「レンズ・マニアックス」シリーズの補足編として、
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
12本のレンズを紹介する3部作記事の後編。
今回は残りの描写表現力5点満点のレンズを4本紹介する。
今回紹介レンズ群もまた、「マニアック度」が高過ぎるので、
上級マニア御用達であり、一般層には推奨しない。
----
まずは最初のレンズ
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レンズは、COSINA Carl Zeiss Milvus 50mm/f1.4 ZF2
(中古購入価格 85,000円)(以下、Milvus50/1.4)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
2016年に発売の高解像力仕様MF大口径標準レンズ。
フルサイズ対応であり、ZF2仕様はCPU内蔵であるから
全てのNIKON機において、レンズ情報手動設定の必要が
無い他、絞り環のあるレンズながらも勿論ボディ側
からの電子ダイヤルでの絞り操作も受け付ける。
(注:NIKONの低価格帯一眼レフでは、MF性能が壊滅的に
NGであり、MFの本レンズを実用的に使用するのは無理だ)
また、この仕様では当然ながら、マウントアダプターを
介して、あらゆるミラーレス機(等)で利用可能だ。
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本レンズの最大の特徴だが、標準レンズとしては個性的
かつ先進的な「レンズ構成」である。
カール・ツァイス(正確には、ヤシカ/京セラCONTAX)
では、旧来の銀塩時代より一眼レフ用の広角レンズに
「ディスタゴン」(Distagon)の名称を与える事が
通例であったが、本Milvus50/1.4は、標準レンズで
ありながらも、「ディスタゴン」を発展させたレンズ
構成になっている。
ディスタゴンとは、距離(=ディスタンス)に、レンズ
を表す接尾語の「ゴン(オン)」をつけた造語だ。
「何が”距離”なのか?」と言う点だが、一眼レフでは
ミラーボックスが存在し、その奥行きが数十mm程度も
ある為、レンズマウントの位置を、その分だけ前に
離さなければならない(=これがフランジバック長、
その長さは、各メーカー(マウント)毎で異なるが、
だいたい45mm前後が多い)
そして、この状態では、例えば、広角レンズで28mm
という焦点距離を設計したい場合、普通であればレンズの
中心部(主点)から、だいたい28mm前後の距離に光路が
焦点を結ぶのだが、そうした設計で広角レンズを作ると、
それをミラーボックスのあたりに配置しなければならない。
それでは当然、ミラーが当たって一眼レフは動作しない。
そこで、ミラーボックスの距離(≒フランジバック長)
の分、光路の焦点を延ばす仕組みの設計が必要となる。
単純に言えば、凹レンズ等を追加して光路(バックフォーカス)
を延ばす訳だ。こうした構成の(広角)レンズを「逆望遠型」
または「レトロ・フォーカス型」と呼ぶ。
なお、ここでの「レトロ」とは、「懐古主義」ではなく
「遅れた」という意味(つまり「距離を伸ばす」)である。
さらに言えば「逆望遠型」の「望遠」とは、「焦点距離が
長い」という意味ではなく「焦点距離に比べてレンズ全長
(又は、”バックフォーカス”という定義もある)が短い」
という意味が本来である。だから「逆望遠」型とは、
「レンズ焦点距離よりも全長(orバックフォーカス)の
長いレンズ」という定義だ。
(注:これは光学分野での用語だが、この技術分野は古く
からあり、かつ一般層にも十分に様々な商品が普及していて、
用語定義がきちんと定まらず、かなり混迷してしまっている。
この事も、ちゃんと光学技術を学ぼうとする際に弊害となる。
上記で挙げた「望遠」の定義も、物凄く曖昧な状態だ。)
で、カール・ツァイス社では、レトロフォーカス型構成の
(広角)レンズに、”距離がある、距離を伸ばす”という
意味から、ディスタンス+ゴンの、「ディスタゴン」の
名称を与えた。(注:京セラ時代での話だと思うので、
そういう名前を「拝領した」という事なのかも知れない)
ただし、同じカール・ツァイスのレンズでも、レンジ
ファインダー機用のレンズでは、ミラーボックスを
持たず、フランジバック長も短い為に、広角レンズで
あっても、このような「ディスタゴン」(=レトロ
フォーカス)構成を持たせる必要がなく、対称型構成
などで設計を行う事ができた。
その代表的なものには「ビオゴン」の名称を与えており、
勿論これは、「ディスタゴン」の構成とは全く異なる
ものである。
(ビオゴンの「bi」は、「2つの」という意味であろう。
恐らくは、対称(風)の構成で、2つのレンズ群が向き
合っている事が語源であろうか・・?)
銀塩時代、特に、レンジ機と一眼レフの混在期の
1960年代~1970年代頃においては、この事実をもって
「レンジ機の広角の方が、一眼レフ用より良く写る、
何故ならば、レンジ機の広角は対称型設計であり、
その構成では、前後レンズ群の収差が打ち消し合って
描写力が優れるからだ。一眼用のレトロフォーカス
型では、こうはいかない」
という話が、専門的知識を持つ上級マニア層等の間で
広まっていた。(その話は、その後、数十年がすぎた
1990年代の中古カメラブームの際でも同様であった)
が、これは噂話や流言の類ではなく、技術的視点からは
正しい事だ。ただし「旧来技術で普通に設計をすれば」
という条件付きである。
その後の時代、レンズ設計技術は非常に進歩していて、
非球面レンズや異常低分散ガラスの使用等で、そうした
従来技術的手法での優位性等の差異はもう無くなっている。
以下余談だが、1996年に京セラCONTAXから、銀塩AF
レンジ機の新型機「CONTAX G2」と、その交換レンズ群
である「ビオゴン」(21mm)等が新発売された。
私は、その展示説明会に行き、ビオゴン21mm/F2.8
レンズを手にして見ていた。
すると、説明員の営業マンが近寄ってきて・・
営「いかがですか? 新設計のビオゴンですよ、
対称型設計なので、とても良く写ります」
匠「ほほう・・ すると、(一眼レフ用の)レトロ
フォーカス型では無い、という事ですね?」
営「さすが、お客様、よくご存知ですね!
