本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では「高描写力ミラーレス用中望遠レンズ」を
5本紹介しよう。
これは、実焦点距離が55~75mmの範囲の単焦点レンズ
を指し、かつAPS-C機またはμ4/3機用と定義する。
つまり、フルサイズ換算焦点距離が85mm~150mm
程度となるレンズであり、銀塩時代の「中望遠」と同等
という定義だ。
なお、フルサイズ対応レンズが1本だけ含まれているが、
それは、APS-C機であえて使う事としよう。
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まず、最初のシステム
![_c0032138_17282449.jpg]()
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm/f1.8
(中古購入価格 59,000円)(以下、ED75/1.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)
2012年に発売されたμ4/3機専用中望遠AF単焦点レンズ。
本ED75/1.8は、「高描写力」という言葉がぴったりと
嵌る高性能レンズだ。
![_c0032138_17290904.jpg]()
本レンズの「描写表現力」の個人評価点は5点満点で、
「4.5点」となっている。これを超える5点満点のレンズは
所有レンズ数百本中、十数本しか無いので、本レンズは
例えば20位相当と、とても上位の「描写表現力」となる。
・・という事で、描写性能は何も問題無いのだが、勿論
弱点もある。
まず第一に、AF精度・AF速度の不満がある。
本レンズの画角的には、150mm相当と望遠画角であり、
2倍デジタルテレコンを併用すると300mm相当となる為に
大口径望遠レンズとして、飛ぶ鳥等の動体撮影を試して
みたくなるが、全くと言っていい程ピントが追いつかない。
MFに切り替えて使おうにも、例によって「無限回転式の
ピントリング」しか搭載されておらず、これでは無限遠の
停止感触も無いし、ピントリングの回転角も(精密ピント
合わせを狙った仕様なので)大きすぎるし、まあつまり、
MF操作性は落第点である。
AFの課題に関しては、今回の母艦は、E-M5Ⅱであるが、
この機体には、像面位相差AFが搭載されていない。
これはちょっと苦しいので、ここで母艦を変更し、
像面位相差AFを持つ OM-D E-M1としよう。
(注:最初からE-M1を使えば良かったのだが、カメラと
レンズのデザインバランス的に、E-M5ⅡLimitedの方が
好みなのだ。趣味撮影なので、最大パフォーマンスの
実現よりも、志向性を優先したい場合もある)
![_c0032138_17294365.jpg]()
こちらの機体であれば、AFの性能上の不満は、少しだが
解消できる。(近距離から遠距離に大きくピントが動く際に
若干高速化するが、近接撮影時にAFがもたつくの弱点は、
両機(両方式)とも大差は無い)
まあやはり、被写界深度の浅い準大口径中望遠であるから、
コントラストAFのみで使うには若干無理がある。
だからまあ、オリンパスにおいても、ミラーレス初期は
こうしたF1.8級レンズをあまり発売していなかった訳で
あり、本レンズの発売時では、翌年発売予定のE-M1の
像面位相差AFでの使用を前提としていた訳なのだろう。
本レンズの後では、F1.8級単焦点レンズの発売も色々増え、
さらに2016年からは、F1.2級単焦点(PROシリーズ)が
いくつか発売されている(注:未所有)
でも、これらの口径比の明るいレンズは、その時代の同社
製の最上位機種でないと快適には使用できないのであろう。
(つまり、2016年発売のOM-D E-M1 MarkⅡを
母艦として利用する前提なのだと思う)
まあ、これも一種の「排他的仕様」であろうと思う。
(=自社製品同士で高価なシステムを組まない限り、最高
性能を発揮する事ができない。すなわち、他社製品の使用や、
自社製品同士であっても低価格帯機種の使用を拒む考え方だ。
製品ラインナップ上では、やむを得ない戦略ではあろうが、
近年では、それが度を越していて、「意地悪」にも思える
ケースが、各社において多々見受けられる。まあ、いくら
「カメラ市場が縮退しているから」と言っても、あまりに
ユーザー利便性を意識しない無粋な戦略ではなかろうか?)
![_c0032138_17295158.jpg]()
さて、他の弱点だが、フードが装着しずらい事だ。
まず大きいし、装着方法も、ネジ(クランプ)式で、
バヨネット式のようなワンタッチでは無い。
フードを装着したままでは、カメラバッグに入りにくい
ので、これの脱着の手間は、結構な問題点となる。
まあ、逆光耐性の低いレンズでは無いので、フード無しでも
あまり問題無いが、個人的な好みとして、このフードは
「格好良い」と思うので、できれば装着したい。
![_c0032138_17295102.jpg]()
ED75/1.8の総括だが、焦点距離の仕様的に言えば、
銀塩時代の傑作レンズPENTAX-FA77/1.8 Limitedや、
近代の超高性能レンズTAMRON SP85/1.8と類似であり、
それらに迫る高描写力レンズであろう。
ただ、μ4/3機専用という事で、150mm相当の画角と、
それらライバルのフルサイズ用レンズとは焦点域が異なり、
必然的に用途も異なる。具体的には、本レンズでの
「人物撮影」は、一般的に想像されるようなモデルさんや
依頼者に対峙して撮影する「ポートレート」には向かず、
ステージ等での中距離人物撮影が主体となるだろう。
まあ、「用途開発」は、なかなか難しいレンズである。
前述の弱点としてのAF問題は、μ4/3機の進化を待てば良い、
新型機では、どんどんとAF性能およびMFアシスト性能も
改善されて行くと思うので、それを待つ事としよう。
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さて、次のシステム
![_c0032138_17301612.jpg]()
レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 60mm/f2.4 R Macro
(中古購入価格 39,000円)(以下、XF60/2.4)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)
2012年に発売された、FUJIFILM Xマウント最初期の
AF中望遠1/2倍マクロレンズ。
![_c0032138_17301645.jpg]()
正直言って、「高描写力」というカテゴリーには、ちょっと
入りにくいレンズだ。実力値としては、可も無く不可も無し
というレベルではあるが、一般に「マクロ」レンズは極めて
描写力の高い製品が大半なので、それらに比べると、若干
(と言うか、かなり)見劣りしてしまう。
・・で、本シリーズ記事の編集執筆において、他のいずれの
カテゴリーにも入りにくかったレンズであり、まあ、そんな
理由から、本カテゴリーでの紹介となった。
「描写力がたいした事が無い」という課題については、
FUJIFILMの交換レンズでは、銀塩時代から、殆どマクロが
存在せず、マクロレンズの設計に関するノウハウが蓄積
されていない可能性も高い。
まあ、思えば、どのメーカーの交換レンズであっても、
マクロを最初に作り始めた頃の製品は、どうも描写力が
イマイチのものが多かった。これはどうやら時代的な差に
よる技術力の成熟度よりも、むしろマクロレンズ自体の
設計経験の多寡が物を言うような気がしてならない。
事実、私はここ50年間程度の範囲の時代の、各メーカーの
レンズを所有しているが、各社での最初期のマクロレンズは、
描写力が気に入らずに手放してしまったものが4~5本ある。
現在、手元に残しているマクロは、各社において、初出の後、
数世代を経過して発売されたマクロが殆どである状況だ。
では本レンズも気に入らないから手放すのか?というと、
そういう気はあまり無い。銀塩時代であれば、描写力に課題
を持つレンズは使い道が困難であったが、現代のデジタル
時代では、撮影コストが低廉な為、色々と試行錯誤が出来る
大きなメリットがある。本レンズが最大のパフォーマンスを
発揮できるような被写体条件や技法を「用途開発」すれば良い
と思っているからだ。
それとFUJIFILMのXシステムは実用的なレンズラインナップ
(ここでは、所有するレンズの焦点距離系列とか保有数とか
いう意味である)が組み難い。
最大の課題は、他社システムでの同等性能レンズに比べて
FUJIFILMのレンズ(入手)価格が高価すぎる点がある。
例えば、スペックが類似するTAMRON SP60mm/f2 Macro
は、殆どの面で本レンズよりも高性能だが、その中古価格は
本レンズの半額以下程度だ。他にも色々と実例があるが、
原則的にFUJIFILMの純正レンズは、他社同等品よりも
2~3倍も高価となってしまう。
なので、FUJIFILMのXシステムでラインナップを組む場合、
FUJI純正レンズには拘らず、他社製レンズで埋めていくのが
望ましい。だが、その場合、他社製レンズでXマウントで
使えるマクロレンズが殆ど存在しないという状況なのだ。
まあ、MFマクロをマウントアダプターで用いればなんとか
なるが、XシステムのMF性能が全般的に低い課題がある。
・・で、AFのマクロは純正以外では極めて少ない。
よって、本レンズXF60/2.4は、ラインナップの構成上、
どうしても必要なレンズになってしまう訳だ。
![_c0032138_17301606.jpg]()
だけど、ちょっと目論見が外れた。
本XF60/2.8は、描写力以外においても、AF精度・速度
にも課題があるからだ。
こちらは、Xシステムにおいては、距離エンコードテーブル
(距離表)を近接域と遠距離で二重化している事が大きな
課題となる。
FUJIFILMの初期ミラーレス機では、2015年頃に至るまで、
ほぼ全てのレンズで、近接撮影時には、カメラ側のマクロ
ボタンを押して、その「距離表」を入れ替える必要があった。
何故ならば、距離データを分類する限られた「ビット数」
では、詳細な近接域(例、1mm刻み)と、大雑把な
遠距離域(例、5m刻み)を共用できないからだ。
なので、この「距離表」を入れ替える必要が出てくる。
まあ、これは他社システムでも同様な必然性があるのだが、
AF技術のノウハウの期間の長い他社(概ね30年間)では、
このあたりは、あまり問題にならないように、と、上手く
技術的になんとか対処している。
FUJIFILM社では、銀塩時代から現代に至る迄、高いAF精度が
要求される「AFレンズ交換式カメラ」(一眼レフ等)を殆ど
発売しておらず、2012年からのXシステムが、ほぼ初挑戦
という状態なので、AFシステムの技術的ノウハウが蓄積されて
いないのだろう、と容易に推察できる。
で、Xシステムでは、2015年くらいの新機種またはファーム・
アップにより、「オートマクロ切換」となったのは良いが、
その切換がスムースでは無い。何故ならばAFが迷っている
状態では近接域の「距離表」に切換えようが無い訳であり、
やはりシステム動作設計的に、現在の手法では若干の無理が
ある状況だ。これを解決するには、ピント距離がどのように
変化していくのかを「解析/予測」しながら、AFを迷子に
させないようにしなければならないだろう。
(他社では「動体追従」等で、このアルゴリズムは長期に
渡って研究されている。それはマクロ撮影にも応用可能だ)
・・まあ、その事(状況)が良く理解できただけでも良し
としよう。今後においては、Xシステムでの近接(マクロ)
撮影は、出来るだけMFレンズを主体とする事とするつもりだ。
![_c0032138_17301605.jpg]()
そして、XシステムのAF関連技術が進歩して、スムースな
オートマクロが実現した頃には、本レンズXF60/2.4は
きっと快適に使えるようになるだろう。
これも前述のED75/1.8と同じ状況だ、ミラーレス機本体
側の技術がまだ未成熟故に、レンズ性能が発揮できない。
でも、カメラ本体はいずれ改良される、そしていつか必ず
新鋭機に買い換える事になる。だからまあレンズの価値の
方が、カメラ本体よりもずっと高い理屈にもなる訳だ。
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では、3本目のシステム
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レンズは、SIGMA 60mm/f2.8 DN | Art
(中古購入価格 14,000円)(以下、A60/2.8)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)
2013年発売の小型単焦点中望遠相当レンズ。
μ4/3機用とSONY E(APS-C機)用が存在する。
![_c0032138_17305308.jpg]()
過去記事で何度も紹介した、高描写力・高コスパレンズ。
「ハイコスパ名玉編」では堂々の第5位にランクインした
レンズではあるが、コスパが良くても、別の弱点がある。
それは「用途開発が困難である」という点だ。
簡単に言えば、「何を撮るのに使うのか?が良く分から
ないレンズである」という意味だ。
まあつまり、例えば人物撮影に使うのであれば、もう少し
開放F値も明るく被写界深度が浅く取れる方が望ましいし、
マクロレンズとして使うには、そこまでの近接能力を
持っておらず、標準(常用)レンズとして使うには、
開放F値も暗いし画角もやや狭い。
あるいは、ミラーレス機のデジタル拡大機能を併用し
望遠レンズ代用とするのも、あまり望遠にはならず・・
すなわち、何をやろうとしても中途半端なスペックな訳だ。
「描写力」は大変高いレンズであるので非常に勿体無い。
結局、今の所は、本レンズが廉価な事を理由として、
「消耗用レンズ」として利用している。
つまり、”良く写るが、とても安いので、過酷な環境で
使って、万が一壊しても惜しく無い”という用途だ。
具体的には、雨天であるとか、酷暑、海際、軽い登山、旅行、
あるいは、外出時にカメラバッグではなく一般的なカバンの
中とかにラフに収納しておいて、必要ならば取り出して使う、
等の用途が考えられる。
ただ、正直言えば、「用途開発」の本筋は何か?と考えれば
やはり天候や環境ではなく、レンズの特性に合わせた適切な
被写体または撮影技法を考察するべきであろう。
「用途開発」を行う、という事は、そのレンズで撮る際に
「どんな写真が撮れるか?」という事まで想像の範囲にある、
という事になる。だから、家を出る時に、そうした写真を
思い浮かべて、そこでレンズを選択して持っていく訳だ。
逆に言えば、用途開発の進まないレンズの場合、それで
撮りたい写真も想像できていない事となる。そうなると、
まずそのレンズを持ち出したいとは思わなくなり、レンズ
そのものの使用頻度が減ってしまう、つまりそれは
私のデータベース上での「必要度」の評価点が低いレンズ
である事を意味し、さらにその度合いが進めば、それはもう
