所有している銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
NIKON F5(1996年)を紹介する。
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装着レンズは、NIKON AiAF NIKKOR 85mm/f1.8D
(ミラーレス・マニアックス第66回、ハイコスパ第12回)
本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタル実写シミュレーター機を使用する。
今回はまず、本機F5のコンセプトに近い、NIKON D2H
(2003年 デジタル一眼レフ・クラッシックス第1回記事)
を使うが、記事後半ではシミュレーター機を変える事にする。
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以降はシミュレーターでの撮影写真と、本機F5の機能紹介
写真を交えて記事を進める。
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さて本機F5はニコンのAFフラッグシップ機としては二代目だ。
これ以前の旗艦としては、NIKON F4(1988年、本シリーズ
第15回記事)がある。
F4は旗艦であると同時に、AF時代の最初期のカメラであり、
AF性能は正直言ってたいした事はなく、むしろ旧来のMFレンズ
を使う際に、最強のパフォーマンスを発揮できる事は、当該
記事でも説明した通りだ。
当然、ニコンとしては、「AF機最強」を目指して、このF5を
開発していたのに違い無い。
旧来の「フラッグシップ10年間隔説」は、もう、とうに壊れ、
F3からF4までの期間の8年間と同様に、F4からF5までも8年の
間隔で発売される事になった。
ここでF4の発売以降、F5までのニコン中心の各社の一眼レフ
の歴史を書いておこう。
<1988年>
NIKON F4/F4S(本シリーズ第15回記事)
MINOLTA α-7700i α-7000の後継機、高機能化
<1989年>
NIKON F-401s 初級機
CANON EOS-1/HS (本シリーズ第14回記事)
<1990年>
NIKON F-601/F-601M 中級機(AF/MF)
MINOLTA α-8700i 高級機。1/8000秒シャッター
CONTAX RTSⅢ CONTAX初の旗艦機
<1991年>
NIKON F-801s 上級機、動体予測AF
NIKON F-401X 初級機
CANON EOS100(QD)(現在未所有) 静音化、サブ電子ダイヤル搭載
PENTAX Z-1(本シリーズ第17回記事)
MINOLTA α-7xi 新シリーズ高級機、
このxiシリーズは過剰な自動化機能で商業的に失敗
<1992年>
NIKON F90S/D 新シリーズ「Fフタケタ機」の高級機
「D型」レンズを使用すると「3D測光」が可能。
CANON EOS5(QD) 高級機。初の視線入力AF搭載(測距点は横一列)
MINOLTA α-9xi 最上位機。1/12000秒シャッター
<1993年>
NIKON F90 データバックを省いた通常仕様機
CANON EOS Kiss
初級機、一眼レフで初めて数字以外の型番を用い、女性や
家庭層に向けた新規開拓マーケティングを行った。
ニコンや他社はKissの成功を見て、各々 U,Sweet,Aria,
*ist等の初級層に向けたブランディング戦略を後年に行うが、
特にニコンでは、それが成功したとは思えない。
この頃から「ニコンは初級機を作るのが上手では無い」
という評判がマニア層等に広まっていく。
MINOLTA α-707si 高級機
(バブリーな「xi」シリーズは短命に終わった)
CONTAX S2b(現在未所有) マニアックで特異なカメラ
<1994年>
NIKON F70
中級機。高機能ではあるが、信じられない程の劣悪な操作系を
持つ事で有名な「迷機」である。
(この機体は家にあるが、知人の所有物なので紹介しない。
自分のカメラでは無い物を評価等は出来ないルールとしている。
まあ、何度か使った事があるが、非常に使い難い事は確かだ。
なお、当時「操作系」の概念は、殆ど浸透していなかったが、
むしろこの機体があった事で、他社のPENTAXやMINOLTAでは、
操作系改善の発想が生まれたのかも知れない)
NUIKON F50 初級機
NIKON F90X/XS/XD 高級機,F90シリーズの改良版。
CANON EOS-1N(現在未所有)旗艦EOS-1の改良版、完成度が高い。
OLYMPUS OM-3Ti(現在未所有) マニアックなレア機
<1995年>
この年、ニコンの一眼レフの発売は無い。
「阪神淡路大震災」の影響および世情からか?
CANON EOS-1NRS ペリクルミラー搭載の特殊用途機
CANON EOS55 中級機。視線入力AF(測距点は縦横)
PENTAX MZ-5 初級機、Zシリーズより操作系を簡略化
MINOLTA α-507si 中級機。操作系の概念に優れる。
<1996年>
NIKON F5 (本機)
ここでやっと本機F5の時代に到達した。
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様々なメーカーの一眼レフの歴史を同時に書いているので、
なかなか頭に入って来ないとは思うが、この時代のAF一眼の
歴史を良く良く振り返ってみると、重大な事実が見えてくる。
それは、この時代に「魅力的な名機が1台も無い」という事だ。
勿論、高性能機とか最上位機とか、そういうカメラは何台か
存在している。しかし、それらには魅力があるのだろうか?
1990年代前半のAF一眼レフで、私が現在でも所有している物は
PENTAX Z-1の1台のみであり、しかも、そのカメラは個人的には
好きなカメラではない。あくまで歴史的価値からの現有だ。
他のこの時代の一眼レフは所有した事があっても、現在では
綺麗さっぱり手元から消えて無くなっている。
つまり、1台も欲しいAF一眼レフが無かった時代なのだ(汗)
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この時代背景での最大のポイントは、1992年頃の「バブル崩壊」、
そして、やや時代は下るが1995年の「阪神淡路大震災」であろう。
後者は極めて深刻な大災害であったが、その事が消費者心理に
与えた影響も決して小さくは無い。
まずは「バブル崩壊」だ。
世の中の「イケイケ・ドンドン」のムードは、段階的に変化
していった、まず最初は1989年の昭和天皇の崩御である。
この時期「自粛ムード」が広まり、消費は冷え込んだ。
また、この年1989年には消費税(3%)が導入されたが、
その後のバブル景気の勢いが上回ったように思える。
1992年には、膨らみすぎたバブルがはじけて、一気に世の中の
景気は凍結する。
不動産売買のみならず、商品の購入、飲食、旅行、娯楽等の
消費行動に対する考え方が、がらりと変わり、節制、節約ムード
が広まっていくと共に、心理的な要素も大きく変化する。
バブル期であれば、カメラに限らず、「凄い性能」「高い値段」
「有名なブランド」等の商品が好まれた。何故ならばそれらを
所有/消費する事で周囲に自慢が出来、「ステータス」を得たり、
社会的地位を高めたり、自身が満足できる訳だ。
が、バブル崩壊後は、その考え方はくるりと反転してしまう。
「そういう上辺だけ華美なものは良く無い、中身が大事だ」
という考え方にシフトした。
このあたりは日本人の長所でもあり短所でもあろう、
