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レンズ・マニアックス(12)補足編~使いこなしが難しいレンズ特集(後編)

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連載中の「レンズ・マニアックス」シリーズの補足編。
過去の各種マニアックス系のシリーズ記事において、
「これは使いこなしが非常に難しい」と思われたレンズを
ワースト・ランキング形式で紹介する記事の後編。

今回の後編では、4位~1位のレンズを紹介しよう。
勿論順位が上の方が高難易度である。
これは描写力などの性能とは無関係のランキングであり、
使いこなしが難しいという意味においては、上位になれば
なる程、あまり初級中級者層には推奨できないレンズとなる。

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まずは最初のレンズ

第4位:Carl Zeiss Planar T* 85mm/f1.4 ZF(コシナ版)
c0032138_12235136.jpg
ミラーレス・マニアックス第43回記事等で紹介の、
2006年発売の大口径MF中望遠レンズ(以下、ZF85/1.4)

カメラはNIKON D300(APS-C機)を使用する。

本ZF85/1.4は1975年~2000年代初頭に販売されていた
京セラ・コンタックス プラナー T* 85mm/f1.4のリメイク版
であり、2000年代中頃に独カール・ツァイス社と提携した
日本のコシナ社製造である。

旧来のレンズは、1975年のCONTAX RTSと同時期に発売
されていたので、RTS Planar(85/1.4)と呼ばれる事がある。
(以下、旧レンズをRTS P85/1.4と省略する)
c0032138_12235259.jpg
本ZF85/1.4は2006年の発売当初に購入した初期型であり
現在では、クラッシック・シリーズとしてZF2版となっている。
ZF版との違いは、ニコンマウントでのCPU内蔵レンズとなった
事で、ニコン(デジタル)一眼の普及機でも使用可能であり、
また、ニコン高級機ではレンズ情報手動設定の入力を行わなく
ても良くなっている。

今回利用のD300は一応高級機であるから、この初期型のZF版
でも使用可能であるが、レンズ情報の手動入力が必要だ。

なお、その入力を省略すると、絞り値の表示が実際の絞り値と
異なってしまうのだが、実はその状態でも撮影は可能である。
単に数字が違うので気持ちが悪かったり、EXIF情報を見ても
正しい絞り値が書かれていないだけである。

(注:焦点距離入力を省略すると、マルチパターン露出値
決定のアルゴリズムや、フラッシュ使用時の露出決定の
精度に悪影響が出る可能性はある。また、ニコン一眼レフ
では手ブレ補正は内蔵されていないので、そこは関係無いが、
動画撮影時の画像処理型の手ブレ補正には影響が出るかも
しれない(→未検証)いずれにしても、面倒がらずに、
真面目にレンズ情報入力は、しておく事が望ましい)

なお、マウントアダプターで使用する際には、ZFとZF2の差は
無く、どちらでも実絞り測光で他のカメラで使用可能だ。

なお、日中の輝度でも絞りを開放からフルレンジで使用できる
ようにする為(シャッター速度オーバー対策)、今回はND8
というキツ目の減光フィルターを装着している。
この為、光学ファインダーの像はNDフィルター無しの時に
比べ8分の1の光量しかない。ニコン機では開放測光で行けるが
他社一眼レフにアダプターで装着時は、絞り込むとさらに暗く
なるので、そのような使用法の場合、あまり絞り込まない事が
望ましい。(またはNDフィルターを外して用い、結果として
シャッター速度オーバー等に留意しながら使用する)

それと「レンズ情報手動設定」とNDフィルター併用は原理的
に露出に矛盾が出そうな気も若干するかも知れないが、まあ、
開放測光であるから、ちゃんと動作する。
c0032138_12235185.jpg
さて、前置きが長くなったが、本ZF85/1.4の使いこなしの
難しさの理由は何点かある。