「不要なレンズ」という最悪の状況に陥ってしまう。
そうならないようにする為には、つまりレンズの購入前に
「用途」をある程度意識して(=必要度を高めて)から
そのレンズを購入する事が望ましい。
すなわち、レンズを買った後から「用途開発」を考えている
ようでは、「手遅れ」という事になり得ると思う。
では、本レンズにおいて「用途開発」が、何故進んで
いないのか? という話なのだが・・
本レンズは「本シリーズ第5回記事、SIGMA DN編」でも
書いたのだが、SIGMA (DN)19/2.8、(DN)30/2.8を
購入後に発売されたシリーズ新レンズであり、前2本を
所有していた勢いで、シリーズのコンプリートを目論んで
惰性で購入してしまったのだ(汗) まあ「安価なレンズ
だから」という理由もあったが、値段はあまり関係無い、
たとえどんなに安価なレンズであっても、その用途が無い
状態で買ったならば、真の意味での「コスパ」は悪くなる。
それでは性能や描写力がいくら高くても、コスパは良いとは
言えず、レンズを使わないのであれば、実パフォーマンスは
限りなくゼロに近づき「真のコスパ」も極めて悪い事となる。
![_c0032138_17314598.jpg]()
まあでも、そんな状況であっても、値段が安価であれば、
ある程度は許容できる要素もあるだろう。
本当にダメなレンズの買い方は、用途も何も考えず、かつ
単に「値段が高いならば高性能だ」と勘違いして、コスパの
非常に悪いレンズを買ってしまう事だ。で、たとえ、いくら
基本性能が高くても、何に使ったら良いか?が、わかって
いないならば、実用上のパフォーマンスを得る事ができず、
真の意味でのコスパ評価は、限りなく0点に近づいてしまう
事となる(=これは様々な意味で、使いこなして無い状態)
結局のところ、機材(レンズやカメラ)のコスパの評価は
単に値段と性能の比のみならず、購入者(ユーザー)毎の
用途や、あるいはユーザーのスキル(技能、知識、経験、
創造力等)によっても、まるっきり変わってしまう訳だ。
用途やスキルがなければ評価も出来ない筈であるし、
用途もスキルも異なる他人の評価も原則的には参考とする
意味が無い。
だから、あくまで評価はユーザー自身が行うしか無い訳だ。
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では、4本目のシステム
![_c0032138_18110017.jpg]()
レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 56mm/f1.2 R APD
(中古購入価格 112,000円)(以下、APD56/1.2)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
2014年に発売された、FUJIFILM Xマウント専用
AF中望遠画角アポダイゼーション搭載大口径レンズ。
![_c0032138_18110094.jpg]()
過去記事で何度も紹介している本レンズではあるが・・
これは厳密に言えば「高画質」なレンズだとは言い難い。
例えば、ビギナー層の考える「高画質」とは、すなわち
「高忠実性(High Fidelity/Hi-Fi)」であろう。
つまり、人間の目で見えている綺麗な景色等が、細部まで
細かく写り、色再現性も高く、明暗差も見た目通りに写真が
撮れていれば、”それで良い、高画質だ!”と思ってしまう。
まあだからビギナー層の写真は、昔から現代に至るまで、
例えば綺麗な景色を前にして、少し絞り込んだ広角~準広角
画角のレンズで綺麗な風景写真が撮れれば、それで満足な訳だ。
・・よって、「高忠実性」が得られる性能のレンズであれば、
それで十分と思ってしまい、それを「高画質」なレンズだ
と(間違った)判断をする。
しかし、中上級層であれば、そんな考え方は、まるっきり
持っていない。
中上級層では、ビギナー層の持つ標準ズーム以外にも、
様々な画角のレンズを持っているし、あるいはさらに、
マクロ、超望遠、超広角、大口径、魚眼、特殊レンズ等の
バリエーション豊かなレンズを都度交換して写真を撮る。
標準(ズーム)レンズ以外の、ほぼ全てのレンズは、
それらを使った時点で「人間の肉眼での見た目」とは、全く
異なる写真が撮れる事は、中上級者ならば誰でも知っている。
そして、その「見た目との違い」を利用し、それが写真に
おける「表現」という事と、ほぼ等価である事も、中上級層
であれば十分すぎる程承知している。
つまり「人間の見た目と違う映像を創り出す」事が写真の
本質である事が中上級層ではわかっていて、逆に言えば
その事を全く理解しておらず、見た目と同じ映像を求めて
しまう場合は、それでは完全なビギナーか、または「写真」
とは異なる世界での「映像記録」(用途)である訳だ。
よって、レンズの性能評価においては、「高忠実性」を
求めるのは、微妙に写真の本質とは離れてしまっている。
だから、本ブログでは、レンズの評価項目の、その1は
「描写表現力」と定義している訳だ。
「描写力+表現力」とは、高画質(高忠実性)か否か?を
示す指標では無い。 どれだけ写真としての表現力を
得る事ができるか? という意味だ。
勿論、その一部には高画質であるという前提条件は必須で
あろう、でも例えば、超大口径レンズで独特なボケ質が
得られたり、様々な特殊効果(例:魚眼、シフト、ティルト、
ソフト、ピンホール、ぐるぐるボケ、アポダイゼーション等)
が得られる場合でも「描写表現力」の評価得点は加点となる。
![_c0032138_18110191.jpg]()
さて、本APD56/1.2は、「描写表現力」の高いレンズである。
それは、アポダイゼーション光学エレメントの効果により
ボケ質が極めて優れたレンズであるからだ。
だが、少し考えてみればわかると思うが、そもそも人間が
目で見ている映像には「ボケ」などは存在していない。
だから、本APD56/1.2の「アポダイゼーション+大口径」
によるボケ映像は、いわば人間の目からすれば「嘘の映像」
である。だが、カメラマンは、いかにそうした「現実では
有り得ない映像を撮って、そこに表現を込めるのか?」
という事をいつも考えている、それが写真の本質だからだ。
その表現力の幅(コントローラビリティ)が高い本レンズは
「描写表現力」が高いと言える。
だけど、ビギナー層の視点での「高忠実性」(高画質)は、
本レンズには、あまり備わっていない。これは Xシステム
との親和性もあるのだが、解像感はあまり高くなく、カメラ
設定によっては、発色傾向も現実とはかけ離れたものとなる。
だが、その事自体が「写真の本質」だ。つまり、いかに撮り手
がイメージした「架空の世界」を演出できるか? という事
であるから、本レンズに「高忠実性」が少ないとしても
「描写表現力」の高さにより、それは問題にはならない訳だ。
この話は、残念ながらビギナー層には全く理解できない事で
あろう。だが、本シリーズ記事はビギナー向けでは決して
無いので、そこはやむを得ない。
まあ、思うに、何故、ビギナー層かこの話を理解できない
のか? については、「描写表現力」が高いレンズを1本も
持っておらず、また、買おうともしない事が最大の原因では
なかろうか? 使った事も無ければ、理解できる筈も無い。
別に本レンズでなくても構わないが、「描写表現力」の
高いレンズをまず入手して、それを徹底的に使う事が、
ビギナーレベルから中級クラスにステップアップする為の
近道であるようにも思える。ただ注意するのは、一般的に
ビギナー層が欲しがるような、人気が高い高価格レンズは、
それが「描写表現力」の高いレンズとイコールであるとは
思い難い状況な事だ。
![_c0032138_18110663.jpg]()
なお、ビギナーが交換レンズを買わない事は、それはそれで
理由もあり、その1つは「どのレンズを買ったら良いのか、
わからないから」である。
だから、誰かが「良い」と言ったレンズであるとか、高価で
あるとか(注:高忠実性がある)、販売サイトでの購入者の
評価が良いとか、そんな受動的な理由で、購入するレンズを
決めてしまうのだ。
その結果、前述の「用途開発」も意識しておらず、真の意味
での「コスパ」が最悪のレンズを購入する事になってしまう。
勿論、これでは何をしているのか?全く意味が無い事であろう。
結局、ビギナー層に、交換レンズの知識が無い事が最大の
問題点な訳だ。わからないから無意味な物を買ってしまう。
まあ、それ故に、たとえば本シリーズ記事を参照して
貰えれば良い訳だ、世の中には、これほどの他種多様な
レンズが存在する、という事がわかったならば、ビギナー層
であっても、交換レンズの用途や使い方や必要性の理解に
繋がる可能性はあるだろうからだ・・・
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では、今回ラストのシステム
![_c0032138_18112079.jpg]()
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/f2.0
(注:例によって独語綴り上の変母音は省略している)
(新品購入価格 122,000円)(以下、MAP65/2)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2017年に発売された、フルサイズ対応大口径MF準中望遠
1/2倍マクロレンズ。
APS-C機で使っているのは、この組み合わせの方が
換算焦点距離(約100mm相当)、撮影倍率(約0.75倍)
重量バランス(重心位置がピントリング上に来る)の
3つの理由で個人的な好みに合うからである。
![_c0032138_18112085.jpg]()
こちらは、かなりの高描写力レンズである。
本MAP65/2の「描写表現力」の評価点は、4.5点。
これは前述のAPD56/1.2と同じであるが、その評価の
中身は、ずいぶんと異なる。
具体的にはAPD56/1.2が、多大なボケ量と優秀なボケ質で
「ふわっとした幽玄の世界感」を演出できるのであれば、
本MAP65/2は近接域における高精細と高コントラスト特性で
「未知のミクロの世界観」を演出する事を可能とするレンズだ。
このクラス(評価4.5点)以上の、高「描写表現力」の
レンズ群は、それぞれ独特の世界観を持つ。それを被写体と
いかにうまくマッチさせるか、そして、どのような表現を
演出できるのか? が、これらのレンズの使用の肝となる。
だけど、正直言えば、それはとても難しい。何故ならば、
それが「写真の本質」に極めて近いハイレベルな事だからだ。
そこで撮影者に要求されるスキルは、基本的な写真撮影技能の
知識、経験、技術等に加え、アート的な感覚や感性や発想や
創造性といった多面的な能力が必要となる。
さらに、レンズや、カメラを含む機材全般での知識や理解も
勿論必要となる為、実際のところは、そんなに全ての方向性の
分野に精通している「スーパーマン」はどこにも存在しないし、
仮に一生の殆どをライフワーク的に、それらの修練に捧げたと
しても、それでも到達は出来ない高いレベルであると思うし、
そもそも、いくら努力してもカバーしきれない才能や天分と
いった要素もある訳だ。
まあ例えば絵画の世界においても高い技術と感性と創造性を
合わせ持つような「天才」でも無い限りは、名画は生まれない
訳であり、そういう名画を生み出した巨匠の数は人類史全体を
振り返っても、数えられる程度の人数しか生まれてこなかった
状況である。
ただ、写真においてもそうだが、「目標」がわかっていて、
それを目指して努力や修練をする事と、そうではなく、
ただなんとなく写真を撮り、「綺麗に撮れた」などと喜んで
いるだけでは、そこに雲泥の差は生じてしまうだろう。
![_c0032138_18112034.jpg]()
さて、余談が長くなったが、本MAP65/2の話に戻る。
高価なレンズではあるが、勿論、長所も短所も存在する。
長所は高い描写表現力、この点については、一般的な観点、
つまり収差の類や解像感や逆光耐性などについては弱点は
見当たらない。おまけにそれに加えて、近接域における
「ミクロ的世界観」の演出能力に優れる特性なので、
マクロ撮影が楽しくなる事は間違いない。
すなわち「エンジョイ度」も「必要度」も高いレンズだ。
さらには「マニアック度」も高いが、ここは逆に短所にも
なりうるのでユーザーの志向によっては注意が必要だ。
つまり、マニアック度の高さは、例えば「入手性が悪い」
「高価すぎる」「MFのみでは使いにくい」「等倍では無い」
「大きく重い」「ミラーレスEマウント機と重量バランスが悪い」
「絞り環が使い難い」「ピントリングの操作性が悪い」などの
さまざまな本レンズの「特色」は、それは利用者によっては、
短所となるし、逆に、使いこなしの楽しみや希少性の高さを
マニアックな長所と見なすこともできてしまう訳だ。
だから、マニアック度の高いレンズ、いや、そうでなくても
多くのレンズの評価は、利用者の各々によって異なって
くるのが当然な訳であり、原則的に他人の評価は参考には
ならない。あくまで評価は自身により決めなければならない。
![_c0032138_18112166.jpg]()
だがまあ、ここまでの事から、本レンズの、私の評価点を
掲載しておこう(本シリーズ第11回記事の再掲)
Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/f2
・描写表現力:★★★★☆
・マニアック:★★★★★
・コスパ :★★
・エンジョイ:★★★★
・必要度 :★★★★
・評価平均値:3.9
(★=1点、☆=0.5点)
私の観点においては、悪い得点では無いレンズだが、同時に
「名玉の条件」(総合4.0点以上)には僅かに届かない。
その主な原因はコスパ点の低評価であり、入手性が悪い故に
新品で高価に購入してしまったからだ。
まあ、適切なタイミングで上手く中古で入手できるので
あれば、もう少しだけ評価点が伸びるレンズである。
でも、必要性に関しては、あくまで利用者毎により異なる。
MFで絞りも一々設定しなくてはならず、レンズ内の手ブレ補正
も持たなければ、ビギナー層では使いこなす事すら困難だ。
他人の評価はあてにならない、ここは最も重要な事だと思う。
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さて、今回の記事「高描写力ミラーレス用中望遠レンズ
特集」は、このあたり迄で。次回記事に続く。
紹介している。
今回の記事では「高描写力ミラーレス用中望遠レンズ」を
5本紹介しよう。
これは、実焦点距離が55~75mmの範囲の単焦点レンズ
を指し、かつAPS-C機またはμ4/3機用と定義する。
つまり、フルサイズ換算焦点距離が85mm~150mm
程度となるレンズであり、銀塩時代の「中望遠」と同等
という定義だ。
なお、フルサイズ対応レンズが1本だけ含まれているが、
それは、APS-C機であえて使う事としよう。
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まず、最初のシステム

