現有の、銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
PENTAX Z-1(1991年)を紹介する。
なお、PENTAXのZシリーズ一眼レフは、1990年代前半を
通じて展開されていだ。ごく近年のNIKONミラーレス機
Zシリーズは、Z7,Z6など、型番にハイフンは入らない。
まあそろそろ、アルファベット1文字の型番も、空きが
無いので、各社ともネーミング戦略は悩ましいであろう。
もい、1文字ではなく長い型番名称としたら、今度は
商標を取得する必要性が出てくるなど、煩雑であろう。
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装着レンズは、かなり珍しい「魚眼ズームレンズ」の
smc PENTAX-F Fisheye zoom 17-28mm/f3.5-4.5
を使用する。(ミラーレス・マニアックス第4回記事)
近年、ニコンから円周魚眼から対角線魚眼までズーミング可能
というユニークなFisheye NIKKOR 8-15mm/f3.5-4.5E ED
が発売されたのだが、旧来の対角線魚眼ズームレンズとしては、
それ以前の時代では、本レンズおよび、
そのデジタル版のPENTAX-DA Fisheye 10-17mm/f3.5-4.5ED
と、TOKINA AT-X 107 DX Fisheye 10-17mm/f3.5-4.5
の3本しか存在していない。
そして、そもそもこれらの魚眼ズームは、その存在すら
あまり一般的には知られていない特殊レンズだろうと思う。
本レンズは銀塩機およびフルサイズ機でのみ対角線魚眼効果
が得られ、APS-C機では、ちょっと歪んだ広角レンズのような
描写しか得られない。まずはフルサイズ機のSONY α7を
実写「シミュレーター」として使用するが、記事後半では、
APS-C機でも用いてみよう。
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さて、本機Z-1が生まれた時代背景については、少し歴史を
振り返る必要がある。
他記事でも毎回のように述べている、初の実用的AF一眼レフ
ミノルタα-7000(1985年)の、いわゆる「αショック」に対し
PENTAXもAF化で追従しようとする。
PENTAX初の実用AF機は、SF X (1987年)である。
(注:試作機的なME-F 1981年は実用AF機と見なしていない)
αショックから、カメラをAF化し、僅か2年で発売にこぎつけた
ので、当時の技術者は夜も寝る暇がなかったかもしれない。
なお、シリーズ名のSFとは「Super Focus」の略との事だ。
ここで1つ重要な点だが、ミノルタとキヤノンは、AF化に際して
マウントを変更し、従来のMFマウント(MD,FD)とは互換性を
無くしたが、PENTAXは従来のKマウントのままAF化した
「KAfマウント」を採用、旧来のMFレンズも、そのまま使えた
事から、ユーザー利便性は、かなり高かった。
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KAfマウントは進化しながらも、現代に至るまで継続されて
おり、およそ45年近くも同一マウント形状を守っている。
他社では機能アップ等の名目で、簡単にマウントを変更して
しまう事も、これまでカメラの歴史の中で何度もあったのだが、
実際にカメラを購入して使うユーザーの立場からすると、
これまで必死にお金を貯めて購入してきたレンズ群が、一気に
全て使えなくなるのは、たまったものでは無い。
そして、マウントを変えずに守り続けるというのはシンプルな
話だが非常に大変な事だ。現在、一眼ではニコン(F)マウントと、
PENTAX(K)マウントが、それを継続しているが、他社がどんどん
新機能を新マウントで実現していくのを、なんとか旧マウントの
ままで改良して実現しなくてはならない、これは本当に大変だ。
しかし、ニコンもPENTAXも、小改良を長年繰り返してきた為に
同じマウント形状でも、使用に様々な制限のあるレンズは、
実の所いくらでもある。マニアであれば、その制限はある程度
承知していると思うが、初級中級層では、それを理解・把握
する事は大変難しい。
こういう事は、メーカー側からすれば「性能向上の為に
やっている事だ」と、大義名分があるのだと思うのだが、
実際には、何がどうなっているのか良く分からないユーザー層
が、交換レンズを買い控えするケースも増えており、その結果、
交換レンズが売れず、カメラ市場全体の縮退を引き起こし、
メーカー側は事業継続の為に、「高付加価値」という名の、
実際には不要な機能で高価になった製品を売らざるを得なくなり、
高すぎるそれらを買うユーザー層は、またそこで減るという
悪循環が発生している。
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少々脱線したが、PENTAXのAF一眼レフの歴史の話に戻る。
「SFシリーズ」は、その後、数機種を後継機としながら、
1980年代を通じて展開されたが、マニア受けがまったくしない
カメラ群だ、その最大の弱点はデザインの悪さだと思う。
従来のMFのペPENTAX機は、MX等は小型軽量でカメラらしい
格好良いデザインだったのが、SFシリーズの「近未来的」と
言えば聞こえは良いが、無骨なデザインは、マニア層には
とても不人気だ。
一般ユーザーへの販売が上手くいったかどうか?は、わからない、
しかし、このAF化への急激な戦略転換を要求された時代に、
例えばオリンパスは一眼レフのAF化で商業的に失敗、以降20年
近くも新規の一眼レフを発売しなかったのだから、PENTAXは、
まあ、SFシリーズで、なんとか生き延びた、という事であろう。
この時期のSFシリーズは、マルチモード化や一眼レフ初の
1/4000秒シャッターなど、どちらかと言えば数値的な
カタログスペックに重点を置かれて開発されていたと思う。
しかし、前述のようにマニアが興味を持つ要素はなく、
PENTAXとしても、どういうターゲット層に向けた商品を
展開するか迷っていた時期だろうと思われ、(他社も含め)
AF化に関連した急激なカメラの技術的進歩に翻弄されていた
時代であったようにも思える。
さて、そんな時代背景の中、PENTAXがSFシリーズの
