連載中の本「レンズ・マニアックス」シリーズでは、
所有しているマニアックなレンズで未紹介のものを掲載して
いるが、ここで補足編を2つ挟む事とする。
今回の記事では、従前の「ミラーレス・マニアックス」又は
本「レンズ・マニアックス」のシリーズ記事において
紹介済みの所有写真用交換レンズ約300数十本の内、
「このレンズは使いこなしが非常に難しい」と思われた
レンズ(あるいはカメラを含むシステム)を前後編に
分けて、ランキング形式で計8本紹介する。
勿論、このランキングは「難しいレンズ」であって、
描写力の高い順では無い、むしろ「使い難い」という
意味においては、ワーストな(悪い)ランキングだ。
まずは最初のシステム
第8位:SAMYANG(サムヤン) 85mm/f1.4
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ミラーレス第64回,補足編6回,ハイコスパ第13回記事で
紹介の2010年代の韓国製MF大口径中望遠レンズ
EFマウント版のレンズを選んで購入した為、
今回のカメラはCANON EOS 7D(APS-C機)を使用する。
この場合、レンズ単体で、と言うよりも、カメラを含めた
「システム」としての使いこなしがとても難しい。
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まず、本レンズは被写界深度が極めて浅い85mm/f1.4だ、
ちなみに、最短撮影距離の1mで絞りF1.4開放の場合、
その被写界深度は約11mmとなる、つまり僅か1cmの厚みの
範囲にしかピントが合わない。(注:フルサイズ時)
そもそも、85mm/f1.4はAFでもMFでもピント精度が出ない。
経験上では、近距離撮影での歩留まり(成功率)は、10%
以下だ。(10枚に9枚は失敗する)
例えば人物の顔の斜めアップを85/1.4で撮るとする、
その際、手前側の目にピントを合わせるのがセオリーだ。
だが、人物およびカメラマンの相対距離は1cmたりとも
動かないということは有り得ない。どんなに気をつけて静止
しようとしても、必ずどちらかが微妙に動いている状態だ。
(注:全てのレンズで手持ち撮影を推奨しているが、この
ケースでは例え三脚を立てても被写体側が動く事は防げない)
近年の一部のカメラには「瞳AF」という機能があるが、
たとえ、それを有効活用しても「被写体や撮影者が動く」
という事態は避けられない。
そしてたまたま、AFでもMFでも目にピントが合ったとしよう、
正面から平面的に撮っていなければ、目の一部以外の、
顔の部分はすべてアウトフォーカス(被写界深度外)だ。
まあ、中上級者であれば「アウトフォーカス」又は「ボケる」
と呼ぶのだが、大口径レンズの写真を殆ど見た事も無い一般の
人(カメラマンでは無い人)は、そういう写真を見てこう言う
「なにこの写真、ピンボケじゃないの?」
苦労して撮った結果がそれだ、まあ「やってられないよ」
というのは大口径ユーザーであれば経験がある事だと思う。
「じゃあ、絞って被写界深度を稼げば良いじゃあないか」
と思うかも知れない、けど、そういう被写界深度が浅い写真
を撮りたくて、わざわざ85mm/f1.4を購入しているのだ。
被写界深度が深い写真を撮るならば、85mm/f2.8とか、又は
ズームレンズでも十分だ。軽くて取り回しも楽だし、AFでも
ピントが合うし、手ブレ補正も効くだろうし、あらゆる面で、
ずっと気楽かつ容易に撮れるのでビギナー層でも扱える。
(・・というか、そういう目的ならばスマホでも十分だ)
また、開放絞り値を欲張っていないレンズは描写力に優れる
場合が多い。(注:近年の複雑な構成の新鋭大口径レンズと
比較するケースを除く)
![c0032138_16423572.jpg]()
さて、カメラ側EOS 7D(2009年)はCANONで初めて透過型液晶
ファインダーを採用した機体であるが、そのスクリーンは、
残念ながら解像感が無く、MFにおいてピントの山を確認する
という目的には全く適さない。
(注:EOS 7Dはスクリーン交換不可)
おまけに、電子接点の無いMFレンズの場合、EOS各機では、
フォーカスエイド(測距点においてピントが合ったという
合焦マークの表示)が出ない(技術的には実現は容易だが、
他社製レンズに対しての排他的な仕様制限であろう。
ちなみに銀塩EOSでは、それが出来た機体もあった)
そして勿論、光学ファインダーであるから、ミラーレス機の
ようにMF時のピーキングや画面拡大の機能も使えない。
要は、ただでさえピント合わせが難しいMF大口径レンズであり、
加えてカメラ側のMF性能や仕様が貧弱なので、ますます
使いこなしが難しいシステムとなっている、という事だ。
で、本レンズそのものの問題点だが、逆光に極めて弱い事と、
ボケ質破綻が発生する為、それらの回避を意識しなければ
ならない点がある。
逆光状態においては、盛大なフレアやゴーストが発生する。
被写体光源状況を良く見れば回避できない訳では無いのだが、
「自由な構図で撮れない」といった制約が大きくなってしまう。
本レンズのような難しいレンズで人物撮影をやる気には
ならないが(歩留まりが悪すぎる)、もしやるとしたら、
逆光気味のポートレートは全滅であろう。だからと言って
順光では、鼻の影が出たり、まぶしさで表情が固くなる、
曇天や日陰でレフ板併用で撮るしか出来ない事であろう。
レフ板は他に人手が要るし、日陰では背景の選択肢が減るし、
つまり撮影条件の制約が色々と厳しいという事だ。
![c0032138_16423589.jpg]()
それから、ボケ質破綻だが、これはあまり顕著では無いので、
絞り値を微調整する程度で対応(回避)可能であろう。
大口径レンズなので、やや絞り込んでボケ質破綻回避をする他、
絞りを開けて、背景を大ボケさせて回避する事も可能であり、
例えば85mm/f2.8に比べ、スペック上、破綻回避の幅が大きい。
まあでも、それらのいくつかの問題点を上手く回避して撮れば、
本レンズの写りはなかなか良い。
そして、新品で約3万円と極めて安価で、かつハイスペックな
レンズである。最も安価に85mm/f1.4を入手したい場合は
選択肢は本レンズしか無い。
が、もし購入するならば、相当に使いこなしが難しい事を、
良く認識(覚悟)しておく必要があると思う。
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さて、次のレンズ
第7位:TAMRON SP500mm/f8 (Model 55B)
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ミラーレス・マニアックス第31回記事で紹介の
1980年代頃のMF超望遠ミラー(レンズ)
(注:主要な光学系はレンズではなく、反射鏡である)
「アダプト-ル2」仕様のミラー(レンズ)である為、
マウント汎用性が高く、およそどのようなカメラでも利用可能で
あるが、今回は手ブレ補正機能内蔵ミラーレス機のPANASONIC
DMC-GX7(2013年、μ4/3機)を使用する。
超望遠ミラーの使いこなしの難しさは色々あるが
まず第一に「被写体の選択」である。
で、あえてその困難さを助長する為(笑)今回はμ4/3機で
使っているが、その換算画角は1000mm/f8となる。
すなわち「1000mmの単焦点で、いったい何を撮るのだ?」
という問題点がまず大きい(汗)
![c0032138_16424817.jpg]()
余談だが、ビギナーカメラマンの場合、写真を撮ろうと
する際に、自分の実際の(人間の)目の視野全体の中から
選択的に被写体を抜き出そうとする。
まあ、これは仮想ズーミングをしているような感覚であろう。
ただ、こういう被写体の探し方は撮影技法的には好ましくない。
中上級者であれば、カメラに装着しているレンズの画角を
いつも意識して、人間の全体視野の中から写真的に必要な
構図をトリミングしている感覚なのだ。
つまりビギナーの場合は、人間の視野全体を「被写体候補」
として見てしまう事から、自分が肉眼で見えている範囲に、
他の人が居たり、人工物等の邪魔物がある事を非常に嫌う。
それは例えば「画角を狭めれば写真に写らない」にも
係わらずだ。すなわち人間の目で見ている視野とカメラの
レンズの視野が全く違う、という概念が理解できていない。
(その状況だから、例えば、マクロ、超望遠、魚眼レンズ等を
初めて覗くと、「おお!」と人間の視野との差に驚く訳だ)
で、この為、前に人が居ると「邪魔だ、どけ!」と言ったり、
自分が他人より前に出て、他の人が自分の視野に全く入らない
場所まで動こうとする。
このビギナー層の習性が、観光地やイベント等で、撮影マナー
の悪さとか、他人とのトラブルに直結するのだ。
(私も先日、高級一眼レフに初級標準ズームをつけたシニア
の超ビギナーとトラブルになった、「そこをどけ」と
言われたのだ。極めて不愉快な話だが、100%先方の問題だ
勿論、あれこれと沢山言い返して、ビギナーは去っていった)
逆に言えば、そういう行為をするのは全員がビギナー層だ。
中上級者の構図感覚であれば、そういう邪魔なものが入らない
画角は簡単に「想像」できるし、あるいは、あえて人を入れた
風景などの作品的な意図すらも「創造」する事もできる。
なお、「ビギナー層」と書いたが、ビギナーに限らないケース
もあり、先日、観光地で、数十年間使い込んだ銀塩大判カメラを
使用しているシニアを見かけたので、ちょっとは「出来る」の
か?と思って、話を聞いてみると、やはり被写体の周囲にある
人工物などが「とても気になる」という。
「どれどれ」とビューファインダーを見せてもらうと、その
画角はかなり狭く、彼が、あれが気に入らない、これが気に
入らないといった人工物は、どこをどう見ても、画角の片隅
にも写らない、とんでもなく遠く離れた物体であった。
つまり、人間の視野で見ていて「あれが邪魔だ」と感じた物と
写真に写る画角の差を根本的に理解していない。
何十年も写真をやってそうなベテランですら、それである。
「画角」という概念が、そもそも何もわかっていない。
(ちなみに、そのシニア氏は、その日、1枚も写真を
撮らなかったと言う。重たい機材をただ運んでいるだけだ)
「邪魔だ、どけ(どかせ)!」といった、マナーの低下は、
以前は、主にビギナーカメラマンのそうした行為が、各地の
観光地やイベント、花の名所などでトラブル等の問題を引き
起こしていたのが、近年では、スマホやミラーレス機の普及で、
誰でも「にわかカメラマン」だ。
各所で同様な問題の発生率が非常に上がっている。
加えて、シニア層による、野鳥観察、絵画(スケッチ等)でも
多人数グループによる同様なマナー低下の傾向が、各地で
非常に多く見られる。特にこれらのグループは三脚やイーゼル
を多数立てて往来の邪魔になるので、ますます問題だ。
ネット等の情報伝達手段の普及から、変な「一極集中」が
出来てきて、グループでなくても、同じ場所に同じような目的の
人達が集まってくる、おまけに「団塊の世代」であると「他人と
横並びにする事が必然」「集団になると気が大きくなる」という
悪い習性がある。
結局、混雑する場所等で、以前にも増して超ビギナー層または
長年写真をやっていても実質的に何もわかっていない層による
撮影や観察等でのマナーの悪さや周囲への無配慮が目立つように
なってしまった事は、とても残念な事実だ。
![c0032138_16424825.jpg]()
余談はともかく、画角の話だが、中上級者であっても1000mm
という画角は、ちょっとお手上げであろう。
前述のような構図感覚は、沢山の焦点距離の単焦点レンズを
用いて、膨大な撮影経験から身につくものである、1000mm
というレンズでそういう経験を身につけるのは、まず無理だ。
つまり「データーベースに入っていない」という事だ。
ちなみに、また余談だが、ズームレンズばかりを使っていると
そういう「画角感覚」が身につかない。だから一部の写真教室
等では、あえてズームを封印し単焦点または固定の焦点距離で
撮影の練習を行う場合もある。
それから、中級者クラスで「オレは50mm派だ」等と言って
常に50mmレンズばかり使っている、というのもちょっと困った
状況である。それはつまり「50mmの画角感覚が身についた」
という状態だから、そのレンズが撮り易く感じるのであって、
それ自身は悪い事ではない。その感覚を習得したのだから、
今度は 28mm,35mm,85mm,135mm・・ といった、様々な
焦点距離の画角感覚を追加で身につけていくと、もっと
良くなる、それをしないで50mm派で止まっていては勿体無い。
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さて、本題に戻して、1000mmの画角感覚は、そう簡単に
身にづくものでは無い、だから被写体も探し難いのであるが
これはまあやむを得ない。まあ、もしかすると野鳥等を
中心に撮っていて、いつもこのクラスの超望遠を使って
いれば1000mmの画角感覚が身につくのかも知れないが・・
(もっとも、手持ち撮影で様々な場所にレンズを向ける訓練
を行っていないと、三脚を立てて待っているだけでは画角感覚
の習得は根本的に無理であろう)
本レンズの問題点の第二は、開放F値の暗さだ。
1000mmの超望遠なのでブレの発生も助長される、
まあ手ブレするか否か?という問題以前に、この焦点距離とも
なると、レンズの視野内に被写体を納める事自体が困難だ。
遠方の野鳥等を見つけ、そこにレンズを向けても、まず
ファインダー視野内に被写体は入っていない(汗)
第三に、ミラー(レンズ)の画質の問題だが、まず「ガラス
レンズ」に比較しての解像力の低さがある。
また、短所とも長所とも言えるが「リングボケ」が発生する。
それらの問題点をなんとか回避して使ったとしても、まあ、
結局の所1000mmの画角は、野鳥とか、あるいは動物園などの
限られた被写体状況での利用しか考え難い。
![c0032138_16424822.jpg]()
なお、本レンズは500mmの焦点距離ながら1.7mの最短撮影
距離を誇るので、マクロレンズ的な用途も考えられるが
撮影アングルが著しく制限され、水平近くの角度からしか
撮りようがない。例えば花があったとしても、真上の空中
1.7mの距離からも、真下の地中1.7mからも撮れないのだ。
近接撮影能力を認めれば、本レンズ自身の総合性能に問題が
あるという訳では無い、使いこなしが難しいのは、あくまで
その焦点距離の長さや仕様上の問題点なのだ。
まあ、近年ではこうしたミラーレンズの需要もずいぶんと
減ってきていると思う。銀塩時代の超望遠への「憧れ」も、
デジタル時代では、小型センサー、高倍率ズーム、
デジタル拡大機能等で対応できているからであろう。
新発売のミラーレンズもメーカー純正品は無い。
なので、必携のレンズとは言い難いが、購入時はやはり
使いこなしの難しさは十分に意識しておく必要がある。
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次のレンズは、ランキングの番外編としておこう。
番外編:Space 7.5mm/f1.4 (JF7.5M-2)
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ミラーレス第54回記事、特殊レンズ第1回記事等で紹介の
2010年代(?)のMF2/3型対応CCTV用レンズ
CCTV(産業用・マシンビジョン用)のCマウントレンズだ、
カメラボディはセンサーサイズが合致するPENTAX Q7
(1/1.7型撮像素子)を使用する。
CCTVレンズの意味や用途については「匠の写真用語辞典第3回」
で説明の他、ミラーレス・マニアックスの本レンズの記事や
「特殊レンズ・スーパーマニアックス第1回マシンビジョン編」
その他のCCTVレンズ記事に詳しいので今回は割愛する。
Space社は、CCTV用レンズでは大手のメーカーだ。
ちなみに、写真用レンズで著名なTAMRON社も、この分野では
大手である。
F1.4クラスは、CCTV用レンズでは標準的か小口径な方で
特に暗所で使う事の多い監視カメラ用CCTVレンズでは、
開放F1以下級が普通である。
こうしたCCTV用レンズは一般(個人)には販売していない事
も多く、場合により代理店等を通じて法人で申し込まないと
ならないケースもある。(注:通販を使っても同様だ)
さて、このレンズをQ7で使った場合、フルサイズ換算画角は、
約35mm/f1.4 に相当する。
一見、極めて使いやすそうな画角・仕様であるが、
問題は主にカメラ側、Q7のMF性能にある。
ピーキングや拡大機能を用いても精度不足という事だ。
![c0032138_16430106.jpg]()
結果的に問題点は、ピントの山が全くわからない事だ。