(中古購入価格 59,000円)(以下、ED75/1.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)
2012年に発売されたμ4/3機専用中望遠AF単焦点レンズ。
本ED75/1.8は、「高描写力」という言葉がぴったりと
嵌る高性能レンズだ。

「4.5点」となっている。これを超える5点満点のレンズは
所有レンズ数百本中、十数本しか無いので、本レンズは
例えば20位相当と、とても上位の「描写表現力」となる。
・・という事で、描写性能は何も問題無いのだが、勿論
弱点もある。
まず第一に、AF精度・AF速度の不満がある。
本レンズの画角的には、150mm相当と望遠画角であり、
2倍デジタルテレコンを併用すると300mm相当となる為に
大口径望遠レンズとして、飛ぶ鳥等の動体撮影を試して
みたくなるが、全くと言っていい程ピントが追いつかない。
MFに切り替えて使おうにも、例によって「無限回転式の
ピントリング」しか搭載されておらず、これでは無限遠の
停止感触も無いし、ピントリングの回転角も(精密ピント
合わせを狙った仕様なので)大きすぎるし、まあつまり、
MF操作性は落第点である。
AFの課題に関しては、今回の母艦は、E-M5Ⅱであるが、
この機体には、像面位相差AFが搭載されていない。
これはちょっと苦しいので、ここで母艦を変更し、
像面位相差AFを持つ OM-D E-M1としよう。
(注:最初からE-M1を使えば良かったのだが、カメラと
レンズのデザインバランス的に、E-M5ⅡLimitedの方が
好みなのだ。趣味撮影なので、最大パフォーマンスの
実現よりも、志向性を優先したい場合もある)

