Quantcast
Channel: 【匠のデジタル工房・玄人専科】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

レンズ・マニアックス(49)補足編~高マニアック度B級編(前編)

$
0
0
今回は補足編として「高マニアック度B級編(前編)」
という主旨とする。
既に本シリーズ第21回~第23回記事で
「高マニアック度編」を掲載しているのだが、今回の
前後編は、マニアック度については「B級」編である。

「B級」とは、「一級品では無いが、それなりの良さが
あるもの」という意味である。
よって、本記事では「それなりにマニアックな」レンズを
8本取り上げるとしよう。(注:全レンズとも過去記事で
紹介済みにつき、個々のレンズの解説は簡単なものとする)
また、いずれのレンズも、一般的には非推奨のものであり
主に上級マニア層向けの記事となる。

----
まず、今回最初のB級マニアックレンズ。
_c0032138_06554750.jpg
レンズは、NIKON ぐぐっとマクロ (120mm/f4.5)
(中古購入価格 7,000円相当)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

特異なコンセプトによる「ニコン おもしろレンズ工房」
(限定販売製品。1995年初出、2000年再生産)
の3本セット中の1本である。
(詳細は特殊レンズ第13回「ニコンおもしろレンズ工房」
記事を参照の事)

このシステムは一種の「エントリーレンズ」であり、
バブル崩壊(1992年頃)や阪神淡路大震災(1995年)
により、消費が冷え込み、また、ユーザーニーズも変化し、
カメラ(銀塩AF一眼レフ)が、あまり売れなくなった事
への対応の為の企画商品だと思われる。

まあ、ユーザー層に「レンズ交換の楽しさ」を伝え、
その後の自社(ニコン)の様々な高級レンズの販売に
誘導する戦略商品だ。
その為、このシステムでは、一般(初級中級)ユーザー
層が絶対に持っていないだろう、特殊な交換レンズ、
具体的には20mm魚眼(風)、120mmマクロ兼90mmソフト、
400mm超望遠の3本がセットとなった販売で、2万円前後
の販売価格と、とても安価であった。
_c0032138_06554765.jpg
しかし、高付加価値型ビジネス(高性能・高品質な機材
を高価に売る)が基本のニコンであるから、こうした
「エントリー戦略」の実施には、とても慎重だ。
もし初級層等がこれを買って「ニコンを買ったぞ」と
満足してしまい、二度と交換レンズを買わなくなったら、
それはまずい事になる。

微妙なバランスの上に成り立つ市場戦略であり、こうした
戦略は、あまり前例も無かった事から(注:以降の時代
ではカメラ界でも他の商品分野でも「お試し版」戦略は、
いくらでも存在する)慎重を通り越して「不条理」とも
言える程の、様々な制限事項が、この「おもしろレンズ
工房」には掛けられてしまった。

具体的には、全てのレンズの絞り制御は出来ず、固定だ。
また、最短撮影距離は、いずれのレンズも恐ろしく長い
という性能上の制限がある。
流通上の制限としてはニコンの製品カタログには載って
おらず、特殊な販売ルートで発注しないと買えない。


また、「NIKON」というロゴ名がレンズ上には記載されて
無く「NIKON」と書かれたシールを貼って使う等である。
まあ、これは「正規のニコンの製品とは認められていない」
という意味であり、これでは市場戦略がちぐはぐであって、
「何の為のエントリーレンズなのか?」とも思ってしまう。

でもまあ、2010年前後のニコンのエントリー戦略での、
DX35/1.8やDX40/2.8等の新世代エントリーでは、
性能や仕様に出し惜しみしない、正しいエントリーレンズ
戦略を展開していたので、本システムの場合は、あくまで
時代的な未成熟により「恐る恐る」の慎重な対応であった
のだろう。

ニコン社外に企画と設計を依頼したのも、いざとなれば
外注として切り離し、ニコン本社には影響が出ないような
意図があったのかも知れない。(「これはウチの製品では
無い」、というスタンス。まあ、確かに慎重すぎる対応
であろう)

が、そういう逆境状態があったからか?
「おもしろレンズ工房」の光学設計は、様々な、限られた
制約事項の中で、たいへん良く纏めてあり、健闘している
様子が見られる。
その実例として、どのレンズも描写力は決して悪く無い。