まず1点目、被写界深度が浅く、ピント合わせが難しい事だ。
ただし、この件は本ZF85/1.4に限らず全ての85mm/f1.4
レンズで同様である。実際の所は、この手の被写界深度が浅い
レンズは一眼レフで使うよりも高精度のピーキング機能と
優秀な拡大操作系、そして高精細なEVFを持つミラーレス機
(例、LUMIX G系,SONY NEX/α等)で使う方がピント合わせは
若干容易となる、

今回使用のD300の光学ファインダーは、さほど優秀では無い
のでピント合わせが厳しいが、EOS機のように電子接点の無い
レンズを装着するとフォーカスエイドが効かない、といった
事は無く、一応それが効く(ただし、かなりシビアに反応し、
かつ、MFなのに測距点変更の操作が必要な為、面倒だ)

まあ、例によってピント歩留まり(成功率)が極めて悪くなる
状態であり、これが使いこなしの難しさの1点目となる。

そして2点目だが、旧来のRTS P85/1.4から「プラナーボケ」
と呼ばれていたボケ質破綻が、本レンズでも同様に発生する。

プラナーボケは、RTS Planar 100mm/f2(ミラーレス第32回、
第61回,ハイコスパ第13回)や CONTAX N Planar 85mm/f1.4
(ミラーレス第13回,名玉編第3回)では、発生しにくいので、
「プラナー」全てを悪者にしてしまう、この名称はどうかと
思うが、まあでも、かなり深刻な問題である。

RTS P85/1.4は、高い描写力と優れたボケ質で、銀塩時代
には「神格化」されていたレンズである。
しかしながら、銀塩一眼のファインダーでは基本的にボケ質は
わからない。私も多数のRTS系CONTAX銀塩一眼を使用していたが、
平均的にCOTAX機のスクリーンは性能が低い事もあいまって、
ボケ質やボケ量どころか、ピントの山すら掴み難かった。
(注:勿論、開放測光であるが故の問題点も大きい。だが、
一々プレビュー操作はやってられないし、やったとしても
映像が暗くなるので、ボケ量やボケ質は良くわからない)

なのでまあ、撮影した後、現像・プリントしてみて、ボケ質の
破綻が出ている事に気がつき、驚くとともにがっかりするのだ。

その「ボケ質破綻」の頻度はかなり高く、銀塩時代の機材環境
では、それを回避する術は無いので、RTS P85/1.4は極めて
歩留まりが悪いレンズとして有名(悪名)になってしまった。
(私の経験上では、その成功率は36枚撮りフィルム1本中で
1枚あれば良い程度、つまり3%以下程度しか上手く撮れない)

ただ、ボケ質そしてピントが決まった時の描写力は非常に高い、
銀塩時代のRTS P85/1.4の作例・作品等は、膨大な数の試行
錯誤(失敗)の中から選んだ1枚が載せられていたのだと
想像出来る。

なのでまあ、ユーザーはそうした「凄い写真」を見せられて
RTS P85/1.4を、過剰な期待を持って購入するのだが、実際に
使ってみて驚くわけだ、ピントは合わないし、ボケは汚い、
「いったいこのレンズは何だ? 良いという評判は嘘か?」
となってしまった。

RTS P85/1.4が独国製造版と国内製造版の2種類が併売されて
いた事から、初級マニアの間では以下のような情報まで流れた
「写りが悪いのは安い日本製だからだ、高いドイツ製を買えば、
 ちゃんと良く写るぞ!」
この、根も葉もない噂を信じて、日本版を売って、より高価な
独国版に買い換える可哀想なユーザーまで出てきた。