その通りです、ディスタゴンより良く写ります」
という、やりとりがあった。
その営業マンは「このお客さんは、絶対にCONTAX G2と
ビオゴン21mm広角を買ってくれるな、しめしめ」と信じて、
営業レポートにも「好評価」と記載したのかも知れないが、
実は、このやりとりで、私はG2を買うのを保留したのだ。
それは何故か?と言えば、それまで、さんざんCONTAXは
一眼用のディスタゴンを高価な価格で売っていたでは
ないか、私も、そうしたディスタゴンを、それまでに
何本か高値で購入していた訳だ。
匠「これまでの自社製品を全否定してどうするんだ?」
という気持ちになり、一瞬で「ビオゴン」には興味が
無くなってしまったのだ・・
さらに言えば、その後「ディスタゴン」も殆ど購入
していない。つまり「なんだ、もっと技術的には
改良するべき余地があるのではないか! ツァイスと
言っても、常に最高の性能である訳でも無いのだな」
という感想(感覚)も明確に得られたからだ。
まあ、ずいぶんと「捻くれた客」とは言えるが(汗)
これは、もう時効の話であろう・・
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さて、本レンズMilvus 50/1.4を購入検討するにあたり
このレンズはコシナ製ではあるが、上記の約20年前の
京セラCONTAX説明員とのやりとりを思い出していた。
匠「あれから20年か・・ 当時のRTS用ディスタゴンも
かなり複雑なレンズ構成ではあったが、基本的には
オーソドックスな光学設計ではあっただろう。
このMilvus50/1.4のディスタゴンは、8群10枚と
複雑ではあるが、当時の設計とレンズ枚数は大差無い
ようだ。しかし勿論、こちらは標準レンズであるので
広角では無い。それに非球面レンズや、異常部分分散
レンズも使ったコンピューター設計となっている。
いったいどういう写りになるのか?非常に興味深い」
という考えかあって、本レンズ購入に至った次第である。
さて、手にしたMilvus50/1.4であるが、非常に重い(汗)
重さは900gもあって、既に所有していて、重量級だと
思っていた、SIGMA A50/1.4(815g)よりもさらに重い。
現在では、これ以上に重い標準レンズも数本存在するが、
それらの中でも、ワーストの重量ランキングには確実に
入る事であろう。
でもまあ、重たいのは購入前から覚悟していた事だ。
問題は描写力だ、いったいどんなものか?
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まあでも、ここから先は、既に本レンズについての
紹介記事「レンズ・マニアックス第17回」と同じ内容
になってしまうであろう。よって、細かいところは
もう割愛する、そちらの記事を参照していただいきい。
本記事では、特集シリーズ記事の一環として、従来での
紹介記事とは、また別の視点で記事を書いている次第だ。
基本的には、悪く無いレンズである。2点だけ注意点と
しては、まず逆光耐性があまり強くないので、できるだけ
フードを装着し、光線状況にも配慮する事だ。
それを守れば、気持ちの良い高コントラストの描写力が
得られる。
また、ディスタゴン構成のレンズは、「ピントの山が掴み
難い」という特性(短所)を持つ、と私は分析している。
本レンズも同様、MFでのピント操作は難しく、銀塩時代の
広角ディスタゴンとは異なる大口径標準なので、慎重に
ピント合わせを行う必要がある。
ニコンマウント版(ZF2)を買っておけば、ニコン一眼レフ
の他、あらゆるミラーレス機や、一部の多社一眼レフ
にもアダプターを解して装着できる。
でも、ミラーレス機の方が、各種MFアシスト機能の利用で
使い易くなるのは確かであろう。(前述のMFの課題回避)
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では、次のシステム
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レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus(新品購入価格 47,000円)
(注:原語綴りでの変母音の記載は省略)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
2000年代初頭に発売の、高描写力MF小口径中望遠レンズ。
後継バージョンがあるが、本レンズは初期型である。
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さて、こちらもマニアックなレンズである。
このレンズの発売前後、私は当時のフォクトレンダー製品の
高性能と高コスパにハマっていて、本レンズも発売直後に
新品購入し、とても機嫌良く使っていた。
(注:現代のフォクトレンダーレンズは、残念ながらコスパ
が良いとは思い難い。けどこれは、カメラ市場の縮退による
値上げ、という理由もあるから、ある程度やむを得ない)
しばらくすると、カメラの専門誌に、本レンズの描写力の
数値性能評価が載った。そこでの「数字」が示していた物
は、本レンズが「非の打ち所が無い完璧な性能」に近い
という事であり、数値評価者も、その点を褒めていた。
私は「ああ、やっぱりな」という感想を持った、
というのも、しばらく使っていて、本レンズの性能に
何も不満を感じていなかったからだ。
ただ、数値性能がイコール描写力という訳では無い、
収差や解像力等の「数字」だけでは、読み取れない様々な
性能がレンズには存在する、でもまあ、そういう点も含めて、
本レンズには個人的にも不満点が無かったのだ。
だが、私の他に本レンズを購入していたのは、一部の
上級マニア層だけであった、何故ならば、本レンズは
「カタログスペック」が弱いからである。
特に、開放F値3.5は、初級中級ユーザー層から見れば、
「暗くて性能が低いレンズ、廉価版、良く写る筈が無い」
という印象に直結し、誰も欲しいとは思わなかったのだ。
どうせ90mmを買うならば、90mm/F2.8のマクロレンズも
とても人気であったし、ちょっと焦点距離を変えて85mmに
すれば、85mm/F1.4の「憧れのポートレート用レンズ」も
色々と存在しているからだ。
これでは初級中級層や初級マニア層が、本レンズに興味
を持つ筈も無い。
だが、製造元のコシナとしても「最高傑作」という風に
本レンズを評価していたのだろう。後年には外観等を
リニューアルし、短期生産が多いコシナとしては珍しく
10年近くのロングセラー製品となっていたと思う。
しかし、いつの時代であっても、カタログスペックだけ
しか見ないユーザー層には、本レンズの価値はわからない
と思う。だから、所有者も多くないし、レビュー等も
当然少ない。仮に、専門的な雑誌やレビュー記事などで
あっても、対象の購買層が極めて少ないと思われる
製品には、手間をかけてレビューを行う事はしない。
レビューを書くならば、初級中級層が欲しがるような
大三元レンズ(開放F2.8ズーム群)等の記事を書く訳だ。
それであれば読者が喜ぶので、雑誌の売り上げが増えたり
WEBのアクセス数が増加したりする。メーカーや流通側と