開発者の談話では「これらはローコストレンズである」
という発言があったと記憶している。
「値段が安価であっても手は抜かないぞ」という技術者の
気概や良心が感じられる良質な設計だ。

まあ、(初代)ガンダムの名セリフに例えれば、
「ブランドなんてただの飾りです、偉い人にはソレが、
分からんのです」という、あのジオンのエンジニアの
名言を彷彿させるでは無いか。
_c0032138_06554790.jpg
さて、余談ばかりだが、本ぐぐっとマクロは絞りが無い為
被写界深度の調整が出来ず、また、最大撮影倍率も1/3倍に
制限されている。
「意地悪」とも言える「仕様的差別化」であるが・・
発売から四半世紀が経過した現代においては、この程度の
「差別」に負けない術(すべ)も色々とある。

具体的には、現代のμ4/3機に装着する事で240mm/F4.5
相当で、最短撮影距離64cmの2/3倍マクロとなり、
さらにデジタルテレコンを2倍とすれば、1.3倍と、
等倍を超えるマクロとなる。
(注:「さらにぐぐっとマクロ」の形態の話は省略)

焦点距離と最短撮影距離は「望遠マクロ」と同等であるから、
その手のレンズが必要な自然観察撮影分野等においては、
これで十分なスペックとなる。
(同様に、APS-C機で用いても良い)

被写界深度の調整は、そうした撮影分野ではあまり
必要性が無いのだが、「どうしても」という場合には、
ミラーレス機の多くに搭載されているデジタル拡大
(テレコン、デジタルズーム)をかけながら、
撮影距離を離して(遠ざかる)いく事で、
「見かけ上の被写界深度」を深める事が可能だ。
(注:または、後編集でのトリミング処理でも、ほぼ
等価だが、デジタル拡大併用の場合は、撮影時に構図と
被写界深度の関係を意識しながら撮影ができる事と、
後編集が不要な為、合理的な技法となる)

こうした銀塩時代にはありえなかった、高度なデジタル
撮影技法を駆使すれば、銀塩時代に、このシステムが
差別された事を見返す事ができ、なかなか気分が良い。

----
さて、次のシステムは、上記レンズを変形させて用いる。
_c0032138_06554744.jpg
レンズは、NIKON ふわっとソフト (90mm/f4.8)
(中古購入価格=上記マクロレンズに含まれる)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

同じレンズを「組み替える」事で、マクロレンズが
ソフトレンズに変身する、というのは、とても面白い
発想であり、ユニークでもあって、私が知る限り、
このような「ギミック」(仕掛け)を持つレンズは
他に存在しない。(注:光学系=オプティック交換型
レンズや、特殊な形状の絞り部品に交換可能なレンズ
は存在する)

これはまるで、「トランスフォーマー」だとか、
「変形モビルスーツ」のような感じであり、こういう
のは「男の子」が大好きなメカであろう。

ただ、本レンズも酷い「仕様的差別化」により、絞り環が
無い為、「ソフト量の調整が出来ない」という、作画上に
おいては致命的とも言える課題を抱える。
_c0032138_06555471.jpg
この「差別」に負けない為、対処方法を色々と考察して
みた・・

1)自作の絞り部品を入れるのは工作が面倒なので
  やっていない。

  ただし、この構造であれば、レンズ前玉部の前に
  簡単な絞り部品を置けば、なんとかなるかも知れず、
  LENSBABYやLOMOのトイレンズに付属する、単純な
  交換式絞りプレートを用いれば可能かも知れない。
  手先が器用な人であれば、こうした絞り部品を、
  固定・交換できるフォルダーを自作して試すのも
  悪く無いだろう。

2)機械式絞り羽根内蔵アダプターを用いるのはどうか?

  例えばNIKON F→EF(EOS)、EF→μ4/3(絞り羽根内蔵)
  を「アダプター2枚重ね」とすれば出来そうだ。
  ただ、この場合、絞りの位置がカメラ側に近い
 「視野絞り」だ。これはレンズ内部または主レンズの
  近辺にある「開口絞り」とは全く光学的効能が異なり、
  この方式では「露出値」(像の明るさ)は調整できる
  が、ソフト量の調整には殆ど効かない。(実験済み)

3)ソフト(軟焦点)化の原因となる収差を補正できないか?

