になる)
背景ボカし(F2)と、パンフォーカス(F11等)では写真の雰囲気や
写真が主張したい部分(特定の被写体か、構図全体なのか?)も
全く異なるのだが、現代のカメラシステムでは、下手をすれば、
そういう発想も持ちにくくなってしまう恐れもある訳だ。
(特に初級層は、絞りを色々と設定して撮ろうとは思わない。
被写界深度が変わる事は知っていても、開放F値が暗い標準
ズーム等では、殆どその効果が得られない事も原因としてある)
まあ、中級マニア等であれば、プリセット絞りの古いレンズを
使って、この技法を試し、大きく(作画)意図の異なる写真を
撮ってみるのも新鮮な発見があって良いだろうと思う。
ただ単に、珍しいレンズのボケ質やら解像力の良し悪し等を、
あれこれと語るだけがマニアの方向性では無いと思うからだ。
★魚眼構図制御
やや独自概念に近い一般用語。
![c0032138_16371951.jpg]()
対角線魚眼レンズを用いて撮影すると、画面が歪んで写る。
このデフォルメ効果は、初級層においては最初に使った時には、
実物と写真が大きく異なって見える事からインパクトが大きい
のだが、しばらく魚眼レンズを使っていると、「なんだか
構図的にまとまりが無い」とか「自分が思ったようには撮れない」
という風になって、飽きてしまう(使いこなせない)事が多い。
魚眼レンズは(トイレンズ系や近年の中国製魚眼レンズを除き)
高価であるので、せっかく買ったのに使わないのでは勿体無い。
ここでは対角線魚眼レンズの構図上のポイントを上げておこう。
「対角線魚眼では、画面中点から放射状に伸びる直線は曲がらない」
が最も覚えておくべきポイントである。
![c0032138_16371958.jpg]()
だから。海や湖の水平線、ビル等建造物の直線部分を、この
中央点からの放射直線上に構図的に配置すれば、少なくとも
その部分は歪まないように写せる訳だ。
「構図的にまとまりが無い」という課題は、画面のどの部分も
歪んでしまって、何がなんだかわからない、という状態にも
相当すると思う。
・・とまあ、これは単純な話なのだが、ところがこれを実際に
やってみようとすると意外にも非常に難しい。
カメラを少しでも傾けてしまうと、被写体の放射直線部が
すぐに曲がってしまう(下写真)
![c0032138_16371906.jpg]()
三脚で水準器を使ってもあまり効果は無い、ここで「傾く」と
言うのは3次元的にあらゆる方向に(ローイング、ヨーイング、
ピッチングも)影響がある、水準器(アナログ、デジタル)では
1~2次元なので、これでは足り無いし、そもそも水準器では
計れない方向がある(例:カメラを水平には構えているが、
例えば右側が、より前に出ていて、被写体に平行では無い。
あるいはカメラは水平だが、レベル(高さ、位置)が異なる為、
被写体の直線部が、構図上の放射直線と合っていない)
・・そこで、三脚や水準器には頼らずに、EVFやモニター画面を
見ながら魚眼レンズで直線を出すようにする方が良い。
これはかなり大変だが、初級中級層にとって良い構図の練習と
なる、三分割だとかS字などの「教科書的」な構図の練習を
しても殆ど意味が無いが、この「カメラの持ち方、角度、
レベル等を微妙に調整する」と言う作業は、通常レンズと通常
被写体では、あまり差異が出ない状況が、魚眼レンズでは
「直線が歪む」という事から顕著に差がわかる訳だ。
まあつまり、カメラのトレーニングには最適だという事だ。
なお、この話は前記事の「初級者中級者の三脚不要論」にも
微妙に関連がある。
三脚を使っていて1~2次元の水準器で「水平が取れていれば
安心」という訳では決して無いので、むしろそれに頼ってしまうと
三脚と水準器では調整できない方向(例:ヨーイング=捩れ方向)
やレベル(高さ)の変化に対する理解が遅れてしまうのだ。
なので「被写体が曲がって写っているよ、もっとしっかり三脚を
立てないとダメだな」など、実際の原理とは異なる方向に意識が
行ってしまう。これは当然ながら大きな間違いだ。
---
さて、今回の「撮影技法・特殊技法Part 2」は、このあたりまでで、
次回は引き続き同サブカテゴリーPart3の用語解説を行う。
「本ブログ独自の写真用語や概念」を解説するシリーズ記事。
今回第14回記事は「ノウハウ編」でのサブカテゴリーの
「撮影技法・特殊技法」の「Part2」とする。

