今回は補足編として、「ぐるぐるボケ・グランドスラム」
と銘打ち、市販の「ぐるぐるボケ」を強調したレンズを
発売年代順に、4本(+おまけの1本)紹介する。
本ブログでは「希少な仕様を持つレンズを4機種同時に
所有する事」を「グランドスラム」と呼んでいる。
実は、もう2~3機種、「ぐるぐるボケレンズ」は存在
するが、今回紹介機種の前期型や後継型であったり、
あるいは特殊な交換光学系(部品)であったりする。
結果、本記事の執筆時点(2020年頃)では、今回
紹介の4機種が最も代表的な「ぐるぐるボケ」レンズ
であると思う。
なお、本シリーズ第37回で「ペッツヴァール対決」
という主旨で、2本のぐるぐるボケレンズを紹介済み
である。その記事の執筆後に、研究目的で、さらに
2本の同等の特性を持つレンズを追加購入した次第だ。
その過去記事では、ペッツヴァール(ペッツバール)
レンズが生まれた歴史的背景の詳細が書いてあるので
本記事と合わせて参考にして貰えると良いと思う。
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では、まず最初のシステム
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レンズは、Lomography (xZenit)
(New) Petzval (85) (Art) Lens 85mm/f2.2
(中古購入価格 50,000円)(以下、PV85/2.2)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)
2014年発売のロシア製ぐるぐるボケMF中望遠レンズ。
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このシリーズ最初期の、クラウドファンディングによる
限定販売レンズであり、上記製品名の()内の表記は
Web、説明書、レンズ本体等の出典によりまちまちで、
記載されている場合と、そうで無い場合がある。
販売元は、オーストリアの(通称)Lomography社で
あるが、製造国はロシア(Zenit社)だ。
製品の企画や設計は両国で行われたかも知れない。
現代は、国際分業が進み、「どこの国製のレンズだ」
とかは簡単には定義出来ない。
いまだに初級マニア層等が良く言うように
「ドイツ製だから・・(良く写る?)」
「ロシア製だから・・(稀に優れたレンズがある?)」
「中国製だから・・・(品質があてにならない?)」
等の、印象から来る思い込みによる十把一絡げ的な
評価は、現代においては、全く適正では無い状態だ。
まず、個々のレンズには、それが生まれてきた背景や
理由があり、それぞれ固有の特性や性能を持つ。
また、製造国という概念は、現代ではもはや存在せず、
たとえばビギナーが憧れるNIKON製高級レンズの一部も、
ビギナー層が嫌がる「Made in China」となっている。
あるいは初級マニア層が憧れるカール・ツァイス製の
高価な写真用レンズは、その殆ど全てが日本製だ。
つまり、製造国で、レンズの(あるいは、それ以外
の現代の様々な他分野の製品の全ての)性能や品質を
判断するという事は、的外れな時代となっている。
現代において、まるで60年も昔の時代感覚のままで
「Made in Germany(ドイツ製)のレンズは、
高級品だけあって、やはり良く写るのぅ・・」
などと言っていたら、もう時代錯誤を通り越して、
陰で笑われてしまっていても、やむを得ない。
(注:ちなみに、日本で製造した光学系部品を全て
ドイツに送って、そこで最終組み立てをしただけでも
それは「Made in Germany」を名乗る事が出来る)
![_c0032138_06424884.jpg]()
さて、本記事は製造国の話ではなく「ぐるぐるボケ」
の話を進める。まず最初に「ぐるぐるボケ」レンズ
全般に言える特徴を、箇条書きで説明しておく。
1)ぐるぐるボケ描写の発生原因は、収差(像面湾曲
および非点収差が主体)である。
2)今回紹介レンズのみならず、全てのレンズに上記の
収差が存在している。ただし、大多数の一般的な
レンズでは、それが目立たないように(補正して)
設計をしている。
参考:1960年代頃の超大口径レンズ(F1.0前後級)
では、大口径化の為に、設計に無理をしていて、
収差の補正が行き届いていないものが多く、それら
では、ぐるぐるボケが大きく発生するケースもある。
3)今回紹介レンズ群は、いずれも上記収差を補正せずに、
逆に意図的に強く発生させるレンズ設計となっていて、
ぐるぐるボケを出し、それをコントロールしたり
作画表現に活かす事を主眼とした、極めて趣味的な
要素の強いレンズ群である。
4)ぐるぐるボケを発生させやすいレンズ構成として、
19世紀にオーストリアでPetzval(ペッツヴァール)氏に
より発明された「ペッツヴァール型」レンズ構成がある。
これは2群4枚構成であるが、後群の2枚のレンズを分離
して3群4枚構成とすると、像面湾曲および非点収差が
強く発生し、ぐるぐるボケが生じる。
このタイプの設計を、「変形ペッツヴァール型」と
本ブログでは呼ぶ。(参考:Lomography社での製品名
は「New Petzval (Art) Lens」となっている)
5)ぐるぐるボケのコントロール技法は、基本的には
以下の2つである。
A)同じレンズであれば、画角の広いカメラの方が
強く発生する。この為、APS-C機やμ4/3機では無く、
フルサイズ機を母艦として用いるのが基本だ。
(参考:逆に、一般的レンズでの周辺収差が気になり、
それを排除したい意図がある場合は、フルサイズ機を
使わずに、APS-C機やμ4/3機を用いる事で、周辺を
カットし、画面全域で高画質を得る事が出来る)
B)絞りを絞り込む事で、ぐるぐるボケは減少する。
ぐるぐるボケを強く出したい場合は、絞りを開放と
する。
(参考:各収差と絞りの関係は、匠の写真用語辞典
第29回記事を参照の事)
6)上記5)の、ぐるぐるボケのコントロールを行ったから
といって、その通りに、ぐるぐるボケの発生量を制御
できるとは限らない。
実際の撮影では、様々な条件(撮影距離、背景距離、
背景の図柄(パターン)、絞り値、レンズ焦点距離等)
が上手くマッチしないと、これらの「ぐるぐるボケ
専用レンズ」でも、ぐるぐるボケが出ない事もある。
(↓に実例。ぐるぐるボケなし)
![_c0032138_06424858.jpg]()
7)上記6)での、ぐるぐるボケの発生条件は、一般
レンズにおける「ボケ質破綻の発生条件」と類似
であるかも知れない、という仮説を、本ブログでは
提唱している。(それを研究する為にも、これらの
レンズを購入している)
8)ぐるぐるボケの発生条件を整える事は、高難易度で
ある為、初級中級層ではコントロールが困難であろう。
これらのレンズは若干高価な事もあいまって、
ビギナー層では、これらのレンズを購入しても制御が
出来ず、飽きて(又は挫折して)しまって、出費が
無駄になるだろうから、あまり推奨できない。
9)今回紹介の一部のレンズでは、変形ペッツヴァール
構成における、後玉の分離量を調整できるものがあり、
それだと、だいぶ、ぐるぐるボケの制御がやりやすいが、
操作設定を行う項目が増えるため、やはりビギナー層
では使いこなしが困難なレンズとなるだろう。
だいたい以上である。
![_c0032138_06425835.jpg]()
さて、本PV85/2.2であるが、本シリーズ第37回記事
「ペッツヴァール対決」編や、他の記事でも何度か
紹介済みの為、詳細の説明は割愛する。
簡単に特徴を言えば、こういう「ぐるぐるボケを
意図的に作画表現に活用する」というコンセプトでの
最初期の製品だ。
焦点距離が85mmと、やや長めである事で、ぐるぐる
ボケの制御が、かなり難しい。あれこれと考えて工夫
したつもりでも、撮影(被写体)条件によっては、
ほとんど、ぐるぐるボケが出ない場合もある。
歴史的価値を除いては、本レンズよりも、後述の
Lomography 55mm/f1.7 の方が、この用途には
使い易いとは思うが・・
本レンズは一眼レフ用マウント(NIKON F、他もあり)
であるから、デジタル一眼レフでもミラーレス機でも
用いる事が出来る、という利点は存在する。
(追記:本記事執筆後に、80.5mmの焦点距離に
変更された後継版が発売されている。そちらは未所有
だが、本レンズよりも使い易い事は確かであろう)
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では、次のぐるぐるボケシステム。
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レンズは、LENSBABY Twist 60mm/f2.5
(新品購入価格 39,000円)(以下、Twist60/2.5)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2016年発売の米国製MF単焦点標準「ぐるぐるボケ」
レンズ。
![_c0032138_06425953.jpg]()
本レンズと全く同じ光学系を持つ、「Twist 60
Optic」が別途存在する。そちらは、LENSBABY
COMPOSER PRO Ⅱ等の、ティルト型のユニットが
母体として必要であり、それらの専用交換光学系
(Optic)としての販売だ。
そのOpticならば、新品で2万円程度と安価なのだが、
母体が必要なので、トータルでは若干高価となる。
母体(COMPOSER PRO系等)を持っているかどうかで、
どちらを購入するかを決めるのが良いであろう。
私の場合は、LENSBABY社のティルト型レンズは
3GおよびMUSEという旧型で「Twist 60 Optic」が
嵌らない為に、単体型の本Twist60/2.5を購入した。
さて、こちらのレンズも3群4枚の変形ペッツヴァール
構成である。絞り環を持つので、ぐるぐるボケの制御
が若干だが、やり易い。(注:上記PV85/2.2は、絞り
環を持たず、「ウォーターハウス絞り」と呼ばれる、
金属の絞りプレートを、レンズ上面から差し込んで
交換して使うので操作性的に面倒だ。ただし、その
タイプの構造では、円形以外の絞り、例えば星型や
ハート型等のものを用いる事が出来るので、それらを
使えば、変わったボケ形状による作画が可能である)
焦点距離も、前述のPetzvalの85mmよりも本レンズ
の60mm、あるいはその前後の標準焦点距離の方が、