世情が変わると割と柔軟に価値観を変化させる事ができる。
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さて、カメラの話に戻ろう。F5の話がちっとも出て来ないが
このあたりの時代背景は重要だ、もう少しだけ続ける。
ご存知のようにカメラの開発には数年の時間を要する。
バブル期にイケイケムードで企画されたカメラは、
そのコンセプトのままスケジュールに乗って開発が進む。
途中で世の中が変わっても、例えばバブルが弾けても、
よほど不都合が無い限りは、そのまま発売される。それが世情に
合っていなくても、ユーザーのニーズを満たさなくても、だ。
こうして、このバブル崩壊の時期、ユーザーの購買心理とは
だいぶ方向性がずれているカメラが出揃ったと言う訳だ。
バブル崩壊の経済的・精神的なショックに引き続き
「阪神淡路大震災」が1995年に起きる。
ごく普通の平和な日常に、ある日突然に大惨事が起こって
しまう事は、直接の被害を免れた地域の人達にとっても
大きな精神的な痛手となった事であろう。
さらにここでまた消費者心理は変わる、私の感覚では一般
消費者の商品に対する購買内容(価値観)が地震の前と後で、
大きく変わったように思えてならない。
ごく単純な例を挙げれば、ペットボトルの飲料は、震災前では
味のついたジュースや炭酸系のものが殆どであったが、震災後
では、単なる「水」の販売が一気に増えた。
震災前は「水は水道管から出てくるタダ同然の物」であったのが、
「水は命を繋ぐために、とても貴重なもの」という考え方に変化
したからであろう。この頃から自動販売機に普通の「水」が、
ジュース等と並んで同じ値段で売っていても、誰も不思議だとは
思わなくなった。
こうした極端な例でなくても、他にも変化した消費者心理が
色々とあると思う。
さて、そう言う意味では、震災後に発売された本機NIKON F5
には「バブル時代の残り香」が色濃く残っている。
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F5は、超高性能機を目指して開発されたカメラだ。
ニコン初の多点測距AF、被写体の距離と色を含めて露出を
判断する「3D-RGBマルチパターン測光」等の超絶性能。
操作系では、アナログ風の操作子を廃し、デジタル操作子の
コマンドダイヤルと上部液晶表示によりカメラ設定を行う。
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バッテリーパック一体構造により、本体のみで毎秒8コマの
高速連写が出きる事は確かに凄いが、その性能の代償として
本体のみの重量は1210g。8本の電池込みでは、およそ1400gと
そう簡単には外に持ち出せない重量となってしまった。
職業的なスポーツ写真家等で、常時高速連写が必要ならば
こういう超絶性能は必須であろう。だが、F5はフィルム機だ、
連写すれば、ほんの数秒で撮りきってしまうし、非常に面倒な
巻き戻し操作がF4に引き続き本機でも残っている為「撮影して
いる時間よりも、フィルム交換をしている時間の方が長い」
という大問題を生じる。
しかも連写音はうるさく、撮影場所や撮影シーンによっては
「顰蹙」を買ったり、クレームが来たりしてしまう。
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職業写真家であっても、高速連写が常に必要だという訳でも無く
アマチュアならばなおさらだ。
高速連写を使わない場合は、F5は少しAFが良くなった一眼レフ
でしかなく、そして重い。撮影の時間の大半が、その自慢の
モータードライブを「荷物として単に運んでいるだけ」の
状態だ。
そりゃあ、AFは良く合い、シャッターフィールも俊敏で
気持ち良く撮影はできるかも知れないが、まあ、それだけだ。
F5が、あまりに非実用的な高速連写機であったので、その反動で
デジタル時代に入ってすぐ、F5とコンセプト的にも形状的にも
極めて似ている D2H(2003年)を購入した。だから本記事では、
F5の代わりのシミュレーターとしてD2Hを使っている訳だ。
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そして、D2Hも連写に関しては超絶的だったが、価格の高さや
実際の用途、そして重量によるハンドリングの悪さ、そういう
様々な事を鑑み、「もうフラッグシップ機は買うのは止めよう」
と初めて思った次第だ、これまでさんざん銀塩の旗艦機を買って
来たのではあったが、実際に必要としない超絶性能では、単に
無駄にお金を使っているだけだと、やっと気がついた訳だ。
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ここで、ニコンカメラの歴史上の余談だが、
ニコンの銀塩コンパクト機への市場参入は、他社よりも
ずいぶんと遅く、1983年からの「ピカイチ」シリーズが
最初であった。これは1990年代初頭まで続いたが、あまり
魅力的なカメラでは無く商業的にも成功したとは言い難い。
ニコンコンパクト機の最大の名機は、NIKON AF600(1993年、
単焦点広角28mm/f3.5搭載、別記事で紹介予定)であろう。
本機F5より、少しだけ前の時代である。
ニコンは低価格機等の発売で、主力の高級一眼レフのビジネスに
悪影響があると考える傾向があるのであろうか・・
そういえば、2010年代のミラーレス時代でも、ニコンの参入は
他社よりもずいぶんと遅く、その後、1型機のシリーズは終焉
している。(高付加価値型Zシリーズへの移行の意味もある)
その割に、高級コンパクト機(チタン外装)の35Ti(1993)
28Ti(1994)や、中古カメラブーム時の復刻版S3(2000),
FM3A(2001)や、MFパンケーキ Ai45mm/f2.8P(2001)等への
対応は素早く、すなわちこれらは高付加価値商品(高く売れる)
場合であって、一眼レフの市場とも被らず問題無い訳だ。
(さらに言えば、明らかに非実用的な、コレクション又は
投機目的用の記念モデル等も多数販売している)
ビジネスにおいては、わからない話では無いが、なんとも
保守的な製品展開コンセプトに思える。それ故に、初級機の
開発にあまり力を入れられ無いのかも知れない。
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さて、ここで本機NIKON F5の仕様について述べておく、
NIKON F5(1996年)
オートフォーカス、35mm判フィルム使用AEカメラ
最高シャッター速度:1/8000秒(電子自動調整式)
フラッシュ:非内蔵、シンクロ速度1/250秒 X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定(標準ファインダー時)
ファインダー:交換式、スクリーンも多種交換可能。
倍率0.7倍 視野率100%
ファインダー内照明:無し(バックライトLCD/LED方式)
上部液晶照明:有り(電源スイッチ部)
使用可能レンズ:ニコンFマウント系、D/G系レンズ推奨。
(注:Ai使用可、非Ai使用時は要改造、F3AF用使用不可、
電磁絞り(E)系も使用不可)
絞り込みプビュー:有り
AF測距点数:5点、MF時にフォーカスエイド可
AF測距点切り替え:背面に専用十字キー、単一/エリア切り替え可
AFモード:シングル(S)、コンティニュアス(C)、マニュアル(M)
動体予測有り
AF/MF切り替え:本体側レバーによる(一部はレンズ側で可)、
露出制御:PSAM方式、プログムシフト不可
測光方式:3D-RGBマルチパターン測光、中央重点、スポット
