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特殊レンズ・スーパーマニアックス(1)マシンビジョンレンズ

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さて、新年よりの新シリーズの開始である。
このシリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー毎に
紹介する。

既に本シリーズ第0回目として「アポダイゼーション」の
特集を行ったが、今回から正式なシリーズ記事としよう。

まず第1回目は「マシンビジョン用レンズ」の特集とし、
そのカテゴリーの所有レンズを6本取りあげる。
(内、4本は過去記事では未紹介)

なお、本シリーズでの多くの記事は「上級マニア」以上向け
の内容とする(=【玄人専科】相当)

特に今回のマシンビジョン編は当該分野での非常に専門的で
高度な知識や計算能力が必要とされる為、難解な記事になる
事を最初に述べておく。
c0032138_13492035.jpg
マシンビジョン用(またはFA用とも呼ばれる)レンズは、
CCTV(閉回路TV)用レンズの一種である。
それらは一般的なカメラ市場とは全く接点の無い分野だ。

上級カメラマニアですらも知らないと思われる専門分野だが、
これを説明しだすと長くなる為、「匠の写真用語辞典第3回」
記事を参考とするか、さらに興味があれば、ミラーレス・
マニアックス等での以下のCCTV系レンズ紹介記事を参照の事。
(ミラーレス・マニアックス第4回、第21回、第54回、
第62回、第72回、補足編第4回、ハイコスパ第17回)

それと、CCTV用レンズ全般には監視、製品検査、画像処理、
機械制御等、様々な用途があるが、今回の特集では、全て
「マシンビジョン」用レンズである、これの主な用途は
画像情報による機械制御であり、この為、レンズ性能は
比較的高画質となっている。中には写真用レンズと同等の
高い解像力を持つものもあるが、そのあたりは後述する。

なお、この手のレンズを使用するのは、現代においては
PENTAX Qシリーズを用いるのが簡便だ。今回は母艦として
PENTAX QおよびPENTAX Q7を主に使用するが、より一般的な
機材としてμ4/3(マイクロフォーサーズ)機も使ってみよう。

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まず、今回最初のマシンビジョン
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レンズは、VS Technology VS-LD25N
(発売時定価22,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲マクロ(近接専用)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。

開放F値は撮影距離に関連した「露出倍数」に応じ、
F2.1~F2.5程度となる。(匠の写真用語辞典第2回記事)

本レンズにおける型番LD(=低デイストーション)とは、
「歪曲収差が少ない」という意味だ。
c0032138_13494927.jpg
本レンズの本来の用途は、例えば製品製造ライン等で
近距離の製品の品質を自動的に検査する等が主目的だ。


この時、製品の形状、たとえば真四角な物が曲がって写って
しまったら、製品自体が不良で曲がっているのか、レンズの
歪みかは、画像処理上では判断不能だ、よって本レンズでは、
まず「歪曲収差」の低減を主眼に設計されている。

本レンズの発売日は不明であるが、恐らくはこれの発売時点
では、まだ製品検査用の(ボード)カメラ等は、あまり画素数
が高くなかったと思われる(概ね30万画素~130万画素)
しかし2010年代より、CCTV系カメラの画素数は大きく向上し
200万~500万画素である事が普通だ。

その理由の1つとして、旧来この手のCCTV用途では、画像表示は
アナログTVモニターを基本としていた、これは約35万画素相当だ。
ところが、2011年にTV放送が地上波デジタル化すると、こうした
アナログTV(モニター)は古くなり、HD(ハイビジョン)用の
200万画素級モニターの利用が普通になった。

よって、監視カメラや製品検査等でも、そうした高解像力が必要
となり、急速にメガピクセル(100万画素)以上のCCTVシステム
が発達した訳だ。
(なお、これについては、単なる画面表示の問題だけであり、
本来であれば品質検査等の画像処理では、そこまで高い画素数
は不要どころか、計算処理が重くなる為、むしろデメリットだ。
なので、殆どの画像処理では、まず、入力画像の画素数を縮小
する事からスタートする計算アルゴリズムとなっている。
この事実は画像処理エンジニア以外では知らない事なので、
システム導入を検討する人等は、単に「画素数が大きい方が
画質が良くて好ましい」と大きな誤解をしているのだろう。
まあ、カメラの世界でも同じで、世の99%の人は、画素数の
大きいカメラが良く写る、と大誤解をしているので同様か)

