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レンズ・マニアックス(83)補足編~高マニアック度B級編(7)

今回記事は補足編として「高マニアック度B級編(7)」
とし、既紹介レンズの内、それなりにマニアックな
レンズを9本紹介する。このB級マニアック補足編も、
掲載数が多くなったが、続けていてもキリが無い為
このテーマについては今回で終了とする。

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まず、今回最初のB級マニアックレンズ。
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レンズは、TAMRON SP 45mm/f1.8 Di VC USD
(Model F013)
(中古購入価格 36,000円)(以下、SP45/1.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)



2015年に発売された、高描写力AF単焦点標準レンズ。
手ブレ補正(VC)、超音波モーター(USD)でフル武装
されている近代的レンズであり、こうした仕様は、
いわゆる標準レンズとしては初だと思う。

また、最短撮影距離であるが、銀塩時代から近代に
至る迄、50mm級標準レンズの最短撮影距離は45cm
と、各社横並びの性能であったのが、本SP45/1.8は
最短29cm(最大撮影倍率1/3.4倍)と、優秀だ。
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別シリーズ記事「最強50mm選手権」を、参照して
貰えればわかると思うが、銀塩時代1980年代頃には
50mm標準レンズ(F1.4級/F1.8級)は、ぼぼ完成の
域に達してしまい、その後のAF化時代(1980年代後半)
デジタル化時代(2000年代前半)においても、その
銀塩時代の標準レンズが、そのままか、あるいは
光学系は同一のままAF化等で機構部や外観を変更した
ものがずっと継続販売されていた。

まあ、既に完成度が高い設計だったので、それを変える
必要が無かったとか、発展途上のズームレンズの
研究開発を優先した、といった理由はあったとは思う
が、とは言え、30年間~40年間も中身が変わらない
製品では、ユーザーから見ても古さを感じるし、
メーカー側からしても、昔のままのレンズを値上げ
して売る事はできないから、例え各種製造関連原価が
回収されていても、利益率の悪い製品となっていく。

折りしも2010年代では、ミラーレス機やスマホの
台頭により、一眼レフおよびその交換レンズの市場が
縮退していった。だから、メーカーや流通においても
もっと利益が得られる商品を作って売らないとならない。

TAMRONは、そのメーカー名がメジャーとなった1980
年頃(注:著名な90マクロ発売後)から、ずっと標準

レンズの開発販売を行っていなかった。何故ならば
標準レンズはメーカー純正のものが設計完成度が高く、
かつ大量生産・大量販売で安価であるから、TAMRONが
独自に標準レンズを作っても、メーカー純正に対して
価格面や性能面で優位性を得る事は出来ないからだ。

よってTAMRONは、そこから30年も40年も、マクロ
レンズや高倍率ズーム等の、カメラメーカーが手を
出しにくい分野で、そのブランド力を高めていった
という歴史がある。
だが、2010年代、カメラメーカー製の純正標準レンズ
が、もう競争力が無い、と外から見ても明白である為
TAMRONとしても「今が機会である」とばかりに、
TAMRON初の標準レンズの開発に挑戦したのであろう。

その結果、手ブレ補正、超音波モーター、新光学系、
高い近接性能等で武装した、旧来には無い、全くの
新鋭の標準レンズが出来あがったのだが・・・

あいにくこのプロジェクトは失敗してしまう。
発売数年後には市場では大量の本レンズ(および姉妹
レンズのSP35/1.8、SP85/1.8)の新品在庫処分品が
安価に流通する事となった。私も、そうして安価と
なった本レンズを購入した次第だ。

「何故売れなかったのか?」は、明白かつ単純な理由
があった。それは「開放F値がF1.8だった事」である。
2010年代からのカメラ市場の縮退と混迷により、
この時代からのカメラ購買層(消費者、ユーザー)は
見事なまでにビギナー層(初心者層)ばかりになって
しまっている。それらの初級層では、レンズの良し悪し
を自力で判断する事はできない為・・
初「開放F1.8? F1.4に比べて廉価版の安物だろう?
  そんなもの、良く写る筈が無い」
という、思い込みや誤解による評価を下してしまった。

TAMRONとしても市場のユーザーのレベル(スキル)が
そこまで急激に低下しているとは思わなかったであろう、
「良いレンズ」を作れば必ず売れたのが過去の経験則で
あっただろうが、極度に低レベル化した消費者層では、
何が良いレンズなのかが理解できずに、「誰かが良い
と言ったから買う」といった受動的な消費行動しか
出来ない。