露出補正:±5EV,1/3段ステップ
AEロック:前部ボタンで可
AFロック:前部ボタンで可
ファインダー内表示:フルスペックで様々な情報を表示可
視度補正:専用ダイヤルで可
露出ブラケット:可
ミラーアップ:可
ドライブ:単写、高速、低速、超低速、セルフタイマー
連写速度:CH高速時 秒7.4~8コマ(使用電池に依存)
CL低速時 秒3コマ(CH,CL時コマ速は、CFで変更可)
Cs超低速(静音)時、秒1コマ
多重露光:可
縦位置シャッターボタン:有り
電源:単三型アルカリ/ニッケル水素電池 8本使用
電池チェック:上部液晶に残量表示
カスタムファンクション:本体背面蓋内部スイッチと背面小型
液晶で設定可、24項目
フィルム感度調整:手動ISO6~6400、DXコード対応
フィルム巻き戻し:R1,R2レバーの連続操作による
本体重量:1210g(電池除く)
発売時定価:325,000円(標準仕様、税抜き)
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さて、このあたりでシミュレーター機のD2H(APS-C機)を
やめてフルサイズ機NIKON Dfに交替しよう。
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まあ、Dfはアナログ操作性を持つ機体で、F5との共通性は
多くは無いが・・
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本機NIKN F5の長所だが、
実を言うと、あまり思い当たらない(汗)
高性能機だ、とは言っても、いったい何を持って高性能と
思うべきか? 例えば銀塩での高速連写は実用性が低い。
連写速度以外の他のカタログスペックは、他社製高級機と
大差は無く、あるいは同じニコンでも、後年1998年発売
のF100は「F5ジュニア」と呼ばれ、連写以外のF5との
数値的性能は同等であった(勿論、小さく軽く安価だ)
被写体の色と距離を判定する「3D-RGBマルチパターン測光」は
技術的には凄いが、露出判定アルゴリズムの良否に影響する
部分が元々大きい、そして、旧旗艦F4の時代から、すでに
露出精度は極めて高く、それ以上のレベルが必要なのだろうか?
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高信頼性や、耐久性が高い、とかにおいては。例えばF5では
シャッター幕は、毎回幕速を自動計測して調整している、と
言う事だが、だからと言って壊れないという事と等価では無い。
事実、私のF5は2004年頃のドラゴンボート大会の撮影中に
(当時はまだ、銀塩とデジタルの混在期だ)シャッター幕が
壊れている。(”グシャッ”と言う嫌な音がして破壊された)
高額な修理費を払って直したが「なにが15万回の耐久性だ!」
と悪態をついて、ニコン旗艦機への信頼度を落とした。
が、その事によりニコン旗艦機が嫌いになったと言う訳では
無い、物持ちの良い私は滅多にカメラを壊す事は無いが
偶然が重なって壊れる事は、やむを得ない。
結局「銀塩での高速連写は無理だ」と思い、デジタル版の高速
連写機D2Hの購入に繋がった訳だ、幸いその機種は、不当な
悪評判があって、かなり安価に購入できたので、むしろ良かった。
![c0032138_18151990.jpg]()
それと、先に書いたF5でのシャッター幕速計測の件だが、
やはり意味が無いと思う。というのも、D2Hで高速連写を
さんざんやった経験から言えば、レンズの絞り込みの動作が
高速連写では物理的に追いついていない。だから、必ずと
言ってよいほど露出はバラつく。よって、シャッター速度だけ
いくら完璧に調整しても無意味なのだ。
絞り込みのバラツキに関しては、当然ニコンでも問題にして
いたのであろう、後年には「電磁絞り」対応の「E型」レンズ
により、この問題に対処しようとした。
しかし、電磁絞りレンズは他社機でのマウントアダプター
互換性を完全に失い、ニコンのデジタル一眼でも古い機種では
動かない。それに、原理的には、絞り駆動動作を電子化した
とは言っても、機械的に絞りが駆動する点は変わっておらず、
数十年という長い年月使用して、絞りが粘ったりしたら、
結局、露出がばらついたり連写速度が落ちてしまう。今は
E型レンズは、まだ新しいから正常動作しているに過ぎない。
この問題は開放測光の一眼レフである以上、避けられない
宿命であろう。ならば、一部のミラーレス機のように
絞り込み(実絞り)測光にするしか無い、そうであれば
元々ミラーが無く、連写性能やレリーズタイムラグに強い
ミラーレス機が圧倒的に有利になるでは無いか。
その点だけを見れば、もう一眼レフに勝ち目は無いようにも
思えるが、まだ幸いにしてAF速度とAF精度のメリットが残る。
素早く、確実に、ピントの合う写真を撮ろうとしたら、
まだまだ一眼レフが優位なのだ。
![c0032138_18160255.jpg]()
余談が長くなった、F5の長所の話に戻りたいのだが、
やはり、どう考えても、あまり特徴が見出せない。
ニコンF5は、発売当初の1990年代末においては、ちょうど
中古カメラブームでもあったので、新鋭旗艦機は評判が
そこそこ良かったのだが・・ 発売後数年が過ぎた頃には、
「あれ?」という疑問の声も、マニアあるいは業務用途での
ユーザーからも良く聞くようになっていた。
そして2000年代前半、世の中は急速にデジタル時代に移り
変わり、F5の真の実用性能の件は「うやむや」にされ、
そのまま忘れ去られる事になって行く・・
(注:後継機F6は、既にデジタル時代に入ってからの発売で
趣味性の高い機体と見なし、購入していない)
![c0032138_18161308.jpg]()
さて、本機F5の弱点であるが、まあ、こちらは沢山ある。
まずはその重量。電池込み約1400gはさすがに重過ぎる。
これまで「史上最悪」であったEOS-1HS(本シリーズ第14回)
の電池込み約1500gよりは、少しだけマシだが大差は無く、
そしてEOS-1HSは、いざとなったらブースターを切り離して
だいぶ軽快なEOS-1に変身させる事も容易なのだ。
ニコンでも前旗艦のF4では、F4S/Eのバッテリーパックを外し、
やや軽量なF4にする事は出来た。
F5の重さはダイエットする事は不可能だ。
軽くしたければ、F5と同等の性能を持った後年のF100を
買い足すか買い換えるしかない。
![c0032138_18161347.jpg]()
次いで、縦位置グリップ一体型であり、縦位置シャッターが
あるのは良いのだが、縦位置での前後ダイヤルが無い。
加えて、AF測距点セレクターにも指が届き難い。
縦位置で制御できるのは、AFスタートボタンしか無く、
事実上では縦位置撮影は快適には使えない。
(重さの問題を含め、「必ず横位置で三脚を使え」と言う
設計コンセプトであろうか? だとしたら完全な仕様ミスだ。
どうもニコン旗艦機の仕様設計は、設計者の「思い込み」の
カメラ使用法に拘り過ぎる要素が強すぎて、実際の様々な
ユーザー層での色々な撮影シーンでの用法がわかっていない
ように思えてしまう。つまり設計思想が古くて頑固なのだ。
で、F5の設計思想が、ちょっと「異常」なところがある点で
後年にF100を発売し、「敗戦投手」としてリリーフしたの
ではなかろうか?とも思えてしまう)
![c0032138_18161324.jpg]()
後、操作性上の欠点は前機種から引き続き色々と残っている。
F4で特に問題になった「過剰なロック機構」は、ハードウェア
面からは電源スイッチのロックと、フィルム巻き戻し時の
R1/R2の煩雑な操作が残っている。