★デジタル拡大機能
一般用語+独自概念。
まずデジタル拡大機能とは、画像処理的手法を用いて、レンズの
画角(焦点距離)を仮想的に伸ばす(拡大する)機能と定義する。
(注:ピント確認やMFの為に、EVFやライブビューでの表示画像を
拡大するケースは除く。その事は「拡大表示」と呼んでいる)
これはメーカーにより色々な処理方式や呼び名がある機能だが、
本ブログでは
・デジタルズーム(画角を連続的に変化させる事が出来る)
・デジタルテレコン(画角を1.4倍、2倍等、予め
決められたステップで段階的に変化させる事ができる)
の2種類に統一して、かつ区別している。
近年の多くのミラーレス機には、デジタル拡大機能が入って
いるが、一眼レフであっても例えばSONY αフタケタ機には
デジタルテレコン機能が搭載されているし、NIKON機での
撮像範囲設定(FX→DXまたはDX→1.3倍モード。いわゆる
クロップ機能)も、原理的には類似であると言える。

嫌われている。
1)画質が悪くなる
2)画素数が減る
3)トリミング編集と等価な為、使う意味が無い
これらは確かに半分はその通りだ、だが、短所ばかりという
訳では無い、デジタル拡大機能を、より深堀りするには、
まず、その原理と効能を良く理解する必要があるだろう。
デジタル拡大には概ね以下の4つの方式がある。
A)単純拡大
→画像処理(スプライン関数、バイキュービック法、
ランチョス法など)により単純に画像を拡大する。
2~3倍程度迄ならば画質の劣化はあまり目立たない。
(注:ここでの「倍数」は、撮像素子の対角線長の変化だが
簡便には、レンズ焦点距離の変化と見なしても良い、
例:100mm画角→200mm画角になれば2倍)
B)超解像拡大
→画像処理手法の一種であり、画像の一部の特徴を解析
しながら、どのように補間するか(拡大したピクセル
の隙間をどれくらいの色にするか)を決めていく手法。
概ね上記単純拡大よりも高画質で拡大でき、4~6倍
程度までは画質劣化は目立たない。
このやり方(アルゴリズム)は各社様々だが、大別して
「1枚超解像」と「複数超解像」があり、前者は主に
デジカメや画像編集での静止画処理に用いられている。
後者は複数のフレーム(コマ)が必要な為に、従来は
ビデオデッキ等での動画処理(NTSC→ハイビジョン)等に
使われていたが、近年ではデジカメでも連写を行ってそこから
合成する「連写超解像」や、内蔵手ブレ補正と同様に撮像
センサーを微細に動かしながら連写を行い、それらを合成して
解像感を高める方式(例:PENTAX リアルレゾリューション)も
存在する(注:これを拡大処理とするか否か、は別の要素だ)
なお、この手法が高画質かどうかは、被写体の状況や、それ
に求める要素によりけりであり、常に期待するような高画質
な拡大処理が得られる訳でも無い。
(参考:下写真は、超解像拡大で輪郭線が固くなった例)

→撮像センサーの記録画素数を、拡大と同時に低める事で
画質が劣化しないデジタルズーム(テレコン)が実現する。
例えば最大1600万画素のデジカメでは、800万画素に
落とすと1.4倍(=√2倍)、400万画素に落とせば
2倍の拡大率が得られる(その途中の画素数も原理的には
可能である)
画質が劣化しないのが最大の特徴だが、記録画素数が
減る事と引き換えだ。趣味撮影などでSNS等掲載用の
写真を撮ったりL判程度にプリントするならば、400万画素
もあれば十分過ぎる程であるので、そういう用途であれば
実用的な機能だ。
画素数が減る事については各社で2種類の方式があり、
・記録画素数を最初から低めておかないと、この機能が
利用できない(例:パナソニック)
・この機能を使うと記録画素数が自動的に減る(例:SONY)
があるので、自身の使っているカメラの仕様を理解しておく
必要がある。