  光学原理によると、軟焦点化の主因となる「球面収差」
  については、有効径を小さくすれば、その値の3乗に
  比例して減少する。
  まあだから、絞りを絞れば急速にソフト効果は減る。
  ・・ただ、であれば「有効径」を変える以外には、
  同一光学系(同じレンズ)上では球面収差を、
  補正できない、という事にもなってしまうから、
 (つまり、画角や撮影距離を変えても、ソフト量は
  変わらない)
  やはり、絞り部品を入れる以外に。ソフト量を
  調整する手段が無い。
 
  少しだけ考えられるのは、本「ふわっとソフト」は、
  最短撮影距離が40cmと短く、近接撮影を行う事で、
  露出(露光倍数)の公式
  (露出倍数=(1+撮影倍率)x(1+撮影倍率))
  によって、見かけ上の有効径を減らす、という
  対応の可能性はある。
  ただまあ、ここはその公式どおりにソフト量が
  減るかどうか?は不明であり、かつ、これを机上で
  計算する上ではフルサイズ時で撮影倍率は0.225倍、
  これの露出(露光)倍数は1.5倍にしかならない、
  そして有効径が1.5分の1だとすれば、球面収差は
  約1/3まで減少する、という計算結果だ。
  つまり、たいした効果は無く、一般ソフトレンズで、
  絞り値をF8やF11まで絞ってソフト効果を消す
  状況より、だいぶ緩い。
  そして近接撮影時しか、この効能は得られない。
 (だから、この対処方法は、あくまで机上の理論に
  過ぎない)

  そして、ソフト量の感覚的な判断はやりにくい。
  画像処理のアルゴリズムを自力で考え出し、
 「ソフト量判定ソフト」を作ろうか?とも一瞬思ったが、
  考察した範囲では、そう簡単な物ではなく、もし
  それを自作するならば、概ね、軽く1年がかりと
  なってしまうだろう、まあそれは今はやめておこう。
 (気が向けば、将来にはやるかも?)

4)レタッチ編集(シャープネス効果)を掛ける。

  正確には、ソフト効果の反対処理は「シャープネス」
  では無く、微妙に異なるであろう。
  でもまあ、見た目の感覚的には、ソフト量が減少して
  いる風にも見えるかも知れない。
  ただまあ、これは被写体状況によっては、「ハロ」の
  発生などが関係し、これはシャープネス処理では
  中和できないと思うので、実際に、レタッチ編集処理
  が多くの撮影条件で、ソフト量の調節編集に有効か
  どうか?は疑問だ。(追記:記事執筆後に、ソフト
  効果とシャープネス効果を併用できるソフトウェア
  を自作してみたが、あまり効果的ではなかった)

・・という事で、本「ふわっとソフト」に係わる意地悪な
「仕様的差別化」を、現代の様々な環境と技術、知識と
アイデアで回避できるか?と考えたが、それは、さほど
簡単なものでは無さそうだ。

まあ良い、写真を撮る上でちゃんとしたソフト効果が
欲しいならば専門のソフトレンズは他に色々と持っている、
当面はそれらを使おう。
(特殊レンズ第7回「ソフトレンズ編」参照)

だが、こうした「意地悪」な商品を、メーカーが言うが
ままの状態で使うのは、かなり悔しい。
もう少し色々と考え、回避手段を模索していく事としよう。
すなわち、それは「ユーザーの意地」であるからだ。

初級中級層では「お金を出して高性能な機材を買えば、
それで自身のスキル不足をカバーできる」と考えてしまう
のが(残念ながら)普通であって、逆に言えば「性能の
低い機材は、ダメ機材だ」と断定してしまう風潮がある。

しかし、上級レベルを目指すならば、どんな低性能な
機材でも、その弱点を、知恵や技能で回避する事が
「ユーザーの責務」であると思う。
勿論限界はあるだろうが、そう考えるか否か? つまり
機材の性能に頼りきって写真を撮る事が正しいか否か?
を普段から意識しているのと、していないのでは、
いずれ雲泥の差が出来てくる事であろう。

その「向上心」や「知的好奇心」も、一種の「マニア道」
であろうし、あるいはマニア層でなくても、向上心を
持つ事は必須だと思う。
それをしないならば、もはや「趣味」ではなく、単に
湯水のようにお金を使うだけの「道楽」に過ぎないとも
思ってしまう。

