Quantcast
Channel: 【匠のデジタル工房・玄人専科】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

レンズ・マニアックス(10)

$
0
0
過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介の
マニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。

では、まずは今回最初のレンズ
c0032138_08495578.jpg
レンズは、CANON EF 40mm/f2.8 STM
(中古購入価格 11,000円)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)

2012年発売の、フルサイズ対応エントリー単焦点標準レンズ。

STM型番は「ステッピングモーター内蔵」という意味だ、
USM(超音波モーター)の簡略版という事であろう。

まあ製品ラインナップのコンセプト上、小型軽量、ローコスト
と言う方向性で、こういう異なる種類のモーターを並存させる
事は、SONYやTAMRON等でも前例がある(SSMとSAM等)
c0032138_08495577.jpg
最初にSTM型の弱点をあげておくが、モーター駆動にカメラ
側からの電源供給が必須だ。まあ、そこまでは他の様々な
モーターと一緒なのだが、STMの場合は電源未供給状態では
MF(マニュアルフォーカス)が動作しない。

これでは(一般的な)マウントアダプターを介して、他社の
カメラに装着しても、MFが動かず使用できないと言う事になる。
(注:電子アダプターを用いればSTM型でも使用可能な製品も
ある模様であるが、一般に高価であり、それらを使うならば、
EOS機にそのまま装着した方が、ずっと簡便であろう)

なお、STM型に限らず、旧来のUSM型モーター搭載レンズの
一部にも、電源未供給ではMFが効かないケースがある。
(例:EF85/1.2L USM、ミラーレス・マニアックス第61回
記事参照)

で、実はこういう排他的仕様のコンセプト(自社製品だけで
システムを構成しないとまともに動かない=汎用性に欠ける)
の製品は個人的には賛同できず、好きでは無い。

すなわち、カメラ市場は、ただでさえメーカー間の仕様統一が
できず、他の市場分野に対して、あるいは現在の世情に対して、
大きく遅れている。例えば、過去の他の市場分野をあげても、
ビデテープ(VHSとβ)や、DVDの様々な形式等でユーザー
利便性を妨げた例はいくつもあるが、メモリーカードの
ように主流な方式(例:SDカード)に、だんたんと統一されて
いくべきだ。(=デファクト・スタンダード化)さも無いと、
「ユーザー利便性」を損ねてしまい、市場そのものの発展を
妨げてしまうからだ。

だから、STMレンズは軽量で良さそうなものがいくつかある
事は知ってはいたが、こういう考え方から、ずっと購入を
保留していた。(不便だから買わない、というのがユーザーが
出来る唯一の対抗手段だ。仕様上の弱点が市場に受け入れられ
なければ、メーカー側も仕様を改善せざるを得なくなる)

では何故、本EF40/2.8STMを購入したのか?という理由だが、
これも個人的なコンセプトだが、その歴史的価値の高さと
コスパが、購入を躊躇する理由よりも上回ったからだ。

まずコスパの件だが、現代の各カメラメーカーは何処も
「エントリーレンズ」をラインナップしている。これらは
ほぼ全て性能的には満足いくレベルでありながら、価格が
安いのでコスパが極めて良く、様々な製品を愛用している。
まあ「CANON製品もいつまでも無視する訳にはいかないだろう」
という考えだ。
c0032138_08495585.jpg
そして「歴史的価値」であるが、本EF40/2.8STMは、まあ
言ってみれば「パンケーキ型(薄型)」レンズである。
ところが実はCANONは銀塩MF/AF時代、そしてデジタル時代
を通じ、パンケーキ型の交換レンズを発売していなかった。

歴史を振り返っても1970~1980年代に各社より薄型MF
レンズが発売されたが、AF化が困難でほぼ絶滅してしまった。
なので、1990年代後半には、一大「パンケーキブーム」が訪れ、
当時のAF単焦点には無かった薄型レンズを、マニアや投機層が
こぞって買い求めたのであった。