まあ、レンズそのものの問題よりもカメラ側の問題点が大きい
のであろう。(なので番外編とした)
なお、CCTV用レンズであっても、監視カメラ用ではなく、
マシンビジョン用途のものは、例えばロボットの目(視界)、
工業計測、製品品質評価(不良品の自動判別)等の目的に
使われる為、その解像力(画質)や収差性能は(写真用レンズ
には及ばない場合も多々あるが)さほど酷いものでは無い。
Qシステムでは、換算焦点距離が(Q7/Q-S1で)4.6倍と
なるので、「望遠母艦」として使う初級マニアも多い。
200mm級の一眼レフ用レンズをアダプターで装着すれば、
簡単に1000mm程度の超々望遠画角となるからだ。
これはセンサーサイズが小さい事からの特徴である。
ただ、Qシステムを望遠母艦とするのには、そのMF性能上では
明らかに不利だ。なかなかピントを合わせる事が出来ない。
なので、私の場合はセンサーが小さい事での他のメリットを
考慮して、このようなCCTV/産業用のCマウントレンズの母艦
として使っている。
CCTV/産業用レンズは1/4型,1/3型,1/2型,2/3型対応の製品が
殆どであり、1/2.3型センサーのQ/Q10ならば1/2型レンズが、
1/1.7型センサーのQ7/Q-S1であれば、2/3型レンズが
ベストマッチだ。(注:レンズ側のイメージサークルが
示された仕様よりも、やや大きい場合があり、そうであれば、
1サイズ下のレンズも、かろうじてQシステムで使用可能。
また、2/3型以上のレンズは、μ4/3機での「2倍テレコン
モード」の常用でも使う事ができる)
なお、CCTV/監視カメラ用レンズでは、1/3型対応でかつ
CSマウントのものが多いが、CSマウントからCマウントへの
変換は簡単な付属(or別売)のアダプター部品で容易だ。
ただ、その場合1/2.3型のQ/Q10でも、1/3型対応の
レンズでは画面周辺が若干ケラれてしまう危険性はある。
![c0032138_16430198.jpg]()
それと、本レンズ自身の問題も若干あり「ぐるぐるボケ」
(像面湾曲、非点収差等が主な原因)が出る。
せっかくのF1.4レンズだが、できるだけ背景ボケを作らない
ように、すなわち近接撮影(最短撮影距離は20cmだ)を避けて、
やや絞り、中遠距離でのパンフォーカス撮影を行うしかない。
それから、今回は行っていないが、CSマウント変換アダプター
を1個または複数個CCTV用レンズに装着すると、撮影倍率の高い
マクロレンズとして用いる事ができる、ただしQ7での屋外での
近接撮影は超高難易度となり、手に負えないし、その場合には
遠距離撮影も出来ない。
また、電子シャッター使用を余儀なくされるので、被写体や
撮影者の僅かなブレにより、撮影画像が変形してしまう。
なかなか使い難いレンズではあるが、まあ一般向けのレンズ
という訳では無く、あくまで番外編だ。
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さて、次のレンズは
第6位:KENKO MC 85mm/f2.5 SOFT
![c0032138_16431353.jpg]()
ミラーレス・マニアックス第19回記事で紹介の、
1980年代?頃のMF中望遠ソフト(軟焦点)レンズ。
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)を使用する。
本レンズの難しさはピント合わせが非常に難しい事だ。
まあ、本レンズに限らず、ソフト(軟焦点)レンズはどれも
ピント合わせが困難である。
![c0032138_16431371.jpg]()
ミラーレス・マニアックス記事では、本KENKO 85 Softの他、
清原光学VK70R、ニコンおもしろレンズ工房「ふわっとソフト」、
MINOLTA AF100/2.8 Soft,FUJIFILM FILTER LENSのソフトモード、
安原製作所MOMO100の計6本のソフトレンズを紹介してきたが・・
この中で、FUJIのFILTER LENSは固定焦点なので問題無い、
ミノルタの100Softは珍しいAF対応SOFTレンズなので、これも
AFで使えば大丈夫。安原製作所のMOMO100は、希少な広角ソフト
であり、被写界深度も深く、ピント合わせがやりやすい。
そして、清原光学VK70Rと、ニコン「ふわっとソフト」は、
開放F値がやや暗く、したがってソフト効果も少なめで、ピント
合わせは若干マシだ。
よって本レンズKENKO MC 85/2.5 SOFTが、ソフトレンズの中
では最難関のピント合わせとなる。
![c0032138_16431343.jpg]()
ソフトレンズは何故軟焦点化するか?と言えば、これは
レンズの球面収差によるものだ。つまり入射光のピント距離
(焦点)が1点に集まらず、拡散してしまうという事で、
シャープな結像にならない欠点を逆用(強調)したものだ。
この収差は、絞り込むと口径比の3乗に応じて低減(解消)
される為、絞り値の微調整でソフト量を調節する事になる。
よって、本レンズでは、開放F2.5 から F4迄の間に、
3点の中間絞り値のクリック・ストップが存在し、
F4からF5.6迄の間にも1点の中間絞り値がある。
「細かい絞り値設定でソフト量を調整しなさい」という仕様だ。
ピント合わせだが、絞り開放に近い状態では、肉眼ではもとより
今回使用のSONY α7の優秀なピーキング機能を用いても、それが
反応せず、まったくピントの山(位置)が分からない。
![c0032138_16431380.jpg]()
ソフトレンズで、ピント合わせを容易にしようと思ったら、
前述の原理から、絞り込めば良い事になる。
しかし、絞り込んでピントを合わせ、そこから絞りを戻して
適正なソフト量とする操作性は手間で面倒だ。
おまけに、絞り込んだ状態で、構図上の多くの距離にピントが
合っていたとしても(=それはピーキング機能でも確認できる)
そこから絞りを開けると、ソフト量の増加と共に、被写界深度も
浅くなるので、目的とする主要被写体部分にピントが合っている
保証が無くなってしまう。下手をすればピント確認の為に何度も
絞り調整を繰り返す羽目になってしまう。
なお、自作のオリジナルなピーキングの計算アルゴリズムでは
ソフトレンズでもピーキングが反応するのだが、高精度なそれは
計算量が極めて多く、PCでも2秒程度もかかってしまうので、
カメラへのそうした高精度ピーキングの搭載は、計算速度的な
観点で困難な事であろう。
ともかく、本レンズに限らず、ソフト(軟焦点)レンズは
使いこなしが相当に難しい。
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さて、前編のラストのレンズ
第5位:CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8 AEJ(RTS版)
![c0032138_16432511.jpg]()
ミラーレス第16回記事で紹介の
1980年頃のMF中望遠マクロレンズ
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)を使用する。
なお、ドイツ語なので、MacroではなくMa"k"roだ。
また、ツァイスでは開放絞り値を焦点距離より先に書く
慣習があるが、特定のメーカーだけ違う書き方をする事は
ユニバーサルでは無く賛同できないので、その点は無視する。
(注:ドイツ式とかアメリカ式とか、色々と表記方法がある。
光学分野は、かなり昔の時代からあり、その用語や記法が統一
されていない。用語制定をやれば良いのだが、カメラ業界全体の
仲がよろしくないのか?個々の立場での利便性を優先するのだ。
なお、SONYのツァイスレンズは焦点距離、F値の順で一般的だ)
![c0032138_16432515.jpg]()
本格的な高性能マクロレンズであり、しかも銀塩時代には
「憧れのマクロ」として、マニア垂涎のレンズであった。
何故憧れか?と言えば。その価格の高さにある。
1990年代の新品価格で確か20万円弱(+税)であり、
簡単に購入できる金額では無い。
ただ、比較的中古の玉数が豊富であったのも確かで、
発売期間や後年でも長期にわたり、供給不足になった事は
無いと思う。現代でも中古入手は可能で、概ね5万円前後だ。
しかし、本レンズの評判が良かったのは、いったい何故なの
だろうか?とも思ってしまう。
CONTAXという高級ブランド銘が付いていて、しかも値段が
20万円もするからか?
有名で高価であれば良いレンズだ、と思うのは大きな勘違いだ。
実際のところは、相当に「使い難いレンズ」である。
まずその重さ、保護フィルター込みで750gオーバーであり
さほど全長が長いレンズでは無い(95mm程度)であるから
ずっしりと重く感じる。そして最短撮影距離までピント
リングを廻した際には、全長約180mm程度(およそ2倍)まで
伸び、繰り出し量が大きすぎると共に、重量バランスも
大きく変わってしまう。
そして、ヘリコイド(ピントリング)の回転角がとても大きい、
例として、無限遠から最短撮影距離までヘリコイドを繰り出す
為に、私の場合、左手を平均14回持ち替えなければならない。
この持ち替えというのは、想像するよりずっと負担が大きく
通常は左手と右手でカメラとレンズの合計1kg以上の重量を
支えているのが、持ち替えを繰り返すと、左手の回転動作のみ
ならず、右手のグリップへも疲労が蓄積して行く。
14回の持ち替えは、私の平均値であるが、小刻みに廻した
として、およそ16回程度、ものすごく回転角を大きくして
ピントを合わせに行けば10~11回程度で廻しきるが、
その場合、回転角度的にレンズを左手で支えきれないので、
さらに右手グリップへの重量負担が増加する(疲労する)
![c0032138_16432443.jpg]()
余談だが、ビギナー層の場合、カメラを水平位置で撮る際、
レンズを上から(又は横から)つまむように吊って持って
ズームリング等を操作している人が半数ほど見受けられる。
勿論、レンズは下から支えて構え、操作するのがセオリーだ。
カメラ+レンズの重心付近を左手で支えれば、そもそも
重量負担的に楽であるし、加えて、手ブレの防止にもなる。
このような事は誰に教わるでもなく、カメラを使っていれば
自力で自然にわかるはずなのだが・・
レンズを上から吊るような構えだと、MF操作はまず出来ない、
ましてや本レンズを使うような場合は、重量を右手だけでは
ホールドできず、ものの10分程で疲れてしまい、撮影不能だ。
それから、レンズを上から「右手」で吊るしてズーミングを
している超初級者も良く見かける。左手はカメラを支えて
いるのだが、その構えではいったいシャッターはどうやって
切るのだろうか? いつまでも構図設定にモタモタしていて
なかなかシャッターが切れないのは、根本的にカメラの
構え方が間違っているからだ。カメラは基本的に構えてから
2~3秒以内にシャッターを切れるようにする事が理想だ。
本レンズと同様の疲労を誘発するMFレンズとして、例えば
NIKON Ai135mm/f2 (ハイコスパ第18回記事等)がある。
通常レンズなので本レンズほどピント繰り出し回数は多くは
無いが、重量が860gとさらに重く、1度ライブ撮影で使って、
ピント操作だけで両手が疲労困憊してしまった事があった。
さて、本レンズMakro-Planar T* 100mm/f2.8だが、
重量とピント回転角の問題を、体力や気力でカバーして
使ったとしよう、しかし今度は「ボケ質破綻」の問題が
襲ってくる。
プラナー系レンズで「ボケ質破綻」が出るのは、マニア層の
常識だ。ただ銀塩時代は、光学ファインダー使用と、現像後に
初めてそれがわかるという状況があり、撮影条件とボケ質破綻
との因果関係にまで言及しているマニアは皆無であった。
だが、デジタル時代、絞込み(実絞り)測光のミラーレス機で
高精細なEVFおよび撮影後すぐの画像確認が出来るようになると
ボケ質破綻は、撮影の前後で状況を把握する事が出来、かつ、
背景距離や絞り値の調整で、良質なボケの状態を探すという、
いわゆる「ボケ質破綻回避」の技法が生まれるようになった。
現在、一部の上級マニアはこの手法を実践していると聞く。
本レンズの「ボケ質破綻」は、かなり頻繁に発生する。
背景距離や撮影距離やアングル等を変えると、また前述の
ヘリコイドを廻す操作が必要となり、重量負担が嫌だからと
絞り値でボケ質破綻回避を行おうとする・・
ところが、本レンズの絞り環はレンズの根元に付いているのだ、
カメラ+レンズの重心位置を左手で下から支えながら、
絞り環を廻すのは不可能だ、よって、ここでも左手位置の
持ち替えが発生する、頻繁な絞り環操作は、MF操作と同様に
右手の負担増を招き、すなわち、本レンズは、どんな場合でも、
左手も右手も疲れるレンズであり、フィルード(屋外)撮影に
全く適さない。
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銀塩時代に、本レンズを「神格化」する程あがめた層が居た
事はどうにも不思議でならない、いったいどんな撮影スタイル
であったら、本レンズを快適に使用できるのであろうか?
三脚にカメラとレンズをセットして、システム全体を手では
持たないように撮っていたのであろうか? あるいは絞りも
ピントも殆ど廻す必要が無い中遠距離等の被写体だろうか?
いずれの撮り方も、マクロレンズの特性を活かしていない。
(とは言え、本記事でも近接撮影は多用していない、それは
無茶苦茶大変だからであり、あまり実用的では無いからだ)
そもそも屋外近接撮影での三脚使用は技法的に有り得ないのだ。
つまり、まったく的外れの撮り方をしていたのではなかろうか?
また、銀塩時代の撮影枚数など、たかが知れている。
良く撮る人でも、1日で数十枚から百枚程度だ(フィルム数本)
だが、今やデジタル時代だ。
2000年代、初期のデジタル時代では「フィルムの十倍撮れ!」
というのが、一種のスローガンのように流行していたが・・
(ちなみに私の現在の目標値はフィルム時代の20倍以上だ。
趣味撮影の範疇で言えば、銀塩では年間最大1万枚、デジタル
では年間20万枚が最大のレベルであろう。なお、業務撮影で
あればこれ以上の数値になると思う。それから本ブログでは
一般マニア層は年間最低3万枚の撮影を必須条件としている)
まあ、そこまで行かないまでも、いったん外に出れば数百枚、
は撮る、というのが例え初級者層でも現代では普通であろう。
だが、本レンズで数百枚の撮影は、まさしく「苦行」だ。
中古市場に沢山の玉数があるのも、なんとなく頷ける、
とても使いこなしが難しく、かつ非常に疲れるレンズで
あるからだ。
現代の一般カメラマンであれば、このような面倒なレンズは
使う気にもなれないと思う。AF+手ブレ補正+超音波モーター
のレンズでフルオートのモードで撮るのが今時の初級中級者
の撮影スタイルだ。そして、その層には、もはやCONTAXの
「神通力」も残っていない事であろう。
「コンタックス?何それ?かぜ薬?」と聞かれるのがオチだ。
まあ、売る人は多くても、買う人は少ないレンズなのかも
知れない。
ただまあ、本レンズの問題点を全て自力で回避できる技術や
技能、そして体力や握力があれば、見事に決まった時の描写力
は、往年の名レンズの片鱗を魅せてくれる可能性はある。
その僅かな希望を求めて「修行の道」(汗)に入るのであれば、
まあ、それは止めはしないが・・
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さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
ちなみに「使いこなしが難しい」と言っても、あまりに
低性能で無個性なレンズとかは紹介していない、そのような
レンズは、そもそも「使いたい」とは思わないからだ。
なので「使いたい気持ちはあるけど・・使いこなしが困難」
というレンズを中心に本シリーズ記事では選んでいる。
次回後編では、残りの4位~1位のレンズを紹介する。
所有しているマニアックなレンズで未紹介のものを掲載して
いるが、ここで補足編を2つ挟む事とする。
今回の記事では、従前の「ミラーレス・マニアックス」又は
本「レンズ・マニアックス」のシリーズ記事において
紹介済みの所有写真用交換レンズ約300数十本の内、
「このレンズは使いこなしが非常に難しい」と思われた
レンズ(あるいはカメラを含むシステム)を前後編に
分けて、ランキング形式で計8本紹介する。
勿論、このランキングは「難しいレンズ」であって、
描写力の高い順では無い、むしろ「使い難い」という
意味においては、ワーストな(悪い)ランキングだ。
まずは最初のシステム
第8位:SAMYANG(サムヤン) 85mm/f1.4

