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レンズ・マニアックス(57)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介のマニアック
な所有レンズを主に紹介するシリーズ記事。

今回は、未紹介レンズ3本および、比較用として紹介済み
レンズ1本を取り上げる。なお、今回の記事は、マクロ
レンズ又は近接可能なレンズが多い為、昆虫等の小さい
被写体を中心に撮ってみよう。

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まず、今回最初の(未紹介)レンズ
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レンズは、YASHICA LENS ML MACRO 100mm/f3.5
(中古購入価格 20,000円)(以下、ML100/3.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)

詳細出自不明、恐らくは1980年前後に発売された、
フルサイズ対応MF中望遠ハーフ(1/2倍)マクロレンズ。
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1970年代初頭、西独カール・ツァイス社は、カメラ事業
からの撤退を決め、「CONTAX」のブランドを日本の
ヤシカ社に移譲する。ヤシカはすぐさま「CONTAX RTS」
(1975年、銀塩一眼第5回記事参照)を開発し発売する。

これは「国産CONTAXの誕生」として、当時ではかなり
センセーショナルな出来事であった。

おりしも日本では高度成長期がピークを迎えた頃であり、
(注:実際には、1975年時点ではオイルショックを
初めとする様々な要因で、既に高度成長期も終わり、
物価上昇もあって厳しい時代だ)・・という時期であり、
あまり事の本質を理解していない一般層や金満家等は、
「これでやっと、日本のカメラもドイツの高級ブランド
 に肩を並べるようになった」と誇りに思った訳だ。
(注:この考え方は、あまりドイツカメラ産業の歴史や、
その時代での状況を理解しているとは思えないが、まあ
世間一般層の考えとは、そういうものだ・・・)

RTS系一眼レフの交換レンズ群も「Carl Zeiss」銘では
あるのだが、当時ヤシカの傘下であった「富岡光学」が
その生産を担当した。
が、同年、ヤシカは何故か経営破綻してしまい(汗)
「京セラ」の資本投資で、なんとかカメラ事業を継続、
数年後には、ヤシカは京セラの完全子会社となる。

スタートダッシュの時点での、このヤシカのつまずき、
そして、「CONTAX」は世界的ビッグブランドでもあり
市場からの期待は大きい。それらの事情からCONTAX機の
開発は、いきなりスローペースとなり、その期間、RTSと
同じマウント(Y/C=ヤシカ・コンタックス、またはRTS
マウント、と呼ばれるバヨネット式マウント)を
採用したヤシカ「FR」シリーズMF一眼レフの販売を、
1977年より順次開始する。

この「FR」シリーズ、あるいは以降の「FX」シリーズ
(~1990年頃)用の交換レンズが、YASHICA (LENS)ML
と呼ばれるシリーズ製品である。

世間一般では、ビッグブランドの「CONTAX」(または
Carl Zeiss)に対する「廉価版のラインナップ」の
ように、このヤシカの製品群を捉えたのだが、海外市場
あるいはマニア層においては、「あのツァイスが技術力
を認めたヤシカ!」と、むしろ好意的に捉えられていて、
後年1990年代の第一次中古カメラブームの際等では、
「ヤシカのMLレンズはツァイスと同等、しかも安価!」
として、マニア層には大人気、一部のマニア層の間では
「富岡光学」製のレンズは「神格化」される程になる。
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・・さて、この様な歴史なのだが、マニア層などが
死蔵させてしまっているのか? あるいは、そもそも
「CONTAXの廉価版」と見なされて不人気であったのか?
現代において、ヤシカMLレンズ群が中古市場に出て
くるケースは、かなり少なく、いずれも「レアもの」
になっている。

で、それに加えて、ヤシカ製マクロは種類が少ない。
恐らくだが、M42時代以前では見当たらず、京セラの
傘下となったMLレンズの時代(1970年代後半~
1990年代。全てMFレンズ)に、本レンズを含めて
3機種が存在するだけではなかろうか?

