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レンズ・マニアックス(2)

新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回第2回目は、引き続き未紹介レンズを4本取りあげる。

まずは最初のシステム
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レンズは、Jupiter-37A 135mm/f3.5
(中古購入価格 8,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1970~1990年代頃のロシア(旧ソ連)製MF望遠レンズ。

ミラーレス第26回,ハイコスパ第24回記事で紹介した
Jupiter-9 85mm/f2の姉妹レンズであるが、セミレアで
あった為、購入したのは近年だ。

メーカー名が不明なのは、旧ソ連時代の共産主義では
メーカーといった概念は無く、国営の生産工場がいくつか
あったという感じで、かつ、その何処で生産されていたかは
時代によっても異なる模様で、実際には良くわからない。

Jupiter-9については、ツァイスのゾナーのデッドコピー品
だと言われていたのは、マニアの間ではあまりに有名な
話であり、それを所有している人も非常に多かった。
(注:実際には、Jupiter-9とゾナー85/2はレンズ構成が
異なっている)

本Jupiter-37Aについては、Carl Zeiss Jena(イエナ)の
Sonnar 135/3.5をベースにした、と言われているが
そのレンズもレアで私は未所有だし、本レンズのユーザーも
さほど多くは無い模様で、あまり詳しい情報が無い。
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本レンズはM42マウントである。それと、後期型が存在
している模様であり、型番等も変わりながら2000年頃迄
生産が続いた、と言われているが、ここも詳細は未確認だ。

それと「レンズ前部に書かれているシリアルナンバーの
上2桁が製造年だ」という情報もあり、それを信じるならば
本レンズの場合は83なので1983年製造であろう。

色々と出自が不明なレンズであるが、写りはどうか?

まず気になる弱点としては、逆光耐性が低く、フレアっぽい、
そして絶対的にコントラストが低い。これはカメラの設定や
PCによるレタッチで相当に補正しないとならないが
本シリーズ記事等では、レンズ本来の性能を紹介する為、
過度なレタッチは行わないようにしている。
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それと、ボケ質破綻が結構出る。これを回避するには様々な
技法の複合が必要だが、とりあえず有効な対処法として、
背景の絵柄を選ぶ事と、絞り値を複数変えてみる事がある。
この為、同一の被写体でも、その試行錯誤により撮影枚数や
撮影時間が増えてしまい、趣味的な撮影以外には用いる事が
出来ないが、まあ、それらはロシアンレンズであれば、
やむを得ない弱点ではある。

絞り機構がやや変わっていて、Jupiter-9のような
2重絞りプリセット型ではなく、Indastar 50-2等と同様の
連続可変絞り環が1つついているのみだ、しかし、これに
ついては使い難い事は無い。

他のプリセット型絞りレンズと同様に絞り羽根は十数枚と
かなり多い(注:だからと言ってボケ質が良くなる訳では
無い、木漏れ日等での光源ボケ形状が若干良いだけだ)

最短撮影距離は1.2mと、135mmレンズとしては標準的。
だが、今回使用のM42アダプターはヘリコイド式で最短を
短縮できるし、NEX-7のデジタルズーム機能の併用もあって、
あまり不満にはならない。

長所としては、ロシアンレンズ全般に言えるコスパの
良さである。ただし、その場合の「コスパ」においては、
絶対的に高い描写表現性能は期待できず、あくまで
「値段や出自の割りには、まあ良く写る」という程度だ。

まあ、概ねロシアンレンズの中古相場は、数千円程度
(5,000~9,000円迄)というのが妥当な線であろう。
ハイコスパ第19回記事等で紹介のロシアンレンズも、
だいたい、そのあたり迄の価格帯だ。
それ以上ともなると、逆にコスパは悪く感じる。