で、マシンビジョン用レンズも、この時代2010年代には、
ほぼ全てが高解像度対応製品に変化していく。
本レンズは初期メガピクセル対応品であり、現在では
より高解像力仕様のVS-LDA25にリプレイスされている。
こうした場合、旧製品は廃棄処分となってしまうところを、
関係者に頼み込んで入手した次第である。

低解像力とか高解像力とかは、まあ一応そのように言っては
いるが、用途あるいは組み合わせるカメラやそのセンサーの
仕様によりけりで、その性能差は大きな問題にはならない。

本レンズの解像力は恐らく150LP/mm程度、よって今回の
カメラ母機PENTAX Q7の画素数は、最低の300万画素で
適正なバランスだ。(この計算の詳細は後述する)

ただし、カメラ側の画素数を低めれば単純にピクセルピッチが
大きくなるという訳でも無い。どのような画素補間処理を
行っているか?というカメラの内部構造は非公開である。
たとえば最高画素のままで撮影して、後で周囲のピクセルを
足しこんでいるような内部処理では、モアレ発生の可能性も
あるし、ローパスフィルターの有無も、こういう場合には強く
影響される、また、カラーフィルターによる色別画素処理で
あるが故、ここで言う画素数は、RGBの各色へは対応していない。
結局、カメラ内部の処理の中身迄は非公開故に、わからないから、
あまり深堀りしても意味が無い、と言うのが本音の所だ。

が、一応ユーザー側で理解可能な範囲に関しては、そのような
点を意識して、しっかりカメラ設定を行っておくのが良い。
その上で、仮に不具合が発生すれば、さらに内部原理の推察を
行うのか、あるいは、それを回避する技法を考え出せば済む話だ。

要は、カメラ、レンズやデジタルの原理をちゃんと理解した
上で、それを撮影に応用するという事である。
勿論、マシンビジョン用レンズの場合は、専門家クラスの知識が
最低限必要となる為、一般カメラユーザー層向けのシステムや
使用法では無い事は言うまでも無い。
c0032138_13494993.jpg
本レンズはLD(低歪曲率)仕様のレンズではあるが、PENTAX Q
システムの純正交換レンズは、基本的にレンズ内シャッター
仕様であって、純正トイレンズや、こうした他社レンズを
アダプターで使用時には「電子シャッター」による撮影となる。

PENTAX Qシステムの電子シャッターは、動体撮影等における
「ローリングシャッター歪み」が発生する他、撮影の状況に
よっては僅かな手ブレ等で、被写体の形状が歪んで写る場合も
よくあるので、その点には注意する必要がある。
まあ、連写して被写体形状が正確と思われるものを選ぶのが
簡便な解決策ではあるが、元々のレンズ特性が、低歪曲である
のに、カメラ側の問題でそれが生かせないのは惜しい話だ。

工場ラインでの検査等のFA用途でも「ローリングシャッター歪み」
は問題となっていて、この為、現代では産業用カメラユニットも
急速に「グローバルシャッター」仕様に変わってきていると聞く。
ただし、これと同時にボードカメラ等の撮像素子が旧来のCCD型
からCMOS型に変わってきていて、グローバルシャッター化は、
技術的に面倒だと想像されるので、まあボードカメラ市場も
なかなか技術開発が大変だろうと思われる。

デジタル一眼レフやミラーレス機の市場とは、このあたりは
まったく接点の無い話ではあるが、一部のトイ・デジタルカメラ
等ではこうしたCCTV系システムを転用したデジカメも発売されて
いる為、そういうところで、わずかな接点は存在している。
また、近年の電子シャッター超高速連写ミラーレス機でも、
ローリングシャッター歪みは原理的に避けられず、ここもまた
わずかな関連があるだろう。(必ず知っておくべき知識だ)

本レンズVS-LD25Nであるが、思いの他、ボケ質破綻は発生
しにくく、まあ、一般写真用途としても、なんとか使えるレベル
にある。元々の製品の性質上、ボケ質に配慮した設計思想は
有り得ないので、たまたま設計がハマったのだと思われる。
まあ、「ラッキー」であったとしておこう。

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では、次のマシンビジョンレンズ。
c0032138_13500869.jpg
レンズは、CBC(Computar) M1214-MP2 12mm/f1.4
(発売時定価25,000円、中古購入価格5,000円)
カメラは、PENTAX Q(1/2.3型機)