で、上級層やマニア層は、そうした誤解を持たないが、
標準レンズや35mm、85mmといったありふれた焦点
距離のレンズは、既にいくらでも所有しているだろう。

おまけに市場縮退により新製品は高価だ、いままでの
経験的な価値感覚を持っている上級者層であれば
あるほど、「ありふれた小口径標準が定価10万円?
そんな高いものはいらんよ!」となってしまう。

まあ、つくつく不遇なレンズと言えよう。

ちなみに、本SP45/1.8だが、別シリーズ「最強50mm
選手権」では、その対決にノミネートされた約80本の
標準レンズ中、栄光の第一位にランクインしている。
つまり、性能的には何ひとつ不満の無いレンズだ。

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では、次のシステム
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レンズは、Lomography Experimental Lens Kit
Standard Lens 24mm/f8
(新品購入価格 3,000円相当)
カメラは、OLYMPUS E-PL2 (μ4/3機)

2013年頃に発売された、μ4/3専用トイレンズ3本セット
(レンズ上の名称では「LOMOGRAPHY MICRO 4/3
EXPERIMENTAL」と記載されている)の内の1本。
標準画角タイプ(換算48mm相当)である。


トイレンズであるから、低描写力(Lo-Fi)を期待する
のだが、本レンズの場合は、強い歪曲収差と、低い
逆光耐性以外の面で、あまり低画質は得られず、
Lo-Fiの描写表現の観点からは物足りなさを感じる。

まあ通常の一般的レンズであれば、Hi-Fi(≒高画質)
を期待するのが常ではあるが、Lo-Fi用レンズでは
逆に、より低画質である事を求めてしまう訳だ。
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前述のように、近代のユーザー層はビギナー層の
比率が極めて高い為、このような「Lo-Fi」システム
が何故必要なのか?は理解が困難な事であろう。

まず、その必要性がわからないと紹介は意味が無いし
それを詳しく説明すると冗長になる為に、本記事では
詳細の説明は割愛する。
必要に応じて、匠の写真用語辞典第5回記事、
項目「ローファイ」「トイレンズ」等を参照されたし。

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さて、3本目のシステム
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レンズは、MINOLTA AF 85mm/f1.4 G (D) Limited
(新品購入価格 145,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)

2002年に限定700本で販売された「幻のレンズ」とも
言える希少レンズ。
非常にレアな為、投機対象となってしまっている。
中古はまず見ないが、あったとしても「時価」となり
極めて高価(40万円くらいか?)であろう。

ただし注意するべきは、本レンズは高い描写表現力を
持つ優秀なレンズでは決して無い、という点だ。
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本レンズは1980年代前半、MINOLTAが新規AF一眼レフ
システム(後の”α”)を企画開発する段階において
αの85mmレンズを開発する上で、社内コンペティション
(2チームで競争し、優れた方の設計を採用する)に
破れたレンズである。しかし、これを「お蔵入り」に
するのは惜しいと見なし、MINOLTAでの長いカメラ・
レンズの開発の歴史が終了する前に(すなわち2003年
にKONICAと合併する前に)「記念碑」的な観点で
限定発売された製品であろう、と分析している。

確かに「記念碑」ではあろうが、その設計は古い。
発売された時点で、既に20年前の設計だし、非球面や
特殊ガラス等の新素材が使われている様子も無い。
超音波モーターも勿論なし。
現代においては、さらに発売後20年を経過しているので
ますます古い、まあ、およそ40年前のオールドレンズと
等価である。

AFは遅く精度が悪いので、85mm/F1.4の浅い被写界
深度では、まずピントが合わない。少し絞って使うのが

良さそうだが、メーカー側では「このレンズは絞り
開放での描写力が優れる」と推奨している。(まあ、
その意見に従わなければ良いだけの話ではあるが・・)

描写力的にも現代の新鋭85mmレンズには敵う筈も無い。
おまけに発売時には生産本数が少ないから、諸経費が
乗ってきて割高(確か定価185,000円程だったか?)
であったし、発売後も希少価値から極めて高価である。
すなわち、コスパが壊滅的に悪く、これを推奨できる
理由が何も思いつかない。

私としては、珍しく失敗した(高価に買いすぎた)
レンズとして大きく反省、本レンズ以上の価格帯の
高額レンズは、その後15年間以上も、購入を禁止する
措置を個人的に取った。