「カール・ツァイス製品と同じ設計だから写りが良い」
という事も、マニアックな意味で特徴ではあるのだが、
そもそもベースとしたその設計は、東西ドイツ分断前の
戦前の話だ、80年も前の古い設計をもって、良いと評価
するのも変な話であろう。むしろ、その事を言うならば
「戦前のオールド名レンズの雰囲気が安価に味わえる」
という方が正解であろう。

つまり、ロシアンレンズの本質がそこにある、決して
「名レンズ」と呼べるようなものでは無い点は十分に
理解しておく必要がある。
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実際にも、ミラーレス名玉編においては、300本以上の紹介
レンズ群の中で10数本ほどあったロシアン系レンズでは、
MIR-24(35mm/f2)の、ただ1本しかランクインしなかった。

ロシアンレンズの位置づけは、そんなものだと思って
良いと思う。そして、どのロシアンも使いこなしが難しく
かつ、仕様や固体差によって、カメラ本体への装着時に
も神経を使う(付かない、外れない等、危険性が高い)
よって、決して初級中級者向けのレンズではなく、
マニア向け(専用)である事は、重ねて述べておく。

---
さて、次のシステム
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レンズは、中一光学 FREEWALKER 20mm/f2
(新品購入価格 24,000円)
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-G6 (μ4/3機)

2017年発売の近接撮影専用超マクロレンズである。
「超」マクロと言うのは、本レンズの撮影倍率は4倍ないし
4.5倍もあるからだ。

この「撮影倍率」とは、元々は35mm判フィルム(36mmx24mm)
に対して、被写体が同じ大きさで写るレンズを「等倍」マクロと
呼んでいた訳であり、現代、様々なセンサーサイズのカメラが
ある状態では、何倍という言い方はそぐわなくなってきている。

そこで「撮影範囲」の考え方を使った方が分かり易いであろう。
つまり、何mmx何mmの被写体範囲が写るのか?という意味だ。
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DMC-G6で本レンズを使った場合、約4mmx3mmの範囲が写る。

・・まあ、ここまでで情報としては十分なのだが、
一応倍率に換算してみよう。
35mm判のフィルムに対して何倍に写るか?を計算するのだが、
このフィルムの縦横比は3:2で、μ4/3機は4:3と異なる。
長辺(横)で計算すると、36mm÷4mm=9倍
短辺(縦)で計算すると、25mm÷3mm=8倍

ここでは、レンズを4.5倍の指標に合わせてあるので、
長辺で換算すればちょうど計算が合う。
すなわちレンズ撮影倍率4.5倍xμ4/3拡大倍率2倍=9倍
となり、μ4/3機で本レンズを使う場合、フルサイズ換算で
およそ8~9倍の「超」マクロとなる。

さて、中一光学は中国のメーカーだ、近年では日本向けに
様々なMFレンズを輸出している。量販店等で新品購入する
事が出来るが、中古は殆ど流通していない。

私は中一光学製レンズは、他に3本所有していて、
Creator 85mm/f2(新品約22,000円)が紹介済みだ。
中国製とは言え、製品の作りは良く、画質も問題は無い、
そして安価である。
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で、本レンズには元となるレンズがある。1970年代頃の
OLYMPUS ZUIKO AUTO MACRO 20mm/f2だ、恐らくはそれの
デッドコピー品である。そのレンズは単体で約4.2倍の
撮影倍率があり、ベローズ(延長用鏡筒)を併用すると、
13倍以上の撮影倍率となり、もはや顕微鏡だ。

まあ、それもその筈、オリンパスは医療分野に強いメーカー
であるから、そのレンズも医療や学術目的に用いる
「顕微鏡的」な写真用レンズであったという事だ。

顕微鏡レンズであるから、それこそ学術的な用途にしか
使えないレンズだ。私も業務上で、ちょっとある物を拡大して
観察する必要があって、その為にこのレンズを購入した。

