所有している銀塩カメラを紹介するシリーズ記事。
今回は第四世代(趣味の時代:世代定義は第1回記事参照)の
「Voigtlander Bessaflex TM」(2003年)を紹介する。
(注:フォクトレンダーの独語綴り上の変母音は省略する)
![_c0032138_11473267.jpg]()
装着レンズは COSINA Auto-Topcor 58mm/f1.4 (復刻限定版)
(ミラーレス・マニアックス第20回、同名玉編第1回)
本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタルの実写シミュレーター機を使用する。
![_c0032138_11465454.jpg]()
今回は、まずフルサイズ機SONY α7を使用するが、
記事後半では別のカメラに交替する。
以降はシミュレーター機を銀塩風に設定した掲載写真と、
本機の機能紹介写真を交えて記事を進める。
![_c0032138_11465473.jpg]()
さて、この時代(第四世代、趣味の時代)には、カメラの
種類は「何でも有り」だと、本シリーズ記事で書いて来た。
で、コシナ・フォクトレンダー・ブランドでの最初にして
最後(?)の銀塩一眼レフが、本機Bessaflex TMだ。
まず機体の名称から。
本機はBESSA(ベッサ)シリーズに属する趣味性の高い
カメラである。
他のBESSA機が全てレンジファインダー形式の機体で
ある事に対して、本機は一眼レフだ。
そこで一眼レフを表すために「BESSA+FLEX」となる。
名称は先頭のみが大文字、ハイフンも空白も入らない
「Bessaflex」が正しい型番であり、他のBESSA機での
名称ルール(全て大文字、ハイフン有り)とは異なる。
![_c0032138_11473397.jpg]()
最後の「TM」であるが、これは「Thread Mount」の略だ。
「スレッド・マウント」とは聞き慣れない名称であるが、
まず、英単語「Thread」には沢山の意味がある。具体的
には「糸」とか「細いもの」「ねじ山」とかである。
また、コンピューター用語ではプログラムの実行時に
処理される細かい単位を示す。
さらに派生してネットの掲示板やメール等において、
話題(テーマ)の集合体も「スレッド」と呼ばれている。
本機の場合の「Thread」は、ズバリ「ねじ山」を示す。
すなわち「Thread Mount」は「ねじ込み型マウント」の事だ。
レンズ交換式カメラにおける「ねじ込みマウント」の例は
少なくはなく、ライカLマウント(φ39mm)、PENTAXの初期
マウント(φ37mm)や、TAMRON/KENKO等の望遠鏡用Tマウント
(φ42mm)、工業用CCDカメラ用小径Sマウント(φ12mm)、
CCTV用Cマウント(φ1インチ=φ25.4mm)等が色々あるが、
最も一般的かつ著名な物は「M42マウント」であろう。
本機Bessaflex TMのTMは、すなわち「M42マウント」である。
なお、他のBESSA機では型番にハイフンが入る(例:BESSA-T)
が、本機にはハイフンは入らない。(-TM記載は誤り)
![_c0032138_11473394.jpg]()
「M42マウント」を最初に採用したカメラは、東独製の
ペンタコン・プラクティカ(1950年代頃)であり、
この為、当初は「プラクティカ・スクリューマウント」
(略称:PS)と呼ばれていた。
その後、このマウント形式は東欧圏にとどまらず、世界中に
波及。日本では特にPENTAXが1957年に採用した事から
「ペンタックス・スクリュー」と呼ばれ、これも「PS」と
略せる事から「PSマウント」として広まる。
このマウントは「ユニバーサル(汎用)マウント」として
PENTAXだけに留まらず国内外の多数のメーカーが採用した。
国内の例だけを見ても、オリンパス、リコー、ヤシカ、
ペトリ、ミランダ、チノン、フジ、マミヤ等がある。
ここまでメーカーが多くなると「PSマウント」とも言って
られず、1960~1970年代位では「M42マウント」と呼ぶのが
一般的となった。ここでMは内径をmm単位で示す工業用語
(メートル規格)で、例えばホームセンター等でネジやナット
を購入する際にM4とかM6とかと書いてある物と同じ意味だ。
フォクトレンダーが「M42マウント」機を復活させる際、
特定のメーカー名に依存する「PS」をあえて避け、
殆ど新しい名称とも言える「TM」という用語(機種名)を
つけたのであろう。
![_c0032138_11465578.jpg]()
さて、1999~2005年までのコシナ・フォクトレンダーの
BESSAシリーズのカメラ展開は、例えば本シリーズ第28回
のBESSA-R2C記事に詳しい。
その記事の年表では(コシナ)フォクトレンダーブランド
のレンズ展開は、数が多すぎるので記載を省略したのだが、
本記事では一眼レフ用に発売されたレンズのみ紹介しよう。
一眼レフ用のレンズ群は、コシナでは「SLRレンズ」と
呼ばれ、レンズ形式の最後に「SL」と型番が付く。
(=Single Lens Reflex)
現存する資料が殆ど無い為、正確な発売年代は不明だ。
<2000~2005年頃のフォクトレンダーSLRレンズ>
COLOR-HELIAR 75mm/f2.5SL(ミラーレス第2回、53回記事)
APO-LANTHAR 90mm/f3.5SL Close Focus(ミラーレス第3回等)
ULTRON 40mm/f2 Aspherical SL(譲渡により現在未所有)
APO-LANTHAR 180mm/f4SL Close Focus(ミラーレス第29回等)
MACRO APO-LANTHAR 125mm F2.5 SL(ミラーレス第23回等)
ULTRA-WIDE HELIAR 12mm/f5.6 Aspherical SL(未所有)
SUPER-WIDE HELIAR 15mm/f5.6 Aspherical SL(未所有)
復刻Auto-Topcor 58mm/f1.4 (本記事で使用)
NOKTON 58mm/f1.4 SL(上記トプコールの外装変更版)
なお、これらのレンズの一部は、後年Ⅱ型等に小改良され、
現代まで販売が継続されているものもある。
発売当初では各MFマウント、すなわちニコンF、キヤノンFD、
ミノルタMD、ペンタックスK、M42、コンタックスY/C、
オリンパスOMがあったのだが、殆どが生産数限定で、
マイナーマウント版のレンズは、現代の中古市場では、
ほぼ入手不能だ。
なお、MACRO APO-LANTHAR125/2.5のみEFとα用があった。
これらの初期生産分の販売が終了した2005年頃、継続再生産
分においてはニコンF(CPU非内蔵)とM42版のみとなった。
この当時から一眼レフ用のマウントアダプターが一部存在
していたので、まあFとM42があれば、他の(デジタル一眼用)
マウントには装着可能であろう、と言う事だったと思う。
その後2007年頃には、マウント数を減らしデジタル一眼用