しても利益率の高い商品を宣伝してもらえる方が助かる。
なにもわざわざ、誰も興味を持たないだろうアポランター
等のレビューを(手間やお金をかけて)する筈が無いでは
ないか。「こういうレンズが何月何日に発売されました」
と書いてあるだけの記事で終わりである。
ますますアポランターは知られず、売れず、世の中では、
有名または人気がある、あるいは「誰かが良いと言った」
レンズばかりが出回る・・という訳だ。
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まあ、こういう事は、ある意味当然の市場原理である。
でも、残念ながら世の中の大多数のユーザー層は、
そういう風に「作られた市場での評判」に振り回されて
しまっている訳だ。
別に、それでも誰も損はしないのだが、1つだけ課題が
存在する。もし、そうした生産数の少ない、あるいは既に
生産中止となっている名レンズ等に、発言力や影響力の
高い誰かが注目し、「これは良い」などと言ったら、
それだけで、他人の言う事に、ただ従う一般消費者層は
一斉にそれに注目し「そのレンズをどうしても欲しい!」
等と言い出す訳だ。この傾向は、昔の時代からあったが
SNS等が発達した現代ではなおさらだ、そこで拡散された
情報は、9割以上もの「何もわかっていない、単なる
受動的情報受信者」において「ネットで調べた事は真実だ」
という”誤まった認識”で瞬時に広まる。
で、そうなると「投機層」と呼ばれる人達が動く、
つまり、そうして急速に評判が高くなった製品等を
買占めしたりし、さらに好評価の噂話を広める等して
価格(相場)を吊り上げる。それでも買う人達が居る
から十分な差額利益が得られる訳だ。
投機層は個人とは限らず、流通業界や企業等で組織的
かつ大規模に行われる事もある、大量に行えば行う程
利益も大きくなるからである。が、これは単に悪事だ
とも言い切れず、正当な範囲内で行うのであれば、
「付加価値の高い商品を高値で売る」事はビジネスに
おける基本的な原理とも言える。
TVのCM等がその最たるものであろう、有名女優等が、
「私も使っています」と言えば、皆がそれを欲しがる。
(注:最近の新型ウィルス騒ぎで、マスク等を買占め
高額に売ろうとしたり、紙類が無くなる等のデマを
流し、品薄となった商品を高値で販売するなどは、
現時点では法的に取り締まる手段は無いと思うが
倫理的には明らかに「不当」であろう。
そして、カメラやレンズの売買においても似たような
形での「投機」を、そこまでのレベルで、やって
しまったら、もうそれは正当では無い事となる。
実際に、そういう事をやってきた業者等をいくつか
知っているが、それが分かったら、もう2度と、その
手の関連店舗等では商品を購入しない事としている。
そもそも生活必需品で無いカメラ等では、価値感覚が
分からずに高値でも買ってしまう側にも責任があり、
皆が無視すれば、売れない商品は必ず相場は下落する)
余談だが、「ウーロン茶」が日本で一般的になったのは
1970年代に、当時人気絶頂であった「ピンクレディー」が
「私達も飲んでいます」と言ったからだ、と聞く。
あるいは、「付加価値の創造」の話をするならば、
例えば戦国時代、配下の武将への恩賞としては「土地」
を与える事が通例であった。新たに支配した土地を
功労のあった武将に与え、モチベーションとする訳だ。
ただ、戦国末期、信長や秀吉等により天下が平定しつつ
あると、もう、そうした恩賞としての新たな「土地」が
無くなっていた。そこで信長や秀吉が行った施策と
しては、茶道等に用いる「茶器」を、土地に代わる
新たな「高付加価値」な品物として創り上げる事だ。
「この器には、日ノ本の国の半分の価値がある」
等と言う価値観を新たに作り、それを拝領した武将達は
「はは~っ」と、ありがたがって、それで満足する訳だ。
これも別に悪い事では無い、皆がそういう風に茶器に
価値を感じるのであれば、世の中はそれで上手く廻る。
でも、よくよく考えてみれば、茶器にそこまでの
(付加)価値があるのは、創り上げられた幻想なのだ。
現代におけるビジネスモデルも、どうやって、そういう
新たな価値観(付加価値)を創り上げるか?という点が
基本となっている。もう普通の「モノ」は世の中に溢れて
いて、誰も新しいモノを欲しいとは思わないからだ。
カメラやレンズでもそれは同等だ。だから、これまでも
「画素数の大きいカメラ」とか「フルサイズのカメラ」
とかが、付加価値が高いものだ、と世間一般(メーカー
や流通市場、雑誌等の情報市場等)において言い続け、
その事を、多くの一般消費者層が、そう信じるように
刷り込まれていった訳だ。
これも別に市場倫理(戦略)としては悪い事ではない。
でも、気づくと、新しく出るカメラやレンズなどは、
そうした付加価値で、とんでもなく高価となっている。
たとえば一眼レフ用新型50mm標準レンズが1本20万円、
新規フルサイズ・ミラーレス機が50万円。
でも、皆は「それらは、良いモノだから高価なのだ」と
信じて疑わない。
それは正しい状況なのだろうか? もしこのままユーザー
側の価値観がどんどんと、そういう方向に偏って行けば
それこそ戦国時代の茶器のように「これ1個で何百億円」
という価値観も受け入れるようになってしまうかも知れない。
まあ、余談がとても長くなったが、でもこれは重要な事だ。
消費者それぞれが確固たる価値感覚を持つ事が必要だが、
それを持っていない消費者層の存在により、ビジネスや
市場そのものが支えられている事もまた事実である。
難しい話ではあるが、そこは個人個人が各々に判断する
しか無いであろう。
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総括だが、この「アポランター90/3.5」は現在入手が
難しいセミレア品となっている。だが、もし現代において
これの再評価により、中古相場がプレミアム化(不条理
なまでの高騰)などの状況に陥った場合、その価値を
しっかりと購入側では把握(判断)しなければならない。
なお、本レンズに限らないが、近年の本ブログでは、
レンズ紹介記事には購入時の価格を必ず記載している。
これは、私の価値感覚において、レンズの本来の価値と
ほぼ同等である。何故ならば、「高すぎる」と思われる
レンズは殆ど購入しないからだ。
よって、これらの購入価格を参照し、現代において
これ以上の価格に高騰している場合は、それが本当に
許容できるかどうか?は、消費者側で検討・判断をする
必要があるだろうと思われる。
基本的には、本ブログで記載された価格以上では
買わない事が賢明だ、誰も買わなければ、中古相場等は
いずれ必ず下落する。
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では、3本目の高マニアックレンズ
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レンズは、SONY FE 100mm/f2.8 STF GM OSS
(SEL100F28GM)(中古購入価格 129,000円)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2017年発売の、史上4本目のアポダイゼーションレンズ。
