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特殊レンズ・スーパーマニアックス(26)ティルト・シフト レンズ

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本シリーズでは、所有している、やや特殊な交換レンズを、
カテゴリー別に紹介している。
今回の記事では「ティルト・シフト レンズ」を4本紹介する。
なお、両機能を擁するレンズは所有しておらず、紹介レンズは、
「ティルト」あるいは「シフト」の、いずれかの機能である。

いずれも過去記事で紹介済みのレンズであり、撮影も
1~2年前に行ったものだ。まあ、この手の特殊なレンズ
は一般的にも、あまり情報は無いだろうから、外出が
自粛されている世情において、家でのレンズの勉強等の
参考まで。

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まず、最初のティルトシステム
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レンズは、LENSBABY MUSE Double Glass Optic
(新品+中古購入価格 計9,000円)(以下、MUSE DG)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

これは「ティルト」(Tilt)型レンズである。
写真におけるティルトとは、カメラのレンズ光軸を意図的に
任意の方向に傾ける事であるが、通常のレンズではそうした
操作は勿論できない、そんな事をしたら、レンズが折れて
しまう(汗) まずは、ティルト専用の機構を持つレンズ
(またはシステム)が必須である。
_c0032138_16515268.jpg
「ティルト」機能を実現する為に、良くあるのが「蛇腹式」の
機構であり、本LENSBABYのシリーズは、その構造だ。
また、観光地での集合記念撮影等で、よく使われていた銀塩の
大判蛇腹式カメラも同様な構造だ。
なお、一眼レフの業務用ティルトレンズ(例:CANON TS-E等)
では、歯車とダイヤル等の機構で、精密に傾ける量(角度)を
調整できる。

何故、こうした機能が必要なのかは、概ね2つの目的がある。

1つは、業務用撮影において、撮像面(センサーやフィルム)
に平行では無い被写体全体にピントを合わせたい場合だ。
具体例としては、斜めに置かれた小物商品(例:時計)や
斜めの建造物や、集合写真で手前の列と奥の列が斜めに
なっている(距離の差がある)場合等に使用する。

これが本来の「ティルト」の用法なのであるが、写真界では
例によって用語が完璧に統一されておらず、この用法は
「ティルト」「ティルトアオリ」または広義に「アオリ」と
様々に呼ばれている。

もう1つの用法だが、アート撮影や、趣味撮影、あるいは
業務撮影の一部において、被写体のごく一部だけにピント
を合わせて、他はボカしてしまう事ができる。
これを「逆アオリ」と呼ぶ事もある。また、アート系の
一部では、この用法でピントが合った部分の事を指し
「スイートスポット」と呼ぶ(匠の写真用語辞典第6回)

どちらの用法を使うかは、ティルト操作におけるレンズ光軸
の傾け方に依存し、概ね、ピントを全体に合わせたい斜めの
角度に正対して光軸を垂直にするようにティルト(傾け)を
すれば、斜めの被写体全体にピントが合い、それとは異なる
方向に傾ければ、そのレンズ面と平行な面がピント面となる
為、その平面と直交する、被写体のごく一部だけにしか
ピントが合わない。

この撮影には知識や経験が必要な他、その操作も難しいので
本来このティルト操作は専門家による業務撮影オンリーで
あったし、これができる機材も専門的で高価だったのだが・・

1990年代~2000年代前半の銀塩末期において、このティルト
機能(逆アオリ)を用いて撮った写真が「ミニチュア風」
「ジオラマ風」に見える、と流行し、その専門のアーティスト
も表れ、一般ユーザーにも知られるようになった。
(参考:2010年代のミラーレス機等では、この効果が
「(ミニチュア風)エフェクト」として搭載され、撮った
写真にその効果を付与する事が可能な機種もあるが、実際の
ティルトレンズでの写真とは微妙に効果が異なる場合もある)

時を同じくして、LENSBABY(米国)から、アマチュア層
でも買える価格帯のティルトレンズが発売された。
世間においては、LENSBABYのこうしたレンズは「トイレンズ」
の一種と見なされる事も多く、当初は直輸入品で、そこそこ
高価であったので、あまり爆発的に普及する事もなかったが
それでもLENSBABYは、3G、MUSE、コントロールフリーク、
Composer/Pro系、SOL等と、順調に製品改良を続けていき、
販売ルートも日本のKENKO社が代理店となって、若干安価に
なった事から、そこそこ普及するようになっていく。