----
さて、次のシステムは、超大口径だ。
_c0032138_06555464.jpg
レンズは、中一光学 SPEEDMASTER 35mm/f0.95 Ⅱ
(新品購入価格 63,000円)(以下、SM35/0.95)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)

2016年に発売された中国製の超大口径MF標準画角レンズ。

本ブログでは開放F1.0以下の交換レンズを「超大口径」
と称しているが、その条件に当てはまるレンズは、
市販数も所有数も、さほど種類が多くは無い。
(特殊レンズ第25回「超大口径」編参照)

普通、F0.95もの超大口径というと、とてつもない大きさ
のものを想像するかもしれないが、本レンズのような
APS-C機以下専用や、μ4/3機用の超大口径であれば
一般レンズと同様なサイズ感であり、本レンズの場合は、
重量は440g、フィルター径φ55mmと、コンパクトだ。
特に本レンズはⅡ型であり、MITAKON銘の初期型に
比べて大幅な小型軽量化を実現している模様だ。
(注:・・とは言うものの、MITAKON銘の初期型は
国内流通は皆無なので、比較のしようがない)
_c0032138_06555470.jpg
「超大口径」レンズの魅力(長所)であるが、一般的な
被写体を(浅い被写界深度により)まるで立体的に浮かび
上がらせるような、独特の描写傾向が得られる事だ。

この傾向は近接撮影になる程強くなる。フォクトレンダー製
NOKTONは寄れる仕様が特徴だが、本レンズSM35/0.95は、
最短撮影距離が35cmと、さほどでは無く、その辺が不満だ。

なお「暗所での撮影に強い」という印象があるかも
知れないが・・ まあ、F0.95といっても、一般的な
F1.4級大口径レンズの2倍強程の明るさしかない。
よって、現代の(超)高感度カメラを母艦とするならば、
ISO感度が1段変わる程度で撮れるので、F0.95もF1.4も
大差ないとも言える。
そして、そもそもF値は、焦点距離と有効径の比で
しかないので、実際のT値(実効F値)は、レンズの
構成や(総合)透過率等により、まちまちであろう。
(=開放F値は、単なる参考値では?という推測)

しかし、銀塩時代であれば、フィルムの感度が低く、
少しでも口径比(開放F値)を明るくしたいニーズは
あったのだが・・ 現代のデジタル時代では、その
メリットはあまり大きくは無い。
_c0032138_06555454.jpg
弱点であるが、「超大口径」レンズの多くはMFレンズ
であり、ピント合わせが、かなり高難易度である。
特に近接撮影では、被写界深度が相当(極端)に浅く、
その困難さが助長される。

それと、最大の弱点は「超大口径レンズは、どれも
画質が悪い」という事が言えると思う。

これには「収差」という要素が絡んでくる。
詳細は、専門的になりすぎる為に割愛するが、例えば
匠の写真用語辞典第29回記事に、絞り値の変動により
増減する収差の種類を挙げている。

すなわち、「開放F値(口径比)を明るくすると、
どんどんと画質が悪くなっていくので、そうならない
ようにする設計が大変だ」という意味である。

まあ、現代でのコンピューター光学設計技術を活用すれば、
超大口径でも、そこそこの画質を得るような設計は
可能だとは思うが、例えばその結果として、非常に大きく
重く高価な三重苦レンズとなったら、商品には成り得ない
かも知れない訳だから、実用的に耐えうる範囲の仕様の
レンズにしたい場合には、ある程度、収差の補正
(描写力の向上)は犠牲にせざるを得ない状況だ。
(例:NIKON Z 58mm/f0.95 は、126万円という高額だ)
(追記:2020年に発売された、フォクトレンダーNOKTON
60mm/F0.95は、そこそこ画質が良く、気に入っている。
が、これもかなり大柄なレンズである)

で、本レンズのような妥協した仕様の超大口径レンズで
あっても、絞りをある程度絞れば、画質は向上するが、
それでは超大口径を使う意味・意義と矛盾してしまう。
よって、超大口径は利用法が極めて難しいレンズであり、
まあつまり「用途開発が困難である」という事にも繋がる。

私も、安価な(実売10万円程度迄)超大口径レンズが
市場に出始めた2010年代では、興味があって、これらを
3本ほど購入したのだが、実際の(実用的な)用途の
少なさには辟易してしまっていて、その後、こうした
超大口径レンズへの興味は、少し醒めてしまった。
まあ、「怖いもの見たさ」(汗)には、良いかも知れない。
いや、良い言葉で言えば「知的好奇心」と言うべきか・・