紹介の2010年代の韓国製MF大口径中望遠レンズ
EFマウント版のレンズを選んで購入した為、
今回のカメラはCANON EOS 7D(APS-C機)を使用する。
この場合、レンズ単体で、と言うよりも、カメラを含めた
「システム」としての使いこなしがとても難しい。

ちなみに、最短撮影距離の1mで絞りF1.4開放の場合、
その被写界深度は約11mmとなる、つまり僅か1cmの厚みの
範囲にしかピントが合わない。(注:フルサイズ時)
そもそも、85mm/f1.4はAFでもMFでもピント精度が出ない。
経験上では、近距離撮影での歩留まり(成功率)は、10%
以下だ。(10枚に9枚は失敗する)
例えば人物の顔の斜めアップを85/1.4で撮るとする、
その際、手前側の目にピントを合わせるのがセオリーだ。
だが、人物およびカメラマンの相対距離は1cmたりとも
動かないということは有り得ない。どんなに気をつけて静止
しようとしても、必ずどちらかが微妙に動いている状態だ。
(注:全てのレンズで手持ち撮影を推奨しているが、この
ケースでは例え三脚を立てても被写体側が動く事は防げない)
近年の一部のカメラには「瞳AF」という機能があるが、
たとえ、それを有効活用しても「被写体や撮影者が動く」
という事態は避けられない。
そしてたまたま、AFでもMFでも目にピントが合ったとしよう、
正面から平面的に撮っていなければ、目の一部以外の、
顔の部分はすべてアウトフォーカス(被写界深度外)だ。
まあ、中上級者であれば「アウトフォーカス」又は「ボケる」
と呼ぶのだが、大口径レンズの写真を殆ど見た事も無い一般の
人(カメラマンでは無い人)は、そういう写真を見てこう言う
「なにこの写真、ピンボケじゃないの?」
苦労して撮った結果がそれだ、まあ「やってられないよ」
というのは大口径ユーザーであれば経験がある事だと思う。
「じゃあ、絞って被写界深度を稼げば良いじゃあないか」
と思うかも知れない、けど、そういう被写界深度が浅い写真
を撮りたくて、わざわざ85mm/f1.4を購入しているのだ。
被写界深度が深い写真を撮るならば、85mm/f2.8とか、又は
ズームレンズでも十分だ。軽くて取り回しも楽だし、AFでも
ピントが合うし、手ブレ補正も効くだろうし、あらゆる面で、
ずっと気楽かつ容易に撮れるのでビギナー層でも扱える。
(・・というか、そういう目的ならばスマホでも十分だ)
また、開放絞り値を欲張っていないレンズは描写力に優れる
場合が多い。(注:近年の複雑な構成の新鋭大口径レンズと
比較するケースを除く)