パンケーキブームは2000年代初頭にデジタル化とともに終息し
それ以降、各社でもAF・デジタル版のパンケーキがちらほらと
出現した事から、目新しいものでも無くなった訳だ。

しかし、CANONは銀塩・デジタル時代を通じて薄型レンズを
発売していなかった、この理由は不明であるが、恐らくは
メーカーとしての製品企画ポリシーがあったのだろう。
(例えば、1970年代のFDレンズにおいては、両優先AE
(マルチモードAE)を搭載している先進性(初の両優先機CANON
A-1より早い時代に、それを見越して装備していた)があったが、
パンケーキ型の小型レンズでは、その実現が難しかったからか?)

ところが、2010年代に入ってから、やっと本EF40/2.8を始め、
いくつかのパンケーキと呼べるレンズがCANONから発売され
始めた。(他には、APS-C機専用EF-S24mm/f2.8 STMや、
ミラーレス機用EF-M22mm/f2 STMがあるが、フルサイズ用は
本レンズのみだ)

よって、長いCANONの歴史を見ても本EF40/2.8は、ほとんど
初めてに近いパンケーキ(薄)型レンズだと思われる。
この「歴史的価値」は高く、MFが効かないという弱点(又は
気に入らない製品コンセプト)を上回って、「所有に値する」
と思った訳だ。

----
さて、という事で、本EF40/2.8の仕様だが、厚さは22.8mm
重量130gと小型軽量である。今回使用のEOS 6Dはデジタル
一眼レフのフルサイズ機では最軽量である為、(トイレンズ
装着時やミラーレス機を除き)一眼フルサイズシステムでは
最軽量の部類のシステムとなる。

最短撮影距離が30cmと短い。銀塩時代のパンケーキの多くは
焦点距離40~50mm程度の標準レンズで、最短が60cm程度と
長目のものが多く、実用上の不満があったが、それが解消
されている。
c0032138_08495569.jpg
写りは可も無く不可も無し。まあ、各社エントリーレンズの
特徴であり、あまりに「安かろう悪かろう」という製品は
存在しない。そんなものを作って売ったら、「お試し版」
としての意味が無いからだ。安価でも、ある程度の高性能を
維持した製品を作る事で、エントリーレンズを買った初級層
に対して、交換レンズの高性能や楽しさをアピールして、
その後の高価な自社交換レンズの販売に繋げるという戦略だ。

最短撮影距離の短さは、他社エントリーレンズでも、CANONの
近年のレンズでも良くある特徴だが、こういう傾向は嬉しい、
ボケ量のコントロールや構図の自由度が格段に高まるからだ。
(逆に言えば、最短撮影距離の長いレンズは実用に適さない)

まあ、総合的には、「EOS機で使う限定」であれば、購入に
値するレンズであろう・・

----
では、次のレンズ
c0032138_08500650.jpg
レンズは、smc PENTAX-F 80-200mm/f4.7-5.6
(ジャンク購入価格 1,500円)
カメラは、PENTAX K10D (APS-C機)

1990年頃の発売と思われる一般的廉価仕様のAF望遠ズーム。
この手のオーソドックスなAF望遠ズームは現代の中古市場
では不人気であり、程度の良いレンズでもジャンク品扱いに
なってしまう事もある。本レンズは近年の購入で、ジャンク
価格ながらも、特に動作や程度には問題は無かった。
c0032138_08500620.jpg
F型番なのでPENTAX初期のAFレンズ(KAFマウント)である。
これは勿論近代のPENTAX製デジタル一眼レフにも装着して
使用できるのだが、30年も前のレンズ故に、何かと問題が
発生する場合に備え、安全を期し、様々な古いプロトコル
(KAF2等)の互換性の高いPENTAX K10D(2006)を母機として
使用する。