特に電源スイッチのロック機構は致命的に近い。重たいカメラ
を支えながらの片手操作での電源ONが出来ず、どうやっても
両手操作が必須だ(=構える最中に電源を入れる事が出来ない)
これは撮りたい時での速写性を損なう「重欠点」であると言える。
何故電源スイッチにロックが必要なのか?全く理解出来ない。
誤って電池を消耗する事と、撮りたい時にすぐ撮れない事と、
いったいどちらが大事なのだろうか? 言うまでもあるまい。
「操作系」の設計思想上では、重量級カメラであればある程、
操作の為の手や指の動きなどは細心の注意を払って「動線」を
意識しなければならない、さもないと、重たいカメラが支え
られず、都度、カメラを置いたり、持ち直しになったりしたら
迅速な撮影が出来なくなる。
![c0032138_20292236.jpg]()
まあ、この時代なので、いくら旗艦機の優秀な設計チームで
あるとは言え、「操作系」のコンセプトを持つまでは無理だ。
それがカメラ界に意識されるのは、やっと2000年頃になって
からであり、しかもそれはニコンでは無い。
それと「開発」ばかりに夢中になっていても駄目だ、実際に
カメラで写真を沢山撮らないと、操作系の理解は進まない。
そもそも、何故「操作系」が重要となるのか?は、言わずも
がなであるが、コンマ1秒でも早く写真を撮る為だ。
操作に1秒も2秒もかかってしまったら、もう求める被写体や
想定した被写体状況(シャッターチャンス)は逃げてしまう。
ここは、業務撮影でも趣味撮影でも全く同じ事であろう。
そういう世界に無縁な状態で、研究室の中だけで考えて
カメラを作っているのだとしたら、それはとても残念な話だ。
なお、今回シミュレーターとして使用しているNIKON Dfにも
同様に操作系上の重欠点が多々存在する。およそ実際に写真を
撮って試しながら設計されたカメラとは、到底思えないのだ。
前述のように「思い込み」により設計されたカメラはNGだ。
それから露出補正だが、旧来のロック付き専用ダイヤルが
廃止されてコマンドダイヤルでの操作になった点は良いのだが、
何故か後年のニコン機の2ダイヤル操作系での「簡易露出補正」
の機能が無く、必ず露出±ボタンを「押しながら」で無いと
露出補正が効かない、これは明らかに無駄な操作系である。
ここはネガフィルムであれば良いが、ポジだと重欠点だ。
おまけに、露出メーターはM露出時でないと表示されない、
他のAEモード時は、単に+0.3とかの数値が出てくるだけだ、
数字を読む事は、直感的なインターフェースとは言えない。
そしてM露出時は、例によってメーターの数直線の+、ーの
方向が一般常識とは逆である。ニコン機の記事では、毎回
この問題を書いているが、まあMF時代のレンズの絞り環と
露出変化方向を同じにする、という意味では、その考え方も
かろうじて許せるが、デジタル方式の「コマンドダイヤル」
は絞り環とは関係無いので、仮にF5で、その課題を改めても
よかったのではなかろうか? まあF5の煩雑なカスタム・
セッティング(CFの事)を用いれば、ダイヤル回転方向を
逆にできるのだが、「メーターとダイヤル回転が逆」か
「ダイヤルが直感とは逆方向」かの「悪魔の2択」となり、
どちらを選んでも、まともな結果にはならない。
それから、Pモードにおいてもプログラムシフトが効かない為、
せっかくの2ダイヤル機でありながら、ほとんどの状況で
1ダイヤルが無駄に遊んでしまう。
本機F5でのソフトウェア的なロック機構を述べれば、高度な
カメラ設定の殆どは、カスタム・ファンクション設定に
押し込まれていて、これは、設定用の小型LCDが単純なもので
GUI等では無い為、取扱説明書を併用しないと設定が不可能だ。
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結局、操作性や操作系が全く練れておらず、低レベルでしか無い。
業務用途機として使われていて、疑問の声も多かった理由が
わかるようだ。本機のファースト・インプレッションでは、
その高性能に、皆、圧倒されただろうが、色々と使ってみて、
冷静に考えてみれば、決して使い易いカメラとは言い難いのだ。
操作系以外では、ファインダー倍率が0.7倍と低く、これは
本シリーズで紹介の銀塩一眼レフ中、恐らくはワーストだ。
また、スクリーン上には測距点の表示は無く、視野外から
LEDの▽印で測距点が一瞬表示されるだけで、わかりにくい。
それから、連写音は例によってうるさい。
まだ欠点は他にも色々あるが、きりが無いのでやめておこう、
旗艦機とは言え、古い時代の銀塩機なので色々と未成熟な所は
当然あるし、いまさら何を言っても始まらない。
ただ、欠点を色々と見ていると、本機F5をちゃんと実際の撮影
シーンで使ってみれば、誰にでも明白にわかるような事ばかりだ。
誰も、全く本機で写真を撮らずに開発が進められたように
思えてならない。まあ、その状況は本機のみならず、F3以降の
ニコン旗艦機級で、どれも同じような印象があるのだが・・
まあ、これ以上、がっかりするような事を色々と書いても、
皆が不幸になるだけだ、このあたりまでにしておこう。
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さて、最後に本機NIKON F5の総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)
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NIKON F5(1996年)
【基本・付加性能】★★★★☆
【操作性・操作系】★★
【ファインダー 】★★★
【感触性能全般 】★★★
【質感・高級感 】★★★
【マニアック度 】★★
【エンジョイ度 】★☆
【購入時コスパ 】★☆ (中古購入価格:100,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値 】★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.7点
残念ながら平均点以下の低評価となった。
これまでの各社フラッグシップ機の中では最低評価点である。
秀でている点は、基本性能と完成度(というか信頼性)のみ
であり、他は平均点かそれ以下でしか無い。
銀塩での高速連写機、という大きな矛盾を抱えたコンセプトで
ある事が最大の問題であろう、バブル期の雰囲気を色濃く残す
「遅れて来た」カメラである。
大きく重く、業務用途以外に実用的な意味が無いのが課題であり、
加えて操作性・操作系が、例によって過剰安全対策で使い難い。
重量級機であれば操作性への配慮が必要なのに、それが殆ど無い。
結果的に、本機を一般撮影に持ち出して撮っても何も楽しく無く、
「エンジョイ度」が過去最低評価となっている。
ここは、本機の設計思想において、様々な撮影シーンでの
利用法を全く想定していない部分が最大の問題点であろう。
つまり「頭で考えて作っただけのカメラ」である。
希少性等によるマニアック度も低く、歴史的価値も殆ど無い。
価格が高かったのは、購入時期が比較的早かったのも確かに
問題ではあったが、仮に後年に安価になってから購入したと
しても、他の評価項目には影響が無く、総合点は同様だ。
現代での中古相場は、発売時定価のおよそ10分の1の
3万円以下程度だ。しかし本機を買っても実用的な意味は
殆ど無いので、同じAF旗艦機でも、F4を、より安価に買って
MFレンズで撮る方が遥かに楽しい事であろう・・
次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
NIKON F5(1996年)を紹介する。