発売年不明(2000年代?)のCCTV/マシンビジョン(FA)兼用、
メガピクセル対応、2/3型センサー用MF単焦点手動絞りレンズ。

メーカー(ブランド)名は「Computar」であり、スペルは
一般的なComput「er」ではなく「ar」が正しい。

さて、この手のレンズは、まず中古市場には出ないのであるが、
これはリサイクル店で偶然発見した物だ。
物が流通して無ければ「中古相場」も存在しない状況だが、
定価からすれば、まあ十分安価に買えたと思う。
c0032138_13500866.jpg
本レンズにおける「メガピクセル対応」とは、実はちょっと
定義が曖昧なのだが、一般的には「100万画素級センサーに
対応した解像力を持つ」という意味だ。

「100万画素とはずいぶんと少ない」と思うかも知れないが、
CCTV用センサーは、例えば1/3型とかで、とても小さく、
これの対角線長は僅かに6mm程度しか無い。
(参考:デジタルのフルサイズ機の対角線長は約43mm)

この場合、100万画素級でのピクセルピッチは約4μm以下
となり、これはデジタルカメラのフルサイズ機で言えば、
5000万画素~1億画素に相当する仕様となる。

現在では、1億画素までの画素数を持つデジタル一眼は
中判機を除いて無いが、既に5000万画素フルサイズ機は
存在している。
また、APS-C機ではフルサイズ機よりもピクセルピッチが
小さくなりやすい。
近い将来に、そのレベル(ピクセルピッチが2~3μm)と
なる事を想定して、2010年代から新鋭の単焦点高画素対応
(高解像力仕様)の写真用レンズが色々発売されている。

つまり、こうした写真用新鋭高解像力レンズと、CCTV用の
メガピクセル対応レンズは、解像力に関してのみ言えば、
スペック的には、ほぼ同等の性能を持つ事になる。
(なお、もしかすると、CCTV用小型レンズの方がレンズの
ガラス素材内での均一性が高まり、製造面から高性能化が
写真用大型レンズよりも若干やりやすいのかも知れない?
事実、220LP/mm程度の小型レンズは容易に設計可能と聞く)

しかし、写真分野では、あまりそうした数字を気にする必要も
無く、例えば、フルサイズ・デジタル一眼レフのNIKON Dfは
1600万画素機なので、この場合、ピクセルピッチは約7.2μmと
かなり大きい。
つまり、まだピクセルピッチが大きい機種も色々とあるので
こうした低画素数の一眼レフを使うのであれば、あまり
写真用レンズの解像力には神経質にならなくても良い。
(むしろNIKON Dfは、解像力の低いオールドレンズの母艦
として適している)

ただ、今回使用のPENTAX Qは、センサーサイズが1/2.3型と
小さく、それでいて1200万画素機であるから、ピクセル
ピッチは、僅かに1.5μm程度しか無い。
こうした小型センサー機(コンパクト機や携帯系カメラも
同様)においては、画素数がちょっと上がっただけで
すぐにピクセルピッチが小さくなりすぎて、レンズ側にも
新鋭一眼レフ用超高性能レンズを超えるレベルの、相当な
高解像力が要求される。

しかしながら、コンパクト機や携帯系カメラの小型センサー
用の安価な搭載レンズが、デジタル一眼レフ用の超高価な
単焦点より優れた解像力を持つとは、とても思えない事で
あろう・・
事実その通りであり、つまり携帯系カメラのレンズは、
もう既に、センサー側の画素数に対してレンズ側の解像力が
全く足りていない状況なのだ。
だから、携帯・スマホのカメラの画素数が大きくなったと
喜ぶ事は、ほとんど意味が無い。
c0032138_13500827.jpg
さて、余談が長くなったが、本レンズM1214-MP2の話に戻る。
12mmの焦点距離は、PENTAX Qへの装着時には、換算約66mm
の画角となり、長めの標準レンズ相当である。
F1.4は大口径に見えるが、CCTVの世界で、特に監視用途では
暗い環境で使う為、開放F1以下のレンズも多く、F1.4級は
小口径の部類となる。(開放F値を控え目にする設計で
諸収差が低減するというメリットがある。本レンズは監視用
ではなく、FA/マシンビジョン用なので、当然の設計思想だ)