その全てが、著名な「富岡光学」で作られていたか
どうかは不明である。
YSAHICA (ML)LENSは、当初の富岡光学製のみならず
後年には様々なレンズOEMメーカー(例:TOKINAや
COSINA等)で作られていたという情報もある。

そういう状況であると、例えば、COSINAやTOKINA
には、MF時代からAF時代にかけ100mm/F3.5 1/2倍
という仕様のレンズが存在している、それぞれ
過去記事で紹介済みであるが、それらと類似の
(またはOEMでの)設計である可能性もある。

それらの他社マクロの特徴を簡単に述べれば、典型的な
「平面マクロ」であった。これは、ピント面の解像感は
シャープに感じるが、ボケが固い、またはボケ質破綻が
頻繁に発生する、という特性を持つ(つまり、ボケ特性
には配慮していない、という設計コンセプト)

また、他の例を上げればきりが無いが、本レンズと
同時代の1970年代後半~1980年代初頭あたり
では、NIKONやKONICAの105mm/F4級マクロも
ほぼ同様な描写傾向を持つ。これらも恐らくだが
全て、5~6枚のシンプルなレンズ構成からなる
光学設計であり、当時での一般的なマクロレンズの
設計手法であろう。(注:NIKONは「ヘリアー型」だ)

なお、その「解像感重視」という設計コンセプトは、
当時のマクロレンズは、草花や昆虫の撮影といった
「屋外自然分野」の撮影よりも、屋内での、平面的な
文書や画像(絵画、図面、医療検体等)の「複写記録」
(アーカイブ)を主目的としていた事が理由だと思われる。
(=その時代、まだコピー機が普及しておらず、写真に
よる複写での資料保存が一般的であった)

本レンズも、若干だが、そういう(解像感重視)の
描写傾向がある。ただ、この時代以降1980年代では
各社のマクロは少しづつだが、解像感とボケ質の
バランスを取る設計コンセプトに変化していき、
1990年代での等倍(1倍、1対1)マクロの時代とも
なると、解像感重視の思想は完全に影を潜めた。
(=コピー機が普及したので、学術等でのアーカイブ
用途は減り、屋外自然撮影等に向く特性に変化した)
_c0032138_06470081.jpg
本レンズの長所短所はあまり無い。描写力については、
発売当時の全般的な「カリカリマクロ」の風潮からすると、
本レンズの描写傾向は、その時代としては標準的であり、
違和感のあるものでは無い。ただまあ、個人的には銀塩
時代においては、こういう特性のマクロはあまり好きでは
無かった。それは、1990年代の新鋭等倍マクロは、
柔らかく、バランスの取れた描写傾向であったのが、
この手のマクロは、いかにも固い描写に感じたからだ。

だが、現代において、こうした「カリカリマクロ」や
「平面マクロ」は、近代のマクロレンズや通常レンズ
では、まず得られない独特な描写表現特性として、
むしろ好むようになってきている。

後、購入価格が高価すぎた事も課題として挙げておく。
私は8本のYASHICA ML系レンズを所有しているが、
他は、いずれも数千円から、高くても1万円台前半で
入手できたのであるが、本レンズの2万円は高価だ。
これは、現在ヤシカのレンズが「レアもの」という事で、
若干のプレミアム相場となっているのが理由だと思うが、
そうはわかっていても、かつて中古市場で一度も見た事が
無い本レンズであるが故に、高値相場を甘んじる事とした。

だがまあ、性能と比較すると、やはりコスパ評価は
相当に低くなってしまう事は、やむを得ないであろう。
6000円~8000円というあたりが、妥当な相場だ。

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では、次は上記との「比較用」レンズである。
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レンズは、CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8 AEJ
(中古購入価格 82,000円)(以下、MP100/2.8)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

1980年代後半に発売と思われるMF中望遠等倍マクロ。
上記ML100/3.5との比較の為、ここでは同じDMC-G6を
母艦として使用する。
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さて、こちらは「神格化」されたレンズである。
前述のYASHICA MLレンズの上位ラインナップである
CONTAX (Carl Zeiss)のブランドでの発売。
発売時定価は不明であるが、私が本レンズを入手した
1990年代での定価は、198,000円(+税)と非常に
高額であった事を記憶している。