ちなみに、こうした安全対策は「マニア道」としては
結構重要な事であり、理想的には、レンズを使用する母艦は、
全く同じ時代のカメラを使用するのが望ましい。
さも無いと、様々な性能改善や、それに伴う仕様変更により
例え同じマウントであって装着できたとしても、レンズが
上手く動作しなかったり、露出が狂ったり、最悪はカメラが
故障してしまうリスクもある。

できれば同じ時代のPENTAX銀塩AF機を使うのがベストだが
その時代のカメラは所有していたとしても、さすがにもう
フィルムを入れて撮る気にはならない。
今回はできるだけ古い時代のデジタル一眼レフで代用するが、
もしここで何か不調、あるいは不審な動作が見られたら、
その時は同時代の銀塩AF機(例:Z-1やMZ-3等)に装着して
みて、その動作が正常であるかどうかを確認する事も可能だ。

本レンズではあまり問題になりそうな点は無いが、特に
KAF2プロトコルのパワーズームレンズ等では危険性が高い。
そのあたりは、本シリーズ第8回(2つ前の記事)の
smc PENTAX-FA 100-300mm/f4.5-5.6あたりが良い例だ。

そのパワーズームは古いプロトコルな為、近年のPENTAX
デジタル一眼レフでは動作しない。本機K10Dの場合ならば
汎用性が高く、パワーズームが動作するのだが(確認済み)、
不意の動作不良等が発生するリスクも高いジャンク品で
あったので、その記事では、あえてパワーズームを受け付け
無い仕様のPENTAX最初期のデジタル一眼レフ *istDs
に装着して試写を行った.

つまり、プロトコルが全く対応していなければ誤作動は
起こらないので安全、と言う訳だ。しかし本レンズでは、
KAFとKAF2の2つの世代にまたがるレンズであるので、
プロトコルが中途半端な恐れがある。よって、安全の為、
懐の深い(=プロトコル互換性が高い)K10Dを使用して
いる訳だ。

・・という事で、様々な時代のレンズを使うマニアの場合
には、様々な時代のカメラを所有しておいて、安全を確保
あるいは確認しながらでないと、レンズのせいでカメラを
壊してしまうリスクがある等、「危ない綱渡り」となる。

勿論、こうした事は、ハードウェア等全般の原理理解や
知識も高度なレベルで必要とされるし、各時代の機体を所有
していてそれらを使える環境も必要な為、あまり初級中級層
とか初級マニア層等での、ジャンク買いは推奨できない。
c0032138_08500684.jpg
さて、肝心の本レンズF80-200mmの性能であるが、
まあ普通の望遠ズームだ。準オールド級の時代のズームで
あるので極端に性能が劣る訳でも無いし、逆に特筆する
べき性能も無い。

この手の(準)オールドズームの場合、普通に逆光を避け、
かつボケ質が破綻しにくい状況を作り出す(ボケ質破綻回避の
手法は様々な記事で色々と説明して来てはいるが、その究極の
対策は、あえて背景ボケを生じ無いように平面描写被写体に
特化してしまう事だ)
それから、周辺収差もあるだろうから、APS-C機やμ4/3を
使って画面周辺をカットしてしまうのも対策の1つだ。

オールドや準オールドのレンズは、そうやって様々に
工夫して撮れば、別に悪い写りになる事もなく、ちゃんと
普通に良く写る。
c0032138_08500690.jpg
勿論、レンズ側のみならず、古い(デジタル)カメラだって、
高感度を使わないような状況で撮るとか、画像処理エンジンの
未成熟な性能限界を避ける為に、できるだけ低コントラスト
状態で(曇りや雨天等)撮る、かつ、その状況では発色も
あまりシビアに要求されないだろうから、そうした条件範囲
の中では、古いデジタル機の性能的弱点を回避可能となる。

ちなみに、オールドシステムの場合は、AFレンズであっても
MFで撮るのが基本だ。そうすれば、レンズ側、カメラ側の
いずれのAF方式・速度・精度あるいは測距点数、動体追従
等のAF性能的な未成熟も、全く気にする必要が無くなる。

