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ハイ・コスパレンズ・マニアックス(17)特殊レンズ編

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コストパフォーマンスに優れ、かつマニアックなレンズを
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
第17回目は、特殊レンズを4本紹介する。

ここで言う「特殊レンズ」とは、定義が難しいが、まあ
単純に、一般的にはあまり普及していない類のレンズを
指す事とする。

まずは、最初のシステム。
c0032138_19525895.jpg
カメラは、PENTAX Q7
レンズは、TAMRON M118FM16 16mm/f1.4
(新品購入価格 20,000円)

ミラーレス・マニアックス第4回、第21回、第62回記事で
紹介の2000年代のCCTV/マシンビジョン用単焦点レンズ。
c0032138_19525875.jpg
「CCTV」とは、「クローズド・サーキット・テレビジョン」
という技術用語であり、「閉回路TV」という訳だ。

一般的なテレビは公共の(オープンな)放送であるが、
閉回路TVとは「特定の場所の中でのみ使われる有線テレビ」
ということであり、これは館内放送とか、そういう用途よりも
一般的には、例えば防犯カメラ、監視カメラ、計測や工程管理
等用の映像伝達装置の事を言う。

「マシンビジョン」とは、機械に光学系を組み込み、検査や
制御の為に用いる事だ、代表的な用途としては、工場で部品
等の製造ラインにおいて製品のキズや不良を自動的にチェック
したり、あるいはロボットに組み込んで、周囲の映像情報から
その動作を自動制御したりする目的だ。

この2種類の用途では、一般的に監視カメラ用のCCTVレンズ
よりも、マシンビジョン用レンズの方が高性能である。
例えば、監視カメラのレンズは、広角レンズの場合、歪曲収差
で画像が歪んでしまう場合もあるが、マシンビジョンで
製品検査などを行うのに画像が歪んでいたらまずい訳だ。

そして、CCTV用レンズは通常、暗い場所でも用いるので、
開放f値が、f0.85~f1.2位と、写真用レンズに比べて
かなり明るめ(大口径)となっている。
CCTV用レンズで、f1.6やらf1.8はむしろ小口径なのだ。

(注:写真用ズームレンズでは、f2.8でも大口径と言っている。
近年でこそ、f1.8やf2通しのズームレンズも発売されているが、
長らくズームレンズでは、開放f2.8が最大口径だったのだ、
しかし、一番明るいズームだから「大口径」と言うのも
どうかと思う、現代の写真用単焦点レンズでは、f1.4~f1.8
が標準的な開放f値であり、単焦点レンズの世界では、f2.8は、
むしろ小口径レンズと言える)

で、マシンビジョン用レンズは、無理して開放f値を稼ぐ
必要はなく、画質の高さ(高描写性能)が要求される。
このため、開放f値は、f1.4~f2位となる場合が多い。

さて、本レンズだが、CCTV/マシンビジョン兼用である、
つまり、比較的高描写力であり、監視カメラ用に使うよりも
マシンビジョン用途がメインという事だ、その為、監視カメラ
(CCTV)用レンズよりも若干高価となっている。

なお、写真用レンズは、さらに高描写力が要求されるのだが、
本レンズの場合、写真用レンズとしても、ぎりぎりで使える
描写性能である(ただしボケ質は良く無い)
c0032138_19525855.jpg
本レンズのスペック、16mm/f1.4は、写真用レンズとしても
同じ数値の意味となる。
ただし、イメージサークルが小さい、確か1/1.8型対応で
あったと思う。

イメージサークルが小さい、という意味は、写真用交換レンズ
での簡単な例をあげれば、フルサイズ(銀塩)対応レンズと
APS-C対応レンズ、μ4/3(4/3)対応レンズ、の各々を想像
してもらったら良い。それぞれセンサーのサイズが異なり
小型センサー用のレンズを無理にフルサイズで使ったら、
センサーの周辺まで光が行き届かず、いわゆる「ケラれ」が
発生してしまう。

1/1.8型というのは、デジタルカメラにおいては相当に
小さいセンサーサイズであり、大体コンパクトデジカメの
中級機用のセンサーと同クラスだ。
このセンサーサイズ以下でのレンズ交換式カメラは、
PENTAXのQシリーズしか存在しない。旧型のQ/Q10が
1/2.3型で、新型のQ7/Q-S1が1/1.7型だ。