なお、余談だが、(KONICA)MINOLTAがαの事業を
SONYに譲渡した2006年頃の話だ・・ SONYは多くの
MINOLTA時代のα(A)マウントレンズ群を外観変更して

SONY銘で新発売したが、その際、全てがMINOLTA時代
のものだと、SONYのレンズ開発力に懸念が生じる。


そこで、ツァイス銘の新レンズ3本を発売したが、
その内の1本が、SONY Planar T* 85mm/F1.4 ZA
(SAL85F14Z)である。(未所有)
その時、一部のマニア層の間では「SONY ZA85/1.4は
MINOLTA 85/1.4 Limitedの外観変更版だ」という
噂が、まことしやかに囁かれた。

まあ、1つは、SONYに新規レンズ開発力がまだ無い事
は、マニア層であれば知っていた訳であり、もう1つは
本AF85/1.4Limitedが限定予約販売で、あっと言う間
に売り切れてしまい、入手困難になっていた事から
「新しいSONY版を買えば十分」という希望的観測が
(又は、心理的代替措置)あったのかもしれない。

だが、本AF85/1.4Limitedはオーソドックスな6群7枚
構成であり、SONY ZA85/1.4は7群8枚の構成なので
両者は残念ながら全く違うものである。

ただまあ、MINOLTA時代のレンズ設計技術(設備も)は
その多くがSONYに引き継がれていただろうから、新規
レンズの設計が出来、折りしも前年2005年に、京セラ
CONTAXがカメラ事業から撤退した事で、宙に浮いた
「カール・ツァイス」のブランドをSONYが(COSINAも)
取得した事で、そのブランド銘を付加価値とした、新
レンズであるから、低性能という訳では無いであろう。
まあ、ZA85/1.4は未所有なので、それについての言及
は避けておく。

本レンズAF85/1.4Limitedの総括だが、本レンズは、
あくまでMINOLTAの歴史の最後を飾る「記念碑」である。
それ以外の理由で、本レンズを所有する意味は無い。
巷で良くある、希少レンズの価値を向上させる観点での
過剰なまでの好評価は、「話半分」として聞いておくのが
賢明であろう。

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では、4本目のB級マニアックレンズ
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 35mm/f3.5 Macro
(中古購入価格 8,000円)(以下、ZD35/3.5)
カメラは、OLYMPUS E-410(4/3機)

2005年発売のフォーサーズ用のAF軽量等倍マクロ。

4/3システムは現在では終焉している為、本レンズの
使用環境は難しい。


4/3機(一眼)は現代では中古は安価だが、古い時代の
カメラであるから基本性能は低い(画素数、最高感度、
連写性能等)
OLYMPUS製等の電子アダプター(MMFシリーズ)を介して
μ4/3機には装着可能であるが、AF性能には優れない。
電子接点を備えていない簡易アダプターでは、絞り制御も
MF操作も何も効かず、使用できない。

同様な構造上の理由で、4/3機や電子アダプター使用時で
さえも、カメラ側の電源がOFFとなっている状態では
ピントリングが廻らない。

近接撮影や無限遠撮影において、カメラの電源を入れながら
MFでピントリングの停止感触があるまで廻し、カメラが
起動して撮影スタンバイ状態になったら、すぐさま撮影を
行う、という上級MF技法が全く実践できない。
つまりμ4/3機等の遅い起動を待ち、そこからAFを始動させ
「あ、ピントが合わないなあ、じゃあMFに変えるか」
といった、超初心者的な撮影技法しか使えない、という
不満が大きい状態となる。

まあでも、やむを得ない、全てが前時代のシステムなのだ。
そうした弱点と引き換えに、現代においては誰も注目
しない4/3システムを格安で入手・構築できる訳だから、
性能に対する価格、つまりコスパはかなり良いシステムと
なる。 
様々な4/3システムの弱点を理解し、技能や技術で回避
する事ができる上級マニア層に向けては、今、あえて
4/3システムの復興も、悪く無い選択肢ではなかろうか。
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本レンズであるが、描写力的には悪く無い。
まあ、オリンパスのマクロは銀塩時代から現代に至る
まで優秀な製品が多い状態だ。
詳しくは「特殊レンズ・スーパーマニアックス第2回
オリンパス新旧マクロレンズ編」記事を参照されたし。