近年のLENSBABYは、ソフト、グルグルボケ等の特殊効果を
持つレンズも発売されるようになったが、やはりここでも
高付加価値化されているのか、それら新鋭レンズ群は若干
高価になってきている。

ただ、LENSBABYの各レンズは、決して「トイレンズ」では
無く、特殊効果が得られるものの、写りはとても本格的だ。
そして、どれも使いこなしが極めて難しく、ビギナー層では
手に負えるものでも無いと思うので、若干高価な位の方が
本当に必要な人だけが買うので良いバランス点かも知れない。
(LENSBABYの、ぐるぐるボケやソフトレンズは、別記事で
紹介済み/紹介予定だ)
_c0032138_16515226.jpg
さて、前置きが長くなったが、本MUSE DGについてだ。
2009年発売のティルト型レンズ(シリーズ)である。
旧来のLENSBABY 3G等では、光学系が固定であったが、
MUSEでは、光学ユニット(Opticと呼ばれる)が交換可能
となった。その種類は、ダブルグラス、シングルグラス、
プラスティック、ピンホール&ゾーンプレートの4種があり、
ここに書いた順番で、どんどんと写りが「ユルく」なる。
(以下、便宜上DG,SG,PL,PZと略す)

かつて光学系交換式のシステムは稀にあったが、レンズの
焦点距離や開放F値が変化する状態であった。上記のMUSEの
オプティック群は、いずれも50mm前後の焦点距離であり
この「画質が変わる」という特徴は、恐らく初かも知れない。
口径比(F値)の調整は、付属の絞りディスク(磁力式)を
撮影前に交換しなくてはならない。(注:PZ型を除く)

絞りディスクは、F2~F8の5枚が付属しているが、前モデル
LENSBABY 3Gと共通で使用でき、3Gでは、もっと多くの
絞り値が選べるように、と枚数が多かった。

だが、被写体に応じての交換はかなり手間なので、私の場合は、
たいてい撮影単位で固定だ。(今回はF8のディスクを使用)

また、DG,SG,PL等の各オプティックの特性(画質の差)や
撮りたいイメージによっても、さらには天候(明るさ)や
カメラ側の性能(最低ISO感度や、最高シャッター速度)に
よっても、装着すべき適正な絞り値は変わってくるだろう。

私は、DG,PL,PZの3つのOpticを所有しているが、今回の
記事では、その代表として、DG(Double Glass)を紹介
している(他のOpticについては、別記事を参照されたし)

そして、F2などの明るい絞りディスクをつけた場合だが、
カメラ側の性能(最低ISO感度と最高シャッター速度)
によっては、日中では撮影不能になる場合がある。
こうした場合、φ37mmのフィルターを装着する事が可能
ではあるが、φ37mmの小径の減光(ND)フィルターは、
あまり売っておらず、入手しずらいのが課題だ。

なお、ミラーレス機用のOLYMPUSの純正レンズでも、
φ37mmと小径、かつ大口径(F1.8)の場合があって、
こちらも小径NDフィルターが入手し難い。
だが、いずれにしても必要となるならば、なんとかして
φ37mmのND4フィルターは、入手しておく必要がある
だろう。

カメラ用品からは入手できなくても、ビデオ用品では
あると思うし、どうしても入手しずらい場合は、「V37」
(ビデオ用37mm径という意味)と書かれた仕様の
ステップアップリングを用いて、φ49mmなどの通常の
写真用フィルター径に変換してしまう方法もある。
(注:LENSBABYその他の、レンズ側の構造によっては、
ステップアップリングが装着できない場合もある)
_c0032138_16515285.jpg
さて、難解なティルトの原理や光学系システムを理解したと
しても、次なる問題点は、このMUSEの操作性が難しい事だ。
手指の感覚だけで、必要なティルト量、ティルト方向の他、
ピント位置までも調整しなければならない。