AFのアポダイゼーション搭載レンズとしては、2014年に
発売のFUJIFILM XF56/1.2R APD 以来の2本目だ。
こちらのレンズもマニアックであり、しかも高価だ。
一般的に推奨できるようなものでは勿論無い。
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このレンズが発売された翌年位に、イベント会場で
たまたま知り合った新人マニア氏(SONYと旧ミノルタの
α-Eおよびα-Aマウントの機体とレンズを、短期間で
集中的に多数購入し、恐らく、その金額は1年間ほどで
200万円にも及んでいる模様だった・汗)の方と、
本レンズの話題で盛り上がった。
だが、その新人マニア氏は、「高価なレンズは高性能で
良く写る」と信じ込んでいたので、「それは、そうとも
限りません」と私は言い、「高価な製品は、多額の開発費を
少ない販売台数で割って上乗せするから、高くなるのです」
とも補足しておいた。「なるほど」と納得していた模様だが
それまで数百万円を投資していたのならば、もはやその
助言も手遅れであったかも知れない(汗)
また、その新人マニア氏は、より高価で、よりレアな
レンズをも欲しい、と言ったので、「そのレンズは
持っていますが、単にレアものなのでプレミアム価格に
なっているだけで、実際の写りはたいしたことありません」
と、釘を刺しておいた。
まあ、いくらお金を使っているとは言え、初級マニアだ、
「値段の高いものは、高性能な良く写るレンズだ」と
思い込んでしまうのも、やむを得ないであろう。
彼が、もう少し段階が進んで、安価でも良く写るレンズを
沢山入手して、加えてその頃には性能や描写力の絶対的な
評価が出来るようになれば、高額製品が本当にその価格に
見合う価値があるかどうかは、判断できるようになる。
しかしながら、高価なレンズを買った事で、それを所有
満足感に繋げてしまうと、安価なレンズを「安かろう
悪かろう」と、最初から馬鹿にして買わなくなるので、
なかなか中級マニアのステップに進む事も難しい訳だ。
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さて、本FE100/2.8STFだが、高価なレンズだけど
性能はどうか? この比率を示す「コスパ」の評価点だが
私のデータベースには1.5点(5点満点)が書き込まれている。
まあつまり「相当にコスパが悪い」という事だ(汗)
では何故、そうしたレンズを購入しているのか?
それはもう、本レンズが世の中に4機種しか存在しない
希少なアポダイゼーションレンズであるからだ。
だが、ここもそう単純に考えてしまうのも危険思想だ。
前述の、戦国時代の「価値の高い茶器」と同じで、
「希少なものであれば、高価で当然」という考え方では
本レンズがいくら高くでも許せる事になってしまう。
まあそうでは無いだろう、だからコスパをしっかりと
意識しなければならない。
で、コスパ評価点は前述の通り低評価である(汗)
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・・とは言うものの写りは悪く無い、なにせ描写表現力
の評価は5点満点である。
まあ、「アポダイゼーションに付加価値を見出す事が
できる」という、一部の特定層向けのレンズである。
マニア層も含め、一般的にはまったく推奨は出来ない。
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では、今回ラストのレンズ、
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レンズは、Voigtlander NOKTON 25mm/f0.95(初期型)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)
2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。
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これもまた同じ話だ、「F0.95というスペックならば
F2.8や、F1.4のレンズに比べて、どんなに高性能
なのだろう?」と考える初級中級層は多いと思う。
けど、もし意を決して、高額なこのレンズを購入したら
きっと驚く事になる。
「なんじゃこりゃ~、ボケボケの酷い写りではないか!」
という感想になると思う。
確かにこのレンズの開放近くの「描写力」は、決して
褒められたものでは無い。超大口径化で設計に相当に
無理をしているのか、球面収差を始めとする諸収差の
オンパレードであり、「ボケボケの甘い写り」と
思われてしまっても不思議では無い。描写力だけを
見れば、3点、あるいはそれ以下の評価点しか与え
られず、これは2つ前の記事での「NOKTON 42.5mm/
F0.95」と、ほぼ同様の評価傾向となるだろう。
だが、当該記事でも書いたが、このレンズには開放
F0.95の超大口径と、異常とも言える近接性能
(最短撮影距離=17cm)があるのだ。
これによる、極薄の被写界深度と、多大なボケ量、
そして球面収差等による軟焦点感は、上手く利用すれば、
他のレンズでは、まず味わえない独特の「表現力」を
得る事ができる。だから、私のデータベースでは
「描写力」ではなく「描写・表現力」の評価項目なので、
本レンズが5点満点を獲得できる所以となっているのだ。
しかし、であれば、このレンズを上手く使いこなす事が
出来なければ、その恩恵に預かる事は難しい筈だ。
つまりユーザー側に要求するレベルが高い、という事と
なり、それ故に「マニアック度」の評価が満点なのだ。
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すなわち、「マニアック度」とは世間一般的に想像する
ように、「金満家の人が、他の誰もが買わないような
高価で珍しいモノを平気で買ってしまう」という行為を
示すような得点では決して無い。
これの真の意味は「モノの価値を理解する、また、
そのモノの価値を高めようと自分なりに努力する」
という事を表している。
だから、本ブログにおけるマニアック度の高い製品
(カメラやレンズ)は、高価なものばかりではなく、
比較的安価なものも含まれている。
でも、使いこなしがとても難しく、その製品の真の実力
(性能)を発揮し難いものが殆どだ。
だから、使いこなしのスキル(技能や経験、知識等)が
低い初級ユーザー層においては、「マニアック度」が
高い事が災いして、「酷いレンズ(カメラ)だ、ちっとも
上手く撮れないではないか、マニア向けと言うのは
ウソか?」と思われてしまっても不思議では無い。
つまり、本ブログでのマニア向けというのは、本当に
ちゃんと使うのが困難であるものばかりだ、
でも、たとえその製品がそう(高価、困難)であっても、
「せっかく買ったのだから」と、製品の弱点に文句も
言わず、なんとか価値を高めようとして努力するならば、
向上心や知的探究心を持っている事になり、もうそれは
「真のマニア」であろう。
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本シリーズ補足編「高マニアック3部作」(前編、中編、