この高価な価格の為、本レンズはCONTAX党やマニア層
での憧れのレンズとなり、雑誌等のレビュー記事等でも、
「世界のツァイス」を悪く評価する事は許されない
世情でもあった為、皆、これを褒めちぎった。
運よく、この高価なレンズを入手できたオーナー層も
「さすがツァイス、大変よく写る」などの思い込み評価
しかしない為、本レンズは神格化されてしまった訳だ。

しかしながら、この価格帯を見てしまうと、当時の
YASHICAブランドの機材は、CONTAX/Zeissに対する廉価版
なのでは無く、場合により「CONTAX機材の価格を、より
押し上げる為に、意図的に挿入された下位ラインナップ」
のようにも思えてしまう。(注:他社でも同様な実例は
色々とある。例えば、2010年代にCANONは、EOS二桁D
一眼レフの価格を上げる為、下位機種EOS Kiss系との
間にEOS四桁D機(EOS 8000D等)のラインナップを
新たに挿入した。ユーザーから見て製品購入の選択肢が
増えるので、一見、悪い措置では無いと思えるが・・
これによりEOS二桁D機のコスパ要素が低下してしまい、
個人的には以降のEOS二桁D機の購入を避ける事とした)

(はたまた、うがった見方をすれば、これだけ高額な
定価にせざるを得ないのであれば、ツァイスのブランド
料は、相当に高額であったのか? そして、ヤシカが
一瞬で経営破綻したのも、やむを得なかったのか?
で、その後の30年間の国産CONTAXの歴史と悲劇を見れば、
”もしヤシカがCONTAXを買わなければ・・・”という
「歴史IF」のストーリーすらも思い浮かべてしまう)

そして、このMP100/2.8は、中古市場に極めて多数が
流通していた事も有名な事実だ。「そんなに神格化される
程に著名なレンズなのに、何故、中古品が沢山あるのか? 
何故、そのオーナーの多くが、優秀と思われる本レンズを
手放し、売却してしまうのか?」と、多くのマニア層は、
そうした疑問を持ち、定価の半額以下の安価な中古相場と
なった本レンズを、おそるおそる購入してみる・・

「ああ、これかぁ・・」と、本レンズを中古購入した
マニア層は、すぐ、その課題に気づく。

その詳細はこの記事で書くのは冗長になるので割愛する。
参考として、本シリーズ第11回記事「使いこなしが
困難なレンズ編(前編)」を参照していただければ
良いであろう、そこで本レンズは、使いこなしが困難な
レンズのワースト5位にランクインしているのだ。
_c0032138_06470706.jpg
使いこなしが困難ではあるが、悪い写りのレンズでは
無い、ただ、持ち出しても楽しめなかったり、あるいは
ビギナー層等では、そもそも本レンズを、まともには
使うことも出来ないであろう。

「上手く撮れないや」と、いわゆる「エンジョイ度」が
低いレンズとなり、滅多に使わずに死蔵させてしまうか、
それでは高額なレンズが勿体無いと思うならば、「高価に
売れるうちに・・」と売却処分してしまうのだろう。

高額な価格、あるいはCONTAX(ツァイス)という高名な
ブランドに翻弄されてしまった不運なレンズだ、とも
言えるであろう。

しかしまあ、現代においては、もうこのレンズが高価
すぎた事については不問だ、現代の中古相場も、そこそこ
安価になってきて、4万円台から入手可能である。

まあでも、この相場は、2010年代頃から、CONTAXの
機材が新規マニア層に再評価(というか、新しいマニアが
「伝説のCONTAX」に興味を持った。ミラーレス機の普及で
Y/C(RTS)マウントレンズが使いやすくなった事も理由だ)
・・再評価した為の中古相場のV字回復があった為であり、
2000年代末頃では、本MP100/2.8も、もう1本の人気
レンズPlanar 85mm/F1.4も、それらの中古相場は、
3万円台くらいまで落ち込んでいた状態であったのだ。

まあ、だから、現代においては、本レンズの真の性能を
その高価な価格とか、CONTAXやツァイスといった著名な
ブランドイメージに惑わされず、やっと正当に評価できる
状況になったと言えるのではなかろうか? 
(銀塩時代に、本レンズの悪口を言おうものなら、周囲
のCONTAX党等から、ふくろ叩きとなってしまう・汗)
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さて、やっと本MP100/2.8の話になるが、ここで本レンズ
が再掲されている理由は、前述のYASHICA ML100/3.5
との比較である。