絞り環は手動で調整可能、ただし目盛りの数字はカメラ側に
向いておらず逆だ、これはFA(産業用途等)でカメラを上から
吊るして使う場合が多いからだろう。
絞り値は無段階だが、本体のネジによりクランプ(ロック)
が可能だ。(こうしたネジは落下紛失し易いので注意)

最短撮影距離は15cmと、CCTV系レンズにしてはまずまず短い。
ちなみに、CCTV系でマクロレンズという製品は、
本記事で使用のVS Technology社のマクロレンズがあるが、
一般的にはあまり多くはなく、基本は撮影距離や、必要な
撮影倍率に応じて、接写リング等を併用して使う。

接写リングは専用品が存在するが、「CSマウントアダプター」
(1枚5mm厚)を複数枚重ねると、接写リングの代用となる。
c0032138_13514219.jpg
他のCCTVレンズでそれをやった事があるが、屋外の被写体では、
ピント合わせが恐ろしく困難であった。
今回はその使い方はやめて、一般的な中距離被写体を撮っている。

なお、上写真の左側の薄いリングは「スペーサー」だ、これは
フランジバックを微調整する際に用い、例えばCマウント用の
アダプターを使うとオーバーインフ(無限遠を超えてピントが
合い、替わりに近接性能が落ちる)になる場合等に使うと良い。

描写力だが、ボケ質があまり良く無い。
勿論、この手のマシンビジョンレンズでは、ボケ質は製品検査等
とはまったく無関係である為、そうした部分への設計上の配慮は
全く無い。
いや、むしろ、ボケ質を犠牲にする事で解像力の向上を狙った
設計である。

写真レンズ用のコーティングが施されている訳でもなく、逆光耐性
も低いので、普通には写真用レンズの代用には、なる筈も無い。
まあ、上級者向け、というより「CCTV専門家向け」の撮影ジャンル
で、総合的に、かなりの高難易度となる。

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さて、次のマシンビジョン。
c0032138_13510365.jpg
レンズは、VS Technology VS-LD6.5
(発売時定価50,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲広角(近接可)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。
開放F値は「不定」である、これは撮影倍率に依存した
「露出倍数」が掛る為であり、撮影条件に応じて、だいたい
F2.2~F2.4程度となる。

6.5mmの焦点距離で、1/2型以下のCマウント対応だ。
よって、母艦としては、PENTAX Q(1/2.3型)が望ましいが、
今回はちょっと捻くれて、μ4/3機を使ってみよう。

μ4/3機は、その名の通り、4/3型(=1.33型)のサイズの
撮像センサーを搭載するが、これを2倍デジタルテレコン
モードで常時使用する、これで2/3型(=0.66型)相当となるが、
実はこれでも、1/2型(=0.5型)には、まだ足りない。
なので、この状態で撮影すると、以下写真のようにケラれる。
c0032138_13510342.jpg
だが、DMC-G6には優れた操作系のデジタルズーム機能があり
この状態から、レバー1つで任意サイズの拡大(トリミングと
ほぼ等価)が可能だ。なお、この設定で、この機能を使うと
記録画素数が400万画素に制限されるが、前述のレンズ解像力
の実効値から、マシンビジョン用レンズをミラーレス機で使う
際には、概ね300~400万画素が限界なので、これでも十分だ。
(注:使用するシステムに応じて、個々に計算が必要だ)

さて、本レンズは広角の低歪曲仕様である。
写真用レンズでも、特に低価格ズームレンズの広角側等では
歪曲収差が大きいものが比較的多い、しかしながら、実際の
写真分野では、構図周辺に置いた海の水平線や建物の直線性を
きちんと出す等の、よほどの厳密性が必要なケース以外では
多少被写体が歪曲していても殆ど気にはならないであろう。

だから、写真レンズの場合、この収差に関しては、設計上、
あまり優先的に補正は行っていないと思われる。(それよりも、
解像力等を優先的に高めるのが良い)