すなわち、オールドレンズ&オールドカメラによるシステム
を使っても、性能的な不満は何ら問題にならないという事だ。

近年の高性能なレンズやカメラの性能に「受動的に頼って」
写真を撮ろうとする初級中級層には、このあたりは是非
理解してもらいたい重要なポイントである。

----
では、次のレンズ
c0032138_08504401.jpg
レンズは、TAMRON 18-270mm/f3.5-6.3 DiⅡ VC PZD
(Model B008)(中古購入価格 17,000円)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

2010年発売の、ズーム比15を誇るAPS-C機専用小型軽量
高倍率ズームレンズ。

ほぼ同スペックの前モデルとして、B003(2008年)
そして後継モデルにB008TS(2016年)がある。
c0032138_08504466.jpg
PZDとは「ピエゾ・ドライブ」という意味であり、
「ピエゾ素子」とは「圧電素子」である。圧電素子は様々な
工業分野で使われており、様々な材料が用いられるが、
1)力を加えると電気が出る(電圧に変換される)
2)電圧をかけると変形する(音を出す事も出来る)
の大きく2つの性質を持つ。

前者は、ギター用のピエゾ・ピックアップが有名であろう。
(生ギターを電気ギターにする事ができる)
後者の性質は小型スピーカー(イヤホン含む)などでも
使われるのだが、本レンズの場合は電圧をかけて変形した
素子を回転する力に変えてAFを駆動する。つまりモーター
替わりであるが、小型化とか、コストダウン、静音化等の
メリットがあると想像される(参考:近年のSONYのDDSSM
モーターも圧電素子に超音波を加えての変形を、回転力に
変換するという、PZDと類似の技術原理を用いている)

AFの速度・精度は、まあ普通である。TAMRONでは、この素子
を使った場合「回転が止まるのが速い」と言っていて、
これはつまり、速く廻しても大丈夫だ、と言う意味であろう。

レンズの性能だが、描写力はまあ普通だ。あまりにズーム比
が大きいレンズだと、特定の焦点域(例:望遠側等)で収差
等による解像力低下等、様々な課題が出るリスクがある。

事実、本レンズでも望遠端が弱い(解像感の低下が起こる)のと
広角端では歪曲収差が出るのだが、それらに気をつけて、中間
焦点距離を主体とする通常撮影であれば、あまり気になる程の
弱点では無い。
c0032138_08504440.jpg
問題点としては、NIKON D500との組み合わせではAEが
合わず、2/3段~1段程度アンダー露出になる欠点がある。
これは、他のニコン機、例えばD300との組み合わせでは
発生せず、Dfの場合は僅かに(1/3段~1/2段)その傾向が
ある、まあDfはフルサイズ機であり、クロップモードで
使った場合なので、露出計の輝度分布が変わっている事も
あるかもしれない。すなわち、本レンズの発売時以降
(2010年以降)のニコン機では露出アンダーになる恐れが
ある。(参考:D500の場合、x1.3倍にクロップすると、
Dfと同様の1/2段程度のアンダー露出状態に変化する)

この原因は不明だが、レンズ側のプロトコルの問題か、
又はボディ側露出決定プログラムの課題だと推測される。

例えばだが、ニコン純正レンズ等が装着された場合、ボディ
は当然それを認識し、正しい露出値が得られるが、そうで
無い他社製レンズ等ではプログラムにIF文の分岐があり、
そちらの露出決定式が誤っている(バグ)か、又は意図的に
適当な計算式が入っている(排他的仕様)かも知れない。

仮に計算式が誤っていたとしても、ニコンでは発見しにくい
だろう。他社のレンズを全て装着してテストしている訳は
無いからだ。(極端に言えば、エンジニアがわざとそういう
排他的仕様の意地悪なコーディングを行っても、メーカーと
して発見しずらい状況にある)