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さて、5本目のレンズ
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レンズは、SIGMA 24mm/f1.8 EX DG ASPHERICAL MACRO
(新品購入価格 38,000円)(以下、EX24/1.8)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

2001年に発売された、銀塩機/デジタルAPS-C機兼用の
AF大口径広角単焦点、準マクロレンズ。

MACROと名がつくのは、最短18cm、最大撮影倍率1/2.7倍
というスペックが理由だが、現代の感覚では、1/2倍以上で
ないとMACROとは呼びにくい。

この時代、銀塩(35mm判)から、デジタル(一眼レフ)
への転換前夜であったが、新たに発売されるデジタル
一眼レフは、CANON EOS-1Ds系とCONTAX N Digital
を除き、全てがAPS-C型(以下)のセンサーサイズで

あった。
この状態だと、銀塩時代のレンズ群を持ってデジタル
一眼レフに移行するユーザー層は、広角画角が不足する。
例えば、銀塩用28mm広角はAPS-C機では42mm相当の
準標準画角となってしまう訳だ。

そこでSIGMAが企画したのは、銀塩一眼レフでは、
超広角レンズとして使え、そのままデジタル時代に
入ったとしても、広角または準広角として使える
レンズ群の新発売である。
これは、20mm/F1.8、24mm/F1.8、28mm/F1.8
の3本が存在し、いずれも2001年頃に発売された。

個人的には、これらを「SIGMA(大口径)広角3兄弟」
と呼んでいる、全3本については「特殊レンズ第52回
SIGMA広角3兄弟」編で紹介している。

で、ただ単に広角画角のレンズをラインナップした
だけではユーザーへの訴求度(アピール度)が弱い
だろうから、この広角3兄弟では、それまでの時代の
広角レンズには無かったスペックである、大口径
(いずれも開放F1.8)と、準マクロ近接性能
(いずれも最短撮影距離が20cm以下)を与えた。

デジタル時代に入ってからはともかく、銀塩末期での
これらの広角3兄弟による、近接広角描写は、それまで
全く見た事の無い映像表現を生み出し、衝撃的でもあった。
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まあ、デジタル時代に入った2000年代においては、
例えば本レンズは36mm相当F1.8と、普通の準広角
レンズのスペックと等価になってしまうのだが・・ 

それでも後年2010年代になってからはフルサイズ・
デジタル一眼レフが普及してきた為、またこれらの
広角3兄弟が、銀塩時代と同様の超広角画角で使える
ようになった訳だ。


本レンズEX24/1.8の描写性能的には、近代レンズ、
例えばSIGMA ART LINEには敵わないであろう。
ただ、近接性能においては、ごく近年のTAMRON製の
ミラーレス機用広角3兄弟(M1:2シリーズ)が発売
される迄は、SIGMA広角3兄弟を上回るものは無かった
と記憶しているので、現代においても本レンズに実用
価値が無い訳では無い。

事実、私は近年のSIGMA ART LINE製品は好みであり、
EOS EFマウント版を主体にART LINEを重点的に購入
しているのだが・・ ART 24mm/F1.4に関しては、
本レンズ EX24/1.8を所有していて、こちらの方が
ART型より寄れるという特徴がある為、ART型の新規
購入の優先度を下げている、という状況となっている。

発売後約20年、現代においてもSIGMA広角3兄弟の
中古流通は稀に見かけるが、玉数が少なくなってきて
いるのも確かである。入手するなら今のうちだし、
中古相場もいずれも1万円台程度と、高価では無い。

逆光耐性や解像感の低さ、周辺収差、ボケ質破綻等、
若干の弱点を持つ要素もあるのだが、こうしたレンズを
現代で購入したいと思うのは中上級マニア層であろうから、

レンズの弱点など、どうとでも回避したり、あるいは
逆光耐性の低さを逆用して、意図的にゴーストを入れた
表現を創造する等、どうにでも使い道はある事だろう。

まあ、逆に言えば、レンズの弱点ばかりを気にしたり
咎めているような初級中級層や初級マニア層等には
推奨しずらいレンズである。
でもまあ、本ブログで紹介するようなレンズは、その
殆どが中上級マニア層向けであって、ビギナー層等が
簡単に使いこなせるレンズ群では無いとも言えるが・・

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さて、6本目のシステム
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レンズは、安原製作所 ANTHY 35mm/f1.8
(新品購入価格 35,000円)(以下、ANTHY35/1.8)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