→例えばフルサイズ機をAPS-Cモードで使うと 約1.5倍の
画角が得られる、あるいはAPS-C機でさらにセンサーサイズ
を(例えば μ4/3相当)に小さくして使うと、2倍程度の
画角が得られる。
NIKON機では高級デジタル一眼レフにこの機能が入っていて
これを「クロップ」(切り取る)機能と呼んでいる。
また、SONYフルサイズミラーレス機(例:α7)でも
フルサイズ→APS-Cモードに(任意に)変更が出来る。
上記C)の画素補間方式と原理的には極めて類似しているが
こちらの方式では、測距点や露出計算の分布パターンが
変化するので、それがメリットとなるケースも多々ある。
ただし、手ブレが起こりやすくなる弱点と、重要なのは、
センサーサイズが小さくなった分、勿論だが記録画素数が
減ってしまう。
勿論ここはユーザーの用途によりけりであり、減った
画素数でも写真を利用する解像度を満たしていれば、何ら
問題は無い。
ただ、ニコン機でもD4やDfでは記録画素数が最大でも
1600万画素しか無い為、例えば趣味撮影で画像サイズを
FXのS(約400万画素)や、M(約900万画素)で使っていて
遠方の野鳥を見かけた際等で、クロップしてDXモードに
設定変更すると画素数が大幅に減り、Sでは160万画素
Mでは、380万画素にまで減る。
160万画素はさすがに小さいので、本来であればクロップ
時には、同時に記録画素数を上げる(つまり上記Cの
画素補完方式とほぼ等価)ような仕様にして貰いたい。
まあ、NIKON機は全体に操作系仕様が練れていない(他社
よりもかなり遅れている)ので、こういう細かい配慮を
期待するのは難しいが、操作系仕様を良く考察してあって
その(インターフェース設計)専門部署まであるという噂の
SONYであっても、α7等では同様にAPS-Cモードでは単純に
画素数が減ってしまう。(この為、最初からαのAPS-C機
を使った方が簡便だし画素数的に有利になる場合もある)
さて、デジタル拡大の原理を理解したところで、概ね画素数の
減少や画質の劣化の問題は、用途や設定で回避可能だと言う
事が、わかったと思う。
以下は、さらに高度なデジタル拡大機能の応用についてだ。
これらの機能のメリットは概ね3つある。
1)デジタル拡大で測光パターンが変化する仕様の場合、
その操作においては、主要被写体の面積比率が、より
増える為、露出補正操作の必要性が減る。
(例:晴天時に遠距離の水面上にあるボートは、通常は
周囲の明るさに露出が合い、真っ黒に写るが、望遠に
すればする程、画面内のボートの面積比率が増えて適正な
明るさに近くなっていく、下写真2枚参照)

得られない場合がある。例えば画面全体からの露出決定後に
デジタル拡大処理を行う場合は無効だが、センサーサイズを
小さくするクロップ仕様であれば有効である等)