逆に、TAMRONでは当然すぐ発見できるだろうが、レンズ発売後
の新ボディとの相性についてはわからない。だからまあ、次の
製品で対策を行う事になるだろう。(注:レンズ側の
ファームウェア・アップデートは、まだ本レンズの時代では
一般的な措置では無かった)

事実、近年のTAMRONレンズはNIKON機に装着しても露出が
狂う事は無い、何らかの対策が施されているのであろう。
結局、製品の時期的な組み合わせのタイミングが合わないと
こうなってしまう事がある。なお、過去の様々な時代では、
NIKON機とTAMRONレンズの間で、こういう事は発生しなかった。

それと、この時期のNIKON機の露出に係わる新機能と言えば、
「ビネットコントロール」(周辺光量落ち又は口径食の補正)
がある。これが入っている機種との組み合わせで、この問題が
発生するようにも思えるが、多くのカメラで試した訳でも無く、
詳しくは不明だ。
なお、露出が狂っていても、一定の(オフセット)値なので、
露出補正をかければ問題は解決するので、致命的では無い。

余談だが、野鳥等を撮っているシニア・アマチュア層の間で
「TRAMRONのレンズは暗く写る」という悪評判が流れ、買い控え
があるらしい。それの原因と対策は本記事で述べた通りだ。

カメラとレンズにより、たまたまその組み合わせに当たったと
しても、なんとでも回避できるし、それくらいで大騒ぎせずに、
露出補正くらいの簡単な操作はしたらどうか?と思う。

(ちなみに、もしカメラ側で意図的に「排他的仕様」の処置が
行われた場合、市場側に、こういう悪評判を流す事が可能
となる、という情報戦略になる。これはフェア(公正)では
無いので、あまり褒められた話では無い。それから、カメラ
やレンズ機材には殆ど全て「問題点」が存在するが、それを
回避出来ない利用者側のスキルにも大きな課題がある)
c0032138_08504452.jpg
露出の問題を除いて、本レンズには特に弱点は見られない、
まあ、18mmや270mmといった端っこの焦点距離を「行ったり
来たり」するような撮影スタイルをすると収差が目立つので
端っこを使わず、中間焦点距離域に特化するのが注意点だ。

総括として、高ズーム比、手ブレ補正、ユニークなAF駆動方式、
小型軽量、とスペック的にも問題無く、しかも中古も安価だ。

----
では、今回ラストのレンズ
c0032138_08505369.jpg
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/f2.0
(読み:フォクトレンダー マクロ アポランター)
(注:例によって独語綴り上の変母音は省略している)
(新品購入価格 122,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)

2017年に発売された、フルサイズ対応大口径MF準中望遠
マクロレンズ(以下、MAP65/2)

65mmとは実に中途半端な画角だ。旧来、ニコン等の60mmの
マクロであれば、本ブログにおいては「標準マクロ」と
カテゴライズする事もあったのだが、65mmとなると、
標準とも中望遠とも、どちらとも言えない。
でもまあ、そのあたりは「定義」の問題だけなので、
どうでも良い事だが・・
c0032138_08505303.jpg
本レンズは、SONY E(FE)マウント用でしか発売
されていない。

コシナ・フォクトレンダーでは2000年代初期は各種MF
マウント等に向けてレンズをラインナップをした事も
あったのだが、だんだんと様相が変わってきていて、
2010年代でのNOKTON(ノクトン)F0.95シリーズは
μ4/3専用。また2010年代のSLシリーズ(一眼レフ用
交換レンズ)では、もうNIKON Fマウント(CPU内蔵)
しか作っていないし、2010年代後半からの、このマクロ
アポランター65mm/f2やワイドヘリアー系(10mm/f5.6,
12mm/f5.6.15mm/f4)等は、Eマウントのみで、他の
マウント版の商品は発売されていない。が、近い将来
には、他社フルサイズ・ミラーレス機マウント(Z,R,L等)
用のレンズが発売される可能性はあるだろう。