しかし製造国が違ったとしても、どちらも中身は同じレンズだ。
(まあ、同じ部品を使っている事であろう)
両者、同様の欠点を持ち、結局、膨大なムダ打ちの中から
選別しない限り、上手くキマった写真など撮れる筈が無いのだ。
c0032138_12235188.jpg
1990年代でのRTS P85/1.4の定価は10万円程と、神格化された
レンズにしてはさほど高価では無いが、これはAF化に失敗した
CONTAXが、旧来のMFレンズを、あまり値上げが出来なかった
事で相対的に安くなったのであり、それ以前1970~1980年代
の10万円は、やはり高価なレンズであろう。
したがって当時、RTS P85/1.4を購入できた人は、富裕層で
あると言える。そして、そうした層は収集がメインで、あまり
写真の枚数を撮らない事が一般的だ、だからRTS P85/1.4で
膨大な数を撮って、その中から選ぶ等の対策はできない。

じゃあ、何故、周囲の人が、そのように(沢山撮れと)教え
なかったかと言えば、RTS P85/1.4がそこまで難しいレンズだ
という事は、巷には情報として殆ど流れていなかったのだ。
「失敗したのは自分が下手だから」という事で、膨大なムダ
打ち失敗写真は、すべて隠し通して、まともに撮れた写真しか
周囲に見せなかったのではなかろうか?

それから、RTS P85/1.4では「焦点移動」が発生する。
(開放で測光・測距した場合、撮影時に絞り込むとピント
位置がずれる)
これも銀塩時代のピンボケの理由の1つであったかも知れない。
なお、ミラーレス機で絞込み(実絞り)測光で使うならば
原理的に焦点移動は発生しない。

本ZF85/1.4だが、RTS P85/1.4よりも外装の仕上に高級感が
あり、ピントリングの感触も良い(ただし、かなり重い)
そしてニコンとEOS(EF)マウント版がある。定価は135,000円と、
RTS版の時代から、さほど値上がりはしていなかった。
しかし、中身がRTS版と同等である為、使いこなしが難しい
レンズである事は間違いない、あくまで上級者向けだ。

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さて、次のレンズ

第3位:Lens Baby 3G
c0032138_12240701.jpg
ミラーレス第11回,第14回,第40回,ハイコスパ第7回記事で
紹介の、2000年代のMFティルト型トイレンズ

カメラはトイレンズ母艦のSONY NEX-3(APS-C機)を
使用する。

本レンズの難しさは、その操作性である。
ティルトレンズであるから、レンズを任意の方向に 任意の
角度で傾けなくては面白味が無い。
c0032138_12240797.jpg
本レンズは、3G(第三世代)という古いタイプであり、後継機
では傾けた状態で固定できるのだが、本レンズ3Gでは、傾けた
後にロックをして、それからピントを微調整する必要がある。

この操作が面倒なので、傾きをロックしない方法を編み出した。
指の形で傾きを作りつつ、同時に蛇腹のバネでピントを合わせ、
シャッターボタンに指を伸ばして撮影する、という方法だ。
(まあ、後継機MUSEでは、そういう技法で撮るのだが・・)

この撮影技法を実現する為のボディ形状が、NEX-3であれば
適正なのだ。
・・とは言え、ロックをしないで撮るのは、すごく難しい。
力も要るし、角度を保持する為の指使いは極めて複雑だ。

私はギターとキーボードを演奏するのだが、そのように楽器
演奏の(あるいはTVゲームの)練習経験が無いと、個々の指を
個別に複雑に動かす事は困難かも知れない。

「使い難いのだったら新型のコンポーザー等を買えば良い」
と思うかもしれない、だが、残念ながら新型は高価で、かつ
中古もあまり出回っていなかった。本3G型は、中古で1万円を
切る価格であったから購入したのであって、そうでないと、
コスパが悪いので購入対象外なのだ。

さすがに、ティルトレンズ系に3万も4万円もの予算は出せない
現代ではティルト式マウントアダプターも存在するので、その
効果だけを得たいならば、アダプターでも十分なのだ。
c0032138_12240755.jpg
さて、本LENSBABY 3Gであるが、絞り値で効果が若干変化する
のだが、絞り環が無い。それを変えたい場合は、ディスク状
の絞り部品がレンズ前部に磁力で付いているので、それを
専用器具で外して、他の絞り部品に入れ替える必要がある。
これは極めて煩雑な操作であり、実際の撮影中に、作画意図に
応じて絞り部品を交換する、という事はまず出来ないであろう。