(ミラーレス・マニアックス第66回、ハイコスパ第12回)
本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタル実写シミュレーター機を使用する。
今回はまず、本機F5のコンセプトに近い、NIKON D2H
(2003年 デジタル一眼レフ・クラッシックス第1回記事)
を使うが、記事後半ではシミュレーター機を変える事にする。

写真を交えて記事を進める。

これ以前の旗艦としては、NIKON F4(1988年、本シリーズ
第15回記事)がある。
F4は旗艦であると同時に、AF時代の最初期のカメラであり、
AF性能は正直言ってたいした事はなく、むしろ旧来のMFレンズ
を使う際に、最強のパフォーマンスを発揮できる事は、当該
記事でも説明した通りだ。
当然、ニコンとしては、「AF機最強」を目指して、このF5を
開発していたのに違い無い。
旧来の「フラッグシップ10年間隔説」は、もう、とうに壊れ、
F3からF4までの期間の8年間と同様に、F4からF5までも8年の
間隔で発売される事になった。
ここでF4の発売以降、F5までのニコン中心の各社の一眼レフ
の歴史を書いておこう。
<1988年>
NIKON F4/F4S(本シリーズ第15回記事)
MINOLTA α-7700i α-7000の後継機、高機能化
<1989年>
NIKON F-401s 初級機
CANON EOS-1/HS (本シリーズ第14回記事)
<1990年>
NIKON F-601/F-601M 中級機(AF/MF)
MINOLTA α-8700i 高級機。1/8000秒シャッター
CONTAX RTSⅢ CONTAX初の旗艦機
<1991年>
NIKON F-801s 上級機、動体予測AF
NIKON F-401X 初級機
CANON EOS100(QD)(現在未所有) 静音化、サブ電子ダイヤル搭載
PENTAX Z-1(本シリーズ第17回記事)
MINOLTA α-7xi 新シリーズ高級機、
このxiシリーズは過剰な自動化機能で商業的に失敗
<1992年>
NIKON F90S/D 新シリーズ「Fフタケタ機」の高級機
「D型」レンズを使用すると「3D測光」が可能。
CANON EOS5(QD) 高級機。初の視線入力AF搭載(測距点は横一列)
MINOLTA α-9xi 最上位機。1/12000秒シャッター
<1993年>
NIKON F90 データバックを省いた通常仕様機
CANON EOS Kiss
初級機、一眼レフで初めて数字以外の型番を用い、女性や
家庭層に向けた新規開拓マーケティングを行った。
ニコンや他社はKissの成功を見て、各々 U,Sweet,Aria,
*ist等の初級層に向けたブランディング戦略を後年に行うが、
特にニコンでは、それが成功したとは思えない。
この頃から「ニコンは初級機を作るのが上手では無い」
という評判がマニア層等に広まっていく。
MINOLTA α-707si 高級機
(バブリーな「xi」シリーズは短命に終わった)
CONTAX S2b(現在未所有) マニアックで特異なカメラ
<1994年>
NIKON F70
中級機。高機能ではあるが、信じられない程の劣悪な操作系を
持つ事で有名な「迷機」である。
(この機体は家にあるが、知人の所有物なので紹介しない。
自分のカメラでは無い物を評価等は出来ないルールとしている。
まあ、何度か使った事があるが、非常に使い難い事は確かだ。
なお、当時「操作系」の概念は、殆ど浸透していなかったが、
むしろこの機体があった事で、他社のPENTAXやMINOLTAでは、
操作系改善の発想が生まれたのかも知れない)
NUIKON F50 初級機
NIKON F90X/XS/XD 高級機,F90シリーズの改良版。
CANON EOS-1N(現在未所有)旗艦EOS-1の改良版、完成度が高い。
OLYMPUS OM-3Ti(現在未所有) マニアックなレア機
<1995年>
この年、ニコンの一眼レフの発売は無い。
「阪神淡路大震災」の影響および世情からか?
CANON EOS-1NRS ペリクルミラー搭載の特殊用途機
CANON EOS55 中級機。視線入力AF(測距点は縦横)
PENTAX MZ-5 初級機、Zシリーズより操作系を簡略化
MINOLTA α-507si 中級機。操作系の概念に優れる。
<1996年>
NIKON F5 (本機)
ここでやっと本機F5の時代に到達した。

なかなか頭に入って来ないとは思うが、この時代のAF一眼の
歴史を良く良く振り返ってみると、重大な事実が見えてくる。
それは、この時代に「魅力的な名機が1台も無い」という事だ。
勿論、高性能機とか最上位機とか、そういうカメラは何台か
存在している。しかし、それらには魅力があるのだろうか?
1990年代前半のAF一眼レフで、私が現在でも所有している物は
PENTAX Z-1の1台のみであり、しかも、そのカメラは個人的には
好きなカメラではない。あくまで歴史的価値からの現有だ。
他のこの時代の一眼レフは所有した事があっても、現在では
綺麗さっぱり手元から消えて無くなっている。
つまり、1台も欲しいAF一眼レフが無かった時代なのだ(汗)

そして、やや時代は下るが1995年の「阪神淡路大震災」であろう。
後者は極めて深刻な大災害であったが、その事が消費者心理に
与えた影響も決して小さくは無い。
まずは「バブル崩壊」だ。
世の中の「イケイケ・ドンドン」のムードは、段階的に変化
していった、まず最初は1989年の昭和天皇の崩御である。
この時期「自粛ムード」が広まり、消費は冷え込んだ。
また、この年1989年には消費税(3%)が導入されたが、
その後のバブル景気の勢いが上回ったように思える。
1992年には、膨らみすぎたバブルがはじけて、一気に世の中の
景気は凍結する。
不動産売買のみならず、商品の購入、飲食、旅行、娯楽等の
消費行動に対する考え方が、がらりと変わり、節制、節約ムード
が広まっていくと共に、心理的な要素も大きく変化する。
バブル期であれば、カメラに限らず、「凄い性能」「高い値段」
「有名なブランド」等の商品が好まれた。何故ならばそれらを
所有/消費する事で周囲に自慢が出来、「ステータス」を得たり、
社会的地位を高めたり、自身が満足できる訳だ。
が、バブル崩壊後は、その考え方はくるりと反転してしまう。
「そういう上辺だけ華美なものは良く無い、中身が大事だ」
という考え方にシフトした。
このあたりは日本人の長所でもあり短所でもあろう、
世情が変わると割と柔軟に価値観を変化させる事ができる。