今回使用のPENTAX Q7は1/1.7型のため、本レンズの
1/1.8型より僅かに大きいが、レンズ側の仕様に若干の
余裕があるのか、画面周辺がケラれずに使用できる。
なお、Q/Q10の方がさらにセンサーサイズが小さいので
より安全に利用できる(または、画面中央部の高画質な
部分を用いて撮影できる、とも言える)のであるが、
あいにくQ/Q10は所有していない。

センサーサイズが小さくなると、画角が狭くなる、というのも
今やフルサイズ一眼とAPS-C一眼の関係で、世間一般の常識
として広まっている事であろう。

この事すらも、デジタル初期の2000年代前半では理解できない
ユーザー層も多かったのだ。
画角の変化は「換算焦点距離」という風にも呼ばれているので、
今時の初級ユーザー層でも、「センサーが小さいカメラでは
普通のレンズも望遠レンズになる」と思っている人も多い事で
あろう。でもそれは「画角」(写る範囲)としてはその通りだが
望遠レンズのように、ボケ量が大きくなったり、被写体の圧縮
効果(被写体と背景の距離感が短く見え、背景の写る範囲が
狭くなる)も出ない。

ボケ量については、増えるどころか、むしろセンサーサイズが
小さいとボケ量が減る(被写界深度が深くなる)訳だ。

画角については、つまり「トリミング」をしているのとほぼ
同じ効果となる。撮影画素数に十分な余裕があるのであれば、
センサーサイズを小さくして望遠画角を稼ぐよりも、大型
センサーの画像をトリミングした方が有利な場合もある。

有利な要素というのは、「画角が広いので手ブレが減る」
「センサーが大きいので被写界深度を浅くできる」
「画素ピッチを大きくできるので、Dレンジが向上する」
「トリミングでの構図の自由度が向上する」などである。

まあでも、このあたりも状況によりけりであり、逆に
センサーサイズが小さいと、「被写界深度を深くできる」
「同一画素数であれば、トリミング画素数を有効に活用できる」
「レンズの中央部光束のみを使えるので、周辺収差が減少する」
「画角の範囲で露出計が反応し、露出補正の必要性が減る」
「フルサイズではAF測距点の範囲がカバーできなかったのが、
クロップすると測距点を有効に使える」というメリットもある。

さて、PENTAX Q7のフルサイズ換算の「焦点距離倍率」は、
4.6倍となっている、すなわち16mm/f1.4の本レンズの場合
73.6mm/f1.4相当の画角のレンズになる訳だ。

約75mmのf1.4というと、ポートレート用レンズのような
スペックとなるので、一見凄そうに感じる。何故ならば
そのクラスのレンズは一般的に高価であり、10数万円程度
してしまうからだ。

けど、残念ながら、このシステムではセンサーサイズが
小さいので、ポートレート用85mm/f1.4のように、多大な
背景ボケ量を得ることはできない。 

16mmと言えば、写真用レンズでは超広角の類だ。レンズの
焦点距離が短いと被写界深度は深くなる、つまり、超広角
レンズは背景をボカす事が難しいのだ。本レンズの場合も
大きな背景ボケを得る為には、被写界深度を浅くする為の、
他の3つの要素 つまり「絞りをできるだけ開ける」(絞り値
を小さくする=開放にする)、および「撮影距離を短くする」
(=近接撮影をする)、それと「被写体と、背景(前景)の
距離差を大きくする」の条件の多くを満たすように撮らないと
背景はボケない。

なお、ポートレートで背景を大きくボケす意味は、
「背景の整理」という風に言われる。
例えば、美女のポートレートを撮るのに、背景にごちゃごちゃと
色々なものが写っていたら、写真を観る人の目が、そちらに気を
取られてしまうからだ。主役はあくまで被写体の美女であり
背景は出来るだけ目立たないようにしたい訳だ。

このため、適正なボケ量で「背景を整理する」のだが、
単純に「大ボケ」させて、背景がなんだかわからないように迄
してしまうのが常に正解、という訳ではなく、例えば背景に
意味がある(町並みとか、花畑とか、絶景とか)の場合は、
それらの「情景」を活かしながら、目立ちすぎない程度に
ボカす。