両者は何が違うのか? まあ、開放F値がわずかに異なり、
MP100/2.8は大柄な等倍マクロである事は、見ただけでも
すぐわかる。レンズ構成は、MP100/2.8の方が1枚多い
のだが、そこはまあ設計思想によりけりであり、レンズが
多い方が良く写る、といった根拠は無い。

最大の違いは、その描写コンセプトであり、ML100/3.5
は解像感を重視した設計、と言えば聞こえは良いのだが、
反面、ボケ質への配慮は殆ど無く、平面被写体の描写に
特化した「平面マクロ」となっている。

本MP100/2.8は、解像感とボケ質の両者をバランス良く
配慮した設計だ。これは1990年代頃から各社で一般的に
なる、AF版等倍(中望遠、標準)マクロレンズの特性
コンセプトに近いのではあるが、この1980年代末頃に
この特性を実現できたのは、他社に比べて相当に先進的
であり、数年~10年近くも先を歩んでいた。
(注:名玉MINOLTA AF50/2.8Macroも、この時代であり、
本レンズと同様に先進的な立場のマクロであった)

まあ、もしかすると、他社は、このMP100/2.8の特性を
見て、自社のマクロレンズにおいても、それまで常識で
あった「平面マクロ」の特性を大幅に見直し、MP100/2.8
型の「バランスを重視した設計」に転換したのでは
なかろうか? とも思えてしまう。もし、そうであれば
本レンズは他社マクロに大きな影響を与えた歴史的価値
の高いマクロレンズとなるであろう。

しかし、「バランスが取れた設計」と言いながらも、
本MP100/2.8は、特定の条件で「ボケ質破綻」が発生する。
「その条件は、こうである」とは特定できない、例えば
撮影距離、背景距離、絞り値、背景の図柄、という要素が
複合的に関連し、ある条件でボケ質が汚くなるのだ。
・・まあ、大きく分けて「被写界深度に係わる要素」と、
「背景の図柄」の2項目だ、この組み合わせにより、稀に
ボケ質が破綻する。
(上写真では、ボケ質破綻が発生している)

この状況は、銀塩時代においても中上級マニア層等には
知られていたのだが、銀塩CONTAX機等での開放測光の
光学ファインダーでは、そのボケ質破綻は、撮影前には
確認出来ない。なので、現像から上がってきた写真を見て
「あちゃ~、ボケが汚いよ。これはプラナーボケだな!」
などと、がっかりしてしまう訳だ。

ここまではまあ当然と言えるが、一部の金満家マニア層
においては、本レンズには独国製造版、と言われる
バージョンが併売されていた為、その若干高価な西独版
を持ってして、「写りが悪いのは日本製だからだ、
このMade In West Germany版なら良く写るぞ!」と
根拠の全く無い機材自慢をされてしまい、さらには
可哀想にも、その根も葉もない噂を信じて、国内版を
手放し、西独版に買い換えるマニアまで出て来た!(汗)

まあ、言うまでも無いが、両者は同じ部品を使って生産
されている。一部のツァイスレンズで独国版が併売されて
いたのは、「全てが日本製だ」と言ってしまうと、海外
ブランドに付加価値を感じる初級ユーザー層等の反感を
買ってしまい、総合的なツァイスのブランドイメージが
低下してしまう事を嫌っての措置であろう。
(加えて、Carl Zeiss系の残存施設(工場・人員等)の
救済の意味もあって、一部のCONTAXレンズを西独で
アセンブリ(組み立て)をしていた状況も想像される)

で、1990年代の一部のCONTAX機では「データーバック」
というオプション部品を装着できた。それを用いると撮影した
フィルムのコマ毎の、絞り値やシャッター速度が記録できる。
これを見て「絞りがいくつの際に、ボケが汚くなるのか?」
という検証を行ったマニア層も(私も含めて)居たと思う。