ちなみに、歪曲収差はユーザー側での確認が容易な為、様々な
レビュー記事等では、たいていこれを計測してレンズの良し悪しを
語っているが、勿論レンズ性能は歪曲収差だけでは決まらない為、
若干(かなり)的外れな話だと思う。
なお、写真用超広角レンズ等でビルや建物が上すぼまりに写る
等は、歪曲収差ではなく、単なる遠近感(パースペクティブ)
による「歪み」であるので、両者を混同してはならない。
c0032138_13510352.jpg
本レンズVS-LD6.5は、近接から遠景まで汎用性の高いレンズ
である(注:無限遠まで完全に対応していないかもしれない。
レンズに距離指標は無く、撮影倍率表記だ。だが被写界深度が
深いレンズであり、少し絞れば無限遠撮影は可能である)

で、本レンズを写真用途で使う場合は、1/2型対応なので、
使用できるシステムに制限があるが、まあ、PENTAX Q/Q10
(1/2.3型)あたりで使えばバッチリのシステムとなるであろう。
その場合は、フルサイズ換算約35mmとなり、使い易い準広角
画角だ。

---
さて、4本目のマシンビジョン。
c0032138_13511745.jpg
レンズは、Space JF7.5M-2 7.5mm /f1.4
(発売時定価18,000円、新品購入価格17,000円)
カメラは、PENTAX Q7(1/1.7型機)

2010年代のマシンビジョン(FA)用、メガピクセル対応、
2/3型センサー用MF単焦点広角手動絞りレンズ。
(ミラーレス・マニアックス第54回記事、および
レンズ・マニアックス第11記事で紹介済み)

本レンズ購入時には知らなかったが、調べていると旧型が
存在していた模様だ(S7.5-1.4)、そちらは定価が11,000円と
安価であるが、メガピクセル対応品ではなく、2000年代の
低解像力仕様であろう。
c0032138_13511708.jpg
CCTVの世界で、「メガピクセル対応品」と言えば、だいたい、
3~3.5μmのピクセルピッチに対応していて、これは概算で 
166~142LP/mmとなる。旧製品であっても、恐らくだが
120LP/mm前後位の解像力は出ているとは思われる。

ここでマシンビジョン用レンズの解像力の話をしておこう。
ここからは、やや複雑な計算が必要であるが、ちょっとだけ
実例を挙げる。

まず、本レンズの解像力を150LP/mm前後と仮定する、
これはだいたい、この手のレンズでは、そんなものである。

(LP=ラインペア。テストチャートに白黒の細かい線を印刷し、
1mmあたり何本の線が見分けられるかという解像力の指標。
それとこの値は、画面中央部であり、周辺では少し落ちる)

次いで使用カメラ、PENTAX Q7のセンサーは1/1.7型であり
7.5x5.6mmのサイズだ。これを最高画素数の1200万画素で
使用すると、ピクセルピッチは約1.87μm、これは非常に
小さく、現代の超高画素デジタル一眼レフよりも細かい。
(小型センサー機では、よくこういうケースがある)

Q7を最大画素数で撮影すると、レンズ側では約266LP/mm
という性能が必要となる。 1÷(7.5÷4000)÷2≒266
しかし、ここまで高性能なレンズは超高性能一眼レフ用レンズ
でも殆ど存在していないし、マシンビジョン用でも250LP/mmを
超える物は、最近ではあるらしいが、軽く十万円以上もする
超高価格品だ、よって、この計算結果は非現実的なレベルだ。

なお、この計算式であるが、ピクセルピッチに対応するレンズ
解像力が必要になるという事は誰にでも理解できると思う。
上では、単純に割り算しているだけなのだが・・

先日、私がレンズメーカーの光学設計技術者の人に、この話を
すると、その技師の人は「デジタルのサンプリング定理により、
ナイキスト周波数を意識すると、レンズ解像力は2で割り算した
結果の半分だけあれば良い」という意見を言っていた。
だが、サンプリング定理は理解できるが、そう解釈するかどうか
は不明である。すなわち、サンプリングを行うには2倍の
周波数が必要だが、その目的の為に、白黒の線をペアとして
いるのだから、さらに2で割る必要があるのだろうか?