この為、屋外であればその日の天候に合わせ「今日は曇りだから
F5.6あたりをつけていくか」、など、まるで露出計が無い銀塩
時代のカメラ(およそ50年程前)のような撮影技法になって
しまう。その頃には、ネガフィルムの箱の裏に、たとえば
「晴天の場合、カメラの絞りをF11にします」などと書かれて
いた。ネガフィルムの広いラティチュードがあれば、だいたい
アバウトな露出値で撮る事が出来ていたのだ。

なお、このような半世紀前の時代の記憶からか?また、それが
次の世代にまで伝わっているのか?いまだ、シニア層か、それに
近い年代のカメラマンの中で現代のデジタル一眼を使っていても
「今日は、絞りはいくつくらいにするのが良いですか?」と
聞いて来る人が多数居て驚く事がある。

勿論、レンズの絞り値は、自分が撮影したいと思う被写界深度
の意図に応じて、さらに撮影距離やレンズ焦点距離を加味して、
1枚1枚の撮影に対して個々に決定するものだ。
丸一日同じ絞り値で通すようなものでは決して無い。

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さらに余談だが、先年、観光地で高級カメラと高級レンズに
PL(偏光)フィルターを装着してるシニア層と話をした。

「PLフィルターの常用」は、20~30年前の、銀塩時代に
流行した機材利用法であり、現代ではあまり推奨はできない。
まあつまり、昔の撮影技法を現代でも守っている人だ。

彼は、撮影時に、そのPLフィルターを廻さずに、すなわち
「偏光効果を被写体に応じて調整せず」に使っていたので、
試しに「PLフィルターって、いつも廻して使ってますか?」
と尋ねてみたところ、そのシニア氏いわく、
「ああ、今朝調整したので、ずっとそのままです・・」
という答えだった。

勿論、とんでもない誤解の使用法であり、これはつまり、
「PLフィルターは、1枚1枚の写真の撮影時に毎回調整が必要
である」という点を根本的に理解していない。

「現代では推奨できない」と前述した理由の中の1つに、
この事があり、つまり、銀塩時代に「PLを付けると良い」
といった、その事柄だけが後年にまで引き継がれてしまい、
その際に「PLフィルターの正しい使い方」までを含めての
推奨または指導があったのならば良いが、それがなされず、
下手をすれば、このシニア氏のように、PL(偏光)効果の
意味や効能、用法を全く理解せずに使っている人達が大半
であるという状況だからだ。この場合、PLフィルターを
装着する事で、レンズに入る光量は、最大1/4にまで減少
してしまう、この意味がわからない初級中級層では、手ブレ
を誘発したり、AUTO ISO設定での感度上昇によるノイズの
増加などの弊害が出てしまう。
正しく使用するならば、PLフィルターは勿論効能があるが、
意味もわからず装着しているだけでは、弱点しか得られない。

絞り値の件やPLフィルターの話に限らず、様々なカメラ設定
は、1枚撮る毎に自身の意図に応じて変更をする必要がある。
それに加えて、写真の原理を何も理解しないで、周囲に
言われたままの状況で撮っている事は、さらに好ましく無い。
c0032138_12240715.jpg
さて、余談が長くなったが、本レンズ LENS BABY 3Gは、
その操作性が極めて難しいレンズである。
そしてティルトの原理や効果もわかっていないビギナーの場合、
ただなんとなく「ミニチュア風の写真が撮れた」と喜んでいる
だけの人も、かなり多いかも知れない。