次世代機として出した回答が、「Zシリーズ」である。
SFシリーズ最後のSF Xn(1988年)から3年の歳月を費やし、
1991年、旗艦 Z-1(本機)と中級機 Z-10が発売された。
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以降、Zシリーズは1995年まで展開されて、MZシリーズに
引き継がれるが、後年の話は、また別の記事に譲ろう。
本機Z-1の最大の特徴は「ハイパー操作系」の搭載である。
ハイパー操作系については、デジタル一眼レフ・クラッシックス
第6回記事PENTAX K10Dに、かなり詳しく紹介しているので
興味がある方は、そちらも参照されたし。
まあK10D(や、それ以降のPENTAXデジタル一眼)での
ハイパー操作系は、本機の物よりも相当進化しているので、
複雑であり、初級者には理解困難なものであるのだが、
本機Z-1においては、そこそこ単純だ。
具体的には、Z-1には、ハイパープログラム(HyP)と、
ハイパーマニュアル(HyM)の2モードしか搭載されていない。
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ハイパープログラム(以下HyP)だが、通常はプログラム露出
として動作するが、Z-1の前ダイヤルを廻すと瞬時にシャッター
優先(Tv)露出に切り替わり、後ダイヤルを廻すと、今度は
絞り優先(Av)に切り替わる、という便利なモードだ。
なお、この機能を用いるという事は、カメラの示す「プログラム
ライン」が気に入らない、という事態と等価である。
その点については、なんと、この時代から、ペンタックス・
ファンクション(PFと表記、後年のカスタム設定と同様)があり、
そこで、高速優先(絞りを開ける)、深度優先(絞り込む)
MTF優先(絞りをF5.6にする)の3種類が切り替えられるという
先進的な機能が搭載されていた(注:CONTAX 159MM 1985年に
プログラムライン変更機能は搭載済み、本シリーズ第12回記事)
HyPでシャッター速度や絞りの追従範囲外となると、自動的に
シャッター速度等がシフトする(1981年のマミヤZE-Xの
クロスオーバーシステム等に類似) この安全シフト機能も、
PF(カスタム設定)でON/OFFを選ぶ事が出来る。
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なお、絞りの変化幅は、PFで1/3段、1/2段を変更可能。
同様にシャッター速度も、PFで1段、1/2段を変更可能だ。
そして、HyPの追従範囲だが、本機Z-1はPENTAXで初めて
1/8000秒シャッターを搭載した機種であり、露出追従範囲は
当時のカメラとしては最高レベルであろう。この点については
現代のPENTAXデジタル一眼レフ中級機よりも本機が高性能だ。
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露出の件だが、ISO100のフィルムを使った場合、
例えば、日中晴天時の基本露出は以下のようになる。
絞りF11,シャッター速度1/250秒
これは快晴時(EV=15)であれば、日本中いや、世界のどこでも、
ほぼ全てで同じ露出値だ、勿論、レンズを換えても同じだ。
なお、雲のある晴天時では、一段低く、絞りF8で1/250秒
曇天時では、さらに1段低く、絞りF5.6で1/250秒。
雨天時等では、もう1段低く、絞りF4で1/250秒、程度で
各々露出が合うと思う。
それと、日陰とか、室内では、状況に応じてさらに絞りを
開ける必要がある。
この計算ではシャッター速度を固定にしているが、勿論
絞り値を同じとして、シャッター速度を変えても良い。
例えば、雲のある晴天時は、絞りF8で1/250秒と
書いたが、絞りF11で1/125秒でも同じ露出だ。
そして、これらの数値は、フィルムの箱に書いてあったり、
あるいは、「感度分の16」「Sunny Sixteen」等という
語呂合わせで暗記する事が出来るため、銀塩時代のマニアや
ベテラン層では、これらの数値を用いて「勘(かん)露出」
で、露出計が無かったり、露出計が壊れていたり、電池切れに
なった機械式カメラでも、撮影を継続する事ができた。
一見、便利な撮影技法だが、大きな弱点がある。
例えば、快晴時にISO100で、絞りF16で、1/125秒と覚えて
いたとしても、じゃあ、ISO400のフィルムで、絞りF2.8の
レンズを使うと、その時の必要シャッター速度はいくつか?
これの計算が瞬時に暗算で出来るカメラマンは誰も居なかった
に違い無い、よほどこの露出計算に精通していて、まるで
麻雀の点数を、全ての符(ふ)と翻(はん)で、速やかに計算
できる(または全て暗記している)ような人で無いと無理だ。
つまり「勘露出」方式では、写真を、だいたいの正しい露出で
撮る事は可能だが、絞り値を自由に変更して撮影するような
高度な撮影技法は、まず絶対に出来ないのだ。
銀塩時代末期、一部の若手のアート系アマチュア・カメラマンで
「格好良いから」と、わざと露出計を使わず、「勘露出」方式
で撮っていたような人達が居たが、私は、彼らのその行為を
基本的に無意味だと思っていた。「そんな撮り方では、絞りの
コントロールも出来ないぞ」という印象を持っていたからだ。
アート系と言うからには、絞り値やシャッター速度の綿密な
調整作業は、作品の表現面においては必須であろう・・
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さて、余談が長くなったが、元の快晴時の露出の話に戻る、
ここで上記の説明のように、レンズの絞りを開けていくと、
快晴時の同一光源であれば、光が入りすぎるので、当然、
シャッター速度を速めないとならない。
その場合の変化は、以下のようになる。
絞りF11,シャッター速度1/250秒
絞りF8,シャッター速度1/500秒
絞りF5.6,シャッター速度1/1000秒
MF時代の多くのカメラ(一眼やレンジ機)では性能上ここまでだ。
しかし、晴天時屋外で絞りをF5.6までしか開けられないのでは、
被写界深度をコントロール出来無い。
で、MF時代の高級一眼や、MF末期の中級一眼レフでは、
もう少し速いシャッター速度が使える。
絞りF4,シャッター速度1/2000秒
絞りF2.8,シャッター速度1/4000秒