ファインダーを採用した機体であるが、そのスクリーンは、
残念ながら解像感が無く、MFにおいてピントの山を確認する
という目的には全く適さない。
(注:EOS 7Dはスクリーン交換不可)
おまけに、電子接点の無いMFレンズの場合、EOS各機では、
フォーカスエイド(測距点においてピントが合ったという
合焦マークの表示)が出ない(技術的には実現は容易だが、
他社製レンズに対しての排他的な仕様制限であろう。
ちなみに銀塩EOSでは、それが出来た機体もあった)
そして勿論、光学ファインダーであるから、ミラーレス機の
ようにMF時のピーキングや画面拡大の機能も使えない。
要は、ただでさえピント合わせが難しいMF大口径レンズであり、
加えてカメラ側のMF性能や仕様が貧弱なので、ますます
使いこなしが難しいシステムとなっている、という事だ。
で、本レンズそのものの問題点だが、逆光に極めて弱い事と、
ボケ質破綻が発生する為、それらの回避を意識しなければ
ならない点がある。
逆光状態においては、盛大なフレアやゴーストが発生する。
被写体光源状況を良く見れば回避できない訳では無いのだが、
「自由な構図で撮れない」といった制約が大きくなってしまう。
本レンズのような難しいレンズで人物撮影をやる気には
ならないが(歩留まりが悪すぎる)、もしやるとしたら、
逆光気味のポートレートは全滅であろう。だからと言って
順光では、鼻の影が出たり、まぶしさで表情が固くなる、
曇天や日陰でレフ板併用で撮るしか出来ない事であろう。
レフ板は他に人手が要るし、日陰では背景の選択肢が減るし、
つまり撮影条件の制約が色々と厳しいという事だ。