大口径(例:f1.4級)レンズの場合、その適正なボケ量を得る
為の「調整範囲が広い」のがメリットな訳だ。
これが、小口径(例:f4級)レンズの場合、背景をもうちょっと
ボカしたいと思っても、もうf値が開放のf4いっぱいであり
それ以上絞りを開けることができない、というケースがある。
c0032138_19525867.jpg
さて、余談が長くなった。
PENTAX Qシステムのマウントの特徴を生かすには、
このようなCCTV用レンズ、あるいは映画用(シネレンズ)
などのCマウント&CSマウントレンズは有益である。
なにせ、他のデジタル一眼では、これらのレンズは
イメージサークルの関係で使いづらいからだ。

私の場合、他にもCCTV用レンズを数本所有しているので、
それらをたまにPENTX Q7で使用して楽しんでいる。
実用価値はゼロに近いシステムだが、マニアックに遊ぶという
意味では興味深いものがあるのだ。

なお、Q7はエフェクト性能に優れるので、エフェクト母艦
としての利用にも適している。マシンビジョン用レンズは
高価なものが多いが、監視カメラ用のCCTVレンズであれば、
防犯カメラの払い下げジャンクの中古等から取り外して
使うことで、かなり安価に入手できる場合もあるので、
そうしたレンズを「トイレンズ」代わりに用いて、PENTAX Q
システムでエフェクトをかけて遊ぶのも、非常にマニアックで
「エンジョイ度」の高い使い方となる。

本レンズに限って言えば、コスパが良いとは言いがたい点も
あるが「安価なCCTVレンズで遊ぶ」という意味での紹介だ。

----
さて、次のシステム、
c0032138_19531492.jpg
カメラは、SONY α65
レンズは、MINOLTA STF 135mm/f2.8[T4.5]
(新品購入価格 118,000円)

ミラーレス・マニアックス第17回記事で紹介した、
1998年発売のMF単焦点望遠レンズ。

STFは「Smooth Transfer Focus」の略である。
つまり、スムースにボケが変わっていく、という意味だ。

このレンズは「アポダイゼーション光学エレメント」と言う
中央から周囲にかけグラデーション状に暗くなるフィルターを
レンズに内蔵することで、結果的にボケ質を最良にする事が
可能なレンズである。
c0032138_19531427.jpg
同様な仕組みを持つ市販レンズは、さほど多くは無い。
ミノルタが開発したこのSTFは、2000年代のαシステムの
SONYへの移譲で、レンズ構成はそのままSONY版となったが、
長い期間、それが唯一であった。

2014年、突如フジフィルムから XF 56mm/f1.2R APD
(ミラーレス第17回,第30回,名玉編第3回)が発売される。
2016年にはLAOWA 105mm/f2 Bokeh Dreamer
(特集記事で紹介済み) が、そして2017年にはSONYの
Eマウント用 FE 100mm/f2.8 STFが発売された。

これらは、中国製のLAOWAが10万円くらいだが、
他は20万円前後の定価と、かなり高価なレンズである。

まあ値段はともかく、数える程しか製品が無いというのは、
やはり「特殊な」レンズと言えよう。
なお、数年前に海外のどこかのメーカーで、アポダイゼーション
ユニットを交換(入れ替え)のできるレンズを開発中という話
を聞いた事があるが、製品化はされたのであろうか・・?

また、レンズでは無いが、銀塩AF一眼の名機MINOLTA α-7
(2000年)が「(擬似)STFモード」を搭載していた。
このSTFモードとは、絞り値を連続的に7段階変えて撮影し
それを合成(多重露光)するものである。

アポダイゼーション・エレメントを使うと、ボケが綺麗になる、
という事は、カメラマニアなら良く知られた事実であるのだが、
では何故ボケが綺麗になるか?という点を理解する事は難しい。
その光学的な原理については、FUJIFILMのHP等に掲載されて
いるが、感覚的には、なかなかわかり難い。

上記α-7のSTFモードでは、絞りを連続的に変えて合成する
というのがポイントとなる。イメージ的には絞りの中央部
が沢山合成されて、明るくなるという事なので、この原理は
アポダイゼーション・エレメントの構造と同様だ。

