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特殊レンズ・スーパーマニアックス(66)超広角マニアックス(前編)

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本シリーズは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介する記事群だ。

今回からは「超広角(レンズ)マニアックス」という主旨で、
実焦点距離が21mm以下の超広角(ただし特殊レンズを含む)
を、合計27本紹介する。本数が多いので前中後編に分け、
各記事で9本を取り上げる事とする。

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ではまず、最初のシステム
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レンズは、SIGMA 16mm/f1.4 DC DN | Contemporary
(中古購入価格 38,000円)(以下、C16/1.4)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)



2017年末に発売された、ミラーレス機(APS-C,μ4/3)対応
大口径広角レンズ。
_c0032138_15492176.jpg
さて、今回紹介の超広角レンズ群は、一眼レフやフルサイズ機
用に限定している訳ではない。「実際の焦点距離が21mm以下」
という条件であるので、小型センサー専用レンズ、具体的には
本C16/1.4のようなAPS-C(以下)専用レンズの場合、その
換算画角は、超広角とは呼び難いものもある。
さらにはμ4/3専用レンズや、PENTAX Q(1/1.7~1/2.3型)
専用、そして、産業用Cマウントレンズ(2/3型~1/2型対応)
等を様々交えて紹介するが、いずれも単焦点に限定する。

フルサイズ換算画角は、そのレンズを装着する母艦により
大きく変化する。
例えば、銀塩35mm判(フルサイズ)用の21mm超広角
レンズは、マウントアダプターを介して様々な機体に
装着可能であるが、その換算画角は、以下のような感じだ。


フルサイズ機=21mm
APS-C型機=約31.5mm
μ4/3機=約42mm
1型機=約57mm
1/1.7型機=約96mm
1/2.3型機=約116mm

また、それぞれのセンサーはアスペクト(縦横比)が異なる
場合があり、加えてカメラ設定でもアスペクトは変化する。
(例、3:2、4:3、1:1、16:9等)
アスペクトが変化すると、換算画角も変化する。厳密には
対角線長を計算し「対角線画角」を考慮するのが望ましいが、
まあ、その計算は「ピタゴラスの定理」で求まる。
今から2500年以上も前に考え出された定理なので、決して
難しい公式では無いのだが、平方根(ルート)が出て来る
ので、暗算で対角線長を求めるのは、かなり困難だ。


で、上記の一覧のように、センサーサイズが変わっただけで
21mmの超広角レンズであっても、100mm超えの望遠画角に
なってしまう事もある。必要な画角は、撮りたい被写体や
用途に応じて、システム全体で決めれば良いので、あまり
レンズの焦点距離自体には拘らない方がベターであろう。
(例:「10mm台の超広角が、どうしても欲しい」とか)

経験上、フルサイズ換算15mm未満の超々広角画角ともなる
と殆ど用途が無く、現在では、そういうレンズは、ほぼ所有

していない。(過去には所有していた事もあるが、あまりに
用途が無いので譲渡処分してしまっている)

ちなみに、魚眼レンズ(円周、対角線)における焦点距離
は、画角とは連動していない。例えば対角線魚眼であれば、
正式な物は、全て画角は180度近辺であり、焦点距離が
長くても短くても、写る範囲は基本的には同じである。
(よって、今回の記事では魚眼レンズは紹介していない)
_c0032138_15492298.jpg
さて、説明が長くなったが、本C16/1.4は、過去記事では
レンズマニアックス第15回記事、および本シリーズ第5回
記事でも紹介しているので、詳細は省略する。
簡単に特徴を述べて置くと、換算24mmの広角画角で、
開放F1.4の明るい口径比を誇る希少なレンズだ。

用途としては、暗いステージ系の撮影には最適であるが、
他の用途があまり思い付かない。またステージ系撮影でも
最前列やステージ上で撮影できるような特殊な環境、
例えば、リハーサルなどの記録撮影とか、そういう特別な
ケースでしか使えないであろう。(ステージ本番撮影では
前に出て撮っていたら、他の観客の邪魔になる)