絞り値を微調整する程度で対応(回避)可能であろう。
大口径レンズなので、やや絞り込んでボケ質破綻回避をする他、
絞りを開けて、背景を大ボケさせて回避する事も可能であり、
例えば85mm/f2.8に比べ、スペック上、破綻回避の幅が大きい。
まあでも、それらのいくつかの問題点を上手く回避して撮れば、
本レンズの写りはなかなか良い。
そして、新品で約3万円と極めて安価で、かつハイスペックな
レンズである。最も安価に85mm/f1.4を入手したい場合は
選択肢は本レンズしか無い。
が、もし購入するならば、相当に使いこなしが難しい事を、
良く認識(覚悟)しておく必要があると思う。
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さて、次のレンズ
第7位:TAMRON SP500mm/f8 (Model 55B)

1980年代頃のMF超望遠ミラー(レンズ)
(注:主要な光学系はレンズではなく、反射鏡である)
「アダプト-ル2」仕様のミラー(レンズ)である為、
マウント汎用性が高く、およそどのようなカメラでも利用可能で
あるが、今回は手ブレ補正機能内蔵ミラーレス機のPANASONIC
DMC-GX7(2013年、μ4/3機)を使用する。
超望遠ミラーの使いこなしの難しさは色々あるが
まず第一に「被写体の選択」である。
で、あえてその困難さを助長する為(笑)今回はμ4/3機で
使っているが、その換算画角は1000mm/f8となる。
すなわち「1000mmの単焦点で、いったい何を撮るのだ?」
という問題点がまず大きい(汗)