まあ、ズームレンズであれば、F2.8が最大口径だったので
カメラの最高シャッター速度が1/4000秒あれば、ISO100で
露出オーバーにならずに撮れる。現代のデジタル一眼レフや
ミラーレス機でも高級機を除き、多くが1/4000秒止まり
なので、開放F2.8までのズームが相性が良い事であろう。
ただ、単焦点レンズは話が違う、単焦点ではF2.8級は
小口径も良いところであり、F1.4級などが標準レンズ等では
それが当たり前のように、いくらでも存在する。
さて、本機Z-1の1/8000秒シャッターを使うと、もう少しだけ
絞りを開けても大丈夫だ。
絞りF2,シャッター速度1/8000秒
でも残念ながらここまでだ、これ以上速い最高シャッター
速度を持つ銀塩機は、ミノルタα-9xi,同α-9の2機種のみ
であり、それらは1/12000秒が上限だ。
それらの機種ならば、もう半段絞りを開けられる。
絞りF1.7,シャッター速度1/12000秒
まあでも、完全快晴でなく、雲のある晴天時などでは、
絞りF1.4,シャッター速度1/8000秒
となるので、まあ、最高1/8000秒の本機Z-1では、
超快晴時以外は、F1.4の大口径レンズが、ほとんど問題なく
絞りを自由に設定できる事となる。
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さらに余談だが、1/8000秒シャッター搭載機は、
本機Z-1の発売(1991年)以前では、数える程しか存在しない、
具体的な機種名を上げれば、以下の通りだ。
NIKON F-801(1988年)史上初の1/8000秒機
NIKON F4(1988年)ニコン旗艦機初の1/8000秒機
CANON EOS-1/HS(1989年)キヤノン初の1/8000秒機
CONTAX RTS Ⅲ(1990年)京セラCONTAX初の1/8000秒機
MINOLTA α-8700i (1990年)ミノルタ初の1/8000秒機
MINOLTA α-7xi(1991年)
となる、なお、オリンパスでは、銀塩一眼で1/8000秒機は
存在しない、また、これら以外の他社のカメラでも、確か
1/8000秒機は、この時点(1991年)では無かったと
記憶している。
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余談が長くなったが、本題に戻って、この1/8000秒の
シャッター速度があれば、HyP(ハイパープログラム)時に
おいて、絞りをいくら開けてもシャッター速度が追従できる
可能性が高いという事になる。
後、HyP時にも露出補正が有効である、ただし露出補正をかける
には専用の「±ボタン」を押しながらでないとならない。
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この為、現代の一眼レフの2ダイヤル機で、一般的なプログラム
露出モードにおいて、例えば、前ダイヤルをプログラムシフト、
後ダイヤルを露出補正に割り振った場合よりも、むしろHyP
での操作性は悪化する。
ただし、銀塩時代においてネガフィルムを使う上では、露出補正
操作は、ラティチュードが広い為に、ほとんど不要であったので、
そういう意味では、このZ-1の操作系でも問題は無い。
で、HyPで前後ダイヤルを操作した後、通常のプログラムライン
に戻したい場合は、背面の「IFホタン」(現代のグリーンボタン
に相当)を押す。
参考だが、現代のPENTAX機で、ハイパープログラム等での
露出補正操作は、AUTO ISO設定の場合、ISO感度が変わる事で
露出補正の代用となる。(手動ISO設定の場合は、絞り値
またはシャッター速度が変わる)
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なお、HyPの他、通常のP(プログラム露出)も選択できるが、
そのモードにしても、前後ダイヤルをプログラムシフトや
露出補正に割り振る事はできず、この時代のPモードは
すなわち初級者向けの自動露出モードである。
それと、電源SWには、通常のON位置の他、緑色のグリーン・
ポジションがあり、これは完全自動モードであり、これを
選ぶと露出補正すら効かなくなる。
そして、シャッター優先露出は、Av露出モードでのTv優先を
選ぶのだが、本機にはシャッターダイヤルが無く、通常は
これはハイパープログラムで代用する事ができるので、
あまり用途が無いであろう。
絞り優先は、モード切り替えでも可能だが、装着レンズの
絞り環をA位置から外すと、自動的にAvモードとなる。
このあたりの操作系仕様は、むしろ現代のPENTAXデジタル
一眼レフよりも使い易い。
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HyM(ハイパーマニュアル)は、現代のPENTAXデジタル機での
同モードど同様で使い出がある。前後ダイヤルでシャッター速度
と絞り値を自由に変更するのだが、ただしこの時、露出メーター
がファインダー内にも液晶部にも無く、単に△、▽の表示で、
露出の過不足を示すだけなので非常にわかりにくい。
なので、この際には、IFボタンを押して適正露出値を呼び出す
方がわかりやすい、その際に、絞り値とシャッター速度の
どちらを基準値として利用するかは、PF(カスタム設定)で
変更する事ができる(これは現代のPENTAX機と同じ)
ただ、常に基準露出にするならば、M露出で使う意味が無い。
M露出は、露出シフトする際に、露出補正操作が不要な事が
メリットなのだ。
ちなみに、たいていのカメラ関係の説明では「M露出で自由に
露出が決めれる」といった解説が見られるが、それは大きな
誤りだ。現実にそんなデタラメな設定にしたら露出もバラバラに
なるのは当然の話だ、実際にやってみれば簡単にわかるだろう。
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また、近年のビギナーで「練習の為、マニュアルで撮る」と
言う人が結構居る、MFの練習をする事は悪い事では無いので、
「ふむふむ」と言って、カメラ設定を見ると、なんと、
MFではなく、M露出モードになっているではないか!
マニュアルフォーカスとマニュアル露出の区別がついて
いないのだ、いったい何処の誰に、そんな無意味な事を
教わったのだろう・・?