2019年に発売された、フルサイズ対応MF準広角レンズ。
現状では、SONY E(FE)マウント版のみの発売だ。

安原氏は著名カメラメーカー勤務から独立して
個人で、かつては銀塩カメラを、現代ではレンズを
設計するという、いわば世界最小のカメラメーカー
である(あった)

「製造は国内外の外注工場を使う」と言っていた。
まあ部品レベルでは国内製もあるかも知れないが
大半の部品と組み立ては、ほぼ中国の工場を使って
いた事であろう。
銀塩レンジファインダー機「安原一式」(2000年頃)
でも中国生産としていたが、当時の中国での製造の
品質はあまり高く無く、発売が遅れる、生産数が少ない
など、なかなか苦労した模様であり、カメラ事業は
2004年に停止(終了)してしまっていた。

2010年代からは安原製作所はレンズメーカーとして
復活、以前から約20年が経過した現代においては、
中国のレンズ製造技術は恐ろしいほど進化していて、
それは2010年代後半頃から、色々と日本市場に参入
している新鋭中国メーカー群(七工匠、LAOWA、
Meike等)の製造品質を見れば、一目瞭然であろう。
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本ANTHY(注:安原伸氏の、安(AN)、伸(SHIN/THY)
を組みあわせた名前と推測できる)も、恐らくは
中国製造であろう。 

で、中国製の新鋭レンズ群が、銀塩一眼レフ用の古い
設計(変形ダブルガウス型、プラナー型、ディスタゴン
型等)をベースに、ミラーレス機用にスケールダウン
したジェネリックレンズであるケースが多い事に比べ、
本ANTHY35は、レンジファインダー機用「ビオゴン」
の設計を改良したレンズである。

私は「何故中国製レンズは一眼レフ用設計ばかりを
参考にするのだ? ミラーレス機用とするならば
優秀なレンジファインダー機用レンズも参考として
良いのではなかろうか?」という疑問点を持っていた
為、この安原氏の設計思想には強く賛同をした。

なので、本レンズを購入する事となったのだが、
まあ、案の定、予想どおりの高性能レンズである。
イメージサークルが足りておらず、僅かな周辺収差や
周辺減光の発生があるのだが、そこは重欠点とは
言えないし、どうしても気になるのであれば、今回
の使用例のようにフルサイズFE機(α7系等)では
なくて、APS-C型Eマウント機(α6000系、NEX等)
に装着してしまえば良い。
これで本レンズの描写力上の欠点は見事に消えて、
非常に優れた描写力を発揮する気持ちの良いレンズ
となる。

まあマニア層であれば、絶対に買いのレンズであった。
あまり世間的な認知度は高くないとは思うが、むしろ良く
知られて、良く売れて、安原氏には儲けてもらって、続く
本シリーズのレンズライナップの拡張充実に繋げていって
もらいたい、・・・と思っていた。

だが、2020年3月に、安原氏は53歳の若さで逝去して
しまい、安原製作所の業務は全て停止。現在においては
安原製作所製のレンズを入手する事も難しい。
ただ、だからといって、安原製作所製のレンズを
「希少品」として投機(転売)対象にしてしまう事は、
個人的には、最もやって欲しくない事だ。
それ(投機)は、カメラやレンズの設計に生涯の情熱を
傾けた安原氏故人に対しても失礼な事になってしまう。

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では、7本目のレンズ
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レンズは、NIKON AiAF DC-NIKKOR 105mm/f2D
(中古購入価格 70,000円)(以下、DC105/2)
カメラは、NIKON D500(APS-C機)

1993年発売のDC機構搭載型AF大口径中望遠レンズ。
過去記事で複数回紹介しているので簡単に・・

まず、DC(デ・フォーカス・コントロール)機構とは、
DC環を設定したレンズ絞り値と同じ値にセットする事で、
前ボケ(F側目盛り)、後ろボケ(R側目盛り)のいずれか
のボケ質を良好にするように設定できる特殊機構を持つ
レンズである。

だが、これの効果は一眼レフの光学ファインダーでは
確認できないので、このDC機構の効能は多くのユーザー
層には理解され難い状態が長らく続いた。

「効果がわからないから」と言って、DC環を絞り値を
超えて最大に設定すれば、球面収差の過剰補正となって、
描写が軟焦点化してしまうので、本レンズの事を
「ソフトフォーカスレンズだ」と称した、間違った
評価記事も大変多かった。
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まあ、これらの原理を良く理解して使うのであれば、
本レンズはかなりの高性能レンズである。NIKON製の
高価な(コスパの悪い)レンズの中では、本ブログでは
珍しく「名玉」扱いとなっているレンズでもある。