後編)で登場しているレンズ群は、勿論その名の通り
高マニアック度であり、つまりそういうマニアックな類の
ユーザー層にしか受け入れる事ができないレンズばかり
となっている。
ビギナー層が安易に手を出してしまったら、まるっきり
使いこなせず、投資した金額が完全に無駄になるリスクが
大きいので、それ故に「上級マニア御用達」と言っている
訳である。
まあでも、その事を理解した上で、とても難しくて
クセのあるレンズを購入し、それで練習や勉強や研究を
しようと言うならば、それは止めはしない。
それはむしろ、必ず役に立つ事だからだ。
結局のところ、どう考えるかは個々の消費者次第であり、
まあそれ故に「機材の評価など、使う人次第である」
ともいつも言っているし、さらに言えば「他人の評価は
全くあてにならない」とも、いつも書いている訳だ。
----
さて、今回の補足編シリーズはこのあたりまでで・・
次回記事からは再度、通常の「レンズ・マニアックス」
記事のコンセプトに戻ってシリーズを続ける。
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
12本のレンズを紹介する3部作記事の後編。
今回は残りの描写表現力5点満点のレンズを4本紹介する。
今回紹介レンズ群もまた、「マニアック度」が高過ぎるので、
上級マニア御用達であり、一般層には推奨しない。
----
まずは最初のレンズ
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(中古購入価格 85,000円)(以下、Milvus50/1.4)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
2016年に発売の高解像力仕様MF大口径標準レンズ。
フルサイズ対応であり、ZF2仕様はCPU内蔵であるから
全てのNIKON機において、レンズ情報手動設定の必要が
無い他、絞り環のあるレンズながらも勿論ボディ側
からの電子ダイヤルでの絞り操作も受け付ける。
(注:NIKONの低価格帯一眼レフでは、MF性能が壊滅的に
NGであり、MFの本レンズを実用的に使用するのは無理だ)
また、この仕様では当然ながら、マウントアダプターを
介して、あらゆるミラーレス機(等)で利用可能だ。
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かつ先進的な「レンズ構成」である。
カール・ツァイス(正確には、ヤシカ/京セラCONTAX)
では、旧来の銀塩時代より一眼レフ用の広角レンズに
「ディスタゴン」(Distagon)の名称を与える事が
通例であったが、本Milvus50/1.4は、標準レンズで
ありながらも、「ディスタゴン」を発展させたレンズ
構成になっている。
ディスタゴンとは、距離(=ディスタンス)に、レンズ
を表す接尾語の「ゴン(オン)」をつけた造語だ。
「何が”距離”なのか?」と言う点だが、一眼レフでは
ミラーボックスが存在し、その奥行きが数十mm程度も
ある為、レンズマウントの位置を、その分だけ前に
離さなければならない(=これがフランジバック長、
その長さは、各メーカー(マウント)毎で異なるが、
だいたい45mm前後が多い)
そして、この状態では、例えば、広角レンズで28mm
という焦点距離を設計したい場合、普通であればレンズの
中心部(主点)から、だいたい28mm前後の距離に光路が
焦点を結ぶのだが、そうした設計で広角レンズを作ると、
それをミラーボックスのあたりに配置しなければならない。
それでは当然、ミラーが当たって一眼レフは動作しない。
そこで、ミラーボックスの距離(≒フランジバック長)
の分、光路の焦点を延ばす仕組みの設計が必要となる。
単純に言えば、凹レンズ等を追加して光路(バックフォーカス)
を延ばす訳だ。こうした構成の(広角)レンズを「逆望遠型」
または「レトロ・フォーカス型」と呼ぶ。
なお、ここでの「レトロ」とは、「懐古主義」ではなく
「遅れた」という意味(つまり「距離を伸ばす」)である。
さらに言えば「逆望遠型」の「望遠」とは、「焦点距離が
長い」という意味ではなく「焦点距離に比べてレンズ全長
(又は、”バックフォーカス”という定義もある)が短い」
という意味が本来である。だから「逆望遠」型とは、
「レンズ焦点距離よりも全長(orバックフォーカス)の
長いレンズ」という定義だ。
(注:これは光学分野での用語だが、この技術分野は古く
からあり、かつ一般層にも十分に様々な商品が普及していて、
用語定義がきちんと定まらず、かなり混迷してしまっている。
この事も、ちゃんと光学技術を学ぼうとする際に弊害となる。
上記で挙げた「望遠」の定義も、物凄く曖昧な状態だ。)
で、カール・ツァイス社では、レトロフォーカス型構成の
(広角)レンズに、”距離がある、距離を伸ばす”という
意味から、ディスタンス+ゴンの、「ディスタゴン」の
名称を与えた。(注:京セラ時代での話だと思うので、
そういう名前を「拝領した」という事なのかも知れない)
ただし、同じカール・ツァイスのレンズでも、レンジ
ファインダー機用のレンズでは、ミラーボックスを
持たず、フランジバック長も短い為に、広角レンズで
あっても、このような「ディスタゴン」(=レトロ
フォーカス)構成を持たせる必要がなく、対称型構成
などで設計を行う事ができた。
その代表的なものには「ビオゴン」の名称を与えており、
勿論これは、「ディスタゴン」の構成とは全く異なる
ものである。
(ビオゴンの「bi」は、「2つの」という意味であろう。
恐らくは、対称(風)の構成で、2つのレンズ群が向き
合っている事が語源であろうか・・?)
銀塩時代、特に、レンジ機と一眼レフの混在期の
1960年代~1970年代頃においては、この事実をもって
「レンジ機の広角の方が、一眼レフ用より良く写る、
何故ならば、レンジ機の広角は対称型設計であり、
その構成では、前後レンズ群の収差が打ち消し合って
描写力が優れるからだ。一眼用のレトロフォーカス
型では、こうはいかない」
という話が、専門的知識を持つ上級マニア層等の間で
広まっていた。(その話は、その後、数十年がすぎた
1990年代の中古カメラブームの際でも同様であった)
が、これは噂話や流言の類ではなく、技術的視点からは
正しい事だ。ただし「旧来技術で普通に設計をすれば」
という条件付きである。
その後の時代、レンズ設計技術は非常に進歩していて、
非球面レンズや異常低分散ガラスの使用等で、そうした
従来技術的手法での優位性等の差異はもう無くなっている。
以下余談だが、1996年に京セラCONTAXから、銀塩AF
レンジ機の新型機「CONTAX G2」と、その交換レンズ群
である「ビオゴン」(21mm)等が新発売された。
私は、その展示説明会に行き、ビオゴン21mm/F2.8
レンズを手にして見ていた。
すると、説明員の営業マンが近寄ってきて・・
営「いかがですか? 新設計のビオゴンですよ、
対称型設計なので、とても良く写ります」
匠「ほほう・・ すると、(一眼レフ用の)レトロ
フォーカス型では無い、という事ですね?」
営「さすが、お客様、よくご存知ですね!