勿論そのように偶然性で使うレンズではなく、ちゃんと効果が
出る方法を良く考えて用いるのが本来だ。

まあでも、ティルトの原理自体はそう難しいものでは無い、
レンズの光軸を傾けた方向に対し、レンズの面と平行な面に
ピントが合う、だから例えば左右に位置する被写体の場合は
レンズを左右に傾けて、その片方でピントを合わせれば
逆側の被写体はボケる事になる。以下、様々に光軸を傾けても
同様な原理であるし、逆向きに傾ければ距離差がある被写体に
同時にピントが合う(注:こちらが本来のティルト効果だ)

しかし、適切な角度で傾けるのは、本レンズの構造では
なかなか難しい、指の形でその度合いを測らなければならない
からだ。本レンズも、中上級者向けとしておこう。

ちなみに、同様の構造のLENS BABY MUSE(レンズマニアックス
第1回記事)も所有している。
c0032138_12242597.jpg
こちらはプラスチックレンズ仕様で、3Gよりもピントの山が
掴み難く、さらに高難易度のレンズだ。
(注:MUSEは、オプティック(光学系)が交換可能である)

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さて、次のレンズ
c0032138_12251031.jpg
第2位:Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(読み:フォクトレンダー ノクトン
注:独語綴り上の変母音は省略)

ミラーレス第14回,第41回,名玉編第4回,ハイコスパ第16回
記事で紹介の、2010年代のμ4/3専用超大口径MF中望遠レンズ。

カメラは、本レンズの専用母艦としているPANASONIC LUMIX
DMC-G5(μ4/3機)を使用する。

本レンズの難しさは、まず、開放F0.95の超大口径レンズで
ある事に加え、異常にまで寄れる23cmの最短撮影距離であり、
両者を組み合わせる事で、超極端に浅い被写界深度となる事だ。
c0032138_12251088.jpg
前編記事で第8位となったSAMYANG 85mm/f1.4が、その最短
撮影距離での開放絞りの際、その被写界深度は約11mmとなった。
これでも十分すぎるほど浅く「まずピントが合わない」と
述べたのだが、本レンズで、開放&最短撮影距離という
条件では、その被写界深度は、なんと 1.6mmでしかない。
(注:いずれも許容錯乱円径は0.03mmで計算)

驚くべき事に、被写界深度が浅いと言っていたSAMYANGよりも
本レンズが6倍も被写界深度が浅い。

まあでも、デジタルでは許容錯乱円の定義が曖昧である事で
被写界深度の計算方法は、他のやり方も有りえる。
例えば、オリンパス社のWEBでは、μ4/3用レンズにおける
許容錯乱円径を銀塩35mm判フィルムの0.03mm(1/30mm)
に対し、半分の0.016mm(1/60mm)で計算している。


そして、本ノクトン42.5/0.95は、μ4/3専用である為、
SAMYANG 85/1.4をフルサイズ機で使った場合においては、
センサーサイズが大きい方が被写界深度尾が浅くなるという
点で、若干両者の差は縮まると思う。上記のオリンパス社の
計算例のように、許容錯乱円の値を変えれば、計算上そうなる
のだが、前述の通り、デジタルの許容錯乱円の定義は少々曖昧
であり、他にもピクセルピッチ等の別の数値を使う事もある。

なのでセンサーサイズの差と計算方式により答えが違ってくる
のではあるが、SAMYANG 85/1.4をフルサイズで使ったとしても、
NOKTONとの6倍の差が僅差にまで詰まる事は無いであろう。

それから、絞り開放&最短撮影距離という極端な状況で
被写界深度を計算して比べるのも、ちょっと無理がある。
実際には、そういう状況で撮影する方が稀であるからだ。

そして、実使用においては、勿論様々な使い方がある為、
計算はそう単純では無い。

まあでも、撮影状況を仮に想定して計算してみよう。
SAMYANG 85/1.4はポートレート用レンズと仮定し、
APS-Cデジタル一眼で3mの距離から写すと、その画角における
対角線距離は約1mとなる(人物の半身が撮れる撮影範囲)
ここで絞り開放F1.4の場合、その被写界深度は10cm強となる。
c0032138_12251099.jpg
NOKTON 42.5/0.95 は、準マクロレンズと目的を仮定して、
μ4/3機で80cmの距離から撮影すると、その画角における
対角線距離は約40cmとなる、これは大きめの花や、数輪の花、
小物等を撮影するのに適正な撮影範囲であろう。
ここで絞りを開放から1段程度絞り、SAMYANGと同様のF1.4
とする、この場合の被写界深度は約3cmだ。
(いずれも許容錯乱円は0.03mmで計算)