M露出+MFという風に設定しているビギナーも居て、
1枚写真を撮るのに、あれこれ余分な操作が多く、数分~十数分
という時間がかかってしまい、おまけにISO感度も含めた露出の
意味や原理も正しく理解していない為、ちゃんとした露出で
写真が撮れる事も滅多に無い。
勿体無い話である、それだけの時間があれば、100枚の写真を
撮って練習する事が出来るのに・・
同じような事をする可哀相なビギナー層がずいぶんど増えている。
露出の原理を正しく説明できず、ただただ「マニュアルで撮れ」
などと、非合理的な指導をするベテラン層が多数居ると
踏んでいるのだが・・
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余談が長くなった、マニュアル露出、特にHyM時の話だ。
まあ結局、HyMの利点を生かそうとすれば、IFで基準露出値を
呼び出してから、絞りとシャッターの組み合わせを多少変えて、
露出補正と同様の効果を得る事がHyMの正しい使い方だが、
この時にZ-1に、露出メーターが無い事が問題となる訳だ。
なお、ML(AEロックと等価)ボタンを押しながら前ダイヤル
を廻すことで、「マニュアルシフト」操作が可能となる。
これは基準露出値との差をキープ出しながら被写界深度等を
任意に変更できるので、便利なのだが、実のところは、
プログラムシフト+露出補正とあまり大きな差異は無い、
差があるとすれば、HyMであれば、絞り値なり、シャッター
速度なりを十分に意識しながら操作する事となり、それこそ
前述の「マニュアル(露出)で撮れ」の練習法での、1つの
正しい方法論となる。
物事の原理を理解せずに練習をしても意味が無い訳だ。
で、前記操作は、逆に、MLボタンを押しながら後ダイヤルを
廻すと、絞り値を基準としたマニュアルシフト操作となるが、
残念ながらこの操作は、ボタンを押す指が「ピアニスト」だ(汗)
つまり、出来ない訳では無いが、現実的では無い「操作性」に
なってしまう。
なお、難しい指使いが要求される件は、三脚を立てて両手で
カメラを操作すれば可能なのかも知れないが、もうこの時代は
手持ち撮影が主流だ。ましてや本機Z-1は、1/8000秒搭載機
である、高速シャッターを自由に使える最大の特徴を、三脚の
使用で殺してしまったら全く意味が無い。
細かい課題はあるが、いずれにしても、露出モード数が少なくて、
露出メーター無しという弱点の他は、さほど悪い操作系では無い。
これは現代の機種の仕様にも通じる完全な「ハイパー操作系」
である。だが、最大の問題点としては1990年代のユーザー層では、
ごくごく一部の上級者を除き、残念ながらこれの原理や利点を
理解できる人は居なかった事であろう。
それほど先進的なシステムな訳だし、逆に言えば、当時の
(又は現代でも同じ)ユーザー層の写真(露出)に関する知識
レベルとは、かけ離れた概念だ、つまり初級中級者から見れば、
高度すぎて、さっぱり意味がわからない機能だ。
事実、Zシリーズに続くMZシリーズ(1995年~)では、
この「ハイパー操作系」は廃止され、より安易な操作系に
ダウングレードされた。
まあ、そのあたりは、何回か後の本シリーズ記事で紹介する。
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さて、ハイパー操作系はそんなものだが、本機Z-1には他にも
沢山の高度な機能が含まれている。PF、すなわちカスタム設定が
その代表的なものであるが、これは現代のカメラと特に変わる
ものでは無い、ただ、この時代としてはかなり先進的である。
少ないダイヤル数で多機能を実現する為、本機Z-1には
特徴的なモードダイヤルとモードセットボタンが存在する、
モードダイヤル+前後ダイヤルで機能を選択する操作系に
ついては、近年のPENTAX KPでも、その例が見られる。
こちらが、そのKP(2017年)のダイヤルだ。
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以降、シミュレーター機を、α7からPENTAX KPに変更する、
KPは、フルサイズ機では無くAPS-C機であるが、超多機能
なKPの元祖となったカメラが、本機Z-1であるから、
KPをシミュレーター機として使う事は適切だと思う。
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まあしかし、APS-C機で魚眼ズームは、やや歪んだ広角に
しかならないので、若干面白味に欠けるが、まあ、これは
これで、実は奥が深い。
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この画面の歪み方は、構図の決め方と密接な関係があり、
具体的には画面中心点から放射状に伸びる直線上の被写体は
歪む事がなく、このラインに乗らない被写体は歪んで見える、
だから、構図の工夫をする事で、被写体を歪ませたり、歪ませ
ないように写す事が可能だ。
これは、ビギナーが「日の丸構図」だとか「三分割」だとか
「S字構図」とかいった、あまり具体性の無い「構図の一般論」
の勉強をするよりも、はるかに役に立つ練習手法だ。
ただ、実際にやってみると、かなり高度なので、メゲるかも
知れないが・・
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さて、ここで本機Z-1の仕様(基本性能)について述べておく、
以下は、Z-1の基本スペックである
最高シャッター速度1/8000秒
1点AF、ただし動体予測(SERVO)可能
ドライブ性能は、連続時に秒3コマ
カスタム設定(ペンタクックス・ファンクション)18項目可
フラッシュ内蔵(GNは14)
シンクロ速度1/250秒、日中シンクロ等のモード有り
ハイパープログラム、ハイパーマニュアル有り
測光 8分割測光、中央重点(PFでスポット測光切り替え可)
データバック標準装備(CR2025使用)
ホットシュー カメラ右上部に有り(注:やや使い難い)
絞込みプレビューボタン有り(注:機械絞り込みで重い)
電源、2CR5 1個
本体重量 650g(注:やや重い)
発売時定価:99,000円(税抜き)
高機能で、まぎれもなくPENTAXのフラッグシップ機である、
後年パノラマ対応のZ-1P(1994年)となったが、基本仕様に
大きな変更は無い(注:露出メーターが付いた)
スペック的には、やはり目をひくのが、ハイパー操作系の
第一号機であった事と、1/8000秒シャッター、そして、
フラッグシップながらフラッシュ(ストロボ)を内蔵して
いる事だ、銀塩旗艦でフラッシュ内蔵は本機とミノルタα-9
しか無かったと記憶している。
本機Z-1の使用可能レンズとしては、パワーズーム等の
FAレンズ(KAf2レンズ)も装着できる。
MFでは、現代のPENTAXデジタル機のように、MやKのレンズが