で、今回は「お遊び」として、このレンズを屋外に持ち出し、
何か撮ってみようと思った訳だ。

しかし、その目論見は見事に失敗。
まず、やはり撮影倍率が高すぎる、3mm程度の大きさの屋外の
被写体なんて、そもそも肉眼で見つけるのすら難しい。
花とかを、よ~く目を凝らしてみたら、非常に小さい虫が居た
とかそんな感じだし、昆虫を超拡大で撮るのも、ちょっと
気持ちが悪い(汗)

さらに、ピントが全く合わない。本レンズはピントリングが無く、
つまりカメラごと前後してピントを合わせるのだが、
被写界深度が極めて浅く、およそコンマ数mmしか無い。
そして、レンズ面からの撮影距離も短く、4~5mm位しか無い、
ちょっとでも近づきすぎると、ピントが合わないばかりか、
レンズの前面に花粉とかがべったりとついてしまう(汗)

ピントが合い難いので、では絞りを絞ったらどうか? 
このレンズは開放F2と書いてある、これは結構明るいのでは
ないか?
しかし、少しでも絞り込むとシャッター速度がやたら遅くなる、
昼間なのに感度をISO12800や25600まで上げないと、ブレて
しまって全く撮れないではないか!

これはどういう事か?というと「露出倍数」が掛かるのだ。
「露出倍数」とは近接撮影時にレンズを前へと繰り出すと、
見かけ上の開口径が狭くなり、F値(口径比)が落ちて
すなわち「暗くなる」という原理だ。この暗くなる度合いを
一般に「露出倍数」と呼ぶ(注:他の用語もあると思うし
この用語も別の意味で使われる場合もある。匠の写真用語
辞典シリーズ記事参照)

露出倍数の計算は(1+撮影倍率)x(1+撮影倍率)で求まる。
ここで撮影倍率を4.5倍とすれば、5.5x5.5=約30となる。
つまり、30倍もシャッター速度を遅くするか、または、
ISO感度を30倍も高めないと適正な露出値が得られないのだ。

実際に実験してみよう。試しに他の開放F2のレンズを使って、
ISO100で、ある明るさの被写体を撮ると1/50秒という値が出た。
本レンズに切り替える。F値は同じF2だ。ここで同じ1/50秒
のシャッター速度を得るようにISO感度を高めていくと、
ISO3200で同じとなった。感度が32倍なので、ほぼ計算通りだ。

つまり、本来ISO100で撮れるところを、本レンズでは
ISO3200で撮らなければならない。
あるいは、ちょっと暗い被写体とか、少し絞り込んで、
ISO800で撮るべき状況であれば、ISOを25600まで上げないと
ならない。本機DMC-G6の最大ISOは25600なので、もうこれで
精一杯だ。

じゃあ、近年のISO数十万という高感度カメラを使えば撮れる
のか? というと、まず無理であろう。いずれにしても
被写界深度が浅すぎて、そもそもピントが合わない。
それに屋外の被写体は微風でも常に揺れている。
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試し撮りを1000枚程行ったが、その中でピントが合って
いると思われるのは10枚程度だ、つまり、およそ99%は
失敗するという事だ(汗)

おまけに、ピントが合っていると言っても、平面被写体で
無い限り、被写界深度が約0.3mm程度しか無いので、
立体物では画面内のどこかに、チョロっとだけピントが
合っているに過ぎない。
まあつまり、本レンズでの屋外撮影は事実上不可能である。

顕微鏡方式で、カメラを何らかの台座に固定して上下に
微調整できるようなシステムで「屋内で、なんらかの固定
された平面被写体を大きく拡大して観察する」といった学術
研究に用いるような状況にしか、やはり使えなかったのだ。

勿論無限遠撮影も出来ないし、常に被写体はレンズ前方の
5mm程度の距離でしか撮れない。一般的なマクロレンズの
代用には決してならないので、購入する際にはご注意あれ。

---
さて、次のシステム
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レンズは、KENKO LENSBABY Twist 60mm/f2.5
(新品購入価格 39,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

SONY α7は、フルサイズ・ミラーレス機であるが
ここでフルサイズ機を使用するべき利点(メリット)を
システム性と撮影状況の選択という視点から簡単に
述べておく、すなわち、