STFレンズのそれ以上の詳細については、ミラーレス第17回
記事(特集 STF vs APD)や、ずっと昔の記事にも詳しく
書いてあるので、今回は割愛する。
c0032138_19531366.jpg
さて、STF135/2.8の隠れた長所であるが、最短撮影距離が
短い点である、135mmレンズでの通常の性能は、最短1.3m
前後であるが、本レンズは87cmとなっている。

これを超える135mmは、SONY ZA135mm/f1.8
(SAL135F18Z)(ハイコスパ第16回記事参照)の最短72cmと、
SAMYANG 135/2(最短80cm、未所有)しか無いと思う。
(最新のSIGMA A135/1.8は最短87.5cmだ、後日紹介予定)

STFはボケ質が大変綺麗な為、望遠マクロ的な用途にも向く、
・・と言うのは、本レンズはAPS-C機ではおよそ200mmの
換算画角となり、ポートレート用には間合いが遠すぎるのだ。

ライブ・演劇などの舞台撮影や結婚式撮影等には、200mm
相当のレンズは使い易い画角となるのだが、今度は本レンズの
暗いf値が問題になる。一応開放f値こそf2.8であるのだが、
アポダイゼーションエレメントがある為、レンズを通過する
光量は減少するので、f値ではなく実際の明るさを示すT値
(実効f値)の仕様表記がある。

本レンズの場合の明るさはT4.5であり、つまり、あまり明るく
無いレンズであるから暗所の撮影には基本的には向いていない。
だが、ISO感度の高い現代のデジタル一眼レフでは、
そのあたりは致命的な問題点にはならない。
ただし、STFはMFレンズであり、光学ファインダーを使用する
場合は、暗所では開放f値の暗さもあいまって、ピント合わせが
若干厳しくなる。なので、以前はSTFは、日中屋外での
専用レンズとなっていた。

たた、この点も、ミノルタの銀塩一眼やコニミノやSONYの
初期のデジタル一眼ではそうなのだが、近年のSONYのデジタル
一眼(αのフタケタ機)はEVF方式である為、ファインダー像
が暗くならず、おまけにMF時にはピーキング機能や拡大機能
が併用できる為、日中屋外以外のシチュエーションにおいても
STFがやっと使用できる機材環境になってきたとも言えよう。
c0032138_19531344.jpg
で、本レンズ以外の他のSTF/APD レンズも全てT値がある、
最も明るいのは、FUJI XF56/1.2APDであり、このレンズの
場合 T1.7となっている。
FUJIFILMのミラーレス機は、近年の一部の高級機を除き
最高シャッター速度は1/4000迄だ(注:高速電子シャッター
が使える場合もある)それとAUTO ISO感度での最低感度が
ISO200までしか無い機種も多い、よって上記XF56/1.2APD
は、T1.7とは言え、日中開放ではシャッター速度オーバーと
なって使えないので、同レンズには最初からND8(減光3段)
のフィルターが付属している。

なお、アポダイゼーションの効果は、開放絞りで顕著で
絞り込む程、効果が減って来る為、基本は開放絞り近くで
用いる。よって、T値があまり明るくないSTF/APDレンズを
使用する際も、撮影条件とカメラ側のISO/シャッター性能に
合わせ、軽いNDフィルターを装着した方が良い場合もある。

ちなみに、AFレンズはXF56/1.2APDとFE100/2.8STFの
2本であり、本STFとLAOWA105/2はMFである。
c0032138_19531416.jpg
さて、という訳でSTF135/2.8は、凄いレンズではあるのだが、
実のところ、あまり、これと言った用途の無いレンズである
とも言える。
ただまあ、このボケ質はやはり「凄い」ので、本レンズの
描写表現力やマニアック度はトップクラスの評価となる。

ただ、それは、本レンズが唯一のSTFであった2014年までの
十数年間の話であり、前述のように、ここ数年間で3本もの、
STF/APDレンズが発売されているので、現状での選択肢は多い。
この仕組みのレンズが欲しい場合は、自身の用途に応じて
選ぶのが良いであろう。

私は、このレンズがどうしても欲しかったので、発売直後の
1990年代末に新品で購入した為、12万円近くと高価であったが
現在、STFは中古市場に稀に8万円台とかで出てくる場合もある。

FUJIのAPDは、これより相場が高い(中古購入価格=11万円)し
LAOWAとSONY FEはまだ中古を殆ど見ないので、結局のところ
最も安価に、STF/APD系のレンズを入手する手段は、
本レンズSTF135/2.8の中古を探す、という事になるであろう。