使い難い事もなく、この時代のカメラの方がむしろレンズ
互換性が高く感じる。
最大の弱点は、全般的な高機能化は、この時代であれば
「難解である」という評価に繋がっていたかも知れない点だ。
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さて、最後に本機Z-1の総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)
-----
PENTAX Z-1 (1991年)
【基本・付加性能】★★★★
【操作性・操作系】★★★★
【ファインダー 】★★
【感触性能全般 】★★☆
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★★ (中古購入価格:30,000円)
【完成度(当時)】★★★☆
【歴史的価値 】★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
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【総合点(平均)】3.2点
意外、と言っては失礼かも知れないが、思っていたよりも
ずっと好評価点だ、まさか平均値3点を上回るとは予想して
いなかったのだ・・
というのも、個人的にはあまり好きでは無いカメラだからだ。
カスタム設定などが色々できるのは良いが、メニューでは無く
上部液晶表示で全てを行い、ファインダー内も簡素なLED表示
しか無い、つまり、使い難いのだ。
まあ、この時代であれば、それらはやむを得ないが、基本的に
機能肥大機であるから「操作系」としての弱点となってしまう。
もっとも、現代のデジタル一眼のように、頻繁にカメラ設定を
変える事は。銀塩カメラの場合は不要であり、カスタム設定は
最初に一度行えば良い程度なので、これでも問題は無いと思う。
しかも、撮影時に必要な操作系は、大変よくまとめられている
ので、操作性・操作系の評価点は、平均値を上回わる。
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基本性能は高く、独自性が強い為、マニアック度も高い。
ただし、デザインは格好良いとは言いがたく、マニア的には
あまり外に持ち出したく無い(笑)カメラだ。
まあでも、全体的な完成度は高いと思う。
初の「ハイパー操作系」搭載機、そしてPENTAX初の本格的な
AFフラッグシップ機として、本機Z-1の歴史的価値は高い。
次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
PENTAX Z-1(1991年)を紹介する。
なお、PENTAXのZシリーズ一眼レフは、1990年代前半を
通じて展開されていだ。ごく近年のNIKONミラーレス機
Zシリーズは、Z7,Z6など、型番にハイフンは入らない。
まあそろそろ、アルファベット1文字の型番も、空きが
無いので、各社ともネーミング戦略は悩ましいであろう。
もい、1文字ではなく長い型番名称としたら、今度は
商標を取得する必要性が出てくるなど、煩雑であろう。
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smc PENTAX-F Fisheye zoom 17-28mm/f3.5-4.5
を使用する。(ミラーレス・マニアックス第4回記事)
近年、ニコンから円周魚眼から対角線魚眼までズーミング可能
というユニークなFisheye NIKKOR 8-15mm/f3.5-4.5E ED
が発売されたのだが、旧来の対角線魚眼ズームレンズとしては、
それ以前の時代では、本レンズおよび、
そのデジタル版のPENTAX-DA Fisheye 10-17mm/f3.5-4.5ED
と、TOKINA AT-X 107 DX Fisheye 10-17mm/f3.5-4.5
の3本しか存在していない。
そして、そもそもこれらの魚眼ズームは、その存在すら
あまり一般的には知られていない特殊レンズだろうと思う。
本レンズは銀塩機およびフルサイズ機でのみ対角線魚眼効果
が得られ、APS-C機では、ちょっと歪んだ広角レンズのような
描写しか得られない。まずはフルサイズ機のSONY α7を
実写「シミュレーター」として使用するが、記事後半では、
APS-C機でも用いてみよう。
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振り返る必要がある。
他記事でも毎回のように述べている、初の実用的AF一眼レフ
ミノルタα-7000(1985年)の、いわゆる「αショック」に対し
PENTAXもAF化で追従しようとする。
PENTAX初の実用AF機は、SF X (1987年)である。
(注:試作機的なME-F 1981年は実用AF機と見なしていない)
αショックから、カメラをAF化し、僅か2年で発売にこぎつけた
ので、当時の技術者は夜も寝る暇がなかったかもしれない。
なお、シリーズ名のSFとは「Super Focus」の略との事だ。
ここで1つ重要な点だが、ミノルタとキヤノンは、AF化に際して
マウントを変更し、従来のMFマウント(MD,FD)とは互換性を
無くしたが、PENTAXは従来のKマウントのままAF化した
「KAfマウント」を採用、旧来のMFレンズも、そのまま使えた
事から、ユーザー利便性は、かなり高かった。
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おり、およそ45年近くも同一マウント形状を守っている。
他社では機能アップ等の名目で、簡単にマウントを変更して
しまう事も、これまでカメラの歴史の中で何度もあったのだが、
実際にカメラを購入して使うユーザーの立場からすると、
これまで必死にお金を貯めて購入してきたレンズ群が、一気に
全て使えなくなるのは、たまったものでは無い。
そして、マウントを変えずに守り続けるというのはシンプルな
話だが非常に大変な事だ。現在、一眼ではニコン(F)マウントと、
PENTAX(K)マウントが、それを継続しているが、他社がどんどん
新機能を新マウントで実現していくのを、なんとか旧マウントの
ままで改良して実現しなくてはならない、これは本当に大変だ。
しかし、ニコンもPENTAXも、小改良を長年繰り返してきた為に
同じマウント形状でも、使用に様々な制限のあるレンズは、
実の所いくらでもある。マニアであれば、その制限はある程度
承知していると思うが、初級中級層では、それを理解・把握
する事は大変難しい。
こういう事は、メーカー側からすれば「性能向上の為に
やっている事だ」と、大義名分があるのだと思うのだが、
実際には、何がどうなっているのか良く分からないユーザー層
が、交換レンズを買い控えするケースも増えており、その結果、