だが、絞り値だけでは、ボケ質破綻の因果関係を把握する
のは無理だ。何故ならば、「ボケ質破綻は被写界深度と
関連する」と前述したが、その被写界深度を決める要素
としては、同じ焦点距離のレンズの場合、絞り値の他に
「撮影距離」「背景距離」が大きく関係してくるからだ。

さしもの「データーバック」でも、撮影距離までは記録
されない。あるいは1枚撮影する度に、メジャー(巻尺)
で、被写体までの距離を測って、それをノートに記録する
などの面倒な措置は取っていられない。
後年のデジタル時代における「EXIF」情報にも撮影距離は
書かれていない、AFセンサーからの距離情報を用いれば
現代のシステム環境では技術的に不可能では無さそうだが
EXIFの規格制定時には、撮影距離の件までは頭が廻って
いなかったのであろう。(あるいは、撮影距離を記載して
しまうと、AFの精度がモロバレになる事を嫌ったか?)

まあ、それはそうだ、1990年代の写真コンテスト等では
絞り値とシャッター速度を記入して応募する風潮はあった
が、そこでも撮影距離を記入した応募者は誰もいない。

しかし、絞り値とシャッター速度だけでは、写真撮影の
情報としては全然不足だ。撮影距離、背景距離、天候
または被写体での照度、照明角度、動体被写体の場合は
撮影地点からの相対角速度、フィルム等のISO感度や
その種類、などの詳細な環境や状況がわからなければ、
その撮影者の撮影環境(状況)は、絞り値とシャッター
速度だけの情報では、他では再現する事はできない。

まあ、写真コンテスト運営側でも、当然そうした事は
わかっていた事であろう。では何故、わざわざ絞り値や
シャッター速度を記載させるのか? 


ここは恐らくだが、「足切り」ではなかっただろうかと
思われる。つまり、絞り値やシャッター速度といった
写真撮影の基本すら理解または意識していない超ビギナー
層が、偶然良い写真が撮れたから、という理由で、それを
写真コンテストに応募して入選とかになったら、運営側
にとっても、受賞側にとっても、少々困った、場違いな
状況だ。だから「少なくとも、絞りやシャッター速度の
事がわかっている位のレベルで応募してきてください」
という理由だった、と推察している。
_c0032138_06471789.jpg
本MP100/2.8のボケ質破綻の回避は、かなり難しい、
また銀塩時代の機材環境(開放測光+光学ファインダー)
では、それは不可能であったとも言える。デジタル時代の
高精細なEVF搭載のミラーレス機+ボケ質破綻回避技法で
かろうじてボケ質の良い写真を選択できるし、それでも
偶然、という要素がまだ残っているため、ボケ質ブラケット
(=「下手な鉄砲、数撃てば当たる」方式)を併用して
かろうじてボケ質の良いカットを選べる、という状況だ。

しかし、そうやって、条件を整えたカットを選び出して
さえしまえば、冒頭のML100/3.5と、本MP100/2.8は、
値段やブランド力の差ほどの大差が無い事も気づく。
まあ、それが事の本質であって、要は、値段が高いとか
有名だから、という理由で、レンズの描写力が天と地ほど
には異なるものでは無いのだ。

「高価なレンズだから良く写る」と思うのは大誤解だ。
特に今回の比較組み合わせにおいては、高価なMP100/2.8
の方が、はるかに使いこなしが難しく、結果として、多くの
初級中級層では、本レンズのパフォーマンスを引き出して
撮影する事が大変に困難だ。そして、その事実をもってして、
本MP100/2.8が、1990年代以降、極めて大量に中古市場に
放出されていた理由(原因)もまた、うなずける。
まあつまり、誰もちゃんと使いこなせなかった訳だ・・

----
では、3本目のレンズ、以下は未紹介レンズとなる。
_c0032138_06471790.jpg
レンズは、TAMRON AF100-300mm/f5-6.3(Model 186D)
(ジャンク購入価格 2,000円)(以下、AF100-300)
カメラは、CANON EOS 8000D(APS-C機)

1998年に発売された、フルサイズ対応AF望遠ズーム。
_c0032138_06473463.jpg
とあるハードウェア・リサイクル店のジャンクコーナで
本レンズを見かけた際、「あれっ? 見慣れないレンズ
だなあ・・」と思ったのが第一印象だ。