マウントのみ(F,EF,K)となる。
そして現在2020年ではニコンFマウント版(CPU内蔵)しか
発売されていない。
(注:2010年代より、ミラーレス機向けのμ4/3マウントや、
FEマウント版レンズが発売されているが、説明は割愛する)
ちなみに、これらの一眼レフ&ミラーレス用マウントの
レンズ群は初回生産のみで終了する場合が多く、欲しければ
発売期間内に何とか入手しておくしか無い。後になって
欲しいと思っても、中古も殆ど出回らず、もう手遅れなのだ。
(注:入手困難になると「投機層」が動いてしまう)
![_c0032138_11465468.jpg]()
で、注目点であるが、最初期のフォクトレンダーSLレンズ
には「M42マウント版」が主力級として存在した事だ。
2000年代初頭、「コシナが新規MF一眼レフを開発中」
という噂が流れていた。
マニア層の間では「どのマウントになるのか?」といった
話題が多かった。
コシナは旧来、ほぼ全メーカーのOEMの一眼レフやレンズを
生産していた為、どんなMFマウントでも作れただろうからだ。
私は「安全を期するならニコンFかPENTAX K」と思っていた。
その2社はMF→AF(→デジタル)を通じでマウントの変更を
行わなかったからだ、最も堅実なマウントと言えたと思う。
そして、2003年に本機「Bessaflex TM」の登場である。
蓋を開けてびっくり、なんとM42マウントでは無いか!
これはかなりマニアックかつ英断だ、なにせM42レンズで
あれば、およそ他のどんなマウントへもアダプターで
装着できる、しかし、M42ボディにはM42マウントのレンズ
しか装着できないでは無いか!
私は、怖いもの見たさ(笑)で本機を予約購入、そして
本機到着と同時に古いM42機(PENTAXやヤシカ等、多数)を
処分する事にした、それらは1960年代頃の一眼レフであり
2000年代では、もう殆ど実用価値が無かったからだ。
手にした「Bessaflex TM」は、思ったより小ぶりの
ボディで、しかも軽かった(485g)
まあ、思えばOM2000(本シリーズ第22回)等のOEM機と
基本的には同じ構造だし、それらも軽量であったから
当たり前なのだが、旧来の(ASAHI)PENTAX SP等の
M42機は金属ボディで重量級のカメラが多かったのだ。
(例:ASAHI PENTAX SPは623g)
---
さて、Bessaflex TMに電池を入れ、早速使ってみた。
「おや?ファインダー内に露出計の表示が出ない、故障か?」
慌てて説明書を読むと「測光スイッチを上げて露出を測る」
と書いてある。
「なんだ、PENTAX SPと同じではないか」
![_c0032138_11473207.jpg]()
つまりPENTAX SP等では「絞り込み測光」である為、
M42レンズを絞り込み(背面の絞り連動ピンを押し込む)
ながら露出を測るのだ。
この操作はレンズの絞り値によっては、ファインダー内の
映像を暗くしてしまう。そしてPENTAX SP等では、ピント
合わせの利便性から元々かなり暗いスクリーンが搭載されて
いたので、絞り込んだ状態では相当に暗くて、MFでのピント
合わせがかなり厳しい。
よってPENTAX SPでは、まず絞り開放でピントを合わせてから
絞り込んで測光し、露出を合わせて撮影。という手間が発生
していた。これはさすがに不便なので、後年の一眼レフでは、
AE(自動露出)よりも、まずは「開放測光」(自動絞り)を
先に実現しようとしていた。
なお、開放測光を実現した最初の一眼レフは東京光学
「トプコンRE Super」(1963年)である。
余談だが、そのRE Superの付属標準レンズがRE Auto-Topcor
58mm/f1.4であり、これが伝説的な描写力を持つ事から、
コシナ社が東京光学(現在、カメラ事業からは撤退)と
コラボして「復刻Auto-Topcor 58mm/f1.4」を2003年に
限定生産した訳だ。(注:型番にハイフン有り)
ただし、REスーパーはエキザクタマウントという、やや
特殊なマウントの為、復刻版はニコンFとM42マウントで
それぞれ800本の限定発売とされた。
私は、両マウント版を所有しているのだが、今回使用の
レンズはM42版の方であり、Bessaflex TMに装着するべき
レンズとしては最も由緒正しき(?)レンズであろう。
ちなみに何故2本も買ったのか?と言うと、決して投機目的
ではなく、理由がある、それは、私の亡き父が東京在住で、
「若い頃に東京光学(トプコン)でカメラ用のレンズを磨く
アルバイトをしていた」と言う話を聞いていたからだ。
父は写真など殆ど興味が無く、当然「形見のカメラ」等と
言う物は無かった。なので、この復刻トプコールが発売
された時、「親父のトプコールとして買っておこう」と
思った訳だ。
![_c0032138_11470700.jpg]()
M42マウントの話に戻るが、「何故、M42のカメラが絶滅
してしまったのか?」という件だ。
1960年代、国内でも多数のカメラメーカーがM42マウント
を採用していてた。これは汎用的(ユニバーサル)という
点では、ユーザー側から見れば非常に良い傾向ではあった
のだが、逆にメーカー側から見ると、これでは他社の
カメラと差別化をする事が出来ない。
おりしも、この頃から「開放測光」や「AE(自動露出)」等
の新技術が必要だと言われていて、M42マウント陣営以外の
他社機では、それらが徐々に実現されつつあった。
このままではM42陣営は時代遅れになってしまう。
そこで各社は、本来汎用的であったはずのM42規格に、
それぞれ独自の工夫を加え、各メーカー専用のM42風の
レンズを作り始めた。
結果、PENTAXでは1971年の「ES」で、ついに世界初の
絞り優先露出機構を実現するのだが、この時、レンズと
本体は一見M42規格に見えるものの、両者に特別な部品を
儲けて、それらが連動する事でAEを実現した訳だ。
他社、例えばFUJIFILMやOLYMPUS等も、M42に独自の
改造を施し、新機能への対応を図る。
もう、この時点でM42マウントの「汎用性」は失われて
しまったのだが、問題点は、これらの「独自規格レンズ」が
M42レンズ(マウント)と酷似している事だ。
その為、同じメーカー間でのカメラとレンズを組み合わせて
使う分には良いが、他社機との組み合わせにおいては、
「途中までしか装着できない」「装着したら外れない」
といったトラブルが発生した。
後者はより深刻で、私も後年に1度やってしまった事がある。
OLYMPUSのM42風レンズを友人のCONTAX RTSⅢにアダプター
を介して装着したら外れなくなってしまったのだ。
RTSⅢは、定価35万円もした超高価なカメラである(汗)
結局、どうやっても外れずに分解修理に出す事になった。
1970年代前半には、このようにM42という汎用マウントの
意味が無くなってしまっていた。
PENTAXはSPシリーズがロングランのヒット商品であったし