本MUSEは、この時代(ミラーレス機以前)の製品なので
一眼レフでの使用を前提としていた模様だが、正直言って
一眼レフの光学ファインダーでは困難すぎて撮影不能だ。
ピーキング機能を持ち、かつ、小型で操作系の適した
ミラーレス機母艦との組み合わせが適正であり、かつて
私は、その目的には、ずっとSONY NEX-3を使用していた。

今回は、NEX-3とほぼ同等の形状で、エフェクトも使用
できるNEX-7を使用しているが、何故かこのシステムでは
ティルト時に、ハレーション(フレア)の発生頻度が高くて
やや使い難い。この原因は現状では不明であるが、また追々
検証してみよう。

いずれにしても、ちょっと高度すぎて、初級中級層に
簡単に推奨できるシステムとは言い難い。
原理を理解し、かつ精密なコントロールを行わない限りは
「ミニチュア風写真」が撮れたとしても、それはあくまで
偶然でしか無いだろうからだ。
そして、決して「トイレンズもどき」とは思わない方が良く、
アート系上級アマチュア、または上級マニア層にのみ推奨
できるレンズである。

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では、次のシフトシステム
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レンズは、NIKON PC-NIKKOR 35mm/f2.8
(中古購入価格40,000円)(以下、PC35/2.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

詳しい出自は不明だが、恐らくは、1960年代~1970年代
頃の「シフトレンズ」である。


高価に買いすぎたレンズだが(汗)、そこはさておき・・

「シフト」(Shift)とは、「ティルト」とは全く異なり、レンズを各方向にスライド(平行移動)し、光軸をずらす。


この機構がもたらす効果は、遠近感(パースペクティブ)
が変化する事であり、本レンズの型番「PC」も、
「パースペクティブ・コントロール」の意味であると聞く。
_c0032138_16520583.jpg
具体的な用途としては、たとえば聳え立つビル等の建築物
を撮影すると、下から見上げた場合、上部が上すぼまりに
なって写る。これは遠近感(パース/パースペクティブ)
からなるもので、広角レンズになると顕著だ。
ここでシフト機能を用いると、例えば、その上すぼまりを
緩和して、真っ直ぐ建築物が立っているように撮れるし、
あるいは逆方向にシフトすれば、遠近感が強調され、迫力の
ある写真を撮る事ができる。
まあ、いずれにしても業務用途が主眼のレンズだ。

で、シフトレンズの説明記事等では、そのようにシフト機能
を撮り分けて、効能を説明している例がほぼ全てなのだが、
しかし、そういう例をあげたところで、では、どのように
シフト機能を有効活用するか?という事は、わかりにくい。

実際には、ほとんど目立たないように、この機能を使う
訳だ、それが業務用途の場合での使い方だと思う。
本記事でも、そういう視点で、シフト前、シフト後などの
単純な例を挙げるのはやめておこう。あくまでさりげなく
使う事だ。

なお、この用法で趣味撮影においては、三脚が必須という
訳では無い。何故ならば、シフトすると構図がずれてしまう
為、三脚を用いてもシフト量に応じて、毎回の位置調整が
必須となる、業務撮影ならばしかたないが、趣味撮影では
これは煩雑すぎる為、手持ち撮影で十分であろう。

で、「シフト」に加えて、前述の「ティルト」機構の
両者を備えた業務用レンズも存在し、ニコン製であれば、
PC-Micro 85mm/f2.8(新旧版あり)等が存在し、他社でも
前述のCANON TS-Eシリーズなど、いくつかの機種があるが
これらは業務用途なので、かなり高価ではある。
(いずれも未所有だ)
_c0032138_16520581.jpg
それから、フルサイズ用のシフトレンズは、APS-C型以下
のセンサーサイズを持つカメラでは、殆どその効果が
得られない。よって今回は、フルサイズ機NIKON Dfを
使用しているが、本PC35/2.8はAi機構(絞り値を本体
に伝えて露出を制御する)を持たない仕様のレンズの為、

シフト操作を行うと、露出が狂う場合が多々ある、
よって、使いこなしは非常に困難である。


また、同様に近年のLAOWA等の海外製、あるいはサード
パーティ製のシフトレンズも、Ai機構に対応しておらず
現代のニコン機(一眼)では露出が狂ってしまう。

ニコンシステムにおける、この問題の回避法は3つあり、
まずは、2000年代後半からの電磁絞り対応シフトレンズ
(PC-E型)であれば、E型対応ボディ(D3の時代以降)
との組み合わせで、恐らく露出は安定する。
ただし、PC-E型レンズは高価で未所有につき、実際には
これは試していない。