1)超広角レンズ(概ね焦点距離が24mm以下)を使用する
 (本来の広角画角で広く撮影できる)

2)収差強調系のレンズを使用する
 具体的には、魚眼、シフト、ティルト、ぐるぐるボケ、
 周辺光量落ち、といったレンズ群である。
 これらは、センサーサイズが大きい場合に、その収差的
 な特徴も大きくなって、表現力面では効果的だ。

3)ポートレート用等の大口径中望遠レンズを使用する
 (例:85mm/f1.4 ボケ量が大きくなり、
  かつ人物撮影時の間合いも適正となる)

ここではテクニカルな要素(例:ピクセルピッチが大きく
なる為、Dレンジの向上や、オンチップ・システム化の設計
容易性(=付加機能の追加)、又は画素数増強が容易等)
の長所の紹介は省略している。

まあ、フルサイズ機が適切なケースは概ね上記であるが、
本Twist 60/2.5は、その「収差強調系」のレンズなので、
APS-Cやμ4/3機で使う場合よりもフルサイズが効果的だ。
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本レンズは「ぐるぐるボケ」レンズである、
ごく簡単に言えば、レンズ設計が古かったり、設計に
無理をしたり、廉価な製品とした場合等で、背景のボケが
ぐるぐる廻って見えるような汚いボケとなる事がある。

しかし、その特徴は現代のレンズでは殆ど見られない為
近年2010年代になって、LOMOとLENSBABYから、その特徴
(欠点)を強調した、一種のトイレンズ系の描写傾向を
持つレンズ群が数種類発売された。

ただ、トイレンズ系と言っても、基本的な描写力は
ユルいものではなく、ちゃんとしっかり解像力がある。
単に、ボケの出方が不思議な感じとなるだけである。
(本来、この設計は、「ペッツヴァール型」と言って、
百数十年も前から写真用レンズとして使われていた他、
近代においても、ボケ質が無関係な望遠鏡や顕微鏡の
分野で使われている設計を変更改良したものだ)

長所は勿論、この個性的なボケ質だ、被写体状況と
上手く組み合わせる事で幻想的なイメージによる表現力
を得る事ができる。

人物撮影にも向くと思われるが、そういう用途は、
依頼(業務)撮影である場合も多い。
そうした際に「ぐるぐるボケ」で遊んでいたら、依頼者
(クライアント)の意に沿わない場合も多々あるだろう、
下手をすると「ふざけるな!」と怒られる可能性もあり、
実質的には、依頼人物撮影にはリスキーで使用できない。

人物撮影でも、あくまで趣味撮影での範囲や、アート系の
表現、あるいは家族友人等の場合にしか使えないとは思う。
けど、そういうケースの撮影は一般ユーザー層においては
多いとは思うので、そのニーズまたは状況がある場合には、
人物撮影用にも十分使えると思う。
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本レンズは、トイレンズと言ってしまうほどには
ローファイ(ハイファイに対する、低描写力という意味)
ではなく、むしろ高画質という長所を持つ。

レンズ構成を上手く工夫して、背景ボケだけを特徴的に
出していて、他の描写性能を、さほど犠牲にしていない。
(補足すれば、レンズ設計上、球面収差の補正を主に行い、
像面湾曲と非点収差をあえて残す事で、画面中央部の
解像度は高いが、ぐるぐるボケが出る描写傾向となる)

弱点だが、まず高価な点がある、これについては
LOMO製品も同様で、本レンズよりさらに倍ほど高価だ。
(本数が売れない為、開発費の償却が厳しいのであろう)

マニアックかつ特殊用途なので、中古もまず出て来ない、
だから、欲しければ、新品で4万円近くもの価格を
甘んじで買うしか無い。
(LENS BABYコンポーザープロ系のオプティックとして
少し安価に購入可能だが、その場合、ティルトさせない
ようにして使うので少々使い難いかも)
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仕様だが、3群4枚構成、60mm/f2.5
絞り環はちゃんとついていて、最小F22まで可能だ。
絞り羽根は12枚と多いが、まあ、これはボケの形状を
問われる本レンズであれば当然のスペックであろう。