----
さて、4本目は特殊システムである。
_c0032138_06560763.jpg
ユニットは、RICOH GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO
(APS-C型)(中古購入価格 20,000円)(以下、A50/2.5)
カメラは、RICOH GXR (中古購入価格 10,000円相当)

2009年に発売された本体とユニットである。
レンズと撮像センサー(APS-C型等)が一体化された特殊な
ユニット交換式システムであり、この実用化例は極めて
少なく、一般に知られている(普及している)範囲では、
本GXRシステムが唯一であろう。

発売時は高価(すぎる)であった為、年月が経った2015年
頃での入手。が、GXRシステムの中でも、本A50/2.5は
個人的な「ツボ」にハマってしまい、かなりお気に入りの
ユニット(レンズ)となった。その後、多くの本ブログ
記事で何度も本システムを紹介しているので、内容が
重複する為、本記事では詳細は割愛する。
(特殊レンズ第10回「RICOH GXR」編記事等を参照)

しかし、愛用していたA50/2.5ユニットが、2018年位に
電気的故障に見舞われてしまい、修理対応が困難だった為
買い直している。ユニット単体では中古の玉数が少なくて
買えずに、本体とセットでの再購入となり、今回紹介機は、
その「買いなおし」品である。
_c0032138_06560764.jpg
長所は高い描写力。およそ、コンパクト機のような
ミニマルな外観から出てくる画(え)ではなく、一眼レフ
での、本格的なマクロシステムに勝るとも劣らない。

弱点は、当時の貧弱なコントラストAFでは、全くと言って
いい程ピントが合わず、回避手段としてのMF性能も低く、
殆どピントが合わないイライラ状態が生じる事である。
よって、「エンジョイ度」が低評価となるシステムだ。

GXRは「閉じたシステム」である為、後年の技術革新に
対応できる要素が少なかった事も、本システムが短期間で
絶滅してしまった要因となったであろう。

例えば、2010年代前半には「像面位相差AF技術」が各社で
開発されたが、GXR本体にそれを搭載しても意味が無く、
その場合には、新型ユニットに買い換えてもらわないと
ならない。
既存ユーザー層に対し、これまでの所有機材を否定する
ような販売戦略はさすがに取れず、結果的にGXRシステム
は、技術的な発展の余地を閉ざされて、後継機も出せず、
短命に終わったのであろう。

まあ考えてみればわかる事ではあったので、GXRシステム
の発売後に、他社が同様な「ユニット交換式システム」に
追従しなかったのは、こうした、将来の課題を鑑みての
判断であったのかも知れない訳だ。

それに、仮に像面位相差AF機構を搭載したからと言って、
近接撮影で距離エンコードテーブルのビット精度が不足
する状況において、正しくピントが合う保証は無い。
マクロレンズなのに近接撮影が困難という状況は致命的で
あって、その為に1/2倍までに留めたのだろうが、それでも
合わないし、結局、製品コンセプト上の矛盾を感じる。

ある意味、とてもユニークではあったが、悲運なシステム
である。
ただまあ、現代の視点からは、よくこうしたユニークな
機構に挑戦したと評価でき、「歴史的価値」は極めて高い。

そして、現在においては「仕様老朽化寿命」が甚だしく、
実用目的には耐えられない状況であり、今から購入の
推奨は全く出来ない状態ではあるが、実際の「1つの歴史」
を研究する為の資料としての価値は大きいシステムだ。

----
では、5本目のシステム。
_c0032138_06560762.jpg
レンズは、PEMTAX SMC TAKUMAR 120mm/f2.8
(中古購入価格 20,000円)(以下、SMCT120/2.8)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

1970年代前半頃に発売と思われる、MF単焦点中望遠。
M42マウント品である。
(注:実際のレンズ上での型番表記は、正確には
「ASAHI Opt. Co. JAPAN Super-Multi-Coated TAKUMAR
1:2.8/120」となっている。こうした表記法は、
同じPENTAX製レンズでも、時代により異なっている)