解消できる。(近距離から遠距離に大きくピントが動く際に
若干高速化するが、近接撮影時にAFがもたつくの弱点は、
両機(両方式)とも大差は無い)
まあやはり、被写界深度の浅い準大口径中望遠であるから、
コントラストAFのみで使うには若干無理がある。
だからまあ、オリンパスにおいても、ミラーレス初期は
こうしたF1.8級レンズをあまり発売していなかった訳で
あり、本レンズの発売時では、翌年発売予定のE-M1の
像面位相差AFでの使用を前提としていた訳なのだろう。
本レンズの後では、F1.8級単焦点レンズの発売も色々増え、
さらに2016年からは、F1.2級単焦点(PROシリーズ)が
いくつか発売されている(注:未所有)
でも、これらの口径比の明るいレンズは、その時代の同社
製の最上位機種でないと快適には使用できないのであろう。
(つまり、2016年発売のOM-D E-M1 MarkⅡを
母艦として利用する前提なのだと思う)
まあ、これも一種の「排他的仕様」であろうと思う。
(=自社製品同士で高価なシステムを組まない限り、最高
性能を発揮する事ができない。すなわち、他社製品の使用や、
自社製品同士であっても低価格帯機種の使用を拒む考え方だ。
製品ラインナップ上では、やむを得ない戦略ではあろうが、
近年では、それが度を越していて、「意地悪」にも思える
ケースが、各社において多々見受けられる。まあ、いくら
「カメラ市場が縮退しているから」と言っても、あまりに
ユーザー利便性を意識しない無粋な戦略ではなかろうか?)