側のみ)あるいは撮影距離を変えながらデジタルズームを
併用して、絞り値に頼らずに被写界深度が変更できる。
この結果、作画的な構図自由度が格段に上がったり、
またはミラーレンズ等で絞りが無いレンズでも被写界深度が
変えられる(注:これは凄い利点である)
そして、さらに高度な使い方としては、前記事で説明した
「ボケ質破綻の回避技法」として非常に有益である。
3)業務撮影等で大量の画像を編集しなくてはならない場合
デジタルズームで予め構図を決めて撮影すれば、後での
トリミング編集の手間が大幅に減る(=編集コストが下がる
何千枚もの写真を何日もかけて編集していたら赤字だ・汗)
4)撮影時にこれら拡大処理を行う事で、「どう撮りたいか」
が十分に意識できる。事後のトリミング編集では、その意図
を忘れてしまっている事もある。(又は撮影者以外の人が
写真編集作業を行う事も、業務上では有り得るであろう)
これらのデジタル拡大のメリットは頭の中で考えているだけ
(例:デジタル拡大はトリミングと等価だ、という誤解)では
まずわからず、実際にこの機能を多用していないと見え難い
利点だ。
それから、デジタル拡大には、一般には見え難いデメリットも
いくつか存在する。
A)内蔵手ブレ補正機能が使い難い場合がある
オールドレンズ等の焦点距離情報が得られないレンズを、
内蔵手ブレ補正の焦点距離手動設定が可能なミラーレス機や
一眼レフで使った場合、各種デジタル拡大機能を用いると
見かけ上の焦点距離が変化してしまい、手ブレ補正が効かなく
なる場合がある(注:これは機種毎の拡大仕様によりけりだ)
また、当然の事だが、画角が狭くなると手ブレしやすくなる。
この為、1000mmを超える超々望遠域の換算拡大画角ともなると、
内蔵手ブレ機能は、ほとんどまともに動作しない。
(そして、1500mmを超えると、手持ち撮影は、ほぼ不可能だ)
なお、オールドの単焦点ではなく、(光学)ズームレンズを
使った時点でも、同様の理由でアウトであり、デジタル拡大
機能を使う使わないに限らず、内蔵手ブレ補正を利用する事は
困難である。(注:これは、どの機種でも同じだ)
B)最短撮影距離までは短縮できない
オールドレンズやレンジファインダー機用レンズでは
最短撮影距離が長いものが多く、特に広角レンズでは
最短が長いと、構図上、あるいは撮影アングル・レベルの
制限が大きく、やっていられない。
デジタル拡大機能で、見かけ上の被写体の大きさは大きく
できるが、最短撮影距離は変化しない為、被写体に寄る
事が出来ず、物理的な構図制限はそのまま残る。
C)望遠効果が出ない
デジタル拡大機能を用いても光学的な望遠効果が得られない。
「望遠効果」とは、以下のような要素を含む。
・レンズの焦点距離が長くなる事での被写界深度の減少。
・遠近感(パースペクティブ)の圧縮効果。
・被写体に対する背景の取り込み範囲の減少(背景の整理)
ただし背景の整理は、上手くデジタル拡大機能を用いる事で
ある程度、望遠レンズの代用とする事は出来るであろう。
さて、上記の様々な原理を良く理解すれば、どのような撮影
シーンにおいてデジタル拡大機能が有効かは、上級者レベルに
おいては応用が可能であろう。
ただ、結構高度なデジタル/光学知識を要求される内容で
あるから、初級中級層は理解や応用は困難であると思う。
であれば、冒頭に述べたような、初級中級層が持っている
デジタルズームの疑問点(画質が落ちる、画素数が減る等)
の回避は、これらの原理をきちんと理解していない場合は、
残念ながら無理だと思う。
が、せっかく高いお金を払って買ったカメラについている
機能だ、よく内容を勉強して理解したり、「先入観念」で
毛嫌いせずに色々と使ってみて、その効能を自分なりに把握
して応用していかなくてはならない、そういう努力をする事が
ビギナー層には最も必要な事だと思う。
---
さて、「ノウハウ編」と言いながらも、ここまで概念的な部分
の解説が多くなってきてしまった(汗)
少しづつ、具体的な撮影技法等に説明の方向を変えて行こう。
★ピンホール露出計算
独自概念。
ガラズのレンズが何も入っていない、ただの「穴」つまり
「ピンホール」で写真が撮れる事は、カメラの原理を習った
人の間では良く知られている。
勿論、通常のレンズよりも、ぼやけた写りにはなるが、
独特のノスタルジックな描写は銀塩時代からファンも多い。
(注;画像周辺が暗くなる=周辺減光、は、ピンホールの
原理上では起こらない、それはまた別の理由だ→後日解説)

キャップにドリルで穴を開け、そこに、ごく小さい穴を針で
開けた黒い紙や布を貼り付ければ簡単に出来てしまうので、
自作する事が普通であった(以下写真)