SLシリーズ(一眼用)レンズであれば、NIKON FやM42等の
マウントでのフルサイズ対応レンズは、アダプター互換性
が高く、様々なマウントのカメラにでも装着可能であるが、
Eマウントに固定されてしまうと、実の所、他マウントの
カメラで使うのは殆ど不可能だ。
その点が不満ではあるが、まあ、このEマウント版レンズは
電子接点に対応しているので、EXIFが記録でき、MF時に
距離指標がEVF内に表示されたり、α7Ⅱ以降やα9シリーズ
カメラでの内蔵手ブレ補正に対応している等のメリットは
出てくる。
c0032138_08505314.jpg
さて、フォクトレンダーのマクロレンズ、すなわち
「マクロ・アポランター」は、2000年代前半の
Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5SL
(ミラーレス第23回,ミラーレス補足編第6回等で紹介)の
MF望遠マクロレンズから、実に16年ぶりの登場となる。

そのMAP125/2.5SLは、1:1(等倍)マクロのMFレンズで
各種マウントで発売され、SL系レンズは旧来ではMFマウント
専用であったのが、MAP125/2.5のみ、EOS(EF)とα(A)の
AF一眼用マウント版が存在していた(つまり、電子接点があり
絞り環が無く、カメラ本体側ダイヤルから絞りを制御する)

ただ、極めて使いこなしが困難なレンズであり、恐らくは
全レンズの中でトップ(ワースト)クラスであろう。
最大の課題はピントリングの回転角が極めて大きい事で、
最短撮影距離(38cm)から、無限遠まで移行するには、
私の指では、14回前後のピントリングの持ち替えが必要な
状態だ。重量級の大型レンズであるので、この持ち替えは
極めて大きな手指への負担(疲労)となる。
おまけに最短撮影距離で絞り開放での被写界深度は、
およそ1.3mm(!)しか無く、ピントも殆ど合わないのだ。

さて、MAP125/2.5SLの話は深追いするのはやめておこう、
非常にレアなレンズであり、現代において入手する事は
かなり困難であるからだ、今更何を書いても始まらない。
(注1:近日中に、このレンズの関連記事を掲載予定だ。
 注2:いまだにMAP125/2.5SLを探しているマニアも居て、
珍しいそれを高価なプレミア価格で取引する場合もあると聞く。
が、コシナ製品はマニア向けで、生産数が少なく、普通は
再生産も行わない。よって、欲しいと思ったら、流通している
期間に入手しておく必要がある。後年になって「あのレンズが
欲しかった」等と言っても、もう手遅れだ。”マニア道”的に
言えば、それは「目利きが甘かった」という事で自己責任だ)
c0032138_08505341.jpg
本MAP65/2だが、1/2倍マクロである、最短撮影距離は31cmだ。
ピントリングの持ち替えは、最短から無限遠までは、およそ
5回程度で済む、ここはMAP125/2.5SLよりも、ずっと快適な
操作性となった。

ただし、スペックから想像するよりも重量級の大型レンズ
である。重量は625g、フィルター径はφ67mmもある。

私も最初に手にした時は驚いてしまった。
なにせ想像していたのは、TAMRON SP60mm/f2(G005)
(ミラーレス第75回、ハイコスパ第14回等)クラスの
サイズ感であったのだ。
そのレンズであれば、重量は約350g、フィルター径も
φ55mmに収まる。ちなみにレンズ構成も、SP60/2より
本MAP65/2の方がずっと少ない枚数であるにもかかわらずだ。

まあ、SP60/2はAPS-C機専用で、本MAP65/2はフルサイズ
対応なので、そこの差が大きい事であろう。
イメージサークルや周辺画質確保の意味で、やはりフルサイズ
対応レンズは、大きく重くなってしまう。そこは弱点である
とも言え、必ずしもフルサイズ・システムが様々な面で優れて
いる訳では無いのだ。