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さて、次のシステム、
c0032138_19541993.jpg
カメラは、RICOH GXR
ユニットは、RICOH A12 50mm/f2.5 Macro
(中古購入価格 25,000円)

ミラーレス・マニアックス第1回,第10回,第28回,第70回
記事で紹介した、2000年代末のAF単焦点標準マクロユニット。
c0032138_19541952.jpg
何度も紹介したレンズなので、出自とか特徴については、
今回は、ばっさりと割愛しよう。
本ユニットはGXRシステム専用で、レンズとセンサーの一体型
であり、他の一眼レフやミラーレス機で使用することは
できない、この為レンズではなく「ユニット」と呼ばれている。

何度も紹介している理由の1つは、上記の仕組みのために、
他システムへ転用が効かないから、何度も使って早く減価償却
を行いたいからである。カメラボディのGXRは、2009年の発売
と古く、すでに仕様的老朽化がかなり進んでいる。

仕様的老朽化とはカメラとしては何の問題もなく写真が撮れる
のに、周囲の新機種がどんどん性能向上していき、相対的に
見劣りする事だ。(その限界の目安は、概ね発売後10年迄だ、
それを超えると、さすがに、古すぎて使いたくなくなる)
特にGXRは、コントラストAF技術の初期の製品であるため、
ピント精度が極めて悪く、ピンボケを頻発する。

使っていて嫌になる事も多いが、それを含め、早く使い潰して
しまわないと、もうこの先数年したら使う気が無くなって
しまう可能性も高いからだ。
ちなみに、GXRは1機種のみで生産完了となっていて、後継機
GXRⅡなどが新規発売される可能性は、まず無い。
(後継機があるならば、ユニットを残してボディを買い換える
事ができる。まあだから、他の一眼レフ等やミラーレス機でも、
交換レンズの方の価値が、ボディより遥かに重要な訳だ)
c0032138_20073739.jpg
ピントが合わない事が重欠点であるが、A12 50mm/f2.5Macro
の描写表現力は捨てがたい。そして、A12ユニットは、この
小さいサイズでAPS-C型センサーを搭載しているのだ。

小型軽量のシステムで、APS-C型センサーというのは、
本GXR A12の他、初期のSONY NEXシリーズ(現在はα)とか、
近年の一部の高級コンパクトなど、かなり限られているので、
貴重なスペックである。
c0032138_20074118.jpg
なお、本レンズの50mmという焦点距離表記は、フルサイズ
換算の値であり、実焦点距離は33mmである。
ちなみに、ワーキング・ディスタンス(レンズ前からの最短
撮影距離)は7cm 、最大撮影倍率は1/2倍である。

しかしながら、ピント精度は近接撮影になるほど悪化する。
なお、GXRシステムにおけるMF性能もよろしくない。

具体的にはピーキング機能は初期のものであり、エッジ抽出の
アルゴリズムが弱く、実質、使い物にならない。外付けEVFは
存在するが高価でかつ解像度も低い。一応拡大機能はあるが、
背面モニターの解像度が低い。それからレンズのヘリコイドは
無限回転式であり、近接撮影時にヘリコイドをいっぱいに廻し、
カメラを動かし(フットワークで)ピントを合わせる、という
昔からの近接撮影でのMFノウハウ(技法)がやりにくい。
そもそも、花のマークを押しながらで無いとヘリコイド動作が
効かないという操作系の問題もある。
c0032138_19541997.jpg
これらの問題点から、AF/MFとも近接撮影では本ユニットは
ピントが合う保証がない。まあ場合により、マクロレンズ
とは思わず、50mm標準レンズとして考え、中遠距離被写体に
特化した方がストレスが少なく撮影できるかも知れない。

ピント精度の問題があり、今から買うにはちょっと手遅れという
感じのユニットであるが、幸い描写力については申し分無い。
まあ、一応、高コスパのレンズ(ユニット)と言えると思う。

----
次は今回ラストのシステム、
c0032138_19542883.jpg
カメラは、FUJIFILM X-E1
レンズは、KMZ ZENITAR 16mm/f2.8 FishEye
(新品購入価格 20,000円)