ぐるぐるボケを若干だが出し易い模様だ。
勿論、画角が広い方がぐるぐるボケを強調できるので、
何がなんでもフルサイズ機を用いる必要がある。
(この為、本記事で使用の母艦は全てフルサイズ機だ)
ただ、やはり本Twist60/2.5でも、条件を整えないと
ぐるぐるボケは発生しないケースがある。
(↓に実例。ぐるぐるボケが弱い)
![_c0032138_06425999.jpg]()
基本的な撮影条件は、「背景をボカす」である。
つまり絞りを開ける、被写体に近接する、被写体距離
と背景(前景)距離の差を大きくする、等であるが
これは初級層でも、かろうじて出来る撮影技法で
あろう。
なお、余談だが、銀塩時代であれば、一眼レフ用の
キットレンズは50mm/F1.4等の被写界深度の制御
が容易なレンズが付属していたので、この技法の
練習はビギナー層でも出来たが、近年においては、
スマホや携帯カメラ等の安直な撮影機材から写真に
興味を持つ入門層が極めて多く、被写界深度の制御は
「アプリを使わないと、背景がボカせない」という
誤認識であったりするし・・ そうした入門層が、
初級一眼レフやミラーレス機を新規に購入した場合、
そのキットレンズは、焦点距離が短く、かつ開放F値
も暗い「標準ズーム」である事が大半なので、
そうしたレンズでは、被写界深度の制御は自由には
出来ない。つまり「背景が殆どボケ無い」から
残念ながら、「どのようにしたら、背景のボケ量を
コントロールできるか?」という技法が、多くの
初級層においては身に付かず、現代では、銀塩時代
よりもワンランク高い、中級者クラスでないと、
被写界深度の制御の技法を習得していないと思われる。
![_c0032138_06431035.jpg]()
さて、余談はともかく、最低限は被写界深度の制御
の概念を理解していて、それを実践できるスキルが
こうした「ぐるぐるボケ」レンズを使う上で必須だ。
そこがわかっていないと、ぐるぐるボケは偶然でしか
出す事が出来ない。
そして(現代の)中上級者クラスであっても、
これらのレンズのぐるぐるボケを自在にコントロール
する事は困難だ。
それは、前述の撮影条件において「背景をボカす」
という事をやっただけでは、ぐるぐるボケの発生や
制御をするには、まだ足りないからである。
つまり、まず、ある特定の撮影距離や背景距離に
おいて、ぐるぐるボケの発生量が変化する。
加えて、最も重要なのは「背景の図柄(パターン)」
である。例えば背景(前景でも良い)に、夜景や
木漏れ日などの点光源があると、ぐるぐるボケは
顕著に現れるが、点光源では無い一般的な背景で、
かつ、その図柄が平面的であったり不規則的で
あったりした場合は、ぐるぐるボケは目立たず、
逆に立体的に均一のパターンが連続する場合には、
ぐるぐるボケが若干わかり易い、という事となる。
被写界深度も含め、背景のパターンも意識して
撮影をする事は、高難易度であり、上級者レベル
以上の撮影スキル(技能、技術、知識、経験)が
必要となる。しかも、ただぐるぐるボケを出せば良い、
という訳でも無く、それが「写真としての表現」と
して意味がある物にしようとすれば、それはもう
超高難易度であり、大多数のカメラマンではお手上げだ。
それが出来るのは、この分野にハマって膨大な数の
撮影枚数および撮影経験があるような、上級マニア級の
人達だけであろう。LENSBABY社では、そのような層
を「フリーク」(=熱中する人)と呼ぶ場合があるが
実際、相当の「フリーク」となって、四六時中、
こうした「ぐるぐるボケ」レンズで写真を撮っていて
かつ、そうしたアート的な「感性・感覚」を持たない
限りは、作品としての意図に、ぐるぐるボケ表現を
活かす事は困難だと思われる。
したがって、本Twist60/2.5や、他のぐるぐるボケ
レンズを一般的に推奨できるか否か?も微妙な所だ。
消費者やユーザー個々の志向性や感性等は、まちまち
であるから、「これは高性能(高描写力)なレンズ
だから、貴方もこれを買いなさい」などの、無責任な
機材推奨の言動は出来る筈もない。
(注:周囲の後輩カメラマン等に、そういう風な主旨を
言う先輩カメラマンが多いが、その事には賛同しかねる)
まあ、買う人の判断にまかせるしか無い訳である。
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さて、3本目のぐるぐるボケシステム。
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レンズは、LENSBABY BURNSIDE 35 (35mm/f2.8)
(中古購入価格 34,000円)(以下、BURNSIDE35)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
2018年に発売された米国製のフルサイズ対応MF
単焦点準広角「ぐるぐるボケ」レンズ。
本シリーズ第53回記事で紹介済みだ。
![_c0032138_06431040.jpg]()
前記「Twist60/2.5」と同じLENSBABY社製。同社の
国内販売代理店としては近年においてはKenko Tokina
社が務めているので、国内量販店等でも購入可能だ。
レンズ銘の「BURNSIDE」の意味は不明、語源を調べて
みても、「あごヒゲ」とかが出てきて、どうにも
本レンズの特徴と、しっくり来る事は無かった。
(例:前述のTwistであれば、「捻る」という事で
製品の特徴を良く表している。なお、LENSBABY社の
レンズは、固有名詞らしきものは全て大文字で書き
(BURNSIDE、MUSE等)そうで無いものは先頭のみ
大文字(Trio、Twist等)で記載する模様だ)
(追記:後日、BURNSIDEとは、米国の地名である事
がわかった)
さて、「画角が広くなると像面湾曲と非点収差が
増大する」という光学的原理により、旧来所有していた
ぐるぐるボケ(85mmと60mm)よりも、本レンズ
の35mmの方が、「ぐるぐるボケ」が良く出るのでは
なかろうか? という期待を持って購入したレンズ
である。ただ、焦点距離が短くなると、被写界深度が
深くなるので、その点は35mmレンズの方が不利だ。
しかし、本レンズはWD(ワーキング・ディスタンス)
が15cmと短く・・
(注:LENSBABY社の交換レンズ仕様表記が被写体から
センサー面までの「最短撮影距離」表記では無く、
「レンズ先端からの被写体距離」(最短WD)となって
いる事は、その記載の方が「短くて高性能に見える」
という意図が見えて、あまり好ましく無い。
他社レンズ製品では、ほぼ全てが「最短撮影距離」表記
とする事で統一されている為、LENSBABY社の製品だけ、
そのように特殊な仕様記載としている事は賛同出来ない。
---
なお、同様に、銀塩/デジタルのコンパクト機でも最短
WD表記となっているケースが殆どである。そのジャンル
では仕様表記の規制が緩いのかも知れないが、消費者側
から見ると、性能の比較がやり難く、困ってしまうし、
古い資料等でも、正確性に欠ける場合が多々ある。
---
具体例としては銀塩名機の「RICOH GR1」では、最短撮影
距離35cm表記と最短WD30cm表記が、資料毎でまちまち
となっているし、どちらの数値を、どちらの意味で使って
いるかを混用したり、これを転記した人が「最短30cm」
等と書いたら、ますます何だかわからない状況となる)
・・(WDが短い為に)被写界深度が浅く出来る事を
可能とし、その点でも「ぐるぐるボケ」を出し易い
かも知れない、という購入意図があったのだが・・
![_c0032138_06431128.jpg]()
だが、本レンズのぐるぐるボケの制御は、本記事で
紹介の他のレンズと比べても、難しい類であった。
まあ、本レンズは4群6枚構成と、他の3群4枚型の
変形ペッツヴァール構成とは異なっている。
その差がどうなのか?と言うよりも、他のレンズ
での経験則が通用しないのだ、すなわち、どういう
条件でぐるぐるボケが良く発生するのか?の予想が、
他のレンズのケースよりも、さらに難しい。
そして、本レンズには「ゴールド・スライダー」
と呼ばれる特殊な操作子がついている。
(注:一部に「エフェクト・スライダー」表記あり、
この点でも、LENSBABY社内で既に、用語がまちまち
となっていて、あまり好ましい状況では無い)
これは、レンズ前面に、ドーム形状のフード状の
特殊部品が繰り出される事で、意図的に「口径食」
(注:この光学技術用語「口径食」には、様々な
意味があり、定義がとても曖昧だが、ここでは
「入射瞳が狭まる」という状態を指す)
・・を発生させ、結果的に「周辺光量落ち」
(注:他にも「周辺減光」や「ヴィネッテング」等
の光学用語が同様な意味で使われるが、残念ながら、
これも、用語や、その定義が不統一な状況だ。
ちなみに、ビギナー層が使う「トンネル効果」は、
俗語だし、他の分野の重要な技術用語でも同じ言葉が
あるので、完全に非推奨だ)
・・(周辺減光)を発生させる効能がある。
周辺光量落ちが出ると同時に、画面周辺で増大
する像面湾曲と非点収差を(作画上)目立たなく
させる事ができる。
しかしながら、それは「ぐるぐるボケ」レンズで
望む事とは逆効果だ。
だから、絞り値に加えてゴールド・スライダー迄
調整しながら、撮影距離等の撮影条件を整え、
思うような効果を得る事は、そう容易では無い。
![_c0032138_06432329.jpg]()
それから、本レンズはNIKON Fマウント版で購入
している為、大多数の一眼レフやミラーレス機で
マウントアダプターを経由して装着できるのだが、
今回使用のEOS 6D(フルサイズ機)では、勿論
光学ファインダー機であるが故に、このぐるぐる
ボケの量や質の詳細を、ファインダーで確認する事
が困難だ。見えている映像と、実際に写る写真が
ずいぶんと雰囲気が異なるので、本来であれば
こうした、ぐるぐるボケレンズは、どれであっても
フルサイズのミラーレス機で使う事が賢明だ。
まあでも、記事上で全て同じ機体を異なるレンズ
の母艦とする事は、個人的には好まない措置であり、
母艦は各レンズの特徴や使用条件を鑑みて、それぞれ
必ず変える事としている。
総括だが、本BURNSIDE35は、ぐるぐるボケレンズ
の中では使いこなしが最難関、という感じである。
若干高価であるし、中古もまず流通しないので、
上級マニア層というより「フリーク」向けであろう。
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では、本記事ラストの「ぐるぐるボケ」システム。