まあ、他にあるとすれば、暗所のイベントでの会場全体
の撮影とか、そんな所である。
もし日中で使う場合は、F1.4は簡単にシャッター速度
オーバーになってしまうので、必ず絞り込んで使うか
ND4/ND8の減光フィルターを用いる必要がある。
絞り込んで使う位ならば、本レンズは大きく重いので
他の小口径広角を使う方が簡便だ。
本C16/1.4は、あくまで特殊用途専用レンズであり、あまり
一般層には推奨できないレンズとなる。

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では、次のシステム。
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レンズは、mEiKE (Meike) 12mm/f2.8
(新品購入価格 27,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)

近年(2018年頃)に発売された、中国製のAPS-C型対応
ミラーレス機用MF超広角単焦点レンズ。
レンズマニアックス第29回、本シリーズ第41回、第54回
と複数の記事で紹介済みの為、本記事での解説は最小限
とする。

まあ、一言でいえば「ジェネリック・レンズ」である。
カール・ツァイス(京セラCONTAX)のディスタゴン系の
設計をベースに、ミラーレス機用に転用したものであり、
基本的には良く写る。

初級中級マニア層が嫌がる「歪曲収差」や「周辺減光」
「逆光耐性」などについても、ほとんど問題は無い。
_c0032138_15493221.jpg
私の感覚では、中国製ジェネリックにしては、やや高価だ。
(注:近年では新品価格が低下してきている)
だがまあ、本家ディスタゴンは、この数倍から10倍も
高価であったので、それに比べればコスパは良いと言える。

弱点としては、やや大きく重い事、それからディスタゴン系
構成のレンズは、ピントの山が掴みづらい場合が殆どなので
MF操作はやや難しい。少し絞って、パンフォーカス気味で
使用するか、またはピーキング性能に優れたミラーレス機で
用いるのがベターであろう(注:FUJI機では、やや厳しい)

安価で高描写力な超広角として、中級層以上には十分に
推奨できるレンズである。また、初級層でも、MF操作に
不安が無く、被写界深度の原理を理解していれば、使用は
困難な事は無いであろう。

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さて、3本目はレンジファインダー機用のレンズ。
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レンズは、Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm/f4.5
(初期型)(注:変母音の記載は省略)
(中古購入価格 35,000円)(以下、SWH15/4.5)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

1999年に発売された、レンジ機用単焦点超広角レンズ。
ライカLマウント(M39/L39と記載、現代のライカ製
ミラーレス機用L-Mountとは異なる)対応品。
(注:レンズが傾いて装着されているが、これはLマウント
アダプター側の問題だ。この後、アダプターは調整済み)

発売当時、コシナが新規に取得した「フォクトレンダー」
の商標(ブランド)を印象づける為、思いっきりマニアック
に振って来たコンセプトのレンズである。

一応銀塩時代にも、15mm前後の焦点距離の超広角は存在
してはいたが、いずれも生産数(販売数)が少ない為
開発費等の償却で、かなり割高であった状況だが、
本レンズの場合は、定価は今となっては不明だが、およそ
6万円程度の価格帯で、一般層にも買える値段であった。
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本レンズとフォクトレンダー最初期のBESSA-L(目測式
カメラ)との組み合わせでの販売は、そのマニアックな
形態がマニア層を中心に評判となり、例えば、幻の名玉
と呼ばれた「ツァイス・ホロゴン」と比較するような
情報も流れ、大いに盛り上がり、「フォクトレンダーの
ブランドの名前を世の中に知らしめる」という意味では、
見事に成功したと言えるであろう。

本レンズは人気商品となり、短期間(単ロット)で生産を
打ち切る傾向の強いフォクトレンダーとしては、異例の
ロングセラー製品となり、発売後20年を超えて、Ⅱ型、
Ⅲ型、と生産が継続されている。
ただ、モデルチェンジの度に定価が上がっているので
現代のSWH15/4.5は、結構な高額レンズとなっている。
また、生産数が少ないので、本初期型は中古市場でも
殆ど出回らず、入手困難だ。