そして、ピクセルピッチのぎりぎり迄センサー受光面が入って
いる訳ではなく、集光用のマイクロレンズの有効径もある。

そのあたりの詳細が定義しずらく、結局「2で割るかどうか?」
の論争は結論が出なかった。まあ、「デジタル光学」分野では、
この件に限らず、「ちゃんと定まっていない」場合は結構多い。
まだ数十年程度の技術分野だ、定説も少なく、検証も困難だ。

なお、レンズ設計の世界ではなく、マシンビジョン業界では
私と同じ解像力の定義を採用している。
本記事においては、基本的に私の解釈での計算式を述べよう。

・・さて、結局のところ、レンズ解像度が足りないのは確か
なので、Q7の画素数を下げる必要がある。
レンズ解像力を150LP/mmと仮定すれば、必要横ピクセルは
7.5÷(1÷(150x2))=2250Pixelと計算でき、必要画素数は
4対3アスペクトであれば、2250x2250x(3/4)=約380万画素
となるが、Q7には、この値に合致する画素数設定が無いので、
300万画素(1920x1440)で用いるのが良いだろう。
(PENTAX Q/Q10でも同じく300万画素が良い)
これで、想定される本レンズの解像力でぴったりとなる。

なお、レンズが高解像力(メガピクセル)仕様では無くても
使用カメラのセンサーサイズや画素数などを綿密に設定して
使えば、さほど大きな問題にはならないので、今から思えば
新型の本レンズを購入する必要性は少なく、安価な旧型でも
よかったかも知れない。
(Q7の画素数を300万画素まで落とせば、必要レンズ解像力は
約120LP/mmの計算となり、これであれば、旧型のレンズでも、
まあ大丈夫であったと思う)
前述の通り、メガピクセル用レンズは、だいたい3.3μmピッチ
あたりに対応していて、1÷0.0033÷2=約150LP/mm
という感じの性能だ。
まあそれに前述のように、カメラ内部でどのような画素補間
処理を行っているかは非公開で不明だ、いちおうユーザー側
では最善と思われる措置を行うが、現実的には、ここにあまり
拘っても、その効能を判断・評価する事は極めて困難である。

余談だが、単位μm(=0,001mm)は「マイクロメートル」
と読むのが正式だが、これでは長い為、CCTVレンズ業界では、
この単位の旧呼称の「ミクロン」で話をするのが一般的だ。
(例:「このレンズは、3ミクロンピッチ対応である」等)

なお、一眼レフ用レンズでも、近い将来の超高画素時代に対応し、
2~3μmピッチのセンサー用の解像力を持つ商品が出始めている、
2μm対応であれば、250LP/mmの解像力という事なのだが、
もし2μmピッチのフルサイズ機を作ると、およそ2億画素のカメラ
となる、今の所まだそれよりもヒトケタ少ない画素数仕様の
デジタル一眼レフばかりなので、2010年代の新鋭写真用レンズの
解像力性能は、現段階ではやや過剰すぎるかも知れない。

で、こういったややこしい計算をしないと、マシンビジョン用
レンズは写真用に使えないのか?と言えば、原則的には、その
通りである。
マシンビジョン用やCCTV全般でのCマウントレンズは、対応する
イメージサークルや、解像力等の仕様が個々に異なる為、
少なくとも、それらの原理や仕様を理解して、適正なシステム
構成を意識しないと、デジタルカメラでは使う事ができない。

この点は、たとえカメラの上級マニアや職業写真家であっても
無理な話であり、専門家レベルの知識が絶対に必要なのだ。
そして、専門家レベルであっても、デジタル光学は新しい分野
であるので、その詳細な所は、まだ解明されてない部分も多い。
c0032138_13511677.jpg
さて、本レンズの7.5mmの焦点距離は、PENTAX Q7で使った
場合のフルサイズ換算画角は約35mm/F1.4 に相当する。
使いやすいように見える準広角画角ではあるが、例によって、
PENTAX Q7のMF性能ではピント合わせの課題がつきまとう為、
少しだけ絞って、被写界深度をかせぎつつ、中遠距離の被写体の
撮影に特化するのが賢明な使用法だ。

(注:Q7の背面モニターの使用部品の再生系処理には、
どうやらバグまたは不良がある模様で、解像度が出ていない。
これは同時期(2012~2013年)の、同社や他社のミラーレスの
複数でも全く同様な課題があり、各社で使用している共通部品
の欠陥だと思われる。なので、むしろQ7より以前の時代の
Q(2011年)あたりで撮った方が若干容易かも知れない。その場合
の換算画角は7.5mmx5.5倍=約41mmとなり、準標準相当だ)

まあ、ピント精度が気になるようならば、例えばPENTAX Q系
には優秀なエフェクトが搭載されている為、それを併用し、
輪郭等を強調してしまうのも対策としては有効であろう。