一応、国内のM42陣営の牽引役でもあっただろうから
M42を捨てる事を、かなりためらったのかもしれないが、
その頃他社は絞り優先に加えてシャッター優先等も実現
しようという動きもあった、M42マウントのままでは、
もうそこまで複雑な改良は不可能だ。
![_c0032138_11470776.jpg]()
PENTAXもやむなくM42マウントを捨て、独自のバヨネット式
の「Kマウント」を採用する、1975年の事であった。
以降40数年、PENTAXは基本的には「Kマウント」の形状を
変更していない。
同じ頃、この動きには他社も追従、この時代に、いっきに
M42マウントは廃れる事となった。
が、PENTAXは、これまで非常に多数のM42マウント機を
販売してきただけに、さすがに「マウントが変わりました」
だけでは済まされないと思ったのであろう。
新規のKマウントはM42とぴったり同じフランジバック長とし
ごくシンプルな「マウントアダプターK」を用いる事で、
Kマウント機でもM42レンズを使えるようにした。
このアダプターの定価は1000円と、サービス価格であり、
その後30年以上たっても値上げをする事が無かった。
これはまあPENTAXの「良心」であろう。ユーザーにとって
マウントが変わるというのは、メーカーに裏切られたのも
同然なのだ。他社では平気で知らん顔してマウントを
変えた例がいくつもある(しかも互換性無しだ・怒)
で「マウントアダプターK」は市場では、いつでも2割引の
800円で売られていて入手が容易だった。マニアであれば、
2つ3つは保有しておくのが常識であった。
しかし2008年にPENTAXがHOYAに吸収合併されてしまうと
製品価格の見直しがあったのだろうか、このアダプターの
定価は一気に4倍近く4000円弱の定価となってしまった(汗)
1975年から33年が経っているとは言え、マニアの間では
いまだM42レンズは現役だ、そしてKマウントへ変わった
いきさつは非常に重要な歴史上のポイントである。
「新しい会社は、どうやらカメラの歴史が全くわかって
いない様子だな・・」と私は思ったのだが、まあその後
PENTAXは、今度はRICOHに吸収されている。
で、現代でも「マウントアダプターK」は販売されているが
定価は5000円+税だ(汗)
![_c0032138_11473976.jpg]()
さて、この薄い「マウントアダプターK」を使う際には、
M42レンズ底面にある「絞り込み連動ピン」(上写真)を
押し込む事が出来ない。
PENTAXのM42レンズの場合は、A/M切り替えスイッチが
レンズ側についていて、これをM側にすれば絞り値に
連動して手動で絞り込めるので、上記アダプターでも
問題なく使える。
しかし、コシナ製のM42レンズあるいは他社(特に外国製)
のM42レンズの多くには、このA/M切り替えが無い。
つまり「マウントアダプターK」では、A/M切り替えが無い
レンズだと「絞り値が開放でしか撮れない」事になる。
(注:プリセット型または類似の絞り機構の場合を除く)
だが、本機Bessaflex TMや旧来のPENTAX SPシリーズ等では
A/M切り替えが無いM42レンズても測光スイッチ等による
「強制絞り込み」で問題なく使用することが出来る。
また、近年のミラーレス機用M42マウントアダプターでは、
M42レンズをねじ込む際に底面の絞り連動ピンを押し込む
構造になっているものが多く、これであればほぼ全ての
M42レンズが問題なく使用できる。
この使い方は、前述の「M42もどき」の規格が怪しいレンズ
を使う際には「安全対策」として非常に重要である。
すなわち、怪しげなM42風レンズは、
*決してM42機に直接装着しない
*決して一眼レフ用のM42アダプターで装着しない
という事である。
使うのであれば、必ず「ミラーレス用M42アダプター」だ
これであれば、万が一外れなくなっても、アダプターが
1個犠牲になるだけで、カメラボデイには影響が無い。
・・という事で「M42マウント絶滅の理由」については、
「AE等の新機能への対応が難しいのと、各社間での汎用性
が無くなってしまった為」であって、M42規格自体に
致命的な問題点があった訳では無い。
---
さて、このあたりでシミュレーター機のSONY α7の使用を
やめ、代わりにAPS-Cミラーレス機、FUJIFILM X-T1を
使ってみよう。
![_c0032138_11470762.jpg]()
こちらは「ベルビアモード」とし、リバーサル撮影の
雰囲気を出してみる事とする。
![_c0032138_11470742.jpg]()
ここで本機の仕様をあげておこう。
Bessaflex TM(2003年)
35mm判フォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ
最高シャッター速度:1/2000秒
シャッターダイヤル:1秒~1/2000秒,Bulb
フラッシュ:非内蔵 X接点1/125秒
ファインダー:倍率不明 視野率95%
スクリーン:固定式、スプリット・マイクロプリズム式
使用可能レンズ:M42(PS)マウント
巻き上げ角:不明。分割巻上げ可、トリガーワインダー装着可
露出計:TTL型三点合致LED方式(赤+緑○赤-)
プレビュー:測光スイッチのアップで絞り込み+測光
露出計電源:SR44/LR44 2個使用
ISO感度:手動 ISO25~3200(1/3段ステップ) DXコード非対応
本体重量:485g(電池除く) (注:シルバーボディは520g)
発売時定価:50,000円(税別)
シルバーボディ版があるが、本機購入時には知らなかった。
後から発売されたもので、デザインも本機とは異なり、
「トプコンREシリーズ」のようなイメージだ。
![_c0032138_11473992.jpg]()
さて、ここで本機Bessaflex TMの長所だが、
困った事に、スペック上では何も無い(汗)
コシナ製のOEM用ボディは、カメラマニアの間では、もう、
一般常識とも言えるくらいに、各社向けの多数のOEM機で
かなりおなじみのメカだ。私も何台同じ中身が入ったボディ
を買った事か(汗)メーカー名が異なっても、中身は全て
コシナの同じカメラだ、ただマウントが違うだけなのだ。
まあしかし、本機はコシナが自社ブランドで発売した
久しぶりの一眼レフだ。旧来のCT-1系からは実に20年
以上が経過していた。
しかもブランド銘も変わり、「フォクトレンダー」などと
ちょっと格好良くなっている(笑)
外装も凝った焼き付け塗装で、ちょっとだけ高級感もある。
他には特徴は何も無いけど、まあ、この時代にM42マウント
機を出すという「酔狂」を実現した事で、マニアックで
かつ歴史的価値は高い、としておこう。
そして、定価も5万円とあまり高く無い、フォクトレンダー
のブランド銘がついている中では、最初期のファインダーも
距離計も何も無い「BESSA-L」の33,000円の次に安価だ。