すなわち、各レンズの実用的な使用法を考慮した場合、
やはりNOKTONの方が被写界深度が浅い事になる。

・・とは言え、他の様々な撮影条件でも、常にNOKTONの方が
SAMYANG 85/1.4よりも被写界深度が浅い訳でもない。
焦点距離の差が2倍ある為、撮影条件によってはSAMYANGの
方が被写界深度が浅くなる事も勿論ある。

で、撮影距離を短く取るケースと、絞りを開放F0.95近くに
する事の両者を掛け合わせると、本レンズの被写界深度の
浅さは、手に負えなくなってくる。

前述のように、極薄の被写界深度1.6mmともなると、手持ち
での撮影は、その微妙に変化する撮影距離(被写体ブレと
撮影者の前後方向への手ブレ)により、ピントが合うのは
奇跡的だ、仮に、いくら高性能な手ブレ補正があっても
上下左右や回転方向の平面にしか効かず、撮影距離の前後
方向に効く手ブレ補正は存在しない。
(一部のカメラにはフォーカス・ブラケット機能が存在するが、
純正AFレンズ専用であり、勿論MFのNOKTONでは無効だ)
結局、微妙に変化する撮影距離の中で連写して、たまたま
ピントが合ったものを選別するしか方法が無い。
(=MFブラケット技法)

あるいは、かなり(F5.6程度)まで絞り込むか? だが、
F5.6でも最短撮影距離での被写界深度は約1cmしか無い。

本レンズの購入当初は、その驚異的な近接撮影能力と
超大口径を生かして、近距離での撮影が特徴を強調できると
思っていたのだが、近距離では、どうしても被写界深度が
浅くなりすぎ、ピント合わせが困難だ。そして「ピントが
厳しいから」と、絞り込み過ぎると、超大口径レンズによる
独特な描写も得られなくなってしまう。

なので最近では、本レンズが中距離での撮影においても、
被写界深度を浅くする事が出来ることから、そのような
撮り方をするのも1つの方法かとも思うようになった。
(=新しい「用途開発」を行っている)
今回の記事でも、そうした中距離撮影に特化している。

c0032138_12251011.jpg
浅い被写界深度の話が長くなったが、この特性から、
被写体選びもかなり難しい、撮影距離が微妙に異なる密集した
被写体(例、桜の花など)では、構図上の主体が何処にあるか
わからず、文字通り焦点のぼやけた写真となるのだ。

そしてもう1点、本レンズは開放近くの近接撮影で球面収差や
ハロ等が多く発生し、ソフトレンズのような軟調の写りに
なってしまう、その度合いは大きく、梅の花などの白い
小さい被写体では、輪郭がわからなくなる程の甘さとなる。

絞り値を適切な値(F2.5~F4程度)まで、やや絞り込むと
これは回避できるのだが、絞ると、超大口径独特の描写が
失われるので、撮影条件(撮影距離、被写体種類、背景距離等)
に応じ、両者のバランスを取るピンポイントで、F2.5とかの
特定の値を探し出す必要がある。
なお、絞り環は、通常1/2段刻みであるが、絞り環を180度廻す
と、動画撮影用のクリック・ストップが無い(音がしない)
絞りとなり、この場合、無段階に連続して絞り値が調整できる。

いずれにしても、ランキングもこの位置(2位)ともなると、
かなりの高難易度レンズだ、上級者でも難儀すると思われるし
専門評価者や職業写真家層であっても、この手の超大口径
MFレンズでの撮影の経験値を持っている訳でも無いだろう。
勿論、初級中級者の手に負えるレベルのものでは無い。