銀塩時代の一般的な一眼レフでは、(LXやOM-2Nを除き)
露出計の連動範囲外であるし、外部露出計を使ったとしても、
どのように計ったら良いかが不明で、なかなか困難であった。
ネガフィルムの場合には、完全なカンで「この明るさだったら
4秒くらいかな?」と、ある意味”適当”に撮っていたのだ。
ここでは外部露出計を用いる独自の計算方法を紹介する。
まず自作品ではピンホールのF値(口径比)が不明だと思うが、
「装着するカメラのフランジバック長÷ピンホール穴径」
という式で求まる。
一般的な一眼レフのフランジバックは、概ね45mm前後だ、
ピンホールの穴径は自作の場合、0.15mm~0.25mmであり、
まあ平均を取って0.2mmとしよう。
(注:穴径が正確に測れなければ、だいたいの値でも良い。
または、他のレンズや露出計を用い、それとの比較から
穴径あるいは開放F値を推測する方法もある)
ちなみに、KENKOから発売されている市販ピンホールも
穴径が0.2mmだ。

必要な露光時間(シャッター速度)が長くなる。
具体的には、ピンホールの開放F値=45mm÷0.2mm=F225
これが代表的なF値であるが、どんなピンホールでも、だいたい、
F180~F300の間に収まるであろう(注1:一眼レフ使用の場合。
注2:適正な穴径を求める公式があるが、今回は割愛する)
ここで以降の計算を簡略化する為、F256のピンホールを想定する。
で、このF256は一般的なレンズのF値より、どれくらい暗いのか?
それがわかれば、ピンホールのシャッター速度が計算できる。
ここでも計算を簡略化する為、ピンホールより約1000倍、
すなわち10段(2の10乗=1024)明るいF値を求める。
これは、F値256を2で割る事を5回繰り返せば良く、結果は
F8となった。 これがF256より10段明るいF値だ。
もし、自分のピンホールが若干明るい(穴径がやや大きいか、
又はフランジバックがやや短い)ならば、F180程度となり、
この場合、10段明るいF値はF5.6となる。
(ここは自身が使うシステムにおいて計算する必要がある)

F5.6なりのF値の場合の露出値は、同一ISO感度であれば、
ピンホールよりも1024倍速いシャッター速度が得られる。
カメラにおける表示シャッター速度の500とか1000の数字は
分母の数字であるから、ピンホールの露出値は、外部露出計
または他のカメラにおいて、絞りをF8(又はF5.6等)にセット
した時に得られる表示速度に対して、1024倍遅い、この答えは、
「1/(表示シャッター速度)x 1024倍」となり、
この式を変形して
「約1000÷露出計表示シャッター速度」がピンホールにおける
シャッター速度の計算式だ。
この式であれば(外部)露出計が250(分の1秒)を示したら、
1000÷250=4秒、のように暗算でピンホール露出値が得られる。
以下同様、125ならば8秒、500ならば2秒、と簡単である。
(注:外部露出計の感度設定をピンホール・システムと同じに
する事、またF8で測定するかF5.6等でするかは穴径次第だ)

かなり便利であり、ピンホール撮影の際には重宝した。
(注:上写真では、フォクトレンダーVCメーターを露出計に使用、
なお、便宜上、室内での計測でスローシャッターとなっている)
なお、銀塩のフィルムはISO感度が100~400位であった為、
どうしても数秒という露出時間が必要で、この長さだと
三脚を使うか、又はカメラをどこかに置いて撮る必要があった。
しかし、現代のデジタルカメラにおいては超高感度が使える。
例えばISO51200であれば、ISO100のフィルムの512倍の
速さのシャッター速度が得られる。
銀塩ピンホ-ルでISO100で4秒の条件であれば、その512倍の
シャッター速度は1/125秒である、この速さであれば、
手持ち撮影が可能となる。
概ね屋外の明所であれば、最大ISO25600以上の感度がある
デジタルカメラならば、ピンホールの手持ち撮影が可能だ。
(注:内蔵手ブレ補正機能があれば、さらに条件が緩和する)