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さて、5本目のマシンビジョン。
c0032138_13512666.jpg
レンズは、TAMRON M118FM16 16mm/f1.4
(発売時定価30,000円、新品購入価格20,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3型機)

ミラーレス・マニアックス記事等で何度も紹介した
2010年前後のマシンビジョン(FA)/CCTV兼用、初期メガピクセル
対応、1/1.8型センサー用MF単焦点手動絞りレンズ。
写真用レンズメーカーとしても著名なTAMRON社製だ。

1/1.8型対応レンズであるが、イメージサークルに余裕がある
設計の製品だ。この為、例えばPENTAX Q7の1/1.7型に装着した
場合、本来僅かに足りない筈が、ケラれずに何ら問題なく使える。
今回は、さらに無理をして、μ4/3機を2倍テレコン常用で
使ってみよう、これは4/3の半分で2/3型相当になり、
この数値を別の書き方にすれば、1/1.5型程度になる。
c0032138_13512615.jpg
なんと、だいぶ無理をした使い方なのに、ケラれずに使える。
これは嬉しい実験結果だ、すなわち本レンズには2/3型対応
並みの余裕があるという事になる。(仕様が最初から2/3型
なのか、あるいは周辺収差を避けて1/1.8型を謳っているか?
後者はレンズ設計コンセプト上では十分に有り得る話である)

このE-M5Ⅱ+テレコン2倍での換算画角は、16mmx2x2で、
64mm/F1.4となり、長めの標準レンズ相当だが、最短撮影
距離が30cmと、近接領域で使おうとすると、やや寄れない
不満がある(上の昆虫の写真等)

なお、PENTAX Qで使うとフルサイズ換算画角は88mm/F1.4
となり、いわゆるポートレート用大口径中望遠と同等の
仕様となるのだが、まあ、そういう事は数字の遊びだけの
話であり、被写界深度や主要撮影距離がまるで異なるので、
そうした大口径中望遠レンズとしての代用利用は難しい。
けど、撮影倍率が上がるので、近接での不満は、やや解消
されるであろう。

で、これまで本レンズをMF性能が貧弱なPENTAX Qシリーズで
使ってきたが、その場合では厳密なピント合わせが困難であり、
加えて本レンズは、ボケ質が破綻しやすく、その回避もQ系では
ほぼ不可能だった。
しかし、E-M5Ⅱではピーキングが使え(注:精度はやや悪い)
高精細で倍率の高いEVFを搭載しているので、意外に使い易い
事がわかった。
ただ、今回にはボケ質破綻の回避にまでは、あまり配慮して
いなかったので、結構その問題は残っている。
c0032138_13512651.jpg
ボケ質破綻に関しては、この手のマシンビジョン/CCTV用
レンズは背景をボカして使用する用途はまず考えられない為、
ピント面の解像力を主眼に設計していて、ボケ質等への配慮は
一切無い。つまりそういう設計コンセプトなので、ボケ質が
悪いのはやむを得ないし、それらの事をちゃんと理解して
使わない限り、こうしたレンズを使用する事自体が無理だ。
何度も繰り返すが、「CCTV専門家」向けのレンズ群であるから、
初級中級マニアはもとより、上級マニアや職業写真家層でも
使いこなしは困難であろう。

業務用途の写真撮影には使えない事は当然であり、たとえ
趣味的な撮影であっても写真表現としてはアンコントローラブル
(制御不能)だ。
ただ、アンコントローラブルである事を逆手に取って、これらを
「トイレンズ代わり」に使用するアート的方法論はありうる。
しかし、トイレンズと言うには、解像力性能は、現代の新鋭
高性能単焦点レンズ並みだし、歪曲収差なども良く補正されて
いて、ある一面での性能は高く、かつ、そこそこ高価であるから、
トイレンズの代用とするには勿体無いと思う。

そのあたり、こうしたマシンビジョン用レンズの写真における
用途は、「不明」と言えるかも知れないのだが、まあ、それでも
マニアックな視点からは、なんとかこういうレンズ群を使え無い
だろうか?という「用途開発」は、結構面白いテーマである。

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では、今回ラストのマシンビジョン
c0032138_13513651.jpg
レンズは、VS Technology VS-LD50
(発売時定価28,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲望遠マクロ(近接専用)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。