その通りです、ディスタゴンより良く写ります」
という、やりとりがあった。
その営業マンは「このお客さんは、絶対にCONTAX G2と
ビオゴン21mm広角を買ってくれるな、しめしめ」と信じて、
営業レポートにも「好評価」と記載したのかも知れないが、
実は、このやりとりで、私はG2を買うのを保留したのだ。
それは何故か?と言えば、それまで、さんざんCONTAXは
一眼用のディスタゴンを高価な価格で売っていたでは
ないか、私も、そうしたディスタゴンを、それまでに
何本か高値で購入していた訳だ。
匠「これまでの自社製品を全否定してどうするんだ?」
という気持ちになり、一瞬で「ビオゴン」には興味が
無くなってしまったのだ・・
さらに言えば、その後「ディスタゴン」も殆ど購入
していない。つまり「なんだ、もっと技術的には
改良するべき余地があるのではないか! ツァイスと
言っても、常に最高の性能である訳でも無いのだな」
という感想(感覚)も明確に得られたからだ。
まあ、ずいぶんと「捻くれた客」とは言えるが(汗)
これは、もう時効の話であろう・・
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このレンズはコシナ製ではあるが、上記の約20年前の
京セラCONTAX説明員とのやりとりを思い出していた。
匠「あれから20年か・・ 当時のRTS用ディスタゴンも
かなり複雑なレンズ構成ではあったが、基本的には
オーソドックスな光学設計ではあっただろう。
このMilvus50/1.4のディスタゴンは、8群10枚と
複雑ではあるが、当時の設計とレンズ枚数は大差無い
ようだ。しかし勿論、こちらは標準レンズであるので
広角では無い。それに非球面レンズや、異常部分分散
レンズも使ったコンピューター設計となっている。
いったいどういう写りになるのか?非常に興味深い」
という考えかあって、本レンズ購入に至った次第である。
さて、手にしたMilvus50/1.4であるが、非常に重い(汗)
重さは900gもあって、既に所有していて、重量級だと
思っていた、SIGMA A50/1.4(815g)よりもさらに重い。
現在では、これ以上に重い標準レンズも数本存在するが、
それらの中でも、ワーストの重量ランキングには確実に
入る事であろう。
でもまあ、重たいのは購入前から覚悟していた事だ。
問題は描写力だ、いったいどんなものか?
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紹介記事「レンズ・マニアックス第17回」と同じ内容
になってしまうであろう。よって、細かいところは
もう割愛する、そちらの記事を参照していただいきい。
本記事では、特集シリーズ記事の一環として、従来での
紹介記事とは、また別の視点で記事を書いている次第だ。
基本的には、悪く無いレンズである。2点だけ注意点と
しては、まず逆光耐性があまり強くないので、できるだけ
フードを装着し、光線状況にも配慮する事だ。
それを守れば、気持ちの良い高コントラストの描写力が
得られる。
また、ディスタゴン構成のレンズは、「ピントの山が掴み
難い」という特性(短所)を持つ、と私は分析している。
本レンズも同様、MFでのピント操作は難しく、銀塩時代の
広角ディスタゴンとは異なる大口径標準なので、慎重に
ピント合わせを行う必要がある。
ニコンマウント版(ZF2)を買っておけば、ニコン一眼レフ
の他、あらゆるミラーレス機や、一部の多社一眼レフ
にもアダプターを解して装着できる。
でも、ミラーレス機の方が、各種MFアシスト機能の利用で
使い易くなるのは確かであろう。(前述のMFの課題回避)
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では、次のシステム
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Close Focus(新品購入価格 47,000円)
(注:原語綴りでの変母音の記載は省略)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
2000年代初頭に発売の、高描写力MF小口径中望遠レンズ。
後継バージョンがあるが、本レンズは初期型である。
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このレンズの発売前後、私は当時のフォクトレンダー製品の
高性能と高コスパにハマっていて、本レンズも発売直後に
新品購入し、とても機嫌良く使っていた。
(注:現代のフォクトレンダーレンズは、残念ながらコスパ
が良いとは思い難い。けどこれは、カメラ市場の縮退による
値上げ、という理由もあるから、ある程度やむを得ない)
しばらくすると、カメラの専門誌に、本レンズの描写力の
数値性能評価が載った。そこでの「数字」が示していた物
は、本レンズが「非の打ち所が無い完璧な性能」に近い
という事であり、数値評価者も、その点を褒めていた。
私は「ああ、やっぱりな」という感想を持った、
というのも、しばらく使っていて、本レンズの性能に
何も不満を感じていなかったからだ。
ただ、数値性能がイコール描写力という訳では無い、
収差や解像力等の「数字」だけでは、読み取れない様々な
性能がレンズには存在する、でもまあ、そういう点も含めて、
本レンズには個人的にも不満点が無かったのだ。
だが、私の他に本レンズを購入していたのは、一部の
上級マニア層だけであった、何故ならば、本レンズは
「カタログスペック」が弱いからである。
特に、開放F値3.5は、初級中級ユーザー層から見れば、
「暗くて性能が低いレンズ、廉価版、良く写る筈が無い」
という印象に直結し、誰も欲しいとは思わなかったのだ。
どうせ90mmを買うならば、90mm/F2.8のマクロレンズも
とても人気であったし、ちょっと焦点距離を変えて85mmに
すれば、85mm/F1.4の「憧れのポートレート用レンズ」も
色々と存在しているからだ。
これでは初級中級層や初級マニア層が、本レンズに興味
を持つ筈も無い。
だが、製造元のコシナとしても「最高傑作」という風に
本レンズを評価していたのだろう。後年には外観等を
リニューアルし、短期生産が多いコシナとしては珍しく
10年近くのロングセラー製品となっていたと思う。
しかし、いつの時代であっても、カタログスペックだけ
しか見ないユーザー層には、本レンズの価値はわからない
と思う。だから、所有者も多くないし、レビュー等も
当然少ない。仮に、専門的な雑誌やレビュー記事などで
あっても、対象の購買層が極めて少ないと思われる
製品には、手間をかけてレビューを行う事はしない。
レビューを書くならば、初級中級層が欲しがるような
大三元レンズ(開放F2.8ズーム群)等の記事を書く訳だ。
それであれば読者が喜ぶので、雑誌の売り上げが増えたり
WEBのアクセス数が増加したりする。メーカーや流通側と
しても利益率の高い商品を宣伝してもらえる方が助かる。
なにもわざわざ、誰も興味を持たないだろうアポランター
等のレビューを(手間やお金をかけて)する筈が無いでは
ないか。「こういうレンズが何月何日に発売されました」
と書いてあるだけの記事で終わりである。
ますますアポランターは知られず、売れず、世の中では、
有名または人気がある、あるいは「誰かが良いと言った」
レンズばかりが出回る・・という訳だ。
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でも、残念ながら世の中の大多数のユーザー層は、
そういう風に「作られた市場での評判」に振り回されて
しまっている訳だ。
別に、それでも誰も損はしないのだが、1つだけ課題が
存在する。もし、そうした生産数の少ない、あるいは既に
生産中止となっている名レンズ等に、発言力や影響力の
高い誰かが注目し、「これは良い」などと言ったら、
それだけで、他人の言う事に、ただ従う一般消費者層は
一斉にそれに注目し「そのレンズをどうしても欲しい!」
等と言い出す訳だ。この傾向は、昔の時代からあったが
SNS等が発達した現代ではなおさらだ、そこで拡散された
情報は、9割以上もの「何もわかっていない、単なる