変則焦点距離ではあるが、オーソドックスなスペック
であり、これの何処がマニアックなんだ?という疑問も
あるかも知れない。

だが、このレンズに関しては、その出自や設計コンセプト
がユニークなのだ。長くなるが、それを解説して行こう。
_c0032138_06560706.jpg
本レンズ発売の頃は「一眼レフが一般層にまで普及した」
時代である。レンズ交換が可能なカメラを入手した事で、
一眼レフ購入時にキットレンズとして付属していた
「標準レンズ」の他にも、「広角レンズや望遠レンズが
欲しい」と、多くのユーザー層は思った事であろう。

その際、広角レンズとしては「35mm」がある。
現代の感覚では「あれ? 広角といったら28mmでは?」
と思うかも知れないが、28mmレンズが普及するのは、
もう、ほんの数年ほど後の時代だ。


そして望遠レンズと言えば「135mm」である。
こちらは、ほぼノーチョイスであったから、多くの
一眼レフユーザーが購入し、今から40年も50年も前の、
この頃の135mmMF単焦点が、現代に至るまで中古市場
には多く流通している(だが、あまりにポピュラーで
あったので、現代では、これらは「程度」が良くても、
二束三文のジャンク価格である)

レンズの焦点距離の系列は、戦前にライカ(エルンスト・
ライツ社)が制定した、と言われている。まあ、その前に
(各社まちまちであった)フィルムのサイズを規定して、
36mmx24mmとしたのもライカであった。(→この
(35mm判)フィルムは、その後長らく「ライカ判」とも
言われていた。注:「版」ではなく「判」だ。「版」は
バージョンを示し、「判」はサイズを表すという解釈となる)

ライカの焦点距離系列では、28mm,35mm,50mm,
(75mm),90mm,135mm・・という感じであった。

この数字の根拠は不明であるが、だいたい画角が、
1.5倍づつ変化し、かつキリの良い(覚え易い)数値
である事が理由であろう。

ちなみに、一般に良く言う「50mmは人間の視野の画角」
の俗説は誤りであって、人間の視野はもっとずっと広い。
(参考:同様に「F1.0は人間の目の明るさ」という
俗説も大きな誤りだ、人間の目はもっと暗い)

でも、ライカはレンジファインダー機だ。望遠になる程に
機構上でピント精度が出ない。だから、レンジ機の主力
レンズは、概ね標準(50mm)画角以下が主流となり、
あまり望遠を使うユーザーは多くは無い。
(参考:かつ、ミラーボックスの無いレンジ機は
広角レンズの設計要件が、一眼レフよりも有利となる)
逆に、一眼レフでは、構造上、望遠レンズが使い易い。
だから、銀塩時代であれば、「広角をレンジ機」とし
「望遠を一眼レフ」とする用法は、合理的であって、
悪く無かった。

さて、一眼レフで135mmレンズを使おうとするのだが、
1960年代迄の写真撮影技法は、ほぼ三脚を必須とする
状況であったが、本レンズの発売頃の時代では、一眼レフ
の一般層への普及とともに、カメラの小型化も積極的に
推進され、さらには50mm/F1.4級の大口径レンズも
完成度が高まり、絞りを開けて撮っても画質の低下は
最小限となった。
また、フィルム感度も、少しづつ高感度化して行く。

この状況であれば、撮影技法上の制限が大きくて、
ハンドリング性能に劣る三脚を使わず、「手持ち撮影」
が推奨されるのは当然の道理である。
時代は急速に「カメラの手持ち撮影化」が進んだ訳だ。

さて、この状態でユーザー層の不安は「手ブレ」である。
望遠レンズでは特に問題となり、低感度フィルムもまだ
多く(注:当時の殆どの一眼レフの最高シャッター速度は
1/1000秒であり、ISO50~100程度の低感度フィルムを
使用しないと、シャッター速度オーバーになって撮れない)
また、135mmレンズの開放F値もF2.8は稀であり、
普通はF3.5~F4程度と、暗いものが一般的だ。

ここでビギナー層での135mm望遠レンズの手ブレ限界速度
を考察すると、通常では焦点距離分の1、つまり1/135秒
以上となり、これは1段刻み露出では、1/250秒となる。

ただ、これだと、この当時の機材環境では、少々厳しく、
1/250秒が得られない撮影条件で、かつ、手持ち撮影に
慣れていない旧三脚派層では手ブレしてしまい、加えて、
それの回避の為の技能も知識も殆ど持って無い。