![_c0032138_06432360.jpg]()
レンズは、Lomography New Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ
(新品購入価格 41,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
2019年に発売された、MF標準(フルサイズ対応)
「ぐるぐるボケ」レンズ。
![_c0032138_06432335.jpg]()
今のところ、SONY FEマウント専用であるが、今後
場合により他のフルサイズミラーレス機用マウント
(Z,R,L)も発売されるかも知れない。
まあ、レンズメーカーとしても、これまでの時代の
ように一眼レフ用のマウントではなく、ミラーレス機
用マウントにした方が売れる、という判断なのだろう。
一眼レフ市場が縮退している世情なので、ますます
一眼レフユーザーには厳しい状況となるのだが、
注意するべき点は、新鋭マウントのミラーレス機は、
「そこで新しいレンズを高価に販売したい」という
メーカーや流通の意図(市場戦略)がある点だ。
旧来の一眼レフであれば、中古機体と中古の高性能
レンズを買う事で、数万円~高くとも20万円程度で
高性能の実用的撮影システムを組む事が出来たが、
新鋭ミラーレス機と、新鋭ミラーレス機用レンズを
新品で買っていたら、まともなシステムを組む為には
最低でも80万円以上の予算が必要になってしまう。
結局、「その高額出費をユーザーに強いる」事が、
新鋭(フルサイズ)ミラーレス機が生まれてきた目的で
あり、何故そんな事をするのか?と言えば「カメラが
売れていないから、より高価な物を作って売らないと、
メーカーも流通も事業が維持できない」からだ。
だから、消費者側とすれば、その理屈(市場原理)を
理解した上で、自分が新鋭機や高額機材を購入するか
否か?を見極めていかなくてはならない。そこは
絶対的価値観や、消費者側の志向やスキル等の
様々な要素がからむので、個人個人によって異なる。
「そのような最新機材で無くても写真は撮れるよ」
と思うならば、買わないという選択肢は有効であろう。
高価すぎる機材に消費者層が反発するならば、市場は
自ら適正価格に移行するからだ。
(カメラが高くなりすぎれば、安い製品が出て売れる、
そして、他社もその戦略に追従する。こういう歴史は
過去にも何度も実際にあった)
![_c0032138_06432357.jpg]()
余談が長くなった、本PV55/1.7の話に戻るが、
このレンズの特徴としては、以下の3つの機能が
備わっている事だ。
1)ぐるぐるボケをコントールする「BC環」
(Bokeh Controlの意味か?)が搭載されている。
(これの効能は後述する)
2)通常の絞り環を備えている。
(被写界深度の調整と、ぐるぐるボケの発生量
の制御の両方に役立つ)
3)ウォーターハウス絞り用のスロットを備えて
いる他、特殊形状絞り(星型、ハート型、太陽型、
雪の結晶型)プレートが付属している。
上記、BC環の原理と効能であるが、他の本レンズ紹介
記事でも述べているが、再掲すると以下の図となる。
![_c0032138_06433095.jpg]()
上図は自分で描いた個人的な想像図であり、メーカー
等から提供されたものでは無い。(注:他の一般的
なレビュー記事等では、メーカー等の画像を勝手に
引用しているケースが多いが、それは著作権的には
まずい行為だ。まあ、メーカー等としても情報を拡散
して貰いたいから、黙認しているのだろうが、本来は
無断転用は、訴えられてもおかしくない)
・・メーカー側の資料では無いので、現物と同じで
正しい、という保証は無いが、このBC機構の光学的な
原理を説明する為の図だと思って貰えれば良い。
で、BC環を廻すと、上図の「可変BC」と赤で書かれた
部分の距離が変化する。この後群の2枚は、本来は
像面湾曲と非点収差等を補正する目的があるから、
ここの距離が変わってしまうと、それらの収差の
補正ができず、逆に増加する。つまり「ぐるぐるボケ」
の量(度合い)が増えたり減ったりする訳だ。
「ぐるぐるボケ」の量の「単位」は良くわからず、
無いかも知れない。「ペッツヴァール和」という
光学原理が近いと思うが、難解であるし、仮に、
それを、いくつであるとか、何%とかと書いても
良く意味がわからないと思う。
そこで、近年の初級中級マニア層の一部の間では
「ぐるぐるボケの度合い」を「回転数」という用語
(俗語)で呼んでいる模様だ。
なかなか言いえて妙ではあるが、実際のところは、
これまで述べてきたように、ぐるぐるボケの発生量は
レンズの仕様や性能だけで固定的に決まるものでは無く、
撮影条件によっても、動的に都度、変化するものだ。
だから各紹介レンズで、それぞれ固有の「回転数」が
異なるものでも無い。また、本PV55/1.7において
「BC環」を廻す事で、精密に「回転数」を制御できる
訳でも無い。
このあたりは、繰り返し述べているように「ぐるぐる
ボケ」レンズの使用上での難しさに直結する。
![_c0032138_06433047.jpg]()
「そう簡単では無い」とは言えるが、でもまあ、
使いこなし難しいからダメなレンズか? というと
そういう訳でも無い事も確かであろう。
(参考記事:本シリーズ第11回、第12回、
「使いこなしが難しいレンズ特集」)
難しいレンズは、逆に、「テクニカル」(技術的・
技能的)な、「エンジョイ度」が高まる訳だ。
(つまり、難しいレンズを使いこなそうとする楽しさ)
本PV55/1.7は、ぐるぐるボケのコンローラビリティ
が高く、テクニカル的なエンジョイ度が高いレンズ
である。
個人評価での「エンジョイ度」評価は5点満点であり
総合評価も4.2点(5点満点)と、近年のレンズでは
久しぶりの名玉(注:総合評価が4点を超えると、
名玉と称するルールとしている)となっている。
これはもう、マニア層必携のレンズであろう。
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さて、以下はおまけ(補足)システムだ。
![_c0032138_06433059.jpg]()
レンズは、LENSBABY Velvet 56mm/f1.6
(中古購入価格 30,000円)(以下、Velvet56/1.6)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2015年に発売された米国製単焦点MF中望遠レンズ。
いくつかの特殊な仕様を併せ持つユニークなレンズで、
「ソフトフォーカス描写」「1/2倍マクロ仕様」
「(僅かな)グルグルぼけ傾向」という特徴を持つ。
内、「ソフト+マクロ」については、その特性を持つ
レンズは極めて稀(実質的には、このVelvetシリーズ
を除いては皆無?)であるから、本Velvet56/1.6を
使う際には「ソフト+マクロ」として使わない限り
本レンズの特徴を活かす事にはならない。
まあでも、今回の記事は「ぐるぐるボケ」特集で
あるから、本Velvet56/1.6でも、僅かに発生する
その「ぐるぐるボケ」の例を1枚だけ掲載しておこう。
![_c0032138_06433124.jpg]()
なお、画面上部のゴーストは、大口径レンズを使った
際に、α7/α7Sで発生する「センサー面とレンズ後玉間
による反射を起因とするゴースト」(参考:TAMRON社
等では、これを「画間反射」と呼んでいる模様だ)
であり、これを防ぐのは結構大変なので、個人的には
α7/α7Sの重欠点だと見なしている。
この為、α7/α7Sを「オールドレンズ母艦」とする
初級中級マニア層によくある傾向に対しては、
「ゴーストに十分注意する事」と述べておきたい。
なお、α7系Ⅱ型機以降は、未所有であるので、この
問題点が改善されているかどうかはわからないが、
原理的には、そう簡単には防げないので、恐らくだが
同じ状況であろう。
私は、その課題を鑑みて、α7系機体(だけ)を、
汎用オールドレンズ母艦とする事は、もう諦めている。
ゴーストの発生しない(しにくい)、他社機や他機を
必ず併用せざるを得ない状況だ。
余談はさておき、本Velvet56/1.6は、ソフトマクロ
としての用途が主力なので、ぐるぐるボケの発生を
主眼としての利用は出来ない。あくまで「条件が合えば
そういう描写も得られる」というくらいに思っておく
のが無難であろう。
----
本記事の総括であるが、「ぐるぐるボケ」レンズは、
どれも、それを制御する事が、極めて大変(困難)な
レンズ群である。
初級層等で「ぐるぐるボケが出たよ、ワ~、面白い」
という程度の興味や目的であれば、若干高価な、これら
を入手しても、使いこなせず、飽きてきて使わなくなり
出費が無駄になってしまう恐れもある。
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買うならば、ぐるぐるボケのコントロールに徹底的に
向き合うのが良いであろう。
その際の最大のオススメは、4本目に紹介した
「Lomography New Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ」
となるだろう、BC環を含めたコントローラビリティの
高さは特筆ものである。
----
さて、今回の「ぐるぐるボケ・グランドスラム編」は、
このあたり迄で、次回記事に続く。
と銘打ち、市販の「ぐるぐるボケ」を強調したレンズを
発売年代順に、4本(+おまけの1本)紹介する。
本ブログでは「希少な仕様を持つレンズを4機種同時に
所有する事」を「グランドスラム」と呼んでいる。
実は、もう2~3機種、「ぐるぐるボケレンズ」は存在
するが、今回紹介機種の前期型や後継型であったり、
あるいは特殊な交換光学系(部品)であったりする。
結果、本記事の執筆時点(2020年頃)では、今回
紹介の4機種が最も代表的な「ぐるぐるボケ」レンズ
であると思う。
なお、本シリーズ第37回で「ペッツヴァール対決」
という主旨で、2本のぐるぐるボケレンズを紹介済み
である。その記事の執筆後に、研究目的で、さらに
2本の同等の特性を持つレンズを追加購入した次第だ。
その過去記事では、ペッツヴァール(ペッツバール)
レンズが生まれた歴史的背景の詳細が書いてあるので
本記事と合わせて参考にして貰えると良いと思う。
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では、まず最初のシステム