何故フォクトレンダーのレンズの生産数が少ないか?
は、上級マニア向けの企画商品であるからだ。
銀塩末期での上級マニア数は、公式記録は勿論無いが、
私の推測ではおよそ8000人。そして当時の市場では
この数を元に企画販売数が決められていたと思われる。

具体的には、上級マニアの1割が購入すると思われる
製品の生産数は800本、これが「最小ロット」である。
同様に、半数の場合は、4000本(台)などが生産数だ。
で、フォクトレンダー製品(レンズ)の場合は、
だいたいこの範囲での生産数となっていたと思われ、
それを売り切ってしまったら、もうその後の継続または
再生産は無い。だから後年での入手が、とても困難になり
場合により投機的観点からプレミアム相場となってしまう
事するある。


ロングセラーであった、スーパーワイドヘリアー15mm、
アポランター90mm、ノクトン58mm、等においても、
再生産を行う際には、外観や設計を大きく変更する等をして
もう旧来のままの製品では無い。まあ、これもまたマニア
向けの企画コンセプトであり、その時代、時代における
世代が変わった上級マニア層の目を引くようにしている訳だ。
そして、あわよくば、同一のベテランマニアにも、外観等が
大きく変わった新型レンズを、重複購入してもらいたい、
という意図もあるのかも知れない。

余談が長くなったが、この話の結論は、フォクトレンダー
製のマニアックなレンズを志向する場合、なんとしても
発売期間中に買っておかないと、後年には入手不能になる
場合がある、という事実である。

そして、1990年代後半での「第一次中古カメラブーム」
の際には、ネット環境はまだ普及していなかったが、逆に
マニア層の間で流れる口コミ情報伝達は、その質と速さに
ついては、現代のネット時代での情報伝達力を上回っていた。

何が違うか?というと「ガセネタ」の比率が現代の方が
多いのである、まあ情報量そのものは、勿論ネット時代の
現代の方が多いのだが、その質が悪いのだ。誰しもが
情報発信者に成り得る現代であるから、それは当然の
話なのだが、その結果として、正しい、または質の良い
情報が、それらの大量の「無意味な情報」の中に埋もれ、
わからなくなってしまう。

結果、現代においては、約20年前の中古ブームの頃に
比べ、他人からの情報が、あてにならない時代となって
しまっている。勿論いつの時代でも「ガセネタ」は多いが
「顔が見えない」ネット社会では、その情報の真偽を
判定するのが、極めて困難な訳だ。

この事がどんな影響を及ぼすか、と言うと、現代に
おいては、ユーザー数の少ないマニアックなレンズに
関する情報や評価は、ほとんど拡散しない(伝達されない)
よって、他者からの評価の無いレンズには興味を示さない
初級中級層においては、マニアックで流通数の少ない
レンズに関する情報を、まったくと言っていい程に
入手する事はできない。だから、フォクトレンダー製等の
一部のマニアックなレンズは、市場での評価が全くない
まま、ひっそりと販売終了となってしまう。

で、後年、5年や10年が経過した頃になって、どこかから
そうしたレンズの性能あるいは特異性を聞きつけた
新規初級マニア層等が「どうしても、あのレンズが欲しい」
などと言い出す訳だ。で、そういう話は良く伝わり易い。
希少なものを欲しがる人が多い場合、そのレンズは
「投機対象」となり、転売しても利益が出る事から、
そうしたレンズを実用品としない人達の間においても売買
が繰り返され、際限なく相場が吊り上がってしまうのだ。


これが現代においてレンズがプレミアム化する仕組みである。
実用派マニアからすれば、縁の無い世界だとは思うが、
大元の問題点としては、ユーザー自身がレンズに関する
価値感覚や購入コンセプトを持っていない、という点で
あろう。他人の意見に左右されず、あくまで自身の価値感
でレンズを購入すれば良い、ただそれだけの話である。

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さて、4本目のシステム、こちらは特殊レンズだ。
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レンズは、VS Technology VS-LD6.5
(発売時定価50,000円)
カメラは、PENTAX Q (1/2.3型機)