![_c0032138_11471647.jpg]()
さて、本機Bessaflex TMの弱点であるが、
こちらは色々とある。
まずは、ファインダー内表示が何も無く、とても寂しい。
前述のように「測光スイッチ」を押し上げてONするまでは
ファインダー内表示が皆無で、「故障しているのか?」と
思ったくらいであった。
で、測光スイッチをONにしても、+○ー型の三点合致式の
LEDが点灯して、それで露出がわかるだけだ。
(露出差分がわからず、技法的なM露出使用には適さない)
勿論、絞り値やシャッター速度等は表示されない。
それとファインダーの下部や横側には、ミラーが反射した
映像が写ってしまう、これは内部反射防止の処理をちゃんと
やっていないみたいで、安っぽく、かつ反射像が気になって
しまう。
本機のスクリーンのマット面はピントの山がわかり難い
ので、できるだけ中央に被写体を置いた構図で、
スクリーン中央部の「水平スプリット」に頼ってピント
合わせをする必要がある。
なお、あくまで「水平」スプリットであるから、被写体や
構図内に垂直な線が無いとピントを合わせ難い。
(参考:構図内に横線しか無い場合、一旦カメラを縦位置に
構えて水平スプリットでピントを合わせ、カメラを横位置に
戻してから撮影する)
![_c0032138_11471698.jpg]()
後、旧来のOEM一眼タイプからの問題点の「ミラーショック」は
なんとなく減っている気はするが、あいかわらず残っている。
ミラーショックと言うか、「カシャ・ブルルン」という
感じで、後に余韻が残る。
「良い音」であれば「余韻を楽しむ」という風流は
ありえるが、シャッター音、ミラー音が安っぽいので
プルルン、とそれが残ると、安っぽさを通り越して
「おいおい、壊れていないか? 大丈夫かいな?」と
心配になってしまう。
でもまあ、この問題は本機に限らず他の旧来のOEMタイプ
でも似たり寄ったりなので、まあ、しかたないのであろう。
つまり、このあたりが性能(およびコスト)の限界という
事だ。
それから、M42レンズの一部(自動絞りやロシアン等)
では、場合により、ミラーアップしたまま戻って来ない
状態が発生する。装着するレンズの選択は要注意だ。
![_c0032138_11471609.jpg]()
他の弱点はあまり無い。2003年に(国内では)数十年
ぶりに蘇った希少なM42マウント機だ、これでも旧来の
国産M42機の性能は遥かに凌駕しているのだ。
私がM42マウントの旧機種を全部「古いから」と処分する
ように思ったのも、本機のおかげ(むしろ責任?)である。
後、購入価格が少々高かった(42,000円)のも問題だ、
新品で買ったからとは言え、コシナ時代のカメラならば、
割引率が高くて、遥かに安価に購入できていただろう。
「フォクトレンダーは値引きが少なくてね・・」と、
購入したカメラ店の店長も言っていたのを思い出す。
まあ、せっかくコシナが無理して手に入れた老舗ブランド
銘だ、多少強気の卸値(仕切り価格)にしないとブランドの
購入費が回収できない。
でもまあ、それはメーカー側の都合である。ユーザーから
すれば、カメラの中身はコシナ時代の物と同じというのは
困ったものであり、フォクトレンダーの名前がついている
のであれば、多少は感触性能や高級感やらは改善して
貰いたかったようにも思う。
![_c0032138_11473966.jpg]()
さて、最後に本機Bessaflex TMの総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)
Voigtlander Bessaflex TM (2003年)
【基本・付加性能】★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【ファインダー 】★★
【感触性能全般 】★★☆
【質感・高級感 】★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★ (新品購入価格:42,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値 】★★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.9点
またしても、本シリーズでの他のBESSA機同様、
マニアック度と歴史的価値が高得点で、他が全く
振るわない評価点となった。
でもまあ、これも例によって、かろうじて平均点近くだ。
最も問題だったのはファインダーと測光周りであるが、
これの為に、あまり撮影が楽しめず、それと連動して
「エンジョイ度」も低くなってしまった。
それから購入価格も前述のように多少問題であった。
この価格では、ちょっとコスパ点が悪くなるのは否めない。
まあ、現代において入手する必要は無いカメラだと思う。
銀塩撮影がしたいのであれば、もっと使い易いカメラは
他にいくらでもある。
本機購入の最大の理由は、マニアックさと歴史的価値にある。
逆に言えば、実用価値は殆ど無いので念のため。
![_c0032138_11471684.jpg]()
さて、今回で本シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」
の記事本編は終了とする。
これで、およそ1971年~2003年迄の銀塩一眼レフの歴史は
紹介機と取り巻く環境を含めて、ほぼカバーできたと思う。
2003年からのデジタル時代については、別途シリーズ記事
「デジタル一眼レフ・クラッシックス」に詳しい。
2008年からのミラーレス時代については、別途シリーズ記事
「ミラーレス・クラッシックス」に詳しい、
どちらのシリーズも、新製品を追加して継続中である。
これで概ね、実用化以降の殆どの時代の、銀塩/デジタル
一眼およびミラーレス機の歴史を網羅できていると思う。
今後、私は銀塩一眼レフについては、よほどの理由が
無い限り新規に購入する事は無いと思う。
既に銀塩での撮影は行っていないし、もしまたフィルムで
ガンガン撮りたい、という気分になったとしても、30台も
ちゃんと動作する銀塩一眼レフを持っていれば、もう十分な
事であろう、その中から好きなカメラを使えば済む。
それに、実はもっと多数の銀塩カメラを所有していた。
けど、どうでも良いと思えるカメラは譲渡や処分をしている。
残っているカメラは全て私の目からは価値がある物ばかりで、
一眼レフの歴史を知るには十分な量と質であると思う。
だからもう、他の銀塩一眼レフは不要なのだ。
よって、本シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」は
これにて終了とする。
気が向けば「銀塩一眼レフ総集編」の記事を書くかも
知れない。
今回は第四世代(趣味の時代:世代定義は第1回記事参照)の
「Voigtlander Bessaflex TM」(2003年)を紹介する。
(注:フォクトレンダーの独語綴り上の変母音は省略する)