ミラーレス・マニアックス第6回、第72回記事で紹介した、
1990年代?のロシア製MF単焦点対角線魚眼レンズ。

本レンズはM42マウントであるが、TILTタイプのアダプター
を用いて X-E1に装着している。
c0032138_19542890.jpg
TILT(ティルト)とは、レンズの光軸を傾ける事であり、
ミラーレス第72回記事でも同様のシステムで撮影している。

なお、X-E1はAPS-C機であり、フルサイズ対応の本対角線
魚眼レンズでは、魚眼効果が十分には得られない。
よって、少し歪む広角レンズとして使用し、ティルト効果を
加えて、ミニチュア(ジオラマ)風写真を撮る事を本システム
における主眼としている。

ボディとしているX-E1 だが、AF/MFとも致命的な問題点を
抱えるカメラだ。ただ、この点については、本記事で使用
しているPENTX Q7も RICOH GXRも、同様にAF/MFの弱点が
あり、X-E1だけの問題ではなく、初期ミラーレス機の多くに
共通の課題であろう。

で、このような弱点を持つボディの場合、できるだけピント
合わせに負担の無いレンズを用いるのが解決法だ。
例えば(純正)AFレンズであれば、広角系単焦点や
開放f値の暗い広角・標準ズーム、そしてMFレンズであれば、
小口径単焦点広角や、トイレンズなどの被写界深度の深い
レンズを使用すれば良い。
まあ、一部のカメラはそういう理由で「トイレンズ母艦」と
している訳だ。
c0032138_19542790.jpg
さて、X-E1にMF魚眼レンズを装着すると、そのままの状態では
被写界深度が深い一種の広角レンズであるから、MF性能が低い
(操作系が悪い、機能が不十分等)カメラの場合でも、あまり
ピント合わせの問題は出てこない。

だが、ティルト・アダプターを用いた場合は少々話が変わる。
ティルト操作を行うと、ピントは、画面内のごく一部にしか
合わなくなる。

このピントが合った部分を、通称「スイートスポット」と呼ぶ、
この用語は、元々は、ゴルフのクラブヘッド、あるいは、
テニスやバドミントンのラケットにおいて、その1点で
打つことで、ボールやシャトルが良く飛ぶ、というポイントを
指すのであるが、それが転じて、写真でのティルトレンズの
ピント位置でも同じ用語が使われるようになった。
(スポーツ業界からすれば、全く原理も効能も異なるので、
気に入らない用語かも知れない・汗)

ピーキング精度の優秀なカメラであれば、この目的には十分だ
例えば、ハイコスパ第7回記事で紹介したティルトレンズの
LENSBABY 3Gは(ピーキングの優れた)NEX-3との組み合わせ
で使用していた。EVFを持たない同機でも、背面モニターで
スイートスポットが明確に分かるのだ。

X-E1では、ピーキング性能が高く無いので、せっかくの高精細
EVFでも、背面モニターでもやや厳しい。けどまあ、まったく
使えないというレベルではないので、大問題と言う訳では無い。
c0032138_19542756.jpg
さて、ティルトの話ばかりになっているが、本レンズ
ZENITAR 16mm/f2.8は、優秀で安価なロシアン魚眼レンズで
ある。新品2万円というのは、1990年代の相場においては
ロシアンレンズとしてはやや高目ではあるが、対角線魚眼
レンズとしては破格であった。

まあ十分にコスパが良いレンズであると言えるであろうし
マニアック度も高い、そしてTILTで使うならばエンジョイ度も
さらに高くなる。
ただまあ、本レンズは、現在中古市場でも殆ど見ず、レア品
となってしまっているのが若干の難点だ。

そして、銀塩用の魚眼レンズなので、APS-C機やμ4/3機では
使わずに、フルサイズ機または銀塩で用いるのが本来なのだが、
魚眼レンズ関連の記事で毎回述べているように、センサーサイズ
の小さいカメラで、減少した魚眼レンズの特性(歪曲収差)を
うまく活用すれば、ユニークな表現力を得る事も可能である。
c0032138_19542769.jpg
まあ本システムに限らず「機材の長所と弱点は表裏一体だ」
という事になる、つまり、欠点を欠点としてしか捉えないのは
勿体無いという事だ・・

----
さて、今回の記事は、このあたりまでとする。
次回は、やや高価なオールドレンズを紹介する。


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