まず大きいし、装着方法も、ネジ(クランプ)式で、
バヨネット式のようなワンタッチでは無い。
フードを装着したままでは、カメラバッグに入りにくい
ので、これの脱着の手間は、結構な問題点となる。
まあ、逆光耐性の低いレンズでは無いので、フード無しでも
あまり問題無いが、個人的な好みとして、このフードは
「格好良い」と思うので、できれば装着したい。

銀塩時代の傑作レンズPENTAX-FA77/1.8 Limitedや、
近代の超高性能レンズTAMRON SP85/1.8と類似であり、
それらに迫る高描写力レンズであろう。
ただ、μ4/3機専用という事で、150mm相当の画角と、
それらライバルのフルサイズ用レンズとは焦点域が異なり、
必然的に用途も異なる。具体的には、本レンズでの
「人物撮影」は、一般的に想像されるようなモデルさんや
依頼者に対峙して撮影する「ポートレート」には向かず、
ステージ等での中距離人物撮影が主体となるだろう。
まあ、「用途開発」は、なかなか難しいレンズである。
前述の弱点としてのAF問題は、μ4/3機の進化を待てば良い、
新型機では、どんどんとAF性能およびMFアシスト性能も
改善されて行くと思うので、それを待つ事としよう。
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さて、次のシステム

(中古購入価格 39,000円)(以下、XF60/2.4)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)
2012年に発売された、FUJIFILM Xマウント最初期の
AF中望遠1/2倍マクロレンズ。