ともなると、真っ暗で構図確認が出来ない。
これは撮影不可能なので、ライブビューモードに切り替えるが
初級一眼レフでは、ゲイン(光の増幅の度合い、これは最高
ISO感度にも関連する)が足りず、モニターがかなり暗くなる。
(注:最高ISO感度が概ね25600又は51200以上の機種ならば、
ライブビューでも明るい画像が得られる。ただし初期設定の
ままではそこまで上がらない機種も多く、拡張設定が必須だ)
他に、一眼レフの内蔵フラッシュを上げて、その枠を後ろから
覗き、簡易ファインダー代わりとして使う裏技が存在する。
まあ、面倒なので、ここはミラーレス機の方が良いであろう。
ミラーレス機であれば、ピンホールでもEVFやモニター画面に
構図が見える場合が多い(注:これもカメラ最大感度に依存
するが、一眼レフより後発であるミラーレス機は高感度を
搭載している場合が多い。ただし、ここも拡張が必須だ)
それから、ピンホールの装着方法を上手く工夫すれば、
ミラーレス機のフランジバック長は一眼レフよりずっと短く、
概ね半分以下なので、さらに見かけ上のF値が1段~1.5段程
明るく、計算上ではF64~F128程度になる。
(注:アダプターを使って、一眼レフと同じフランジバック長に
したら意味が無い、できればミラーレス機に直結したいのだ)
F値が明るくなると、同一感度ならば、その分速いシャッター
速度が得られるので、手持ち撮影が、もっとやりやすくなる。
内蔵手ブレ補正機能の入っているミラーレス機ならば完璧だ。
まあつまり、ミラーレス機とピンホールの相性は悪く無い訳だ。

一般用語、マニア用語。
多くのロシアンレンズや、国内外のオールドレンズの一部には、
近代での一般的な絞り環では無く、二重構造に見える絞り環が
ついているレンズが存在する。
この場合、片側が実際の絞り値であり、もう1つは、
開放と設定した絞り値を切り替える方式となっている場合が
殆どだ。こうしたレンズの構造を「プリセット絞り」と呼ぶ。

年代)の開放測光では無い一眼レフ(絞り込み測光/実絞り測光)
では、絞り環を絞ると光学ファインダーが暗くなり、ピント
合わせが困難になったからだ。
手順として、まず、プリセットを開けて、絞り開放でピントを
合わせ、次いでプリセットを閉じて、露出を手動で会わせて
やっとシャッターを切れる・・ という面倒な方法であった。
だが、これらの「プリセット絞り」レンズをミラーレス機に
マウントアダプターを介して装着し、ピント合わせをEVFや
背面モニターで行う場合、絞り込んでも見える映像が暗くなる
訳では無いので、「プリセット」は閉じたままでも問題は無い。
で、ここまでが、まあマニア等の間では一般的に知られている
内容ではあるが、ここからさらに、もう少し工夫してみよう。
以下は、独自の技法だ。
「プリセット絞り」は、絞り開放と設定した絞り値を瞬時に
切り替える事がえきる機構である。であれば、これを作画意図
に活かすならば、例えば開放F2と、絞り込んだF11等の値を
一瞬で切り替えて連続撮影ができるので、F2で背景をボカした
写真と、F11等でパンフォーカスとした写真を、連続して
簡単に撮影が出来る。これはなかなか便利な機能となる。
(注1:プリセット環の動作が劣化していて多少スカスカの
方がむしろ好ましい。
注2:この操作では露出値が大きく変わるので、露出原理を
良く理解した上で、AUTO-ISO設定等を最適化しておく)
なお「今時の普通の一眼レフでもダイヤルを廻して出来るよ」
どは言うなかれ。
ただ単に「出来るか出来ないか」と「効率的か否か?」は、
まるっきり意味が異なるのだ。
(注:本件に限らず何でもそうだ。例えば、メニューの奥底にある
特殊な機能等は、事実上では「使えない」と等価だ)
もう1つのプリセット絞りの用法だが、最大限に絞り込んで
おけば、OPEN/CLOSE環で絞りを連続的に無段階に変更できる
ものも多い、微妙な絞り調整(ボケ質破綻回避等)において
非常に役に立つ機構(技法)だ。
さて、今時の一眼レフは、ほぼ全てがカメラ本体側のデジタル
(電子)ダイヤルでの絞り値の操作となっている。
そして、中上級者であれば、絞り値のステップ設定は、殆どが
1/3段モードにしているであろう。
この状態で、F2からF11まで設定を変えるのは、ダイヤルを廻す
回数が多い(15段階もある)ので、結構な手間だ。
普通は面倒なので、こういう事はやらない事であろう、さらに
言えば、面倒なので、あまり大きく絞り値を変えて撮ってみよう
とも思わなくなる。だから、自分が設定した絞り値から微調整
する位となってしまう(=絞り値の変更操作に無頓着になる)
背景ボカし(F2)と、パンフォーカス(F11等)では写真の雰囲気や
写真が主張したい部分(特定の被写体か、構図全体なのか?)も
全く異なるのだが、現代のカメラシステムでは、下手をすれば、
そういう発想も持ちにくくなってしまう恐れもある訳だ。
(特に初級層は、絞りを色々と設定して撮ろうとは思わない。
被写界深度が変わる事は知っていても、開放F値が暗い標準
ズーム等では、殆どその効果が得られない事も原因としてある)
まあ、中級マニア等であれば、プリセット絞りの古いレンズを
使って、この技法を試し、大きく(作画)意図の異なる写真を
撮ってみるのも新鮮な発見があって良いだろうと思う。
ただ単に、珍しいレンズのボケ質やら解像力の良し悪し等を、
あれこれと語るだけがマニアの方向性では無いと思うからだ。
★魚眼構図制御
やや独自概念に近い一般用語。