する際に、自分の実際の(人間の)目の視野全体の中から
選択的に被写体を抜き出そうとする。
まあ、これは仮想ズーミングをしているような感覚であろう。
ただ、こういう被写体の探し方は撮影技法的には好ましくない。
中上級者であれば、カメラに装着しているレンズの画角を
いつも意識して、人間の全体視野の中から写真的に必要な
構図をトリミングしている感覚なのだ。
つまりビギナーの場合は、人間の視野全体を「被写体候補」
として見てしまう事から、自分が肉眼で見えている範囲に、
他の人が居たり、人工物等の邪魔物がある事を非常に嫌う。
それは例えば「画角を狭めれば写真に写らない」にも
係わらずだ。すなわち人間の目で見ている視野とカメラの
レンズの視野が全く違う、という概念が理解できていない。
(その状況だから、例えば、マクロ、超望遠、魚眼レンズ等を
初めて覗くと、「おお!」と人間の視野との差に驚く訳だ)
で、この為、前に人が居ると「邪魔だ、どけ!」と言ったり、
自分が他人より前に出て、他の人が自分の視野に全く入らない
場所まで動こうとする。
このビギナー層の習性が、観光地やイベント等で、撮影マナー
の悪さとか、他人とのトラブルに直結するのだ。
(私も先日、高級一眼レフに初級標準ズームをつけたシニア
の超ビギナーとトラブルになった、「そこをどけ」と
言われたのだ。極めて不愉快な話だが、100%先方の問題だ
勿論、あれこれと沢山言い返して、ビギナーは去っていった)
逆に言えば、そういう行為をするのは全員がビギナー層だ。
中上級者の構図感覚であれば、そういう邪魔なものが入らない
画角は簡単に「想像」できるし、あるいは、あえて人を入れた
風景などの作品的な意図すらも「創造」する事もできる。
なお、「ビギナー層」と書いたが、ビギナーに限らないケース
もあり、先日、観光地で、数十年間使い込んだ銀塩大判カメラを
使用しているシニアを見かけたので、ちょっとは「出来る」の
か?と思って、話を聞いてみると、やはり被写体の周囲にある
人工物などが「とても気になる」という。
「どれどれ」とビューファインダーを見せてもらうと、その
画角はかなり狭く、彼が、あれが気に入らない、これが気に
入らないといった人工物は、どこをどう見ても、画角の片隅
にも写らない、とんでもなく遠く離れた物体であった。
つまり、人間の視野で見ていて「あれが邪魔だ」と感じた物と
写真に写る画角の差を根本的に理解していない。
何十年も写真をやってそうなベテランですら、それである。
「画角」という概念が、そもそも何もわかっていない。
(ちなみに、そのシニア氏は、その日、1枚も写真を
撮らなかったと言う。重たい機材をただ運んでいるだけだ)
「邪魔だ、どけ(どかせ)!」といった、マナーの低下は、
以前は、主にビギナーカメラマンのそうした行為が、各地の
観光地やイベント、花の名所などでトラブル等の問題を引き
起こしていたのが、近年では、スマホやミラーレス機の普及で、
誰でも「にわかカメラマン」だ。
各所で同様な問題の発生率が非常に上がっている。
加えて、シニア層による、野鳥観察、絵画(スケッチ等)でも
多人数グループによる同様なマナー低下の傾向が、各地で
非常に多く見られる。特にこれらのグループは三脚やイーゼル
を多数立てて往来の邪魔になるので、ますます問題だ。
ネット等の情報伝達手段の普及から、変な「一極集中」が
出来てきて、グループでなくても、同じ場所に同じような目的の
人達が集まってくる、おまけに「団塊の世代」であると「他人と
横並びにする事が必然」「集団になると気が大きくなる」という
悪い習性がある。
結局、混雑する場所等で、以前にも増して超ビギナー層または
長年写真をやっていても実質的に何もわかっていない層による
撮影や観察等でのマナーの悪さや周囲への無配慮が目立つように
なってしまった事は、とても残念な事実だ。

という画角は、ちょっとお手上げであろう。
前述のような構図感覚は、沢山の焦点距離の単焦点レンズを
用いて、膨大な撮影経験から身につくものである、1000mm
というレンズでそういう経験を身につけるのは、まず無理だ。
つまり「データーベースに入っていない」という事だ。
ちなみに、また余談だが、ズームレンズばかりを使っていると
そういう「画角感覚」が身につかない。だから一部の写真教室
等では、あえてズームを封印し単焦点または固定の焦点距離で
撮影の練習を行う場合もある。
それから、中級者クラスで「オレは50mm派だ」等と言って
常に50mmレンズばかり使っている、というのもちょっと困った
状況である。それはつまり「50mmの画角感覚が身についた」
という状態だから、そのレンズが撮り易く感じるのであって、
それ自身は悪い事ではない。その感覚を習得したのだから、
今度は 28mm,35mm,85mm,135mm・・ といった、様々な
焦点距離の画角感覚を追加で身につけていくと、もっと
良くなる、それをしないで50mm派で止まっていては勿体無い。
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さて、本題に戻して、1000mmの画角感覚は、そう簡単に
身にづくものでは無い、だから被写体も探し難いのであるが
これはまあやむを得ない。まあ、もしかすると野鳥等を
中心に撮っていて、いつもこのクラスの超望遠を使って
いれば1000mmの画角感覚が身につくのかも知れないが・・
(もっとも、手持ち撮影で様々な場所にレンズを向ける訓練
を行っていないと、三脚を立てて待っているだけでは画角感覚
の習得は根本的に無理であろう)
本レンズの問題点の第二は、開放F値の暗さだ。
1000mmの超望遠なのでブレの発生も助長される、
まあ手ブレするか否か?という問題以前に、この焦点距離とも
なると、レンズの視野内に被写体を納める事自体が困難だ。
遠方の野鳥等を見つけ、そこにレンズを向けても、まず
ファインダー視野内に被写体は入っていない(汗)
第三に、ミラー(レンズ)の画質の問題だが、まず「ガラス
レンズ」に比較しての解像力の低さがある。
また、短所とも長所とも言えるが「リングボケ」が発生する。
それらの問題点をなんとか回避して使ったとしても、まあ、
結局の所1000mmの画角は、野鳥とか、あるいは動物園などの
限られた被写体状況での利用しか考え難い。

距離を誇るので、マクロレンズ的な用途も考えられるが
撮影アングルが著しく制限され、水平近くの角度からしか
撮りようがない。例えば花があったとしても、真上の空中
1.7mの距離からも、真下の地中1.7mからも撮れないのだ。
近接撮影能力を認めれば、本レンズ自身の総合性能に問題が
あるという訳では無い、使いこなしが難しいのは、あくまで
その焦点距離の長さや仕様上の問題点なのだ。
まあ、近年ではこうしたミラーレンズの需要もずいぶんと
減ってきていると思う。銀塩時代の超望遠への「憧れ」も、
デジタル時代では、小型センサー、高倍率ズーム、
デジタル拡大機能等で対応できているからであろう。
新発売のミラーレンズもメーカー純正品は無い。
なので、必携のレンズとは言い難いが、購入時はやはり
使いこなしの難しさは十分に意識しておく必要がある。
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次のレンズは、ランキングの番外編としておこう。
番外編:Space 7.5mm/f1.4 (JF7.5M-2)