ちなみに、ペッツヴァール型という昔のレンズ構成を
用いれば、本レンズと同様な描写傾向となるが、その
レンズは2群4枚構成が基本形であり、本レンズの構成
とは若干異なる模様だ。

最短撮影距離は、WD(ワーキング・ディスタンス)表記
で約45cmと、悪くなく、むしろ優秀だ。

フィルターはφ46mmの物が装着可能であり、ボケ量を
最大に出そうとする本レンズの用途であれば、屋外では
ND4(開放F5相当になる)を使用する事で、シャッター
速度オーバー等の制約が無くなって良いであろう。
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後は、この個性的なボケ表現が受け入れられるか否か?
という点であろう、まあでも趣味撮影では何でも有りだ。

なお、LENS BABYからは「Trio28」という、3種類の
特殊効果を切り替える事ができるレンズも発売されていた。
購入時にはだいぶ迷ったが、TRIO 28は効果のかかり具合が
調整できないので、より本格的なTwist 60/2.5の方を
選択したのだが、TRIO 28の簡便さも捨てがたい。
機会があれば、そちらも入手したいレンズである。

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次は今回ラストのシステム、
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レンズは、SIGMA 50mm/f1.4 DG HSM | Art
(中古購入価格 72,000円)
カメラは、CANON EOS 7D (APS-C機)

2014年発売の大口径単焦点AF標準レンズ。
(以下A50/1.4)

SIGMAには同スペックで 50mm/f1.4 EX DG HSM(2008年)
が存在していたが、本レンズはその後継機とは言えず、
両者の製品コンセプトは時代背景を伴って、大きく異なる。
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2010年頃からのミラーレス機やスマホの台頭を原因とした
一眼レフ市場の縮退により、一眼レフメーカーのみならず
レンズメーカーもビジネスモデルの変革を迫られていた。

つまり、従来よりも製品販売数が少なくても、利益が維持
できる「高付加価値」構造にシフトしていかないと、
メーカーとしては儲からずに事業が維持できない。

付加価値とは、ユーザーから見れば、その商品を欲しいと
思う理由であり、メーカーから見れば、利益そのもの
であると言える。

その為、一眼レフ製品では、フルサイズ化、超高画素化、
超高感度化、ローパスレス化、連写性能の向上、WiFi、
動画性能の向上、エフェクト機能追加等の措置が図られた。
これらの新機能がユーザーには「付加価値」に見える訳だ。
(さらに、2018年秋からは、ミラーレス機の、各社一斉の
フルサイズ化戦略が始まった、これも又、同様な話である)

ただ、私から見ると、どれも「写真を撮る」という本質から
すると、過剰なまでの性能であり、必要性をあまり感じない
状況であった。

2010年以降の交換レンズ市場だが、こちらの方がカメラ
本体よりもむしろ深刻だ、仮にカメラ本体が売れなければ、
レンズの売り上げも大きく落ち込む、

レンズにおいては、超音波モーター搭載、手ブレ補正搭載、
大口径化、高画素化時代へ対応した解像力の向上、
動画撮影に対応した絞り環やクリック・ストップの廃止、
無限回転式ピントリングによるAF/MFのシームレス化、
マニアックな仕様の単焦点レンズのラインナップ、等が
あったのだが、その結果、レンズはかなり高価となった。
(これも、メーカーから見れば「利益確保」の手段だ)

まあ、それまで1990年代~2000年代は、ズームレンズの
全盛期であり、各社の単焦点レンズは新規開発に重きを
置かれておらず、下手をすれば1980年代の基本設計のまま
AF化しただけのレンズが、ずっと継続販売されていたに
過ぎない、これらはさすがに「古い」であろう。