このデフォルメ効果は、初級層においては最初に使った時には、
実物と写真が大きく異なって見える事からインパクトが大きい
のだが、しばらく魚眼レンズを使っていると、「なんだか
構図的にまとまりが無い」とか「自分が思ったようには撮れない」
という風になって、飽きてしまう(使いこなせない)事が多い。
魚眼レンズは(トイレンズ系や近年の中国製魚眼レンズを除き)
高価であるので、せっかく買ったのに使わないのでは勿体無い。
ここでは対角線魚眼レンズの構図上のポイントを上げておこう。
「対角線魚眼では、画面中点から放射状に伸びる直線は曲がらない」
が最も覚えておくべきポイントである。

中央点からの放射直線上に構図的に配置すれば、少なくとも
その部分は歪まないように写せる訳だ。
「構図的にまとまりが無い」という課題は、画面のどの部分も
歪んでしまって、何がなんだかわからない、という状態にも
相当すると思う。
・・とまあ、これは単純な話なのだが、ところがこれを実際に
やってみようとすると意外にも非常に難しい。
カメラを少しでも傾けてしまうと、被写体の放射直線部が
すぐに曲がってしまう(下写真)

言うのは3次元的にあらゆる方向に(ローイング、ヨーイング、
ピッチングも)影響がある、水準器(アナログ、デジタル)では
1~2次元なので、これでは足り無いし、そもそも水準器では
計れない方向がある(例:カメラを水平には構えているが、
例えば右側が、より前に出ていて、被写体に平行では無い。
あるいはカメラは水平だが、レベル(高さ、位置)が異なる為、
被写体の直線部が、構図上の放射直線と合っていない)
・・そこで、三脚や水準器には頼らずに、EVFやモニター画面を
見ながら魚眼レンズで直線を出すようにする方が良い。
これはかなり大変だが、初級中級層にとって良い構図の練習と
なる、三分割だとかS字などの「教科書的」な構図の練習を
しても殆ど意味が無いが、この「カメラの持ち方、角度、
レベル等を微妙に調整する」と言う作業は、通常レンズと通常
被写体では、あまり差異が出ない状況が、魚眼レンズでは
「直線が歪む」という事から顕著に差がわかる訳だ。
まあつまり、カメラのトレーニングには最適だという事だ。
なお、この話は前記事の「初級者中級者の三脚不要論」にも
微妙に関連がある。
三脚を使っていて1~2次元の水準器で「水平が取れていれば
安心」という訳では決して無いので、むしろそれに頼ってしまうと
三脚と水準器では調整できない方向(例:ヨーイング=捩れ方向)
やレベル(高さ)の変化に対する理解が遅れてしまうのだ。
なので「被写体が曲がって写っているよ、もっとしっかり三脚を
立てないとダメだな」など、実際の原理とは異なる方向に意識が
行ってしまう。これは当然ながら大きな間違いだ。
---
さて、今回の「撮影技法・特殊技法Part 2」は、このあたりまでで、
次回は引き続き同サブカテゴリーPart3の用語解説を行う。