(New) Petzval (85) (Art) Lens 85mm/f2.2
(中古購入価格 50,000円)(以下、PV85/2.2)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)
2014年発売のロシア製ぐるぐるボケMF中望遠レンズ。

限定販売レンズであり、上記製品名の()内の表記は
Web、説明書、レンズ本体等の出典によりまちまちで、
記載されている場合と、そうで無い場合がある。
販売元は、オーストリアの(通称)Lomography社で
あるが、製造国はロシア(Zenit社)だ。
製品の企画や設計は両国で行われたかも知れない。
現代は、国際分業が進み、「どこの国製のレンズだ」
とかは簡単には定義出来ない。
いまだに初級マニア層等が良く言うように
「ドイツ製だから・・(良く写る?)」
「ロシア製だから・・(稀に優れたレンズがある?)」
「中国製だから・・・(品質があてにならない?)」
等の、印象から来る思い込みによる十把一絡げ的な
評価は、現代においては、全く適正では無い状態だ。
まず、個々のレンズには、それが生まれてきた背景や
理由があり、それぞれ固有の特性や性能を持つ。
また、製造国という概念は、現代ではもはや存在せず、
たとえばビギナーが憧れるNIKON製高級レンズの一部も、
ビギナー層が嫌がる「Made in China」となっている。
あるいは初級マニア層が憧れるカール・ツァイス製の
高価な写真用レンズは、その殆ど全てが日本製だ。
つまり、製造国で、レンズの(あるいは、それ以外
の現代の様々な他分野の製品の全ての)性能や品質を
判断するという事は、的外れな時代となっている。
現代において、まるで60年も昔の時代感覚のままで
「Made in Germany(ドイツ製)のレンズは、
高級品だけあって、やはり良く写るのぅ・・」
などと言っていたら、もう時代錯誤を通り越して、
陰で笑われてしまっていても、やむを得ない。
(注:ちなみに、日本で製造した光学系部品を全て
ドイツに送って、そこで最終組み立てをしただけでも
それは「Made in Germany」を名乗る事が出来る)