2000年代(?)発売と思われる、FA(工業)用低歪曲広角
近接専用、初期メガピクセル対応のMF単焦点レンズ。
口径比(開放F値)は「不定」であり、撮影倍率に応じて
だいたいF2.2~F2.4程度となる。


6.5mmの焦点距離だが、1/2型以下のセンサーサイズ
対応品であるので、今回のPENATX Qへの装着時には、
換算約35mmの準広角画角となり、超広角とは呼び難い。
_c0032138_15494668.jpg
本レンズは工業用という特殊用途であるし、
本シリーズ第1回「マシンビジョン編」等でも紹介済み
であるので、今回は詳細については割愛する。

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では、5本目の超広角システム
_c0032138_15494638.jpg
レンズは、SIGMA 20mm/f1.8 EX DG ASPHERICAL (RF)
(新品購入価格 44,000円)
カメラは、PENTAX K-5 (APS-C機)

2001年に発売された、銀塩フルサイズ/デジタル兼用の
AF大口径広角単焦点レンズ。
通称「SIGMA 広角3兄弟」として、本シリーズ第52回
記事等で紹介済みだ。

発売当時は、銀塩からデジタルへの転換期であり、
かつ、初期デジタル一眼レフの殆どがAPS-C型以下の
センサーサイズであった為、銀塩時代の交換レンズを
デジタル機で流用する際に、広角画角が不足する事へ
対応したコンセプトのSIGMA製レンズ群が「広角3兄弟」
である。
_c0032138_15494706.jpg
特徴は、いずれも大口径(開放F1.8)そして、最短撮影
距離が、どれも20cm以下と短い事である。
この結果、今まで見た事の無い「広角マクロ」的な描写
が(特に、銀塩機またはフルサイズ機)で得られた事が
最大の特徴である。

このシリーズは後にディスコン(生産完了)となり、
2010年代後半からは、Art Lineとしてリニューアル、
新シリーズでは、開放F値がF1.4となったのだが、
高付加価値化戦略により、大きく重く高価な「三重苦」
レンズとなってしまった、加えて最短撮影距離も
この時代の「広角3兄弟」程の短さは無い。
まあ、新Art Lineの広角単焦点は、今のところ未購入
なので、詳細な比較は避けよう。

これら広角3兄弟は、長所が多いが、描写力と逆光耐性の
面で若干の課題を持つ。新型Art Lineでは、そのあたりは
当然改良されていると思うので、いずれはそれら新型も
購入予定であるが、そうであっても、この広角3兄弟は
魅力的なスペックを持つので、単純にリプレイス(置き換え)
はせず、今後も併用していく事になるだろうと思う。

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さて、6本目はトイレンズだ。
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レンズは、Lomography Experimental Lens Kit
Wide-Angle Lens 12mm/f8
(新品購入価格 3,000円相当)(以下、LOMO12/8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 (μ4/3機)

2013年頃に発売された、μ4/3専用トイレンズ3本セット
(レンズ上の名称は「LOMOGRAPHY MICRO 4/3

EXPERIMENTAL」)の内の1本である。
3本セットで約9000円と安価であったが、後年には
在庫処分で、さらに安価になっていた。

本シリーズ第61回「LOMOマニアックス」記事でも紹介
済みであるし、過去に特集記事も書いた事がある為、
今回は詳細については大幅に割愛しよう。

_c0032138_15495225.jpg
まあ、ひとことで言えばLo-Fi描写のトイレンズではあるが、
トイレンズに期待する程の、強いLo-Fi感は無く、そこそこ
普通に写ってしまう事がむしろ課題であろう。
トイレンズを用いるからには、「アンコントローラブルな
Lo-Fi表現」は、どうしても欲しいからである。

アンコントローラブル(制御不能による不安定性)な要素
に関しては、今回母艦としているE-M1は(オフサイド状態
ではあるが)、ARTフィルターブラケット(多数のエフェクト
を連続/並列的に掛けられる)の機能を持ち、それの使用で
「思いも寄らぬ」効果を得る事で、アンコントローラブル性
の発生を目論んでいる。