まだ、かろうじて入手できると思う、マニア層であれば
買える時に買っておくのが無難かつ妥当なレンズであろう。
(注:2020年末に、ロングセラーを終えて生産終了に
なっている。しかし、これも、投機対象としては欲しく
無いレンズだ)

(参考:2022年発売の「CANON RF100mm/F2.8
L MACRO IS USM」では「SAコントロールリング」と
呼ばれる、本DC105/2とほぼ同等の球面収差制御機能
が新規に搭載された(注:高価すぎるので購入予定無し)
NIKON DC105/2が入手し難く、かつ、どうしてもDC環
の効能を必要とするならば、万が一、本DC105/2が
希少だ、という理由で投機対象となってしまった場合
でも、RF100/2.8を代替とする事は可能な次第だ。
まあ要は、投機対象となってしまった”不条理に
高価なモノ”を欲しがる状況は、他に、それを代替
できる商品の事を、何も知らない、という理由も
あるのだろう・・)

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さて、8本目のシステム
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レンズは、SONY DT 35mm/f1.8 SAM (SAL35F18)
(中古購入価格 11,000円)(以下、DT35/1.8)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

2010年に発売された、APS-C機(α Aマウント)専用
準広角(標準画角)AFエントリーレンズ。

同時代におけるミラーレス機や初期スマホの台頭を
見て、「一眼レフ(と交換レンズ)市場が喰われる」
という危機感から発売された「お試し版」レンズだ。

SONYに限らず、当時2010年前後では各一眼レフ
メーカーから同様のコンセプトのエントリーレンズ
が多数発売されている。
SONYでは、これを「はじめてレンズ」と呼んでいた。

これらの安価なエントリーレンズ群を入手した入門・初級
ユーザー層が、その高性能(キットの標準ズーム等と比較
した場合)に驚き、レンズ交換の楽しさも理解して貰えれば、
その後の同社の高額交換レンズの購入に繋がったり、又は
「もう何本かレンズが揃ったから」という理由で、他社
システムやミラーレス機に乗り換える事を防ぐ、という
「囲い込み戦略」を実現できる。

その為、各社エントリーレンズには、その価格からは
考えられない程の高性能が搭載されていて、コスパが
極めて良い。
私の持論では「エントリーレンズは全て買い(購入対象)」
と見なしていて、事実、市場に存在する殆どのエントリー
レンズを購入済みである。

(注:私が定義する「エントリーレンズ」の呼称の他、
近年では「シンデレラレンズ」という呼び方も、業界の
一部では使われている模様だ。
これについては、主に女性ユーザー層向けの造語であり
「お試し版(試供品)」という類のビジネスモデルを
(化粧品、健康食品等の商品で)熟知している、女性の
消費者層に対し「後で高価なモノを買わされるのでは?」
という不安を払拭する為に、真意を曖昧とする呼称では
あるまいか?
他にも、一部の初級マニア層等では「撒き餌(まきえ)」
レンズという俗称もある。しかし、「撒き餌」では、
こうした「エントリー(お試し版)戦略」の仕組みの
全貌を、ちゃんと比喩する言葉にはなっていない。
この「囲い込み戦略」の真意を理解せずに創られた俗語
だと思われるし、そもそも、レンズの事を「餌(えさ)」
扱いでは、それを作る/売る側にも、使う側に対しても
とても失礼な表現であろう。レンズ等の機材に全く愛着
が無い表現だとも思え、本ブログでは非推奨の俗語だ)
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で、本レンズDT35/1.8は、その「エントリーレンズ」
の最右翼の製品であり、低価格、そこそこの高描写力、
大変優れた近接性能(最短23cm)という特徴から、
「ハイコスパ名玉編」シリーズ記事では堂々の第二位に
ランクインしている。

SONY α Aマウントユーザーであれば必ず所有して
おくべきレンズであろう、フルサイズ対応では無いと
いった、些細な理由で購入を躊躇う要素はまるで無い。

惜しむらくは、2010年前後の各社エントリーレンズ戦略
は失敗してしまった事である。「まずは、お試し版を
買ってもらって、次に良いレンズを買ってもらう・・」
といった悠長な市場戦略が通用しないほどに、一眼レフ
の市場縮退が進んでしまったからだ。
(注:そもそも、SONY α Aマウント機は、2016年
以降の新製品が無く、実質上終焉してしまっている)