の話を進める。まず最初に「ぐるぐるボケ」レンズ
全般に言える特徴を、箇条書きで説明しておく。
1)ぐるぐるボケ描写の発生原因は、収差(像面湾曲
および非点収差が主体)である。
2)今回紹介レンズのみならず、全てのレンズに上記の
収差が存在している。ただし、大多数の一般的な
レンズでは、それが目立たないように(補正して)
設計をしている。
参考:1960年代頃の超大口径レンズ(F1.0前後級)
では、大口径化の為に、設計に無理をしていて、
収差の補正が行き届いていないものが多く、それら
では、ぐるぐるボケが大きく発生するケースもある。
3)今回紹介レンズ群は、いずれも上記収差を補正せずに、
逆に意図的に強く発生させるレンズ設計となっていて、
ぐるぐるボケを出し、それをコントロールしたり
作画表現に活かす事を主眼とした、極めて趣味的な
要素の強いレンズ群である。
4)ぐるぐるボケを発生させやすいレンズ構成として、
19世紀にオーストリアでPetzval(ペッツヴァール)氏に
より発明された「ペッツヴァール型」レンズ構成がある。
これは2群4枚構成であるが、後群の2枚のレンズを分離
して3群4枚構成とすると、像面湾曲および非点収差が
強く発生し、ぐるぐるボケが生じる。
このタイプの設計を、「変形ペッツヴァール型」と
本ブログでは呼ぶ。(参考:Lomography社での製品名
は「New Petzval (Art) Lens」となっている)
5)ぐるぐるボケのコントロール技法は、基本的には
以下の2つである。
A)同じレンズであれば、画角の広いカメラの方が
強く発生する。この為、APS-C機やμ4/3機では無く、
フルサイズ機を母艦として用いるのが基本だ。
(参考:逆に、一般的レンズでの周辺収差が気になり、
それを排除したい意図がある場合は、フルサイズ機を
使わずに、APS-C機やμ4/3機を用いる事で、周辺を
カットし、画面全域で高画質を得る事が出来る)
B)絞りを絞り込む事で、ぐるぐるボケは減少する。
ぐるぐるボケを強く出したい場合は、絞りを開放と
する。
(参考:各収差と絞りの関係は、匠の写真用語辞典
第29回記事を参照の事)
6)上記5)の、ぐるぐるボケのコントロールを行ったから
といって、その通りに、ぐるぐるボケの発生量を制御
できるとは限らない。
実際の撮影では、様々な条件(撮影距離、背景距離、
背景の図柄(パターン)、絞り値、レンズ焦点距離等)
が上手くマッチしないと、これらの「ぐるぐるボケ
専用レンズ」でも、ぐるぐるボケが出ない事もある。
(↓に実例。ぐるぐるボケなし)