入りにくいレンズだ。実力値としては、可も無く不可も無し
というレベルではあるが、一般に「マクロ」レンズは極めて
描写力の高い製品が大半なので、それらに比べると、若干
(と言うか、かなり)見劣りしてしまう。
・・で、本シリーズ記事の編集執筆において、他のいずれの
カテゴリーにも入りにくかったレンズであり、まあ、そんな
理由から、本カテゴリーでの紹介となった。
「描写力がたいした事が無い」という課題については、
FUJIFILMの交換レンズでは、銀塩時代から、殆どマクロが
存在せず、マクロレンズの設計に関するノウハウが蓄積
されていない可能性も高い。
まあ、思えば、どのメーカーの交換レンズであっても、
マクロを最初に作り始めた頃の製品は、どうも描写力が
イマイチのものが多かった。これはどうやら時代的な差に
よる技術力の成熟度よりも、むしろマクロレンズ自体の
設計経験の多寡が物を言うような気がしてならない。
事実、私はここ50年間程度の範囲の時代の、各メーカーの
レンズを所有しているが、各社での最初期のマクロレンズは、
描写力が気に入らずに手放してしまったものが4~5本ある。
現在、手元に残しているマクロは、各社において、初出の後、
数世代を経過して発売されたマクロが殆どである状況だ。
では本レンズも気に入らないから手放すのか?というと、
そういう気はあまり無い。銀塩時代であれば、描写力に課題
を持つレンズは使い道が困難であったが、現代のデジタル
時代では、撮影コストが低廉な為、色々と試行錯誤が出来る
大きなメリットがある。本レンズが最大のパフォーマンスを
発揮できるような被写体条件や技法を「用途開発」すれば良い
と思っているからだ。
それとFUJIFILMのXシステムは実用的なレンズラインナップ
(ここでは、所有するレンズの焦点距離系列とか保有数とか
いう意味である)が組み難い。
最大の課題は、他社システムでの同等性能レンズに比べて
FUJIFILMのレンズ(入手)価格が高価すぎる点がある。
例えば、スペックが類似するTAMRON SP60mm/f2 Macro
は、殆どの面で本レンズよりも高性能だが、その中古価格は
本レンズの半額以下程度だ。他にも色々と実例があるが、
原則的にFUJIFILMの純正レンズは、他社同等品よりも
2~3倍も高価となってしまう。
なので、FUJIFILMのXシステムでラインナップを組む場合、
FUJI純正レンズには拘らず、他社製レンズで埋めていくのが
望ましい。だが、その場合、他社製レンズでXマウントで
使えるマクロレンズが殆ど存在しないという状況なのだ。
まあ、MFマクロをマウントアダプターで用いればなんとか
なるが、XシステムのMF性能が全般的に低い課題がある。
・・で、AFのマクロは純正以外では極めて少ない。
よって、本レンズXF60/2.4は、ラインナップの構成上、
どうしても必要なレンズになってしまう訳だ。

本XF60/2.8は、描写力以外においても、AF精度・速度
にも課題があるからだ。
こちらは、Xシステムにおいては、距離エンコードテーブル
(距離表)を近接域と遠距離で二重化している事が大きな
課題となる。
FUJIFILMの初期ミラーレス機では、2015年頃に至るまで、
ほぼ全てのレンズで、近接撮影時には、カメラ側のマクロ
ボタンを押して、その「距離表」を入れ替える必要があった。
何故ならば、距離データを分類する限られた「ビット数」
では、詳細な近接域(例、1mm刻み)と、大雑把な
遠距離域(例、5m刻み)を共用できないからだ。
なので、この「距離表」を入れ替える必要が出てくる。
まあ、これは他社システムでも同様な必然性があるのだが、
AF技術のノウハウの期間の長い他社(概ね30年間)では、
このあたりは、あまり問題にならないように、と、上手く
技術的になんとか対処している。
FUJIFILM社では、銀塩時代から現代に至る迄、高いAF精度が
要求される「AFレンズ交換式カメラ」(一眼レフ等)を殆ど
発売しておらず、2012年からのXシステムが、ほぼ初挑戦
という状態なので、AFシステムの技術的ノウハウが蓄積されて
いないのだろう、と容易に推察できる。
で、Xシステムでは、2015年くらいの新機種またはファーム・
アップにより、「オートマクロ切換」となったのは良いが、
その切換がスムースでは無い。何故ならばAFが迷っている
状態では近接域の「距離表」に切換えようが無い訳であり、
やはりシステム動作設計的に、現在の手法では若干の無理が
ある状況だ。これを解決するには、ピント距離がどのように
変化していくのかを「解析/予測」しながら、AFを迷子に
させないようにしなければならないだろう。
(他社では「動体追従」等で、このアルゴリズムは長期に
渡って研究されている。それはマクロ撮影にも応用可能だ)
・・まあ、その事(状況)が良く理解できただけでも良し
としよう。今後においては、Xシステムでの近接(マクロ)
撮影は、出来るだけMFレンズを主体とする事とするつもりだ。

オートマクロが実現した頃には、本レンズXF60/2.4は
きっと快適に使えるようになるだろう。
これも前述のED75/1.8と同じ状況だ、ミラーレス機本体
側の技術がまだ未成熟故に、レンズ性能が発揮できない。
でも、カメラ本体はいずれ改良される、そしていつか必ず
新鋭機に買い換える事になる。だからまあレンズの価値の
方が、カメラ本体よりもずっと高い理屈にもなる訳だ。
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では、3本目のシステム

(中古購入価格 14,000円)(以下、A60/2.8)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)
2013年発売の小型単焦点中望遠相当レンズ。
μ4/3機用とSONY E(APS-C機)用が存在する。