受動的情報受信者」において「ネットで調べた事は真実だ」
という”誤まった認識”で瞬時に広まる。
で、そうなると「投機層」と呼ばれる人達が動く、
つまり、そうして急速に評判が高くなった製品等を
買占めしたりし、さらに好評価の噂話を広める等して
価格(相場)を吊り上げる。それでも買う人達が居る
から十分な差額利益が得られる訳だ。
投機層は個人とは限らず、流通業界や企業等で組織的
かつ大規模に行われる事もある、大量に行えば行う程
利益も大きくなるからである。が、これは単に悪事だ
とも言い切れず、正当な範囲内で行うのであれば、
「付加価値の高い商品を高値で売る」事はビジネスに
おける基本的な原理とも言える。
TVのCM等がその最たるものであろう、有名女優等が、
「私も使っています」と言えば、皆がそれを欲しがる。
(注:最近の新型ウィルス騒ぎで、マスク等を買占め
高額に売ろうとしたり、紙類が無くなる等のデマを
流し、品薄となった商品を高値で販売するなどは、
現時点では法的に取り締まる手段は無いと思うが
倫理的には明らかに「不当」であろう。
そして、カメラやレンズの売買においても似たような
形での「投機」を、そこまでのレベルで、やって
しまったら、もうそれは正当では無い事となる。
実際に、そういう事をやってきた業者等をいくつか
知っているが、それが分かったら、もう2度と、その
手の関連店舗等では商品を購入しない事としている。
そもそも生活必需品で無いカメラ等では、価値感覚が
分からずに高値でも買ってしまう側にも責任があり、
皆が無視すれば、売れない商品は必ず相場は下落する)
余談だが、「ウーロン茶」が日本で一般的になったのは
1970年代に、当時人気絶頂であった「ピンクレディー」が
「私達も飲んでいます」と言ったからだ、と聞く。
あるいは、「付加価値の創造」の話をするならば、
例えば戦国時代、配下の武将への恩賞としては「土地」
を与える事が通例であった。新たに支配した土地を
功労のあった武将に与え、モチベーションとする訳だ。
ただ、戦国末期、信長や秀吉等により天下が平定しつつ
あると、もう、そうした恩賞としての新たな「土地」が
無くなっていた。そこで信長や秀吉が行った施策と
しては、茶道等に用いる「茶器」を、土地に代わる
新たな「高付加価値」な品物として創り上げる事だ。
「この器には、日ノ本の国の半分の価値がある」
等と言う価値観を新たに作り、それを拝領した武将達は
「はは~っ」と、ありがたがって、それで満足する訳だ。
これも別に悪い事では無い、皆がそういう風に茶器に
価値を感じるのであれば、世の中はそれで上手く廻る。
でも、よくよく考えてみれば、茶器にそこまでの
(付加)価値があるのは、創り上げられた幻想なのだ。
現代におけるビジネスモデルも、どうやって、そういう
新たな価値観(付加価値)を創り上げるか?という点が
基本となっている。もう普通の「モノ」は世の中に溢れて
いて、誰も新しいモノを欲しいとは思わないからだ。
カメラやレンズでもそれは同等だ。だから、これまでも
「画素数の大きいカメラ」とか「フルサイズのカメラ」
とかが、付加価値が高いものだ、と世間一般(メーカー
や流通市場、雑誌等の情報市場等)において言い続け、
その事を、多くの一般消費者層が、そう信じるように
刷り込まれていった訳だ。
これも別に市場倫理(戦略)としては悪い事ではない。
でも、気づくと、新しく出るカメラやレンズなどは、
そうした付加価値で、とんでもなく高価となっている。
たとえば一眼レフ用新型50mm標準レンズが1本20万円、
新規フルサイズ・ミラーレス機が50万円。
でも、皆は「それらは、良いモノだから高価なのだ」と
信じて疑わない。
それは正しい状況なのだろうか? もしこのままユーザー
側の価値観がどんどんと、そういう方向に偏って行けば
それこそ戦国時代の茶器のように「これ1個で何百億円」
という価値観も受け入れるようになってしまうかも知れない。
まあ、余談がとても長くなったが、でもこれは重要な事だ。
消費者それぞれが確固たる価値感覚を持つ事が必要だが、
それを持っていない消費者層の存在により、ビジネスや
市場そのものが支えられている事もまた事実である。
難しい話ではあるが、そこは個人個人が各々に判断する
しか無いであろう。
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難しいセミレア品となっている。だが、もし現代において
これの再評価により、中古相場がプレミアム化(不条理
なまでの高騰)などの状況に陥った場合、その価値を
しっかりと購入側では把握(判断)しなければならない。
なお、本レンズに限らないが、近年の本ブログでは、
レンズ紹介記事には購入時の価格を必ず記載している。
これは、私の価値感覚において、レンズの本来の価値と
ほぼ同等である。何故ならば、「高すぎる」と思われる
レンズは殆ど購入しないからだ。
よって、これらの購入価格を参照し、現代において
これ以上の価格に高騰している場合は、それが本当に
許容できるかどうか?は、消費者側で検討・判断をする
必要があるだろうと思われる。
基本的には、本ブログで記載された価格以上では
買わない事が賢明だ、誰も買わなければ、中古相場等は
いずれ必ず下落する。
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では、3本目の高マニアックレンズ
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(SEL100F28GM)(中古購入価格 129,000円)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2017年発売の、史上4本目のアポダイゼーションレンズ。
AFのアポダイゼーション搭載レンズとしては、2014年に
発売のFUJIFILM XF56/1.2R APD 以来の2本目だ。
こちらのレンズもマニアックであり、しかも高価だ。
一般的に推奨できるようなものでは勿論無い。
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たまたま知り合った新人マニア氏(SONYと旧ミノルタの
α-Eおよびα-Aマウントの機体とレンズを、短期間で
集中的に多数購入し、恐らく、その金額は1年間ほどで
200万円にも及んでいる模様だった・汗)の方と、
本レンズの話題で盛り上がった。
だが、その新人マニア氏は、「高価なレンズは高性能で
良く写る」と信じ込んでいたので、「それは、そうとも
限りません」と私は言い、「高価な製品は、多額の開発費を
少ない販売台数で割って上乗せするから、高くなるのです」
とも補足しておいた。「なるほど」と納得していた模様だが
それまで数百万円を投資していたのならば、もはやその
助言も手遅れであったかも知れない(汗)
また、その新人マニア氏は、より高価で、よりレアな
レンズをも欲しい、と言ったので、「そのレンズは
持っていますが、単にレアものなのでプレミアム価格に
なっているだけで、実際の写りはたいしたことありません」
と、釘を刺しておいた。
まあ、いくらお金を使っているとは言え、初級マニアだ、
「値段の高いものは、高性能な良く写るレンズだ」と
思い込んでしまうのも、やむを得ないであろう。
彼が、もう少し段階が進んで、安価でも良く写るレンズを
沢山入手して、加えてその頃には性能や描写力の絶対的な
評価が出来るようになれば、高額製品が本当にその価格に
見合う価値があるかどうかは、判断できるようになる。
しかしながら、高価なレンズを買った事で、それを所有
満足感に繋げてしまうと、安価なレンズを「安かろう
悪かろう」と、最初から馬鹿にして買わなくなるので、
なかなか中級マニアのステップに進む事も難しい訳だ。
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性能はどうか? この比率を示す「コスパ」の評価点だが
私のデータベースには1.5点(5点満点)が書き込まれている。
まあつまり「相当にコスパが悪い」という事だ(汗)
では何故、そうしたレンズを購入しているのか?