レンズにおける「ボケ質破綻の発生条件」と類似
であるかも知れない、という仮説を、本ブログでは
提唱している。(それを研究する為にも、これらの
レンズを購入している)
8)ぐるぐるボケの発生条件を整える事は、高難易度で
ある為、初級中級層ではコントロールが困難であろう。
これらのレンズは若干高価な事もあいまって、
ビギナー層では、これらのレンズを購入しても制御が
出来ず、飽きて(又は挫折して)しまって、出費が
無駄になるだろうから、あまり推奨できない。
9)今回紹介の一部のレンズでは、変形ペッツヴァール
構成における、後玉の分離量を調整できるものがあり、
それだと、だいぶ、ぐるぐるボケの制御がやりやすいが、
操作設定を行う項目が増えるため、やはりビギナー層
では使いこなしが困難なレンズとなるだろう。
だいたい以上である。

「ペッツヴァール対決」編や、他の記事でも何度か
紹介済みの為、詳細の説明は割愛する。
簡単に特徴を言えば、こういう「ぐるぐるボケを
意図的に作画表現に活用する」というコンセプトでの
最初期の製品だ。
焦点距離が85mmと、やや長めである事で、ぐるぐる
ボケの制御が、かなり難しい。あれこれと考えて工夫
したつもりでも、撮影(被写体)条件によっては、
ほとんど、ぐるぐるボケが出ない場合もある。
歴史的価値を除いては、本レンズよりも、後述の
Lomography 55mm/f1.7 の方が、この用途には
使い易いとは思うが・・
本レンズは一眼レフ用マウント(NIKON F、他もあり)
であるから、デジタル一眼レフでもミラーレス機でも
用いる事が出来る、という利点は存在する。
(追記:本記事執筆後に、80.5mmの焦点距離に
変更された後継版が発売されている。そちらは未所有
だが、本レンズよりも使い易い事は確かであろう)
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では、次のぐるぐるボケシステム。

(新品購入価格 39,000円)(以下、Twist60/2.5)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2016年発売の米国製MF単焦点標準「ぐるぐるボケ」
レンズ。

Optic」が別途存在する。そちらは、LENSBABY
COMPOSER PRO Ⅱ等の、ティルト型のユニットが
母体として必要であり、それらの専用交換光学系
(Optic)としての販売だ。
そのOpticならば、新品で2万円程度と安価なのだが、
母体が必要なので、トータルでは若干高価となる。
母体(COMPOSER PRO系等)を持っているかどうかで、
どちらを購入するかを決めるのが良いであろう。
私の場合は、LENSBABY社のティルト型レンズは
3GおよびMUSEという旧型で「Twist 60 Optic」が
嵌らない為に、単体型の本Twist60/2.5を購入した。
さて、こちらのレンズも3群4枚の変形ペッツヴァール
構成である。絞り環を持つので、ぐるぐるボケの制御
が若干だが、やり易い。(注:上記PV85/2.2は、絞り
環を持たず、「ウォーターハウス絞り」と呼ばれる、
金属の絞りプレートを、レンズ上面から差し込んで
交換して使うので操作性的に面倒だ。ただし、その
タイプの構造では、円形以外の絞り、例えば星型や
ハート型等のものを用いる事が出来るので、それらを
使えば、変わったボケ形状による作画が可能である)
焦点距離も、前述のPetzvalの85mmよりも本レンズ
の60mm、あるいはその前後の標準焦点距離の方が、
ぐるぐるボケを若干だが出し易い模様だ。
勿論、画角が広い方がぐるぐるボケを強調できるので、
何がなんでもフルサイズ機を用いる必要がある。
(この為、本記事で使用の母艦は全てフルサイズ機だ)
ただ、やはり本Twist60/2.5でも、条件を整えないと
ぐるぐるボケは発生しないケースがある。
(↓に実例。ぐるぐるボケが弱い)

つまり絞りを開ける、被写体に近接する、被写体距離
と背景(前景)距離の差を大きくする、等であるが
これは初級層でも、かろうじて出来る撮影技法で
あろう。
なお、余談だが、銀塩時代であれば、一眼レフ用の
キットレンズは50mm/F1.4等の被写界深度の制御
が容易なレンズが付属していたので、この技法の
練習はビギナー層でも出来たが、近年においては、
スマホや携帯カメラ等の安直な撮影機材から写真に
興味を持つ入門層が極めて多く、被写界深度の制御は
「アプリを使わないと、背景がボカせない」という
誤認識であったりするし・・ そうした入門層が、
初級一眼レフやミラーレス機を新規に購入した場合、
そのキットレンズは、焦点距離が短く、かつ開放F値
も暗い「標準ズーム」である事が大半なので、
そうしたレンズでは、被写界深度の制御は自由には
出来ない。つまり「背景が殆どボケ無い」から
残念ながら、「どのようにしたら、背景のボケ量を
コントロールできるか?」という技法が、多くの
初級層においては身に付かず、現代では、銀塩時代
よりもワンランク高い、中級者クラスでないと、
被写界深度の制御の技法を習得していないと思われる。

の概念を理解していて、それを実践できるスキルが
こうした「ぐるぐるボケ」レンズを使う上で必須だ。
そこがわかっていないと、ぐるぐるボケは偶然でしか
出す事が出来ない。
そして(現代の)中上級者クラスであっても、
これらのレンズのぐるぐるボケを自在にコントロール
する事は困難だ。
それは、前述の撮影条件において「背景をボカす」
という事をやっただけでは、ぐるぐるボケの発生や
制御をするには、まだ足りないからである。
つまり、まず、ある特定の撮影距離や背景距離に
おいて、ぐるぐるボケの発生量が変化する。
加えて、最も重要なのは「背景の図柄(パターン)」
である。例えば背景(前景でも良い)に、夜景や
木漏れ日などの点光源があると、ぐるぐるボケは
顕著に現れるが、点光源では無い一般的な背景で、
かつ、その図柄が平面的であったり不規則的で
あったりした場合は、ぐるぐるボケは目立たず、
逆に立体的に均一のパターンが連続する場合には、
ぐるぐるボケが若干わかり易い、という事となる。
被写界深度も含め、背景のパターンも意識して
撮影をする事は、高難易度であり、上級者レベル
以上の撮影スキル(技能、技術、知識、経験)が
必要となる。しかも、ただぐるぐるボケを出せば良い、
という訳でも無く、それが「写真としての表現」と
して意味がある物にしようとすれば、それはもう
超高難易度であり、大多数のカメラマンではお手上げだ。
それが出来るのは、この分野にハマって膨大な数の
撮影枚数および撮影経験があるような、上級マニア級の
人達だけであろう。LENSBABY社では、そのような層
を「フリーク」(=熱中する人)と呼ぶ場合があるが
実際、相当の「フリーク」となって、四六時中、
こうした「ぐるぐるボケ」レンズで写真を撮っていて
かつ、そうしたアート的な「感性・感覚」を持たない
限りは、作品としての意図に、ぐるぐるボケ表現を
活かす事は困難だと思われる。
したがって、本Twist60/2.5や、他のぐるぐるボケ
レンズを一般的に推奨できるか否か?も微妙な所だ。
消費者やユーザー個々の志向性や感性等は、まちまち
であるから、「これは高性能(高描写力)なレンズ
だから、貴方もこれを買いなさい」などの、無責任な
機材推奨の言動は出来る筈もない。
(注:周囲の後輩カメラマン等に、そういう風な主旨を
言う先輩カメラマンが多いが、その事には賛同しかねる)
まあ、買う人の判断にまかせるしか無い訳である。
----
さて、3本目のぐるぐるボケシステム。