「ハイコスパ名玉編」では堂々の第5位にランクインした
レンズではあるが、コスパが良くても、別の弱点がある。
それは「用途開発が困難である」という点だ。
簡単に言えば、「何を撮るのに使うのか?が良く分から
ないレンズである」という意味だ。
まあつまり、例えば人物撮影に使うのであれば、もう少し
開放F値も明るく被写界深度が浅く取れる方が望ましいし、
マクロレンズとして使うには、そこまでの近接能力を
持っておらず、標準(常用)レンズとして使うには、
開放F値も暗いし画角もやや狭い。
あるいは、ミラーレス機のデジタル拡大機能を併用し
望遠レンズ代用とするのも、あまり望遠にはならず・・
すなわち、何をやろうとしても中途半端なスペックな訳だ。
「描写力」は大変高いレンズであるので非常に勿体無い。
結局、今の所は、本レンズが廉価な事を理由として、
「消耗用レンズ」として利用している。
つまり、”良く写るが、とても安いので、過酷な環境で
使って、万が一壊しても惜しく無い”という用途だ。
具体的には、雨天であるとか、酷暑、海際、軽い登山、旅行、
あるいは、外出時にカメラバッグではなく一般的なカバンの
中とかにラフに収納しておいて、必要ならば取り出して使う、
等の用途が考えられる。
ただ、正直言えば、「用途開発」の本筋は何か?と考えれば
やはり天候や環境ではなく、レンズの特性に合わせた適切な
被写体または撮影技法を考察するべきであろう。
「用途開発」を行う、という事は、そのレンズで撮る際に
「どんな写真が撮れるか?」という事まで想像の範囲にある、
という事になる。だから、家を出る時に、そうした写真を
思い浮かべて、そこでレンズを選択して持っていく訳だ。
逆に言えば、用途開発の進まないレンズの場合、それで
撮りたい写真も想像できていない事となる。そうなると、
まずそのレンズを持ち出したいとは思わなくなり、レンズ
そのものの使用頻度が減ってしまう、つまりそれは
私のデータベース上での「必要度」の評価点が低いレンズ
である事を意味し、さらにその度合いが進めば、それはもう
「不要なレンズ」という最悪の状況に陥ってしまう。
そうならないようにする為には、つまりレンズの購入前に
「用途」をある程度意識して(=必要度を高めて)から
そのレンズを購入する事が望ましい。
すなわち、レンズを買った後から「用途開発」を考えている
ようでは、「手遅れ」という事になり得ると思う。
では、本レンズにおいて「用途開発」が、何故進んで
いないのか? という話なのだが・・
本レンズは「本シリーズ第5回記事、SIGMA DN編」でも
書いたのだが、SIGMA (DN)19/2.8、(DN)30/2.8を
購入後に発売されたシリーズ新レンズであり、前2本を
所有していた勢いで、シリーズのコンプリートを目論んで
惰性で購入してしまったのだ(汗) まあ「安価なレンズ
だから」という理由もあったが、値段はあまり関係無い、
たとえどんなに安価なレンズであっても、その用途が無い
状態で買ったならば、真の意味での「コスパ」は悪くなる。
それでは性能や描写力がいくら高くても、コスパは良いとは
言えず、レンズを使わないのであれば、実パフォーマンスは
限りなくゼロに近づき「真のコスパ」も極めて悪い事となる。

ある程度は許容できる要素もあるだろう。
本当にダメなレンズの買い方は、用途も何も考えず、かつ
単に「値段が高いならば高性能だ」と勘違いして、コスパの
非常に悪いレンズを買ってしまう事だ。で、たとえ、いくら
基本性能が高くても、何に使ったら良いか?が、わかって
いないならば、実用上のパフォーマンスを得る事ができず、
真の意味でのコスパ評価は、限りなく0点に近づいてしまう
事となる(=これは様々な意味で、使いこなして無い状態)
結局のところ、機材(レンズやカメラ)のコスパの評価は
単に値段と性能の比のみならず、購入者(ユーザー)毎の
用途や、あるいはユーザーのスキル(技能、知識、経験、
創造力等)によっても、まるっきり変わってしまう訳だ。
用途やスキルがなければ評価も出来ない筈であるし、
用途もスキルも異なる他人の評価も原則的には参考とする
意味が無い。
だから、あくまで評価はユーザー自身が行うしか無い訳だ。
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では、4本目のシステム

(中古購入価格 112,000円)(以下、APD56/1.2)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
2014年に発売された、FUJIFILM Xマウント専用
AF中望遠画角アポダイゼーション搭載大口径レンズ。

これは厳密に言えば「高画質」なレンズだとは言い難い。
例えば、ビギナー層の考える「高画質」とは、すなわち
「高忠実性(High Fidelity/Hi-Fi)」であろう。
つまり、人間の目で見えている綺麗な景色等が、細部まで
細かく写り、色再現性も高く、明暗差も見た目通りに写真が
撮れていれば、”それで良い、高画質だ!”と思ってしまう。
まあだからビギナー層の写真は、昔から現代に至るまで、
例えば綺麗な景色を前にして、少し絞り込んだ広角~準広角
画角のレンズで綺麗な風景写真が撮れれば、それで満足な訳だ。
・・よって、「高忠実性」が得られる性能のレンズであれば、
それで十分と思ってしまい、それを「高画質」なレンズだ
と(間違った)判断をする。
しかし、中上級層であれば、そんな考え方は、まるっきり
持っていない。
中上級層では、ビギナー層の持つ標準ズーム以外にも、
様々な画角のレンズを持っているし、あるいはさらに、
マクロ、超望遠、超広角、大口径、魚眼、特殊レンズ等の
バリエーション豊かなレンズを都度交換して写真を撮る。
標準(ズーム)レンズ以外の、ほぼ全てのレンズは、
それらを使った時点で「人間の肉眼での見た目」とは、全く
異なる写真が撮れる事は、中上級者ならば誰でも知っている。
そして、その「見た目との違い」を利用し、それが写真に
おける「表現」という事と、ほぼ等価である事も、中上級層
であれば十分すぎる程承知している。
つまり「人間の見た目と違う映像を創り出す」事が写真の
本質である事が中上級層ではわかっていて、逆に言えば
その事を全く理解しておらず、見た目と同じ映像を求めて
しまう場合は、それでは完全なビギナーか、または「写真」
とは異なる世界での「映像記録」(用途)である訳だ。
よって、レンズの性能評価においては、「高忠実性」を
求めるのは、微妙に写真の本質とは離れてしまっている。
だから、本ブログでは、レンズの評価項目の、その1は
「描写表現力」と定義している訳だ。
「描写力+表現力」とは、高画質(高忠実性)か否か?を
示す指標では無い。 どれだけ写真としての表現力を
得る事ができるか? という意味だ。
勿論、その一部には高画質であるという前提条件は必須で
あろう、でも例えば、超大口径レンズで独特なボケ質が
得られたり、様々な特殊効果(例:魚眼、シフト、ティルト、
ソフト、ピンホール、ぐるぐるボケ、アポダイゼーション等)
が得られる場合でも「描写表現力」の評価得点は加点となる。

それは、アポダイゼーション光学エレメントの効果により
ボケ質が極めて優れたレンズであるからだ。
だが、少し考えてみればわかると思うが、そもそも人間が
目で見ている映像には「ボケ」などは存在していない。
だから、本APD56/1.2の「アポダイゼーション+大口径」
によるボケ映像は、いわば人間の目からすれば「嘘の映像」
である。だが、カメラマンは、いかにそうした「現実では
有り得ない映像を撮って、そこに表現を込めるのか?」
という事をいつも考えている、それが写真の本質だからだ。
その表現力の幅(コントローラビリティ)が高い本レンズは
「描写表現力」が高いと言える。
だけど、ビギナー層の視点での「高忠実性」(高画質)は、
本レンズには、あまり備わっていない。これは Xシステム
との親和性もあるのだが、解像感はあまり高くなく、カメラ
設定によっては、発色傾向も現実とはかけ離れたものとなる。
だが、その事自体が「写真の本質」だ。つまり、いかに撮り手
がイメージした「架空の世界」を演出できるか? という事
であるから、本レンズに「高忠実性」が少ないとしても
「描写表現力」の高さにより、それは問題にはならない訳だ。
この話は、残念ながらビギナー層には全く理解できない事で
あろう。だが、本シリーズ記事はビギナー向けでは決して
無いので、そこはやむを得ない。
まあ、思うに、何故、ビギナー層かこの話を理解できない
のか? については、「描写表現力」が高いレンズを1本も
持っておらず、また、買おうともしない事が最大の原因では
なかろうか? 使った事も無ければ、理解できる筈も無い。
別に本レンズでなくても構わないが、「描写表現力」の
高いレンズをまず入手して、それを徹底的に使う事が、
ビギナーレベルから中級クラスにステップアップする為の
近道であるようにも思える。ただ注意するのは、一般的に
ビギナー層が欲しがるような、人気が高い高価格レンズは、
それが「描写表現力」の高いレンズとイコールであるとは
思い難い状況な事だ。