それはもう、本レンズが世の中に4機種しか存在しない
希少なアポダイゼーションレンズであるからだ。
だが、ここもそう単純に考えてしまうのも危険思想だ。
前述の、戦国時代の「価値の高い茶器」と同じで、
「希少なものであれば、高価で当然」という考え方では
本レンズがいくら高くでも許せる事になってしまう。
まあそうでは無いだろう、だからコスパをしっかりと
意識しなければならない。
で、コスパ評価点は前述の通り低評価である(汗)
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の評価は5点満点である。
まあ、「アポダイゼーションに付加価値を見出す事が
できる」という、一部の特定層向けのレンズである。
マニア層も含め、一般的にはまったく推奨は出来ない。
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では、今回ラストのレンズ、
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(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)
2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。
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F2.8や、F1.4のレンズに比べて、どんなに高性能
なのだろう?」と考える初級中級層は多いと思う。
けど、もし意を決して、高額なこのレンズを購入したら
きっと驚く事になる。
「なんじゃこりゃ~、ボケボケの酷い写りではないか!」
という感想になると思う。
確かにこのレンズの開放近くの「描写力」は、決して
褒められたものでは無い。超大口径化で設計に相当に
無理をしているのか、球面収差を始めとする諸収差の
オンパレードであり、「ボケボケの甘い写り」と
思われてしまっても不思議では無い。描写力だけを
見れば、3点、あるいはそれ以下の評価点しか与え
られず、これは2つ前の記事での「NOKTON 42.5mm/
F0.95」と、ほぼ同様の評価傾向となるだろう。
だが、当該記事でも書いたが、このレンズには開放
F0.95の超大口径と、異常とも言える近接性能
(最短撮影距離=17cm)があるのだ。
これによる、極薄の被写界深度と、多大なボケ量、
そして球面収差等による軟焦点感は、上手く利用すれば、
他のレンズでは、まず味わえない独特の「表現力」を
得る事ができる。だから、私のデータベースでは
「描写力」ではなく「描写・表現力」の評価項目なので、
本レンズが5点満点を獲得できる所以となっているのだ。
しかし、であれば、このレンズを上手く使いこなす事が
出来なければ、その恩恵に預かる事は難しい筈だ。
つまりユーザー側に要求するレベルが高い、という事と
なり、それ故に「マニアック度」の評価が満点なのだ。
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ように、「金満家の人が、他の誰もが買わないような
高価で珍しいモノを平気で買ってしまう」という行為を
示すような得点では決して無い。
これの真の意味は「モノの価値を理解する、また、
そのモノの価値を高めようと自分なりに努力する」
という事を表している。
だから、本ブログにおけるマニアック度の高い製品
(カメラやレンズ)は、高価なものばかりではなく、
比較的安価なものも含まれている。
でも、使いこなしがとても難しく、その製品の真の実力
(性能)を発揮し難いものが殆どだ。
だから、使いこなしのスキル(技能や経験、知識等)が
低い初級ユーザー層においては、「マニアック度」が
高い事が災いして、「酷いレンズ(カメラ)だ、ちっとも
上手く撮れないではないか、マニア向けと言うのは
ウソか?」と思われてしまっても不思議では無い。
つまり、本ブログでのマニア向けというのは、本当に
ちゃんと使うのが困難であるものばかりだ、
でも、たとえその製品がそう(高価、困難)であっても、
「せっかく買ったのだから」と、製品の弱点に文句も
言わず、なんとか価値を高めようとして努力するならば、
向上心や知的探究心を持っている事になり、もうそれは
「真のマニア」であろう。
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後編)で登場しているレンズ群は、勿論その名の通り
高マニアック度であり、つまりそういうマニアックな類の
ユーザー層にしか受け入れる事ができないレンズばかり
となっている。
ビギナー層が安易に手を出してしまったら、まるっきり
使いこなせず、投資した金額が完全に無駄になるリスクが
大きいので、それ故に「上級マニア御用達」と言っている
訳である。
まあでも、その事を理解した上で、とても難しくて
クセのあるレンズを購入し、それで練習や勉強や研究を
しようと言うならば、それは止めはしない。
それはむしろ、必ず役に立つ事だからだ。
結局のところ、どう考えるかは個々の消費者次第であり、
まあそれ故に「機材の評価など、使う人次第である」
ともいつも言っているし、さらに言えば「他人の評価は
全くあてにならない」とも、いつも書いている訳だ。
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さて、今回の補足編シリーズはこのあたりまでで・・
次回記事からは再度、通常の「レンズ・マニアックス」
記事のコンセプトに戻ってシリーズを続ける。