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次はラストのレンズ、こちらが最難関レンズだ。

第1位:Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL
(読み:フォクトレンダー マクロアポランター
注:原語綴りにおける変母音の記載は省略している)
c0032138_12252296.jpg
ミラーレス・マニアックス第23回、補足編第6回記事で紹介の、
2001年発売のMF望遠マクロレンズ

本レンズは、当時のフォクトレンダーSL系レンズの中では
珍しいEF(EOS)マウント版だ。
カメラは、ファインダー性能が極めて低いCANON EOS7Dを
試験的に使用してみよう。

奇しくも1位,2位とフォクトレンダーのワンツーフィニッシュ
となった、まあ、コシナ製のレンズは、どれもマニア向け
なので、こういう事もあるだろう。
c0032138_12252256.jpg
さて、一口に「使いこなしが難しい」と言っても、そこには
様々な理由がある。
ここまでランキングにあげてきたレンズを、その理由で
4種類に区分してみよう。

1)レンズとカメラを合わせたシステムとしての性能上の限界
 8位 EOS 7D+SAMYANG 85mm/f1.4
 番外 PENTAX Q7+Space 7.5mm/f1.4

2)レンズの特徴的な仕様を原因とする使い難さ
 7位 TAMRON SP500mm/f8
 6位 KENKO MC 85mm/f2.5 Soft
 2位 Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95

3)レンズの性能上の課題を回避して使う事が難しいケース
 4位 Carl Zeiss Planar 85mm/f1.4

4)レンズそのものの操作性の弱点から来る使い難さ
 5位 CONTAX Makro-Planar 100mm/f2.8
 3位 LENS BABY 3G
c0032138_12252262.jpg
さて本マクロアポランター125/2.5SL(以下MAP125/2.5)は、
上記区分の、どのケースに当てはまるのであろうか?

実は、3)の性能、以外の全てに該当してしまうのだ。

まず、1)のシステムの問題点だが、カメラはMF性能に劣る
EOS 7Dだ、今回も全くピントが合わない。

「限界性能」のテスト目的としても、これでは酷すぎるので、
早々にEOS 7Dの利用は諦め、ボディを望遠母艦のLUMIX DMC-G6
(μ4/3機)に変更しよう。
c0032138_12253696.jpg
そうしても、次いで、2)仕様上の課題が出てくる。
かなり大きく重い(770g)のレンズであり、ハンドリングが悪い。
EOS 7D(APS-C機)での換算画角は200mmとなり、μ4/3のDMC-G6
では、250mm相当と、かなり長目の画角だ。
そこで最短撮影距離38cmの等倍マクロの状態では、画角が
狭すぎてブレが非常に大きくなりすぎる。

ちなみに、撮影範囲だが、μ4/3機で撮影距離38cmの場合、
約5.2cmx約3.9cmの狭い範囲しか写らない。
(APS-C機では、約7cmx5cmという感じだ)

仮に、この撮影範囲を約2000万画素相当で撮影した場合、
計算を簡略化して、5200x4000ピクセルとするが、これは
1cmあたり1000画素であるから、被写体ブレまたは手ブレが
ほんの1mm発生しただけで、100画素もずれてしまう(!)

ブレの原因の1つとしては重たい(重たく感じる)レンズで
ある事も大きく影響している。一眼レフとの組み合わせでは
総重量は1.5kgを越え、手持ち近接撮影は極めて厳しく
かと言って、グリップしずらい小型ミラーレス機では、
総重量こそ軽くなっても、レンズを支えきれない。
今回は軽量かつグリップのしっかりしたDMC-G6を用いて
いるが、それでも厳しい状況だ。

「じゃあ三脚を立てて撮れば良いじゃあないか」
と思うかも知れないが、それは大きな勘違いだ。

最短38cm、絞り開放での被写界深度だが、何と1.3mmだ(!)
これは、上記の超大口径レンズNOKTON 42.5mm/f0.95
の最短での被写界深度約1.6mmより、さらに浅い驚愕の数値だ。

このような状況で、たとえ三脚を立てても、屋外被写体で
あれば全滅だ、風やその他の要因がある中で、1.3mm以下の
範囲で微動だにしない被写体があるだろうか?