開放F値は「露出倍数」に応じ、F2.7~F3.1程度となる。

かなりの望遠画角のマクロであり、PENTAX Q7で使用時には
フルサイズ換算230mm相当である。
c0032138_13513789.jpg
こういうレンズは、FA(産業)用途の場合、ワーク(検査対象物)
の距離が遠い、または小さい場合の生産ライン等で使われる。
まあ写真用語で言えば、WD(ワーキング・ディスタンス)が長い
という事であり、その代表は望遠マクロ(200mm前後の焦点距離)
レンズである。

写真用等倍望遠マクロレンズ(例:180mm/F3.5)の最短撮影
距離は、一般に46cm程度となるのだが・・
本VS-LD50の場合の「物像間距離」(=WD)は、仕様上では、
約28cm~約67cmとなり、ほぼ写真用望遠マクロと同様な
感覚で使用する事が出来る。

これに対して、例えば、本記事の標準マクロVS-LD25Nでは
最短15cmであるから「かなり近接した撮影」という印象となる。
すなわち、フィールド撮影において、常に至近距離の被写体に
注目して探す事となり、これはこれで一般的な写真撮影の
感覚とはずいぶんと異なり、そういう視点(目線)に切り替える
事がやや難しい。

なお、VS Technology社製SV-1214H(未所有)といった、新鋭
レンズであれば10cm~無限遠の範囲で撮影が可能なので、どんな
被写体でも対応範囲が広いであろう、一般的な写真用マクロレンズ
と、ほぼ同等の視点感覚で扱えると思われるので、ちょっと欲しい
のだが、少々高価なので、どうしようか?と迷っている。
(追記:本記事執筆後に入手済み、後日別記事で紹介予定)

本レンズは、旧型の初期メガピクセル対応品であり、
解像力は推測で140~150LP/mm程度である。
この為、Q7の画素数は300万画素としているのだが・・
新型のVS-LDA型の解像力は、スペック表からは不明であるが、
恐らく160~180LP/mm程度であろう、よって3.3μmピッチ
くらいで使っても問題は無いが、生憎Q7にそれに相応する
画素数設定(400万画素程度)は無い。

なお、デジタル一眼レフでは、例えば超高画素(5000万画素)
のCANON EOS 5Dsでも、ピクセルピッチは約4μmで、必要な
レンズの解像力は、120LP/mmに過ぎない。
ともかくCCTV分野や携帯・スマホ系の小型センサーとかでは、
ピクセルピッチが小さすぎてレンズ側の対応もそれなりに
大変なのだ。
c0032138_13513655.jpg
さて、この手のマシンビジョン用のマクロ(近接専用)レンズ
を屋外撮影で使うのは極めて難しい。


まず撮影距離が短く、加えて被写界深度が浅すぎる。
遠距離撮影は本レンズの仕様上できないので、遠景の風景等を
撮って被写界深度を稼ぐ訳には行かない。
絞りを絞ってみても、近接撮影で露出倍数がかかっている事と
あいまって、手ブレ限界シャッター速度を簡単に下回るので
ISO感度を高める必要がある。

なお、Q7の場合、カメラ側に手ブレ補正機能は入ってはいるが、
屋外撮影では風等での被写体ブレのケースが遥かに多く、そして
近接撮影では手ブレ補正機能が効かない前後方向への撮影者ブレ
が多く、あまり役に立たない。

おまけにPENTAX QシリーズはMF性能に劣る為、こうしたマクロ
システムでの撮影は、上級者以上の高度な撮影技能を要求される。
あまりビギナー層や初級マニア層が出来る類のものでは無い。

勿論、この手のレンズは工場での生産ラインなどで、しっかり
距離や位置を固定して使うものである。その為、レンズには
絞り値や、ピントリング距離をロック定する為のクランプ式
ネジがついている。


本レンズによる野外マクロ撮影は、レンズ設計仕様からは
想定外の使用法である為、まあこれで一般写真を撮れる方が
奇跡的とも言えるだろう。

総括だが、今回紹介のマシンビジョン用レンズ群は、非常に
専門性の高い特殊用途レンズである、基本的には一般写真撮影
用途には全く向かない事は、重ねて述べておく。

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さて、今回の第1回記事「マシンビジョンレンズ特集」は
このあたり迄で、次回記事に続く・・


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