(ミラーレス・マニアックス第20回、同名玉編第1回)
本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタルの実写シミュレーター機を使用する。

記事後半では別のカメラに交替する。
以降はシミュレーター機を銀塩風に設定した掲載写真と、
本機の機能紹介写真を交えて記事を進める。

種類は「何でも有り」だと、本シリーズ記事で書いて来た。
で、コシナ・フォクトレンダー・ブランドでの最初にして
最後(?)の銀塩一眼レフが、本機Bessaflex TMだ。
まず機体の名称から。
本機はBESSA(ベッサ)シリーズに属する趣味性の高い
カメラである。
他のBESSA機が全てレンジファインダー形式の機体で
ある事に対して、本機は一眼レフだ。
そこで一眼レフを表すために「BESSA+FLEX」となる。
名称は先頭のみが大文字、ハイフンも空白も入らない
「Bessaflex」が正しい型番であり、他のBESSA機での
名称ルール(全て大文字、ハイフン有り)とは異なる。

「スレッド・マウント」とは聞き慣れない名称であるが、
まず、英単語「Thread」には沢山の意味がある。具体的
には「糸」とか「細いもの」「ねじ山」とかである。
また、コンピューター用語ではプログラムの実行時に
処理される細かい単位を示す。
さらに派生してネットの掲示板やメール等において、
話題(テーマ)の集合体も「スレッド」と呼ばれている。
本機の場合の「Thread」は、ズバリ「ねじ山」を示す。
すなわち「Thread Mount」は「ねじ込み型マウント」の事だ。
レンズ交換式カメラにおける「ねじ込みマウント」の例は
少なくはなく、ライカLマウント(φ39mm)、PENTAXの初期
マウント(φ37mm)や、TAMRON/KENKO等の望遠鏡用Tマウント
(φ42mm)、工業用CCDカメラ用小径Sマウント(φ12mm)、
CCTV用Cマウント(φ1インチ=φ25.4mm)等が色々あるが、
最も一般的かつ著名な物は「M42マウント」であろう。
本機Bessaflex TMのTMは、すなわち「M42マウント」である。
なお、他のBESSA機では型番にハイフンが入る(例:BESSA-T)
が、本機にはハイフンは入らない。(-TM記載は誤り)

ペンタコン・プラクティカ(1950年代頃)であり、
この為、当初は「プラクティカ・スクリューマウント」
(略称:PS)と呼ばれていた。
その後、このマウント形式は東欧圏にとどまらず、世界中に
波及。日本では特にPENTAXが1957年に採用した事から
「ペンタックス・スクリュー」と呼ばれ、これも「PS」と
略せる事から「PSマウント」として広まる。
このマウントは「ユニバーサル(汎用)マウント」として
PENTAXだけに留まらず国内外の多数のメーカーが採用した。
国内の例だけを見ても、オリンパス、リコー、ヤシカ、
ペトリ、ミランダ、チノン、フジ、マミヤ等がある。
ここまでメーカーが多くなると「PSマウント」とも言って
られず、1960~1970年代位では「M42マウント」と呼ぶのが
一般的となった。ここでMは内径をmm単位で示す工業用語
(メートル規格)で、例えばホームセンター等でネジやナット
を購入する際にM4とかM6とかと書いてある物と同じ意味だ。
フォクトレンダーが「M42マウント」機を復活させる際、
特定のメーカー名に依存する「PS」をあえて避け、
殆ど新しい名称とも言える「TM」という用語(機種名)を
つけたのであろう。

BESSAシリーズのカメラ展開は、例えば本シリーズ第28回
のBESSA-R2C記事に詳しい。
その記事の年表では(コシナ)フォクトレンダーブランド
のレンズ展開は、数が多すぎるので記載を省略したのだが、
本記事では一眼レフ用に発売されたレンズのみ紹介しよう。
一眼レフ用のレンズ群は、コシナでは「SLRレンズ」と
呼ばれ、レンズ形式の最後に「SL」と型番が付く。
(=Single Lens Reflex)
現存する資料が殆ど無い為、正確な発売年代は不明だ。
<2000~2005年頃のフォクトレンダーSLRレンズ>
COLOR-HELIAR 75mm/f2.5SL(ミラーレス第2回、53回記事)
APO-LANTHAR 90mm/f3.5SL Close Focus(ミラーレス第3回等)
ULTRON 40mm/f2 Aspherical SL(譲渡により現在未所有)
APO-LANTHAR 180mm/f4SL Close Focus(ミラーレス第29回等)
MACRO APO-LANTHAR 125mm F2.5 SL(ミラーレス第23回等)
ULTRA-WIDE HELIAR 12mm/f5.6 Aspherical SL(未所有)
SUPER-WIDE HELIAR 15mm/f5.6 Aspherical SL(未所有)
復刻Auto-Topcor 58mm/f1.4 (本記事で使用)
NOKTON 58mm/f1.4 SL(上記トプコールの外装変更版)
なお、これらのレンズの一部は、後年Ⅱ型等に小改良され、
現代まで販売が継続されているものもある。
発売当初では各MFマウント、すなわちニコンF、キヤノンFD、
ミノルタMD、ペンタックスK、M42、コンタックスY/C、
オリンパスOMがあったのだが、殆どが生産数限定で、
マイナーマウント版のレンズは、現代の中古市場では、
ほぼ入手不能だ。
なお、MACRO APO-LANTHAR125/2.5のみEFとα用があった。
これらの初期生産分の販売が終了した2005年頃、継続再生産
分においてはニコンF(CPU非内蔵)とM42版のみとなった。
この当時から一眼レフ用のマウントアダプターが一部存在
していたので、まあFとM42があれば、他の(デジタル一眼用)
マウントには装着可能であろう、と言う事だったと思う。
その後2007年頃には、マウント数を減らしデジタル一眼用
マウントのみ(F,EF,K)となる。
そして現在2020年ではニコンFマウント版(CPU内蔵)しか
発売されていない。
(注:2010年代より、ミラーレス機向けのμ4/3マウントや、
FEマウント版レンズが発売されているが、説明は割愛する)
ちなみに、これらの一眼レフ&ミラーレス用マウントの
レンズ群は初回生産のみで終了する場合が多く、欲しければ
発売期間内に何とか入手しておくしか無い。後になって
欲しいと思っても、中古も殆ど出回らず、もう手遅れなのだ。
(注:入手困難になると「投機層」が動いてしまう)