その為、2010年代中ごろには、各社一眼レフやその
交換レンズ群は、「高付加価値戦略」に転換した。
すなわち「販売数が少なくとも事業が維持できる、高価で
利益率の良い製品」を企画開発する事に専念してしまった
訳であり、その時代から以降、各社のエントリーレンズの
新規発売は殆ど無い。

空洞化した国内低価格帯レンズ市場を弱点と見たのか、
その後の2010年代後半には、そこに中国製等の新鋭の
海外レンズメーカーが非常に多数参入しているのだが、

その話はまた長くなるので別の記事に譲ろう。
ああつまり、日本のメーカーでは、もう低価格帯レンズ
を作る事ができない、という残念な話である。

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では、今回ラストのB級マニアックシステム
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レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus(新品購入価格 47,000円)
(注:独語綴りの変母音記載は便宜上省略している)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)

2002年に発売されたMF中望遠小口径単焦点レンズ。
やや小型化した後継型が存在するが、こちらは初期型だ。

小口径(開放F3.5)化や、異常低分散ガラスを使用した
設計により、諸収差の低減を徹底的に意識したレンズ
であり、同時代においては「無収差レンズ」と、カメラ
雑誌で評価された事もあったし・・ 
設計者自ら「コシナ史上最高傑作」と語っていた記事も
読んだ事がある。

私は基本的に他人の評価を頭から信用する事は無い。
何故ならばレンズを使う目的や環境や、スキルさえも
個人個人でまちまちだから、他者の評価を、自身に
当てはめる事は出来ないからだ。

だが、本レンズの場合は、そうした市場での好評価は
完全に同意できる。私自身、本レンズを使っていて
何の不満も無かったからである。

この結果、本ブログでのランキング系記事においても、
*ミラーレス・マニアックス名玉編 第5位
*ハイコスパ名玉(BEST40)編 第14位
*最強85mm選手権 B決勝戦 優勝
と、ほとんどの名玉編にランクインしている状況だ。

ちなみに本レンズの個人評価DBでの総合点は4.5点
であり、所有している約400本のレンズ中、ここまで
の高得点は、他には無い状態(同率第一位)であり、
まさしく、トップクラスの高性能レンズである。
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_c0032138_19292881.jpg
惜しむらくは、開放F3.5という暗い値を見て、数値
スペックでしかレンズの性能を類推できないという
一般初級中級層には、全く注目されないレンズで
あったので、2000年代を通じて本レンズの販売数
は、さほど多く無く、結果的にひっそりと生産完了
(ディスコン)となってしまったし、後年での中古
流通も殆ど無い。

この結果、フォクトレンダー初期の一眼レフ用SL
レンズ群(2000年代初頭から展開)の多くは、現代
において希少性からの投機対象となってしまっていて
本来のそのレンズの性能からは不条理なまでに高額な
「プレミアム相場」(=これは勿論、語源が持つ通り
否定的な悪い意味である。現代人が使う「プレミアム」
は、高級品という印象を市場から押し付けられている
状況であり、本来の意味は「無駄に高価だ!」である)
となってしまっている事だ。

本レンズは、滅多に中古市場には出て来ないので、
「プレミアム相場」は目立たないが、きっとそう
なってしまうであろう・・・ 残念ながら。
(追記:コロナ禍以降、中古相場は高騰傾向だ)

カメラやレンズは全て実用品であり、美術品や工芸品
等とは違って、その売買で利益を得たりするようなもの
では無い、と常々言ってはいるが、ネットオークション
等の普及により、悪い意味で、個人や流通での、色々な
思惑が入ってしまっている世情だ。
個人的には全く賛同できないのだが、そうなる世情も
やむを得ないか・・

あえて問題提起をするならば、「F3.5だから低性能だ」
といった酷い誤解により、本レンズの発売期間中に
その高性能を見抜けないで購入しなかった消費者層にも
多大な課題があるのではなかろうか?
数値スペックや、人の意見しか参考に出来ず、自身の
価値感覚を何も持っていないユーザー層側にも多々、
問題があると思う。

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さて、今回の補足編「高マニアック度B級編(7)」記事は、
このあたり迄で。次回記事に続く。

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