このあたりの時代背景は重要だ、もう少しだけ続ける。
ご存知のようにカメラの開発には数年の時間を要する。
バブル期にイケイケムードで企画されたカメラは、
そのコンセプトのままスケジュールに乗って開発が進む。
途中で世の中が変わっても、例えばバブルが弾けても、
よほど不都合が無い限りは、そのまま発売される。それが世情に
合っていなくても、ユーザーのニーズを満たさなくても、だ。
こうして、このバブル崩壊の時期、ユーザーの購買心理とは
だいぶ方向性がずれているカメラが出揃ったと言う訳だ。
バブル崩壊の経済的・精神的なショックに引き続き
「阪神淡路大震災」が1995年に起きる。
ごく普通の平和な日常に、ある日突然に大惨事が起こって
しまう事は、直接の被害を免れた地域の人達にとっても
大きな精神的な痛手となった事であろう。
さらにここでまた消費者心理は変わる、私の感覚では一般
消費者の商品に対する購買内容(価値観)が地震の前と後で、
大きく変わったように思えてならない。
ごく単純な例を挙げれば、ペットボトルの飲料は、震災前では
味のついたジュースや炭酸系のものが殆どであったが、震災後
では、単なる「水」の販売が一気に増えた。
震災前は「水は水道管から出てくるタダ同然の物」であったのが、
「水は命を繋ぐために、とても貴重なもの」という考え方に変化
したからであろう。この頃から自動販売機に普通の「水」が、
ジュース等と並んで同じ値段で売っていても、誰も不思議だとは
思わなくなった。
こうした極端な例でなくても、他にも変化した消費者心理が
色々とあると思う。
さて、そう言う意味では、震災後に発売された本機NIKON F5
には「バブル時代の残り香」が色濃く残っている。

ニコン初の多点測距AF、被写体の距離と色を含めて露出を
判断する「3D-RGBマルチパターン測光」等の超絶性能。
操作系では、アナログ風の操作子を廃し、デジタル操作子の
コマンドダイヤルと上部液晶表示によりカメラ設定を行う。

高速連写が出きる事は確かに凄いが、その性能の代償として
本体のみの重量は1210g。8本の電池込みでは、およそ1400gと
そう簡単には外に持ち出せない重量となってしまった。
職業的なスポーツ写真家等で、常時高速連写が必要ならば
こういう超絶性能は必須であろう。だが、F5はフィルム機だ、
連写すれば、ほんの数秒で撮りきってしまうし、非常に面倒な
巻き戻し操作がF4に引き続き本機でも残っている為「撮影して
いる時間よりも、フィルム交換をしている時間の方が長い」
という大問題を生じる。
しかも連写音はうるさく、撮影場所や撮影シーンによっては
「顰蹙」を買ったり、クレームが来たりしてしまう。

アマチュアならばなおさらだ。
高速連写を使わない場合は、F5は少しAFが良くなった一眼レフ
でしかなく、そして重い。撮影の時間の大半が、その自慢の
モータードライブを「荷物として単に運んでいるだけ」の
状態だ。
そりゃあ、AFは良く合い、シャッターフィールも俊敏で
気持ち良く撮影はできるかも知れないが、まあ、それだけだ。
F5が、あまりに非実用的な高速連写機であったので、その反動で
デジタル時代に入ってすぐ、F5とコンセプト的にも形状的にも
極めて似ている D2H(2003年)を購入した。だから本記事では、
F5の代わりのシミュレーターとしてD2Hを使っている訳だ。

実際の用途、そして重量によるハンドリングの悪さ、そういう
様々な事を鑑み、「もうフラッグシップ機は買うのは止めよう」
と初めて思った次第だ、これまでさんざん銀塩の旗艦機を買って
来たのではあったが、実際に必要としない超絶性能では、単に
無駄にお金を使っているだけだと、やっと気がついた訳だ。

ニコンの銀塩コンパクト機への市場参入は、他社よりも
ずいぶんと遅く、1983年からの「ピカイチ」シリーズが
最初であった。これは1990年代初頭まで続いたが、あまり
魅力的なカメラでは無く商業的にも成功したとは言い難い。
ニコンコンパクト機の最大の名機は、NIKON AF600(1993年、
単焦点広角28mm/f3.5搭載、別記事で紹介予定)であろう。
本機F5より、少しだけ前の時代である。
ニコンは低価格機等の発売で、主力の高級一眼レフのビジネスに
悪影響があると考える傾向があるのであろうか・・
そういえば、2010年代のミラーレス時代でも、ニコンの参入は
他社よりもずいぶんと遅く、その後、1型機のシリーズは終焉
している。(高付加価値型Zシリーズへの移行の意味もある)
その割に、高級コンパクト機(チタン外装)の35Ti(1993)
28Ti(1994)や、中古カメラブーム時の復刻版S3(2000),
FM3A(2001)や、MFパンケーキ Ai45mm/f2.8P(2001)等への
対応は素早く、すなわちこれらは高付加価値商品(高く売れる)
場合であって、一眼レフの市場とも被らず問題無い訳だ。
(さらに言えば、明らかに非実用的な、コレクション又は
投機目的用の記念モデル等も多数販売している)
ビジネスにおいては、わからない話では無いが、なんとも
保守的な製品展開コンセプトに思える。それ故に、初級機の
開発にあまり力を入れられ無いのかも知れない。