には「M42マウント版」が主力級として存在した事だ。
2000年代初頭、「コシナが新規MF一眼レフを開発中」
という噂が流れていた。
マニア層の間では「どのマウントになるのか?」といった
話題が多かった。
コシナは旧来、ほぼ全メーカーのOEMの一眼レフやレンズを
生産していた為、どんなMFマウントでも作れただろうからだ。
私は「安全を期するならニコンFかPENTAX K」と思っていた。
その2社はMF→AF(→デジタル)を通じでマウントの変更を
行わなかったからだ、最も堅実なマウントと言えたと思う。
そして、2003年に本機「Bessaflex TM」の登場である。
蓋を開けてびっくり、なんとM42マウントでは無いか!
これはかなりマニアックかつ英断だ、なにせM42レンズで
あれば、およそ他のどんなマウントへもアダプターで
装着できる、しかし、M42ボディにはM42マウントのレンズ
しか装着できないでは無いか!
私は、怖いもの見たさ(笑)で本機を予約購入、そして
本機到着と同時に古いM42機(PENTAXやヤシカ等、多数)を
処分する事にした、それらは1960年代頃の一眼レフであり
2000年代では、もう殆ど実用価値が無かったからだ。
手にした「Bessaflex TM」は、思ったより小ぶりの
ボディで、しかも軽かった(485g)
まあ、思えばOM2000(本シリーズ第22回)等のOEM機と
基本的には同じ構造だし、それらも軽量であったから
当たり前なのだが、旧来の(ASAHI)PENTAX SP等の
M42機は金属ボディで重量級のカメラが多かったのだ。
(例:ASAHI PENTAX SPは623g)
---
さて、Bessaflex TMに電池を入れ、早速使ってみた。
「おや?ファインダー内に露出計の表示が出ない、故障か?」
慌てて説明書を読むと「測光スイッチを上げて露出を測る」
と書いてある。
「なんだ、PENTAX SPと同じではないか」

M42レンズを絞り込み(背面の絞り連動ピンを押し込む)
ながら露出を測るのだ。
この操作はレンズの絞り値によっては、ファインダー内の
映像を暗くしてしまう。そしてPENTAX SP等では、ピント
合わせの利便性から元々かなり暗いスクリーンが搭載されて
いたので、絞り込んだ状態では相当に暗くて、MFでのピント
合わせがかなり厳しい。
よってPENTAX SPでは、まず絞り開放でピントを合わせてから
絞り込んで測光し、露出を合わせて撮影。という手間が発生
していた。これはさすがに不便なので、後年の一眼レフでは、
AE(自動露出)よりも、まずは「開放測光」(自動絞り)を
先に実現しようとしていた。
なお、開放測光を実現した最初の一眼レフは東京光学
「トプコンRE Super」(1963年)である。
余談だが、そのRE Superの付属標準レンズがRE Auto-Topcor
58mm/f1.4であり、これが伝説的な描写力を持つ事から、
コシナ社が東京光学(現在、カメラ事業からは撤退)と
コラボして「復刻Auto-Topcor 58mm/f1.4」を2003年に
限定生産した訳だ。(注:型番にハイフン有り)
ただし、REスーパーはエキザクタマウントという、やや
特殊なマウントの為、復刻版はニコンFとM42マウントで
それぞれ800本の限定発売とされた。
私は、両マウント版を所有しているのだが、今回使用の
レンズはM42版の方であり、Bessaflex TMに装着するべき
レンズとしては最も由緒正しき(?)レンズであろう。
ちなみに何故2本も買ったのか?と言うと、決して投機目的
ではなく、理由がある、それは、私の亡き父が東京在住で、
「若い頃に東京光学(トプコン)でカメラ用のレンズを磨く
アルバイトをしていた」と言う話を聞いていたからだ。
父は写真など殆ど興味が無く、当然「形見のカメラ」等と
言う物は無かった。なので、この復刻トプコールが発売
された時、「親父のトプコールとして買っておこう」と
思った訳だ。