E-M1は発売時(2013年)では、ハイエンド機ではあったが、
同時代からのフルサイズ機の台頭や、後継機の発売により、
後年には中古相場が大きく下落、買い易い機体となって
いたし、高速連写機でもある事から、減価償却(元を取る)
のも早く完了し、現在では、「トイレンズ母艦」としての
用途も持たせている次第である。

そして、近年の各社カメラは市場縮退による高付加価値化
戦略で、高価になりすぎていて、持論の「オフサイドの
法則」(レンズよりもカメラ本体をあまり高価にしない)
が守り難くなってしまっている。E-M1をトイレンズ母艦
に使うのでは、自慢の像面位相差AF機能が無意味になるが、
とは言え、他の要素(内蔵手ブレ補正等)は有効であるし
エフェクト機能も充実している。
ピーキングの操作性と、内蔵フラッシュ無しの課題を
除いては、E-M1は、トイレンズ母艦としての要件を満たす
為、レンズとカメラとでの総合パフォーマンスを得る上
では、オフサイド法則に拘る必要性は少ないであろう。
(追記:2020年のオリンパスのカメラ事業撤退後は、
さらに中古相場が下落。現代では二束三文だ・・
まあ逆に言えば、恐ろしくコスパが良い機体である)

本レンズLOMO12/8であるが、販売終了間際の在庫処分で
極めてコスパが良い。3本セットで新品価格が3000円以下
であれば、何も考えず入手しておくのが望ましいであろう。
(追記:2021年5月現在、1392円の投売り価格だ)

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さて、8本目もトイレンズだ。
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レンズは、PENTAX 04 TOY LENS WIDE 6.3mm/f7.1
(中古購入価格4,000円)
カメラは、PENTAX Q7(1/1.7型センサー機)

2010年代初頭に発売された、希少な「メーカー純正」
のトイレンズ群が「PENTAX ユニークレンズ」である。
これは4本が存在し、本シリーズ第16回記事等で、
その4本全てを紹介している。

(カメラ)メーカー純正のレンズである為に、
トイレンズと言っても、あまり極端な「Lo-Fi感」は
持たせてはいない。PENTAX Qシステムにおけるターゲット
ユーザーは、エントリー(入門)層やビギナー層が中心で
あったと思われ、そのユーザー層では、トイレンズの
存在意義や利用目的は理解できないだろうからだ。
(これらは匠の写真用語辞典第5回記事参照)

その状態において、あまりにLo-Fi感が強いレンズを
ビギナー層に売ってしまうと、「写りが悪い」とかの
本来のレンズの設計コンセプトとは異なる悪評が立って
しまいかねない。だから、このユニークレンズ群での
Lo-Fi感は控えめであり、結構まともに写ってしまう。

しかし、それが「トイレンズ」を実際に使いたい側から
すると不満事項に繋がってしまうのだ。トイレンズと
言うからには、思い切りLo-Fi感を出して欲しい訳だ。
なんとも中途半端な状態だが、原因はユーザー側での
未成熟であろう、「写真はHi-Fi(高画質)が王道」と
信じ込み、こういう真逆の用途がある事すら知らなければ
商品としては、こういう中途半端な仕様にせざるを得ない。


まあむしろ、「良く(カメラ)メーカーが、こんな個性的
なレンズの発売に漕ぎ付けたなぁ」と、そのチャレンジ
精神を評価するべきかも知れない。
_c0032138_15495305.jpg
余談だが、私は最近「西洋美術史」を良く勉強しているが
近代において「印象派」とか、さらには「フォービスム」、
「キュビスム」、「シュルレアリズム」、「抽象画」等の
新しい絵画分野(表現)が生まれた際には、それらを鑑賞
したり評価する側にも、大きなとまどいがあり、ほとんど
まともに評価されていなかった(むしろ批判の嵐であった)

つまり、この話も、アーティスト側の先進性に一般大衆が
ついて来れなかった訳である。これは残念な歴史だが
新しい概念が出て来た時にそうなるのは、世の常でもある。
でも、いずれ、そうした新分野の芸術スタイルは定着し、
例えば、後期印象派のゴッホの絵画や、ピカソのキュビスム
絵画等は、現代において、絵画の価値(評価額)としては、
最高クラスとなっている。 