NIKON F5(1996年)
オートフォーカス、35mm判フィルム使用AEカメラ
最高シャッター速度:1/8000秒(電子自動調整式)
フラッシュ:非内蔵、シンクロ速度1/250秒 X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定(標準ファインダー時)
ファインダー:交換式、スクリーンも多種交換可能。
倍率0.7倍 視野率100%
ファインダー内照明:無し(バックライトLCD/LED方式)
上部液晶照明:有り(電源スイッチ部)
使用可能レンズ:ニコンFマウント系、D/G系レンズ推奨。
(注:Ai使用可、非Ai使用時は要改造、F3AF用使用不可、
電磁絞り(E)系も使用不可)
絞り込みプビュー:有り
AF測距点数:5点、MF時にフォーカスエイド可
AF測距点切り替え:背面に専用十字キー、単一/エリア切り替え可
AFモード:シングル(S)、コンティニュアス(C)、マニュアル(M)
動体予測有り
AF/MF切り替え:本体側レバーによる(一部はレンズ側で可)、
露出制御:PSAM方式、プログムシフト不可
測光方式:3D-RGBマルチパターン測光、中央重点、スポット
露出補正:±5EV,1/3段ステップ
AEロック:前部ボタンで可
AFロック:前部ボタンで可
ファインダー内表示:フルスペックで様々な情報を表示可
視度補正:専用ダイヤルで可
露出ブラケット:可
ミラーアップ:可
ドライブ:単写、高速、低速、超低速、セルフタイマー
連写速度:CH高速時 秒7.4~8コマ(使用電池に依存)
CL低速時 秒3コマ(CH,CL時コマ速は、CFで変更可)
Cs超低速(静音)時、秒1コマ
多重露光:可
縦位置シャッターボタン:有り
電源:単三型アルカリ/ニッケル水素電池 8本使用
電池チェック:上部液晶に残量表示
カスタムファンクション:本体背面蓋内部スイッチと背面小型
液晶で設定可、24項目
フィルム感度調整:手動ISO6~6400、DXコード対応
フィルム巻き戻し:R1,R2レバーの連続操作による
本体重量:1210g(電池除く)
発売時定価:325,000円(標準仕様、税抜き)
----
さて、このあたりでシミュレーター機のD2H(APS-C機)を
やめてフルサイズ機NIKON Dfに交替しよう。

多くは無いが・・

実を言うと、あまり思い当たらない(汗)
高性能機だ、とは言っても、いったい何を持って高性能と
思うべきか? 例えば銀塩での高速連写は実用性が低い。
連写速度以外の他のカタログスペックは、他社製高級機と
大差は無く、あるいは同じニコンでも、後年1998年発売
のF100は「F5ジュニア」と呼ばれ、連写以外のF5との
数値的性能は同等であった(勿論、小さく軽く安価だ)
被写体の色と距離を判定する「3D-RGBマルチパターン測光」は
技術的には凄いが、露出判定アルゴリズムの良否に影響する
部分が元々大きい、そして、旧旗艦F4の時代から、すでに
露出精度は極めて高く、それ以上のレベルが必要なのだろうか?

シャッター幕は、毎回幕速を自動計測して調整している、と
言う事だが、だからと言って壊れないという事と等価では無い。
事実、私のF5は2004年頃のドラゴンボート大会の撮影中に
(当時はまだ、銀塩とデジタルの混在期だ)シャッター幕が
壊れている。(”グシャッ”と言う嫌な音がして破壊された)
高額な修理費を払って直したが「なにが15万回の耐久性だ!」
と悪態をついて、ニコン旗艦機への信頼度を落とした。
が、その事によりニコン旗艦機が嫌いになったと言う訳では
無い、物持ちの良い私は滅多にカメラを壊す事は無いが
偶然が重なって壊れる事は、やむを得ない。
結局「銀塩での高速連写は無理だ」と思い、デジタル版の高速
連写機D2Hの購入に繋がった訳だ、幸いその機種は、不当な
悪評判があって、かなり安価に購入できたので、むしろ良かった。

やはり意味が無いと思う。というのも、D2Hで高速連写を
さんざんやった経験から言えば、レンズの絞り込みの動作が
高速連写では物理的に追いついていない。だから、必ずと
言ってよいほど露出はバラつく。よって、シャッター速度だけ
いくら完璧に調整しても無意味なのだ。
絞り込みのバラツキに関しては、当然ニコンでも問題にして
いたのであろう、後年には「電磁絞り」対応の「E型」レンズ
により、この問題に対処しようとした。
しかし、電磁絞りレンズは他社機でのマウントアダプター
互換性を完全に失い、ニコンのデジタル一眼でも古い機種では
動かない。それに、原理的には、絞り駆動動作を電子化した
とは言っても、機械的に絞りが駆動する点は変わっておらず、
数十年という長い年月使用して、絞りが粘ったりしたら、
結局、露出がばらついたり連写速度が落ちてしまう。今は
E型レンズは、まだ新しいから正常動作しているに過ぎない。
この問題は開放測光の一眼レフである以上、避けられない
宿命であろう。ならば、一部のミラーレス機のように
絞り込み(実絞り)測光にするしか無い、そうであれば
元々ミラーが無く、連写性能やレリーズタイムラグに強い
ミラーレス機が圧倒的に有利になるでは無いか。
その点だけを見れば、もう一眼レフに勝ち目は無いようにも
思えるが、まだ幸いにしてAF速度とAF精度のメリットが残る。
素早く、確実に、ピントの合う写真を撮ろうとしたら、
まだまだ一眼レフが優位なのだ。

やはり、どう考えても、あまり特徴が見出せない。
ニコンF5は、発売当初の1990年代末においては、ちょうど
中古カメラブームでもあったので、新鋭旗艦機は評判が
そこそこ良かったのだが・・ 発売後数年が過ぎた頃には、
「あれ?」という疑問の声も、マニアあるいは業務用途での
ユーザーからも良く聞くようになっていた。
そして2000年代前半、世の中は急速にデジタル時代に移り
変わり、F5の真の実用性能の件は「うやむや」にされ、
そのまま忘れ去られる事になって行く・・
(注:後継機F6は、既にデジタル時代に入ってからの発売で
趣味性の高い機体と見なし、購入していない)

まずはその重量。電池込み約1400gはさすがに重過ぎる。
これまで「史上最悪」であったEOS-1HS(本シリーズ第14回)
の電池込み約1500gよりは、少しだけマシだが大差は無く、
そしてEOS-1HSは、いざとなったらブースターを切り離して
だいぶ軽快なEOS-1に変身させる事も容易なのだ。
ニコンでも前旗艦のF4では、F4S/Eのバッテリーパックを外し、
やや軽量なF4にする事は出来た。
F5の重さはダイエットする事は不可能だ。
軽くしたければ、F5と同等の性能を持った後年のF100を
買い足すか買い換えるしかない。

あるのは良いのだが、縦位置での前後ダイヤルが無い。
加えて、AF測距点セレクターにも指が届き難い。
縦位置で制御できるのは、AFスタートボタンしか無く、
事実上では縦位置撮影は快適には使えない。
(重さの問題を含め、「必ず横位置で三脚を使え」と言う
設計コンセプトであろうか? だとしたら完全な仕様ミスだ。
どうもニコン旗艦機の仕様設計は、設計者の「思い込み」の
カメラ使用法に拘り過ぎる要素が強すぎて、実際の様々な
ユーザー層での色々な撮影シーンでの用法がわかっていない
ように思えてしまう。つまり設計思想が古くて頑固なのだ。
で、F5の設計思想が、ちょっと「異常」なところがある点で
後年にF100を発売し、「敗戦投手」としてリリーフしたの
ではなかろうか?とも思えてしまう)