理由もあり、その1つは「どのレンズを買ったら良いのか、
わからないから」である。
だから、誰かが「良い」と言ったレンズであるとか、高価で
あるとか(注:高忠実性がある)、販売サイトでの購入者の
評価が良いとか、そんな受動的な理由で、購入するレンズを
決めてしまうのだ。
その結果、前述の「用途開発」も意識しておらず、真の意味
での「コスパ」が最悪のレンズを購入する事になってしまう。
勿論、これでは何をしているのか?全く意味が無い事であろう。
結局、ビギナー層に、交換レンズの知識が無い事が最大の
問題点な訳だ。わからないから無意味な物を買ってしまう。
まあ、それ故に、たとえば本シリーズ記事を参照して
貰えれば良い訳だ、世の中には、これほどの他種多様な
レンズが存在する、という事がわかったならば、ビギナー層
であっても、交換レンズの用途や使い方や必要性の理解に
繋がる可能性はあるだろうからだ・・・
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では、今回ラストのシステム

(注:例によって独語綴り上の変母音は省略している)
(新品購入価格 122,000円)(以下、MAP65/2)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2017年に発売された、フルサイズ対応大口径MF準中望遠
1/2倍マクロレンズ。
APS-C機で使っているのは、この組み合わせの方が
換算焦点距離(約100mm相当)、撮影倍率(約0.75倍)
重量バランス(重心位置がピントリング上に来る)の
3つの理由で個人的な好みに合うからである。

本MAP65/2の「描写表現力」の評価点は、4.5点。
これは前述のAPD56/1.2と同じであるが、その評価の
中身は、ずいぶんと異なる。
具体的にはAPD56/1.2が、多大なボケ量と優秀なボケ質で
「ふわっとした幽玄の世界感」を演出できるのであれば、
本MAP65/2は近接域における高精細と高コントラスト特性で
「未知のミクロの世界観」を演出する事を可能とするレンズだ。
このクラス(評価4.5点)以上の、高「描写表現力」の
レンズ群は、それぞれ独特の世界観を持つ。それを被写体と
いかにうまくマッチさせるか、そして、どのような表現を
演出できるのか? が、これらのレンズの使用の肝となる。
だけど、正直言えば、それはとても難しい。何故ならば、
それが「写真の本質」に極めて近いハイレベルな事だからだ。
そこで撮影者に要求されるスキルは、基本的な写真撮影技能の
知識、経験、技術等に加え、アート的な感覚や感性や発想や
創造性といった多面的な能力が必要となる。
さらに、レンズや、カメラを含む機材全般での知識や理解も
勿論必要となる為、実際のところは、そんなに全ての方向性の
分野に精通している「スーパーマン」はどこにも存在しないし、
仮に一生の殆どをライフワーク的に、それらの修練に捧げたと
しても、それでも到達は出来ない高いレベルであると思うし、
そもそも、いくら努力してもカバーしきれない才能や天分と
いった要素もある訳だ。
まあ例えば絵画の世界においても高い技術と感性と創造性を
合わせ持つような「天才」でも無い限りは、名画は生まれない
訳であり、そういう名画を生み出した巨匠の数は人類史全体を
振り返っても、数えられる程度の人数しか生まれてこなかった
状況である。
ただ、写真においてもそうだが、「目標」がわかっていて、
それを目指して努力や修練をする事と、そうではなく、
ただなんとなく写真を撮り、「綺麗に撮れた」などと喜んで
いるだけでは、そこに雲泥の差は生じてしまうだろう。

高価なレンズではあるが、勿論、長所も短所も存在する。
長所は高い描写表現力、この点については、一般的な観点、
つまり収差の類や解像感や逆光耐性などについては弱点は
見当たらない。おまけにそれに加えて、近接域における
「ミクロ的世界観」の演出能力に優れる特性なので、
マクロ撮影が楽しくなる事は間違いない。
すなわち「エンジョイ度」も「必要度」も高いレンズだ。
さらには「マニアック度」も高いが、ここは逆に短所にも
なりうるのでユーザーの志向によっては注意が必要だ。
つまり、マニアック度の高さは、例えば「入手性が悪い」
「高価すぎる」「MFのみでは使いにくい」「等倍では無い」
「大きく重い」「ミラーレスEマウント機と重量バランスが悪い」
「絞り環が使い難い」「ピントリングの操作性が悪い」などの
さまざまな本レンズの「特色」は、それは利用者によっては、
短所となるし、逆に、使いこなしの楽しみや希少性の高さを
マニアックな長所と見なすこともできてしまう訳だ。
だから、マニアック度の高いレンズ、いや、そうでなくても
多くのレンズの評価は、利用者の各々によって異なって
くるのが当然な訳であり、原則的に他人の評価は参考には
ならない。あくまで評価は自身により決めなければならない。

掲載しておこう(本シリーズ第11回記事の再掲)
Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/f2
・描写表現力:★★★★☆
・マニアック:★★★★★
・コスパ :★★
・エンジョイ:★★★★
・必要度 :★★★★
・評価平均値:3.9
(★=1点、☆=0.5点)
私の観点においては、悪い得点では無いレンズだが、同時に
「名玉の条件」(総合4.0点以上)には僅かに届かない。
その主な原因はコスパ点の低評価であり、入手性が悪い故に
新品で高価に購入してしまったからだ。
まあ、適切なタイミングで上手く中古で入手できるので
あれば、もう少しだけ評価点が伸びるレンズである。
でも、必要性に関しては、あくまで利用者毎により異なる。
MFで絞りも一々設定しなくてはならず、レンズ内の手ブレ補正
も持たなければ、ビギナー層では使いこなす事すら困難だ。
他人の評価はあてにならない、ここは最も重要な事だと思う。
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さて、今回の記事「高描写力ミラーレス用中望遠レンズ
特集」は、このあたり迄で。次回記事に続く。