交換レンズが売れず、カメラ市場全体の縮退を引き起こし、
メーカー側は事業継続の為に、「高付加価値」という名の、
実際には不要な機能で高価になった製品を売らざるを得なくなり、
高すぎるそれらを買うユーザー層は、またそこで減るという
悪循環が発生している。
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「SFシリーズ」は、その後、数機種を後継機としながら、
1980年代を通じて展開されたが、マニア受けがまったくしない
カメラ群だ、その最大の弱点はデザインの悪さだと思う。
従来のMFのペPENTAX機は、MX等は小型軽量でカメラらしい
格好良いデザインだったのが、SFシリーズの「近未来的」と
言えば聞こえは良いが、無骨なデザインは、マニア層には
とても不人気だ。
一般ユーザーへの販売が上手くいったかどうか?は、わからない、
しかし、このAF化への急激な戦略転換を要求された時代に、
例えばオリンパスは一眼レフのAF化で商業的に失敗、以降20年
近くも新規の一眼レフを発売しなかったのだから、PENTAXは、
まあ、SFシリーズで、なんとか生き延びた、という事であろう。
この時期のSFシリーズは、マルチモード化や一眼レフ初の
1/4000秒シャッターなど、どちらかと言えば数値的な
カタログスペックに重点を置かれて開発されていたと思う。
しかし、前述のようにマニアが興味を持つ要素はなく、
PENTAXとしても、どういうターゲット層に向けた商品を
展開するか迷っていた時期だろうと思われ、(他社も含め)
AF化に関連した急激なカメラの技術的進歩に翻弄されていた
時代であったようにも思える。
さて、そんな時代背景の中、PENTAXがSFシリーズの
次世代機として出した回答が、「Zシリーズ」である。
SFシリーズ最後のSF Xn(1988年)から3年の歳月を費やし、
1991年、旗艦 Z-1(本機)と中級機 Z-10が発売された。
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引き継がれるが、後年の話は、また別の記事に譲ろう。
本機Z-1の最大の特徴は「ハイパー操作系」の搭載である。
ハイパー操作系については、デジタル一眼レフ・クラッシックス
第6回記事PENTAX K10Dに、かなり詳しく紹介しているので
興味がある方は、そちらも参照されたし。
まあK10D(や、それ以降のPENTAXデジタル一眼)での
ハイパー操作系は、本機の物よりも相当進化しているので、
複雑であり、初級者には理解困難なものであるのだが、
本機Z-1においては、そこそこ単純だ。
具体的には、Z-1には、ハイパープログラム(HyP)と、
ハイパーマニュアル(HyM)の2モードしか搭載されていない。
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として動作するが、Z-1の前ダイヤルを廻すと瞬時にシャッター
優先(Tv)露出に切り替わり、後ダイヤルを廻すと、今度は
絞り優先(Av)に切り替わる、という便利なモードだ。
なお、この機能を用いるという事は、カメラの示す「プログラム
ライン」が気に入らない、という事態と等価である。
その点については、なんと、この時代から、ペンタックス・
ファンクション(PFと表記、後年のカスタム設定と同様)があり、
そこで、高速優先(絞りを開ける)、深度優先(絞り込む)
MTF優先(絞りをF5.6にする)の3種類が切り替えられるという
先進的な機能が搭載されていた(注:CONTAX 159MM 1985年に
プログラムライン変更機能は搭載済み、本シリーズ第12回記事)
HyPでシャッター速度や絞りの追従範囲外となると、自動的に
シャッター速度等がシフトする(1981年のマミヤZE-Xの
クロスオーバーシステム等に類似) この安全シフト機能も、
PF(カスタム設定)でON/OFFを選ぶ事が出来る。
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同様にシャッター速度も、PFで1段、1/2段を変更可能だ。
そして、HyPの追従範囲だが、本機Z-1はPENTAXで初めて
1/8000秒シャッターを搭載した機種であり、露出追従範囲は
当時のカメラとしては最高レベルであろう。この点については
現代のPENTAXデジタル一眼レフ中級機よりも本機が高性能だ。
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例えば、日中晴天時の基本露出は以下のようになる。
絞りF11,シャッター速度1/250秒
これは快晴時(EV=15)であれば、日本中いや、世界のどこでも、
ほぼ全てで同じ露出値だ、勿論、レンズを換えても同じだ。
なお、雲のある晴天時では、一段低く、絞りF8で1/250秒
曇天時では、さらに1段低く、絞りF5.6で1/250秒。
雨天時等では、もう1段低く、絞りF4で1/250秒、程度で
各々露出が合うと思う。
それと、日陰とか、室内では、状況に応じてさらに絞りを
開ける必要がある。
この計算ではシャッター速度を固定にしているが、勿論
絞り値を同じとして、シャッター速度を変えても良い。
例えば、雲のある晴天時は、絞りF8で1/250秒と
書いたが、絞りF11で1/125秒でも同じ露出だ。
そして、これらの数値は、フィルムの箱に書いてあったり、
あるいは、「感度分の16」「Sunny Sixteen」等という
語呂合わせで暗記する事が出来るため、銀塩時代のマニアや
ベテラン層では、これらの数値を用いて「勘(かん)露出」
で、露出計が無かったり、露出計が壊れていたり、電池切れに
なった機械式カメラでも、撮影を継続する事ができた。
一見、便利な撮影技法だが、大きな弱点がある。
例えば、快晴時にISO100で、絞りF16で、1/125秒と覚えて
いたとしても、じゃあ、ISO400のフィルムで、絞りF2.8の
レンズを使うと、その時の必要シャッター速度はいくつか?
これの計算が瞬時に暗算で出来るカメラマンは誰も居なかった
に違い無い、よほどこの露出計算に精通していて、まるで
麻雀の点数を、全ての符(ふ)と翻(はん)で、速やかに計算
できる(または全て暗記している)ような人で無いと無理だ。
つまり「勘露出」方式では、写真を、だいたいの正しい露出で
撮る事は可能だが、絞り値を自由に変更して撮影するような
高度な撮影技法は、まず絶対に出来ないのだ。
銀塩時代末期、一部の若手のアート系アマチュア・カメラマンで
「格好良いから」と、わざと露出計を使わず、「勘露出」方式
で撮っていたような人達が居たが、私は、彼らのその行為を
基本的に無意味だと思っていた。「そんな撮り方では、絞りの
コントロールも出来ないぞ」という印象を持っていたからだ。
アート系と言うからには、絞り値やシャッター速度の綿密な