写真においても、いつまでも「見たままを忠実に記録する
ものである、だから”真を写す”と書く」などといった
古い概念を、ずっと持ち続ける事は好ましく無い。
まあ、というか銀塩末期あたりから、そうしたHi-Fi志向
の写真分野は、すでに相当に廃れてきてしまっていた。
一番単純な例を挙げれば、カメラメーカーやフィルム
メーカーが販売店や一般顧客に配る販促用のカレンダー
等の写真は、1990年代までは綺麗な風景や美しい女優さん
などの写真が殆どであったのが、その後の時代では、
そうした被写体をカレンダーの写真で使う事は大幅に
減っている。もうそういう写真は「当たり前、目を引かない」
という世情になってしまっていた訳だ。

風景に限らず、いつまでも「被写体頼み、被写体の勝ち」
の写真を撮り続けている事は、現代での世情にあって
いない、もっと、「自分でしか撮れない写真」あるいは
「表現」を見ていくべきではなかろうか・・・
そういう時代背景においては、「トイレンズ」等の
使用も、十分に意味がある事だと思っている。

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さて、8本目は主旨を変えて古いコンパクト機である。
_c0032138_15495340.jpg
カメラは、CANON IXY Digital L2
(中古購入価格 500円)

2004年発売の古い単焦点(デジタル)コンパクト機。
レンズスペックは、39mm相当/f2.8の単焦点。
センサーサイズは小さく、1/2.5型であるので
レンズの実焦点距離は、6.4mmと短い。

中古価格が安価だったのは「充電器欠品」の理由による
ジャンク価格であるが、私は、IXY Digita L(2003年)
や本機の同型機を長らく愛用しているし、それらの機種
のバッテリーや充電器は共通なので何ら問題は無かった。

既に数年前の「コンパクト・デジタル・クラッシックス
第1回記事」等、多数の記事で紹介している機体の為に
重複する説明は大幅に割愛するが、まあ本機IXY L2の
最大の特徴(用途)としては「青空専用カメラ」に
特化してしまう事である。
_c0032138_15500080.jpg
当時、2000年代初頭のデジタルカメラの一部には、
技術的な課題から「青色発色」が、現実の色味とは異なり、
強調された青色となる事があった。一部のマニア層では
その事は「オリンパスブルー」等と呼ばれて珍重された
のではあるが、オリンパス機に限らず、青色発色の強い
機体は、この時代には色々と存在する。
(参照:画像処理プログラミングシリーズ第12回、
「オリンパス・ブルー」生成ソフトのプログラミング)

この特徴は、2000年代後半には撮像センサー関連の
技術的な進歩により失われてしまうのだが、その用途
(青空専用機)まで無くなってしまうのは惜しい為、
私はこの時代のIXY L系カメラをずっと使い続けている
次第だ。

ただ、その特徴が顕著なのは、初代IXY Lである。
しかし、その機体は2010年代に電気的故障に見舞われて
しまった為、やや青色発色の特徴は弱いのだが、2代目
のIXY L2を予備機を含めて2台入手し、この用途にのみ、
壊れるまで使い続けようとしている。

まあ、極めて特殊な機材使用コンセプトと言えよう、
カメラ自体の性能や機能は、古い時代であるが故に
現代機とは比較にならない低性能ではあるが、それでも
写真を撮る上で致命的なほどの性能の低さでは無い。

バッテリーに関しては、この時代か、やや前の時代の
各社コンパクト機では、数十枚撮っただけでバッテリー
切れとなるものが大半ではあったが、本機では200枚
程迄は撮影可能だ。「青空専用機」として、晴天の日中
しか使わないのであれば、この撮影枚数でも十分である。