してしまったのか?」という件だ。
1960年代、国内でも多数のカメラメーカーがM42マウント
を採用していてた。これは汎用的(ユニバーサル)という
点では、ユーザー側から見れば非常に良い傾向ではあった
のだが、逆にメーカー側から見ると、これでは他社の
カメラと差別化をする事が出来ない。
おりしも、この頃から「開放測光」や「AE(自動露出)」等
の新技術が必要だと言われていて、M42マウント陣営以外の
他社機では、それらが徐々に実現されつつあった。
このままではM42陣営は時代遅れになってしまう。
そこで各社は、本来汎用的であったはずのM42規格に、
それぞれ独自の工夫を加え、各メーカー専用のM42風の
レンズを作り始めた。
結果、PENTAXでは1971年の「ES」で、ついに世界初の
絞り優先露出機構を実現するのだが、この時、レンズと
本体は一見M42規格に見えるものの、両者に特別な部品を
儲けて、それらが連動する事でAEを実現した訳だ。
他社、例えばFUJIFILMやOLYMPUS等も、M42に独自の
改造を施し、新機能への対応を図る。
もう、この時点でM42マウントの「汎用性」は失われて
しまったのだが、問題点は、これらの「独自規格レンズ」が
M42レンズ(マウント)と酷似している事だ。
その為、同じメーカー間でのカメラとレンズを組み合わせて
使う分には良いが、他社機との組み合わせにおいては、
「途中までしか装着できない」「装着したら外れない」
といったトラブルが発生した。
後者はより深刻で、私も後年に1度やってしまった事がある。
OLYMPUSのM42風レンズを友人のCONTAX RTSⅢにアダプター
を介して装着したら外れなくなってしまったのだ。
RTSⅢは、定価35万円もした超高価なカメラである(汗)
結局、どうやっても外れずに分解修理に出す事になった。
1970年代前半には、このようにM42という汎用マウントの
意味が無くなってしまっていた。
PENTAXはSPシリーズがロングランのヒット商品であったし
一応、国内のM42陣営の牽引役でもあっただろうから
M42を捨てる事を、かなりためらったのかもしれないが、
その頃他社は絞り優先に加えてシャッター優先等も実現
しようという動きもあった、M42マウントのままでは、
もうそこまで複雑な改良は不可能だ。

の「Kマウント」を採用する、1975年の事であった。
以降40数年、PENTAXは基本的には「Kマウント」の形状を
変更していない。
同じ頃、この動きには他社も追従、この時代に、いっきに
M42マウントは廃れる事となった。
が、PENTAXは、これまで非常に多数のM42マウント機を
販売してきただけに、さすがに「マウントが変わりました」
だけでは済まされないと思ったのであろう。
新規のKマウントはM42とぴったり同じフランジバック長とし
ごくシンプルな「マウントアダプターK」を用いる事で、
Kマウント機でもM42レンズを使えるようにした。
このアダプターの定価は1000円と、サービス価格であり、
その後30年以上たっても値上げをする事が無かった。
これはまあPENTAXの「良心」であろう。ユーザーにとって
マウントが変わるというのは、メーカーに裏切られたのも
同然なのだ。他社では平気で知らん顔してマウントを
変えた例がいくつもある(しかも互換性無しだ・怒)
で「マウントアダプターK」は市場では、いつでも2割引の
800円で売られていて入手が容易だった。マニアであれば、
2つ3つは保有しておくのが常識であった。
しかし2008年にPENTAXがHOYAに吸収合併されてしまうと
製品価格の見直しがあったのだろうか、このアダプターの
定価は一気に4倍近く4000円弱の定価となってしまった(汗)
1975年から33年が経っているとは言え、マニアの間では
いまだM42レンズは現役だ、そしてKマウントへ変わった
いきさつは非常に重要な歴史上のポイントである。
「新しい会社は、どうやらカメラの歴史が全くわかって
いない様子だな・・」と私は思ったのだが、まあその後
PENTAXは、今度はRICOHに吸収されている。
で、現代でも「マウントアダプターK」は販売されているが
定価は5000円+税だ(汗)

M42レンズ底面にある「絞り込み連動ピン」(上写真)を
押し込む事が出来ない。
PENTAXのM42レンズの場合は、A/M切り替えスイッチが
レンズ側についていて、これをM側にすれば絞り値に
連動して手動で絞り込めるので、上記アダプターでも
問題なく使える。
しかし、コシナ製のM42レンズあるいは他社(特に外国製)
のM42レンズの多くには、このA/M切り替えが無い。
つまり「マウントアダプターK」では、A/M切り替えが無い
レンズだと「絞り値が開放でしか撮れない」事になる。
(注:プリセット型または類似の絞り機構の場合を除く)
だが、本機Bessaflex TMや旧来のPENTAX SPシリーズ等では
A/M切り替えが無いM42レンズても測光スイッチ等による
「強制絞り込み」で問題なく使用することが出来る。
また、近年のミラーレス機用M42マウントアダプターでは、
M42レンズをねじ込む際に底面の絞り連動ピンを押し込む
構造になっているものが多く、これであればほぼ全ての
M42レンズが問題なく使用できる。
この使い方は、前述の「M42もどき」の規格が怪しいレンズ
を使う際には「安全対策」として非常に重要である。
すなわち、怪しげなM42風レンズは、
*決してM42機に直接装着しない
*決して一眼レフ用のM42アダプターで装着しない
という事である。
使うのであれば、必ず「ミラーレス用M42アダプター」だ
これであれば、万が一外れなくなっても、アダプターが
1個犠牲になるだけで、カメラボデイには影響が無い。
・・という事で「M42マウント絶滅の理由」については、
「AE等の新機能への対応が難しいのと、各社間での汎用性
が無くなってしまった為」であって、M42規格自体に
致命的な問題点があった訳では無い。
---
さて、このあたりでシミュレーター機のSONY α7の使用を
やめ、代わりにAPS-Cミラーレス機、FUJIFILM X-T1を
使ってみよう。

雰囲気を出してみる事とする。

Bessaflex TM(2003年)
35mm判フォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ
最高シャッター速度:1/2000秒
シャッターダイヤル:1秒~1/2000秒,Bulb
フラッシュ:非内蔵 X接点1/125秒
ファインダー:倍率不明 視野率95%
スクリーン:固定式、スプリット・マイクロプリズム式
使用可能レンズ:M42(PS)マウント
巻き上げ角:不明。分割巻上げ可、トリガーワインダー装着可
露出計:TTL型三点合致LED方式(赤+緑○赤-)
プレビュー:測光スイッチのアップで絞り込み+測光
露出計電源:SR44/LR44 2個使用
ISO感度:手動 ISO25~3200(1/3段ステップ) DXコード非対応
本体重量:485g(電池除く) (注:シルバーボディは520g)
発売時定価:50,000円(税別)
シルバーボディ版があるが、本機購入時には知らなかった。
後から発売されたもので、デザインも本機とは異なり、
「トプコンREシリーズ」のようなイメージだ。