調整作業は、作品の表現面においては必須であろう・・
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ここで上記の説明のように、レンズの絞りを開けていくと、
快晴時の同一光源であれば、光が入りすぎるので、当然、
シャッター速度を速めないとならない。
その場合の変化は、以下のようになる。
絞りF11,シャッター速度1/250秒
絞りF8,シャッター速度1/500秒
絞りF5.6,シャッター速度1/1000秒
MF時代の多くのカメラ(一眼やレンジ機)では性能上ここまでだ。
しかし、晴天時屋外で絞りをF5.6までしか開けられないのでは、
被写界深度をコントロール出来無い。
で、MF時代の高級一眼や、MF末期の中級一眼レフでは、
もう少し速いシャッター速度が使える。
絞りF4,シャッター速度1/2000秒
絞りF2.8,シャッター速度1/4000秒
まあ、ズームレンズであれば、F2.8が最大口径だったので
カメラの最高シャッター速度が1/4000秒あれば、ISO100で
露出オーバーにならずに撮れる。現代のデジタル一眼レフや
ミラーレス機でも高級機を除き、多くが1/4000秒止まり
なので、開放F2.8までのズームが相性が良い事であろう。
ただ、単焦点レンズは話が違う、単焦点ではF2.8級は
小口径も良いところであり、F1.4級などが標準レンズ等では
それが当たり前のように、いくらでも存在する。
さて、本機Z-1の1/8000秒シャッターを使うと、もう少しだけ
絞りを開けても大丈夫だ。
絞りF2,シャッター速度1/8000秒
でも残念ながらここまでだ、これ以上速い最高シャッター
速度を持つ銀塩機は、ミノルタα-9xi,同α-9の2機種のみ
であり、それらは1/12000秒が上限だ。
それらの機種ならば、もう半段絞りを開けられる。
絞りF1.7,シャッター速度1/12000秒
まあでも、完全快晴でなく、雲のある晴天時などでは、
絞りF1.4,シャッター速度1/8000秒
となるので、まあ、最高1/8000秒の本機Z-1では、
超快晴時以外は、F1.4の大口径レンズが、ほとんど問題なく
絞りを自由に設定できる事となる。
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本機Z-1の発売(1991年)以前では、数える程しか存在しない、
具体的な機種名を上げれば、以下の通りだ。
NIKON F-801(1988年)史上初の1/8000秒機
NIKON F4(1988年)ニコン旗艦機初の1/8000秒機
CANON EOS-1/HS(1989年)キヤノン初の1/8000秒機
CONTAX RTS Ⅲ(1990年)京セラCONTAX初の1/8000秒機
MINOLTA α-8700i (1990年)ミノルタ初の1/8000秒機
MINOLTA α-7xi(1991年)
となる、なお、オリンパスでは、銀塩一眼で1/8000秒機は
存在しない、また、これら以外の他社のカメラでも、確か
1/8000秒機は、この時点(1991年)では無かったと
記憶している。
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シャッター速度があれば、HyP(ハイパープログラム)時に
おいて、絞りをいくら開けてもシャッター速度が追従できる
可能性が高いという事になる。
後、HyP時にも露出補正が有効である、ただし露出補正をかける
には専用の「±ボタン」を押しながらでないとならない。
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露出モードにおいて、例えば、前ダイヤルをプログラムシフト、
後ダイヤルを露出補正に割り振った場合よりも、むしろHyP
での操作性は悪化する。
ただし、銀塩時代においてネガフィルムを使う上では、露出補正
操作は、ラティチュードが広い為に、ほとんど不要であったので、
そういう意味では、このZ-1の操作系でも問題は無い。
で、HyPで前後ダイヤルを操作した後、通常のプログラムライン
に戻したい場合は、背面の「IFホタン」(現代のグリーンボタン
に相当)を押す。
参考だが、現代のPENTAX機で、ハイパープログラム等での
露出補正操作は、AUTO ISO設定の場合、ISO感度が変わる事で
露出補正の代用となる。(手動ISO設定の場合は、絞り値
またはシャッター速度が変わる)
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そのモードにしても、前後ダイヤルをプログラムシフトや
露出補正に割り振る事はできず、この時代のPモードは
すなわち初級者向けの自動露出モードである。
それと、電源SWには、通常のON位置の他、緑色のグリーン・
ポジションがあり、これは完全自動モードであり、これを
選ぶと露出補正すら効かなくなる。
そして、シャッター優先露出は、Av露出モードでのTv優先を
選ぶのだが、本機にはシャッターダイヤルが無く、通常は
これはハイパープログラムで代用する事ができるので、
あまり用途が無いであろう。
絞り優先は、モード切り替えでも可能だが、装着レンズの
絞り環をA位置から外すと、自動的にAvモードとなる。
このあたりの操作系仕様は、むしろ現代のPENTAXデジタル
一眼レフよりも使い易い。
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同モードど同様で使い出がある。前後ダイヤルでシャッター速度
と絞り値を自由に変更するのだが、ただしこの時、露出メーター
がファインダー内にも液晶部にも無く、単に△、▽の表示で、
露出の過不足を示すだけなので非常にわかりにくい。
なので、この際には、IFボタンを押して適正露出値を呼び出す
方がわかりやすい、その際に、絞り値とシャッター速度の
どちらを基準値として利用するかは、PF(カスタム設定)で
変更する事ができる(これは現代のPENTAX機と同じ)
ただ、常に基準露出にするならば、M露出で使う意味が無い。
M露出は、露出シフトする際に、露出補正操作が不要な事が
メリットなのだ。
ちなみに、たいていのカメラ関係の説明では「M露出で自由に
露出が決めれる」といった解説が見られるが、それは大きな
誤りだ。現実にそんなデタラメな設定にしたら露出もバラバラに
なるのは当然の話だ、実際にやってみれば簡単にわかるだろう。
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言う人が結構居る、MFの練習をする事は悪い事では無いので、
「ふむふむ」と言って、カメラ設定を見ると、なんと、
MFではなく、M露出モードになっているではないか!
マニュアルフォーカスとマニュアル露出の区別がついて
いないのだ、いったい何処の誰に、そんな無意味な事を
教わったのだろう・・?