2010年代(?)のMF2/3型対応CCTV用レンズ
CCTV(産業用・マシンビジョン用)のCマウントレンズだ、
カメラボディはセンサーサイズが合致するPENTAX Q7
(1/1.7型撮像素子)を使用する。
CCTVレンズの意味や用途については「匠の写真用語辞典第3回」
で説明の他、ミラーレス・マニアックスの本レンズの記事や
「特殊レンズ・スーパーマニアックス第1回マシンビジョン編」
その他のCCTVレンズ記事に詳しいので今回は割愛する。
Space社は、CCTV用レンズでは大手のメーカーだ。
ちなみに、写真用レンズで著名なTAMRON社も、この分野では
大手である。
F1.4クラスは、CCTV用レンズでは標準的か小口径な方で
特に暗所で使う事の多い監視カメラ用CCTVレンズでは、
開放F1以下級が普通である。
こうしたCCTV用レンズは一般(個人)には販売していない事
も多く、場合により代理店等を通じて法人で申し込まないと
ならないケースもある。(注:通販を使っても同様だ)
さて、このレンズをQ7で使った場合、フルサイズ換算画角は、
約35mm/f1.4 に相当する。
一見、極めて使いやすそうな画角・仕様であるが、
問題は主にカメラ側、Q7のMF性能にある。
ピーキングや拡大機能を用いても精度不足という事だ。

まあ、レンズそのものの問題よりもカメラ側の問題点が大きい
のであろう。(なので番外編とした)
なお、CCTV用レンズであっても、監視カメラ用ではなく、
マシンビジョン用途のものは、例えばロボットの目(視界)、
工業計測、製品品質評価(不良品の自動判別)等の目的に
使われる為、その解像力(画質)や収差性能は(写真用レンズ
には及ばない場合も多々あるが)さほど酷いものでは無い。
Qシステムでは、換算焦点距離が(Q7/Q-S1で)4.6倍と
なるので、「望遠母艦」として使う初級マニアも多い。
200mm級の一眼レフ用レンズをアダプターで装着すれば、
簡単に1000mm程度の超々望遠画角となるからだ。
これはセンサーサイズが小さい事からの特徴である。
ただ、Qシステムを望遠母艦とするのには、そのMF性能上では
明らかに不利だ。なかなかピントを合わせる事が出来ない。
なので、私の場合はセンサーが小さい事での他のメリットを
考慮して、このようなCCTV/産業用のCマウントレンズの母艦
として使っている。
CCTV/産業用レンズは1/4型,1/3型,1/2型,2/3型対応の製品が
殆どであり、1/2.3型センサーのQ/Q10ならば1/2型レンズが、
1/1.7型センサーのQ7/Q-S1であれば、2/3型レンズが
ベストマッチだ。(注:レンズ側のイメージサークルが
示された仕様よりも、やや大きい場合があり、そうであれば、
1サイズ下のレンズも、かろうじてQシステムで使用可能。
また、2/3型以上のレンズは、μ4/3機での「2倍テレコン
モード」の常用でも使う事ができる)
なお、CCTV/監視カメラ用レンズでは、1/3型対応でかつ
CSマウントのものが多いが、CSマウントからCマウントへの
変換は簡単な付属(or別売)のアダプター部品で容易だ。
ただ、その場合1/2.3型のQ/Q10でも、1/3型対応の
レンズでは画面周辺が若干ケラれてしまう危険性はある。

(像面湾曲、非点収差等が主な原因)が出る。
せっかくのF1.4レンズだが、できるだけ背景ボケを作らない
ように、すなわち近接撮影(最短撮影距離は20cmだ)を避けて、
やや絞り、中遠距離でのパンフォーカス撮影を行うしかない。
それから、今回は行っていないが、CSマウント変換アダプター
を1個または複数個CCTV用レンズに装着すると、撮影倍率の高い
マクロレンズとして用いる事ができる、ただしQ7での屋外での
近接撮影は超高難易度となり、手に負えないし、その場合には
遠距離撮影も出来ない。
また、電子シャッター使用を余儀なくされるので、被写体や
撮影者の僅かなブレにより、撮影画像が変形してしまう。
なかなか使い難いレンズではあるが、まあ一般向けのレンズ
という訳では無く、あくまで番外編だ。
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さて、次のレンズは
第6位:KENKO MC 85mm/f2.5 SOFT

1980年代?頃のMF中望遠ソフト(軟焦点)レンズ。
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)を使用する。
本レンズの難しさはピント合わせが非常に難しい事だ。
まあ、本レンズに限らず、ソフト(軟焦点)レンズはどれも
ピント合わせが困難である。

清原光学VK70R、ニコンおもしろレンズ工房「ふわっとソフト」、
MINOLTA AF100/2.8 Soft,FUJIFILM FILTER LENSのソフトモード、
安原製作所MOMO100の計6本のソフトレンズを紹介してきたが・・
この中で、FUJIのFILTER LENSは固定焦点なので問題無い、
ミノルタの100Softは珍しいAF対応SOFTレンズなので、これも
AFで使えば大丈夫。安原製作所のMOMO100は、希少な広角ソフト
であり、被写界深度も深く、ピント合わせがやりやすい。
そして、清原光学VK70Rと、ニコン「ふわっとソフト」は、
開放F値がやや暗く、したがってソフト効果も少なめで、ピント
合わせは若干マシだ。
よって本レンズKENKO MC 85/2.5 SOFTが、ソフトレンズの中
では最難関のピント合わせとなる。

レンズの球面収差によるものだ。つまり入射光のピント距離
(焦点)が1点に集まらず、拡散してしまうという事で、
シャープな結像にならない欠点を逆用(強調)したものだ。
この収差は、絞り込むと口径比の3乗に応じて低減(解消)
される為、絞り値の微調整でソフト量を調節する事になる。
よって、本レンズでは、開放F2.5 から F4迄の間に、
3点の中間絞り値のクリック・ストップが存在し、
F4からF5.6迄の間にも1点の中間絞り値がある。
「細かい絞り値設定でソフト量を調整しなさい」という仕様だ。
ピント合わせだが、絞り開放に近い状態では、肉眼ではもとより
今回使用のSONY α7の優秀なピーキング機能を用いても、それが
反応せず、まったくピントの山(位置)が分からない。

前述の原理から、絞り込めば良い事になる。
しかし、絞り込んでピントを合わせ、そこから絞りを戻して
適正なソフト量とする操作性は手間で面倒だ。
おまけに、絞り込んだ状態で、構図上の多くの距離にピントが
合っていたとしても(=それはピーキング機能でも確認できる)
そこから絞りを開けると、ソフト量の増加と共に、被写界深度も
浅くなるので、目的とする主要被写体部分にピントが合っている
保証が無くなってしまう。下手をすればピント確認の為に何度も
絞り調整を繰り返す羽目になってしまう。
なお、自作のオリジナルなピーキングの計算アルゴリズムでは
ソフトレンズでもピーキングが反応するのだが、高精度なそれは
計算量が極めて多く、PCでも2秒程度もかかってしまうので、
カメラへのそうした高精度ピーキングの搭載は、計算速度的な
観点で困難な事であろう。
ともかく、本レンズに限らず、ソフト(軟焦点)レンズは
使いこなしが相当に難しい。
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さて、前編のラストのレンズ
第5位:CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8 AEJ(RTS版)

1980年頃のMF中望遠マクロレンズ
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)を使用する。
なお、ドイツ語なので、MacroではなくMa"k"roだ。
また、ツァイスでは開放絞り値を焦点距離より先に書く
慣習があるが、特定のメーカーだけ違う書き方をする事は
ユニバーサルでは無く賛同できないので、その点は無視する。
(注:ドイツ式とかアメリカ式とか、色々と表記方法がある。
光学分野は、かなり昔の時代からあり、その用語や記法が統一
されていない。用語制定をやれば良いのだが、カメラ業界全体の
仲がよろしくないのか?個々の立場での利便性を優先するのだ。
なお、SONYのツァイスレンズは焦点距離、F値の順で一般的だ)