困った事に、スペック上では何も無い(汗)
コシナ製のOEM用ボディは、カメラマニアの間では、もう、
一般常識とも言えるくらいに、各社向けの多数のOEM機で
かなりおなじみのメカだ。私も何台同じ中身が入ったボディ
を買った事か(汗)メーカー名が異なっても、中身は全て
コシナの同じカメラだ、ただマウントが違うだけなのだ。
まあしかし、本機はコシナが自社ブランドで発売した
久しぶりの一眼レフだ。旧来のCT-1系からは実に20年
以上が経過していた。
しかもブランド銘も変わり、「フォクトレンダー」などと
ちょっと格好良くなっている(笑)
外装も凝った焼き付け塗装で、ちょっとだけ高級感もある。
他には特徴は何も無いけど、まあ、この時代にM42マウント
機を出すという「酔狂」を実現した事で、マニアックで
かつ歴史的価値は高い、としておこう。
そして、定価も5万円とあまり高く無い、フォクトレンダー
のブランド銘がついている中では、最初期のファインダーも
距離計も何も無い「BESSA-L」の33,000円の次に安価だ。

こちらは色々とある。
まずは、ファインダー内表示が何も無く、とても寂しい。
前述のように「測光スイッチ」を押し上げてONするまでは
ファインダー内表示が皆無で、「故障しているのか?」と
思ったくらいであった。
で、測光スイッチをONにしても、+○ー型の三点合致式の
LEDが点灯して、それで露出がわかるだけだ。
(露出差分がわからず、技法的なM露出使用には適さない)
勿論、絞り値やシャッター速度等は表示されない。
それとファインダーの下部や横側には、ミラーが反射した
映像が写ってしまう、これは内部反射防止の処理をちゃんと
やっていないみたいで、安っぽく、かつ反射像が気になって
しまう。
本機のスクリーンのマット面はピントの山がわかり難い
ので、できるだけ中央に被写体を置いた構図で、
スクリーン中央部の「水平スプリット」に頼ってピント
合わせをする必要がある。
なお、あくまで「水平」スプリットであるから、被写体や
構図内に垂直な線が無いとピントを合わせ難い。
(参考:構図内に横線しか無い場合、一旦カメラを縦位置に
構えて水平スプリットでピントを合わせ、カメラを横位置に
戻してから撮影する)

なんとなく減っている気はするが、あいかわらず残っている。
ミラーショックと言うか、「カシャ・ブルルン」という
感じで、後に余韻が残る。
「良い音」であれば「余韻を楽しむ」という風流は
ありえるが、シャッター音、ミラー音が安っぽいので
プルルン、とそれが残ると、安っぽさを通り越して
「おいおい、壊れていないか? 大丈夫かいな?」と
心配になってしまう。
でもまあ、この問題は本機に限らず他の旧来のOEMタイプ
でも似たり寄ったりなので、まあ、しかたないのであろう。
つまり、このあたりが性能(およびコスト)の限界という
事だ。
それから、M42レンズの一部(自動絞りやロシアン等)
では、場合により、ミラーアップしたまま戻って来ない
状態が発生する。装着するレンズの選択は要注意だ。

ぶりに蘇った希少なM42マウント機だ、これでも旧来の
国産M42機の性能は遥かに凌駕しているのだ。
私がM42マウントの旧機種を全部「古いから」と処分する
ように思ったのも、本機のおかげ(むしろ責任?)である。
後、購入価格が少々高かった(42,000円)のも問題だ、
新品で買ったからとは言え、コシナ時代のカメラならば、
割引率が高くて、遥かに安価に購入できていただろう。
「フォクトレンダーは値引きが少なくてね・・」と、
購入したカメラ店の店長も言っていたのを思い出す。
まあ、せっかくコシナが無理して手に入れた老舗ブランド
銘だ、多少強気の卸値(仕切り価格)にしないとブランドの
購入費が回収できない。
でもまあ、それはメーカー側の都合である。ユーザーから
すれば、カメラの中身はコシナ時代の物と同じというのは
困ったものであり、フォクトレンダーの名前がついている
のであれば、多少は感触性能や高級感やらは改善して
貰いたかったようにも思う。

評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)
Voigtlander Bessaflex TM (2003年)
【基本・付加性能】★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【ファインダー 】★★
【感触性能全般 】★★☆
【質感・高級感 】★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★ (新品購入価格:42,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値 】★★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.9点
またしても、本シリーズでの他のBESSA機同様、
マニアック度と歴史的価値が高得点で、他が全く
振るわない評価点となった。
でもまあ、これも例によって、かろうじて平均点近くだ。
最も問題だったのはファインダーと測光周りであるが、
これの為に、あまり撮影が楽しめず、それと連動して
「エンジョイ度」も低くなってしまった。
それから購入価格も前述のように多少問題であった。
この価格では、ちょっとコスパ点が悪くなるのは否めない。
まあ、現代において入手する必要は無いカメラだと思う。
銀塩撮影がしたいのであれば、もっと使い易いカメラは
他にいくらでもある。
本機購入の最大の理由は、マニアックさと歴史的価値にある。
逆に言えば、実用価値は殆ど無いので念のため。

の記事本編は終了とする。
これで、およそ1971年~2003年迄の銀塩一眼レフの歴史は
紹介機と取り巻く環境を含めて、ほぼカバーできたと思う。
2003年からのデジタル時代については、別途シリーズ記事
「デジタル一眼レフ・クラッシックス」に詳しい。
2008年からのミラーレス時代については、別途シリーズ記事
「ミラーレス・クラッシックス」に詳しい、
どちらのシリーズも、新製品を追加して継続中である。
これで概ね、実用化以降の殆どの時代の、銀塩/デジタル
一眼およびミラーレス機の歴史を網羅できていると思う。
今後、私は銀塩一眼レフについては、よほどの理由が
無い限り新規に購入する事は無いと思う。
既に銀塩での撮影は行っていないし、もしまたフィルムで
ガンガン撮りたい、という気分になったとしても、30台も
ちゃんと動作する銀塩一眼レフを持っていれば、もう十分な
事であろう、その中から好きなカメラを使えば済む。
それに、実はもっと多数の銀塩カメラを所有していた。
けど、どうでも良いと思えるカメラは譲渡や処分をしている。
残っているカメラは全て私の目からは価値がある物ばかりで、
一眼レフの歴史を知るには十分な量と質であると思う。
だからもう、他の銀塩一眼レフは不要なのだ。
よって、本シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」は
これにて終了とする。
気が向けば「銀塩一眼レフ総集編」の記事を書くかも
知れない。