まあ、それもその筈、銀塩末期に短期間だけ発売されて
いたレンズであるし、この時代のTAMRONレンズと言えば
高倍率ズーム(XR28-200やXR28-300)や90mmマクロが
市場では注目されていた訳であり、本レンズのような
平凡なスペックの望遠ズームレンズに注目する人は
少なかったと思われる。

中古市場でも殆ど見かけず、それ故に「珍しいレンズだ」
と思ってのサルベージ(ジャンク品等の中から「めぼしい」
品物であると見なし、引き上げて購入する事)である。

長所だが、まず、300mm望遠端で最短撮影距離1.5mを
実現、最大撮影倍率は0.25倍となる。
(注:今回はAPS-C機使用なので、さらに撮影倍率
は高くなり、およそ0.4倍だ)
_c0032138_06473469.jpg
なお、やや後年の2002年にTAMRONより発売の
AF28-300mm Ultra Zoom XR F/3.5-6.3 LD
Aspherical [IF] MACRO (Model A06)という、長い
名前の高倍率(高ズーム比)レンズは、300mm端で
最短撮影距離0.49mながら、最大撮影倍率は0.34倍
に留まっている、これは高倍率ズームの複雑な構造に
より、近接撮影ができても、さほど撮影倍率が
上がらない、という事で、同レンズを入手した際に
少々がっかりした仕様であった。(300mmで49cm
ならば、どんなに大きく写るのか?と期待していた)

まあでも、「近接できる」という事は、単に被写体を
大きく写す事のみならず、撮影アングルの自由度の高さ
(=近接できれば、360°どの角度からでも撮れる)
に直結する事となり、それはそれで便利だ。

本AF100-300の場合は、1,5mという距離からの撮影
となり、あまり寄れない。すなわち撮影アングルの
自由度は低いのだが、反面、WD(ワーキング・
ディスタンス)を長く取れる為、近寄れない被写体、
例えば、少し離れた距離の昆虫(トンボや蝶など)等
の撮影には向くという事となる。
ただ、やはり1.5mという距離は、微妙に遠く感じる
ケースも多い。

他の長所としては、300mm級レンズとしては軽量な
重量345gという点か?本ブログに登場した、他の
所有TAMRON製300mm級望遠ズームとしては、
MF時代のModel 23Aが926g、AF時代のModel 572Dが
435g、Model A06が420g、Model A005が765gと
なっているが、それらのどれよりも、本Model 186D
が軽量である。
_c0032138_06474046.jpg
短所であるが、全般的に解像感が低く感じる描写
傾向であり、少し絞って使うのが良さそうだ。
ただ、その際、ボケ質破綻が結構発生するレンズで
あるので、絞り値の設定は難しいし、そもそも
光学ファインダーの(デジタル)一眼レフでは
ボケ質破綻技法を用いるのは不可能に近い程困難だ。

また、システム的に、EFマウントでは手ブレ補正が
無いので、かなりの望遠画角(換算480mm)となる
事とあいまって、相当に手ブレし易い状態となる。
AUTO-ISO時の低速限界設定機能のある機種ならば
(注:EOS 8000Dには、その機能は無い)適宜、その
値を高めておくのが良いであろう(例:ビギナー層で
APS-C機使用ならば、1/500秒あたり)

AF速度、AF精度もやや不満であり、特に今回の母艦
EOS 8000Dは、AF性能もMF性能も低い機体なので、
300mm端で近接撮影時のピントは、かなり怪しい。
そして前述のように、1.5mの最短撮影距離は
少々長く感じ、最短を超えて踏み込んでしまう場合も
良くある。(その場合、勿論ピントは合わない)

他の課題としては「操作性」がある、二重回転式の
ズームリング&ピントリングは、この時代であれば
常識的な仕様ではあるが、MFズーム時代における
「ワンハンド・ズーム」のような速やかな操作は無理だ。
ピントリングがレンズ先端部にある事とあいまって、
MF操作性は相当に悪く、AFを主体にせざるを得ないが、
前述の通りAF速度・精度とも不満なシステムであるから、
なかなか使いこなしが難しい。