第二に、ミラーレス機等にアダプター装着してしまう事だ
実絞り測光になるので、これは露出は合う。

第三に、シフト量による露出変動を予測して、適宜
露出補正をかけて問題を回避する手段だ。今回は、この
第三の手法を用いているが、これは容易な話ではなく、
試行錯誤を繰り返しながらの面倒な問題回避法だ。

シフトレンズであるが、APS-C機やμ4/3機では、その効果
が殆ど現れず、高価なフルサイズ機を用いたとしても、
実際にそれが必要なシーンは、厳密な業務用建築写真等、
かなり限られていると思う。
アマチュア層が必要とするレンズとは言い難い。
_c0032138_16520588.jpg
なお、現代においては、こうしたシフト操作は、PC上等で
高機能レタッチソフトにおいては、その1つの機能として
「遠近感補正」が含まれる場合が多く、それで代用可能だ。

画像処理でシフト操作を行うと、計算誤差の蓄積で画質が
劣化する心配があるかも知れないが、光学シフトでも、
口径食の発生により周辺画質が低下する問題は避けられず
編集と実写のシフトは大差無いであろう。

結局、業務用途はいざしらず、趣味撮影においては、どちら
でも良い事だと思うので、ソフトで処理するならば、シフト
レンズの必然性も高くは無い。
シフト系レンズは高価であるから、なおさらアマチュア層
には無縁であると思う。

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では、3本目のティルトシステム
_c0032138_16521800.jpg
レンズは、PENTAX SMC TAKUMAR 28mm/f3.5
(ティルトアダプター使用)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

ここでは、LENSBABYや業務用本格ティルトレンズを
使わずに、ティルト効果を実現できるシステムを紹介する。

その手法は、「ティルトアダプター」等と呼ばれている
マウントアダプターを使用する事だ。
なお、ティルト効果については、シフト効果よりも
顕著に現れる為、ミラーレスのAPS-C機やμ4/3機を母艦と
する事も可能である。
ただし、ティルト効果を実現する構造は、そこそこの
大きさが必要である為、一眼レフ用レンズをミラーレス機に
装着する場合でのフランジバック長の差を利用するしか無く、
恐らくだが、一眼レフマウント用のティルトアダプターは
発売されていないと思う。
_c0032138_16521859.jpg
さて、この方式では、そのティルトアダプターのマウント
に合致すれば、どのレンズでも使用可能であるし、
ティルトアダプターとマウントアダプターを2重に
用いれば(その組み合わせは限られるが)、さらに多くの
マウントの任意のレンズをティルトレンズにする事が出来る。

ただし、ティルト効果を得る為には、趣味撮影においては
できるだけ広角のレンズを使った方が派手な効果が得られて
良いであろう。ただまあ、それは勿論、被写体によりけり
なので、今回は、28mmの一般的広角レンズを使用する。

スィートスポットを得る為の「逆アオリ」技法を使いたい
場合で「広角レンズの方が被写界深度が深いから、ボケにくい
のでは?」と心配する必要は無い。レンズを傾けた(ティルト
した)方向にピント面が傾くから、そのピント面を頭の中で
思い浮かべ、そこに直交あるいは大きな角度で交わる平面の
被写体とは、仮想ピント面と交わった、ごく一部にしか
ピントが合わない訳だ。よって、レンズ自体の被写界深度の
多寡は、あまり関係が無くなる。

しかし、本記事冒頭の「MUSE」でのように派手なティルト
効果を狙っているだけでも飽きが来易いかもしれない、
本システムにおいては、出来るだけ、目立たない使い方を
してみよう。
_c0032138_16521838.jpg
こういう使い方の方が、ティルト効果を厳密に(角度、量)
設定しなくてはならないので、遥かに難しい。
LENSBABY等で「偶然、こういう写真が撮れました」という
訳にはいかないので、非常に高難易度だ。