F4で特に問題になった「過剰なロック機構」は、ハードウェア
面からは電源スイッチのロックと、フィルム巻き戻し時の
R1/R2の煩雑な操作が残っている。
特に電源スイッチのロック機構は致命的に近い。重たいカメラ
を支えながらの片手操作での電源ONが出来ず、どうやっても
両手操作が必須だ(=構える最中に電源を入れる事が出来ない)
これは撮りたい時での速写性を損なう「重欠点」であると言える。
何故電源スイッチにロックが必要なのか?全く理解出来ない。
誤って電池を消耗する事と、撮りたい時にすぐ撮れない事と、
いったいどちらが大事なのだろうか? 言うまでもあるまい。
「操作系」の設計思想上では、重量級カメラであればある程、
操作の為の手や指の動きなどは細心の注意を払って「動線」を
意識しなければならない、さもないと、重たいカメラが支え
られず、都度、カメラを置いたり、持ち直しになったりしたら
迅速な撮影が出来なくなる。

あるとは言え、「操作系」のコンセプトを持つまでは無理だ。
それがカメラ界に意識されるのは、やっと2000年頃になって
からであり、しかもそれはニコンでは無い。
それと「開発」ばかりに夢中になっていても駄目だ、実際に
カメラで写真を沢山撮らないと、操作系の理解は進まない。
そもそも、何故「操作系」が重要となるのか?は、言わずも
がなであるが、コンマ1秒でも早く写真を撮る為だ。
操作に1秒も2秒もかかってしまったら、もう求める被写体や
想定した被写体状況(シャッターチャンス)は逃げてしまう。
ここは、業務撮影でも趣味撮影でも全く同じ事であろう。
そういう世界に無縁な状態で、研究室の中だけで考えて
カメラを作っているのだとしたら、それはとても残念な話だ。
なお、今回シミュレーターとして使用しているNIKON Dfにも
同様に操作系上の重欠点が多々存在する。およそ実際に写真を
撮って試しながら設計されたカメラとは、到底思えないのだ。
前述のように「思い込み」により設計されたカメラはNGだ。
それから露出補正だが、旧来のロック付き専用ダイヤルが
廃止されてコマンドダイヤルでの操作になった点は良いのだが、
何故か後年のニコン機の2ダイヤル操作系での「簡易露出補正」
の機能が無く、必ず露出±ボタンを「押しながら」で無いと
露出補正が効かない、これは明らかに無駄な操作系である。
ここはネガフィルムであれば良いが、ポジだと重欠点だ。
おまけに、露出メーターはM露出時でないと表示されない、
他のAEモード時は、単に+0.3とかの数値が出てくるだけだ、
数字を読む事は、直感的なインターフェースとは言えない。
そしてM露出時は、例によってメーターの数直線の+、ーの
方向が一般常識とは逆である。ニコン機の記事では、毎回
この問題を書いているが、まあMF時代のレンズの絞り環と
露出変化方向を同じにする、という意味では、その考え方も
かろうじて許せるが、デジタル方式の「コマンドダイヤル」
は絞り環とは関係無いので、仮にF5で、その課題を改めても
よかったのではなかろうか? まあF5の煩雑なカスタム・
セッティング(CFの事)を用いれば、ダイヤル回転方向を
逆にできるのだが、「メーターとダイヤル回転が逆」か
「ダイヤルが直感とは逆方向」かの「悪魔の2択」となり、
どちらを選んでも、まともな結果にはならない。
それから、Pモードにおいてもプログラムシフトが効かない為、
せっかくの2ダイヤル機でありながら、ほとんどの状況で
1ダイヤルが無駄に遊んでしまう。
本機F5でのソフトウェア的なロック機構を述べれば、高度な
カメラ設定の殆どは、カスタム・ファンクション設定に
押し込まれていて、これは、設定用の小型LCDが単純なもので
GUI等では無い為、取扱説明書を併用しないと設定が不可能だ。

業務用途機として使われていて、疑問の声も多かった理由が
わかるようだ。本機のファースト・インプレッションでは、
その高性能に、皆、圧倒されただろうが、色々と使ってみて、
冷静に考えてみれば、決して使い易いカメラとは言い難いのだ。
操作系以外では、ファインダー倍率が0.7倍と低く、これは
本シリーズで紹介の銀塩一眼レフ中、恐らくはワーストだ。
また、スクリーン上には測距点の表示は無く、視野外から
LEDの▽印で測距点が一瞬表示されるだけで、わかりにくい。
それから、連写音は例によってうるさい。
まだ欠点は他にも色々あるが、きりが無いのでやめておこう、
旗艦機とは言え、古い時代の銀塩機なので色々と未成熟な所は
当然あるし、いまさら何を言っても始まらない。
ただ、欠点を色々と見ていると、本機F5をちゃんと実際の撮影
シーンで使ってみれば、誰にでも明白にわかるような事ばかりだ。
誰も、全く本機で写真を撮らずに開発が進められたように
思えてならない。まあ、その状況は本機のみならず、F3以降の
ニコン旗艦機級で、どれも同じような印象があるのだが・・
まあ、これ以上、がっかりするような事を色々と書いても、
皆が不幸になるだけだ、このあたりまでにしておこう。

評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)
-----
NIKON F5(1996年)
【基本・付加性能】★★★★☆
【操作性・操作系】★★
【ファインダー 】★★★
【感触性能全般 】★★★
【質感・高級感 】★★★
【マニアック度 】★★
【エンジョイ度 】★☆
【購入時コスパ 】★☆ (中古購入価格:100,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値 】★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.7点
残念ながら平均点以下の低評価となった。
これまでの各社フラッグシップ機の中では最低評価点である。
秀でている点は、基本性能と完成度(というか信頼性)のみ
であり、他は平均点かそれ以下でしか無い。
銀塩での高速連写機、という大きな矛盾を抱えたコンセプトで
ある事が最大の問題であろう、バブル期の雰囲気を色濃く残す
「遅れて来た」カメラである。
大きく重く、業務用途以外に実用的な意味が無いのが課題であり、
加えて操作性・操作系が、例によって過剰安全対策で使い難い。
重量級機であれば操作性への配慮が必要なのに、それが殆ど無い。
結果的に、本機を一般撮影に持ち出して撮っても何も楽しく無く、
「エンジョイ度」が過去最低評価となっている。
ここは、本機の設計思想において、様々な撮影シーンでの
利用法を全く想定していない部分が最大の問題点であろう。
つまり「頭で考えて作っただけのカメラ」である。
希少性等によるマニアック度も低く、歴史的価値も殆ど無い。
価格が高かったのは、購入時期が比較的早かったのも確かに
問題ではあったが、仮に後年に安価になってから購入したと
しても、他の評価項目には影響が無く、総合点は同様だ。
現代での中古相場は、発売時定価のおよそ10分の1の
3万円以下程度だ。しかし本機を買っても実用的な意味は
殆ど無いので、同じAF旗艦機でも、F4を、より安価に買って
MFレンズで撮る方が遥かに楽しい事であろう・・
次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。