M露出+MFという風に設定しているビギナーも居て、
1枚写真を撮るのに、あれこれ余分な操作が多く、数分~十数分
という時間がかかってしまい、おまけにISO感度も含めた露出の
意味や原理も正しく理解していない為、ちゃんとした露出で
写真が撮れる事も滅多に無い。
勿体無い話である、それだけの時間があれば、100枚の写真を
撮って練習する事が出来るのに・・
同じような事をする可哀相なビギナー層がずいぶんど増えている。
露出の原理を正しく説明できず、ただただ「マニュアルで撮れ」
などと、非合理的な指導をするベテラン層が多数居ると
踏んでいるのだが・・
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まあ結局、HyMの利点を生かそうとすれば、IFで基準露出値を
呼び出してから、絞りとシャッターの組み合わせを多少変えて、
露出補正と同様の効果を得る事がHyMの正しい使い方だが、
この時にZ-1に、露出メーターが無い事が問題となる訳だ。
なお、ML(AEロックと等価)ボタンを押しながら前ダイヤル
を廻すことで、「マニュアルシフト」操作が可能となる。
これは基準露出値との差をキープ出しながら被写界深度等を
任意に変更できるので、便利なのだが、実のところは、
プログラムシフト+露出補正とあまり大きな差異は無い、
差があるとすれば、HyMであれば、絞り値なり、シャッター
速度なりを十分に意識しながら操作する事となり、それこそ
前述の「マニュアル(露出)で撮れ」の練習法での、1つの
正しい方法論となる。
物事の原理を理解せずに練習をしても意味が無い訳だ。
で、前記操作は、逆に、MLボタンを押しながら後ダイヤルを
廻すと、絞り値を基準としたマニュアルシフト操作となるが、
残念ながらこの操作は、ボタンを押す指が「ピアニスト」だ(汗)
つまり、出来ない訳では無いが、現実的では無い「操作性」に
なってしまう。
なお、難しい指使いが要求される件は、三脚を立てて両手で
カメラを操作すれば可能なのかも知れないが、もうこの時代は
手持ち撮影が主流だ。ましてや本機Z-1は、1/8000秒搭載機
である、高速シャッターを自由に使える最大の特徴を、三脚の
使用で殺してしまったら全く意味が無い。
細かい課題はあるが、いずれにしても、露出モード数が少なくて、
露出メーター無しという弱点の他は、さほど悪い操作系では無い。
これは現代の機種の仕様にも通じる完全な「ハイパー操作系」
である。だが、最大の問題点としては1990年代のユーザー層では、
ごくごく一部の上級者を除き、残念ながらこれの原理や利点を
理解できる人は居なかった事であろう。
それほど先進的なシステムな訳だし、逆に言えば、当時の
(又は現代でも同じ)ユーザー層の写真(露出)に関する知識
レベルとは、かけ離れた概念だ、つまり初級中級者から見れば、
高度すぎて、さっぱり意味がわからない機能だ。
事実、Zシリーズに続くMZシリーズ(1995年~)では、
この「ハイパー操作系」は廃止され、より安易な操作系に
ダウングレードされた。
まあ、そのあたりは、何回か後の本シリーズ記事で紹介する。
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沢山の高度な機能が含まれている。PF、すなわちカスタム設定が
その代表的なものであるが、これは現代のカメラと特に変わる
ものでは無い、ただ、この時代としてはかなり先進的である。
少ないダイヤル数で多機能を実現する為、本機Z-1には
特徴的なモードダイヤルとモードセットボタンが存在する、
モードダイヤル+前後ダイヤルで機能を選択する操作系に
ついては、近年のPENTAX KPでも、その例が見られる。
こちらが、そのKP(2017年)のダイヤルだ。
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KPは、フルサイズ機では無くAPS-C機であるが、超多機能
なKPの元祖となったカメラが、本機Z-1であるから、
KPをシミュレーター機として使う事は適切だと思う。
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しかならないので、若干面白味に欠けるが、まあ、これは
これで、実は奥が深い。
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具体的には画面中心点から放射状に伸びる直線上の被写体は
歪む事がなく、このラインに乗らない被写体は歪んで見える、
だから、構図の工夫をする事で、被写体を歪ませたり、歪ませ
ないように写す事が可能だ。
これは、ビギナーが「日の丸構図」だとか「三分割」だとか
「S字構図」とかいった、あまり具体性の無い「構図の一般論」
の勉強をするよりも、はるかに役に立つ練習手法だ。
ただ、実際にやってみると、かなり高度なので、メゲるかも
知れないが・・
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以下は、Z-1の基本スペックである
最高シャッター速度1/8000秒
1点AF、ただし動体予測(SERVO)可能
ドライブ性能は、連続時に秒3コマ
カスタム設定(ペンタクックス・ファンクション)18項目可
フラッシュ内蔵(GNは14)
シンクロ速度1/250秒、日中シンクロ等のモード有り
ハイパープログラム、ハイパーマニュアル有り
測光 8分割測光、中央重点(PFでスポット測光切り替え可)
データバック標準装備(CR2025使用)
ホットシュー カメラ右上部に有り(注:やや使い難い)
絞込みプレビューボタン有り(注:機械絞り込みで重い)
電源、2CR5 1個
本体重量 650g(注:やや重い)
発売時定価:99,000円(税抜き)
高機能で、まぎれもなくPENTAXのフラッグシップ機である、
後年パノラマ対応のZ-1P(1994年)となったが、基本仕様に
大きな変更は無い(注:露出メーターが付いた)
スペック的には、やはり目をひくのが、ハイパー操作系の
第一号機であった事と、1/8000秒シャッター、そして、
フラッグシップながらフラッシュ(ストロボ)を内蔵して
いる事だ、銀塩旗艦でフラッシュ内蔵は本機とミノルタα-9
しか無かったと記憶している。
本機Z-1の使用可能レンズとしては、パワーズーム等の
FAレンズ(KAf2レンズ)も装着できる。
MFでは、現代のPENTAXデジタル機のように、MやKのレンズが
使い難い事もなく、この時代のカメラの方がむしろレンズ
互換性が高く感じる。
最大の弱点は、全般的な高機能化は、この時代であれば
「難解である」という評価に繋がっていたかも知れない点だ。
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評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)
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PENTAX Z-1 (1991年)
【基本・付加性能】★★★★
【操作性・操作系】★★★★
【ファインダー 】★★
【感触性能全般 】★★☆
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★★ (中古購入価格:30,000円)
【完成度(当時)】★★★☆
【歴史的価値 】★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
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【総合点(平均)】3.2点
意外、と言っては失礼かも知れないが、思っていたよりも
ずっと好評価点だ、まさか平均値3点を上回るとは予想して
いなかったのだ・・
というのも、個人的にはあまり好きでは無いカメラだからだ。
カスタム設定などが色々できるのは良いが、メニューでは無く
上部液晶表示で全てを行い、ファインダー内も簡素なLED表示
しか無い、つまり、使い難いのだ。
まあ、この時代であれば、それらはやむを得ないが、基本的に
機能肥大機であるから「操作系」としての弱点となってしまう。
もっとも、現代のデジタル一眼のように、頻繁にカメラ設定を
変える事は。銀塩カメラの場合は不要であり、カスタム設定は
最初に一度行えば良い程度なので、これでも問題は無いと思う。
しかも、撮影時に必要な操作系は、大変よくまとめられている
ので、操作性・操作系の評価点は、平均値を上回わる。
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ただし、デザインは格好良いとは言いがたく、マニア的には
あまり外に持ち出したく無い(笑)カメラだ。
まあでも、全体的な完成度は高いと思う。
初の「ハイパー操作系」搭載機、そしてPENTAX初の本格的な
AFフラッグシップ機として、本機Z-1の歴史的価値は高い。
次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。