「屋内被写体ならば大丈夫」とか屁理屈を言うなかれ、
そんな浅い被写界深度で撮るべき商品写真や小物撮影等は無い。

ともかく、ブレが非常に大きく影響し、加えてピント合わせが
極めて困難な事が、2)の仕様上の問題点となる。
c0032138_12253664.jpg
これまでの問題点を、超絶的な技巧で回避できたとしても、
次いで「4)レンズそのものの操作性の弱点」が襲い掛かる
本レンズは、第5位の Makro-Planar T* 100mm/f2.8
と同様に、MFのピントリング回転角が極めて大きい。

無限遠から最短撮影距離までの、左手の持ち替え回数は、
Makro-Planarと同じ、平均14回だ。

当然、撮影中、左手、右手の両方に極めて大きな負担がかかる、
これでは、ものの10分で、使うのが嫌になって来る事であろう。

以前のミラーレス記事でも書いたが、このレンズを使うのは
「何かの修行か?」と思われる程の苦労を伴う。
描写力はそこそこ高いのであるが、使っていて楽しく無い事は
勿論であり、好き好んで本レンズを使うべきでは無いであろう。
(=「エンジョイ度」の得点が低いレンズと評価される)

初級中級者には推奨しない事は勿論、上級者や上級マニアに
対しても薦める事はしたくない、どうみても「苦行」でしか
無いからだ・・
c0032138_12253652.jpg
幸い(?)本レンズMAP125/2.5は、現代ではレアものである、
2000年代初頭の発売時の定価が10万円弱と高価であった事と、
マニアックなスペックから、販売本数はかなり限られていたと
思われる。
ごく稀にネット等で中古が出てくると、レアな為、プレミアム
価格となる場合もあるし、「投機対象」となっている様相も
あるのだが、本レンズを高価な価格で入手する事は疑問だ、
何も、好き好んで「修行」をする必要は無い。
c0032138_12253632.jpg
まあ、最難関の「使いこなしが難しい」レンズである事は
間違い無い。

なお、参考の為。2018年末に発売された、本MAP125/2.5
の17年ぶりの正当後継機種とも言える「マクロ アポランター
110m/F2.5」は、やはり難しいMFレンズではあるが、本レンズ
程の酷い使い難さは無い。左手の持ち替え回数も8~9回で
済む。SONY FEマウント仕様である為、ピーキングも効くし、
α7系のⅡ型機以降であれば、内蔵手ブレ補正機能も使用
可能である。描写力に関しても僅かに新型MAP110/2,5が
優れるであろう。新型は新品で14万円前後と高価なレンズ
ではあるが、本MAP125/2.5を不条理なプレミアム相場で
買うよりも安価であり、新型MAP110/2.5が圧倒的に
お勧めだ。(後日、別記事で紹介予定)

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さて、前編後編に分けて、ランキング形式で紹介した
「使いこなしが難しいレンズ特集」は、これにて終了だ。

ランクインしたレンズは全てMFレンズであるが、これはまあ
たまたま、である。MFレンズがAFレンズよりも使いこなしが
難しいと言う訳では無い事は、マニア層や上級層であれば
誰でもわかっている事だ。

最後に念の為、前編・後編であげたレンズ群は、あくまで
「使いこなしが難しい」というだけであり、悪いレンズとか
性能が低いレンズでは決して無い。

これらのレンズは、高性能あるいは個性的な描写表現力を
持つ為、むしろ「使いたいレンズ」であるのだ。
「使いたいけど、使うのが難しい」そういうレンズが今回の
記事で紹介したレンズ群である。


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