まあ、銀塩時代末期の近代ズームとは言え、まだまだ
仕様的・技術的には未成熟な印象を受ける。
しかしその分、テクニカル的に使いこなす為の練習用
(教材)レンズとしては悪く無い。

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では、今回ラストのシステム
_c0032138_06474031.jpg
レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
(中古購入価格 11,000円)(以下、七工匠55/1.4)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)

2018年頃発売の、中国製ミラーレス機(APS-C機以下)
専用、MF大口径標準(中望遠画角)レンズ。
従前の紹介レンズと同一だが、これは異なる個体で、
異マウントでの購入だ。
_c0032138_06474107.jpg
本シリーズ第38回記事で、μ4/3マウント版を初紹介、
本シリーズ第53回記事では、μ4/3→SONY Eの
変換アダプターを用いて、α6000に装着して紹介した。

その第53回記事では、本「七工匠55/1.4」が、
銀塩MF時代、1970年代~1980年頃の「プラナー系
85mm/F1.4」を、2/3程度にダウンサイジングして
設計された「ジェネリック・レンズ」ではなかろうか?
という仮説の元、プラナー85/1.4との比較検証を
行った。

その記事での結論としては、本「七工匠55/1.4」が、
優秀でコスパの優れたレンズである事が良くわかった。

記事の最後に「異マウント版があれば買い増ししたい」
と述べてあったのだが、その後、FUJI Xマウント版の
中古品を発見、それを追加購入した次第である。
_c0032138_06474151.jpg
本レンズの評価としては、従前の記事と同じだ。
よって詳細は大幅に割愛するが、簡単にあげておこう。

長所としては、以下がある。
1)過去の名玉、プラナー系85mm/F1.4のスケール
 ダウン版ジェネリックレンズである事。
2)ミラーレス機用の設計で、プラナー系レンズの弱点で
 あった、焦点移動、ボケ質破綻、ピント歩留まり、
 の全てが、ことごとく解消されている事。
3)銀塩プラナー系より、はるかに小型軽量な事
4)最短撮影距離が35cmと、なかなか優れている事。
5)絞り羽根枚数が14枚と多く、ボケ形状に優れる事。
6)価格が安価で、恐ろしくコスパが良い事。

弱点としては、
A)ボケ質破綻が頻繁に発生するのだが、その回避は
 そこそこ高難易度である。
B)逆光耐性が低く、光線状況によってはゴーストや
 フレアが酷い。が、この課題は容易に回避可能だ。
C)名玉のコピーと言っても、元々は、もう40年以上も
 前の設計のオールドレンズである、現代レンズと
 比較した描写力的な古さは隠し切れない。
D)FUJIFILM Xマウント機で使用の場合、母艦のMF性能
 から、ピント精度はあまり期待できない。

まあ細かい弱点はあるが、マニア層全般に推奨できる
レンズだ。安価なので、試しに買ってみるのも悪く無い。
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(注:上写真は「ボケ質破綻」が発生しているが、回避
しきれていない。これは、ボケ質破綻がどのような物か?
という点での参考まで)

それと、この中古個体には、未使用のフォーカスレバー
(指掛けレバー)が付属していた。銀塩時代のレンジ機
用レンズには、良くこういう機構があって、MF操作に
おいて使い易いのは確かであるが、こういう物を別付け
付属品で販売するとは珍しい(史上初か?)
しかし、この部品はゴム製で両面テープで接着して使う
という簡素な仕組みだ。そして、本七工匠55/1.4には、
上手く接着できるレンズ上のスペースが無い、という
課題もある。
ちなみに、この「フォーカスレバー」は700~800円と
比較的安価ではあるが、ゴム製なので、そんなものか。

それから、本レンズは2021年に、後継型のⅡ型が
発売されている。そちらは現状、未購入であるが、
描写力が若干改善されているという触れ込みなので、
いずれ入手しようと考えている。
ただでさえ高コスパの本レンズが、さらに描写力的
に改善されているならば好ましいが、若干だが
最短撮影距離が伸びてしまった弱点があるので、
後継型の購入は慌てないようにするつもりだ。

なお、Ⅱ型の新発売で、本初期型の販売価格は、
従来よりも、さらに下落している。

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さて、今回の第57回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。

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