現代において、本機を推奨する理由は何も無いし、
そもそもこういう古い時代のコンパクト機は中古流通も
殆ど無いので、「指名買い」は不可能に近いであろう。

でもまあ、「コンパクト・デジタル・クラッシックス」
のシリーズ記事数本を読み返して貰えばわかる事だが
この時代2000年代のコンパクト機は、個性的なものが
多かったので、非常に興味深い。
現代においては、コンパクト機の市場は完全にスマホに
席巻されてしまい、残っている機種は高付加価値化で
ハイスペックで高価なものばかりとなってしまったので、
マニア層であれば、2000年代コンパクト機を、現代に
おいて再び見直してみるのも悪く無いと思う。

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では、今回ラストのシステム
_c0032138_15500026.jpg
レンズは、NIKON Ai AF NIKKOR 20mm/f2.8S
(中古購入価格 30,000円)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

1989年発売のAF超広角単焦点レンズ。
本シリーズ第29回記事等で紹介済みである。

銀塩時代から所有してはいるが、あまり好みのレンズ
では無い為、現状では数年に一度くらいしか使用して
いない。そうした使用頻度の低さを鑑み、それでは
勿体無い為、できるだけ、そうしたレンズ群を記事で
紹介していこう(すなわち、記事執筆の為に使用する)
と思っている次第である。
_c0032138_15500048.jpg
何故、嫌いなレンズであるか?、と言えば、単純な話で
「コスパが悪い」からである。
何故コスパが悪いかは、銀塩時代においては20mmという
超広角を必要とするユーザー層は少なく、したがって
生産・販売本数も少なくなり、開発費や製造に係わる大きな
経費の償却が、少ない台数(本数)に割り当てられてしまう
為に、必然的にコスト高になってしまうからだ。

まあそれでも、パフォーマンス(性能や特徴)が高ければ、
コスパは悪くはならない、あくまでそれは「比率」だからだ。

しかし、本AiAF20/2.8のように、特筆すべき特徴的な
性能を持たず、ごく一般的なレンズであったならば、
コストとパフォーマンスの比は、どうしても悪化してしまう。

でもまあ、それは本AiAF20/2.8だけの話ではなく、
本シリーズ記事で紹介している「超広角」レンズ群の内、
トイレンズや特殊レンズを除いた本格的な超広角レンズの
殆ど全てに言える話であろう。
やはり販売数が少ないから「割高」になってしまうのだ。

この傾向は近年に至るほどに強く、例えば(未所有だが)
SIGMA Art 20mm/F1.4は、開放F1.4と明るいのでは
あるが、定価16万円と、相当に高額である。

でもこれは、高付加価値型商品であるから、販売本数の
少なさを利益率でカバーしようという狙いもある。
SIGMAに限らず、他の新鋭レンズも全て同様に高価だ。

・・で、ある意味、ここが現代の国内市場の弱点である。
つまり、市場縮退を受け、国内メーカーは、ユーザー層に
向けて安価なレンズを供給する事が出来ない状況だ。

この弱点をモロに突いてきたのが、近年急速に国内市場
に参入をしている中国製等の新鋭海外レンズ群である。
本記事でもMeike 12mm/F2.8を紹介しているが、その
新品価格は、本レンズの中古入手価格と同等以下であり、
さらに言えば、この中古相場は安価な類であって、後年
では本レンズあるいは後継機種では、さらに高額な中古
相場となってしまっている。

だから、コスパという面においては、新鋭海外製レンズ
の圧勝であるのだが、まあその話も、AFが無いとか、
手ブレ補正が無い事を必要以上に気にするビギナー層に
おいては、そのハイコスパの恩恵には預かれないので、
結局のところは、ユーザー次第という事なのだろう。

すなわち、レンズのコスパ(評価)というものも、
ユーザー次第(ニーズ)で、必ずまちまちになる訳だ。
他人の、あるいは本ブログにおいても、その評価内容を
見て、それにより購買行動を起こす必然性は無い、という
話であり、最終的には必ずユーザー(購買層)自身の
価値感覚や利用目的を持って、どの機材を購入していくか
を決める必要がある、まあ、そこは大原則であろう。


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では、今回の「超広角マニアックス(前編)」は、
このあたり迄で。次回中編記事に続く。

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