各カメラメーカーでは、2010年頃よりエントリーレンズ
をリリースし、それをトリガーとして自社高性能レンズや
自社ボディの買い替えに繋げる「囲い込み戦略」を選んだ
のだが、レンズメーカーではそうはいかない。
エントリーレンズを売っても、次に繋げる自社製品が無い
からだ。

SIGMAにおいては、2013年頃よりレンズラインナップの
コンセプトを大幅に変更、それは3種類に絞られ、
Art=最高の光学性能、芸術的表現力
Contemporary=高い光学性能、コンパクトさ、広い汎用性
Sports=高い光学性能、動体追従性能、(主に超望遠域)

となった、これにより従来までの一般的な交換レンズは
全てカタログ落ち。一応、この戦略転換の直前に発売
されたミラーレス機用DC DNシリーズは、エントリーレンズ
的な位置づけで残され、ART Lineに組み込まれたが、ちょっと
中途半端な立ち位置である。(ただし、A19/2.8,A30/2.8,
A60/2.8のいずれも、コスパがとても良く、悪く無い)
で、上記にあげたような新機能、すなわち付加価値を重視した
ものにリプレイスされ、その結果、価格は大幅に上昇した。

この価格上昇傾向は、ユーザーから見れば好ましくない。
しかし、そうしないとメーカーが事業を維持できないので
あれば、そうなって行く時勢も、まあ、やむを得ない。
後は、個々のユーザーが、自身で、その価格と価値を
どう判断するか?結局それ次第であろう。

という事で、本レンズ A50/1.4である。
バリバリのSIGMA Artライン、それを代表する1本だ。
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本レンズは CANON EFマウントで購入した。
対応マウントは限られていて、EFの他、F,SA,α(A)
のみである、このあたりも近年の特徴で、レンズメーカー
製品であっても、あまり対応マウントを増やさない。
(注:かなり後年、2018年になってSONY Eマウント版が
追加された)

マウントを増やして、製造、流通や在庫管理等の効率を
悪くする事を避けているのかも知れない。
(注:本レンズでは有償のマウント交換サービスがある。
また、SONY E対応マウントアダプターとのセット販売品も
あった、マウントの問題へのメーカー側対応であろう。
が、それも、Eマウント版併売や、他社フルサイズミラーレス
機の新発売で、今後、どういう状態に変化するかは不明だ)

本A50/1.4は思い切って、手ブレ補正機能を廃している。
そのあたりの割り切りは「硬派」で潔く、本レンズの
購入動機の1つにもなっている。
(手ブレ補正機能は要らないから、同じ値段ならば、その分
高性能にしてくれ、という個人的ニーズ)

定価は税別127,000円と、最新の高付加価値型単焦点と
してはさほど高価では無いが、それでも大口径標準レンズ
としては破格だ、銀塩時代のそれらであれば、せいぜい
定価3万円程度という相場だ。

重量は極めて重い。815gは、これまでの同クラスの
AF標準レンズとしては恐らく最重量級であろう。
(注:本レンズのEマウント版はもっと重い)

例えば大柄だと思われる CONTAX N Planar 50mm/f1.4
(ミラーレス第9回,第50回記事)でも、およそ310gだ。
また、NIKON AF-S 58mm/f1.4G(未所有)も大柄だが
385gに留まる。
さらに大口径で大柄なCANON EF50mm/f1.2L USM
(未所有)でも、590gだ。

ただし、ごく最近では本レンズより重い標準も増えて
きていて、新鋭のPENTAX-D FA50/1.4は910g(未所有)
また、MF標準ではツァイスのOtus55/1.4が約1kg
(未所有) 同Milvus 50/1.4が約900gだ(後日紹介)
それと、TOKINAの新製品operaも重い模様だ(未調査)