(中古購入価格 34,000円)(以下、BURNSIDE35)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
2018年に発売された米国製のフルサイズ対応MF
単焦点準広角「ぐるぐるボケ」レンズ。
本シリーズ第53回記事で紹介済みだ。

国内販売代理店としては近年においてはKenko Tokina
社が務めているので、国内量販店等でも購入可能だ。
レンズ銘の「BURNSIDE」の意味は不明、語源を調べて
みても、「あごヒゲ」とかが出てきて、どうにも
本レンズの特徴と、しっくり来る事は無かった。
(例:前述のTwistであれば、「捻る」という事で
製品の特徴を良く表している。なお、LENSBABY社の
レンズは、固有名詞らしきものは全て大文字で書き
(BURNSIDE、MUSE等)そうで無いものは先頭のみ
大文字(Trio、Twist等)で記載する模様だ)
(追記:後日、BURNSIDEとは、米国の地名である事
がわかった)
さて、「画角が広くなると像面湾曲と非点収差が
増大する」という光学的原理により、旧来所有していた
ぐるぐるボケ(85mmと60mm)よりも、本レンズ
の35mmの方が、「ぐるぐるボケ」が良く出るのでは
なかろうか? という期待を持って購入したレンズ
である。ただ、焦点距離が短くなると、被写界深度が
深くなるので、その点は35mmレンズの方が不利だ。
しかし、本レンズはWD(ワーキング・ディスタンス)
が15cmと短く・・
(注:LENSBABY社の交換レンズ仕様表記が被写体から
センサー面までの「最短撮影距離」表記では無く、
「レンズ先端からの被写体距離」(最短WD)となって
いる事は、その記載の方が「短くて高性能に見える」
という意図が見えて、あまり好ましく無い。
他社レンズ製品では、ほぼ全てが「最短撮影距離」表記
とする事で統一されている為、LENSBABY社の製品だけ、
そのように特殊な仕様記載としている事は賛同出来ない。
---
なお、同様に、銀塩/デジタルのコンパクト機でも最短
WD表記となっているケースが殆どである。そのジャンル
では仕様表記の規制が緩いのかも知れないが、消費者側
から見ると、性能の比較がやり難く、困ってしまうし、
古い資料等でも、正確性に欠ける場合が多々ある。
---
具体例としては銀塩名機の「RICOH GR1」では、最短撮影
距離35cm表記と最短WD30cm表記が、資料毎でまちまち
となっているし、どちらの数値を、どちらの意味で使って
いるかを混用したり、これを転記した人が「最短30cm」
等と書いたら、ますます何だかわからない状況となる)
・・(WDが短い為に)被写界深度が浅く出来る事を
可能とし、その点でも「ぐるぐるボケ」を出し易い
かも知れない、という購入意図があったのだが・・

紹介の他のレンズと比べても、難しい類であった。
まあ、本レンズは4群6枚構成と、他の3群4枚型の
変形ペッツヴァール構成とは異なっている。
その差がどうなのか?と言うよりも、他のレンズ
での経験則が通用しないのだ、すなわち、どういう
条件でぐるぐるボケが良く発生するのか?の予想が、
他のレンズのケースよりも、さらに難しい。
そして、本レンズには「ゴールド・スライダー」
と呼ばれる特殊な操作子がついている。
(注:一部に「エフェクト・スライダー」表記あり、
この点でも、LENSBABY社内で既に、用語がまちまち
となっていて、あまり好ましい状況では無い)
これは、レンズ前面に、ドーム形状のフード状の
特殊部品が繰り出される事で、意図的に「口径食」
(注:この光学技術用語「口径食」には、様々な
意味があり、定義がとても曖昧だが、ここでは
「入射瞳が狭まる」という状態を指す)
・・を発生させ、結果的に「周辺光量落ち」
(注:他にも「周辺減光」や「ヴィネッテング」等
の光学用語が同様な意味で使われるが、残念ながら、
これも、用語や、その定義が不統一な状況だ。
ちなみに、ビギナー層が使う「トンネル効果」は、
俗語だし、他の分野の重要な技術用語でも同じ言葉が
あるので、完全に非推奨だ)
・・(周辺減光)を発生させる効能がある。
周辺光量落ちが出ると同時に、画面周辺で増大
する像面湾曲と非点収差を(作画上)目立たなく
させる事ができる。
しかしながら、それは「ぐるぐるボケ」レンズで
望む事とは逆効果だ。
だから、絞り値に加えてゴールド・スライダー迄
調整しながら、撮影距離等の撮影条件を整え、
思うような効果を得る事は、そう容易では無い。

している為、大多数の一眼レフやミラーレス機で
マウントアダプターを経由して装着できるのだが、
今回使用のEOS 6D(フルサイズ機)では、勿論
光学ファインダー機であるが故に、このぐるぐる
ボケの量や質の詳細を、ファインダーで確認する事
が困難だ。見えている映像と、実際に写る写真が
ずいぶんと雰囲気が異なるので、本来であれば
こうした、ぐるぐるボケレンズは、どれであっても
フルサイズのミラーレス機で使う事が賢明だ。
まあでも、記事上で全て同じ機体を異なるレンズ
の母艦とする事は、個人的には好まない措置であり、
母艦は各レンズの特徴や使用条件を鑑みて、それぞれ
必ず変える事としている。
総括だが、本BURNSIDE35は、ぐるぐるボケレンズ
の中では使いこなしが最難関、という感じである。
若干高価であるし、中古もまず流通しないので、
上級マニア層というより「フリーク」向けであろう。
----
では、本記事ラストの「ぐるぐるボケ」システム。

(新品購入価格 41,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
2019年に発売された、MF標準(フルサイズ対応)
「ぐるぐるボケ」レンズ。