参考だが、ティルトアダプターに対して魚眼レンズを使う場合、
一般的には魚眼レンズは中遠距離撮影では殆どパンフォーカス
となる為、魚眼風の写真に「スィートスポット」がある状態は
面白く、これは、なかなか効果的でインパクトの大きい写真
となる。

ただし、この用法は、本ブログのミラーレス・マニアックス
等の過去記事で何度か紹介している為、いつも同じ用法に
しない為にも、今回は通常の広角レンズを使用した訳だし、
前述のように「非常に地味な効果を狙う」という目的もある。

あと、「究極のパンフォーカスであるピンホール(針穴)を
用いると、さらに面白い効果が得られるのでは?」と思って
過去記事でそれを試した事があったが、ピンホールはレンズ
ではなく、単なる穴が開いているだけで、光軸やピント面
という概念もなく、いくら針穴をティルトしても、全く
効果が出なかったし、システムによっては「ケラれる」だけ
なので、その用法の実験は失敗に終わった(汗)
(ただまあ、思う事があれば、実際に試してみる事が、
とても重要であり、頭の中で想像しているだけでは分からない
事が色々とある。しかし、多くの一般層やマニア層では、
こうして実際に試してみようとせず、そこが残念である)
_c0032138_16521860.jpg
さて、「シフト」に比べると、「ティルト」の方がアート的
な要素がある為、趣味撮影においては使い易い。
ただ前述のように、ティルトレンズは、LENSBABYを除いて
は、殆ど業務用の本格的なものばかりとなる為、価格的な
問題もあって買いにくいし、LENSBABYは、さほど高価では
無いが、使いこなしが極めて難しい。

そういう状況においては、こういた「ティルトアダプター」
であれば、安ければ数千円で入手でき、かつ、様々なレンズ
で遊べるので、かなり簡便である。
こうしたシステムであれば、初級中級層であっても推奨が
可能だ。

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では、今回ラストのシフトシステム
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レンズは、LAOWA 15mm/f4 (LAO006)
(新品購入価格75,000円)(以下、LAOWA15/4)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2016年に発売された、中国製の特殊MFレンズ。
シフト機能に加え、超広角ながら、等倍マクロ仕様
となっている。(これは極めて希少なスペックだ)
_c0032138_17485726.jpg
取得価格は、やや高価であったが、この特殊レンズが中古
市場に流れてくる見込みは無かった為、若干無理をして
新品購入した。なお、後年には数度だが中古も見かけたし、
新品値引きや、メーカー・キャッシュバックキャンペーンも
複数回行われたので、ちょっと待ってから買っても良かった
かも知れない。「焦って新製品に飛びつくのも得策では無い」
という事であろう。

さて、せっかく買った高額レンズだ、その価格の分は
楽しませてもらおう(笑)
ニコンFマウント製品であるが、前述のように、ニコン機に
装着すると、非Ai仕様とシフト機能使用により、露出値が
無茶苦茶になる。前述の回避法を用いれば撮れないという
訳では無いが、非常に面倒だ。

そこで、ニコンFマウントレンズは、ほぼすべての他社機で
使用できるため、今回は母艦としてフルサイズ機SONY α7
を使用する。
実は、本LAOWA15/4のシフト機能は、フルサイズ機では
強く効かせるとケラれ(大きな周辺減光)が発生する為に、
シフト時にはAPS-C機の使用が推奨されている。


だが、α7であれば、「APS-C撮影のON/OFF」の設定や、
デジタルズーム機能の使用により、必要イメージサークルを
適宜連続可変できる訳だ。購入時には、こうした利用法を
想定して、様々な現代のあるいは将来のミラーレス機等でも
使用可能となるニコン版Fマウント品を選んで購入している。

一般ビギナーユーザーは、撮影機材購入の際に、カメラ本体
の事ばかりに目が行ってしまう課題を持つが、中上級者や
マニア層であれば、カメラ本体の事よりも、レンズの方に
遥かに重点を置いた視点で、撮影機材をシステム化していく
事が必須だ。
(よって、カメラ本体だけ、ピカピカの高価な新品で、
レンズの方に全く神経が行っていないシステムを持っていると
「何もわかっていないビギナーみたいで、格好悪い」という
状況になる訳だ)