8群13枚という、これまでに無い複雑なレンズ構成が
重さに関与しているのだと思われるが、まあ、従来の
標準レンズは変形ダブルガウス型ばかりであったので
この手の新しいレンズ構成は、マニアにとってみれば、
いったいどんな写りになるのか?と極めて興味深い。

最短撮影距離も、従来の50/1.4での45cmに対し40cmと、
やや短縮。これは好ましい。

例えば、同じSIGMAでは2000年代のAF24mm/f1.8の
最短撮影距離が18cmと驚異的な近接性能であった
(ミラーレス第32回、ハイコスパ第10回記事)のに対し、
2010年代でのA24mm/f1.4(未所有)は、半絞り明るくは
なったが、最短が25cmとスペックダウンしていた。

しかし、2010年代の50mm標準レンズでは、APS-C機専用
ではあるが、SONYのエントリーレンズ DT50mm/f1.8
(ミラーレス第67回、ハイコスパ第1回記事)が、
最短34cmと優秀であり、フルサイズ対応では、
CANON EF50mm/f1.8STM(未所有)が最短35cm
TAMRON SP45mm/f1.8(後日紹介)が最短29cmと驚異的。
・・と、そのように高い近接性能の標準レンズもいくつか
存在する為、本レンズの40cm程度では驚かなくなって
きている。

A50/1.4の描写性能だが、「さすが!」と諸手を挙げて
喜ぶという訳には、ちょっといかないようだ。

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確かに良くは写る、解像感は高いし、ボケ質も良く、
ボケ質破綻も起こり難く、逆光耐性も高い。
「だったら申し分無いではないか!」と、思うのは早計で
一応本シリーズ記事は、「ハイコスパ」というコンセプト
の補足編であるから、この定価14万円近くという高価格を、
性能に対してどう判断するかが肝となる。

細かい弱点を挙げれば、そもそも上記の高描写力は
感動的というレベルであるとは言いがたく、従来型の
標準レンズと僅かな差異のレベルの長所でしか無い。
そして、大きく重すぎるし、AFは遅いし、大口径なので
勿論ピント精度も出難い、無限回転式のピントリングは、
一応距離指標があるものの、MFでの操作性は良く無い。
フィルター径はφ77mmと大きく、保護用もND(減光)
フィルターも高価になってしまう。
レンズ自体も高価すぎて、過酷な撮影環境に持ち出し難い。
全体的にハンドリングが悪すぎて、多少描写力が良くても
「常用したい」とは、あまり思えないレンズである。

そういう点から、残念ながらコスパは良いとは言えない。
その最大の要因は50mm/f1.4というスペックにあるだろう
銀塩時代から50mm/f1.4レンズは、星の数ほど存在する、
ミラーレス・マニアックス記事でも、各メーカーの各時代
の50mm/f1.4級レンズを十数本紹介しているが、
それらは非常に安価(中には購入価格1000円の物も!)
ながら、大変良く写るレンズばかりである。

それら旧来の50mm/f1.4に比べ、確かに本A50/1.4は
総合的描写力においてアドバンテージがある、しかし
仕様は同じであり、その僅かの性能差の為に、数倍、いや
数十倍もの価格差を許容できるか否か?という事であろう。

ピクセルピッチの狭い超高画素機で使う場合には差が顕著
なのかも知れないが、それだけの画素数が必要なケースや
ユーザーも、さほど多くは無いと思う。
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まあ、「絶対性能が欲しい」というユーザーであれば
価格やハンドリングの悪さに目をつぶって買うのも良い、
しかし、それも勿論、撮影の用途によりけりであったり、
本レンズの絶対的な描写力が判定できるかどうか、と言う
「眼力」や「目利き」」にも依存する事である。
「値段が高いから良いレンズである」と単純に思い込むのは
絶対に禁物だ。
最終評価は、あくまでユーザー次第という事になると思う。

ただまあ、Art Line大口径のコンセプトは個人的には好みだ、
引き続き数本のArt Lineレンズを後日紹介予定である。

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さて、今回はこのあたりまでで、次回記事に続く。


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