重たい事により、小型軽量のα7(シリーズ)との組み合わせ
では若干のアンバランスを感じる。
つまり、MFレンズの場合はボディを含めた重心位置が丁度
ピントリングの位置に来ないと、ピント操作のたびに
カメラの持ち替えが発生して、やってられなくなるのだ。

だが、本MAP65/2の場合は、そのあたりにも配慮している
のか? 約2cm幅と細目のローレット(凹凸加工の事)
ながら、丁度そこが重心バランス位置となる。ただし、
重心をしっかり確保する為には、カメラ底部を手のひらに
乗せたホールデイングのスタイルとならざるを得ないので、
若干だが、他の一般的なレンズと比べてバランスは悪い。

また、この時、絞り環が(昔のオリンパスOM用のレンズの
ように)レンズ最先端部にあるので、カメラを持ち替えず
には絞りの設定操作が困難だ。
どうせEマウント専用レンズを作るならば、思い切って
絞り環を廃するか、またはA位置を儲け、カメラ本体側の
ダイヤルから絞り値を制御できるようにしても良かった
のではなかろうか?
まあ、すなわち、指動線への配慮があまり無いレンズだ。
(注:別記事で説明するが、α7以外のSONY製Eマウント
カメラとで、バランスが若干ましになる場合がある)
c0032138_08510461.jpg
さて、肝心の描写力であるが、近代レンズの例に漏れず
解像感がかなり強い、この特徴があまりに強すぎると、
被写体の種類、あるいは希望する作画において制限が出て
きてしまう場合がある。

特にマクロレンズの場合は、花などの撮影においては
あまり解像感を強めず、柔らかい描写特性を希望する場合も
多々あると思うので、そのあたりの高解像力は、長所ではなく
むしろ欠点にも成り得てしまうのだ。

具体的には前述のTAMRON SP60/2(G005)とか、SONY E30/3.5
(ミラーレス第72回記事等)等は、マクロとして解像感が
強すぎる印象がある。特にE30/3.5は、私に言わせれば
「輪郭強調を掛けたような、カリッカリの描写」であり
花の撮影等には向かないレンズだと評価している。

まあ本MAP65/2で、少しでも解像感を弱めたいと思う
場合は、あえて絞り開放とし、わずかながら収差等を
発生させて「甘い描写」にしてしまう解決法もあるとは思う。
ただ、1/2倍マクロとは言え、フルサイズ対応、かつ大口径
なので、近接領域の撮影では被写界深度は結構浅い。
(計算例として撮影距離60cm、F2で、被写界深度は約1cm)
よって、MFでのピント合わせは慎重に行う必要がある。

なお、この時、α7等の本体側で「MFアシスト」機能を
ONにしておくと、電子接点レンズ故に、おせっかいな事に
ピントリングを廻すと自動拡大表示されてしまう。

勿論その拡大表示は画面中央がデフォルト位置だ、
花などの近接撮影では、必ずしも画面中央部でピントを
合わせる事は無いので、拡大枠の移動操作、および拡大解除
の操作が必須となり、操作性(すなわち指の移動、手数)が
悪化してしまう。(注:これはEVFを覗きながらの状態だと
手探りとなる為、極めてやりにくい)

だから、本レンズMAP65/2を使用する際には「MFアシスト」
をOFFにし、SONYミラーレス機全般の優秀なピーキング機能を
ONとし、ピーキングに頼ってピントを合わせて撮影する方が
むしろ操作の手数的には、ずっと効率的だ。

なお、被写界深度が極めて浅くなる最短撮影距離近辺では
さしもの優秀なピーキング機能でも、被写体の輪郭状況
(輝度勾配分布)によっては精度が怪しくなる。よって
その場合はさらに手動拡大機能を併用するなどの必要性が
出てくるであろう。あるいは、ピーキング強度(レベル)を
高(良く出る)ではなく、あえて弱めて(中、弱)として
輝度勾配検出の閾値を上げ、滅多にピーキングが反応しない、
ようにしておくと、若干ピント精度が上がる可能性もある。
この「強度変更」を、Fnキーなどに予め割り振っておくと、
EVFを覗きながらでも操作が可能で、効率的だ。