そこで当時のPENTAXでは「1/125秒を手ブレ限界とする」
設計要件(設計仕様、設計基準)(→注:このように
設計開発で「決めねばならない事」は、多数ある為
「設計基準と言えば、近接か無限遠時の画質の事だ」
と、たった1つに限定してしまう俗説は誤りである)
・・とし、これに合致するレンズの開発を始める。
具体的には、120mmレンズがそれであり、本レンズが
まさしく、その緩和された「手持ち用望遠レンズ」だ。

まあつまり、PENTAXでは、数十年前にライカが決めた
焦点距離系列が、現代(当時)の機材環境に合わないと
思って、独自の焦点距離系列を使う事を考え始めた訳だ。

この発想は、その後の時代にもずっと引き継がれて行き、
120mmの他、30mm、40mm、150mm、43mm、
77mm、31mm等の、いわゆる「変則焦点距離レンズ」
を発売するケースが増えていく。

それぞれの焦点距離には、PENTAX流の理由が存在する
のだろうが、それは一種のノウハウであるから、
他社や一般層等へは、あまり公言する事は出来ない。

そこで、本レンズSMCT120/2.8の開発時にPENTAXは
「標準レンズの2.5倍の焦点距離迄ならば手ブレし難い」
という、外向きの(つまり、ウソの)理由を発表した。

これを正しく言えば「ビギナー層が1/125秒のシャッター
速度で手ブレしない限界の焦点距離は120mmである」
という事であり、そして、できれば開放F値は少しでも
明るい方がシャッター速度キープの為には望ましいから、
F2.8が採用されたのであろう。

・・ここまでは何も問題無い、外向きの発表で真意を
言わないのは、「企業秘密」だから当然であろうし、
良く独自の設計思想を考え出していて、好ましいし、
とても合理的な設計コンセプトだ。

ただ・・ 現代の視点で本レンズを見ると、「やや重い」
のである、ちょっとこれでは取り回しが難しい。

なお、「重たいレンズや重たいカメラの方がブレにくい」
というのは、一見正しいようでも根拠の無い話であり、
これもまた単なる俗説だろう。
疑問に思うならば、重いシステムと軽いシステムを
用意して、徹底的に撮り比べてみたらわかるであろう。

(参考:MFレンズにおけるレンズ上での操作要素が
カメラとの総合システム重心を支える上で、使い易い
か否か?という視点ならば、上記は有り得る話である。
ただ、銀塩AF期から以降のレンズで、ピントリングは
操作せず、絞り値もカメラ本体側からの操作であれば
左手の役割は無くなり、単にレンズを支えているだけ
の状態となる。この場合は、カメラ本体側は軽い方が
総合重量が低減して、ハンドリング的に有利となる)

単に「巷で広まっているだけの俗説」を無闇に信じて、
自分で試しもせずに、それを他に伝えるだけの状況は
好ましく無い。
どんな事でも必ず、自分自身で試してみる必要があり、
それをしないならば、単に俗説や流言を他に伝えて拡散
しているだけの無価値な行動(伝言ゲーム)になってしまう。

さて、本レンズは重たい(凝縮感があり重く感じる)ので
ハンドリングに負担が生じる。場合によりビギナー層では、
やはり、手ブレしやすいであろう。

もう少し軽くできれば、設計思想である「ビギナーでも
手ブレし難い」レンズとなっただろうに、惜しい話だが、
その対応の為に開放F値がF3.5やF4となったら、今度は
ビギナー層では、「廉価版だ。安かろう、悪かろう」と
誤解してしまうので、レンズが売れなくなってしまう。
(ここも残念な話である。同様の設計手法であれば、
開放F値が暗い方が高画質なのだ)

ただまあ、このあたりの裏の事情やからくりが、全て
わかった状態で本レンズを使うならば、本レンズの
もう1つの隠れたコンセプトが見えてくる。
_c0032138_06561286.jpg
それは「かなり高画質である」というポイント(長所)だ。
始まったばかりのSMC(多層)コーティング技術と
あいまって、この当時の他社レンズの性能と比較すると、
頭1つも2つも飛びぬけた高性能中望遠レンズである。

しかし残念ながら、120mmという中途半端なスペックは
当時のユーザー層には受け入れられなかった。
それはまあ大量生産の135mmレンズの方が安価であるし、
勿論、より「望遠」である。