「憧れのマクロ」として、マニア垂涎のレンズであった。
何故憧れか?と言えば。その価格の高さにある。
1990年代の新品価格で確か20万円弱(+税)であり、
簡単に購入できる金額では無い。
ただ、比較的中古の玉数が豊富であったのも確かで、
発売期間や後年でも長期にわたり、供給不足になった事は
無いと思う。現代でも中古入手は可能で、概ね5万円前後だ。
しかし、本レンズの評判が良かったのは、いったい何故なの
だろうか?とも思ってしまう。
CONTAXという高級ブランド銘が付いていて、しかも値段が
20万円もするからか?
有名で高価であれば良いレンズだ、と思うのは大きな勘違いだ。
実際のところは、相当に「使い難いレンズ」である。
まずその重さ、保護フィルター込みで750gオーバーであり
さほど全長が長いレンズでは無い(95mm程度)であるから
ずっしりと重く感じる。そして最短撮影距離までピント
リングを廻した際には、全長約180mm程度(およそ2倍)まで
伸び、繰り出し量が大きすぎると共に、重量バランスも
大きく変わってしまう。
そして、ヘリコイド(ピントリング)の回転角がとても大きい、
例として、無限遠から最短撮影距離までヘリコイドを繰り出す
為に、私の場合、左手を平均14回持ち替えなければならない。
この持ち替えというのは、想像するよりずっと負担が大きく
通常は左手と右手でカメラとレンズの合計1kg以上の重量を
支えているのが、持ち替えを繰り返すと、左手の回転動作のみ
ならず、右手のグリップへも疲労が蓄積して行く。
14回の持ち替えは、私の平均値であるが、小刻みに廻した
として、およそ16回程度、ものすごく回転角を大きくして
ピントを合わせに行けば10~11回程度で廻しきるが、
その場合、回転角度的にレンズを左手で支えきれないので、
さらに右手グリップへの重量負担が増加する(疲労する)

レンズを上から(又は横から)つまむように吊って持って
ズームリング等を操作している人が半数ほど見受けられる。
勿論、レンズは下から支えて構え、操作するのがセオリーだ。
カメラ+レンズの重心付近を左手で支えれば、そもそも
重量負担的に楽であるし、加えて、手ブレの防止にもなる。
このような事は誰に教わるでもなく、カメラを使っていれば
自力で自然にわかるはずなのだが・・
レンズを上から吊るような構えだと、MF操作はまず出来ない、
ましてや本レンズを使うような場合は、重量を右手だけでは
ホールドできず、ものの10分程で疲れてしまい、撮影不能だ。
それから、レンズを上から「右手」で吊るしてズーミングを
している超初級者も良く見かける。左手はカメラを支えて
いるのだが、その構えではいったいシャッターはどうやって
切るのだろうか? いつまでも構図設定にモタモタしていて
なかなかシャッターが切れないのは、根本的にカメラの
構え方が間違っているからだ。カメラは基本的に構えてから
2~3秒以内にシャッターを切れるようにする事が理想だ。
本レンズと同様の疲労を誘発するMFレンズとして、例えば
NIKON Ai135mm/f2 (ハイコスパ第18回記事等)がある。
通常レンズなので本レンズほどピント繰り出し回数は多くは
無いが、重量が860gとさらに重く、1度ライブ撮影で使って、
ピント操作だけで両手が疲労困憊してしまった事があった。
さて、本レンズMakro-Planar T* 100mm/f2.8だが、
重量とピント回転角の問題を、体力や気力でカバーして
使ったとしよう、しかし今度は「ボケ質破綻」の問題が
襲ってくる。
プラナー系レンズで「ボケ質破綻」が出るのは、マニア層の
常識だ。ただ銀塩時代は、光学ファインダー使用と、現像後に
初めてそれがわかるという状況があり、撮影条件とボケ質破綻
との因果関係にまで言及しているマニアは皆無であった。
だが、デジタル時代、絞込み(実絞り)測光のミラーレス機で
高精細なEVFおよび撮影後すぐの画像確認が出来るようになると
ボケ質破綻は、撮影の前後で状況を把握する事が出来、かつ、
背景距離や絞り値の調整で、良質なボケの状態を探すという、
いわゆる「ボケ質破綻回避」の技法が生まれるようになった。
現在、一部の上級マニアはこの手法を実践していると聞く。
本レンズの「ボケ質破綻」は、かなり頻繁に発生する。
背景距離や撮影距離やアングル等を変えると、また前述の
ヘリコイドを廻す操作が必要となり、重量負担が嫌だからと
絞り値でボケ質破綻回避を行おうとする・・
ところが、本レンズの絞り環はレンズの根元に付いているのだ、
カメラ+レンズの重心位置を左手で下から支えながら、
絞り環を廻すのは不可能だ、よって、ここでも左手位置の
持ち替えが発生する、頻繁な絞り環操作は、MF操作と同様に
右手の負担増を招き、すなわち、本レンズは、どんな場合でも、
左手も右手も疲れるレンズであり、フィルード(屋外)撮影に
全く適さない。

事はどうにも不思議でならない、いったいどんな撮影スタイル
であったら、本レンズを快適に使用できるのであろうか?
三脚にカメラとレンズをセットして、システム全体を手では
持たないように撮っていたのであろうか? あるいは絞りも
ピントも殆ど廻す必要が無い中遠距離等の被写体だろうか?
いずれの撮り方も、マクロレンズの特性を活かしていない。
(とは言え、本記事でも近接撮影は多用していない、それは
無茶苦茶大変だからであり、あまり実用的では無いからだ)
そもそも屋外近接撮影での三脚使用は技法的に有り得ないのだ。
つまり、まったく的外れの撮り方をしていたのではなかろうか?
また、銀塩時代の撮影枚数など、たかが知れている。
良く撮る人でも、1日で数十枚から百枚程度だ(フィルム数本)
だが、今やデジタル時代だ。
2000年代、初期のデジタル時代では「フィルムの十倍撮れ!」
というのが、一種のスローガンのように流行していたが・・
(ちなみに私の現在の目標値はフィルム時代の20倍以上だ。
趣味撮影の範疇で言えば、銀塩では年間最大1万枚、デジタル
では年間20万枚が最大のレベルであろう。なお、業務撮影で
あればこれ以上の数値になると思う。それから本ブログでは
一般マニア層は年間最低3万枚の撮影を必須条件としている)
まあ、そこまで行かないまでも、いったん外に出れば数百枚、
は撮る、というのが例え初級者層でも現代では普通であろう。
だが、本レンズで数百枚の撮影は、まさしく「苦行」だ。
中古市場に沢山の玉数があるのも、なんとなく頷ける、
とても使いこなしが難しく、かつ非常に疲れるレンズで
あるからだ。
現代の一般カメラマンであれば、このような面倒なレンズは
使う気にもなれないと思う。AF+手ブレ補正+超音波モーター
のレンズでフルオートのモードで撮るのが今時の初級中級者
の撮影スタイルだ。そして、その層には、もはやCONTAXの
「神通力」も残っていない事であろう。
「コンタックス?何それ?かぜ薬?」と聞かれるのがオチだ。
まあ、売る人は多くても、買う人は少ないレンズなのかも
知れない。
ただまあ、本レンズの問題点を全て自力で回避できる技術や
技能、そして体力や握力があれば、見事に決まった時の描写力
は、往年の名レンズの片鱗を魅せてくれる可能性はある。
その僅かな希望を求めて「修行の道」(汗)に入るのであれば、
まあ、それは止めはしないが・・
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さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
ちなみに「使いこなしが難しい」と言っても、あまりに
低性能で無個性なレンズとかは紹介していない、そのような
レンズは、そもそも「使いたい」とは思わないからだ。
なので「使いたい気持ちはあるけど・・使いこなしが困難」
というレンズを中心に本シリーズ記事では選んでいる。
次回後編では、残りの4位~1位のレンズを紹介する。