なお、ピーキングのこうした使い方は、本レンズに限らず
被写界深度の浅い、他のマクロレンズ、超大口径レンズや、
大口径(中)望遠レンズであっても有効であるが、
原理的にかなり高度で、画像処理(解析)の知識も必要な
手法なので、上級者以上(専門家)向けとしておく。
c0032138_08510460.jpg
余談が長くなったが、本MAP65/2の性能総括であるが、
解像感が高く、ボケ質は良く、ボケ質破綻も出にくい、
さらに、コントラスト特性に優れ、深みのある描写傾向だ。
(「昔のツァイスっぽい」と評する事も出来る)
逆光耐性も高く、レンズの質感やピントリングの感触も高い。
まあ、性能的には不満は無いが、「大きく重く高価である」
という「三重苦」のレンズである事も確かだ。

それに、高い解像力は、それが強すぎる場合、被写体をかなり
選ぶ(制限する)事となり、マクロレンズとしては、少々
弱点になる可能性もある。
また、高価でマニアックなレンズであり、今後の中古流通も
殆ど期待できない。
これらの様々な状況から、上級者あるいは上級マニア向け
のレンズである、と評価しておく。

なお、前述のコシナ製品の流通量の少なさの問題がある。
コシナ製に限らず、生産完了となった後年になって
レアなレンズを所有しているマニア層や投機層等では
「このレンズは非常に良い」と過剰な評価をする場合が多い。

そのあたりには十分に注意しておく必要がある。さも無いと、
評判に踊らされて、レアなレンズを高額な中古相場で買う事と
なり、実際に手にしてみると、色々と課題があるレンズだった
という場合も多々あるからだ。
(高値で売却する為に、その手の情報を流す人も居ると聞く)
あくまで発売期間に十分に性能を見極め、その絶対的価値を
自身で評価し、購入に値するかを決めなければならない。

また、本レンズには、後年(2018年末)に発売された、
姉妹レンズである、MAP110/2.5が存在している。
そちらも入手済みであり、後日紹介予定だが、個人的には
110mmの方が総合的に好みのレンズだ。
ただし、両レンズともかなり高価であり、コスパは悪い。

いずれにしても、近年の国産新鋭レンズは、殆ど全てが
高付加価値型商品(=高性能化して値上げする)となって、
コスパが悪くなりすぎている状態だ。
これでは売れるべきものも売れまい。

まあ、その隙をついて、2017~2018年位から、中国製等
の新鋭海外製レンズが急速に国内市場に参入してきている。
c0032138_08510463.jpg
それらの新鋭レンズ群の一部は、およそ50年程前の名レンズ
の設計をそのままに、1/2~2/3程度にスケールダウンした、
APS-C型ミラーレス機用の広角レンズである事が、購入後の
検証でわかってきた。

昔の名レンズのミニチュア版であるから、新規開発等の
費用が大幅に削減され、量産効果も出て、とても安価だ。

これらを、薬品に例えて「ジェネリック・レンズ」と
私は呼んでいる。追々本シリーズ記事等で、それらを
紹介していくが、安価に「オールド名レンズ」を買って
いるのと同等であり、写りに不満がある訳でも無い。

(注:とは言え、半世紀も前の設計のオールドMFレンズ
故に、様々な弱点はある。それらを回避しながら使うには
高度な技能が必要であり、初級中級層では困難だと思う。
「レンズの言うがまま」に撮っていたら、「やはり安物だ、
写りが悪い!」という評価で終わってしまう事だろう)

まあ、現代の製品の「コスパ」については、色々と考え
させられる状況になっている・・

----
さて、今回の記事は、このあたり迄とする。
次回は、趣向を変えた補足編とする予定だ。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>