だから本SMCT120/2.8は売れず、非常にレアとなっていて、
後年の中古市場においても、滅多に見かける事は無かった。
まあつまり、マニアック度の高いレンズであった訳だ。

銀塩時代での中古価格2万円は、正直、希少価値プレミアム
となっていて高価すぎた。これがもし、当時において他の
135mm級レンズ中古と同様の、1万円台前半くらいで買えた
ならばコスパ点が極めて良くなり、近年の本ブログでの
ハイコスパ系ランキングにもノミネートされただろうに
惜しい限りである・・

----
さて、6本目のシステムは、トイレンズである。
_c0032138_06561248.jpg
レンズは、LOREO PC IN A CAP 35mm/f11
(新品購入価格 2,000円)(以下 PC IN A CAP)
カメラは、SONY α65(APS-C機)

2005年発売のボディキャップ(風)パンフォーカス
(トイ)レンズ。

シフト機能がついているが、APS-C機ではあまり効果が
得られない。フルサイズ機で用いる事も出来なくは無いが
オフサイド状態(=カメラの価格や性能がレンズよりも
良すぎてアンバランス)を容認してまで、組むシステム
でもない。本レンズはあくまでトイレンズなのだ。
_c0032138_06561383.jpg
さらに言えば、本レンズはレアであり、かつ生産終了品
であるから、現代における入手性は皆無に近い。
あまり、あれこれと書いても意味が無いので、説明は
最小限としておこう。

さらに興味があれば、特殊レンズ第30回「ボディキャップ」
編記事を参照されたし。

----
さて、次のシステムもトイレンズだ。
_c0032138_06561337.jpg
レンズは、PENTAX 03 FISH-EYE 3.2mm/f5,6
(中古購入価格 5,000円)
カメラは、PENTAX Q7(1/1.7型センサー機)

2010年代前半に発売された、PENTAX Qシステム専用の
魚眼(風)トイレンズ(ユニークレンズ)である。

これもあくまでトイレンズであり、本格的な魚眼撮影が
出来る訳では無いが、魚眼風(交換)レンズとしては、
OLYMPUS BCL-0980を下回り、恐らくは最安値であり、
高価な本格的魚眼レンズを買う前の、お試し版の魚眼
撮影体験用レンズとしては適しているであろう。
_c0032138_06561992.jpg
本レンズにおいては「魚眼構図制御」の練習を行う事が
可能であり、スキル向上の為に、それをするのも望ましい。
ここで、その詳細は長くなるので割愛するが、
「匠の写真用語辞典第14記事 項目:魚眼構図制御」や
「特殊レンズ第28回魚眼レンズ編」を適宜参照されたし。

----
では、今回ラストのB級マニアックレンズ。
_c0032138_06562007.jpg
レンズは、LAOWA 105mm/f2 The Bokeh Dreamer
(LAO0013) (新品購入価格 90,000円)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

2016年発売の中国製アポダイゼーション光学エレメント
搭載MF中望遠レンズ。

特殊レンズ第0回「アポダイゼーション・グランドスラム編」
や、本レンズの特集記事等、過去紹介多数の為、簡単に・・

アポダイゼーション光学エレメント(以下APD)は、ボケ質
を良くする為の「最終兵器」とも呼べる強力な機構である。
_c0032138_06562023.jpg
史上、5機種しか存在しない特殊なレンズではあるが、その
代表格とも言える、MINOLTA/SONYのSTFレンズに比べると、
若干だが、描写力の優位性は少ない。

ただまあ、他のAPD/STFが殆ど専用マウントである事に対し、
本レンズは各種一眼レフ・ミラーレス機用で発売されている
事がメリットであり、NIKON F版を買ってあるので、全ての
ミラーレス機や一部の他社一眼レフでも使えるのが嬉しい。

まあつまり、5本のAPD/STF中、最もマウント汎用性が高く
かつ最も安価なのが本レンズであり、アポダイゼーション
入門用レンズとしては最適であろう。
_c0032138_06562089.jpg
少々高価ではあるが、マニア層であれば、入手する機会が
あれば迷うことは無いと思う。言ってみれば
「B級マニアック」にふさわしいレンズである。

----
さて、今回の「高マニアック度B級編」前編記事は、
このあたり迄で、次回後編記事に続く。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 791

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>