さて余談が長くなった、本LAOWA15/4の使用法だ。

まずは一般的な超広角写真。
_c0032138_16523361.jpg
フルサイズ機での15mmの超広角画角は、そこそこインパクト
がある。ここで現れる周辺光量落ちは、ご愛嬌であり、
例えば銀塩時代の人気レンズ、CONTAX ホロゴン16mm/F8や、
フォクトレンダー スーパーワイドヘリアー15mm/F4.5や、
RICOH GR 21mm/F3.5等の超広角システムは、周辺光量が
落ちる特徴が、その存在感を増していた訳だ。

よって、目くじらを立てる必要はなく、むしろ周辺光量落ち
は大歓迎で、撮影時にはその特徴に適した被写体を選べば良い。

なお、絞り込む事で、この周辺減光は若干解消できるが、
それでも、どうしても周辺光量落ちを出したく無い場合等は、
レタッチソフト等でもこれを補正する事は可能であろう。
(注:カメラ内蔵の周辺光量補正は、レンズ側にデータROM
を持っていない場合は使用できない。本レンズも無理だ)

ただまあ、前述の銀塩人気超広角にあったような、キリキリ
とした解像感は、あまり本レンズでは得られない、ここは
多少絞り込んでも同様な印象だ。その分、本LAOWA15/4は、
超広角レンズとしての基本的描写力に対する不満は出るかも
知れない。

さて、次に超広角マクロ。
_c0032138_16523339.jpg
この特徴は、過去のレンズには無かった。
2000年代初頭のSIGMA広角3兄弟(20/1.8,24/1.8,28/1.8)
が、いずれも20cm以下まで寄れで、かつ大口径(F1.8)
とあいまって、当時としては、かなりインパクトがあった
のだが、これらでも良くて1/3倍程度の撮影倍率だ。

超広角で、しかも等倍というと、もう例えば「昆虫カメラ」
とかの専門的な特殊機材でしか得られ無かった事であろう、
よって、本レンズでは、過去見た事も無い映像が得られる。
(注:2020年に発売された、TAMRON 20mm/f2.8 DiⅢ
OSD M1:2 (ModelF050)は、フルサイズ対応20mm超広角で
最短11cm、最大1/2倍マクロ仕様だ→後日紹介予定)

注意点としては、最短撮影距離は12cmであるが、
これのWD(ワーキング・ディスタンス)は4.7mmしか無い。
つまり、レンズ先端の直前に被写体を置く事になるから、
色々な危険がつきまとう。

まず被写体衝突の危険を避ける為には、保護フィルターの
使用が望ましいが、厚手の物では、ケラれる可能性も
若干あり、使用システムでの状況を見ながら装着する。
被写体衝突を回避できても、屋外撮影においては、ピント
合わせはかなり困難であったり、木の枝等が入り組んだ場所
ではレンズが入らない、昆虫等の被写体は近づくと逃げて
しまうし、また、WDが短い事でレンズの影も出る事からも、
色々と撮影条件確保が難しい。

では、次に、シフト機能だ。
シフト機能(上下最大6mm)を効かせると、遠近感を制御
できる。「あまり例を挙げても意味は無い」とは前述したが、
少しだけやってみよう。
まず、以下は極端に遠近感を強調した場合。
_c0032138_16524105.jpg
そして、逆に遠近感を減らすと以下のようになる。
_c0032138_16524136.jpg
この用法の場合の課題だが、2つある。


まず前述のように、フルサイズ機ではイメージサークルが
不足するので、周辺が大きくケラれる。これをAPS-C相当
等にセンサーをクロップ(切り出し)して使う必要がある。
(デジタルズーム利用またはトリミング編集でも良い)

それから、このシフト機構は他の一般的なシフトレンズの
ように全方向に有効ではなく、上下方向に固定されている。
よって、カメラを横位置にして、上下方向の遠近感しか
調整できない。

まあ、極めて特殊な使い方をするならば、カメラを縦位置
に構えて、横方向シフトを行う事も機構的には可能だ。
だが、その用法を使うべき被写体が殆ど無い。あえて
使うとすれば、横方向に長く伸びた塀などの被写体だが
それを縦位置写真で切り取る、というのも不自然だ。
よって、このシフト機構は横位置撮影専用となる。