場合により他のフルサイズミラーレス機用マウント
(Z,R,L)も発売されるかも知れない。
まあ、レンズメーカーとしても、これまでの時代の
ように一眼レフ用のマウントではなく、ミラーレス機
用マウントにした方が売れる、という判断なのだろう。
一眼レフ市場が縮退している世情なので、ますます
一眼レフユーザーには厳しい状況となるのだが、
注意するべき点は、新鋭マウントのミラーレス機は、
「そこで新しいレンズを高価に販売したい」という
メーカーや流通の意図(市場戦略)がある点だ。
旧来の一眼レフであれば、中古機体と中古の高性能
レンズを買う事で、数万円~高くとも20万円程度で
高性能の実用的撮影システムを組む事が出来たが、
新鋭ミラーレス機と、新鋭ミラーレス機用レンズを
新品で買っていたら、まともなシステムを組む為には
最低でも80万円以上の予算が必要になってしまう。
結局、「その高額出費をユーザーに強いる」事が、
新鋭(フルサイズ)ミラーレス機が生まれてきた目的で
あり、何故そんな事をするのか?と言えば「カメラが
売れていないから、より高価な物を作って売らないと、
メーカーも流通も事業が維持できない」からだ。
だから、消費者側とすれば、その理屈(市場原理)を
理解した上で、自分が新鋭機や高額機材を購入するか
否か?を見極めていかなくてはならない。そこは
絶対的価値観や、消費者側の志向やスキル等の
様々な要素がからむので、個人個人によって異なる。
「そのような最新機材で無くても写真は撮れるよ」
と思うならば、買わないという選択肢は有効であろう。
高価すぎる機材に消費者層が反発するならば、市場は
自ら適正価格に移行するからだ。
(カメラが高くなりすぎれば、安い製品が出て売れる、
そして、他社もその戦略に追従する。こういう歴史は
過去にも何度も実際にあった)

このレンズの特徴としては、以下の3つの機能が
備わっている事だ。
1)ぐるぐるボケをコントールする「BC環」
(Bokeh Controlの意味か?)が搭載されている。
(これの効能は後述する)
2)通常の絞り環を備えている。
(被写界深度の調整と、ぐるぐるボケの発生量
の制御の両方に役立つ)
3)ウォーターハウス絞り用のスロットを備えて
いる他、特殊形状絞り(星型、ハート型、太陽型、
雪の結晶型)プレートが付属している。
上記、BC環の原理と効能であるが、他の本レンズ紹介
記事でも述べているが、再掲すると以下の図となる。

等から提供されたものでは無い。(注:他の一般的
なレビュー記事等では、メーカー等の画像を勝手に
引用しているケースが多いが、それは著作権的には
まずい行為だ。まあ、メーカー等としても情報を拡散
して貰いたいから、黙認しているのだろうが、本来は
無断転用は、訴えられてもおかしくない)
・・メーカー側の資料では無いので、現物と同じで
正しい、という保証は無いが、このBC機構の光学的な
原理を説明する為の図だと思って貰えれば良い。
で、BC環を廻すと、上図の「可変BC」と赤で書かれた
部分の距離が変化する。この後群の2枚は、本来は
像面湾曲と非点収差等を補正する目的があるから、
ここの距離が変わってしまうと、それらの収差の
補正ができず、逆に増加する。つまり「ぐるぐるボケ」
の量(度合い)が増えたり減ったりする訳だ。
「ぐるぐるボケ」の量の「単位」は良くわからず、
無いかも知れない。「ペッツヴァール和」という
光学原理が近いと思うが、難解であるし、仮に、
それを、いくつであるとか、何%とかと書いても
良く意味がわからないと思う。
そこで、近年の初級中級マニア層の一部の間では
「ぐるぐるボケの度合い」を「回転数」という用語
(俗語)で呼んでいる模様だ。
なかなか言いえて妙ではあるが、実際のところは、
これまで述べてきたように、ぐるぐるボケの発生量は
レンズの仕様や性能だけで固定的に決まるものでは無く、
撮影条件によっても、動的に都度、変化するものだ。
だから各紹介レンズで、それぞれ固有の「回転数」が
異なるものでも無い。また、本PV55/1.7において
「BC環」を廻す事で、精密に「回転数」を制御できる
訳でも無い。
このあたりは、繰り返し述べているように「ぐるぐる
ボケ」レンズの使用上での難しさに直結する。

使いこなし難しいからダメなレンズか? というと
そういう訳でも無い事も確かであろう。
(参考記事:本シリーズ第11回、第12回、
「使いこなしが難しいレンズ特集」)
難しいレンズは、逆に、「テクニカル」(技術的・
技能的)な、「エンジョイ度」が高まる訳だ。
(つまり、難しいレンズを使いこなそうとする楽しさ)
本PV55/1.7は、ぐるぐるボケのコンローラビリティ
が高く、テクニカル的なエンジョイ度が高いレンズ
である。
個人評価での「エンジョイ度」評価は5点満点であり
総合評価も4.2点(5点満点)と、近年のレンズでは
久しぶりの名玉(注:総合評価が4点を超えると、
名玉と称するルールとしている)となっている。
これはもう、マニア層必携のレンズであろう。
----
さて、以下はおまけ(補足)システムだ。

(中古購入価格 30,000円)(以下、Velvet56/1.6)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2015年に発売された米国製単焦点MF中望遠レンズ。
いくつかの特殊な仕様を併せ持つユニークなレンズで、
「ソフトフォーカス描写」「1/2倍マクロ仕様」
「(僅かな)グルグルぼけ傾向」という特徴を持つ。
内、「ソフト+マクロ」については、その特性を持つ
レンズは極めて稀(実質的には、このVelvetシリーズ
を除いては皆無?)であるから、本Velvet56/1.6を
使う際には「ソフト+マクロ」として使わない限り
本レンズの特徴を活かす事にはならない。
まあでも、今回の記事は「ぐるぐるボケ」特集で
あるから、本Velvet56/1.6でも、僅かに発生する
その「ぐるぐるボケ」の例を1枚だけ掲載しておこう。

際に、α7/α7Sで発生する「センサー面とレンズ後玉間
による反射を起因とするゴースト」(参考:TAMRON社
等では、これを「画間反射」と呼んでいる模様だ)
であり、これを防ぐのは結構大変なので、個人的には
α7/α7Sの重欠点だと見なしている。
この為、α7/α7Sを「オールドレンズ母艦」とする
初級中級マニア層によくある傾向に対しては、
「ゴーストに十分注意する事」と述べておきたい。
なお、α7系Ⅱ型機以降は、未所有であるので、この
問題点が改善されているかどうかはわからないが、
原理的には、そう簡単には防げないので、恐らくだが
同じ状況であろう。
私は、その課題を鑑みて、α7系機体(だけ)を、
汎用オールドレンズ母艦とする事は、もう諦めている。
ゴーストの発生しない(しにくい)、他社機や他機を
必ず併用せざるを得ない状況だ。
余談はさておき、本Velvet56/1.6は、ソフトマクロ
としての用途が主力なので、ぐるぐるボケの発生を
主眼としての利用は出来ない。あくまで「条件が合えば
そういう描写も得られる」というくらいに思っておく
のが無難であろう。
----
本記事の総括であるが、「ぐるぐるボケ」レンズは、
どれも、それを制御する事が、極めて大変(困難)な
レンズ群である。
初級層等で「ぐるぐるボケが出たよ、ワ~、面白い」
という程度の興味や目的であれば、若干高価な、これら
を入手しても、使いこなせず、飽きてきて使わなくなり
出費が無駄になってしまう恐れもある。

向き合うのが良いであろう。
その際の最大のオススメは、4本目に紹介した
「Lomography New Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ」
となるだろう、BC環を含めたコントローラビリティの
高さは特筆ものである。
----
さて、今回の「ぐるぐるボケ・グランドスラム編」は、
このあたり迄で、次回記事に続く。