さて、ここからは、メーカー側も想定していないだろう
変わった用法を紹介する。

本レンズに「ZENJIX SORATAMA(宙玉)72」を装着する。
_c0032138_16524889.jpg
LAOWA15/4のフィルター径はφ77mm、宙玉はφ72mm
なので、この場合、ステップダウンリングを1つ噛ませる
だけで装着が可能だ。
あとは、LAOWA15/4の約5mmという短いWDを利用して
これで撮るだけだ。
_c0032138_16524836.jpg
(注:宙玉は上下反転して写るので、記事掲載時には
必要に応じて、上下を逆転させている)

一般的な宙玉での作品では、宙玉が小さく写りすぎている
事を嫌って、本ブログではこれまで、WDのとても短い
マクロレンズ(例:SONY DT30/2.8)を主に使ったが、
それだと、逆に宙玉が大きく写りすぎる状況もあった。

本システムの場合は、これは宙玉が小さく写りすぎ、かつ
周辺が大きくケラれるのだが・・
ここについては、母艦α7に備わるデジタルズーム機能や
APS-C撮影機能を用いる事で、宙玉サイズを調整可能だ。
_c0032138_16525588.jpg
そして、さらにこの状態でシフトをかけるとどうなるか?
_c0032138_17575342.jpg
いや、殆ど効果が無い模様である。宙玉の背景の遠近感は
変化している模様だが、そこはアウトフォーカス部で
あるから、本来、人間の視点での着目点にはならない。
で、その対策で被写界深度を深めているが、結局、シフト
の効果はよくわからないし、そもそも非常に難しい撮影だ。

・・まあでも、本当に様々な遊び方が出来るシステムだ。
まるで、理科(科学)教材の「実験キット」のような
感じであり、まあ多少高価であるとは言えるが、一般的な
超広角15mmレンズを買ったとしても、本LAOWA15/4と
同等か、さらに高価であるから、これでも十分にコスパは
良いレンズと言えるであろう。

ただし、使いこなしはさほど容易ではないし、そもそも
「用途開発」(=どのような被写体に対して、どのような
撮り方をするか)も、かなり困難なレンズである。
本レンズも、上級者または上級マニア向けとしておこう。
_c0032138_16525535.jpg
総括だが、今回の記事も特殊なレンズばかりの紹介となり
「ティルト」や「シフト」は、どれも一般カメラユーザーに
推奨できるレンズとは全く言い難い。

でもまあ、本シリーズ記事は、「特殊レンズ・スーパー
マニアックス」というカテゴリーである。
このシリーズで紹介する製品は、一般的な消費者層が、
必要とはしないだろうレンズばかりである。

で、このシリーズでは、「世の中には、こんな変わった
仕様のレンズもあるのだよ」という意味での紹介が主眼だ。

その裏には、現代の初級中級層は、高性能で高価な新鋭
レンズ(大三元等)にばかり目が行ってしまい、あるいは
マニア層は、オールドのレアなレンズばかりに目が行って
いる、という状況に対する「アンチテーゼ」の意図もある。

新鋭レンズやブランドレンズといった、それら高額レンズ
は、どう見てもコスパが悪く、個人的な視点からは、
趣味撮影の範疇においては、本シリーズ記事の特殊レンズ
群よりも、さらに推奨しにくいものばかりとなっている。

では何故、一般消費者層が、そうした高額レンズにばかり
目が行くのか?は、「もしかすると、そうしたレンズしか
知らないのではなかろうか?」という懸念がある訳だ。

加えて「良く写る(Hi-Fi)レンズが常に正しい(正当な)
レンズだ」さらには「高額なレンズは常に良く写るのだ」
といった、様々な”思い込み”があるように思えてならない。

そうした理由で、そうした高額レンズを欲しがるのであれば、
「世の中には、もっと様々な仕様や特徴を持つレンズが
 いくらでもある、そして、その楽しみ方も様々にあるし、
 値段が高いレンズが常に「良いレンズ」だとは限らない、
 それはユーザー毎の用途や価値観によりけりである」
という事を、是非伝えていきたい訳だ・・

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さて、今回の記事「ティルト・シフト レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・


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